JP5308055B2 - β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ - Google Patents

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Description

本発明は、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼをコードするDNA、及び前記DNAを含有した組換えベクター、前記組換えベクターを含む形質転換体、及びβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼの製造方法に関するものである。
従来から、カイコは、絹糸タンパク質を大量に産生する能力を有していることから、この優れたタンパク質合成能力を利用したヒト型タンパク質産生系として注目されている。
一方で、カイコを含む昆虫において産生されるタンパク質には、昆虫特有の糖鎖構造が付加されたものが多く含まれる。これは、糖鎖プロセシングがヒトのものとは異なるためである。そしてこの糖鎖プロセシングに関与する酵素の一つとして、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼがある。
このβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼは、昆虫培養細胞(Spodoptera frugiperda由来Sf−21細胞)でその活性が検出され(非特許文献1)、ショウジョウバエではその存在が確認されている(非特許文献2)。また非特許文献1、2では、この酵素はゴルジ体に局在し、糖鎖プロセシング経路においてManα1,3−側鎖上のアセチルグルコサミン(GlcNAc)残基特異的に作用することが開示されている。すなわち、この酵素が作用することによって、産生される糖タンパク質にはヒト型糖タンパク質の糖鎖に見られるような非還元末端へのガラクトース残基などの糖鎖伸長が形成されず、このように産生された糖タンパク質は、活性や安定性に問題が生じる可能性がある。
従って、カイコを利用してヒト型糖鎖を有する組換えタンパク質を産生する際には、非還元末端に糖鎖を付加させることが重要であり、そのためにはこの酵素の機能を積極的に抑制することが必要である。
このような問題に対して、例えば、哺乳類GlcNAc−トランスフェラーゼIを異種的に過剰発現させる方法(非特許文献3)や、N−アセチルヘキソサミニダーゼの阻害剤を添加する方法(特許文献1)などが種々提案されている。
Altmann F.,et al.Insect cells contain an unusual,membrane−bound beta−N−acetylglucosaminidase probably involved in the processing of protein N−glycans.J Biol Chem.1995,270(29);17344−9. Leonard R.,et al.The Drosophila fused lobes gene encodes an N−acetylglucosaminidase involved in N−glycan processing.J Biol Chem.2006,281(8);4867−75. Wagner,R.,et al.Elongation of the N−glycans of fowl plague virus hemagglutinin expressed in Spodoptera frugiperda(Sf9) cells by coexpression of human beta 1,2−N−acetylglucosaminyltransferase I.Glycobiology.1996,6,165−175. 特開2003−70469
しかしながら、ヒト型糖タンパク質を量産するには上記した方法では未だ解決すべき課題が残されている。例えば、非特許文献3に開示されている哺乳類GlcNAc−トランスフェラーゼIを異種的に過剰発現させる方法では、昆虫培養細胞(Sf−9細胞)の内因性ヘキソサミニダーゼと競合するため、ほとんどのN型糖鎖では、GlcNAcの付加が起こらず、ガラクトース残基などの糖鎖伸張が形成されない恐れがある。また、特許文献1で開示された方法では、対象とするN−アセチルヘキソサミニダーゼだけでなく、脱皮時に必要なヘキソサミニダーゼなど、翻訳後修飾に関わらない他のヘキソサミニダーゼも阻害してしまうため、カイコに悪影響を及ぼす可能性が高い。さらに、この方法で使用される阻害剤は非常に高価であり、且つ当該阻害剤の投与時期・投与方法・投与量などを常に制御しなくてはならないため、ヒト型タンパク質を量産する場合、現実的ではなかった。
この問題に対して、本発明者らは、ヒト型タンパク質を量産するためには、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼを特異的にノックダウン或いはノックアウトすることが有効であると考えた。そのためには、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼをコードする遺伝子配列が必要である。
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、カイコのβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質、前記タンパク質をコードするDNA、前記DNAを含有した組換えベクター、前記組換えベクターを含む形質転換体、及びβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼの製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、カイコから前記酵素をコードする遺伝子を取得することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明の第1の主要な観点によれば、カイコのβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAが提供される。
