本発明は、構造物のパッシブ振動制御に資する摺動型(摩擦型)の振動減衰装置において、相対的に摺動可能に設けられる少なくとも一対の摺動体の相対的な変位量(摺動量)の増加にともなって減衰力としての摩擦力が増加する力学特性を、簡単な構成により実現しようとするものである。以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明の第1実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る振動減衰装置(以下単に「減衰装置」という。)1は、構造物に対して設置されることで、その構造物の振動を抑制するものであり、凹型摺動体3および凸型摺動体4を有する摺動体機構2と、複数(本実施形態では8個)の板ばね5と、支持はり6とを備える。本実施形態の減衰装置1は、摺動型の減衰装置であり、凹型摺動体3と凸型摺動体4とが相対的に摺動することによって生じる摩擦力を減衰力とし、その摩擦力が摺動体同士の相対的な変位の絶対値に比例して増加する構成を備える。
本実施形態において、摺動体機構2を構成する凹型摺動体3および凸型摺動体4は、互いに対向した状態で相対的に往復摺動可能に設けられる一対の摺動体である。凹型摺動体3および凸型摺動体4は、例えばステンレス鋼等の金属により構成される。ただし、凹型摺動体3および凸型摺動体4について減衰装置1を構成する部材として十分な強度が得られれば、凹型摺動体3および凸型摺動体4を構成する材料は、例えばプラスチック等の高分子材料等であってもよく、特に限定されない。
図1に示すように、凹型摺動体3および凸型摺動体4により構成される摺動体機構2は、全体として略矩形厚板状の外形を有する。凹型摺動体3および凸型摺動体4は、それぞれ略四角柱状または矩形の厚板状の部材であり、長手方向を相手方の摺動体に対する相対的な摺動方向としながら互いの一側の面部同士を対向させた状態で相対的に摺動可能に設けられる。凹型摺動体3および凸型摺動体4は、長手方向および摺動体機構2の板厚方向それぞれについて同じ寸法を有する。
本実施形態の減衰装置1では、摺動体機構2において凹型摺動体3が設けられる側を下とし、その反対側となる凸型摺動体4が設けられる側を上とする。したがって、本実施形態では、凹型摺動体3および凸型摺動体4は、互いに上下方向に対向した状態で摺動可能に設けられる。
凹型摺動体3および凸型摺動体4は、それぞれ、減衰装置1により振動を抑制する対象となる構造物(以下単に「構造物」という。)に直接的にまたは間接的に固定される。本実施形態では、凹型摺動体3は、減衰装置1の下側に位置する壁等の構造物に対して直接的に固定される。凹型摺動体3の構造物に対する固定には、図1に示すように、凹型摺動体3の下端部に設けられる固定用の孔部3aが用いられる。孔部3aは、ボルト等の固定具を凹型摺動体3に対して摺動体機構2の板厚方向に挿入させるためのものであり、凹型摺動体3の下端部において凹型摺動体3の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて複数設けられる。
また、本実施形態では、凸型摺動体4は、減衰装置1の上側に位置する壁等の構造物に対して、複数の板ばね5および支持はり6を介して間接的に固定される。凸型摺動体4の上側には、複数の板ばね5を介して支持はり6が固定される。支持はり6は、凹型摺動体3および凸型摺動体4に対して、長手方向の寸法および摺動体機構2の板厚方向の寸法それぞれについて略同じ寸法を有する略四角柱状の部材であり、凸型摺動体4の上側において、凸型摺動体4と略平行に凸型摺動体4に対して所定の間隔を隔てた状態で複数の板ばね5により支持される。
このように複数の板ばね5を介して凸型摺動体4の上側に設けられる支持はり6が、構造物に固定される。支持はり6の構造物に対する固定には、図1に示すように、支持はり6の上端部に設けられる固定用の孔部6aが用いられる。孔部6aは、ボルト等の固定具を支持はり6に対して摺動体機構2の板厚方向に挿入させるためのものであり、支持はり6の上端部において支持はり6の長手方向に沿って所定の間隔を隔てて複数設けられる。なお、支持はり6は、凹型摺動体3および凸型摺動体4と同様に、例えばステンレス鋼等の金属材料により構成される。
板ばね5は、構造物に直接的に固定される支持はり6と、凸型摺動体4との間に設けられた状態で、摺動体機構2を上側から下向きに付勢する。つまり、板ばね5は、減衰装置1が構造物に設置された状態において、相対的に往復摺動する凹型摺動体3および凸型摺動体4同士が互いに対向する方向に押し付けられる方向(以下「摺動体押圧方向」という。)の付勢力を、摺動体機構2に作用させる。このように、本実施形態の減衰装置1においては、板ばね5が、摺動体機構2を、摺動体押圧方向に付勢する付勢手段として機能する。
以上のような構成を備える減衰装置1は、摺動体機構2を構成する凹型摺動体3および凸型摺動体4の相対的な摺動により、板ばね5の付勢力に抗して摺動体機構2の高さ(上下方向の寸法、以下同じ。)を変化させることで、板ばね5からの摺動体押圧方向の付勢力を受ける。そして、減衰装置1は、凹型摺動体3および凸型摺動体4の相対的な摺動による変位量(以下「摺動体変位量」という。)の増加にともなって、摺動体機構2の高さを増大させることで、板ばね5から受ける摺動体押圧方向の付勢力を増加させる。
これにより、減衰装置1は、減衰力として作用する凹型摺動体3および凸型摺動体4の間で生じる摩擦力が摺動体変位量の増加にともなって比例的に増加するように構成される。ここで、摺動体変位量の変化にともなう摺動体機構2の高さの変化は、凸型摺動体4の上方に支持はり6を支持する板ばね5の弾性変形による伸縮、および凸型摺動体4と支持はり6との間の隙間により許容される。以下、本実施形態の減衰装置1の具体的な構成について説明する。
まず、凹型摺動体3および凸型摺動体4により構成される摺動体機構2の構造について、図2〜7を用いて説明する。なお、以下の説明では、便宜上、凸型摺動体4が凹型摺動体3に対して往復摺動する方向を作動方向とし、その作動方向のうち一方の方向を前方とし、他方の方向を後方とする。
凹型摺動体3および凸型摺動体4は、相対的に往復摺動可能な範囲において中立の位置を有し、この中立の位置からの相対的な摺動による変位量が、摺動体変位量に相当する。つまり、凸型摺動体4は、中立の位置を基準(変位量=0)として、凹型摺動体3に対して前方および後方に摺動することで往復摺動し、摺動体変位量を変化させる。
凹型摺動体3および凸型摺動体4は、それぞれ、摺動面として、相対的な摺動方向について傾きが互いに逆となる斜面として形成される2種類の摺動面を有し、互いの摺動面同士が対向し、かつ接触可能な状態で組み立てられる。また、凹型摺動体3および凸型摺動体4は、凸型摺動体4が中立の位置よりも前方に位置する状態では、2種類の摺動面のうち一方の種類の摺動面のみが接触し、凸型摺動体4が中立の位置よりも後方に位置する状態では、2種類の摺動面のうち他方の種類の摺動面のみが接触するように構成される。
そして、凸型摺動体4が中立の位置よりも前方に位置する状態で互いに接触する摺動面は、凸型摺動体4の中立の位置からの前方への摺動による変位にともなって凸型摺動体4を上昇させるように、前方へ向けて上り勾配を有する斜面として形成される。また、凸型摺動体4が中立の位置よりも後方に位置する状態で互いに接触する摺動面は、凸型摺動体4の中立の位置からの後方への摺動による変位にともなって凸型摺動体4を上昇させるように、後方へ向けて上り勾配を有する斜面として形成される。
凹型摺動体3および凸型摺動体4が組み立てられることで構成される摺動体機構2は、各摺動体が有する摺動面の傾きにより、摺動体変位量の絶対値に比例して高さを増大させる。凸型摺動体4に固定されるとともに支持はり6を介して構造物に固定される板ばね5は、摺動体変位量の増加にともなう摺動体機構2の高さの増大を利用して、凹型摺動体3および凸型摺動体4により構成される摺動体機構2に上側から圧縮力を作用させる。減衰装置1は、この摺動体機構2の高さの増大にともなって摺動体機構2に作用する圧縮力を利用して、摺動体変位量の絶対値に比例して増加する特性を持つ摩擦力を、凹型摺動体3および凸型摺動体4の摺動面に発生させる。
図2〜7に示すように、摺動体機構2は、凹型摺動体3および凸型摺動体4が互いに対向する側の部分に凹凸形状部分を有し、この凹凸形状部分によって凹型摺動体3および凸型摺動体4を摺動可能に嵌合させる。摺動体機構2は、凹凸形状部分として、凹型摺動体3側に形成される溝部11と、凸型摺動体4側に形成される突部12とを有する。
すなわち、本実施形態の減衰装置1においては、相対的に往復摺動する凹型摺動体3および凸型摺動体4同士のうち一方の摺動体である凹型摺動体3は、摺動する相手方の摺動体である凸型摺動体4に対向する側(上側)の端部に溝部11を有する。溝部11は、凸型摺動体4に対する相対的な往復摺動の方向(作動方向)に沿うととともに上側に開口し、作動方向視で凹形状となる。
溝部11は、凹型摺動体3の上側の部分において板状の空間を形成する溝を上向きに開口させる部分である。したがって、凹型摺動体3の上側の端部には、溝部11の開口側の端面である2箇所の溝端面11aと、溝部11の底面である溝底面11bとが形成される。2つの溝端面11aは、溝部11において溝が窪む面であり、同一面上に位置するように形成される。また、2つの溝端面11aと、溝底面11bとの間には、摺動体機構2の板厚方向(図4における左右方向、以下「幅方向」という。)に互いに対向する内側側面11cが形成される。互いに対向する内側側面11cは、互いに略平行に形成される。
溝部11においては、幅方向について2つの溝端面11aの間であって、かつ溝端面11aよりも下側に、溝底面11bが形成される。また、溝部11は、凹型摺動体3の長手方向の全体にわたって形成される。したがって、溝部11は、凹型摺動体3の上端部において、2つの溝端面11aと1つの溝底面11bと2つの内側側面11cとを含む面部により、凹型摺動体3の長手方向視で凹型となる部分を形成する(図3参照)。
また、本実施形態の減衰装置1においては、相対的に往復摺動する凹型摺動体3および凸型摺動体4同士のうち他方の摺動体である凸型摺動体4は、摺動する相手方の摺動体である凹型摺動体3に対向する側(下側)の端部に突部12を有する。突部12は、作動方向に沿うとともに下側に突出し、作動方向視で凸形状となる。
突部12は、凸型摺動体4の下端の部分において板状の突起を下向きに突出させる部分である。したがって、凸型摺動体4の下側の端部には、突部12の基端面である2箇所の肩面12aと、突部12の突出側の端面である突部端面12bとが形成される。2つの肩面12aは、突部12において板状の突起が突出する面であり、同一面上に位置するように形成される。また、2つの肩面12aと、突部端面12bとの間には、幅方向(図4における左右方向)に互いに反対側を向く外側側面12cが形成される。互いに反対側を向く外側側面12cは、互いに略平行に形成される。
突部12においては、幅方向について2つの肩面12aの間であって、かつ肩面12aよりも下側に、突部端面12bが形成される。また、突部12は、凸型摺動体4の長手方向の全体にわたって形成される。したがって、突部12は、凸型摺動体4の下端部において、2つの肩面12aと1つの突部端面12bと2つの外側側面12cとを含む面部により、凸型摺動体4の長手方向視で凸型となる部分を形成する(図3参照)。
また、互いに摺動可能な状態で嵌合する溝部11および突部12は、溝部11の溝の幅の寸法(幅方向の寸法)と、突部12の突起の幅の寸法(幅方向の寸法)とが略同じとなるように形成される。つまり、溝部11を形成する内側側面11c間の寸法と、突部12を形成する外側側面12c間の寸法とが略同じとされる。
以上のように凹型摺動体3と凸型摺動体4とが溝部11および突部12によって互いに摺動可能に嵌合する構成において、凹型摺動体3の溝部11を形成する部分の面が、凹型摺動体3の凸型摺動体4に対する摺動面として用いられ、凸型摺動体4の突部12を形成する部分の面が、凸型摺動体4の凹型摺動体3に対する摺動面として用いられる。そして、凹型摺動体3および凸型摺動体4は、それぞれ、上述したように2種類の摺動面を有する。
凹型摺動体3および凸型摺動体4の各摺動体が有する2種類の摺動面のうち一方の種類の摺動面は、凸型摺動体4が凹型摺動体3に対して中立の位置よりも前方に位置する状態で互いに接触する。また、同じく2種類の摺動面のうち一方の種類の摺動面は、凸型摺動体4の中立の位置からの前方への摺動による変位にともなって凸型摺動体4を上昇させるように、前方へ向けて上り勾配を有する斜面である。
また、凹型摺動体3および凸型摺動体4の各摺動体が有する2種類の摺動面のうち他方の種類の摺動面は、凸型摺動体4が凹型摺動体3に対して中立の位置よりも後方に位置する状態で互いに接触する。また、同じく2種類の摺動面のうち他方の種類の摺動面は、凸型摺動体4の中立の位置からの後方への摺動による変位にともなって凸型摺動体4を上昇させるように、後方へ向けて上り勾配を有する斜面である。
以下では、前者の摺動面(前記一方の種類の摺動面)を「前方用摺動面」とし、後者の摺動面(前記他方の種類の摺動面)を「後方用摺動面」とする。また、本実施形態の減衰装置1においては、図2および図5の各図において矢印A1で示す方向(図2における右奥方向、図5における右方向)が前方であり、同じく各図において矢印A2で示す方向(図2における左手前方向、図5における左方向)が後方である。
図2〜7に示すように、本実施形態では、凹型摺動体3においては、溝部11を形成する溝端面11aが、前方用摺動面として用いられる。また、同じく凹型摺動体3においては、溝部11を形成する溝底面11bが、後方用摺動面として用いられる。したがって、前方用摺動面としての溝端面11aは、上側を向くとともに、凹型摺動体3の長手方向の全体にわたって前方に向けて上る斜面として形成される。また、後方用摺動面としての溝底面11bは、上側を向くとともに、凹型摺動体3の長手方向の全体にわたって後方に向けて上る斜面として形成される。
凸型摺動体4においては、突部12を形成する肩面12aが、前方用摺動面として用いられる。また、同じく凸型摺動体4においては、突部12を形成する突部端面12bが、後方用摺動面として用いられる。したがって、前方用摺動面としての肩面12aは、下側を向くとともに、凸型摺動体4の長手方向の全体にわたって前方に向けて上る斜面として形成される。また、後方用摺動面としての突部端面12bは、下側を向くとともに、凸型摺動体4の長手方向の全体にわたって後方に向けて上る斜面として形成される。このように、凹型摺動体3および凸型摺動体4は、それぞれ2面の前方用摺動面と、1面の後方用摺動面とを有する。
以上のように、本実施形態では、凹型摺動体3および凸型摺動体4同士は、溝部11の溝端面11aおよび突部12の肩面12aを前方用摺動面とし、溝部11の溝底面11bおよび突部12の突部端面12bを後方用摺動面とする。なお、本実施形態では、前方用摺動面である溝端面11aおよび肩面12aと、後方用摺動面である溝底面11bおよび突部端面12bとの勾配(傾き)は互いに等しい。
また、摺動体機構2においては、図2および図5に示すように、上記のとおり長手方向について同じ寸法を有する凹型摺動体3と凸型摺動体4との長手方向の両端が揃った状態が、凸型摺動体4が凹型摺動体3に対して中立の位置にある状態(以下「中立状態」という。)に対応する。そして、中立状態からの凸型摺動体4の前方への移動過程、および中立状態からの凸型摺動体4の後方への移動過程のそれぞれの過程において、前方用摺動面および後方用摺動面それぞれの勾配により、摺動体変位量の増加にともなって摺動体機構2の高さが比例的に増大する。
したがって、中立状態からの凸型摺動体4の前方移動時には、凹型摺動体3および凸型摺動体4の前方用摺動面同士のみ、つまり溝端面11aおよび肩面12a同士のみが接触する。また、中立状態からの凸型摺動体4の後方移動時には、凹型摺動体3および凸型摺動体4の後方用摺動面同士のみ、つまり溝底面11bおよび突部端面12b同士のみが接触する。そして、中立状態においては、凹型摺動体3および凸型摺動体4の前方用摺動面同士、および後方用摺動面同士のいずれもが接触した状態となる。このように、前方用摺動面としての溝端面11aおよび肩面12aは、凸型摺動体4が凹型摺動体3に対して中立の位置よりも前方に位置する状態で摺動面として機能する前方専用の摺動面である。また、後方用摺動面としての溝底面11bおよび突部端面12bは、凸型摺動体4が凹型摺動体3に対して中立の位置よりも後方に位置する状態で摺動面として機能する後方専用の摺動面である。
以上のように、摺動体機構2を構成する凹型摺動体3および凸型摺動体4の各摺動体は、前方用摺動面と、後方用摺動面とを有する。本実施形態では、凹型摺動体3および凸型摺動体4のそれぞれが有する前方用摺動面が、摺動する相手方の摺動体に対する相対的な往復摺動の範囲における中立の位置からの前方への変位量の増加にともなって、摺動体機構2の高さを増大させるような形状を有する第1の摺動面として機能する。つまり、本実施形態では、前方用摺動面である、凹型摺動体3の溝端面11a、および凸型摺動体4の肩面12aが、それぞれ第1の摺動面として機能する。
また、本実施形態では、凹型摺動体3および凸型摺動体4のそれぞれが有する後方用摺動面が、摺動する相手方の摺動体に対する中立の位置からの後方への変位量の増加にともなって、摺動体機構2の高さを増大させるような形状を有する第2の摺動面として機能する。つまり、本実施形態では、後方用摺動面である、凹型摺動体3の溝底面11b、および凸型摺動体4の突部端面12bが、それぞれ第2の摺動面として機能する。
ただし、本実施形態において、第1の摺動面についての摺動体機構2の高さを増大させる移動方向(作動方向のうちの一方の方向)が後方である場合、第2の摺動面についての摺動体機構2の高さを増大させる移動方向(作動方向のうちの他方の方向)が前方となる。この場合、後方用摺動面が第1の摺動面として機能し、前方用摺動面が第2の摺動面として機能する。つまり、第1の摺動面と第2の摺動面とは、摺動体機構2の高さを増大させる中立の位置からの摺動体の移動方向が作動方向について互いに異なる摺動面にそれぞれ対応する。
したがって、凹型摺動体3および凸型摺動体4それぞれにおいて前方用摺動面および後方用摺動面が形成される構成においては、前方用摺動面である溝端面11aおよび肩面12aと、後方用摺動面である溝底面11bおよび突部端面12bとの傾斜が図示の場合と逆になることで、溝底面11bおよび突部端面12bが前方用摺動面となり、溝端面11aおよび肩面12aが後方用摺動面となる。すなわち、凹型摺動体3および凸型摺動体4同士は、溝端面11aおよび肩面12aを、前方用摺動面および後方用摺動面のいずれか一方の摺動面とし、溝底面11bおよび突部端面12bを、前方用摺動面および後方用摺動面のいずれか他方の摺動面とするように形成される。
そして、凹型摺動体3および凸型摺動体4がそれぞれ有する前方用摺動面と後方用摺動面とは、作動方向について共通の位置に存在する。すなわち、凹型摺動体3においては、前方用摺動面である溝端面11aと、後方用摺動面である溝底面11bとが、作動方向について共通の位置に存在し、凸型摺動体4においては、前方用摺動面である肩面12aと、後方摺動面である突部端面12bとが、作動方向について共通の位置に存在する。
ここで、作動方向について共通の位置に存在するとは、作動方向について同じ位置に設けられるということである。具体的には、例えば凹型摺動体3の場合、前方用摺動面である溝端面11aと、後方用摺動面である溝底面11bとが、溝部11が開口する側(上側)からの平面視(上面視)で、幅方向に重なるように設けられる。言い換えると、凹型摺動体3において、いずれも上側を向きながら作動方向に沿って設けられる溝端面11aと溝底面11bとが、平面視において、幅方向に並ぶ態様で設けられる。
より詳細には、本実施形態では、凹型摺動体3および凸型摺動体4がそれぞれ有する前方用摺動面と後方用摺動面とは、いずれも凹型摺動体3または凸型摺動体4の長手方向の全体にわたって形成される。このため、凹型摺動体3および凸型摺動体4の各摺動体において、前方用摺動面と後方用摺動面とは、作動方向についての両端の位置を一致させる。例えば、凹型摺動体3の場合、前方用摺動面である溝端面11aと後方用摺動面である溝底面11bとの作動方向についての両端の位置がそれぞれ一致する。
つまり、本実施形態では、凹型摺動体3および凸型摺動体4の各摺動体において、前方用摺動面と後方用摺動面との作動方向の位置が一致する。したがって、上記のとおり凹型摺動体3と凸型摺動体4とが長手方向について同じ寸法を有する構成においては、中立状態では、摺動体機構2が有する全ての摺動面、つまり溝端面11a、溝底面11b、肩面12a、および突部端面12bが、作動方向について共通の位置に存在することとなる。
ただし、凹型摺動体3および凸型摺動体4の各摺動体が有する前方用摺動面と後方用摺動面とに関し、作動方向について共通の位置に存在することは、本実施形態のように作動方向の位置が一致する場合に限定されない。つまり、作動方向について共通の位置に存在することには、各摺動体が有する前方用摺動面と後方用摺動面との少なくとも一部が作動方向について共通の位置に存在することが含まれる。言い換えると、各摺動体が有する前方用摺動面と後方用摺動面とは、凹型摺動体3については上面視で、凸型摺動体4については下面視で、少なくとも一部が幅方向に重なるように設けられればよい。
また、減衰装置1において摺動体機構2を構成する凹型摺動体3および凸型摺動体4の材料について、一方の摺動体は、硬質材からなり、他方の摺動体は、軟質材からなることが好ましい。ここで、凹型摺動体3または凸型摺動体4を構成する硬質材としては、ステンレス鋼が挙げられる。また、凹型摺動体3または凸型摺動体4を構成する軟質材としては、青銅等が挙げられる。
したがって、例えば、相対的に往復摺動する凹型摺動体3および凸型摺動体4同士のうち一方の摺動体である凹型摺動体3がステンレス鋼を材料として構成される場合、同じく摺動体同士のうち他方の摺動体である凸型摺動体4は、ステンレス鋼よりも軟質な青銅を材料として構成される。
このように、凹型摺動体3および凸型摺動体4の各摺動体の材料が選択されることにより、各摺動体が有する摺動面における動摩擦係数の安定性を向上させることができ、また、摺動面同士の摩擦による焼き付きを防止できる観点等から耐久性を向上させることができる。また、摺動面の耐久性を向上させるために、固体潤滑材などを含有した摺動体、または摺動面が固体潤滑材などを含む材料により形成された摺動体を用いることも可能である。
以上のような構成を備える減衰装置1においては、次のような作用が得られる。図6は、凸型摺動体4が凹型摺動体3に対して中立の位置よりも前方に位置する状態(前方移動時の状態)を示す。ここでは、凸型摺動体4の中立の位置からの前方への変位量(摺動体変位量)をudとする。図6に示す前方移動時の状態では、前方用摺動面である凹型摺動体3の溝端面11aおよび凸型摺動体4の肩面12a同士が接触し、後方用摺動面である凹型摺動体3の溝底面11bおよび凸型摺動体4の突部端面12b同士は接触しない。
図7は、凸型摺動体4が凹型摺動体3に対して中立の位置よりも後方に位置する状態(後方移動時の状態)を示す。ここでは、凸型摺動体4の中立の位置からの後方への変位量(摺動体変位量)を前方移動時の場合と同様にudとする。図7に示す後方移動時の状態では、後方用摺動面である凹型摺動体3の溝底面11bおよび凸型摺動体4の突部端面12b同士が接触し、前方用摺動面である凹型摺動体3の溝端面11aおよび凸型摺動体4の肩面12a同士は接触しない。
