以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の実施の形態(以下、実施形態と記す)により本発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
まず、本実施形態に係るディーゼル機関及び車両の概略構成について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るディーゼル機関を含む車両の概略構成を示す模式図である。なお、図1においては、ディーゼル機関及び車両について本発明に関連する要部のみを模式的に示している。
本実施形態に係るディーゼル機関は、圧縮されて高温となった燃焼室内の雰囲気に、燃料を供給することで、燃料を自然着火させる圧縮着火式の内燃機関である。図1に示すように、ディーゼル機関10は、原動機として車両1に搭載されるものであり、当該車両1には、給油された燃料を貯蔵する燃料タンク220が設けられている。また、車両1には、ディーゼル機関10を含む車両1全体を制御する制御手段として、ディーゼル機関用電子制御装置(以下、ECUと記す)200が設けられている。ECU200は、各種の制御定数を記憶する記憶手段としてROM(図示せず)を有している。
ディーゼル機関10は、複数の気筒を有し、気筒ごとに燃料噴射弁(インジェクタ)80を備え、各燃料噴射弁80は、燃料分配管82内に形成された共通の燃料室(燃料レール)から燃料の供給を受ける、いわゆる「コモンレール式」のディーゼル機関10である。ディーゼル機関10に燃料を供給する燃料供給システム5には、燃料タンク220から燃料を吸入し、当該燃料を昇圧して、燃料分配管82内に形成された共通の燃料室に供給する高圧燃料供給ポンプ(高圧サプライポンプ)100を有している。高圧燃料供給ポンプ100を含む燃料供給システム5の詳細な構成については、後述する。
ディーゼル機関10には、内部に気筒が形成される機関本体系の部品として、図示しないシリンダブロック、ピストン、コンロッド、クランクシャフト、カムシャフト、及びシリンダヘッド20が設けられている。シリンダブロックには、シリンダボアが形成されており、ピストンが、シリンダボア内を往復運動する。シリンダブロックには、ピストンの頂面に対向して、シリンダボアを塞ぐようにシリンダヘッド20が結合されている。これらシリンダボア、ピストン、及びシリンダヘッド20により囲まれた空間が「気筒」となる。なお、気筒を後述する図2に符号12で示す。
クランクシャフトが回転すると、ピストンが往復運動し、気筒には、空気が吸入される。さらに、気筒には、燃料噴射弁80により燃料が供給される。供給された燃料は、気筒内に高温の雰囲気に曝されて着火する。燃料の着火・燃焼により生じるピストンの往復運動は、コンロッドを介して回転運動に変換されてクランクシャフトから出力される。クランクシャフトの近傍には、クランクシャフトの回転角位置(以下、クランク角と記す)を検出するクランク角センサ(図示せず)が設けられており、検出したクランク角に係る信号をECU200に送出している。ディーゼル機関10が、クランクシャフトから出力するトルク(以下、機関負荷と記す)は、ECU200により制御される。
シリンダヘッド20には、シリンダボアの軸心を挟んで、一方の側には、後述する吸気通路からの吸入空気を気筒に導く吸気ポート24が形成されており、他方の側には、気筒からの排出ガスを排出する排気ポート26が形成されている。シリンダヘッド20には、吸気ポート24及び排気ポート26の気筒側の開口に対応して、図示しない吸気弁及び排気弁が設けられている。これら吸気弁及び排気弁は、図示しないカムシャフトからの機械的動力を受けて駆動される。吸気弁及び排気弁は、クランク角に応じて所定のタイミングで開閉可能に構成されている。
本実施形態に係るディーゼル機関10には、気筒から排出される排出ガスの運動エネルギにより吸入空気を圧縮するターボ過給機60が設けられている。加えて、ディーゼル機関10には、外気から気筒に空気を導く吸気系の部品として、外気から空気を導入する外気ダクト41と、吸入した空気(以下、吸入空気と記す)から塵芥を除去するエアクリーナ42と、吸入空気の流量を計測するエアフロメータ(図示せず)と、ターボ過給機60により圧縮された空気を冷却するインタークーラ45と、吸入空気の流量を調整するスロットル弁46と、吸入空気を各気筒に分配する分配管である吸気マニホールド48が設けられている。
吸気マニホールド48は、その下流側がシリンダヘッド20に接続されており、吸気マニホールド48に形成されたブランチ通路49が吸気ポート24に連通している。ブランチ通路49より上流側には、これに連通するサージ室が形成されている。一方、吸気マニホールド48の上流側には、スロットル弁46が設けられている。スロットル弁46は、気筒に吸入される吸入空気の流量(以下、吸入空気量と記す)を調整する。スロットル弁46の開度、すなわち吸入空気量は、ECU200により制御される。
また、スロットル弁46の上流側には、吸気配管47が接続されている。吸気配管47内の通路は、吸気マニホールド48内のサージ室に連通している。吸気配管47の上流側には、インタークーラ45が接続されている。インタークーラ45は、熱交換器として構成されており、後述するターボ過給機60のコンプレッサ62により圧縮されて高温となった吸入空気(給気)を冷却する。
インタークーラ45の上流側には、吸気配管44が接続されている。吸気配管44内の通路は、インタークーラ45内の通路を介して、吸気配管47内の通路に連通している。吸気配管44の上流側には、ターボ過給機60のコンプレッサ62が接続されている。吸気配管44内の通路は、ターボ過給機60のコンプレッサ62内に連通している。
