以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る鍵盤楽器1の一部を示す平面図であり、同図には、鍵盤楽器1の略左側半分が描かれている。なお、方向を示す用語(右、左、前方、後方など)は、鍵盤楽器1を演奏する際の演奏者を基準とし、たとえば、演奏者手前を前方と言うように使用する。
図1に示すように、鍵盤楽器1は、鍵盤2、広パネル3、拍子木4およびスライド蓋LDを備えている。
広パネル3には、複数のドローバー(draw-bar)からなるドローバー群DB、マスタボリュームVL1、伴奏用ボリュームVL2、複数の選択スイッチからなる第2の選択部SS2、スピーカホールSHおよび複数の演奏ガイド用LED(Light Emitting Diode)GDが設けられている。演奏ガイド用LEDGDは、広パネル3の鍵盤2側の端に1列に並べられ、各演奏ガイド用LEDGDはそれぞれ、複数の白鍵2aおよび黒鍵2bのうちのいずれかと対応付けられている。マスタボリュームVL1、伴奏用ボリュームVL2およびドローバー群DBは、広パネル3を前方と後方に帯状に2分割したときの前方の帯内に設けられている。そして、後方の帯内には、スピーカホールSHおよび第2の選択部SS2が設けられている。なお、広パネル3の内側には、左スピーカと右スピーカが設けられ、前記スピーカホールSHは、左スピーカ用のものである。右スピーカ用のスピーカホールも、図示されていないが、広パネル3上に設けられている。
拍子木4には、3つの位置(演奏者側から順に第1〜第3の位置)のいずれかを選択可能なスライドスイッチからなる第1の選択部SS1が設けられている。第1の選択部SS1が選択可能な3つの位置は、鍵盤楽器1に設定される音色に対応し、本実施の形態では、第1の位置は「ピアノ音色」に、第2の位置は「オルガン音色」に、第3の位置はそれらの音色以外の「一般音色」に対応している。したがって、以下、第1〜第3の位置をそれぞれ、「ピアノ位置」、「オルガン位置」および「一般位置」という。
また、鍵盤楽器1の口棒部立面には、電源スイッチPSが設けられている。
スライド蓋LDは、鍵盤楽器1の操作面、つまり、鍵盤2、広パネル3および拍子木4を保護するとともに、後述するように、左右スピーカの音響特性をアコースティックに変更するために設けられ、前後方向に略直線的にスライドして、鍵盤楽器1の操作面を開閉する。スライド蓋LDは、スライド時に安定状態となる、4つの位置(以下、「安定位置」という)LD1〜LD4を備えている。安定位置LD1は、スライド蓋LDを完全に閉じたときの位置であり、安定位置LD2は、鍵盤2および拍子木4のみが開いた位置であり、安定位置LD3は、広パネル3の前記前方の帯まで開いた位置であり、安定位置LD4は、スライド蓋LDを完全に開けたときの位置である。そして、スライド蓋LDは、安定位置LD1から安定位置LD2までの間は、手動で開閉し、安定位置LD2から安定位置LD4までの間は、自動で開閉する。ただし、自動で開閉する区間であっても、スライド蓋LDは、手動で開閉することができる。
図2は、鍵盤楽器1の横断面図であり、スライド蓋LDがスライドする様子を示している。
同図に示すように、スライド蓋LDの後部には、連動棒21が設けられ、連動棒21の左右には、一対のピニオン22が設けられている。また、スライド蓋LDが安定位置LD2に停止した場合、演奏ガイド用LEDGDは、鍵盤2とスライド蓋LDとの隙間を埋める役割を果たしている。このとき、演奏ガイド用LEDGDが点灯しなければ(前記第2の選択部SS2には、演奏ガイドを使う/使わないを切り替えるスイッチが設けられ、このスイッチによって「演奏ガイドを使わない」が選択されたときには、演奏ガイド用LEDGDは点灯しない)、演奏ガイド用LED GDがそこに設けられていることを演奏者に分からせないようにするために、演奏ガイド用LED GDのホルダーは、黒色の半透光樹脂で形成され、発光指示信号が入力されたときにのみ、そこにLEDがあることを演奏者が認識できるようになっている。
