本発明は、円筒状の内壁部を備えた本体ケーシングと、前記本体ケーシングの両側に配置されたケーシングカバーに前記本体ケーシングから偏心した軸心周りに回転可能に軸支され、軸心周りに放射状に延びた複数枚の羽根を備えた羽根車が収容された液封式真空ポンプに関する。
上述した液封式真空ポンプは、本体ケーシングがポートプレートによって羽根車が収容されるロータ室と吐出し部に仕切られ、羽根車の回転によりロータ室内の封液に遠心力を付与して、隣接する羽根と封液の液面とで羽根車の回転に伴なって拡大、縮小する複数の区分空間をロータ室内に形成し、ポートプレートに形成された吸込ポートに連通する吸込部から拡大した区分空間に対象ガスを吸い込むとともに、ポートプレートに形成された吐出ポートに連通する吐出部を介して縮小した区分空間から対象ガスを吐き出すように構成されている。
羽根車は、軸心周りに放射状に延出形成された複数枚の羽根を備え、封液が羽根により吸込側で径方向に投げ出されて加速されるとともに、吐出側で減速され、封液の速度エネルギーが対象ガスの圧縮に有効に消費されるように構成されている。
特許文献1または2に開示されているように、各羽根は、封液の加速性能に優れ、また、吐出側で減速された羽根の先端流を羽根に収容する際の損失が少ないように、羽根車の回転方向に向かって基部から湾曲形成され、或は、基部から直線状に延出形成され先端側で回転方向に向かって湾曲形成されており、湾曲部で羽根の肉厚が略一定になるように圧力面及び反圧力面の曲率が設定されていた。
実用新案登録第2594386号公報
特許第3351680号公報
しかし、上述した液封式真空ポンプは、羽根車を回転させて、遠心力で本体ケーシング内壁面に水を押し付けて水環を形成するため、真空を作り出す動力だけでなく水を掻き回す動力も必要となるので効率が低下するという問題があった。
また、羽根車の先端側軌跡と本体ケーシングの内壁部との間隙にある水を掻き回すため、間隙が狭い場合には羽根の先端と本体ケーシングの間の隙間が小さくなり、この部分を流れる水の抵抗が増大してそれだけ効率が低下するという問題もあった。一方間隙を広くしすぎると、水環への羽根の没水深さが浅くなり水環形成に支障を生じるという問題もあった。尚、従来、羽根車の先端側軌跡と本体ケーシングの内壁部との最小間隙は、ポンプの駆動中の振動によって羽根車の先端が本体ケーシングに接触しないような十分な距離、具体的には、羽根車の先端と本体ケーシングの内壁部との最小間隙が羽根車の径の0.5〜1.5%の範囲の距離に設定されていた。
本発明は上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、羽根車の形状を工夫して、軸動力を低減可能な効率の良い液封式真空ポンプを提供することを目的とする。
上述の目的を達成するため、本発明による液封式真空ポンプの第一の特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、円筒状の内壁部を備えた本体ケーシングと、前記本体ケーシングの両側に配置されたケーシングカバーに前記本体ケーシングから偏心した軸心周りに回転可能に軸支され、軸心周りに放射状に延び且つ少なくとも先端側が回転方向へ傾いた形状に形成された複数の羽根を備えた羽根車が収容された液封式真空ポンプであって、前記羽根の先端側で圧力面と反圧力面との肉厚が等しい所定の基準形状に対して、圧力面が前記基準形状の圧力面より反圧力面側に位置するように設定されるとともに、先端側ほど薄肉に形成され、前記羽根車の先端と前記本体ケーシングの内壁部との最小間隙が前記羽根車の径の1.6〜3.0%の範囲となるように前記羽根車が配置されている点にある。
