JP5290132B2 - スピーカ用振動板およびこれを用いたスピーカ - Google Patents

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Description

本発明は、各種音響機器及び情報通信機器等に使用される、スピーカ用振動板およびこれを用いたスピーカに関する。
スピーカは、家庭用又は車載用オーディオ機器だけでなく、パーソナルコンピュータ、携帯電話、ゲーム機器等の種々の電子機器にも幅広く利用されている。現在では、より小型又はより薄型のスピーカ、特に、安価で、より低音を再生することが可能な、高入力スピーカが望まれている。
小型薄型化の要求の高いマイクロスピーカ等では、コスト低減のために、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene Terephthalate:「PET」)又はポリエチレンナフタレート((Polyethylene naphthalate:「PEN」)等の樹脂成形フィルムを振動板材料に用い、振動板本体とエッジが同一材質で一体に形成された振動板を有するフィックストエッジタイプを採用することが多い。
スピーカ用振動板の材料としては、スピーカにおける周波数特性を良くするために、特に、弾性率が高いこと、内部損失が大きいこと、密度が小さいことが求められている。弾性率はピストン振動帯域に影響を与え、弾性率を高くすることで、ピストン振動帯域の幅を高周波側に拡大できる。また、内部損失を増大させることで、分割振動による共振ピークの音圧レベルを低減できるとともに、制振性が大きくなり、周波数特性を示す曲線形状が滑らかになり、平坦化させることができる。
一方、スピーカから低音を再生するには低域再生限界(最低共振周波数)を如何に下げるかが問題となる。一般的に低域再生限界(最低共振周波数)は、振動板口径が同じ場合、振動板とボイスコイルの質量と、振動板本体とエッジが一体に形成された振動板の柔らかさで定めることが可能である。振動板の柔らかさは振動板の形状と使用される材料素材により定めることが可能であるから、振動板の柔らかさが重要となる。また一般的には高入力対応には振動板形状の変形を抑えるため低域再生限界(最低共振周波数)をあげ振幅を抑える方法がある。しかしこの方法では低域再生が困難となる。
従来のスピーカにおける高入力対応には、振動板形状の変形を抑えるため、同じ振動板形状の場合には材料の厚み及び材質等を変更することにより低域再生限界(最低共振周波数)をあげ、振幅を抑える事が一般的方法である。また、最低共振周波数付近における異常振動であるローリングがおきることがあるが、これに対応するには、制振材料の塗布、バランサーの取り付け方法が挙げられる。しかし、これらの方法では、制振材を塗布する工程及びバランサーの取り付け工程等が必要となり作業工数が増えるとともに、品質管理工数も増えるという問題があった。
従来、最低共振周波数を下げる方法として、特許文献1(特開平11−27789)では振動板本体とその周縁のエッジ部が一体となった樹脂フィルムと、振動板本体と、略同形状寸法の他の樹脂フィルムを貼り合わせて構成し、エッジ部を振動板本体よりも柔らかくしたことにより最低共振周波数を下げるものが提案されている。しかしながら、製造上別成型し、別に外形切断、貼り合わせと工程が多く、品質管理工数も増えるという問題点は十分に克服することできていないのが現状である。
他方、特許文献2(特許第3211566号)では、基材である極細繊維を用いた織布の振動板31およびエッジ部分32に、それぞれが要求する材料の物理特性を備えた異種高分子樹脂を塗布して、振動板−エッジの一体成形を行うことが提案されている。この提案によれば、従来の高分子樹脂フィルム単一材料による一体成型品が抱えていた、材料の物理特性を変化させ広帯域化を意図したときに生じる矛盾を解消し、より広帯域で、低歪み、また素材の軽量化による音圧の向上を達成した振動板−エッジ一体成形品が実現できるとされている。そして、織布基材に任意の高分子樹脂材料をスクリーン印刷工程で塗布することにより、精密性が向上し特性上のばらつきが低減することが開示されている。しかしながら、特許文献2では、振動板の基材である極細繊維を用いた織布、振動板およびエッジ部分に、それぞれ異なる高分子樹脂を塗布し成形することが必須となっており、成形前の塗布工程、塗布精度及び成形精度の確認工程等、相当数の副工程が必要不可欠となり、迅速かつ大量供給という要求に応じるものとなっていない。
