以下、本発明に係る抵抗測定装置の最良の形態について、添付図面を参照して説明する。
最初に、本発明に係る抵抗測定装置1の構成について、図面を参照して説明する。
図1に示す抵抗測定装置1は、クランプ部2、およびクランプ部2とケーブル3を介して接続された装置本体部4を備え、測定対象回路5の抵抗(ループ抵抗)の抵抗値Rxを測定可能に構成されている。
クランプ部2は、図1に示すように、注入クランプ部11、検出クランプ部21およびハウジング31を備えて構成されている。一例として、本例では、注入クランプ部11は、2つに分割された第1環状コア12、および第1環状コア12に巻回された注入コイルとしての第1巻線13(既知のターン数:N1)を有している。また、検出クランプ部21は、2つに分割された第2環状コア22、および第2環状コア22に巻回された第2巻線23(本発明における検出コイル(既知のターン数:N2))を有している。また、注入クランプ部11および検出クランプ部21は、先端が開閉自在なクランプ型の樹脂製のハウジング31に共に収容されて、このハウジング31の開閉動作に伴い、それぞれの第1環状コア12および第2環状コア22が同時に開閉するように構成されている。この構成により、ハウジング31を開状態としてその内側に測定対象回路5の一部を構成する配線5aを導入することで、開状態となった第1環状コア12および第2環状コア22のそれぞれの内側にも配線5aが導入され、この状態においてハウジング31を閉状態とすることで、閉状態となった第1環状コア12および第2環状コア22によって配線5aが同時にクランプされた状態、すなわちクランプ部2によって配線5aがクランプされた状態となる。この場合、配線5aは、第1環状コア12および第2環状コア22において1ターンの巻線として機能する。
装置本体部4は、図1に示すように、電圧注入部41、電流検出部42、処理部43および出力部44を備えている。電圧注入部41は、D/A変換部51、電力増幅部52および注入クランプ部11を備えて構成されている。この場合、D/A変換部51は、処理部43から出力された交流波形データ(本例では一定の周期Tで値が一巡する正弦波波形データ)Dvに基づいて、図3に示すように周期Tの交流電圧Va(周波数f(=1/T))を生成して出力する。電力増幅部52は、この交流電圧Vaを所定の増幅率で増幅して予め規定された電圧値(本例では電圧実効値)の交流電圧V1を生成すると共に、生成した交流電圧V1を注入クランプ部11の第1巻線13に印加する。これにより、注入クランプ部11を介して測定対象回路5に所定の電流値(本例では電流実効値)の検査用交流信号Vxが注入される。この場合、上記したように配線5aが第1環状コア12において1ターンの巻線として機能するため、測定対象回路5に注入される検査用交流信号Vxは、その電圧値が交流電圧V1をターン数N1で除算して得られる電圧値(Vx=V1/N1)となる。また、検査用交流信号Vxは交流電圧Vaに基づいて生成されるため、交流電圧Vaと同期した信号、つまり後述する基準信号Srに同期した信号となる。検出クランプ部21は、第2環状コア22において配線5aが1ターンの巻線として機能するため、測定対象回路5に流れる交流電流Ixを検出して、その第2巻線23に検出電流(本発明における検出コイルに流れる電流)I1(=Ix/N2)を出力する。
電流検出部42は、検出クランプ部21、第1増幅部61、第1バンドパスフィルタ(以下、「第1BPF」ともいう)62、第1切替部63、第2増幅部64、第2バンドパスフィルタ(以下、「第2BPF」ともいう)65、第2切替部66、差動増幅部67、低域通過型フィルタ(以下、「LPF」ともいう)68、直流増幅部69およびA/D変換部70を備えている。この場合、第1増幅部61は、第2巻線23の一端に接続されて、この一端に発生する検出電流I1を第1電圧信号Vb1に変換して出力する。また、第1増幅部61は、一例として、図2に示すように、第1演算増幅器61a、抵抗61b,61c,61dおよび第1コンデンサ61eを備えて構成されている。この場合、第1演算増幅器61aは、その反転入力端子が第2巻線23の一端に直接接続され、反転入力端子と出力端子との間に抵抗61bが帰還抵抗として接続され、非反転入力端子が抵抗61cを介して接地されて(基準電圧(グランド)が入力される一例)、入力した検出電流I1を電圧信号Vb(振幅が検出電流I1の電流値に比例して変化する信号)に変換して出力する。第1コンデンサ61eは、第1演算増幅器61aの後段に配設されて(本例では、その一端が第1演算増幅器61aの出力端子に直接接続されて)、電圧信号Vbに含まれる直流成分を除去する。また、第1コンデンサ61eは、その他端が抵抗61dを介して接地されている。これにより、第1コンデンサ61eにおいて直流成分が除去された電圧信号Vbは、その直流レベルが接地電位(ゼロボルト)に規定されて、ゼロボルトを中心として変化する交流信号である第1電圧信号Vb1として第1増幅部61から出力される。
