JP5310503B2 - 燃料電池システム - Google Patents

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Description

本発明は、燃料電池システムの制御に関するものである。
燃料電池においては、単セルの加湿度は、発電状態に影響を与えることが知られている。また、電圧低下を起こした単セルの加湿不足の判断および加湿過剰の判断を、単セルの積層位置によらず行うことができる燃料電池の加湿状態判定装置が知られている(例えば特許文献1)。この加湿状態判定装置では、電圧低下を起こした単セルに隣接する単セルの電圧に基づいて加湿不足か加湿過剰かを判断している。
特開2007−265956号公報
しかし、従来から、燃料電池スタック内部の乾燥の状態を推定するとともに、この推定に基づいて燃料電池システムを適切に制御できるような様々な工夫が更に望まれていた。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決し、簡単な構成で燃料電池スタック内部の乾燥状態を推定して、燃料電池システムを適切に制御することを一つの目的とする。また、簡単な構成で、燃料電池スタック内部が乾燥状態なのか、水溜まり状態なのかを推定し、その原因に応じて燃料電池システムを適切に制御することを他の目的とする。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
燃料電池システムであって、積層された複数の単セルを含む燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに酸化ガスを供給する酸化ガス供給系と、前記燃料電池スタックに、前記酸化ガスが流れる方向と交わる方向に流れる冷媒を供給する冷却系と、前記燃料電池スタックから排出される冷媒の温度を、前記酸化ガスの流れの上流部と下流部においてそれぞれ測定する温度測定部と、前記2つの冷媒温度の差を用いて前記燃料電池スタックの乾燥状態を判断し、前記燃料電池スタック内が乾燥している場合には、前記燃料電池スタックの乾燥を抑制する乾燥抑制運転を実行する制御部と、を備える燃料電池システム。
この適用例によれば、酸化ガスの流れの上流部と下流部において測定された、燃料電池スタックから排出された冷媒の温度差を用いて燃料電池スタック内の乾燥を推定するので、簡単な構成で燃料電池スタック内部の乾燥の状態を推定して、燃料電池の発電を適切に制御することが可能となる。
[適用例2]
適用例1に記載の燃料電池システムにおいて、前記制御部は、前記乾燥抑制運転として、
(1)前記燃料電池スタックへの前記酸化ガスの供給量を減少する、
(2)前記燃料電池スタックから排出される酸化排ガスの背圧を上げる、
(3)前記燃料電池スタックに供給される冷媒の量を増加する、
(4)前記燃料電池スタックに供給される冷媒の温度を下げる、
のうち少なくとも1つを実行する、燃料電池システム。
この適用例によれば、燃料電池スタック内の乾燥を抑制、緩和することが可能となる。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の燃料電池システムにおいて、前記制御部は、前記2つの冷媒温度の差があらかじめ定められた差分値よりも小さくなった場合には、前記乾燥抑制運転を行い、前記2つの冷媒温度の差が前記あらかじめ定められた差分値以上になった場合には、前記乾燥抑制運転を停止する、燃料電池システム。
この適用例によれば、排出される2つの冷媒温度の差があらかじめ定められた値よりも小さくなった場合には、燃料電池スタックが乾燥していると判断できるので、簡単な構成で燃料電池スタック内部の乾燥状態を推定して、燃料電池の発電を適切に制御することが可能となる。
[適用例4]
請求項1から請求項3のうちのいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、さらに、前記燃料電池スタックにおける前記酸化ガスの圧力損失を測定する圧力損失測定部を備え、前記制御部は、前記2つ冷媒温度の差があらかじめ定められた差分値よりも小さくなり、かつ、前記酸化ガスの前記燃料電池スタック内の圧力損失があらかじめ定められた損失値よりも小さくなった場合には、
(3)前記燃料電池スタックに供給される冷媒の量を増加する、
(4)前記燃料電池スタックに供給される冷媒の温度を下げる、
のうち少なくとも一方を含む乾燥抑制運転を実行する、燃料電池システム。
この適用例によれば、燃料電池がさらに乾燥したときに、酸化ガスの圧力損失によりそれを検知して、燃料電池の発電を適切に制御することが可能となる。
[適用例5]
適用例3に記載の燃料電池システムにおいて、前記制御部は、前記乾燥抑制運転を行っていないときと、前記乾燥抑制運転を行っていると、の間で異ならせるパラメータの値の差である調整量を、前記2つの冷媒温度の差が小さいほど、大きくする、燃料電池システム。
この適用例によれば、冷媒の温度の差が小さいほど乾燥が進んでいると判断できるので、調整量を大きくすることにより、早期に乾燥状態から回復させることが可能となる。
[適用例6]
適用例4に記載の燃料電池システムにおいて、前記制御部は、前記乾燥抑制運転を行っていないときと、前記乾燥抑制運転を行っていると、の間で異ならせるパラメータの値の差である調整量を、前記酸化ガスの前記燃料電池スタック内の圧力損失が小さいほど、大きくする、燃料電池システム。
この適用例によれば、酸化ガスの前記燃料電池スタック内の圧力損失が小さいほど乾燥が進んでいると判断できるので、調整量を大きくすることにより、早期に乾燥状態から回復させることが可能となる。
[適用例7]
適用例1から適用例6のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、さらに、前記単セル毎の起電力を測定する電圧計を備え、前記制御部は、前記各単セルの起電力の大きさに基づいて乾燥している単セルの位置を検出し、前記乾燥している単セルの位置に基づいて、前記乾燥抑制運転を行っていないときと、前記乾燥抑制運転を行っているときと、の間で異ならせるパラメータの値を補正するための第1の補正係数を決定し、前記第1の補正係数を用いて前記パラメータの値を補正する、燃料電池システム。
この適用例によれば、乾燥した単セルの積層方向の位置に基づいて制御するパラメータの値を補正するので、乾燥した単セルの乾燥の抑制、緩和を促進し、燃料電池の発電を適切に制御することが可能となる。
[適用例8]
適用例7に記載の燃料電池システムにおいて、前記制御部は、前記第1の補正係数を用いて前記酸化ガスの供給量を補正する、燃料電池システム。
この適用例によれば、乾燥した単セルの積層方向の位置により、酸化ガスの供給量を補正することにより、燃料電池の発電を適切に制御することが可能となる。
[適用例9]
適用例7または適用例8に記載の燃料電池システムにおいて、さらに、前記制御部は、前記乾燥している単セルの位置に基づいて、前記燃料電池スタックの出口部における前記酸化ガスの背圧を補正するための第2の補正係数を決定し、前記第2の補正係数を用いて、前記背圧の大きさを補正する、燃料電池システム。
この適用例によれば、乾燥した単セルの積層方向の位置により、酸化ガスの背圧を補正することにより、燃料電池の発電を適切に制御することが可能となる。
[適用例10]
燃料電池システムであって、積層された複数の単セルを含む燃料電池スタックと、前記単セル毎の起電力を測定する電圧計と、前記燃料電池スタックに供給される酸化ガスの流量を取得する流量取得部と、前記燃料電池スタックに供給する酸化ガスの圧力、流量を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、いずれかの単セルの電圧低下を検知した場合には、前記燃料電池スタックに供給する酸化ガスの流量が、前記酸化ガスの流量を増大させると前記単セルの電圧が上がる第1の酸化ガス流量領域と、前記酸化ガスの流量を増大させると前記単セルの電圧が下がる第2の酸化ガス流量領域のいずれにあるかを判断し、前記第1の酸化ガス流量領域にある場合には、前記単セルの近傍の他の単セルの電圧が、あらかじめ定められた電圧よりも高い場合には、水排出運転を実行し、前記あらかじめ定められた電圧よりも低い場合には、乾燥抑制運転を実行し、前記第2の酸化ガス流量領域にある場合には、前記単セルの近傍の他の単セルの電圧が、あらかじめ定められた電圧よりも高い場合には、前記乾燥抑制運転を実行し、前記あらかじめ定められた電圧よりも低い場合には、前記水排出運転を実行する、燃料電池システム。
この適用例によれば、単セルの電圧低下の原因が、乾燥によるものか、水溜まりによるものか、を判断し、それぞれに適した制御を行うことが可能となる。
[適用例11]
燃料電池システムであって、燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに供給される酸化ガスの流量を取得する流量取得部と、前記燃料電池スタックから排出される酸化排ガスの温度を取得する温度取得部と、前記燃料電池スタックに供給する酸化ガスの圧力、流量を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記酸化ガスの流量と、前記酸化ガスの温度とを用いて、前記燃料電池スタック内の乾燥状態を判断し、前記乾燥状態に基づいて前記燃料電池スタックへの前記酸化ガスの供給、排出を制御する、燃料電池システム。
