JP3952758B2 - 燃料電池システム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は燃料電池システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料極と酸化剤極とで高分子電解質膜を狭持した単位セルを複数個積層するとともに、各単位セル毎に冷却板を挿入し、多孔質体の加湿水透過板及び多孔質体の燃料極集電板を介して高分子電解質膜を加湿するようにした燃料電池本体と、この燃料電池本体と、この燃料電池本体の冷却板にポンプにより冷却水を循環させて発電中に生じる熱を除去する冷却水系とを具備する固体高分子型燃料電池システムが知られている。その一例として、特開平9−92310号公報に記載のものがある。
【0003】
前記公報に記載の技術は、前述の燃料電池システムにおいて、図11に示すような冷却水系に冷却水圧力を独立に制御する圧力調整手段を設けたことを特徴としている。また図12は、前記公報に記載された直接水供給加湿方式の単セルを示す図であり、燃料極の外面(高分子電解質膜と反対面)には多孔質体からなる燃料流路が配設され、その燃料流路の外面側に多孔質体からなる加湿水透過板を介して冷却水流路が配設されている。したがって、冷却水流路に供給された冷却水の一部が、加湿水透過板及び燃料流路に浸透し、固体高分子膜の加湿が行われる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら前記公報に記載の従来技術では、燃料電池本体内での冷却水の蒸発潜熱による冷却のため、多孔質体から冷却水が蒸発することにより、多孔質体の一部で反応ガス流路と冷却水流路とが連通し、反応ガスが冷却水中に流出してしまう。このため、反応ガスの圧力が低下し、燃料電池本体の発電出力が低下するいう問題がある。
【0005】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、冷却水の蒸発量が増加するときには反応ガス流路と冷却水流路との圧力差を少なくすることで課題を解決するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、複数の単位セルを積層して形成される燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックを冷却するとともに、単位セルを構成する固体高分子電解質膜に水分を供給するための冷却水を供給する冷却水流路と、前記燃料電池スタックに冷却水圧力より高圧の反応ガスを供給する反応ガス流路とを備えた燃料電池システムにおいて、前記燃料電池スタック内で冷却水が蒸発する量を推定する手段と、前記冷却水の蒸発量が増加すると推定されたときに、前記燃料電池スタック内の反応ガスと冷却水の圧力差を減少するように制御する手段を備える。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、前記燃料電池スタック中の冷却水の圧力を調整する手段を備え、前記制御手段は、前記圧力差を減少するために冷却水圧力調整手段を介して燃料電池スタック内の冷却水圧力を昇圧するように制御する。
【0008】
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記蒸発量推定手段は、前記燃料電池スタック内の温度を検出する手段または温度を推定する手段を備え、この検出または推定した温度の上昇に基づき冷却水の蒸発量の増加を推定する。
【0009】
第4の発明は、第1または第2の発明において、前記蒸発量推定手段は、前記燃料電池スタック内の湿度を検出する手段または湿度を推定する手段を備え、この検出または推定した湿度の低下に基づき冷却水の蒸発量の増加を推定する。
【0010】
第5の発明は、第1または第2の発明において、前記蒸発量推定手段は、前記燃料電池スタック内の温度を検出する手段または温度を推定する手段と、湿度を検出する手段または湿度を推定する手段とを備え、この検出または推定した温度の上昇と検出または推定した湿度の低下とに基づき冷却水の蒸発量の増加を推定する。
【0011】
