以下、本発明の一実施の形態における角速度センサについて、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の一実施の形態における角速度センサの回路図である。
図1において、30はセンサ素子で、このセンサ素子30は振動体31と、この振動体31を振動させるための圧電体を有する駆動電極32と、振動状態に応じて電荷を発生する圧電体を有するモニタ電極33と、前記センサ素子30に角速度が印加されると電荷を発生する圧電体を有する一対のセンス電極とを設けている。また、前記センサ素子30における一対のセンス電極は、第1のセンス電極34と、この第1のセンス電極34と逆極性の電荷を発生する第2のセンス電極35とで構成されている。41はドライブ回路で、このドライブ回路41は入力切替手段42と、DA変換手段43、積分手段44、比較手段45、デジタルフィルタからなるフィルタ回路46、AGC回路47および駆動回路48とで構成されている。また、前記ドライブ回路41における入力切替手段42は、振動体31におけるモニタ電極33と接続され、そして、第2のタイミングΦ2で動作するアナログスイッチで構成されているものである。そしてまた、前記ドライブ回路41におけるDA切替手段49は、第1の基準電圧50および第2の基準電圧51を有し、そしてこの第1の基準電圧50と第2の基準電圧51を第2のタイミングΦ2で所定の信号により切り替えている。さらに、前記ドライブ回路41にはDA出力手段52を設けており、このDA出力手段52は前記DA切替手段49の出力信号が入力されるコンデンサ53と、このコンデンサ53の両端に接続され、かつ前記第1のタイミングΦ1で動作してコンデンサ53の電荷を放電するSW54,55とで構成されている。そして、前記DA切替手段49とDA出力手段52とでDA変換手段43を構成し、かつこのDA変換手段43は第1のタイミングΦ1で前記コンデンサ53の電荷を放電し、さらに前記第2のタイミングΦ2で前記DA切替手段49が出力する基準電圧に応じた電荷を入出力するものである。56はSWで、このSW56には前記入力切替手段42とDA変換手段43の出力が入力され、そして、このSW56は前記第2のタイミングΦ2で出力するものである。
44は積分手段で、この積分手段44には前記SW56の出力が入力されるもので、演算増幅器57と、この演算増幅器57の帰還に接続されるコンデンサ58とにより構成されている。そして、第2のタイミングΦ2で動作し、前記積分手段44への入力信号がコンデンサ58により積分されるものである。45は比較手段で、この比較手段45には前記積分手段44が出力する積分信号が入力され、そして、この比較手段45はこの積分信号と所定の値とを比較する比較器59と、この比較器59が出力する1ビットデジタル信号が入力されるD型フリップフロップ60とにより構成されている。また、前記D型フリップフロップ60は前記第1のタイミングΦ1の開始時に前記1ビットデジタル信号をラッチしてラッチ信号を出力するものであり、このラッチ信号は、前記DA変換手段43のDA切替手段49に入力されて、第1の基準電圧50と第2の基準電圧51とを切り替えるものである。そして、前記入力切替手段42、DA変換手段43、積分手段44および比較手段45によりΣΔ変調器からなるAD変換器61を構成している。
また、前記AD変換器61の出力するパルス密度変調記号はフィルタ回路46に入力され、前記振動体31の共振周波数の信号を抽出し、ノイズ成分を除去したマルチビット信号を出力する。そして、このマルチビット信号をAGC回路47に設けた半波整流フィルタ回路(図示せず)に入力することにより、振幅情報信号に変換する。そしてAGC回路47はこの振幅情報信号が大の場合には前記フィルタ回路46の出力マルチビット信号を減衰させた信号を、一方、前記振幅情報信号が小の場合には前記フィルタ回路46の出力マルチビット信号を増幅させた信号を駆動回路48に入力し、前記振動体31の振動が一定振幅となるように調整するものである。
前記駆動回路48は、2値を保持しているデジタル値出力手段62と、AGC回路47からの出力信号と前記デジタル値出力手段62の出力を加算し積分する加積分演算手段63と、この加積分演算手段63からの出力を比較定数値64と比較する値比較手段65と、この値比較手段65の出力に応じて前記デジタル値出力手段62の出力するデジタル値を切り替える値切替手段66と、前記値比較手段65の出力を所定のタイミングでラッチするフリップフロップ67とにより構成されるデジタルΣΔ変調器68を有している。前記デジタルΣΔ変調器68により前記AGC回路47が出力するマルチビット信号は1ビットのパルス密度変調信号に変調されて出力され、かつこのパルス密度変調信号はアナログフィルタ69に入力され、さらにセンサ素子30を駆動するのに有害な周波数成分はフィルタリングされて、センサ素子30に出力される。