第1BPF62は、一例としてバンドパスフィルタに構成されて、入力した第1電圧信号Vb1に含まれている交流電圧Vaの高調波成分を除去して(フィルタリング処理して)、第1電圧信号Vb2として出力する。具体的には、第1BPF62は、第1電圧信号Vb1に含まれている交流電圧Vaの基本周波数成分(周波数fの成分。検査用交流信号Vxの基本周波数成分でもある)を選択的に(主として)通過させることで、第1電圧信号Vb2を出力する。
第1切替部63は、本発明における第1抽出部の一例であって、第1電圧信号Vb2の正側波形および第2BPF65から出力される後述の第2電圧信号Vc2の正側波形で構成される脈流信号である正極性信号Vdを抽出して出力する。具体的には、第1切替部63は、例えばアナログスイッチで構成されて、処理部43から出力される基準信号Sr(図3に示すように交流電圧Vaに同期し、かつデューティ比が0.5のクロック信号)に同期して、同図に示すように、第1電圧信号Vb2と第2電圧信号Vc2とを半周期ずつ切り替えて出力する(同期検波動作する)ことにより、正極性信号Vdを出力する。
第2増幅部64は、第2巻線23の他端に接続されて、この他端に発生する検出電流I1を第2電圧信号Vc1に変換して出力する。また、第2増幅部64は、一例として、図2に示すように、第2演算増幅器64a、抵抗64b,64c,64dおよび第2コンデンサ64eを備えて、第1増幅部61と同一に構成されている。この場合、第2演算増幅器64aは、その反転入力端子が第2巻線23の他端に直接接続され、反転入力端子と出力端子との間に抵抗64bが帰還抵抗として接続され、非反転入力端子が抵抗64cを介して接地されて(基準電圧(グランド)が入力される一例)、入力した検出電流I1を電圧信号Vc(振幅が検出電流I1の電流値に比例して変化し、かつ電圧信号Vbと逆極性の信号)に変換して出力する。第2コンデンサ64eは、第2演算増幅器64aの後段に配設されて(本例では、その一端が第2演算増幅器64aの出力端子に直接接続されて)、電圧信号Vcに含まれる直流成分を除去する。また、第2コンデンサ64eは、その他端が抵抗64dを介して接地されている。これにより、第2コンデンサ64eにおいて直流成分が除去された電圧信号Vcは、その直流レベルが接地電位(ゼロボルト)に規定されて、ゼロボルトを中心として変化する交流信号である第2電圧信号Vc1として第2増幅部64から出力される。ここで、第2巻線23の他端に発生する検出電流I1は、一端に発生する検出電流I1と位相が反転したものとなる。このため、第2演算増幅器64aは、入力した検出電流I1を電圧信号Vbと位相が反転した電圧信号Vcに変換して出力する。これにより、第2増幅部64は、ゼロボルトを中心として変化し、かつ第1電圧信号Vb1と位相が反転した交流信号である第2電圧信号Vc1を生成して出力する。
第2BPF65は、一例として第1BPF62と同様のバンドパスフィルタに構成されて、入力した第2電圧信号Vc1に含まれている交流電圧Vaの高調波成分を除去して(フィルタリング処理して)、第2電圧信号Vc2として出力する。第2切替部66は、本発明における第2抽出部の一例であって、第1切替部63と同一の構成を備えて、第1電圧信号Vb2の負側波形および第2電圧信号Vc2の負側波形で構成される脈流信号である負極性信号Veを抽出して出力する。具体的には、第2切替部66は、例えばアナログスイッチで構成されて、基準信号Srに同期して、図3に示すように、第1電圧信号Vb2と第2電圧信号Vc2とを半周期ずつ切り替えて出力する(同期検波動作する)ことにより、負極性信号Veを出力する。
