本発明のトナーは、結着樹脂、着色剤、離型剤A及び離型剤Bを少なくとも含有するトナーにおいて、
前記離型剤Aはカルナウバワックスであり、
前記離型剤Bは、酸価が2mgKOH/g以下、融点が60℃以上80℃以下の3官能以下のエステルワックスであり、
前記トナーに対する微小圧縮試験において、トナーの1粒子に負荷速度9.8×10−5N/secで荷重を加え、最大荷重9.8×10−4Nに到達後、最大荷重のまま0.1秒間放置したときの変位量である最大変位量X100(μm)と、前記トナーの個数平均粒径D1(μm)とが、下記式(1)
0.05≦X100/D1≦0.60 (式1)
の関係を満たすことを特徴とする。
本発明者らは、カルナウバワックスと、酸価と融点を規定した3官能以下のエステルワックスを含有し、さらに微小圧縮試験における最大変位量X100とD1の比の値を一定の範囲に制御することで、これまで困難であった定着性と現像耐久性の両立に成功した。さらには、低温低湿環境下における低温定着性と、高温高湿環境下における耐久現像性の両立に非常に効果的であることを見出し、本発明に至った。
上記条件の本発明のトナーに対する微小圧縮試験において、最大変位量X100と個数平均粒径D1との関係が0.05≦X100/D1≦0.60であるということは、この時のトナー粒径の変形率が5%以上60%以下であることを意味する。本発明者らが検討したところ、上記特性を有する本発明のトナーは、現像装置内で負荷を受けたとしても変形率60%以下に形状を維持するため、トナー担持体への部材融着の発生が抑制できる。さらに、高温高湿環境下における長期の使用においても濃度低下が抑制され、安定した画像を得ることができる。
X100/Dが0.60より大きい場合は、現像装置内で受けるストレスによるトナーの変形が大きく、トナー担持体への部材融着が発生し易くなってしまう。また、長期の使用においてはトナー劣化が進み、帯電性の低下によりカブリの悪化、画像濃度の低下が発生してしまう。
一方、X100/Dが0.05より小さい場合は、トナーとしての剛性が非常に高くなるため現像耐久性には優れるものの、つぶれ難くなるため低温定着性が低下してしまう。特に、低温低湿環境下における朝一使用において低温オフセット性のレベルが悪化してしまう。
さらに、本発明においては、最大変位量X100と個数平均粒径D1との関係が0.10≦X100/D1≦0.50であることが好ましい。この範囲にあることで、耐久における濃度安定性やカブリ特性がより良好なものとなる。加えて、低温低湿環境下における低温定着性や低温オフセット性に優れる。
上記微小圧縮試験における最大変位量X100は、トナーの製造方法や製造条件、及び使用する離型剤やその他添加剤の物性等を調節することで満たすことが可能である。
本発明のトナー(実施例1のトナー1)の、微小圧縮試験における荷重−変位曲線を表したグラフを図1に示す。
本発明のトナーは、離型剤Aとしてカルナウバワックスを含有することを特徴とする。天然物であるカルナウバワックスは適度な酸価と融点、及び結晶性を有するため結着樹脂への相溶性が非常に高い。よってトナー中で微細な分散状態を取り易く、定着時における結着樹脂の可塑化を促進するため非常に好ましい。加えて、本発明のトナーを水系媒体中で製造する場合には、酸価を利用してカルナウバワックスをトナー表面近傍に偏在させることが可能になる。これにより、低温低湿環境下のような、低温定着性に厳しい条件においてもトナーからのワックスの染み出し速度が速く、十分な低温定着性が得られる。
さらに、本発明のトナーは、離型剤Bとして酸価が2mgKOH/g以下、融点が60℃以上80℃以下の3官能以下のエステルワックスを含有することを特徴とする。カルナウバワックスと共にこのようなエステルワックスを併用することにより、本発明の効果を得ることができる。詳細は分からないが、本発明者らが検討したところ以下のように考えている。非加熱時においては、酸価を殆ど持たないエステルワックスは、比較的高い酸価を有するカルナウバワックスとは、トナー中では非相溶状態で存在していると考えられる。ここで、さらに本発明のトナーを水系媒体中で製造することにより、トナー表面近傍にはカルナウバワックスが微分散し、トナーの内部には低融点のエステルワックスが存在するという理想的なトナー構造をとることができる。粉砕法による製造においても、多段階の表面処理工程を経ることにより理想のトナー構造に近づけることができる。このようなトナーであると、加熱定着時においては、酸価を有するカルナウバワックスは微分散しているため結着樹脂を可塑化しながら素早く染み出していく。さらに、この時同じエステル構造でありカルナウバと馴染み易い低融点のエステルワックスのトナー表面への染み出しも促進されると考えられる。
従来このようなワックス処方でトナーを製造した場合、現像時や転写時に受ける負荷によりカルナウバワックスが染み出してしまうため、トナー担持体への部材融着が発生し易く、現像耐久性に関わる種々の問題があった。本発明においては、微小圧縮試験における値、つまりトナー硬度を一定の範囲に制御することで、低温定着性と現像耐久性の両立を実現することができたものである。
カルナウバワックスと共に使用するエステルワックスの酸価が2mgKOH/gより大きい、及び/または融点が60℃より低い場合は、カルナウバワックスと同様に結着樹脂との相溶性が高くなり、トナー中で微分散し易くなる。さらに、水系媒体中で製造する場合には、カルナウバワックスと同様にトナー表面近傍に偏在し易くなる。結果として、カルナウバワックスとエステルワックスを合わせた多量のワックスがトナー表面近傍に微分散状態で存在することになる。このようなトナーであると、現像時や転写時に受けるストレス(熱や圧力)により簡単にワックスがトナー表面へ染み出し易い。さらには、本発明のトナーに対する微小圧縮試験において、最大変位量X100と個数平均粒径D1との関係を0.05≦X100/D1≦0.60に保つことが困難になり、トナー担持体への部材融着が発生し易く、高温高湿環境下における耐久においては画像濃度が低下し易くなってしまう。
また、エステルワックスの融点が80℃より高い場合は、部材融着や耐久現像性の面では優れるものの、低温低湿環境下における低温定着性が劣ってしまう。
さらに、本発明のトナーにおいてカルナウバワックスと共に使用するエステルワックスは、3官能以下のエステルワックスである。3官能以下であると、結着樹脂への適度な溶解性を有するため、定着時におけるトナーの可塑化が促進される。さらに、加熱定着時においてはカルナウバワックスと馴染み易いため、カルナウバワックスによるトナー表面への染み出し促進効果が効率良く得られるので好ましい。一方、エステルワックスが4官能以上の場合は、トナー表面への染み出し速度が遅くなるため、低温低湿環境下における低温定着性や低温オフセット性が低下する。
本発明のトナーに使用可能な離型剤Aとしては、カルナウバワックス、または遊離脂肪酸を一定量取り除いた脱遊離脂肪酸型カルナウバワックスも使用することができる。いずれにしても、本発明のトナーに使用されるカルナウバワックスの酸価は、2mgKOH/g以上10mgKOH/g以下であることが好ましい。カルナウバワックスの酸価が2mgKOH/g以上であると、結着樹脂への溶解性が高く、良好な微分散状態を得ることができる。さらに、水系媒体中で製造する場合には、カルナウバワックスのトナー表面近傍での存在状態を制御することが容易になるため好ましい。一方、カルナウバワックスの酸価が10mgKOH/g以下であることで、トナーに含有される着色剤やその他添加剤の分散性を良好に保つことができるため、耐久における濃度やカブリが安定化するため好ましい。
また、本発明のトナーに使用可能な離型剤Bとしては、酸価が2mgKOH/g以下、融点が60℃以上80℃以下の3官能以下のエステルワックスである。具体的には、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル等の飽和脂肪酸モノエステル類;セバシン酸ジベヘニル、ドデカン二酸ジステアリル、オクタデカン二酸ジステアリル等の飽和脂肪族ジカルボン酸と飽和脂肪族アルコールとのジエステル化物;ノナンジオールジベヘネート、ドデカンジオールジステアレート等の飽和脂肪族ジオールと飽和脂肪酸とのジエステル化物;グリセリントリベヘネート、グリセリントリステアレート等のトリアルコール類と飽和脂肪酸のトリエステル化物;グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート等のトリアルコール類と飽和脂肪酸との部分エステル化物;等が挙げられる。
本発明においては、離型剤Aや離型剤Bの他に、公知のワックスを添加することができる。具体的には、例えば低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックス等の脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物又はそれらのブロック共重合物;モンタン酸エステルワックス等の、脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸等の飽和直鎖脂肪酸類;ブラシジン酸、エレオステアリン酸、バリナリン酸等の不飽和脂肪酸類;ステアリルアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール等の飽和アルコール類;ソルビトール等の多価アルコール類;リノール酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸ビスアミド類;エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド類;m−キシレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド等の芳香族系ビスアミド類;ステアリン酸カルシウム、フウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪族金属塩(一般に金属石けんといわれているもの);脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸等のビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス類;ベヘニン酸モノグリセリド等の、脂肪酸と多価アルコールの部分エステル化物;植物性油脂の水素添加等によって得られる、ヒドロキシル基を有するメチルエステル化合物;炭素数12以上の長鎖アルキルアルコール又は長鎖アルキルカルボン酸;等が挙げられる。
本発明においては、前記離型剤A(カルナウバワックス)及び離型剤Bの結着樹脂100質量部に対する含有量をそれぞれWA(質量部)、WB(質量部)とした時、WAとWBがそれぞれ2.0以上であり、さらに下記式(2)
5.0≦WA+WB≦30.0 (式2)
の関係を満たすことが好ましい。
