JP5325448B2 - 固相を用いての核酸分子の単離および精製 - Google Patents

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Description

本発明は、核酸単離および精製の分野に関する。サンプル材料から核酸を単離するための方法およびキットが提供される。特に、本発明は、付随物質を実質的に含まない形態で核酸を得るための方法およびキットに関する。単離された核酸は、分子生物学の適用について好適である。本発明の方法は、固相へ核酸を吸着させ(即ち、可逆的に結合させ)、吸着された核酸を含む固相を必要に応じて洗浄し、核酸を固相から溶出することを含む。
核酸分析に基づく研究分野における診断試験およびアッセイは、依然重要性を増している。一方で、核酸はしばしば非常に低濃度で存在し、他方で、たとえば細胞の溶解後、または食物由来のサンプル材料中において、多くの他の固体および溶解された物質の存在下においてしばしば見られるので、特に、特定の分析物の検出を可能にする生物特異的アッセイにおいて、単離または測定するのが困難である。従って、大抵の場合において、これらの微生物学的試験は、検出される特徴的なDNA分子の少なくとも1つの増幅工程を含む。2つのオリゴヌクレオチドプライマーの選択的結合を伴う周知のアッセイは、米国特許第4,683,195号に記載のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である。この方法は、数回のサイクルにおいてデオキシヌクレオチド三リン酸の存在下での熱安定性ポリメラーゼによる検出可能なレベルまでの特定の核酸領域の選択的増幅を可能にする。PCR技術は、使用されるサンプル材料の必要とされる量および純度の両方に関して非常に感度の高い技術である。
他の可能な増殖反応は、リガーゼ連鎖反応(LCR, Wu, D., Y., and Wallace, R., B., Genomics 4 (1989) 560-569およびBarany, F., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88 (1991) 189-193);ポリメラーゼリガーゼ連鎖反応(Barany, F., PCR Methods and Appl. 1 (1991) 5-16);Gap−LCR(PCT特許公開番号WO 90/01069);修復連鎖反応(Repair Chain Reaction)(EP 0 439 182)、3SR(Kwoh, D., Y., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 1173-1177;Guatelli, J., C. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87 (1990) 1874-1878;PCT特許公開番号WO 92/0880A)、およびNASBA(米国特許第5,130,238号)である。さらに、鎖置換増幅(SDA)、転写媒介性増幅(TMA)、およびQベータ増幅(Q_beta-amplification)(概説については、たとえば、Whelen, A., C. and Persing, D., H., Annu. Rev. Microbiol. 50 (1996) 349-373;Abramson, R., D. and Myers., T., W., Current Opinion in Biotechnology 4 (1993) 41-47を参照のこと)がある。
核酸は原核生物および真核生物の細胞内にのみ存在するので、細胞壁は核酸単離前に溶解されなければならない。細胞からの核酸の放出と同時に、全ての他の細胞成分も遊離される。これは、タンパク質、塩、二次代謝産物ならびに分解酵素、たとえばプロテアーゼおよびヌクレアーゼを含む。これらの酵素は、それらの標的を即座に分解し始める。従って、これらの分解酵素の活性は抑制されなければならない。これは、溶解溶液へ有機溶媒または変性剤を添加することによって達成され得る。代替法は、プロテアーゼおよび/またはヌクレアーゼ阻害剤を添加することである。
サンプル材料から核酸を単離するために、いくつかの核酸抽出方法、たとえば、配列依存性または生物特異的方法(たとえば、アフィニティークロマトグラフィー、固定化プローブへのハイブリダイゼーション)および配列非依存性または物理化学的方法が存在する。後者の中でも、当該分野に周知であるのは、たとえばフェノール−クロロホルムを用いての液−液抽出、エタノール等の有機溶媒での析出、濾紙を用いての抽出、セチル−トリメチル−アンモニウム−ブロミド等のミセル形成剤を用いての抽出、アクリジン誘導体等の固定化された挿入色素(intercalating dyes)との相互作用、ならびにシリカゲルまたは珪藻土等の固相へのカオトロピック条件下での吸着、およびたとえばガラスまたは磁気有機シラン粒子でコーティングされた磁性粒子への吸着である。
しばしば、カチオン性表面が、核酸を単離するために使用される。このような表面は、帯電DNA分子を吸着するために使用され得、ここで、たとえば、EP 0 281 390は核酸単離におけるポリカチオン性支持体、WO 01/94573は荷電膜、またはWO 00/69872はpH依存性イオン交換マトリクスを記載している。WO 02/48164は、DNAの可逆的結合のための固体支持体上に切り替え可能な電荷を有するポリマーを開示している。カチオン性表面と同様に、ポリカチオン性要素はまた、特定のDNA結合親和性を有する。Stewart, K., D., et al., J. Phys. Org. Chem. 5 (1992) 461-466は、カチオン電荷が増加するにつれて、DNAへの結合についての溶液中のポリアミドの親和性が増加することを報告している。Dore, K., et al, J. Am. Chem. Soc. 126 (2004) 4240-4244は、二本鎖核酸と一本鎖核酸との間でのカチオン性化合物の選択性を記載している。
たとえばDNAの複合生物学的流体からの分離および単離へ通常適用される、別のアプローチは、核酸結合材料の使用である。たとえば、DNA結合材料の最も顕著な例は、カオトロピック試薬および/またはアルコール性添加剤の存在下でDNAを可逆的に結合する能力により、ガラス表面である(Vogelstein, B., and Gillespie, D., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76 (1979) 615-619)。このような結合は、核酸のリン酸基と相互作用する酸化性表面(oxidic surfaces)(「X−OH」)によって行われると考えられる。
核酸の単離のための一般的な方法は、Chomczynski, P., and Sacchi, N., Anal. Biochem. 162 (1987) 156-159によって1987年に公開された。この方法は、種々の溶解性のタンパク質および核酸を酸性のチオシアン酸グアニジニウム−フェノール/クロロホルム混合物での抽出分離プロトコルのために使用している。