さらに、特許文献3(特開2006−295245)では、少なくとも第1乃至第3の積層体が積層された音響振動板であって、上記第1及び第3の積層体は、高分子材料により形成され、上記第2の積層体は、上記第1及び第3の積層体を形成する高分子材料と力学的内部損失が異なる高分子材料により形成される、音響振動板が提案されている。この音響振動版によれば、内部損失を効果的に増大させ、分割振動帯域のピークディップの平坦化を実現することができるとされている。しかしながら、製造容易性等の観点から、さらなる改良が必要である。
特開平11−27789 特許第3211566号 特開2006−295245
本発明者は、本発明時に、スピーカ用振動板を構成する主要部位積層体に着目し、その積層体が同一の材料からなり、重量平均分子量が高いものと低いものとを採用し、さらに、主要部位積層体にスキン層を積層させることにより、低域再生に優れ、高入力で使用可能であり、かつ、生産性を向上させることが可能なスピーカ用振動板を得られるとの知見を得た。本発明は係る知見に基づいてなされたものである。
従って、本発明の第1の態様は、二つの高分子層と、三つの低分子層と、一又は二つのスキン層とを備えてなるスピーカ用振動板であって、
前記二つの高分子層のそれぞれが、前記三つの低分子層の層間に挟持されてなり、
前記二つの高分子層及び前記三つの低分子層がアクリル変性エポキシ樹脂からなり、かつ、前記高分子層を構成する樹脂の重量平均分子量が、前記低分子層を構成する樹脂の重量平均分子量よりも大きいものであり、及び
前記スキン層が、前記三つの低分子層の層間に挟持された前記高分子層の面とは反対側の面における少なくとも一つの低分子層の面に備えられてなるものである。
また、本発明の第2の態様は、複数の高分子層と、複数の低分子層と、一又は二つのスキン層とを備えてなるスピーカ用振動板であって、
前記複数の高分子層のそれぞれが、前記複数の低分子層の層間に挟持されてなり、
前記複数の高分子層及び前記複数の低分子層がアクリル変性エポキシ樹脂からなり、かつ、前記複数の高分子層を構成する樹脂の重量平均分子量が、前記複数の低分子層を構成する樹脂の重量平均分子量よりも大きいものであり、及び
前記スキン層が、前記複数の低分子層の層間に挟持された前記複数の高分子層の面とは反対側の面における複数の低分子層の少なくとも一つの面に備えられてなるものである。
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様において、「高分子層」及び「低分子層」が文字通り、複数となるものである。
本発明の別の態様により提供されるスピーカは、
少なくとも磁気回路と、
前記磁気回路の磁気ギャップ中に配置されて前後に振動可能とされるボイスコイルと、 前記磁気回路に接合されるフレームと、
外周縁部が前記フレームに支持され、前記ボイスコイルに接合されてなる、本発明によるスピーカ用振動板を備えてなるものである。
本発明によれば、加工性に優れ、適度な柔らかさを有し、製造が容易であり、かつ、従来よりも低域再生に優れ、高入力で使用可能なスピーカ用振動板およびこれを用いたスピーカを提供することが可能となる。
図1は、本発明によるスピーカの半断面構造を示すものである。 図2は、図1のスピーカ用振動板の断面構造を示すものである。 図3は、本発明によるスピーカ用振動板の種々の構成例を示すものである。 図4は、ボイスコイル6とスピーカ用振動板7aとの接合方法を示したものである。 図5は、本実施形態によるスピーカ1とPETの単一フィルムによる振動板を用いた従来のスピーカの出力音圧−周波数特性の測定結果を比較したものである。 図6は、本実施形態によるスピーカ1とPETの単一フィルムによる振動板を用いた従来のスピーカのインピーダンスー周波数特性の測定結果を比較したものである。 図7は、図2(a)のスピーカ用振動板においてスキン層23aの一部分に、スキン層23cを形成させた断面構造を示したものである。 図8は、図2(a)のスピーカ用振動板においてスキン層23aを残存させながら、スピーカ振動板の中央部における高分子層及び低分子層からなら積層体の一部分が削除された断面構造を示したものである。 図9は、図2(a)のスピーカ用振動板において、その積層体の中央部の一部分を削除し、その箇所にキャップ24を積層させたものの断面構造を示したものである。