図2に示すように、摺動体機構2の中立状態での摺動体機構2の高さをhdとした場合、図6および図7に示すように、凹型摺動体3および凸型摺動体4に変位量udの相対変位が生じると、摺動体機構2の高さはhd+vdに変化する。ここで、vdは、凹型摺動体3および凸型摺動体4の変位量udの相対変位によって生じる摺動体機構2の高さの変化量であり、次式(1)で表わされる。
vd=i|ud| ・・・(1)
ここで、iは、上記のとおり互いに等しい前方用摺動面および後方用摺動面の各摺動面の勾配(傾き)である。また、式(1)のudについては、前方移動時の場合は正の値とし、後方移動時の場合は負の値とする。
式(1)に表わされるように、摺動体機構2の高さの変化量vdは、凹型摺動体3および凸型摺動体4の相対的な変位量udの値(絶対値)に比例する。減衰装置1は、このように摺動体変位量に比例して摺動体機構2の高さが増大するという特性を利用して、摺動体変位量に比例して増加する摺動体押圧方向の圧縮力を発生させる。つまり、減衰装置1において、摺動体変位量に比例して摺動体機構2の高さが増大することで、凸型摺動体4から板ばね5による摺動体押圧方向の付勢力に抗する力が作用し、その反力として、摺動体機構2に摺動体押圧方向の圧縮力が作用する。
また、減衰装置1においては、凹型摺動体3および凸型摺動体4が、溝部11と突部12とにより互いに嵌合するとともに、上述のとおり溝部11の溝の幅の寸法と、突部12の突起の幅の寸法とが略同じとなるように形成される。このような構成により、溝部11と突部12とが互いに嵌合した状態で溝部11と突部12との間に生じる幅方向の隙間が極力排除され、凹型摺動体3および凸型摺動体4は、幅方向にガタつくことなく摺動する。
また、凸型摺動体4の前方移動時と後方移動時とにかかわらず、相対的に摺動する凹型摺動体3および凸型摺動体4において、作動方向と直角な横断方向(幅方向)の偏心が発生することがなく、しかも互いの摺動面は、各摺動体のほぼ全長ld(図2参照)で接触することができる。なお、図3において、bFとbBは、それぞれ前方用摺動面である溝端面11aおよび肩面12aと、後方用摺動面である溝底面11bおよび突部端面12bの幅である。
以上のような構成を備える本実施形態の減衰装置1について、静的力学モデルを用いて力学的に解析する。図8および図9は、凹型摺動体3、凸型摺動体4、板ばね5、および支持はり6を備える減衰装置1の力学モデルを示す。
図8および図9に示すように、この力学モデルでは、凹型摺動体3は、構造物に相当する下側壁7上に固定される。凹型摺動体3の上には、凸型摺動体4が組み付けられ、凸型摺動体4の上側に、板ばね5と支持はり6が設置される。また、支持はり6は、ローラ9を介して、構造物に相当する上側壁8に固定される。つまり、ローラ9は、支持はり6と上側壁8の間に設置される。ローラ9は、支持はり6を上側壁8に対して水平方向(x軸方向)に可動となるように、かつ鉛直方向(y軸方向、上下方向)に固定となるように支持する。
なお、この力学モデルでは、減衰装置1の力学特性を説明するためにローラ9が備えられるが、減衰装置1においてローラ9は備えられる必要はない。また、この力学モデルでは、下側壁7と上側壁8との鉛直方向の間隔は一定であり、下側壁7および上側壁8は水平方向および鉛直方向に動かない。また、この力学モデルでは、減衰装置1において生じる弾性変形としては、板ばね5の弾性変形のみが考慮され、凹型摺動体3、凸型摺動体4、および支持はり6の弾性変形は無視される。また、この力学モデルでは、中立状態を基準(変位量=0)とし、この中立状態からの凸型摺動体4の前方への変位量を正の値とし、中立状態からの凸型摺動体4の後方への変位量を負の値とする。また、凹型摺動体3および凸型摺動体4が中立状態のときの板ばね5と支持はり6との合計高さをhsとする。
図8は、支持はり6にx軸方向の水平力Hが作用することによる、凸型摺動体4の前方移動時の状態を示す。前方移動時では、減衰装置1において、摺動体変位量として、正の変位量ud>0が生じている。また、前方移動時では、前方用摺動面である凹型摺動体3の溝端面11aおよび凸型摺動体4の肩面12a同士のみが接触する。
図9は、支持はり6に図8の場合と反対方向(−x軸方向)の水平力Hが作用することによる、凸型摺動体4の後方移動時の状態を示す。後方移動時では、減衰装置1において、摺動体変位量として、負の変位量ud<0が生じている。また、後方移動時では、後方用摺動面である凹型摺動体3の溝底面11bおよび凸型摺動体4の突部端面12b同士のみが接触する。
図8および図9に示すように、凸型摺動体4の前方移動時と後方移動時とにかかわらず、摺動体間に変位量udの相対変位が生じると、摺動体機構2の高さはvdだけ増大し、板ばね5および支持はり6の合計高さはvdだけ減少する。摺動体機構2については増大、板ばね5および支持はり6の合計高さについては減少する高さの変化量vdは、板ばね5の縮みに等しい。このように、減衰装置1においては、摺動体同士の相対変位による摺動体機構2の高さの変化は、板ばね5の伸縮をともなって、凸型摺動体4と支持はり6との隙間によって確保される。
摺動体機構2の高さの変化量vdと摺動体変位量udとの関係は、式(1)で示される。このため、摺動体機構2には、摺動体変位量の絶対値に比例して増加する圧縮力が作用する。
図8および図9に示すように、支持はり6に水平力Hが作用すると、板ばね5においては水平方向の変形が生じる。ここで、減衰装置1としての機能を考えた場合、摺動体機構2を構成する摺動体同士の相対変位で成される仕事と、水平力Hが成す仕事との差が小さくなるほど、減衰装置1による減衰効率が良い。このため、支持はり6に水平力が作用することによる板ばね5の水平方向の弾性変形は、摺動体変位量に比べて小さい方が望ましい。
図10は、図8に示す凸型摺動体4の前方移動時(ud>0)において、凸型摺動体4の凹型摺動体3に対する相対速度(dud/dt)が正となる前進時((dud/dt)>0)の摺動体機構2の自由体図である。
図10において、Vは、板ばね5による圧縮力、V0は、凸型摺動体4、板ばね5、および支持はり6の自重等の初期圧縮力、Hは、図8に示すように支持はり6に作用する水平力、Pは、凹型摺動体3および凸型摺動体4の摺動面(前方用摺動面)に垂直に作用する垂直効力、Fは、凹型摺動体3および凸型摺動体4の摺動面に平行に作用するクーロン摩擦力である。なお、ローラ9の摩擦は無視する。
凹型摺動体3および凸型摺動体4それぞれの前方用摺動面(溝端面11a、肩面12a)の動摩擦係数をμFとすると、摩擦力Fと垂直効力Pとの関係は次式(2)により表わされる。
F=μFP ・・・(2)
また、板ばね5の鉛直ばね定数をSyとすると、圧縮力Vは次式(3)により表わされる。
V=Syvd ・・・(3)
式(3)に式(1)の関係を用いると次式(4)が得られる。
V=Syi|ud| ・・・(4)
図10に示す凸型摺動体4のx軸方向とy軸方向の力のつり合い式はそれぞれ次式(5)、(6)となる。
H−Fcosθ−Psinθ=0 ・・・(5)
−V−V0−Fsinθ+Pcosθ=0 ・・・(6)
ここで、θは、前方用摺動面の水平方向(x軸方向)に対する角度である。
式(2)、(4)、(5)、および(6)より、垂直効力P、摩擦力F、および圧縮力Vを消去すると、次の水平力Hと変位量udとの関係式として次式(7)が得られる。
H=λ(Syi|ud|+V0) ・・・(7)
ここで、λは、前方用摺動面の動摩擦係数と勾配によって次式(8)により決まる運動抵抗係数である。
λ=(μF+i)(1−iμF)−1,ud>0,(dud/dt)>0 ・・・(8)
同様にして、前方移動時・後進時(ud>0,(dud/dt)<0)、後方移動時・後進時(ud<0,(dud/dt)<0)、および後方移動時・前進時(ud<0,(dud/dt)>0)のそれぞれの水平力Hと変位量udとの関係も式(7)で示される。ただし、それぞれの場合に対応する運動抵抗係数は、次式(9)、(10)、および(11)とする。
λ=−(μF−i)(1+iμF)−1,ud>0,(dud/dt)<0 ・・・(9)
λ=(μB−i)(1+iμB)−1,ud<0,(dud/dt)>0 ・・・(10)
λ=−(μB+i)(1−iμB)−1,ud<0,(dud/dt)<0 ・・・(11)
ここで、μBは、凹型摺動体3および凸型摺動体4それぞれの後方用摺動面(溝底面11b、突部端面12b)の動摩擦係数である。
減衰装置1の作動振幅をadとすると、減衰装置1の板ばね5に縮みadを発生させる力は、Syadとなる。式(7)の両辺をSyadで割ると、次式(12)が得られる。
図11は、式(12)で示される水平力と相対変位との履歴曲線の一例である。図11(a)、(b)それぞれに示すグラフにおいて、横軸は、無次元化した相対変位ud/adを表し、縦軸は、無次元化した水平力H/Syadを表す。
図11(a)は、凹型摺動体3および凸型摺動体4のそれぞれが有する摺動面(以下単に「摺動面」ともいう。)の勾配がi=0.01の場合とi=0.04の場合の履歴曲線の比較を示す。図11(a)において、実線で示すグラフG1が、i=0.01の場合の履歴曲線であり、破線で示すグラフG2が、i=0.04の場合の履歴曲線である。また、図11(a)に示す場合において、無次元化された初期圧縮力V0/Syadは、0.01(V0/Syad=0.01)であり、前方用摺動面および後方用摺動面それぞれの動摩擦係数μF、μBは、いずれも0.2(μF=μB=0.2)である。
図11(b)は、初期圧縮力がV0/Syad=0.005の場合とV0/Syad=0.020の場合の履歴曲線の比較を示す。図11(b)において、実線で示すグラフG3が、V0/Syad=0.005の場合の履歴曲線であり、破線で示すグラフG4が、V0/Syad=0.020の場合の履歴曲線である。また、図11(b)に示す場合において、前方用摺動面および後方用摺動面それぞれの動摩擦係数μF、μBは、いずれも0.2(μF=μB=0.2)であり、摺動面の勾配iは、0.02(i=0.02)である。図11(a)、(b)のいずれの条件の履歴曲線も、羽を広げた蝶のような形になると予想される。
図11(a)より、摺動面の勾配iが大きくなると、摺動体機構2における前方移動時、後方移動時、前進時、および後進時のいずれかにかかわらず、履歴曲線の傾きが増加し、履歴曲線が囲む面積が大きくなると考えられる。また、図11(b)より、初期圧縮力が大きくなると、履歴曲線の傾きは変化しないが、履歴曲線の縦軸の切片の大きさが大きくなり、履歴曲線が上下に平行移動することにより、全体として履歴曲線が囲む面積が大きくなると考えられる。
また、図11(a)、(b)の各図において、縦軸は、鉛直ばね定数Syで無次元化されているので、鉛直ばね定数Syのみが大きくなると、履歴曲線が囲む面積が大きくなると考えられる。なお、摺動面の動摩擦係数のみが大きくなると、図11(a)および同図(b)の特徴が同時に現れて、履歴曲線が囲む面積が大きくなると考えられる。履歴曲線が囲む面積は、摩擦力によって消費される力学エネルギーを示すものである。このため、摺動面の動摩擦係数、摺動面の勾配、鉛直ばね定数、初期圧縮力を適宜組み合わせることにより、所要のエネルギー吸収能力を持つ減衰装置1が実現できると考えられる。
式(12)において、初期圧縮力をゼロとし、式(8)〜(11)において摺動面の勾配iを無視すると、減衰装置1が描く履歴曲線は、CloughとPenzienが紹介した履歴減衰の曲線(ばね技術研究会:ばね,丸善(株),pp.253−256,1970.)と等しい。ただし、この履歴減衰の曲線は数学モデルとして紹介されているが、それを発生させる具体的な装置や力学モデルについては言及されていない。
また、図11と類似の履歴曲線を持つエネルギー吸収装置として、輪ばねが実用化されている。輪ばねは、内周面として円錐面を有する外輪と、外周面として円錐面を有する内輪とを、円錐面で互いに接触するように組み立てて積み上げたものである。かかる構成において、輪ばねの個数を増減することにより、摩擦力の大きさが調整できる。輪ばねによれば、比較的大きな摩擦力を得ることができるため、輪ばねは機械部品の緩衝装置等に用いられている。しかし、輪ばねは構造物の振動を抑制する減衰装置としては利用されていないと思われる。
続いて、減衰装置1の等価粘性減衰係数(等価減衰定数)について説明する。図8および図9に示す力学モデルにおいて、1サイクルで消費される力学エネルギーは、図11(a)、(b)の各図に示す履歴曲線が囲む面積に等しい。ここで、1サイクルは、減衰装置1において、凹型摺動体3を基準とした場合の凸型摺動体4の摺動による1往復に相当する。
減衰装置1については、実用的には、摺動面の動摩擦係数は0.3未満、摺動面の勾配は数%程度と考えられる。したがって、式(8)〜(11)の各式の分母は、1±μF≒1、1±μB≒1と考えて良い。前方用摺動面と後方用摺動面の動摩擦係数をμF=μB=μ0とし、ローラ9で支持された減衰装置1の1サイクルの散逸エネルギーをΔfriとすると、この散逸エネルギーΔfriは次式(13)で表わされる。
Δfri≒μ0ad(2iSyad+4V0) ・・・(13)
式(13)より、減衰装置1が1サイクルで散逸するエネルギーは振幅adの二次関数となるが、振動数とは無関係であると考えられる。一方、粘性減衰係数ceの減衰装置が円振動数θと振幅adで振動する時の1サイクルの散逸エネルギーをΔvisとすると、この散逸エネルギーΔvisは次式(14)で表わされる。
Δvis=πceθad 2 ・・・(14)
式(13)と式(14)の互いの右辺を等値とすると、次式(15)により表わされる等価粘性減衰係数ceが得られる。
式(15)のceは、ad→∞で、一定値ce0=2μ0iSy/πθに漸近する。よって、本実施形態の減衰装置1によれば、振幅adの大小にかかわらずに、最低でもce0で示される減衰性能を確保することができると考えられる。また、初期圧縮力を小さくすることにより、摺動面が固着する振幅の限界を小さくすることができることから、本実施形態の減衰装置1によれば、小振幅時から大振幅時まで十分な減衰機能を発揮することができる。また、式(15)は、分母に円振動数θを変数として含むので、θが小さくなる、つまり周期が長くなると、等価粘性減衰係数は増加する。よって、本実施形態の減衰装置1は、長周期の構造物の減衰装置として適している。
次に、本実施形態の減衰装置1において摺動体機構2に摺動体押圧方向の付勢力を作用させる付勢手段として機能する板ばね5について図12〜14を用いて具体的に説明する。
板ばね5は、上述のとおり、凸型摺動体4と支持はり6との間に設けられ、凸型摺動体4の上方に支持はり6を支持する(図1参照)。図12および図13に示すように、板ばね5は、凸型摺動体4に固定される部分である下側固定部21と、支持はり6に固定される部分である上側固定部22と、板ばね5の本体部分である板ばね部23とを有する。
板ばね5は、一枚の矩形板状の部材から折り曲げ加工等によって形成され、略U字型の板ばねとして構成される。つまり、板ばね5を構成する下側固定部21、上側固定部22、および板ばね部23等の各部分は、一枚の矩形板状の部材が折り曲げ加工等を受けることによって一体に形成される。板ばね5は、例えばステンレス鋼等の金属材料により構成される。
下側固定部21は、板ばね5の一端側(下側)に形成される長方形状の平板状の部分である。前記のとおり凸型摺動体4に固定される部分である下側固定部21は、その一側の板面21aが凸型摺動体4の側面4bに接触した状態で凸型摺動体4に固定される。このように、本実施形態では、板ばね5において、下側固定部21が、凸型摺動体4に固定される摺動体側固定部として機能する。なお、摺動体側固定部としての下側固定部21は、凸型摺動体4に対して他の部材を介して間接的に固定されてもよい。つまり、付勢手段としての板ばね5を構成する摺動体側固定部の摺動体に対する固定には、本実施形態のような下側固定部21の凸型摺動体4に対する直接的な固定のほか、他の部材を介する間接的な固定が含まれる。
板ばね5は、下側固定部21の部分において締結具としてのボルト24によって凸型摺動体4に固定される。このため、下側固定部21には、ボルト24を貫通させるためのボルト孔21bが形成されている。つまり、ボルト24は、ボルト孔21bを貫通するとともに凸型摺動体4に形成される締結穴4cにねじ込まれることで、板ばね5を凸型摺動体4に固定する。本実施形態では、ボルト孔21bは、板ばね5の幅の方向(図12においてx軸方向)に沿って略等間隔を隔てて3箇所に形成されている。
上側固定部22は、板ばね5の他端側(上側)に形成される長方形状の平板状の部分である。前記のとおり支持はり6に固定される部分である上側固定部22は、その一側の板面22aが支持はり6の側面6bに接触した状態で支持はり6に固定される。支持はり6は、上述したように構造物に固定される。したがって、上側固定部22は、構造物に対して支持はり6を介して間接的に固定される。このように、本実施形態では、板ばね5において、上側固定部22が、構造物に間接的に固定される構造物側固定部として機能する。なお、減衰装置1において支持はり6の構成が省略される場合、構造物側固定部としての上側固定部22は、構造物に直接的に固定されてもよい。
板ばね5は、上側固定部22の部分において締結具としてのボルト25によって支持はり6に固定される。このため、上側固定部22には、ボルト25を貫通させるためのボルト孔22bが、下側固定部21のボルト孔21bと同様に配置により形成されている。ボルト25は、ボルト孔22bを貫通するとともに支持はり6に形成される締結穴6cにねじ込まれることで、板ばね5を支持はり6に固定する。
板ばね部23は、板ばね5において上下端部に形成される下側固定部21と上側固定部22との間に形成される湾曲形状を有する板状部分である。板ばね部23は、板ばね5が下側固定部21と上側固定部22とにより凸型摺動体4および支持はり6それぞれに固定された状態で、凸型摺動体4と支持はり6との間の隙間側と反対側(図13において左右両外側)に突出する。つまり、板ばね5は、板ばね部23を凸型摺動体4および支持はり6の側面部から突出させた状態で設けられる。
板ばね部23は、下側固定部21の上端から下側固定部21に対して略直角に折れ曲った平板状の部分である下側平板部23aと、上側固定部22の下端から上側固定部22に対して略直角に折れ曲った平板状の部分である上側平板部23bと、下側平板部23aと上側平板部23bとの間に形成され半円状に湾曲する板状の部分である湾曲部23cとを有する。
このように、板ばね部23は、下側固定部21および上側固定部22の間に形成され、弾性変形可能な湾曲板状の部分である。そして、板ばね部23は、互いに略平行となる下側平板部23aおよび上側平板部23bと、下側平板部23aおよび上側平板部23bの一端側同士を接続する部分である湾曲部23cとによりU字状に湾曲形成される。
板ばね部23は、板ばね5において主に弾性変形する部分であり、板ばね5から摺動体機構2への摺動体押圧方向の圧縮力(付勢力)を主に発生させる部分である。具体的には、板ばね部23は、板ばね5が下側固定部21と上側固定部22とにより凸型摺動体4および支持はり6それぞれに固定された状態で、上下方向(y軸方向)の復元力を発生させる。板ばね部23は、互いに平行な下側平板部23aと上側平板部23bとが近接・離間するように弾性変形することで、上下方向の復元力を発生させる。この板ばね部23による復元力が、板ばね5から摺動体機構2に対する摺動体押圧方向の圧縮力として作用する。
以上のような構成を有する板ばね5は、図13に示すように、減衰装置1において、凸型摺動体4および支持はり6の両側面側から、略U字型の形状の開口側を対向させた状態で設けられる。そして、本実施形態では、凸型摺動体4および支持はり6の両側面側から対向する一対の板ばね5が摺動体機構2の長手方向に沿って4組、合計8個の板ばね5が設けられている(図1参照)。
また、本実施形態の減衰装置1においては、板ばね5の固定位置が調整可能となっている。具体的には、図1に示すように、板ばね5を凸型摺動体4および支持はり6に固定するための締結穴4c,6cが、下側固定部21および上側固定部22それぞれにおけるボルト孔21b,22bの配置間隔に対応する間隔で、凸型摺動体4および支持はり6それぞれにおいて長手方向の全体にわたって多数設けられている。このように凸型摺動体4および支持はり6それぞれの多数の締結穴4c,6cから、それぞれ連続する3個の締結穴4c,6cを任意に選択して用いることで、板ばね5を締結穴4c,6cが形成される範囲で任意の位置に調整して固定することができる。
なお、本実施形態では、板ばね5がボルト24,25により固定される構成が採用されているが、板ばね5の固定方法は特に限定されない。板ばね5の固定には、例えば溶接等の方法が用いられてもよい。ただし、上述のとおり板ばね5の固定位置を調整する観点からは、板ばね5の固定方法は、本実施形態のボルト24,25を用いる方法のように、板ばね5を容易に着脱できる方法であることが好ましい。
以上のような構成を備える板ばね5によれば、本実施形態の減衰装置1において摺動体機構2に上側からの圧縮力を作用させるための構成について、好ましい特性を容易に得ることができる。ここで、摺動体機構2に圧縮力を作用させるための構成について好ましい特性とは、水平方向(x軸方向)については変形が生じにくく、かつ、上下方向(y軸方向)については所要の減衰能力(ばね定数)を有することである。
すなわち、減衰装置1においては、減衰効率の観点から、構造物の振動による変位(個の変形を含む)が凸型摺動体4に対して効率的に伝達されることが好ましい。また、本実施形態の減衰装置1が減衰させる振動の方向は、水平方向である。このため、構造物に固定される支持はり6を凸型摺動体4上に支持する板ばね5の特性としては、水平方向について、剛性が高く変形が生じにくいことが好ましい。
また、減衰装置1において、板ばね5は、その弾性によって摺動体機構2に摺動体押圧方向の圧縮力を作用させることで、減衰装置1の減衰力としての摩擦力を発生させる。したがって、減衰装置1において所要の減衰力を得るためには、板ばね5が上下方向について所定のばね定数を有することが必要となる。このため、板ばね5についての所定のばね定数は、減衰装置1の減衰力に影響する要因である、摺動体機構2を構成する摺動体の摺動面の勾配の大きさ、摺動面の摩擦係数、構造物の構造等に基づいて決まる。
本実施形態の板ばね5において、主に摺動体機構2への圧縮力を発生させる板ばね部23は、U字状に湾曲形成される板状の部分であり、幅の方向については剛性が高く変形が生じにくい。そこで、板ばね5によれば、板ばね部23の幅方向が水平方向となるように凸型摺動体4および支持はり6に固定されることで、水平方向について、剛性が高く変形が生じにくいという特性が得られる。
また、U字状に湾曲形成される板状の部分である板ばね部23においては、板ばね部23を構成する下側平板部23aと上側平板部23bとが対向する方向について比較的高い弾性が得られる。そこで、板ばね5が、下側平板部23aと上側平板部23bとが対向する方向が上下方向となるように凸型摺動体4および支持はり6に固定される構成においては、板ばね部23の部分の形状や寸法等の設定により、板ばね5について容易に所要の減衰能力(ばね定数)を得ることができる。
このように、本実施形態の板ばね5によれば、水平方向については変形が生じにくく、かつ、上下方向については所要の減衰能力(ばね定数)を有するという好ましい特性を容易に得ることができる。なお、このような特性を容易に得ることができれば、板ばね5の形状は本実施形態に限定されない。
