しかしながら、このような外的要因の変化を検知することができるICタグは、セラミックコンデンサ等を用いて、温度変化によるセラミックコンデンサの容量変化により外的要因が変化したことを検知するものであり、特別な素子を設け、これが外的要因により影響を受けることで達成されるものであった。
本発明は、このような特別な素子を使用しなくても、物品の使用状態を正確に把握することができるものであって、かつ複数の使用状態を正確に判別することができる非接触ICタグ装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の非接触ICタグ装置は、キャパシタ及びアンテナコイルからなる共振回路と接続されたICチップで構成されるICタグ回路を有する非接触ICタグ装置であって、共振回路は、アンテナコイルに対して並列に形成された1つ以上の共振周波数調整用コイルを有しており、非接触ICタグ装置は、共振回路の配線を断線させて共振周波数調整用コイルの一部又は全部を共振回路から除くことができる切断部を有し、該切断部により配線が断線されることで共振回路の共振周波数が低周波側へシフトすることを特徴とするものである。
本発明の非接触ICタグ装置のICタグ回路は、従来の非接触ICタグと同様に、少なくとも、メモリ、メモリからの情報の読出しを行う制御部を有するICチップを有し、該ICチップには送受信用のアンテナコイルおよびキャパシタを備えた共振回路が接続され、メモリ等から読出された情報をアンテナを介して送信し得るように構成されている。
本発明の非接触ICタグ装置は、このようなICチップに接続された共振回路が、アンテナコイルに対して共振周波数調整用コイルが並列に接続されて構成され、この共振周波数調整用コイルは共振周波数を所定の値に設定するのに用いられる。そして、本発明の非接触ICタグ装置は、このような共振回路から配線を断線させて共振周波数調整用コイルの一部又は全部を除くことができる切断部を有している。
この切断部により配線を断線させることで、共振回路から共振周波数調整用コイルの一部又は全部が除かれてインダクタンスが減少した共振回路は、その共振周波数が低周波側へシフトして、リーダ/ライタとの反応が変化するようになる。この反応の変化により、例えば、ICタグ回路とリーダ/ライタとの通信可能最低電力又は最大通信距離が変化するので、これを検知することで容易に物品の状態の変化の有無を判断することができる。ここで、共振周波数調整用コイルが除かれて共振周波数が変化したことにより、通信可能最低電力又は最大通信距離が所定の閾値を超えて変化した場合に、状態の変化があったとする。
また、上記した非接触ICタグ装置は、ICタグ回路を1つ用いた場合を説明しているが、これを複数個のICタグ回路を有する非接触ICタグ装置としてもよく、この場合には、各ICタグ回路が、それぞれ共振周波数調整用コイルを有するように構成することで、ICタグ回路それぞれの通信状態の組み合わせにより、さらに識別可能な状態数を増やすことができる。
このとき、共振周波数調整用コイルを除くことで共振周波数がシフトし、このシフトに基づいて通信可能最低電力又は最大通信距離が変化するため、複数又は全ての共振回路から共振周波数調整用コイルの一部又は全部を除いた場合は、そのうちの1つの共振回路のみが通信可能最低電力又は最大通信距離を所定の閾値を超えて変化させる程度に共振周波数がシフトし、他の共振回路の共振周波数のシフトは通信可能最低電力又は最大通信距離を変化させない(つまり所定の閾値以下である)ことが好ましい。
これは、非接触ICタグ装置の有する複数の共振回路のうち、1つの変化が読み取れれば、状態が変化したことを読み取ることができるからであり、同時に二つの共振回路の共振周波数を所定の閾値以上に大きくシフトさせることは、状態の変化が重複して生じ、状態変化の識別回数を減らすこととなってしまうためである。つまり、通信可能最低電力又は通信最大距離の変化が、ICタグ回路ごと(すなわちICチップごと)に異なる切断部で生じるようにすることが好ましい。
