JP2009225700A - ニワトリ由来試料のdna鑑定方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】鶏肉、鶏卵又はその加工品が、名古屋コーチン由来か否かを厳密に識別する方法を提供する。
【解決手段】鶏肉、鶏卵又はその加工品から抽出したDNAを含む試料を用いて、ニワトリゲノムにおける識別番号ABR0257のマイクロサテライト多型を解析し、前記ABR0257マイクロサテライト多型が、複数の特定の配列からなる塩基配列の何れとも異なる塩基配列を有するDNAからなるとき、前記試料が名古屋コーチンとは異なる品種のニワトリ由来の細胞を含むことを示す。
【選択図】なし

Description

本発明は、ニワトリ由来試料のDNA鑑定方法に関し、より詳しくは、名古屋コーチンとその他の品種との違いを識別する方法に関する。
食物のトレーサビリティーは、特定の食物について、その生産から販売に至るまでのすべての段階を追跡する能力であると規定されている。そして、食物の安全性を確保するという観点から、農産物業界において益々必要な技術となっている。DNA鑑定技術は、製品が由来する動物種まで追跡することができるため、現在の食肉の追跡システムを精密化する上において重要な役割を果たしている。
鶏肉及び鶏卵の両方を生産するための品種である名古屋コーチンは、わが国の愛知県における有名な地鶏である。名古屋コーチンは、その特徴的な外観と共に優れた食味でも有名であり、ニワトリの多様な品種の中でも特に高いブランド価値を持っていると言われている。近年、ニワトリ個体又は鶏卵が名古屋コーチンであるか否か、あるいはニワトリの体細胞が名古屋コーチンであるか否かを識別できるDNAマーカー、及びこれを利用して名古屋コーチンを識別する方法が報告されている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。この方法は、ニワトリゲノムDNAに存在する数多くのマイクロサテライト多型の中で、5つのマイクロサテライトマーカー(ABR0015、ABR0257、ABR0417、ABR0495、及びADL0262)が名古屋コーチンにおいて単一の対立遺伝子(アレル)を有するという事実に基づいている。市販されている名古屋コーチンはこれらのマーカーについて固定されているため、その均一性を検出することによって、これらのマーカーの少なくとも1つに多型性を有する他のすべてのニワトリと識別できることが報告されている。
本発明者も、これらの5つのマイクロサテライト多型を検出するための簡便法を開発し、すでに報告している(非特許文献2参照)。
特開2007−236298号公報 Nakamura et al., Poult Sci. (2006) Vol. 85:2124-2129 Takahashi, H. and Sakagami M. Animal Science Journal (2008) Vol. 79, pp.138-141
しかしながら、これらのマーカーを用いて市場に出回る各種の鶏肉、鶏卵又はその加工品について、名古屋コーチン由来か否かのDNA鑑定を行うと、ニワトリゲノムの17番染色体に存在する1つのマイクロサテライト多型ABR0257を含むDNA断片長が、わずかではあるが極めて頻繁に不均一性を示すことを発見した。本発明者の分析によれば、この不均一性は、PCR増幅されたDNA断片の大きさが微妙に異なるか、あるいは想定外の大きさのDNA断片が複数出現するものであるが、市場に出回っている名古屋コーチンと称する製品の約6割において、再現性よく検出される。そこで、本発明は、これらの不均一性がどのような原因によるものであるかを解明し、名古屋コーチンとその他の品種との違いを厳密に識別する方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明者は名古屋コーチンの原種鶏、及び市場において名古屋コーチンと称される鶏肉から抽出したDNAについて、そのABR0257のマイクロサテライト多型をDNAの塩基配列のレベルで解析した結果、名古屋コーチンの原種鶏には配列番号1と3に示した塩基配列の2種類のアレル(対立遺伝子)がホモ接合体にて存在すること、及び市場において名古屋コーチンと称される鶏肉から抽出したDNAには配列番号1〜3の何れかに示す塩基配列が存在することを見出した。