発明の詳細な説明
I.本発明の第1の態様
1.スピーカ用振動板の態様
使用態様
本発明によるスピーカ用振動板が、スピーカ中に配置された一例を、図1を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態によるスピーカの半断面構造を示す図である。図1のスピーカは、いわゆる内磁型のスピーカ1であり、フレームを兼ねたポット型のヨーク2、円柱状のマグネット3および円盤状のポールプレート4を有する磁気回路5と、この磁気回路5の磁気ギャップ中に支持されるボイスコイル6を屈曲部下方に配置され、外周縁部がヨーク2に支持されるドーム型のスピーカ用振動板7とを備えてなる。
構成
本発明によるスピーカ用振動板7の構成の一例について、図1のスピーカ用振動板7の断面構造を示す図2を用いて説明する。図2(a)に示すように、スピーカ用振動板7は、高分子層21a,21bと、高分子層21a、21bの両面に密着配置された低分子層22a,22b、22cと、低分子層22a,22cの高分子層21a、21bとの接触面とは反対側の面に密着配置されたスキン層23a,23bとを有し、七層構造になっている。また、図2(b)に示す通り、低分子層22bは二層構造を成すものであってもよい。
本発明によるスピーカ用振動板の一態様として、このような七層構造を用いて説明した。しかしながら、本発明の基本構成としては、高分子層21a、21bと、高分子層21a、21bの両面に密着配置された低分子層22a,22cと、低分子層22a,22cの少なくともどちらか一方の高分子層21a,21bとの接触面とは反対側の面に密着配置されるスキン層とで構成されていてもよい(六層構造)。本発明の好ましい態様によれば、低分子層22a,22cの少なくとも一方は、高分子層21a、21bとの接触面とは反対側の面の全体をスキン層で覆うことが好ましい。このような構成にすることにより、スピーカ用振動板7の形状を十分に維持することが可能となる。このことは、以下に説明する、本発明のスピーカ用振動板の様々な態様によって理解されるであろう。
図7によるスピーカ用振動板は、図2(a)のスピーカ用振動板においてスキン層23aの一部分に、スキン層23cを形成させた断面構造を示したものである。この構成を有するスピーカ用振動板は、スキン層材質の物性及び重量の差による音圧周波数特性、音質の調整のため部分的に材質を変えて、希望の特性に近づけることが可能となる。
図8によるスピーカ用振動板は、図2(a)のスピーカ用振動板においてスキン層23aを残存させながら、スピーカ振動板の中央部における高分子層及び低分子層からなら積層体の一部分が削除された断面構造を示したものである。この構成を有するスピーカ用振動板は、スキン層を1枚残すことで、振動板としての基本構成を満たしながら、振動板の重量を軽くすることで、音圧周波数特性、音質や効率を向上させることが可能となる。
図9によるスピーカ用振動板は、図2(a)のスピーカ用振動板において、その積層体の中央部の一部分を削除し、その箇所にキャップ24を積層させたものの断面構造を示したものである。この構成を有するスピーカ用振動板は、図7及び図8の態様と同様の効果を有することが可能となる。
本発明の別の態様によるスピーカ用振動板の構成について、図3を用いて説明する。図3(a)〜(d)は本実施形態とは層構造が異なるスピーカ用振動板の構成例を示す部分断面図である。図3(a)では、高分子層21a,21bと、その両面に密着配置された低分子層22a,22b,22cと、低分子層22aの高分子層21aとの接触面とは反対側の面に密着配置され、低分子層22aの全面を覆うスキン層23aと、低分子層22cの高分子層21bとの接触面とは反対側の面に部分的に密着配置されたスキン層23b’とで構成され七層構造となっている。図1で示したように、スピーカ用振動板7にはボイスコイル6が接合されることがある。ボイスコイル6が直接、低分子層22cに接合されると、低分子層22cが柔らかい材質であるため、ボイスコイル6が前後運動をしても低分子層22c全体を駆動することが困難となることから、本構成例においては、ボイスコイル6との接合部分にはスキン層23b’が形成されている。尚、ボイスコイル6との接合部分以外の低分子層22cについては、必要に応じて、任意にスキン層23b’を形成することが可能である。