さらに、このようにシフトする共振周波数は、少なくとも、非接触ICタグ装置と通信を行うリーダ/ライタが送信する通信信号の搬送波より高い周波数の状態から、前記搬送波に近い(ほぼ一致した)周波数の状態へシフトするのが好ましく、さらに、前記搬送波の周波数より低い周波数の状態にまでシフトすることが好ましい。これは、搬送波の周波数と共振周波数が十分に近い場合には、通信可能最低電力が最も小さい電力量となり、最大通信距離は最も長くなるため、その共振周波数の変化を検知するのに極めて有効であるためである。このように搬送波に近い周波数を経由させることで状態変化の識別を効果的に行うことができる。
そして、上記説明した通り、切断部とは、の共振回路の一部を断線させるものであり、このようにICタグ回路を複数個設けた非接触ICタグ装置では、複数のICタグ回路ごと(すなわち、ICチップごと)に設けられた共振回路の少なくとも1つから、配線を断線させて共振周波数調整用コイルの一部又は全部を除くことができる切断部を有している。この切断部は、1つの共振回路から共振周波数調整用コイルの一部又は全部を除くようにしてもよく、複数又は全ての共振回路から、それぞれ共振周波数調整用コイルの一部又は全部を除くことができるようにしてもよい。
この切断部により配線を断線させることで、共振回路から共振周波数調整用コイルが除かれてインダクタンスが減少した共振回路は、その共振周波数が低周波側へシフトしてリーダ/ライタとの反応が変化するようになる。この反応の変化により、例えば、ICタグ回路とリーダ/ライタとの通信可能最低電力又は最大通信距離が変化するので、これを検知することで容易に物品の状態変化の有無を判断することができる。
そして、上記説明した通り、切断部とは、複数の共振回路の一部を断線させるものであり、本発明においては、この切断部により複数の共振回路の配線を断線させることで、複数あるICタグ回路(すなわちICチップ)の少なくとも1つの通信可能最低電力又は最大通信距離を変化させて、使用状態の判別を行うことを可能とする重要な構成要素である。
ここで、通信可能最低電力とは、リーダ/ライタと非接触ICタグ装置の各ICタグ回路とが相互に通信することが可能となる最低の電力をいうが、ここでいう電力とは、本発明の非接触ICタグ装置と通信を行うリーダ/ライタに設定された通信電力のことをいう。つまり、本願発明における通信可能最低電力とは、リーダ/ライタに適宜設定された通信電力であって、ICタグ回路のICチップとの通信を可能とする最低のものである。
したがって、本願発明において、「通信可能最低電力が変化する」とは、リーダ/ライタに複数設定された通信電力のうち、断線の前後において、ICタグ回路のICチップとの通信可能な最も低い設定電力が変化することをいう。例えば、リーダ/ライタが大電力と小電力の2段階の電力設定を有している場合に、断線前は大電力での通信のみが可能であったものが、断線後は小電力での通信も可能となり、さらに別の切断部を断線させることで小電力での通信が不可となり、大電力での通信しか行うことができなくなるというように、通信可能最低電力が、大電力から小電力、さらに大電力へと変化するものが例示される。
また、最大通信距離とは、リーダ/ライタと非接触ICタグ装置の各ICタグ回路とが相互に通信することが可能となる最大の通信距離のことをいうが、ここでいう距離とは、一定の電力を供給したときに、本発明の非接触ICタグ装置の各ICタグ回路と通信を行うために適宜設定された距離をいい、リーダ/ライタとの通信可能な範囲を示すものである。
したがって、本願発明において、「最大通信距離が変化する」とは、リーダ/ライタから一定の通信電力を供給したときに、断線の前後において、ICタグ回路のICチップとの通信可能な設定距離が変化することをいう。例えば、リーダ/ライタとICタグ回路との距離を長短の2段階で設けた場合に、ある切断部での断線前は短距離での通信が可能で、長距離での通信ができなかったものが、断線後は長距離での通信も可能となり、最大通信距離が伸び、さらに別の切断部を断線することで、今度は長距離での通信は不可となり、短距離での通信のみが可能となるように、最大通信距離が短距離から長距離、さらには短距離へと変化するものが例示される。
