図1から図6を参照して、実施の形態における燃料供給装置および内燃機関について説明する。本実施の形態においては、車両に配置されている内燃機関を例に取り上げて説明する。
図1は、本実施の形態における内燃機関の概略図である。内燃機関は、機関本体1を備える。機関本体1は、シリンダブロック2とシリンダヘッド4とを含む。シリンダブロック2の内部には、各気筒の燃焼室5が形成されている。燃焼室5にはピストン3が配置されている。内燃機関の燃焼室5には、機関吸気通路および機関排気通路が接続されている。機関吸気通路は、燃焼室5に空気または燃料と空気との混合気体を供給するための通路である。排気通路は、燃焼室5における燃焼により生成された排気ガスを排出するための通路である。
シリンダヘッド4には、吸気ポート7および排気ポート9が形成されている。吸気弁6は吸気ポート7の端部に配置され、燃焼室5に連通する機関吸気通路を開閉可能に形成されている。排気弁8は、排気ポート9の端部に配置され、燃焼室5に連通する機関排気通路を開閉可能に形成されている。シリンダヘッド4には点火プラグ10が固定されている。点火プラグ10は、燃焼室5にて燃料を点火するように形成されている。
本実施の形態における内燃機関は、燃焼室5に燃料を供給するための噴射弁11a,11bを備える。噴射弁11a,11bは、機関吸気通路に燃料を噴射するように配置されている。本実施の形態における噴射弁11a,11bは、吸気ポート7に燃料を噴射するように配置されている。噴射弁11a,11bは、シリンダヘッド4に固定されている。噴射弁11a,11bは、この形態に限られず、機関吸気通路に燃料を供給できるように配置されていれば構わない。
各気筒の吸気ポート7は、対応する吸気枝管13を介してサージタンク14に連結されている。サージタンク14は、吸気ダクト15およびエアフローメータ16を介してエアクリーナ(図示せず)に連結されている。吸気ダクト15には、吸入空気量を検出するエアフローメータ16が配置されている。吸気ダクト15の内部には、ステップモータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置されている。一方、各気筒の排気ポート9は、対応する排気枝管19に連結されている。排気枝管19は、触媒コンバータ21に連結されている。本実施の形態における触媒コンバータ21は、三元触媒20を含む。触媒コンバータ21は、排気管22に接続されている。
本実施の形態における機関本体1は、排気ガス再循環(EGR)を行うための再循環通路を有する。本実施の形態においては、再循環通路としてEGRガス導管26が配置されている。EGRガス導管26は、排気枝管19とサージタンク14とを互いに連結している。EGRガス導管26には、EGR制御弁27が配置されている。EGR制御弁27は、再循環する排気ガスの流量が調整可能に形成されている。また、機関吸気通路、燃焼室、または機関排気通路に供給された排気ガスの空気および燃料(炭化水素)の比を排気ガスの空燃比(A/F)と称すると、触媒コンバータ21の上流側の機関排気通路内には、排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ79が配置されている。
本実施の形態における内燃機関は、制御装置を備える。制御装置は、電子制御ユニット31を含む。本実施の形態における電子制御ユニット31は、ディジタルコンピュータからなる。電子制御ユニット31は、双方向バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、入力ポート36および出力ポート37を含む。
エアフローメータ16は、燃焼室5に吸入される吸入空気量に比例した出力電圧を発生する。この出力電圧は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。アクセルペダル40には、負荷センサ41が接続されている。負荷センサ41は、アクセルペダル40の踏込量に比例した出力電圧を発生する。この出力電圧は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。また、クランク角センサ42は、クランクシャフトが、例えば30°回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスは入力ポート36に入力される。更に、電子制御ユニット31には、空燃比センサ79の信号が入力されている。電子制御ユニット31には、機関本体の回転数を検出する機関回転数センサ(図示せず)の信号が入力されている。