図3(b)では、高分子層21a,21bと、その両面に密着配置された低分子層22a,22b,22cと、低分子層22bの高分子層21との接触面とは反対側の面に密着配置され、低分子層22cの全面を覆うスキン層23bと、低分子層22aの高分子層21aとの接触面とは反対側の面に部分的に密着配置されたスキン層23a’とで構成され七層構造となっている。スキン層23a’はスピーカの上面側に配置され、他の部材に接合されるわけではないため、図3(a)のように必ず形成されることまでは要求されないものである。このため、図3(b)では、低分子層22aの表面を保護する必要のある部分だけにスキン層23a’を形成している。
図3(c)では、高分子層21a,21bと、その両面に密着配置された低分子層22a,22bと、低分子層22cの高分子層21bとの接触面とは反対側の面に密着配置されたスキン層23bとで構成され、六層構造となっている。センターキャップ又はプロテクターなどを用いることによって低分子層22aの前面側をスキン層で保護する必要がない場合は、このスキン層を省略することができる。本構成例では、低分子層22a側にスキン層が形成されていないため、振動板の層構成が簡略化されて生産性が向上するとともに、振動板としての重量が軽くなるため、振動効率が高まるという利点がある。
図3(d)では、高分子層21a,21bと、その両面に密着配置された低分子層22a,22b,22cと低分子層22aの高分子層21aとの接触面とは反対側の面に密着配置され、低分子層22aの全面を覆うスキン層23aとで構成され、六層構造となっている。
本構成例では、低分子層22c側にスキン層が形成されていないため、ボイスコイル6と低分子層22c,22bとの間の接合部分にスキン層を介在させるために、例えば、図4(ボイスコイル6とスピーカ用振動板7aとの接合方法を示した図)のように、ボイスコイル6の先端部分にスキン層23b’’を形成した後、スキン層23b’’をスピーカ用振動板7aの低分子層22cに接合するという方法が採用可能である。本構成例においても、振動板の層構成が簡略化されて生産性が向上するとともに、振動板としての重量が軽くなるため、振動効率が高まるという利点がある。
本発明の実施態様について、図1乃至図4を用いて説明したが、本発明は上記の実施態様に限定して解釈されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
2.スピーカ用振動板の構成
)二つの高分子層/三つの低分子層
本発明にあっては、基本的に、二つの高分子層のそれぞれが、前記三つの低分子層の層間に挟持された積層体を基本構成とする。これらの五層は相互に密着接合されてなることが好ましい。本発明にあっては、二つの高分子層と、三つの低分子層はアクリル変性エポキシ樹脂からなることが好ましい。
アクリル変性エポキシ樹脂
「アクリル(又はメタクリル、以下同じである)変性エポキシ樹脂」は、エポキシ樹脂とアクリル酸(又はメタクリル酸、以下同じである)とを反応して得られる反応生成物である。そして、エポキシ樹脂におけるエポキシ基とアクリル酸の比率に応じ、エポキシ基の一部がアクリル化(又はメタクリル化、以下同じである)したエポキシ樹脂、部分アクリル化エポキシ樹脂、エポキシ基の全部が完全にアクリル化したエポキシ樹脂が生成する。又、部分アクリル化エポキシ樹脂と完全アクリル化)エポキシ樹脂の混合物が生成する場合もある。部分アクリル化エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂とアクリル酸とを反応させた際に、エポキシ樹脂のエポキシ基のうち一部が開環してアクリル化するが、1以上のエポキシ基が開環せずに残ったものをいう。
エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型又はビスフェノールF型のエポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。又、必要に応じて、光重合開始剤、エポキシ硬化剤を添加して、アクリル変性エポキシ樹脂を調整してよい。
アクリル変性エポキシ樹脂は、具体的には次のようにして調整されてよい。エポキシ樹脂とアクリル酸を混ぜ、常法に従って、塩基性触媒の存在下で両者を反応させる。混合割合は、適宜定めることが可能であるが、例えば、エポキシ樹脂のエポキシ基2当量に対し、アクリル酸のカルボン酸基0.5〜2当量となるようにすることができる。エポキシ基に対するアクリル酸の混合割合を変更することで、部分アクリル化の度合(すなわち、エポシ基の開環によるアクリル基の付加数)を自由に変えることができる。完全アクリル化エポキシ樹脂は、上記反応の際に、エポキシ樹脂のエポキシ基のすべてが開環してアクリル化したものをいう。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた場合、一分子中に2個のアクリル基が結合した樹脂が挙げられる。
重量平均分子量
本発明にあっては、二つの高分子層を構成する樹脂の重量平均分子量が、三つの低分子層を構成する樹脂の重量平均分子量よりも大きいものである。この際、三つの低分子層を構成する樹脂の重量平均分子量は同一(好ましい)でも異なるものであってもよい。高分子層と低分子層を構成する樹脂(例えば、アクリル変性エポキシ樹脂)の相対的な比較において、重量平均分子量を特定する。高分子層の重量平均分子量は2,000(好ましくは5,000)以上1500,000(好ましくは500,000)以下程度であり、好ましくは下限値が200,000以上であり上限値が300,000以下である。
低分子層を構成する樹脂の重量平均分子量は1,000(好ましくは2,000)以上500,000(好ましくは100,000)以下であり、好ましくは下限値が2,000以上であり上限値が40,000以下である。上記数値範囲において、高分子層を構成する樹脂の重量平均分子量と低分子層を構成する樹脂の重量平均分子量とが、数字上、重なることがあるが、当然に、高分子層を構成する樹脂の重量平均分子量と低分子層を構成する樹脂の重量平均分子量との間に大小関係が生じるように選択することは当業者であれば当然に理解されよう。
重量平均分子量が上記数値範囲内にあり、かつ、この数値範囲内において、高分子層及び低分子層を構成する樹脂の重量平均分子量の数値を適宜定めることにより、用途又は設置環境に応じたスピーカに求められる所望の機械特性を有するスピーカ振動板を得ることが可能となる。より具体的には、高分子層と低分子層を構成する樹脂(好ましくは、アクリル変性エポキシ樹脂)の重量平均分子量がそれぞれ上記数値範囲内にあることにより、形状安定性、柔軟性及び撓み性等に優れたスピーカ振動板とすることができ、かつ、スピーカ振動板としての耐久性が向上する。このような特性を有する本発明によるスピーカ振動板は、特に、低域の再生限界周波数が経時的に高くなることを有効に防止することができ、広帯域の再生が長期間安定的に行うことが可能となる。より好ましいことに、高分子層と低分子層がアクリル変性エポキシ樹脂から形成されてなり、重量平均分子量がそれぞれ上記数値範囲内にあることにより、三つの低分子層が柔らかく挙動し、低域の再生限界周波数を低くすることが可能となり、他方、高分子層が適度な強度を保つことでスピーカ振動板としての形状安定性を維持することが可能となる。
層厚
本発明の好ましい態様によれば、二つの高分子層と、三つの低分子層とからなる五層の総厚は、30μm以上200μm以下であり、好ましくは下限値が60μm以上であり上限値が100μm以下である。また、本発明の好ましい態様によれば、二つの高分子層と三つの低分子層の各層の厚みは、それぞれが6μm以上100μm(好ましくは50μm)以下であり、好ましくは下限値が10μm以上であり上限値が34μm以下である。五層の総厚及び各層の層厚が上記数値範囲内にあることにより、形成されたスピーカ用振動板は形状安定性に優れ、かつ、周波数特性を平坦化する効果をより発揮することが可能となる。
2)スキン層