ターボ過給機60のコンプレッサ62の上流側には、吸気配管43が接続されている。吸気配管43内の通路は、ターボ過給機60のコンプレッサ62内に連通している。吸気配管43の上流側には、エアクリーナ42が接続されており、エアクリーナ42の上流側には、外気ダクト41が設けられている。吸気配管43内の通路は、エアクリーナ42を介して外気ダクト41内に連通している。
エアクリーナ42のエレメントより下流側には、図示しないエアフロメータが設けられている。エアフロメータは、外気ダクト41から導入された吸入空気量を検出する。エアフロメータは、検出した吸入空気量に係る信号を、ECU200に送出している。
外気ダクト41から導入された新気は、エアクリーナ42を通過し、エアフロメータで流量が検出されて、ターボ過給機60のコンプレッサ62で圧縮される。圧縮されて高温となった吸入空気は、インタークーラ45で冷却されて、スロットル弁46に流れる。スロットル弁46で流量が調整された吸入空気は、吸気マニホールド48内のサージ室に流入し、ブランチ通路49から各気筒に分配され、吸気ポート24を経て気筒に流入する。
また、ディーゼル機関10には、気筒からの排出ガスを外気に排出する排気系の部品として、各気筒からの排出ガスを合流させてターボ過給機60に導く排気マニホールド52と、排出ガス中の窒素酸化物及び粒子状物質(PM)を処理する排気後処理装置55と、排気後処理装置55からの排出ガスを酸化反応により浄化する酸化触媒58と、酸化触媒58と排気後処理装置55との間における排出ガスの酸素濃度を検出するA/Fセンサ98が設けられている。
排気マニホールド52内のうち上流側には、各気筒に対応してブランチ通路51が形成されており、各気筒の排気ポート26に連通している。また、排気マニホールド52内の通路のうち下流側には、各気筒からの排出ガスが合流する合流部が形成されている。排気マニホールド52は、ディーゼル機関10が有する複数の気筒の吸気ポート26から排出された排出ガスを、合流部で合流させて後述するターボ過給機60のタービン64に導く。
ターボ過給機60は、吸気配管43と吸気配管44との間に介在して設けられたコンプレッサ62と、排気マニホールド52と排気管54との間に介在して設けられたタービン64とを有している。コンプレッサ62のハウジング内には、回転することで空気を圧縮するコンプレッサホイールが収容されており、タービン64のハウジング内には、排出ガスの流れにより回転駆動されるタービンホイールが収容されている。コンプレッサホイールとタービンホイールは一体に結合されている。
ターボ過給機60は、排気マニホールド52内の排気通路の合流部からタービン64内に流入する排出ガス流の運動エネルギによりタービンホイール及びコンプレッサホイールが回転駆動され、コンプレッサ62内にある空気を圧縮してインタークーラ45に給送する。タービン64内の排出ガスは、排気管54内の通路を下流側に流れ、後述する排気後処理装置55に流入する。
排気後処理装置55の前段(上流側)には、排出ガス中の窒素酸化物を吸蔵し、窒素に還元する排気浄化触媒であるNOx吸蔵還元型触媒55aが設けられている。一方、後段(下流側)には、フィルタ機構付き排気浄化触媒であり、PM(粒子状物質)と窒素酸化物を同時に浄化するDPNR触媒システム55cが設けられている。
NOx吸蔵還元型触媒55aは、これを流れる排出ガスが、酸素を多く含む酸素過剰雰囲気(リーン雰囲気)となっている場合、排出ガス中の窒素酸化物を硝酸塩の形で吸蔵する。一方、NOx吸蔵還元型触媒55aを流れる排出ガスが、未燃の炭化水素(以下、単に「HC」と記す)を多く含む還元雰囲気(リッチ雰囲気)となっている場合には、排出ガス中に含まれる還元剤としてのHCにより、吸蔵された窒素酸化物を窒素に還元する。このようにして、NOx吸蔵還元型触媒55aは、排出ガス中の窒素酸化物を浄化する。
一方、DPNR触媒システム55cは、PMを捕集し、捕集したPMを燃焼させて二酸化炭素として放出することでフィルタを再生するディーゼル・パティキュレート・フィルタ(以下、DPFと記す)の機能と、上述のNOx吸蔵還元型触媒の機能を組み合わせたものであり、PMと窒素酸化物とを同時に浄化することが可能となっている。詳細には、DPNR触媒システム55cは、これを流れる排出ガス中のPMをフィルタに捕集すると共に、排出ガスが酸素過剰雰囲気(リーン雰囲気)となっている場合、窒素酸化物を硝酸塩に変化させて吸蔵し、このとき生じた活性酸素と、排出ガス中の酸素により、捕集したPMを酸化する。一方、DPNR触媒システム55cを流れる排出ガスが、還元雰囲気(リッチ雰囲気)となっている場合には、排出ガス中に含まれる還元剤としてのHCにより、吸蔵された窒素酸化物を窒素に還元すると共に、このとき生じた活性酸素によりPMを酸化する。このようにして、DPNR触媒システム55cは、連続してPMを酸化・燃焼させて、PMが捕集されたフィルタを再生することが可能となっている。
以上に説明した排気後処理装置55の下流側には、排気管56が接続されており、排気管56内の排気通路には、排気後処理装置55により窒素酸化物及びPMが低減された排出ガスが流れる。排気管56には、この排気通路における排出ガスの酸素濃度を検出するA/Fセンサ98が装着されている。A/Fセンサ98は、排気後処理装置55により窒素酸化物及びPMが低減されて、酸化触媒58に流入する排出ガス中の酸素濃度に係る信号を、ECU200に送出している。
排気管56の下流側には、酸化触媒58が設けられている。酸化触媒58は、排気後処理装置55を通過した排出ガスに含まれている炭化水素や一酸化炭素を、酸化して浄化する。酸化触媒で浄化された排出ガスは、外気に放出されることとなる。
また、ディーゼル機関10には、気筒から排出された排出ガスの一部を、排気通路から取り入れて吸気通路に流す、いわゆる排出ガス再循環装置70(以下、EGR装置と記す)が設けられている。EGR装置70は、排気通路と吸気通路を連通させるEGR通路と、EGR通路を流れる排出ガス(以下、EGRガスと記す)の流量を調整するEGR弁77と、EGRガスを冷却するEGRクーラ74とを有している。