この適用例によれば、簡単な構成で燃料電池スタック内部の水分布を推定して、燃料電池の発電を適切に制御することが可能となる。
[適用例12]
適用例11に記載の燃料電池システムおいて、前記制御部は、あらかじめ定められた期間における前記酸化ガスの流量の変化があらかじめ定められた範囲内にある準定常状態か否かを判断し、前記酸化ガスの流量が準定常状態にある場合には、前記酸化ガスの温度があらかじめ定められた温度より大きい場合に、乾燥抑制運転を実行し、前記酸化ガスの流量が準定常状態にない場合に、前記酸化ガスの流量が増加傾向にあり、かつ、前記あらかじめ定められた期間における酸化ガスの温度の下がり幅があらかじめ定められた温度よりも大きい場合に、前記乾燥抑制運転を実行する、燃料電池システム。
この適用例によれば、簡単な構成で燃料電池スタック内部の水分布を推定して、燃料電池の発電を適切に制御することが可能となる。なお、酸化ガス流量が準定常状態の場合には水の気化量と、凝集量は釣り合っていると判断でき、酸化排ガスの温度が高いほど水の排出量が大きいので、燃料電池スタック内が乾燥し易いと言える。また、酸化ガスの流量が一定以上の速さで増加している場合には、水の気化量>凝集量であると判断され、水の気化量が大きいと、燃料電池スタックは、気化熱を奪われて温度が下がる。そして、酸化ガスの温度も下がる。したがって、酸化ガスの温度が下がっている場合には、燃料電池内の温度が上がる場合には、燃料電池スタック内部が乾燥し易くなっていると言える。
本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池システムの他、 燃料電池の制御方法等、様々な形態で実現することができる。
燃料電池システムを搭載した車両を示す説明図である。 燃料電池システムの構成を示す説明図である。 燃料電池スタックの構成を示す説明図である。 以下に示す複数の実施例に共通する制御手順を示すフローチャートである。 第1の実施例の処理内容を模式的に示す説明図である。 単セル中の位置と電流密度との関係を示す説明図である。 第1の実施例における制御のフローチャートである。 カソード上流側冷却排水の温度T1とカソード下流側冷却排水の温度T2との差とエア背圧との制御マップの一例を示す説明図である。 図5(C)に示す状態よりもさらに電解質膜620の乾燥が進んだ状態を示す説明図である。 第2の実施例における制御フローチャートを示す。 カソード圧力損失と冷却水量の制御マップの一例を示す説明図である。 他の方法による冷却水の水量Qfccの求め方を示す説明図である。 第3の実施例を模式的に示す説明図である。 カソード上流側冷却排水の温度T1とカソード下流側冷却排水の温度T2との差とエアストイキ比との制御マップの一例を示す説明図である。 第4の実施例における制御フローチャートを示す。 ガス流量を増やすと電圧があがる領域か否かを判断するためのマップの一例を示す説明図である。 第5の実施例における制御フローチャートを示す。 時間と酸化ガス流量を示すグラフである。 酸化ガス流量と酸化排ガス温度の閾値Tcのとの関係を示すマップの一例である。 酸化ガス流量の時間変化を示すグラフである。 酸化排ガス温度の時間変化を示すグラフである。 乾燥抑制運転の制御マップの一例を示す説明図である。 乾燥抑制運転の制御マップの別の一例を示す説明図である。 燃料電池の冷却水の入口温度と出口温度との差と時間当たりの酸化ガスの変化量についての制御マップの一例である。 燃料電池の冷却水の入口温度と出口温度との差と燃料電池の時間当たりの電流の変化量についての制御マップの一例である。 第6の実施例における制御フローチャートを示す説明図である。 第6の実施例を模式的に示す説明図である。 酸化ガスの背圧と乾燥抑制運転における水排出量の関係を示すマップである。 補正係数αが0.97、βが1.3であったときの酸化ガスの背圧と乾燥抑制運転における水排出量の関係を示すマップである。
図1は、燃料電池システムを搭載した車両を示す説明図である。車両500は、燃料電池510と、制御部530(ECU(Electronic Control Unit)とも呼ぶ。)と、要求出力検知部535と、二次電池540と、分配コントローラ550と、駆動モータ560と、ドライブシャフト570と、分配ギア580と、車輪590と、を備える。
燃料電池510は、燃料ガスと酸化ガスとを電気化学的に反応させて電力を取り出すための発電装置である。燃料電池510の構成については、後述する。制御部530は、要求出力検知部535から取得した要求出力値に基づいて、燃料電池510と二次電池540の動作を制御する。要求出力検知部535は、車両のアクセル(図示せず)の踏み込み量を検知し、その踏み込み量の大きさから、運転手からの要求出力を検知する。二次電池540として、例えば、ニッケル水素電池や、リチウムイオン電池を採用することが可能である。二次電池540への充電は、例えば、燃料電池510から出力される電力を用いて直接充電することや、車両500が減速するときに車両500の運動エネルギーを駆動モータ560により回生して充電すること、により行うことが可能である。分配コントローラ550は、制御部530からの命令を受けて、燃料電池510から駆動モータ560への引き出す電力量と、二次電池540から駆動モータ560へ引き出す電力量を制御する。また、分配コントローラ550は、車両500の減速時には、制御部530からの命令を受けて、駆動モータ560により回生された電力を二次電池540に送る。駆動モータ560は、車両500を動かすための電動機として機能する。また、駆動モータ560は、車両500が減速するときには、車両500の運動エネルギーを電気エネルギーに回生する発電機として機能する。ドライブシャフト570は、駆動モータ560が発する駆動力を分配ギア580に伝達するための回転軸である。分配ギア580は、左右の車輪590へ駆動力を分配する。
図2は、燃料電池システムの構成を示す説明図である。燃料電池510は、燃料電池スタック600と、燃料ガス供給系(アノード系)650と、酸化ガス供給系(カソード系)700と、冷却系750と、を備えている。
燃料電池スタック600は、多数の単セル(図示せず)が積層して構成されている。燃料電池には、燃料電池スタック600に流れる電流及び電圧を測定するための電流電圧計605が接続されている。なお、電流電圧計605は、単セル毎の電流、電圧を測定できるように構成されていてもよい。
燃料ガス供給系650は、燃料ガスタンク655と、燃料ガス供給管660と、燃料ガス排気管665と、開閉バルブ670と、レギュレータ675と、燃料ガスポンプ680と、圧力計685、687と、露点計690と、流量計695と、を備える。燃料ガスタンク655は、燃料ガスを貯蔵する。本実施例では、燃料ガスとして、水素を用いている。燃料ガスタンク655と、燃料電池スタック600とは、燃料ガス供給管660で接続されている。燃料ガス供給管660上には、燃料ガスタンク655からの燃料ガスの供給をオンオフするための開閉バルブ670と、燃料電池スタック600に供給される燃料ガスの圧力を調整するためのレギュレータ675が設けられている。
燃料電池スタック600には、燃料排ガスを排出するための燃料ガス排気管665の一端が接続されている。そして、燃料ガス排気管665の他端は、燃料ガス供給管660に接続されている。燃料ガス排気管665には、未反応の燃料ガスが含まれているが、これにより、未反応の燃料ガスを再び燃料電池スタック600に供給することが可能となる。
燃料ガス供給管660上には、燃料電池スタック600に供給される燃料ガスの圧力を測定するための圧力計685、燃料ガスの露点を測定するための露点計690、燃料ガスの流量を測定するための流量計695が設けられている。なお、露点計690の代わりに湿度計を設けてもよい。また、燃料ガス排気管665上には、燃料電池スタック600から排出される燃料排ガスの圧力を測定するための圧力計687が設けられている。
酸化ガス供給系700は、コンプレッサ705と、酸化ガス供給管710と、酸化ガス排気管715と、加湿装置720と、背圧弁725と、圧力計730、732と、露点計735と、温度計737と、流量計740と、を備える。本実施例では、酸化ガスとして空気を用いる。コンプレッサ705は、大気中の空気を取り込んで圧縮する。コンプレッサ705は、酸化ガス供給管710により、燃料電池スタック600に接続されている。燃料電池スタック600には、酸化排ガスを排出するための酸化ガス排気管715が接続されている。ここで、酸化ガス供給管710と酸化ガス排気管715には、加湿装置720が設けられている。燃料電池では、例えば、水素と、空気中の酸素と、を反応させて発電を行う。このとき、水素と酸素とが反応して水が生成する。生成した水は、酸化排ガスとともに燃料電池スタック600から排出される。加湿装置720は、酸化排ガス中に含まれる水分を用いて、燃料電池スタック600に供給される酸化ガスを加湿する。加湿装置720は、例えば、酸化ガス流路と、酸化排ガス流路とを備え、その2つの流路の間に加湿膜を備える構成であってもよい(図示せず)。これにより、加湿膜を介して、酸化配ガス中の水分を、酸化ガスに移動させることが可能である。酸化ガス排気管715には、背圧弁725が設けられている。背圧弁725は、燃料電池スタック600内の空気の圧力を調整するために用いられる。