差動増幅部67は、正極性信号Vdおよび負極性信号Veを入力して、これらの信号Vd,Veの差分を演算すると共に、所定の増幅率でこの差分を増幅して差分信号Vfとして出力する。本例では、差動増幅部67は、一例として、図2に示すように、演算増幅器67a、第1切替部63と演算増幅器67aの非反転入力端子との間に接続された抵抗67b、第2切替部66と演算増幅器67aの反転入力端子との間に接続された抵抗67c、演算増幅器67aの非反転入力端子と基準電圧(この例ではグランド)との間に接続された抵抗67d、および演算増幅器67aの反転入力端子と出力端子との間に接続された抵抗67eを備えている。また、差分信号Vfは、正極性信号Vdおよび負極性信号Veの差分が増幅されたものであるため、図3に示すように、各極性信号Vd,Veに同期する脈流信号(本例では一例として正側波形で構成される脈流信号であるが、負側波形で構成される脈流信号でもよい)となる。このため、このような信号Vd,Veの差分の演算および増幅を行う差動増幅部67は、上記の構成を備えて、広帯域増幅器として機能する。この場合、差分信号Vfは、検出電流I1の電流値に振幅がそれぞれ比例する電圧信号Vb,Vcに基づいて上記のように生成されるため、差分信号Vfの振幅も検出電流I1の電流値に比例したものとなっている。
LPF68は、差分信号Vfに含まれている交流成分のほとんどを除去して、直流成分Vdc(図3参照)を選択的に通過させる。直流増幅部69は、所定の増幅率で直流成分Vdcを増幅して直流電圧Vdc1として出力する。また、直流増幅部69が増幅する信号は直流成分Vdcであるため、直流増幅部69は、差動増幅部67とは異なり広帯域増幅器としては構成されておらず、直流成分を主として増幅する狭帯域増幅器として構成されている。A/D変換部70は、この直流電圧Vdc1をデジタルデータに変換して電流データDiとして出力する。したがって、A/D変換部70から出力される電流データDiは検出電流I1の電流値に比例したデータとなり、この電流データDiに第2巻線23のターン数(N2)が乗算され、かつこの乗算値が上記の差動増幅部67および直流増幅部69の各増幅率で除算されることにより、測定対象回路5に流れる交流電流Ixの電流値が算出される。
処理部43は、CPUおよびメモリを備えて構成されて、オフセット更新処理および抵抗測定処理を実行する。メモリはRAM等で構成されて本発明における記憶部に相当し、メモリには、抵抗測定処理において使用するオフセット電流値Ioffの初期値、およびオフセット更新処理において使用される抵抗しきい値Rthが予め記憶されている。なお、オフセット電流値Ioffの初期値については、抵抗測定装置1の製造段階においてメモリに記憶させる構成でもよいし、抵抗測定装置1の製造段階においてはメモリに記憶させずに、電源投入時において、処理部43がA/D変換部70から出力される電流データDiをオフセット電流値Ioffの初期値としてメモリに記憶する構成とすることもできる。また、メモリは、抵抗測定処理において処理部43によって算出された抵抗値Rxのうちの最新の複数個(本例では5個)が記憶可能に構成されている。
この抵抗しきい値Rthはオフセット更新処理においてオフセット電流値Ioffの更新実行の条件となるものであり、このオフセット電流値Ioffの更新は、クランプ部2が閉じた状態であって、かつ、このクランプ部2が何もクランプしていない状態であるか、または何らかの配線をクランプしていたとしてもその配線がオープン状態(閉回路となっていない状態)であるとき(これらをまとめて「オープン状態のとき」ともいう)に実行されるべきものである。このため、このオープン状態に近い状態のときにオフセット電流値Ioffが更新されるようにするため、抵抗しきい値Rthは、このオープン状態のときに処理部43において算出される抵抗値Rxよりも小さく、かつ抵抗測定装置1の測定範囲の上限値Rmax(例えば、測定範囲が0Ω以上1600Ω以下のときには、1600Ω)を超える値(好ましくは、大幅に超える値であって、上限値Rmaxの2倍程度かそれ以上の値。本例では3000Ω)に規定されている。なお、上限値Rmaxを大幅に超える値としたのは、上記のオープン状態により近い状態(オープン状態に近似する状態)でオフセット電流値Ioffの更新を実行させるためである。出力部44は、一例としてモニタ装置などで構成されて、抵抗測定処理の結果を表示する。
次に、抵抗測定装置1による抵抗測定処理100について、図4を参照して説明する。なお、処理部43は、この抵抗測定処理100を所定周期(例えば、数秒〜十数秒周期)で繰り返し実行する。