以上のような構成を備える本実施形態に係る板ばね5について、力学モデルを用いて力学的に解析する。この力学モデルの説明においては、図12および図14に示すように、板ばね部23の直線長さ、つまり板ばね部23の直線部分(平面部分)を形成する下側平板部23aおよび上側平板部23bそれぞれの幅方向(z軸方向)の寸法をα、板ばね部23の曲げ半径、つまり板ばね部23の曲線部分(曲面部分)を形成する湾曲部23cの曲率半径をβ、板ばね5の水平方向(x軸方向)の長さをγ、板ばね5の板ばね部23の部分の板厚をφとする。また、この力学モデルでは、板ばね5のヤング率(ヤング係数)をE、板ばね5のせん断弾性係数をGとする。
図14に、この力学モデルにおいて、板ばね5に対して鉛直方向(y軸方向)に鉛直力pが作用することで板ばね5に鉛直変位vsが生じた状態を示す(二点鎖線参照)。図14に示すように、U字型の板ばね5を、両端の曲げ変形が拘束されたU型の曲がり梁と考えると、曲げ変形のみを考慮した鉛直ばね定数syは、次式(16)、(17)で見積もられる。
ここで、式(17)のσは、板ばね部23の直線長さαと板ばね部23の曲げ半径βの比ξ=α/βを変数とする係数である。式(16)および式(17)より、板ばね部23の板厚φと板ばね部23の曲げ半径βの比φ/β、板ばね部23の直線長さαと板ばね部23の曲げ半径βの比ξ(=α/β)、および板ばね5を構成する材料を適切に選ぶことにより、板ばね5において所要の鉛直ばね定数syが得られる。
一方、板ばね5の板ばね部23の部分を、下側固定部21側と上側固定部22側の両端側が固定された、湾曲していない矩形板状の部分とみなすと、板ばね部23は、幅(x軸方向の寸法)がγ、高さ(下側平板部23a、上側平板部23b、および湾曲部23cの合計の長さ)が2α+πβ、厚さがφの矩形板とみなすことができる。そこで、板ばね5の水平方向(x軸方向)の変形を両端固定梁の曲げ変形と矩形板のせん断変形の和として近似すると、水平ばね定数sxは、次式(18)で表わされる。
式(18)において、τは、せん断応力度の分布を表す係数である。ξ=1,τ=3/2,G/E≒0.385(ポアソン比0.3の等方性材料と仮定する)の条件で、式(18)の水平ばね定数sxと、式(16)の鉛直ばね定数syとの比を試算すると、次式(19)が得られる。
式(19)において、板ばね部23の板厚φと曲げ半径βの比をφ/β=1/20、板ばね部23の半径βと水平方向の長さγの比をβ/γ=1/10とすると、水平ばね定数sxと鉛直ばね定数syとのばね定数比はsx/sy≒458となる。よって、φ/βおよびβ/γを適切に設定することにより、板ばね5においてsx>>syという関係を得ることができる。
本実施形態では、板ばね5の下側固定部21および上側固定部22のうち一方の固定部を凹型摺動体3または凸型摺動体4にボルト等で固定し、他方の固定部を支持はり6にボルト等で固定する。板ばね5の個数をnとすると、減衰装置1としての鉛直ばね定数は次式(20)で表わされる。
Sy=Ψnsy ・・・(20)
式(20)において、Ψは、板ばね5の取付け方法等で決まる補正係数で、実験により定められる。減衰装置1の水平ばね定数も同様にして決定できるが、ここでは記述を省略する。
続いて、本実施形態に係る減衰装置1の減衰効果を検証するために、減衰装置1を装着したラーメンの静的力学特性について説明する。
上述したように、本実施形態の減衰装置1に水平力が作用すると、減衰装置1は、上下の凹型摺動体3および凸型摺動体4の摺動体同士が相対的に摺動することで変形する(図8、図9参照)。この減衰装置1の摺動体同士が相対的に摺動することによる変形(以下「摺動変形」という。)は、水平力が作用するラーメンで生じる上下間の層間水平変形と類似していると考えられる。
したがって、減衰装置1の摺動変形とラーメンの層間水平変形が対応するように減衰装置1をラーメンに装着することにより、ラーメンの減衰を増加させることができると考えられる。ここでは、本実施形態の減衰装置1の実用性を検討するために、減衰装置1を装着したラーメンの静的力学特性を理論的に明らかにする。
図15および図16は、本実施形態に係る減衰装置1のラーメンにおける配置の一例を示す。図15および図16に示すように、本例は、減衰装置1を、梁31と、梁31の長手方向(x軸方向)の両端側を支持するとともに下端が基礎33に固定された柱32とを有する一層ラーメンに配置した場合の例である。
本例では、梁31の下側に、上側壁18が固定される。上側壁18は、水平方向の両側の柱32に対して、柱32と衝突しない適切な間隔eを隔てた位置に設置される。また、基礎33の上側に、下側壁17が固定される。下側壁17は、上側壁18と同様に、両側の柱32に対して間隔eを隔てた位置に設置される。
そして、減衰装置1は、凹型摺動体3が下側壁17に固定され、支持はり6が上側壁18に固定されることで、下側壁17と上側壁18との間に設置される。板ばね5は、凸型摺動体4と支持はり6との間に上下方向に架け渡された状態で凸型摺動体4および支持はり6を幅方向(z軸方向)の両側から挟むように、凸型摺動体4および支持はり6それぞれの側面に固定される。
図15および図16に示すように、この力学モデルでは、梁31の長さ(x軸方向の寸法、以下同じ)をl、下側壁17および上側壁18の長さをそれぞれldとし、柱32の高さ(y軸方向の寸法、以下同じ)をh、下側壁17および上側壁18の高さをそれぞれhl,huとする。また、梁31の断面積、断面二次モーメント、およびヤング率を、それぞれAb、Ib、およびEbとし、柱32の断面積、断面二次モーメント、およびヤング率を、それぞれAc、Ic、およびEcとする。
また、この力学モデルでは、ラーメンの梁31の曲げ剛性は、柱32の曲げ剛性に比べて大きいとする。つまり、EbIb/l>>EcIc/hが成り立ち、梁31の弾性変形を無視する。また、この力学モデルでは、下側壁17および上側壁18のx軸方向、y軸方向の剛性は、それぞれ減衰装置1のx軸方向、y軸方向のばね定数Sx、Syに比べて十分大きいと仮定し、下側壁17および上側壁18の弾性変形は無視する。また、減衰装置1の水平方向の弾性変形も無視する。よって、梁31の水平変位uと、減衰装置1の凹型摺動体3および凸型摺動体4の相対変位udとの差は無視できる程度に小さいと仮定し、u≒udとする。
図17および図18は、ラーメンの梁31に水平力Qが作用した時の、ラーメンおよび減衰装置1の変形を説明するための図である。図17は、減衰装置1が前方移動時の状態のラーメンおよび減衰装置1の変形を示す。図17に示すように、ラーメンの柱32には、曲げ変形および軸変形が生じ、柱32の上端は、x軸方向およびy軸方向に変位を生じさせる。ここでは、柱32の上端のx軸方向の変位をu、同じくy軸方向の変位をvとする。また、図18は、減衰装置1が後方移動時の状態のラーメンおよび減衰装置1の変形を示し、この場合も、前方移動時と同様に、柱32の上端にx軸方向およびy方向の変位が生じる。
図17に示すように、減衰装置1の前方移動時では、減衰装置1は、正の相対変位udを生じさせ、凹型摺動体3および凸型摺動体4は、互いに前方用摺動面(溝端面11a、肩面12a)同士で接触し、高さ変化vdを生じさせる。図18に示すように、減衰装置1の後方移動時では、前方移動時と同様に、減衰装置1は、負の相対変位udを生じさせ、凹型摺動体3および凸型摺動体4は、互いに後方用摺動面(溝底面11b、突部端面12b)同士で接触し、高さ変化vdを生じさせる。前方移動時および後方移動時ともに、udとvdとの間には、上記式(1)の関係が成立する。
摺動体機構2の高さの変化量と柱32の高さの変化量の合計vd−vは、板ばね5の弾性変形によって吸収される。この板ばね5の弾性変形の変形量に比例して、減衰装置1の摺動体機構2において圧縮力が生じ、この圧縮力により、ラーメンの変形による水平移動に抵抗する摩擦力が、減衰装置1において発生する。
図19および図20は、減衰装置1の前方移動時の状態で(図17参照)で、ラーメンと減衰装置1とを切り離し、減衰装置1とラーメンとの接続部、つまり上側壁18および固定はり6に作用する水平力HBと鉛直力VBを明示した自由体図である。図19は、ラーメンに作用する力を示し、図20は、減衰装置1に作用する力を示す。
本実施形態の減衰装置1は、凹型摺動体3および凸型摺動体4の相対的な摺動による摺動体機構2の高さの変化を利用して、板ばね5を伸縮させることで、圧縮力を生成する。また、図17等に示すように、ラーメンに減衰装置1が設置された状態においては、柱32によって支持される梁31と摺動体機構2との間に板ばね5が介在する。このため、ラーメンの柱32の高さの変化は、減衰装置1が生成する圧縮力に大きく影響すると考えられる。
よって、柱32の変形に起因する二次変位を考慮すると、柱32の上端のy軸方向の変位vは、次式(21)で表わされる。
v=v1+v2 ・・・(21)
ここで、v1は、柱32の軸変形による一次変位であり、v2は、柱32の軸線の曲がりによる二次変位である。
柱32の軸変形を考慮したラーメンの鉛直ばね定数をKyとすると、一次変位は次式(22)で表わされる。
v1=VB/Ky ・・・(22)
柱32の本数は梁31の両端の2本なので、鉛直ばね定数Kyは、次式(23)で表わされる。
Ky=2AcEc/h ・・・(23)
柱32の曲げ変形を、支点変位u(梁31の水平変位u)が生じる両端固定梁の曲げ変形と等価と仮定し、柱32の二次変位を、両端固定梁の元の長さと両端固定梁のたわみ曲線の曲線長の差と考えると、二次変位は次式(24)のように表わされる。
v2=(−3/5h)u2 ・・・(24)
式(24)は、支点変位が生じた両端固定梁のたわみ曲線を積分することにより簡単に求められるので、ここでは、式(24)の誘導の過程の説明は省略する。
また、板ばね5の縮みは(vd−v)なので、減衰装置1に作用する鉛直力は、次式(25)で表わされる。
VB=Sy(vd−v) ・・・(25)
式(25)に、式(1)、(21)、(22)、および(24)、ならびにud=uを適用すると、次式(26)、(27)が得られる。
式(26)、(27)において、Sycは、ラーメンと減衰装置1の合成鉛直ばね定数である。式(26)で表わされる鉛直力VBと、図19および図20の水平力HBを、式(5)、(6)のVとHに置き換えると、水平力HBは、次式(28)で表わされる。
ラーメンの水平ばね定数をKxとすると、水平力Qと水平変位uとの関係は、次式(29)で表わされる。
Q−HB=Kxu ・・・(29)
柱32の変形は支点変位を生じる両端固定梁の変形と等価と考えているので、ラーメンの水平ばね定数は、次式(30)で表わされる。
Kx=24EcIc/h3 ・・・(30)
式(29)に式(28)を代入し整理すると、次式(31)により表わされる、減衰装置1を装着したラーメンの水平力と水平変位の関係式が得られる。
図21は、式(31)で示される減衰装置1を装着したラーメンの水平力と水平変位の履歴曲線である。図21(a)、(b)は、それぞれ初期圧縮力と摺動面の勾配による履歴曲線の変化を示す。
図21(a)に示すように、初期圧縮力のみを大きくすると、前進時または後進時の曲線の傾きは変わらないが、縦軸の切片が大きくなることにより曲線が上下に平行移動し、全体として履歴曲線が囲む面積が大きくなると考えられる。
一方、図21(b)に示すように、摺動面の勾配のみを大きくすると、縦軸の切片は変わらないが、前方移動時・前進時と後方移動時・後進時の履歴曲線の傾きが大きくなり、前方移動時・後進時と後方移動時・前進時の曲線の傾きが小さくなることにより、全体として履歴曲線が囲む面積が大きくなると考えられる。また、図21(a)、(b)より、いずれの履歴曲線の形状も、蝶が羽を広げた時の羽の形状となることが予想される。
式(31)の左辺は、ラーメンと減衰装置1の合成鉛直ばね定数Sycを含んでいる。ラーメンの鉛直ばね定数Kyと減衰装置1の鉛直ばね定数Syとの関係をKy>>Syと仮定すると、Syc≒Syとみなすことができる。この仮定の下でSyのみを大きくすると、式(31)の左辺の水平力Qが大きくなるので、履歴曲線が囲む面積が大きくなる。
よって、動摩擦係数、摺動面の勾配、初期圧縮力、および鉛直ばね定数を大きくすることにより、ラーメンの水平力と水平変位の履歴曲線が囲む面積を大きくすることができると考えられる。また、これらの4つのパラメータを適宜組み合わせることにより、ラーメンが振動体として必要とする等価粘性減衰係数を有する減衰装置1を造ることが可能と考えられる。
等価粘性減衰定数について説明する。ラーメンの二次変位を無視すると、式(28)で示す減衰装置1に作用する水平力HBは、式(7)で示す水平力Hと一致する。したがって、ラーメンの二次変位を無視し、Ky>>Sy,1±μFi≒1,1±μBi≒1,μF=μB=μ0と仮定すると、減衰装置1を装着したラーメンの等価粘性減衰定数ζeは、式(15)の等価粘性減衰係数ceとラーメンの臨界減衰係数2√(MKx)との比として次式(32)で定義される。
ここで、Mはラーメンの質量である。減衰性能としては、共振時の等価粘性減衰定数が重要であるので、式(15)の円振動数θは、次式(33)のラーメンの固有円振動数ωに置き換える。
ラーメンの水平変位と減衰装置1の相対変位は等しいと考えているので、ラーメンの振幅をaとすると、ad=aである。よって、式(32)の等価粘性減衰定数ζeは、次式(34)となる。
式(34)より、減衰装置1を装着したラーメンの等価粘性減衰定数は、摺動面の動摩擦係数と勾配、減衰装置1の鉛直ばね定数とラーメンの水平ばね定数、初期圧縮力、およびラーメンの振幅によって決まると考えられる。また、振幅が大きくなると、初期圧縮力の影響は小さくなると考えられる。
図22は、式(34)で計算した等価粘性減衰定数(Equivalent damping ratio)の一例である。図22(a)は、摺動面の勾配と動摩擦係数を一定とし、ばね定数比Sy/Kxと振幅aをパラメータとする場合の等価粘性減衰定数ζeの変化を示す。図22(b)は、摺動面の勾配と動摩擦係数を一定とし、初期圧縮力と振幅aをパラメータとする場合の等価粘性減衰定数ζeの変化を示す。
図22(a)から、ばね定数比Sy/Kxを大きくすることにより、等価粘性減衰定数ζeを大きくすることができると考えられる。また、図22(b)から、初期圧縮力を小さくすることにより、振幅aの変化にともなう等価粘性減衰定数ζeの変化を小さくすることができると考えられる。また、図22(a)、(b)、および式(34)から、振幅aが大きくなると、等価粘性減衰定数ζeは、一定値ζe0=iμ0Sy/πKxに漸近すると考えられる。さらに、式(34)から、動摩擦係数と摺動面の勾配を大きくすると、等価粘性減衰定数ζeが大きくなると考えられる。
本実施形態の減衰装置1においては、摺動体機構2の摺動面は、凹型摺動体3および凸型摺動体4が有する凹凸形状による嵌合部分において所定の傾きを有する斜面として形成されているが、これに限定されるものではない。摺動体機構2の摺動面が有する形状は、摺動する相手方の摺動体に対する中立の位置からの前方または後方への変位量の増加にともなって、摺動体機構2の高さを増大させるような形状であれば、特に限定されない。つまり、摺動体機構2の摺動面は、摺動する相手方の摺動体に対する中立の位置からの前方または後方への変位量の増加にともなって、摺動体機構2の高さを増大させるような勾配を有するものであればよい。
したがって、摺動体機構2の摺動面としては、例えば、本実施形態のように凹凸形状による嵌合部分に形成されるものではなく、単に一つの摺動面同士が接触する構成であったり、作動方向および幅方向の少なくともいずれかの方向について湾曲する曲面であったりしてもよい。なお、摺動体機構2の摺動面が作動方向について湾曲する曲面である場合、上記のような変位量の増加にともなって摺動体機構2の高さを増大させるような勾配は、例えば、摺動面の作動方向についての湾曲形状となる曲線に対する接線の傾きとして規定される。
ただし、本実施形態のように、凹型摺動体3の溝部11と凸型摺動体4の突部12とによる嵌合形状部分により摺動面が形成されることにより、摺動体機構2において作動方向と直角な横断方向(幅方向)の偏心の発生を防止することができ、摺動体同士の互いの摺動面を、各摺動体のほぼ全長で接触させることができる。これにより、簡単な構成を容易に実現することができるとともに、摺動体同士の相対的な摺動による動作について、高い安定性を容易に得ることができる。また、摺動体機構2における凹凸形状は、上下で逆であってもよい。
また、摺動体機構2の摺動面は、本実施形態のように所定の勾配を有する斜面であることにより、力学的な解析が容易となり、減衰装置1について高い実用性、汎用性を容易に得ることができる。なお、摺動体機構2の摺動面には、動摩擦係数と静止摩擦係数の差を小さくするために潤滑材等が塗布されたり、金属同士の癒着防止や腐食防止等のために酸化皮膜やオイル皮膜等が形成されたりする。
また、本実施形態の減衰装置1では、摺動体機構2を摺動体押圧方向に付勢する付勢手段として板ばね5が備えられるが、減衰装置1に備えられる付勢手段としては、例えば巻きばねやシリンダ機構やソレノイドアクチュエータ等であってもよい。ただし、本実施形態の減衰装置1のように、付勢手段として略U字型の板ばね5が作用されることで、上述したように、減衰装置1が備える付勢手段としての好ましい特性を簡単な構造により容易に実現することができる。
また、減衰装置1が備える付勢手段としての板ばね5は、凹型摺動体3の下側において構造物との間に設けられてもよい。この場合、凹型摺動体3の下側に設けられる板ばね5は、例えば本実施形態において凸型摺動体4の上側に設けられる板ばね5と同様に、上側が凹型摺動体3に固定され、下側が支持はりを介する等して間接的にまたは直接的に構造物に固定される。つまり、凹型摺動体3の下側に板ばね5が設けられる場合、摺動体側固定部としての固定部は、凹型摺動体3に固定され、構造物側固定部としての固定部は、構造物に直接的にまたは支持はり等を介して間接的に固定される。
以上説明した本実施形態に係る減衰装置1によれば、簡単な構造で、構造物の振動の周期の長短に依存することなく、小振幅から大振幅まで振動エネルギーの吸収を効率的に行うことができ、高い実用性、汎用性を得ることができる。
例えば、構造物として超高層ビルが対象とされる場合、風による振動のように比較的振幅の小さい振動や、長周期地震動のように比較的振幅の大きい振動等のタイプの異なる振動に対応する必要がある。このような場合、本実施形態の減衰装置1によれば、小振幅から大振幅まで広い範囲の振動に対応することができるので、振動のタイプごとに異なる減衰装置を用いることなく、1種類の減衰装置でタイプの異なる振動に対応することが容易となる。
本実施形態の減衰装置1によれば、減衰力が変位の絶対値に比例して増加する構成、すなわち振幅が増加しても等価粘性減衰係数が減少せず、構造物の固有振動モードが長周期化しても等価粘性減衰定数が低下しない減衰装置を実現することが可能となる。本実施形態の減衰装置1においては、二つの摺動体である凹型摺動体3と凸型摺動体4とは互いの凹凸面でかみ合い、前方移動時には前方用摺動面同士のみが密着し、後方移動時には後方用摺動面同士のみが密着する。組み立てられた凹型摺動体3および凸型摺動体4に相対変位が生じると、摺動面の勾配のために、摺動体機構2の高さが変化する。
そして、凹型摺動体3と凸型摺動体4の一方に固定する懸架装置(板ばね5および支持はり6を含む構成)は、摺動体機構2の高さの変位に比例する圧縮力を摺動面に作用させる。この圧縮力と摺動面の摩擦係数の積に比例する摩擦力が、摺動面に発生する。よって、本実施形態の摺動体機構2を直接に構造物本体に装着することによって、構造物の振動を減衰させることができる。また、摺動体機構2を組み込んだ減衰装置1によれば、変位比例摩擦力型の減衰装置が容易に実現する。
また、凹型摺動体3および凸型摺動体4の各摺動体が有する前方用摺動面と後方用摺動面とは、作動方向について共通の位置に存在することから、特に作動方向について装置のコンパクト化を容易に図ることができる。これにより、減衰装置1のコンパクト化を容易に図ることができ、実用性、汎用性の面で有利となる。
本発明の第1実施形態に係る減衰装置1の適用例について説明する。図23および図24は、減衰装置1を鉄骨ビルに適用した場合の配置の一例を示す。図23に示すように、本適用例は、鉄骨ビルにおいて、互いに平行に水平方向に配される上下の梁(H型鋼材)40a,40bと、互いに平行に上下方向に配される左右の柱(四角柱状の柱)41a,41bとが交わることで形成される枠組み構造(以下「鉄骨枠組み」という。)に、減衰装置1が配置される例である。なお、上下の各梁40a,40bと、左右の各柱41a,41bとがそれぞれ交わる各節点は、剛節(変形しにくい結合)として構成される。
本適用例では、鉄骨枠組みの枠内部において、下側の梁40bの上側に、減衰装置1が配置されている。減衰装置1は、凹型摺動体3と凸型摺動体4との相対的な摺動方向が上下の梁40a,40bが配される方向(図23において左右方向)に沿うように設けられる。減衰装置1は、下側の梁40b上において左右の柱41a,41bの間の略中央位置に固定されるとともに、減衰装置1が設けられる左右中央部の位置からそれぞれ左右の斜め上方に配される左右のブレース(H型鋼材)42a,42bにより構成されるV字ブレースを介して、鉄骨枠組みに装着される。
具体的には、減衰装置1の凹型摺動体3は、下側の梁40bの上面に設けられる一対の連結板43を介して下側の梁40bの上側に固定される。一対の連結板43は、下側の梁40bの上面から突出した状態で設けられ、凹型摺動体3を両側面側(図24において左右両側)から挟んだ状態でボルト43aにより凹型摺動体3に固定される(図24参照)。
また、減衰装置1の支持はり6は、一対のガセット板44を介して左右のブレース42a,42bからなるV字ブレースに連結される。一対のガセット板44は、支持はり6を両側面側(図24において左右両側)から挟んだ状態でボルト44aにより支持はり6に固定される(図24参照)。左右の各ブレース42a,42bの下端は、一対のガセット板44間に固定され、左右の各ブレース42a,42bの上端は、上側の梁40aと左右の柱41a,41bとの各角部分において梁40aと各柱41a,41bとの間に設けられる支持板45を介して固定される。
このように、本適用例では、鉄骨枠組みに対して、上下の梁40a,40bが左右の水平方向にずれる方向と減衰装置1の作動方向とが一致するように、V字ブレースを介して減衰装置1が装着される。これにより、鉄骨枠組みにおいて左右の水平方向についての減衰効果が得られる。上下の梁40a,40bについては、梁40a,40bの延設方向に直交する水平方向(図23において紙面に垂直な方向)のずれが生じる場合があるが、この場合であっても、凹型摺動体3と凸型摺動体4との凹凸形状によるかみ合いにより、減衰装置1の逸脱(凹型摺動体3と凸型摺動体4との離脱)が防止される。
本適用例においては、上下の梁40a,40bの鉛直方向の変形特性が考慮され、減衰装置1を構成する各部材が設計される。本適用例は、上述したようにラーメンに減衰装置1を装着した場合に相当する。なお、本適用例において、減衰装置1に連結されるV字ブレースは、耐力壁(反力壁)で代替可能である。また、本適用例は、鉄骨ビルのほか、コンクリートビルや鉄骨・コンクリートビルや木造建築物等にも同様に適用可能である。