離型剤の含有量を式(2)のように規定することで、本発明の効果がより一層高まる。WAとWBをそれぞれ2.0質量部以上含有することで、それぞれの離型剤の特性を効率良く発揮することができ、定着時におけるワックスの染み出しが十分なものとなる。そのため、低温低湿環境下における朝一使用においても高い低温定着性を達成することができる。さらに、WAとWBの和が5.0質量部以上であると、低温オフセットの発生を高いレベルで抑制することができるようになる。一方、WAとWBの和が30.0質量部以下であると、離型剤の各トナー1粒子への均一分散性が高まるため、高温高湿環境下での耐久試験においても高い画像濃度を維持することができるようになる。
本発明のトナーは、個数平均粒径D1が3.0μm以上8.0μm以下であることが好ましい。トナーの個数平均粒径D1は、高画質化という点から8.0μm以下であることが好ましい。一方、トナーの個数平均粒径D1が3.0μm以上であると、鏡像力やファンデルワールス力に起因するトナーの感光ドラムへの付着力が小さくなり、転写性が良好になるため好ましい。
本発明のトナーは、平均円形度が0.950以上1.000以下であることが好ましい。トナーの平均円形度が上記範囲を満たす場合、転写性に非常に優れるため好ましい。また、トナー形状が丸く均一であるため、帯電量も均一になり易く、選択現像が発生しないため長期の使用において濃度やカブリの安定性が向上するため好ましい。
上記トナーの平均円形度は、トナーの製造方法や製造条件などを調節することで満たすことが可能である。
トナーの平均円形度は、フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000」(シスメックス社製)によって、校正作業時の測定及び解析条件で測定する。
フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000」(シスメックス社製)の測定原理は、流れている粒子を静止画像として撮像し、画像解析を行うというものである。試料チャンバーへ加えられた試料は、試料吸引シリンジによって、フラットシースフローセルに送り込まれる。フラットシースフローに送り込まれた試料は、シース液に挟まれて扁平な流れを形成する。フラットシースフローセル内を通過する試料に対しては、1/60秒間隔でストロボ光が照射されており、流れている粒子を静止画像として撮影することが可能である。また、扁平な流れであるため、焦点の合った状態で撮像される。粒子像はCCDカメラで撮像され、撮像された画像は512×512の画像処理解像度(一画素あたり0.37×0.37μm)で画像処理され、各粒子像の輪郭抽出を行い、粒子像の投影面積Sや周囲長L等が計測される。
次に、上記面積Sと周囲長Lを用いて円相当径と円形度を求める。円相当径とは、粒子像の投影面積と同じ面積を持つ円の直径のことであり、円形度Cは、円相当径から求めた円の周囲長を粒子投影像の周囲長で割った値として定義され、次式で算出される。
円形度C=2×(π×S)1/2/L
粒子像が円形の時に円形度は1になり、粒子像の外周の凹凸の程度が大きくなればなるほど円形度は小さい値になる。各粒子の円形度を算出後、円形度0.200〜1.000の範囲を800分割し、得られた円形度の相加平均値を算出し、その値を平均円形度とする。
次に本発明におけるトナーの製造方法を説明する。
本発明のトナーは、公知のいずれの方法によっても製造することが可能であるが、分散重合法、会合凝集法、懸濁重合法など水系媒体中でトナーを製造する方法は、トナー形状及び離型剤のトナー中での分散性を制御しやすく、本発明のトナー物性を得やすいため好ましい。これらの方法のうち、円形度が高く表面が均一な粒子を容易に得ることがきる点、及び溶媒に溶剤を使用しないといった製造コスト面から、懸濁重合法を用いるのが最も好ましい。
製造法の一例として懸濁重合法によるトナーの製造について説明する。懸濁重合法では重合性単量体中に、着色剤、離型剤、可塑剤、結着剤、荷電制御剤、架橋剤等のトナーとして必要な成分及びその他の添加剤、例えば重合反応で生成する重合体の粘度を低下させるために入れる有機溶媒、分散剤等を適宜加えて、ホモジナイザー、ボールミル、コロイドミル、超音波分散機等の分散機に依って均一に溶解または分散させる。こうして得られた単量体系(単量体組成物)を、分散安定剤を含有する水系媒体中に懸濁する。この時、高速撹拌機もしくは超音波分散機のような高速分散機を使用して一気に所望のトナーサイズとするほうが、得られるトナーの粒径がシャープになる。重合開始剤添加の時期としては、重合性単量体に他の添加剤を添加する時に同時に加えても良いし、水系媒体中に懸濁する直前に混合しても良い。また、造粒直後、重合反応を開始する前に重合性単量体あるいは溶媒に溶解した重合開始剤を加えることもできる。
造粒後は通常の撹拌機を用いて、粒子状態が維持され且つ粒子の浮遊・沈降が防止される程度の撹拌を行えば良い。
懸濁重合法においては、分散安定剤として公知の界面活性剤や有機・無機分散剤が使用できる。中でも無機分散剤が有害な超微粉を生じ難く、その立体障害性により分散安定性を得ているので反応温度を変化させても安定性が崩れ難く、洗浄も容易でトナーに悪影響を与え難いので、好ましく使用できる。こうした無機分散剤の例としては、燐酸カルシウム、燐酸マグネシウム、燐酸アルミニウム、燐酸亜鉛の如き燐酸多価金属塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き炭酸塩;メタ硅酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムの如き無機塩;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、ベントナイト、アルミナの如き無機酸化物が挙げられる。
これら無機分散剤を用いる場合には、そのまま使用しても良いが、より細かい粒子を得るため、水系媒体中にて該無機分散剤粒子を生成させることができる。例えば燐酸カルシウムの場合、高速撹拌下、燐酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液とを混合して、水不溶性の燐酸カルシウムを生成させることができ、より均一で細かな分散が可能となる。この時、同時に水溶性の塩化ナトリウム塩が副生するが、水系媒体中に水溶性塩が存在すると、重合性単量体の水への溶解が抑制されて、乳化重合に依る超微粒トナーが発生し難くなるので、より好都合である。但し、この塩化ナトリウム塩は重合反応終期に残存重合性単量体を除去する時には障害となることから、水系媒体を交換するか、イオン交換樹脂で脱塩したほうが良い。無機分散剤は、重合終了後酸あるいはアルカリで溶解して、ほぼ完全に取り除くことができる。
これらの無機分散剤は、重合性単量体100質量部に対して、0.2以上20質量部以下を単独でまたは2種類以上組み合わせて使用することが好ましい。
また微粒化されたトナーを目的とする場合には、0.001以上0.1質量部以下の界面活性剤を併用しても良い。界面活性剤としては、例えばドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウムが挙げられる。
本発明においては、前記重合反応におけるpH(及び温度)を調整することで、本発明の離型剤A(カルナウバワックス)のトナー中での存在状態を好ましく制御することができる。具体的には、反応初期にはアルカリ条件(pH8以上pH11以下)で反応を行うことが好ましい。アルカリ条件下で重合反応を行うことにより、酸価を有するカルナウバワックスのトナー表面近傍への偏在を促進させることができる。さらに、その後重合性単量体の転化率が60%以上100%以下になった時点で酸性条件(pH4以上pH7以下)にpHを調整し、同時に重合温度をカルナウバワックスの融点と同じまたは低い温度(好ましい温度差は0℃以上5℃以下)に調整することが好ましい。重合反応終期においてpHを酸性条件に変更することにより、トナー最表面に存在するカルナウバワックス中の遊離脂肪酸成分をトナー内部に内包化させることができる。この時、カルナウバワックスの融点と同じまたは低い温度(好ましい温度差は0℃以上5℃以下)に調整することにより、主成分のエステル成分ではなく、遊離脂肪酸成分のみを選択的にトナー内部へ内包化できると考えられる。さらに、この時離型剤Bは融点同等またはそれ以上の温度で加熱されることになるため、トナー内部への内包化がより促進される。
上記したように重合反応条件を調整し、離型剤A(及び離型剤B)のトナー中での存在状態を制御することにより、本発明のトナーの微小圧縮試験におけるX100/D1の値を好ましい範囲に満たすことができる。
本発明に使用される重合性単量体系を構成する重合性単量体としては以下のものが挙げられる。
重合性単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−エチルスチレンの如きスチレン系単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニルの如きアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルの如きメタクリル酸エステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドが挙げられる。
これらの重合性単量体は単独または混合して使用し得る。上述の重合性単量体の中でも、スチレンまたはスチレン誘導体を単独で、あるいはほかの重合性単量体と混合して使用することがトナーの現像特性及び現像耐久性の点から好ましい。
本発明のトナーを重合法で製造する際には、重合反応時に半減期0.5時間以上30時間以下である重合開始剤を、重合性単量体の0.5質量%以上20質量%以下の添加量で用いて重合反応を行うと、分子量1万以上10万以下の間に極大を有する重合体を得、トナーに望ましい強度と適当な溶融特性を与えることができる。重合開始剤の例としては、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルの如きアゾ系またはジアゾ系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドの如き過酸化物系重合開始剤が挙げられる。
本発明では、架橋剤を添加しても良く、好ましい添加量としては、重合性単量体の0.001質量%以上15質量%以下である。
ここで、架橋剤としては、主として2個以上の重合可能な二重結合を有する化合物が用いられ、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等のような芳香族ジビニル化合物;例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート等のような二重結合を2個有するカルボン酸エステル;ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホン等のジビニル化合物;及び3個以上のビニル基を有する化合物;が単独もしくは混合物として用いられる。
本発明のトナーで使用される着色剤としては、磁性あるいは非磁性無機化合物、公知の染料及び顔料が挙げられる。具体的には、例えば、コバルト、ニッケルの如き強磁性金属粒子、またはこれらにクロム、マンガン、銅、亜鉛、アルミニウム、希土類元素を加えた合金、マグネタイト、ヘマタイト、チタンブラック、ニグロシン染料/顔料、カーボンブラック、フタロシアニンが挙げられる。これらは表面を処理して用いても良い。
