近年、パーソナルコンピュータやワードプロセッサ等のOA機器が広く普及しており、これら機器で処理した情報をプリントアウトするための様々な記録装置が提供されている。そして、このような記録装置の一つの傾向として高画質化および高速化が求められており、そのための技術が種々提供されている。
高画質化技術
高画質化技術の一例として、いわゆるマルチスキャン方式が知られている。この方式は、同じ領域に対して複数回の記録ヘッドの走査を行い、これら複数回の走査で異なるインク吐出口を対応させて記録を行うものである。
インク吐出口等、複数の記録素子を備えた記録ヘッドを用いて記録を行う場合、記録される画像の画質は記録ヘッドの精度に依存するところが大きい。記録ヘッドの製作工程では、例えば、記録ヘッドの吐出口の形状や吐出のためのエネルギーを発生させる吐出ヒータの配設位置にばらつきを生じることがある。そして、このようなばらつきは記録ヘッドにおける複数の吐出口間における、吐出量や吐出方向など吐出特性の僅かな違いとなって表れ、最終的に形成される画像の濃度ムラとして画像品位を劣化させることになる。
図1(a)〜(c)および図2(a)〜(c)はその具体例を説明する図である。図1(a)において、101は記録ヘッドを模式的に示し、説明の簡略化のため8個のインク吐出口102を備えたものとして示されている。103はそれぞれの吐出口102によって吐出されたインク滴を示し、通常は同図に示すように略同一の吐出量で、かつ同一の方向にインクが吐出されるものとして想定されている。そして、このような吐出が行われることにより、図1(b)に示すように、紙面上には略同一の大きさのドットが形成され、記録画像全体でも濃度ムラの無い一様な画像が得られる(図1(c)参照)。
しかし、実際は、上述したように複数の吐出口はそれぞれの吐出特性にバラツキがあることが多い。このため、何らの対策も講じずにそのまま吐出を行うと、図2(a)に示すように、それぞれの吐出口から吐出されるインク滴の大きさや方向きにバラツキが生じてしまう。その結果、紙面上においては同図(b)に示すようにそれらの位置やサイズが異なるドットが形成される。この場合、記録ヘッドの走査方向において、同図中央に見られるような周期的にエリアファクタ100%を満たせない白紙の部分や、あるいは逆に必要以上にドットが重なった部分が生じることがあり、白筋や黒筋が発生する。このような状態のドットの集まりによって形成される画像は、吐出口の配列方向において図2(c)に示す濃度分布となり、結果的に濃度ムラとして感知される。
マルチスキャン方式は、このような濃度ムラの問題を解決して画質を向上させるものである。図3(a)〜(c)および図4(a)〜(c)はこれを説明する図である。マルチスキャン方式は、記録ヘッドヘッドの複数回の走査、図3(a)に示す例では2回の走査によって所定領域の記録を完成させる。すなわち、図1(b)等で示した領域の半分(4画素分)の領域が、その半分の領域に対応した量の記録媒体搬送を挟んだ2回の走査(以下、2パスともいう)で完成する。この場合、ヘッド201の8個のインク吐出口202は、上側4吐出口と、下側4吐出口のグループに分けられる。それと共に、1つの吐出口が1回のスキャン(走査)で吐出されるインクで形成されるドットは、その走査方向配列において、マスクを用いて、例えば半分に間引いたものである。そして、2回目のスキャンで、上記マスクを補完するマスクを用いて残りの半分のドットを形成し、4画素分の領域の記録が完成する。図4(a)〜(c)は上記マスクの一例およびそれを用いて形成されるドットのパターンを示す図である。これらの図に示すマスクないしドットパターンは、縦横それぞれ1画素毎にドットを形成可能な、最も簡易な千鳥格子状のパターンである。単位記録領域(ここでは4画素分)において千鳥格子のパターンを記録する1スキャン目(同図(a)または(c))と、逆千鳥格子のパターンを記録する2スキャン目(同図(b))によって記録が完成する。
以上のようなマルチスキャン方式によれば、図2(a)に示した吐出特性を有する記録ヘッドを用いても、各吐出口の吐出特性による記録領域への影響は1/2に減少し、記録される画像は図3(b)に示すもののようになる。これにより、白スジあるいは黒スジがそれ程目立たなくなる。この結果、濃度ムラも図3(c)に示すように、図2(c)の場合と比べ緩和されたものとなる。
高速化技術
一方、高速化技術の一例として双方向記録が知られている。すなわち、シリアルタイプの記録装置において、記録ヘッドの往方向の走査で記録を行った後、所定量の紙送りをし、その後の復方向の記録ヘッドの移動でも記録走査を行う記録方式である。この記録方式によれば、往方向の走査で記録を行い復方向の戻りの記録ヘッド移動では記録を行なわない片方向記録と比較すると、単純には2倍の記録速度ないしスループットとなる。
この双方向記録は、記録ヘッドの吐出口配列幅に相当する長さの走査領域を1回の走査で完成する、いわゆる1パス記録や、紙送りを挟んだ複数回の走査で完成する、上述のマルチスキャン記録に用いることができる。従って、マルチスキャン方式によって双方向記録を行うことにより、高画質化と高速化の両方を実現することが可能となる。
しかし一方で、マルチスキャン方式によって双方向記録を行う場合、走査領域における位置に応じて、複数回の走査による記録の時間間隔が異なることに起因した濃度ムラ(時間差むら)の問題があることも知られている。