Boom, R., et al., J. Clin. Microbiol. 28 (1990) 495-503は、サンプル材料からのDNAおよびRNAの精製のための小規模プロトコルを記載している。この方法は、EDTA/界面活性剤混合物の存在下でのカオトロピック剤の溶解およびヌクレアーゼ不活性化ならびにシリカ粒子の核酸結合特性に基づいている。
核酸のリチウム塩は、水溶液中において減少された溶解性を有することが公知である。欧州特許出願EP 0 818 461において、リチウム塩およびカオトロピック剤を含有する酸性溶液ならびにシリカ粒子等の核酸結合パートナーでのリボ核酸の単離のための方法が記載されている。
米国特許第5,808,041号において、細胞から核酸を単離するための組成物が記載されている。組成物は、カオトロピック塩と組み合わされたシリカゲルおよびガラス粒子の混合物である。
WO 99/61603において、少なくとも1つのカオトロピック物質の存在下で実質的にシリカ材料からなる固体マトリクスを用いてpH>8のアルカリ性条件下で環状核酸を分離および/または単離するための方法が記載されている。
米国特許出願第2004/0121336号は、所定量の核酸を多数の固体基体結合単位へ結合する方法を記載している。細胞を穏やかに溶解および可溶化させるための方法が、米国特許出願第2004/0180445号に記載されている。
最先端技術における特定の不都合を考慮して、本発明の目的は、複合サンプル材料からの核酸分子の単離および精製のための代替法を提供することである。本発明の詳細な目的は、固相基体への核酸の吸着を促進させる代替の化合物を提供することである。
従って、本発明の主題は、核酸を固相へ吸着させるためのさらなる組成物および方法を提供することである。このような組成物および方法の詳細な使用は、核酸分子の単離および精製である。本発明者は、驚くべきことに、水溶性イオン性液体の存在下で核酸が固相へ吸着され得ることを見出した。
従って、本発明の第1態様は、組成物が、(a)室温で液体(イオン性液体)であり、式I
Figure 0005325448
[式中、Yは、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、Xは、水素原子、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、非局在化正電荷が、YおよびN、または官能基の全成分に広がる]の有機カチオンを含む塩;ならびに(b)水性緩衝液を含むことを特徴とする核酸を固相へ吸着させるための液体組成物である。
本発明のさらなる態様は、核酸を固相へ吸着させるための、式I[式中、Yは、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、式中、Xは、水素原子、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、式中、非局在化正電荷が、YおよびN、または官能基の全成分に広がる]の有機カチオンを含む水溶性イオン性液体の使用である。
本発明のさらなる態様は、核酸および固相の相互作用に対するカオトロピック化合物の効果を増強する方法であって、水性緩衝液およびカオトロピック剤を含む溶液中に核酸が存在し、該吸着溶液に、式I[式中、Yは、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、Xは、水素原子、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、非局在化正電荷が、YおよびN、または官能基の全成分に広がる]の有機カチオンを含む有効量のイオン性液体を添加し、それによりイオン性液体が、固相への核酸の吸着を増強することを特徴とする方法である。
本発明のさらなる態様は、以下の工程:(a)以下の成分を提供すること:(i.)核酸を可逆的に結合し得る固相;(ii.)核酸を含有するサンプル材料;(iii.)式I[式中、Yは、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、Xは、水素原子、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、非局在化正電荷が、YおよびN、または官能基の全成分に広がる]の有機カチオンを含むイオン性液体を含有する溶液;(iv.)水性緩衝液;(b)核酸を固相へ吸着させるに好適な条件下で提供された成分を接触させること;(c)吸着された核酸を有する固相を溶液から分離すること;(d)固相から核酸を溶出することを含む核酸を精製するための方法である。
本発明のさらなる態様は、方法が、(a)以下の成分を提供すること:(i.)核酸を可逆的に結合し得る固相;(ii.)リボ核酸を含有するサンプル材料;(iii.)1M〜3Mの濃度でブチルメチルイミダゾリウムカチオンを含有する水溶液;および(b)リボ核酸を固相へ吸着させるに好適な条件下で提供された成分を接触させることを含むことを特徴とするRNAを固相へ吸着させるための方法である。
本発明のさらなる態様は、キットが、(a)核酸を可逆的に結合し得る固相;(b)式I[式中、Yは、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、Xは、水素原子、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、非局在化正電荷が、YおよびN、または官能基の全成分に広がる]の有機カチオンを含むイオン性液体を含むことを特徴とする核酸含有材料から核酸を単離するためのキットである。
本発明は、核酸の精製における新規の組成物および方法を提供する。ある用語は、本発明のこの明細書中において、特定の意味で使用されるか、または初めて定義される。本発明の目的について、使用される用語は、それらの定義が下記に記載の定義と不一致であるかまたは部分的に不一致である場合を除いて、存在する場合、それらの分野において受け入れられている定義によって定義される。定義において不一致が存在する場合は、用語の意味は、下記に記載の定義のいずれかによって初めて定義される。
用語「含む」は、本発明の明細書および特許請求の範囲において、「含むが、必ずしも限定されない」を意味するように使用される。
冠詞「1つ(a)および(an)」は、1つまたは1つを超える(即ち、少なくとも1)の冠詞の文法的目的物を指すように本明細書中において使用される。たとえば、「化合物(a compound)」は、1つの化合物または1つを超える化合物を意味する。
濃度範囲のような数値の範囲を指定する場合、範囲は、第1の値n1および第2の値n2が続く、語「〜の間」によって記載される。指定範囲の下限は、第1の値に等しいかまたはこれを超える値であると理解される。指定範囲の上限は、第2の値に等しいかまたはこれ未満の値であると理解される。従って、値xの指定範囲は、n1≦x≦n2によって与えられる。
さらに、数値nと組み合わせての用語「約」は、値の数値±5%によって与えられる間の値x、即ち、n−0.05×n≦x≦n+0.05×nを示すことが理解される。数値nと組み合わせての用語「約」が本発明の好ましい実施形態を記載する場合、特に記載されない限り、nの値が最も好ましい。