電子制御ユニット31の出力ポート37は、それぞれの対応する駆動回路39を介して噴射弁11a,11bおよび点火プラグ10に接続されている。本実施の形態における電子制御ユニット31は、燃料噴射制御や点火制御を行うように形成されている。すなわち、燃料を噴射する時期および燃料を噴射している時間が電子制御ユニット31により制御される。更に点火プラグ10の点火時期が電子制御ユニット31により制御されている。電子制御ユニット31は、噴射弁11a,11bのそれぞれを個別に制御できるように形成されている。また、出力ポート37は、対応する駆動回路39を介して、スロットル弁18を駆動するステップモータ17およびEGR制御弁27に接続されている。
図2に、本実施の形態における内燃機関の吸気ポートの部分の拡大概略断面図を示す。本実施の形態における内燃機関は、1つの燃焼室に対して複数個の噴射弁が配置されている。図1および図2に例示する内燃機関においては、1つの燃焼室に連通する吸気ポート7に2個の噴射弁が配置されている。噴射弁11a,11bのそれぞれは、吸気ポート7の内部に向かって、独立して燃料を噴射するように形成されている。
本実施の形態における車両は、後述するように、供給される燃料を芳香族成分(アロマ分)の含有率の異なる2種類の燃料に分離する燃料分離装置を備える。本発明においては、芳香族成分の含有率が相対的に高い燃料を高含有率燃料と称し、芳香族成分の含有率が相対的に低い燃料を低含有率燃料と称する。本発明における高含有率燃料および低含有率燃料については、芳香族成分の含有率の大きさについての制限はなく、相対的に芳香族成分の含有率の高い燃料と芳香族成分の含有率の低い燃料であれば構わない。
本実施の形態においては、噴射弁11aから低含有率燃料を噴射するように形成され、噴射弁11bから高含有率燃料を噴射するように形成されている。噴射弁11bは、噴射弁11aよりも燃焼室5から遠い位置に配置されている。換言すると、噴射弁11bは、矢印101に示す吸入空気の流れ方向において噴射弁11aよりも上流側に配置されている。本実施の形態の噴射弁11aおよび噴射弁11bは、吸入空気の流れ方向に沿って直列に配置されている。また、噴射弁11a,11bが、吸気ポート7の周方向において鉛直方向の上端部から挿入されている。噴射弁11a,11bの噴孔は、鉛直方向の最下部に配置され、下側に向いている。
図3は、本実施の形態における燃料分離装置の概略図である。本実施の形態における車両は、車両の外部から供給された燃料(以下「供給燃料」という)を、高含有率燃料と低含有率燃料とに分離する燃料分離装置を備える。本実施の形態において、高含有率燃料は供給燃料よりも芳香族成分の含有率が高く、低含有率燃料は供給燃料よりも芳香族成分の含有率が低くなっている。
本実施の形態における燃料分離装置は、供給燃料75を貯留する燃料タンク61を備える。本実施の形態における燃料タンク61には、供給燃料75としてガソリンが給油される。燃料分離装置は、分離ユニット71を備える。分離ユニット71は、耐圧容器81と耐圧容器81の内部に配置されている分離膜80とを含む。
分離膜80は、供給燃料に含まれる芳香族成分を選択的に透過させる膜が使用されている。分離膜80は、耐圧容器81の内部を2つの区画71a,71bに区切るように配置されている。すなわち、耐圧容器81の内部に分離膜80が配置されることにより、一方の区画71aと他方の区画71bが形成されている。後述するように、一方の区画71aは高圧側の部屋であり、他方の区画71bは低圧側の部屋である。
分離ユニット71は、一方の区画71aに供給燃料75が移送されるように燃料タンク61に接続されている。供給燃料75を一方の区画71aに供給するための移送ポンプ64が配置されている。燃料タンク61から分離ユニット71に向かう流路の途中には加熱装置74が配置されている。本実施の形態における加熱装置74は、電気ヒータを含み、一方の区画71aに移送される供給燃料75を加熱するように形成されている。
本実施の形態における燃料分離装置は、サブタンク62,63を備える。サブタンク62は、分離ユニット71により分離された高含有率燃料76を貯留するためのタンクである。これに対してサブタンク63は、分離ユニット71から流出する低含有率燃料77を貯留するためのタンクである。