第6の発明は、第3または第5の発明において、前記温度推定手段は、燃料電池スタックの電圧または電流から温度を推定する。
【0012】
第7の発明は、第3または第5の発明において、燃料極の集電板の温度を検出する燃料電池温度検出手段を備え、前記温度推定手段は、前記温度推定手段は、この検出値に基づき温度を推定する。
【0013】
第8の発明は、第3または第5の発明において、前記温度検出手段の前記燃料電池スタック内の温度を検出する部位は、燃料電池システムの冷却水流路の形状に基づき設定される。
【0014】
第9の発明は、第8の発明において、前記燃料電池スタックの冷却水出口での冷却水温度を検出する冷却水温度検出手段を備え、前記温度推定手段は、この検出値に基づき温度を推定する。
【0015】
第10の発明は、第9の発明において、前記冷却水温度検出手段は、燃料電池スタックの冷却水出口から最も遠い位置の単位セルから排出される冷却水の温度を検出し、前記温度推定手段は、この検出値に基づき温度を推定する。
【0016】
第11の発明は、第9の発明において、前記冷却水温度検出手段は、前記燃料電池スタックのセル積層方向の略中央部に位置する単位セルから排出される冷却水の温度を検出し、前記温度推定手段は、この検出値に基づき温度を推定する。
【0017】
第12の発明は、第4または第5の発明において、前記湿度推定手段は、反応ガスの供給形態に基づき湿度を推定する。
【0018】
第13の発明は、第4または第5の発明において、前記湿度推定手段は、燃料電池スタック内の温度と燃料電池スタック外部の温度とに基づいて湿度を推定する。
【0019】
第14の発明は、第4または第5の発明において、前記湿度推定手段は、燃料電池スタック内の温度と燃料電池スタックに供給される反応ガスの温度とに基づいて湿度を推定する。
【0020】
第15の発明は、第1の発明において、前記燃料電池スタック中の冷却水の圧力を調整する手段を備え、冷却水圧力調整手段は、温度感応式圧力制御弁である。
【0023】
【発明の効果】
第1の発明では、燃料電池スタックを冷却する冷却水流路と、前記燃料電池スタックに冷却水圧力より高圧の反応ガスを供給する反応ガス流路とを備えた燃料電池システムであって、蒸発量推定手段が、燃料電池スタック内の冷却水の蒸発量が増加すると推定したときに、燃料電池スタック内の反応ガスと冷却水の圧力差を減少するように制御する。
【0024】
したがって、反応ガス圧と冷却水圧力の差圧が小さくなり、この差圧により反応ガスが冷却水中に逆流することを抑制し、反応ガスの冷却水への逆流によって生じる反応ガスの圧力低下による燃料電池スタックの発電性能の低下を防止することができる。
【0025】
第2の発明では、前記燃料電池スタック中の冷却水の圧力を調整する手段を備え、制御手段は、前記圧力差を減少するために前記冷却水圧力調整手段を介して燃料電池スタック内の冷却水圧力を昇圧するように制御することにより、燃料電池の反応ガス圧力を低下させることがないので燃料電池スタックの発電性能が低下することがない。
【0026】
第3の発明では、蒸発量推定手段は、前記燃料電池スタック内の温度を検出する手段または温度を推定する手段を備え、この検出または推定した温度の上昇に基づき冷却水の蒸発量の増加を推定することにより、燃料電池スタック内の冷却水の蒸発量の増加を正確に推定することができる。
【0027】
第4の発明では、蒸発量推定手段は、前記燃料電池スタック内の湿度を検出する手段または湿度を推定する手段を備え、この検出または推定した湿度の低下に基づき冷却水の蒸発量の増加を推定することにより、燃料電池スタック内の冷却水の蒸発量の増加を正確に推定することができる。
【0028】
第5の発明では、蒸発量推定手段は、前記燃料電池スタック内の温度を検出する手段または温度を推定する手段と、湿度を検出する手段または湿度を推定する手段とを備え、この検出または推定した温度の上昇と検出または推定した湿度の低下とに基づき冷却水の蒸発量の増加を推定することにより、燃料電池スタック内の冷却水の蒸発量の増加をより正確に推定することができる。
【0029】
第6の発明では、温度推定手段は、燃料電池スタックの電圧または電流から温度を推定することにより、燃料電池内の温度検出のための温度センサ等を設ける必要がなくシステムの低コスト化を図ることができる。
