本発明に係る燃料噴射制御装置の実施例1を図1から図6に基づいて説明する。以下においては、適用対象たる内燃機関の一例を説明しつつその燃料噴射制御装置について詳述する。
ここで例示する内燃機関とは、異なる燃料性状の燃料を用いても運転を行うことのできる所謂フレキシブル燃料車に搭載される多種燃料内燃機関であり、発熱量に高低差のある少なくとも2種類の燃料が個別に供給されるように構成したものである。ここでは、発熱量の高い高発熱量燃料としてガソリン燃料等の炭化水素系燃料を例示する。また、その高発熱量燃料よりも発熱量の低い低発熱量燃料としては、エタノール、メタノールやブタノール等のようなアルコール燃料又はアルコール混合燃料を例示する。そのアルコール混合燃料とは、アルコール燃料を主体とした燃料のことであり、アルコール燃料とこれとは燃料性状の異なる少なくとも1種類の燃料との混合燃料である。ここで例示するアルコール混合燃料は、炭化水素系燃料(例えばガソリン燃料)と混合されているものとする。
また、この内燃機関とは、図1に示す電子制御装置(ECU)1によって燃焼制御等の各種制御動作が実行されるものである。本実施例1においては、その電子制御装置1の一機能として燃料噴射制御装置が構成されているものとする。尚、その電子制御装置1は、図示しないCPU(中央演算処理装置),所定の制御プログラム等を予め記憶しているROM(Read Only Memory),そのCPUの演算結果を一時記憶するRAM(Random Access Memory),予め用意された情報等を記憶するバックアップRAM等で構成されている。
最初に、ここで例示する内燃機関の構成について図1に基づき説明を行う。尚、その図1においては1気筒のみを図示しているが、本発明は、これに限らず、多気筒の多種燃料内燃機関にも適用可能である。本実施例においては、複数の気筒を具備しているものとして説明する。
この内燃機関には、燃焼室CCを形成するシリンダヘッド11,シリンダブロック12及びピストン13が備えられている。ここで、そのシリンダヘッド11とシリンダブロック12は図1に示すヘッドガスケット14を介してボルト等で締結されており、これにより形成されるシリンダヘッド11の下面の凹部11aとシリンダブロック12のシリンダボア12aとの空間内にピストン13が往復移動可能に配置される。そして、上述した燃焼室CCは、そのシリンダヘッド11の凹部11aの壁面とシリンダボア12aの壁面とピストン13の頂面13aとで囲まれた空間によって構成される。
この内燃機関は、機関回転数や機関負荷等の運転条件に従って空気と燃料を燃焼室CCに送り込み、その運転条件に応じた燃焼制御を実行する。その空気については、図1に示す吸気通路21とシリンダヘッド11の吸気ポート11bを介して外部から吸入される。一方、その燃料については、図1に示す燃料供給装置50を用いて供給される。
先ず、空気の供給経路について説明する。
この内燃機関の吸気通路21上には、外部から導入した空気に含まれる塵埃等の異物を除去するエアクリーナ22と、外部からの吸入空気量を検出する吸入空気量検出手段23と、が設けられている。その吸入空気量検出手段23としては、吸入空気量を直接検出するエアフロメータ等の空気量検出センサ、吸気通路21内の圧力(即ち、吸気圧)を検出する吸気管圧センサなどが考えられる。後者の吸気管圧センサを利用する場合、吸入空気量は、その吸気圧と機関回転数から間接的に求める。この内燃機関においては、その吸入空気量検出手段23の検出信号が電子制御装置1へと送られ、その検出信号に基づいて電子制御装置1が吸入空気量や機関負荷等を算出する。尚、機関回転数については、クランクシャフト15の回転角度の検出を行うクランク角センサ16の検出信号から把握させることができる。
また、その吸気通路21上における吸入空気量検出手段23よりも下流側には、燃焼室CC内へ流入させる空気の流量調節が可能なスロットルバルブ24と、このスロットルバルブ24を開閉駆動するスロットルバルブアクチュエータ25と、が設けられている。本実施例1の電子制御装置1には、そのスロットルバルブアクチュエータ25を運転条件に従って駆動制御し、その運転条件に応じた弁開度となるようにスロットルバルブ24の開弁角度を調節させるスロットルバルブ制御手段が用意されている。ここでは、そのスロットルバルブアクチュエータ25とスロットルバルブ制御手段とでスロットルバルブ開度制御手段を構成する。更に、この内燃機関においては、そのスロットルバルブ24の弁開度を検出し、その検出信号を電子制御装置1に送信するスロットル開度センサ26が設けられている。
一方、吸気ポート11bはその一端が燃焼室CCに開口しており、その開口部分に当該開口を開閉させる吸気バルブ31が配設されている。その開口の数量は1つでも複数でもよく、その開口毎に吸気バルブ31が配備される。従って、この内燃機関においては、その吸気バルブ31を開弁させることによって吸気ポート11bから燃焼室CC内に空気が吸入される一方、その吸気バルブ31を閉弁させることによって燃焼室CC内への空気の流入が遮断される。
ここで、その吸気バルブ31としては、例えば、図示しない吸気側カムシャフトの回転と弾性部材(弦巻バネ)の弾発力に伴って開閉駆動されるものがある。この種の吸気バルブ31においては、その吸気側カムシャフトとクランクシャフト15の間にチェーンやスプロケット等からなる動力伝達機構を介在させることによってその吸気側カムシャフトをクランクシャフト15の回転に連動させ、予め設定された開閉時期に開閉駆動させる。ここで例示する内燃機関においては、このようなクランクシャフト15の回転に同期して開閉駆動される吸気バルブ31を適用することができる。
但し、この内燃機関は、その吸気バルブ31の開閉時期やリフト量を変更可能な所謂可変バルブタイミング&リフト機構等の可変バルブ機構を具備してもよく、これにより、その吸気バルブ31の開閉時期やリフト量を運転条件に応じた好適なものへと可変させることができるようになる。更にまた、この内燃機関においては、かかる可変バルブ機構と同様の作用効果を得るべく、電磁力を利用して吸気バルブ31を開閉駆動させる所謂電磁駆動弁を利用してもよい。
続いて、燃料供給装置50について説明する。
この燃料供給装置50としては、複数の燃料タンク内に貯留された燃料性状の異なる燃料を個別に吸気ポート11b又は/及び燃焼室CC内に噴射するもの,複数の燃料タンク内に貯留された燃料性状の異なる燃料を燃料混合装置等で所望の燃料混合比率に混ぜ合わせて吸気ポート11b又は/及び燃焼室CC内に噴射するもの等が考えられる。本実施例1においては、燃料性状の異なる2種類の燃料(第1燃料タンク41Aに貯留されている高発熱量燃料FH又は第2燃料タンク41Bに貯留されている低発熱量燃料FL)の燃料噴射比率を可変させて各々吸気ポート11bに噴射し、その夫々の燃料を吸入空気と共に燃焼室CCへと導くポート噴射式のものを代表して例示する。また、本実施例1においては、第1燃料タンク41Aに高発熱量燃料FHとしてガソリン燃料が貯留され、第2燃料タンク41Bに低発熱量燃料FLとして一定の燃料混合比率からなるアルコール混合燃料(アルコール燃料とガソリン燃料との混合燃料)が貯留されているものとする。