本発明のトナーに磁性体を使用する場合には、従来公知の磁性材料が用いられる。磁性トナーに含まれる磁性材料としては、マグネタイト、マグヘマイト、フェライト等の酸化鉄、及び他の金属酸化物を含む酸化鉄;Fe、Co、Niのような金属あるいはこれらの金属とAl、Co、Cu、Pb、Mg、Ni、Sn、Zn、Sb、Be、Bi、Cd、Ca、Mn、Se、Ti、W、Vのような金属との合金;及びこれらの混合物等が挙げられる。
具体的には、四三酸化鉄(Fe3O4)、三二酸化鉄(γ−Fe2O3)、酸化鉄亜鉛(ZnFe2O4)、酸化鉄イットリウム(Y3Fe5O12)、酸化鉄カドミニウム(CdFe2O4)、酸化鉄ガドリニウム(Gd3Fe5O12)、酸化鉄銅(CuFe2O4)、酸化鉄鉛(PbFe12O19)、酸化鉄ニッケル(NiFe2O4)、酸化鉄ネオジム(NdFe2O3)、酸化鉄バリウム(BaFe12O19)、酸化鉄マグネシウム(MgFe2O4)、酸化鉄マンガン(MnFe2O4)、酸化鉄ランタン(LaFeO3)、鉄粉(Fe)、コバルト粉(Co)、ニッケル粉(Ni)等が挙げられる。本発明では磁性材料として、少なくとも磁性酸化鉄を含有し、必要に応じて一種又は二種以上の他の金属を任意に選択して使用することが可能である。
このような磁性酸化鉄は、窒素吸着法によるBET比表面積が好ましくは2以上30m2/g以下、特に3以上28m2/g以下であり、更にモース硬度が5以上7以下のものが好ましい。
また、磁性酸化鉄の形状としては、8面体、6面体、球状、針状、鱗片状などがあるが、8面体、6面体、球状、不定形の如き異方性の少ないものが画像濃度を高める上で好ましい。こういった形状は、SEMなどによって確認することができる。
磁性酸化鉄の粒度としては、0.03μm以上の粒径を有する粒子を対象とした粒度の測定において、個数平均粒径が0.1μm以上0.3μm以下であり、かつ0.03μm以上0.1μm以下の粒子が40個数%以下であることが好ましい。
個数平均粒径が0.1μm未満の磁性酸化鉄を用いた磁性トナーから画像を得ると、画像の色味が赤味にシフトし、画像の黒色度が不足したり、ハーフトーン画像ではより赤味が強く感じられる傾向が強くなったりするなど、一般的に好ましいものではない。また、磁性酸化鉄の表面積が増大するために分散性が低下し、製造時に要するエネルギーが増大し、効率的ではない。また、磁性酸化鉄の着色剤としての効果が弱くなり、画像の濃度が不足することもあり、好ましいものではない。
一方、磁性酸化鉄の個数平均粒径が0.3μmを超えると、一粒子あたりの質量が大きくなるため、製造時にバインダーとの比重差の影響でトナー表面に露出する確率が高まったり、製造装置の摩耗などが著しくなる可能性が高まったり、分散物の沈降安定性などが低下するため好ましくない。
またトナー中において、該磁性酸化鉄の0.1μm以下の粒子が40個数%を超えると、磁性酸化鉄微粒子の表面積が増大して分散性が低下し、トナー中にて凝集塊を生じやすくなりトナーの帯電性を損なったり、着色力が低下したりする可能性が高まるため40個数%以下であることが好ましい。さらに30個数%以下とすると、その傾向はより小さくなるため好ましい。
また、本発明においては、磁性酸化鉄微粒子中の0.3μm以上の粒子が10個数%以下であることが好ましい。10個数%を超えると、着色力が低下し、画像濃度が低下する傾向になることに加え、同じ使用量であっても個数的に少ないためにトナーの表面近傍まで存在させること及び各トナー1粒子に均一個数を含有させることが確率的に難しくなり、好ましくない。より好ましくは5個数%以下とするのが良い。
これらの磁性酸化鉄の79.58kA/m(1kエルステッド)印加での磁気特性は、抗磁力が1.5kA/m以上12kA/m以下、飽和磁化が30Am2/kg以上120Am2/kg以下(好ましくは40Am2/kg以上80Am2/kg以下)、残留磁化が1Am2/kg以上10Am2/kg以下のものが好ましい。なお磁性体の磁気特性は、25℃,外部磁場79.6kA/mの条件下において振動型磁力計、例えばVSM P−1−10(東英工業社製)を用いて測定することができる。
本発明のトナーを重合法に適用する場合には、磁性体として使用される磁性酸化鉄微粒子は、疎水化処理されたものであることが好ましい。この疎水化処理を調整することで、磁性酸化鉄のトナー中での存在状態をコントロールできる。
磁性酸化鉄表面をカップリング剤等で処理する方法としては、乾式処理と湿式処理の二つがある。本発明ではどちらの方法で行っても良いが、水系媒体中での湿式処理方法は、気相中での乾式処理に比べ、酸化鉄粒子同士の合一が生じにくく、また疎水化処理による磁性酸化鉄間の帯電反発作用が働き、磁性酸化鉄はほぼ一次粒子の状態でカップリング剤による表面処理されるようになるため好ましい。
本発明において磁性酸化鉄の表面処理に使用できるカップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤が挙げられる。より好ましく用いられるのはシランカップリング剤であり、一般式(A)
RmSiYn (A)
[式中、Rはアルコキシ基を示し、mは1以上3以下の整数を示し、Yはアルキル基、ビニル基、メタクリル基、フェニル基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基又はこれらの誘導体を示し、nは1以上3以下の整数を示す。]
で示されるものである。例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシランを挙げることができる。
特に、式(B)
CpH2p+1−Si−(OCqH2q+1)3 (B)
[式中、pは2以上20以下の整数を示し、qは1以上3以下の整数を示す]
で示されるアルキルトリアルコキシシランカップリング剤を使用して磁性酸化鉄表面を疎水化処理するのが良い。
上記式におけるpが2より小さいと、疎水化処理は容易となるが、疎水性を十分に付与することが困難となることがあり、またpが20より大きいと、疎水性は十分になるが、磁性酸化鉄同士の合一が多くなり、トナー中へ磁性酸化鉄を十分に分散させることが困難となることがある。また、qが3より大きいと、シランカップリング剤の反応性が低下して疎水化が十分に行われにくくなることがある。
よって、式中のpが2以上20以下の整数(より好ましくは、3以上15以下の整数)を示し、qが1以上3以下の整数(より好ましくは、1又は2の整数)を示すアルキルトリアルコキシシランカップリング剤を使用するのが好ましい。その処理量は処理前の磁性酸化鉄微粒子100質量部に対して、0.05質量部以上20質量部以下、好ましくは0.1質量部以上10質量部以下とするのが良い。
磁性酸化鉄の表面処理として水系媒体中でカップリング剤により処理するには、水系媒体中で適量の磁性酸化鉄及びカップリング剤を撹拌する方法が挙げられる。
水系媒体とは、水を主要成分としている媒体である。具体的には、水系媒体として水そのもの、水に少量の界面活性剤を添加したもの、水にpH調整剤を添加したもの、水に有機溶剤を添加したものが挙げられる。界面活性剤としては、ポリビニルアルコールの如きノンイオン系界面活性剤が好ましい。界面活性剤は、水に対して0.1質量%以上5質量%以下添加するのが良い。pH調整剤としては、塩酸の如き無機酸が挙げられる。
撹拌は、例えば撹拌羽根を有する混合機(具体的には、アトライター、TKホモミキサーの如き高剪断力混合装置)で、酸化鉄微粒子が水系媒体中で、一次粒子になるように充分におこなうのが良い。
本発明においては、磁性酸化鉄の疎水性をより高めるために、カップリング剤による表面処理後のスラリーをろ過、乾燥させた後、60〜80℃の低温で熱処理を行うことができる。低温熱処理を行うことで、カップリング処理の均一性が非常に高くなり、凝集・合一のない磁性酸化鉄を得ることが可能になる。さらに、重合法によるトナー製造時において、一部カップリング処理の不十分な処理剤が単量体中へ溶出することもない。また、処理剤のはがれた磁性体同士が凝集することもなく、磁性酸化鉄が高度に一次分散されたトナーを得ることが可能になる。
こうして得られる磁性酸化鉄は表面が均一に疎水化処理されているため、重合性単量体組成物中における分散性が非常に良好であり、磁性酸化鉄の含有率が揃ったトナーを得ることができるようになる。このためトナー1粒子個々の剛性や現像耐久性も均一に高いものにできる。
本発明のトナーに用いられる磁性酸化鉄は、例えば下記方法で製造される。
硫酸第一鉄水溶液などの第一鉄塩水溶液に、鉄成分に対して当量又は当量以上の水酸化ナトリウムの如きアルカリを加え、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製する。調製した水溶液のpHをpH7以上(好ましくはpH8以上pH10以下)に維持しながら空気を吹き込み、水溶液を70℃以上に加温しながら水酸化第一鉄の酸化反応を行い、磁性酸化鉄粒子の芯となる種晶をまず生成する。
次に、種晶を含むスラリー状の液に、前に加えたアルカリの添加量を基準として約1当量の硫酸第一鉄を含む水溶液を加える。液のpHを6以上pH10以下に維持しつつ空気を吹込みながら水酸化第一鉄の反応を進め、種晶を芯にして磁性酸化鉄粒子を成長させる。酸化反応が進むにつれて液のpHは酸性側に移行していくが、液のpHは6未満にしない方が好ましい。酸化反応の終期に液のpHを調整し、磁性酸化鉄が一次粒子になるよう十分に撹拌する。カップリング剤を添加して十分に混合撹拌し、撹拌後に濾過し、乾燥し、軽く解砕することで疎水化処理磁性酸化鉄が得られる。あるいは、酸化反応終了後、洗浄、濾過して得られた酸化鉄を、乾操せずに別の水系媒体中に再分散させた後、再分散液のpHを調整し、十分撹拌しながらシランカップリング剤を添加し、カップリング処理を行っても良い。
いずれにせよ、水溶液中で生成した未処理の磁性酸化鉄を、乾燥工程を経る前の含水スラリーの状態で疎水化することが好ましい。これは、未処理の磁性酸化鉄をそのまま乾燥してしまうと粒子同士の凝集による合一が避けられず、こういった凝集状態の粉末にたとえ湿式疎水化処理を行っても均一な疎水化処理が難しいためである。
磁性酸化鉄微の製造の際に第一鉄塩水溶液に用いる第一鉄塩としては、一般的に硫酸法チタン製造に副生する硫酸鉄、鋼板の表面洗浄に伴って副生する硫酸鉄の利用が可能であり、硫酸第一鉄以外には更に塩化鉄等が可能である。
水溶液法による磁性酸化鉄の製造方法では一般に反応時の粘度の上昇を防ぐこと、及び、硫酸鉄の溶解度から鉄濃度0.5mol/L以上2mol/L以下の硫酸第一鉄水溶液が用いられる。硫酸鉄の濃度は一般に薄いほど製品の粒度が細かくなる傾向を有する。また、反応に際しては、空気量が多い程、そして反応温度が低いほど微粒化しやすい。
本発明においては、このようにして製造された疎水性磁性酸化鉄を使用することが好ましい。