【0030】
第7の発明では、燃料極の集電板の温度を検出する燃料電池温度検出手段を備え、温度推定手段は、この検出値に基づき温度を推定することにより、燃料電池スタック内の温度を正確に検出することができる。
【0031】
第8の発明では、温度検出手段の燃料電池スタック内の温度を検出する部位は、燃料電池システムの冷却水流路の形状に基づき設定されることにより、流路の形状によって温度分布が不均一になっても、例えば、温度検出部位を最も高温の部位に設置することで冷却水の温度のバラツキを考慮し、冷却水圧力の制御を行うことができる。
【0032】
第9の発明では、燃料電池スタックの冷却水出口での冷却水温度を検出する冷却水温度検出手段を備え、温度推定手段は、この検出値に基づき温度を推定することにより、温度推定手段の設置位置の自由度が広がり、温度推定手段の保守点検が容易となる。
【0033】
第10の発明では、冷却水温度検出手段は、燃料電池スタックの冷却水出口から最も遠い位置の単位セルから排出される冷却水の温度を検出し、温度推定手段は、この検出値に基づき温度を推定することにより、冷却水の循環量が少ない高温のセルから排出される冷却水温度を検出でき、冷却水マニホールドあるいは冷却水の供給方法の差異によって生じる冷却水温度のバラツキを考慮することができる。
【0034】
第11の発明では、冷却水温度検出手段は、燃料電池スタックのセル積層方向の略中央部に位置する単位セルから排出される冷却水の温度を検出し、温度推定手段は、この検出値に基づき温度を推定することにより、自然放熱し難い領域の冷却水温度を検出でき、セルの積層による熱環境の相違によって生じる温度分布の不均一を考慮することができる。
【0035】
第12の発明では、湿度推定手段は、反応ガスの供給形態に基づき湿度を推定することにより、容易に湿度の推定を行うことができる。
【0036】
第13の発明では、湿度推定手段は、燃料電池スタック内の温度と燃料電池スタック外部の温度とに基づいて湿度を推定することにより、燃料電池スタックの内外での温度の差異により反応ガスの飽和水蒸気量の変化を推定し、湿度の低下から冷却水の蒸発量の増加を推定できる。
【0037】
第14の発明では、湿度推定手段は、燃料電池スタック内の温度と燃料電池スタックに供給される反応ガスの温度とに基づいて湿度を推定することにより、燃料電池スタックに供給される反応ガスの温度と燃料電池スタックの外部温度との差異により反応ガスの飽和水蒸気量の変化を推定し、湿度の低下から冷却水の蒸発量の増加を推定できる。
【0038】
第15の発明では、冷却水圧力調整手段は、温度感応式圧力制御弁であることにより、簡単な構成で冷却水の圧力を調整でき、システムの低コスト化を図ることができる。
【0041】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の燃料電池システムの構成を説明するための図であり、固体高分子電解質膜1aと、固体高分子電解質膜を狭持するように電極(燃料極1bと酸化剤極1c)が配置され、電解質膜1aと電極1b、1cとの界面それぞれに触媒が備えられる。各電極の他の端面に反応ガスとして燃料ガスが流通する燃料流路1dと酸化剤ガスが流通する酸化剤流路1eとが形成され、燃料流路1dの外側には加湿水透過板1fおよび冷却水流路1gが順次配置され、一つの燃料電池(いわゆる単位セル)を形成し、単位セルをスタック状に積層して構成される燃料電池スタック1が備えられる(図1では簡単のため単位セル相当の構成として図示する)。
【0042】
ここで、燃料流路1dと加湿水透過板1fは多孔質材で形成され、後述する水蒸気が透過可能な構成を有するものである。
【0043】
燃料電池スタック1の各電極1b、1cに燃料ガス(改質ガス)または酸化剤(空気)を供給するとともに燃料電池スタック1から排出される排ガス(排改質ガスと排空気)を流通する流路2、3が接続される。各流路2、3の燃料電池スタック1の上流にはそれぞれセンサ4、5が設置されており、燃料電池スタック1に供給される燃料ガスと空気の圧力、温度が検出できるように構成される。
【0044】