本発明の別の一実施形態によれば、以下(a)、(b)、(c)及び(d)のいずれかに記載のDNA;(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、(b)配列番号:2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
(c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の機能を有するタンパク質をコードするDNA、(d)配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであり、且つβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAが提供される。
また、本発明の第2の主要な観点によれば、以下(a)、(b)、(c)及び(d)のいずれかに記載のポリペプチド;(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、(b)配列番号:2に記載の塩基配列がコードするアミノ酸配列からなるポリペプチド、(c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、且つβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ活性を有するポリペプチド、(d)配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAにコードされるポリペプチドであり、且つβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ活性を有するポリペプチドが提供される。
本発明の第3の主要な観点によれば、前記DNAを有する組換えベクターが提供される。さらに、第4の主要な観点によれば、前記組換えベクターにより形質転換された形質転換細胞が提供される。さらに、本発明の第5の主要な観点によれば、前記組換えベクターにより形質転換された形質転換体が提供されるものである。さらに、本発明の第6の主要な観点によれば、前記形質転換体の子孫またはクローンである形質転換体が提供されるものである。
本発明の第7の観点によれば、鱗翅目のβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを有する組換えベクターを作製する工程と、前記組換えベクターを宿主細胞に導入する工程とを有する形質転換体の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第8の観点によれば、鱗翅目のβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを有する組換えベクターにより形質転換された形質転換細胞を培養する工程と、前記細胞またはその培養上清からβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼを回収する工程とを有するβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼの製造方法が提供される。
この発明の更なる特徴及び顕著な効果は次に記載する発明の最良の実施形態の項の記載から当業者にとって明らかになるものである。
上述したように本発明によれば、カイコβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質、前記タンパク質をコードするDNA、前記DNAを含有した組換えベクター、前記組換えベクターを含む形質転換体、及びβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼの製造方法が提供される。
まず、本明細書における用語を以下のように定義する。
本明細書における「1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列」とは、そのアミノ酸配列からなるタンパク質が所望の機能を失わない限り、その置換等されるアミノ酸数は限定されるものではない。例えば、30個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下、特により好ましくは3個以下である。
また、本明細書における「ストリンジェントな条件」とは、相同遺伝子をコードするDNAを単離するために行うハイブリダイゼーション反応・洗浄条件を指し、このハイブリダイゼーション反応は、当業者にとって公知である方法に準じて行うことができる。
また、本明細書における「ヒト型糖タンパク質」とは、ガラクトースやシアル酸などの残基によって伸長した糖鎖を有するタンパク質であり、この糖鎖がヒトタンパク質糖鎖と同等の構造であるものをいう。
次に、本発明の一実施形態における構成要素について詳細に説明する。
まず、本発明者らは、本発明のβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼを得るために、ショウジョウバエで報告された新規のβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼであるFDL(fused lobe遺伝子)のアミノ酸配列をソースとしてカイコデータベース(KAIKOBLAST)検索を行い、相同性の高い候補ゲノム配列を得た。