羽根の先端側の圧力面が、反圧力面との肉厚が等しくなる面より反圧力面側に設定され、先端側ほど薄肉に形成することにより、隣接する羽根の先端部での開口面積が大きくなり、区分空間が縮小される圧縮領域で羽根の回転に伴なって先端部から基端側へ封水が円滑に取り込まれるようになるとともに、区分空間が拡大される膨張領域で羽根の回転に伴なって掻き回される水の乱れが抑制される結果、羽根車の軸動力が低減されるとともに水面の滑らかな水環が形成されるようになる。さらに、羽根の先端側ほど薄肉に形成されるために羽根重量の軽減に伴なって軸動力の低減効果も大きくなるのである。
本体ケーシングから偏心した軸心周りに回転する羽根車と本体ケーシングの内壁部との最小間隙を、羽根車の径の1.6〜3.0%の範囲に設定することにより、水環形成に影響を与えることなく最小間隙を含む前後の隙間領域の水量を増やすことができ、これにより区分空間が拡大される膨張領域での径方向の流速の乱れの軽減が図られることが確認された。尚、このような構成を採用すると、羽根車の軸動力が減少しポンプ効率を向上させることができるようになった。
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、円筒状の内壁部を備えた本体ケーシングと、前記本体ケーシングの両側に配置されたケーシングカバーに前記本体ケーシングから偏心した軸心周りに回転可能に軸支され、軸心周りに放射状に延び且つ少なくとも先端側が回転方向へ傾いた形状に形成された複数の羽根を備えた羽根車が収容された液封式真空ポンプであって、前記羽根の先端側で圧力面と反圧力面との肉厚が等しい所定の基準形状に対して、圧力面が前記基準形状の圧力面より反圧力面側に位置するように設定されるとともに、先端側ほど薄肉に形成され、さらに、前記羽根の先端側が所定の曲率で回転方向へ湾曲形成され、前記羽根車の外径に対して、反圧力面の曲率半径が15%〜25%の範囲に設定され、前記曲率半径に対して圧力面の曲率半径が80%〜97%の範囲に設定されている点にある。
羽根の先端側の圧力面が、反圧力面との肉厚が等しくなる面より反圧力面側に設定され、先端側ほど薄肉に形成することにより、隣接する羽根の先端部での開口面積が大きくなり、区分空間が縮小される圧縮領域で羽根の回転に伴なって先端部から基端側へ封水が円滑に取り込まれるようになるとともに、区分空間が拡大される膨張領域で羽根の回転に伴なって掻き回される水の乱れが抑制される結果、羽根車の軸動力が低減されるとともに水面の滑らかな水環が形成されるようになる。さらに、羽根の先端側ほど薄肉に形成されるために羽根重量の軽減に伴なって軸動力の低減効果も大きくなるのである。
本発明による液封式真空ポンプの性能調整方法の第一の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二特徴構成を備えた液封式真空ポンプの性能調整方法であって、前記羽根の先端側の所定範囲の圧力面を削ることにより、前記羽根車の先端側を薄肉化して性能を調整する点にある。
上述の構成によれば、液封式真空ポンプの羽根車の羽根の先端側の圧力面を削り量を調整することで、液封式真空ポンプの性能を調整できるようになった。
同第二の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第一または第二特徴構成を備えた液封式真空ポンプの性能調整方法であって、前記羽根車の外径の先端を削ることにより、前記羽根車の外径の先端と前記本体ケーシングの内壁部との最小間隙を広げて性能を調整する点にある。
上述の構成によれば、液封式真空ポンプの羽根車の先端を削ることにより、前記羽根車の先端と前記本体ケーシングの内壁部との最小間隙を広げて、液封式真空ポンプの性能を調整できるようになった。
以上説明した通り、本発明によれば、羽根車の形状を工夫して、軸動力を低減可能な効率の良い液封式真空ポンプを提供することができるようになった。