サブタンク62は、分離ユニット71の他方の区画71bに接続されている。他方の区画71bとサブタンク62とを接続する流路には、真空ポンプ72および凝縮器73が配置されている。真空ポンプ72は、他方の区画71bを減圧するように接続されている。凝縮器73は、他方の区画71bからサブタンク62に向かう燃料の蒸気を水冷または空冷の方法により凝縮するように形成されている。サブタンク63は、分離ユニット71の一方の区画71aに接続されている。
サブタンク62は、燃料供給通路69に接続されている。サブタンク62から燃料供給通路69に高含有率燃料76を移送するために、移送ポンプ65および高圧供給ポンプ66が配置されている。燃料供給通路69には、それぞれの気筒に対応する噴射弁11bが接続されている。サブタンク63は、燃料供給通路70に接続されている。サブタンク63から燃料供給通路70に低含有率燃料77を移送するために、移送ポンプ67および高圧供給ポンプ68が配置されている。燃料供給通路70には、それぞれの気筒に対応する噴射弁11aが接続されている。
本実施の形態の燃料分離装置においては、移送ポンプ64を駆動することにより分離ユニット71の一方の区画71aに供給燃料75を移送する。このときに、加熱装置74により供給燃料75を加熱する。一方の区画71aに移送された供給燃料75の圧力は高圧である。真空ポンプ72を駆動することにより、分離ユニット71の他方の区画71bの圧力が低くなる。分離膜80の表裏で圧力差が生じる。このため、一方の区画71aに移送された供給燃料75に含まれる芳香族成分が、分離膜80を透過して分離膜80の他方の区画71bの側の表面に浸出する。他方の区画71bには、供給燃料75よりも芳香族成分の含有率の高い燃料が浸出する。
本実施の形態においては、真空ポンプ72を駆動して他方の区画71bに浸出する燃料の蒸気圧よりも低い圧力(負圧)に他方の区画71bの圧力を維持することにより、浸出する燃料を気化して燃料ベーパを生成する。分離膜80の他方の区画71bの側の表面を覆うように浸出する燃料が気化することにより、連続的に燃料を浸出させることができる。他方の区画71bにて気化した燃料は、凝縮器73により凝縮されて液体の燃料に戻される。この芳香族成分を多く含む燃料は、サブタンク62に移送される。
一方で、分離ユニット71の一方の区画71aに残存する燃料は、芳香族成分が抜き取られるために、供給燃料75よりも芳香族成分の含有率が低い燃料になる。この燃料は、サブタンク63に移送される。一般的に、ガソリン中の芳香族成分の量が増大するとガソリンのオクタン価(RON:RESEARCH OCTANE NUMBER)は高くなる。高含有率燃料76は、供給燃料75よりもオクタン価が高くなり、低含有率燃料77は、供給燃料75よりもオクタン価が低くなる。
サブタンク62に貯留される高含有率燃料76は、移送ポンプ65および高圧供給ポンプ66を駆動することにより燃料供給通路69に移送される。燃料供給通路69に移送された燃料は、それぞれの噴射弁11bから噴射される。サブタンク63に貯留する低含有率燃料77は、移送ポンプ67および高圧供給ポンプ68を駆動することにより燃料供給通路70に移送される。燃料供給通路70に移送された燃料は、それぞれの噴射弁11aから噴射される。
分離ユニット71により生成される高含有率燃料および低含有率燃料のそれぞれの含有率および生成量は、分離ユニット71の動作条件、例えば分離膜80の温度、供給燃料75の流量、一方の区画(高圧側の区画)71aの圧力および他方の区画(低圧側の区画)71bの圧力等によって変化する。本実施の形態の内燃機関は、燃料分離装置の作動条件を調節して、分離される燃料の量および芳香族成分の含有率を制御する。加熱装置74により、原料となる供給燃料75の温度を調整することができる。また、移送ポンプ64の供給圧力および真空ポンプ72の到達真空度を変化させることにより、一方の区画71aの圧力および他方の区画71bの圧力をそれぞれ調整することができる。本実施の形態においては、加熱装置74、移送ポンプ64、真空ポンプ72および凝縮器73等は、電子制御ユニット31により制御されている。それぞれの装置を所望の条件にして、燃料の分離を行うことができる。また、移送ポンプ65,67および高圧供給ポンプ66,68は、電子制御ユニット31に接続され、電子制御ユニット31により制御されている。本実施の形態においては、高含有率燃料と低含有率燃料とを任意の量および任意の時期に噴射することができる。