図3は、スライド蓋LDをスライドさせるモータ31およびその周辺の構造を示す図である。
同図に示すように、モータ31の回転軸31aには、上記一対のピニオン22の一方と噛合するギア32が取り付けられ、モータ31は、その回転軸31aのギア32をピニオン22の一方と噛合した状態で、モータ台33を介してスライド蓋LDの裏面に固定される。
図4は、スライド蓋LDをスライドさせる仕組みを説明するための図である。
鍵盤楽器1の楽器本体の左右各内側の側板11にはそれぞれ、山板12が、ボス部12bを挿通したネジ16によって固定される。山板12には、ピニオン22が噛合するラック12cと、ピニオン22から突出した、連動棒21の端部を摺動自在に保持するガイド溝12aが形成されている。また、ガイド溝12aの壁の一部は切り欠かれており、その切り欠き部には、板バネ13がガイド溝12aの壁にネジ15で固定されている。板バネ13は、2つの山部13aおよび13bと、その2つの山部13aおよび13bによって形成された凹部13cとを備えている。そして、凹部13cには、透孔13dが形成され、その透孔13dには、フォトリフレクタ14が嵌め込まれている。フォトリフレクタ14は、連動棒21の端部が対向したことを検出するためのセンサである。モータ31が駆動され、その回転軸31aに取り付けられたギア32が回転し、ギア32に噛合するピニオン22が回転すると、ピニオン22(および連動棒21)はラック12c上で回動し、これに応じて、連動棒21はラック12c上を前後に移動する。たとえば、連動棒21が板バネ13より手前から板バネ13側に近づいて行くとする(スライド蓋LDを全開方向に開いて行くとする)と、連動棒21の左端部は、まず板バネ13の第1の山部13aを乗り越えて、凹部13cに嵌合し、次に第2の山部13bを乗り越えて行く。フォトリフレクタ14は、連動棒21の左端部が凹部13cに嵌合したことを検出する。なお、板バネ13は、ガイド溝12aの壁と、一端部だけ固定され、他端部は固定されず、所定のクリアランスCが設けられている。これは、連動棒21の左端部が第1および第2の山部13aおよび13bを乗り越えるときに、連動棒21に必要以上の荷重が加わらないようにするためと、凹部13cと連動棒21との嵌合により、少しの力をスライド蓋LDに加えても動かないように、スライド蓋LDがその位置で安定するためのバネ性を発生するために設けられている。なお、連動棒21の端部が対向したことを検出するためのセンサは、フォトリフレクタに限らず、たとえば磁気検出センサでもよい。
このような板バネ13は、前記4つの安定位置LD1〜LD4のうち、安定位置LD1を除く3つの安定位置LD2〜LD4のそれぞれに対応する位置に設けられる。したがって、フォトリフレクタ14も、各板バネ13の透孔13dにそれぞれ設けられる。
なお、図4には、鍵盤楽器1の楽器本体の左内側の側面に取り付けられる山板の一部が図示されているが、楽器本体の右内側の側面にも、図示例と同様の構造の山板が取り付けられる。ただし、フォトリフレクタ14は、一方の山板側にのみ取り付けられれば十分である。
図5は、鍵盤楽器1の制御構成を示すブロック図である。
同図に示すように、バス44には、楽器種類選択手段SS1と、広パネル操作子群5と、前記モータ31を駆動するためのモータインターフェースMI/Fと、前記3つのフォトリフレクタ14a〜14cと、鍵盤2と、マイクロコンピュータ(μcom)41と、音源ユニット42とが接続されている。
楽器種類選択手段SS1は、前記第1の選択部SS1に相当する。第1の選択部SS1は、前述のように、3種類の音色を選択するスイッチである。音色は、当然楽器に対応付けられるので、音色を選択することは、楽器を選択することと対応する。したがって、第1の選択部SS1は、楽器種類選択手段SS1と言い換えることができる。なお、演奏者が、第1の選択部SS1の現在の選択位置を他の位置に変更したときには、第1の選択部SS1は、楽器種類選択イベントを発生する。