本発明の第1実施形態に係る減衰装置1の他の適用例について説明する。図25および図26に示すように、本適用例は、上述した適用例と同様に、上下の梁40a,40bと左右の柱41a,41bとにより形成される鉄骨枠組みへの減衰装置1の適用例である。本適用例では、左右の柱41a,41bの間において、上側の梁40aの下側における左右両側の2箇所に減衰装置1が配置されている(図25参照)。本適用例では、上述した適用例と同様に、凹型摺動体3と凸型摺動体4との相対的な摺動方向が上下の梁40a,40bが配される方向に沿うように設けられる。
本適用例では、減衰装置1の支持はり6は、上側の梁40aの下面から突出した状態で設けられる一対の連結板46を介して上側の梁40aの下面に固定される。一対の連結板46は、支持はり6を両側面側(図26において左右両側)から挟んだ状態でボルト46aにより支持はり6に固定される(図26参照)。減衰装置1の凹型摺動体3は、上側の梁40aの下方かつ左右の柱41a,41bの間において梁40aと平行に(左右の水平方向に)配される梁47に、一対の連結板48を介して固定される。一対の連結板48は、凹型摺動体3および梁47を両側面側から挟んだ状態で、凹型摺動体3および梁47それぞれにボルト48aにより固定される。
左右両側の減衰装置1およびこれらを支持する梁47は、左右の柱41a,41bの間において左右の柱(H型鋼材)49a,49bと斜め方向に配される左右のブレース50a,50bとにより構成されるM字状の骨組み構造を介して鉄骨枠組みに支持される。
M字状の骨組み構造を構成する左右の柱49a,49bは、下側の梁40bの上面における左右両側に立設される。同じくM字状の骨組み構造を構成する左右のブレース50a,50bは、一端側が左右の柱41a,41bの間の略中央位置に固定されるとともに、その略中央位置から他端側が左右の斜め上方に向くように配される。
M字状の骨組み構造を構成する左右のブレース50a,50bの下端は、下側の梁40bの上面における左右略中央位置において梁40bの上面から突出した状態で設けられる一対の支持板51を介して下側の梁40bの上面に固定される。左右のブレース50a,50bおよび左右の柱49aの上端は、それぞれ一対のガセット板52を介して、減衰装置1を支持する梁47の左右両端部に固定される。左右のそれぞれに設けられる一対のガセット板52は、梁47の端部、柱49a,49bの上端部、およびブレース50a,50bの上端部を両側面側から挟んだ状態で、梁47、柱49a,49b、およびブレース50a,50bに固定される。
このように、本適用例では、上述した適用例と同様に、鉄骨枠組みに対して、上下の梁40a,40bが左右の水平方向にずれる方向と減衰装置1の作動方向とが一致するように減衰装置1が装着される。本適用例では、上側の梁40aの直下において二箇所に減衰装置1が配置されるため、上述した適用例との比較において、上下の梁40a,40bの鉛直方向の変形特性の影響は小さい。なお、本適用例において、左右のブレース50a,50bからなるV字ブレースあるいは、これらのブレース50a,50bと左右の柱49a,49bからなるM字状の骨組み構成は、耐力壁(反力壁)で代替可能である。また、本適用例は、上述した適用例と同様に、コンクリートビルや鉄骨・コンクリートビルにも同様に適用可能である。
本発明の第2実施形態について説明する。なお、上述した第1実施形態と重複する内容については適宜説明を省略する。図27および図28に示すように、本実施形態に係る減衰装置61は、全体として軸状に構成され、その軸方向(図27および図28における左右方向)を、減衰力を作用させる方向とする。したがって、第1実施形態の減衰装置1がせん断力部材型の減衰装置であるのに対し、本実施形態の減衰装置61は、凹型摺動体、凸型摺動体、板ばね、および支持はりの個数や配置を工夫することにより、せん断力部材型の減衰装置を軸力部材型の減衰装置へ拡張したものである。すなわち、本実施形態の減衰装置61は、軸方向について付勢された状態で伸縮可能に構成され、その伸縮動作をともなって、軸方向に減衰力を作用させる。
減衰装置61は、その軸方向の両端部に、構造物に固定される部分である支持部(61a、61b)を有する。本実施形態では、一方(図27において左側)の支持部を「第1支持部61a」とし、他方(同図において右側)の支持部を第2支持部61bとする。
図27〜33に示すように、減衰装置61は、凹型摺動体63および2つの凸型摺動体64を有する摺動体機構62と、複数(本実施形態では12個)の板ばね65と、一対の支持体66とを備える。本実施形態の減衰装置61は、第1実施形態と同様に摺動型の減衰装置であり、凹型摺動体63と各凸型摺動体64とが相対的に摺動することによって生じる摩擦力を減衰力とし、その摩擦力が摺動体同士の相対的な変位の絶対値に比例して増加する構成を備える。
本実施形態において、摺動体機構62を構成する凹型摺動体63および一対の凸型摺動体64は、互いに対向した状態で相対的に往復摺動可能に設けられる3つの摺動体である。具体的には、凹型摺動体63は、全体として略柱状の外形を有し、凸型摺動体64は、全体として略矩形板状の外形を有する。そして、一対の凸型摺動体64は、互いの板面を対向させた状態で、凹型摺動体63を両側から挟み込むように設けられる。
したがって、凹型摺動体63の一側の面部に一方の凸型摺動体64が対向し、凹型摺動体63の他側の面部に他方の凸型摺動体64が対向した状態で、凹型摺動体63と凸型摺動体64とが相対的に摺動可能に設けられる。つまり、凹型摺動体63と、凹型摺動体63において互いに反対側となる両側の面部のそれぞれに対向する一対の凸型摺動体64とが、それぞれ互いに対向した状態で相対的に往復摺動可能に構成される。略柱状の凹型摺動体63と、略矩形板状の凸型摺動体64とは、それぞれの長手方向を相手方の摺動体に対する相対的な摺動方向としながら互いの一側の面部同士を対向させた状態で相対的に摺動可能に設けられる。
このように、本実施形態の摺動体機構62は、1つの凹型摺動体63と、この1つの凹型摺動体63を相対的に摺動する相手側の部材として共用する2つの凸型摺動体64とを有する。2つの凸型摺動体64は、互いに略同じ形状・大きさを有する。なお、以下の説明では、2つの凸型摺動体64が凹型摺動体63を挟む方向(図29における上下方向)を上下方向とする。したがって、本実施形態では、凹型摺動体63および凸型摺動体64は、互いに上下方向に対向した状態で摺動可能に設けられる。
上下2つの凸型摺動体64は、板ばね65と支持体66とにより一体的に支持された状態で、凹型摺動体63に対して相対的に摺動する。支持体66は、短冊形の板状部材であり、凹型摺動体63を、減衰装置61の軸方向視で凸型摺動体64が対向する方向に直交する方向(図30、図31において左右方向、以下「左右方向」とする。)の両側から挟む位置に設けられる。つまり、一対の支持体66は、凹型摺動体63を間に介して互いの板面を左右方向に対向させた状態で設けられる。なお、一対の支持体66は、凹型摺動体63の左右両側面との間に隙間を隔てた状態で設けられる(図29参照)。
板ばね65は、第1実施形態の板ばね5と同様の構成を有する略U字型の板ばねである(図12参照)。したがって、板ばね65は、その両端側に長方形状の平板状の固定部81,82を有するとともに、これらの固定部81,82の間に、湾曲形状を有する板状の板ばね部83を有する。そして、板ばね65は、凸型摺動体64および支持体66の左右の両側面において、略U字型の形状の開口側を対向させた状態で、凸型摺動体64および支持体66間に上下に架け渡された状態で設けられる。
すなわち、上側の凸型摺動体64と支持体66とに固定される板ばね65は、一方(上側)の固定部81が上側の凸型摺動体64の側面に固定され、他方(下側)の固定部82が支持体66の側面に固定される。また、下側の凸型摺動体64と支持体66とに固定される板ばね65は、一方(上側)の固定部82が支持体66に固定され、他方(下側)の固定部81が下側の凸型摺動体64に固定される。
本実施形態の減衰装置61では、支持体66と上下の各凸型摺動体64との間の左右両側のそれぞれにおいて、減衰装置61の長手方向に沿って3個の板ばね65が連続して設けられており、計12個の板ばね65が用いられている(図27、図28参照)。なお、各板ばね65は、第1実施形態の板ばね5と同様に、上下の各固定部において3箇所ずつボルト85によって固定される。このため、凸型摺動体64および支持体66の両側面には、それぞれボルト85がねじ込まれるボルト穴64a,66aが形成されている(図32参照)。
このように、本実施形態の減衰装置61が備える板ばね65においては、上下の各凸型摺動体64に固定される側の固定部81が、摺動体側固定部として機能し、支持体66に固定される側の固定部82が、構造物側固定部として機能する。また、板ばね65は、上下の固定部81,82の間に、弾性変形可能な湾曲板状の部分である板ばね部83を有する。
そして、本実施形態では、板ばね65は、凹型摺動体63および一対の凸型摺動体64からなる摺動体機構62を、上下方向に押圧付勢する。つまり、板ばね65は、相対的に往復摺動する凹型摺動体63および凸型摺動体64同士が互いに対向する方向に押し付けられる方向(摺動体押圧方向)の付勢力を、摺動体機構62に作用させる。
具体的には、板ばね65は、支持体66の上下において、支持体66と上下それぞれの凸型摺動体64との間に架け渡された状態で固定されることで、板ばね部83によって主に上下方向に圧縮力(付勢力)を発生させる。つまり、上下方向に配置される板ばね65は、支持体66を介することで、上下に位置する凸型摺動体64が互いに近付く方向の付勢力を摺動体機構62に作用させる。このように、本実施形態の減衰装置61においては、板ばね65が、摺動体機構62を、摺動体押圧方向に付勢する付勢手段として機能する。
凹型摺動体63および凸型摺動体64は、それぞれ構造物に直接的にまたは間接的に固定される。本実施形態では、凹型摺動体63は、構造物に固定される部分である支持板部63aを有する。支持板部63aは、上下方向を板厚方向とする板状の部分であり、凹型摺動体63において、凸型摺動体64に対する摺動面を形成する部分から、凹型摺動体63の長手方向の一端側に形成される。支持板部63aは、一対の支持体66よりも減衰装置61の軸方向の一端側に突出した状態で設けられる。
凹型摺動体63が有する支持板部63aは、上述したように減衰装置61の軸方向の端部に設けられる第1支持部61aを構成する部分である。つまり、減衰装置61は、軸方向の一端部に、構造物に固定される第1支持部61aを構成する支持板部63aを有する。このため、支持板部63aには、構造物に対する固定用の孔部61cが設けられている。孔部61cは、ボルト等の固定具を挿入させるためのものであり、板状の支持板部63aを貫通するように形成される。このように、本実施形態の減衰装置61では、凹型摺動体63は、支持板部63aによって構造物に直接的に固定される。
また、本実施形態では、凸型摺動体64は、構造物に対して、複数の板ばね65および支持体66を介して間接的に固定される。具体的には、減衰装置61においては、凹型摺動体63の支持板部63aが突出する側と反対側(図27、図28において右側)に突出する部分を構成するクレビス67が設けられる。
クレビス67は、全体として略矩形厚板状の外形を有する部材であり、その板厚方向が上下方向となるように、減衰装置61の軸方向の他端部において、一対の支持体66に挟まれた状態で固定される。クレビス67は、その長手方向の一側に、上下方向に対向した状態で互いに平行に形成される一対の板状の部分である支持板部67aを有する。クレビス67は、一対の支持板部67aの部分を一対の支持体66よりも減衰装置61の軸方向の他端側に突出させた状態で、一対の支持体66間にて固定される。なお、クレビス67は、一対の支持体66に挟まれた状態で、例えばボルトや溶接等の適宜の方法により支持体66に固定される。
クレビス67が有する支持板部67aは、上述したように減衰装置61の軸方向の端部に設けられる第2支持部61bを構成する部分である。つまり、減衰装置61は、軸方向の他端部に、構造物に固定される第2支持部61bとしての支持板部67aを有する。このため、支持板部67aには、構造物に対する固定用の孔部61dが設けられている。孔部61dは、ボルト等の固定具を挿入させるためのものであり、一対の板状の支持板部67aを上下方向に貫通するように形成される。このように、本実施形態の減衰装置61では、凸型摺動体64は、板ばね65、支持体66、およびクレビス67を介して構造物に間接的に固定される。
以上のような構成を備える減衰装置61においては、上述したように上下2つの凸型摺動体64が板ばね65と支持体66とにより一体的に支持されるとともに、互いに対向する一対の支持体66にクレビス67が固定される。したがって、減衰装置61においては、2つの凸型摺動体64と、12個の板ばね65と、一対の支持体66と、クレビス67とが、各部材間で固定されることで一体的に構成される。この一体的な構成に対して、凹型摺動体63が、凸型摺動体64との関係において相対的に摺動可能な状態で支持される。凸型摺動体64を含む一体的な構成と凹型摺動体63との相対的な移動の方向は、減衰装置61の軸方向に対応する。
このように凹型摺動体63を相対的に摺動可能に支持する凸型摺動体64を含む一体的な構成は、凹型摺動体63の移動をガイドする二つのガイド体68,69を有する。一方のガイド体68は、凹型摺動体63の支持板部63aを貫通させた状態で、凹型摺動体63を移動可能に支持する。ガイド体68は、囲繞形状を有する略四角柱状の部材であり、一対の支持体66の間において、支持板部63aの外形に沿う孔部を形成し、その孔部に支持板部63aを貫通させる。
また、他方のガイド体69は、凹型摺動体63において支持板部63aが形成される側と反対側に形成される延設部63bを貫通させた状態で、凹型摺動体63を移動可能に支持する。延設部63bは、凹型摺動体63において、凸型摺動体64に対する摺動面を形成する部分から、支持板部63aと反対側に、支持板部63aと同様に板状に形成される。したがって、ガイド体69は、ガイド体68と同様に構成され、延設部63bの外形に沿う孔部を形成し、その孔部に延設部63bを貫通させる。
このように凹型摺動体63の移動をガイドするガイド体68,69は、一対の支持体66に挟まれた状態で、例えばボルトや溶接等の適宜の方法により支持体66に固定される。つまり、二つのガイド体68,69は、支持体66に固定されることで、凹型摺動体63に対して相対的に移動可能な一体的な構成に含まれる。
以上のような構成を備える減衰装置61は、摺動体機構62を構成する凹型摺動体63および一対の凸型摺動体64の相対的な摺動により、板ばね65の付勢力に抗して摺動体機構62の高さ(上下方向の寸法、以下同じ。)を変化させることで、板ばね65からの摺動体押圧方向の付勢力を受ける。そして、減衰装置61は、凹型摺動体63および凸型摺動体64の摺動体変位量の増加にともなって、摺動体機構62の高さを増大させることで、板ばね65から受ける摺動体押圧方向の付勢力を増加させる。これにより、減衰装置61は、減衰力として作用する凹型摺動体63および凸型摺動体64の間で生じる摩擦力が摺動体変位量の増加にともなって比例的に増加するように構成される。
凹型摺動体63および凸型摺動体64により構成される摺動体機構62の構造について、具体的に説明する。なお、上下に配置される一対の凸型摺動体64は、凹型摺動体63との関係において上下方向に対照に構成されるため、以下では、主に上側の凸型摺動体64と凹型摺動体63との関係についてのみ説明し、下側の凸型摺動体64と凹型摺動体63との関係については同じ符号を用いて適宜説明を省略する。また、以下の説明では、便宜上、凸型摺動体64が凹型摺動体63に対して往復摺動する方向を作動方向とし、その作動方向のうち一方の方向(図27において右方、矢印F参照)を前方とし、同作動方向のうち他方の方向(同図において左方、矢印R参照)を後方とする。
図27〜33に示すように、摺動体機構62は、第1実施形態の摺動体機構2と同様に、凹型摺動体63および凸型摺動体64が互いに対向する側の部分に凹凸形状部分を有し、この凹凸形状部分によって凹型摺動体63および凸型摺動体64を摺動可能に嵌合させる。したがって、摺動体機構62は、凹凸形状部分として、凹型摺動体63側に形成される溝部71と、凸型摺動体64側に形成される突部72とを有する。
すなわち、本実施形態の減衰装置61においては、凹型摺動体63は、摺動する相手方の摺動体である凸型摺動体64に対向する側の端部(面部)に溝部71を有する。溝部71は、凸型摺動体64に対する相対的な往復摺動の方向(作動方向)に沿うととともに上側に開口し、作動方向視で凹形状となる。
凹型摺動体63においては、溝部71は、支持板部63aや延設部63b等の他の部分よりも上下方向の寸法が大きい摺動面形成部63dにより形成される。つまり、摺動面形成部63dは、凹型摺動体63において支持板部63aや延設部63b等の他の部分よりも上下方向に突出した部分であり、摺動面形成部63dの長手方向(減衰装置61の軸方向)の両側において、上下方向の中途部から、支持板部63aおよび延設部63bがそれぞれ摺動面形成部63dの長手方向に沿って形成される。
溝部71が形成される凹型摺動体63の上側の面部には、溝部71の開口側の端面である2箇所の溝端面71aと、溝部71の底面である溝底面71bとが形成される。2つの溝端面71aは、同一面上に位置するように形成される。また、2つの溝端面71aと、溝底面71bとの間には、左右方向に互いに対向する内側側面71cが形成される。互いに対向する内側側面71cは、互いに略平行に形成される。
このように凸型摺動体64に対向する側の面部に溝部71を有する凹型摺動体63は、上下の両面側に溝部71を有し、これにより、軸方向視の断面形状として略H型の形状を有する(図29参照)。
また、本実施形態の減衰装置61においては、凸型摺動体64は、摺動する相手方の摺動体である凹型摺動体63に対向する側の端部(面部)に突部72を有する。突部72は、作動方向に沿うとともに下側に突出し、作動方向視で凸形状となる。
突部72は、凸型摺動体64の下端の面部において突起を下向きに突出させる部分である。したがって、凸型摺動体64の下側の端部には、突部72の基端面である2箇所の肩面72aと、突部72の突出側の端面である突部端面72bとが形成される。2つの肩面72aは、突部72において突起が突出する面であり、同一面上に位置するように形成される。また、2つの肩面72aと、突部端面72bとの間には、左右方向に互いに反対側を向く外側側面72cが形成される。互いに反対側を向く外側側面72cは、互いに略平行に形成される。
また、互いに摺動可能な状態で嵌合する溝部71および突部72は、溝部71の溝の幅の寸法と、突部72の突起の幅の寸法とが略同じとなるように形成される。つまり、溝部71を形成する内側側面71c間の寸法と、突部72を形成する外側側面72c間の寸法とが略同じとされる。
以上のように凹型摺動体63と凸型摺動体64とが溝部71および突部72によって互いに摺動可能に嵌合する構成において、第1実施形態の場合と同様に、凹型摺動体63および凸型摺動体64は、それぞれ2種類の摺動面を有する。
すなわち、2種類の摺動面のうち一方の種類の摺動面は、凸型摺動体64が凹型摺動体63に対して中立の位置よりも前方に位置する状態で互いに接触し、凸型摺動体64の中立の位置からの前方への摺動による変位にともなって凸型摺動体64を上昇させるように、前方へ向けて上り勾配を有する斜面(前方用摺動面)である。また、2種類の摺動面のうち他方の種類の摺動面は、凸型摺動体64が凹型摺動体63に対して中立の位置よりも後方に位置する状態で互いに接触し、凸型摺動体64の中立の位置からの後方への摺動による変位にともなって凸型摺動体64を上昇させるように、後方へ向けて上り勾配を有する斜面(後方用摺動面)である。
図29〜33に示すように、本実施形態では、第1実施形態と同様に、凹型摺動体63においては、溝部71を形成する溝端面71aが、前方用摺動面として用いられ、溝部71を形成する溝底面71bが、後方用摺動面として用いられる。また、凸型摺動体64においては、突部72を形成する肩面72aが、前方用摺動面として用いられ、突部72を形成する突部端面72bが、後方用摺動面として用いられる。このように、凹型摺動体63および凸型摺動体64は、それぞれ2面の前方用摺動面と、1面の後方用摺動面とを有する。
また、摺動体機構62においては、凸型摺動体64が摺動面形成部63dに対して長手方向(前後方向)について中央に位置する状態が、凸型摺動体64が凹型摺動体63に対して中立の位置にある状態(中立状態)に対応する。そして、中立状態からの凸型摺動体64の前方への移動過程、および中立状態からの凸型摺動体64の後方への移動過程のそれぞれの過程において、前方用摺動面および後方用摺動面それぞれの勾配により、摺動体変位量の増加にともなって摺動体機構62の高さが比例的に増大する。
したがって、中立状態からの凸型摺動体64の前方移動時には、凹型摺動体63および凸型摺動体64の前方用摺動面同士のみ、つまり溝端面71aおよび肩面72a同士のみが接触する。また、中立状態からの凸型摺動体64の後方移動時には、凹型摺動体63および凸型摺動体64の後方用摺動面同士のみ、つまり溝底面71bおよび突部端面72b同士のみが接触する。そして、中立状態においては、凹型摺動体63および凸型摺動体64の前方用摺動面同士、および後方用摺動面同士のいずれもが接触した状態となる。
本実施形態の減衰装置61においては、第1実施形態と同様に、前方用摺動面である、凹型摺動体63の溝端面71a、および凸型摺動体64の肩面72aが、それぞれ第1の摺動面として機能する。また、後方用摺動面である、凹型摺動体63の溝底面71b、および凸型摺動体64の突部端面72bが、それぞれ第2の摺動面として機能する。
以上のように、本実施形態の減衰装置61は、構造物に直接的にまたは間接的に固定され互いに対向した状態で相対的に往復摺動可能に設けられる摺動体として、1個の凹型摺動体63と、この上下に配置される2個の凸型摺動体64との計3個の摺動体を有する。つまり、摺動体機構62としては、相対的に摺動可能に設けられる摺動体として少なくとも一対の摺動体を有するものであればよい。したがって、摺動体機構62としては、例えば、上下方向に交互に配置される凹型摺動体および凸型摺動体を4個以上有する構成であってもよい。また、本実施形態では、摺動体機構62は凹型摺動体63の上下両側に凸型摺動体64を有するが、上下一方の凸型摺動体64を省略することもできる。また、摺動体機構62における凹凸形状は、上下で逆であってもよい。
そして、本実施形態の減衰装置61においては、摺動体機構62は、相対的な往復摺動により伸縮可能に構成され、構造物の振動に対する減衰力を、相対的な往復摺動による伸縮方向に沿う軸力として作用させる。つまり、本実施形態の減衰装置61は、凹型摺動体63と凸型摺動体64との相対的な摺動方向を軸方向とするとともに、その軸方向の両端側に、構造物に固定される第1支持部61aおよび第2支持部61bを有することにより、軸力部材型の減衰装置として構成される。
本実施形態の減衰装置61によれば、第1実施形態の減衰装置1と同様の効果が得られることに加え、次のような効果を得ることができる。本実施形態の減衰装置61は、軸力部材型の減衰装置であるため、より高い汎用性を得ることができる。