本発明にあっては、基本的に、スキン層が、三つの低分子層の層間に挟持された高分子層の面とは反対側の面における少なくとも一つの低分子層の面に備えられてなる。本発明の好ましい態様によれば、スキン層は、三つの低分子層の層間に挟持された高分子層の面とは反対側の面における二つの低分子層の面に備えられてなるものが好ましい。スキン層は、樹脂及び天然繊維又は金属繊維(紙)からなる、フィルム、シートが挙げられる。
飽和ポリエステル系樹脂
本発明にあっては、スキン層は、飽和ポリエステル系樹脂から形成されてなるものが好ましい。本発明において、「飽和ポリエステル系樹脂」は、例えば、ジカルボン酸またはその低級アルキルエステル、酸ハライドまたは酸無水物誘導体とグリコ−ルまたは二価フェノ−ルとを縮合させて製造する熱可塑性ポリエステル等が挙げられる。
飽和ポリエステル系樹脂を製造するのに適した脂肪族または芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフエニルジカルボン酸、ジフエニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフエニルエ−テルジカルボン酸、メチルテレフタル酸、メチルイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドテカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族;脂環族ジカルボン酸等を挙げることができる。これらの中で、芳香族ジカルボン酸、特にテレフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。また、グリコ−ル成分としては、例えば、エチレングリコ−ル、トリメチレングリコ−ル、テトラメチレングリコ−ル、ヘキサメチレングリコ−ル、デカメチレングリコ−ル、ネオペンチルグリコ−ル、シクロヘキサンジメタノ−ル、ポリオキシエチレングリコ−ル、ポリオキシプロピレングリコ−ル、ポリオキシテトラメチレングリコ−ル等を挙げることができる。これらの中で、エチレングリコ−ル、テトラメチレングリコ−ル、シクロヘキサンジメタノ−ルが好ましい。ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、α−ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシエトキシ安息香酸等を挙げることができる。
飽和ポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレ−ト(PET)、ポリエチレンナフタレ−ト(PEN)、ポリブチレンテレフタレ−ト(PBT)、ポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレ−ト)(PCT)または液晶性ポリエステル、あるいはそれらの共重合体が挙げられ、特に、ポリエチレンテレフタレ−ト(PET)、ポリエチレンナフタレ−ト(PEN)が好ましく、より好ましくは、成形性に優れたポリエチレンテレフタレ−ト(PET)である。本発明にあっては、飽和ポリエステル系樹脂からなるフィルムとしては市販品を用いることができ、例えば、ポリエチレンテレフタレ−ト(PET)フィルムの場合、テイジンテトロンフィルム(帝人株式会社製)等が、ポリエチレンナフタレ−ト(PEN)フィルムの場合、テオネックスフィルム(帝人株式会社製)等が挙げられる。
層厚
本発明の好ましい態様によれば、スキン層の層厚は、1μm以上100μm(好ましくは75μm)以下であり、好ましくは下限値が1μm以上であり上限値が16μm以下である。なお、スキン層を二つ備えてなる場合には、両者の層厚は同一でも異なってもよい。スキン層の層厚が、上記数値範囲内にあることにより、スピーカ振動板を軽量化することができると共に、スピーカ振動板の成形を容易にすることが可能となる。
3)キャップ
本願発明の好ましい態様によれば、図9に記載のスピーカ用振動板を提案することができる。この態様において使用されるキャップ24としては、樹脂、金属、天然繊維のフィルムまたはシートのものであってよい。キャップ24の層厚は、1μm以上100μm以下程度であり、好ましくは下限値が6μm以上であり上限値が50μm以下である。