具体的に、この燃料供給装置50は、高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLの燃料噴射比率を設定する電子制御装置1の燃料噴射比率設定手段と、高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLの夫々の目標燃料噴射量を設定する電子制御装置1の目標燃料噴射量設定手段と、高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLを夫々の目標燃料噴射量で噴射させる電子制御装置1の燃料噴射制御手段と、によって制御される。
その燃料噴射比率設定手段は、機関回転数や機関負荷等の運転条件に応じて0対10から10対0の間で高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLの燃料噴射比率の設定を行う。また、目標燃料噴射量設定手段は、その燃料噴射比率と燃焼室CC内の混合気の目標空燃比と吸入空気量(機関負荷)とに基づいて高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLの夫々の目標燃料噴射量の設定を行う。尚、その燃焼室CC内の混合気の目標空燃比については、運転条件に応じて設定される。
また、この燃料供給装置50は、高発熱量燃料FHを吸気ポート11bに噴射する第1燃料供給手段と、低発熱量燃料FLを吸気ポート11bに噴射する第2燃料供給手段と、を備えている。従って、本実施例1の燃料噴射比率設定手段は、その第1燃料供給手段に噴射させる高発熱量燃料FHと第2燃料供給手段に噴射させる低発熱量燃料FLの燃料噴射比率を設定するものとなる。
その第1燃料供給手段は、高発熱量燃料FHを第1燃料タンク41Aから吸い上げて第1燃料通路51Aに送出する第1フィードポンプ52Aと、その第1燃料通路51Aの高発熱量燃料FHを夫々の気筒に分配する第1燃料デリバリパイプ53Aと、この第1燃料デリバリパイプ53Aから供給された高発熱量燃料FHを夫々の吸気ポート11bに噴射する各気筒の燃料噴射弁(燃料噴射手段)54Aと、を備える。この第1燃料供給手段は、目標燃料噴射量設定手段の設定した目標燃料噴射量と運転条件に応じた燃料噴射時期等の燃料噴射条件に従って高発熱量燃料FHを噴射させるものであり、その燃料噴射条件に基づいて燃料噴射制御手段に第1フィードポンプ52A及び燃料噴射弁54Aを駆動制御させるよう構成する。従って、この第1燃料供給手段においては、第1フィードポンプ52Aによって高発熱量燃料FHが第1燃料タンク41Aから吸い上げられ、その高発熱量燃料FHが燃料噴射条件で燃料噴射弁54Aから噴射される。
また、第2燃料供給手段については、低発熱量燃料FLを第2燃料タンク41Bから吸い上げて第2燃料通路51Bに送出する第2フィードポンプ52Bと、その第2燃料通路51Bの低発熱量燃料FLを夫々の気筒に分配する第2燃料デリバリパイプ53Bと、この第2燃料デリバリパイプ53Bから供給された低発熱量燃料FLを夫々の吸気ポート11bに噴射する各気筒の燃料噴射弁(燃料噴射手段)54Bと、を備える。この第2燃料供給手段は、目標燃料噴射量設定手段の設定した目標燃料噴射量と運転条件に応じた燃料噴射時期等の燃料噴射条件に従って低発熱量燃料FLを噴射させるものであり、その燃料噴射条件に基づいて燃料噴射制御手段に第2フィードポンプ52B及び燃料噴射弁54Bを駆動制御させるよう構成する。従って、この第2燃料供給手段においては、第2フィードポンプ52Bによって低発熱量燃料FLが第2燃料タンク41Bから吸い上げられ、その低発熱量燃料FLが燃料噴射条件で燃料噴射弁54Bから噴射される。
このようにして吸気ポート11bに供給された高発熱量燃料FHや低発熱量燃料FLは、その吸気ポート11b内で上述した空気と混ざり合いながら、吸気バルブ31の開弁と共に燃焼室CC内へと供給される。そして、その燃焼室CC内の混合気は、運転条件に応じた点火時期となった際に点火プラグ61の着火動作によって燃焼させられる。その燃焼された後の筒内ガス(燃焼ガス)は、燃焼室CCから図1に示す排気ポート11cへと排出され、排気通路81を介して大気へと放出される。
その排気ポート11cには、燃焼室CCとの間の開口を開閉させる排気バルブ71が配設されている。その開口の数量は1つでも複数でもよく、その開口毎に上述した排気バルブ71が配備される。従って、この内燃機関においては、その排気バルブ71を開弁させることによって燃焼室CC内から排気ポート11cに燃焼ガスが排出され、その排気バルブ71を閉弁させることによって燃焼ガスの排気ポート11cへの排出が遮断される。
ここで、その排気バルブ71としては、上述した吸気バルブ31と同様に、動力伝達機構を介在させたもの、所謂可変バルブタイミング&リフト機構等の可変バルブ機構を具備したものや所謂電磁駆動弁を適用することができる。
更に、排気通路81上には排気浄化装置82が配設されており、その排気浄化装置82において排気ガス中の有害物質の浄化が行われる。その排気浄化装置82としては、理論空燃比運転や過濃空燃比運転で発生した排気ガス中の炭化水素(HC),一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)に対して有効な浄化作用を発揮する三元触媒と、希薄空燃比運転で大量に発生した排気ガス中の窒素酸化物に対して有効な浄化作用を発揮するリーンNOx触媒(NOx吸蔵還元型触媒)と、が知られている。
ところで、その排気浄化装置82は、触媒担体温度Tcが活性状態(つまり、所定の触媒活性温度範囲内)に無ければ排気ガス中の有害物質を適切に浄化させることができない。これが為、一般には、冷間始動時であれば触媒担体温度Tcを触媒活性温度範囲内にまで上昇させる為の様々な制御を行っている。
ここで、高発熱量燃料FHは、低発熱量燃料FLと比べて、燃焼温度が高くなり、排気ガスの温度を高めることができる。つまり、その排気ガスの通過する排気浄化装置82については、高発熱量燃料FHの噴射量を増やすことによって触媒担体温度Tcが上昇し易くなる。従って、本実施例1の燃料噴射制御装置は、冷間始動時に高発熱量燃料(ガソリン燃料)FHのみを噴射させる又は高発熱量燃料FHの燃料噴射割合を通常燃料噴射比率のときよりも大きくして高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLを噴射させるように構成する。ここで言う通常燃料噴射比率とは、触媒担体温度Tcが触媒活性温度範囲内にあるときに運転条件に応じて適用される燃料噴射比率のことを指す。