本発明のトナーに用いる磁性酸化鉄は、結着樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下用いることが好ましく、より好ましくは20質量部以上180質量部以下、更に好ましくは40質量部以上160質量部以下である。磁性酸化鉄の配合量が10質量部未満ではトナーの着色力が乏しく、カブリの抑制も困難である。一方、200質量部を超えると、トナー担持体への磁力による保持が強まり現像性が低下したり、個々のトナー1粒子への磁性酸化鉄の均一な分散が難しくなったりするだけでなく、定着性が低下してしまうことがある。
本発明では、重合性単量体系にさらに樹脂を添加して重合することが好ましい。例えば、単量体では水溶性のため水性懸濁液中では溶解して乳化重合を起こすため使用できないアミノ基、カルボン酸基、水酸基、スルホン酸基、グリシジル基、ニトリル基の如き親水性官能基含有の単量体成分をトナー中に導入したい時には、これらとスチレンあるいはエチレン等ビニル化合物とのランダム共重合体、ブロック共重合体、あるいはグラフト共重合体の如き共重合体の形にして、あるいはポリエステル、ポリアミドの如き重縮合体、ポリエーテル、ポリイミンの如き重付加重合体の形で使用が可能となる。こうした極性官能基を含む高分子重合体をトナー中に共存させると、前述のワックス成分の内包化が強力となり、耐オフセット性、耐ブロッキング性、低温定着性の良好なトナーを得ることができる。その使用量としては、重合性単量体100質量部に対して1質量部以上30質量部以下が好ましい。1質量部以上使用することで添加効果が十分に得られる。一方、使用量を30質量部以内にすることで重合トナーの粒径制御が容易になり、さらに着色剤や離型剤の分散性が良好なものとなる。またこれら極性官能基を含む高分子重合体としては、数平均分子量が3000以上のものが好ましく用いられる。数平均分子量が3000以上であると、現像性、耐ブロッキング性などの保存性が良化する。また、単量体を重合して得られるトナーの分子量範囲とは異なる分子量の重合体を単量体中に溶解して重合すれば、分子量分布の広い、耐オフセット性の高いトナーを得ることができる。
本発明のトナーは、重合性単量体に添加する樹脂としてポリエステル樹脂を添加することが好ましい。ポリエステル樹脂を添加することにより、本発明の微小圧縮試験におけるX100/D1の好ましい範囲を得ることが容易になる。中でも、酸価が3mgKOH/g以上20mgKOH/g以下のポリエステル樹脂を含有することが好ましい。ポリエステル樹脂の酸価が3mgKOH/g以上であると、水系媒体中での製造においてトナー表面への相分離が促進されてワックス成分の内包化が進むため、X100/D1の値が0.6を超えることが少なくなり、保存性が高まるので好ましい。一方、酸価が20mgKOH/g以下のポリエステル樹脂を使用することで、離型剤の各トナー1粒子への均一分散性が高まるだけでなく、着色剤やその他添加剤の分散性も良好に保つことができる。このため、高温高湿環境下における長期の使用においても濃度低下やカブリの悪化がなく、良好な現像性を安定して得ることができる。
さらに、ポリエステル樹脂の重合触媒を選択することによりトナー強度を調整することができるため、本発明の微小圧縮試験におけるX100/D1の好ましい範囲を得ることがさらに容易になる。本発明のトナーに添加されるポリエステル樹脂としては、トナーに適度な強度を持たせるために、重合触媒としてポリアルカノールアミンを配位子とするチタン化合物を使用したポリエステル樹脂を添加することが好ましい。このようなポリエステルを使用すると、チタン化合物が重合反応の際に結着樹脂中に取り込まれつつ反応するため、チタン及び配位子起因の特異的な構造を取ることで、トナー強度向上効果を得ていると考えられる。
チタン含有触媒として好ましいものは、チタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)、チタニウムジヒドロキシビス(ジエタノールアミネート)、チタニルビス(トリエタノールアミネート)、これらの重縮合物、及びこれらの併用である。更に好ましくは、チタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)である。
これらのチタン含有触媒は、例えばチタニウムジアルコキシビス(アルコールアミネート)を水存在下で70℃以上90℃以下にて反応させることで安定的に得ることが出来る。
次に本発明のトナーを粉砕法によって製造する場合について説明する。
結着樹脂、磁性粉体、及び必要に応じて他の添加剤をヘンシェルミキサー、ボールミルの如き混合機により十分混合し、ニーダー、エクストルーダーの如き熱混練機を用いて溶融、捏和及び練肉して樹脂類を互いに相溶せしめ、溶融混練物を冷却固化し、その後、固化物を粉砕し、粉砕物を分級することによりトナーを得る方法が好ましい。
本発明においては、粉砕法で得られたトナーの微小圧縮試験における変位量とワックスの分散を制御するためには、多段階の表面処理工程を経ることが好ましい。具体的には、結着樹脂、着色剤、及び離型剤Bから一旦トナー粒子を作成する。このトナー粒子を離型剤Aの微粉砕物で表面処理を行い、さらに結着樹脂よりも高いガラス転移温度を有する樹脂粒子等で表面処理を行うことが好ましい。分級及び表面処理の順序はどちらが先でもよい。分級工程においては生産効率の点からは、多分割分級機を用いることが好ましい。
粉砕工程は、機械衝撃式、ジェット式等の公知の粉砕装置を用いて行うことができる。平均円形度の高い現像剤を得るためには、さらに熱をかけて粉砕したり、または補助的に機械的衝撃を加える処理をすることも好ましい。また、微粉砕(必要に応じて分級)されたトナーを熱水中に分散させる湯浴法,熱気流中を通過させる方法などを用いてもよい。
機械的衝撃力を加える方法としては、例えば川崎重工社製のクリプトロンシステムやターボ工業社製のターボミル等の機械衝撃式粉砕機を用いる方法がある。また、ホソカワミクロン社製のメカノフージョンシステムや奈良機械製作所製のハイブリダイゼーションシステム等の装置のように、高速回転する羽根によりトナーをケーシングの内側に遠心力により押しつけ、圧縮力、摩擦力等の力によりトナーに機械的衝撃力を加える方法を用いてもよい。
機械的衝撃を加える処理をする場合には、処理時の雰囲気温度をトナーのガラス転移点Tg付近の温度(すなわち、ガラス転移点Tgの±30℃の範囲の温度)とすることが、凝集防止と生産性の観点から好ましい。
本発明において、粉砕法で製造する場合に使用される結着樹脂としては、ポリエステル樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂成分とスチレン−アクリル系樹脂成分を含むハイブリッド樹脂、エポキシ樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられるが、特に限定されず従来公知の樹脂を用いることができる。このうち特に、ポリエステル樹脂及びハイブリッド樹脂などが定着性などの点で好ましい。
本発明に用いられるポリエステル樹脂の組成は以下の通りである。
2価のアルコール成分としては、以下のものが挙げられる。エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、また(A)式で表わされるビスフェノール及びその誘導体;
(式中Rはエチレンまたはプロピレン基であり、x,yはそれぞれ0以上の整数であり、かつ、x+yの平均値は0〜10である。)
(B)式で示されるジオール類;
x’,y’は、0以上の整数であり、かつ、x+yの平均値は0〜10である。)
2価の酸成分としては、以下のジカルボン酸又はその誘導体が挙げられる。フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸の如きベンゼンジカルボン酸類又はその無水物、又は低級アルキルエステル;こはく酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸の如きアルキルジカルボン酸類又はその無水物、又は低級アルキルエステル;n−ドデセニルコハク酸、n−ドデシルコハク酸の如きアルケニルコハク酸類又はアルキルコハク酸類又はその無水物、又は低級アルキルエステル;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸の如き不飽和ジカルボン酸類又はその無水物、又は低級アルキルエステル。
また架橋成分として働く3価以上のアルコール成分や3価以上の酸成分を単独で使用するか、もしくは併用することが好ましい。
3価以上の多価アルコール成分としては、以下のものが挙げられる。ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン。
他の2価アルコール類としては、以下のものが挙げられる。エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオ−ル、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールの如き炭素数2〜12のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールの如きアルキレンエ−テルグリコール類;1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールAの如き炭素数6〜30の脂環式ジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールF,ビスフェノールSの如きビスフェノール類;上記ビスフェノール類のアルキレンオキシド(EO、PO、ブチレンオキシド等)2〜8モル付加物。
他の3価以上のアルコール類としては、以下のものが挙げられる。ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンの如き炭素数3〜20の脂肪族多価アルコール;1,3,5−トリヒドロキシルメチルベンゼンの如き炭素数6〜20の芳香族多価アルコール;これらのアルキレンオキサイド付加物。
また、三価以上の多価カルボン酸成分としては、以下の多価カルボン酸及びその誘導体が挙げられる。ピロメリット酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、エンポール三量体酸、及びこれらの無水物、低級アルキルエステル;次式
(式中Xは炭素数3以上の側鎖を1個以上有する炭素数5以上30以下のアルキレン基又はアルケニレン基)
で表わされるテトラカルボン酸;これらの無水物、低級アルキルエステル。なかでも、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸およびこれらの無水物、低級アルキルエステルが好ましい。
本発明に用いられるアルコール成分としては40mol%以上60mol%以下、好ましくは45mol%以上55mol%以下、酸成分としては60mol%以上40mol%以下、好ましくは55mol%以上45mol%以下であることが好ましい。また三価以上の多価の成分は、全成分中の5mol%以上60mol%以下であることが好ましい。
該ポリエステル樹脂は、通常一般に知られている縮重合によって得られる。ポリエステル樹脂の重合反応は通常触媒の存在下温度150℃以上300℃以下、好ましくは温度170℃以上280℃以下の条件下で行われる。また反応は常圧下、減圧下、もしくは加圧下で行うことができる。