この抵抗測定処理100では、処理部43は、まず、所定の周波数fの交流電圧V1の注入クランプ部11への印加処理を開始する(ステップ101)。具体的には、この印加処理において、処理部43は、周波数fの交流電圧Vaを生成させるための交流波形データDvの電圧注入部41への出力を開始する。これにより、電圧注入部41では、D/A変換部51が、この交流波形データDvを交流電圧(アナログ信号)Vaに変換して出力し、電力増幅部52が、この交流電圧Vaを交流電圧V1に増幅して注入クランプ部11の第1巻線13に印加する。
これにより、注入クランプ部11が測定対象回路5の配線5aをクランプした状態にあるときには、注入クランプ部11から測定対象回路5に検査用交流信号Vx(周波数f)が注入される。このため、測定対象回路5には、検査用交流信号Vxの注入に起因して、周波数fの交流電流Ixが流れる。また、処理部43は、交流波形データDvの出力開始と同時に、交流波形データDvの一巡するタイミングに同期し、かつ周波数がfに規定された基準信号Srの各切替部63,66への出力も開始する。
この周波数fの検査用交流信号Vxが測定対象回路5へ注入されている状態において、電流検出部42は、交流電流Ixを検出して、電流データDiを生成する。具体的には、電流検出部42では、検出クランプ部21が、測定対象回路5に流れる交流電流Ixを検出して、その第2巻線23から検出電流I1を出力し、第1および第2増幅部61,64が、この検出電流I1を第1および第2電圧信号Vb1,Vc1に変換して出力する。この場合、この電流検出部42では、従来の構成(検出コイルとしての第2巻線23をシングルエンドで使用し、電流検出のための抵抗を直列に接続する構成)とは異なり、第2巻線23の各端部を演算増幅器61a,64aの反転入力端子に接続する構成としたことにより、ゲインの低下や周波数特性の劣化を招くおそれのある電流検出用の抵抗(シャント抵抗)を不要とすることができ、十分な検出ゲインを維持しつつ良好な周波数特性が確保されている。
次いで、第1および第2BPF62,65が、対応する電圧信号Vb1,Vc1に含まれている高調波成分を除去して、第1および第2電圧信号Vb2,Vc2として出力し、各切替部63,66が、この第1および第2電圧信号Vb2,Vc2を基準信号Srに同期して切り替えることにより、正極性信号Vdおよび負極性信号Veを生成して出力する。この場合、ノーマルモードノイズが検出電流I1に含まれていたとしても、各切替部63,66による基準信号Srに同期した各信号Vb2,Vc2に対する上記の切替動作により、このノーマルモードノイズが除去される。
続いて、差動増幅部67が、この正極性信号Vdおよび負極性信号Veの差分を演算すると共に増幅して差分信号Vfとして出力する。次いで、LPF68が差分信号Vfに含まれている直流成分Vdcを選択的に通過させ、直流増幅部69が、この直流成分Vdcを増幅して直流電圧Vdc1として出力する。最後に、A/D変換部70が、この直流電圧Vdc1をデジタルデータに変換して電流データDiとして処理部43に出力する。この場合、電流検出部42では、第2巻線23の各端部に接続された第1増幅部61と第2増幅部64とが、それぞれが接続された第2巻線23の端部に発生する検出電流I1に基づいて、互いの位相が反転する第1電圧信号Vb1と第2電圧信号Vc1とを出力し、差動増幅部67が、これらの信号Vb1,Vc1に基づいて各切替部63,66で生成される正極性信号Vdおよび負極性信号Veの差分を演算して差分信号Vfを生成する。このため、検出電流I1にコモンモードノイズが重畳していたとしても、差動増幅部67が差分演算を行うことにより、このノイズがキャンセルされる。したがって、電流データDiには、増幅された検出電流I1のデータ、および電流検出部42で発生するオフセット電流値Ioffのみが含まれた状態となる。
次いで、処理部43は、測定対象回路5の抵抗値Rxの算出・記憶処理を実行する(ステップ102)。この算出・記憶処理では、処理部43は、まず、電流データDiに基づいて検出電流I1の真の電流値(実際に第2巻線23に流れる電流値であって、本例では電流実効値)I1reを算出する算出処理を実行する。具体的には、処理部43は、まず、電流データDiと、差動増幅部67および直流増幅部69の各増幅率とに基づいて、検出電流I1の電流値(実効値)I1eを算出する。次いで、処理部43は、メモリに記憶されているオフセット電流値Ioffを検出電流I1の電流値I1eから減算することにより、検出電流I1についての電流値I1re(=I1e−Ioff)を算出する。