71はタイミング制御回路で、このタイミング制御回路71は前記ドライブ回路41におけるフィルタ回路46が出力するマルチビット信号を入力し、第1のタイミングΦ1、第2のタイミングΦ2のタイミング信号を生成してドライブ回路41に、また第3のタイミングΦ3、第4のタイミングΦ4、第5のタイミングΦ5、第6のタイミングΦ6のタイミング信号をセンス回路81に出力するものである。
なお、上記タイミング制御回路71の内部構成については後述する。
前記センス回路81はΣΔ変調器からなるAD変換器82および演算手段83により構成されている。84は入力切替手段で、この入力切替手段84は前記センサ素子30における第1のセンス電極34と接続され前記第4のタイミングΦ4で動作するアナログスイッチ85(以下、SWと記す)、第2のセンス電極35と接続され前記第6のタイミングΦ6で動作するアナログスイッチ86とで構成されている。この構成により、入力切替手段84は、第1のセンス電極34または第2のセンス電極35からの入力信号を第4のタイミングΦ4または第6のタイミングΦ6で切り替えて出力することになる。87はDA切替手段で、このDA切替手段87は、第1の基準電圧88および第2の基準電圧89を有し、そしてこの第1の基準電圧88と第2の基準電圧89を所定の信号により切り替えるものである。90はDA出力手段で、このDA出力手段90は前記DA切替手段87の出力信号が入力されるコンデンサ91と、このコンデンサ91の両端に接続され、かつ前記第3のタイミングΦ3と第5のタイミングΦ5で動作してコンデンサ91の電荷を放電するSW92,93により構成されている。そして、前記DA切替手段87とDA出力手段90とでDA変換手段94を構成し、かつこのDA変換手段94は第3のタイミングΦ3と第5のタイミングΦ5で前記コンデンサ91の電荷を放電し、さらに前記第4のタイミングΦ4と第6のタイミングΦ6で前記DA切替手段87が出力する基準電圧に応じた電荷を入出力するものである。
95はSWで、このSW95には前記入力切替手段84とDA変換手段94の出力が入力され、前記第4のタイミングΦ4と第6のタイミングΦ6で出力するものである。96は積分回路で、この積分回路96には前記SW95の出力が入力されるものであり、そして、この積分回路96は演算増幅器97と、この演算増幅器97の帰還に並列に接続される一対のコンデンサ98,99と、このコンデンサ98,99に接続される一対のSW100,101とにより構成されている。また、SW100は第3のタイミングΦ3と第4のタイミングΦ4で動作し、前記積分回路96への入力信号がコンデンサ98に積分されて積分値が保持されることになる。そしてまた、SW101は前記第5のタイミングΦ5と第6のタイミングΦ6で動作し、前記積分回路96への入力信号がコンデンサ99に積分されて積分値が保持されることになる。SW95と積分回路96により積分手段102を構成している。
103は比較手段で、この比較手段103には前記積分手段102が出力する積分信号が入力され、そして、この比較手段103はこの積分信号と所定の値とを比較する比較器104と、この比較器104が出力する1ビットデジタル信号が入力されるD型フリップフロップ105とで構成されている。また、前記D型フリップフロップ105は前記第4のタイミングΦ4と第6のタイミングΦ6の開始時に前記1ビットデジタル信号をラッチしてラッチ信号を出力するものであり、このラッチ信号は、前記DA変換手段94のDA切替手段87に入力されて基準電圧88,89を切り替えるものである。そして、前記入力切替手段84、DA変換手段94、積分手段102および比較手段103によりAD変換器82を構成している。
またこのAD変換器82は上記構成により、前記センサ素子30における第1のセンス電極34および第2のセンス電極35より出力される電荷をΣΔ変調し、1ビットデジタル信号に変換して出力するものである。
106はラッチ回路で、このラッチ回路106には前記AD変換器82の比較手段103における比較器104より出力される1ビットデジタル信号が入力され、かつ前記1ビットデジタル信号をラッチする一対のD型フリップフロップ107,108により構成されている。また、D型フリップフロップ107は第4のタイミングΦ4で前記1ビットデジタル信号をラッチするものであり、D型フリップフロップ108は第6のタイミングΦ6で前記1ビットデジタル信号をラッチするものである。109は差分演算手段で、この差分演算手段109は前記ラッチ回路106における一対のD型フリップフロップ107,108がラッチして出力する一対の1ビットデジタル信号が入力され、そしてこの一対の1ビットデジタル信号の差を演算する1ビット差分演算を置換処理により実現するものである。