以下に、本発明による液封式真空ポンプを図面に基づいて説明する。
図1(a),(b)に示すように、液封式真空ポンプ1は、複数の脚部2により支持された円筒状の内壁部3aを備えた本体ケーシング3と、本体ケーシング3の両側の開口を閉塞するケーシングカバー4(4a,4b)と、本体ケーシング3に収容された羽根車6等を備えて構成されている。
羽根車6は、主軸5にキー止めされた胴部6aと胴部6aから径方向に放射状に延び且つ少なくとも先端側が所定の曲率で回転方向へ湾曲形成された20枚の羽根6bを備え、主軸5の軸心Pが本体ケーシング3の軸心P´に対して下方に偏心するように、ケーシングカバー4(4a,4b)に備えた軸受け7(7a,7b)に支持され、主軸5の一端側がモータの駆動軸に連結可能にケーシングカバー4から突出している。
さらに、主軸5に沿った中央部に羽根車6の全周にわたって径方向に延出した中央壁6cが形成され、本体ケーシング3の内壁部には中央壁6cと所定の空隙を介して中間壁3bが同一平面内に形成されている。
ケーシングカバー4の内壁部には貫通孔8が形成され、主軸スリーブ9を介して主軸5が貫通孔8に挿通され、貫通孔8と主軸スリーブ9の間にシール材10が配置されている。
本体ケーシング3の端部とケーシングカバー4(4a,4b)との間には夫々円環状のポートプレート15(15a,15b)が介装され、当該ポートプレート15(15a,15b)によって羽根車6が収容されるロータ室が仕切られ、当該ロータ室は中央壁6cと中間壁3bにより左右に仕切られている。
図1(a),(b)及び図2(a),(b)に示すように、ケーシングカバー4(4a,4b)には対象ガスを吸引する吸引管16と、ロータ室で圧縮されたガスを排気する排気管17と、封水を供給する給水管11が接続され、ポートプレート15(15a,15b)には吸入ポート20と、吐出ポート21,22と、給水ポート23が形成されている。
吸入ポート20は羽根車6の回転方向に沿って次第に開口面積が大きくなるように、また、吐出ポート21は羽根車6の回転方向に沿って次第に開口面積が小さくなるように形成され、吐出ポート22は夫々にボールチェッキ機構等による逆止弁を備えた複数の小径の開口群が形成されている。
吸引管16から吸引された対象ガスが吸入ポート20からロータ室に導かれ、ロータ室で圧縮されたガスが吐出ポート21,22から排気管17に排気されるように、ケーシングカバー4(4a,4b)とポートプレート15(15a,15b)との間に形成される空間が仕切り壁により吸込み側と吐出し側に仕切られ、さらに、給水管11からの水が給水ポート23を介してロータ室に供給されるように構成されている。
給水ポート23を通してロータ室に封水を注水しながら主軸5を回転駆動して羽根車6をケーシング3内で回転させると、羽根6bによりロータ室の封水に遠心力が付与されて、封水がロータ室内に環状に滞留し、図2(c)に示すように、ロータ室内には封水Lの環状の水面LFに囲まれた環状空間Sが形成される。
この環状空間Sは羽根車6の隣接する羽根によって区画された複数の区分空間S1〜S20に仕切られ、羽根車6の回転に伴なって移動する区分空間S1〜S20は上死点Uから下死点Dに向かうときに縮小し、下死点Dから上死点Uに向かうときに拡大する。
従って、区分空間S1〜S20の拡大時に吸引管16から吸引された対象ガスが吸入ポート20から吸気され、縮小時に圧縮されたガスが吐出ポート21,22から排気管17に排気される。