広パネル操作子群5は、広パネル3上に設けられたすべての操作子を意味し、前記マスターボリュームVL1、伴奏用ボリュームVL2、ドローバー群DBおよび第2の選択部SS2を含んでいる。
マイクロコンピュータ41は、装置全体の制御を司るCPU41aと、該CPU41aが実行する制御プログラムや各種テーブルデータ等を記憶するROM41cと、楽曲データ、各種入力情報および演算結果等を一時的に記憶するRAM41bとによって構成されている。
音源ユニット42は、複数音色の楽音信号を生成でき、CPU41aによって設定された音色の楽音信号を生成して、サウンドシステム43に出力する。サウンドシステム43は、DAC(Digital-to-Analog Converter)やアンプ、スピーカ等によって構成され、音源ユニット42から出力された楽音信号を音響に変換する。
図6は、前記モータインターフェースMI/Fの回路構成の一例を示す図である。
同図に示すように、モータインターフェースMI/Fは、2つのリレーRy1およびRy2と、2つのトランジスタTR1およびTR2とにより、主として構成されている。そして、各リレーRy1およびRy2には、それぞれ、スイッチSW1およびSW2が設けられている。
リレーRy1は、通電されたときにのみ、スイッチSW1の接点を端子T1bから端子T1aに切り替える。つまり、スイッチSW1の接点は、通常(リレーRy1に通電されていないとき)端子T1bに接続されている。同様に、リレーRy2も、通電されたときにのみ、スイッチSW2の接点を端子T2bから端子T2aに切り替える。そして、トランジスタTR1が、リレーRy1への通電/非通電を制御する。具体的には、トランジスタTR1は、ベースにハイレベルが印加されたときに、オン状態となって、リレーRy1に通電され、ベースにローレベルが印加されたときに、リレーRy1への通電が停止する。同様に、トランジスタTR2が、リレーRy2への通電/非通電を制御する。
そして、前記CPU41aは、スライド蓋LDを前方にスライドさせたいときには、トランジスタTR1のベースをハイレベルにするとともに、トランジスタTR2のベースをローレベルにするような前駆動信号を生成して、モータインターフェースMI/Fに供給し、これとは逆に、スライド蓋LDを後方にスライドさせたいときには、トランジスタTR2のベースをハイレベルにするとともに、トランジスタTR1のベースをローレベルにするような後駆動信号を生成して、モータインターフェースMI/Fに供給する。
以上のように構成された鍵盤楽器1が実行する制御処理を、まずその概要を説明し、次に図7〜図10を参照して詳細に説明する。
鍵盤楽器1は、主として、
(1)演奏者が電源スイッチPSをオンした直後に実行される初期化処理
(2)演奏者が第1の選択部SS1の選択位置を変更したときに発生する楽器種類選択イベントに応じて実行されるスライド蓋LDの自動スライド処理
(3)上記(2)の自動スライド処理に続いて実行される音色設定処理
(4)演奏者が広パネル3上の音色選択スイッチ等を操作したときに実行される広パネルでの音色等選択処理
の各処理を実行する。
演奏者が手動でスライド蓋LDを安定位置LD1から安定位置LD2まで開き、電源スイッチPSをオンしたときに、第1の選択部SS1がピアノ位置以外の位置を選択している場合、CPU41aは、スライド蓋LDを、第1の選択部SS1が選択している位置(オルガン位置または一般位置)に対応する安定位置(LD3またはLD4)にスライドさせるようにしている。上記(1)の初期化処理には、この処理が含まれている。ただし、演奏者によっては、電源スイッチPSをオンしたときに、スライド蓋LDが自動的に動いてしまうことに違和感を覚えることもあるので、電源スイッチPSをオンしたときに、第1の選択部SS1がピアノ位置以外の位置を選択していたとしても、CPU41aは、スライド蓋LDをスライドさせず、その後、演奏者が第1の選択部SS1の選択位置を変更したときに、その位置に応じた安定位置にスライド蓋LDをスライドさせるようにしてもよい。
