JP5307414B2 - 電子写真現像剤用の磁性キャリア芯材、電子写真現像剤用の磁性キャリア、および電子写真現像剤、の製造方法 - Google Patents

電子写真現像剤用の磁性キャリア芯材、電子写真現像剤用の磁性キャリア、および電子写真現像剤、の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、電子写真現像用の磁性キャリア芯材(以下、単に、「磁性キャリア芯材」と記載する場合がある。)およびその製造法、当該磁性キャリア芯材を用いた電子写真現像用の磁性キャリア(以下、単に、「磁性キャリア」と記載する場合がある。)、並びに電子写真現像剤に関する。
電子写真の乾式現像法は、電子写真現像剤である粉体のトナーを感光体上の静電潜像に付着させ、当該付着したトナーを所定の紙等の媒体へ転写して現像する方法である。この電子写真の乾式現像法は、電子写真現像剤として、トナーのみを含む1成分系現像剤を用いる方法と、トナーと磁性キャリアとを含む2成分系現像剤を用いる方法に大別される。近年では、トナーの荷電制御が容易で安定した高画質が得ることができ、かつ高速現像が可能な2成分系現像剤が電子写真現像剤の主流となっている。
当該2成分系現像剤において、一般に磁性キャリアとしては、鉄系複合酸化物(フェライト)が用いられる。そして、近年の環境負荷関連の規制(PRTR法・Rohs指令・カリフォルニア州法 等)に対応して、当該磁性キャリアに対してもCu,Zn,Mn,Co,Crなどの環境負荷物質を含有しないことが望まれてきている。
上記環境負荷物質を含有せず、比較的高磁力を有する素材として、純粋な鉄酸化物であるマグネタイト(Fe)が有力視されてきている。そして、マグネタイト相を主成分とする磁性キャリアは、磁化し易く現像スリーブ上での磁気的な拘束力が強くなるため、現像スリーブの磁石を小型化できる、磁性キャリアが像担持体上へ飛散し難いなど、磁力的に有利な面がある。しかし、マグネタイト相を主成分とする磁性キャリアは、磁束を取り去った際の残留磁化σrが高い傾向がある。
磁性キャリアの残留磁化が高い場合、当該磁性キャリアが現像スリーブ上で磁気ブラシの役割を終え、現像スリーブ上からの磁気拘束が解かれ、攪拌槽にて再びトナーと混合される際、残留磁化により磁性キャリア同士が磁気凝集してしまうこととなる。そして当該磁気凝集の結果、磁性キャリアの流動性が悪化したり、攪拌トルクが増大したりしてしまう。さらに、磁性キャリアの磁気凝集は、トナーが摩擦帯電するのを阻害するため、当該トナーの帯電不良を起こし電子写真画像へ悪影響をおよぼす。また、磁性キャリアの凝集物が電子写真現像装置の穂切り部分に詰まり、現像剤供給不良を引き起こすなどの問題点がある。
上記問題点の解決手段として、特許文献1は、マグネタイト相を主成分とする磁性キャリアにおいて、残留磁化を低くし、磁性キャリア間の磁気凝集を無くすることを提案している。
特開平7−319216号公報
ところが、本発明者らの検討によると、特許文献1に記載された方法では、磁性キャリアの残留磁化を再現性良く安定的に低減させるのは、困難であることが判明した。
本発明は、上述の状況下でなされたものであって、その第1の目的は、環境負荷関連の
規制に対応して、Cu,Zn,Mn,Co,Crなどを不可避不純物レベル以上に含有しないマグネタイト相を主成分とする磁性キャリアにおいて、その磁気凝集を減少させるべく残留磁化σrを低減させた磁性キャリア芯材、磁性キャリアを提供することにある。
本発明者らは、Fe−Oからなる2元系酸化鉄の磁性キャリアの磁力調整に関連して、鋭意研究を行った。その結果、当該2元系酸化鉄の磁性キャリアに用いられる磁性キャリア芯材中のウスタイト(FeO)相の存在比率が、磁性キャリア芯材の残留磁化に大きく影響しているという画期的な知見を得た。そして、当該知見を基に、マグネタイトを主成分とする磁性キャリア芯材中のウスタイト相の存在比率を一定レベル以下まで低減させることで、マグネタイトを主成分とする磁性キャリア芯材の残留磁化を再現性良く低減させる構成に想到した。さらに本発明者らは、ウスタイト相の存在比率を一定レベル以下まで低減させたマグネタイト相を主成分とする磁性キャリア芯材に樹脂を被覆して、磁性キャリアとして用いることで、現像複写機攪拌槽内での磁性キャリアの磁気凝集を低減出来ることを見出し本発明に至った。
