JP5309520B2 - プルヌス属植物の種の鑑別方法 - Google Patents

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Description

本発明は、遺伝子工学的な手法によりプルヌス属植物の種を鑑別する方法に関する。
杏仁(キョウニン)は、日本薬局方において第14局第1追補より収載され、プルヌス・アルメニアカ(Prunus armeniaca Linne および Prunus armeniaca Linne var. ansu Maximowicz)がその基原植物として記載されている生薬である。ところが、中国にはこの他に、プルヌス・シビリカ(Prunus sibirica Linne)またはプルヌス・マンシュリカ(Prunus mandshurica)を含む生薬が流通している。一方、桃仁(トウニン)は、日本薬局方において、杏仁と同じプルヌス属であるプルヌス・ペルシカ(Prunus persica Batsch)およびプルヌス・ダビディアナ(Prunus persica Batsch var. davidiana Maximowicz)がその基原植物として記載されている生薬である。ところが、中国にはこの他に、プルヌス・ミラ(Prunus mira)を含む生薬が流通している。しかし、基原植物のみが含まれている真正生薬であるか、あるいはそれ以外の植物も含まれている生薬であるかを鑑別することは困難であった。従って、杏仁および桃仁の漢方製剤としての品質の安定性には問題があった。
近年の分子遺伝学の発展は、生物分類学における方法論に多大な影響を与えた。すなわちこれまでの形態学的な分類に加えて、ある特定の遺伝子を選択して、生物種についてその塩基配列を比較すると、遺伝子の類似性からその進化の過程を推定し、分類することが可能となった。
生物種による遺伝子の差異の度合いは、基本的な生命活動をつかさどる蛋白質をコードする遺伝子で驚くほど保存されている一方、多くの遺伝子ではそれぞれの蛋白質の機能の分散に従って変化し、もはや同一起源であるかどうかの判断さえ難しいものまで様々である。従って分類の対象となる生物種の範囲に応じて適切な遺伝子領域を選択することで、例えば鯨と他の哺乳類との関係のような、広い範囲の近縁関係から、カラスの地域差のような、ごく限定された範囲内の詳細な分類まで可能となる。このような進化上の相対距離の推定および分類に最も一般的に利用される遺伝子としては、リボソームRNA遺伝子(非特許文献1)、ミトコンドリア遺伝子(非特許文献2)、葉緑体リボソーム遺伝子のイントロン領域の塩基配列(非特許文献3)等が数多く報告されている。
しかし、プルヌス属植物の多数の種についてこれらの塩基配列を決定して分類し、それに基づいて種の判別を行った例はない。
Bruce Alberts et al., Essential Cell Biology, Garland Publishing Inc., 439-440, 1998 宝来聰、細胞工学、14巻、1031〜1035、1995 The Journal of Phytogeography and Taxonomy 48: 63-66, 2000
本発明の課題は、プルヌス属植物の種を高い精度で判別する方法を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を行った結果、プルヌス属植物の葉緑体リボソーム遺伝子rpl16のイントロン領域に、種特異的な多型が存在すること、さらに、この多型を利用してプルヌス属植物の種を鑑別できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)被検試料に含まれるプルヌス属植物の種を鑑別する方法であって、被検試料に含まれる植物の葉緑体ゲノムにおけるリボソーム遺伝子rpl16のイントロンの部分領域の塩基配列を、配列番号1〜7の塩基配列から選択される少なくとも1つの塩基配列と比較することを含む、前記方法。
(2)リボソーム遺伝子rpl16のイントロンの部分領域が、配列番号8の塩基配列からなるプライマーと配列番号9の塩基配列からなるプライマーとのプライマーセットで増幅される領域である、(1)記載の方法。
(3)被検試料が生薬である、(2)記載の方法。
(4)被検試料に含まれるプルヌス属植物が、プルヌス・ダビディアナ、プルヌス・ペルシカ、プルヌス・ミラ、プルヌス・アルメニアカ、プルヌス・シビリカおよびプルヌス・マンシュリカのいずれであるかを鑑別する(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの、5位、6位、41位、84位、85位、86位、87位、88位、89位、90位、94位、118位、119位、120位、121位、122位、123位、124位、125位、126位、127位、130位、153位、206位、207位、208位、209位、210位、211位、212位、213位および246位に相当する位置の塩基から選択される少なくとも1つの塩基を比較する、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