上記(1)の初期化処理が終了した後、演奏者が第1の選択部SS1の選択位置を変更すると、CPU41aは、処理を上記(2)の自動スライド処理に進める。この(2)自動スライド処理は、演奏者が第1の選択部SS1を操作した状況に応じて、次のように場合分けすることができる。すなわち、
(a)ピアノ位置からオルガン位置へ変更した場合
(b)ピアノ位置から一般位置へ変更した場合
(c)オルガン位置から一般位置へ変更した場合
(d)オルガン位置からピアノ位置へ変更した場合
(e)一般位置からオルガン位置へ変更した場合
(f)一般位置からピアノ位置へ変更した場合
である。CPU41aは、演奏者が第1の選択部SS1を操作した状況、つまり、上記(a)〜(f)のいずれかの場合に応じて、前記モータインターフェースMI/Fを制御し、スライド蓋LDを目的の安定位置までスライドさせる。
上記(2)の自動スライド処理が終了すると、CPU41aは、直ちに処理を上記(3)の音色設定処理に進める。この(3)音色設定処理では、CPU41aは、前記音源ユニット42の音色を、第1の選択部SS1の選択位置に応じた音色に設定する。具体的には、第1の選択部SS1がピアノ位置を選択しているときには、ピアノ音色が設定され、第1の選択部SS1がオルガン位置を選択しているときには、オルガン音色が設定され、第1の選択部SS1が一般位置を選択しているときには、プリユーザセットの音色が設定される。なお、第1の選択部SS1が一般位置を選択しているときには、広パネル3は全開状態であるので、プリユーザセットの音色が設定されたことに不満であれば、演奏者は、広パネル3上の音色選択スイッチを用いて、自由に他の音色を設定することができる。前記(4)の広パネルでの音色等選択処理は、演奏者が現在設定中の音色から他の音色に設定変更するときにも実行される。
(4)広パネルでの音色等選択処理では、演奏者が選択した音色を設定する処理に加え、選択された音色に応じて、広パネル3の内側に設けられた前記左右スピーカのオン/オフ制御も行うようにしている。このオン/オフ制御では、左スピーカと右スピーカを次のように制御する。すなわち、
(A)左スピーカ:オフ;右スピーカ:オン
(B)左スピーカ:オン;右スピーカ: オフ
(C)左スピーカ:オフ;右スピーカ:オフ
(D)左スピーカ:オン;右スピーカ:オン
の4つの態様のいずれかに制御する。なお、鍵盤楽器1には、広パネル3の内側以外にも、たとえば、脚部(図示せず)などに、スピーカが設けられている。上記オン/オフ制御では、広パネル3の内側の左右スピーカのオン/オフ制御を行い、それ以外のスピーカのオン/オフ制御を行っていないので、上記(C)の場合のようなオン/オフ制御が行われたとしても、広パネル3の内側の左右スピーカ以外のスピーカから楽音が発音されている。
次に、この制御処理を詳細に説明する。
図7および図8は、本実施の形態の鍵盤楽器1、特にCPU41aが実行するメインルーチンの手順を示すフローチャートであり、図9は、図7中の広パネルでの音色等選択処理の詳細な手順を示すフローチャートである。なお、本メインルーチンは、演奏者がスライド蓋LDを安定位置LD1から安定位置LD2までスライドさせ、電源スイッチPSをオンしたとき(あるは、電源スイッチPSをオンしてから、スライド蓋LDを安定位置LD1から安定位置LD2までスライドさせたとき)に起動される。ただし、本メインルーチンが起動される条件として、演奏者がスライド蓋LDを安定位置LD1から安定位置LD2までスライドさせることは必須ではないので、本メインルーチンは、演奏者が電源スイッチPSをオフ状態からオン状態に切り替えたときに起動されるとしてもよい。