酸化ガス供給管710上には、燃料電池スタック600に供給される酸化ガスの圧力を測定するための圧力計730、酸化ガスの露点を測定するための露点計735、酸化ガスの流量を測定するための流量計740が設けられている。なお、露点計735の代わりに湿度計を設けてもよい。また、酸化ガス排気管715上には、燃料電池スタック600から排出される酸化排ガスの圧力を測定するための圧力計732が設けられている。酸化ガス排気管715上には、酸化排ガスの温度を測るための温度計737は設けられている。
また、本実施例では、燃料ガス排気管665と酸化ガス排気管715とを繋ぐ第2の燃料ガス排気管745と、第2の燃料ガス排気管745に設けられた排気弁747を備える。上述のように本実施例では、燃料ガス排気管665は燃料ガス供給管660に接続されており、燃料ガスを還流して再利用している。ここで、燃料電池スタック600を長時間運転すると、燃料排ガス中に、反応に寄与しない窒素が増えてくる。この窒素は、酸化ガス(空気中)の窒素が、燃料電池の電解質膜(図示せず)を透過してきたものと考えられる。燃料排ガス中に窒素が増えると、燃料ガス中にも窒素が増え、燃料電池スタック600の反応性が落ちる。従って、本実施例では、燃料排ガス中の窒素の量が増えた場合には、排気弁747を開け、窒素を酸化ガス排気管715に流し、燃料ガス中の窒素の量を排気する。なお、このとき水素も一部が酸化ガス排気管715に流れる。しかし、酸化ガス排気管715や加湿装置720には、触媒が存在しないので、水素は酸化ガス排気管715に流れても、空気中の酸素と反応しない。また、水素の自然発火温度は、空気中で570℃、酸素中で560℃であるので、自然発火もしない。
冷却系750は、ポンプ755と、冷却水供給管760と、冷却水排出管765と、冷却水還流管775と、ラジエータ770と、ロータリー弁780と、温度計785、790と、を備える。ポンプ755は、冷却水に圧力をかけて、燃料電池スタック600に送る。ポンプ755と、燃料電池スタック600とは、冷却水供給管760により接続されている。燃料電池スタック600には、冷却水を排出するための冷却水排出管765が接続されている。冷却水供給管760と、冷却水排出管765とは、ラジエータ770及び冷却水還流管775により接続されている。ラジエータ770は、冷却水排出管765を流れる温度の高い冷却水を冷却して冷却水供給管760に送る。冷却水還流管775は、冷却水排出管765を流れる冷却水をそのまま冷却水供給管760に送る。冷却水供給管760は、ロータリー弁780により、ラジエータ770と、冷却水還流管775とに接続されている。すなわち、ロータリー弁780の開度を変更することにより、燃料電池スタック600に供給する冷却水の温度を調整することが可能である。また、冷却水供給管760には燃料電池スタック600に供給される冷却水の温度を測定する温度計785が設けられ、冷却水排出管765には燃料電池スタック600から排出される冷却水の温度を測定する温度計790が設けられている。
図3は、燃料電池スタックの構成を示す説明図である。燃料電池スタック600は、複数の単セル610が積層されている。各単セル610は、電解質膜620と、アノード電極630と、カソード電極635と、アノードガス流路640と、カソードガス流路645と、を備えている。本実施例では、電解質膜620として、固体高分子材料、例えばパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマなどのフッ素系樹脂から成るプロトン伝導性のイオン交換膜を用いている。アノード電極630、カソード電極635は、電解質膜の両面に配置されている。アノード電極630、カソード電極635は、燃料電池における電気化学反応を促進する触媒、例えば、白金触媒、あるいは白金と他の金属から成る白金合金触媒を含んでいる。なお、電解質膜620と、アノード電極630、カソード電極を合わせて膜電極接合体12とも呼ぶ。アノードガス流路640、カソードガス流路645は、膜電極接合体12の両面にそれぞれ配置されている。アノードガス流路640、カソードガス流路645は、例えば、多孔体や、カーボン不織布を用いたカーボンクロスやカーボンペーパーや、エキスパンドメタルを用いて形成することが可能である。なお、アノードガス流路640は、図示しないマニホールドを介して、図2に示す燃料ガス供給管660、燃料ガス排気管665と接続されている。また、カソードガス流路645は、図示しないマニホールドを介して、図2に示す酸化ガス供給管710、酸化ガス排気管715と接続されている。
図4は、以下に示す複数の実施例に共通する制御手順を示すフローチャートである。以下では、各ステップの概略の内容について説明する。各ステップの詳細については、実施例毎に詳述する。ステップS400では、制御部530は、燃料電池システムに設けられた各種センサー(例えば、図2に示す圧力計685、687、730、732、露点計690、735、流量計695、740、温度計785、790、電流電圧計605など)から出力されるセンサー値(計測値)を取得する。
ステップS410では、制御部530は、ステップS400で取得したセンサー値を用いて燃料電池スタック600の水分布(乾燥状態)を推定する。制御部530は、単セル610の面内の水分布の他、単セル610の積層方向の水分布を取得してもよい。
ステップS440では、制御部530は、水分布が異常か否かを判断する。例えば、単セル610のある部分が乾燥しているか、また、ある部分が水溜まりになっているか、を判断する。制御部530は、水分布が正常であれば、処理をステップS450に移行し、通常運転、すなわち、現在の運転状態を維持する制御を行う。ここで、現在の運転状態とは、車両500の利用者からの要求出力に応じた出力を発生させる運転状態をいう。一方、異常が有った場合には、制御部530は、その異常を解消するため、処理をステップS460に移行し、分布正常化制御を行う。
[第1の実施例]
図5は、第1の実施例の処理内容を模式的に示す説明図である。第1の実施例では、制御部530は、燃料電池スタック600から排出される冷却水の温度を用いて、水分布(乾燥状態)を推定し、この水分布に基づいて燃料電池スタック600(図2)への反応ガスの供給を制御する。本実施例では、燃料電池510(図1)を冷却する冷媒として水(以下「冷却水」と呼ぶ。)を用いている。図5(A)は、単セル610における酸化ガスと冷却水の流れる方向を示している。酸化ガスは、図面の下方から上方に向かって流れている。冷却水は図面の左方から右方に流れている。したがって、酸化ガスの流れる向きと冷却水の流れる向きは、直交している。なお、図5では、燃料ガスの流れる向きについては、図示していないが、酸化ガスの流れの向きと、反対向き(カウンターフロー)とすることが好ましい。但し、燃料ガスの流れる向きと酸化ガスの流れの向きを同方向(コフロー)としてもよい。
冷却水には、酸化ガスの上流側に当たる位置を冷却するカソード上流側冷却水と、酸化ガスの下流側に当たる位置を冷却するカソード下流側冷却水とがある。これらの2つは、単セル610内において、整流部材(図示せず)により明確に区分されていてもよく、また区分されていなくてもよい。冷却水の出口部には、冷却排水の温度を測定する温度計790a、790bが、カソード上流側冷却水とカソード下流側冷却水に対応して設けられている。なお、この温度計790a、790bは、図2で説明した温度計790を構成するものである。本実施例では、このように、図2で説明した温度計790は、単セル610毎に2つずつ設けられていることが好ましい。
図5(B)は、単セル610の電解質膜620の加湿が適切な状態の一例を示している。電解質膜620(図3)における電流の分布(電流密度)は、例えば、カソード上流部で2.0A/cmであり、カソード下流部で1.2A/cmである。なお、この電流密度は、単セル610が積層された実際の燃料電池スタック600を用いて測定したのではなく、単セル610を1つ取り出して行った実験により得られたものである。このように、カソード上流部と、カソード下流部では、電流密度が異なり、カソード上流部の方が、電流密度が大きい。この理由については後述する。一般に、電流密度が大きいほどその部分での化学反応が活発なため、反応熱が大きい。したがって、電流密度が大きいカソード上流部の方がより発熱する。例えば、冷却水として、70℃の水を単セル610に流したとき、単セル610から出てくるカソード上流側冷却排水の温度T1は80℃、カソード下流側冷却排水の温度T2は76℃である。そして、この時の2つの冷却排水の温度差(T1−T2)は4℃である。
図5(C)は、単セル610の電解質膜620が乾燥し始めている状態の一例を示している。電解質膜620の加湿が適切な状態と比べると、カソード上流部の電流密度が小さくなっており、カソード下流部の電流密度が大きくなっている。このとき、カソード上流部の電流密度は1.7A/cmであり、カソード下流部の電流密度は1.5A/cmである。同様に、冷却水として、70℃の水を単セル610に流したとき、単セル610から出てくるカソード上流側冷却排水の温度T1は78.5℃であり、カソード下流側冷却排水の温度T2は77.5℃である。そして、この時の2つの冷却排水の温度差(T1−T2)は1℃である。以上のことからわかるように、乾燥すると、カソード上流側冷却排水温度T1からカソード下流側冷却排水温度T2を引いた値は、小さくなることがわかる。