上記触媒としては、通常ポリエステル化に用いられる触媒が挙げられる。具体的には以下のものが挙げられる。スズ、チタン、アンチモン、マンガン、ニッケル、亜鉛、鉛、鉄、マグネシウム、カルシウム、ゲルマニウムの如き金属;これら金属含有化合物(ジブチルスズオキサイド、オルソジブチルチタネート、テトラブチルチタネート、酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸コバルト、酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン)。
スチレン系共重合体のスチレンモノマーに対するコモノマーとしては、以下のものが挙げられる。ビニルトルエンの如きスチレン誘導体;アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸フェニルの如きアクリル酸エステル;メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸オクチルの如きメタクリル酸エステル;マレイン酸;マレイン酸ブチル、マレイン酸メチル、マレイン酸ジメチルの如き二重結合を有するジカルボン酸エステル;アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ブタジエン;塩化ビニル、酢酸ビニル、安息香酸ビニルの如きビニルエステル;エチレン、プロピレン、ブチレンの如きエチレン系オレフィン;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトンの如きビニルケトン;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルの如きビニルエーテル。これらのビニル系単量体が単独もしくは2つ以上用いられる。
ポリエステル樹脂成分及びスチレン−アクリル系樹脂成分からなるハイブリッド樹脂を合成する場合、上述のポリエステル樹脂成分とスチレン−アクリル系樹脂成分の両方と反応し得るモノマー成分を含むことが必要である。ポリエステル樹脂成分を構成するモノマーのうちスチレン−アクリル系樹脂成分と反応し得るものとしては、例えばフマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸又はその無水物などが挙げられる。スチレン−アクリル系樹脂成分を構成するモノマーのうちポリエステル樹脂成分と反応し得るものとしては、カルボキシル基又はヒドロキシル基を有するものや、アクリル酸もしくはメタクリル酸エステル類が挙げられる。
ハイブリッド樹脂を得る方法としては、先に挙げたビニル系樹脂及びポリエステル樹脂のそれぞれと反応しうるモノマー成分を含むポリマーが存在しているところで、どちらか一方もしくは両方の樹脂の重合反応をさせることにより得る方法が好ましい。
本発明のトナーには、帯電特性を安定化するために荷電制御剤を配合しても良い。荷電制御剤としては、公知のものが利用できるが、特に帯電スピードが速く、且つ、一定の帯電量を安定して維持できる荷電制御剤が好ましい。
具体的な化合物としては、ネガ系荷電制御剤としてサリチル酸、アルキルサリチル酸、ジアルキルサリチル酸、ナフトエ酸、ダイカルボン酸の如き芳香族カルボン酸の金属化合物、アゾ染料もしくはアゾ顔料の金属塩または金属錯体、スルホン酸又はカルボン酸基を側鎖に持つ高分子型化合物、ホウ素化合物、尿素化合物、ケイ素化合物、カリックスアレーンが挙げられる。ポジ系荷電制御剤として四級アンモニウム塩、その四級アンモニウム塩を側鎖に有する高分子型化合物、グアニジン化合物、ニグロシン系化合物、イミダゾール化合物が挙げられる。これらの荷電制御剤は、結着樹脂100質量部に対して0.5以上10質量部以下使用することが好ましい。しかしながら、本発明の画像形成方法に関わるトナーは、荷電制御剤の添加は必須ではなく、トナーの層圧規制部材やトナー担持体との摩擦帯電を積極的に利用することでトナー中に必ずしも荷電制御剤を含む必要はない。
より具体的には、負帯電用として、例えばSpilon Black TRH、T−77、T−95(保土谷化学社)、BONTRON(登録商標)S−34、S−44、S−54、E−84、E−88、E−89(オリエント化学社)がより好ましいものとして挙げられ、正帯電用として、例えばTP−302、TP−415(保土谷化学社)、BONTRON(登録商標)N−01、N−04、N−07、P−51(オリエント化学社)、コピーブルーPR(クラリアント社)が好ましいものとして挙げられる。
本発明のトナーは、上述したトナー粒子に、トナーの種類に応じた種々の材料を外添して用いられる。外添される材料としては、例えば無機微粉体等のようにトナーの流動性を向上させる流動性向上剤や、金属酸化物微粒子等のようにトナーの帯電性を調整するための導電性微粉体等の外添剤が挙げられる。
上記流動性向上剤としては、トナー粒子に外添することによりトナーの流動性を向上し得るものが挙げられる。このような流動性向上剤としては、例えば湿式製法シリカ、乾式製法シリカの如き微粉末シリカ、微粉末酸化チタン、微粉末アルミナ;これらをシランカップリング剤、チタンカップリング剤、シリコーンオイル等により表面処理を施した処理シリカ、処理酸化チタン、処理アルミナ;等が挙げられる。
流動性向上剤は、BET法で測定した窒素吸着による比表面積が30m2/g以上であることが好ましく、50m2/g以上であることがより好ましい。流動性向上剤は、流動性向上剤の種類によって異なるが、例えばトナー粒子100質量部に対して0.01質量部以上5質量部以下を配合することが好ましく、0.1質量部以上3質量部以下を配合することがより好ましい。
好ましい流動性向上剤としては、ケイ素ハロゲン化合物の蒸気相酸化により生成された微粉体であり、乾式法シリカ又はヒュームドシリカと称されるものである。このようなシリカは、例えば、四塩化ケイ素ガスの酸素、水素中における熱分解酸化反応を利用するもので、基礎となる反応式は次式で示されるものである。
SiCl4+2H2+O2→SiO2+4HCl)
この製造工程において、例えば塩化アルミニウム又は塩化チタンの如き他の金属ハロゲン化合物をケイ素ハロゲン化合物と共に用いることによってシリカと他の金属酸化物の複合微粉体を得ることも可能であり、本発明で流動性向上剤として利用されるシリカ微粉体はそれらも包含する。その粒径は、平均一次粒径として0.001μm以上2μm以下の範囲内であることが好ましく、特に0.002μm以上0.2μm以下の範囲内であることがより好ましい。
ケイ素ハロゲン化合物の蒸気相酸化により生成された市販のシリカ微粉体としては、例えば以下のような商品名で市販されているもの、すなわちAEROSIL(日本アエロジル社)130、200、300、380、TT600、MOX170、MOX80、COK84;Ca−O−SiL(CABOT Co.社)M−5、MS−7、MS−75、HS−5、EH−5;Wacker HDK N 20(WACKER−CHEMIE GMBH社)V15、N20E、T30、T40;D−C Fine SiliCa(ダウコーニングCO.社);Franso1(Fransil社)等が挙げられる。
本発明では、上記シリカ微粉体は、疎水化処理されていることが好ましい。また上記シリカ微粉体は、メタノール滴定試験によって測定される疎水化度が30度以上80度以下の範囲の値を示すようにシリカ微粉体を処理したものが、トナーの濡れ性を制御する上で特に好ましい。なお上記疎水化度は、水中で撹拌されている所定量のシリカ微粉体にメタノールを滴下し、シリカ微粉体の沈降終了時におけるメタノール及び水の液状混合物中におけるメタノールの百分率として表される。シリカ微粉体の疎水化方法としては、例えばシリカ微粉体と反応し、又はシリカ微粒子に物理吸着する有機ケイ素化合物やシリコーンオイルでシリカ微粒子を化学的に処理する方法が挙げられる。より好ましくは、有機ケイ素化合物による疎水化処理である。
ここで、上記有機ケイ素化合物としては、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルシラン、トリメチルクロルシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジクロルシラン、メチルトリクロルシラン、アリルジメチルクロルシラン、アリルフェニルジクロルシラン、ベンジルジメチルクロルシラン、ブロムメチルジメチルクロルシラン、α−クロルエチルトリクロルシラン、β−クロルエチルトリクロルシラン、クロルメチルジメチルクロルシラン、トリオルガノシリルメルカプタン、トリメチルシリルメルカプタン、トリオルガノシリルアクリレート、ビニルジメチルアセトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、1,3−ジビルテトラメチルジシロキサン、1,3−ジフェニルテトラメチルジシロキサン、及び1分子当り2から12個のシロキサン単位を有し末端に位置する単位においてSiに結合する水酸基を有するジメチルポリシロキサン等が挙げられる。これらは一種あるいは二種以上の混合物で用いられる。
シリカ微粉体の疎水化処理においては、上記有機ケイ素化合物の中でもさらに窒素原子を有するシランカップリング剤の一種又は二種以上を用いることが可能である。このような含窒素シランカップリング剤としては、例えばアミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジプロピルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、モノブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジオクチルアミノプロピルジメトキシシラン、ジブチルアミノプロピルジメトキシシラン、ジブチルアミノプロピルモノメトキシシラン、ジメチルアミノフェニルトリエトキシシラン、トリメトキシシリル−γ−プロピルフェニルアミン、トリメトキシシリル−γ−プロピルベンジルアミン等が挙げられる。
なお本発明において、好ましいシランカップリング剤としてはヘキサメチルジシラザン(HMDS)が挙げられる。
またシリカ微粉体の疎水化処理で好ましく使用されるシリコーンオイルとしては、25℃における粘度が0.5以上10000mm2/s(センチストークス)以下であることが好ましく、1以上1000mm2/s以下であることがより好ましく、10以上200mm2/s以下であることがより一層好ましい。また、特に好ましいシリコーンオイルとしては、例えばジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、α−メチルスチレン変性シリコーンオイル、クロルフェニルシリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルが挙げられる。
シリコーンオイルを用いるシリカ微粉体の表面疎水化処理の方法としては、例えばシランカップリング剤で処理されたシリカ微粉体とシリコーンオイルとをヘンシェルミキサーの如き混合機を用いて直接混合する方法;ベースとなるシリカ微粉体にシリコーンオイルを噴霧する方法;適当な溶剤にシリコーンオイルを溶解又は分散せしめた後、シリカ微粉体を加え混合し溶剤を除去する方法;が挙げられる。