演奏者が電源スイッチPSをオンすると、CPU41aは、処理を前記(1)初期化処理に進める(ステップS1)。この(1)初期化処理では、CPU41aは、まず、前記RAM41bのクリアや、前記音源ユニット42の初期設定などを行った後、第1の選択部SS1の選択状態を検出する。この検出の結果、第1の選択部SS1がピアノ位置以外の位置、たとえば、オルガン位置を選択していた場合には、CPU41aは、RAM41bの所定位置に確保された、目標位置を格納するためのレジスタHに目標位置P2を格納するとともに、RAM41bの所定位置に確保された、スライド蓋LDをスライドさせる(動かす)ときにセットする蓋動フラグMVをセット(“1”)する。これにより、スライド蓋LDが目標位置P2に到達するまで、スライド蓋LDが後方にスライドする(ステップS4→S11→S19(図8)→S20→S22→S2→S3→S4)。なお、スライド蓋LDをスライドさせる際の制御方法は、後述する。そして、スライド蓋LDが目標位置P2に到達すると、モータ31を停止させる停止信号を発生させるとともに、蓋動フラグMVをリセット(“0”)する(ステップS6)。これにより、スライド蓋LDは、安定位置LD2から、第1の選択部SS1が選択しているオルガン位置に対応する安定位置LD3までスライドして停止する。図7のフローチャートでは、この後、前記(3)の音色設定処理(ステップS7〜S10の処理)が行われるようになっているが、(1)初期化処理では、この(3)音色設定処理は行わない。その理由は、音色は電源スイッチPSがオフされたときの設定状態が保持されるので、演奏者が、第1の選択部SS1の選択状態を変更してから電源スイッチPSをオンしたなどの特殊な場合を除いて、改めて音色設定を行う必要はないからである。ただし、このような特殊な場合を担保するため、(1)初期化処理でも、(3)音色設定処理を行うようにしてもよい。一方、前記第1の選択部SS1の選択状態の検出の結果、第1の選択部SS1がピアノ位置を選択していた場合には、処理は、ステップS2→S3→S4→S11→S12(図8)→S2と進み、CPU41aは、演奏者が第1の選択部SS1の選択位置を変更するまで、このループを継続する。なお、ステップS2の処理は、前記(4)の広パネルでの音色等選択処理であるが、処理がこのループを継続しているときには、広パネル3は露出していないので、ステップS2は通過するだけで、ステップS2の処理は実行されない。また、ステップS3の鍵盤処理は、演奏者が鍵盤2を押鍵したときに、押鍵した鍵に応じた楽音を発生させるように、前記音源ユニット42に各種パラメータを設定する処理である。
次に、演奏者が第1の選択部SS1の選択位置を変更したときになされる制御処理を説明する。第1の選択部SS1の選択位置の変更態様は、前記(a)〜(f)の6つの変更態様のいずれかである。この6つの変更態様は、スライド蓋LDを後方へスライドさせる制御を行う、(a)〜(c)の変更態様からなる第1のグループと、スライド蓋LDを前方へスライドさせる制御を行う、(d)〜(f)の変更態様からなる第2のグループに分けることができる。そして、各グループ毎に、1つの変更態様についての制御処理を説明すれば、他の変更態様の制御処理は簡単に類推できるので、以下、第1のグループでは(c)の変更態様についての制御処理を、第2のグループでは(f)の変更態様についての制御処理をそれぞれ説明する。
上記(c)の変更態様のように、演奏者が第1の選択部SS1をオルガン位置から一般位置へ変更したとすると、楽器種類選択イベントとして、一般の電子楽器を選択するイベント(目標位置P3)が発生するので、CPU41aは、まず前記レジスタHに目標位置P3を格納し(ステップS11→S16→S17)、次に前記蓋動フラグMVをセットする(ステップS18)。そして、現在のスライド蓋LDの停止位置(安定位置LD3=目標位置P2)は、目標位置P3より前方にあるので、CPU41aは、前記モータインターフェースMI/Fに対して、スライド蓋LDを後方にスライドさせる後駆動信号を出力する(ステップS22)。より具体的には、CPU41aは、モータインターフェースMI/Fに対して、前記トランジスタTR1のベースをハイレベルにし、前記トランジスタTR2のベースをローレベルにする信号を出力する。