図5は、この時間差むらを説明する図であり、双方向の2回の走査(パス)で記録を完成する例を示している。図5において、記録媒体の左右端部に着目すると、1回目の記録後直ちに2回目の記録が行われる領域と、1回目の記録後に、往または復走査のほぼ2回分の走査時間が経過してから記録が行われる領域と、が交互に出現する。その結果、左端部では記録領域1は画像濃度が高く、記録領域2は画像濃度が低く、その濃度の違いが交互に現われる。また、右端部では記録領域1は画像濃度が低く、記録領域2は画像濃度が高く、左端部と同様にその濃度の違いが交互に現われる。この現象は、先に記録されたインク滴が記録媒体の内部に浸透して、紙繊維やインク受容層などに吸着し、次のインク滴による記録が行われるまでの時間によって異なる。先に記録されたインクの紙繊維やインク受容層に吸着する時間が十分にあれば、次に記録されるインク滴は、比較的スムーズに吸着できる部分を探しながら、重力方向に徐々に浸透していく。一方、先に記録されたインクの紙繊維やインク受容層に吸着する時間が無い場合、次に記録されるインク滴は、先に記録されたインクに合流して、1つのインク滴の集合体として、重力方向に徐々に浸透していく。後者の場合、先に記録されたインクが紙表面付近に十分に吸着される前に、後に記録されたインクと合流してしまうので、より下方で吸着することになる。その結果、画像濃度は比較的低くなる。この濃度ムラは、2次色の記録が行われる場合は走査の時間差に応じた色ムラとなって現われる。
図6(a)および(b)は、このようなインク滴の吐出時間差に応じた濃度ムラ発生を説明する図である。図6(a)は、2つのインク滴が吐出される時間間隔が長い場合を示し、図6(b)は2つのインク滴が吐出される時間間隔が短い場合を示している。図6(a)において、先吐出インク滴が記録媒体に着弾し、記録媒体の内部に浸透し定着して行く。比較的長い時間で定着した後、後吐出インク滴が着弾し、先吐出インクの下に潜り込むように浸透して行き、先吐出インクの下に定着する。一方、図6(b)に示す場合も、先吐出インク滴が記録媒体に着弾し、記録媒体の内部に浸透して行く。この場合、次のインク滴が着弾するまでの時間が短いため、先吐出インク滴が定着していく過程で、次の後吐出インク滴が着弾する。このため、先吐出インク滴の未定着インクと後吐出インク滴が、一体のインクとして浸透していき、最終的には定着する。その結果、先吐出インク滴は後吐出インク滴に下方に押し流されるため、浸透の度合いがより紙面下方になり濃度が低くなる。すなわち、図6(a)および(b)に示すように、先吐出インク滴の浸透の深さ、つまり定着位置が異なり、画像濃度はこの位置が高い方が高くなる。すなわち、時間間隔が長い方が濃度が高くなる。
以上のように、ある領域を記録する複数回の記録の時間間隔の違いに応じて、複数回の走査で記録が完成する単位領域の左端と右端との間で濃度差が生じる。また、図5に示すように、このような単位領域が隣接するとき、濃度の異なる領域が交互に隣接しこれも濃度ムラ(以下、バンド間むらとも言う)として認識される。特に、単位領域の左端部や右端部では濃度の違いが大きく、このバンド間むらが顕著に認識される。
以上のような記録時間差によって発生する時間差むらを抑制する技術として、特許文献1に記載されたものが知られている。この文献には、濃度ムラが生じる可能性が高いときは、記録モードを双方向記録から片方向記録へ切り替えることが記載されている。詳細には、記録領域を主走査方向において複数のエリアに分割し、それぞれのエリアに付与される黒インクおよびカラーインクのドット数をカウントする。そして、黒、カラーが共にそれぞれの閾値を超えるエリアがある場合には、そのエリア数をカウントしその数が所定数以上のときは時間差むらが生じる可能性が高いとして、片方向記録に切り換える。これによって記録画像の両端で発生する時間差むらを抑制することを可能としている。また、同文献には、記録する画像データの幅、つまり、記録ヘッドが走査する範囲の幅を検知し、その幅が小さいときは時間差むらの程度が小さいとして上記のエリア数が所定値以上でも、片方向記録に切り替えないようにすることも記載されている。
時間差むらを抑制する他の技術として、特許文献2には、記録幅が長い場合にはマルチスキャンのパス数を多くすることでバンド間の時間差むらを目立たなくすることが記載されている。更に、同文献には、時間差むらを高周波で繰り返すようにして時間差むらを認識し難くすることも記載されている。また、記録幅が長い場合は記録ヘッドの走査速度を上げてマルチパスの時間差を短くすることや、片方向記録に切り替えて各バンドにおける記録時間を同じにすることで時間差むらを低減することも記載されている。
特開2003−34021号公報
特開2005−144868号公報
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
記録装置の構成
図7は本発明を適用可能なインクジェット記録装置の要部構成を模式的に示した斜視図である。図7において、1A、1B、1Cおよび1Dは記録ヘッドとインクタンクを一体に構成したヘッドカートリッジを示し、キャリッジ2に対しそれぞれ独立に交換可能に搭載される。ヘッドカートリッジ1A〜1Dのそれぞれには、記録ヘッドを駆動する信号を受けるためのコネクタが設けられている。
ヘッドカートリッジ1のそれぞれの記録ヘッド部は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)および黒(Bk)のインクを吐出し、これに応じて対応するインクタンク部には、C、M、YおよびBkのインクが収納されている。各ヘッドカートリッジ1は、キャリッジ2に位置決めして交換可能に搭載されており、キャリッジ2には、コネクタを介して記録ヘッド1のそれぞれに駆動信号等を伝達するためのコネクタホルダ(電気接続部)が設けられている。