キャップ24の形成方法としては、スピーカ振動板(図2)を成形した後、その中央部(例えば、図2中央の凸部)を所定の径で打ち抜き等の処理をして切断する。その切断部位に、キャップ24が装着される。また、図8では、スキン層23aを除いて、スピーカ振動板の積層体を形成し、キャップ部分にあたる積層体の部分を打ち抜き処理をし、その後にスキン層23aを積層させて、積層体を作成し、成形したものであり、キャップ24がスキン層23aのみで成形されたものである。即ち、図8は積層体の構成材により一体形成されたものである。さらに、図9に示す通り、スピーカ振動板の構成層を積層した後に、断面図で示す中央部を切除し、スキン層23aは全く別のキャップ24を形成させてもよい。
3.スピーカ用振動板の製造
二つの高分子層、三つの低分子層は共に、アクリル変性エポキシ樹脂で形成されており、この樹脂は粘着性を有するものである。その結果、二つの高分子層を三つの低分子層で挟持し、さらに、一又は二つのスキン層を積層させ、加圧することにより、容易に各層が密着し一体形成されたスピーカ用振動板を得ることができる。また、二つの高分子層と三つの低分子層が同一のアクリル変性エポキシ樹脂からなり、かつ、スキン層が成形性に優れる飽和ポリエステル系樹脂からなるものであるため、これらの層を六層又は七層構造に一体化したシート状積層体を用意し、所望の型を有する金型に搬入し、加熱加圧することにより、一体形成された所望のスピーカ用振動板を得ることができる。この金型製造方法によれば、図2に示すドーム型のスピーカ用振動板7を容易に作製することができる。
4.スピーカ用振動板の用途/スピーカ
本発明によるスピーカ用振動板がスピーカに搭載されることは先の説明及び図1において説明した通りである。本発明にあっては、本発明によるスピーカ用振動板が搭載されたスピーカは、内磁型のスピーカ(既に、一例を示した)、外磁型のスピーカに使用することが可能である。また、本発明によるスピーカ用振動板は、スピーカに搭載される際の形状は、特に制限はなく、ドーム型(スピーカ用振動板7)、円錐状、フラット状であってもよい。さらに、本発明の実施態様の一例であるスピーカ1(図1)は、ボイスコイル6がスピーカ用振動板7に直接接合されるボビンレスのスピーカであったが、本発明によるスピーカ用振動板は、ボイスコイルがボビンに巻回され、ボビンが振動板に接合される構造のスピーカにも搭載することが可能である。
II.本発明の第2の態様
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様において、「二つの高分子層」及び「三つの低分子層」が、それぞれ「複数の高分子層」及び「複数の低分子層」となったものであり、それ以外の内容に変更はない。従って、本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様において記載した、「二つの高分子層」及び「三つの低分子層」を、「複数の高分子層」及び「複数の低分子層」と読み替えるだけであり、それ以外の内容は本発明の第1の態様と全く同様であってよい。よって、本発明の第2の態様もまた、本発明の第1の態様で説明したものと同様の構成であってよい。
実施例
本発明によるスピーカ用振動板(下記)を調製し、それを搭載した図1に示すスピーカを用意した。
スピーカ用振動板の調製
二つの高分子層と、二つの高分子の両面に密着配置された三つの低分子層を積層させた五層体(各アクリル変性エポキシ樹脂、)を用意し、この五層体の両面に、二つのスキン層(ポリエチレンテレフタレ−ト(テイジンテトロンフィルム(帝人株式会社製)を形成させて積層体を調製した。形成した積層体を、図2の形状を形成できる金型に搬入し、加熱加圧することにより、スピーカ用振動板を得た。
比較例
ポリエチレンテレフタレ−ト(PET)の単一フィルムからなるスピーカ用振動板を作製し、それを搭載した図1に示すスピーカを調製した。
評価試験
実施例と比較例とのスピーカについて下記評価試験を行って対比評価を行った。
評価試験1
実施例及び比較例のスピーカ(口径Ф28mm)について、周波数特性測定機(B&K社製:♯4939)を用いて、測定距離0.1m、入力0.1Wの測定条件で、出力音圧―周波数特性を測定し、図5に示した通りであった。図5は、実施例と比較例のスピーカの出力音圧−周波数特性(以下、周波数特性ともいう)の測定結果を比較して示した図である。図6は、実施例と比較例のスピーカのインピーダンスー周波数特性の測定結果を比較して示した図である。図5及び図6中、実線部Aが実施例、点線部Bが比較例の周波数特性を示す。図5及び図6に示すように、実施例は、比較例と比較して、低域特性が極めて改善されている。