吸引管16及び排気管17は、夫々の中心位置が羽根車6の軸心Pと略等しい高さとなるようにケーシングカバー4(4a,4b)に接続され、ケーシングカバー4(4a,4b)とポートプレート15(15a,15b)との間に形成される吐出し側の空間から水を排水するドレン口18,18がケーシングカバー4(4a,4b)に形成され、吐出ポート21からガスとともに吐き出された水が速やかにドレン口18,18から排水されるように構成されている。このように、排気管17の開口を吐出ポート21に近づけることにより、吐出ポート21から吐き出されるガスが水と複雑に混合することなく、速やかに排気管17に排気されるようになり、軸動力の軽減に寄与するようになる。
尚、本体ケーシング3の中央下部には、メンテナンスのために封水を外部に排水するためのドレン口12を備えている。
図3(a)に示すように、羽根車6の各羽根6bは、吸込側で封液の加速性能に優れ、また、吐出側で減速された羽根の先端流を羽根に収容する際の損失が少ないように、先端側で回転方向に向かって湾曲形成され、先端側の圧力面の曲率が、反圧力面との肉厚が等しくなる曲率よりも小さく設定され、先端側ほど薄肉に形成されている。
つまり、図3(b)に示すように、羽根6bは、軸心Pから羽根先端までの距離の約70%となる距離Raの位置から羽根先端までの距離Rbの領域で湾曲形成され、圧力面の曲率1/Rβ(Rβ=曲率半径)が、反圧力面との肉厚が等しくなる曲率よりも小さく設定され、先端側ほど薄肉に形成されている。
このように羽根6bを形成することにより、羽根の肉厚が一定になるように形成された場合と比較して、隣接する羽根6bの先端部での間隔がW´からWに広がり開口面積が大きくなるため、区分空間Sが縮小される圧縮領域で羽根6bの回転に伴なって先端部から基端側へ封水が円滑に取り込まれるようになるとともに、区分空間Sが拡大される膨張領域で羽根6bの回転に伴なって掻き回される水の乱れが抑制される結果、羽根車6の軸動力が低減されるとともに水面の滑らかな水環が形成されるようになる。さらに、羽根6bの先端側ほど薄肉に形成されるために羽根重量の軽減に伴なって軸動力の低減効果も大きくなるのである。
このような効果を得るためには、羽根車の外径Lに対して反圧力面の曲率半径Rαが15%から25%の範囲に設定され、当該曲率半径Rαに対して圧力面の曲率半径Rβが80%から97%の範囲に設定されることが好ましい。さらには前記曲率半径Rαが20%から23%の範囲に設定され、当該曲率半径Rαに対して圧力面の曲率半径Rβが85%から95%の範囲に設定されることがより好ましい。
例えば、吸引管16の内径200mm、本体ケーシング3の内径648mm、羽根車6の外径550mmの真空ポンプであれば、軸心Pから190mmの位置から先端側を圧力面が112mmの曲率半径、反圧力面が122mmの曲率半径として約10mmの一定の肉厚を保った状態で湾曲形成した標準形状の羽根に対して、先端側の肉厚が薄くなるように曲率半径を112mmより大きな115.6mmにすると、最大軸動力を93%に軽減できるようになる。このときの羽根先端の肉厚は約4mmである。
さらに、図2(c)に示すように、羽根車6の先端と本体ケーシング3の内壁部との最小間隙σが羽根車の径の1.6〜3.0%の範囲となるように、主軸5の軸心Pが本体ケーシング3の軸心P´より鉛直下方に位置するように配置されている。
このように羽根車6を配置することにより、最小間隙を含む前後の隙間領域の水量を増やすことができ、これにより区分空間Sが拡大される膨張領域での径方向の流速の乱れの軽減が図られる。このような構成を採用すると、水環の形成に影響を及ぼすことなく羽根車6の軸動力が減少しポンプ効率を向上させることができるようになる。