この相同性の高い候補ゲノム配列の調製は、当業者にとって既知の手段を利用して行うことができる。例えば、カイコデータベース中のゲノムデータから推定されるアミノ酸配列をFDLのアミノ酸配列と比較して、相同性が高いものを選抜する。または、既存のヘキソサミニダーゼ遺伝子の保存領域の配列を基にゲノムデータを検索し、相同性が高いものを選抜するなどの方法が挙げられる。
その後、前記候補ゲノム配列を基にカイコβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ塩基配列をクローニングした。このクローニング方法としては、当業者に既知である方法を利用することが可能であり、例えば、RACE法、cDNAライブラリからの候補配列をプローブとしたスクリーニングなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
さらに、クローニングした配列が、プロセシング経路に関与することを検証した。この方法としては、クローニングした配列の発現と基質特異性の詳細な検討、抗体による局在の検討、抗体を用いた活性吸収法などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
このようにして得られたカイコβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼは、カイコの糖鎖プロセシング経路に関与する、Manα1,3−側鎖上のアセチルグルコサミン(GlcNAc)残基を特異的に切断する酵素であり、本発明によって初めて見出されたものである。
本発明のカイコβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼは、Manα1,3−側鎖上のGlcNAc残基を特異的に欠失した形状の糖鎖を作製するために使用することができ、このような非還元末端がGlcNAcである2本鎖N型糖鎖からManα1,3−側鎖側のGlcNAcを削除した糖鎖は、糖鎖構造を解析する上での標準糖鎖として利用ができる。また、この特異的な活性により、マンノースに結合しているGlcNacが、α1,3側なのかα1,6側なのか、切断の有無により識別することが可能となる。
さらに、本発明のβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを、例えばアンチセンス法、リボザイム法、或いはsiRNAを用いたRNA干渉法などにおいて利用し、前記β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ活性の発現を抑制することができる。
具体的には、本発明のカイコβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAの塩基配列を基にして、(i)前記DNAの転写産物と相補的なRNAをコードするDNA、(ii)前記DNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA、さらには(iii)前記DNAの転写産物を特異的に切断するRNAi活性を有するRNAをコードするDNAを設計・調製する。次に前記(i)〜(iii)のDNAのいずれかを有するベクターを、例えばカイコを含む昆虫培養細胞を用いる場合、ベクターをトランスフェクションすることにより、カイコを用いる場合、ベクターを用いて組換えバキュロウイルスを作製しカイコに感染させるなどの手法により、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼの発現を抑制することができる。これにより、非還元末端に糖鎖伸長を有するヒト型糖鎖を付加したタンパク質を産生することが可能となる。
さらに、本発明のβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを適切なベクターに挿入し、カイコのβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼを産生するための組換えベクターを作製することができる。
本発明のDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられる。プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pUC、pET、pBluescriptII等)、酵母由来のプラスミド(例えば、YEp型、YCp型等)、一過性発現用のプラスミド、トランスジェニック用の各種プラスミドなどが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ等が挙げられる。さらに、レトロウイルスまたはワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターも用いることができる。例えば、宿主を昆虫細胞とした場合、バキュロウイルスを作製するためのpBAC系やpBlueBacなどのプラスミドベクターを利用し、宿主をカイコ(虫体)とした場合、バキュロウイルスを作製するためのpBM系やpM系などのプラスミドベクターを利用することができる。