上述した排気マニホールド52には、EGRガスの取入口71が設けられており、取入口71には、EGR配管72が接続されている。EGR配管72のうち、EGRガスの流動方向の下流側には、EGRクーラ74が接続されている。EGRクーラ74は、熱交換器で構成されており、流入したEGRガスを冷却することが可能となっている。EGRクーラ74の下流側には、EGR配管76が接続されている。
EGR配管76の下流側の端には、EGR弁77が配設されている。EGR弁77は、電磁式の流量制御弁で構成されている。EGR弁77の下流側には、EGR配管78が接続されている。EGR配管78は、吸気マニホールド48に設けられたEGRガスの流出口79と、EGR弁77とを接続している。EGR弁77の開度、すなわちEGR通路を流れるEGRガスの流量は、ECU200により制御される。
また、ディーゼル機関10には、気筒内に燃料を供給する燃料噴射弁80とは別に、排気通路に燃料を添加する排気燃料添加弁89が設けられている。排気燃料添加弁89は、電磁駆動式の燃料噴射弁で構成されており、高圧燃料供給ポンプ100から燃料通路87を介して、所定の燃料圧力(例えば、1MPa)で燃料の供給を受けている。排気燃料添加弁89は、ディーゼル機関10に複数ある気筒のうち、排気ポート26からタービン64までの排気経路が最も短い気筒の排気ポート26近傍に設けられている。排気燃料添加弁89は、排気ポート26内に露出している噴孔から燃料を噴射することで、排気通路に燃料を添加することが可能となっている。
次に、本実施形態に係るディーゼル機関の燃料供給システムの構成について、図2を用いて説明する。図2は、本実施形態に係る燃料供給システムの構成を示す模式図である。なお、図2においては、燃料供給システムの構成について、本発明に関連する要部のみを模式的に示している。
燃料供給システム5は、気筒ごとに設けられ、気筒内に直接に燃料を噴射する燃料噴射弁80と、各燃料噴射弁80に燃料を分配し供給する燃料分配管82と、燃料分配管82内の燃料レール88に、昇圧した燃料を供給する高圧燃料供給ポンプ100と、給油された燃料を貯蔵する燃料タンク220とを有している。
燃料噴射弁80は、開弁用のアクチュエータとしてピエゾ素子(圧電素子)が用いられた燃料噴射弁であり、1サイクル中に複数回の燃料噴射、いわゆる多段噴射を行うことが可能なものである。各サイクルにおける燃料噴射弁80の噴射期間、すなわち噴射時期及び噴射時間長さ(開弁時間)は、図示しないドライバユニットを介して、ECU200により制御される。各燃料噴射弁80は、共通の燃料レール88から所定の燃料圧力(例えば、120MPa)で燃料の供給を受ける。
燃料分配管82は、高圧の燃料を蓄えると共に、当該燃料の圧力変動を抑制可能な高圧燃料貯蔵室である燃料レール88を有している。燃料分配管82は、燃料レール88から各燃料噴射弁80に燃料を分配して供給する。なお、燃料レール88における燃料圧力を、以下の説明において「レール圧」と記す。
燃料分配管82の一端には、燃料レール88における燃料圧力を検出する燃料圧力センサ81が設けられている。燃料圧力センサ81は、燃料レール88すなわち高圧側燃料通路の燃料圧力に係る信号をECU200に送出している。燃料分配管82の他端には、燃料レール88の圧力を、最大許容圧力以下に制限する圧力制限弁(pressure limiter)83が設けられている。圧力制限弁83は、レール圧が最大許容圧力を超えると開弁して、燃料レール88にある燃料を、リターン通路86を通して燃料タンク220に戻す。燃料分配管82内の燃料レール88には、高圧燃料通路84(高圧側燃料通路)を通して、高圧燃料供給ポンプ100から、昇圧された燃料(高圧燃料)が供給される。
高圧燃料供給ポンプ100は、ディーゼル機関10のカムシャフトやクランクシャフト等からの機械的動力を受けて作動する。高圧燃料供給ポンプ100は、燃料タンク220に貯蔵されている燃料を、低圧燃料通路222(低圧側燃料通路)から吸入する。低圧燃料通路222の途中には、燃料中の塵芥を除去する燃料フィルタ224が設けられている。高圧燃料供給ポンプ100は、吸入した燃料タンク220からの燃料を昇圧して、高圧燃料通路84(高圧側燃料通路)を通して、燃料レール88に燃料を圧送して供給する。高圧燃料供給ポンプ100において余剰となった燃料は、リターン通路130,226を通して、燃料タンク220内に戻される。このようにして、高圧燃料供給ポンプ100は、低圧側燃料通路から吸入した燃料を昇圧して、燃料噴射弁80が燃料の供給を受ける高圧側燃料通路に燃料を供給することができる。
なお、「高圧側燃料通路」とは、高圧燃料供給ポンプ100により昇圧された高圧燃料が流れる燃料流路を意味している。本実施形態において高圧側燃料通路には、高圧燃料通路84に加えて、燃料分配管82内の燃料室(燃料レール)88等が含まれる。これら高圧側燃料通路における燃料圧力を、以下の説明において「高圧側燃圧」と記す。つまり、本実施形態において上述のレール圧が「高圧側燃圧」となる。
これに対して、「低圧側燃料通路」とは、高圧燃料供給ポンプ100が吸入する低圧燃料が流れる燃料流路を意味しており、本実施形態において、低圧側燃料通路には、低圧燃料通路222に加えて、リターン通路130,226等が含まれている。
次に、本実施形態に係る高圧燃料供給ポンプの構成について、図3を用いて説明する。
図3は、本実施形態に係る高圧燃料供給ポンプの構成を示す模式図である。図4は、高圧燃料供給ポンプの吸入調量弁の構造を示す断面図である。なお、図3においては、高圧燃料供給ポンプについて本発明に関連する要部のみを模式的に示している。なお、以下の説明において、燃料の流動方向の上流側を、単に「上流側」と記し、燃料の流動方向の下流側を、単に「下流側」と記す。