核酸が吸着される用語「固相」は、本発明による組成物中において不溶性である基体であると理解される。好ましい固相は、核酸の骨格のリン酸基と相互作用し得る表面を有する基体である。固相は、多孔性または非多孔性粒子、粉末化粒子、または繊維の形態であり得る。複数の不織繊維を含むフリース材料からなる固相もまた含まれる。好ましい固相はガラスからなる。好ましい固相は、多孔性または非多孔性鉱物基体、たとえば、シリカ、石英、セライト、または酸化性表面を有する他の材料(たとえば、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、および他の金属酸化物を含む)、またはそれらの混合物である。また、用語「固相」は、シリカ、ガラス、石英、またはセライトでコーティングされた磁気的に引き付け可能な粒子を含む。さらに、「粉末」または「粉末化」材料の形態の基体は、本発明による液体組成物中に分散されると懸濁液を生じさせる微細に分割された材料を指すことが理解される。用語「粉末」または「粉末化」材料は、粉末化材料が凝集されているが、液相と組み合わされた場合に懸濁液を依然として生じさせる、錠剤を含むように意図される。
用語「シリカ」は、本出願において使用される場合、ケイ素および酸素から主に構成される材料を意味する。これらの材料は、これらの材料の全ての種々の形状を含む、シリカ、二酸化ケイ素、シリカゲル、ヒュームドシリカゲル、珪藻土、セライト、タルク、石英、ガラス、ガラス粒子を含む。たとえば、ガラス粒子は、結晶シリカ、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、および繊維状の不織ガラスの粒子を含み得る。
用語「磁性粒子」は、常磁性または超常磁性を有する粒子を意味する。つまり、粒子は、磁気的に置換可能であるが、外部から適用される磁場が存在しない場合に磁化を維持しない。
用語「サンプル」(または「サンプル材料」)は、本明細書中で使用される場合、複合サンプル、より好ましくは生物学的サンプルを指す。複合サンプルは、核酸から分離されることが望ましい複数の有機および無機成分を含有し得る。用語「サンプル」はまた、他の起源から、たとえば化学または酵素反応混合物から、または生物学的サンプル材料の前の精製から誘導された核酸を含有する水溶液を含む。そこから核酸が精製される、用語「生物学的サンプル」は、ウイルスまたは細菌細胞、ならびにヒトおよび動物細胞等の多細胞生物から単離された細胞、ならびに組織および細胞培養物を含むサンプルを含む。特に、このサンプルは、白血球、および他の免疫学的に活性な細胞、低および高分子量を有する化学化合物、たとえば、ハプテン、抗原、抗体および核酸を含有し得る。サンプルは、全血、血清、血漿、脳脊髄液、痰、大便、生検標本、骨髄、含嗽液、組織、尿、またはそれらの混合物であり得る。本発明はまた、ヒトまたは動物の体由来の流体等の生物学的サンプルを含み;好ましくは、生物学的サンプルは、血液、血漿、血清または尿である。血漿は、好ましくは、EDTA、ヘパリンまたはクエン酸塩血漿である。本発明の実施形態において、生物学的サプルは、細菌細胞、真核細胞、ウイルス、またはそれらの混合物を含む。上記に例示された生物学的サンプルは、好ましくは溶解物のような処理された形態で、そこから(標的)核酸が基体へ吸着される組成物の一部であり得る。用語「生物学的サンプル」によって、植物および真菌ならびに単細胞生物由来の細胞も含まれる。
本発明による好ましいサンプルは、溶解物である。「溶解物」または「溶解サンプル」は、組織、細胞、細菌またはウイルスを含む複合サンプルおよび/または生物学的サンプル材料から得ることができ、ここで、材料の構造的完全性が崩壊される。細胞、組織、または、より一般的には、生物学的サンプルを構成する粒子由来の内容物を放出するために、材料は、このような生物の細胞壁および細胞膜を溶解、分解または変性するために酵素または化学物質で処理され得る。このプロセスは、用語「溶解」に含まれる。核酸を溶解プロセスにおいて遊離させる場合、カオトロピック剤、たとえば、グアニジン塩および/またはアニオン性、カチオン性、両性イオン性もしくは非イオン性界面活性剤を使用することが一般的である。核酸分解活性を有する酵素や他の望ましくないタンパク質を迅速に分解するプロテアーゼを使用することもまた有利である。溶解プロセス後に粒状物(particulate)、即ち、サンプル材料の溶解されていない物質が残る場合、粒状物質は、通常、溶解物から分離され、透明化された溶解物が得られる。これは、たとえば、濾過または遠心分離によって行われ得る。このような場合、透明化された溶解物は、たとえば本発明による方法によってさらに処理される。従って、用語「溶解サンプル」は、透明化された溶解物を含む。
本発明による「カオトロピック剤」は、液体の水の規則的な構造を乱す化学物質である。カオトロピック剤はまた、タンパク質の展開(unfolding)、伸長、および解離を促進する(Dandliker, W., B., and de Saussure, V., A., In: The Chemistry of Biosurfaces, Hair, M., L., ed., Marcel Dekker, Inc. New York (1971) p.18)。好ましいカオトロピック塩は、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、チオシアン酸グアニジニウム、イソチオシアン酸グアニジニウムまたはグアニジニウム塩酸塩である。別の好ましいカオトロピック剤は尿素である。
用語「水性」、「水性」相および「水性」溶液は、その溶媒部分が水を含む液相を表す。しかし、他の溶媒、たとえば水混和性有機溶媒も、溶媒部分に存在し得る。他の溶媒の存在を考慮すると、体積/体積[v/v]として測定して溶媒部分の30%〜100%の間が水である場合、溶液は「水性」と考えられる。
用語「核酸」は、本出願において使用される場合、天然および合成起源のDNAおよびRNAポリヌクレオチドを意味する。これは、修飾されたヌクレオチド、たとえば、ジデオキシリボヌクレオチド、修飾された糖残基を有する核酸塩基および修飾された塩基部分を有する核酸塩基を含む(たとえば、Scheit, K., H., Nucleotide Analogs, John Wiley and Sons, N. Y. (1980);Uhlmann, E., and Peyman, A., Chem. Rev. 90 (1990) 543-584を参照のこと)。特に、ゲノムDNA、相補DNA(cDNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)およびミクロRNA(miRNA)が含まれる。
「イオン性液体」は、イオンのみを含有する液体である。広義では、この用語は、全ての溶融塩、たとえば、800℃を超える温度での塩化ナトリウムを含む。しかし、本発明の思想(context)において、用語「イオン性液体」は、融点が比較的低い塩について使用される。本発明の文脈において、用語「イオン性液体」は、室温で液体である塩を意味する。さらに、本発明によるイオン性液体は、水溶性イオン性液体である。「イオン性液体」は、同時に、カチオンおよびアニオンから構成される塩を意味する。アニオンは、無機または有機アニオンであり得、カチオンは大抵は有機カチオンであり、しかしどのような場合でも、1つのイオン(アニオンまたはカチオン)は有機イオンである。カチオンは、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン、および置換されたグアニジニウムカチオンを含み得る。イオン対の少なくとも1つのイオンは、非局在化電荷を有する。両方のイオン間の弱い相互作用に起因して、これらのイオン性液体は低融点を示す。