図6は、単セル中の位置と電流密度との関係を示す説明図である。図6において、縦軸は電流密度を示し、横軸は酸化ガス流れ方向の位置を示し、右側がカソード上流側、左側がカソード下流側を示している。実線は、図5(B)における電流分布を示し、破線は、図5(C)における電流分布を示している。
電解質膜620(図3)が湿潤している場合、カソード上流部では、酸素分圧が高いため、電気化学反応が促進され、電流密度は大きくなる。このとき、電気化学反応で生じた生成水が酸化ガスの流れに乗って下流に流れるため、カソード入口よりもやや下流側の方が、電解質膜620が湿潤する。そのため、カソード入口よりもやや下流側の方が、電気化学反応の反応性が高く、電流も多くなる。すなわち、カソード上流側では、左上がりのグラフとなる。
一方、電気化学反応によりカソードガス中の酸素が消費される。したがって、カソード下流ほど酸素分圧が低くなる。そのため電気化学反応の反応性が小さくなり、電流が減少する。従って、カソード下流側では、右上がりのグラフとなる。以上のように、電流を示すグラフは、上記2つの現象が重なり合った結果を示し、山形形状のグラフとなる。そして、電流密度のピークは、ややカソード上流側に生じる。その結果、カソード上流側で電流密度が大きく、カソード下流側で電流密度が小さくなる。
一方、電解質膜620が乾燥していると、カソード上流では、電気化学反応の反応性が下がり、電解質膜620が湿潤していた時に比べ電流値は減少方向に移動する。また、このように、カソード上流で、電気化学反応の反応性が低下するため、カソード上流での酸素の消費が少なくなる。その結果、カソード下流での酸素分圧が湿潤時に比べ上昇する。そのため、カソード下流側では電気化学反応が促進され、湿潤時に比べ電流値は増加方向に移動する。すなわち図6の破線に示すように、電流密度のピーク位置はカソード下流側に移動する。その結果、カソード上流側で電流密度と、カソード下流側で電流密度は、差が小さくなる。
図6で説明したように、電解質膜620が湿潤していると、カソード上流部で電流密度が大きく、カソード下流部で電流密度が小さい。そのため、カソード上流部とカソード下流部で発熱量が異なり、カソード上流部の方が、カソード下流部よりも温度が高くなる。そのため、カソード上流側冷却排水の温度T1と、カソード下流側冷却排水の温度T2との差は大きい。一方、電解質膜620が乾燥していると、カソード上流部と、カソード下流部では、電流密度の差が少ない、そのため、カソード上流部の温度と、カソード下流部の温度の差は小さくなる。したがって、カソード上流側冷却排水の温度T1と、カソード下流側冷却排水の温度T2とを求め、その差(T1−T2)を求めることにより、電解質膜620の乾燥度を推定することが可能である。
図7は、第1の実施例における制御のフローチャートである。ステップS700では、制御部530は、カソード上流側冷却排水の温度T1と、カソード下流側冷却排水の温度T2とを取得する。次にステップS710では、温度T1と温度T2の差(T1−T2)を取得する。この温度差(T1−T2)は上述したように、電解質膜620の乾燥度(水分布)に依存している。ステップS740では、制御部530は、温度差(T1−T2)があらかじめ定められた閾値Tαよりも小さいか否かを判断する。ここで閾値Tαは、実験によりあらかじめ求めておくことが好ましい。図5(B)、(C)に示す例では、制御部530は、閾値Tαとして2℃を用いている。温度差(T1−T2)が閾値Tα以上の場合には、制御部530は、電解質膜620が十分湿潤していると判断し、処理をステップS750に移行する。ステップS720では、制御部530は、通常運転、すなわち、現在の運転状態を維持する。一方、温度差(T1−T2)が閾値Tαよりも小さい場合には、制御部530は、電解質膜620が乾燥していると判断し、処理をステップS760に移行する。ステップS760では、制御部530は、乾燥抑制運転を実行する。なお、上記ステップS700からS760の各ステップは、図4に示したステップS400からS460にそれぞれ対応している。
制御部530は、乾燥抑制運転として、例えば、以下の制御のうち1つ以上を行うことが可能である。
(1)エア背圧を上げる。
(2)エアストイキ比を下げる。
(3)冷却水の流量を増す。
ここでエア背圧とは、燃料電池スタック600(図2)から酸化ガスが排出されるときの、燃料電池スタック600排出口(図示せず)における酸化ガスの圧力をいう。この背圧は、圧力計732を用いて測定することが可能である。エア背圧を上げた場合、酸素分圧が上がるため、電気化学反応の反応性が増し、生成水量が多くなって電解質膜620(図3)を湿潤させることができる。例えば、制御部530は、背圧弁725(図2)を調整することにより、エア背圧を上げることが可能である。
エアストイキ比とは、所定の電流を発電させるのに必要な酸化ガスの供給量の理論に対する、実際の酸化ガス供給量の過剰率をいう。エアストイキ比が1の場合には、供給された酸化ガス中の酸素は全て消費される。エアストイキ比を下げることは、酸化ガスの流量を減らすことを意味する。酸化ガスの流量が少なくなれば、酸化ガスによる水の持ち去り量を減らすことができ、電解質膜620の乾燥を抑制できる。例えば、制御部530は、コンプレッサ705(図2)の回転数を調整することにより、エアストイキ比を下げることが可能である。
冷却水量を増やした場合には、電解質膜620からの水の蒸発を抑制し、電解質膜620の乾燥を抑制することが可能となる。例えば、制御部530は、ポンプ755の回転数を調整することにより、冷却水量を増やすことが可能である。なお、冷却水量を増やす代わりに、あるいは増やすと共に、冷却水の温度を下げてもよい。例えば、制御部は、ラジエータ770のフィン(符合を付せず)の回転数やロータリー弁780の開度を調整して冷却水の温度を下げることが可能である。
図8は、カソード上流側冷却排水の温度T1とカソード下流側冷却排水の温度T2との差と、エア背圧との制御マップの一例を示す説明図である。制御部530は、このマップに基づいて、エア背圧を制御する。カソード上流側冷却排水の温度T1とカソード下流側冷却排水の温度T2との差(T1−T2)が閾値Tα以上の場合には、エア背圧を一定(110kPa)にしている。一方、カソード上流側冷却排水の温度T1とカソード下流側冷却排水の温度T2との差(T1−T2)が閾値Tαより小さい場合には、その差(T1−T2)の大きさにより、制御部530は、制御するエア背圧の値を変える。本実施例では、制御するエア背圧の値と、温度差がTαの時のエア背圧の値との差、すなわち、通常運転時からどれだけエア背圧の大きさを変えるかのその大きさを「調整量」と呼ぶ。本実施例では、カソード上流側冷却排水の温度T1とカソード下流側冷却排水の温度T2との差が小さくなるほど、調整量を大きくしている。このように、カソード上流側冷却排水の温度T1とカソード下流側冷却排水の温度T2との差に基づいて、調整量を変化させてもよい。調整量を大きくすることにより、乾燥状態からの回復を早く実行することが可能となる。なお、本実施例では、制御パラメータの値をとして背圧を用いているが、他のパラメータを用いて制御する場合には、そのパラメータによる値を、通常運転時からどれだけ変えるか、を調整量と呼んでもよい。
また、図7のステップS710では、制御部530は、カソード上流側冷却排水の温度T1とカソード下流側冷却排水の温度T2との差(T1−T2)に加え、燃料電池のインピーダンスZに基づいて電解質膜の乾燥度(湿潤度)を判断してもよい。例えば、制御部530は、インピーダンスを取得し、このインピーダンスZの値が、あらかじめ定められた閾値Zβよりも大きいか否かにより、電解質膜620(図3)の乾燥度を推定してもよい。具体的には、制御部は、インピーダンスZの値が、閾値Zβよりも大きい場合には、電解質膜620が乾燥していると判断することができる。インピーダンスは、例えば、交流インピーダンス法を用いて測定することが可能である。
以上、第1の実施例によれば、制御部530は、酸化ガスの流れの上流部と下流部において冷却水の温度T1、T2を、それぞれ測定し、その温度差(T1−T2)から、電解質膜620の乾燥度を推定し、その乾燥度に応じて燃料電池への酸化ガスの供給や、冷却水の流量Qfccを制御し、燃料電池510の発電を適切に制御することが可能となる。
また、温度差(T1−T2)が小さいときには、調整量を大きくするので、乾燥状態からの回復を早めることが可能となる。
[第2の実施例]
第2の実施例では、第1の実施例よりも乾燥が進んだ場合を考慮した制御を実行する。図9は、図5(C)に示す状態よりもさらに電解質膜620の乾燥が進んだ状態を示す説明図である。電解質膜620の乾燥がさらに進むと、以下の理由により、冷却水の下流部から電解質膜620が乾燥してくる。すなわち、冷却水上流部では、冷却水の温度が低いため、冷却水により冷やされて酸化ガス中の水分が結露し、電解質膜620の乾燥を緩和する。一方、冷却水下流部では、冷却水の温度が上がっているため、酸化ガス中の水分が結露しにくく、電解質膜620を湿潤させにくい。そのため、乾燥が進むと、電解質膜620は、冷却水下流部側から乾燥する。そのため、電気化学反応は、冷却水上流部に集中し、乾燥した冷却水下流部では、電気化学反応が起こりにくくなる。また、このような乾燥状態になると、冷却水下流部では、酸化ガスが流れやすくなり、酸化ガスの圧力損失PΔ(以下「カソード圧力損失PΔ」または「カソード圧損PΔ」とも呼ぶ。)が低下する。以上のことから、カソード圧力損失PΔを取得することにより、制御部530は、電解質膜620の乾燥状態が、図5(C)に示す状態にとどまっているか、それとも、図9に示す状態まで進行してしまったか、を判断することができる。すなわち、カソード圧力損失PΔが、あらかじめ定められた閾値Pθよりも小さい場合には、制御部530は、電解質膜620の乾燥状態が、図9に示す状態まで進行してしまったと判断することが可能となる。