キャリッジ2は、記録装置本体に配備されたガイドシャフト3に沿って、主走査方向に移動可能な状態に案内支持されている。また、キャリッジ2は、主走査モータ4により、モータプーリ5、従動プーリ6およびタイミングベルト7を介して駆動され、その位置及び移動が制御されている。
用紙やプラスチック薄板等の記録媒体8は、2組の搬送ローラ9、10及び11、12の回転により、記録ヘッド1の吐出口面と対向する位置(記録部)を通過する様に搬送(紙送り)される。その際、記録部において平坦な記録面を形成できるように、記録媒体の裏面をプラテン(不図示)により指示されている。また、2組の搬送ローラ対(9と10および11と12)は、キャリッジ2に搭載された各記録ヘッド1の吐出口面と、プラテン上の記録媒体8との距離が所定量に維持されるように、記録部の両側から記録媒体8を支える役割も果たしている。
図7には示していないが、キャリッジ2には光学センサが取り付けられている。本実施形態で適用する光学センサは、発光素子と受光素子を有する赤色LEDもしくは赤外線LEDであり、これらの素子は記録媒体8に対してほぼ平行になるような角度で取り付けられている。また、光学センサから記録媒体8まで距離は、用いる光学センサの特性に応じて決定されるものであるが、本実施形態では6〜8mm程度に設定されているものとする。さらに、記録ヘッド1からのインク吐出によるミストなどの影響を受け難くするために、光学センサは筒状の部材で覆われていることが好ましい。
図8は、記録ヘッド部におけるインク吐出部13の主要な構造を説明するための模式的斜視図である。図8において、吐出口面21は記録媒体8と所定の隙間(本実施形態では約0.5〜2[mm]程度)を保って対向する面であり、吐出口面21には所定のピッチで複数の吐出口(以下、ノズルとも言う)22が形成されている。各吐出口22は複数の流路24を介して共通液室23と連通されており、共通液室23から吐出口22までは、常に断続的にインクが充填された状態となっている。各流路24の壁面には、インクを吐出するためのエネルギを発生する電気熱変換体(発熱抵抗体など。以下、吐出ヒータともいう)25が配設されている。
吐出に際して、吐出信号に基づいて各電気熱変換体25に所定の電圧が印加される。これにより、電気熱変換体25は電気エネルギを熱エネルギに変換し、発生した熱により流路24内のインクに膜沸騰が生じる。さらに、急激に発泡する泡の圧力によって、インクが吐出口22へと押し出され、所定量のインクが滴として吐出される。本実施形態では、このように膜沸騰による気泡の成長および収縮によって生じる圧力変化を利用して、吐出口22よりインクを吐出させるインクジェット記録ヘッドを適用している。
本実施形態においては、複数の吐出口22がキャリッジ2の走査方向と交差する方向に配列するような位置関係で、記録ヘッド1がキャリッジ2に搭載される。
制御回路の構成
図9は、本実施形態の上述したインクジェット記録装置における制御構成を示すブロック図である。
図9において、1010はホスト装置との間で記録信号等の授受を行うためのインターフェイス、1011はMPUをそれぞれ示す。1012はプログラムROM、1013はダイナミック型のRAMをそれぞれ示す。ROM1012は、MPU1011が実行する制御プログラムを格納する。また、RAM1013は、各種データ(上記記録信号や記録ヘッドに供給される記録データ等)を保存し、また、記録ドット数や、ヘッドカートリッジの交換回数等も記憶することができる。1014は記録ヘッド1018に対する記録データの供給制御を行うゲートアレイを示し、インターフェース1018、MPU1011、RAM1013間のデータの転送制御も行う。1020は記録ヘッド1018の走査のための移動の駆動源をなすキャリモータ、1019は記録用紙搬送のための駆動源をなす搬送モータをそれぞれ示す。1015は記録データに基づきヘッドを駆動してインクを吐出させるためのヘッドドライバ、1016、1017はそれぞれ搬送モータ1019、キャリアモータ1020を駆動するドライバを示す。
以上の図9に示す制御構成において、インターフェース1010に記録信号が入力されるとゲートアレイ1014とMPU1011との間で、記録信号をプリント用の記録データに変換する処理が行われる。また、モータドライバ1016および1017を介してそれぞれモータ1018および1020の駆動が制御される。これとともに、ヘッドドライバ1015に送られた各色の記録データに従ってそれぞれの記録ヘッド(部)1018が駆動され、記録動作が行われる。
図10は、本実施形態の記録装置内部での記録データの流れを説明する図であり、同図に示す各バッファはDRAM1013(図9参照)に構成されるものである。
ホストコンピュータ101やデジタルカメラ102からの記録データはインターフェース1010を介して受信バッファ1101に送られ、ここに記憶される。受信バッファ1101は数十k〜数百kバイトの容量を有している。受信バッファ1101に蓄えられた記録データは、コマンド解析部1041によってコマンド解析が行われ、その後テキストバッファ1102へ送られる。テキストバッファ1102では、一行分の中間形式として記録データが保持され、各文字の記録位置、修飾の種類、大きさ、文字(コード)、フォントのアドレス等が付加される処理が行われる。テキストバッファ1102の容量は機種毎によって異なり、シリアルプリンタであれば数行分の容量、ページプリンタであれば1ページ分の容量を有している。さらにテキストバッファ1102に蓄えられた記録データは、展開部1042によって展開され、プリントバッファ1103に2値化された状態で蓄えられる。このデータは、最終的に記録ヘッドに記録データとして送られ、記録が行われる。