用語「吸着」/「吸着させること」は、溶液中に浸漬された固相と溶質との間の引力相互作用に起因して、溶液のバルク中の濃度を超えて、固相表面付近の溶質の濃度を増加させるように、外部表面または界面へ分子またはイオン(溶質)を接着または付着させることを一般的に意味する。表面への結合は、通常、弱くそして可逆的である。それは、集積する分子が、その上にそれらが形成される物質に実際に浸透しない表面プロセスである。用語は、固体中の細孔の充填を意味する吸収と混同されない。
核酸の単離および精製は、しばしば、核酸をシリカマトリクス等の固相へ吸着させるための高濃度のグアニジニウム塩等のカオトロピック剤の使用と連結される(Vogelstein, B., and Gillespie, D., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76 (1979) 615-619;Marko, M., A., et al., Anal. Biochem. 121 (1982) 382-387)。
カオトロピック塩についての例は、グアニジニウム塩、たとえばチオシアン酸グアニジニウム、イソチオシアン酸グアニジニウムまたはグアニジニウム塩酸塩、ならびにヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウムである。当業者に公知の他の化合物もまた可能である。カオトロピック物質は、溶解された核酸分子の水和物殻(hydrate shell)の表面からのならびに固相(たとえば、シリカマトリクス)の表面からの水分子の除去を行う。結果として、シリカマトリクスの−Si−OH基と核酸骨格のホスフェート−ジ−エステル基との間の直接的なイオン相互作用が、この特定の場合において可能となる(Melzak, K., A., et al., J. Coll. Interf. Sci. 181 (1996) 635-644)。
記載されたカオトロピック効果は、エントロピーの増加を伴う。従って、平衡は、固相の表面への核酸の結合へシフトされる。前提条件として、固相の表面は中性状態でなければならない。特にシリカ材料の表面について、核酸を吸着することについての好ましいpH範囲は、pH4〜pH6である。添加剤、たとえば、シリカマトリクス中に存在するホウ素、鉄、リン、アルミニウム等の他の元素が、好適な条件をシフトし得る。カオトロピック効果は、他の脱水物質を添加することによって増強され得る。たとえば、有機溶媒、たとえばアルコールの添加は、ガラス表面への核酸の改善された吸着を生じさせる。
本発明者は、驚くべきことに、あるイオン性液体がカオトロピック剤の効果と類似する効果を有することを見出した。本発明者は、あるイオン性液体が固相への水溶液からの核酸の吸着を効果的に促進することを示すことが出来た。従って、本発明の第1態様は、組成物が、(a)式I
Figure 0005325448
[式中、Yは、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、Xは、水素原子、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、非局在化正電荷が、YおよびN、または官能基の全成分に広がる]の有機カチオンを含むイオン性液体;ならびに(b)水性緩衝液を含むことを特徴とする核酸を固相へ吸着させるための液体組成物である。本発明の別の実施形態は、核酸を固相へ吸着させるための、式Iおよび上記で定義される有機カチオンを含むイオン性液体の使用である。さらに核酸を含有する本発明による組成物はまた、「吸着溶液」と呼ばれ、何故ならば、該組成物は、核酸を固相へ吸着させるために必要な条件を提供するためである。
好ましくは、YおよびXは窒素原子であり、非局在化正電荷は式Iの成分Y、X、およびNに広がる。従って、イオン性液体のコアは、カチオンの正電荷を有するグアニジニウム残基であり得る。成分Y、N、およびXの少なくとも1は、さらに、さらなる置換基を有する。好ましい置換基は、ハロゲン−、アルキル−、ヒドロキシアルキル−、アルコキシアルキル−およびフェノキシアルキル−官能基からなる群から選択される。非常に好ましくは、イオン性液体のカチオンは、N−(1−ブチル)−グアニジニウム、N−1−(2−メトキシエチル)−グアニジニウム、およびn−ブタン−1,4−ジグアニジニウムからなる群から選択される。当業者は、後者のジグアニジニウム化合物の場合、正電荷はいずれかのグアニジニウム基または両方に存在し得ることを容易に理解できる。
あるいは、非常に有利には、Xは炭素原子であり、Yは窒素原子であり、YおよびNは共役二重結合を有する環系の一部であり、非局在化電荷がYおよびNに広がる。このようなコアを有するイオン性液体についての例は、ピリジニウムまたはイミダゾリウム部分を有する化合物である。それについての好ましい例は、ベンズイミダゾリウム部分である。この場合もまた、成分Y、NおよびXの少なくとも1つが、さらなる置換基をさらに有する。好ましい置換基は、アルキル−、ヒドロキシアルキル−、アルコキシアルキル−またはフェノキシアルキル−官能基からなる群から選択される。非常に好ましくは、イオン性液体のカチオンは、1−エチル−3−メチル−イミダゾリウム、1−ブチル−3−メチル−イミダゾリウム、3−メチル−1−[4−(3−メチル−3−H−ベンズイミダゾール−1−イウム)−ブト−1−イル]−3H−ベンズイミダゾリウム−ジ(トルイルスルファト(toluylsulfat))、および1−ブチル−ピリジニウムからなる群から選択される。
本発明によるイオン性液体は、固相、好ましくはシリカ表面を有する固相への、好ましくはカオトロピック物質、たとえば、グアニジニウム塩(たとえばグアニジニウム塩酸塩、チオシアン酸グアニジニウム、イソチオシアン酸グアニジニウム)のさらなる必要性なしに、酸性条件下での核酸の吸着を促進し得る。しかし、絶対的には必要とされないが、カオトロピック物質は、さらに吸着を促進する点で非常に有利であり得る。驚くべきことに、固相への核酸の吸着が、従来のカオトロピック剤を含む吸着溶液へブチルメチルイミダゾリウムカチオンを含む化合物を添加することによって増強され得ることが見出された(たとえば、実施例2、実験番号5、さらに図1を参照のこと)。従って、本発明のさらなる実施形態は、核酸および固相の相互作用に対するカオトロピック化合物の効果を増強する方法であって、水性緩衝液およびカオトロピック剤を含む溶液中に核酸が存在し、該吸着溶液に、式I[式中、Yは、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、Xは、水素原子、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、非局在化正電荷が、YおよびN、または官能基の全成分に広がる]の有機カチオンを含む有効量の水溶性イオン性液体を添加し、それによりイオン性液体が、固相への核酸の吸着を増強することを特徴とする方法である。