図3に示すように、高圧燃料供給ポンプ100は、低圧側燃料通路から吸入した燃料を、予圧して送出するフィードポンプ102と、フィードポンプ102から送出された燃料を吸入し、昇圧して高圧側燃料通路に送出する高圧ポンプ110と、フィードポンプ102から送出されて高圧ポンプ110に吸入される燃料の流量を調整する吸入調量弁105を有している。なお、高圧ポンプ110及びフィードポンプ102から余剰燃料を燃料タンク220に戻すリターン通路については、説明を省略する。
フィードポンプ102は、回転軸の異なる2つの歯車が内接かみ合いをする形式の内接歯車ポンプである。フィードポンプ102は、ディーゼル機関10のカムシャフト等からの機械的動力により回転駆動される。フィードポンプ102は、低圧燃料通路222内にある低圧側燃料通路から燃料を吸入し、吸入調量弁105に向かう燃料通路103に燃料を送出する。
高圧ポンプ110は、容積式ポンプであり、詳細には、ロータリ/偏心アウタカム方式の燃料ポンプである。高圧ポンプ110は、シリンダ114,115内をそれぞれ往復運動するプランジャ116,117と、回転中心軸(図3に点Cで示す)を中心に回転する偏心カム112と、プランジャ116及びプランジャ117との間に設けられ、偏心カム112に従動することで、偏心カム112の回転運動をプランジャ116,117の往復運動に変換するリングカム113とを有している。偏心カム112は、ディーゼル機関10のカムシャフト等からの機械的動力により回転駆動される。リングカム113と、プランジャ116,117のうちリングカム113に接する部分は、ハウジング111に収容されている。ハウジング111には、互いに対向してシリンダ114とシリンダ115が延設されており、シリンダ114及びシリンダ115の内側には、それぞれプランジャ116及びシリンダ117の往復運動により、燃料を吸入し、昇圧させる燃料室(以下、昇圧室と記す)120,121が構成される。昇圧室120と、昇圧室121は、プランジャ116及びプランジャ117の内部に形成された燃料通路(図示せず)と、ハウジング111内とを介して連通している。
シリンダ114内には、プランジャ116の往復運動により容積が変化して、吸入した燃料を昇圧させることが可能な燃料室(以下、昇圧室と記す)120が形成されている。昇圧室120の上流側には、調量された燃料を高圧ポンプ110に導く通路107が接続されており、昇圧室120の下流側には、昇圧して燃料を燃料レール88に向けて導く通路126が接続されている。昇圧室120と通路107の間には、通路107から昇圧室120に向かう燃料の流れのみを許す逆止弁122が設けられている。昇圧室120と通路126の間には、通路126に対する昇圧室120の圧力差が、所定値を越える場合に開弁して、昇圧室120から通路126に向かう燃料の流れのみを許す逆止弁124が設けられている。
同様に、シリンダ115内には、プランジャ116の往復運動により容積が変化する昇圧室121が形成されている。昇圧室121の上流側には、調量された燃料を高圧ポンプ110に導く通路108が接続されており、昇圧室121の下流側には、昇圧して燃料を燃料レール88に向けて導く通路127が接続されている。昇圧室121と通路108の間には、通路108から昇圧室121に向かう燃料の流れのみを許す逆止弁123が設けられている。昇圧室121と通路127の間には、通路127に対する昇圧室121の圧力差が、所定値を越える場合に開弁して、昇圧室121から通路127に向かう燃料の流れのみを許す逆止弁125が設けられている。
以上のように構成された高圧ポンプ110は、偏心カム112が回転して、リングカム113、プランジャ116,117が、図に矢印Aで示す方向に移動すると、昇圧室120の容積が減少して圧力が上昇すると共に、昇圧室121の容積が増大して圧力が低下する。高圧ポンプ110は、通路108にある燃料を、昇圧室121に吸入すると共に、昇圧室121にある燃料を昇圧して、逆止弁124から通路126に送出する。
その後、昇圧室121に吸入された燃料は、プランジャ116,117の内部に形成された燃料通路を介して昇圧室120に導かれる。リングカム113、プランジャ116,117が、図に矢印Bで示す方向に移動すると、昇圧室121の容積が減少して圧力が上昇すると共に、昇圧室120の容積が増大して圧力が低下する。高圧ポンプ110は、通路107にある燃料を、昇圧室120に吸入すると共に、昇圧室120にある燃料を昇圧して、逆止弁125から通路127に送出する。
以上のようにして高圧ポンプ110は、偏心カム112が回転駆動されることで、フィードポンプ102から送出され、後述する吸入調量弁105により流量を調整された燃料を、通路106から昇圧室120又は昇圧室121に吸入し、昇圧して燃料レール88に向かう高圧側燃料通路84に送出することが可能となっている。偏心カム112は、ディーゼル機関10の機関回転速度に比例した回転速度で回転するため、昇圧室120,121は、機関回転速度に比例した周波数で容積が周期的に変化する。高圧ポンプ110が、高圧側燃料通路84に送出する燃料流量、すなわちフィードポンプ102から高圧ポンプ110に向かう燃料流量は、吸入調量弁105により調整される。
吸入調量弁105は、通過する燃料流量を調整する流量制御弁であり、絞り作用によって流量を調整する絞り弁である。吸入調量弁105は、内部において流路断面積を変化させることにより、通過する燃料流量を調整する。吸入調量弁105は、リニアソレノイド式の電磁駆動弁であり、図4に示すように、ハウジング300内をスライド移動可能な弁体310を有している。当該ハウジング300には、高圧ポンプ110に向かう通路106(図3参照)と、ハウジング300内とを連通させる貫通穴302が形成されている。一方、弁体310には、通路103と連通する内部通路311と、当該内部通路311と貫通穴302とを連通させることが可能な貫通穴312が形成されている。内部通路311は、図に矢印F1で示すように、フィードポンプ102から送出された燃料を受ける。