つまり、差分演算手段109に入力される一対の1ビットデジタル信号が、“00”“01”“10”“11”である時、それぞれ“0”“−1”“1”“0”と置き換えて出力する構成となっている。110は補正演算手段で、この補正演算手段110には前記差分演算手段109が出力する1ビット差分信号が入力され、この1ビット差分信号と所定の補正情報との補正演算を置換処理により実現するものであり、つまり、上記したように補正演算手段110に入力される1ビット差分信号が“0”“1”“−1”であり、例えば、補正情報が“5”である場合にはそれぞれ“0”“5”“−5”と置き換えて出力する構成となっている。111はデジタルフィルタからなるフィルタ回路で、このフィルタ回路111には前記補正演算手段110より出力されるデジタル差分信号が入力され、ノイズ成分を除去するフィルタリング処理を行うものである。そして、前記ラッチ回路106、差分演算手段109、補正演算手段110およびフィルタ回路111により演算手段83を構成している。また、この演算手段83は、第4、第6のタイミングで一対の1ビットデジタル信号をラッチして、差分演算、補正演算、フィルタリング処理を行い、マルチビット信号を出力している。
そして、タイミング制御回路71は、PLL回路121と、タイミング生成回路122,123と、振幅判定回路124とで構成されている。
前記PLL回路121は、前記ドライブ回路41におけるフィルタ回路46が出力するマルチビット信号の周波数を逓倍し、位相ノイズを時間的に積分し低減して、タイミング生成回路122,123に信号を出力するものである。位相監視手段126には、フィルタ回路46が出力するマルチビット信号を波形整形した矩形波信号と分周器126aの出力信号が入力される。そして、分周器126aによる第2のタイミング信号は後述する電圧制御発振器129による第1のタイミング信号を分周した同期信号であり、第2のタイミング信号のタイミングでの、AD変換器であるドライブ回路41の出力値それ自体が、第2のタイミング信号の正弦波信号の中央値、つまりゼロ点との位相ズレ量に応じた値となる。位相監視手段126から出力される信号は位相補正回路126bを介してループフィルタからなるフィルタ回路127に入力され、そしてこのフィルタ回路127は交流成分の少ない直流信号に変換するもので、このフィルタ回路127の出力信号と定電圧値とがタイミング切替手段128に入力される。そしてまた、このタイミング切替手段128の一方は、前述したように、フィルタ回路127に接続されるとともに、他方は定電圧出力器と電気的に接続されている。
また、前記振幅判定回路124にはフィルタ回路46から出力されるマルチビット信号が入力される。そして、この振幅判定回路124はフィルタ回路46から出力されるマルチビット信号の振幅情報を監視しており、この振幅情報が目標振幅以上である場合には、タイミング切替手段128はフィルタ回路127の出力信号を選択するように、一方、フィルタ回路46から出力されるマルチビット信号の振幅情報が目標振幅以下である場合には、タイミング切替手段128は定電圧値を選択するように切り替えている。
前記タイミング切替手段128の出力電圧は電圧制御発振器129に入力される。この電圧制御発振器129は入力電圧に応じた周波数信号を発振する可変周波数発振器であり、この電圧制御発振器129より出力される発振信号は、分周器126aと、タイミング生成回路122,123に入力される。また、前記PLL回路121における位相監視手段126の出力信号はジッタキャンセル値算出回路130に接続されている。そして、このジッタキャンセル値算出回路130の出力信号は、センス回路81における補正演算手段110に入力されている。
前記タイミング生成回路122は前記PLL回路121から出力される信号をもとに、第1のタイミングΦ1、第2のタイミングΦ2のタイミング信号を生成してドライブ回路41に出力するものであり、またタイミング生成回路123はモニタ信号の2周期間を第3のタイミングΦ3、第4のタイミングΦ4、第5のタイミングΦ5、第6のタイミングΦ6に分割してこのタイミング信号を生成してセンス回路81に出力するものである。
以上のようにして構成された本発明の一実施の形態における角速度センサについて、次にその動作を説明する。
前記センサ素子30の駆動電極32に駆動信号を加えると、振動体31が共振し、モニタ電極33に電荷が発生する。このモニタ電極33に発生した電荷はドライブ回路41におけるAD変換器61に入力され、パルス密度変調信号へと変換される。そしてこのパルス密度変調信号はフィルタ回路46に入力され、前記振動体31の共振周波数を抽出し、ノイズ成分を除去したマルチビット信号を出力する。