従って、組成物は、カオトロピック物質をさらに含有することが好ましい。より好ましくは、カオトロピック物質はグアニジニウム塩である。好ましいグアニジニウム塩は、グアニジニウム塩酸塩(グアニジニウムHCl、Gu−HCl)、チオシアン酸グアニジニウム、およびイソチオシアン酸グアニジニウムである。
カオトロピック剤のさらなる効果は、核酸の単離の間に存在する核酸分解酵素の阻害である。さらにジチオトレイトール(DTT)等の還元剤も添加され得る。細胞溶解のために、界面活性剤、たとえば20%(w/w)のTriton X−100が添加される。界面活性剤はまた、固相への核酸の結合特性に対する影響を有する。核酸を固相へ吸着させるために使用される薬剤は、十分かつ選択的な結合条件を提供する必要がある。固相との相互作用の選択性を改善するために、付随ポリペプチドおよびタンパク質が除去されなければならない。これは、たとえばプロテイナーゼKでの酵素消化によって行われ得る。しかし、あるタンパク質分解酵素は、高濃度のカオトロピック剤で適切に機能しない。
実験において、カオトロピック剤、アルコールおよび界面活性剤の種々の組み合わせの存在下におけるニシン精子DNAの結合を試験した。ニシン精子DNAは、高分子量および低分子量DNAから構成されている。ガラスフリースへのニシン精子DNAの結合についての驚くべき結果を、図1に示す。使用されるイオン性液体および吸着についての条件に依存して、結合されたDNAの量は変化することが理解され得る。固相(2つの異なるシリカマトリクスを使用した)への非常に十分な吸着は、pH4.5で3Mのブチルメチルイミダゾリウムを使用して達成された。
一般的に、本発明による組成物および方法を使用して核酸が吸着される好ましい固相は、多孔性または非多孔性固体基体を含む。非常に好ましいのは、シリカ支持体である。より好ましくは、シリカ基体は、シリカゲル、ガラス繊維、石英繊維、およびセライトからなる群から選択される。また好ましくは、固相は、金属酸化物、および/または金属混合酸化物、アルミナ、チタニア、ジルコニア、および主にガラスからなる材料からなる群から選択される多孔性または非多孔性鉱物基体を含む。
固相は0.1μm〜100μmの粒度を有することがまた好ましい。多孔性固相材料は、使用される場合、2〜1,000nmの細孔サイズを有することがまた好ましい。より好ましくは、多孔性または非多孔性固相材料、特にセライトは、ルーズなパッキングの形態である。なおより好ましくは、固相は、ガラス、石英またはセラミックフィルターシートの形態のフィルターシート、および/またはシリカゲルを含有する膜、および/または鉱物基体の粒子もしくは繊維、および石英またはガラスウールの布地、即ち、繊維状の不織ガラスからなる。
固相が磁気的に引き付け可能な粒子を含むこともまた好ましい。より好ましくは、磁気的に引き付け可能な粒子は、シリカ、ガラス、石英、およびセライトからなる群から選択される鉱物基体でコーティングされている。なおより好ましくは、基体は、ガラスでコーティングされた磁気的に引き付け可能な粒子を含む。本発明において使用される磁気ガラス粒子は、種々の剤形で提供され得る。それらを錠剤の形態で、粉末としてまたは懸濁液として提供することが可能である。非常に好ましくは、磁気ガラス粒子は、本発明による液体組成物中に懸濁化される。好ましくは、これらの懸濁液は、5〜100mg/mlの磁気ガラス粒子(MGP)を含有する。また好ましくは、シリカ含有材料が、本発明によるイオン性液体を必要に応じて含有し得る水性緩衝溶液中に懸濁化される。
本発明による組成物中にある添加剤を含めることによって、水溶液から固相への核酸の吸着がさらに増加されることが、さらに見出された。本発明の組成物が、塩化マグネシウム(II)、およびイミダゾールからなる群から選択される化合物をさらに含有することが好ましい。
たとえばガラス粒子等の基体へ(少なくとも1つの)核酸を吸着させる手順は、下記のように記載され得る。本発明によれば、核酸を固相へ吸着させるための方法は、以下の工程:(a)以下の成分を提供すること:(i)核酸を可逆的に結合し得る固相;(ii)核酸を含有するサンプル材料;(iii)本発明による組成物;および(b)核酸を固相へ吸着させるに好適な条件下で提供された成分を接触させることを含む。
サンプル材料は、好ましくは、工程(b)が行われる場合に工程の組成物(iii)中において均質化される。サンプル材料は、生物学的材料を含み得る。この場合、均質化工程は、工程(b)の前に行われる。必要に応じて、均質化後、細胞破片(cell debris)等の残存する粒状物質が、残りの均質化サンプル材料から遠心分離によって分離され、上澄みが、工程(b)を行うことによってさらに処理される。濾過を含む、遠心分離以外の、代替の分離技術が公知である。
本発明によれば、核酸を吸着させるための手順が、式I[式中、Yは、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、Xは、水素原子、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、非局在化正電荷が、YおよびN、または官能基の全成分に広がる]の有機カチオンを含むイオン性液体の存在下で行われる。非常に好ましくは、イオン性液体のカチオンは、1−N−ブチル−グアニジニウム、1−N−(2−メトキシエチル)−グアニジニウム、n−ブタン−1,4−ジグアニジニウム、1−エチル−3−メチル−イミダゾリウム、1−ブチル−3−メチル−イミダゾリウム、3−メチル−1−[4−(3−メチル−3−H−ベンズイミダゾール−1−イウム)−ブト−1−イル]−3H−ベンズイミダゾリウム−ジ(トルイルスルファト)、および1−ブチル−ピリジニウムからなる群から選択されるからなる群から選択される。
本発明による組成物中のイオン性液体の濃度は、0.02M〜4Mの間の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、濃度は0.03M〜3Mの間である。
本発明による組成物の存在下での核酸と固相との接触は、pH4.0〜pH8.0の間のpH範囲で行われることがまた好ましい。酸性条件がより好ましい。これは、このより好ましい実施形態において、吸着プロセスが、7未満であって4を超えるpH、好ましくはpH4.5〜pH6.5の間、最も好ましくはpH6で行われることを意味する。好適な水性緩衝溶液を調製することは、当業者に自明である。分子生物学目的のために好適である緩衝系は、たとえば、Sambrook, J., et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd edition, CSHL Press (2001) Cold Spring Harbor, New Yorkにおいて見られ得る。好ましい緩衝物質は、Tris−(ヒドロキシメチル)−アミノメタン(TRIS)、2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)ホスフェート、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’−(2−エタンスルホン酸)(HEPES)、アセテート、それらの塩、および他の好適な物質である。