吸入調量弁105は、弁体310が、ハウジング300に対してスライド移動することで、弁体310側の貫通穴302と、ハウジング300側の貫通穴312が重なる面積、すなわち、図に矢印F2で示す燃料流路の断面積(以下、単に「流路断面積」と記す)を変化させることが可能となっている。ハウジング300に対する弁体310の位置は、ECU200により制御される。
吸入調量弁105は、貫通穴302と貫通穴312との間において、流路断面積を減少させる、すなわち「絞り」を形成することで、燃料の流れに流路抵抗を生じさせる。「絞り」を強くする通路106から高圧ポンプ110に向けて流れる燃料流量を調整することが可能となっている。吸入調量弁105は、貫通穴302と貫通穴312との間における流路断面積を小さくする、すなわち絞りを強くすることで、高圧ポンプ110に供給される燃料流量を低減させることができる。一方、流路断面積を大きくする、すなわち絞りを弱くすることで、高圧ポンプ110に向けて送出される燃料流量を増大させることができる。つまり、吸入調量弁105は、絞り作用により、高圧ポンプ110に向けて送出される燃料流量を調整することが可能となっている。
なお、以下の説明において、吸入調量弁105において、流路断面積を小さくする(すなわち絞りを強くする)ことを「開度を大きくする」と記す。これに対して流路断面積を大きくする(すなわち絞りを弱くする)ことを「開度を小さくする」と記す。つまり、吸入調量弁105の開度を増大させるに従って、高圧ポンプ110に向けて送出される燃料流量が増大し、高圧側燃料通路の圧力すなわち高圧側燃圧が高くなる。吸入調量弁105の開度、すなわち高圧側燃圧は、ECU200により制御される。
以上のように構成された燃料供給システム5を備えた車両1において、ECU200は、図示しないクランク角センサからのクランク角に係る信号と、エアフロメータからの吸入空気量(新気量)に係る信号と、燃料圧力センサ81からレール圧(高圧側燃圧)に係る信号とを検出している。また、ECU200は、運転者によるアクセルペダルの操作量を検出するアクセルペダルポジションセンサ96からアクセル操作量に係る信号と、A/Fセンサ98からの、排気後処理装置55と酸化触媒58との間における排出ガス中の酸素濃度に係る信号とを検出している。
これら検出信号に基づいて、ECU200は、ディーゼル機関10の運転状態である機関回転速度及び機関負荷を制御変数として推定している。また、ECU200は、排気後処理装置55を通過後の排出ガス中の酸素濃度を制御変数として推定している。加えて、ECU200は、高圧燃料供給ポンプ100に供給される燃料中のバイオディーゼル燃料の濃度を検出し、制御変数として推定する機能である「バイオ濃度推定手段」を有しており、以下に詳細を説明する。
図1及び図2に示すように、燃料タンク220には、鉱物油である原油を分留して作られたディーゼル燃料(以下、軽油と記す)だけでなく、菜種油等の植物油をメタノール等と反応させてエステル化した脂肪酸メチルエステル(FAME)で主に構成されたディーゼル燃料(以下、「バイオディーゼル燃料」と記す)が、所望の濃度で混合されて給油される。燃料タンク220内において、軽油とバイオディーゼル燃料が混合された燃料を、以下に「混合燃料」と記す。
燃料タンク220には、燃料中のバイオディーゼル燃料の濃度を推定するために、燃料タンク220内にある混合燃料の燃料性状に係る情報を検出可能な燃料性状検出センサ228が設けられている。燃料性状に係る情報には、例えば、混合燃料の光透過率や光屈折率、誘電率等がある。燃料性状検出センサ228は、検出した燃料性状の情報に係る信号を、ECU200に送出している。
ECU200は、燃料性状検出センサ228からの燃料性状の情報に係る信号を検出しており、光透過率や誘電率等の燃料性状に係る情報を、制御変数として推定している。これら制御変数に基づいて、ECU200は、燃料タンク220内に貯蔵されている混合燃料中のバイオディーゼル燃料の濃度を推定することが可能に構成されている。
燃料中のバイオディーゼル燃料の濃度を検出、推定する具体的な手法としては、例えば、本願出願人の特開2008−107098号公報の第0034段落から第0096段落に開示されている。当該公報においては、デリバリパイプ(燃料分配管)に燃料の光透過率及び屈折率を検出可能な燃料性状センサが設けられており、光透過率及び屈折率に係る信号を、電子制御装置(ECU)に送出している。燃料の光透過率と、燃料中のアルコール濃度との間には、相関関係がある。このECUは、予め求められた光透過率とアルコール濃度との相関関係と、検出された光透過率に基づいて燃料中のアルコール濃度、すなわち含酸素化合物の濃度を推定する。バイオディーゼル燃料の主成分である脂肪酸メチルエステルと、いわゆるバイオガソリンに含まれるアルコールは、同じく含酸素化合物であり、混合燃料中のバイオディーゼル燃料の濃度は、アルコールの濃度と略同一の原理で検出、推定することが可能である。ここに、本明細書の一部を構成するものとして特開2008−107098号公報の内容を援用する。
なお、バイオディーゼル燃料の濃度を推定する手法は、上述のものに限定されるものではない。例えば、燃料性状検出センサ228が、燃料タンク220内に給油された燃料の粘度や温度等を検出し、これら検出された信号に基づいて、ECU200が、燃料中のバイオディーゼル燃料の濃度を推定するものとしても良い。