この場合におけるAD変換器61の動作を以下に説明する。このAD変換器61はタイミング制御回路71より出力されるモニタ信号に同期したタイミングである第1のタイミングΦ1、第2のタイミングΦ2を繰り返すことによって動作するもので、第1のタイミングΦ1ではセンサ素子30におけるモニタ電極33から出力される信号がΣΔ変調されて1ビットデジタル信号に変換される。
上記した2つのタイミングでの動作をひとつずつ説明する。まず第1のタイミングΦ1では、積分手段44におけるコンデンサ58に保持されている積分値を比較する前記比較手段45の比較器59に入力し、この比較器59より出力される1ビットデジタル信号が、第1のタイミングΦ1の立ち上がり時にD型フリップフロップ60にラッチされ、このラッチ信号が前記DA変換手段43のDA切替手段49に入力される。また、DA出力手段52におけるSW54とSW55がONになって、コンデンサ53に保持されている電荷が放電される。
次に第2のタイミングΦ2では、前記DA切替手段49に入力されたラッチ信号に応じて第1の基準電圧50および第2の基準電圧51が切り替えられてコンデンサ53に入力され、かつDA変換手段43より切り替えられた基準電圧に応じた電荷が出力される。また、入力切替手段42がONになり、前記センサ素子30のモニタ電極33より発生する電荷が入力される。さらに、積分手段44におけるSW56がONになり、前記入力切替手段42とDA変換手段43から出力される電荷が積分手段44に入力される。これにより第2のタイミングΦ2では、積分手段44におけるコンデンサ58に、図2(a)の斜線部で示される電荷量とDA変換手段43より出力される電荷量の総和が積分されて保持されることになる。
上記した第1のタイミングΦ1および第2のタイミングΦ2での以上の動作によりセンサ素子30のモニタ電極33から出力される振幅値に相当する電荷量がΣΔ変調され、第1のタイミングΦ1の信号の立ち上がり時に1ビットデジタル信号として出力されることになる。
以上の動作により、センサ素子30におけるモニタ電極33から出力される電荷量がAD変換器61によりΣΔ変調されて1ビットデジタル信号として上記タイミングで出力されることになる。
そしてまた、前記ドライブ回路41におけるフィルタ回路46より出力される図2(b)に示すマルチビット信号をAGC回路47に設けた半波整流フィルタ回路(図示せず)に入力することにより、振幅情報信号に変換する。また、このAGC回路47は振幅情報信号が大の場合には前記フィルタ回路46の出力マルチビット信号を減衰させた信号を、一方、前記振幅情報信号が小の場合には前記フィルタ回路46の出力するマルチビット信号を増幅させた信号を駆動回路48に入力し、前記振動体31の振動が一定振幅となるように調整するものである。
前記デジタルΣΔ変調器68の加積分演算手段63には、前記AGC回路47から出力されるマルチビット信号と、所定の2値を保持してデジタル値出力手段62のどちらかの値を出力する値切替手段66より出力される定数値が入力され、加算して積分される。この加積分演算手段63から出力される積分値は比較定数値64と値比較手段65により比較されて比較結果が出力される。そして、この比較結果がフリップフロップ67により所定のタイミングでラッチされて出力される。このフリップフロップ67の出力により値切替手段66より出力される定数値が切り替えられることになる。この時、加積分演算手段63の出力値が比較定数値64より小さい場合には、デジタル値出力手段62の2値のうちの大きい方の値が、逆の場合には小さい方の値が選択されて出力されるように動作する。この動作を繰り返すことによりフリップフロップ67より、前記AGC回路47が出力するマルチビット信号が、1ビットのパルス密度変調信号に変調されて出力されることになる。ここで、デジタルΣΔ変調器68に入力される信号が例えば、10bit(=±9bit)である場合、比較定数値64を“0”、デジタル値出力手段62の2値を“511”“−511”以上とすることが望ましい。
なお、ΣΔ変調ではオーバーサンプリングを行い、その量子化ノイズが高域にノイズシェーピングされるため、高周波成分のノイズ成分を含むが、センサ素子30の応答がそのような高周波に応答できないため、パルス密度変調信号のサンプリング周波数でなく、オーバーサンプリングされた所定の周波数成分で振動することになる。また、センサ素子30の高周波での応答ゲインが高くて、このような高周波成分のノイズが問題になる場合には、デジタルΣΔ変調器68の出力信号のうち問題となる周波数成分を低減するように設定されたアナログフィルタ69を追加することによって、さらに低ノイズで、高精度のドライブ回路41を実現することが可能となるものである。