精製効果は、これらの条件下で、即ち、本発明による組成物の存在下で、固相の材料へ結合するDNAまたはRNAの挙動から生じる。サンプルを基体、即ち、核酸に対して親和性を有する材料と接触させるために、サンプルは、材料と混合され、結合が生じるに十分な時間の間インキュベートされる。専門家は、たとえば技術水準において記載したアルコールおよびカオトロピック塩の存在下において固相の匹敵する処理を行うための手順からインキュベーション工程の期間について通常よく知っている。この工程は、種々の時点で固相の表面上の固定化された核酸の量を測定することによって、最適化され得る。10秒〜30分の間のインキュベーション時間が核酸について好適であり得る。インキュベーション後、吸着された標的成分が液相から分離される。これは、一般的に重力によって達成され得る。
磁気ガラス粒子へ結合された核酸の便利な場合において、分離工程は、吸着された核酸材料を含む磁性粒子へ磁場を適用することによって行われる。たとえば、磁性粒子は、インキュベーションが行われた容器の壁へ引き寄せられ得る。次いで、磁性粒子へ結合されていないサンプル内容物を含有する液体が除去され得る。使用される除去手順は、インキュベーションが行われた容器の種類に依存する。好適な工程は、ピペット操作または吸引によって液体を除去することを含む。
別の好ましい方法は、ドイツ、マンハイムのRoche Diagnostics GmbH製のHIGH PURE(登録商標)カラム等の市販されているいわゆる「スピンカラム」または「スピンフィルターカラム」の使用である。スピンフィルターカラム管は、通常、カラムの下部に配置されかつ下部の開口部を覆っている不織ガラス繊維のフリースを含有する。核酸を含有する吸着溶液が、カラムへ移され、力を加えることによってフリースを通過させられる。用語「力」は、重力、および好ましくは、遠心力を含む。非常に好ましいのは、遠心分離によって適用される力に起因して吸着溶液がフィルターを通過させられる「スピンカラム」手順である。吸着溶液をフリースに通過させる他の方法としては、圧力または吸引の適用が挙げられる。
次いで、吸着された核酸を含む固相は、少なくとも1回、洗浄溶液で洗浄され得る。洗浄工程は任意である。標的成分を材料表面から放出させないが望ましくない汚染物質を出来る限り徹底的に洗い流す洗浄溶液が使用される。この洗浄工程は、好ましくは、結合された標的核酸を有する材料を洗浄溶液と共にインキュベートすることによって行われる。材料は、好ましくは、この工程の間に再懸濁される。また好ましくは、材料がカラム中のパッキングまたはガラスフリースである場合、洗浄工程は、洗浄溶液でカラムをリンスすることによって行われる。好ましくは、洗浄溶液は、圧力、吸引、遠心力または重力を適用することによってカラムを通過させられる。好適な洗浄溶液は、当業者に公知であり、塩、カオトロピック物質および/またはアルコール等の有機溶媒を含有し得る。汚染された洗浄溶液は、好ましくは、核酸を固相へ吸着させるために上述の工程においてそのままで(just as)除去される。最後の洗浄工程後、吸着された核酸を有する固相の分離された材料は、真空中において短時間乾燥され得、または流体が蒸発され得る。アセトンを使用する前処理工程もまた行われ得る。
その後、条件は、核酸を固相から放出させるように変化される。この工程はまた、核酸を「溶出する」ともいう。固定化された生物学的材料を有する固相は、無いかもしくはほんの少量のカオトロピック剤および/または有機溶媒および/またはイオン性液体を含む水溶液と接触される。または、懸濁液は、無いかもしくはほんの少量のカオトロピック剤および/または有機溶媒および/またはイオン性液体を含む溶液で希釈され得る。この性質の緩衝液は、たとえばDE 37 24 442およびJakobi, R., et al., Anal. Biochem. 175 (1988) 196-201から、当業者に公知である。低い塩含有量を有する溶出緩衝液は、特に、0.2mol/l未満の含有量を有する緩衝液である。好ましくは、溶出緩衝液は、緩衝化目的のために物質Trisを含有する。また好ましくは、溶出緩衝液は、脱塩水である。精製された核酸を含有する溶液は、ここで、他の反応のために使用され得る。必要に応じて、核酸は、たとえばエタノールまたはイソプロパノールを使用して溶液から析出され得る。析出物はまた、さらなる洗浄工程へ供され得る。この種の方法は、当業者に周知であり、Sambrook, J., et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd edition, CSHL Press (2001) Cold Spring Harbor, New Yorkにおいて詳細に記載されている。
さらに、本発明の別の態様は、以下の工程:(a)以下の成分を提供すること:(i.)核酸を可逆的に結合し得る固相;(ii.)核酸を含有するサンプル材料;(iii.)式I[式中、Yは、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、Xは、水素原子、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、非局在化正電荷が、YおよびN、または官能基の全成分に広がる]の有機カチオンを含むイオン性液体を含有する溶液;(iv.)水性緩衝液;(b)核酸を固相へ吸着させるに好適な条件下で提供された成分を接触させること;(c)吸着された核酸を有する固相を溶液から分離すること;(d)固相から核酸を溶出することを含む核酸を精製するための方法である。本発明の好ましい実施形態において、核酸はDNAおよびRNAである。別の好ましい実施形態において、核酸はDNAである。なお別の好ましい実施形態において、核酸はRNAである。非常に好ましくは、工程(b)は酸性条件下で行われる。なおより好ましくは、工程(b)は4〜6.5の間のpHで行われる。さらに、なおより好ましくは、工程(b)は4.5〜6の間のpHで行われる。
さらに驚くべきことに、シリカマトリクスへのRNAの結合は、ブチルメチルイミダゾリウムカチオンの濃度に依存して制御され得ることが見出された。これを、酵母RNAについて図4に示す。低いブチルメチルイミダゾリウム濃度で、即ち、1〜2Mで、ほんの少量の酵母RNAが、シリカマトリクスへ吸着される。高濃度、たとえば3Mのブチルメチルイミダゾリウムで、シリカマトリクスへの酵母RNAの吸着は増強される。
本発明の別の実施形態は、イオン性液体の濃度が1M〜3Mの間であることを特徴とする、RNAを固相へ吸着させるためのテトラフルオロホウ酸ブチルメチルイミダゾリウムの使用である。この濃度範囲は、固相へのRNAの吸着を促進させるために特に適しており、一方、より低い濃度ではRNAがより低い程度に結合されることが見出された(図4を参照のこと)。従って、本発明の非常に好ましい実施形態は、方法が、(a)以下の成分を提供すること:(i.)核酸を可逆的に結合し得る固相;(ii.)リボ核酸を含有するサンプル材料;(iii.)1M〜3Mの間の濃度でブチルメチルイミダゾリウムカチオンを含有する溶液;および(b)リボ核酸を固相へ吸着させるに好適な条件下で提供された成分を接触させることを含むことを特徴とする、RNAを固相へ吸着させるための方法である。非常に好ましくは、工程(b)は酸性条件下で行われる。なおより好ましくは、工程(b)はpH4〜pH6.5の間で行われる。さらに、なおより好ましくは、工程(b)はpH4.5〜pH6の間で行われる。最も好ましくは、工程(b)はpH6で行われる。