一方、本発明者らは、残留磁化発生の起源であるウスタイト相の存在比率を合成時の条件調整によって制御する構成に想到した。併せて本発明者らは、従来の粉末X線回折やESCAやメスバウアー分光法では難しかった、マグネタイト相中のウスタイト相の存在比率を精度良く定量する方法を見出した。そして本発明者らは、マグネタイト相を主成分とする磁性キャリア芯材製造の際、ウスタイト相の存在比率を合成条件へとフィードバックする構成に想到した。当該ウスタイト相の存在比率を合成条件へとフィードバックする構成により、本発明に係る磁性キャリア芯材中のウスタイト(FeO)相の存在比率が4wt%以下に調整され、残留磁化σrが3emu/g以下に制御された環境対応型の電子写真現像用の磁性キャリアと、その製造方法とに想到した。
即ち、上述の課題を解決する第1の発明は、
酸化還元滴定により定量されるFe2+量と総Fe量とから計算されるFe平均価数に基づいて求めたFeOで表されるウスタイトの存在比率が4wt%以下であるFe組成を有する電子写真現像剤用の磁性キャリア芯材の製造方法であって、
Fe原料に還元剤と分散剤とを所定の配合比で配合してスラリー原料を製造する配合工程と、
上記スラリー原料を媒体液中で混合撹拌してスラリー化するスラリー化工程と、
上記スラリーから造粒粉を製造する造粒工程、上記造粒粉を酸素濃度が所定以下に調整された雰囲気下で焼成する焼成工程と、
この焼成工程で得た焼成物から、所定粒度を有する磁性粒子を製造する再造粒工程とを有し、
上記焼成工程において上記ウスタイトの存在比率が4wt%以下であるFe組成が得られるように、上記配合工程における還元剤と分散剤との配合量を多変量解析により定め、且つ、上記焼成工程での酸素濃度を調整することを特徴とする電子写真現像剤用の磁性キャリア芯材の製造方法である。
第2の発明は、
上記焼成工程での酸素濃度を1%以下に調整したとき、上記ウスタイトの存在比率が4wt%以下であるFe 組成が得られるように、上記配合工程での還元剤配合比を調整することを特徴とする第1の発明に記載の電子写真現像剤用の磁性キャリア芯材の製造方法である。
第3の発明は、
第1または第2の発明に記載の電子写真現像剤用の磁性キャリア芯材の製造方法にて製造された磁性キャリア芯材へ、樹脂を被覆することを特徴とする電子写真現像剤用の磁性キャリアの製造方法である
第4の発明は、
第3の発明に記載の電子写真現像剤用の磁性キャリアの製造方法にて製造された磁性キャリアと、トナーとを混合することを特徴とする電子写真現像剤の製造方法である
環境負荷が問題となる元素を原料からの不可避不純物程度しか含まず、磁気特性に優れたマグネタイト相を主成分とする磁性キャリアが提供される。
本発明に係る製造方法では、Fe原料に還元剤を所定の配合比で配合してスラリー原料を製造する配合工程、上記スラリー原料を媒体液中で混合撹拌してスラリー化するスラリー化工程、上記スラリーから造粒粉を製造する造粒工程、上記造粒粉を酸素濃度が所定以下に調整された雰囲気下で焼成する焼成工程、この焼成工程で得た焼成物から、所定粒度を有する磁性粒子を製造する再造粒工程を行う。さらに、本発明に係る製造方法では、上記各工程に加えて、上記焼成工程において所定の還元効果をもたらすように、上記配合工程での還元剤配合比と、上記焼成工程での酸素濃度とを制御する。
当該配合工程での還元剤配合比と、焼成工程での酸素濃度との制御について、さらに説明する。
当該操作は、Feを主原料とする造粒出発原料に、還元剤として後述するカーボンブラックや有機物質(以下、カーボンブラック等、と記載する場合がある。)を調整量添加し、後述する制御された還元反応により磁性キャリア芯材を構成するマグネタイト相の還元度合いの制御を行う操作である。これは、当該操作を行うことで磁性キャリア芯材において、マグネタイト相とウスタイト相、マグネタイト相とヘマタイト相の混合相状態を制御できること、その結果としての残留磁化を調整出来ることを本発明者らが知見したことに基づく。当該操作の結果、先行文献1を始めとする従来技術に係るNフロー雰囲気における焼結では実施困難な、制御された還元反応が実現出来たものである。