本発明により、プルヌス属植物の種を高い精度で鑑別する方法が提供される。
高等植物は細胞内に光合成をつかさどる葉緑体をもつが、これらには核ゲノムとは独立の葉緑体ゲノムが含まれている。葉緑体ゲノムにおけるリボソーム遺伝子rpl16のイントロン(以下、rpl16イントロンと称する)の部分領域は、葉緑体ゲノムDNAにおけるリボソームタンパク質をコードする遺伝子rpl16中にあり、アミノ酸配列をコードするエキソンを分断している長さ約1100塩基よりなる非コード領域のうちの222-240塩基の部分領域である。より具体的には、タバコ Nicotiana tabacum中の既知の葉緑体ゲノム全塩基配列(Z00044)の84143位〜84418位と相同な領域であり、5'-AATTAAAAAAまたは5'-AATTTTAAAAで開始する領域である。
換言すれば、本発明において比較の対象となるrpl16イントロンの部分領域は、葉緑体ゲノムDNAを鋳型として、配列番号8の塩基配列からなるプライマーと配列番号9の塩基配列からなるプライマーとのプライマーセットで増幅される領域である。配列番号8の塩基配列からなるプライマーと配列番号9の塩基配列からなるプライマーとのプライマーセットと同じ領域を増幅する別のプライマーセットを用いる場合であっても、同じ領域が増幅される限り、当該領域は本発明のrpl16イントロンの部分領域に包含される。
この様な葉緑体ゲノム中の非コード領域は細胞内に多数コピーが含まれていること、個体内で均一なことから解析が容易であり、さらに比較的速い進化速度をもつことから、種間差異の存在が報告されている植物群が存在する。
プルヌス属植物としては、例えば、プルヌス・ダビディアナ(Prunus davidiana)、プルヌス・ペルシカ(Prunus persica)、プルヌス・ミラ(Prunus mira)、プルヌス・アルメニアカ(Prunus armeniaca)、プルヌス・シビリカ(Prunus sibirica)およびプルヌス・マンシュリカ(Prunus mandshurica)などが挙げられる。
本発明者らは、日本薬局方において、生薬としての杏仁(キョウニン)の基原植物として記載されているプルヌス・アルメニアカ、および中国に分布しているその他2種のプルヌス属植物、すなわち、プルヌス・シビリカまたはプルヌス・マンシュリカ、ならびに生薬としての桃仁(トウニン)の基原植物として記載されているプルヌス・ペルシカおよびプルヌス・ダビディアナ、および中国に分布しているその他のプルヌス属植物、すなわち、プルヌス・ミラ(Prunus mira)の合計6種について、それぞれ複数のサンプルを用いてrpl16イントロンの部分領域、特に、配列番号8の塩基配列からなるプライマーと配列番号9の塩基配列からなるプライマーとのプライマーセットで増幅される領域の塩基配列を決定し、アライメントをとって比較した結果、プルヌス属植物のrpl16イントロンの塩基配列上に種特異的な多型が存在することを見出した。
すなわち、被検試料に含まれる植物のrpl16イントロンの部分領域の塩基配列を、配列番号1〜7の塩基配列から選択される少なくとも1つの塩基配列と比較することにより、プルヌス属植物の種を識別できることを見出した。配列番号1および2はプルヌス・ダビディアナのrpl16イントロンの部分領域の塩基配列を表し、配列番号3はプルヌス・ペルシカのrpl16イントロンの部分領域の塩基配列を表し、配列番号4はプルヌス・ミラのrpl16イントロンの部分領域の塩基配列を表し、配列番号5はプルヌス・アルメニアカのrpl16イントロンの部分領域の塩基配列を表し、配列番号6はプルヌス・シビリカのrpl16イントロンの部分領域の塩基配列を表し、配列番号7はプルヌス・マンシュリカのrpl16イントロンの部分領域の塩基配列を表す。
本発明の方法により、少なくとも上記6種のプルヌス属植物の種を鑑別することができる。本発明の方法は、特に、プルヌス・アルメニアカ、プルヌス・ペルシカおよびプルヌス・ダビディアナの3種を鑑別するために有用である。
本発明において、プルヌス属植物の種を鑑別することには、特定の種であると鑑別すること、特定の種ではないと鑑別すること、特定の種の群に含まれると鑑別すること、ならびに特定の種の群に含まれないと鑑別することが包含される。