本発明はまた、キットを意図する。当該分野において公知のこのようなキットは、サンプル調製手順において有用なプラスチックウェアを含む。それについての例は、96〜384ウェルフォーマットのマイクロウェルプレート、またはたとえばドイツ、ハンブルグのエッペンドルフ社によって製造される通常の反応管である。本発明のキットはまた、本発明による方法を行うためのいくつかのまたは全ての他の試薬を含む。従って、キットは、固相、即ち、核酸への親和性を有する材料をさらに含み得る。好ましくは、固相は、シリカ表面を有する材料を含む。非常に好ましくは、固相は、ガラスまたは石英繊維を含む。また非常に好ましくは、固相は、磁気ガラス粒子、即ち、ガラスでコーティングされた磁気的に引き付け可能な粒子を含む組成物である。キットは、さらにまたは加えて、たとえばカオトロピック剤、界面活性剤またはそれらの混合物を含有する溶解緩衝液を含み得る。本発明によるキットのこれらの成分は、チューブまたは保存容器中に別個に提供され得る。成分の性質に依存して、これらは、単一のチューブまたは保存容器中に提供されてもよい。キットは、さらにまたは追加的に、DNAまたはRNAまたは両方が結合される固相の洗浄工程に好適である洗浄溶液を含み得る。この洗浄溶液は、酸性pHを有する緩衝溶液中のカオトロピック剤および/または本発明によるイオン性液体を含有し得る。しばしば、洗浄溶液または他の溶液は、使用前に希釈されなければならないストック溶液として提供される。キットは、さらにまたは追加的に、脱着溶液、即ち、溶出緩衝液、即ち、固相から核酸を脱着させるための溶液を含み得る。好ましい脱着溶液は、緩衝液(たとえば、10mMのTris、1mMのEDTA、pH8.0)または純水であり得る。さらに、核酸、即ちDNAMまたはRNAの精製プロセスに使用され得る追加の試薬または緩衝溶液が存在し得る。従って、本発明の別の態様は、キットが、(a)核酸を可逆的に結合し得る固相;(b)式I[式中、Yは、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、Xは、水素原子、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、非局在化正電荷が、YおよびN、または官能基の全成分に広がる]の有機カチオンを含むイオン性液体を含むことを特徴とする、核酸含有材料から核酸を単離するためのキットである。
また驚くべきことに、塩化マグネシウム(II)およびイミダゾールの添加がまた、グアニジニウム塩酸塩等のグアニジニウムによって媒介される核酸結合を改善し得ることが見出された。結合増強剤としてのイミダゾールの詳細な利点は、それがサンプル溶液のpH値を調節するための緩衝塩として同時に使用され得ることである。従って、本発明のさらなる態様は、組成物が、(a)グアニジニウム塩および/または式I[式中、Yは、炭素原子および窒素原子からなる群から選択され、Xは、水素原子、炭素原子および窒素原子からなる群から選択される]の有機カチオンを含むイオン性液体、ならびに(b)塩化マグネシウム(II)およびイミダゾールからなる群から選択される化合物を含むことを特徴とする、核酸を固相へ吸着させるための液体組成物である。本発明はまた、核酸吸着溶液から固相へ核酸を吸着させるための塩化マグネシウム(II)の使用を含む。本発明は、さらに、核酸を含む吸着溶液から固相へ核酸を吸着させるためのイミダゾールの使用を含む。さらに、本発明は、方法が、以下の工程:(a)以下の成分を提供すること:(i)核酸を可逆的に結合し得る固相;(ii)核酸を含有するサンプル材料;(iii)塩化マグネシウム(II)およびイミダゾールからなる群から選択される化合物を含有する吸着溶液;(b)核酸を固相へ吸着させるに好適な条件下で提供された成分を接触させること;(c)吸着された核酸を有する固相を溶液から分離すること;(d)固相から核酸を溶出することを含むことを特徴とする、核酸を単離するための方法を含む。
以下の実施例、参考文献、および図は、本発明、添付の特許請求の範囲に記載されるその真の範囲の理解を助けるために提供される。本発明の精神を逸脱することなしに、修飾が記載の手順において行われ得ることが理解される。
実施例1
種々の条件下での種々の核酸サンプルの結合の比較
ニシン精子DNA(Roche Applied Science, Roche Diagnostics GmbH, Mannheim、Cat.No.10223646)を、120μgDNA/500μlの濃度で各実験において使用した。
ウシ胸腺DNA(Roche Applied Science, Roche Diagnostics GmbH Mannheim、Id No.10041785)を50μgまたは100μgDNA/500μlのいずれかで使用した。
従来技術を使用してパン酵母から単離したRNAを、79μgRNA/500μlの濃度で各実験において使用した。
スピンフィルターカラム、例えばHIGH PURE(登録商標)カラム(例えば、Roche Applied Science、Cat.No.11796828;Roche Diagnostics GmbH Mannheim)は、A型またはB型ガラスフリースのいずれかを含有した。DNAまたはRNAを、実施例2〜5に示される水性緩衝液中に溶解し、そしてそれぞれの溶液500μlをスピンカラム上にロードした。各カラムをサンプル管へ結合した。8,000r.p.m.でマイクロ遠心分離機[Eppendorf 5415C]において1分間遠心分離した後、サンプルを各流れ(flow-through)から取った。水による1:5希釈後、260nm波長での吸光度(extinction)の差異を測定することによって、核酸濃度を測定した。コントロールとして、対応の「ローディング溶液」、即ち、スピンカラム上にロードした核酸溶液を用いて、同一の測定を行った。ローディング前後での濃度差異を、それぞれの固相へ結合された核酸についての定量的尺度として測定した。
実施例2
2つの異なるスピンカラムのガラスフリースへのニシン精子DNAの吸着
ニシン精子DNAを表1に記載の緩衝液へ添加した。
Figure 0005325448
各溶液500μlをスピンカラム上にロードした。実施例1に記載されるようにさらなる工程を行った。結果を図1に示す。
実施例3
種々の条件下でのガラスフリースへの50μgウシ胸腺DNAの吸着
ウシ胸腺DNAを、50μgDNA/500μl緩衝液の濃度で使用した。DNAを表2に示す緩衝液へ添加した。
Figure 0005325448
各溶液500μlをスピンカラム上にロードした。実施例1に記載されるようにさらなる工程を行った。結果を図2に示す。
実施例4
種々の条件下でのガラスフリースへの100μgウシ胸腺DNAの吸着
ウシ胸腺DNAを、100μgDNA/500μl緩衝液の濃度で使用した。DNAを表3に示す緩衝液へ添加した。
Figure 0005325448
各溶液500μlをスピンカラム上にロードした。実施例1に記載されるようにさらなる工程を行った。結果を図3に示す。