例えば、吸引管及び排気管の口径で規定される複数の容量の液封式真空ポンプに対して、現状、羽根車の先端と本体ケーシングの内壁部との最小間隙が羽根車の径の0.5〜1.5%の範囲(図ではσ/D2で示される)に設定されているものに対して、1.6〜3.0%の範囲に設定することにより、いずれも、ポンプ効率の向上が図られるようになった。尚、従来は、吸引管及び排気管の口径が50mmから175mmといった小型の液封式真空ポンプでは、前記最小間隙は1.0〜1.5%程度に設定され、吸引管及び排気管の口径が200mm以上の中型・大型の液封式真空ポンプであれば、前記最小間隙は0.5〜1.0%程度に設定されていた。
このような液封式真空ポンプの羽根車は中型・大型のものではFCD450のようなダクタイル鋳鉄、小型のものではCAC402のような青銅鋳物で鋳造される。
以下、別実施形態を説明する。
上述の実施形態では、羽根6bは、軸心Pから羽根先端までの距離の約70%となる距離Raの位置から羽根先端までの距離Rbの領域で湾曲形成され、圧力面の曲率1/Rβ(Rβ=曲率半径)が、反圧力面との肉厚が等しくなる曲率よりも小さく設定され、先端側ほど薄肉に形成されている場合について説明したが、図4に示すように、羽根の圧力面及び反圧力面は、必ずしも一定の曲率を持った曲面でなくてもよい。
上述の実施形態では、羽根車6の羽根6bの枚数が20枚のものを説明したが、羽根の枚数はこれに限られず、吸引管及び排気管の径で規定されるポンプの容量、本体ケーシングの内径と羽根車の外径等に基づいて適宜設定される枚数であっても、本発明の構成を採用することができる。
上述の実施形態では、主軸5の軸心Pが本体ケーシング3の軸心P´に対して下方に偏心するように、ケーシングカバー4(4a,4b)に支持される構成を説明したが、主軸5の軸心Pが本体ケーシング3の軸心P´に対して上方に偏心するように、ケーシングカバー4(4a,4b)に支持される構成であっても本発明が適用可能である。一般に吸引管及び排気管の径が200mm以上の中型・大型の液封式真空ポンプでは前者が採用され、吸引管及び排気管の径が200mm未満の小型の液封式真空ポンプでは後者が採用される。
上述の実施形態では、吸引管16及び排気管17が、夫々の中心位置が羽根車6の軸心Pと略等しい高さとなるようにケーシングカバー4(4a,4b)に接続されたものを説明したが、吸引管16及び排気管17のケーシングカバー4(4a,4b)への接続位置はこれに制限されるものではなく、夫々の中心位置が羽根車6の軸心Pより高い位置で接続されるものであっても本発明が適用可能である。
上述の実施形態では、ケーシングカバー4に吸気口16及び、排気口17を備える構成について説明したが、図5(a),(b)に示すように、液封式真空ポンプ100は、同一の主軸50に対し羽根車31(31a,31b)を軸支し、羽根車31(31a,31b)の対向位置にポートプレート32(32a,32b)を備え、ケーシングカバー40(40a,40b)ではなく、ケーシング30の前記ポートプレート33,34の対向面間に吸気口35及び排気口36を備える構成のものであっても、本発明が適用可能であることはいうまでもない。
上述の実施形態では、羽根6bが、軸心Pから羽根先端までの距離の約70%となる距離Raの位置から羽根先端までの距離Rbの領域で湾曲形成され、距離Raの領域では直線状に形成されているものを説明したが、本発明が適用される羽根は、基部から先端側に向けて全領域で湾曲形成されるものであってもよい。
上述した実施形態では、逆止弁22としてボールチェッキ構造を採用するものを説明したが、スイング逆止弁、リフト逆止弁等の他の構造の逆止弁を採用することも可能である。
上述した各種の実施形態は、本発明の一実施例であり、本発明による作用効果を奏する範囲で各部の具体的構成や寸法等は適宜変更設計できるものである。
以下、本発明の実施例を説明する。