本実施形態では、後述されるように、プリントバッファに蓄えられている2値データに対して、複数回の走査で記録を完成する単位領域ごとの記録データに対してマスクパターンを用いた間引き処理を行う。これにより、単位領域の記録を完成する複数回の走査ごとの記録データを生成する。これとともに、未使用ノズルに対応した記録データのマスク処理も行う。なお、上記の構成において、プリントバッファに蓄えられている状態のデータを見てからマスクパターンを設定することもできる。また、上述の構成の代わりにテキストバッファを有することなく、受信バッファに蓄積した記録データをコマンド解析と同時に展開してプリントバッファに書き込むこともできる。
図11は、以上示した構成においてマルチスキャン方式の記録を行うための記録データ生成を示すブロック図である。同図において、データレジスタ1201は、メモリデータバスに接続され、メモリ1013中のプリントバッファ1103に蓄えられている記録データを読み出して一時的に格納する。本実施形態では、このデータレジスタ1201への記録データの読み出しの際に、未使用ノズルに対する未使用マスク処理を行う。具体的には、未使用ノズルに対応する記録データを読み出さないようにする。なお、未使用マスク処理はこのような構成に限られないことはもちろんである。例えば、以下に示すマスクレジスタを未使用ノズルに対応させて別途設けるようにしてもよい。
さらに図11において、1202はデータレジスタ1201に格納されたデータをシリアルデータに変換するためのパラレル−シリアル変換器、1203はシリアルデータにマスクをかけるためのANDゲートをそれぞれ示す。1204はデータ転送数を管理するためのカウンタを示す。
1205はMPUデータバスに接続され、マスクパターンを格納するためのレジスタを示す。1206はマスクパターンの桁位置を選択するためのセレクタ、1207はマスクパターンの行位置を選択するためのセレクタおよび1211は桁位置を管理するためのカラムカウンタをそれぞれ示す。
以上の構成を有したデータ転送回路は、MPU1011から送られる記録信号に応じて、記録ヘッドにノズル数分のプリントデータをシリアル転送する。すなわち、プリントバッファ1103に蓄えられている記録データはデータレジスタ1201に一時的に格納され、パラレル−シリアル変換器1202によってシリアルデータに変換される。変換されたシリアルデータはANDゲート1203によってマスクが施された後、記録ヘッドに転送される。転送カウンタ1204は転送ビット数をカウントしてノズル数分の値に達すると、データ転送を終了させる。
マスクレジスタ1205は、4個のマスクレジスタA,B,C,Dより構成され、MPU1101によって書き込まれたマスクパターンを格納する。各レジスタは縦4ビット×横4ビットのマスクパターンを格納する。セレクタ1206はカラムカウンタ1211の値を選択信号とすることによって桁位置に対応したマスクパターンデータを選択する。また、セレクタ1207は転送カウンタ1204の値を選択信号とすることによって行位置に対応したマスクパターンデータを選択する。セレクタ1206、1207によって選択されたマスクパターンデータにより、ANDゲート1203を用いて転送データにマスクがかけられる。
なお、本実施形態では、4つのマスクレジスタ構成で説明したが、これは他のマスクレジスタ数であってもよい。また、マスク処理が施された転送データは直接記録ヘッドに供給したが、一旦プリントバッファに格納する構成であってもよい。
以上、図7〜図11にて説明した構成を有したインクジェット記録装置における双方向マルチスキャン方式による記録動作のいくつかの実施形態を以下に説明する。
(実施形態1)
図12は、本発明の第一の実施形態に係る双方向走査によるマルチスキャン記録の一例を示す図である。
同図は、16のノズルブロックを備えた記録ヘッドを用いて、往走査と復走査の2回の走査で単位領域の記録を完成する例を示している。本実施形態では、1つのノズルブロックが16個のノズルから構成されている。本実施形態の記録では、従来のマルチスキャン記録とは、各走査間で行われる記録媒体搬送の搬送量が異なる搬送制御を行う。すなわち、本実施形態では、図12に示すように、往方向の第1走査の後、1ノズルブロック(×ノズルピッチ)分の搬送を行い、次に復方向の第2走査によって単位領域である「記録領域1」の記録を完成する。そして、この単位領域の記録完成の後は14ノズルブロック分の搬送を行う。次に、往復の第3および第4走査で、同様にして「記録領域2」の記録を完成する。以降、同様にして往復2回の走査を行い単位領域の記録を行ってゆく。
また、以上の記録において、「記録領域1」、「記録領域2」などの順次に記録が完成する単位領域の長さ(図12において縦方向の長さ)は、15ノズルブロック分に相当する。すなわち、各走査で記録ヘッドのノズル列の上端または下端の1ノズルブロック分の記録データがマスクされた結果の、使用ノズルの重複した15ノズルブロック分に相当する長さで記録される。例えば、「記録領域1」を記録する往方向の第1走査では、最上端の1つの未使用ノズルブロックに対応する記録データがマスクされる。具体的には、プリントバッファ1103から記録データを読み出すとき、記録ヘッドの総て(16ブロック)のノズル単位で記録データを読みだす。その際、最上端の1つのノズルブロックに対応する記録データをマスクする。すなわち、上述したように、最上端のノズルブロックに対応した記録データを読み出さないようにする。なお、実際には、マスクされる記録データは、「記録領域1」の上側で隣接する単位領域を記録するデータであり既に記録が完成しているため、このデータはプリントバッファ1103から削除されている。次の第2走査では、16のノズルブロックのうち最下端の1つの未使用ノズルブロックに対応する記録データがマスクされる。この場合も同様に、プリントバッファから、16のノズルブロック単位で記録データを読み出す際に、最下端のノズルブロックに対応する記録データの読み出しを禁止する処理を行う。このとき、最下端のノズルブロックに対応する記録データは次の「記録領域2」を記録するデータであり、プリントバッファに格納されている。