シリコーンオイルによってシリカ微粉体の表面疎水化処理を行う場合では、シリコーンオイルの処理後にシリカ微粉体を不活性ガス中で200℃以上(より好ましくは250℃以上)に加熱し、表面のコートを安定化させることがより好ましい。
本発明においては、シリカ微粉体の表面疎水化処理に、前述したシランカップリング剤及びシリコーンオイルの両方を用いることが可能である。このような表面疎水化処理方法としては、シリカ微粉体を予めシランカップリング剤で処理した後にシリコーンオイルで処理する方法、又はシリカ微粉体をシランカップリング剤とシリコーンオイルで同時に処理する方法等が挙げられる。
さらに、本発明中のトナーには、必要に応じて流動性向上剤以外の外部添加剤を添加してもよい。
例えば、一次粒径が30nmを超える微粒子、より好ましくは一次粒径が100nm以上で球状に近い無機微粒子または有機微粒子をさらにトナー粒子に添加することも好ましい形態の一つである。例えば球状のシリカ粒子、球状のポリメチルシルセスキオキサン粒子、球状の樹脂粒子を用いるのが好ましい。
更に他の添加剤、例えばポリフッ化エチレン粉末、ステアリン酸亜鉛粉末、ポリフッ化ビニリデン粉末の如き滑剤粉末;または酸化セリウム粉末、炭化硅素粉末、チタン酸ストロンチウム粉末の如き研磨剤;ケーキング防止剤;または例えばカーボンブラック粉末、酸化亜鉛粉末、酸化スズ粉末の如き導電性付与剤;また、逆極性の有機微粒子、及び無機微粒子を現像性向上剤として少量加えることもできる。これらの添加剤も、その表面を疎水化処理して用いることも可能である。
上述の如き外添剤は、磁性トナー粒子100質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下(好ましくは0.1質量部以上1.5質量部以下)使用するのが定着性及び帯電特性の点で好ましい。
本発明のトナーを好適に用いることの出来る画像形成装置の一例を図に沿って具体的に説明する。
図2の画像形成装置において、100は感光ドラムで、その周囲に一次帯電ローラー117、現像器140、転写帯電ローラー114、クリーナ116、レジスタローラー124等が設けられている。そして感光体100は一次帯電ローラー117によって、例えば−700Vに帯電される(印加電圧は交流電圧−2.0kVpp、直流電圧−700Vdc)。そして、レーザー発生装置121によりレーザー光123を感光体100に照射することによって露光される。感光体100上の静電潜像は現像器140によって現像され、転写材を介して感光体に当接された転写帯電ローラー114により転写材上へ転写される。トナー画像をのせた転写材は搬送ベルト125等により定着器126へ運ばれ転写材上に定着される。また、一部感光体上に残されたトナーはクリーナ116によりクリーニングされる。現像器140は図3に示すように感光体100に近接してアルミニウム、ステンレスの如き非磁性金属で作られた円筒状のトナー担持体102(以下現像スリーブと称す)が配設され、感光体100と現像スリーブ102との間隙は図示されないスリーブ/感光体間隙保持部材等により約300μmに維持されている。現像スリーブ内にはマグネットローラー104が現像スリーブ102と同心的に固定、配設されている。但し、現像スリーブ102は回転可能である。マグネットローラー104には図示のように複数の磁極が具備されており、S1は現像、N1はトナーコート量規制、S2はトナーの取り込み/搬送、N2はトナーの吹き出し防止に影響している。トナーは、トナー塗布ローラー141によって、現像スリーブ102に塗布され、付着して搬送される。搬送されるトナー量を規制する部材として弾性ブレード103が配設され、弾性ブレード103の現像スリーブ102に対する当接圧により現像領域に搬送されるトナー量が制御される。現像領域では、感光体100と現像スリーブ102との間に直流及び交流の現像バイアスが印加され、現像スリーブ上の現像剤は静電潜像に応じて感光体100上に飛翔し可視像となる。
本発明における各物性の測定法を以下に詳述する。
<微小圧縮試験における最大変位量X100>
微小圧縮試験は、(株)エリオニクス社製 超微小硬度計ENT1100を用いた。本装置は、圧子を試料へ押し込んだときの、圧子への負荷荷重と押し込み深さを負荷時、除荷時にわたり連続的に測定することにより、負荷荷重−押し込み深さ曲線を得、この曲線から微小圧縮硬度・弾性率等のデータを得るものである。該装置を用いた測定方法は、(株)エリオニクス発行のENT1100操作マニュアルに記載されているが、具体的には以下の通りである。
使用圧子は20μm×20μm四方の平圧子を用い、測定環境は温度27℃、湿度60%RHで測定する。最大荷重を9.8×10−4Nに設定し、9.8×10−5N/secのスピードで荷重を掛ける。最大荷重(9.8×10−4N)に到達後、0.1secの間、その荷重で放置する。該最大荷重到達後0.1sec経過時に変位している量を最大変位量X100(μm)とする。
実際の測定はセラミックセル上に樹脂粒子を塗布し、樹脂粒子がセル上に分散するように微小なエアーを吹き付ける。そのセルを装置にセットして測定する。
測定は、装置付帯の顕微鏡を覗きながら測定用画面(横幅:160μm 縦幅:120μm)に樹脂粒子が1粒子で存在しているもの選択する。変位量の誤差を極力無くすため、樹脂粒子径が個数平均粒径D1の±0.20μmのものを選択して測定する。なお、測定用画面から任意の樹脂粒子を選択するが、粒子径の測定手段は超微小硬度計ENT1100付帯のソフトを用いて樹脂粒子の長径と短径を測定し、それらから求められるアスペクト比[(長径+短径)/2]をD(μm)とした。
測定に際しては、粒子径が上記条件を満たす任意の樹脂粒子100個を選んで最大変位量X100を測定し、得られた最大変位量X100(μm)の最大値、及び最小値から大きい順番又は小さい順番にそれぞれ10個のトナーを除いた残り80個のトナーをデータとして使用する。該選択されたトナー80個について算術平均値を求め、X100とする。
<離型剤の融点>
離型剤の融点は、示差走査熱量分析装置「Q1000」(TA Instruments社製)を用いてASTM D3418−82に準じて測定する。
装置検出部の温度補正はインジウムと亜鉛の融点を用い、熱量の補正についてはインジウムの融解熱を用いる。
具体的には、離型剤約10mgを精秤し、これをアルミニウム製のパンの中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製のパンを用い、測定温度範囲30〜200℃の間で、昇温速度10℃/minで測定を行う。尚、測定においては、一度200℃まで昇温させ、続いて30℃まで降温し、その後に再度昇温を行う。この2度目の昇温過程での温度30〜200℃の範囲におけるDSC曲線の最大の吸熱ピーク温度を、本発明の離型剤の融点とする。
<離型剤、及びポリエステル樹脂の酸価>
酸価は試料1gに含まれる酸を中和するために必要な水酸化カリウムのmg数である。結着樹脂の酸価はJIS K 0070−1992に準じて測定されるが、具体的には、以下の手順に従って測定する。
(1)試薬の準備
フェノールフタレイン1.0gをエチルアルコール(95vol%)90mlに溶かし、イオン交換水を加えて100mlとし、フェノールフタレイン溶液を得る。
特級水酸化カリウム7gを5mlの水に溶かし、エチルアルコール(95vol%)を加えて1lとする。炭酸ガス等に触れないように、耐アルカリ性の容器に入れて3日間放置後、ろ過して、水酸化カリウム溶液を得る。得られた水酸化カリウム溶液は、耐アルカリ性の容器に保管する。前記水酸化カリウム溶液のファクターは、0.1モル/l塩酸25mlを三角フラスコに取り、前記フェノールフタレイン溶液を数滴加え、前記水酸化カリウム溶液で滴定し、中和に要した前記水酸化カリウム溶液の量から求める。前記0.1モル/l塩酸は、JIS K 8001−1998に準じて作成されたものを用いる。
(2)操作
(A)本試験
粉砕した離型剤、ポリエステル樹脂の試料2.0gを200mlの三角フラスコに精秤し、トルエン/エタノール(2:1)の混合溶液100mlを加え、5時間かけて溶解する。次いで、指示薬として前記フェノールフタレイン溶液を数滴加え、前記水酸化カリウム溶液を用いて滴定する。尚、滴定の終点は、指示薬の薄い紅色が約30秒間続いたときとする。
(B)空試験
試料を用いない(すなわちトルエン/エタノール(2:1)の混合溶液のみとする)以外は、上記操作と同様の滴定を行う。
(3)得られた結果を下記式に代入して、酸価を算出する。
A=[(C−B)×f×5.61]/S
ここで、A:酸価(mgKOH/g)、B:空試験の水酸化カリウム溶液の添加量(ml)、C:本試験の水酸化カリウム溶液の添加量(ml)、f:水酸化カリウム溶液のファクター、S:試料(g)である。
<ポリエステル樹脂の分子量分布>
ポリエステル樹脂の分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、以下のようにして測定する。
まず、室温で24時間かけて、ポリエステル樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解する。そして、得られた溶液を、ポア径が0.2μmの耐溶剤性メンブランフィルター「マエショリディスク」(東ソー社製)で濾過してサンプル溶液を得る。尚、サンプル溶液は、THFに可溶な成分の濃度が約0.8質量%となるように調整する。このサンプル溶液を用いて、以下の条件で測定する。
装置:HLC8120 GPC(検出器:RI)(東ソー社製)
カラム:Shodex KF−801、802、803、804、805、806、807の7連(昭和電工社製)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0ml/min
オーブン温度:40.0℃
試料注入量:0.10ml
試料の分子量の算出にあたっては、標準ポリスチレン樹脂(例えば、商品名「TSKスタンダード ポリスチレン F−850、F−450、F−288、F−128、F−80、F−40、F−20、F−10、F−4、F−2、F−1、A−5000、A−2500、A−1000、A−500」、東ソ−社製)を用いて作成した分子量校正曲線を使用する。
<粒径>
トナーの個数平均粒径(D1)は、以下のようにして算出する。測定装置としては、100μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)を用いる。測定条件の設定及び測定データの解析は、付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)を用いる。尚、測定は実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで行なう。
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。
尚、測定、解析を行なう前に、以下のように専用ソフトの設定を行なった。