ベクターに本発明のDNAを挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位またはマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが利用される。本発明のDNAは、そのDNAの機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、本発明のベクターには、プロモーター、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカーなどを連結することができる。例えば、本発明のベクターに緑色蛍光タンパク質(GFP)を連結させた場合、本発明のβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼとの融合タンパク質として発現させ、その有無を蛍光により確認するために利用することができる。また、本発明のβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼと抗原性のあるエピトープとの融合タンパク質として発現させ、抗体で固定化するために利用することも可能である。
前記プロモーターとしては、宿主中で本発明のDNAを発現できるものであればいずれを用いてもよく、例えば宿主が昆虫細胞の場合はIE1プロモーター、バキュロウイルス発現系の場合はポリヘドリンプロモーター、p10プロモーター、IE1プロモーターなど、哺乳類由来の細胞ではSV40プロモーター、CMVプロモーターなどが挙げられる。
また、前記選択マーカーとしては、宿主の種類に応じて当業者によって適宜変更されるが、例えば、宿主が大腸菌の場合はカナマイシン、アンピシリン等の薬剤耐性遺伝子などであり、バキュロウイルスを使用した場合、ポリヘドリン遺伝子など、カイコの場合は緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子などが挙げられる。
本発明の形成転換体は、本発明の組換えベクターを本発明のDNAが発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。ここで、宿主としては、本発明のDNAを発現できるものであれば特に限定されず、例えば、微生物、例えば大腸菌などの細菌、酵母などの真菌、バキュロウイルスなどのウイルス、コケ類や植物などが挙げられる。動物細胞、例えばカイコガ由来のBmN細胞やSf−9、Sf−21などの昆虫細胞、哺乳動物由来のCOS−1、CHO細胞などが挙げられる。
前記組換えベクターを宿主に導入する方法は、当業者においては公知の方法、例えば、リン酸カルシウム法、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソームを用いる方法、遺伝子銃を用いる方法、マイクロインジェクションする方法などを用いることができる。なお、宿主が昆虫細胞やカイコを含む虫体である場合、前記組換えベクターを用いて作製されたバキュロウイルスを感染させる方法も利用することができる。
なお、このような形質転換細胞中に導入されたβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼをコードするDNAの存在は、公知のPCR法やサザンハイブリダイゼーション法によって、また前記形質転換体中のDNAの塩基配列を解析することによって確認することができる。このような形質転換細胞からのDNA抽出方法は、公知の方法に従って実施することができる。
前記形質転換細胞の培養方法は、使用された宿主細胞に応じて当業者によって適宜選択されるものである。
本発明のカイコのβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質を精製する方法に特に限定はなく、当業者にとって公知なタンパク質の精製方法で実施することができる。例えば、本発明のβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼが本来有する機能を指標として、シリカゲル単体、イオン交換性担体、ゲル濾過担体、キレート性担体などを用いたクロマトグラフィー、限界濾過、ゲル濾過、透析等を組み合わせることができる。さらに、ストレプタグ、ヒスチジンタグ、GSTタグなどの精製用タグを用いる方法も好ましい。
次に本発明の効果に関して、実施例を示して説明する。しかし、本発明は以下に記載された実施例に限定されるものではなく、様々な変更及び修飾は当業者によってその点になされることが理解されるであろう。
(実施例)
実施例に記載の操作のうち、プラスミド調製、制限酵素消化などの基本的な操作については2001年、Cold Spring Harbor Laboratory発行、Molecular Cloning:A Laboratory Manual 3rd ed.に記載の方法に従って行った。プラスミドの構築に使用した制限酵素および他の酵素は、タカラバイオ、東洋紡のいずれかから入手した。
プラスミドの構築は、特に記載が無い限りライゲーションはベクターを5fmol、インサートを15fmolとし、同量(5〜10μL)のライゲーションキット(タカラバイオ社製)のソリューションI液を加え、16℃、1時間反応した。反応液を全て使用し、大腸菌DH5αをアンピシリンの含むLB培地上で形質転換した。クローンを選抜後、プラスミドを精製した。この精製物をBigDye Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社製)で下記の条件でシークエンス反応を行い、DNA Sequencer 3100−avant(アプライドバイオシステムズ社製)にて解析した。
シークエンス反応:
1.96.0℃ 1分
2.96.0℃ 10秒
3.50.0℃ 5秒
4.60.0℃ 4分
5.2.〜4.を25回繰り返した。
PCRは、特に記載がない限りKOD−Plus(東洋紡社製)を用いて下記の条件でDNA−Engine(バイオラッド社製)により反応を行った後、QIAquick PCR Purification kit(キアゲン社製)により精製した。
PCR反応:
1.94.0℃ 2分
2.94.0℃ 15秒
3.50.0℃ 30秒
4.68.0℃ 1kbpにつき1分
5.2.〜4.を30回繰り返し。