また、前記センサ素子30が図1に図示している駆動方向に速度Vで屈曲振動している状態において、振動体31の長手方向の中心軸周りにセンサ素子30が角速度ωで回転すると、このセンサ素子30にF=2mV×ωのコリオリ力が発生する。このコリオリ力により前記センサ素子30が有する一対のセンス電極34,35に、図3(a)および図3(b)に示すように電荷が発生する。そしてこのセンス電極34,35に発生する電荷はコリオリ力により発生するため、前記モニタ電極33に発生する信号より位相が90度進んでいる。そしてまた、前記一対のセンス電極34,35に発生した出力信号は図3(a)および図3(b)に示す通り、正極性信号と負極性信号の関係にある。
この場合におけるAD変換器82の動作を以下に説明する。このAD変換器82は第3のタイミングΦ3、第4のタイミングΦ4、第5のタイミングΦ5および第6のタイミングΦ6を繰り返すことによって動作するもので、第3のタイミングΦ3および第4のタイミングΦ4ではセンサ素子30におけるセンス電極34から出力される正極性信号がΣΔ変調されて1ビットデジタル信号に変換され、また第5のタイミングΦ5および第6のタイミングΦ6では負極性信号がΣΔ変調されて1ビットデジタル信号に変換される。
上記した4つのタイミングでの動作をひとつずつ説明する。まず第3のタイミングΦ3では、積分手段102におけるコンデンサ98と接続されているSW100がONになり、このコンデンサ98に保持されている積分値が比較手段103における比較器104に入力され比較結果が1ビットデジタル信号として出力される。また、DA出力手段90におけるSW92と93がONになりコンデンサ91に保持されている電荷が放電される。
次に第4のタイミングΦ4では、前記比較手段103の比較器104より出力される1ビットデジタル信号が第4のタイミングΦ4の立ち上がり時にD型フリップフロップ105にラッチされ、このラッチ信号が前記DA変換手段94のDA切替手段87に入力される。この入力されたラッチ信号に応じて基準電圧88,89が切り替えられてコンデンサ91に入力され、DA変換手段94より切り替えられた基準電圧に応じた電荷が出力される。それとともに、入力切替手段84ではSW85がONになり、前記センサ素子30の第1のセンス電極34より発生する電荷が出力される。さらに、積分手段102におけるSW95がONになり、前記入力切替手段84とDA変換手段94から出力される電荷が積分回路96に入力される。これにより第4のタイミングΦ4では、積分回路96におけるコンデンサ98に、図3(a)の斜線部で示される電荷量とDA変換手段94より出力される電荷量の総和が積分されて保持されることになる。
上記した第3のタイミングΦ3および第4のタイミングΦ4での以上の動作によりセンサ素子30の第1のセンス電極34から出力される振幅値の半分に相当する電荷量がΣΔ変調されることになる。
また、第3のタイミングΦ3および第4のタイミングΦ4での動作と同様に、第5のタイミングΦ5および第6のタイミングΦ6では、センサ素子30の第2のセンス電極35から出力される振幅値の半分に相当する電荷量がΣΔ変調される。
以上の動作により、センサ素子30における一対のセンス電極34,35から出力される電荷の振幅幅の半分に相当する電荷量が一つのAD変換器82によりΣΔ変調されて一対の1ビットデジタル信号として上記タイミングで出力されることになる。
そしてまた、センサ素子30における一対のセンス電極34,35から出力される電荷は、角速度によるコリオリ力で発生する、モニタ電極33に発生する信号より位相が90度進んだセンス信号だけでなく、モニタ信号と同相の不要信号があるため、センサ素子30における一対のセンス電極34,35からセンス信号と不要信号の合成信号が出力される場合について説明する。角速度によるコリオリ力で発生するセンス信号は、図3(a)(b)で示され、そして上記で説明した通り、第4のタイミングΦ4と第6のタイミングΦ6で、積分回路96により図3(a)(b)の斜線部で示される電荷量、つまり、振幅値の半分に相当する電荷量が積分されることになる。さらに、センス電極34,35より発生する不要信号は図3(c)(d)で示され、そして前記センス信号と同様に第4のタイミングΦ4と第6のタイミングΦ6で、図3(c)(d)の斜線部で示される電荷量、つまり、不要信号の振幅の最大値から最小値までの区間の電荷量が積分されるもので、これは振幅の中央値を基準に積分するとキャンセルされて“0”の電荷量となるものである。つまり、第4のタイミングΦ4と第6のタイミングΦ6での積分手段102の動作により、不要信号がキャンセルされてセンス信号の振幅に応じた電荷量が積分される、いわゆる同期検波処理が一対の入力信号のそれぞれに対し実施されることになる。よって、上記不要信号のない場合の動作の説明と同様に、前記AD変換器82からは同期検波処理された信号がΣΔ変調され、1ビットデジタル信号に変換されて出力されることになる。