さらに、本発明者らは、磁性キャリア芯材のFe価数を精度良く検出する分析方法を見出した。そして、その分析したFe価数の値を合成条件へフィードバックさせることで、従来技術では不可能であった、酸化鉄粉の精密合成を行える様になったものである。
ここで、磁性キャリア芯材のFe価数の値の制御操作について説明する。
本発明者らは試行錯誤を重ね、造粒用スラリー工程にて原料酸化鉄に混在させるカーボンブラック等の配合と、その配合量制御とによって酸化鉄近傍の酸素雰囲気を調整し、望みの酸化鉄組成に調整した酸化鉄の磁性キャリアを得ることに想到した。そして、鉄酸化物における上記混合相状態を精密に調整した磁性キャリア芯材においては、その重要な特性である残留磁化σrがウスタイト相の存在比率と関連して変化することを知見したものである。この結果、本発明者らは、ウスタイト相の存在比率を調整することで残留磁化が少ない磁性キャリア芯材を提供することができた。
図1は本発明に係る電子写真現像用の磁性キャリア芯材および磁性キャリア並びに電子写真現像剤の製造プロセスフローの概要を示す。以下、図1を参照しながら具体的な内容を説明する。
〔磁性キャリア芯材の原料〕
本発明に係る磁性キャリア芯材の酸化鉄原料としては、Feおよびその酸化物であるヘマタイト (Fe)相やマグネタイト (Fe)相であればよいが、常温常圧下で安定に存在するヘマタイトが一般に用いられる。尤も、後述する焼成条件を調整することを鑑みれば、酸化鉄原料の形態は、最終生成物の特性に影響を与えない。
一方、酸化鉄原料に配合する還元剤としては、カーボンブラック等を用いる。当該カーボンブラック等としては、1次粒子径25nm程度のカーボンブラック、ポリカルボン酸等の有機物、ポリアクリル酸等の有機物、マレイン酸、酢酸、ポリビニルアルコール等の有機物が使用可能である。これらのカーボンブラック等は、単独でも還元剤としての使用が可能である。しかし、各物質毎に還元性の度合いが異なるので、求められる還元度合いに応じて、各物質を適宜配合して使用するのも好ましい構成である。
〔スラリー化〕
上記の原料を秤量した後、これらを媒体液中で混合撹拌することによってスラリー化する(スラリー化工程)。当該スラリー化前に、必要に応じて、原料混合物へ乾式で粉砕処理を加えてもよい。原料粉と媒体液の混合比は、スラリーの固形分濃度が50〜90質量%とすることが望ましい。媒体液は、水に分散剤等を添加したものを用意する。混合攪拌して得られたスラリーに対し、さらに湿式粉砕を施すことも好ましい。
〔造粒〕
造粒は、上記スラリーを噴霧乾燥機に導入することによって好適に実施できる。噴霧乾燥時の雰囲気温度は、100〜300℃程度とすればよい。これにより、概ね、粒子径が10〜200μmの造粒粉を得ることができる(造粒工程)。得られた造粒粉は製品最終粒径を考慮し、振動ふるい等を用いて、粗大粒子や微粉を除去することにより粒度調整することが望ましい。
〔焼成〕
次に、造粒粉を700〜1500℃程度に加熱した焼成炉に投入して、ソフトフェライトを合成するための一般的な手法で焼成することにより、フェライトを生成させる(焼成工程)。
当該焼成炉内の雰囲気の酸素濃度は、1%以下に調整している。これは、本焼成において、酸化鉄原料を還元するために充分な還元状態を得るためである。
ここで言う充分な還元状態とは、先の「磁性キャリア芯材の原料」で説明した酸化鉄原料に添加したカーボンブラック等の還元剤が十分にその還元効果を発揮する雰囲気のことである。
焼成炉内の酸素濃度が1%以下であれば、添加した還元剤と炉内の酸素との反応より、還元剤と酸化鉄原料との反応の方が優先されて進行する。この結果、焼成炉内の酸素濃度が1%以下であれば、酸化鉄原料の還元状態の制御が可能になるのだと考えられる。