RACE法による蚕由来の新規β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ塩基配列の決定
(1)ショウジョウバエで報告された新規のβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼであるFDL(fused lobes)のアミノ酸配列をソースとしてKAIKOBLAST検索をおこない、相同性の高いゲノム由来の配列(Contig581745)を選抜した。この配列を元に
プライマー1(5’−gtaccaggcgtccacgtgcgagat−3’)、
プライマー2(5’−ccagagctcactctgctttggtcatcg−3’)、
プライマー3(5’−cgaacgagcgaatgggggtaaagc−3’)を設計した。
(2)5令3日目のカイコ幼虫(品種:w1pnd)の脂肪体より、MagExtractor −mRNA−(東洋紡社製)を使用してmRNAを調製した。これをSMART RACE cDNA Amplification kit(クローンテック社製)を使用して、逆転写によりcDNAを合成後、プライマー1をFinal 4% DMSOを含む反応液に加え、下記の条件にてRACE法を行い、約2000bpのRACE断片(以下、RACE5’末端断片という)を得た。なお、プロトコールは上記キット付属の取り扱い説明書によった。このRACE5’末端断片をEx−TaqとdATPによって末端にアデニンを1つ突出させて、pT7−Blue T−Vector(タカラバイオ社製)とライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてM13.for(5’−acgacgttgtaaaacgacgg−3’)およびM13.rev(5’−tcacacaggaaacagctatg−3’)のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。
5’末端RACE条件:
1.94.0℃ 30秒
2.72.0℃ 3分
3.1.〜2.を5回繰り返し
4.94.0℃ 30秒
5.70.0℃ 30秒
6.72.0℃ 3分
7.4.〜6.を5回繰り返し
8.94.0℃ 30秒
9.65.0℃ 30秒
10.72.0℃ 3分
11.2.〜4.を25回繰り返し。
(3)5令3日目のカイコ幼虫w1pndの脂肪体を鋳型として、MagExtractor−mRNA−(東洋紡社製)を使用してmRNAを作製した。これをSMART RACE cDNA Amplification kit(クローンテック社製)を使用して、逆転写によりcDNAを合成後、プライマー2を用いて下記の条件にてRACE法を行った。このRACE反応液を鋳型として、プライマー3を用いて下記の条件にてRACE法を行い、約650bpのRACE断片(以下、RACE3’末端断片という)を得た。なお、プロトコールは上記キット付属の取り扱い説明書によった。このRACE3’末端断片をEx−TaqとdATPによって末端にアデニンを1つ突出させて、pT7−Blue T−Vector(タカラバイオ社製)とライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローンを、プラスミド精製、M13.for(5’−acgacgttgtaaaacgacgg−3’)およびM13.rev(5’−tcacacaggaaacagctatg−3’)のプライマーを用いた塩基配列確認により選抜した。
3’末端RACE条件:
1.94.0℃ 30秒
2.72.0℃ 3分
3.1.〜2.を5回繰り返し
4.94.0℃ 30秒
5.70.0℃ 30秒
6.72.0℃ 3分
7.4.〜6.を5回繰り返し
8.94.0℃ 30秒
9.69.0℃ 30秒
10.72.0℃ 3分
11.2.〜4.を25回繰り返し。
(4)RACE5’末端断片およびRACE3’末端断片配列をAuto Assembler(アプライドバイオシステムズ社製)にてアライメントして、図.1の配列を得た。この配列をGENTEX ver.7(ゼネティックス社製)によるORF解析を行い、ORFを決定した。
β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ遺伝子のベクターへの組込み
(1)上記1で得られたcDNAを鋳型として、プライマー4(5’−gttagatctatgaagatgatgtcgtggggtg−3’)およびプライマー5(5’−tctcgagactagaggcacgcgtgcgg−3’)を用いてPCRを行い、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ遺伝子断片を取得した。制限酵素BglIIおよびXhoIを用いてこれを消化し、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ遺伝子断片を切り出した。一方、pM01プラスミド(片倉工業社製)を制限酵素BglIIおよびXho Iを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ断片と線状化したプラスミドをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてVP.for(5’−aatcataaaattgccgtggtcc−3’)およびpM.rev(5’−caacgcacagaatctaacgc−3’)のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜し、Contig581745/pMVPLRとした。