図10は、第2の実施例における制御フローチャートを示す。ステップS1000からステップS1050までの動作は、図7に示した第1の実施例のステップS700からステップS750までの動作と同じであるので、説明を省略する。ステップS1070では、制御部530は、カソード圧力損失PΔが、あらかじめ定められた閾値Pθよりも小さいか否かを判断する。カソード圧力損失PΔが、あらかじめ定められた閾値Pθ以上の場合には、制御部530は、電解質膜620の乾燥状態がまだ図5(C)に示す状態にとどまっていると判断し、処理をステップS1080に移行し、第1の乾燥抑制運転を実行する。また、カソードの圧力損失PΔが、あらかじめ定められた閾値Pθより小さい場合には、制御部530は、電解質膜620の乾燥状態が図9に示す状態まで進行したと判断し、処理をステップS1090に移行し、第2の乾燥抑制運転を実行する。
第1の乾燥抑制運転では、上述した3種の乾燥抑制運転((1)エア背圧を上げる。(2)エアストイキ比を下げる。(3)冷却水の流量を増す。)のうち、(1)エア背圧を上げる、(2)エアストイキ比を下げる、の一方又は両方を実行する。また、第2の乾燥抑制運転では、(3)冷却水の流量を増す、を実行する。電解質膜の乾燥状態が、図9に示す状態まで進行した場合、エア背圧を上げたり、エアストイキ比を下げたりしても、酸化ガスは、通気抵抗が低く、電気化学反応が起こりにくい、電解質膜620の乾燥した部分を流れるだけである。これに対し、冷却水を増すと、電解質膜620の冷却水下流部まで冷却することが可能になる。その結果、酸化ガス中の水を結露させて、電解質膜620を湿潤させることができる。これにより、電解質膜620の冷却水下流部における電気化学反応を回復、促進することが可能となる。なお、同様に、冷却水の温度を下げてもよい。
図11は、カソード圧力損失と冷却水量の制御マップの一例を示す説明図である。本実施例では、閾値Pθを25kPaとしている。そして、カソード圧力損失が25kPaよりも小さい場合には、冷却水の流量Qfcc(以下「冷却水量Qfcc」とも呼ぶ。)を増加させる。例えば、燃料電池の電流をI=1.7A、電圧をV=0.5V、カソードの圧力損失を、PΔ=22.5kPaとする。図11に示すマップからカソードの圧力損失から冷却水の流量Qfccを求めると、Qfcc=125L/minとなる。すなわち、制御部530は、冷却水の流量Qfccを、125L/minとすればよい。
冷却水の流量Qfccは他の方法によっても求めることが可能である。図12は、他の方法による冷却水の水量Qfccの求め方を示す説明図である。図12(A)は、発熱量と放熱量の釣り合いを示す式である。
I×(Vo−V)=k×AA×Qfcc×(dT/dt) …(1)
ここで左辺のIは平均電流[A]を示し、Voは、ギブスエネルギーから求めた発電電圧の理論値[V]、Vは測定された燃料電池の電圧[V]を示している。Vo−Vは電圧の損失であり、左辺のI×(Vo−V)は、発熱量を示している。
右辺のkは熱移動係数であり、AAは電流集中面積[m]を示し、Qfccは冷却水の流量[L/min]、(dT/dt)[℃/s]は時間当たりの冷却水の温度変化を示している。すなわち、右辺のK×AA×Qfcc×(dT/dt)は冷却水による放熱量を示している。発熱量と放熱量は釣り合うので、上記式(1)が成り立つ。ここで、電流集中面積AAとは、単セル610の乾燥状態が図9に示す状態になった場合において、あらかじめ定められた一定以上の電流密度を有する部分の面積(例えば、平均電流密度よりも高い電流密度を有する部分)を意味する。
式(1)から冷却水の流量Qfccを求めるには、制御部530は各変数の値を取得することが必要である。ここで、電流Iおよび電圧Vは、制御部530は、すでに取得しており、それぞれI=1.7A、V=0.5Vであるとする。Voは上述のようにギブスエネルギーから求めることができ、Vo=1.2Vである。熱移動係数kは実験によりあらかじめ求めておくことができ、実験で求めた値は、k=0.05である。
電流集中面積AAは、カソード圧損と電流集中面積の関係を示すマップから求めることが可能である。図12(B)は、カソード圧損と電流集中面積の関係を示すマップの一例である。このマップは、例えば実験により求めることが可能である。図12(B)は、カソード圧損が小さくなると、電流集中面積AAが小さくなる関係を示している。カソード圧損が小さいと、反応ガスは流れやすい。すなわち、乾燥した部分の面積が大きく、湿潤した部分の面積は小さい。すなわち、電気化学反応が盛んな部分の面積が小さく、電流集中面積AAも小さくなる。本実施例では、カソード圧損が22.5kPaであるので、マップから電流集中面積AAを求めると、電流集中面積AAは、0.75mとなる。
時間当たりの温度変化(dT/dt)の目標値は、電流集中面積AAと時間当たりの温度変化(dT/dt)の関係を示すマップから求めることが可能である。図12(C)は、電流集中面積と温度変化量の目標値との関係を示すマップの一例である。図12(C)は、電流集中面積AAが大きくなると、時間当たりの温度変化(dT/dt)は小さくなる関係を示している。本実施例では、電流集中面積は0.75mであるので、時間当たりの温度変化(dT/dt)の目標値は0.25℃/secとなる。
以上、求めた値を式(1)に代入して冷却水の流量Qfccを求めると、Qfcc=127L/minとなり、図11に示すマップを用いて求めた冷却水の流量Qfcc=125L/minとほぼ一致した。
以上、第2の実施例によれば、制御部530は、カソード圧損により、電解質膜620の乾燥の程度を推定し、乾燥度に対応した乾燥抑制運転を実行することが可能となる。
[第3の実施例]
図13は、第3の実施例を模式的に示す説明図である。第3の実施例では、乾燥した単セル610の積層方向の位置に基づいて、調整量の補正を行う。燃料電池スタック600は、複数の単セル610を備えている。単セル610は、積層されている。燃料電池スタック600は、単セル610に酸化ガスを供給排出するための酸化ガス供給マニホールド642、酸化ガス排出マニホールド647を備えている。また、図2に示す電流電圧計605は、単セル610毎に電圧を測定できるように構成されている。
制御部530は、単セル610毎の電圧(起電力)V1、V2、…、Vnを取得する。制御部530は、電圧V1、V2、…、Vnを用いて、電解質膜620(図3)が乾燥した単セル610を特定する。例えば、電解質膜620が乾燥すると、単セル610の起電力が小さくなるので、制御部530が、起電力が最も小さい単セル610に乾燥が起こっていると判断して、乾燥した単セルを特定することが可能である。以下、起電力が最も小さい単セル(乾燥した単セル)を「注目する単セル」とも呼ぶ。本実施例では、酸化ガス入口部から最も遠い単セル610に乾燥が起こっているとして説明する。
酸化ガス供給マニホールド642の最も入口部に近い単セルの位置における圧力をP1とし、注目する単セル(乾燥した単セル)の位置における酸化ガス供給マニホールド642の圧力をP2、酸化ガス排出マニホールド647の注目する単セル(乾燥した単セル)の位置における圧力をP3、最も入口部に近い単セルの位置における酸化ガス排出マニホールド647の圧力をP4とする。補正係数αをα=(P2−P3)/(P1−P4)とする。補正係数αは、(注目単セルにおける圧力損失)/(入口部の単セルにおける圧力損失)を意味する。補正係数αの値は、単セル610毎にあらかじめ実験により求めておくことが可能である。
図14は、カソード上流側冷却排水の温度T1とカソード下流側冷却排水の温度T2との差と、エアストイキ比との制御マップの一例を示す説明図である。この制御マップでは、カソード上流側冷却排水の温度T1とカソード下流側冷却排水の温度T2との差が小さくなると、エアストイキ比を小さくしている。エアストイキ比を下げた場合には、上述したように、酸化ガスにより水持ち去り量を減らすことができ、電解質膜620の乾燥を抑制できる。
制御部530は、第1、2の実施例では、エア背圧を用いて制御したが、第3の実施例では、エアストイキ比を用いて燃料電池510の動作を制御する。なお、制御部530は、第1、2の実施例において、エアストイキ比を用いて燃料電池510の動作を制御してもよく、第3の実施例において、エア背圧を用いて燃料電池510の動作を制御してもよい。
上記第3の実施例において、カソード上流側冷却排水の温度T1とカソード下流側冷却排水の温度T2との差が1.5℃、注目する単セル(乾燥した単セル)の補正係数αの値が0.97であったとする。制御部530は、図14に示す制御マップを用い、カソード上流側冷却排水の温度T1とカソード下流側冷却排水の温度T2との差が1.5℃のときのエアストイキ比を取得する。本実施例では、エアストイキ比は1.4であったとする。次に、制御部530は、乾燥した単セル610についてエアストイキ比が1.4になるように、燃料電池スタック600に供給する酸化ガスのエアストイキ比を求める。実際に制御できるのは、燃料電池スタック600に供給する酸化ガスのエアストイキ比だからである。具体的には、制御マップで求めたエアストイキ比を補正係数αで割ることにより、燃料電池スタック600に供給すべき酸化ガスのエアストイキ比を推定することが可能である。本実施例の場合、図14に示す制御マップから求めたエアストイキ比1.4を補正係数α(=0.97)で割った1.44が燃料電池スタック600に供給すべき酸化ガスのエアストイキ比となる。この算出方法は、厳密なものではないが、供給すべき酸化ガスのエアストイキ比を推定する簡易な方法として十分実用的なものである。