具体的には、本実施形態の減衰装置61は、軸方向の寸法の設定等により、一般的な住宅や各種プラントの配管の支持に容易に適用することができる。特に、プラントの配管は一般的な構造物に比べて複雑であるため、本実施形態の減衰装置61が好適に用いられる。また、本実施形態の減衰装置61は、軸方向の両端部の第1支持部61aおよび第2支持部61bを固定することにより構造物に装着することができるので、既存の構造物に対しても容易に適用することができる。
本実施形態の減衰装置61によれば、第1実施形態の減衰装置1との比較において、摺動面の数が2倍であることから、減衰性能が2倍となる。したがって、本実施形態の減衰装置61について、第1実施形態の減衰装置1について説明した静的力学特性によれば、力の変位の関係と等価粘性減衰係数は、次式(35)、(36)、および(37)により表わされる。
H=2λ(Syi|ud|+V0) ・・・(35)
ここで、式(35)は、第1実施形態において説明した式(7)に対応するものであり、力と相対変位の関係を表す。また、式(36)は、第1実施形態において説明した式(12)に対応するものであり、力と相対変位の関係を表す。また、式(37)は、第1実施形態において説明した式(15)に対応するものであり、等価粘性減衰係数を表す。
本発明の第2実施形態に係る減衰装置61の適用例について説明する。図34および図35は、減衰装置61を鉄骨ビルに適用した場合の配置の一例を示す。本適用例は、上述した第1実施形態の減衰装置1の適用例と同様に、上下の梁90a,90bと左右の柱91a,91bとにより形成される鉄骨枠組みへの減衰装置61の適用例である。本適用例では、左右の柱91a,91bの間において、下側の梁90bの上側における右側の1箇所に減衰装置61が配置されている(図34参照)。本適用例では、上述した第1実施形態の適用例と同様に、凹型摺動体63と凸型摺動体64との相対的な摺動方向(減衰装置61の軸方向)が上下の梁90a,90bが配される方向に沿うように設けられる。
具体的には、下側の梁90b上において、減衰装置61は、その軸方向が梁90bの延設方向(左右方向)と略平行となるように設けられる。減衰装置61の軸方向の一端部(34において左側端部)に設けられる第1支持部61aは、下側の梁90b上に設けられる一対のガセット板92を介して、鉄骨枠組み内に配される左右のブレース93a,93bにより構成されるV字ブレースに固定される。また、減衰装置61の軸方向の他端部(図34において右側端部)に設けられる第2支持部61bは、下側の梁90b上に設けられる連結台94に固定される。
一対のガセット板92は、下側の梁90b上における左右略中央の位置に設けられる。V字ブレースを構成する左右の各ブレース93a,93bは、下端側が一対のガセット板92間に固定され、ガセット板92が位置する左右略中央の位置からそれぞれ左右の斜め上方に配される。左右の各ブレース93a,93bの上端は、上側の梁90aと左右の柱91a,91bとの各角部分において梁90aと各柱91a,91bとの間に設けられる支持板95を介して固定される。つまり、本適用例では、減衰装置61は、第1支持部61aが一対のガセット板92を介して左右のブレース93a,93bから構成されるV字ブレースに支持され、第2支持部61bが連結台94に支持されることで、鉄骨枠組みに装着される。
減衰装置61は、第1支持部61aおよび第2支持部61bにおいて有する孔部61c,61d(図27参照)の貫通方向が梁90a,90bの延設方向に直交する水平方向(図34において紙面に垂直な方向)となるように配置される。そして、第1支持部61aは、一対のガセット板92間に介装される支軸部96に孔部61cが用いられて支持板部63aが支持されることで、一対のガセット板92に連結される。一方、第2支持部61bは、連結台94において起立した状態で設けられる支持板94aをクレビス67の一対の支持板部67aにより挟んだ状態で、孔部61dが用いられて支持板94aに支持板部67aが支持されることで、連結台94に連結される。
また、本適用例においては、一対のガセット板92間にストッパ97が設けられている。ストッパ97は、下側の梁90aの上側において突部として設けられる係止部97aを有する。係止部97aは、一対のガセット板92の対向方向(図35における上下方向)について一対のガセット板92間の間隔と略同じ寸法を有し、一対のガセット板92に略接触した状態で設けられる。
このように、本適用例では、鉄骨枠組みに対して、上下の梁90a,90bが左右の水平方向にずれる方向と減衰装置61の作動方向とが一致するように、V字ブレースを介して減衰装置61が装着される。これにより、鉄骨枠組みにおいて左右の水平方向についての減衰効果が得られる。
また、上下の梁90a,90bについては、梁90a,90bの延設方向に直交する水平方向(図34において紙面に垂直な方向)のずれが生じる場合があるが、この場合であっても、ストッパ97の係止部97aが一対のガセット板92の移動を規制することで、減衰装置61の逸脱が防止される。なお、梁90a,90bの延設方向に直交する水平方向のずれに対しては、減衰装置61の両端部の第1支持部61aおよび第2支持部61bを球座として構成することで吸収することもできる。また、本適用例において、減衰装置61に連結されるV字ブレースは、耐力壁(反力壁)で代替可能である。また、本適用例は、鉄骨ビルのほか、コンクリートビルや鉄骨・コンクリートビルや木造建築物等にも同様に適用可能である。
本発明の第2実施形態に係る減衰装置61の他の適用例について説明する。図36および図37は、減衰装置61を免震橋梁に適用した場合の配置の一例を示す。図36および図37に示すように、免震橋梁においては、橋脚98の上に、免震支承99を介して橋桁100が支持される。免震橋梁において、橋桁100は、橋軸方向(図36において上下方向)および橋軸直角方向(同図において左右方向)に移動する。つまり、免震橋梁においては、橋桁100は、主に橋脚98上に支持された高さ位置における水平方向の平面内で移動する。
図36および図37に示すように、本適用例では、2本の減衰装置61が組み合わされている。各減衰装置61の一端側の支持部(本適用例では第1支持部61a)は、橋脚98の上側に支持され、各減衰装置61の他端側の支持部(本適用例では第2支持部61b)は、橋脚98上に免震支承99を介して支持される橋桁100の下側に支持される。
具体的には、各減衰装置61の第1支持部61aは、橋脚98の上面98aにおいて免震支承99の周囲に設けられる連結台101,102により支持される。また、2本の減衰装置61の第2支持部61bは、いずれも橋桁100の下面100aに設けられる連結台103に支持される。各連結台101,102,103において、各減衰装置61の第1支持部61aおよび第2支持部61bは、孔部61c,61d(図27参照)が用いられて回動可能に支持される。したがって、2本の減衰装置61の第2支持部61b同士は、連結台103において同軸で回動可能に支持される。そして、本適用例では、第1支持部61aが橋脚98上の異なる2箇所(連結台101,102)で支持されるとともに、第2支持部61bが橋桁100の下面の共通の1箇所(連結台103)で支持される2本の減衰装置61は、平面視でV字状に配置される(図36参照)。
本適用例においては、V字状に配置される2本の減衰装置61の組み合わせにより、橋桁100が移動する水平方向の平面内の任意の方向について対応することができ、各方向について減衰効果が得られる。なお、減衰装置61の両端部の第1支持部61aおよび第2支持部61bを球座として構成することで、各減衰装置61を上下方向に傾けることができ、橋桁100の上下の動きを考慮した減衰効果を得ることもできる。
本発明の第2実施形態に係る減衰装置61の他の適用例について説明する。図38は、減衰装置61を木造住宅に適用した場合の配置の一例を示す。図38に示すように、本例に係る木造住宅は、互いに平行に水平方向に配される上下の梁105a,105bと、互いに平行に上下方向に配される3本の柱106a,106b,106cとにより形成される枠組み構造(以下「木造枠組み」という。)を有する。
図38に示すように、本適用例は、木造住宅において、減衰装置61が斜材として利用される場合(図38における左側の減衰装置61参照)と、減衰装置61が耐力壁(反力壁)110と併用して利用される場合(同図における右側の減衰装置61参照)とについての例である。
図38に示すように、斜材として利用される減衰装置61は、上下の梁105a,105bと隣り合う一対の柱106a,106bとにより囲まれる部分において対角状に配されるロッド107に連結された状態で、木造枠組みに装着される。減衰装置61は、その軸方向がロッド107の長手方向に沿うように、ロッド107の一端側に連結される。本適用例では、減衰装置61の第1支持部61aがロッド107の一端部にボルト等によって固定されることで、減衰装置61とロッド107とが連結される。
減衰装置61とロッド107との連結体は、上下の梁105a,105bと隣り合う一対の柱106a,106bとにより囲まれる部分において、図38において左側の柱106a側が上、中央の柱106b側が下となるように、かつ、減衰装置61側が下側となるように、対角線状に配される。減衰装置61とロッド107との連結体の両端部は、それぞれ木造枠組みに対して連結板108,109を介して支持される。
上側の連結板108は、上側の梁105aと左側の柱106aとの角部分において梁105aと柱106aとの間に設けられ、減衰装置61とロッド107との連結体の上端部、つまりロッド107の上端部を支持する。また、下側の連結板109は、下側の梁105bと中央の柱106bとの角部分において梁105bと柱106bとの間に設けられ、減衰装置61とロッド107との連結体の下端部、つまり減衰装置61の第2支持部61bを支持する。
このように、木造枠組みにおいて減衰装置61が斜材として利用される構成においては、上下の梁105a,105bが左右の水平方向にずれることについて、斜めに配されるロッド107を介して減衰装置61による減衰効果が得られる。
また、図38に示すように、耐力壁(反力壁)110と併用して利用される減衰装置61は、中央の柱106bと図38において右側の柱106cとの間において下側の梁105b上に設けられる耐力壁110と、上側の梁105aとの間に配置される。減衰装置61は、その軸方向が梁105aと略平行となるように設けられる。
本適用例では、減衰装置61の第1支持部61aが、上側の梁105aの下面に設けられる連結板111を介して上側の梁105aに支持される。また、減衰装置61の第2支持部61bが、耐力壁110の上面に設けられる連結板112を介して耐力壁110に支持される。
このように、木造枠組みにおいて減衰装置61が耐力壁110と併用して利用される構成においては、上下の梁105a,105bが左右の水平方向にずれることについて、下側の梁105b上に設置される耐力壁110を介して、減衰装置61による減衰効果が得られる。
以上のように、軸力部材型の減衰装置として構成される本実施形態の減衰装置61は、鉄骨ビルやコンクリートビルをはじめ、木造建築物や免震橋梁等の様々な構造物に適用することができ、高い汎用性を有する。また、本実施形態の減衰装置61は、上述した適用例に示すように、連結台や連結板等を構造物に設けることによって容易に装着することができるので、既存の構造物に対しても容易に適用することができる。
本発明の第3実施形態について説明する。なお、上述した実施形態と重複する内容については適宜説明を省略する。図39に示すように、本実施形態に係る減衰装置301は、第2実施形態の減衰装置61と同様に全体として軸状に構成され、その軸方向を、減衰力を作用させる方向とする。すなわち、本実施形態の減衰装置301は、軸力部材型の減衰装置であり、軸方向について付勢された状態で伸縮可能に構成され、その伸縮動作をともなって、軸方向に減衰力を作用させる。そして、第1実施形態の減衰装置61が凹型摺動体と凸型摺動体とによる凹凸形状の組み合わせを互いに反対側となる両面側に有する構成であるのに対し、本実施形態の減衰装置301は、凹型摺動体と凸型摺動体とによる凹凸形状の組み合わせを一側のみに有する構成を採用する。
減衰装置301は、その軸方向の両端部に、構造物に固定ないし連結される部分である支持部(301a、301b)を有する。本実施形態では、一方(図39において左側)の支持部を「第1支持部301a」とし、他方(同図において右側)の支持部を第2支持部301bとする。
図39〜42に示すように、減衰装置301は、凹型摺動体303および凸型摺動体304を有する凹凸摺動体機構302と、一対の平板摺動体(306,307)を有する平面摺動体機構305と、中央軸力材308と、凹凸側支持板309と、平面側支持板310と、一対の側方軸力材311と、一対の板ばね312とを備える。本実施形態の減衰装置301は、第1実施形態と同様に摺動型の減衰装置であり、凹型摺動体303と凸型摺動体304とが相対的に摺動することによって生じる摩擦力、および一対の平板摺動体(306,307)同士が相対的に摺動することによって生じる摩擦力を減衰力とし、これらの摩擦力が摺動体同士の相対的な変位の絶対値に比例して増加する構成を備える。
本実施形態において、凹凸摺動体機構302を構成する凹型摺動体303と凸型摺動体304とは、互いに対向した状態で相対的に往復摺動可能に設けられる一対の摺動体である。具体的には、図41、図42、図44、図45等に示すように、凹型摺動体303および凸型摺動体304は、いずれも全体として略矩形板状の外形を有し、一側の板面部に、凹型形状を有する部分または凸型形状を有する部分が設けられる。そして、凹型摺動体303と凸型摺動体304とは、凹型形状を有する部分と凸型形状を有する部分とを互いに対向させ、凹凸嵌合した状態で設けられる。
したがって、凹型摺動体303と凸型摺動体304とは、互いに対向して凹凸嵌合した状態で、相対的に摺動可能に設けられる。いずれも略矩形板状の外形を有する凹型摺動体303および凸型摺動体304は、それぞれの長手方向を相手方の摺動体に対する相対的な摺動方向としながら互いの一側の面部同士を対向させた状態で相対的に摺動可能に設けられる。つまり、凹型摺動体303においては、凹型形状を有する部分に摺動面が設けられ、凸型摺動体304においては、凸形状を有する部分に摺動面が形成され、凹型摺動体303と凸型摺動体304とは、互いの摺動面同士を対向させた状態で設けられる。凹型摺動体303と凸型摺動体304との摺動方向は、減衰装置301の軸方向に対応する。
このように、本実施形態の凹凸摺動体機構302は、1つの凹型摺動体303と、1つの凸型摺動体304とから構成される。なお、本実施形態では、凹型摺動体303と凸型摺動体304とが互いに対向する方向(図41における上下方向)を減衰装置301における上下方向とし、凹型摺動体303側を上側、その反対側となる凸型摺動体304側を下側とする。また、本実施形態では、減衰装置301の軸方向視で凹型摺動体303と凸型摺動体304とが対向する方向に直交する方向(図41における左右方向)を減衰装置301における左右方向とする。
平面摺動体機構305を構成する一対の平板摺動体としての内側平板摺動体306および外側平板摺動体307は、凹凸摺動体機構302を構成する凹型摺動体303および凸型摺動体304と同様に、互いに対向した状態で相対的に往復摺動可能に設けられる一対の摺動体である。ただし、平面摺動体機構305は、凹凸摺動体機構302と異なり、互いの摺動面を平面とし、平面同士を接触させた状態で設けられる。
具体的には、図41、図42、図46、図47等に示すように、内側平板摺動体306および外側平板摺動体307は、いずれも全体として略矩形板状の外形を有し、一側の板面部に、相手方に対する摺動面としての平面を形成する部分が設けられる。そして、内側平板摺動体306および外側平板摺動体307は、摺動面を互いに対向させ、摺動面同士を接触させた状態で設けられる。
したがって、内側平板摺動体306および外側平板摺動体307は、互いに対向して接触した状態で、相対的に摺動可能に設けられる。いずれも略矩形板状の外形を有する内側平板摺動体306および外側平板摺動体307は、それぞれの長手方向を相手方の摺動体に対する相対的な摺動方向としながら互いの一側の面部同士を対向させた状態で相対的に摺動可能に設けられる。つまり、内側平板摺動体306と外側平板摺動体307とは、互いの摺動面同士を対向させた状態で設けられる。内側平板摺動体306と外側平板摺動体307との摺動方向は、減衰装置301の軸方向に対応する。
凹凸摺動体機構302と平面摺動体機構305とは、中央軸力材308を介して上下に配置される。図42等に示すように、中央軸力材308は、細長い略矩形板状の部材であり、その長手方向が減衰装置301の軸方向に沿うように設けられる。中央軸力材308の一方の板面側である上側の板面側に、凹凸摺動体機構302が設けられ、他方の板面側である下側の板面側に、平面摺動体機構305が設けられる。このように、凹凸摺動体機構302と平面摺動体機構305とは、中央軸力材308を上下方向に挟んだ状態で設けられる。
凹凸摺動体機構302は、凸型摺動体304を中央軸力材308に固定させた状態で設けられる。凸型摺動体304は、凹型摺動体303に嵌合する凸型形状を有する側と反対側の板面を、中央軸力材308の上面に接触させた状態で固定される。凸型摺動体304は、中央軸力材308に対して固定されるための固定孔304aを有する。つまり、凸型摺動体304は、固定孔304aが用いられ、ボルト等の締結具によって中央軸力材308に固定される。本実施形態では、固定孔304aは、凸型摺動体304の長手方向の両端側において、短手方向の辺に沿って3箇所ずつ、計6箇所に設けられている。固定孔304aが設けられる凸型摺動体304の長手方向の両端部は、他の部分よりも板厚が薄く形成されている。
平面摺動体機構305は、内側平板摺動体306を中央軸力材308に固定させた状態で設けられる。内側平板摺動体306は、外側平板摺動体307に接触する摺動面を有する側と反対側の板面を、中央軸力材308の下面に接触させた状態で固定される。内側平板摺動体306は、中央軸力材308に対して固定されるための固定孔306aを有する。つまり、内側平板摺動体306は、固定孔306aが用いられ、ボルト等の締結具によって中央軸力材308に固定される。本実施形態では、固定孔306aは、内側平板摺動体306の長手方向の両端側において、短手方向の辺に沿って3箇所ずつ、計6箇所に設けられている。固定孔306aが設けられる内側平板摺動体306の長手方向の両端部は、他の部分よりも板厚が薄く形成されている。
このように、中央軸力材308と、この両側に設けられる凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305とにより、図42に示すような摺動機構313が構成される。本実施形態では、図44、図45等に示すように、凹凸摺動体機構302において、凸型摺動体304の方が、凹型摺動体303よりも長手方向の寸法が長い。また、図46、図47等に示すように、平面摺動体機構305において、内側平板摺動体306の方が、外側平板摺動体307よりも長手方向の寸法が長い。そして、図42に示すように、中央軸力材308は、凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305に対して長手方向の寸法が数倍程度長く、中央軸力材308の長手方向の略中央部に、凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305が設けられる。つまり、凹凸摺動体機構302と平面摺動体機構305とは、中央軸力材308に対して、互いに反対側の板面に、中央軸力材308の長手方向について略中央部の略同じ位置に設けられる。
凹凸摺動体機構302を構成する凹型摺動体303および凸型摺動体304、平面摺動体機構305を構成する内側平板摺動体306および外側平板摺動体307、ならびに中央軸力材308は、いずれも略矩形板状の外形を有するとともに、略同じ幅(左右方向の寸法、以下本実施形態において同じ。)を有する。このため、凹凸摺動体機構302、平面摺動体機構305、および中央軸力材308からなる摺動機構313においてこれらが上下に重なる部分は、図41に示すように、減衰装置301の軸方向での断面視において、略矩形状の外形を有する。
図41に示すように、減衰装置301を構成する摺動機構313は、凹凸側支持板309と平面側支持板310とによって上下から挟まれる。したがって、凹凸摺動体機構302は、凹凸側支持板309と中央軸力材308とによって上下から挟まれた状態で設けられ、平面摺動体機構305は、中央軸力材308と平面側支持板310とによって上下から挟まれた状態で設けられる。図39から図41に示すように、凹凸側支持板309および平面側支持板310は、減衰装置301において摺動機構313を支持する支持体として機能する。凹凸側支持板309および平面側支持板310は、いずれも矩形板状の部材であり、略同じ幅を有する。
凹凸摺動体機構302を構成する凹型摺動体303は、凹凸側支持板309に固定される。凹型摺動体303は、凸型摺動体304に嵌合する凹型形状を有する側と反対側の板面を、凹凸側支持板309の下面に接触させた状態で固定される。図39、図40、図44、図45等に示すように、凹型摺動体303は、凹凸側支持板309に対して固定されるための雌ねじ部303aを有し、凹凸側支持板309は、凹型摺動体303の雌ねじ部303aに対応して設けられる固定孔309aを有する。つまり、ボルト等の締結具が凹凸側支持板309の固定孔309aを貫通して凹型摺動体303の雌ねじ部303aにねじ込まれることにより、凹型摺動体303が凹凸側支持板309に固定される。本実施形態では、雌ねじ部303aおよび固定孔309aは、凹型摺動体303および凹凸側支持板309の各部材において左右方向の両側で各部材の長手方向に沿って4箇所ずつ、計8箇所に設けられている。
平面摺動体機構305を構成する外側平板摺動体307は、平面側支持板310に固定される。外側平板摺動体307は、内側平板摺動体306に接触する摺動面を有する側と反対側の板面を、平面側支持板310の上面に接触させた状態で固定される。図40、図46、図47等に示すように外側平板摺動体307は、平面側支持板310に対して固定されるための雌ねじ部307aを有し、平面側支持板310は、外側平板摺動体307の雌ねじ部307aに対応して設けられる固定孔310aを有する。つまり、ボルト等の締結具が平面側支持板310の固定孔310aを貫通して外側平板摺動体307の雌ねじ部307aにねじ込まれることにより、外側平板摺動体307が平面側支持板310に固定される。本実施形態では、雌ねじ部307aおよび固定孔310aは、外側平板摺動体307および平面側支持板310の各部材において左右方向の両側で各部材の長手方向に沿って4箇所ずつ、計8箇所に設けられている。
一対の側方軸力材311は、摺動機構313(図42)に対して左右両側に設けられる。一対の側方軸力材311は、減衰装置301において摺動機構313を支持する支持体として機能する。側方軸力材311は、短冊形の板状部材であり、摺動機構313を左右方向の両側から挟む位置に設けられる。つまり、一対の側方軸力材311は、摺動機構313を間に介して互いの板面を左右方向に対向させた状態で設けられる。なお、一対の側方軸力材311は、摺動機構313の左右両側面部との間に若干の隙間を隔てた状態で設けられる(図41参照)。