以上の未使用ノズルブロックに対するマスク処理の他、図11にて説明したように、2回の走査で記録を完成するマルチスキャン記録行うためのマスクパターンを用いたマスク処理が行われる。具体的には、それぞれの単位領域を記録するための15のノズルブロックに対応したマスクパターンを、記録を完成する2回の走査ごとに用意し、それぞれの走査のマスクパターンによって間引かれた記録データを生成する。
以上の本実施形態の記録によれば、「記録領域1」、「記録領域2」、・・・のいずれの単位領域でも、各走査間での記録時間差は、走査方向における同じ位置では同じ時間差となる。例えば、いずれの単位領域でも、1回目の走査で記録された後に直ぐに2回目の走査での記録が行われる領域が右端部に存在し、1回目の走査で記録された後に、ほぼ2回分の記録走査時間が経過してから、2回目の走査での記録が行われる領域が左端部に存在する。これにより、図12に示すように、いずれの単位領域(記録領域1、記録領域2、・・・)でも、左端部では画像濃度が高く、右端部では画像濃度が低くなる。その結果、記録媒体の搬送方向に隣接する単位領域間での濃度の違い、すなわち、バンド間ムラを認識し難くなる。
なお、本実施形態の記録によれば、記録を完成するそれぞれの単位領域の走査方向の記録時間差の違い、従って濃度の違いを解消することはできない。すなわち、単位領域の左端部では濃度が高く、右端部では濃度が低くなる。しかし、この濃度違いは急激に変化するものではなく、走査方向に対して徐々に変化するものである。このような濃度変化はユーザーには比較的に認識され難いと言える。これは、人間の視覚特性によっている。すなわち、人間の目は、周囲との大きな違い、つまり変化率の大きい部分を見出し易いが、連続している微少な変化に対してはその違いを補完してしまい、最初に見た領域の濃度と最後に見た領域の濃度の違いを認識し難いという特性を有しているからである。
図13は、図12で説明した本実施形態の記録における、主にノズルブロックの使用/未使用の詳細を説明する図である。図13に示すように、記録ヘッドは16個のノズルブロックから構成されている。それぞれのブロックは16個のノズルから構成され、記録ヘッドは、合計256ノズルを備えている。図12に示したように、第1走査では、最上端の1ブロックを未使用ノズルとしている。その他の15個のブロックのノズルを使用する。次に、第2走査では、最下端の1ブロックに対して、未使用マスクを設定して、未使用ノズルとしている。その他の15個のブロックのノズルを記録に使用する。そして、第1記録走査と第2記録走査との間で、記録媒体の搬送方向(副走査方向)の送り量が、1ブロック分である。つまり、各記録走査で設定する未使用ノズルの長さ(ピッチ)分をある単位領域の記録を完成する走査間での送り量としている。これに対し、別の単位領域へ移行するときの送り量は、上述したように、14ノズルブロック分である。
また、各走査における使用ノズルは、2回の記録走査で補完できる間引きマスクが対応付けたれている。間引きマスクは、その内容に限定されることは無く、例えば、千鳥・逆千鳥マスクでも良いし、ランダムマスクでも良い。
以上説明したように、同一の記録領域を記録する際に、各走査で使用する記録ヘッドのノズルに対して、記録走査毎に未使用マスクが設定され、また、使用ノズルに関連させた量の記録媒体搬送が行なわれる。これにより、各記録走査間での時間差を発生させること無く、搬送方向に対して記録走査間での濃度ムラを抑制した記録を行うことができる。つまり、隣接する記録領域間での記録走査の時間間隔を略同一にすることができるので、バンド間ムラのない高画質記録が実施可能であり、その結果、高速記録と高画質記録の両立が実現可能となる。
なお、本実施例では、16ノズルを1ブロックとして、ブロック単位でのノズル制御及びマスク制御について説明をしてきたが、ブロック単位での制御に限定されるものではなく、また、そのノズル数に限定されるものでもない。例えば、未使用ノズルが1ノズルであっても、同じ考え方を適用することができる。未使用マスクの数と記録媒体の搬送量の関係が維持されている記録走査であれば、同様の効果を得ることはできる。
但し、ノズル数が比較的多い記録ヘッドの場合、全ノズルから同時に吐出すると、電圧変動が大きく、また隣接ノズルの吐出影響などで吐出が不安定になり易い傾向にある。一般的には、1カラムの記録を行う駆動周期を複数の駆動タイミングに分割して吐出を行っている。例えば、1カラムに対して16分割して、同時駆動が行われるノズルは16ノズル間隔とされる。図13に示した記録ヘッドの場合、16ノズルが同時に吐出され、それが16回繰り返されて、記録ヘッドのノズル数分の吐出が完了する。このような駆動タイミングの設定が、ある特定の順番(駆動パターン)で行えるようしている。この記録ヘッドの駆動方法を用いる場合は、図13に示したように、1ブロックが駆動タイミングの駆動パターン1周期分に相当する。1ラスタ内の記録において、駆動パターンが同じ周期であることが好ましく、仮に周期ズレがある場合には、微妙な着弾ズレを生じて、テキスチャの原因になることもある。従って、より好ましくは、駆動パターン単位で本発明を適用することが望ましい。
(実施形態2)