評価試験2
定格入力試験(100時間 ノイズ信号)では実施例では2Wであるが、比較例では0.5Wである。実施例は2W入力にもかかわらず、最低共振周波数は340Hzと低く、比較例は最低共振周波数が570Hzで、実施例は低域限界が低く低音再生に優れ、かつ高入力を実現している。
1:スピーカ
2:ヨーク
3:マグネット
4:ポールプレート
5:磁気回路
6:ボイスコイル
7,7a:スピーカ用振動板
21a、21b:高分子層
22a,22b,22c:低分子層
23a,23a’,23b,23b’,23b’’,23c:スキン層
24:キャップ

Claims (11)

  1. 二つの高分子層と、三つの低分子層と、一又は二つのスキン層とを備えてなるスピーカ用振動板であって、
    前記二つの高分子層のそれぞれが、前記三つの低分子層の層間に挟持されてなり、
    前記二つの高分子層及び前記三つの低分子層がアクリル変性エポキシ樹脂からなり、かつ、前記高分子層を構成する樹脂の重量平均分子量が、前記低分子層を構成する樹脂の重量平均分子量よりも大きいものであり、及び
    前記スキン層が、前記三つの低分子層の層間に挟持された前記高分子層の面とは反対側の面における少なくとも一つの低分子層の面に備えられてなる、スピーカ用振動板。
  2. 前記二つの高分子層を構成する樹脂の重量平均分子量が2,000以上1500,000以下であり、及び
    前記三つの低分子層を構成する樹脂の重量平均分子量が1,000以上500,000以下である、請求項1に記載のスピーカ用振動板。
  3. 前記二つの高分子層と、前記三つの低分子層による五層の総厚が30μm以上である、請求項1又は2に記載のスピーカ用振動板。
  4. 前記二つの高分子層と、前記三つの低分子層の各層の厚が、それぞれ6μm以上100μm以下である、請求項1〜3の何れか一項に記載のスピーカ用振動板。
  5. 前記スキン層が、前記三つの低分子層の層間に挟持された前記高分子層の面とは反対側の面における二つの低分子層の面に備えられてなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のスピーカ用振動板。
  6. 前記スキン層の厚みが、1μm以上100μm以下である、請求項1〜5の何れか一項に記載のスピーカ用振動板。
  7. 前記スキン層の片側もしくは両側の材質が、二つ以上の異なる材質からなる、請求項1〜6の何れか一項に記載のスピーカ用振動板。
  8. 一つのスキン層のみを残して、前記二つの高分子層と、前記三つの低分子層と、他のスキン層を備えてなる積層体を部分的に取り除いたものである、請求項1〜7の何れか一項に記載のスピーカ用振動板。
  9. スピーカ用振動板の一部を取り除き、キャップを備えてなる、請求項1〜8の何れか一項に記載のスピーカ用振動板。
  10. 複数の高分子層と、複数の低分子層と、一又は二つのスキン層とを備えてなるスピーカ用振動板であって、
    前記複数の高分子層のそれぞれが、前記複数の低分子層の層間に挟持されてなり、
    前記複数の高分子層及び前記複数の低分子層がアクリル変性エポキシ樹脂からなり、かつ、前記複数の高分子層を構成する樹脂の重量平均分子量が、前記複数の低分子層を構成する樹脂の重量平均分子量よりも大きいものであり、及び
    前記スキン層が、前記複数の低分子層の層間に挟持された前記複数の高分子層の面とは反対側の面における複数の低分子層の少なくとも一つの面に備えられてなる、スピーカ用振動板。
  11. 磁気回路と、
    前記磁気回路の磁気ギャップ中に配置されて前後に振動可能とされるボイスコイルと、 前記磁気回路に接合されるフレームと、
    外周縁部が前記フレームに支持され、前記ボイスコイルに接合される請求項1〜10の何れか一項に記載のスピーカ用振動板を備えてなる、スピーカ。
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