このようにして通常は冷間始動時における排気浄化装置82の活性化を図るのであるが、例えば、活性状態にあるときに低負荷運転やアイドリング状態が長きに渡り継続された場合等には、排気ガスの温度の低下によって触媒担体温度Tcが触媒活性温度範囲内よりも低温側に下がってしまい、排気ガス中の有害物質がそのまま大気に放出されてしまう虞がある。他方、例えば、活性状態にあるときに高負荷運転が長きに渡り継続された場合等には、排気ガスの温度の上昇によって触媒担体温度Tcが触媒活性温度範囲内よりも高温側に上がってしまい、排気ガス中の有害物質がそのまま大気に放出されてしまう虞があるのみならず、触媒の溶損を引き起こしてしまう可能性もある。
そこで、本実施例1の燃料噴射制御装置は、排気浄化装置82の触媒担体温度Tcが触媒活性温度範囲内から外れてしまう虞のあるときに、高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLの燃料噴射比率を変更して触媒担体温度Tcが触媒活性温度範囲内に保たれるように構成する。
先ず、本実施例1においては、活性状態にある排気浄化装置82の触媒担体温度Tcが触媒活性判定下限温度Tminよりも低温になったときに、燃料噴射比率がその時点の通常燃料噴射比率よりも高発熱量燃料FHの燃料噴射割合を最大で100%まで高くした値となるよう燃料噴射比率設定手段を構成する。具体的に、本実施例1の燃料噴射比率設定手段は、そのときに高発熱量燃料FHの燃料噴射量を増やして燃焼室CC内における燃焼温度を上昇させ、これに伴う排気ガスの温度上昇によって触媒担体温度Tcを少なくとも触媒活性判定下限温度Tminよりも高温側に上昇させるよう構成する。従って、本実施例1においては、活性状態にある排気浄化装置82の触媒担体温度Tcが触媒活性判定下限温度Tminよりも低くなったとしても、排気浄化装置82の不活性化を回避することができる。
ここで、その触媒活性判定下限温度Tminとは、排気浄化装置82の活性状態の保持に必要な触媒担体温度Tcの下限値を判定する為の判定値であり、触媒活性温度範囲の下限値よりも高温側に設定されている。触媒活性判定下限温度Tminを触媒活性温度範囲の下限値よりも高温側に設定する理由は、燃料噴射比率の変更指示が行われて実際に排気ガスの温度が上昇し始めるまでに時間がかかるからであり、その下限値に触媒活性判定下限温度Tminが設定されてしまうと触媒担体温度Tcが触媒活性温度範囲よりも低くなってしまう可能性があるからである。これが為、この触媒活性判定下限温度Tminについては、その時間差による排気浄化装置82の不活性化が回避可能な値を実験やシミュレーションに基づいて設定すればよい。このように、本実施例1においては、触媒活性判定下限温度Tminを触媒活性温度範囲内に設定することによって、排気浄化装置82の活性状態を保ったままでの触媒担体温度Tcの上昇が可能になり、その活性状態の保持を実効あるものにすることができる。
また、そのときの高発熱量燃料FHの燃料噴射割合の変更代については、排気浄化装置82の固有の値である触媒容量、そのときにおける排気浄化装置82の触媒担体温度Tcや高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLの燃料噴射比率等に依存するものであり、予め実験やシミュレーションを行ってその結果をマップデータとして用意しておけばよい。例えば、そのマップデータは、その触媒担体温度Tcと燃料噴射比率をパラメータにして、高発熱量燃料FHの燃料噴射割合をどの程度変更すればよいのかを導き出させるものである。
更に、本実施例1の燃料噴射比率設定手段は、活性状態にある排気浄化装置82の触媒担体温度Tcが触媒活性判定上限温度Tmaxよりも高温になったときに、燃料噴射比率がその時点の通常燃料噴射比率よりも低発熱量燃料FLの燃料噴射割合を最大で100%まで高くした値となるよう構成する。具体的に、この燃料噴射比率設定手段は、そのときに低発熱量燃料FLの燃料噴射量を増やして燃焼室CC内における燃焼温度を低下させ、これに伴う排気ガスの温度低下によって触媒担体温度Tcを少なくとも触媒活性判定上限温度Tmaxよりも低温側に低下させるよう構成する。従って、本実施例1においては、活性状態にある排気浄化装置82の触媒担体温度Tcが触媒活性判定上限温度Tmaxよりも高くなったとしても、排気浄化装置82の不活性化と触媒の溶損を回避することができる。
ここで、その触媒活性判定上限温度Tmaxとは、排気浄化装置82の活性状態の保持に必要な触媒担体温度Tcの上限値を判定する為の判定値であり、触媒活性温度範囲の上限値よりも低温側に設定されている。触媒活性判定上限温度Tmaxを触媒活性温度範囲の上限値よりも低温側に設定する理由は、燃料噴射比率の変更指示が行われて実際に排気ガスの温度が低下し始めるまでに時間がかかるからであり、その上限値に触媒活性判定上限温度Tmaxが設定されてしまうと触媒担体温度Tcが触媒活性温度範囲よりも高くなってしまう可能性があるからである。これが為、この触媒活性判定上限温度Tmaxについては、その時間差による排気浄化装置82の不活性化及び触媒の溶損が回避可能な値を実験やシミュレーションに基づいて設定すればよい。このように、本実施例1においては、触媒活性判定上限温度Tmaxを触媒活性温度範囲内に設定することによって、排気浄化装置82の活性状態を保ったままでの触媒担体温度Tcの低下が可能になり、その活性状態の保持と触媒の溶損の回避を実効あるものにすることができる。
また、そのときの低発熱量燃料FLの燃料噴射割合の変更代については、排気浄化装置82の触媒容量、そのときにおける排気浄化装置82の触媒担体温度Tcや高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLの燃料噴射比率等に依存するものであり、予め実験やシミュレーションを行ってその結果をマップデータとして用意しておけばよい。例えば、そのマップデータは、その触媒担体温度Tcと燃料噴射比率をパラメータにして、低発熱量燃料FLの燃料噴射割合をどの程度変更すればよいのかを導き出させるものである。
以下、本実施例1の燃料噴射制御装置(電子制御装置1)の動作について図2のフローチャートに基づき説明する。
先ず、電子制御装置1は、排気浄化装置82の触媒担体温度Tcを検出する(ステップST5)。その触媒担体温度Tcは、例えば排気浄化装置82に設けた図1に示す温度センサ83を用いて直接検出させる。また、これとは別に、その触媒担体温度Tcについては、排気通路81上の排気温センサ84によって検出された排気ガスの温度から推定してもよい。
続いて、この電子制御装置1の燃料噴射比率設定手段は、その触媒担体温度Tcが上述した触媒活性判定下限温度Tminよりも低温になっているのか否かを判定する(ステップST10)。