燃料電池スタック1の冷却水流路1gには、冷却水が流路6を通じて供給される。冷却水は水タンク7からポンプ8によって所定圧力で燃料電池スタック1に供給されるものである。冷却水は、燃料ガス流路1bまで浸透した後、燃料ガス流路ないで蒸発して燃料ガス中に混入し、その一部の水蒸気が固体高分子電解質膜1aの加湿のために用いられる。その際、蒸発時の潜熱によって燃料電池スタック1で発電によって生じた電池反応熱を吸熱する。また蒸発せずに冷却水路内に残った冷却水は、顕熱により燃料電池スタック1の電池反応熱を吸熱し、燃料電池スタック1を冷却して、昇温した冷却水は熱交換器9で熱を奪われて低温となり、流路6を通じて水タンク7に排出される。
【0045】
燃料電池スタック1(例えば、燃料極の集電板)には温度センサ(燃料電池温度検出手段)10aが設置されており、スタック1内の温度を検出し、コントローラ11に出力する。温度センサを燃料極側の集電板上に設けると、燃料極内における水の蒸発量の推定精度が向上し、取り付けも容易である。またセンサ4、5の出力もまたコントローラ11に出力され、コントローラ11はこれらの検出値に基づき、冷却水圧力が基準圧力となるようにポンプの運転状態を制御する。なお温度センサに代えて、もしくは加えて湿度センサを設けてもよい。なお、コントローラ11には、燃料ガスの温度を検出するセンサ10b、冷却水の温度を検出するセンサ(冷却水温度検出手段)10c、図示しない燃料電池スタック1の外部の温度を検出するセンサからの出力が入力される。更にコントローラ11は燃料電池スタック1の発電性能を制御する機能を合わせ持っている。
【0046】
従来の燃料電池システムでは、高圧の燃料ガス圧力と低圧の冷却水圧力との圧力差により、冷却水が蒸発して燃料ガス中に混入するような場合に、逆に高圧の燃料ガスが低圧の冷却水中に混入するという問題が生じる。燃料ガスが冷却水中に混入すると燃料ガス流路2の圧力が低下して燃料電池スタック1の発電性能が低下するのである。
【0047】
そこで本発明では、燃料ガス中に混入する冷却水の蒸発量を推定し、蒸発量が増加する傾向にある時には、燃料ガス圧と冷却水圧力との差圧を基準差圧より小さくして燃料ガスが冷却水中に逆流することを抑制し、燃料ガスの冷却水への逆流によって生じる燃料ガスの圧力低下による燃料電池スタック1の発電性能の低下を防止するものである。
【0048】
具体的には冷却水の蒸発量推定手段としてのコントローラ11が、後述の温度推定手段または湿度推定手段の推定結果に基づいて冷却水の蒸発量の増加傾向を判断するとポンプ8の吐出圧を昇圧し、ポンプ8の吐出圧が流路6の圧力と燃料ガスが流通する流路2の圧力との差が基準差圧より小さい所定差圧となるように制御される。この燃料ガス圧と冷却水圧力との差を所定差圧に制御するときには、燃料電池スタック1の運転状態に応じて変化する燃料ガス圧を基準として冷却水圧力を昇圧するようにする。このように燃料ガス圧を基準とすることで燃料ガスの圧力を低下させることがないので、燃料電池スタック1の発電性能を維持することができる。
【0049】
なお、冷却水流路の圧力を昇圧する手段としては、ポンプによる制御に限らず図2に示すように冷却水流路の制御弁12を設け、その開度を制御するようにしてもよい。
【0050】
ここで燃料ガス中に混入する冷却水の蒸発量の推定について説明すると、冷却水の蒸発量が増加する傾向にあるときには、燃料電池スタック1内の温度が上昇する傾向にあり、または燃料電池スタック1内の湿度が低下する傾向にある場合なので、このことから冷却水の蒸発量の増加傾向を検出することができる。
【0051】
図3は、冷却水の蒸発量の増加傾向を燃料電池スタック内の温度上昇と湿度低下の両方を用いて判定するためのマップである。このように温度上昇と湿度低下の両方の推定を複合することで、冷却水の蒸発量の増大をより精度よく推定することができる。
【0052】
ここで、燃料電池スタック1の温度変化は、コントローラ11の温度推定手段によって電圧または電流から算出される理想温度変化、あるいは電極の温度またはセンサ10Cによって検出される冷却水の燃料電池スタック1出口温度から算出される。
【0053】