そして、本発明の非接触ICタグ装置は、上述したように、その非接触ICタグ装置が有するICタグ回路のICチップが複数の場合には、それぞれの通信可能最低電力又は最大通信距離の変化が異なる切断部の断線操作の際に生じるように構成されていることが好ましく、このようにすれば、断線の操作を複数回行ったときに、実際に断線されて、共振周波数が通信可能最低電力又は最大通信距離を変化させるほど変化するICチップは1つだけである。
すなわち、ICタグ回路1つでは、例えば、図1の実線に示したように、インダクタンス変化が生じた際に、共振周波数がf1のように大電力が必要であったところから、共振周波数は低周波側へシフトしていきf2となり、小電力でも通信が可能となる。さらにインダクタンス変化が生じた際に、共振周波数がさらに低周波側へシフトしていきf3となり、小電力での通信が不可となり、大電力での通信のみが可能となる。
このとき、通信可能最低電力は大と小の2つの状態を判別することができるのみである。なお、図1は、共振周波数の変化と通信可能最低電力比との関係を示した図である。ここで、リーダ/ライタの通信信号の搬送波の周波数はf2である。
ここで、複数のICタグ回路を使用した場合には、そのICタグ回路のICチップの通信可能最低電力又は最大通信距離の組み合わせにより、異なる使用状態を判別することができる。例えば、2つのICタグ回路(すなわち2つのICチップ)を使用した場合は、通信可能最低電力又は最大通信距離の組み合わせにより4つの使用状態を識別することができ、3つのICタグ回路(すなわち3つのICチップ)を使用した場合は6つの使用状態を識別することができ、ICタグ回路の個数(すなわちICチップの使用する個数)を増やすことで使用状態の識別数をさらに増やすことができる。
なお、上記説明では、通信可能最低電力及び最大通信距離について、2段階の設定をしている場合の説明を行ったが、さらに、3段階にした場合、例えば通信可能最低電力で見れば、リーダ/ライタが大電力、中電力及び小電力の3段階の電力設定を有している場合には図2に示したように、断線前は大電力での通信のみ可能であったものが、断線させインダクタンスが変化する毎に中電力、小電力での通信も可能となるが、次に断線させると小電力での通信が不可で中電力と大電力での通信が可能な状態となり、さらに断線させると中電力での通信も不可となり大電力での通信しか行うことができなくなるというように、通信可能最低電力が、大電力→中電力→小電力→中電力→大電力へと変化するようにすれば、1つのICチップでの状態変化の識別数が増える。なお、図2は、このときの通信可能最低電力比と共振周波数の関係を示したものであり、リーダ/ライタの搬送波の周波数はf3である。
このように、1つのICチップによる状態の識別(通信電力又は通信距離を複数段で測定することができるようにしておくこと)と、複数のICチップを組み合わせた通信状態の識別とを組み合わせることで、適用する物品に応じた最適な識別可能数を適宜設定することができる。
また、本発明の非接触ICタグ装置の制御部は、メモリに対してICチップ識別コードを読み出したりするものである。なお、ICチップ識別コードは、例えば読出し専用メモリ(ROM)に予め記憶されており、これに基づいて各ICチップの通信可能最低電力又は最大通信距離を確認することができる。
ここで、本発明の非接触ICタグ装置は、電池で駆動する素子等を必須としないため、電池を有しない構成とすることができ、この場合、メモリとして不揮発性メモリを用いればよい。しかしながら、当然メモリに電池から電力が供給されるようにして揮発性メモリを用いることもできる。ここで電池を用いる場合には、例えば、クロックを設けて時刻データを得られるようにすれば、共振回路が断線された時刻等をメモリに記憶させ、使用状態の現状把握のみでなく、いつ使用されたかという情報も把握することができる。
アンテナを介した信号の送信/読出しの具体的な方法は、リーダ/ライタに非接触ICタグ装置が内蔵された物品を所定の距離まで近接させて実現され、リーダ/ライタにより、通信の可否の確認と、メモリの内容の読出しを行うことができる。
本発明において、複数の共振回路におけるアンテナコイルは、その巻き方向を全て同じ方向にしてもよいし、1つ以上のアンテナコイルの巻き方向を逆方向にして、相互の干渉を抑えるようにしてもよい。巻き数は全て同一にしてもよいし、1つ以上を異なるようにしてもよい。