上述したように、焼成炉内の酸素濃度が1%以下の状態のとき、出発原料であるFeの還元反応は、以下のように進むと考えられる。但し、カーボンブラックは、「C」で表記し、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、マレイン酸、酢酸、ポリビニルアルコール等有機物質は、簡略化して「有機物質」と表記して以下の反応式に示した。
Fe+ C = Fe + CO(g)
6nFe+ 有機物質 = 4nFe + nCO(g) + nHO(g)
9nFe+ 有機物質 = 6nFe + nCO(g) + nHO(g
焼成温度に関しては700℃以上あれば良い。焼成温度が700℃以上あれば、上述した還元剤の添加量調整によりFe還元に充分な還元状態となる還元雰囲気に到達できるからである。一方、焼成温度が1500℃以下であれば、粒子同士の過剰焼結を回避でき、粉体の形態で焼成物を得ることが出来る。十分な生産性を得ることの観点を含めれば、800〜1400℃程度で焼成することが好ましい。
得られた焼成物は、この段階で粒度調整することが望ましい。例えば、当該焼成物をハンマーミル等で粗解粒し、次に気流分級機で1次分級し、さらに、振動ふるいまたは超音波ふるいで粒度を揃える処理を行うことにより、粒度調整された焼成物を得ることができる。当該粒度調整後、さらに磁力選別機にかけ、非磁性粒子を除去することも望ましい。このようにして、本発明に係る磁性キャリア芯材を製造することが出来る。
〔ウスタイト相、ヘマタイト相の定量分析〕
ここで、製造された磁性キャリア芯材中には、マグネタイト組成からずれて析出するウスタイト相およびヘマタイト相が存在する。そこで、当該ウスタイト相およびヘマタイト相の存在比率は、後述する本発明に係る分析方法により算出する。本発明に係る分析方法によれば、粉末X線回折では検出できない程度のウスタイト相の存在比率およびヘマタイト相の存在比率を精度良く検出可能である。
〔ウスタイト相、ヘマタイト相の定量分析結果のフィードバック〕
磁性キャリア芯材中に検出されたウスタイト相の存在比率およびヘマタイト相の存在比率を、磁性キャリア芯材の原料作製や、焼成にフィードバックする構成について、具体的に説明する。
還元剤としてのカーボンブラックの添加量を[C]、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、マレイン酸、酢酸、ポリビニルアルコール等から適宜選択した有機物質を有機物質1、有機物質2、・・・としたとき、選択した有機物質の添加量を、 [有機1]、[有機2]、・
・・と表記する。
一方、予備実験等により、ウスタイト相の存在比率(以下、[FeO]と表記する。)と、上述した[C]、[有機1]、[有機2]との関係を、以下のような多変量解析の式にあてはめる。そして、各還元剤の、[FeO]への寄与率 α、β、γ、・・・を算出し、解析の
一般式である〈1〉式を得る。
〈1〉式:[FeO] =α[C] +β[有機1] +γ[有機2] +・+・+・
磁性キャリア芯材中に検出されたヘマタイト相の存在比率を[Fe]と表記し、ウスタイト相の場合と同様に考えて、以下の解析の一般式である〈2〉式を得る。
〈2〉式:[Fe] =α[C] +β[有機1] +γ[有機2] +・+・+・
ここで、種々の条件下でキャリア芯材試料の製造を行い、得られたキャリア芯材試料中の [FeO]、 [Fe] 存在比率を、後述する「ウスタイト相、ヘマタイト相の定
量分析」方法により、定量分析する。当該分析結果から、〈1〉式、〈2〉式の補正を行い、試験回数を増やしながら〈1〉式、〈2〉式の精度を向上させていく。そして、当該精度の向上により、狙いとする[FeO] 存在比率や、[Fe] 存在比率を有する磁性キャリアを得ることが出来る。
〔磁性キャリアおよび電子写真現像剤の製造〕
得られた磁性キャリア芯材に樹脂被覆を施すことで、本発明に係る磁性キャリアを製造
することが出来る。樹脂被覆の方式としては、乾式法、流動床、浸漬法等を用いることができる。尚、磁性キャリア内部に樹脂を充填する観点からは、浸漬法や乾式法がより好ましい。