例えば、一実施形態において本発明の方法では、被検試料に含まれるプルヌス属植物が、日本薬局方において杏仁の基原植物として記載されているプルヌス・アルメニアカであるか、またはそれ以外であるかを鑑別できる。換言すれば、被検試料が、日本薬局方における杏仁として、真正な生薬であるかどうかを鑑別することができる。別の実施形態において本発明の方法では、被検試料に含まれるプルヌス属植物が、日本薬局方において桃仁の基原植物として記載されているプルヌス・ペルシカまたはプルヌス・ダビディアナであるか、またはそれ以外であるかを鑑別できる。換言すれば、被検試料が、日本薬局方における桃仁として、真正な生薬であるかどうかを鑑別することができる。
被検試料に含まれる植物の葉緑体リボソーム遺伝子rpl16イントロンの部分領域の塩基配列を、配列番号1〜7の塩基配列から選択される少なくとも1つの塩基配列と比較する識別方法としては、塩基配列全体を比較する方法、1〜数カ所の特定部位の塩基を比較する方法、または1〜数カ所の特定部位の塩基の違いを複数組み合わせてパターン化して比較する方法を利用できる。
塩基配列全体を比較する方法としては、被検試料に含まれる植物のrpl16イントロンの部分領域の塩基配列を決定し、上記配列番号1〜7の塩基配列と比較し、その相同性の割合で判定する方法がある。一般に生物種は近接する種であっても、進化の過程を反映して微妙にその相同性に違いをみせるので、被検試料から得られた塩基配列は必ずしも上記配列番号1〜7の塩基配列と100%同一ではないことが多い。このような場合にも、相同性の割合を求めることにより、相対的な類縁関係の推測を容易に行うことができる。
rpl16イントロンの部分領域の塩基配列を決定する方法としては、被検試料からDNAを抽出し、それを鋳型として対象とするrpl16イントロンの部分領域を増幅し、ダイレクトシーケンシングを行うかクローニングを行って、塩基配列を決定する方法が挙げられる。増幅、ダイレクトシーケンシング、クローニングおよび塩基配列決定は、いずれも定法により行うことができる(Sambrook, J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58, Cold Spring Harbor Lab. press(1989))。例えば、rpl16イントロン領域の増幅には、PCR以外に、例えば、LAMP法(栄研化学)、ICAN法(宝酒造)などを利用することができる。
従って、一実施形態において本発明の方法は、1)被検試料からDNAを抽出する工程、2)該DNAを鋳型としてrpl16イントロンの部分領域を増幅する工程、3)rpl16イントロンの部分領域の塩基配列を決定する工程、および4)得られた塩基配列を配列番号1〜7の塩基配列の少なくとも1つと比較し、最も高い相同性を有するプルヌス属種として同定する工程を含む。
rpl16イントロンの部分領域を増幅するためのプライマーは、プルヌス属植物のrpl16イントロンの塩基配列を基に設計できる。プライマーの設計条件は、特に限定されない。例えば、配列番号1〜7に示されるいずれか一つまたは複数の塩基配列もしくはこれらの塩基配列に相補的な塩基配列の一部であって、かつ、10塩基以上の連続した塩基配列からなるヌクレオチドを設計すればよい。10塩基未満であると、確率的にその塩基配列に相補的な塩基配列が鋳型DNA上に複数存在することが想定されるため、増幅に用いるプライマーとして精度が低くなるため、10塩基以上とすることが好ましい。また、プライマーとして用いる塩基配列の10%以下の数の塩基が置換、欠失、挿入または付加された塩基配列からなるヌクレオチドであっても、鋳型DNAとハイブリダイズが可能であるため、プライマーとして使用することができる。プライマーは、例えば、市販のDNA合成装置等を用いて合成することができる。
本発明においては、好ましくは、配列番号8の塩基配列からなるプライマーと配列番号9の塩基配列からなるプライマーとのプライマーセットを用いる。配列番号8の塩基配列からなるプライマーと配列番号9の塩基配列からなるプライマーとのプライマーセットと同じ領域を増幅する別のプライマーも同様に用いることができる。そのようなプライマーとしては、例えば、配列番号8と95%以上の同一性を有する塩基配列からなるプライマーおよび配列番号9と95%以上の同一性を有する塩基配列からなるプライマーのプライマーセットであって、配列番号8の塩基配列からなるプライマーと配列番号9の塩基配列からなるプライマーのプライマーセットと同じ領域を増幅できるプライマーセットが挙げられる。
rpl16イントロンの部分領域を増幅するためのプライマーとしては、公知のユニバーサルプライマーを使用することもできる。