すなわち、本発明のニワトリ由来試料のDNA鑑定方法は、鶏肉、鶏卵又はその加工品から抽出したDNAを含む試料を用いて、ニワトリゲノムにおける識別番号ABR0257のマイクロサテライト多型を解析し、前記ABR0257マイクロサテライト多型が、配列番号1〜3に示した塩基配列の何れとも異なる塩基配列を有するDNAを含むとき、前記試料が名古屋コーチンとは異なる品種のニワトリ由来の細胞を含むことを示すことを特徴とする。
前記マイクロサテライト多型の解析方法は、ABR0257多型を含むニワトリゲノムDNAに特異的にハイブリダイズするプライマー対を用いて当該ABR0257多型を含むDNAを増幅し、当該増幅されたDNA断片長を解析することが好ましい。その際、前記増幅されたDNA断片長が、配列番号1〜3の何れかの塩基配列を含むニワトリゲノムDNAから増幅されたDNA断片長と異なるとき、前記試料が名古屋コーチンとは異なる品種のニワトリ由来の細胞を含むことが示される。
本発明の他の実施形態においては、前記マイクロサテライト多型の解析方法が、ABR0257多型を含むニワトリゲノムDNAの塩基配列を決定し、配列番号1〜3に示した塩基配列の何れかと同一のDNA断片を含むか否かを判定することを特徴とする。
本発明の方法を用いることにより、名古屋コーチンと、その他の品種のニワトリ及び名古屋コーチンとその他の品種のニワトリの雑種とを厳密に識別できる食品のDNA鑑定方法が提供される。
[ニワトリゲノムにおけるABR0257マイクロサテライト多型]
ニワトリゲノムの遺伝子解析の結果、CAリピートを含む193個のマイクロサテライトマーカー(ABRマーカーと称する)を含む連鎖地図(linkage map)が報告されている(Takahashi et al. Anim Genet 2005, 36, 463-467)。これらの中で、ABR0257と称されるマイクロサテライトマーカーは、ニワトリゲノムの17番染色体に位置し、名古屋コーチンでは単一の対立遺伝子(アレル)に固定されているが、白色レグホンやロードアイランドレッド等の他の品種では多型性を有する。そして、このABR0257を含む5つのマイクロサテライトマーカーを組み合わせることによって名古屋コーチン識別用DNAマーカーが提供されている(上掲の特許文献1参照)。しかしながら、上記文献に開示されたDDBJ受け入れ番号AB186589に示された塩基配列は、名古屋コーチンに特徴的な327塩基対とは異なり、塩基位置105〜120に存在するCAリピートの数が8個である。
これに対し、本発明者が解析した名古屋コーチン由来のABR0257マイクロサテライトの塩基配列を図1に示す。これによると、タイプA〜タイプCまでの3種類の塩基配列が明らかとなり、上記CAリピートに対応する位置におけるCAの繰り返し数は5回又は6回であることが分かった。さらに、これら3種類の配列のうち、タイプBの塩基配列が共通配列(コンセンサス配列)であると認められ、タイプA及びCの配列には1又は2塩基の欠失、置換、又は挿入が認められるが、全体の長さは241塩基対で同一である。
従って、当該ABR0257マイクロサテライトの多型を解析し、タイプA〜タイプC(配列番号1〜3に示した塩基配列に相当する)の何れとも異なる塩基配列を有するDNAは、名古屋コーチンとは異なる品種のニワトリに由来するということができる。他の品種のニワトリには、名古屋コーチンとその他の品種のニワトリの雑種も含まれる。
さらに、タイプA〜タイプCのプライマー設計部位を除いた配列を、米国の国立バイオテクノロジー情報センターに登録されている、赤色野鶏の遺伝子配列と比較したところ、6〜9塩基の違いが確認された。赤色野鶏は、全ての鶏の祖先と考えられていることから、当該ABR0257マイクロサテライトの多型解析により、全ての鶏の固体識別・親子鑑定・品種識別ができる。したがって、本発明の別の観点では、ニワトリゲノムにおける識別番号ABR0257のマイクロサテライト多型を解析し、当該配列が配列番号1〜3に示す塩基配列の何れか1つと同一であるか否かを判定することを含む、ニワトリの個体識別、親子鑑定、又は品種識別方法が提供される。