一方、燃料電池システム1の湿度変化は、コントローラ11の湿度推定手段によって燃料ガスの供給形態、環境温度または燃料ガスの燃料電池スタック1への供給温度と燃料電池スタック1内の温度とを比較して燃料ガスの飽和水蒸気圧の変化を知ることで算出される。
【0054】
そして、燃料電池スタック1内の今回の検出した温度が前回検出した温度より所定差ΔT以上上昇し、かつ今回検出した湿度が前回検出した湿度より所定差ΔH以上低下していることを示す図3の斜線部に燃料電池スタック1の状態があると推定されるときには燃料ガス圧と冷却水圧力の差圧を小さくするようにポンプ8を制御する。
【0055】
図3の斜線部以外の領域に燃料電池スタック1の状態があると推定できるときには、燃料ガス圧と冷却水圧力との差圧を現状のまま維持するか、または制御を初期状態にリセットする。
【0056】
次に、温度推定手段を用いて燃料電池スタック1の電圧または電流から燃料電池スタック1内の温度を推定する場合について説明する。
【0057】
温度推定手段が、燃料電池スタック1の電圧から燃料電池スタック1の温度を推定するためには、まず電圧から実際の燃料電池出力を算出し、この実際の燃料電池出力を燃料利用率と運転温度から算出される燃料電池理論出力と比較する。次にその差から冷却量を差し引いた値が発熱によって消費されたとし、燃料電池スタック1の熱容量から温度変化に換算することで算出できる。したがって、算出の結果より燃料電池スタック1内の温度の変化を検出し、温度上昇を推定できる。
【0058】
また同様に温度推定手段が電流から温度を推定するためには、図4に記載したような電流密度に対する電圧効率(実効率)が燃料電池スタック1毎に一定の関係を示すという特性を利用し、この図4から電流を電圧に換算し、前述した電圧から温度を算出する方法で電流から温度に換算可能である。したがって、これらの算出結果に基づいて蒸発量推定手段が燃料電池スタック1内の温度変化を検出し、温度上昇を推定できる。
【0059】
このように電圧または電流から燃料電池スタック内の温度を検出する場合には、スタック内の温度を検出するための温度センサを必要としないため低コスト化を図ることができる。
【0060】
なお、燃料電池スタック1内の温度を実際に検出するには、前述のように温度センサ10aによって電極の温度を正確に検出可能な燃料極の集電板で検出することが好ましく、前述の電圧と電流から温度を検出する構成と合わせて設置してもよい。なお、燃料極の集電板に温度センサ10aを設けることで、システム起動直後等の電圧、電流からの温度推定が不安定な場合でも燃料電池スタック内の温度を精度よく推定できるという効果もある。
【0061】
また冷却水温度から燃料電池スタック1内の温度を推定することもできる。例えば、温度センサ10Cで示したように燃料電池スタック1の冷却水出口で冷却水温度を検出することで推定可能である。この場合には温度センサの取り付け性が向上し、センサの保守点検が容易になるという効果がある。
【0062】
また燃料電池スタック1の部位によって温度差が生じる場合には、最も高温の部位に温度センサを設置する。例えば、燃料電池スタック1から排出される冷却水をマニホールドに集約して排出する構成では、冷却水出口から遠いセルほど冷却水の流通量が少なくなり、セルの温度は高くなる。したがって、この高温のセルに温度センサを設置し、冷却水温度を検出することで、高温領域の温度を検出でき、マニホールドの形態あるいは供給の差異によって生じる各単位セルの温度のバラツキを考慮し、冷却水圧力の制御をすることができる。図5と図6に一般的な冷却水出口の形状及び位置と出口から遠いセルの位置関係を示す。
【0063】
次に図7を用いて各セルから排出される冷却水が、同じ条件で流出する場合の温度分布について説明する。いまセルの積層数Nがnとすると、その略中央部であるn/2近傍のセルが高温となる。図中左端のセルをN=1として、右端のセルをN=nとすると、N=1またはN=nに比較してその1つ内側に位置するN=2とN=n−1のセルの温度は昇温する。これは各セルの電極からの放熱が減少するためである。したがって、スタックの中央側ほど放熱が難しく、かつ周囲の温度もまた高いため単独での冷却も困難となり、中央側のN=n/2近傍のセルが最も高温となる。したがって、このような冷却水の排出方法による温度変化の影響を受けないような燃料電池スタックでは、冷却水の温度をスタック中央部で検出することで高温で安定した温度検出が可能となり、燃料流路のような多孔質で形成された部位での冷却水の蒸発状態を迅速に検知し、かつ精度よく温度検出ができ誤作動を防止することができる。