これにより、リレーRy1に通電されて、リレーRy1はスイッチSW1の接点を端子T1b側から端子T1a側に切り替える一方、リレーRy2には通電されずに、スイッチSW2の接点は端子T2b側に接続されたままとなる。したがって、モータ31には、スライド蓋LDを後方にスライドさせる方向の電流が供給される。その後、CPU41aは、スライド蓋LDが目標位置P3に到達したかどうかを常時チェックする(ステップS5)。このチェックは、目標位置P3にある前記フォトリフレクタ14cが前記連動棒21の端部と対向したかどうかをチェックすることによって行う。CPU41aは、スライド蓋LDが目標位置P3に到達していない場合には、前記後駆動信号の出力を続け(ステップS2→S3→S4→S5→S11→S19→S20→S22→S2)、スライド蓋LDが目標位置P3に到達した場合には、モータ31を停止させるためのモータ停止信号を発生させて、モータインターフェースMI/Fに供給するとともに、前記蓋動フラグMVをリセットする(ステップS6)。ここで、モータ停止信号とは、具体的には、前記トランジスタTR1およびTR2の各ベースをそれぞれローレベルにする信号である。これにより、リレーRy1およびRy2の両方に通電されなくなるので、スイッチSW1およびSW2の各接点は、それぞれ各端子T1bおよびT2b側に接続される。したがって、モータ31への電流の供給が停止し、モータ31の回転が停止する。そして、CPU41aは、処理を前記(3)音色設定処理に進め、音源ユニット42の音色を、スライド蓋LDの位置が安定位置LD4(=目標位置P3)になったときに設定される音色(プリユーザセットのP3状態の音色)に設定する(ステップS7→S10)。
一方、前記(f)の変更態様のように、演奏者が第1の選択部SS1を一般位置からピアノ位置へ変更したとすると、楽器種類選択イベントとして、ピアノを選択するイベント(目標位置P1)が発生するので、CPU41aは、まず前記レジスタHに目標位置P1を格納し(ステップS11→S12→S13)、次に前記蓋動フラグMVをセットする(ステップS18)。そして、現在のスライド蓋LDの停止位置(安定位置LD4=目標位置P3)は、目標位置P1より後方にあるので、CPU41aは、前記モータインターフェースMI/Fに対して、スライド蓋LDを前方にスライドさせる前駆動信号を出力する(ステップS21)。より具体的には、CPU41aは、モータインターフェースMI/Fに対して、前記トランジスタTR1のベースをローレベルにし、前記トランジスタTR2のベースをハイレベルにする信号を出力する。これにより、リレーRy2に通電されて、リレーRy2はスイッチSW2の接点を端子T2b側から端子T2a側に切り替える一方、リレーRy1には通電されずに、スイッチSW1の接点は端子T1b側に接続されたままとなる。したがって、モータ31には、スライド蓋LDを前方にスライドさせる方向の電流が供給される。その後、CPU41aは、スライド蓋LDが目標位置P1に到達したかどうかを常時チェックする(ステップS5)。このチェックは、目標位置P1にある前記フォトリフレクタ14aが前記連動棒21の端部と対向したかどうかをチェックすることによって行う。CPU41aは、スライド蓋LDが目標位置P1に到達していない場合には、前記前駆動信号の出力を続け(ステップS2→S3→S4→S5→S11→S19→S20→S21→S2)、スライド蓋LDが目標位置P1に到達した場合には、モータ31を停止させるためのモータ停止信号を発生させて、モータインターフェースMI/Fに供給するとともに、前記蓋動フラグMVをリセットする(ステップS6)。そして、CPU41aは、処理を前記(3)音色設定処理に進め、音源ユニット42の音色を、プリユーザセットのピアノ音色に設定する(ステップS7→S8)。