[DNA試料の調製方法]
本発明の方法に用いるDNA試料の調製方法は、鶏肉、鶏卵又はその加工品から通常用いられる方法に従って調製することができる。例えば、ニワトリ個体の末梢血から分離した白血球を用いる場合は、白血球にプロテイナーゼKとドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を加えてタンパク質を分解、変性させた後、フェノール/クロロホルム抽出を行なうことによりゲノムDNAを得る。ただし、ゲノムDNAの抽出は、上記の方法に限定されず、当該技術分野で周知の方法(例えば、Sambrook, J. et al. (1989): "Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd Ed.)" Cold Spring Harbor Laboratory, NY)や、市販のDNA抽出キット等を利用して行ってもよい。本明細書において「加工品」とは、鶏肉を含む加工食品のことであり、例えば、焼き鳥やチキンカレーの具等を含む。
[多型DNAの解析及び判定]
マイクロサテライト多型の解析方法も特に制限されることなく、上記DNA試料を用いてABR0257マイクロサテライト多型を含むDNA領域を増幅し、そのDNA断片の長さを測定するか、あるいは直接塩基配列を決定してもよい。増幅したDNAを更に、ゲル電気泳動、サザンハイブリダイゼーション、一本鎖立体配置多型(SSCP)の解析及び制限酵素断片長多型(RFLP)の解析等の技術を用いて比較することもできる。DNAの増幅法としては、一般的なPCR法のほか、均一な温度における遺伝子増幅法を用いても行うことができる。このような遺伝子増幅に用いるプライマーとしては、ABR0257マイクロサテライト多型を含むDNA領域の両端部分に存在する単一な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを合成して用いることができる。ABR0257マイクロサテライト多型を含むDNA領域の塩基配列は、本明細書に添付した図面やDDBJデータベースの受け入れ番号AB186589などに開示されている。
本発明の好ましい態様において、増幅されたDNA断片は、その長さを同定することによって検出され得る。例えばポリアクリルアミドゲル電気泳動や、高性能ポリマーで作成されたキャピラリー電気泳動装置を用いる方法である。適切な分子量マーカーを使用することによって、このような電気泳動の結果からそのDNA断片の大きさを正確に同定することは当業者において容易に行うことができる。
ダイレクトシークエンス法は、ABR0257マイクロサテライト多型を含むDNA断片をPCR増幅した後、増幅されたDNAのヌクレオチド配列を直接ジデオキシ法により解析する方法である。決定された塩基配列が、配列番号1〜3の何れかの塩基配列と同一か否かは、比較対象となる2つの塩基配列の同一性を解析するプログラム、例えばBLASTなどを用いて容易に判定することができる。とりわけ、配列番号1〜3に示した塩基配列の125番目から始まるCAリピートの数が7回以上のものは名古屋コーチンとは異なる品種と考えられる。
[ニワトリ検体からのゲノムDNAの調製]
愛知県で商業生産に利用している名古屋コーチンの原種鶏2系統(NG1系、及びNG3系)、及び市場で名古屋コーチン由来と称して販売されている種々の鶏肉からゲノムDNAを調製した。各検体(鶏肉)をFTAクラシックカード(FTA Classic Card:ワットマン社製)に塗りつけ、風乾した。これを直径数ミリの大きさにパンチでくり抜きスカート付き96ウェルPCRプレート(バイオ・リジェネレーションズ社製)に入れ、100μlの精製水(ミリQ水)で5分間洗浄した。これを3回繰り返した後、DNAsol(ギブコ社製)を50μl加え、10分間室温に置いた。これを精製水で3回洗浄した後、水分を除去した。この状態でゲノムDNAはFTAクラシックカードに絡みついたままでPCRによる増幅が可能である。