実施例5
種々の条件下でのガラスフリースへのRNAの吸着
RNA(実施例1を参照のこと)を、79μgRNA/500μl緩衝液の濃度で使用した。RNAを表4に示す緩衝液へ添加した。
Figure 0005325448
各溶液500μlをスピンカラム上にロードした。実施例1に記載されるようにさらなる工程を行った。結果を図4に示す。
実施例6
磁気的に引き付け可能なガラス粒子への50μgウシ胸腺DNAの吸着
MagNA Pure LC DNA単離キット−大量−Roche Applied Science, Roche Diagnostics GmbH Mannheim製、Cat.No.03310515からの磁気粒子を使用した。粒子をイソプロパノール中に懸濁した(60mg/ml)。
ウシ胸腺DNAを、50μgDNA/500μl緩衝液の濃度で使用した。DNAを表5に示す緩衝液へ添加した。室温で30秒間、各サンプルを100μlの前記粒子懸濁液と混合した。
引き続いて、粒子を磁場によって固定化し、そして液相から分離した。粒子を、5MグアニジニウムHCl、38%[v/v]エタノール、20mM Tris HCl(pH6.6)からなる第1水性洗浄緩衝液500μlで1回、そして100mM NaCl、50%[v/v]エタノール、10mM Tris HCl(pH7.4)からなる第2水性洗浄緩衝液500μlで2回洗浄した。磁場を取り除き続いてそれぞれの洗浄緩衝液中に粒子を懸濁させることによって、各洗浄を行った。洗浄緩衝液を除去するために、粒子を磁場によって再度固定化し、そして液相から分離した。
最後の洗浄工程後、500μl溶出緩衝液(水中10mM Tris HCl、pH8)を粒子へ添加しそして力強く混合することにより溶出緩衝液中で粒子を撹拌することによって、吸着されたDNAを粒子から溶出した。引き続いて、粒子を遠心分離によって沈殿させ、そしてDNA含有上澄みを回収した。
上澄み中のDNAの光度測定のために、サンプル(100μl)を各溶出液から取り、そして1:10希釈を水で行い、そして260nm波長での吸光度を測定することによって核酸濃度を測定した。
表5は、各実験において使用した吸着緩衝液の組成ならびに粒子から溶出されたDNAの量(μg)を示す。
Figure 0005325448
実施例7
ガラスフリースへの種々の量のウシ胸腺DNAの吸着
ウシ胸腺DNAを含有する溶液を実施例1に従って調製した。イオン性液体またはチオシアン酸グアニジニウムの存在下でガラスフリース上へDNAを吸着させた。試験した物質を表6に列挙する。MES、Trisまたは酢酸緩衝液(10〜50mM)を使用して、各吸着溶液をpH6のpH値へ緩衝化した。スピンカラム、例えばHIGHPURE(登録商標)スピンカラムのガラスフリースに吸着溶液を通過させることによって、吸着を行った。25μg、50μgおよび100μgの量を適用した。
(a)スピンカラムへ吸着溶液を適用する前、および(b)吸着溶液をガラスフリースに通過させた後のフロースルー中において、DNAを分光測光法によって定量した。
吸着溶液中のDNAの濃度を、PICO GREENアッセイ(Invitrogen、Cat.No.P7589)を使用して吸着工程前に測定した。さらに、PICO GREENアッセイを使用して、ガラスフリースに通過させた後(即ち:吸着工程後)の各吸着緩衝液中に残存するDNA濃度を測定した。これらの測定結果を使用して、固相へ結合されたDNAの相対量を各吸着溶液について測定した。
さらに、溶出液中のDNA濃度を、しかし260nmでの光度測定を使用して測定した。
カラムへ最初に適用した核酸濃度からフロースルー中(即ち、吸着後)の核酸濃度を引くことによって、固相へ吸着された核酸の量を測定した。
Figure 0005325448
より高い濃度(2M、3M、および4M)の表に示されるイオン性液体は同程度の結果を生じせたことが、さらに観察された。
2つの異なるタイプのガラスフリースへのニシン精子DNAの並列吸着:白棒で示されるA型、および黒棒で示されるB型。縦軸は、ガラスフリースの表面へ吸着されたDNAの量を示す。対のバーは番号付けされており、そして実施例2の表1に記載のそれぞれの吸着緩衝液に対応する。 スピンカラムへの種々の条件下でのウシ胸腺DNAの結合:(a)白棒によって示される、Roche Applied Science, Roche Diagnostics GmbH Mannheim、Cat.No.11796828によるキットのスピンカラム中に提供されたガラスフリース;(b)黒棒によって示される、Macherey & Nagel(Cat.No.740951.50、Lot:407/001)によるキットのスピンカラム中に提供されたガラスフリース。縦軸は、カラムへ吸着されたDNAの量を示す。対のバーは番号付けされており、そして実施例3の表2に記載のそれぞれの吸着緩衝液に対応する。 スピンカラムへの種々の条件下でのウシ胸腺DNAの結合:(a)白棒によって示される、Roche Applied Science, Roche Diagnostics GmbH Mannheim、Cat.No.11796828によるキットのスピンカラム中に提供されたガラスフリース;(b)黒棒によって示される、Macherey & Nagel (Cat.No.740951.50、Lot:407/001)によるキットのスピンカラム中に提供されたガラスフリース。縦軸は、カラムから溶出された、吸着されたDNAの量を示す。対のバーは番号付けされており、そして実施例4の表3に記載のそれぞれの吸着緩衝液に対応する。 スピンカラムへの種々の条件下での酵母RNAの結合:(a)白棒によって示される、Roche Applied Science, Roche Diagnostics GmbH Mannheim、Cat.No.11796828によるキットのスピンカラム中に提供されたガラスフリース;(b)黒棒によって示される、Macherey & Nagel (Cat.No.740951.50、Lot:407/001)によるキットのスピンカラム中に提供されたガラスフリース。縦軸は、カラムから溶出された、吸着されたRNAの量を示す。対のバーは番号付けされており、そして実施例5の表4に記載のそれぞれの吸着緩衝液に対応する。 (A)N−1−(2−メトキシエチル)−グアニジニウムヒドロクロリド;(B)N−(1−ブチル)−グアニジニウム−ヒドロクロリド;(C)1−ブチル−3−メチル−イミダゾリウムテトラフルオロボレート;(D)3−メチル−1−[4−(3−メチル−3−H−ベンズイミダゾール−1−イウム)−ブト−1−イル]−3H−ベンズイミダゾリウム−ジ(トルイルスルファト)の構造。

Claims (1)

  1. RNAを固相へ吸着させるための方法であって、
    a)以下の成分を提供すること:
    i.核酸を可逆的に結合し得るシリカ基体である固相;
    ii.前記リボ核酸を含有するサンプル材料;
    iii.1M〜3Mの間の濃度でブチルメチルイミダゾリウムカチオンを含有する溶液;および
    b)前記リボ核酸を前記固相へ吸着させるのに好適な条件下で提供された成分を接触させること、
    を含むことを特徴とする方法。
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