続いて、処理部43は、交流電圧V1の電圧実効値および第1巻線13のターン数(N1)に基づいて検査用交流信号Vxの電圧実効値Vxeを算出すると共に、算出した検出電流I1の電流値I1reおよび第2巻線23のターン数(N2)に基づいて交流電流Ixの電流値(本例では電流実効値Ixe(=N2×I1re))を算出する。次いで、処理部43は、算出した検査用交流信号Vxおよび交流電流Ixの各実効値Vxe,Ixeに基づいて、交流電圧V1の周波数がfのときの測定対象回路5の抵抗値Rx(=Vxe/Ixe)を算出すると共に、算出した抵抗値Rxを、抵抗値Rxの算出に際して使用したパラメータ(検出電流I1の電流値I1e)と共にメモリに記憶する。上記したように、処理部43は、この抵抗測定処理100を所定周期で繰り返し実行して、算出した抵抗値Rxのうちの最新の複数個(本例では5個)分をメモリに記憶する。これにより、抵抗値Rxの算出・記憶処理が完了する。
最後に、処理部43は、算出した最新の抵抗値Rxを出力部44に出力させる(ステップ103)。この場合、処理部43は、最新の抵抗値Rxが測定範囲内であるときには、出力部44にこの抵抗値Rxを表示させる。一方、処理部43は、この抵抗値Rxが測定範囲を超えているときには「O.F」を、算出した抵抗値Rxに代えて表示させる。また、処理部43は、この抵抗値Rxが測定範囲を下回っているとき(負の値のとき)には数値「0」を、算出した抵抗値Rxに代えてそれぞれ表示させる。これにより、抵抗測定処理100が完了する。なお、注入クランプ部11が測定対象回路5の配線5aをクランプしていない状態、またはクランプしていたとしても測定対象回路5がオープン状態のときには、配線5aには交流電流Ixが流れず、検出クランプ部21の第2巻線23から出力される検出電流I1はほぼゼロとなる。したがって、電流検出部42から出力される電流データDiは電流検出部42でのオフセット電流値Ioff分のデータのみとなるため、算出される抵抗値Rxは無限大の値となる。
次に、オフセット更新処理110について説明する。本例では、一例として、処理部43は、新たな抵抗値Rxを算出する都度、このオフセット更新処理110を実行する。
このオフセット更新処理110では、処理部43は、まず、メモリに記憶した複数個の抵抗値Rxを読み出し(ステップ111)、次いで、各抵抗値Rxに対する比較処理を実行する(ステップ112)。この比較処理では、処理部43は、同じくメモリに記憶されている抵抗しきい値Rthを読み出すと共に、先に読み出したすべての抵抗値Rxと比較する。また、処理部43は、各抵抗値Rxを数値「0」とも比較する(各抵抗値Rxが負の値であるか否かについて判別する)。
この比較処理での結果、すべての抵抗値Rxがオフセット更新可能状態となっているとき、つまりすべての抵抗値Rxが抵抗しきい値Rth以上となってオフセット更新可能状態にあるか、または各抵抗値Rxが負の値となってオフセット更新可能状態にあるときには、処理部43は、オフセット値の更新を実行する(ステップ113)。具体的には、処理部43は、最新の抵抗値Rxに対応してメモリに記憶した検出電流I1の電流値I1eを読み出し、この電流値I1eを新たなオフセット電流値Ioffとしてメモリに記憶されているオフセット電流値Ioffを更新し(上書きして記憶し)、オフセット更新処理110を完了させる。一方、処理部43は、ステップ112での比較処理の結果、上記のオフセット更新可能状態となっていないとき(メモリから読み出したすべての抵抗値Rxが正の値であって、少なくとも1つが抵抗しきい値Rth未満のとき)には、ステップ113に移行することなく、オフセット更新処理110を完了させる。
以上のように、処理部43は、新たな抵抗値Rxの測定の都度、オフセット更新処理110を実行して、メモリに記憶したすべての抵抗値Rxが上記のオフセット更新可能状態となっているとき、つまり複数の抵抗値Rxを算出する期間に亘って各抵抗値Rxが上記した2つのオフセット更新可能状態のうちの一方の状態で安定しているとき、すなわち、抵抗値Rxの算出の元となる検出電流I1の電流値I1eが安定しているときに、この電流値I1eを新たなオフセット電流値Ioffとして更新記憶する。このため、抵抗測定装置1では、常に最新のオフセット電流値Ioffを使用して正しい値の抵抗値Rxが算出される。