ここで触媒担体温度Tcが触媒活性判定下限温度Tmin以上であると判定(否定判定)された場合、この燃料噴射比率設定手段は、その触媒担体温度Tcが上述した触媒活性判定上限温度Tmaxよりも高温になっているのか否かを判定する(ステップST15)。
そして、このステップST15で触媒担体温度Tcが触媒活性判定上限温度Tmax以下になっているとの判定(否定判定)が為された場合、つまり触媒担体温度Tcが触媒活性判定下限温度Tminと触媒活性判定上限温度Tmaxの間にある場合、燃料噴射比率設定手段は、排気浄化装置82が活性状態にあると判断して通常燃料噴射比率の適用を図る(ステップST20)。
従って、この場合の燃料噴射比率設定手段は、その際の運転条件に応じた通常燃料噴射比率を設定し、その設定値を電子制御装置1の目標燃料噴射量設定手段に送って、その目標燃料噴射量設定手段に運転条件に応じた高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLの夫々の目標燃料噴射量を設定させる。その後、目標燃料噴射量設定手段から夫々の目標燃料噴射量の設定値を受け取った電子制御装置1の燃料噴射制御手段は、その夫々の目標燃料噴射量となるように第1燃料供給手段と第2燃料供給手段を各々駆動制御する。
一方、上記ステップST10で触媒担体温度Tcが触媒活性判定下限温度Tminよりも低温になっていると判定(肯定判定)された場合、つまり排気浄化装置82が不活性状態になってしまう可能性があると判断された場合、燃料噴射比率設定手段は、高発熱量燃料(ガソリン燃料)FHの燃料噴射割合を増やした燃料噴射比率の設定を上述したマップデータに基づいて行う(ステップST25)。その設定された燃料噴射比率は、判定が行われた時点で設定されている燃料噴射比率(大方の場合は通常燃料噴射比率)よりも高発熱量燃料FHの燃料噴射割合を増加させたものである。
従って、この場合には、その燃料噴射比率の設定値を受け取った目標燃料噴射量設定手段が運転条件に応じた高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLの夫々の目標燃料噴射量を設定し、その夫々の目標燃料噴射量となるように第1燃料供給手段と第2燃料供給手段を燃料噴射制御手段が各々駆動制御する。これが為、その際の内燃機関においては、これまでよりも高発熱量燃料(ガソリン燃料)FHの燃料噴射量が増えるので、燃焼温度が高くなって排気ガスの温度が上昇する。そして、排気浄化装置82においては、その排気ガスの温度上昇によって、低下し続けていた触媒担体温度Tcが図3に示す如く触媒活性温度範囲内に保たれたまま上昇し始める。つまり、触媒担体温度Tcの低下によって排気浄化装置82が不活性状態となる虞のある場合には、低発熱量燃料FLよりも燃焼温度の高い高発熱量燃料FHの燃料噴射割合を増やし、これにより排気ガスの温度を上昇させて、排気浄化装置82の活性状態が保持されるようにする。
ここで、その高発熱量燃料FHの燃料噴射割合の増加については、図3に示す如く、触媒担体温度Tcが再び触媒活性判定下限温度Tminよりも高温になるまで継続させる。
また、上記ステップST15で触媒担体温度Tcが触媒活性判定上限温度Tmaxよりも高温になっていると判定(肯定判定)された場合、つまり排気浄化装置82が不活性状態になってしまう可能性があり且つ触媒の溶損の可能性もあると判断された場合、燃料噴射比率設定手段は、低発熱量燃料(アルコール混合燃料)FLの燃料噴射割合を増やした燃料噴射比率の設定を上述したマップデータに基づいて行う(ステップST30)。その設定された燃料噴射比率は、判定が行われた時点で設定されている燃料噴射比率(大方の場合は通常燃料噴射比率)よりも低発熱量燃料FLの燃料噴射割合を増加させたものである。
この場合においても、その設定された燃料噴射比率や運転条件に応じた目標燃料噴射量となるように高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLが噴射される。これが為、この場合の内燃機関においては、これまでよりも低発熱量燃料(アルコール混合燃料)FLの燃料噴射量が増えるので、燃焼温度が低くなって排気ガスの温度が低下する。そして、その際の排気浄化装置82においては、その排気ガスの温度低下によって、上昇し続けていた触媒担体温度Tcが図3に示す如く触媒活性温度範囲内に保たれたまま低下し始める。つまり、触媒担体温度Tcの上昇によって排気浄化装置82が不活性状態となり、また、触媒の溶損を招く虞のある場合には、高発熱量燃料FHよりも燃焼温度の低い低発熱量燃料FLの燃料噴射割合を増やし、これにより排気ガスの温度を低下させて、排気浄化装置82の活性状態が保持されるようにする。
ここで、その低発熱量燃料FLの燃料噴射割合の増加については、図3に示す如く、触媒担体温度Tcが再び触媒活性判定上限温度Tmaxよりも低温になるまで継続させる。
このように、本実施例1の燃料噴射制御装置は、排気浄化装置82の触媒担体温度Tcが触媒活性温度範囲内から外れてしまう可能性があるときに、高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLの燃料噴射比率を変更することによって排気浄化装置82の活性状態を保つことができる。従って、この燃料噴射制御装置は、排気浄化装置82における排気ガス中の有害物質の浄化作用を維持させることができるので、エミッション性能の悪化を抑制することができる。例えば、ここで例示している内燃機関が主に理論空燃比で運転されるものである場合、つまり主としてストイキ運転が行われる内燃機関の場合には、三元触媒たる排気浄化装置82の活性状態の保持が可能になるので、排気ガス中の炭化水素(HC),一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)が効果的に浄化されるようになる。また、ここで例示している内燃機関が主に希薄空燃比で運転されるものである場合、つまり主としてリーン運転が行われる内燃機関の場合には、リーンNOx触媒たる排気浄化装置82の活性状態の保持が可能になるので、排気ガス中の窒素酸化物が効果的に浄化されるようになる。これが為、かかる場合には、運転中の多くの時間をリーン運転に割くことができるので、燃費性能の向上をも図ることができるようになる。
ところで、上述した例示においては、第1燃料タンク41Aに高発熱量燃料FHとして純度100%のガソリン燃料が貯留され、第2燃料タンク41Bに低発熱量燃料FLとして一定の燃料混合比率のアルコール混合燃料が貯留されているものとしている。しかしながら、給油施設で提供されるガソリン燃料は、国や地域によって、主たる成分はガソリン燃料であるが、そのガソリン燃料にアルコール燃料が混ぜられたアルコール混合燃料として提供されることもある。つまり、実際の第1燃料タンク41Aの中には、多少のアルコール燃料が混在しているガソリン燃料を主体とした燃料が貯留されることも考えられる。また、給油施設で提供されるアルコール混合燃料は、前述したように必ずしも常に同じ燃料混合比率のものが手に入るとは限らず、アルコール燃料の燃料混合割合が低くなることもある。つまり、実際の第2燃料タンク41B中には、アルコール燃料が主体であるがガソリン燃料との間における燃料混合比率の異なる燃料が貯留されることも考えられる。