次に、スライド蓋LDが安定位置LD4までスライドした状態で、演奏者が広パネル3上のスイッチを操作して、音色等の設定を指示すると、CPU41aは、処理を前記(4)の音色等選択処理に進める。この(4)音色等選択処理では、まず、CPU41aは、演奏者によって指示された音色パラメータを音源ユニット42に設定する(ステップS32)。次に、CPU41aは、前記ROM41cに予め格納されたテーブルを参照することにより、前記左右スピーカのオン/オフ制御を行うためのMI値を発生する(ステップS33)。ここで、MI値とは、左右スピーカのオン/オフ制御として、前記(A)〜(D)の4通りの制御がなされるが、その(A)〜(D)の各制御に対応付けた、1〜4の整数値のことである。そして、広パネル3上の音色選択スイッチによって選択される音色とMI値とは、1対1に対応付けられている。つまり、音色が決まれば、左右スピーカのオン/オフ制御の態様が一意的に決まるように構成されている。そして、各音色とMI値との対応付けを、本実施の形態では、テーブルによって行っている。図10は、音色とMI値とを対応付けるテーブルの一例を示す図である。
このようにしてMI値が決まると、CPU41aは、MI値に対応する制御態様で、左右スピーカのオン/オフ制御を行う。たとえば、MI値として、“2”が発生すると、CPU41aは、前記(B)の制御態様、つまり、左スピーカ:オフ;右スピーカ:オンという制御態様で、左右スピーカを制御する(ステップS34→S36)。
なお、広パネル3上には、音色選択スイッチの他にも、様々な種類の操作子(たとえば、音量やビブラートの深さなどを変更する操作子や、前記演奏ガイド用LEDGDを動作させるかどうかを選択する操作子など)が設けられているので、演奏者がそれらの操作子を操作したときには、CPU41aは、操作した操作子に対応する処理を行う(ステップS39→S40)。
このように、本実施の形態では、演奏者は第1の選択部SS1の選択位置を切り替えるだけで、スライド蓋LDは、切り替えられた位置に対応する安定位置に自動的にスライドするとともに、切り替えられた位置に対応する音色が設定されるので、演奏者にとって邪魔な操作子が見えなくなり、演奏者は演奏に集中することができる。そして、第1の選択部SS1の選択位置とスライド蓋LDのスライド位置との関係を考慮して、広パネル3内の左右スピーカの取り付け位置を決定したので、スライド蓋LDの選択位置に対応した安定位置に停止したスライド蓋LDにより、左右スピーカの音響特性をアコースティックに、かつ演奏者の意図通りに変更することができる。また、演奏者が選択した音色に応じて左右スピーカのオン/オフ制御を行うようにしたので、演奏者が鍵盤楽器1を演奏することにより発生される演奏音は、よりリアルなものになる。たとえば、音色としてコーラスが選択されたときには、左スピーカがオンとなり、右スピーカがオフとなるので、演奏者は、舞台の左側に立っている歌手が歌っているような印象を受けることができる。
前述のように、安定位置LD1から安定位置LD2までは、スライド蓋LDは、演奏者が手動でスライドさせる。このとき、モータインターフェースMI/Fには、前駆動信号も後駆動信号も供給されていないので、リレーRy1およびRy2の両方に通電されていない。したがって、スイッチSW1およびSW2の各接点は、それぞれ端子T1bおよびT2bに接続され、これにより、モータ31の端子間には、前記図6に示すような帰還回路(実質的な短絡回路)が形成される。このような帰還回路が形成されている状態で、スライド蓋LDを手動でスライドさせると、つまり、モータ31の回転軸31aを回転させると、モータ31は、この回転エネルギーを電気エネルギーに変換し、その結果、モータ31の端子間に電圧が発生する。この端子間は、上述のように、実質的に短絡状態であるので、発生した電圧が起電力となって、逆方向の電流がモータ31内を流れる。この逆方向の電流により、モータ31の回転子に逆方向の力が加わる。つまり、スライド蓋LDをスライドさせる方向と逆の方向の力がスライド蓋LDに加わる。そして、スライド蓋LDをスライドさせる力が強ければ強いほど、逆方向に加わる力も増大する。