本発明の第二の実施形態は、マルチスキャン記録における記録を完成する走査の回数に応じて、マルチスキャンの態様を異ならせる記録制御について説明をする。具体的には、第一の実施形態で説明した記録方法と、通常の記録方法を、偶数パス(偶数回走査)か奇数パス(奇数回走査)かに応じて切り換え、それによってバンド間ムラを解消する。すなわち、本実施形態は、往復記録の時間差に起因するバンド間ムラは偶数パスのマルチスキャンでは顕著となるが、奇数パスの場合はそれほど顕著にならないことを利用したものである。図14はこの様子を説明する図であり、各記録走査間の時間差を説明するものである。
図14において、通常の2パスのマルチスキャン記録の場合、2パスで記録が完成する1つの単位領域は、第1記録走査と第2記録走査で記録が行われ、次の単位領域では第2記録走査と第3記録走査で記録が行われる。この場合に、記録媒体の左端領域に着目すると、第1記録走査と第2記録走査の記録時間差は大きい(A)が、次の単位領域を完成する第2記録走査と第3記録走査の間では、記録時間差は小さい(B)。この場合は、記録媒体の搬送方向で隣接する単位領域間で記録時間差が異なり、バンド間ムラが顕著となる。
一方、通常の3パスのマルチスキャン記録の場合は、3パスで記録が完成する1つの単位領域は、第1記録走査から第3記録走査で記録が行われ、次の単位領域は第2記録走査から第4記録走査で記録が行われる。記録媒体の左端部に着目すると、第1記録走査から第3記録走査で記録が完成する単位領域では、第1記録走査と第2記録走査の記録時間差が大きく(A)、第2記録走査と第3記録走査の記録時間差が小さい(B)。このように、記録時間差が大きい場合(A)と小さい場合(B)が同等に存在している。第2記録走査から第4記録走査で記録が完成する隣接の単位領域でも、第2記録走査と第3記録走査の記録時間差が小さく(B)、第3記録走査と第4記録走査の時間間隔が大きく(A)、時間差は小さい場合と時間差が大きい場合が同等に存在している。このように3パスのマルチスキャンでは、隣接する単位領域間で、記録時間差の大、小の数が等しいことから、記録時間差に起因した濃度ムラが目立たないものとなる。
同様に、4回の記録走査で単位領域の記録を完成する4パスのマルチスキャン記録の場合、記録媒体の左端では、ある1つの単位領域は記録時間差A、B、A(以下、A+B+Aと記す)が存在する。次の隣接した単位領域はB+A+Bである。このように、4パスのマルチスキャン記録の場合、隣接する単位領域間で、記録時間差の大、小の数が異なり、その結果、記録時間差に起因した濃度ムラが顕著となる。一方、5パスのマルチスキャン記録の場合、1つの単位領域ではA+B+A+Bであり、次の隣接する単位領域はB+A+B+Aとなる。このように、5パスのマルチスキャンでは、隣接する単位領域間で、記録時間差の大、小の数が同じになる。その結果、往復記録での記録時間差に起因した濃度ムラは目立たない。
以上のとおり、偶数のパス数のときはバンド間ムラが顕著となり、奇数のパス数のときは、バンド間ムラは目立たないものとなる。そこで、本実施形態では、第一の実施形態で説明した記録時間差に起因する濃度ムラの発生を抑制したマルチスキャン記録方式をマルチスキャンのパス数に応じて設定する。
図15は、本実施形態にかかるマルチスキャン記録方式の切り換えを伴う記録処理を説明するフローチャートである。図15において、先ず、ステップS1で記録データを取り込む。次に、ステップS2でパス情報の取得を行う。これは記録データに含まれる記録品位や記録媒体等の情報など参照して、記録装置が予めROM等の記憶媒体に予め有している組み合わせテーブルを参照してマルチスキャン記録のパス数を判断することによって行う。また、記録データ内に直接、パス数情報を繰り入れることによってもよい。
次に、ステップS3で、パス数情報に基づき偶数パスであるか、あるいはその他のパス、つまり奇数パスであるかを判別する。偶数パスであるときは、ステップS4で、第1実施形態で説明した記録時間差抑制マルチスキャン記録方式を設定し、実行する。これにより、上述したように、偶数パスのマルチスキャン記録ではバンド間ムラが顕著になるところを、第1実施形態で説明した記録時間差抑制マルチスキャン記録方式によってバンド間ムラの発生を抑制することができる。一方、ステップS3で、偶数パスでないと判断したときは、ステップS5で、通常のマルチスキャン記録方式を設定し実行する。
以上のように、本実施形態によれば、記録時間差抑制マルチスキャン記録方式は常に適用されるのではなく、必要に応じて適用される。これにより、この方式の適用によって同じパス数の場合に通常のマルチスキャンに較べるとスループットが低くなることを可能な限り抑制することができる。
なお、本実施形態では、1つの記録データに対して、1種類のマルチスキャン記録方式を設定する。通常は、1つの記録ジョブに対して、1つのパス数が設定されるものであるが、例えば、記録領域毎に、記録データの種類などでパス数を切り換える場合などは、その設定されたパス数に応じて、記録領域毎にマルチスキャン記録方式を設定することもできる。
また、本実施形態では、偶数パスと奇数パスでマルチスキャン記録方式を切り換えるものとしているが、記録走査間隔の時間差の影響が大きい2パス記録の場合のみ、記録時間差抑制マルチスキャン記録方式を設定しても良い。この場合は、図15のステップS3で、2パスか否かという判断を行うことになる。
図16は、第一の実施形態で説明した記録時間差抑制マルチスキャン記録方式を実施するための制御処理を示すフローチャートである。なお、図16に示す処理は2パスのマルチスキャン記録を行う場合を示している。