このように、給油前後における実際の第1燃料タンク41Aや第2燃料タンク41Bの中には、燃料混合比率の異なるガソリン燃料とアルコール燃料、即ちアルコール濃度の異なるアルコール混合燃料が貯留される可能性がある。従って、第1燃料タンク41Aや第2燃料タンク41Bの中のアルコール混合燃料のアルコール濃度如何では、上述した例示の如くして燃料噴射比率を変更したとしても、排気浄化装置82の活性状態を保つ為に必要な高発熱量燃料(ガソリン燃料)FHや低発熱量燃料(アルコール混合燃料)FLの燃料噴射量を確保することができなくなってしまう虞がある。つまり、例えば、第1燃料タンク41A内のアルコール濃度が高い場合には、触媒担体温度Tcの温度低下による排気浄化装置82の不活性化を防ぐべく第1燃料タンク41Aの高発熱量燃料FHの燃料噴射割合を上記の例示のように増やしたとしても、アルコール濃度が高いほど噴射燃料中のガソリン成分が少なくなるので、触媒活性温度範囲内での触媒担体温度Tcの温度上昇を図ることができない可能性がある。また、第2燃料タンク41B内のアルコール濃度が低い場合には、触媒担体温度Tcの温度上昇による排気浄化装置82の不活性化等を防ぐべく第2燃料タンク41Bの低発熱量燃料FLの燃料噴射割合を上記の例示のように増やしたとしても、アルコール濃度が低いほど噴射燃料中のアルコール成分が少なくなるので、触媒活性温度範囲内での触媒担体温度Tcの温度低下を図ることができない可能性がある。
そこで、本実施例1の燃料噴射制御装置は、第1燃料タンク41A内や第2燃料タンク41B内の燃料のアルコール濃度(即ち、その燃料の発熱量の大きさ)に応じて適切に触媒担体温度Tcの制御ができるように構成する。ここでは、そのアルコール濃度に応じて触媒活性判定上限温度Tmaxや触媒活性判定下限温度Tminの変更を行う触媒活性判定値設定手段を電子制御装置1に設ける。
具体的に、この場合の燃料噴射制御装置(電子制御装置1)の動作について図4のフローチャートに基づき説明する。
先ず、電子制御装置1は、上述したステップST5における排気浄化装置82の触媒担体温度Tcの検出又は推定を行うと共に、第1燃料タンク41A内の高発熱量燃料FHのアルコール濃度と第2燃料タンク41B内の低発熱量燃料FLのアルコール濃度の検出を行う(ステップST6)。このステップST6においては、その高発熱量燃料FHのアルコール濃度を第1燃料タンク41A又は第1燃料通路51A(ここでは第1燃料通路51A)に用意した図1に示すアルコール濃度検出センサ55Aを用いて直接検出させる。更に、低発熱量燃料FLのアルコール濃度については、第2燃料タンク41B又は第2燃料通路51B(ここでは第2燃料通路51B)に用意した図1に示すアルコール濃度検出センサ55Bを用いて直接検出させる。また、これとは別に、その高発熱量燃料FHのアルコール濃度は、例えば、第1燃料供給手段のみを作動させた際の目標空燃比と実際の空燃比の差に基づいて推定させてもよい。更に、低発熱量燃料FLのアルコール濃度についても同様に、第2燃料供給手段のみを作動させた際の目標空燃比と実際の空燃比の差に基づいて推定させてもよい。尚、その実際の空燃比は、排気通路81上に設けた図示しないA/FセンサやO2センサ等の排気センサを用いて検出させる。
続いて、この電子制御装置1は、触媒活性判定値設定手段に触媒活性判定上限温度Tmaxと触媒活性判定下限温度Tminを設定させる(ステップST7)。
その触媒活性判定値設定手段は、第1燃料タンク(ガソリン燃料タンク)41A内の高発熱量燃料FHがアルコール濃度の高い(即ち、発熱量の小さい)ものであればあるほど図5に示す如く触媒活性判定下限温度Tminを高温側に変更させる。ここでは、例えば、触媒担体温度Tcを触媒活性温度範囲内から外れさせない高発熱量燃料FHのアルコール濃度と触媒活性判定下限温度Tminとの対応関係を実験やシミュレーションから求め、その対応関係をマップデータとして用意しておく。
また、この触媒活性判定値設定手段は、第2燃料タンク(アルコール混合燃料タンク)41B内の低発熱量燃料FLがアルコール濃度の低い(即ち、発熱量の大きい)ものであればあるほど図6に示す如く触媒活性判定上限温度Tmaxを低温側に変更させる。この触媒活性判定上限温度Tmaxについても、触媒担体温度Tcを触媒活性温度範囲内から外れさせない低発熱量燃料FLのアルコール濃度と触媒活性判定上限温度Tmaxとの対応関係を実験やシミュレーションによって求め、その対応関係を表したマップデータから求めさせればよい。
続いて、この電子制御装置1の燃料噴射比率設定手段は、上述したステップST10に進み、検出又は推定された触媒担体温度Tcが高発熱量燃料FHのアルコール濃度に応じた触媒活性判定下限温度Tminよりも低温になっているのか否かを判定する。
この燃料噴射比率設定手段は、そのステップST10で否定判定した場合、上述したステップST15に進み、その触媒担体温度Tcが低発熱量燃料FLのアルコール濃度に応じた触媒活性判定上限温度Tmaxよりも高温になっているのか否かを判定する。
そして、この燃料噴射比率設定手段は、そのステップST15で否定判定した場合、上述したステップST20に進んで通常燃料噴射比率を適用する。
一方、上記ステップST10で肯定判定された場合、燃料噴射比率設定手段は、上述したステップST25に進み、高発熱量燃料FHの燃料噴射割合を増やした燃料噴射比率を設定する。これにより、排気浄化装置82においては、上述した例示と同様に、排気ガスの温度上昇に伴って触媒担体温度Tcが上がっていく。
ここで、その高発熱量燃料FHは、アルコール濃度が高くなっていると仮定する。このときに低アルコール濃度の高発熱量燃料FHに対応させた触媒活性判定下限温度TminでステップST10の判定が行われた場合には、その触媒活性判定下限温度Tminが不適切なものとなり、図5に二点差線で示す如く触媒担体温度Tcが変化して触媒活性温度範囲よりも低温になってしまう。つまり、この場合には、適正な触媒活性判定下限温度Tminでの判定時よりも時間が経過して触媒担体温度Tcが更に下がってから高発熱量燃料FHの燃料噴射割合の増加が行われるので、その触媒担体温度Tcが温度上昇し始めるよりも前に触媒担体温度Tcが触媒活性温度範囲よりも低くなってしまう。しかしながら、ここでは、触媒活性判定下限温度Tminを高発熱量燃料FHのアルコール濃度に合わせた適正な温度(判定値)に変更することによって、図5に示す如く触媒担体温度Tcを触媒活性温度範囲内に保持したまま上昇させることができるので、排気浄化装置82の活性状態をより適切に保つことができるようになる。