【0064】
燃料ガス圧と冷却水圧力との差圧を小さくする条件として湿度推定手段が行う燃料電池スタック1の湿度の判定について説明する。湿度の判定は、燃料電池スタック1に供給される燃料ガスの供給形態を用いて判定する。つまり、燃料ガスの湿度はガス供給形態の違いによって湿度が異なることを用いて判断する。燃料ガスの供給形態としては、燃料ガスを予め別途生成して所定のボンベに貯蔵しておき、このボンベから燃料ガスを燃料電池スタックに供給する構成があり、この構成ではボンベへの燃料ガスの充填効率を向上するために燃料ガスの湿度はほぼ0%となる。一方、システム中に改質器を備えて、改質器が生成した燃料ガスを燃料電池スタックに供給する構成では、改質時に大気中の空気を用いる上に、改質反応で水が生成されるため、ある程度の湿度がガス中に含まれていることになる。
【0065】
前者のボンベから直接燃料ガスを供給する形態では、燃料ガス中の湿度が低いため水蒸気が混入することによる湿度変化の感度が高くなり、水蒸気が燃料ガス中に混入すると湿度が大きく変化する。一方、改質器から燃料ガスを供給する形態では、前述のように燃料ガス中に水分を含んでいるため湿度変化に対する感度が低く、水蒸気の混入による湿度変化が小さくなる。したがって、燃料ガスの供給形態によって水蒸気混入による湿度変化の違いから、つまりボンベから直接燃料ガスを供給する形態であれば冷却水の冷却水の蒸発量の増大を推定できる。また、環境温度(例えば、燃料電池スタック1の外部温度)あるいは燃料電池スタック1に供給される燃料ガスの温度を燃料電池スタック内の温度を比較し、燃料ガスの飽和水蒸気圧の変化を算出し、冷却水の蒸発量の増大を推定することもできる。
【0066】
これまでの説明において、燃料ガス圧と冷却水圧力との差圧を小さくする条件として温度と湿度のそれぞれが図3に示すような所定条件となることとして説明してきたが、これに限らず、温度条件、つまり温度が上昇傾向にあるとき、または湿度条件、つまり湿度が減少傾向にあるときのいずれかが成立したときに差圧を小さくするように制御してもよい。
【0067】
図8にコントローラ11が実施する燃料ガス圧と冷却水圧力との差圧を減少するときの制御内容を示す。
【0068】
まずステップ1で燃料ガスの供給形態を確認する。燃料ガスを充填したボンベから燃料ガスを供給する形態のときにはステップ2に進み、それ以外の供給形態ではステップ3に進む。
【0069】
ステップ2では、ボンベから燃料を供給する形態では前述のように湿度の変化が大きく、図3に示す所定差ΔH以上に低くなると判断して湿度の判定結果を固定する。
【0070】
次にステップ3では、温度推定手段と湿度推定手段との少なくとも一方を用いて制御内容を決定する。制御内容は、温度と湿度の変化が図3に示したようにΔTまたはΔHの所定差より大きく変化したかどうかを基準として判断、決定する。
【0071】
ステップ4では、決定された制御内容が燃料ガス圧と冷却水圧力との差圧を減少させる制御かどうかを判定する。
【0072】
差圧減少制御であるときにはステップ5で制御を実施し、そうでないときにはステップ6に進み、前回行った差圧減少制御からの経過時間tを検出する。
【0073】
ステップ6に続くステップ7では、経過時間tが所定サイクルaと比較され、経過時間tが所定サイクルa以内であれば、ステップ8に進み、差圧を初期値にリセットし、そうでなければステップ9に進み、現状の基準差圧を維持する。
【0074】
図9は、温度推定手段と湿度推定手段の故障を判定するためのフローチャートであり、コントローラ11が行う制御である。故障判定することにより、例えば、故障が発生したときには運転者に警告して制御を中止するので、発電制御等への影響を防止することができる。
【0075】