本実施の形態における電子制御ユニット31は、燃焼室に供給される燃料のオクタン価の検出を行うことができる。本実施の形態においては、機関本体1のシリンダブロックに、機関本体1のノッキングを検出するノックセンサ78が配置されている。ノックセンサ78は、機関本体1のノッキングに特有な周波数の振動を検出するセンサである。ノックセンサ78の出力は電子制御ユニット31に入力される。本実施の形態においては、ノックセンサ78で検出された機関本体1のノッキング発生時の運転条件により燃焼室に供給された燃料のオクタン価を検出している。
図4に、内燃機関の運転を行なうときに選定される燃料のオクタン価のグラフの例を示す。横軸は機関本体の回転数であり、縦軸は機関本体の出力トルクである。図4に示す例においては、低含有率燃料のオクタン価が約90であり、高含有率燃料のオクタン価が約100の場合を例示している。図4においては、要求されるオクタン価が約90と、約100と、これらの中間の約95とのグラフを示している。
機関本体の回転数と出力トルクに依存して、低含有率燃料のみを噴射する領域、高含有率燃料のみを噴射する領域、および低含有率燃料と高含有率燃料とを噴射することによりオクタン価を調整する領域を有する。
本実施の形態における燃料噴射装置は、低含有率燃料と高含有率燃料とを個別に吸気ポートに供給することができるため、燃焼室に供給する燃料のオクタン価(または芳香族成分の含有率)を任意に調整することができる。高含有率燃料の噴射量と低含有率燃料の噴射量とを調整することにより、燃焼室に供給する燃料のオクタン価を調整することができる。例えば、図4には、定常走行時の線グラフが記載されている。速度の低いときには、機関回転数および出力トルクは小さくなり、速度が速くなるに従って機関回転数および出力トルクが大きくなる。機関回転数が小さいときには低含有率燃料のみを噴射する。機関回転数が大きくなるに従って要求されるオクタン価が高くなるために、低含有率燃料に加えて高含有率燃料を噴射する。さらに、機関回転数が大きくなると高含有率燃料のみを噴射する。
たとえば、機関回転数およびトルクに対するオクタン価のマップを電子制御ユニット31のROM34に記憶しておく。機関回転数およびトルクにより、燃焼室5に供給する燃料のオクタン価を算出して、このオクタン価になるように2つの噴射弁11a,11bのうち少なくとも一方から燃料を噴射することができる。または、機関回転数およびトルクにより、燃焼室5に供給する燃料の芳香族成分の含有量を算出して、この芳香族成分の含有量になるように2つの噴射弁11a,11bのうち少なくとも一方から燃料を噴射することができる。
このような燃焼室に供給する燃料のオクタン価の制御を行なうことにより、機関性能の向上や排気性状の改善を図ることができる。たとえば、オクタン価の低い燃料は着火性に優れるために、低負荷運転時又は冷間運転時にオクタン価を低くして機関性能の向上や排気性状の改善を図ることができる。また、オクタン価の高い燃料は自己着火しにくいために、高負荷時に燃料のオクタン価を高くし、さらに、点火時期を進角させる等の方法により機関本体の出力を増大させることができる。
本実施の形態においては、図4に示すように、2個の噴射弁のうち一方の噴射弁のみから燃料が噴射され、他方の噴射弁は停止している状態がある。噴射弁からの噴射が一時的に停止している期間が存在すると、その期間において噴射弁にデポジットが形成されやすくなる。たとえば、噴射弁からの燃料の噴射を停止した場合には、噴射終了後の燃料の微量な付着、たれ、または燃料のしみ出しにより噴射弁に付着する燃料が固化してデポジットが形成されやすくなる。
ところで、ガソリン等の燃料に含まれる芳香族成分は、噴射弁にデポジットが生成され易い特性を有する。低含有率燃料の噴射弁においては、燃料に含まれる芳香族成分が少ないためにデポジットの生成が抑制される。一方で、高含有率燃料の噴射弁においては、燃料に芳香族成分が多く含まれるためにデポジットが生成されやすい。例えば、高含有率燃料として高濃度の芳香族成分(例えば50wt%以上80wt%以下)を含む燃料を噴射する場合には、デポジットが生成されやすい条件下にある。本実施の形態における高含有率燃料の噴射弁は、一時的に噴射が停止する期間を有し、さらに、高濃度の芳香族成分を含む燃料を噴射するため、デポジットが生成され易い条件を有する。