また、上記ステップST15で肯定判定された場合、燃料噴射比率設定手段は、上述したステップST30に進み、低発熱量燃料FLの燃料噴射割合を増やした燃料噴射比率を設定する。これにより、排気浄化装置82においては、上述した例示と同様に、排気ガスの温度低下に伴って触媒担体温度Tcが下がっていく。
ここで、その低発熱量燃料FLは、アルコール濃度が低くなっていると仮定する。このときに高アルコール濃度の低発熱量燃料FLに対応させた触媒活性判定上限温度TmaxでステップST15の判定が行われた場合には、その触媒活性判定上限温度Tmaxが不適切なものとなり、図6に二点差線で示す如く触媒担体温度Tcが変化して触媒活性温度範囲よりも高温になってしまう。つまり、この場合には、適正な触媒活性判定上限温度Tmaxでの判定時よりも時間が経過して触媒担体温度Tcが更に上がってから低発熱量燃料FLの燃料噴射割合の増加が行われるので、その触媒担体温度Tcが温度低下し始めるよりも前に触媒担体温度Tcが触媒活性温度範囲よりも高くなってしまう。しかしながら、ここでは、触媒活性判定上限温度Tmaxを低発熱量燃料FLのアルコール濃度に合わせた適正な温度(判定値)に変更することによって、図6に示す如く触媒担体温度Tcを触媒活性温度範囲内に保持したまま低下させることができるので、排気浄化装置82の活性状態をより適切に保つことができるようになる。
このように、この場合の燃料噴射制御装置は、高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLの各々の発熱量(アルコール濃度)に応じて触媒活性判定下限温度Tminや触媒活性判定上限温度Tmaxを変更し、その変更後の触媒活性判定下限温度Tminや触媒活性判定上限温度Tmaxを利用して高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLの燃料噴射比率を変える。これが為、この燃料噴射制御装置は、高発熱量燃料FHや低発熱量燃料FLが純度100%のガソリン燃料やアルコール燃料でなくても、また、その高発熱量燃料FHや低発熱量燃料FLとしてのアルコール混合燃料が一定の燃料混合比率に保たれなくても、その高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLのアルコール濃度に応じて適切に排気浄化装置82の活性状態を保持することができるようになる。つまり、この燃料噴射制御装置は、高発熱量燃料FHや低発熱量燃料FLの発熱量(アルコール濃度)に変化が生じても排気浄化装置82の活性状態を保つことができる。従って、この燃料噴射制御装置は、排気浄化装置82における排気ガス中の有害物質の浄化作用を的確に維持させることができるので、エミッション性能の悪化をより効果的に抑制することができる。また、この燃料噴射制御装置は、内燃機関が主に希薄空燃比で運転されるものであるならば、運転中のより多くの時間をリーン運転に割くことができるので、更なる燃費性能の向上を図ることができるようになる。
次に、本発明に係る燃料噴射制御装置の実施例2を図7から図10に基づいて説明する。
本実施例2においては、内燃機関の出力だけでなく、図7に示す電動機91の出力についても駆動力として利用する所謂ハイブリッド車輌に適用される燃料噴射制御装置について例示する。つまり、その電動機91にはバッテリ92が接続されており、電動機91は、そのバッテリ92からの給電によって力行駆動を行う一方、発電機として作動させて回生駆動させることによってバッテリ92への蓄電を行う。
ここでは、その内燃機関として前述した実施例1と同じものを例示する。従って、本実施例2の燃料噴射制御装置については、電子制御装置1の一機能として構成され、その実施例1で説明したものと同様の演算処理機能を有しているものとする。つまり、本実施例2の燃料噴射制御装置は、実施例1で示した燃料噴射比率設定手段,目標燃料噴射量設定手段及び燃料噴射制御手段を備えている。また、本実施例2の燃料噴射制御装置は、実施例1の図4のフローチャートで示した形態のものであるならば、更に触媒活性判定値設定手段も備えている。
前述した実施例1においては、排気浄化装置82の触媒担体温度Tcを触媒活性温度範囲内に保つ為、高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLの燃料噴射比率を変更して触媒担体温度Tcの上昇や低下を促している。ここで、そのような燃料噴射比率の変更は、一方の燃料の偏った使用を招いてしまう虞があるので、第1燃料タンク41Aと第2燃料タンク41Bにおける夫々の燃料の残存量の偏りを無くすべく、できる限り早く通常燃料噴射比率に戻すことが望ましい。
また、前述した実施例1においては触媒担体温度Tcの上昇を図る為に高発熱量燃料FHの燃料噴射割合を増加させているが、内燃機関に軽負荷運転要求が為されているときには、燃焼室CC内の温度を上げ難いので、高発熱量燃料FHの増加による燃焼温度の上昇効果を活かすことができない可能性がある。更に、その実施例1においては触媒担体温度Tcの低下を図る為に低発熱量燃料FLの燃料噴射割合を増加させているが、内燃機関に高負荷運転要求が為されているときには、燃焼室CC内の温度が上がってしまうので、低発熱量燃料FLの増加による燃焼温度の低下効果を活かすことができない可能性がある。
そこで、本実施例2の燃料噴射制御装置は、触媒担体温度Tcの上昇を図る場合に内燃機関に対して軽負荷運転が要求されているならば、実施例1と同様の高発熱量燃料FHの燃料噴射割合の増加に加えて、要求車輌トルクに応じて電動機91を回生駆動させると共に内燃機関の出力トルク(以下、「機関トルク」という。)を増加させるよう構成する。つまり、機関トルクを増やすことによってその増加が無いときよりも燃焼室CC内の温度が上がり、排気ガスの温度が上昇するので、本実施例2においては、そのようにして排気浄化装置82の触媒担体温度Tcをより素早く上昇させる。
また、本実施例2の燃料噴射制御装置は、触媒担体温度Tcの低下を図る場合に内燃機関に対して高負荷運転が要求されているならば、実施例1と同様の低発熱量燃料FLの燃料噴射割合の増加に加えて、要求車輌トルクに応じて電動機91を力行駆動させると共に機関トルクを減少させるよう構成する。つまり、機関トルクを減らすことによってその減少が無いときよりも燃焼室CC内の温度が下がり、排気ガスの温度が低下するので、本実施例2においては、そのようにして排気浄化装置82の触媒担体温度Tcをより素早く低下させる。