専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更」画面において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。「閾値/ノイズレベルの測定ボタン」を押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、「測定後のアパーチャーチューブのフラッシュ」にチェックを入れる。
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定」画面において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μmから60μmまでに設定する。
具体的な測定法は以下の通りである。
(1)Multisizer 3専用のガラス製250ml丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mlを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行なう。そして、専用ソフトの「アパーチャーのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100ml平底ビーカーに前記電解水溶液約30mlを入れる。この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で約3質量倍に希釈した希釈液を約0.3ml加える。
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispension System Tetora150」(日科機バイオス社製)を準備する。超音波分散器の水槽内に約3.3lのイオン交換水を入れ、この水槽中にコンタミノンNを約2ml添加する。
(4)前記(2)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(5)前記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。尚、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した前記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナーを分散した前記(5)の電解質水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行なう。
(7)測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行ない、個数平均粒径(D1)を算出する。尚、専用ソフトでグラフ/個数%と設定したときの、「分析/個数統計値(算術平均)」画面の「平均径」が個数平均粒径(D1)である。
<平均円形度>
トナーの平均円形度は、フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000」(シスメックス社製)によって、校正作業時の測定及び解析条件で測定する。
具体的な測定方法は、以下の通りである。まず、ガラス製の容器中に予め不純固形物などを除去したイオン交換水約20mlを入れる。この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で約3質量倍に希釈した希釈液を約0.2ml加える。更に測定試料を約0.02g加え、超音波分散器を用いて2分間分散処理を行い、測定用の分散液とする。その際、分散液の温度が10℃以上40℃以下となる様に適宜冷却する。超音波分散器としては、発振周波数50kHz、電気的出力150Wの卓上型の超音波洗浄器分散器(例えば「VS−150」(ヴェルヴォクリーア社製))を用い、水槽内には所定量のイオン交換水を入れ、この水槽中に前記コンタミノンNを約2ml添加する。
測定には、標準対物レンズ(10倍)を搭載した前記フロー式粒子像分析装置を用い、シース液にはパーティクルシース「PSE−900A」(シスメックス社製)を使用した。前記手順に従い調整した分散液を前記フロー式粒子像分析装置に導入し、HPF測定モードで、トータルカウントモードにて3000個のトナーを計測する。そして、粒子解析時の2値化閾値を85%とし、解析粒子径を円相当径1.985μm以上、39.69μm未満に限定し、トナーの平均円形度を求める。
測定にあたっては、測定開始前に標準ラテックス粒子(例えば、Duke Scientific社製の「RESEARCH AND TEST PARTICLES Latex Microsphere Suspensions 5200A」をイオン交換水で希釈)を用いて自動焦点調整を行う。その後、測定開始から2時間毎に焦点調整を実施することが好ましい。
なお、本願実施例では、シスメックス社による校正作業が行われた、シスメックス社が発行する校正証明書の発行を受けたフロー式粒子像分析装置を使用した。解析粒子径を円相当径1.985μm以上、39.69μm未満に限定した以外は、校正証明を受けた時の測定及び解析条件で測定を行った。
以下、本発明を製造例及び実施例により具体的に説明するが、これは本発明をなんら限定するものではない。尚、以下の配合における部数は全て質量部である。
<本発明で使用する離型剤>
本発明の実施例において使用した離型剤を以下の表1に示す。
<チタン含有触媒1乃至3の合成>
冷却管、撹拌機及び液中バブリング可能な窒素導入管の付いた反応槽中に、チタニウムジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)1617部とイオン交換水126部を入れ、窒素にて液中バブリング下、90℃まで徐々に昇温し、90℃で4時間反応(加水分解)させることで、表2に示すチタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)[チタン含有触媒1]を得た。
また、試薬を変更して同様の操作をすることで、表2に示すチタン含有触媒2及び3を合成した。
<ポリエステル樹脂1乃至6の合成>
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、下記成分を入れ、230℃で窒素気流下に生成する水を留去しながら10時間反応させた。
ビスフェノールA EO 2モル付加物 350部
ビスフェノールA PO 2モル付加物 326部
テレフタル酸 278部
チタン含有触媒1 2部
次いで5〜20mmHgの減圧下に反応させ、酸価が2以下になった時点で180℃に冷却し、無水トリメリット酸62部を加え、常圧密閉下2時間反応後取り出し、室温まで冷却後、粉砕してポリエステル樹脂1を得た。ポリエステル樹脂と触媒の対応及び物性を表3に示す。
また、表3のように触媒を変更し、また無水トリメリット酸の添加量を調整すること以外は同様の操作を行って、ポリエステル樹脂2乃至6を合成した。
<磁性酸化鉄の製造例1>
硫酸第一鉄水溶液中に、鉄イオンに対して1.0当量の苛性ソーダ溶液(Feに対しP換算で1質量%のヘキサメタリン酸ナトリウムを含有)を混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。水溶液をpH9に維持しながら、空気を吹き込み、80℃で酸化反応を行い、種晶を生成させるスラリー液を調製した。
次いで、このスラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し1.0当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた後、スラリー液をpH8に維持して、空気を吹込みながら酸化反応を進め、酸化反応の終期にpHを約6に調整し、シランカップリング剤として、n−C6H13Si(OCH3)3を磁性酸化鉄100部に対し0.6部添加し、十分撹拌した。生成した疎水性酸化鉄粒子を常法により洗浄、濾過、乾燥した。凝集している粒子を解砕処理した後、温度70℃で5時間熱処理を行って、表4に示す磁性酸化鉄1を得た。
磁性酸化鉄1の平均粒径は0.26μm、磁場79.6kA/m(1000エルステッド)における飽和磁化及び残留磁化が67.3Am2/kg(emu/g)、4.0Am2/kg(emu/g)であった。
<磁性酸化鉄の製造例2>
磁性酸化鉄の製造例1において、解砕処理後の熱処理を行わなかった以外は同様にして、表4に示す磁性酸化鉄2を得た。
<トナー1の製造>
イオン交換水720部に0.1M−Na3PO4水溶液450部を投入し温度60℃に加温した後、1.0M−CaCl2水溶液67.7部を添加して分散安定剤を含む水系媒体を得た。得られた水系分散媒のpHを、pH10.8に調整した。
スチレン 79部
n−ブチルアクリレート 21部
ジビニルベンゼン 0.5部
ポリエステル樹脂1 10部
負荷電制御剤・T−77(保土ヶ谷化学製) 1部
磁性酸化鉄1 90部
上記処方をアトライター(三井三池化工機(株))を用いて均一に分散混合した。この単量体組成物を温度60℃に加温し、そこに表4に示す離型剤1と離型剤4をそれぞれ10部添加して混合溶解し、これに重合開始剤ベンゾイルパーオキサイド6部を溶解して重合性単量体組成物とした。
前記水系媒体中に上記重合性単量体組成物を投入し、温度60℃、N2雰囲気下においてTK式ホモミキサー(特殊機化工業(株))にて10,000rpmで15分間撹拌し、造粒した。その後パドル撹拌翼で撹拌しつつ、温度70℃で1段目の反応を行った。2時間後(このときの重合転化率は85%であった)、反応液のpHを6.3に調整した後、温度を80℃に昇温して2段目の反応を行い、そのまま3時間攪拌した。
反応終了後、懸濁液を冷却し、塩酸を加えて分散剤を溶解し、濾過、水洗、乾燥してトナー粒子1を得た。
トナー粒子1を100部と、一次粒径12nmのシリカにヘキサメチルジシラザンで処理をした後シリコーンオイルで処理し、処理後のBET比表面積値が120m2/gの疎水性シリカ微粉体1.0部をヘンシェルミキサー(三井三池化工機(株))を用い混合し、トナー1を調製した。トナー1の物性を表5に示す。
<トナー2乃至14の製造>
トナー1の製造において、表5に示すように、使用する離型剤、ポリエステル樹脂及び磁性酸化鉄の種類や量を変更し、さらには反応条件を変更して、トナー2乃至14を得た。トナー2乃至14の物性を表5に示す。
<トナー15の製造>
スチレン/n−ブチルアクリレート共重合体(質量比79/21) 100部
(Mp=14000 Mw=270000 Mw/Mn=22.1 Tg=56℃)
離型剤4 5部
磁性酸化鉄1 90部
負荷電制御剤・T−77(保土ヶ谷化学製) 2部
上記材料をブレンダーにて混合し、110℃に加熱した2軸エクストルーダーで溶融混練し、冷却した混練物をハンマーミルで粗粉砕し、粗粉砕物をターボミル(ターボ工業社製)で微粉砕し、得られた微粉砕物を風力分級してトナー母粒子を得た。その後該トナー母粒子202部に対して、離型剤1を微粉砕して得られた中心粒径10μmのワックス微粉砕物5部を外添し、衝撃式表面処理装置(処理温度55℃、回転式処理ブレード周速90m/sec.)を用いてワックスを表面に固着させてワックス固着トナー母粒子を得た。