図41に示すように、摺動機構313は、その上下に配置される凹凸側支持板309および平面側支持板310、ならびに左右に配置される一対の側方軸力材311によって、上下と左右の四方が囲まれる。ただし、図39、図40等に示すように、凹凸側支持板309および平面側支持板310は、長手方向の寸法が側方軸力材311の全長の数分の1程度であり、摺動機構313は、長手方向についてその一部分が凹凸側支持板309、平面側支持板310、および一対の側方軸力材311によって四方を囲まれる。具体的には、摺動機構313において、凹凸側支持板309および平面側支持板310がそれぞれ固定される凹型摺動体303および外側平板摺動体307が位置する部分、つまり凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305が配置される部分が、凹凸側支持板309、平面側支持板310、および一対の側方軸力材311によって四方を囲まれる。
一対の側方軸力材311は、上記のように側方軸力材311を左右から挟む状態で、摺動機構313の下側に配置される平面側支持板310に固定される。一対の側方軸力材311は、平面側支持板310の上面部における左右両側の端部に配置され平面側支持板310の長手方向の辺部に沿う状態で、平面側支持板310に固定される。一対の側方軸力材311と平面側支持板310とは、図43に示すように、平面側支持板310の下側から平面側支持板310を貫通して側方軸力材311にねじ込まれるボルト314によって固定される。ボルト314による固定部は、例えば、平面側支持板310の長手方向の辺に沿って左右両側に各4箇所ずつ、計8箇所に設けられる。
一対の板ばね312は、摺動機構313およびこれを四方から囲む凹凸側支持板309、平面側支持板310、および一対の側方軸力材311を含む構成に対して左右両側に配置される。板ばね312は、略U字型の板ばねであり、一端側が側方軸力材311に固定され、他端側が凹凸側支持板309に固定される。
図41、図43、図48に示すように、板ばね312は、平板状の固定部315,316を有するとともに、これらの固定部315,316の間に、湾曲形状を有する板状の板ばね部317を有する。一方の固定部315は、U字状の板ばね部317の一端側において板ばね部317に対して略垂直に外側に折り曲げられた部分である。他方の固定部316は、U字状の板ばね部317の他端側において板ばね部317の端部がそのまま延長された部分である。
したがって、板ばね312の一方の固定部315と他方の固定部316とは、互いに略垂直な面に沿う。そして、図41、図43等に示すように、板ばね312は、板ばね部317に対して屈曲した方の固定部315を側方軸力材311の外側面311aに沿わせ、板ばね部317に対して真っすぐな方の固定部316を凹凸側支持板309の上面309bに沿わせた状態で、側方軸力材311および凹凸側支持板309に対して固定される。
つまり、側方軸力材311の外側面311aと凹凸側支持板309の上面309bとは互いに略垂直な関係にあり、側方軸力材311に対しては外側面311a側から一方の固定部315が固定され、凹凸側支持板309に対しては上面309b側から他方の固定部316が固定されることで、板ばね312が側方軸力材311および凹凸側支持板309に固定される。
図43に示すように、一方の固定部315は、側方軸力材311の左右方向の外側から固定部315を貫通して側方軸力材311にねじ込まれるボルト318によって固定される。また、他方の固定部316は、凹凸側支持板309の上側から固定部316を貫通して凹凸側支持板309にねじ込まれるボルト319によって固定される。このため、板ばね312の各固定部315,316には、ボルト318,319を貫通させるためのボルト孔315a,316aが設けられている(図48参照)。本実施形態では、各固定部315,316は、側方軸力材311や凹凸側支持板309の長手方向に沿って配置される4箇所で、ボルト318,319によって固定される。
このように、減衰装置301において左右両側に配置される一対の板ばね312は、略U字型の形状の開口側を互いに左右方向に対向させた状態で、それぞれ側方軸力材311および凹凸側支持板309に対して固定される。つまり、一対の板ばね312により、凹凸側支持板309と一対の側方軸力材311とが一体的に連結される。
このように、本実施形態の減衰装置301が備える板ばね312においては、側方軸力材311に固定される一方の固定部315、および凹凸側支持板309に固定される他方の固定部316は、一対の構造物側固定部として機能する。また、板ばね312は、一対の固定部315,316の間に、弾性変形可能な湾曲板状の部分である板ばね部317を有する。つまり、本実施形態における板ばね312は、構造物側固定部としての一対の固定部315,316と、一対の固定部315,316の間に形成され、弾性変形可能な湾曲板状の板ばね部317とを有する。
そして、本実施形態では、板ばね312は、凹型摺動体303および凸型摺動体304からなる凹凸摺動体機構302、および内側平板摺動体306および外側平板摺動体307からなる平面摺動体機構305を、上下方向に押圧付勢する。つまり、板ばね312は、相対的に往復摺動する凹型摺動体303および凸型摺動体304同士が互いに対向する方向に押し付けられる方向(摺動体押圧方向)の付勢力を、凹凸摺動体機構302に作用させるとともに、相対的に往復摺動する内側平板摺動体306および内側平板摺動体306同士が互いに対向する方向に押し付けられる方向の付勢力を、平面摺動体機構305に作用させる。
具体的には、板ばね312は、摺動機構313を上下から挟む凹凸側支持板309および平面側支持板310に対して、上側の固定部316により凹凸側支持板309に固定され、下側の固定部315により側方軸力材311を介して平面側支持板310に固定される。ここで、板ばね312の一方の固定部315は、上記のとおりボルト318によって、平面側支持板310に固定される側方軸力材311に固定されることで、側方軸力材311を介して間接的に平面側支持板310に固定される。
このように、板ばね312は、摺動機構313を上下から挟む凹凸側支持板309および平面側支持板310に対して、直接的にまたは間接的に固定されることで、板ばね部317によって主に上下方向に圧縮力(付勢力)を発生させる。つまり、板ばね312は、その弾性によって、凹凸側支持板309を上側から押さえ付けるとともに、側方軸力材311を介して平面側支持板310を上側に持ち上げるような力を作用させる。
こうした板ばね312の作用により、中央軸力材308を介して凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305を上下に配置させる摺動機構313を上下から挟む凹凸側支持板309および平面側支持板310が、互いに近付く方向の付勢力を受ける。これにより、凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305において、各摺動体機構を構成する一対の摺動体は、互いに対向する方向に押し付けられるような力を受ける。このように、本実施形態の減衰装置301においては、板ばね312が、凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305を、摺動体押圧方向に付勢する付勢手段として機能する。
以上のような構成を備える減衰装置301においては、上下方向に対向する凹凸側支持板309および平面側支持板310と、左右方向に対向する一対の側方軸力材311と、左右両側に配置される一対の板ばね312とにより、減衰装置301の軸方向視で枠状となる一体的な付勢機構320が構成される(図43参照)。つまり、付勢機構320は、凹凸側支持板309、平面側支持板310、一対の側方軸力材311、および一対の板ばね312が、ボルト314,318,319によって各部材間で連結固定された構造である。この付勢機構320に対して、摺動機構313が挿入された状態で設けられる。
そして、摺動機構313を構成する部材のうち、最も上側に位置する凹凸摺動体機構302の凹型摺動体303が、付勢機構320を構成する凹凸側支持板309に固定される。また、摺動機構313を構成する部材のうち、最も下側に位置する平面摺動体機構305の外側平板摺動体307が、付勢機構320を構成する平面側支持板310に固定される。
したがって、本実施形態の減衰装置301においては、付勢機構320と、付勢機構320の凹凸側支持板309に固定される凹型摺動体303と、付勢機構320の平面側支持板310に固定される外側平板摺動体307とを含む構成が、凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305の摺動動作をともなって一体的に移動する。これに対し、摺動機構313のうち付勢機構320側に固定される凹型摺動体303および外側平板摺動体307を除く構成が、凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305の摺動動作をともなって一体的に移動する。つまり、付勢機構320、凹型摺動体303、および外側平板摺動体307を含む構成と、摺動機構313のうち凹型摺動体303および外側平板摺動体307を除いた構成との各構成が、それぞれ一体的な構造となる。
凹凸摺動体機構302を構成する凹型摺動体303および凸型摺動体304は、それぞれ構造物に間接的に固定される。本実施形態では、凹型摺動体303は、凹凸側支持板309、一対の板ばね312、および一対の側方軸力材311を介して構造物に固定され、凸型摺動体304は、中央軸力材308を介して構造物に固定される。具体的には次のとおりである。
まず、凸型摺動体304について説明する。凸型摺動体304は、上述したように中央軸力材308の上側の面に固定される。細長い略矩形板状の部材である中央軸力材308は、その一端側が、一対の側方軸力材311よりも減衰装置301の軸方向の一端側に突出した状態で設けられる。中央軸力材308の側方軸力材311から突出する部分は、上述したように減衰装置301の軸方向の端部に設けられる第1支持部301aを構成する部分である。つまり、減衰装置301においては、中央軸力材308が、構造物に固定される第1支持部301aを構成する。
このため、図39、図42に示すように、中央軸力材308における側方軸力材311からの突出側の端部には、構造物に対する固定用ないし連結用の孔部301cが設けられている。孔部301cは、ボルト等の固定具を挿入させるためのものであり、板状の中央軸力材308を貫通するように形成される。このように、本実施形態の減衰装置301では、凹凸摺動体機構302を構成する凸型摺動体304は、中央軸力材308によって構造物に間接的に固定される。
一方、図39、図40に示すように、減衰装置301においては、中央軸力材308が突出する側と反対側に突出する部分を構成する連結板321が設けられる。連結板321は、全体として略矩形厚板状の外形を有する部材であり、その板厚方向が上下方向となるように、減衰装置301の軸方向の他端部において、一対の側方軸力材311に挟まれた状態で固定される。
連結板321は、その長手方向の一側の端部を一対の側方軸力材311よりも減衰装置61の軸方向の他端側に突出させた状態で、一対の側方軸力材311間にて固定される。なお、連結板321は、一対の側方軸力材311に挟まれた状態で、例えばボルトや溶接等の適宜の方法により側方軸力材311に固定される。
連結板321は、上述したように減衰装置301の軸方向の端部に設けられる第2支持部301bを構成する部分である。このため、図39、図40に示すように、連結板321における側方軸力材311からの突出側の端部には、構造物に対する固定用の孔部301dが設けられている。孔部301dは、ボルト等の固定具を挿入させるためのものであり、板状の連結板321を上下方向に貫通するように形成される。このように、本実施形態の減衰装置301では、凹型摺動体303は、凹凸側支持板309、一対の板ばね312、一対の側方軸力材311、および連結板321を介して構造物に間接的に固定される。
平面摺動体機構305を構成する内側平板摺動体306および外側平板摺動体307についても、凹凸摺動体機構302を構成する凹型摺動体303および凸型摺動体304と同様に、それぞれ構造物に間接的に固定される。すなわち、内側平板摺動体306は、中央軸力材308を介して構造物に間接的に固定され、外側平板摺動体307は、平面側支持板310、一対の側方軸力材311、および連結板321を介して構造物に間接的に固定される。
このような構造物に対する固定構造を有する減衰装置301においては、上記のとおり構造物側固定部として機能する一対の固定部315,316は、次のように、構造物に間接的に固定される。すなわち、本実施形態では、上述したように板ばね312は一体的な付勢機構320の構成部材であり、板ばね312そのものが側方軸力材311および連結板321を介して構造物に固定されることから、一対の固定部315,316は構造物に間接的に固定される。
以上のような構成を備える減衰装置301においては、上述したように凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305の摺動動作をともなって一体的に移動する2つの構成のうち、中央軸力材308を含む方の構成は、第1支持部301aにおいて構造物に連結され、一対の側方軸力材311を含む方の構成は、第2支持部301bにおいて構造物に連結される。これら2つの一体的な構成の相対的な移動の方向は、減衰装置301の軸方向に対応する。以下の説明では、上記のとおり一体的に移動する2つの構成のうち、凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305を支持する中央軸力材308を含む方の構成を「摺動体側構造体」とし、付勢機構320を含む方の構成を「付勢機構側構造体」とする。
図39に示すように、付勢機構側構造体は、摺動体側構造体の移動をガイドするガイド部322を有する。本実施形態では、2箇所にガイド部322が設けられている。2箇所のガイド部322は、付勢機構320において、一対の板ばね312が設けられる部分に対して減衰装置301の軸方向の両側に配置される。
一方のガイド部322は、一対の側方軸力材311間において中央軸力材308が突出する側の端部に設けられ、他方のガイド部322は、一対の側方軸力材311間において一対の板ばね312と連結板321との間に設けられる。そして、2箇所のガイド部322は、長手方向の略中央部に凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305が設けられる中央軸力材308の長手方向の両側をそれぞれ挿入させた状態で、中央軸力材308を作動方向に平行になるように支持し、摺動体側構造体の移動をガイドする。
図39および図40に示すように、ガイド部322は、一対の側方軸力材311間に架設されるとともに上下方向に互いに対向する一対の支材323により構成される。支材323は、矩形板状の部材であり、板面が上下を向く姿勢で、一対の側方軸力材311間に挟まれた状態で固定される。一対の支材323は、一対の側方軸力材311とともに、減衰装置301の軸方向視で枠状となる部分を構成する。支材323は、一対の側方軸力材311に挟まれた状態で、例えばボルトや溶接等の適宜の方法により側方軸力材311に固定される。つまり、ガイド部322を構成する一対の支材323は、側方軸力材311に固定されることで、一体的な構成としての付勢機構側構造体に含まれる。
また、図40に示すように、ガイド部322は、上下方向に対向する一対のスライド板324と、左右方向に対向する一対のスライド板325とを有する。上下方向に対向する一対のスライド板324は、上下方向に対向する一対の支材323の互いの対向面に設けられる。つまり、一方のスライド板324は、上側の支材323の下面に設けられ、他方のスライド板324は、下側の支材323の上面に設けられる。左右方向に対向する一対のスライド板325は、左右方向に対向する一対の側方軸力材311の互いの対向面に設けられる。つまり、各スライド板325は、側方軸力材311の内側の面に設けられる。
上下のスライド板324および左右のスライド板325は、いずれも矩形板状の部材であり、ガイド部322に挿入される中央軸力材308に対して接触する。これら上下および左右のスライド板324,325は、中央軸力材308を、作動方向については可動とし、作動方向に対して垂直な面に沿う方向については固定させるための部材である。各スライド板324,325は、例えばボルトや溶接等の適宜の方法により支材323または側方軸力材311に固定される。
このように一対の支材323によって一対の側方軸力材311とともに構成されるガイド部322に、中央軸力材308が挿入される。したがって、2箇所に設けられるガイド部322は、付勢機構側構造体において、摺動体側構造体の中央軸力材308の部分を収め入れる鞘構造として機能する。
なお、図40においては、内部の構造を分かりやすくするために、ガイド部322を構成する上側の支材323を、本来の取り付け位置から離した位置に示している。また、同じく図40においては、説明の便宜上、凹凸側支持板309に固定される凹型摺動体303、および平面側支持板310に固定される外側平板摺動体307を取り外した状態を示している。
以上のような構成を備える減衰装置301は、凹凸摺動体機構302を構成する凹型摺動体303および凸型摺動体304の相対的な摺動により、板ばね312の付勢力に抗して凹凸摺動体機構302の高さ(上下方向の寸法、以下同じ。)を変化させることで、板ばね312からの摺動体押圧方向の付勢力を受ける。減衰装置301においては、凹凸摺動体機構302は、付勢機構320から付勢力を受ける。つまり、付勢機構320は、付勢力を生じさせる板ばね312を含んで構成されるとともに、凹凸摺動体機構302を有する摺動機構313を収め入れ、凹凸摺動体機構302の摺動動作にともなう高さの増加を弾性的に拘束するリングを形成する。
そして、減衰装置301は、凹凸摺動体機構302の凹型摺動体303および凸型摺動体304の摺動体変位量の増加にともなって、凹凸摺動体機構302の高さを増大させることで、板ばね312から受ける摺動体押圧方向の付勢力を増加させる。これにより、減衰装置301は、減衰力として作用する凹型摺動体303および凸型摺動体304の間で生じる摩擦力が摺動体変位量の増加にともなって比例的に増加するように構成される。なお、ここで比例的に増加する摩擦力には、平面摺動体機構305を構成する内側平板摺動体306および外側平板摺動体307の間で生じる摩擦力が含まれる。
以上のような構成において、摺動機構313が、付勢機構320に対して、凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305が設けられる部分を凹凸側支持板309と平面側支持板310間に位置させるとともに、中央軸力材308の両端側を鞘構造として機能するガイド部322に収めることで、減衰装置301が構成される。
本実施形態の減衰装置301において、凹凸摺動体機構302の凹型摺動体303に作用する摩擦力は、凹凸側支持板309、一対の板ばね312、一対の側方軸力材311、および連結板321を経由して、孔部301dにより第2支持部301bに連結される構造物に伝達される。また、平面摺動体機構305の外側平板摺動体307に作用する摩擦力は、平面側支持板310、一対の側方軸力材311、および連結板321を経由して、孔部301dにより第2支持部301bに連結される構造物に伝達される。また、凹凸摺動体機構302の凸型摺動体304に作用する摩擦力、および平面摺動体機構305の内側平板摺動体306に作用する摩擦力は、それぞれ中央軸力材308を経由して、孔部301cにより第1支持部301aに連結される構造物に伝達される。
凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305の構造について、図49および図50を加えて具体的に説明する。なお、以下の説明では、凹凸摺動体機構302に関し、便宜上、凹型摺動体303が凸型摺動体304に対して往復摺動する方向(図49、矢印X参考)を作動方向とし、その作動方向のうち一方の方向(図49において右方、矢印Xの向きF参照)を前方または正の方向とし、同作動方向のうち他方の方向(同図において左方、矢印Xの向きR参照)を後方または負の方向とする。
まず、凹凸摺動体機構302について説明する。図44、図45等に示すように、凹凸摺動体機構302は、凹型摺動体303および凸型摺動体304が互いに対向する側の部分に凹凸形状部分を有し、この凹凸形状部分によって凹型摺動体303および凸型摺動体304を摺動可能に嵌合させる。したがって、凹凸摺動体機構302は、凹凸形状部分として、凹型摺動体303側に形成される溝部326と、凸型摺動体304側に形成される突部327とを有する。
すなわち、本実施形態の減衰装置301においては、凹型摺動体303は、摺動する相手方の摺動体である凸型摺動体304に対向する側の端部(面部)に溝部326を有する。溝部326は、凸型摺動体304に対する相対的な往復摺動の方向(作動方向)に沿うととともに下側に開口し、作動方向視で凹形状となる。
溝部326が形成される凹型摺動体303の下側(図44(a)においては上側)の面部には、溝部326の開口側の端面である2箇所の溝端面326aと、溝部326の底面である溝底面326bとが形成される。2つの溝端面326aは、同一面上に位置するように形成される。また、2つの溝端面326aと、溝底面326bとの間には、左右方向に互いに対向する内側側面326cが形成される。互いに対向する内側側面326cは、互いに略平行に形成される。
また、本実施形態の減衰装置301においては、凸型摺動体304は、摺動する相手方の摺動体である凹型摺動体303に対向する側の端部(面部)に突部327を有する。突部327は、作動方向に沿うとともに上側に突出し、作動方向視で凸形状となる。
突部327は、凸型摺動体304の上側の面部において突起を上向きに突出させる部分である。したがって、凸型摺動体304の上側の面部には、突部327の基端面である2箇所の肩面327aと、突部327の突出側の端面である突部端面327bとが形成される。2つの肩面327aは、突部327において突起が突出する面であり、同一面上に位置するように形成される。また、2つの肩面327aと、突部端面327bとの間には、左右方向に互いに反対側を向く外側側面327cが形成される。互いに反対側を向く外側側面327cは、互いに略平行に形成される。
また、互いに摺動可能な状態で嵌合する溝部326および突部327は、溝部326の溝の幅の寸法と、突部327の突起の幅の寸法とが略同じとなるように形成される。つまり、溝部326を形成する内側側面326c間の寸法と、突部327を形成する外側側面327c間の寸法とが略同じとされる。
以上のように凹型摺動体303と凸型摺動体304とが溝部326および突部327によって互いに摺動可能に嵌合する構成において、第1実施形態の場合と同様に、凹型摺動体303および凸型摺動体304は、それぞれ2種類の摺動面を有する。
すなわち、2種類の摺動面のうち一方の種類の摺動面は、凹型摺動体303が凸型摺動体304に対して中立の位置よりも前方に位置する状態で互いに接触し、凹型摺動体303の中立の位置からの前方への摺動による変位にともなって凹型摺動体303を上昇させるように、前方へ向けて上り勾配を有する斜面(前方用摺動面)である。また、2種類の摺動面のうち他方の種類の摺動面は、凹型摺動体303が凸型摺動体304に対して中立の位置よりも後方に位置する状態で互いに接触し、凹型摺動体303の中立の位置からの後方への摺動による変位にともなって凹型摺動体303を上昇させるように、後方へ向けて上り勾配を有する斜面(後方用摺動面)である。