上記のようにして調製したFTAカードを含む各ウェルに15μlの反応溶液を添加してPCRを行った。反応溶液組成は、各2.5pmolのABR0257増幅用プライマー、すなわち、正方向プライマー:5’-CCAGGCATACTCATTCCAGC-3’(配列番号4)及び逆方向プライマー:5’-AGAGGTGAGATCCCTCAGTGC-3’(配列番号5)、200μMのdNTPs、0.8mMの硫酸マグネシウム、0.5ユニットのKODプラスポリメラーゼ(KOD−201:東洋紡)及び1×反応バッファーである。96穴プレートをiCyclerサーマルサイクラー(バイオラッド社製)に装着し、94℃、2分間のホットスタートの後、94℃で15秒、58℃で30秒及び68℃で30秒を1サイクルとして40サイクル繰り返した後、最後に68℃で9分30秒間伸長反応を行った。
このようにして増幅したPCR産物を、TAクローニングキットを用いてpTA2ベクター(東洋紡社製)にクローニングし、増幅された断片の塩基配列を決定した。また、PCR産物の長さの違いを検出するためには、ABI PRISM 3100DNAシークエンサー(パーキンエルマー社製)を用い、解析プログラムはGeneMapperで行った。
名古屋コーチンの原種鶏から抽出したDNAを用いて上記方法により塩基配列を決定した結果、図1に示したタイプA及びCの2種類の塩基配列のホモ接合体が検出された。図1において四角で囲んだ領域はCAリピート配列に相当する。名古屋コーチンの原種鶏では、これらのCAリピート数は5回又は6回である。また、市場における名古屋コーチン由来のニワトリではタイプA〜Cの3種類の何れかの塩基配列が見出された。したがって、これら3種類以外の塩基配列を有する試料には名古屋コーチン以外の品種のニワトリ由来細胞が含まれると考えられる。これら3種類の塩基配列を比較した結果、タイプBの塩基配列がコンセンサス配列と考えられ、これに対して、タイプA及びCの塩基配列において置換又は挿入された塩基に下線を付した。これら3種類の配列は、それぞれ塩基置換、欠失、又は挿入を有するが、全体の長さは241塩基対で同一の長さであった。
名古屋コーチンの原種鶏におけるABR0275マイクロサテライト多型領域のDNA塩基配列を示す。

Claims (5)

  1. 鶏肉、鶏卵又はその加工品から抽出したDNAを含む試料を用いて、ニワトリゲノムにおける識別番号ABR0257のマイクロサテライト多型を解析し、そして
    前記ABR0257マイクロサテライト多型が、配列番号1〜3に示した塩基配列の何れとも異なる塩基配列を有するDNAからなるとき、前記試料が名古屋コーチンとは異なる品種のニワトリ由来の細胞を含むことを示す、
    ニワトリ由来試料のDNA鑑定方法。
  2. 前記マイクロサテライト多型の解析方法が、ABR0257多型を含むニワトリゲノムDNAに特異的にハイブリダイズするプライマー対を用いて当該ABR0257多型を含むDNAを増幅し、当該増幅されたDNA断片長を解析する方法である請求項1に記載の方法。
  3. 前記増幅されたDNA断片長が、配列番号1〜3の何れかの塩基配列を含むニワトリゲノムDNAから増幅されたDNA断片長と異なるとき、前記試料が名古屋コーチンとは異なる品種のニワトリ由来の細胞を含むことを示す請求項2に記載の方法。
  4. 前記マイクロサテライト多型の解析方法が、ABR0257多型を含むニワトリゲノムDNAの塩基配列を決定し、配列番号1〜3に示した塩基配列の何れかと同一のDNA断片を含むか否かを判定することである請求項1に記載の方法。
  5. 前記名古屋コーチンとは異なる品種のニワトリが、名古屋コーチンと他の品種のニワトリとの雑種である請求項1〜4何れか記載の方法。
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