図1および図2を参照して、本実施の形態においては、低含有率燃料の噴射弁11aよりも上流側に高含有率燃料の噴射弁11bが配置されている。低含有率燃料を噴射する位置よりも燃焼室から離れた位置にて高含有率燃料を噴射している。本実施の形態においては、デポジットが生成され易い高含有率燃料の噴射弁11bをガス温度の低い領域に配置することができる。このために、高含有率燃料の噴射弁11bにデポジットが発現することを抑制できる。
また、本実施の形態の機関本体1では、燃焼サイクルの排気工程の終了時期に吸気弁6を開く期間が存在する。本実施の形態においては、吸気弁6および排気弁8が開いた状態になるバルブオーバーラップを行っている。バルブオーバーラップを行うことにより、吸気工程における充填効率を向上させることができる。ところが、排気工程の終了時期に吸気弁6を開くことにより、燃焼室5からの残留ガスのふき返しが吸気ポート7内に生じる。図2を参照して、矢印102に示すように排気ガスのふき返しが生じる。排気ガスの温度は高温であり、噴射弁の周りの雰囲気の温度が上昇してデポジットの生成を加勢する。さらに、排気ガスには、NOX、SOXまたは未燃燃料(HC)が含まれている。これらの成分は、噴射される燃料と反応してデポジットの生成を加勢する。
本実施の形態においては、デポジットが生成されやすい高含有率燃料の噴射弁を燃焼室から離れた位置に配置することができるため、排気ガスの吹き返しによる影響を小さくすることができて、デポジットの生成を抑制することができる。
このように、デポジットが生成されやすい高含有率燃料の噴射弁を、低含有率燃料の噴射弁よりも上流側に設けることにより、噴射弁にデポジットが生成されることを抑制することができる。
本実施の形態においては、噴射弁11a,11bが鉛直方向の上側から吸気ポート7に挿入されている。噴射弁11a,11bの先端の噴孔が鉛直方向の下側を向いている。この構成により、噴射弁11a,11bの先端に燃料が付着したとしても落下させることができ、噴射弁11a,11bの先端にデポジットの核となる燃料が残留することを抑制できる。このため、デポジットの生成を抑制することができる。噴射弁の配置については、この形態に限られず、任意の方向を向いていても構わない。
次に、本実施の形態における噴射弁の燃料の噴射制御について説明する。燃焼室5に供給する燃料のオクタン価は、前述のように機関本体の回転数等により選定される。本実施の形態においては、高含有率燃料の噴射および低含有率燃料の噴射を行うときに、同時期に燃料を噴射しないように時期を分けてそれぞれの噴射弁から燃料を噴射する。
図5に、本実施の形態における2つの噴射弁からの燃料の噴射時期を説明するタイムチャートを示す。燃料の噴射要求があったときに、時刻t1において上流側の噴射弁から高含有率燃料を噴射する。時刻t2において上流側の噴射弁を閉止するとともに、下流側の噴射弁を開状態にして低含有率燃料を噴射する。時刻t3まで下流側の噴射弁からの燃料の噴射を継続する。時刻t3において下流側の噴射弁を閉止する。
このように、本実施の形態においては、複数の噴射弁が時期を分けてそれぞれの燃料を機関吸気通路に供給している。すなわち、2個の噴射弁の噴射時期が重ならないように噴射時期を互いに分離している。
上流側の高含有率燃料の噴射弁と下流側の低含有率燃料の噴射弁とから同時に燃料を噴射した場合においては、それぞれの噴射弁からの噴霧が互いに干渉して噴霧の粒径が大きくなったり、または噴霧同士の干渉により燃料が飛散したりして、吸気ポートの内壁に付着する燃料の量が増加する。吸気ポートの内壁に燃料が付着することにより、燃焼室に所望の量の燃料が供給されずに吸気ポートに燃料が残ってしまう。また、後続の燃焼サイクルの燃料供給時に残存した燃料が燃焼室に供給されてしまう場合がある。この結果、過渡状態での機関本体の空燃比制御を十分に発揮できない虞が生じる。または、所望の出力トルクからずれる虞が生じる。
たとえば、燃焼室内にて理論空燃比で燃料を燃焼させている場合に、車両の加速時には燃焼室に供給する燃料の量を多くする。このときに、吸気ポートの壁面に燃料が付着することにより、その燃焼サイクルでは燃焼室内に供給される燃料の量が所望の量よりも少なくなる。空燃比が理論空燃比からリーン側にずれる。または、車両の減速時には、加速時に吸気ポートの壁面に付着した燃料が壁面から離脱して燃焼室に供給される場合がある。この場合には、燃焼室に供給される燃料の量が所望の量よりも多くなる。空燃比が理論空燃比からリッチ側にずれる。このように、燃焼室にて燃料が燃焼する空燃比を制御している場合に目標の空燃比からずれてしまう場合がある。