本発明者らは、さらにプルヌス属に属する上記6種において、それぞれ複数のサンプルについて決定したrpl16イントロンの部分領域の塩基配列のアライメントをとって調査した結果、32の変異部位を見出した。そして、該部分領域における特定部位の塩基のみを比較することによっても、プルヌス属植物の種を鑑別できることを見出した。各種およびサンプルについての、上記32の変異部位における塩基の詳細を図1にまとめる。本発明における塩基配列の比較では、1〜数カ所の特定部位の塩基の違いを比較する方法においてこれら32の変異部位の違いを比較することにより、プルヌス属の種を鑑別できる。
すなわち、一実施形態において本発明は、配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの、5位、6位、41位、84位、85位、86位、87位、88位、89位、90位、94位、118位、119位、120位、121位、122位、123位、124位、125位、126位、127位、130位、153位、206位、207位、208位、209位、210位、211位、212位、213位および246位に相当する位置の塩基から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つ、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3の塩基を比較することによりプルヌス属植物の種を鑑別するものである。
本明細書において、「配列番号1の塩基配列を参照配列としたときのX位に相当する位置の塩基」という表現は、配列番号1の塩基配列を参照配列として、任意のrpl16イントロンの部分領域の塩基配列中の所定の塩基の位置を指定するために使用される。すなわち、被検試料由来のrpl16イントロンの部分領域の塩基配列(以下、塩基配列Yと証する)を、配列番号1の塩基配列とアラインメントしたときに、配列番号1の塩基配列の1番目の塩基から数えてX番目の塩基に対してアラインされる(すなわち、アラインメントにおいて同じ縦列に整列される)、塩基配列Y中の塩基を意味する。
また、「配列番号1の塩基配列を参照配列としたときのV-W位に相当する位置の塩基」という表現は、配列番号1の塩基配列を参照配列として、被検試料由来のrpl16イントロンの部分領域の塩基配列(以下、塩基配列Yと証する)を、配列番号1の塩基配列とアラインメントしたときに、配列番号1の塩基配列の1番目の塩基から数えてV番目とW番目の塩基に対してアラインされる塩基配列中の2つの塩基間に挿入された塩基または挿入の有無を意味する。配列番号1を参照配列として上記のように塩基の位置を表す場合、配列番号1の205位のGの次の206位〜213位は欠失とし、次のTを214位、その次のAを215位とする。なお、本発明において、上記塩基の位置は、特に、アライメントソフトとしてBioEdit(http://www.mbio.ncsu.edu/BioEdit/bioedit.html)を用いてアライメントをとったときの塩基の位置を意味する。なお、BioEditは、以下のウェブサイト(http://www.mbio.ncsu.edu/BioEdit/BioEdit.zip)からダウンロードすることができる。
配列番号1の塩基配列と他の塩基配列とのアラインメントは、手作業で行うこともできるが、例えばマルチプルアラインメントプログラム(Thompson, J.D. et al, (1994) Nucleic Acids Res. 22, p.4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより作成することができる。当該プログラムは、例えば、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute : EBI、http://www.ebi.ac.uk/index.html)や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ、http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.html)のウェブサイトから利用することができる。当業者であれば、得られたアラインメントを、必要に応じて最適なアラインメントとなるように更に調整することできる。そのような最適アラインメントは、塩基配列の類似性や挿入されるギャップの頻度等を考慮して決定するのが好ましい。
より具体的には次のとおり識別することができる。
配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの118位、119位、120位、121位、122位、123位、124位、125位、126位および127位のうち少なくとも1塩基が欠失していない、すなわち少なくとも1塩基が存在する場合、あるいは、84位、85位、86位、87位、88位、89位、90位および246位のうち少なくとも1塩基が欠失している場合、プルヌス・ダビディアナと鑑別できる。すなわち、これらの塩基は、1塩基でも上記に該当すれば、他の塩基を見ることなく、プルヌス・ダビディアナであると鑑別できる。