図6(a)に示すように、吸引管及び排気管の口径50mm、羽根車の外径196mm、羽根車の先端肉厚6mmの標準形状の液封式真空ポンプ1に対して、先端肉厚が4mmとなるように羽根の圧力面を先端から軸心方向に20mmの幅でグラインダーにより切削加工(スリサゲ加工)した羽根車(実験例1)と、先端肉厚が2mmとなるように羽根の圧力面を先端から軸心方向に20mmの幅でグラインダーにより切削加工(スリサゲ加工)した羽根車(実験例2)の夫々に対して、風量、軸動力、効率の評価実験を行なった。
スリサゲ加工することにより、羽根の先端側の圧力面の曲率は、反圧力面との肉厚が等しくなる曲率よりも小さくなり、先端側ほど薄肉に形成されるようになる。尚、標準形状の羽根車とは、軸心周りに放射状に延び且つ少なくとも先端側が所定の曲率で回転方向へ湾曲形成され、その肉厚が径方向に沿って一定の厚みの複数枚の羽根を備えた羽根車である。
先端肉厚6mmの標準形状の羽根車と、先端肉厚4mmにスリサゲ加工した羽根車(実験例1)に対する特性グラフを図7(a),(b),(c)に示す。
特性グラフから、双方共に風量はほぼ変わらないものの、標準形状の羽根車に対してスリサゲ加工した羽根車の方が軸動力が軽減されるとともに効率が上昇することが確認された。図には示していないが、先端肉厚が2mmにスリサゲ加工した羽根車(実験例2)でも同様の傾向が見られ、最高効率が先端肉厚4mmにスリサゲ加工した羽根車(実験例1)よりも上昇することが確認された。
次に、図6(b)に示すように、吸引管及び排気管の口径200mm、羽根車の外径550mm、羽根車の先端肉厚10mmの標準形状の液封式真空ポンプ1に対して、先端肉厚が9mmとなるように羽根の圧力面を先端から軸心方向に30mmの幅でグラインダーにより切削加工(スリサゲ加工)した羽根車(実験例3)と、先端肉厚が6mmとなるように羽根の圧力面を先端から軸心方向に60mmの幅でグラインダーにより切削加工(スリサゲ加工)した羽根車(実験例4)と、先端肉厚が4mmとなるように羽根の圧力面を先端から軸心方向に90mmの幅でグラインダーにより切削加工(スリサゲ加工)した羽根車(実験例5)の夫々に対して、風量、軸動力、力率の評価実験を行なった。
先端肉厚10mmの標準形状の羽根車と、先端肉厚9mmにスリサゲ加工した羽根車(実験例3)と、先端肉厚6mmにスリサゲ加工した羽根車(実験例4)と、先端肉厚4mmにスリサゲ加工した羽根車(実験例5)に対する特性グラフを図8(a),(b),(c)に示す。
特性グラフから、先端肉厚が薄肉にスリサゲ加工するほど、即ち、羽根の先端側の圧力面の曲率が反圧力面との肉厚が等しくなる曲率よりも小さくなるほど、軸動力が軽減されることが確認された。このとき、風量も次第に低下するが、逆に効率は上昇することが確認された。
このように羽根の先端側の所定範囲を削ることにより羽根車の先端側を薄肉化して性能を向上させる、即ち、性能を調整することができる。
また、吸引管及び排気管の口径500mm、羽根車の外径1174mmの標準形状の液封式真空ポンプ2に対して、羽根車の外径が1156mmに設定された羽根車(実験例6)を用いて、風量、軸動力、効率の評価実験を行なった。つまり、標準形状の羽根車に対して外径を異ならせることにより、羽根車の先端と本体ケーシングの内壁部との最小間隙12mmを21mmに調整するもので、羽根車の外径1156mmに対して、最小間隙が21mmとなり、最小間隙が羽根車の径の1.8%となる。
その結果、最小間隙が羽根車の径の1.0%の標準形状の羽根車に対して、最小間隙が羽根車の径の1.8%の羽根車では、軸動力が減少し、効率が42%から43%に上昇するという結果が得られた。
吸引管及び排気管の口径500mm以外の液封式真空ポンプに対しても、同様に羽根車の外径を異ならせることにより、羽根車の先端と本体ケーシングの内壁部との最小間隙を調整して、同様の実験を行なった結果、最小間隙が羽根車の径の1.6〜3.0%の範囲となるときに良好な結果が得られることが明らかになった。