ここでは浸漬法を例に挙げ説明する。被覆樹脂としては、シリコーン系樹脂やアクリル樹脂が好ましい。被覆樹脂を溶剤(トルエン等)に20〜40質量%程度溶解させ、樹脂溶液を調製する。被覆操作は、磁性キャリア芯材に対して、樹脂質量が固形分で0.7〜10Wt%の範囲となるように容器中で混合した後、150〜250℃にて加熱撹拌することにより実施できる。上記の樹脂溶液の濃度、および、樹脂溶液と磁性キャリア芯材との混合比によって、樹脂の被覆量をコントロールすることができる。当該樹脂被覆後、さらに加熱処理を施して樹脂被覆層を硬化させることによって、本発明に係る磁性キャリアが得られる。
本発明に係る磁性キャリアと、種々のトナーとを混合することで、本発明に係る電子写真現像剤を製造することが出来る。
〔磁性キャリア芯材中における、ウスタイト相、ヘマタイト相の定量分析〕
本発明に係る磁性キャリア芯材中におけるウスタイト相、ヘマタイト相の定量分析について、図2を参照しながら説明する。図2は、本発明に係るマグネタイト相中のウスタイト相、ヘマタイト相存在比率の定量分析方法、および算出方法の概要を示すフローである。
当該定量分析方法は酸化還元滴定の応用であり、[1]Fe2+の定量、[2]総Fe量の定量、[3]Fe平均価数の算出、[4]ウスタイト相存在比率の算出、[5]ヘマタイト相存在比率の算出、の操作を有する。
以下に、各操作を具体的に説明する。
[1]Fe2+の定量:
分析試料である本発明に係る磁性キャリア芯材を、還元性の酸である塩酸(HCl)溶液に溶解させる。すると、分析試料中のFeは、その分析試料中でのFe価数を保存したまま溶解する。ここで、溶解液中のFe2+の空気酸化を抑制するために、当該溶液中へCOやNをバブリングする。
この時点で、溶解液中にはFe2+とFe3+とが混在して溶解している。ここでFe2+の空気酸化はその後酸化還元滴定するのに比較して、十分な程度遅い。従って、このFe2+を過マンガン酸カリウム溶液での電位差滴定により〈1〉滴定量を求め、定量分析することが出来る。
反応式:5Fe2++ 8H + MnO → 5Fe3+ + Mn + 4H
また、この過マンガン酸カリウム溶液での電位差滴定定量による分析の際 Al,Si,Mg,Ca,Ba,Sr,Li,Na,他etcのように、イオン価数を1つしか有しない元素は、この定量分析法では検出されないので、Fe2+だけが選択的に定量される。
[2]総Fe量の定量:
分析試料である本発明に係る磁性キャリア芯材を、「[1]Fe2+定量」で秤量した量と同量秤取り、塩酸と硝酸との混酸に溶解させる。すると、分析試料中のFeは、溶液中へイオン化して溶解し試料溶液となる。当該試料溶液を蒸発乾固させて、過剰な塩酸と硝酸とを揮発させた後、当該乾固物へ硫酸を添加して再溶解する。再溶解溶液中のFeイオンは、Fe2+とFe3+の不定比の混合状態である。そこで、当該再溶解溶液中へ固体Alを添加して、液中のFe3+をFe2+に還元する。
反応式:3Fe3++ Al → 3Fe2+ + Al3+
続いてこの溶液中のFe2+を、「[1]Fe2+の定量」で説明した方法を用いて、〈2〉滴定量を求め、定量分析することができる。
反応式:5Fe2++ 8H + MnO → 5Fe3+ + Mn2++ 4H
[3]Fe平均価数の算出:
以上説明したように、〈1〉滴定量はFe2+量を表し、(〈2〉滴定量−〈1〉滴定量)はFe3+量を表すので、以下の計算式により本発明に係る磁性キャリア芯材中のFeの平均価数を算出する。
〈3〉式:Fe平均価数={2×〈1〉滴定量+3×(〈2〉滴定量−〈1〉滴定量)}/〈2〉滴定量
上記方法以外にも、磁性キャリア芯材中のFe価数を定量する方法として、他の酸化還元滴定も考えられる。しかし、本発明に係る分析方法は反応が単純であり、得られた結果の解釈が容易なこと、一般に用いられる試薬および分析装置で十分な精度が出ること、分析者の熟練を要しないこと、等の観点から優れている。
また、固体スペクトル分析法のXPS(ESCA)やメスバウアー分光法でも固体中のFe価数を定量した事例が報告されている。しかし、これら機器分析方法は高価な分析機器を必要とし、分析の領域が極微少領域に限られる上、分光スペクトルとの相対分析である。これに対し、絶対分析である本発明に係る湿式化学分析法は、分析精度・感度・再現性、および、得られた結果に対する解釈の一意性の面で優れている。