配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの153位がG(グアニン)である場合は、他の塩基を見ることなく、プルヌス・ペルシカと鑑別できる。
配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの94位がA(アデニン)であるか、および/または130位がT(チミン)である場合は、プルヌス・アルメニアカと鑑別できる。これらの塩基は、1塩基でも上記に該当すれば、他の塩基を見ることなく、プルヌス・アルメニアカであると鑑別できる。
配列番号1の塩基配列を参照配列としたとき87位がAである場合は、他の塩基を見ることなく、プルヌス・マンシュリカと鑑別できる。
これらの塩基は、1塩基でも上記に該当すれば、特定の種であると鑑別できる変異サイトである。例えば、配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの153位がGであることさえわかれば、他の塩基を見ることなく、被検試料にプルヌス・ペルシカが含まれると鑑別できる。その他の塩基についても同様である。
配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの5位がTであるか、および/または6位がTである場合は、プルヌス・シビリカまたはプルヌス・マンシュリカと鑑別できる。206位、207位、208位、209位、210位、211位、212位および213位のうち少なくとも1塩基が欠失していない、すなわち少なくとも1塩基が存在する場合も、プルヌス・シビリカまたはプルヌス・マンシュリカと鑑別できる。これらの塩基は、1塩基でも上記に該当すれば、他の塩基を見ることなく、プルヌス・シビリカまたはプルヌス・マンシュリカであると鑑別できる。
配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの41位がGである場合は、他の塩基を見ることなく、プルヌス・アルメニアカ、プルヌス・シビリカまたはプルヌス・マンシュリカと鑑別できる。
従って、被検試料に含まれるプルヌス属植物が、プルヌス・アルメニアカであるか、またはそれ以外であるかの識別、すなわち、杏仁の基原植物であるか、またはそれ以外であるかの識別は、配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの、94位および/または130位の塩基を比較することにより実施できる。更に、41位と、5位、6位、206位、207位、208位、209位、210位、211位、212位および213位のうちの少なくとも1塩基とを比較することにより実施できる。
プルヌス属植物の葉緑体リボソームrpl16遺伝子イントロンの部分領域の塩基配列において、種の識別に有用な部位について、配列番号1を参照配列として、以下の表1にまとめる。
Figure 0005309520
上記の特定部位の塩基の比較は、被検試料に含まれる植物のrpl16イントロンの部分領域の塩基配列を決定し、得られた塩基配列における上記特定部位の塩基を比較することにより実施できる。塩基配列を決定する方法については既に述べたとおりである。すなわち、被検試料からDNAを抽出し、それを鋳型としてrpl16イントロンの部分領域を増幅し、ダイレクトシーケンシングを行うかクローニングを行って、塩基配列を決定することができる。プライマーについても、上記と同様である。
従って、一実施形態において本発明の方法は、1)被検試料からDNAを抽出する工程、2)該DNAを鋳型としてrpl16イントロンの部分領域を増幅する工程、3)該領域の塩基配列を決定する工程、および4)配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの上記位置に相当する位置の塩基から選択される少なくとも1つの塩基を配列番号1〜7の塩基配列の少なくとも1つと比較する工程、を含む。
1〜数カ所の特定部位の塩基を比較する方法として、PCRプライマーを用いる方法を利用してもよい。塩基配列を比較し、相違のある領域にPCRプライマーを設定し、どのプライマーによって増幅されるかによって判別する方法である。この場合非相同的な領域だけでなく、相同的な領域にもプライマーを設定し、インターナルコントロールとするのが望ましい。増幅が見られないのは、反応の失敗ではなくrpl16イントロンの部分領域の配列によるものであることを確認するためである。