以上の動作により、センサ素子30における一対の出力信号を同期検波処理しながらΣΔ変調することが可能となるもので、このような同期検波された信号のデジタル値を、通常のIV変換回路、位相器、同期検波回路などのアナログ回路を必要とすることなく、またこれらを用いた場合より非常に小さな回路規模で、つまり小型で、かつ低コストで得ることができるものである。
次に、演算手段83について、その動作を説明する。まず、第4のタイミングΦ4で、前記AD変換器82の比較手段103における比較器104より出力される1ビットデジタル信号が、ラッチ回路106のD型フリップフロップ107にラッチされる。また、第6のタイミングΦ6で、前記AD変換器82の比較手段103における比較器104より出力される1ビットデジタル信号が、ラッチ回路106のD型フリップフロップ108にラッチされる。
この一対のD型フリップフロップ107,108にラッチされた一対の1ビットデジタル信号は、上記で説明した通り、センサ素子30における一対のセンス電極34,35より出力された信号の振幅値の半分に相当する電荷量をそれぞれΣΔ変調によりデジタル値に変換したものである。次に、前記ラッチ回路106が出力する一対の1ビットデジタル信号が1ビット差分演算手段109に入力され、この一対の1ビットデジタル信号の差が演算されて1ビット差分信号が出力される。ここで、第3のタイミングΦ3での1ビット差分信号は、一つ前の同期における第4のタイミングΦ4、第6のタイミングΦ6でラッチされた1ビットデジタル信号の差であり、この1ビット差分信号は、図3(a)(b)で示されるセンサ素子30における一対のセンス電極34,35より出力される信号の振幅値を表す記号となる。以上の動作により、センサ素子30における一対のセンス電極34,35から出力される正極性信号と負極性信号の関係にある一対の入力信号が同じ1つの積分手段102を用いて積分されるため、2つの積分回路で別々に積分を行う場合よりも個々の積分回路の特性による一対の入力信号の積分結果の相対誤差への影響が大きく低減されるものである。これと同様に、DA変換手段94も一対の入力信号の信号処理に対し同じ1つのDA変換手段を用いる構成となっている。また、比較手段103でも一対の積分結果を同じ基準電圧と比較器を用いて比較を行うことにより、比較器の特性や基準電圧の変動の比較結果の相対誤差への影響が大きく低減される。上記のように、一対の入力信号を同一の積分回路96、DA変換手段94、比較手段103を用いて信号処理するようにしているため、複数の各手段を用いて信号処理した場合と比べて各手段の相対誤差の影響が大きく低減されるものである。
さらに、一対の入力信号の差をとる1ビット差分演算は、比較手段103の出力信号が“1”“0”からなる1ビット信号である場合、差分演算手段109に入力される一対の比較信号が“00”“01”“10”“11”の4種類に限られ、差をとった結果もそれぞれ“0”“−1”“1”“0”と予め決まっていることを利用して、非常に簡単な回路構成で入力信号に応じた減算処理を行った結果を得ることができる1ビットデジタル演算である。このように、減算処理を行った一対の入力信号を1つの差分信号とした後に、デジタルフィルタからなるフィルタ回路111によるローパスやデシメーション等の信号処理を行う構成とすることにより、一対の入力信号をローパスやデシメーション等で信号処理するデジタルフィルタを入力信号のそれぞれに用意し、そしてデジタルフィルタからなるフィルタ回路によりマルチビット化した後にマルチビットの加減算を行える演算器を用いて差分演算処理する場合に比べて、差分演算手段109、デジタルフィルタからなるフィルタ回路111などの演算回路が非常に小さな回路規模で、つまり小型で、かつ低コストで構成でき、かつ高精度の信号処理を実現できるという効果が得られるものである。
次に、1ビット差分演算手段109が出力する1ビット差分信号が補正演算手段110に入力され、この1ビット差分信号と所定の補正情報との補正演算が置換処理により行われる。この補正演算は、上記したように、1ビット差分信号が“0”“1”“−1”の3値に限られることを利用して、例えば所定の補正情報が“5”である場合に、補正演算手段に入力される1ビット差分信号“0”“1”“−1”を、それぞれ“0”“5”“−5”と置換処理することにより乗算を実現して信号の補正が可能となるものである。