ここで、電動機91を力行駆動させる際にはバッテリ92からの給電が行われるので、そのバッテリ92の残量が少ないときに電動機91を力行駆動させることは好ましくない。これが為、本実施例2においては、満充電等のようにバッテリ92の残量が多いときにのみ本実施例2における電動機91の力行駆動が実行させるように構成する。一方、電動機91が回生駆動される際にはバッテリ92に蓄電が行われるので、そのバッテリ92の残量が多いときに電動機91を回生駆動させた場合には、回生電力が蓄電されなくなり効率が良くない。これが為、本実施例2においては、バッテリ92の残量が少ないときにのみ本実施例2における電動機91の回生駆動が実行されるように構成してもよい。しかしながら、バッテリ92の残量が多いからといって本実施例2の制御を行わなかった場合には、排気浄化装置82の触媒担体温度Tcを素早く温度上昇させることができなくなる可能性がある。従って、本実施例2においては、内燃機関に対して軽負荷運転が要求されているときに触媒担体温度Tcの上昇を図る必要があるならば、バッテリ92の残量に拘わらず本実施例2の制御を実行させることとする。
このようなことから、本実施例2の燃料噴射制御装置(電子制御装置1)には、機関トルクの制御を行う機関トルク制御手段と、電動機91の力行又は回生の駆動トルクについて制御を行う電動機駆動トルク制御手段と、を設ける。
ここで、本実施例2の機関トルク制御手段は燃料噴射制御装置の一機能として用意しているが、本来の機関トルクの制御は内燃機関の燃焼制御手段(ここでは電子制御装置1の一機能として設けてある)によって実行されるものであるので、その機関トルク制御手段については、その燃焼制御手段に対して要求機関トルクの大きさの指示を送るものとして構成してもよい。また、本実施例2の電動機駆動トルク制御手段も同様に燃料噴射制御装置の一機能として用意しているが、本来の電動機駆動トルクの制御は電動機91の制御手段(ここでは電子制御装置1の一機能として設けてある)によって実行されるものであるので、その電動機駆動トルク制御手段は、その電動機91の制御手段に対して要求電動機駆動トルクの大きさの指示を送るものとして構成してもよい。
具体的に、本実施例2の燃料噴射制御装置(電子制御装置1)の動作について図8のフローチャートに基づき説明する。以下においては、実施例1の図4のフローチャートの形態を基にした燃料噴射制御装置について代表して例示する。従って、本実施例2の図8の形態は、図4の形態と略共通の演算処理動作を行うことになる。そして、本実施例2においては、ステップST10とステップST15で各々肯定判定された場合が図4の形態と異なるので、その相違点についてのみ詳述する。
尚、本実施例2においては、説明の便宜上、通常燃料噴射比率が適用されているならば機関トルクのみで要求車輌トルクを発生させる(つまり、電動機91を駆動させない)ものとして例示するが、実際には、機関トルク又は電動機91の力行駆動トルクのみで要求車輌トルクを発生させることもあれば、その機関トルクと電動機91の力行又は回生の駆動トルクの併用により要求車輌トルクを発生させることもある。
本実施例2の燃料噴射比率設定手段は、ステップST10で肯定判定した場合、内燃機関に対して軽負荷運転の要求が為されたか否かの判定を行う(ステップST12)。かかる判定は、例えば、燃焼制御手段が内燃機関に対して指示した要求機関トルクの値を取得して行えばよい。
そして、この燃料噴射比率設定手段は、そのステップST12で軽負荷運転要求がされていないと判定した場合、ステップST25に進み、実施例1と同様にして高発熱量燃料FHの燃料噴射割合を増やした燃料噴射比率を設定する。これにより、この場合には、実施例1と同じように排気ガスの温度が上がって排気浄化装置82の触媒担体温度Tcを上昇させることができるので、その触媒担体温度Tcを触媒活性温度範囲内に保ちつつ実施例1のときと同様の効果を得ることができる。
一方、そのステップST12で軽負荷運転要求が為されていると判定された場合、本実施例2の電子制御装置1は、燃料噴射比率設定手段にステップST25と同様の高発熱量燃料FHの燃料噴射割合を増やす燃料噴射比率の設定を行わせ、更に、機関トルク制御手段に内燃機関への要求機関トルクを設定させると共に電動機駆動トルク制御手段に電動機91への要求電動機回生駆動トルクを設定させる(ステップST26)。
このステップST26においては、図9に示す如く、要求機関トルクと要求電動機回生駆動トルクを合わせた総トルクが要求車輌トルクとなるように設定を行う。つまり、このステップST26においては、要求機関トルクを要求車輌トルクよりも増量させた大きさに設定し、その増量分に相当する大きさに要求電動機回生駆動トルクを設定する。その要求機関トルクの増加代については、例えば、少なくとも内燃機関が高負荷運転されることになるように予め実験やシミュレーションを行って定め、更に好ましくは高発熱量燃料FHの増加のみを行うよりも触媒担体温度Tcを素早く上昇させることができるような大きさに実験等で定めればよい。例えば、この要求機関トルクの増加代は、機関トルクや触媒担体温度Tcをパラメータにしたマップデータから求めさせる。
しかる後、この電子制御装置1は、設定された要求機関トルクに基づいて機関トルク制御手段に内燃機関の機関トルク増量制御を実行させると共に、設定された要求電動機回生駆動トルクに基づいて電動機駆動トルク制御手段に電動機91の回生駆動制御を実行させる(ステップST27)。
このステップST27においては、機関トルク制御手段が要求機関トルクの増加分に応じた要求吸入空気量を算出し、この要求吸入空気量となるようスロットルバルブ24を開弁させて吸入空気量の増量を図る。また、この機関トルク制御手段は、その要求吸入空気量の情報を目標燃料噴射量設定手段に渡す。このステップST27において目標燃料噴射量設定手段は、受け取った要求吸入空気量の情報と燃料噴射比率及び要求機関トルク(即ち、運転条件)の設定値とに基づいて、高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLの夫々の目標燃料噴射量を設定する。そして、このステップST27においては、高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLを夫々の目標燃料噴射量で噴射させるべく第1燃料供給手段と第2燃料供給手段を燃料噴射制御手段が各々駆動制御する。これが為、その際の内燃機関においては、軽負荷運転から高負荷運転に切り替わり、更にこれまでよりも高発熱量燃料FHの燃料噴射量が増えるので、燃焼温度が直ぐに高くなって排気ガスの温度が急上昇する。従って、排気浄化装置82の触媒担体温度Tcは、図9に示す如く触媒活性温度範囲内に保たれたまま素早く上昇し始める。尚、このような機関トルク増量制御と電動機91の回生駆動制御が行われなかった場合には、機関負荷の低さによって図9に二点差線で示す如く触媒担体温度Tcが触媒活性温度範囲よりも低温になってしまう。
また、このステップST27においては、電動機91を回生駆動させるので、図9に示す如く少なくなっているバッテリ92の残量を増やすことができる。