上記の特定のプライマーによってrpl16イントロンの部分領域が増幅するかどうかで判別する方法は、PCR以外の増幅法であってもよい。例えば、LAMP法(栄研化学)、ICAN法(宝酒造)などを利用することも可能である。
分類は必ずしも核酸の増幅によるものでなくてもよい。例えば1本鎖の核酸同士をハイブリダイズさせて、それを電気的に検出する方法は、非常に感度が良いので、核酸の増幅なしで検出が可能である。1本鎖のプローブを上記増幅法と同様に非相同的な領域に設定することにより、ハイブリダイズしたかどうかで配列を確認できる。
また、1ないし数カ所の特定部位の塩基を比較する方法による識別は、RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法でも可能である。識別の対象となる何種類かの塩基配列を比較し、制限酵素による切断に違いのある部分を見つけ、増幅されたDNA断片にその部分が含まれるように、プライマーを設定する。増幅したDNA断片がその制限酵素によって切断されるか否かによって配列の違いが判断できる。切断の有無は通常の電気泳動法等によって容易に判定可能である。
さらに、上記の特定部位における塩基の違いを複数組み合わせ、パターン化して比較する方法がある。例えば、上記プライマー法で、いくつかのプライマー対を用いる方法や、あるいは上記RFLP法で、比較的広い領域を増幅し、複数の制限酵素で切断し、それぞれの切断パターンによって判別することも可能である。
被検試料としては、プルヌス属植物を含む可能性のある試料であれば特に制限されない。例えば、プルヌス属植物の破砕物、粉砕物、乾燥物および抽出物、これらを含む生薬や漢方薬、ならびに該生薬や漢方薬を含む医薬品、食品、飲料および化粧品などが挙げられる。
なお本発明において用いる、rpl16イントロンの部分領域の増幅、PCR、クローニング、塩基配列の決定、核酸化学合成等の実験は、通常の実験書に記載の方法によって行うことができる。そのような実験書としては、例えば、SambrookらのMolecular Cloning, A laboratory manual, (2001) 3rd Ed., Sambrook, J. & Russell, DW. Cold Spring Harbor Laboratory Pressを挙げることができる。
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されない。
(実施例1)
杏仁基原植物、桃仁基原植物およびその近縁種の種鑑別に有用な領域の探索には、以下の標本サンプルを用いた。
Figure 0005309520
約200 mgのサンプルからDNeasy(登録商標)Plant Mini Kit (Qiagen)を用いてDNAを抽出し、各領域をサーマルサイクラーPE-2000 (Applied Bio Systems) にてPCR増幅した。PCR反応液の組成は次のとおりとした:10 x Ex-Buffer (TaKaRa) 5μl, dNTP mix (TaKaRa) 5μl, フォワードプライマー(5'-GTT TCT TCT CAT CCA GCT CC-3')(10pmol/μl) 1.0μl, リバースプライマー(5'-GAA AGA GTC AAT ATT CGC CC-3')(10pmol/μl) 1.0μl, 鋳型DNA 1.25μl, Ex-Taq (TaKaRa) 0.25μl, DMSO 5μl, D.D.W. 31.5μl (TaKaRa)。反応サイクルは、(94℃, 1 分; 48℃, 2 分; 72℃, 3 分) x 30サイクル, (72℃, 7 分) x 1サイクルとした。
PCR反応液は2.0%アガロースゲルを用いて電気泳動してDNAをサイズごとに分離し、目標サイズのDNAバンドだけを切り出してGFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit (Amersham biotech)を用いて精製した。精製産物をBigDye Terminator Cycle Sequencing Kit ver.2.0 とModel 3100 automated sequencer (Applied Bio Systems)を用いて塩基配列を決定した。シーケンスの際には増幅に用いたプライマーを用い、5’末端および3’末端の双方からシーケンスを決定し、両者を比較して塩基配列を確定した。