まずステップ1で、温度、湿度、燃料供給形態判定信号等各種信号が入力され、ステップ2でこれら入力信号が適性であるかどうかを判断する。適性であればステップ3に進み、温度推定手段が故障していないかどうかを判定する。適正でないときには制御を中止し、運転者等に警告する。
【0076】
ステップ3での判定で、温度推定手段が故障していないときにはステップ4で湿度推定手段の故障を判定する。また温度推定手段の故障が判定されたときにはステップ5で湿度推定手段の故障を判定する。
【0077】
ステップ4で故障が判定されないときにはステップ6で図3に示すマップを用いた差圧減少制御が可能であると判定し、制御を終了する。一方、故障が判定されたときにはステップ7で温度推定手段のみによる差圧減少制御が可能であると判定し、制御を終了する。
【0078】
ステップ5で湿度推定手段に故障がないと判定されたときにはステップ8で、湿度推定手段のみによる差圧減少制御が可能であるとして制御を終了する。ステップ5での判定で湿度推定手段の故障が判定されたときには、差圧減少制御を判定できないとして運転者等に警告する。
【0079】
図9の故障診断結果を踏まえて、図8のフローチャート中のステップ3で差圧減少制御の推定手段を選択することができる。
【0080】
図10は、燃料電池スタック1内の冷却水流路の出口に冷却水流路内の圧力を制御するための温度感応式圧力制御弁(以下、感温弁)13を設置した構成を模式的に示す。
【0081】
感温弁は、燃料電池スタック1内に形成された溝に収装された2つの温度検知部材13aからなり、この2つの温度検知部材13a間の隙間である開口部13bが温度に応じて温度検知部材13aの形状変化に応じて変化する。つまり温度が上昇すると温度検知部材13aの寸法は大きくなり、開口部13bが小さくになる。開口部13bが小さくなるため、燃料電池スタック内の冷却水圧力は高くなる。一方、温度が降下すると開口部13bが大きくなり、燃料電池スタック内の冷却水圧力は低下する。感温弁13を設けることで、燃料電池スタック1内の温度が上昇し、冷却水の蒸発が促進されるときに、感温弁13の開口部13bが狭まり、冷却水流路の圧力が上昇する。したがって、前述のようなポンプや制御弁を制御することなく、簡単な構成で、冷却水流路の圧力を上昇させ、燃料ガスが冷却水中に混入することを防止できる。
【0082】
なお、冷却水流路と酸化剤ガス流路の間を水の浸透が可能な多孔質材として、酸化剤流路側から電解質膜を加湿できる構成の場合は、冷却水圧力と燃料ガス圧力の差圧の代わりに、冷却水圧力と酸化剤ガス圧力の差圧を制御する。
【0083】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内でさまざまな変更がなしうることは明白である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の燃料電池システムの構成を説明するための図である。
【図2】第2の実施形態の燃料電池システムの構成を説明するための図である。
【図3】冷却水流路圧力上昇制御のための温度、湿度条件を説明するためのマップである。
【図4】単セルでの効率を説明するための図である。
【図5】マニホールド出口から遠いセルの位置を説明するための図である。
【図6】同じくマニホールド出口から遠いセルの位置を説明するための図である。
【図7】積層したセルの温度分布を説明するための図である。
【図8】差圧減少制御時にコントローラが実施する制御内容を説明するフローチャートである。
【図9】温度推定手段と湿度推定手段の故障を診断するためにコントローラが実施する制御内容を説明するフローチャートである。
【図10】感温弁の構成を説明するための図である。
【図11】従来技術の燃料電池システムの構成を説明するための図である。
【図12】従来技術の燃料電池本体の単セルの構成を説明するための図である。
【符号の説明】
1 燃料電池スタック
2 燃料ガス流路
3 空気流路
6 冷却水流路
8 ポンプ
9 熱交換器
11 コントローラ
12 制御弁
13 感温弁

Claims (15)

  1. 複数の単位セルを積層して形成される燃料電池スタックと、
    前記燃料電池スタックを冷却するとともに、単位セルを構成する固体高分子電解質膜に水分を供給するための冷却水を供給する冷却水流路と、