また、アンテナコイルの形状についても、全て同一形状にして形成してもよいし、1つ以上のアンテナコイルを異形状にして形成してもよく、異形状にした場合には、リーダ/ライタのアンテナに対する反応が異なるため、ICチップの区別を容易に行うことができる。このとき、リーダ/ライタのアンテナに対する反応が異なるものとしては、アンテナコイルの巻き数を異ならせる場合も挙げられる。
次に、本発明の共振周波数調整用コイルは、予め任意のインダクタンスが切断されるように構成しておき、切断部で断線されたときに、複数のICタグ回路のうちの少なくとも1つのICタグ回路の共振周波数が変化するように設けることが好ましい。こうすれば、切断部で断線されたときに、通信可能最低電力又は最大通信距離が変化する共振回路は切断部1つに対して1つのICチップとなるため、識別状態を効率的に判定することができる。
また、本発明においては、非接触ICタグ装置が有する共振回路の全てにICチップが接続されており、ICタグ回路を形成しているため、回路が機能していながら通信可能最低電力の供給電力が足りないために通信ができなかったのか、物理的な回路の断線等の故障により通信ができなかったかを確認することができ、非接触ICタグ装置としての機能が確保されているか否かを容易に確認することもできる。
そして、さらに、本発明のICタグ回路を1つ又は複数個を有する非接触ICタグ装置においては、キャパシタに対しても、アンテナコイルと共振周波数調整用コイルの関係と同様に、これに並列に形成された1つ以上の共振周波数調整用キャパシタを設けるものとし、かつ、この共振回路の配線を断線させて共振周波数調整用キャパシタの一部又は全部を除くことができる切断部を有することとしてもよい。このような構成とした場合、切断部により配線が断線されると共振回路の共振周波数を高周波数側にもシフトすることができる非接触ICタグ装置とすることができる。
ここで用いられるキャパシタ及び共振周波数調整用キャパシタとしては、特に限定されず、公知のキャパシタを形成すればよく、また、ここで可変コンデンサを用いることもできる。可変コンデンサを用いた場合には、非接触ICタグ装置を製造した後に、任意のキャパシタンスに設定して、どの切断部が断線されたときに、どの共振回路の共振周波数を変化させるかを任意に設定することができ、用途に応じて設定することができる点で好ましい。
そして、このように共振周波数調整用コイルをアンテナコイルと並列に形成し、かつ共振周波数調整用キャパシタをキャパシタと並列に形成して共振回路とした場合には、共振周波数調整用コイルが除かれた場合には、共振周波数は低周波側へシフトし、共振周波数調整用キャパシタが除かれた場合には、共振周波数は高周波側へシフトするため、これらを組み合わせることにより、共振周波数調整用コイルだけを設けた場合に比べて識別可能な状態数を増やし、ICチップの通信状態の組合せを最大とすることができる。
本発明の非接触ICタグ装置によれば、物品の現状をリーダ/ライタとの通信により把握することができ、物品の使用状態を確認することができる。また、共振周波数調整用コイルと共振周波数調整用キャパシタをそれぞれ設けるようにすることで識別の状態数を最大のものとすることができる。さらに、メモリに状態変化の時間等を記憶させる態様とすれば、より正確に物品の使用状態を把握することもできる。
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
図3は、本発明の非接触ICタグ装置を等価回路により示したものである。
図3に示したように、非接触ICタグ装置1は、ICチップ11を有し、このICチップ11はアンテナコイル及びキャパシタからなる共振回路と接続されており、さらにこの共振回路はアンテナコイルと並列に形成された共振周波数調整用コイルを有している。すなわち、ICチップ11は、アンテナコイル12とキャパシタ13と共振周波数調整用コイル14で形成される共振回路に接続されている。
これらのアンテナコイル、キャパシタ、共振周波数調整用コイル及び配線部分は、図示を省略した絶縁シートや絶縁基板上に公知のホトリソグラフィ技術又は印刷技術により直接パターニングして形成することができ、他の受動・能動素子は、これらの配線部分と電気的に接続されて絶縁シート上に実装されている。これらの配線部分と実装部品は、例えば図示を省略した合成樹脂フィルムによって被覆され、加圧加熱により一体化させることができる。