補正係数αを含む熱収支の式(2)を示す。
I×(Vo−V)=k×AA×α×Qfcc×(dT/dt)+K’×(T-Tb) … (2)
ここで式(2)の左辺は、上述した式(1)の左辺と同じである。式(2)の右辺第1項は、式(1)の右辺と同様に、冷却水による放熱量を示している。右辺第2項は、燃料電池スタックから大気への放熱量を示している。ここでk’は、外部放熱係数であり、実験により求めることが可能である。実験により得られた外部放熱係数k’の値は0.001である。Tは、燃料電池スタック600の温度を示し、冷却排水の温度と等しい。Tbは外気温である。
電流I=1.7A、電圧V=0.5V、α=0.97、カソード圧損=22.2kPa、T=80℃、Tb=20℃として、図12に示す制御マップ及び式(2)を用いて、冷却水流量を求めると、113L/minとなる。
以上、第3の実施例によれば、制御部530は、単セル610の電圧に基づいて乾燥した単セル610の積層方向における位置を取得し、その位置に基づいて、あらかじめ求めておいた補正係数αを取得する。そして、制御部530は、補正係数αを用いて調整量を補正するので、乾燥した単セルの位置に応じて適切な燃料電池510の制御を行うことが可能となる。
[第4の実施例]
図15は、第4の実施例における制御フローチャートを示す。第4の実施例では、セル電圧が低下した単セルを検知し、その単セルの電圧低下が、乾燥によるものか、あるいは水溜まりによるものか、を判断し、それぞれの原因に対応する制御を行うものである。
ステップS1500では、制御部530は、単セル610毎の電圧を取得し、電圧が低下した単セル610があるか否かを判断する。この電圧をVminとする。制御部530は、あらかじめ定められた閾値Vaよりもセル電圧が低いか否かを判断の基準として用いることが可能である(Vmin<Va)。また、制御部530は、単セルの電圧の平均値VaveからVminを引いた値があらかじめ定められた閾値Vbよりも大きいか否かを判断の基準に用いることが可能である(Vave−Vmin>Vb)。
電圧が低下した単セル610が無ければ、制御部530は、処理をステップS1510に移行し、今までの運転(通常運転)を継続する。電圧が低下した単セル610があれば、制御部530は、処理をステップS1520に移行する。ステップS1520では、制御部530は、当該電圧が低下した単セル610について、ガス流量を増やすと電圧があがる領域か否かを判断する。
図16は、ガス流量を増やすと電圧があがる領域か否かを判断するためのマップの一例を示す説明図である。図16(A)において、横軸は、エアストイキ比であり、縦軸は単セルの電圧である。エアストイキ比とは、上述のしたように所定の電流を発電させるのに必要な酸化ガスの供給量の理論に対する、実際の酸化ガス供給量の過剰率をいうので、エアストイキ比を大きくすることは、酸化ガスの流量を多くすることを意味する。以下、「酸化ガス流量を多くする」との意味で、「エアストイキ比を大きくする」との用語を用いる場合もある。一般に酸化ガスのエアストイキ比が大きくなると(酸化ガスの供給量が多くなると)、酸素分圧が大きくなるので、単セル610の電圧は上がる。しかし、エアストイキ比が大きくなりすぎると(酸化ガスの供給量が多くなりすぎると)、酸化ガスの流れにより水が持ち去られ、電解質膜620(図3)が乾燥して、単セル610の電圧が下がる。したがって、燃料電池スタック600には、最適なエアストイキ比があり、それよりもエアストイキ比が高くても、低くても単セル610の電圧は低くなる。すなわち、エアストイキ比を大きくすると、すなわち、酸化ガス流量を多くすると、単セル610のセル電圧が上がる領域(第1の酸化ガス流量領域)と、単セル610のセル電圧が下がる領域(第2の酸化ガス流量領域)とがある。制御部530は、図16の示すマップを用いて、現在どちらの領域であるかを判断する。なお、この最適なエアストイキ比は、燃料電池スタック600の温度によっても異なる。図16(B)は、図16(A)の破線Xで囲まれた部分を拡大した図である。
図15のステップS1520において、ガス流量を増やすと電圧が上がる領域である場合には、制御部530は、ステップS1530に処理を移行し、電圧が低下した単セルの近傍の単セル610の電圧があらかじめ定められた電圧よりも高いか否かを判断する。たとえば、単セル610の電圧の平均値Vaveから近傍の単セル610の電圧Vnearを引いた値があらかじめ定められた電圧Vcよりも低いか否かを判断する(Vave−Vnear<Vc)。近傍の単セル610の電圧Vnearが大きければ、Vave−Vnearは小さくなる。
近傍の単セル610の電圧Vnearが大きい場合には、制御部530は、処理をステップS1540に移行して加湿過剰と判定し、ステップS1545に処理を移行して水排出運転を行う。かかる場合には、近傍の単セル610の電圧Vnearが高いことから、図16に示すグラフより、近傍の単セル610に酸化ガスが多く流れていると判断することができる。そして、電圧が下がった単セル610には酸化ガスが流れにくくなっていると考えることができる。すなわち、電圧が低下した単セル610に過剰の水が存在しているため、当該単セルの電圧が下がっていると考えることが可能である。したがって、制御部530は、水排出運転を行うことが好ましい。水排出運転制御の例としては、例えば、エアストイキ比を上げる(酸化ガス流量を増やす)、酸化ガスの背圧を下げる、という制御の一方又は両方を採用可能である。
近傍の単セル610の電圧Vnearが小さい場合には、制御部530は、処理をステップS1550に移行して加湿不足と判定し、ステップS1555に処理を移行して乾燥抑制運転を行う。かかる場合には、近傍の単セル610の電圧Vnearが低いことから、図16に示すグラフより、近傍の単セル610に酸化ガスが少なく流れていると判断することができる。そして、電圧が下がった単セル610には酸化ガスが多く流れていると考えることができる。にも関わらず単セル610の電圧が低いということは、単セル610の電解質膜が乾燥し発電しにくくなっていると考えられる。したがって、制御部530は、乾燥抑制運転を行うことが好ましい。乾燥抑制運転の例としては、例えば、エアストイキ比を下げる(酸化ガス流量を減らす)、酸化ガスの背圧を上げる、という制御の一方又は両方を採用可能である。
ステップS1520において、ガス流量を増やすと電圧が下がる領域である場合には、制御部530は、ステップS1560に処理を移行し、電圧が低下した単セル610の近傍の単セル610の電圧があらかじめ定められた電圧よりも高いか否かを判断する。この処理は、ステップS1530における処理と同様である。なお、制御部530は、判定基準である閾値Vcの値を変更してもよい。
近傍の単セル610の電圧Vnearが大きい場合には、制御部530は、処理をステップS1570に移行して加湿不足と判定し、ステップS1575に処理を移行して乾燥抑制運転を行う。かかる場合、近傍の単セル610の電圧Vnearが高いことから、図16に示すグラフより、近傍の単セル610に酸化ガスが少なく流れ、一方、電圧が低下した単セル610には酸化ガスが多く流れていると考えることができる。にも関わらず単セル610の電圧が低いということは、単セル610の電解質膜が乾燥し発電しにくくなっていると考えられる。したがって、制御部530は、乾燥抑制運転を行うことが好ましい。乾燥抑制運転の例としては、例えば、エアストイキ比を下げる(酸化ガス流量を減らす)、酸化ガスの背圧を上げる、という制御の一方又は両方を採用可能である。
近傍の単セル610の電圧Vnearが小さい場合には、制御部530は、処理をステップS1580に移行して加湿過剰と判定し、ステップS1585に処理を移行して水排出運転を行う。かかる場合には、近傍の単セル610の電圧Vnearが低いことから、図16に示すグラフより、近傍の単セル610に酸化ガスが多く流れていると判断することができる。そして、電圧が下がった単セル610には酸化ガスが流れにくくなっていると考えることができる。すなわち、電圧が低下した単セル610に過剰の水が存在しているため、当該単セルの電圧が下がっていると考えることが可能である。したがって、制御部530は、水排出運転を行うことが好ましい。水排出運転制御の例としては、例えば、エアストイキ比を上げる(酸化ガス流量を増やす)、酸化ガスの背圧を下げる、という制御の一方又は両方を採用可能である。
以上、第4の実施例によれば、制御部530は、電圧が低下した単セル610の電圧低下の原因が乾燥(加湿不足)によるものなのか、水溜まり(加湿過剰)によるものなのか、を判断し、それぞれの原因に応じて適切な制御を行うことが可能となる。
なお電圧が低下した単セル610に隣接する単セル610の電圧Vnear大きくても、電圧が低下した単セル610が乾燥している場合もあり得る。本実施例によれば、このような場合にも対応することが可能となる。