このように、この抵抗測定装置1によれば、算出した抵抗値Rxが抵抗しきい値Rth以上となるかまたは負の値となるオフセット更新可能状態のときに、処理部43がオフセット更新処理を実行して、検出クランプ部21の第2巻線23に流れる検出電流I1の電流値I1eを新たな前記オフセット電流値Ioffとしてメモリに更新記憶させるため、常に最新のオフセット電流値Ioffを使用して抵抗値Rxが算出される結果、温度や湿度などの環境条件の変化(使用環境の変動)や、電流検出部42の増幅部を構成する電子部品の経時変化に起因して、オフセットが発生するような状況下においても、常に高い精度で抵抗値Rxを測定することができる。
また、この抵抗測定装置1によれば、メモリに記憶したすべての抵抗値Rxが上記のオフセット更新可能状態となっているとき、つまり複数の抵抗値Rxを算出する期間に亘って各抵抗値Rxが上記した2つのオフセット更新可能状態のうちの一方の状態で安定しているとき(オフセット更新可能状態が所定時間以上継続したとき)、すなわち、抵抗値Rxの算出の元となる検出電流I1の電流値I1eが安定しているときに、この電流値I1eでオフセット電流値Ioffを更新することができるため、電流値I1eが安定しない状態でのオフセット電流値Ioffの更新を回避することができる結果、測定される抵抗値Rxの信頼性を十分に向上させることができる。
また、この抵抗測定装置1によれば、第2巻線23の一端が反転入力端子に接続された第1演算増幅器61aを有して第2巻線23に流れる電流I1を第1電圧信号Vb1に変換して出力する第1増幅部61と、第2巻線23の他端が反転入力端子に接続された第2演算増幅器64aを有して第2巻線23に流れる電流I1を第1電圧信号Vb1と位相が反転した(第1電圧信号Vb1と逆位相の)第2電圧信号Vc1に変換して出力する第2増幅部64と、基準信号Srに同期して第1電圧信号Vb2および第2電圧信号Vc2を同期検波して(半周期ずつ切り替えて)第1電圧信号Vb2および第2電圧信号Vc2の正側波形のみで構成される正極性信号Vdを出力する第1切替部63と、基準信号Srに同期して第1電圧信号Vb2および第2電圧信号Vc2を同期検波して(半周期ずつ切り替えて)第1電圧信号Vb2および第2電圧信号Vc2の負側波形のみで構成される負極性信号Veを出力する第2切替部66と、正極性信号Vdおよび負極性信号Veの差分を演算して差分信号Vfとして出力する差動増幅部67とを備えて電流検出部42が構成されている。
一方、従来の抵抗測定装置では、検出用変成器に形成されている検出用コイルが、一端が接地される構成(シングルエンド)となり、検出コイルに対して並列にシャント抵抗を接続する必要があると共に、外部からの誘導に起因してグランドに流れ込む誘導電流の影響を受け易く、この影響を低減するためには検出用変成器用にシールドを設けると共にこのシールドを接地する必要がある。しかしながら、このようにシールドを接地する構成を採用した場合には、安全規格(例えばIEC61010国際安全規格などの安全規格)上、不利になるという問題点が存在している。したがって、この従来の抵抗測定装置と比較して、この抵抗測定装置1によれば、シングルエンドでの第2巻線23の使用や、シャント抵抗の使用が回避できるため、安全規格をクリアしつつ、十分な検出ゲインを維持しつつ良好な周波数特性を確保することができる。
また、第2巻線23の各端部に接続された第1増幅部61と第2増幅部64とが、第2巻線23に発生する検出電流I1に基づいて、互いの位相が反転する第1電圧信号Vb1と第2電圧信号Vc1とを出力し、差動増幅部67が、これらの信号Vb1,Vc1に基づいて各切替部63,66で生成される正極性信号Vdおよび負極性信号Veの差分を演算して差分信号Vfを生成する構成のため、検出電流I1にコモンモードノイズが重畳していたとしても、差動増幅部67での差分演算において、コモンモードノイズをキャンセルすることができる。また、各切替部63,66が、第1および第2電圧信号Vb2,Vc2を基準信号Srに同期して切り替えて(同期検波して)、正極性信号Vdおよび負極性信号Veを生成して出力する構成のため、ノーマルモードノイズが検出電流I1に含まれている場合でも、このノーマルモードノイズを除去することができる。