また、バイオディーゼル燃料の濃度を推定する手法は、燃料性状検出センサ228により、燃料から直接、検出・推定する手法に限定されるものではない。例えば、ディーゼル機関10の所定の運転状態において、軽油のみが給油された場合と同様に、燃料噴射弁80等を作動させ、このとき、排気後処理装置55と酸化触媒58との間における排出ガスの酸素濃度の挙動(時間履歴)を、軽油のみが給油された場合の酸素濃度の挙動と比較することで、燃料中のバイオディーゼル燃料の濃度を推定することも可能である。
ECU200は、上述のように推定された燃料中のバイオディーゼル燃料の濃度と、ディーゼル機関10の運転状態(機関回転速度及び機関負荷)に応じて、燃料噴射弁80の噴射特性、詳細には、高圧側燃料通路における燃料圧力である高圧側燃圧(レール圧)、すなわち吸入調量弁105の開度を制御することが可能となっている。
以上のように構成されたディーゼル機関10において、運転状態すなわち機関負荷及び機関回転速度によっては、高圧燃料供給ポンプ100内において、局所的に燃料の圧力が大きく低下することがあり、特に、絞り作用により燃料流量を調整する吸入調量弁105において燃料の流速が上昇して圧力が低下することがある。このとき圧力が飽和蒸気圧まで低下すると、キャビテーションが生じることがある。
燃料タンク220からの燃料中に高い濃度のバイオディーゼル燃料が含まれている場合、高圧燃料供給ポンプ100においてキャビテーションが生じると、燃料中のバイオディーゼル燃料成分が酸化劣化して、燃料中に汚染物質が生じる虞がある。
特に、ディーゼル機関10の運転状態が低負荷側の運転領域にある場合、各気筒の1サイクルあたりの吸入空気量が少なく、燃料噴射弁80が1サイクルあたりに噴射する燃料量も少なくなる。このため、低負荷側の運転領域においては、高圧燃料供給ポンプ100が、燃料レール88に向けて1サイクルあたりに送出すべき燃料量も少なく、吸入調量弁105の開度を小さくする(絞りを強くする)必要がある。吸入調量弁105の開度を小さくすると、絞りの近傍において燃料圧力が低下して、キャビテーションが生じ易くなるという問題がある。
そこで、本実施形態においては、ディーゼル機関の運転状態が、所定の低負荷側領域にある場合において、燃料中のバイオディーゼル燃料の濃度が、所定の判定濃度以上である場合には、当該判定濃度を下回る場合に比べて、高圧側燃圧が高くなるよう制御しており、以下に図2、図5〜図7を用いて説明する。
図5は、本実施形態に係るディーゼル機関用制御装置(ECU)が実行する目標高圧側燃圧設定制御を示すフローチャートである。図6は、本実施形態に係るディーゼル機関の運転領域と、高圧側燃圧の目標値との関係を示す図である。図7は、本実施形態に係るディーゼル機関に供給される燃料中のバイオディーゼル燃料の濃度と、高圧側燃圧の目標値との関係を示す表である。
図2及び図5に示すように、ECU200は、ディーゼル機関10の運転状態、すなわち機関回転速度及び機関負荷に応じて、高圧側燃圧の目標値(以下、目標高圧側燃圧と記す)を設定する「目標高圧側燃圧設定制御」を実行する。目標高圧側燃圧設定制御は、ディーゼル機関10の作動時において、ECU200により繰り返し実行される。
図5に示すように、まず、ECU200は、ステップS100において、各種の制御変数を取得する。制御変数には、ディーゼル機関10の運転状態を示す機関回転速度及び機関負荷と、バイオディーゼル燃料の濃度(以下、単に「バイオ濃度」と記す)が含まれている。
そして、ステップS102において、ECU200は、バイオ濃度が、所定の判定濃度以上であるか否かを判定する。判定濃度は、キャビテーションが生じた場合にバイオディーゼル燃料の酸化劣化が問題となるか否かを判定するバイオ濃度の閾値であり、本実施形態では、50%に設定されている。判定濃度は、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU200のROMに記憶されている。
バイオ濃度が判定濃度を下回る場合(S102:No)、ECU200は、バイオ濃度が比較的「低濃度」であり、たとえキャビテーションが生じても、バイオディーゼル燃料の酸化劣化がさほど問題にならないと判定し、目標高圧側燃圧を「通常目標高圧側燃圧」に設定し、当該「通常目標高圧側燃圧」に従って高圧燃料供給ポンプ100の吸入調量弁105の開度を調整することで、高圧側燃圧(レール圧)を制御する(S104)。
この「通常目標高圧側燃圧」は、図6及び図7に示すように、ディーゼル機関10の運転状態がいずれの運転領域にあるかに応じて、以下のように設定されている。
「低回転低負荷領域」=「低圧」
ECU200は、ディーゼル機関10の運転状態が、機関回転速度が所定の判定回転速度より低く、且つ機関負荷が所定の判定濃度より低い運転領域(以下、低回転低負荷領域と記す)にある場合、目標高圧側燃圧を比較的「低圧」に設定する。
「低回転高負荷領域」=「中圧」
ECU200は、ディーゼル機関10の運転状態が、機関回転速度が所定の判定回転速度より低く、且つ機関負荷が所定の判定濃度より高い運転領域(以下、低回転高負荷領域と記す)にある場合、目標高圧側燃圧を比較的「中圧」に設定する。
「高回転低負荷領域」=「中圧」
ECU200は、ディーゼル機関10の運転状態が、機関回転速度が所定の判定回転速度より高く、且つ機関負荷が所定の判定濃度より低い運転領域(以下、高回転低負荷領域と記す)にある場合、目標高圧側燃圧を比較的「中圧」に設定する。
「高回転高負荷領域」=「高圧」
ECU200は、ディーゼル機関10の運転状態が、機関回転速度が所定の判定回転速度より高く、且つ機関負荷が所定の判定濃度より高い運転領域(以下、高回転高負荷領域と記す)にある場合、目標高圧側燃圧を比較的「高圧」に設定する。
このように設定された目標高圧側燃圧に従って、ECU200は、高圧燃料供給ポンプ100の吸入調量弁105の開度を制御する。