ここで、その高発熱量燃料FHの燃料噴射割合の増加については、図9に示す如く、触媒担体温度Tcが再び触媒活性判定下限温度Tminよりも高温になるまで継続させる。従って、高発熱量燃料FHの燃料噴射割合の増加を続けている間は、電動機91の回生駆動も継続させる。
更に、本実施例2の燃料噴射比率設定手段は、ステップST15で肯定判定した場合、バッテリ92の残量が多いのか否か、更に、内燃機関に対して高負荷運転の要求が為されたのか否かについての判定を行う(ステップST17)。高負荷運転の要求有無の判定は、上記ステップST12と同様に、燃焼制御手段が内燃機関に対して指示した要求機関トルクの値を取得して行えばよい。一方、バッテリ92の残量については、例えば、そのバッテリ92の蓄電量を計測している図7に示す電圧計93等のバッテリ残量検出手段の検出結果を利用して判定すればよい。
そして、この燃料噴射比率設定手段は、そのステップST17でバッテリ92の残量が少ない又は高負荷運転要求がされていないという何れか一方の判定を行った場合、ステップST30に進み、実施例1と同様にして低発熱量燃料FLの燃料噴射割合を増やした燃料噴射比率を設定する。これにより、この場合には、実施例1と同じように排気ガスの温度が下がって排気浄化装置82の触媒担体温度Tcを低下させることができるので、その触媒担体温度Tcを触媒活性温度範囲内に保ちつつ実施例1のときと同様の効果を得ることができる。
一方、そのステップST17でバッテリ92の残量が多く且つ高負荷運転要求が為されていると判定された場合、本実施例2の電子制御装置1は、燃料噴射比率設定手段にステップST30と同様の低発熱量燃料FLの燃料噴射割合を増やす燃料噴射比率の設定を行わせ、更に、機関トルク制御手段に内燃機関への要求機関トルクを設定させると共に電動機駆動トルク制御手段に電動機91への要求電動機力行駆動トルクを設定させる(ステップST31)。
このステップST31においては、図10に示す如く、要求機関トルクと要求電動機力行駆動トルクを合わせた総トルクが要求車輌トルクとなるように設定を行う。つまり、このステップST31においては、要求機関トルクを要求車輌トルクよりも減量させた大きさに設定し、その減量分に相当する大きさに要求電動機力行駆動トルクを設定する。その要求機関トルクの減量代については、例えば、少なくとも内燃機関が軽負荷運転されることになるように予め実験やシミュレーションを行って定め、更に好ましくは低発熱量燃料FLの増加のみを行うよりも触媒担体温度Tcを素早く低下させることができるような大きさに実験等で定めればよい。例えば、この要求機関トルクの減少代は、上述した増加代のときと同様に機関トルクや触媒担体温度Tcをパラメータにしたマップデータから求めさせる。
しかる後、この電子制御装置1は、設定された要求機関トルクに基づいて機関トルク制御手段に内燃機関の機関トルク減量制御を実行させると共に、設定された要求電動機力行駆動トルクに基づいて電動機駆動トルク制御手段に電動機91の力行駆動制御を実行させる(ステップST32)。
このステップST32においては、機関トルク制御手段が要求機関トルクの減少分に応じた要求吸入空気量を算出し、この要求吸入空気量となるようスロットルバルブ24を閉弁させて吸入空気量の減量を図る。この機関トルク制御手段は、上記ステップST27のときと同様に、その要求吸入空気量の情報を目標燃料噴射量設定手段に渡す。また、このステップST32においては、目標燃料噴射量設定手段が上記ステップST27のときと同様にして高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLの夫々の目標燃料噴射量を設定し、その夫々の目標燃料噴射量で高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLを噴射させるべく第1燃料供給手段と第2燃料供給手段を燃料噴射制御手段が各々駆動制御する。これが為、その際の内燃機関においては、高負荷運転から軽負荷運転に切り替わり、更にこれまでよりも低発熱量燃料FLの燃料噴射量が増えるので、燃焼温度が直ぐに低くなって排気ガスの温度が急低下する。従って、排気浄化装置82の触媒担体温度Tcは、図10に示す如く触媒活性温度範囲内に保たれたまま素早く低下し始める。尚、このような機関トルク減量制御と電動機91の力行駆動制御が行われなかった場合には、機関負荷の高さによって図10に二点差線で示す如く触媒担体温度Tcが触媒活性温度範囲よりも高温になってしまう。
ここで、その低発熱量燃料FLの燃料噴射割合の増加については、図10に示す如く、触媒担体温度Tcが再び触媒活性判定上限温度Tmaxよりも低温になるまで継続させる。これが為、低発熱量燃料FLの燃料噴射割合の増加を続けている間は、電動機91の力行駆動も継続させる。従って、その間においては、図10に示す如くバッテリ92の残量が減っていく。そこで、その残量が仮に許容できぬほど少なくなってしまった場合には、その時点で機関トルク減量制御と電動機91の力行駆動制御を中止させることが望ましい。
このように、本実施例2の燃料噴射制御装置は、排気浄化装置82の触媒担体温度Tcが触媒活性温度範囲内から外れてしまう可能性があるときに、高発熱量燃料FHと低発熱量燃料FLの燃料噴射比率を変更し、更にバッテリ92の残量や内燃機関への要求負荷(要求機関トルク)の大きさに応じて機関トルク増量制御及び電動機91の回生力行駆動制御又は機関トルク減量制御及び電動機91の力行駆動制御を行う。これが為、この燃料噴射制御装置は、燃料噴射比率の変更のみでは触媒担体温度Tcの上昇又は低下に時間を要し、その触媒担体温度Tcが触媒活性温度範囲内から外れてしまう状況下においても、機関トルクの増量又は減量を図ることによって排気ガスの温度を急上昇又は急低下させ、触媒担体温度Tcを素早く上昇又は低下させることができる。つまり、この燃料噴射制御装置は、燃料噴射比率の変更のみで触媒担体温度Tcを触媒活性温度範囲内に保つことができなくても、機関トルクの増量又は減量を加えることによって触媒担体温度Tcを触媒活性温度範囲内に保持させることができる。
従って、この燃料噴射制御装置は、かかる状況になったときでも、排気浄化装置82の活性状態を保つことができるので、その排気浄化装置82における排気ガス中の有害物質の浄化作用を維持させ、エミッション性能の悪化を抑制することができる。また、この燃料噴射制御装置は、触媒担体温度Tcを素早く触媒活性判定下限温度Tminと触媒活性判定上限温度Tmaxの間に戻すことが可能なので、例えば実施例1の形態で上記の如き状況に陥ったとしても通常燃料噴射比率に戻す時期を早めることができる。これが為、この燃料噴射制御装置は、高発熱量燃料FHや低発熱量燃料FLの偏った使用を抑えることができるので、一方の燃料のみの極端な消費を防ぐことができる。