表2に示す26種のサンプルから得られたrpl16イントロンの部分領域の塩基配列をアライメントした結果を図2に示す。調査領域には、32の変異サイトが見いだされた(図1)。配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの変異サイトの位置は、5位、6位、41位、84位、85位、86位、87位、88位、89位、90位、94位、118位、119位、120位、121位、122位、123位、124位、125位、126位、127位、130位、153位、206位、207位、208位、209位、210位、211位、212位、213位および246位である。サンプルの入手元が異なっていてもプルヌス・ダビディアナを除けば種が同じであれば塩基配列は全く同じであり、プルヌス・ダビディアナもそれぞれ他種と異なる2種の塩基配列に限定されており、各種は安定した変異パターンを有していた。
今回26種の標本サンプルについて塩基配列を決定したrpl16イントロンの部分領域は、塩基配列の決定が容易であり、また、種間の変異は多いが種内変異がほとんどなく、種の鑑別に有効であることがわかった。従って、このrpl16イントロン部分領域のみを解析することにより、プルヌス属植物の種を鑑別できることが示された。そして、本発明の方法により、杏仁基原植物とその近縁種とを区別できること、桃仁基原植物とその近縁種とを区別できること、さらに杏仁基原植物と桃仁基原植物とを区別できることが明らかとなり、生薬としての杏仁および桃仁が日本薬局方における真正な生薬であるからを鑑別できることが示された。
プルヌス属に属する6種において、それぞれ複数のサンプルについて決定したrpl16イントロンの部分領域の塩基配列のアライメントをとって調査した結果見出された、32の変異部位の詳細を示す。 表2に示す26種のサンプルから得られたrpl16イントロンの部分領域の塩基配列をアライメントした結果を示す。 表2に示す26種のサンプルから得られたrpl16イントロンの部分領域の塩基配列をアライメントした結果を示す。 表2に示す26種のサンプルから得られたrpl16イントロンの部分領域の塩基配列をアライメントした結果を示す。 表2に示す26種のサンプルから得られたrpl16イントロンの部分領域の塩基配列をアライメントした結果を示す。 表2に示す26種のサンプルから得られたrpl16イントロンの部分領域の塩基配列をアライメントした結果を示す。

Claims (13)

  1. 被検試料に含まれるプルヌス属植物が、プルヌス・ダビディアナ、プルヌス・ペルシカ、プルヌス・ミラ、プルヌス・アルメニアカ、プルヌス・シビリカおよびプルヌス・マンシュリカのいずれであるかを鑑別する方法であって、被検試料に含まれる植物の葉緑体ゲノムにおけるリボソーム遺伝子rpl16のイントロンの部分領域の塩基配列を、配列番号1〜7の塩基配列から選択される少なくとも1つの塩基配列と比較することを含み、
    配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの、5位、6位、41位、84位、85位、86位、87位、88位、89位、90位、94位、118位、119位、120位、121位、122位、123位、124位、125位、126位、127位、130位、153位、206位、207位、208位、209位、210位、211位、212位、213位および246位に相当する位置の塩基から選択される少なくとも1つの塩基を比較する、前記方法。
  2. リボソーム遺伝子rpl16のイントロンの部分領域が、配列番号8の塩基配列からなるプライマーと配列番号9の塩基配列からなるプライマーとのプライマーセットで増幅される領域である、請求項1記載の方法。
  3. 被検試料が生薬である、請求項2記載の方法。
  4. 配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの、5位、6位、41位、84位、85位、86位、87位、88位、89位、90位、94位、118位、119位、120位、121位、122位、123位、124位、125位、126位、127位、130位、153位、206位、207位、208位、209位、210位、211位、212位、213位および246位に相当する位置の塩基すべてと比較する、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  5. 配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの118位、119位、120位、121位、122位、123位、124位、125位、126位および127位のうち少なくとも1塩基が欠失していない場合、あるいは、84位、85位、86位、87位、88位、89位、90位および246位のうち少なくとも1塩基が欠失している場合、プルヌス・ダビディアナと鑑別し、
    配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの153位がG(グアニン)である場合は、プルヌス・ペルシカと鑑別し、