    前記燃料電池スタックに冷却水圧力より高圧の反応ガスを供給する反応ガス流路と、
    を備えた燃料電池システムにおいて、
    前記燃料電池スタック内で冷却水が蒸発する量を推定する手段と、
    前記冷却水の蒸発量が増加すると推定されたときに、前記燃料電池スタック内の反応ガスと冷却水の圧力差を減少するように制御する手段を備えたことを特徴とする燃料電池システム。
  2. 前記燃料電池スタック中の冷却水の圧力を調整する手段を備え、
    前記制御手段は、前記圧力差を減少するために前記冷却水圧力調整手段を介して燃料電池スタック内の冷却水圧力を昇圧するように制御することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
  3. 前記蒸発量推定手段は、前記燃料電池スタック内の温度を検出する手段または温度を推定する手段を備え、この検出または推定した温度の上昇に基づき冷却水の蒸発量の増加を推定することを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池システム。
  4. 前記蒸発量推定手段は、前記燃料電池スタック内の湿度を検出する手段または湿度を推定する手段を備え、この検出または推定した湿度の低下に基づき冷却水の蒸発量の増加を推定することを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池システム。
  5. 前記蒸発量推定手段は、前記燃料電池スタック内の温度を検出する手段または温度を推定する手段と、湿度を検出する手段または湿度を推定する手段とを備え、この検出または推定した温度の上昇と検出または推定した湿度の低下とに基づき冷却水の蒸発量の増加を推定することを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池システム。
  6. 前記温度推定手段は、燃料電池スタックの電圧または電流から温度を推定することを特徴とする請求項3または5に記載の燃料電池システム。
  7. 燃料極の集電板の温度を検出する燃料電池温度検出手段を備え、前記温度推定手段は、この検出値に基づき温度を推定することを特徴とする請求項3または5に記載の燃料電池システム。
  8. 前記温度検出手段の前記燃料電池スタック内の温度を検出する部位は、燃料電池システムの冷却水流路の形状に基づき設定されることを特徴とする請求項3または5に記載の燃料電池システム。
  9. 前記燃料電池スタックの冷却水出口での冷却水温度を検出する冷却水温度検出手段を備え、前記温度推定手段は、この検出値に基づき温度を推定することを特徴とする請求項8に記載の燃料電池システム。
  10. 前記冷却水温度検出手段は、燃料電池スタックの冷却水出口から最も遠い位置の単位セルから排出される冷却水の温度を検出し、前記温度推定手段は、この検出値に基づき温度を推定することを特徴とする請求項9に記載の燃料電池システム。
  11. 前記冷却水温度検出手段は、前記燃料電池スタックのセル積層方向の略中央部に位置する単位セルから排出される冷却水の温度を検出し、前記温度推定手段は、この検出値に基づき温度を推定することを特徴とする請求項9に記載の燃料電池システム。
  12. 前記湿度推定手段は、反応ガスの供給形態に基づき湿度を推定することを特徴とする請求項4または5に記載の燃料電池システム。
  13. 前記湿度推定手段は、燃料電池スタック内の温度と燃料電池スタック外部の温度とに基づいて湿度を推定することを特徴とする請求項4または5に記載の燃料電池システム。
  14. 前記湿度推定手段は、燃料電池スタック内の温度と燃料電池スタックに供給される反応ガスの温度とに基づいて湿度を推定することを特徴とする請求項4または5に記載の燃料電池システム。
  15. 前記燃料電池スタック中の冷却水の圧力を調整する手段を備え、前記冷却水圧力調整手段は、温度感応式圧力制御弁であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
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