図44、図45、図49、図50等に示すように、本実施形態では、凹型摺動体303においては、溝部326を形成する溝端面326aが、前方用摺動面として用いられ、溝部326を形成する溝底面326bが、後方用摺動面として用いられる。また、凸型摺動体304においては、突部327を形成する肩面327aが、前方用摺動面として用いられ、突部327を形成する突部端面327bが、後方用摺動面として用いられる。このように、凹型摺動体303および凸型摺動体304は、それぞれ2面の前方用摺動面と、1面の後方用摺動面とを有する。
また、凹凸摺動体機構302においては、凹型摺動体303が凸型摺動体304に対して長手方向(前後方向)について中央に位置する状態が、凹型摺動体303が凸型摺動体304に対して中立の位置にある状態(中立状態)に対応する。そして、中立状態からの凹型摺動体303の前方への移動過程、および中立状態からの凹型摺動体303の後方への移動過程のそれぞれの過程において、前方用摺動面および後方用摺動面それぞれの勾配により、摺動体変位量の増加にともなって凹凸摺動体機構302の高さが比例的に増大する。
したがって、中立状態からの凹型摺動体303の前方移動時には、凹型摺動体303および凸型摺動体304の前方用摺動面同士のみ、つまり溝端面326aおよび肩面327a同士のみが接触する。また、中立状態からの凹型摺動体303の後方移動時には、凹型摺動体303および凸型摺動体304の後方用摺動面同士のみ、つまり溝底面326bおよび突部端面327b同士のみが接触する。そして、中立状態においては、凹型摺動体303および凸型摺動体304の前方用摺動面同士、および後方用摺動面同士のいずれもが接触した状態となる。なお、図45は、凹凸摺動体機構302の中立状態を示す。
本実施形態の減衰装置301においては、前方用摺動面である、凹型摺動体303の溝端面326a、および凸型摺動体304の肩面327aが、それぞれ第1の摺動面として機能する。また、後方用摺動面である、凹型摺動体303の溝底面326b、および凸型摺動体304の突部端面327bが、それぞれ第2の摺動面として機能する。
次に、平面摺動体機構305について説明する。図46、図47等に示すように、平面摺動体機構305は、内側平板摺動体306および外側平板摺動体307が互いに対向する側の部分に摺動面を有し、この摺動面によって内側平板摺動体306および外側平板摺動体307を摺動可能に接触させる。
内側平板摺動体306は、平面として形成される摺動面306bを有し、外側平板摺動体307は、同じく平面として形成される摺動面307bを有する。内側平板摺動体306および外側平板摺動体307がそれぞれ有する摺動面306b,307bは、減衰装置301の軸方向(作動方向)および左右方向に平行な平面である。つまり、内側平板摺動体306および外側平板摺動体307の摺動面306b,307bは、中央軸力材308の板面に平行な面である。
内側平板摺動体306と外側平板摺動体307とは、互いの摺動面306b,307b同士を接触させた状態で、相対的に摺動可能に設けられる。内側平板摺動体306は、凹凸摺動体機構302の凸型摺動体304と同様に中央軸力材308に固定される部材であるため、凸型摺動体304と一体的に移動する。また、外側平板摺動体307は、凹凸摺動体機構302の凹型摺動体303と同様に付勢機構320を構成する部材であるため、凹型摺動体303と一体的に移動する。
平面摺動体機構305においては、外側平板摺動体307が内側平板摺動体306に対して長手方向(前後方向)について中央に位置する状態が、中立状態に対応する。そして、平面摺動体機構305においては、上述したような凹凸摺動体機構302の中立状態からの前方および後方への移動過程にかかわらず、つまり凹凸摺動体機構302の摺動動作の範囲で、摺動面306b,307b同士は常時接触する。なお、図47は、平面摺動体機構305の中立状態を示す。
以上のように、本実施形態の減衰装置301は、構造物に間接的に固定され互いに対向した状態で相対的に往復摺動可能に設けられる摺動体として、凹凸摺動体機構302を構成する凹型摺動体303および凸型摺動体304と、平面摺動体機構305を構成する内側平板摺動体306および外側平板摺動体307とを有する。
そして、本実施形態の減衰装置301は、摺動体同士の相対的な往復摺動により伸縮可能に構成され、構造物の振動に対する減衰力を、相対的な往復摺動による伸縮方向に沿う軸力として作用させる。つまり、本実施形態の減衰装置301は、凹型摺動体303と凸型摺動体304との相対的な摺動方向を軸方向とするとともに、その軸方向の両端側に、構造物に固定される第1支持部301aおよび第2支持部301bを有することにより、軸力部材型の減衰装置として構成される。
本実施形態の減衰装置301によれば、第2実施形態の減衰装置61と同様に、軸力部材型の減衰装置であることから、より高い汎用性を得ることができることに加え、構成部材の中で比較的高価な付勢手段としての板ばねや凹凸摺動体機構の摺動体の数を少なくすることが容易であることから、コスト面で有利な構成を容易に実現することができる。
具体的には、例えば、第2実施形態に係る減衰装置61では、少なくとも4個の板ばね65を必要とする。凹凸摺動機構とU型板ばねは減衰装置の製造原価の大部分を占める。このため、これらの個数を減らすことは装置の価格競争力を大幅に向上させることにつながる。そこで、本実施形態の減衰装置301によれば、凹凸摺動体機構302と平面摺動体機構305とを積層させることにより、安価な平面摺動体機構305の使用により装置の製造原価を低減し、平面摺動体機構305の摩擦力により減衰力を維持することができる。
本実施形態の減衰装置301によれば、少なくとも1組の凹凸摺動体機構302を使用し、かつ少なくとも1組の平面摺動体機構305を使用し、かつこれらを積層し、かつ少なくとも2個の板ばね312を用いることで、第2実施形態の減衰装置61と同等の性能を有し、より廉価な振動減衰装置が実現できる。また、少なくとも2組の凹凸摺動体機構302を使用し、かつ少なくとも2組の平面摺動体機構305を使用し、かつそれらを積層し、かつ少なくとも4個の板ばね312を使用することで、高性能な振動減衰装置を得ることができる。さらに、凹凸摺動体機構302と板ばね312の個数を増加させることなく、平面摺動体機構305の積層数を増やすことにより、より高性能な振動減衰装置とすることも可能である。なお、本実施形態の減衰装置301が備える平面摺動体機構305のような平面摺動体機構は、第1実施形態の減衰装置1や第2実施形態の減衰装置61においても、凹凸摺動体機構に積層させることで適用することができる。
本実施形態の減衰装置301について、力学的に解析する。図43に示すように、凹凸摺動体機構302の摺動動作にともなう高さの増加等によって付勢機構320に作用する圧縮力をVとし、中立状態すなわち摺動変位が生じていな状態での付勢機構320の高さをh0とし、中立状態からの付勢機構320の高さの増加量をvとする。凹凸摺動体機構302の高さの増加により、実際に凹凸側支持板309と平面側支持板310に作用する力は分布力であるが、ここではその分布力を集中圧縮力Vとしてモデル化する。なお、以下の説明では、図43に示すように、圧縮力Vの作用を受ける付勢機構320を、上述したように凹凸摺動体機構302の摺動動作にともなう高さの増加を弾性的に拘束するリングを形成することから「リング」と称する。
圧縮力Vの方向のリングのばね定数をSとして、リングに作用する圧縮力Vと高さの変化vの関係を次式(38)で表す。
V=V0+Sv ・・・(38)
ここで、V0は、与圧などによって導入する初期圧縮力とする。
凹凸摺動体機構302を構成する凹型摺動体303の摺動面としての溝端面326aおよび溝底面326bに関し、傾きの大きさ(勾配)は等しく、傾きの向きは互いに逆である。図44(a)において、溝端面326aおよび溝底面326bの、作動方向(矢印X)に対して下り向きを矢印の方向で表す。また、凹凸摺動体機構302を構成する凸型摺動体304の摺動面としての肩面327aおよび突部端面327bに関し、傾きの大きさ(勾配)は等しく、傾きの向きは互いに逆である。図44(b)において、肩面327aおよび突部端面327bの、作動方向(矢印X)に対して下り向きを矢印の方向で表す。凹型摺動体303の摺動面である溝端面326aおよび溝底面326bの勾配、および凸型摺動体304の摺動面である肩面327aおよび突部端面327bの勾配を、いずれもiとする。
図49は、摺動機構の摺動変位と高さの増加の関係を示す。ここで、摺動機構とは、凹凸摺動体機構302、中央軸力材308、および平面摺動体機構305を図49のように積層した機構とする。図50は、図49におけるM−M断面図である。図49は、リングとともに一体的に移動する凹型摺動体303および外側平板摺動体307の作動方向の中心位置M−Mが中立位置N−Nを基準として図49における右方向(前方向)に移動した状態、つまり正の摺動変位udが生じた状態を表す。
中立状態(ud=0)には、凹型摺動体303の摺動面である溝端面326aおよび溝底面326bは、それぞれ凸型摺動体304の摺動面である肩面327aおよび突部端面327bに接触する。中立状態での摺動機構の高さ(上下方向の寸法)をh0とする。図49に示すように、摺動機構に正の摺動変位(ud>0)が生じると、溝底面326bと突部端面327bとは離れ、溝端面326aと肩面327aとが接触する。この時、凹型摺動体303は、溝端面326aおよび肩面327aの勾配iの傾斜のために上方に移動し、摺動機構の高さが増加する。この摺動機構の高さの増加量をvとする。
負の摺動変位(ud>0)が生じると、溝端面326aと肩面327aとは離れ、溝底面326bと突部端面327bとが接触する。この時、凹型摺動体303は、溝底面326bと突部端面327bの勾配iの傾斜のために上方に移動し、摺動機構の高さが増加する。摺動変位の正負に拘わらずに内側平板摺動体306と外側平板摺動体307とは摺動面306bと摺動面307bとで接触する。摺動面の摩耗による摺動機構の高さの変化と摺動機構の作動方向に対して垂直方向の圧縮変形を無視すると、摺動機構の高さの増加は摺動変位の絶対値に比例し、その比例係数は凹凸摺動体機構302の摺動面の勾配iと考えて良い。よって、摺動機構の高さの増加は次式(39)で表される。
v=i|ud| ・・・(39)
本実施形態の減衰装置301は、摺動変位に伴い発生する摺動機構の高さの増加を利用して、その高さの増加の方向にリングを押し広げることによって、摺動機構に摺動変位の絶対値に比例して増加する圧縮力を作用させる。よって、上記式(38)に式(39)を代入すると、摺動機構に作用する圧縮力Vは次式(40)で表される。
V=V0+iS|ud| ・・・(40)
凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305のそれぞれの摺動面には、この圧縮力Vに比例する摩擦力が摺動運動を妨げる方向に発生する。減衰装置301は、この摩擦力を中央軸力材308と側方軸力材311を介して構造物に減衰力として作用させる。
次に、減衰力と変位の関係について説明する。ud>0、(dud/dt)>0の条件において、凹型摺動体303の摺動面に作用する垂直抗力と摩擦力およびリングによる反力VとHcのつり合いを考えると、図49に示す凹型摺動体303に作用する反力Hcは次式(41)で表される。
同様にして、平面摺動体機構305に作用する反力Hfは次式(42)で表される。
よって、減衰力Hは、反力Hcと反力Hfとの和として次式(43)で表される。
ここに、μcとμfは、それぞれ凹凸摺動体機構302の動摩擦係数と平面摺動体機構305の動摩擦係数である。他の変位と速度の符号の組合せについて減衰力を整理すると、次式(44)の減衰装置301の減衰力Hと摺動変位udとの関係を得る。
H=λ(V0+iS|ud|) ・・・(44)
ここで、λは次式(45)で定める運動抵抗係数である。
続いて、板ばね312のばね形状とばね定数について説明する。図51は、U型板ばねの形状とばね定数を試算するための力学モデルである。図51(a)は、本実施形態の減衰装置301の板ばね312を示し、同図(b)は、第1,2実施形態で採用された形状の板ばねを示す。
図51(a)に示すように、板ばね312は、半径rの湾曲部312a、代表寸法l1の直線部312b、および代表寸法l2のL型部312cで構成される。板ばね312の板厚をtとし、板ばね312の作動方向の長さ(板幅)をd(図48参照)とする。直線部312bの端はボルト319で凹凸側支持板309へ、L型部312cの端はボルト318で側方軸力材311へそれぞれ連結される。板ばね312を図51(b)に示す両端固定のU型板ばねと等価と考えると、荷重q方向のばね定数βは次式(46)、(47)で与えられる。
ここで、Eはヤング係数とする。図51(b)と式(47)の直線部の長さlは、板ばね312の寸法l1とl2の平均とする。リングの高さの増加は主に板ばね312の曲げ変形で生じると仮定すると、リングのばね定数Sは次式(48)で推定できると考えられる。
S=2αβ ・・・(48)
ここで、αは荷重試験などによって決める補正係数とする。
減衰力と密接に関係するリングのばね定数は荷重試験で正確に求める必要があるが、装置の計画段階などでは式(48)を利用したばね定数の試算は有用であると考えられる。
以下、本発明の実施例について説明する。本実施例では、本発明の第1実施形態の減衰装置1の構成(図1参照)について、静的力学特性の確認実験を行った。具体的には、本発明に係る減衰装置の機能を確認するために、式(8)、(9)、(10)、および(11)で示される、ローラで支持された減衰装置の水平力と相対変位との関係式の妥当性と、式(31)で示される、減衰装置が装着されたラーメンの水平力と水平変位との関係式の妥当性とを、模型実験で検証した。なお、本実施例は、上述した本発明の第1実施形態の減衰装置1の構成についてのものであるため、本実施例の説明では、第1実施形態の減衰装置1の符号を用いる。
まず、本実施例では、ローラで支持された減衰装置1についての実験を行った。本実施例では、凹型摺動体3の材料として、ステンレス鋼(SUS304)を用い、凸型摺動体4の材料として、快削黄銅(C3604)を用いた。また、摺動面の勾配iおよび水平長さldは、それぞれi=0.02、ld=400mmである。組み立てられた凹型摺動体3および凸型摺動体4の中立状態での高さ、つまり中立状態の摺動体機構2の高さは、hd=51mmである。
また、凹型摺動体3の前方用摺動面(溝端面11a)と後方用摺動面(溝底面11b)の幅は、それぞれbF=5.9mm、bB=8.2mmである。凸型摺動体4の前方用摺動面(肩面12a)と後方用摺動面(突部端面12b)の幅は、それぞれbF=6.1mm、bB=7.8mmである。また、摺動面の機械仕上げの設計値は、平均粗さRa=1.6以下としたが、実際の表面粗さは計測していない。摺動面には、動摩擦係数と静止摩擦係数の差を小さくするために、トリクロルエタン系の潤滑剤を塗布した。なお、摺動面の導摩擦係数については後述する。
また、本実施例では、板ばね5については、摺動体の両側面にそれぞれ4個配置し、総数を8個とした(図1参照)。板ばね5は、凸型摺動体4と支持はり6とを一体化する。板ばね5の材質は、ばね用ステンレス鋼帯(SUS304−CSP)であり、各部の設計寸法は、φ=0.3mm、α=5mm、β=5.15mm、γ=42mmである(図12、図14参照)。また、板ばね5は、1個当たり6個のM3ボルト(ボルト24,25)で凸型摺動体4と支持はり6それぞれの側面に固定する。詳細には、板ばね5は、下側固定部21の部分を凸型摺動体4の側面に、上側固定部22の部分を支持はり6の側面に、それぞれ3個のM3ボルトで固定する。なお、減衰装置1の鉛直ばね定数については後述する。
また、支持はり6の材料としては、アルミニューム合金(A6063)を用いた。支持はり6の寸法は、高さ×幅×長さ=25×20×400mmである。凸型摺動体4、板ばね5、および支持はり6の合計質量は2.57kgである。
減衰装置1の動摩擦係数と高さの変化について説明する。図52は、本実施例において摺動面の動摩擦係数を計測する摩擦実験装置の構成を示す図である。図52に示すように、本実施例に係る摩擦実験装置では、架台200上に固定される下側壁207の上に、減衰装置1の凹型摺動体3がボルトで固定される。本実施例では、下側壁207は、アルミニューム合金製壁(A5052,t=3mm×2)である。支持はり6の上に、重り201が載せられる。
図52に示すように、本実施例の摩擦実験装置では、アクチュエータ203により、減衰装置1を作動させるための水平力が支持はり6に作用させられる。アクチュエータ203は、荷重計204を介して、支持はり6に対して水平方向に連結される。アクチュエータ203は、架台200上に設けられる支持台205上に支持される。
このような構成により、アクチュエータ203を水平方向に駆動させることで、減衰装置1の作動に必要な水平力を支持はり6に作用させ、その水平力を、荷重計204で計測する。なお、荷重計204の定格容量は200Nであり、アクチュエータ203の駆動速度は0.048mm/s、分解能は0.004mm/stepである。
また、本実施例の摩擦実験装置では、凸型摺動体4の水平変位が、水平変位計206により計測される。また、支持はり6の高さの変化が、鉛直変位計209により計測される。水平変位計206および鉛直変位計209は、それぞれレーザ変位計であり、その分解能は、0.002mmである。また、支持はり6の上に載せられる重り201の質量は、4kg、8kg、12kg、16kgの4ケースとした。
図53は、16kgの重りを搭載した場合の減衰装置1の水平変位と高さの変化との関係を示し、図54は、同じく16kgの重りを搭載した場合の減衰装置1の水平力と相対変位の履歴曲線を示す。水平力Hは、重り201、凸型摺動体4、板ばね5、および支持はり6の合計重量W=178Nで除して無次元化している。
図53に示すように、減衰装置1においては、相対変位(水平変位、ud)10mmで、0.2mmの高さ(vd)の変化が生じる。これにより、摺動面の勾配がi=2%であることが確認できる。高さの変化に±0.05mm程度の幅が見られるが、これは次の二つの現象に起因すると考えられる。一つは、アクチュエータ203の作動に合わせて減衰装置1が鉛直方向に振動することである。もう一つは、鉛直変位計209から照射されるレーザ光の反射面、つまり支持はり6の上面が水平方向に移動することにより、反射面の凹凸が鉛直変位計209による測定値に影響を及ぼすことである。
図54では、式(8)、(9)、(10)、および(11)において摺動面の動摩擦係数をμF=0.16、μB=0.18とし、摺動面の勾配をi=0.02とした場合の運動抵抗係数(Theoryと表記する)を併記している。図54より、実験で得られた水平力と鉛直力の比H/W(Testと表記する)は、運動抵抗係数λと良く対応することが確認できる。なお、重り201の重さを16kgから変化させた場合についても、水平力と鉛直力の比H/Wは、前述の運動抵抗係数λと良く対応することが確認できた。
続いて、本実施例に係る減衰装置1の鉛直ばね定数について説明する。図55は、本実施例の摩擦実験装置(図52参照)において、アクチュエータ203を取り外した状態における、重り201による鉛直力と支持はり6の鉛直変位との関係を示す。図55より、鉛直力(Virtical force)と鉛直変位(Virtical displacement)との関係は、載荷時(Loading test)と除荷時(Unloading test)共に線形であることが確認できる。実験結果から、減衰装置1の鉛直ばね定数として、Sy=400N/mmが得られた。
一方、式(16)と式(17)を用いて、板ばね5についての1個の鉛直ばね定数を見積もると、sy=61.8N/mmとなる。ただし、JIS G5443に参考値として記載されているばね用ステンレス鋼帯(SUS304−CSP)のたわみ係数(日本工業規格:ばね用ステンレス鋼帯,JIS G4313,1977.)をヤング係数E=167000N/mm2とし、G/Eは0.385とした。上記のばね定数の理論値を用いて、減衰装置1の鉛直ばね定数を見積もると、494N/mmとなる。これを実験値Sy=400N/mmと比較すると、式(20)に用いる補正係数は、Ψ=0.81となる。
次に、減衰装置1の力学モデルの妥当性を検証する実験について説明する。図56は、ローラで支持された減衰装置1の実験装置の構成を示す。図56に示す実験装置は、図8および図9に示す減衰装置1の力学モデルに対応する。なお、図56に示す実験装置においては、図52に示す摩擦実験装置と共通する部分については同一の符号を用いて説明を省略する。
図56に示す実験装置では、図52に示す摩擦実験装置において、支持はり6の上側に、ローラ9を有するローラ機構が設置されている。ローラ機構の上側には、梁210が設けられる。梁210は、ローラ機構を鉛直方向に支持する。つまり、梁210は、支持はり6の上側において、ローラ9を有するローラ機構を介して設けられる。梁210は、4本(図56においては2本のみ図示)の柱211により架台200に連結されるとともに、固定金具等の支持機構(図示略)により架台200に固定されることで、水平方向および鉛直方向について固定される。
本装置が備えるローラ機構は、4個のローラ9を有し、これらのローラ9を、水平方向に略等間隔を隔てた位置に支持する。ローラ9は、支持はり6と梁210との間に挟まれた状態で、支持はり6の水平変位にともなって回転するように支持される。本実施例では、ローラ9は、直径20mmのアルミ製のローラである。以上のような構成を備える実験装置において、アクチュエータ203を水平方向に駆動させ、減衰装置1に作用する摩擦力を、荷重計204で計測し、水平変位計206により、凸型摺動体4の水平変位を計測した。
図57は、式(7)、(8)、(9)、(10)、および(11)で示した水平力と水平変位との関係式で計算した履歴曲線と、実験により得られた履歴曲線との比較を示す。摺動面の勾配i、初期圧縮力V0、鉛直ばね定数Sy、および摺動面の動摩擦係数μF,μBは、それぞれ、i=0.02、V0=25.2N、Sy=400N/mm、μF=0.16、μB=0.18である。
図57より、実験値が理論値(計算値)と良く対応し、履歴曲線は実験値、理論値ともに蝶が羽を広げた形となることが確認できる。また、実験値の履歴曲線の傾きは、理論値の履歴曲線の傾きに比べて、わずかに小さくなった。このことは、実験値にはローラ9の転がり摩擦の影響が含まれるが、理論値ではローラの転がり摩擦が無視されているからであると考えられる。なお、実験時の板ばね5の水平方向の変形量は小さく、板ばね5により上下方向に連結される凸型摺動体4と支持はり6の水平変位の差は無視できる程度に小さかった。
続いて、本実施例に係る減衰装置1を装着したラーメンの実験について説明する。図58は、本実施例に係る減衰装置1を装着した一層ラーメンの実験装置の構成を示す。図58に示す実験装置は、図56に示す実験装置において、梁210を上方に移動させ、ローラ9を有するローラ機構を上側壁208に置き換えたものえある。上側壁208は、アルミニューム合金製壁(A5052,t=3mm×2)である。上側壁208は、ボルトで支持はり6および梁に固定されている。