[第5の実施例]
図17は、第5の実施例における制御フローチャートを示す。第5の実施例は、酸化ガスの流量と、酸化ガスの温度とを用いて、燃料電池スタック600内の乾燥状態を判断し、その乾燥状態に基づいて燃料電池スタック600への酸化ガスの供給、排出を制御する。
ステップS1700では、制御部530は、酸化ガスの流れが準定常か否かを判断する。図18は、時間と酸化ガス流量を示すグラフである。制御部530は、例えば、一定期間内に複数回測定された酸化ガス流量の分散Qσがあらかじめ定められた閾値Qaよりも小さいか、あるいは、一定期間内の酸化ガスの流量の最大値Qmaxと最小値Qminの差Qmax−Qminがあらかじめ定められた閾値Qbよりも小さい、の2つの条件のうち少なくとも一方を満たすこと、あるいは両方を満たすことにより、酸化ガスの流れが準定常か否かを判断することが可能である。図17のステップS1700において、酸化ガスの流れが準定常である場合には、制御部530は、処理をステップS1710に移行する。
ステップS1710では、制御部530は、酸化排ガスの温度が、あらかじめ定められた閾値Tcよりも大きいか否かを判断する。酸化排ガス温度が、閾値Tc以下の場合には、制御部530は、処理をステップS1720に移行し、現在の運転状態(通常運転)を維持する。一方、酸化排ガス温度が、閾値Tcよりも大きい場合には、制御部530は、処理をステップS1730に移行し、乾燥抑制運転を行う。酸化ガスの流量が準定常状態の場合、水の気化量と、凝集量は釣り合っていると判断される。そして、酸化排ガスの温度が高いほど水の排出量が大きいを判断される。したがって、かかる場合には、乾燥抑制運転を行うことが好ましい。乾燥抑制運転として、例えば、エアストイキ比を下げること(酸化ガスの流量を少なくすること)や、エア背圧を上げることが可能である。
図19は、酸化ガス流量と、酸化排ガス温度の閾値Tcのとの関係を示すマップの一例である。横軸は酸化ガスの流量を示し、縦軸は酸化排ガスの温度を示している。燃料電池スタック600(図3)の温度が60℃で酸化ガスの流量が1000L/min、酸化排ガスの温度が63℃とする。なお、酸化ガスは準定常状態とする。ガス流量が1000L/minのときの酸化排ガス温度の閾値Tcをマップから求めると、62℃となる。酸化排ガスの温度は63℃であり、閾値Tcの温度62℃よりも高い。したがって、かかる場合には、制御部530は、乾燥抑制運転を行う。マップから、閾値Tcを63℃にするためには、酸化ガス流量を950L/minにすればよいことから、制御部530は、酸化ガス流量を950L/minとすることにより、乾燥抑制運転を行うことが好ましい。
図17に示すステップS1700において、酸化ガスの流量が準定常状態でない場合、制御部530は、処理をステップS1740に移行し、酸化ガスの流量が増加傾向にあるか否かを判断する。
図20は、酸化ガス流量の時間変化を示すグラフである。この実施例では、時間Δtの間に酸化ガスの流量がΔQ増加している。このときの変化量ΔQ/Δtがあらかじめ定められた閾値Qbよりも大きいか否かにより、酸化ガスの流量が増加傾向か否かを判断する。酸化ガスの流量が増加傾向にない場合には、制御部530は、処理を図17に示すステップS1720に移行し、通常運転を維持する。酸化ガスの流量が増加傾向にある場合には、制御部530は、処理をステップS1750に移行する。
ステップS1750では、制御部530は、一定期間における酸化排ガスの温度の下がり幅があらかじめ定められた閾値Tdよりも大きいか否かを判断する。図21は、酸化排ガス温度の時間変化を示すグラフである。一定期間Δtにおける酸化排ガスの温度の下がり幅ΔTがあらかじめ定められた閾値Tdよりも大きい場合には、制御部530は、処理をステップS1760に移行し、乾燥抑制運転を行う。また、一定期間Δtにおける酸化排ガスの温度の下がり幅ΔTがあらかじめ定められた閾値Td以下の場合には、制御部530は、処理をステップS1720に移行し通常運転を維持する。酸化ガスの流量が一定以上の速さで増加している場合には、水の気化量>凝集量であると判断される。水の気化量が大きいと、電解質膜620は、気化熱を奪われて温度が下がる。そして、電解質膜620に隣接する酸化ガスの温度も下がる。かかる場合、酸化排ガスの温度の下がり幅が大きいほど水の排出が大きいと考えられる。したがって、制御部530は、乾燥抑制運転を行うことが好ましい。
図22は、乾燥抑制運転の制御マップの一例を示す説明図である。このマップは、酸化排ガスの温度の下がり幅ΔTに対する、酸化ガス流量の変化量を表している。図23は、乾燥抑制運転の制御マップの別の一例を示す説明図である。このマップは、酸化排ガスの温度の下がり幅ΔTに対する、燃料電池スタックの電流の変化を表している。このように、酸化排ガスの温度の下がり幅ΔTの大きさに対して、酸化ガスの流量の変化量や、燃料電池スタックの電流の変化を制御することにより、酸化排ガスの温度の下がり幅ΔTの大きさに応じた乾燥抑制運転を行うことが可能である。
図24は、燃料電池の冷却水の入口温度と出口温度との差と、時間当たりの酸化ガスの変化量についての制御マップの一例である。燃料電池の冷却水の入口温度と出口温度との差が大きい場合、酸化ガスを大容量で流すと、酸化ガスによる水の持ち去り量が増えるため、冷却水の出口側のみ乾燥し、水分布が悪化する恐れがある。かかる場合には、制御部530は、図24に示すマップを用い、酸化ガスの流量の変化量に対し、制限を設けてもよい。
図25は、燃料電池の冷却水の入口温度と出口温度との差と、燃料電池の時間当たりの電流の変化量についての制御マップの一例である。燃料電池スタックの電流の変化を制御することにより乾燥抑制運転を制御する場合には、制御部530は、図24に示す場合と同様に、図25に示すマップを用い、燃料電池の時間当たりの電流の変化量について、制限を設けてもよい。
以上のように、第5の実施例によれば、酸化ガスの流量と、酸化ガスの温度とを用いて、燃料電池スタック600内の乾燥状態を判断し、その乾燥状態に基づいて燃料電池スタック600への酸化ガスの供給、排出を制御することが可能となる。
[第6の実施例]
図26は、第6の実施例における制御フローチャートを示す説明図である。第6の実施例では、単セル610の背圧に基づいて、乾燥抑制運転の調整量を決定し、適切な燃料電池の制御を行う。
ステップS2600では、制御部は、単セル610毎の電圧を所得し、乾燥した単セル610の位置を取得する。そして、ステップS2610では、補正係数αを求める。なお、ここまでの制御については、第2の実施例と同様である。ステップS2620では、制御部530は、単セル610の積層方向の補正を行うか否かを選択する。なお、単セル610の積層方向の補正を行うか否かは、あらかじめ定められている。補正を行わない場合には、制御部530は処理をステップS2630に移行し、調整量を決定した後、ステップS2640において、乾燥抑制運転を実行する。補正を行う場合には、制御部530は、処理をステップS2625に移行し、第2の補正係数βを取得する。ステップS2630において、制御部530は、補正係数βをも用いて調整量を決定した後、ステップS2640において、乾燥抑制運転を実行する。
図27は、第6の実施例を模式的に示す説明図である。図27(A)は、図13と同じ図である。なお、図27では、圧力計732が記載してある。圧力計732は、酸化ガスの背圧Pallを取得する。
図28は、酸化ガスの背圧と、乾燥抑制運転における水排出量の関係を示すマップである。酸化ガスの背圧が大きい場合には、水排出量が少なく、背圧が小さい場合には、水排出量が多くなる。例えば、制御部530が、乾燥抑制運転において、水の排出量を1g/(cell・sec)減らす目標を立てたとする。このとき、現在の酸化ガスの背圧が140kPaであったとすると、図28から、水の排出量を1g/(cell・sec)減らすためには、酸化ガスの背圧を150kPaにすればよいことがわかる。また、現在の酸化ガスの背圧が160kPaであったとすると、図28から、水の排出量を1g/(cell・sec)減らすためには、酸化ガスの背圧を180kPaにすればよいことがわかる。これは、背圧の上げ幅を一定とすると、全圧が大きいほど、背圧の上げ幅に対する効果が小さく、全圧が小さいほど、背圧の上げ幅に対する効果が大きいことによる。したがって、同じ効果を上げるためには、全圧が大きければ、より背圧を変化させることが必要である。
燃料電池からの水の排出量Qwatは以下の式(3)で表すことが可能である。
Qwat=(Pwat/(Pall-Pwat))×Qdry …(3)
ここで、Pwatは、水蒸気分圧、Pallは、酸化ガスの背圧、Qdryは、酸化ガスの流量から発電で消費される酸素量を引いた量である。なお、この式(3)をマップとしたものが、図28に示すグラフである。
図27(B)は、酸化ガス排出マニホールド647の圧力を示している。ステップS2625における第2の補正係数βは、P3/P4で表すことができる。P3、P4の意味は、図13における意味と同じである。単セル610を1個の燃料電池を考えれば、P3、P4は、単セル610から排出される酸化ガスの背圧と考えることが可能である。すなわち、背圧の比をもって補正を行う。
乾燥した単セル610の積層方向の位置を考慮すると、燃料電池からの水の排出量Qwatは以下の式(4)で表すことが可能である。