図16において、先ず、ステップS101で記録データを取り込む。次に、ステップS102で第1記録走査かあるいはそれとは違う記録走査のいずれかを判断する。
ステップS102で第1記録走査であると判断したときは、ステップS103で、図12、図13にて説明したように第1記録走査用の未使用マスクを設定する。具体的には、ノズルないしノズルブロックに対応させて記録データの特定を行いその読み出しを行わない設定を行う。
次に、ステップS104で第1記録走査において使用するノズルに対して、2パスのマルチスキャンの1パス目の間引きマスクを設定する。ここで設定される間引きマスクは、記録を完成する1つの単位領域に関して、2パス目の記録走査の間引きマスクと補完関係あるマスクである。次に、ステップS105で第1走査による記録を実行する。そして、ステップS106で、図12にて説明した第1記録走査後の記録媒体の送り量を設定し、ステップS107でその送り量に従い記録媒体の搬送を実行する。
次に、ステップS108で、記録途中の記録データがあるかを判断する。ここで、記録途中の意味するところは、1つの単位領域に対するマルチスキャン記録が完成していない状態を示している。ステップS108で記録途中の記録データが無いと判断したときは、本シーケンスを終了する。ステップS108で記録途中の記録データがあると判断した場合、及び、ステップS102でて第1記録走査でないと判断したときは、ステップS109で第2記録走査であるか、違う記録走査かを判断する。
ステップS109で第2記録走査であると判断したときは、ステップS110で第2記録走査用の未使用マスクを設定する。ここで、図12、図13にて説明したように、第2記録走査で設定される未使用マスクは、第1記録走査とは異なるノズル位置になっている。次に、ステップS111で第2記録走査において使用するノズルに対して、記録を行う際の間引きマスクを設定する。ここで設定される間引きマスクは、第1記録走査で使用した間引きマスクと補完関係ある間引きマスクである。次にステップS112で第2走査による記録を実行して、ステップS113で設定した第2記録走査後の記録媒体の送り量に従って、ステップS114で記録媒体の搬送を実行する。ここで、設定される送り量は、使用ノズルと未使用ノズルの数に関連して決定される。次に、ステップS115で、次の記録データがあるかを判断する。ステップS115で次の記録データがあると判断した場合は、ステップS101に移行して、再度、画像データの取り込みを行い、本処理を繰り返す。この場合、図16に示す第1記録走査および第2記録走査は、図12にて説明した、第3記録走査および第4記録走査に該当することはもちろんである。すなわち、上記の説明では、単位領域の記録を完成する2回の走査をそれぞれ第1記録走査および第2記録走査としている。ステップS115で次の記録データが無いと判断した場合は、本処理を終了する。
なお、以上の各実施形態で説明した記録時間差抑制マルチスキャン記録方式は、2パス記録に関するものであるが、本発明の適用は2パスに限定されるものでないことはもちろんである。3パス、4パスなど、3パス以上のいずれのパス数の記録時間差抑制マルチスキャン記録方式を実行することができる。この場合、偶数パス数では、それぞれの単位領域の記録は往または復の一定の方向の走査で始まるが、奇数パスでは、それぞれの単位領域の記録の始まりは、往および復の走査が交互になる点が異なるだけである。
図17は、4パスの記録時間差抑制マルチスキャン記録方式を説明する図であり、図12と同様の図である。図12に示した例と同様、16のノズルブロックを備えた記録ヘッドを用いる例であり、往復4回の走査で単位領域の記録を完成する例を示している。1つのノズルブロックが16個のノズルから構成されている。
図17に示すように、往方向の第1走査の後、1ノズルブロック(×ノズルピッチ)分の記録媒体搬送を行う。次に復方向の第2走査を行い、その後同じく1ノズルブロック分の搬送を行う。さらに、往方向で第3走査を行い、その後同じく1ノズルブロック分の搬送を行い、最後に復方向の第4走査を行うことによって単位領域である「記録領域1」の記録を完成する。そして、この単位領域の記録完成の後は10ノズルブロック分の搬送を行う。次に、往復の第5走査、復方向の第6走査、往方向の第7走査および復方向の第8走査で、同様にして「記録領域2」の記録を完成する。以降、同様にして往復4回の走査を行い単位領域の記録を行う。
また、以上の記録において、「記録領域1」、「記録領域2」などの順次に記録が完成する単位領域の長さ(図17において縦方向の長さ)は、10ノズルブロック分に相当する。すなわち、「記録領域1」を記録する第1走査では、上端側の3つのノズルブロックに対応する記録データがマスクされる。次の、第2走査では、上端側の2つのノズルブロックと下端側の1つのノズルブロックに対応する記録データがマスクされる。さらに、第3走査では、上端側の1つのノズルブロックと下端側の2つのノズルブロックに対応する記録データがマスクされる。最後の第4走査では、下端側の3つのノズルブロックに対応する記録データがマスクされる。このようにマスクされた結果として各走査の使用ノズルの重複した部分である10ノズルブロック分の長さでそれぞれの単位領域が記録される。
以上の未使用ノズルブロックに対するマスク処理の他、4回の走査で記録を完成するマルチスキャン記録行うためのマスクパターンを用いたマスク処理が行われることはもちろんである。