この力は、スライド蓋LDをスライドさせる速さに関係し、ゆっくりスライドさせるときには、制動力(抵抗力)はほとんど発生しないが、速くスライドさせるときには、大きな制動力が発生する。このように、モータ31の端子間を実質的に短絡状態にすることにより、モータ31は、トルクダンパーとしての機能を果たすようになる。したがって、スライド蓋LDをスライドさせるために搭載したモータ31が、トルクダンパーとしての機能も果たすようになるので、改めてトルクダンパーを設ける必要がなく、これにより、製造コストを追加することなく、スライド蓋LDによる演奏者(操作者)の指挟みを防止するとともに、全閉時の衝撃からスライド蓋LDを保護することができる。なお、モータ31にトルクダンパーとしての機能をよりよく果たさせるためには、モータ31として、ウオームホイルを使わないギヤードモータを用いることが好ましい。
図11は、本発明の他の実施の形態に係る鍵盤楽器100を説明するための図である。
鍵盤楽器100は、上記鍵盤楽器1に対して、鍵盤蓋の形状と開閉の仕方が異なっている。
図11(a)は、鍵盤蓋101を閉じているときの横断面図であり、図11(b)は、鍵盤蓋101を開けているときの横断面図である。
図11(a)のように、鍵盤蓋101は、蓋前部103を備え、鍵盤蓋101と蓋前部103とは、蝶番部の回動部104を介して、回動自在に連結されている。そして、鍵盤蓋101、蓋前部103および前板102によって、開閉蓋が構成される。開閉蓋は、棚板下面部108に設置された鍵盤ユニット109を保護するとともに、パネル面の内側に設けられたスピーカSPの音響特性をアコースティックに変更するために設けられている。
鍵盤蓋101が閉じている場合、演奏者は、鍵盤蓋101を、鍵盤蓋回動支点101aを中心にして前板102まで手動で回動させる。図11(b)は、この状態を示している。そして、図11(b)中の目標位置P1が、前記図1中の目標位置P1に対応する。図11(b)中の目標位置P1から目標位置P2およびP3までは、前板回動支点102aを中心にして、自動で鍵盤蓋101および前板102を回動させる。自動で回動させる仕組みは、図11(c),(d)に示すように、連動棒120の左右に一対のギヤ121を設け、この一対のギア121の一方と噛合するギア111を回転軸110aに取り付けたモータ110を、その回転軸110aのギア111を一対のギア121の一方と噛合した状態で、モータ110および連動棒取付部材130を介して前板102の裏面に固定する。そして、楽器本体の左右各内側にそれぞれ取り付けられた一対のレール105のそれぞれに、連動棒120の一対のギヤ121のぞれぞれを噛合させる。
目標位置P1〜P3を検出するセンサは、前記フォトリフレクタ14を用いればよい。
これ以降の制御方法は、前記鍵盤楽器1で説明した制御方法をそのまま用いればよいので、その説明は省略する。
なお、上記各実施の形態では、蓋開初期では、手動操作によって、少なくとも鍵盤部分を露出させるようにしたが、この部分の操作も含めて、すべて自動で行うようにしてもよい。つまり、操作者が電源スイッチPSまたは隠し電源スイッチ(図示せず)をオンすると、第1段階の鍵盤部分のみ露出状態になるように、スライド蓋LDまたは開閉蓋を電動移動させるということである。隠し電源スイッチとしては、たとえば、棚板下面部108に設けられたメカニックスイッチや、演奏者が鍵盤楽器100に正対(椅子(図示せず)に座って楽器に向き合うこと)すると、棚板下面部108に設けられた非接触センサ部(図示せず)が演奏者の膝を検出することでオンになるスイッチを挙げることができる。電源スイッチPSまたは隠し電源スイッチがオンされた後の処理は、次の処理を、前記図7のステップS1の初期設定処理中に含ませればよい。すなわち、蓋開直前に、第1の選択部SS1が選択していた位置、すなわちピアノ位置、オルガン位置および一般位置のうちのいずれかに応じた目標位置を前記レジスタHに格納するとともに、前記蓋動フラグMVをセットする。これ以降の処理は、前記初期設定処理を説明したときに詳述したので、その説明は省略する。