左右の柱211は、2本の鋼製ボルト(M6,SS400)であり、梁210は、断面寸法が100×19のみがき平角鋼(SS400)である。ラーメンの高さhと長さlは、それぞれh=400mmとl=500mmである。また、柱211と上側壁208・下側壁207それぞれとの間隔e(図15参照)は、e=50mmである。また、図58に示す実験装置では、アクチュエータ203は、荷重計204を介して梁210と連結されている。
以上のような構成を備える実験装置において、アクチュエータ203を水平方向に駆動させて、荷重計204により、ラーメンの水平力を計測し、水平変位計206により、ラーメンの水平変位を計測した。減衰装置1の支持はり6およびラーメンの梁210のそれぞれの水平変位を計測したが、両者の差は小さかった。また、上側壁208と板ばね5の水平方向の弾性変形は、減衰装置1の相対変位に比べて無視できる程度に小さかった。
図59は、減衰装置1を取り外したラーメンの1サイクルの載荷・除荷の水平力と水平変位の履歴曲線である。図59から、減衰装置1を取り外したラーメンでは、履歴曲線は載荷と除荷ともに同様な経路をたどり、水平力と水平変位の関係は線形であることが確認できる。
図59に示す実験結果より得られたラーメンの水平ばね定数は、Kx=3.4N/mmである。別途に実施した曲げ試験で得られた柱211の曲げ剛性は、EcIc≒1.1×107Nmm2であった。これを用いて式(30)で計算した水平ばね定数は、4.2N/mmである。式(30)では、柱211は梁210と基部に完全に固定されている(両端固定梁)と仮定しているが、ラーメンの取付け部の弾性変形により回転が生じ、実際の水平ばね定数は、理論値より小さくなったと考えられる。
図60は、式(24)で計算したラーメンの水平変位uと鉛直変位vの関係を実験値と比較したものである。図60より、鉛直変位は水平変位に対して放物線状に変化し、実験値は理論値と良く対応していることが確認できる。
次に、本実施例に係る減衰装置1を装着したラーメンの水平力と水平変位の履歴曲線について説明する。図61は、実験で得られた、減衰装置1を装着したラーメンの1サイクルの水平力と水平変位の履歴曲線(Test)と、式(31)で計算した履歴曲線(Eq.31)と、式(31)でラーメンの鉛直方向の二次変位を無視して計算した履歴曲線(Eq.31’)との比較を示す。ここで、式(31)の計算条件は、i=0.02、V0=25.2N、μF=0.16、μB=0.18、Kx=3.4N/mm、およびSy=400N/mmである。また、柱211の断面定数からラーメンの鉛直方向ばね定数を試算すると、Ky≒39000N/mmであり、Ky>>Syとなることから、Syc≒Syとした。
図61より、水平変位がu/h<0.01の範囲では、ラーメンの鉛直方向の二次変位の影響は小さく、二次変位を無視した理論値と実験値とは良く対応することが確認できる。水平変位がu/h≧0.01の範囲では、二次変位を無視した理論値は、前方移動時・後進時と、後方移動時・前進時で実験値と良く対応しているが、前方移動時・前進時と後方移動時・後進時は、実験値との差が大きくなることが確認できる。二次変位を考慮した理論値は、前方移動時・前進時と後方移動時・後進時で実験値と比較的良く対応しているが、前方移動時・後進時と後方移動時・前進時では、実験値との差が大きくなることが確認できる。実用的なラーメンの水平変位はu/h<0.01と考えられるので、実用上は式(31)において二次変位を無視しても良いと考えられる。
また、図61より、二次変位を考慮しなければならない水平変位の領域を考慮しても、式(31)で二次変位を無視して計算した履歴曲線は、実験で得られた履歴曲線の内側にあり、前者の履歴曲線が囲む面積は、後者の履歴曲線が囲む面積より小さいことがわかる。図61の二次変位を無視した履歴曲線が囲む面積は、式(13)の散逸エネルギーに相当するので、本実施例に係る減衰装置1によれば、式(34)で示す等価粘性減衰定数を確保できる可能性が高いと考えられる。
前方用摺動面と後方用摺動面の動摩擦係数をμ0=0.17とし、先に示したラーメンと減衰装置1の諸定数、i=0.02、V0=25.2N、Kx=3.4N/mm、およびSy=400N/mmを、式(34)に適用すると、次の等価粘性減衰定数が得られる。
ζe=0.127+(0.802/a) ・・・(49)
式(49)より、本実施例に係る減衰装置1を装着したラーメンの共振時の等価粘性減衰定数は、振幅aが10mm程度の場合は0.2程度であり、振幅aが大きくなることで0.127に漸近すると予想される。
以上のような本発明の実施例により、本発明の第1実施形態の減衰装置1の構成についての静的力学特性が明らかとなった。本発明の実施例によれば、限られた条件の模型実験の範囲内であるが、減衰装置を装着したラーメンの静的力学特性は理論値と実験値が良く対応していることから、本発明に係る減衰装置は構造物の振動を抑制する減衰装置として機能する可能性が高いと言える。
上述したような本発明の実施例等から、本発明について得られた知見を以下にまとめる。
(a)本発明に係る減衰装置は、摺動体の相対変位にともなう高さの変化を構造物内の部材などで抑制することにより、相対変位の絶対値に比例して増加する摩擦力を生成することができる。
(b)ローラで支持された減衰装置と減衰装置を装着したラーメンとの、水平力と水平変位の履歴曲線については、理論値と実験値が良く対応し、その履歴曲線の形状は蝶が羽を広げた形となる。
(c)摺動面の勾配と摩擦係数、付勢手段としての板ばねの鉛直ばね定数、および初期圧縮力を適宜組み合わせることにより、減衰装置の水平力と水平変位の履歴曲線が囲む面積を変化させることができる。
(d)ローラで支持された減衰装置の水平力と相対変位の履歴曲線の特徴から、減衰装置の等価粘性減衰係数は振動数に反比例し、振動数が小さくなると等価粘性減衰係数は大きくなる。
(e)減衰装置の初期圧縮力を十分小さくすることにより、小振幅から大振幅まで等価粘性減衰係数をほぼ一定にすることが可能となる。
次に、本発明の実施例として、第3実施形態の減衰装置301の構成を採用した場合の実施例を説明する。まず、本実施例での減衰装置301の設計条件と諸元について説明する。
本実施例では、設計条件として、次のような条件を用いた。設計減衰力を10kNとした。この値は目標値である。制振対象の高層ビルの諸元を軒高250m、固有周期5秒および階層高4mと仮定し、地震動と共振した高層ビルの最大層間変形角を1/200と仮定した。階層高と最大層間変形角より装置の設計振幅adを20mmとした。ただし、装置の最大振幅は40mmとした。
また、凹凸摺動体機構302の摺動面の勾配は、勾配i=0.02とした。摺動面の動摩擦係数μを0.2以上とし、0.2以上の動摩擦係数と鉛の固体潤滑作用による動摩擦係数の安定性を期待して、摺動材の組合せは、鉛を4〜6%含有する青銅鋳物(CAC406C)を軟質材として、耐候性の高いステンレス鋼(SUS304)を硬質材とした。軟質材は硬質材に比べて摩耗量が多いので、軟質材の摩耗量が作動方向に均一となることに期待して、相手材に対して作動方向の寸法が短い凹型摺動体303と外側平板摺動体307を軟質材とし、相手材となる凸型摺動体304と内側平板摺動体306を硬質材とした。板ばね312、中央軸力材308、凹凸側支持板309、平面側支持板310、側方軸力材311、連結板321、および支材323の材質は炭素鋼(S50C)とした。
図62に示す表に、減衰装置301の諸元として、凹型摺動体303、凸型摺動体304、および2つの平面摺動体である内側平板摺動体306、外側平板摺動体307の摺動面の寸法と見かけの接触面積を示す。これらの摺動体の摺動面の機械仕上げの設計値は表面粗さ1.6μmRa以下として、粗さゲージを用いて表面粗さを目視で確認した。
中央軸力材308、側方軸力材311、連結板321、および支材323の寸法(幅×厚×長さ)は、それぞれ165×25×990mm、100×25×990mm、165×25×255mm、および100×25×165mmである。側方軸力材311および支材323に取り付けられるスライド板324,325は、二硫化モリブデンが埋め込まれた厚さ10mmの黄銅合金板とした。減衰装置301を往復摺動試験装置とピン連結するために、中央軸力材308の孔部301cと連結板321の孔部301dには、球面軸受を埋め込んだ。連結用のピンの外径は30mmである。
板ばね312については、素材の外周をワイヤソーで成形し、その後に内周を切削し、内外周を研削にて所定寸法に仕上げた。板ばね312の板厚は16mmである。板ばね312の各部の寸法は、半径r=30mm、代表寸法l1=111mm、代表寸法l2=91mm、板厚t=16mm、板幅d=220mmである。
凹凸側支持板309と平面側支持板310の板厚は30mmである。減衰装置301の全長と総質量は、それぞれ1,185mmと171kgである。平面側支持板310と側方軸力材311の連結は高力ボルト引張・摩擦接合(図43に示すボルト314)とし、他の部材の連結は総て高力ボルト摩擦接合とした。凹凸側支持板309と凹型摺動体303の連結および平面側支持板310と平面摺動体機構305の連結はM10ボルトとし、他は総てM12ボルトとした。ボルトの強度区分は総て10.9である。ボルトの締め付け力はトルク法により管理した。
以上のような減衰装置301の設計条件と諸元の下で、往復摺動機構試験を行った。図63および図64は、連続100回の摺動機構試験で得られた凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305の運動抵抗力と摺動変位の履歴曲線である。
図63は、平面摺動体機構305の履歴曲線である。図47に示す平面摺動体機構305の上に重りを載せ、内側平板摺動体306を固定し、電動アクチュエータで外側平板摺動体307を作動方向(矢印X)に往復摺動させた。往復摺動時のアクチュエータの駆動力を荷重計で計測し、その駆動力を運動抵抗力とした。
重りと外側平板摺動体307の合計重さである上載荷重は354Nである。摺動振幅、摺動速度および見かけの摺動面圧はそれぞれ20mm、1.76mm/sec.、および0.011N/mm2である。図63、図64には、動摩擦係数μf=0.23の履歴曲線(Theory)を併記した。運動抵抗力と上載荷重の比は0.23から0.45に分布することが確認される。
図64は、凹凸摺動体機構302の履歴曲線である。試験の方法と条件は平面摺動体機構305と同じである。ただし、見かけの摺動面圧は0.024N/mm2である。図63および図64には動摩擦係数をμf=0とμc=0.23として計算した式(45)の運動抵抗係数の履歴曲線(Theory)を併記する。
図63および図64より、平面摺動体機構305と凹凸摺動体機構302の両方に対して、運動抵抗力と上載荷重の比の下限値は、動摩擦係数を0.23とする理論上の履歴曲線と良く対応した。これより、各摺動機構の摺動材の組合せが等しいことから、各摺動機構の動摩擦係数をμf=μc=0.23と推定した。なお、減衰装置301の平面摺動体機構305と凹凸摺動体機構302の見かけの最大面圧はそれぞれ0.5N/mm2と1.0N/mm2程度と予想されるので、最大面圧に比べて小さな面圧の条件で往復摺動機構試験が実施されたことに注意が必要である。
図65は、凹凸摺動体機構302の作動試験で得られた、図45で示す摺動機構の摺動変位udと高さの増加vの関係である。凹凸摺動体機構302の6点の高さをノギスで計測し、それらの平均値から高さの増加量を決定した。最低高さが発生する真の中立位置は試験時の仮の中立位置から約1mmずれるが、凹凸摺動体機構302の摺動変位と高さの増加の関係は勾配i=0.02の理論値と良く対応していることが確認される。
続いて、支持機構試験について説明する。図66は、支持機構試験で確認した、図43に示したリングの圧縮力と高さの増加の関係である。リングの内部に薄型荷重計と薄型油圧シリンダを積層し、油圧シリンダで圧縮力を加え、その圧縮力を荷重計で計測した。凹凸側支持板309の上面中央の変位と平面側支持板の下面中央の変位をそれぞれレーザ変位計(分解能0.002mm)で計測した。減衰装置301の設計振幅20mmに対応するリングの高さの増加は0.4mmであり、高さの変化が0.5mmとなるように載荷を行い、約3分間の静置の後に除荷を行った。
図66から、載荷と除荷の履歴曲線は直線となることが確認される。図66より、リングのばね定数をS=37.5kN/mmと推定した。一方、式(46)を用いて板ばね312のばね定数を見積もるとβ=30.6kN/mmとなる。ただし、E=200000N/mm2、l=101mmとした。式(48)を用いてリングのばね定数を試算するための補正係数はα=0.61となる。
次に、往復摺動実験について説明する。本実験では、減衰装置301を往復摺動試験装置に装着することにより行った。往復摺動試験装置は、減衰装置301の第1支持部301aが連結ピンにより連結される油圧アクチュエータと、減衰装置301の第2支持部301bが連結ピンにより連結される荷重計と、荷重計が設けられる反力はりとを備える。
装置の組立時には、平面側支持板310の取り付け用のボルト314に調整シムプレート(0.05mm)を使用して、初期たわみ0.05mmをリングに導入した。リングのばね定数をS=37.5kN/mmとすると、初期たわみ0.05mmより導入された初期圧縮力はV0=1.9kNと推定される。第1支持部301aを構成する中央軸力材308を油圧アクチュエータ(最大軸力50kN)に、第2支持部301bを構成する連結板321を反力はりの荷重計に、それぞれピンで連結した。減衰力は反力はりの荷重計により計測し、変位は装置に装着したレーザ変位計(分解能0.02mm)で計測した。また、摺動体の温度を薄型熱電対で計測した。
想定地震動を継続時間500秒の長周期地震動と仮定し、往復摺動試験は最大振幅20mm・周期5秒の正弦波の変位制御で行った。往復1回(Test−A)と往復10回(Test−B)の二つの予備試験を実施し、その後に往復100回(Test−C)の本試験を実施した。
図67は、往復1回の予備試験(Test−A)で得られた履歴曲線と、μf=μc=0.23として式(44)と式(45)で予想される理論曲線の比較である。図67から、ud<0,(dud/dt)<0の条件では実験曲線が直線でなく、また理論曲線との差があることが確認されるが、他の条件では、実験曲線は直線であり理論曲線と良く対応していることが確認される。
図68は、往復10回の予備試験で得られた履歴曲線と理論曲線の比較である。実験曲線はTest−Aと同様の特徴を示した。ただし、変位が小さな領域で、Test−BはTest−Aに比べて減衰力が増加していることが確認される。
図69は、往復100回の本試験で得られた履歴曲線と理論曲線の比較である。図69では、往復1回目、34回目、77回目および100回目のそれぞれの曲線を示す。図69より、往復を重ねるごとに減衰力が徐々に増加し、履歴曲線が囲む面積が増加することが確認される。また、減衰力が増加する傾向は変位が小さい時に大きく、変位が大きい時には小さいことが確認できる。
次に、摺動面の摩耗について説明する。往復摺動試験終了後に装置を解体し、各摺動体の摩耗の状況を調べた。摺動体から発生した摩耗粉は凹凸摺動体機構302と平面摺動体機構305の直下に落下し、それらは発生源が明瞭に特定できるように堆積していた。各摺動体に付着していた摩耗粉を加えた凹凸摺動体機構302と平面摺動体機構305の摩耗粉の質量はそれぞれ0.39gと0.63gであった。
青銅鋳物製の凹型摺動体303の摩耗痕は、摺動面である溝端面326aと溝底面326bとの境界付近の中央寄り二か所で確認された。溝端面326aの摩耗痕は作動方向の中央部分かつ左右方向の内側部分に集中し、それらの合計面積は約1600mm2であった。溝底面326bの摩耗痕は作動方向の中央部分かつ左右方向の外側部分に集中し、それらの合計面積は約1000mm2であった。
ステンレス鋼製の凸型摺動体304の摩耗痕は、凹型摺動体303の摩耗痕と対向する位置で確認された。ただし、その摩耗痕は凹型摺動体303の摩耗痕に比べると不明瞭であった。凹型摺動体303の摺動面である溝端面326aおよび溝底面326bの総面積はそれぞれ14,916mm2であるので、摩耗痕の面積から判断して、摺動面は摩耗痕が確認された部位で局部的に接触していたと推定される。
青銅鋳物製の外側平板摺動体307の摩耗痕は側方軸力材311側の二箇所に集中し、それらの合計面積は約2100mm2であった。ステンレス鋼製の内側平板摺動体306の摩耗痕は、外側平板摺動体307の摩耗痕と対向する位置で確認されたが、その摩耗痕は外側平板摺動体307の摩耗痕に比べると不明瞭であった。
図70および図71は、摺動体の温度の計測位置と往復100回の本試験時の温度変化である。図70に示す摺動体の側面に薄型熱電対を張り付けて温度変化を計測した。図70には摩耗痕の位置(Wear mark)を併記する。
図71に示すように、凹凸摺動体機構302(凹型摺動体303、凸型摺動体304)の温度は往復摺動回数に比例して上昇し、往復100回後の温度上昇は約2〜3℃であった。平面摺動体機構305(内側平板摺動体306、外側平板摺動体307)の温度は一定振幅に至るまでのアクチュエータの助走過程で約2℃の急激な温度上昇を示し、往復回数が10回を超えると、往復回数に比例して温度が上昇した。平面摺動体機構305では、往復100回後の温度上昇は約6〜7℃であった。平面摺動体機構305から発生した摩耗粉の質量は凹凸摺動体機構302のそれの約1.6倍であり、平面摺動体機構305の温度上昇は凹凸摺動体機構302のそれの約2倍以上であった。
これらより、凹凸摺動体機構302に比べて平面摺動体機構305の摩耗が大きかったと考えられる。特に、平面摺動体機構305は助走から往復10回までに約4℃の温度上昇を示しているので、平面摺動体機構305の摩耗痕は助走から往復10回までの初期の段階で発生したと推定される。これらの局部的な摩耗は、製作時の摺動面の初期不陸や作動中の各部品の弾性変形による摺動面の不陸によって生じたと考えられる。また、摩耗により生じた摩耗粉が、摺動回数の増加につれて摩擦力が増加する現象に関係していると推定される。ただし、本実施例ではこの現象の解明は行わなかった。
次に、製造原価について言及する。板ばね312、凹凸摺動体機構302、平面摺動体機構305の製作費はそれぞれ全体の33%、23%および10%を占めた。板ばね312は素材の外周をワイヤソーで成形し、その後に内周を切削し、内外周を研削にて所定寸法に仕上げた。ばねは熱間曲げ加工で製作することもできるが、この加工法による製作費の見積金額は460千円と切削・研削加工に比べて15%割高であった。切削・研磨加工に比べて熱間曲げは高強度のばねの製作に向いているので、ばねを小型化する場合は検討の余地があると考えられる。
凹凸摺動体機構302の二つの傾斜した摺動面を高精度で成形する作業には傾斜を調整する専用の治具が必要であった。その治具の製作費と二つの数動面の加工時間のために、凹凸摺動体機構302の製作費は平面摺動体機構305のそれに比べて高くなったと考えられる。板ばね312、凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305の製作費の合計は全体の費用の66%を占めるので、減衰装置301の製造原価を低減するためには、これらの部品の製造原価を低減する必要があると考えられる。
本実施例による往復摺動試験の結果から、減衰力と変位の履歴曲線は摺動回数が少ない限りでは理論曲線と実験曲線が良く対応していることから、本実施例に係る振動減衰装置は、変位の絶対値に比例して増加する特性の減衰力を生成することができると考えられる。ただし、装置の製品化にあたっては、摺動回数が増えると徐々に減衰力が増加する課題が認められたので、摺動面の製作精度を向上させることにより摺動面の初期不陸を少なくする、作動中の各部の弾性変形で生じる摺動面の不陸を予測しそれを摺動面の形状に反映させることにより、その課題を解決する必要がある。また、板ばね312、凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305の製造原価が装置の製造原価の大部分を占めるので、これらの部材の小型化や加工法の見直しが必要と考えられる。
今後の展開について述べる。第2実施形態に係る減衰装置61は、少なくとも4個の板ばね65と少なくとも2組の凹凸摺動機構を必要とする。試作装置の製作費を見積もると、U型板ばねと凹凸摺動機構が装置全体の製造原価の77%以上を占めることが予想された。第2実施形態に係る減衰装置61の場合、実用化にためには制振性能の確保の他、価格競争力の確保も重要であるため、製造原価の大幅な縮減が必要と考えられた。
そこで、振動減衰装置の基本構造を再検討した結果、凹凸摺動体機構と平面摺動体機構を積層することにより、U型板ばねと凹凸摺動体機構の個数を半減させ、装置の製造原価を大幅に低減できると考えられた。また、理論上、第2実施形態に係る減衰装置61と同等の制振性能を確保できると考えられた。
凹凸摺動体機構302と平面摺動体機構305とを積層する第3実施形態に係る減衰装置301について、装置を試作し、試作装置の減衰力と変位の履歴特性を往復摺動試験で調べた。その結果、試作装置は変位の絶対値に比例して増加する特性の減衰力を生成できることが確認された。ただし、減衰装置301では、往復摺動回数が増えると減衰力が徐々に増加する課題があることが判明した。摺動装置の製作段階の摺動面の初期不陸および作動中の装置各部の変形による摺動面の不陸により発生した摩耗粉が減衰力の増加に影響したと推定された。
第3実施形態に係る減衰装置301において、板ばね312、凹凸摺動体機構302および平面摺動体機構305が装置の製造原価に占める割合は66%になることが確認された。また、第2実施形態に係る減衰装置61に比べて、製造原価が32%低減することが判明した。板ばね312および凹凸摺動体機構302の部品は単品の特注で製作しているため、製品段階においてはこれらの部品の製作法の見直し等により製造原価の低減は可能と考えられる。
以上より、本実施例で検討した凹凸摺動体機構302と平面摺動体機構305を積層する減衰装置301は、第2実施形態の減衰装置61に比べて、実用性に優れる。高層ビルなどに使用する既往の振動減衰装置の減衰力は100kN〜1000kN程度である。本実施例に係る減衰装置301の最大減衰力は約10kNである。ただし、解決する課題は有るが、試作した装置の振幅とPV値(摺動面圧×摺動速度)には余裕があるので、試作装置をベースにして最大減衰力100kN程度の振動減衰装置の開発は可能と考えられる。
研究課題としては、摺動面の製作精度の向上、装置の弾性変形による摺動面の不陸の予測と解消、U型板ばねの高性能・小型化、摺動材の組合せの検討などがある。なお、摺動材の組合せとしては、鉛などを固体潤滑材として含有する銅系合金とステンレス鋼の組合せが一般的である。この銅合金・ステンレス鋼の組合せに比べて摩耗量を格段に少なくする先進的な摺動材として、銅を固体潤滑材として含有するセラミックス系焼結材とチタン合金の組合せも考えられる。このような摩耗量の少ない先進的な摺動材が開発できれば、振動減衰装置の適用範囲は超高層ビルの地震動対策の他に風振動対策にも適用が可能となる。
以上のように、本発明は、構造物の固有周期の長短にかかわらずに、小振幅から大振幅までの振動エネルギー吸収を効率的に行える減衰装置の開発を目的として、減衰力としての摩擦力が変位の絶対値に比例して増加する摺動型減衰装置を提案するものである。本発明に係る摺動装置によれば、減衰力が変位に比例し、減衰力が構造物の固有周期に依存せず、多種多様な構造物に対して小振幅から大振幅まで振動エネルギーの吸収を効率的に行うことができる。