[4]ウスタイト相存在比率の算出:
マグネタイトはFeで表記され、酸素はO2−に完全にイオン化しているとすると、マグネタイト相におけるFeの理論的価数は+2.667と計算される。
従って、[3]で説明した平均価数分析より得られた、本発明に係る磁性キャリア芯材のFe価数が上記+2.667より小さい場合には、Fe価数+2.000であるウスタイト(FeO)相が混在していると解釈される。ここでウスタイト相はFe1−δOで示される酸素不定比組成を有することが知られている。しかし、当該δ値は本計算では関与が小さいので考慮せず、計算簡略化のためウスタイト相はFeOとして計算した。
ここで、本発明に係る磁性キャリア芯材中のウスタイト相mol比をXとする。
〈4〉式:X=(2.667−[3]Fe平均価数)÷(2.667−2.000)
〈5〉式:ウスタイト相存在比率(wt%)=(71.85×X)÷(231.55 − 159.7×X)×100
〈5〉式より、本発明に係る磁性キャリア芯材中の、ウスタイト相存在比率(wt%)が算定される。
[5]ヘマタイト相存在比率の算出:
[3]で説明した、平均価数分析より得られた本発明に係る磁性キャリア芯材のFe価数が、上記+2.667より小さい場合には、Fe価数+3.000であるFeが混在していると解釈される。
ここで、本発明に係る磁性キャリア芯材中のヘマタイト相mol比をYとする。
〈6〉式:Y=([3]Fe平均価数−2.667)÷(3.000−2.667)
〈7〉式:ヘマタイト相存在比率(wt%)=(159.7×Y)÷(231.55−71.85×Y)×100
〈7〉式より、本発明に係る磁性キャリア芯材中の、ヘマタイト相存在比率(wt%)が算定される。
〔磁気特性の評価〕
本発明に係る磁性キャリア芯材の磁気特性は、VSM(東英工業株式会社製、VSM−P7)を用いて行った。具体的には、外部磁場0〜10000(Oe)の範囲で1サイクル連続的に磁場を印加して、σ1000(emu/g)、σs(emu/g)、残留磁化σr(emu/g)を測定した。また、飽和磁化σsは印加磁場10000Oeの時の磁化で表現した。
以下、実施例を用いて、本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
Fe10kgを純水3kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤60gを添加して混合物とした。スラリー中に還元剤であるカーボンブラック(三菱化学社製 三菱カーボンブラックMA7)を重量比1.20〜1.46wt%の範囲で添加した。
得られたスラリーを湿式ボールミルにて湿式粉砕し、しばらく攪拌した後、スプレードライヤーにて熱風中に噴霧し、粒径10〜200μmの乾燥造粒物を得た。
この造粒物から網目60μmと25μmの篩網を用いて粗粒、微粒を分離した後の造粒物を、1000℃、窒素雰囲気下(ジルコニア式酸素センサーによる酸素濃度測定値:450ppm)で5hr焼成した。この焼成物をハンマーミルで解粒し、風力分級機を用いて微粉を除去し、網目45μmの振動ふるいで粒度調整し、平均粒径35μmの実施例1に係る試料1〜31の31種の磁性キャリア芯材を得た。
次に、当該31種の磁性キャリア芯材に対しFe価数分析を行い、マグネタイト相中に存在するウスタイト相存在比率、ヘマタイト相存在比率を算出した。さらに、これら当該31種の磁性キャリア芯材に対し、上述した方法により磁気測定を行った。
実施例1に係る試料について、カーボンブラック添加量と、マグネタイト相中に存在するウスタイト相存在比率と、残留磁化σrとの関係を表1示す。
ここで表1のデータから、マグネタイト相に混在するウスタイト相存在比率と、残留磁化との関係を見るため、図3を作成した。図3は、横軸にウスタイト相存在比率をとり、縦軸に残留磁化をとったグラフであり、実施例1に係る試料のデータを◆でプロットしたものである。