Qwat=(Pwat/(Pall×β-Pwat))×Qdry’ …(4)
ここで、Qdry’は、酸化ガスの流量を第3の実施例における補正係数αで補正した値であり、Qdry’=Qdry/αである。なお式(4)は、変形して、
Pall=Pwat×(1+Qdry’/ Qwat) /β …(4)’
で示すことが出来る。
図29は、補正係数αが0.97、βが1.3であったときの、酸化ガスの背圧と乾燥抑制運転における水排出量の関係を示すマップである。このマップは、式(4)をグラフに表したものである。現在の背圧が140kPaであったときに、水の排出量を1g/(cell・sec)減らすためには、酸化ガスの背圧を154kPaにすればよいことがわかる。
以上第6の実施例によれば、単セル610の背圧に基づいて、乾燥抑制運転の調整量を決定し、適切な燃料電池の制御を行うことが可能となる。また、乾燥した単セル610の積層方向の位置に基づいて乾燥抑制運転の調整量を容易に求めることが可能となる。
なお、上記各実施例で用いた数値は一例であり、燃料電池システムの構成により、適正な値は異なる。
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
12…膜電極接合体
500…車両
510…燃料電池
530…制御部
535…要求出力検知部
540…二次電池
550…分配コントローラ
560…駆動モータ
570…ドライブシャフト
580…分配ギア
590…車輪
600…燃料電池スタック
605…電流電圧計
610…単セル
620…電解質膜
630…アノード電極
635…カソード電極
640…アノードガス流路
642…酸化ガス供給マニホールド
645…カソードガス流路
647…酸化ガス排出マニホールド
650…燃料ガス供給系
655…燃料ガスタンク
660…燃料ガス供給管
665…燃料ガス排気管
670…開閉バルブ
675…レギュレータ
680…燃料ガスポンプ
685…圧力計
687…圧力計
690…露点計
695…流量計
700…酸化ガス供給系
705…コンプレッサ
710…酸化ガス供給管
715…酸化ガス排気管
720…加湿装置
725…背圧弁
730…圧力計
732…圧力計
735…露点計
737…温度計
740…流量計
745…第2の燃料ガス排気管
747…排気弁
750…冷却系
755…ポンプ
760…冷却水供給管
765…冷却水排出管
770…ラジエータ
775…冷却水還流管
780…ロータリー弁
785…温度計
790…温度計

Claims (12)

  1. 燃料電池システムであって、
    積層された複数の単セルを含む燃料電池スタックと、
    前記燃料電池スタックに酸化ガスを供給する酸化ガス供給系と、
    前記燃料電池スタックに、前記酸化ガスが流れる方向と交わる方向に流れる冷媒を供給する冷却系と、
    前記燃料電池スタックから排出される冷媒の温度を、前記酸化ガスの流れの上流部と下流部においてそれぞれ測定する温度測定部と、
    前記2つの冷媒温度の差を用いて前記燃料電池スタックの乾燥状態を判断し、前記燃料電池スタック内が乾燥している場合には、前記燃料電池スタックの乾燥を抑制する乾燥抑制運転を実行する制御部と、
    を備える燃料電池システム。
  2. 請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
    前記制御部は、前記乾燥抑制運転として、
    (1)前記燃料電池スタックへの前記酸化ガスの供給量を減少する、
    (2)前記燃料電池スタックから排出される酸化排ガスの背圧を上げる、
    (3)前記燃料電池スタックに供給される冷媒の量を増加する、
    (4)前記燃料電池スタックに供給される冷媒の温度を下げる、
    のうち少なくとも1つを実行する、燃料電池システム。
  3. 請求項1または請求項2に記載の燃料電池システムにおいて、
    前記制御部は、前記2つの冷媒温度の差があらかじめ定められた差分値よりも小さくなった場合には、前記乾燥抑制運転を行い、前記2つの冷媒温度の差が前記あらかじめ定められた差分値以上になった場合には、前記乾燥抑制運転を停止する、燃料電池システム。
  4. 請求項1から請求項3のうちのいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、さらに、
    前記燃料電池スタックにおける前記酸化ガスの圧力損失を測定する圧力損失測定部を備え、
    前記制御部は、前記2つ冷媒温度の差があらかじめ定められた差分値よりも小さくなり、かつ、前記酸化ガスの前記燃料電池スタック内の圧力損失があらかじめ定められた損失値よりも小さくなった場合には、
    (3)前記燃料電池スタックに供給される冷媒の量を増加する、
    (4)前記燃料電池スタックに供給される冷媒の温度を下げる、
    のうち少なくとも一方を含む乾燥抑制運転を実行する、燃料電池システム。
  5. 請求項3に記載の燃料電池システムにおいて、
    前記制御部は、前記乾燥抑制運転を行っていないときと、前記乾燥抑制運転を行っていると、の間で異ならせるパラメータの値の差である調整量を、前記2つの冷媒温度の差が小さいほど、大きくする、燃料電池システム。
  6. 請求項4に記載の燃料電池システムにおいて、
    前記制御部は、前記乾燥抑制運転を行っていないときと、前記乾燥抑制運転を行っていると、の間で異ならせるパラメータの値の差である調整量を、前記酸化ガスの前記燃料電池スタック内の圧力損失が小さいほど、大きくする、燃料電池システム。
  7. 請求項1から請求項6のいずれかに記載の燃料電池システムにおいて、さらに、
    前記単セル毎の起電力を測定する電圧計を備え、
    前記制御部は、
    前記各単セルの起電力の大きさに基づいて乾燥している単セルの位置を検出し、
    前記乾燥している単セルの位置に基づいて、前記乾燥抑制運転を行っていないときと、前記乾燥抑制運転を行っているときと、の間で異ならせるパラメータの値を補正するための第1の補正係数を決定し、
    前記第1の補正係数を用いて前記パラメータの値を補正する、燃料電池システム。
  8. 請求項7に記載の燃料電池システムにおいて、
    前記制御部は、前記第1の補正係数を用いて前記酸化ガスの供給量を補正する、燃料電池システム。
  9. 請求項7または請求項8に記載の燃料電池システムにおいて、さらに、
    前記制御部は、前記乾燥している単セルの位置に基づいて、前記燃料電池スタックの出口部における前記酸化ガスの背圧を補正するための第2の補正係数を決定し、
    前記第2の補正係数を用いて、前記背圧の大きさを補正する、燃料電池システム。
  10. 燃料電池システムであって、
    積層された複数の単セルを含む燃料電池スタックと、
    前記単セル毎の起電力を測定する電圧計と、
    前記燃料電池スタックに供給される酸化ガスの流量を取得する流量取得部と、
    前記燃料電池スタックに供給する酸化ガスの圧力、流量を制御する制御部と、
    を備え、
    前記制御部は、
    いずれかの単セルの電圧低下を検知した場合には、前記燃料電池スタックに供給する酸化ガスの流量が、前記酸化ガスの流量を増大させると単セルの電圧が上がる第1の酸化ガス流量領域と、前記酸化ガスの流量を増大させると単セルの電圧が下がる第2の酸化ガス流量領域のいずれにあるかを判断し、
    前記第1の酸化ガス流量領域にある場合には、前記単セルの近傍の他の単セルの電圧が、前記あらかじめ定められた電圧よりも高い場合には、水排出運転を実行し、前記あらかじめ定められた電圧よりも低い場合には、乾燥抑制運転を実行し、
    前記第2の酸化ガス流量領域にある場合には、前記単セルの近傍の他の単セルの電圧が、あらかじめ定められた電圧よりも高い場合には、前記乾燥抑制運転を実行し、前記あらかじめ定められた電圧よりも低い場合には、前記水排出運転を実行する、
    燃料電池システム。
  11. 燃料電池システムであって、
    燃料電池スタックと、
    前記燃料電池スタックに供給される酸化ガスの流量を取得する流量取得部と、
    前記燃料電池スタックから排出される酸化排ガスの温度を取得する温度取得部と、
    前記燃料電池スタックに供給する酸化ガスの圧力、流量を制御する制御部と、
    を備え、
    前記制御部は、前記酸化ガスの流量と、前記酸化ガスの温度とを用いて、前記燃料電池スタック内の乾燥状態を判断し、前記乾燥状態に基づいて前記燃料電池スタックへの前記酸化ガスの供給、排出を制御する、燃料電池システム。
  12. 請求項11に記載の燃料電池システムおいて、
    前記制御部は、
    あらかじめ定められた期間における前記酸化ガスの流量の変化があらかじめ定められた範囲内にある準定常状態か否かを判断し、
    前記酸化ガスの流量が準定常状態にある場合には、前記酸化ガスの温度があらかじめ定められた温度より大きい場合に、乾燥抑制運転を実行し、
    前記酸化ガスの流量が準定常状態にない場合に、前記酸化ガスの流量が増加傾向にあり、かつ、前記あらかじめ定められた期間における酸化ガスの温度の下がり幅があらかじめ定められた温度よりも大きい場合に、前記乾燥抑制運転を実行する、燃料電池システム。
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