そして、非接触ICタグ装置1には、切断部2が形成されており、この切断部2を切り離すことで、共振回路の一部を断線させて共振周波数調整用コイル14を回路から除くことが出来るようになっている。
そして、図4には、図3に示した非接触ICタグ装置1を薬包シートに適用した透視図を示しており、非接触ICタグ装置1は薬包シート21に内包して構成されている。この薬包シート21は、切断部に対応する部分にミシン目等が形成されて切断しやすくなっており、この切断される部分に一回分の使用量の薬包22が固定されている。薬を使用する際には、このミシン目(切断部に相当)に沿って、薬包をシートから切り取ることにより、共振回路が部分的に断線され共振周波数調整用コイル14が回路から除かれるようになっている。
まず、未使用の状態では、図4に示したとおり薬包シート21は、薬包が切り取られておらず、ICチップ11に接続された共振回路は、図3に示した通りの状態で存在する。
そして、使用時には、薬包22を使用するために切断部2を切断するが、これによりアンテナコイル14が切断されて共振回路から取り除かれ、通信可能最低電力又は最大通信距離が変化する程のインダクタンスの変化が起こるようになっており、通信可能最低電力又は最大通信距離が未使用時と比較して変化した場合には、薬包が切断され、使用されたと判断できる。
次に、この断線作業を行ったときのICチップ11の通信可能最低電力及び共振周波数の変化について説明する。
なお、リーダ/ライタの通信電力及び非接触ICタグ装置との通信距離の設定は、通信条件によって適宜選択すればよく、本明細書の実施の形態においては、例えば、100mWと10mWの大小2種類の通信電力の切り替えを行うことができるようになっており、リーダ/ライタと非接触ICタグ装置との通信距離は27mmで行うような設定を想定した。
図5は図4の薬包シート21の使用状態と、そのときのICチップごとの共振周波数及び通信可能最低電力との関係を示したものである。
まず、未使用の薬包シート21は、図4に示した通りの状態となっており、このときの共振周波数は、状態1に示したように、ICチップ11の共振周波数が13.56MHzよりも大きい状態(H)であり、通信可能最低電力は大電力の状態となっている。
そして、使用時に、切断部2を切断すると、状態2に示したようにICチップ11の共振周波数が変化してほぼ13.56MHz(M)となることで通信可能最低電力が小さくてもすむようになり、ICチップ11の通信可能最低電力は小電力となり使用状態が変化したことがわかる。
このように、本発明の非接触ICタグ装置は、ICチップの通信可能最低電力を切断部の切断により変化させることで、使用状態を確認することができる。このとき、ICチップのメモリに時間を記憶させたりしておけば、使用状態のさらに詳細な情報を得ることができる。また、通信可能最低電力又は最大通信距離の設定を増やすことによって多くの薬包を設けるようにすることができる。
(第2の実施の形態)
次に、ICチップを複数個設けた非接触ICタグ装置について説明する。図6は、本発明の非接触ICタグ装置を等価回路により示したものである。
図6に示したように、非接触ICタグ装置31は、ICチップ41、ICチップ51、ICチップ61の3つのICチップを有し、これらICチップはそれぞれキャパシタ、アンテナコイルおよびアンテナコイルに対して並列に形成された複数個の共振周波数調整用コイルからなる共振回路と接続されている。
すなわち、ICチップ41は、アンテナコイル42とキャパシタ43と共振周波数調整用コイル44(44−1〜44−5)で形成される共振回路に接続されており、ICチップ51は、アンテナコイル52とキャパシタ53と共振周波数調整用コイル54(54−1〜54−5)で形成される共振回路に接続されており、ICチップ61は、アンテナコイル62とキャパシタ63と共振周波数調整用コイル64(64−1〜64−5)で形成される共振回路に接続されている。