なお、上記の構成に限定されない。例えば、上記の構成では、抵抗値Rxに対する抵抗しきい値Rthを設けて、オフセット更新可能状態であるか否かの判別を行う構成を採用したが、検出クランプ部21の第2巻線23に流れる検出電流I1の電流値(実効値)I1eと抵抗値Rxとは対応する関係(反比例の関係)にあるため、検出電流I1の電流値I1eに基づいてオフセット更新可能状態であるか否かの判別を行う構成、つまり上記の構成とは等価の関係にある構成を採用することもできる。
具体的には、検出電流I1の電流値I1eに基づいて算出される抵抗値Rxが抵抗しきい値Rthと一致するときの電流値I1eを電流しきい値Ithとしてメモリに記憶しておき、処理部43は、図5に示すオフセット更新処理110のステップ111における抵抗値Rxのメモリからの読み出しに代えて、検出電流I1の電流値I1eを読み出し、ステップ112において、読み出した電流値I1eが電流しきい値Ith以下となるか否かを判別して、電流値I1eが電流しきい値Ith以下のとき(オフセット更新可能状態のとき)にステップ113のオフセット値の更新を実行する。
この構成においても、抵抗しきい値Rthを使用する構成と同様にして、常に最新のオフセット電流値Ioffを使用して抵抗値Rxを算出することができるため、使用環境が変動したり、電子部品が経時変化したりするような状況下においても、常に高い精度で抵抗値Rxを測定することができる。
また、例えば、上記の構成では、電流検出部42を2つの切替部63,66を有する構成としたが、図6に示す抵抗測定装置1Aの電流検出部42Aのように、1つの切替部71を有する構成を採用することもできる。以下、抵抗測定装置1Aについて、図6〜図8を参照して説明する。なお、抵抗測定装置1Aは、電流検出部42Aの切替部71以外の構成については抵抗測定装置1と同一に構成されている。このため、同一の構成については同一の符号を付して重複する説明を省略し、相違する電流検出部42Aの構成についてのみ説明する。
電流検出部42Aは、検出クランプ部21、第1増幅部61、第1BPF62、第2増幅部64、第2BPF65、差動増幅部67、切替部71、LPF68、直流増幅部69およびA/D変換部70を備えている。差動増幅部67は、第1BPF62から出力される第1電圧信号Vb2と第2BPF65から出力される第2電圧信号Vc2とを入力して、これらの信号Vb2,Vc2の差分信号Vgを出力する。本例では、差動増幅部67は、一例として、図7に示すように、抵抗測定装置1と同じ差動増幅部として構成されている。この構成により、差動増幅部67は、同図に示すように、第1電圧信号Vb2と第2電圧信号Vc2の差分を検出して、差分信号Vgとして出力する。この差分信号Vgは、その振幅が検出電流I1の電流値に比例する交流信号となる。
切替部71は、抽出部の一例であって、基準信号Srに同期して差分信号Vgを同期検波して、差分信号Vgの正側波形のみまたは負側波形のみ(本例では、図8に示すように一例として正側波形のみ)で構成される片極性信号Vhを抽出して出力する。具体的には、切替部71は、例えばアナログスイッチで構成されて、処理部43から出力される基準信号Srに同期して、同図に示すように、差分信号Vgと基準電圧(グランド電位)とを半周期ずつ切り替えて出力する(同期検波動作する)ことにより、正極性信号である片極性信号Vhを出力する。LPF68は、片極性信号Vhに含まれている交流成分のほとんどを除去して、直流成分Vdc(図8参照)を選択的に通過させる。直流増幅部69は、図6に示すように、所定の増幅率で直流成分Vdcを増幅して直流電圧Vdc1として出力する。A/D変換部70は、この直流電圧Vdc1をデジタルデータに変換して電流データDiとして出力する。この場合、この電流データDiは、検出電流I1を表すデータとなる。
この抵抗測定装置1Aにおいても、抵抗測定装置1と同様にして、処理部43が、まず、電流データDi等に基づいて検出電流I1の電流値I1eを算出し、この電流値I1eからオフセット電流値Ioffを減算して検出電流I1についての電流値I1reを算出し、次いで、交流電圧V1の電圧実効値および第1巻線13のターン数(N1)に基づいて検査用交流信号Vxの電圧実効値Vxeを算出すると共に、算出した検出電流I1の電流値I1reおよび第2巻線23のターン数(N2)に基づいて交流電流Ixの電流値(本例では電流実効値Ixe(=N2×I1re))を算出し、最後に、算出した検査用交流信号Vxおよび交流電流Ixの各実効値Vxe,Ixeに基づいて、測定対象回路5の抵抗値Rx(=Vxe/Ixe)を算出することができる。したがって、この抵抗測定装置1Aにおいても、電流検出部42Aの構成が抵抗測定装置1の電流検出部42と相違するのみで、他の構成は抵抗測定装置1と同じため、抵抗測定装置1と同様にして抵抗しきい値Rthや電流しきい値Ithを使用することにより、検出電流I1の電流値I1eでオフセット電流値Ioffを更新することができ、常に最新のオフセット電流値Ioffを使用して抵抗値Rxが算出される結果、使用環境が変動したり、電子部品が経時変化したりするような状況下においても、常に高い精度で抵抗値Rxを測定することができる。