一方、バイオ濃度が判定濃度以上である場合(S102:Yes)、ECU200は、バイオ濃度が比較的「高濃度」であり、仮にキャビテーションが生じた場合、バイオディーゼル燃料の酸化劣化が問題になると判定して、ステップS106に進む。
ステップS106において、ECU200は、ディーゼル機関10の運転状態(機関回転速度及び機関負荷)が、所定の低負荷側領域にあるか否かを判定する。すなわち、ECU200は、ディーゼル機関10の機関負荷が、各機関回転速度に対応して予め設定された判定負荷以上であるか否かを判定している。当該低負荷側領域は、燃料噴射弁80の1サイクルあたりの燃料噴射量が比較的少なく、高圧燃料供給ポンプ100の吸入調量弁105の開度が小さくなる(絞りが強くなる)運転領域に設定されている。すなわち、低負荷側領域は、高圧燃料供給ポンプ100においてキャビテーションが比較的発生し易い運転領域に設定されている。低負荷側領域は、予め適合実験等により求められており、制御定数(各機関回転速度に対する判定負荷)として、ECU200のROMに記憶されている。
ディーゼル機関10の運転状態が、所定の低負荷側領域にはない場合(S106:No)、ECU200は、高圧燃料供給ポンプ100において、キャビテーションが発生する可能性がほとんどないものと判定して、「通常目標高圧側燃圧」に従って高圧燃料供給ポンプ100の吸入調量弁105の開度を調整することで、高圧側燃圧(レール圧)を制御する。
一方、ディーゼル機関10の運転状態が、所定の低負荷側領域にある場合(S106:Yes)、ECU200は、高圧燃料供給ポンプ100においてキャビテーションが発生する可能性があるものと判定して、目標高圧側燃圧を、上述の「通常目標高圧側燃圧」に対して所定の倍数Kを乗じて補正した、新たな目標高圧側燃圧(以下、新目標高圧側燃圧と記す)に切替える。ECU200は、運転状態が低負荷側領域にある場合、当該「新目標高圧側燃圧」に従って高圧燃料供給ポンプ100の吸入調量弁105の開度を調整することで、高圧側燃圧(レール圧)を制御する(S108)。
この「新目標高圧側燃圧」は、図6及び図7に示すように、ディーゼル機関10の運転状態がいずれの運転領域にあるかに応じて、以下のように設定されている。なお、倍数Kは、以下の予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU200のROMに記憶されている。
「低回転低負荷領域」=「中圧」
ECU200は、ディーゼル機関10の運転状態が、低回転低負荷領域にある場合、目標高圧側燃圧を、通常目標高圧側燃圧(低圧)に比べて高い値である「中圧」に変更する。これは、低負荷側領域であるため、高圧燃料供給ポンプ100が燃料レール88に向けて1サイクルあたりに送出すべき燃料量が少なく、通常目標高圧側燃圧と同じ値にしたのでは、高圧燃料供給ポンプ100においてキャビテーションが生じ、バイオディーゼル燃料の酸化劣化が生じる虞があるためである。ECU200は、運転状態が低回転低負荷領域にあり、且つバイオ濃度が高濃度である場合には、通常目標高圧側燃圧に比べて高圧側燃圧を上昇させる、すなわち吸入調量弁105の開度を増大させることで、高圧燃料供給ポンプ100におけるキャビテーションの発生を抑制し、バイオディーゼル燃料の酸化劣化が生じることを抑制している。
「低回転高負荷領域」=「中圧/低圧」
ECU200は、ディーゼル機関10の運転状態が、低回転高負荷領域にある場合、目標高圧側燃圧を、通常目標高圧側燃圧(中圧)と同じ値である「中圧」に設定する。これは、高負荷領域であるため、高圧燃料供給ポンプ100が燃料レール88に向けて1サイクルあたりに送出すべき燃料量が比較的多く、高圧燃料供給ポンプ100においてキャビテーションが生じる可能性が小さいためである。なお、運転状態が低回転高負荷領域にあり、且つバイオ濃度が高濃度である場合、目標高圧側燃圧を、通常目標高圧側燃圧(中圧)よりも低い値である「低圧」に変更するものとしても良い。これは、バイオ濃度が高濃度である場合には、燃料中の含酸素化合物により燃料の燃焼が促進されるため、燃料の微粒化を図る必要性が比較的低く、燃料噴射弁80の噴射圧力すなわち高圧側燃圧を、通常目標高圧側燃圧(中圧)に比べて低下させても、燃料噴射弁80から噴射した噴射燃料を気筒内において十分に燃焼させることができるからである。
「高回転低負荷領域」=「高圧」
ECU200は、ディーゼル機関10の運転状態が、高回転低負荷領域にある場合、目標高圧側燃圧を、通常目標高圧側燃圧(中圧)に比べて高い値である「高圧」に変更する。これは、低負荷側領域であるため、高圧燃料供給ポンプ100が燃料レール88に向けて1サイクルあたりに送出すべき燃料量が少なく、加えて、高回転速度領域であるため、高圧ポンプ110の偏心カム112が比較的高速で回転駆動されて、昇圧室120,121の容積が比較的高い周波数で周期的に変化し、吸入調量弁105の下流側の通路106,107,108に生じる吸入負圧が大きく、特に高圧燃料供給ポンプ100においてキャビテーションが発生し易いためである。ECU200は、運転状態が高回転低負荷領域にあり、且つバイオ濃度が高濃度である場合、通常目標高圧側燃圧と同じ値の目標高圧側燃圧としたのでは、高圧燃料供給ポンプ100におけるキャビテーションの発生により、バイオディーゼル燃料の酸化劣化が生じ易いと判断して、通常目標高圧側燃圧に比べて高圧側燃圧を上昇させ、すなわち吸入調量弁105の開度を増大させることで、キャビテーションの発生を抑制して、バイオディーゼル燃料の酸化劣化が生じることを抑制している。
「高回転高負荷領域」=「高圧/中圧」