さらにワックス固着トナー母粒子100部に対して乳化粒子(スチレン−メタクリル酸、Mn=6800、Mw=32000、粒径0.05μm、Tg=73℃)8部を外添した後、衝撃式表面処理装置(処理温度50℃、回転式処理ブレード周速90m/sec.)を用いて固着・被膜形成を行い、被膜トナー粒子を得た。得られた被膜トナー粒子100部にトナー1の製造と同様にして、疎水性シリカ微粉体1.4部を外添し、トナー15を調製した。得られたトナー15の物性を表5に示す。
<トナー16の製造>
(離型剤微粒子分散液1の調製)
脱塩水78.33部、離型剤1を10部、離型剤4を10部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.7部を混合し、90℃にて高圧剪断をかけ乳化し、離型剤微粒子分散液1を得た。平均粒径は340nmであった。
(樹脂微粒子分散液1の調製)
反応器(高剪断撹拌装置付き、容積1リットルフラスコ)に、イオン交換水150部、非イオン性界面活性剤(三洋化成(株)製:ノニポール400)1.5部及びアニオン性界面活性剤(第一工業製薬(株)製:ネオゲンSC)3.5部を添加した。
次いで
・スチレン 79部
・nブチルアクリレート 21部
・アクリル酸 3部
・オクタンチオール 0.35部
・四臭化炭素 0.7部
以上を混合し、溶解したものを、反応器に添加し、ゆっくりと混合しながら、これに過硫酸アンモニウム5部を溶解したイオン交換水10部を10分間かけて滴下した。10分後、内容物を撹拌しながら内容物が75℃になるまでオイルバスで加熱し、1時間後さらに70℃に昇温して4時間窒素雰囲気下にて乳化重合を継続した。所定時間後、毎分2℃の降温速度にて室温になるまで冷却を行った。こうして、平均粒径が0.07μmである樹脂粒子を分散させてなる樹脂粒子分散液1を調製した。
(着色剤微粒子分散液1の調製)
・磁性酸化鉄1 100部
・アニオン性界面活性剤 2部
(第一工業製薬(株)製:ネオゲンSC)
・イオン交換水 78部
以上を混合し、サンドグラインダーミルを用いて分散した。
(帯電制御微粒子分散液1の調製)
・アゾ染料の鉄錯体: 15部
(T−77、保土ヶ谷化学社製)
・アニオン性界面活性剤 2部
(第一工業製薬(株)製:ネオゲンSC)
・イオン交換水 78部
以上を混合し、サンドグラインダーミルを用いて分散した。この帯電制御微粒子分散液1における粒度分布を、粒度測定装置(堀場製作所製、LA−920)を用いて測定したところ、含まれる帯電制御粒子の平均粒径は、0.2μmであり、また1μmを超える粗大粒子は観察されなかった。
(ポリエステル樹脂分散液1の調整)
ポリエステル樹脂6:40gをイオン交換水360gに加え、90℃に加熱後、5%のアンモニア水でpH=7に調整し、10%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液0.8gを加えながら、Ultra Turrax T−50(IKA製)を用いて、8000rpmで攪拌し、中心径0.3μmのポリエステル樹脂分散液1を作製した。得られた分散液を凍結乾燥し、GPCで分子量を確認したところ、Mw=9800、Mn=3500であり、加水分解の無いことを確認した。
(トナー製造例)
・樹脂微粒子分散液1 360部
・着色剤微粒子分散液1 40部
・離型剤微粒子分散液1 100部
・ポリエステル樹脂分散液1 100部
・帯電制御粒子分散液1 7部
・アニオン性界面活性剤 2部
(第一工業製薬(株)製:ネオゲンSC)
上記の各成分を用いて、以下の手順によりトナーを製造した。反応器(容積1リットルフラスコ、バッフル付きアンカー翼)に樹脂微粒子分散液1とアニオン性界面活性剤を仕込み、均一に混合してから着色剤微粒子分散液を添加し、均一に混合した。得られた混合分散液を撹拌しながら硫酸アルミニウム水溶液を固形分として0.6部、滴下した(凝集工程)。
滴下終了後、窒素を用いて系内を置換し、50℃にて1時間、さらに55℃にて1時間保持した。所定時間終了後、離型剤微粒子分散液1、硫酸アルミニウム水溶液(固形分として0.6部)を添加してから60℃にて1時間保持した。さらにポリエステル樹脂分散液1、帯電制御微粒子分散液、硫酸アルミニウム水溶液(固形分として0.6部)を添加してから60℃にて1時間、90℃にて30分保持した(熱融着工程)。所定時間終了後、1時間当たり75質量部の飽和水蒸気(スチーム圧力205kPa:温度120℃)を内容物中に直接導入した。飽和水蒸気の導入を開始してから10分後、容器内の内容物の温度は100℃に達した。重合用容器内温度が100℃に達した3時間後、反応液を冷却した。
更に、ろ別、洗浄、乾燥の後、分級によって粒子径を調整してトナー粒子を得た。得られたトナー粒子100部にトナー1の製造と同様にして、疎水性シリカ微粉体1.4部を外添し、トナー16を調製した。得られたトナー16の物性を表5に示す。
<比較トナー1乃至8の製造>
トナー1の製造において、表5に示すように、使用する離型剤、ポリエステル樹脂及び磁性酸化鉄の種類や量を変更し、さらには反応条件を変更して、比較トナー1乃至8を得た。比較トナー1乃至8の物性を表5に示す。
<比較トナー9の製造>
ポリエステル樹脂 86部
(Tg=63℃ Mw=10700 Mn=3800 SP値=10.7)
下記(A)、(B)、および(A)に(B)の構成モノマーがグラフト
したグラフト重合体が重量比2.6/4.7/92.7で
構成されたもの 8部
(A)表4に示す離型剤1
(B)スチレン−アクリル酸エチル−アクリロニトリル共重合樹脂
(平均エステル基濃度=32%、Tg=63℃、SP値=10.7)
表4に示す離型剤8 6部
磁性酸化鉄1 90部
サリチル酸金属化合物 2重量部
上記材料をブレンダ−にて混合し、110℃に加熱した2軸エクストルーダーで溶融混練し、冷却した混練物をハンマーミルで粗粉砕し、粗粉砕物をターボミル(ターボ工業社製)で微粉砕し、得られた微粉砕物を風力分級して体積平均粒径が8.3μmのトナー粒子を得た。得られたトナー粒子100部にトナー1の製造と同様にして、疎水性シリカ微粉体1.2部および酸化チタン0.8部を添加混合し、比較トナー9とした。比較トナー9の物性を表5に示す。
<実施例1>
画像形成装置として市販のデジタル複写機(IR−5075N キヤノン製)を使用した。トナー1を使用し、常温常湿環境下(温度23℃、湿度50%RH)及び高温高湿環境下(温度32.5℃、湿度80%RH)において、印字比率4%のテストチャートを用いて、20万枚の連続プリント試験を行った。また、低温定着性、低温オフセット性については低温低湿環境下(温度15℃、湿度10%RH)において評価を行った。
その結果、耐久試験を通してトナー担持体への部材融着の発生もなく、画像濃度が高くカブリの無い高品位な画像を得ることができた。また、定着性も非常に良好であった。常温常湿環境下での耐久評価結果と、低温低湿環境下での定着性評価結果を表6に、高温高湿環境下での耐久評価結果を表7に示す。
本発明の実施例、ならびに、比較例中に記載の評価項目とその判断基準について述べる。
(画像濃度)
画像濃度はベタ画像部を形成し、このベタ画像をマクベス反射濃度計(マクベス社製)にて測定を行った。
(カブリ)
カブリの測定は、東京電色社製のREFLECTMETER MODEL TC−6DSを使用して測定した。フィルターは、グリーンフィルターを用い、カブリは下記の式より算出した。
カブリ(反射率)(%)=標準紙上の反射率(%)−サンプル非画像部の反射率(%)
なお、カブリの判断基準は以下の通り。
A:非常に良好(1.5%未満)
B:良好(1.5%以上2.5%未満)
C:普通(2.5%以上4.0%未満)
D:悪い(4%以上)
(部材融着)
トナー担持体への部材融着の評価は、上記連続プリント試験後のトナー担持体上を目視観察して、以下の基準にて評価した。
A:融着していない
B:わずかに融着が発生しているが、画像には表れないレベルであり実用上問題なし。
C:融着が発生しており、画像上にもスジが生じている。
(保存安定性)
トナーの保存安定性は、トナー10gを55℃の環境に72時間放置した後、以下の基準で評価した。
A:流動性に優れ良好。
B:凝集塊があるが、すぐにほぐれる。
C:凝集塊があり、ややほぐれにくい。
D:流動性がない、または一部ケーキングを生じている。
E:全体にケーキングしている。
(低温定着性)
評価には、定着ユニットを定着温度が調整できるように改造した改造定着器を用いた。低温低湿(温度15℃,湿度10%RH)環境下にてXerox75g/m2紙を用いて評価を行った。未定着画像のトナーのり量が0.6mg/cm2となるように調整した後、温度160以上230℃以下の範囲を温度5℃間隔で設定した定着温度で、A4紙中に5cm角のベタ画像を9点出力させた。その画像を4.9kPaの荷重をかけたシルボン紙で5回往復し、濃度低下率が15%以上となる温度を定着下限温度として評価した。
A:定着下限温度が、180℃未満
B:定着下限温度が、180℃以上、185℃未満
C:定着下限温度が、185℃以上、190℃未満
D:定着下限温度が、190℃以上、195℃未満
E:定着下限温度が、195℃未満
(低温オフセット性)
評価には、定着ユニットを定着温度が調整できるように改造した改造定着器を用いた。低温低湿(温度15℃,湿度10%RH)環境下にてXerox90g/m2紙を用いて評価を行った。定着温度を180℃及び200℃に設定し、定着器が50℃以下のコールド状態から一枚目の画像を用いて評価を行った。画像は、未定着画像のトナーのり量が0.6mg/cm2となるように調整した後、A4横置きで先端から5cmの全域がベタ黒、それ以外がベタ白という画像を出力させた。この際の白地部に現れるオフセットのレベルを目視確認した。A,BおよびCは使用上問題とならないレベルであるが、DおよびEは使用上問題となるレベルである。
A:オフセットが全く発生しない
B:定着温度180℃で、A4縦置きで通紙した部分以外の端部にうっすらとオフセットが発生した。
C:定着温度180℃で、長手方向全域に、オフセットが発生した。
D:定着温度200℃で、A4縦置きで通紙した部分以外の端部にうっすらとオフセットが発生した。
E:定着温度200℃で、長手方向全域に、オフセットが発生した。
<実施例2乃至16>
トナーとして、トナー2乃至16を使用し、実施例1と同様の条件で定着性評価及び現像耐久性評価を行った。その結果、初期の画像特性も問題なく、耐久終了までいずれも大きな問題のない結果が得られた。常温常湿環境下での耐久評価結果と、低温低湿環境下での定着性評価結果を表6に、高温高湿環境下での耐久評価結果を表7に示す。
<比較例1乃至9>
トナーとして、比較トナー1乃至9を使用し、実施例1と同様の条件で定着性評価及び現像耐久性評価を行った。その結果、比較トナー1乃至3及び5、8については低温定着性または低温オフセット性のレベルが悪かった。比較トナー4、6、7、9については、低温定着性は良好なものの耐久濃度安定性やトナー担持体への部材融着が著しく悪化した。常温常湿環境下での耐久評価結果と、低温低湿環境下での定着性評価結果を表6に、高温高湿環境下での耐久評価結果を表7に示す。