図3より、マグネタイト相に混在するウスタイト相存在比率と残留磁化との間には、ウスタイト相存在比率が増加すると残留磁化が増加する関係があることが解る。すなわち、残留磁化の大小は、マグネタイト相と混在するウスタイト相の存在比率に依存し、ウスタイト相が析出する還元側では、酸化還元調整で残留磁化を制御することは可能であることが判明した。
次に、表1のデータから、カーボンブラック添加量と、マグネタイト相に混在するウスタイト相存在比率との関係を見るため、図4を作成した。図4は、横軸にカーボンブラック添加量をとり、縦軸にウスタイト相存在比率をとったグラフであり、実施例1に係る試料のデータを◆でプロットし実線で結んだものである。
図4より、カーボンブラック添加量と、マグネタイト相に混在するウスタイト相存在比率との間には、カーボンブラック添加量が増加するとウスタイト相存在比率が増加する関係があることが解る。すなわち、ウスタイト相存在比率の大小は、カーボンブラック添加量に依存し、カーボンブラック添加量調整でウスタイト相存在比率を制御することは可能であることが判明した。
以上より、マグネタイト相を主相とするキャリア芯材においてその残留磁化σrは、混
在するウスタイト相存在比率に依存し、ウスタイト相存在比率は、カーボンブラック添加量に依存することが判明した。一般にキャリア芯材において、残留磁化σrは3emu/g以下が望まれる。従って、キャリア芯材において、ウスタイト相存在比率は4wt%以下に調整されたものが好ましいことが判明した。そして、当該ウスタイト相存在比率を得るためには、焼結時のカーボンブラック添加量を制御すれば良いことも判明した。
Figure 0005307414
(実施例2)
分散剤として、アクリル系分散剤を60g添加した以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る磁性キャリア芯材を作製した。
尚、実施例2においては、スラリー中に還元剤であるカーボンブラックを重量比1.31〜1.42wt%の範囲で添加し、試料1〜8の8種の磁性キャリア芯材を得た。
次に、当該8種の磁性キャリア芯材に対しFe価数分析を行い、マグネタイト相中に存在するウスタイト相存在比率、ヘマタイト相存在比率を算出した。さらに、これら当該8種の磁性キャリア芯材に対し、実施例1と同様に磁気測定を行った。
実施例2に係る試料について、カーボンブラック添加量と、マグネタイト相中に存在するウスタイト相存在比率と、残留磁化σrとの関係を表2示す。
ここで表2のデータから、マグネタイト相に混在するウスタイト相存在比率と、残留磁化との関係を見るため、図3へ実施例2に係る試料のデータを●でプロットした。
図3より、マグネタイト相に混在するウスタイト相存在比率と残留磁化との間には、ウスタイト相存在比率が増加すると残留磁化が増加する関係があることが解る。すなわち、残留磁化の大小は、マグネタイト相と混在するウスタイト相の存在比率に依存し、ウスタイト相が析出する還元側では、酸化還元調整で残留磁化を制御することは可能であることが判明した。
次に、表2のデータから、カーボンブラック添加量と、マグネタイト相に混在するウスタイト相存在比率との関係を見るため、図4へ実施例2に係る試料のデータを●でプロットし破線で結んだ。
図4より、カーボンブラック添加量と、マグネタイト相に混在するウスタイト相存在比率との間には、カーボンブラック添加量が増加するとウスタイト相存在比率が増加する関係があることが解る。すなわち、ウスタイト相存在比率の大小は、カーボンブラック添加量に依存し、カーボンブラック添加量調整でウスタイト相存在比率を制御することは可能であることが判明した。
図4において、実施例1、2に係るプロットの傾きと、X切片とを比較した。すると、実施例1、2ともに、プロットの傾きはほぼ同じ値であることが判明した。この結果から、カーボンブラックの還元効果は、実施例1、2において同じであると考えられる。一方、実施例1、2に係るプロットにおいて、X切片の値には差があることが判明した。この結果から、実施例1、2に係る分散剤種の違いにより、還元効果に差があることが理解される。