ECU200は、ディーゼル機関10の運転状態が、高回転高負荷領域にある場合、目標高圧側燃圧を、通常目標高圧側燃圧(高圧)と同じ値である「高圧」に設定する。これは、高負荷領域であるため、高圧燃料供給ポンプ100が燃料レール88に向けて1サイクルあたりに送出すべき燃料量が比較的多く、高圧燃料供給ポンプ100においてキャビテーションが生じる可能性が小さいためである。なお、運転状態が高回転高負荷領域にあり、且つバイオ濃度が高濃度である場合、目標高圧側燃圧を、通常目標高圧側燃圧(高圧)よりも低い値である「中圧」に設定するものとしても良い。これは、バイオ濃度が高濃度である場合には、燃料中のバイオディーゼル燃料成分(含酸素化合物)により燃料の燃焼が促進されるため、燃料の微粒化を図る必要性が比較的低く、燃料噴射弁80の噴射圧力すなわち高圧側燃圧を、通常目標高圧側燃圧(高圧)に比べて低下させても、燃料噴射弁80から噴射した噴射燃料を気筒内において十分に燃焼させることができるからである。
以上、図2、図5〜図7に示したように、ECU200は、高圧燃料供給ポンプ100に供給される燃料中のバイオ濃度が所定の判定濃度(例えば、50%)以上の「高濃度」であり、且つディーゼル機関10の運転状態が、所定の低負荷側領域(すなわち低回転低負荷領域及び高回転低負荷領域)にある場合には、判定濃度を下回る「低濃度」である場合に比べて高圧側燃圧が上昇するよう制御する。詳細には、高圧燃料供給ポンプ100の吸入調量弁105の開度を増大させている。これにより、バイオ濃度が比較的高く、キャビテーションの発生によるバイオディーゼル燃料の酸化劣化が問題となる場合には、高圧燃料供給ポンプにおけるキャビテーションの発生を抑制することで、バイオディーゼル燃料の酸化劣化を抑制することができる。
なお、本実施形態においては、ECU200は、燃料中のバイオ濃度が所定の判定濃度以上であるか否かを判定し、判定濃度以上である「高濃度」と判定した場合において、ディーゼル機関10の運転状態が所定の低負荷側領域にある場合に、判定濃度を下回る「低濃度」である場合に比べて高圧側燃圧を上昇させるよう制御するものとしたが、高圧側燃圧の制御態様は、これに限定されるものではない。
例えば、ECU200が、燃料中のバイオ濃度が、「低濃度」、「中濃度」及び「高濃度」のいずれかであるかを判定し、ディーゼル機関10の運転状態が所定の低負荷側領域にある場合においてバイオ濃度が「中濃度」である場合には、「低濃度」である場合に比べて高圧側燃圧が高くなるよう制御し、バイオ濃度が「高濃度」である場合には、「中濃度」である場合に比べて更に高圧側燃圧が高くなるよう制御するものとしても良い。
また、ディーゼル機関10の運転状態が所定の低負荷側領域にある場合においては、ECU200は、ディーゼル機関10の運転状態が同一であっても、燃料中のバイオ濃度が高くなるに従って、高圧側燃圧がより高くなるよう(すなわち吸入調量弁105の開度が大きくなるよう)制御するものとしても良い。
以上に説明したように本実施形態に係るディーゼル機関10は、複数の気筒を有し、気筒ごとに燃料噴射弁80を備え、各燃料噴射弁80が燃料の供給を受ける共通の高圧側燃料通路である燃料レール88に、低圧側燃料通路(例えば、低圧燃料通路222)から吸入した燃料を昇圧して供給する高圧燃料供給ポンプ100を備えたものであり、ディーゼル機関用制御装置としてのECU200は、高圧側燃料通路における燃料圧力である高圧側燃圧(レール圧)を制御可能なものである。ECU200は、ディーゼル機関10の運転状態(機関回転速度及び機関負荷)が所定の低負荷側領域にあり、且つ燃料中のバイオディーゼル燃料の濃度である「バイオ濃度」が所定の判定濃度以上である場合には、当該判定濃度を下回る場合に比べて高圧側燃圧(レール圧)が高くなるよう制御する。運転状態が低負荷側領域にある場合に、高圧燃料供給ポンプ100内の燃料流路において燃料圧力が低い部位が生じて、当該部位においてキャビテーションが生じることを抑制することができ、キャビテーションに起因するバイオディーゼル燃料の酸化劣化を抑制することができる。
本実施形態において、高圧燃料供給ポンプ100は、絞り作用により昇圧室に吸入される燃料流量を調整する吸入調量弁105を備えるものであり、ECU200は、ディーゼル機関10の運転状態が所定の低負荷側領域にあり、且つバイオ濃度が判定濃度以上である場合には、当該判定濃度を下回る場合に比べて吸入調量弁105の開度が大きくなるよう制御するものとした。高圧燃料供給ポンプ100が1サイクルあたりに高圧側燃料通路に送出すべき燃料量が少なくなる低負荷側領域において、且つ燃料中のバイオ濃度が高い場合には、判定濃度を下回る場合に比べて吸入調量弁105の開度を大きくすることで、吸入調量弁105の「絞り」による圧力低下を抑制してキャビテーションの発生を抑制することで、キャビテーションの発生に起因するバイオディーゼル燃料の酸化劣化を抑制することができる。
また本実施形態において、ディーゼル機関の運転状態が所定の低負荷側領域にはなく(すなわち高負荷側領域にあり)、且つ燃料中のバイオ濃度が判定濃度以上である場合には、判定濃度を下回る場合に比べて高圧側燃圧が低くなるよう制御するものとした、バイオ濃度が高濃度である場合、燃料中の含酸素化合物により気筒内における燃料の燃焼が促進されるため、燃料の微粒化を図る必要性が低く、燃料噴射弁80の噴射圧力すなわち高圧側燃圧を低下させることができる。高圧側燃圧を低下させることで、高圧燃料供給ポンプ100の駆動に用いられる機械的動力を低減することが可能となる。
なお、本実施形態において、ディーゼル機関10は、EGR装置70やターボ過給機60を備え、排気後処理装置としてNOx吸蔵還元型触媒55a及びDPNR触媒システム55cを備えるものとしたが、本発明を適用可能なディーゼル機関の構成は、この態様に限定されるものではない。燃料噴射弁80が燃料の供給を受ける高圧側燃料通路(例えば、燃料レール88)に、低圧側燃料通路(例えば、低圧燃料通路222)から吸入した燃料を昇圧して供給する高圧燃料供給ポンプ100を備えたディーゼル機関であれば本発明を適用することができる。