以上説明した各実施形態のマルチスキャン記録における記録媒体搬送量などを一般化すると次のようになる。k回の走査で単位領域を完成する場合、すなわち、kパスのマルチスキャンの場合、上述の各実施形態では、k回の走査間それぞれの搬送量を1ノズルブロック分としている。この場合において、N個のノズルブロックを備えた記録ヘッドを用いるときの、次の単位領域に移行する際の搬送量は(N−2(k−1))・pで表される。ここで、pは1ノズルブロック分に相当する搬送量である。なお、搬送の単位をノズルブロックでなくノズル単位としても、上記pをノズルの配列ピッチとすれば、同じ式で搬送量を表すことができる。以下で示す量についても当てはまることは明らかである。また、記録データのマスク量の総和は、k回の走査のいずれでも、k−1ノズルブロック分であり、第m走査の上端側のマスク量は、(k−1)−(m−1)ブロック分である。さらに、使用ノズル、すなわちk回の走査で重複するノズルは、N−(k−1)ブロックである。
次に、k回の走査間それぞれの搬送量を1ノズルブロック分でなく、より一般化してqノズルブロック分とすると、上記の関係は次のようになる。次の単位領域に移行する際の搬送量は(N−2q(k−1))・pで表される。また、記録データのマスク量の総和は、k回の走査のいずれでも、q(k−1)ノズルブロック分であり、第m走査の上端側のマスク量は、q((k−1)−(m−1))ブロック分である。さらに、使用ノズル、すなわちk回の走査で重複するノズルは、N−q(k−1)ブロックである。
例えば、仮に、図12に示す場合において、通常のマルチスキャンと同じように、2回の走査(第1走査と第2走査と)の間の搬送量を、記録ヘッドのノズル列の半分である8ノズルブロック分(q=8)とする。この場合、隣接する「記録領域2」に移行するための(第2走査と第3走査との間の)搬送量は、上式から0ノズルブロック分となる。また、図17に示す場合において、通常のマルチスキャンと同じように、4回の走査(第1走査〜第4走査それぞれ)の間の搬送量を、記録ヘッドのノズル列の1/4である4ノズルブロック分(q=4)とする。この場合、隣接する「記録領域2」に移行するための(第4走査と第5走査との間の)搬送量は、上式から−8ノズルブロック分となって、この場合は逆方向へ搬送することになる。このように、通常のマルチスキャン記録では、次の単位領域を記録する最初の走査に移行するときの搬送量(N−2q(k−1))・pは単位領域を完成する複数回の走査の間の搬送量q・pと同じである。これに対し、本実施形態の方式では多くの場合これらの搬送量は異なる。実際上は、スループットなどを考慮すると、次の単位領域に移行するときの搬送量(N−2q(k−1))・pが、複数回の走査の間の搬送量q・pより大きいという関係を満たすことが望ましい。
ただし、q・p=(N−2q(k−1))・pを満たすqは存在し、その構成も本発明に含まれる。この場合に、仮に通常のマルチスキャンの条件の一つである、q=N/kの条件をも併せて満たすようなqを考えると、q=N、すなわち、1パスによる記録の場合であり、マルチスキャン記録という条件を満たさないものとなる。従って、マルチスキャン記録(2パス以上)の場合において、隣接する単位領域に移行するための搬送量が(N−2q(k−1))・pと規定されるとき、これらの条件は、通常のマルチスキャンを含まないものとなる。
なお、未使用ノズルに対応した記録データのマスク処理は、本発明を適用する上で必ず実施しなければならないものではない。最初から、未使用ノズルを除いたものとして設定される使用ノズルの単位で記録データを生成し、それを複数回走査のそれぞれの走査の使用ノズルに対応付けるようにしてもよい。例えば、図12に示す例では、単位領域の長さに対応したノズル列より1ブロック分少ない15ノズルブロック分単位で記録データを生成する。そして、第1走査では、このデータを上端側から2番目のノズルブロックから最下端のノズルブロックまでのノズルに対応付け、第2走査では、最上端のノズルブロックから下端から2番目のノズルブロックまでのノズルに対応付けるようにする。
次に、図15に示したステップS5の通常のマルチスキャン記録方式を比較のため説明をする。図18はこの方式の記録処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS201で記録データを取り込む。ここで、図15に手説明したように、既にパス数は決められている。次に、ステップS202で決められているパス数に応じて間引きマスクを設定してマスク処理を行い、これによって生成された記録データに基づき、ステップS205で記録を実行する。次に、ステップS204で設定した送り量に従って、ステップS205で記録媒体の搬送を実行する。そして、ステップS205で、次の記録データがあるかを判断する。ステップS205で次の記録データがあると判断した場合は、ステップS201に移行して、再度、画像データの取り込みを行い、本シーケンスを繰り返す。また、ステップS205で次の記録データが無いと判断した場合は、本処理を終了する。
通常のマルチスキャン記録方式の場合、パス数が決められていれば、間引きマスクと送り量を設定することで記録を行うことができる。一方、本発明の実施形態にかかる記録時間差抑制マルチスキャン記録方式では、未使用ノズルを設定すること、さらに未使用ノズルの数に関連して、送り量を決定することが異なる点である。
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、同一の記録領域を記録する際に、記録走査毎に未使用マスクを設定し、かつ未使用ノズルに連動して搬送方向への記録媒体の移動の設定を、パス数に応じて行うことができる。これにより、各走査間での時間差を発生させること無く、走査ごとの記録を行うことができる。その結果、通常のマルチスキャン記録と記録動作などをそれほど変更することなく、バンド間ムラのない高画質記録を実施することができる。