そして、フィルタ回路46が出力するマルチビット信号がタイミング制御回路71における振幅判定回路124と、波形整形した矩形波信号として位相監視手段126とに入力される。この振幅判定回路124はフィルタ回路46から出力されるマルチビット信号の振幅情報を監視しており、この振幅情報が目標振幅の50%以上である場合には、タイミング切替手段128がループフィルタからなるフィルタ回路127の出力信号を選択するように切り替わる。このときPLL回路121は閉ループとなり、音叉駆動周波数のモニタ信号を入力信号として逓倍し、位相ノイズを時間的に積分し低減した信号を出力するため、センサ素子30の固有駆動周波数に同期した信号がタイミング生成回路122,123に入力されることになる。
一方、フィルタ回路46から出力されるマルチビット信号の振幅情報が目標振幅の50%以下である場合には、タイミング切替手段128は定電圧値を選択するように切り替わり、電圧制御発振器129からは定電圧値に応じた固定周波数の信号が出力され、この信号がタイミング生成回路122,123に入力されることになる。
次に、本発明の一実施の形態におけるPLL回路の動作する状態を説明する。
前記AD変換器61に正弦波のアナログ信号を入力すると、前記電圧制御発振器129の出力する第1のタイミング信号のタイミングでサンプリングして入力されたアナログ信号の大きさに応じたデジタル値に変換され、そして、このデジタル値が位相監視手段126に入力される。この時は、例えば、正弦波信号の中央値を“0”とした正負のデジタル信号に変換される。この位相監視手段126からは、第2のタイミング信号のタイミングで入力されたデジタル値を出力することになり、そして、これが位相補正回路126bに入力され、所定の値に補正された後、DA変換器125に入力され、そして、このDA変換器125で入力されたデジタル値に応じたアナログ値に変換されて出力される。また、このアナログ信号は、ループフィルタからなるフィルタ回路127を通して電圧制御発振器129に入力され、そして、入力されたアナログ信号に応じた周波数の信号がこの電圧制御発振器129より出力され、これがAD変換器61のタイミング信号としてフィードバックされることになる。この時、第2のタイミング信号は第1のタイミング信号を分周した同期信号であり、第2のタイミング信号のタイミングでのAD変換器61の出力値それ自体が、第2のタイミング信号の正弦波信号の中央値、つまりゼロ点との位相ズレ量に応じた値となる。すなわち、通常のPLL回路における位相比較器(図示せず)から出力される値と同じ意味をもつことになる。そして、図4に示すように、位相監視手段126の出力するデジタル値が負の場合には電圧制御発振器129の出力する周波数が減少する方向のアナログ信号を、一方、位相監視手段126の出力するデジタル値が正の場合には電圧制御発振器129の出力する周波数が増加する方向のアナログ信号をDA変換器125より出力する。そして、PLL回路のループとしては、このDA変換器125の出力するアナログ信号が一定となるように、つまり第2のタイミング信号のタイミングでのデジタル値が“0”となるようにループ制御がかかることになる。これにより、AD変換器61のサンプリングタイミングが、入力されるアナログ信号の中央値を通るタイミングと同期することになるため、正確にアナログ信号の中央値つまりゼロ点と同期することが可能となるものである。
また、前記位相監視手段126では入力されるデジタル値が、所定の上限値及び下限値を超えるかどうかを監視している。上記第2のタイミング信号が入力されたタイミングにより出力する値を変化させる。具体的には、第2のタイミング信号が入力されてから、入力されたデジタル値が所定の上限値を下回った後に次に所定の下限値を下回り、さらに下限値を上回るまでの期間をフェーズ1とし、そして、フェーズ1の終わりから入力されたデジタル値が所定の上限値を超えるまでをフェーズ2とし、それ以降の次に、上限値を下回るまでをフェーズ3とすると、図5に示すように、フェーズ1で第2のタイミング信号が入力された場合には所定の下限値の信号を出力し、フェーズ2で第2のタイミング信号が入力された場合にはその第2のタイミング信号のタイミングで入力されたデジタル値を出力し、フェーズ3で第2のタイミング信号が入力された場合には所定の上限値の信号を出力することになる。そして、DA変換器125には、前記位相監視手段126の出力するデジタル値が入力され、かつこのDA変換器125は、このデジタル値に応じた大きさのアナログ信号を出力し、そして、このアナログ信号はループフィルタからなるフィルタ回路127に入力され、かつこのフィルタ回路127でフィルタリングされた後に電圧制御発振器129に入力されることになる。このようにして、位相監視手段126の出力するデジタル値に応じたアナログ信号をフィルタリングした信号によって決まる周波数が電圧制御発振器129より出力されることになる。位相監視手段126が上記のようなフェーズの判定及び出力信号の上限及び下限を設定していることにより、一定範囲内のアナログ信号が電圧制御発振器129に入力されることになり、その結果、電圧制御発振器129が出力する信号の周波数が制限されることになる。これにより、PLL回路全体の動作において、入力されるアナログ信号の周波数と分周器における分周値を乗じた周波数以外でロックする、いわゆる倍周波数ロック等の誤動作を防止して、PLL回路を所定の周波数でロックさせることができることになる。