(2)また、上記1で得られたcDNAを鋳型として、プライマー6(5’−ggagatctagctgtactctactggaaacagc−3’)およびプライマー5(5’−tctcgagactagaggcacgcgtgcgg−3’)を用いてPCRを行い、シグナル配列欠損β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ遺伝子断片を取得した。制限酵素BglIIおよびXhoIを用いてこれを消化し、シグナル配列欠損β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ遺伝子断片を切り出した。一方、N末にstrepタグを付加するプラスミドベクターを制限酵素BglIIおよびXho Iを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。シグナル配列欠損β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ断片と線状化したプラスミドをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてVP.for(5’−aatcataaaattgccgtggtcc−3’)およびpM.rev(5’−caacgcacagaatctaacgc−3’)のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜し、Contig581745(−sig)/pMVPLR−Nstrep(+sig)とした。
組換えβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ発現バキュロウイルスの作製
(1)35mm細胞培養用ディッシュを用いて、約1×10個のBmN細胞を準備した。ウイルスDNA200μgに対して、制限酵素Eco 81Iの30unitsを用いて、37℃で20時間の処理条件で反応させることにより線状化したABvバキュロウイルス(片倉工業社製:特開2003−52371)0.2μgと、外来遺伝子導入バキュロウイルス転移ベクター0.5μgを1.5mlチューブ中で100μlのTC−100(無血清)に混合し、室温で15分間静置した。TC−100(無血清)100μlにLipofectin(インビトロジェン社製)を4μl混合し、室温で15分間静置した。次に2つの溶液を混合し、さらに室温で15分間静置した後に800μlのTC−100(無血清)を加えた。
(2)準備したBmN細胞に混合液を加え、25℃で16時間培養後に混合液を除去し、新たなTC−100(10%FBSを含む)を2ml添加して、25℃で7日間静置培養した。その培養上清を組換えウイルス原液とした。
蚕で発現させたβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼの精製
(1)上記で作製した、Strepタグ付きβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ発現組換えウイルスを、5令1日目のカイコ幼虫に接種し、ウイルス感染後6日後にカイコの足を傷つけ、体液を回収した。
(2)この体液を低速遠心機(日立社製)により3,000rpm、4℃の条件で10分間遠心し、低速遠心上清を得た。さらにこの低速遠心上清を超遠心により1時間遠心し、超遠心上清を得た。
(3)直径2.5cmカラムに20mLのStrep−Tactin Superflow 50% suspension(IBA社製)を充填し、ゲルの5倍量のTBSbuffer(100mM Tris−HCl pH.8.0、150mM NaCl、1mM EDTA、20mM β−ME)にて平衡化を行った。
(4)ゲルにTBSbufferにて5倍希釈した組換えウイルス感染カイコ幼虫の体液の超遠心上清をロードした。これをゲルの10倍量のTBSbufferで洗浄し、Buffer−E(100mM Tris−HCl pH.8.0、150mM NaCl 1mM EDTA−NaOH pH.8.0、20mM β−ME、2.5mM desthiobiotin)にて溶出した。なお、流速は1 ml/minとした。
(5)Q Sepharose HP 5mlカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)をAKTA primeクロマトグラフィーシステム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)に取り付け、20mM Tris−HCl pH8.0で平衡化した。
(6)Strep−Tactinカラム溶出物30mlをDWで10倍に希釈したものをカラムにアプライし、25mlの20mM Tris−HCl pH8.0で洗浄した。流速は5ml/ml。
(7)流速を変えずに、0〜20分間でNaCl濃度0〜1Mのグラジェント溶出をおこない、5mlずつ溶出物を回収した。溶出を280nmの吸光度で検出し、最大ピークを含むフラクションを精製サンプルとした。
(8)精製サンプル1μlに対し、SDS−PAGE(パジェル10〜20%使用、アトー社製)を行い、ゲルをCBB染色した。スタンダードとしてMagicMark XP(インビトロジェン社製)を使用した。
(9)泳動の結果、予想分子量に相当する箇所にシングルバンドが確認され、精製がなされたことが分かった(図1)。
N型糖鎖を基質としたβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼの活性測定
(1)β−N−アセチルヘキソサミニダーゼは実施例4で精製した物、基質としてPA−Sugar Chain012(タカラバイオ社製)を用いた。
(2)以下の反応液を作製し、30℃で反応させた。
Figure 0005308055
(3)一定時間後(0、3、6、9、23時間後)、試料を50μl取り、98℃で3分加熱し、氷上で冷却した。12,000rpm 4℃ 5分の遠心をおこない、上清を解析用試料とした。