これらのアンテナコイル、キャパシタ、共振周波数調整用コイル及び配線部分は、図示を省略した絶縁シートや絶縁基板上に公知のホトリソグラフィ技術又は印刷技術により直接パターニングして形成することができ、他の受動・能動素子は、これらの配線部分と電気的に接続されて絶縁シート上に実装されている。これらの配線部分と実装部品は、例えば図示を省略した合成樹脂フィルムによって被覆され、加圧加熱により一体化させることができる。
そして、非接触ICタグ装置31には、切断部32〜36が形成されており、この切断部を切り離すことで、3つの共振回路の一部を断線させて共振周波数調整用コイルを回路から除くことができるようになっている。
そして、この非接触ICタグ装置31は、第1の実施形態と同様に薬包シート等の使用時に物理的な切断作業を伴うものに適用することができ、切断部32〜36により順次切断作業を行うことで、共振回路が部分的に断線され共振周波数調整用コイルが回路から除かれるようになっている。このとき、断線により除去する共振周波数調整用コイルは、他の共振周波数調整用コイルに影響を与えない回路の最も外側に形成されたものから順に断線されていくものである。
まず、未使用の状態では、図6に示したとおり何も切り取られておらず、ICチップ41,51,61にそれぞれ接続された共振回路は、図6に示した通りの状態で存在する。
そして、最初の使用時には、切断部32を切断するが、これにより、共振周波数調整用コイル44−1,54−1,64−1がそれぞれ切断され、共振回路のインダクタンスの変化が起こる。
以下、同様に、切断部33により共振周波数調整用コイル44−2,54−2,64−2が、切断部34により共振周波数調整用コイル44−3,54−3,64−3が、切断部35により共振周波数調整用コイル44−4,54−4,64−4が、切断部36の切断により共振周波数調整用コイル44−5,54−5,64−5が、切断され、それぞれ共振周波数調整用コイルが共振回路から除かれることとなり、特定の共振周波数調整用コイルが切断されたときに通信可能最低電力又は最大通信距離が変化する程のインダクタンス変化が起こるようになっている。このとき、共振周波数調整用コイルのインダクタンスは、適宜設定することができ、通信可能最低電力又は最大通信距離の変化に関与しない共振周波数調整用コイルは、そこにコイル自体を設けることなくインダクタンスを0としてもよい。
次に、この断線作業を行ったときの各ICチップの通信可能最低電力及び共振周波数の変化について説明する。
図7は図6の非接触ICタグ装置31の使用状態と、そのときのICチップごとの共振周波数及び通信可能最低電力との関係を示したものである。
まず、未使用の非接触ICタグ装置31は、図6に示した通りの状態となっており、このときの共振周波数は、状態1に示したように、ICチップ41、ICチップ51、ICチップ61の全ての共振周波数が13.56MHzよりも大きい状態(H)であり、通信可能最低電力は全て大電力、すなわち大電力−大電力−大電力の状態となっている。
そして、最初の使用時に、切断部32を切断すると、状態2に示したようにICチップ61の共振周波数だけが変化してほぼ13.56MHz(M)となることで通信可能最低電力が小さくてもすむようになり、ICチップの通信可能最低電力はICチップ41,51,61の順番に大電力−大電力−小電力の組み合わせとなり使用状態が変化したことがわかる。
次に、切断部33を切断すると、状態3に示したようにICチップ41の共振周波数だけが変化してほぼ13.56MHzとなることで通信可能最低電力が小さくてすむようになり、ICチップの通信可能最低電力はICチップ41,51,61の順番に小電力−大電力−小電力の組み合わせとなり使用状態が変化したことがわかる。
さらに、切断部34を切断すると、状態4に示したようにICチップ51の共振周波数だけが変化してほぼ13.56MHzとなることで通信可能最低電力が小さくてすむようになり、ICチップの通信可能最低電力は全て小電力の状態となっている。
次いで、切断部35を切断すると、状態5に示したようにICチップ61の共振周波数だけが変化して13.56MHzよりも小さい状態(L)となることで、また通信可能最低電力が大となり、小では通信ができないようになって、ICチップの通信可能最低電力はICチップ41,51,61の順番に小電力−小電力−大電力の組み合わせとなり使用状態が変化したことがわかる。