このことから、羽根車の先端を削ることにより、前記羽根車の先端と前記本体ケーシングの内壁部との最小間隙を広げて性能を向上させる、即ち、性能を調整することができる。
次に、羽根の先端側の圧力面の曲率が、反圧力面との肉厚が等しくなる曲率よりも小さく設定され、先端側ほど薄肉に形成されている液封式真空ポンプに対して、封水への羽根車の作用をコンピュータシミュレーションにより確認した結果を説明する。
ANSYS社製のCFXを用いたCFD方式によるシミュレーションソフトを用いて、吸引管及び排気管の口径200mm、外部ケーシングの内径740mmの液封式真空ポンプに対して、図9に示す五種類の形状の羽根車を用いたときの封水の速度及び圧力の挙動をシミュレーションした。
図9(a)は、羽根車の外径550mm、軸心から羽根先端までの距離の約70%となる位置まで直線状に延出形成され、その位置から羽根先端までの領域で反圧力面の曲率半径Rが122mm、圧力面の曲率半径Rが112mmで一定の肉厚10mmで湾曲形成された標準羽根車、図9(b)は、標準羽根車に対して圧力面の曲率半径Rが115.6mmで先端側ほど薄肉に形成されている本発明に対応する羽根車(スリサゲ形状)、図9(c)は、標準羽根車に対して反圧力面の曲率半径Rが119.6mmで先端側ほど薄肉に形成されている羽根車(スリアゲ形状)、図9(d)は、標準羽根車に対して圧力面の曲率半径Rが113.7mm、反圧力面の曲率半径Rが120.6mmで先端側ほど薄肉に形成されている羽根車(スリサゲ+スリアゲ形状)、図9(e)は、標準羽根車に対して圧力面の曲率半径Rが115.6mm、反圧力面の曲率半径Rが125.6mmで肉厚が一定の10mmで形成されている羽根車(スリサゲ+厚さ維持)である。
その結果を、図10に示す。図10は、ポートプレートから主軸に沿って250mmの距離、つまり、図1に示すポートプレート15とロータ室の中央壁6cとの間の中央部における垂直断面での圧力及び速度分布を示すもので、左上図(a)が静圧分布、右上図(b)が動圧を含めた全圧力分布、左下図(c)が速度ベクトル分布、右下図(d)が速度スカラー分布である。
図10に示すように、標準羽根車のシミュレーション結果では、最小間隙の領域A1で封水を周方向に送る速度が小さく、吸込み側の領域A2で封水の速度が圧力面に向き、上死点近傍の領域A3で径方向に速度差が顕著に現れており、その結果、吐出し側の圧縮領域A4で圧力が高くなって、軸動力の上昇を来たしていると判断できる。
これに対して、図11に示すように、本発明によるスリサゲ形状の羽根車のシミュレーション結果では、最小間隙の領域A1で封水を周方向に送る速度が大きくなり、吸込み側の領域A2で封水の速度が回転方向に向き、上死点近傍の領域A3で径方向への速度差がほとんど無く均一となり、その結果、吐出し側の圧縮領域A4で圧力のこもりが解消されるために、軸動力の低減が図れるものであると評価できる。
また、スリアゲ形状の羽根車のシミュレーション結果(図示せず)では、最小間隙の領域A1で封水を周方向に送る速度が小さく、吸込み側の領域A2で封水の速度が圧力面に向き、上死点近傍の領域A3で径方向に速度差が顕著に現れており、さらには吐出し側の領域で封水の速度が圧力面に向き、その結果、吐出し側の圧縮領域A4で極めて圧力が高くなって、軸動力の大幅な上昇を来たすことが予測される。
スリサゲ+スリアゲ形状の羽根車のシミュレーション結果(図示せず)では、最小間隙の領域A1で封水を周方向に送る速度が小さく、上死点近傍の領域A3で径方向に速度差が顕著に現れており、しかも封水の速度が圧力面に向き、さらには吐出し側の領域で径方向に封水の速度差が大きく、その結果、吸込み側の圧縮領域A4で多少の圧力のこもりが見られ、軸動力の低減を図ることは困難であると予測される。