    配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの94位がA(アデニン)であるか、および/または130位がT(チミン)である場合は、プルヌス・アルメニアカと鑑別し、
    配列番号1の塩基配列を参照配列としたとき87位がAである場合は、プルヌス・マンシュリカと鑑別し、
    配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの5位がTであるか、および/または6位がTであるか、あるいは206位、207位、208位、209位、210位、211位、212位および213位のうち少なくとも1塩基が欠失していない場合は、プルヌス・シビリカまたはプルヌス・マンシュリカと鑑別し、
    配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの41位がGである場合は、プルヌス・アルメニアカ、プルヌス・シビリカまたはプルヌス・マンシュリカと鑑別する、
    請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  6. 配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの118位、119位、120位、121位、122位、123位、124位、125位、126位および127位のうち少なくとも1塩基が欠失していない場合、あるいは、84位、85位、86位、87位、88位、89位、90位および246位のうち少なくとも1塩基が欠失している場合、プルヌス・ダビディアナと鑑別する、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  7. 配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの153位がG(グアニン)である場合は、プルヌス・ペルシカと鑑別する、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  8. 配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの94位がA(アデニン)であるか、および/または130位がT(チミン)である場合は、プルヌス・アルメニアカと鑑別する、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  9. 配列番号1の塩基配列を参照配列としたとき87位がAである場合は、プルヌス・マンシュリカと鑑別する、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  10. 配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの5位がTであるか、および/または6位がTであるか、あるいは206位、207位、208位、209位、210位、211位、212位および213位のうち少なくとも1塩基が欠失していない場合は、プルヌス・シビリカまたはプルヌス・マンシュリカと鑑別する、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  11. 配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの41位がGである場合は、プルヌス・アルメニアカ、プルヌス・シビリカまたはプルヌス・マンシュリカと鑑別する、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  12. 配列番号1の塩基配列を参照配列としたときの、94位および/または130位の塩基を比較することにより、あるいは、41位と、5位、6位、206位、207位、208位、209位、210位、211位、212位および213位のうちの少なくとも1塩基とを比較することにより、被検試料に含まれるプルヌス属植物が、プルヌス・アルメニアカであるか、またはそれ以外であるかを識別する、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  13. 被検試料に含まれるプルヌス属植物が、プルヌス・ダビディアナ、プルヌス・ペルシカ、プルヌス・ミラ、プルヌス・アルメニアカ、プルヌス・シビリカおよびプルヌス・マンシュリカのいずれであるかを鑑別する方法であって、被検試料に含まれる植物の葉緑体ゲノムにおけるリボソーム遺伝子rpl16のイントロンの部分領域の塩基配列を、配列番号1〜7の塩基配列のすべてと比較することを含む、前記方法。
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