(4)解析は逆相HPLCでおこなった。カラムはCosmosil 5C18−AR2(4.6mmI.D.×250mm、nacalai tesque社製)を使用。溶媒A=DW、溶媒B=20% アセトニトリル、溶媒C=0.2% TFAを90:0:10でMixしたものを、流速1.2ml/minで流し、平衡化した。カラム温度は30℃。
(5)解析用試料を10μlインジェクションし、5〜40分でB 0〜20%、A 90〜70%のグラジェント溶出をおこない、溶出の様子を蛍光(Ex310nm、Em380nm)により検出した。
(6)実験の結果、時間の経過に従い、糖鎖のα1,3−Man側のN−アセチルグルコサミンのみが切断されていく様相が示された(図2)。
Chitotrioseを基質としたβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼの活性測定
(1)β−N−アセチルヘキソサミニダーゼは実施例4に従い精製し、実施例5で活性を確認した標品、基質としてChitotriose(生化学工業社製)を、Haseらの方法(Hase et al.,J.Biochem.(Tokyo),95,197−203(1984))によりPA化したものを用いた。さらにGlcNAc−PAは市販品(TaKaRa社製)を、Chitobiose−PAはChitobiose(生化学工業社製)をPyridylamination Kit(TaKaRa社製)でPA化したものを用いた。
(2)以下の反応液を作製し、30℃で反応をおこなった。
Figure 0005308055
(3)一定時間後(0、3、6、9、24時間後)、試料を50μl取り、98℃で3分加熱し、氷上で冷却した。12,000rpmで5分の遠心をおこない、上清を解析用試料とした。
(4)解析は順相HPLCでおこなった。カラムはTSKgel Amide−80(4.6mmI.D.×250mm、東ソー社製)を使用。溶媒A=アセトニトリル、溶媒B=DW、溶媒C=500mM 酢酸−トリエチルアミン(pH7.3)を80:10:10で混合したものを、流速1.0ml/minで流し、平衡化した。カラム温度は40℃とした。
(5)解析用試料と500mM 酢酸−トリエチルアミン(pH7.3)を9:1で混ぜたものを、10μlインジェクションし、5〜35分でB 10〜25%、A 80〜65%のグラジェント溶出をおこない、溶出の様子を蛍光(Ex310nm、Em380nm)により検出した。
(6)実験の結果、Chitotrioseに対するヘキソサミニダーゼ活性は確認できなかった(図3)。
図1は、精製したβ―N―アセチルヘキソサミニダーゼのSDS−PAGE像である。 図2は、N型糖鎖を基質としたβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼの活性測定結果を示したグラフである。 図3は、Chitotrioseを基質としたβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼの活性測定結果を示したグラフである。

Claims (8)

  1. カイコのβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAであって、以下(a)、(b)、及び(c)のいずれかに記載のDNA;
    (a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
    (b)配列番号:2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA、
    (c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1〜10のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
  2. 以下(a)、(b)、及び(c)のいずれかに記載のポリペプチド;
    (a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
    (b)配列番号:2に記載の塩基配列がコードするアミノ酸配列からなるポリペプチド、
    (c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1〜10のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、且つβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼ活性を有するポリペプチド。
  3. 請求項1記載のDNAを有する組換えベクター。
  4. 請求項3記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換細胞。
  5. 請求項3記載の組換えベクターにより形質転換された形質転換体。
  6. 請求項5記載の形質転換体の子孫またはクローンである、形質転換体。
  7. 形質転換体の製造方法であって、
    請求項3記載の組換えベクターを作製する工程と、
    前記組換えベクターを宿主細胞に導入する工程と
    を有する、形質転換体の製造方法。
  8. β−N−アセチルヘキソサミニダーゼの製造方法であって、
    請求項4記載の形質転換細胞を培養する工程と、
    前記細胞またはその培養上清からβ−N−アセチルヘキソサミニダーゼを精製する工程と
    を有する、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼの製造方法。
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