さらに、スリサゲ+厚さ維持形状の羽根車のシミュレーション結果(図示せず)では、上死点近傍の領域A3で径方向に速度差が顕著に現れ、吐出し側の領域で封水の速度が圧力面に向き、その結果、吐出し側の圧縮領域A4で圧力が高くなって、軸動力の大幅な上昇を来たすことが予測される。
つまり、羽根の先端側の圧力面の曲率が、反圧力面との肉厚が等しくなる曲率よりも小さく設定され、先端側ほど薄肉に形成されている羽根車であれば、隣接する羽根の先端部での開口面積が大きくなり、区分空間が縮小される圧縮領域(上述の領域A4)で羽根の回転に伴なって先端部から基端側へ封水が円滑に取り込まれるようになるとともに、区分空間が拡大される膨張領域(上述の領域A2,A3)で羽根の回転に伴なって掻き回される水の乱れが抑制される結果、羽根車の軸動力が低減されるとともに水面の滑らかな水環が形成され、軸動力の軽減が図れるようになる。
(a)は本発明による液封式真空ポンプの正断面図、(b)は平断面図
(a)は本発明による液封式真空ポンプの側面図、(b)はポートプレートの説明図、(c)は羽根車の回転時のロータ室の説明図
(a)は羽根車の説明図、(b)は羽根先端部の説明図
別実施形態による羽根先端部の概略図
別実施形態を示し、(a)は本発明による液封式真空ポンプの正断面図、(b)は平断面図
(a)は標準形状と複数のスリサゲ形状の羽根車を用いたときの小型液封式真空ポンプの評価実験の概要を示す説明図、(b)は標準形状と複数のスリサゲ形状の羽根車を用いたときの中型液封式真空ポンプの評価実験の概要を示す説明図
小型液封式真空ポンプの評価実験で得られた特性図であり、(a)は真空度と風量の関係を示す特性図、(b)は真空度と軸動力の関係を示す特性図、(c)は真空度とポンプ効率の関係を示す特性図
中型液封式真空ポンプの評価実験で得られた特性図であり、(a)は真空度と風量の関係を示す特性図、(b)は真空度と軸動力の関係を示す特性図、(c)は真空度とポンプ効率の関係を示す特性図
シミュレーション対象となる羽根車の形状説明図であり、(a)は標準形状の羽根の説明図、(b)はスリサゲ形状の羽根の説明図、(c)はスリアゲ形状の羽根の説明図、(d)はスリサゲ+スリアゲ形状の羽根の説明図、(e)はスリサゲ+厚さ維持の羽根の説明図
標準形状の羽根のシミュレーション結果を示す説明図であり、(a)は静圧分布の説明図、(b)は全圧分布の説明図、(c)は速度ベクトルの説明図、(d)は速度スカラー量の説明図
スリサゲ形状の羽根のシミュレーション結果を示す説明図であり、(a)は静圧分布の説明図、(b)は全圧分布の説明図、(c)は速度ベクトルの説明図、(d)は速度スカラー量の説明図
1:液封式真空ポンプ
2:脚部
3:本体ケーシング
3a:内壁部
3b:中間壁
4,4a,4b:ケーシングカバー
5:主軸
6:羽根車
6a:胴部
6b:羽根
6c:中央壁
7,7a,7b:軸受け
8:貫通孔
9:主軸スリーブ
10:シール材
11:給水管
12:ドレン口
15,15a,15b:ポートプレート
16:吸引管
17:排気管
18:ドレン口
20:吸入ポート
21:吐出ポート
22:吐出ポート
23給水ポート
31,31a,31b:羽根車
32,32a,32b:ポートプレート
35吸気口
36排気口
40,40a,40b:ケーシングカバー
50:主軸
100:液封式真空ポンプL:封水
LF:環状の水面
S:環状空間
S1〜S20:区分空間
U:上死点
D:下死点
P:軸心
P´:軸心
Rβ:曲率半径
Rα:曲率半径
Rα:曲率半径
Rβ:曲率半径
W:間隔
W´:間隔
Ra:距離
Rb:距離
A1:最小間隙の領域
A2:吸込み側の領域
A3:上死点近傍の領域
A4:吐出し側の圧縮領域
A5:吐出し側の領域