また、この抵抗測定装置1Aも、抵抗測定装置1と同様にして、シングルエンドでの第2巻線23の使用や、シャント抵抗の使用が回避できるため、十分な検出ゲインを維持しつつ良好な周波数特性を確保することができる。
また、例えば、上記の抵抗測定装置1,1Aでは、各演算増幅器61a,64aの後段にコンデンサ61e,64eをそれぞれ配設しているが、各演算増幅器61a,64aのオフセット電圧が極めて小さなときには、コンデンサ61e,64eを配設しない構成を採用することもできる。この構成では、各抵抗61d,64dについても不要とすることができる。また、抵抗値Rxの測定精度の向上のために第1および第2BPF62,65を使用する構成について上記したが、必要とされる測定精度が確保できるときには、第1および第2BPF62,65を配設しない構成を採用することもできる。また、抽出部の一例として、各切替部63,66や、切替部71を使用した例について上記したが、乗算器を使用して同期検波する構成を採用することもできる。また、検査用交流信号Vxの電圧値としての電圧実効値と交流電流Ixの電流値としての電流実効値とに基づいて抵抗値Rxを算出する例について上記したが、電圧値は電圧実効値に限定されるものではなく、また電流値も電流実効値に限定されるものではない。具体的には、検査用交流信号Vxの電圧値としての電圧平均値と交流電流Ixの電流値としての電流平均値とに基づいて抵抗値Rxを算出する構成や、検査用交流信号Vxの電圧値としてのピークtoピーク値(電圧振幅)と交流電流Ixの電流値としてのピークtoピーク値(電流振幅)とに基づいて抵抗値Rxを算出する構成や、検査用交流信号Vxの電圧値としての電圧ピーク値と交流電流Ixの電流値としての電流ピーク値とに基づいて抵抗値Rxを算出する構成を採用することもできる。
また、例えば、上記の抵抗測定装置1,1Aでは、処理部43がオフセット更新可能状態(各抵抗値Rxが抵抗しきい値Rth以上か、または負の値となっている状態)か否かを判別して、オフセット更新可能状態のときには常にオフセット値の更新を実行する構成を採用しているが、図1,6に示すように、操作内容に応じて更新信号S1を生成して処理部43に出力する操作部45を備える構成として、作業者が操作部45を操作して、所望するタイミングでオフセット値を更新し得るように構成することもできる。この構成におけるオフセット更新処理120について、図9を参照して説明する。なお、オフセット更新処理120は、図5のオフセット更新処理110と比較してステップ121を含んでいる点でのみ相違するため、オフセット更新処理110と同一のステップについては同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
このオフセット更新処理120では、処理部43が、まず、操作部45から更新信号S1を入力しているか否かを判別し(ステップ121)、入力していないときにはオフセット更新処理120を完了させる。一方、ステップ121において、操作部45からの更新信号S1を入力しているときには、オフセット更新処理110と同様にして、ステップ111〜113を実行することにより、すべての抵抗値Rxがオフセット更新可能状態となっているときに、最新の抵抗値Rxに対応してメモリに記憶した検出電流I1の電流値I1eを読み出して、この電流値I1eを新たなオフセット電流値Ioffとしてメモリに記憶されているオフセット電流値Ioffを更新し、このオフセット更新処理110を完了する。この構成の抵抗測定装置1,1Aによれば、作業者が操作部45を操作して更新信号S1を出力させたときにのみ、オフセット電流値Ioffを更新することができる、つまり、作業者が所望するタイミングでオフセット電流値Ioffを更新することができる。