本実施の形態のように、高含有率燃料の噴射弁と低含有率燃料の噴射弁との噴射時期を互いに分離することにより、それぞれの噴射弁から噴射される噴霧の干渉を回避して、噴霧の粒径の拡大または干渉による飛び散りを抑制することができる。吸気ポートの壁面に燃料が付着することを抑制でき、所望の燃料の量を燃焼室に供給することができる。この結果、過渡状態における内燃機関の性能低下を回避することができる。
本実施の形態においては、高含有率燃料の噴射弁からの燃料の供給を先に行って、この燃料の噴射終了後に低含有率燃料の噴射弁からの燃料の供給を行なっている。すなわち、高含有率燃料を先に吸気ポートに供給した後に低含有率燃料を吸気ポートに供給している。
図6に、本実施の形態における内燃機関において、それぞれの負荷に対して燃料を噴射するときのグラフを示す。横軸はクランク角を示し、すなわち燃料を噴射する時期を示している。縦軸は、機関本体の負荷を示している。図6では、それぞれの負荷に対する燃料の噴射時期を示している。負荷が大きくなるに従って、燃焼室に供給する燃料の総量が多くなっている。このときに、負荷が大きくなるに従って、高含有率燃料の噴射量の割合が多くなっている。いずれの負荷の場合にも、上流側の高含有率燃料の噴射弁から先に燃料を噴射した後に下流側の低含有率燃料の噴射弁から燃料を噴射している。
芳香族成分は、燃料に含まれる成分のなかでも蒸発速度および拡散速度が遅い成分である。特に、本実施の形態において、芳香族成分を多く含む高含有率燃料は、蒸発速度および拡散速度が供給燃料よりも遅くなる。一方で、芳香族成分の含有率が少ない低含有率燃料は、蒸発速度および拡散速度が供給燃料よりも速くなる。高含有率燃料は、低含有率燃料に比べて吸気ポートの内壁に付着しやすくなり、後続の燃焼サイクルまで燃料が残留してしまう可能性が高くなる。この結果、燃焼室に供給する燃料の空燃比やそれぞれの燃料の量等が目標値からずれてしまう場合がある。
高含有率燃料を低含有率燃料に先立って機関吸気通路に供給することにより、高含有率燃料が蒸発する時間を長くすることができる。高含有率燃料の多くを蒸発させることができる。または、吸気ポートの内壁に付着する燃料の量を少なくしながら吸気弁の傘部の周辺まで導くことができる。この結果、燃焼室に供給する燃料の空燃比やそれぞれの燃料の量等が目標値からずれることを抑制できる。
本実施の形態においては、高含有率燃料を先に噴射しているが、この形態に限られず、上流側の高含有率燃料の噴射を下流側の低含有率燃料の噴射の後に行なっても構わない。また、本実施の形態においては、上流側の高含有率燃料と下流側の低含有率燃料とを分離して噴射する様に制御を行なっているが、この形態に限られず、高含有率燃料の噴射弁と低含有率燃料の噴射弁とを同時に噴射しても構わない。また、本実施の形態においては、排気の性状を向上させるために噴射終了時期(クランク角度θE)を一定にする制御を行なっているが、この形態に限られず、負荷の大きさや燃料の噴射量等に応じて噴射終了時期を互いに異なる時期にしても構わない。さらに、燃料の噴射を連続的に行わずに複数回の噴射に分割しても構わない。
本実施の形態においては、車両に搭載された分離装置によって供給燃料を高含有率燃料と低含有率燃料とに分離しているが、この形態に限られず、外部から低含有率燃料および高含有率燃料が供給されても構わない。例えば、車両に高含有率燃料を貯留するタンクおよび低含有率燃料を貯留するタンクが配置され、燃料を補給するときに高含有率燃料および低含有率燃料が供給され、それぞれのタンクから燃料が供給されていても構わない。また、燃料分離装置としては、上記の装置に限られるものではなく、芳香族成分の含有率が異なる複数の燃料を生成することができる任意の装置を採用することができる。
本実施の形態においては、1つの気筒に対して燃料を供給するための2つの噴射弁が配置されている例を取り上げて説明したが、この形態に限られず、1つの気筒に対して3つ以上の噴射弁が配置されていても構わない。
本実施の形態においては、内燃機関のうちガソリンエンジンを例に取り上げて説明したが、この形態に限られず、たとえばディーゼルエンジンに本発明を適用することができる。また、本実施の形態においては、車両に配置される内燃機関を例に取り上げて説明したが、この形態に限られず、任意の内燃機関に本発明を適用することができる。
上述のそれぞれの図において、同一または相当する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に含まれる変更が意図されている。