結局、実施例1、2において説明した解析を逐次行うことで、ウスタイト相の生成量を精度良く制御できるようになる。
Figure 0005307414
(検討例1)
マグネタイト相と混在するヘマタイト相の存在比率が、残留磁化の大小に与える影響について検討するため、マグネタイト相とヘマタイト相とが混在する試料を調製してヘマタイト相存在比率と残留磁化σrとの関係を検討した。
まず、スラリー中に還元剤であるカーボンブラック(三菱化学社製 三菱カーボンブラックMA7)を重量比0〜1.31wt%の範囲で添加した以外は、実施例1と同様の操作を行って、表1に示す平均粒径35μmの検討例1に係る試料1〜16の16種の磁性キャリア芯材を得た。
これらの検討例1に係る磁性キャリア芯材に対し、実施例1と同様にFe価数分析を行い、マグネタイト相中に存在するヘマタイト相存在比率を算出し、さらに磁気測定を行った。
ヘマタイト相存在比率と残留磁化σrとの関係を表3および図5に示す。
図5より、マグネタイト相に混在するマグネタイト相存在比率と残留磁化との間には、相関関係が無いことが判明した。つまり、残留磁化の大小は、マグネタイト相と混在するヘマタイト相の存在比率に依存しないことが判明した。従って、ヘマタイト相が析出する焼成状態では、原料酸化鉄の酸化還元の程度の制御を行っても、残留磁化を制御することは出来ないことが判明した。
Figure 0005307414
環境負荷が問題となる元素を原料からの不可避不純物程度しか含まずに、その使用目的に応じて調整したマグネタイト相を主成分としたキャリア芯材が提供される。
トナーの荷電制御が容易で安定した高画質が得ることができ、かつ高速現像を可能にする電子写真現像剤用キャリア電子写真現像剤が提供される。
本発明に係る電子写真現像用の磁性キャリア芯材および磁性キャリア並びに電子写真現像剤の製造プロセスの概要を示す。 ウスタイト相、ヘマタイト相存在比率の定量分析方法、および算出方法を示すフローチャートである。 実施例1、2におけるウスタイト相存在比率と残留磁化σrとの関係を示すグラフである。 実施例1、2におけるカーボンブラック添加量とウスタイト相存在比率との関係を示すグラフである。 検討例1におけるヘマタイト相存在比率と残留磁化σrとの関係を示すグラフである。

Claims (4)

  1. 酸化還元滴定により定量されるFe2+量と総Fe量とから計算されるFe平均価数に基づいて求めたFeOで表されるウスタイトの存在比率が4wt%以下であるFe組成を有する電子写真現像剤用の磁性キャリア芯材の製造方法であって、
    Fe原料に還元剤と分散剤とを所定の配合比で配合してスラリー原料を製造する配合工程と、
    上記スラリー原料を媒体液中で混合撹拌してスラリー化するスラリー化工程と、
    上記スラリーから造粒粉を製造する造粒工程、上記造粒粉を酸素濃度が所定以下に調整された雰囲気下で焼成する焼成工程と、
    この焼成工程で得た焼成物から、所定粒度を有する磁性粒子を製造する再造粒工程とを有し、
    上記焼成工程において上記ウスタイトの存在比率が4wt%以下であるFe組成が得られるように、上記配合工程における還元剤と分散剤との配合量を多変量解析により定め、且つ、上記焼成工程での酸素濃度を調整することを特徴とする電子写真現像剤用の磁性キャリア芯材
    の製造方法。
  2. 上記焼成工程での酸素濃度を1%以下に調整したとき、上記ウスタイトの存在比率が4wt%以下であるFe 組成が得られるように、上記配合工程での還元剤配合比を調整することを特徴とする請求項1に記載の電子写真現像剤用の磁性キャリア芯材の製造方法。
  3. 請求項1または2に記載の電子写真現像剤用の磁性キャリア芯材の製造方法にて製造された磁性キャリア芯材へ、樹脂を被覆することを特徴とする電子写真現像剤用の磁性キャリアの製造方法
  4. 請求項3に記載の電子写真現像剤用の磁性キャリアの製造方法にて製造された磁性キャリアと、トナーとを混合することを特徴とする電子写真現像剤の製造方法
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