そしてまた、位相監視手段126の出力する信号が入力される位相補正回路126bでは、入力された位相比較値を所定の値分だけ増減させて出力することにより、ロックする位相をデジタル値の分解能の分だけ微調整することが可能となる。例えば、位相補正回路126bにおいて、正の値を加算して出力したとすると、電圧制御発振器129は加算しない場合と比べて加算した分だけ増加した周波数を出力することになり、その結果として位相を早めた点にロックすることになる。
さらに、AD変換器61においては、AD変換もしくは演算等により所定のクロック数だけ遅延が生じて出力される場合、その遅延分だけずれた位相でロックすることになるが、位相監視手段126の出力する値を第2のタイミング信号のタイミングから遅延分のクロック数だけずれたタイミングでの値を出力する構成にすることにより、第2のタイミング信号が、入力されるアナログ信号の中央値を通るタイミングと同期することになり、これにより、正確にアナログ信号の中央値つまりゼロ点と同期させることが可能となるものである。
以上の条件でPLL回路121より出力される信号をもとに、タイミング生成回路122は、ドライブ回路41における入力切替手段42、DA切替手段49、SW54、SW55、SW56およびD型フリップフロップ60の切替タイミングとなる図2(c)に示すような第1のタイミングΦ1、第2のタイミングΦ2のタイミング信号を生成して出力する。また、タイミング生成回路123は、センス回路81における入力切替手段84、DA切替手段87、SW92、SW93、SW95、SW100、SW101およびD型フリップフロップ105の切替タイミングとなる第3のタイミングΦ3、第4のタイミングΦ4、第5のタイミングΦ5、第6のタイミングΦ6のタイミング信号を生成して出力するものである。
ここで、タイミング制御回路71から出力されるタイミング信号に位相ズレΦが発生する場合を考える。
位相ズレΦは、前記位相監視手段126の出力するデジタル値に相当し、リアルタイムに検出される。そして、不要信号Qを求めるには、まず、角速度センサに角速度が印加されていない状態で、検波のタイミングに位相ズレΦがない場合の0点出力X1を求める。次に、任意の固定位相だけ検波位相をずらした場合の0点出力X2を求め、その差分X2−X1を算出する。このとき、不要信号Qが存在しなければ、0点出力X1およびX2は変動せず、X2−X1は0となる。
しかしながら不要信号Qが存在すれば、不要信号Qの検波漏れが位相ズレΦ×Q分発生し、その分だけセンサ出力にドリフトが発生し、それがX2−X1として算出される。
このX2−X1の値は位相ズレΦが固定の場合、不要信号Qに比例した値となるため、不要信号Qの大きさを求めることが出来る。そして、位相ズレΦおよび不要信号Qにより発生するΦ×Q分のジッタノイズをキャンセルすることを考える。例えば、ある固定の不要信号Qのときに、前記位相監視手段126の出力する位相ズレΦを意図的に10LSB発生させた場合の0点ドリフトX2−X1が、1000LSBであったとする。これは位相ズレΦが1LSBあたり100LSBの0点変動が発生していることに相当する。そのため、例えばROM(図示せず)に"ジッタキャンセル係数100"を記憶しておき、ジッタキャンセル値算出回路130において、このROM(図示せず)に格納された"ジッタキャンセル係数100"とリアルタイムで検出される位相ズレΦの値を乗算することで、ジッタノイズ相当の値A=100×Φを算出する。このA値をセンス回路における補正演算手段110に入力して、リアルタイムにセンス回路81からの出力信号を補正することにより、ジッタノイズを補正させた正確なセンサ出力信号を得ることができるものである。
すなわち、本発明の一実施の形態における角速度センサにおいては、角速度が付加されていない状態で任意の固定位相だけ検波位相をずらした状態でのセンサ出力値と、検波位相ずれがない状態でのセンサ出力値との差値からジッタキャンセル係数を算出するようにしたため、デジタル回路において、PLL回路の位相をずらすのは容易であるから、これにより、容易かつ正確にジッタキャンセル値を算出することができるという作用効果を有するものである。
さらに、ジッタキャンセル値算出回路130により算出したジッタキャンセル値を、センス回路81の後段に設けた補正演算手段110に注入するようにしたため、リアルタイムに位相ズレΦによるジッタキャンセル値を算出して、センサ出力のドリフトを補正することができるという作用効果を有するものである。