最後に、切断部36を切断すると、状態6に示したようにICチップ41の共振周波数だけが変化して13.56MHzよりも大きい状態となることで、また通信可能最低電力が大となり、小では通信ができないようになって、ICチップの通信可能最低電力はICチップ41,51,61の順番に大電力−小電力−大電力の組み合わせとなり使用状態が変化したことがわかる。これらの操作を行ったときの通信可能最低電力及び共振周波数の変化について、図7にまとめて示した。
このように、ICチップを3つ有する非接触ICタグ装置は、それぞれICチップの通信可能最低電力を異なる切断部において変化させることで、どの切断部で切断されているかがICチップの通信可能最低電力の組み合わせを照合することでわかり、使用状態を確認することができる。このとき、ICチップに共振周波数の変化を記録しておけば、きちんと順番に使用されているかが確認でき、使用状態をより正確に確認することができる。
さらに説明すれば、この第2の実施の形態で、通信可能最大電力の変化に関与しない共振周波数調整用コイルを除いた共振回路を用いて簡略にしたICタグ回路を用いた本発明の非接触ICタグ装置の動作は次の通りである。
図8は、図6に示した非接触ICタグ装置31の共振周波数調整用コイルのなかで切断部32、切断部33、切断部34、切断部35、切断部36をそれぞれ切断した場合、通信可能最大電力の変化に関与しない周波数調整用コイルのインダクタンスを0とし、回路から除いて表示した図である。この図では共振周波数調整用コイルとしては44−2、44−5、54−3、64−1、64−4が残り、他の共振周波数調整用キャパシタは除去されている。
図8で切断部32を切断すると共振周波数調整用コイル64−1が断線して切り離され、切断部33を切断すると共振周波数調整用コイル44−2が断線して切り離され、切断部34を切断すると共振周波数調整用コイル54−3が断線して切り離され、切断部35を切断すると共振周波数調整用コイル64−4が断線して切り離され、切断部36を切断すると共振周波数調整用コイル44−5が断線して切り離される。
図9は、非接触ICタグ装置31の切断部32〜36を前記の手順で切断した場合に、前記の順序で周波数調整用コイルが断線して切り離され、ICタグ回路49〜69(すなわちICチップ41〜61)の各共振回路の共振周波数がどのように変化するかを示した図である。切断部32〜36を順に切断した場合、ICチップ41の共振周波数は(H→H→M→M→M→L)と変化し、ICチップ51の共振周波数は(H→H→H→M→M→M)と変化し、ICチップ61の共振周波数は(H→M→M→M→L→L)と変化する。ここで表記「L」は、リーダ/ライタが送信する通信信号の搬送波の周波数より共振周波数が低い状態を表し、表記「M」は共振周波数が前記搬送波の周波数に近い状態を表し、表記「H」は共振周波数が前記搬送波の周波数より高い状態を表している。
図10は前記の共振周波数の変化に従って、各ICチップ41〜61の通信可能最低電力がどのように変化するか示した図である。つまり、非接触ICタグ装置31の切断部32〜36を前記の手順で切断した場合に、ICチップ41の通信可能最低電力は(電力:大→大→小→小→小→大)、ICチップ51の通信可能最低電力は(電力:大→大→大→小→小→小)、ICチップ61の通信可能最低電力は(電力:大→小→小→小→大→大)と変化する。これらの図9、図10の結果をまとめると図7の表と同じ結果になる。
ここで、非接触ICタグ装置31の切断部32〜36を前記の手順で切断した場合の通信可能最低電力を、ICチップ41、ICチップ51、ICチップ61の順に並べて括弧で括って表記すると(電力:大、大、大)→(電力:大、大、小)→(電力:小、大、小)→(電力:小、小、小)→(電力:小、小、大)→(電力:大、小、大)との順で状態が変化する。このとき、前記の例では「大」、「小」の組み合わせが切断部ごとにすべて異なり、どの切断部で切断されているかがリーダ/ライタで3つのICタグ回路、即ち3つのICチップの通信可能最低電力を調べることで判別できる。
(第3の実施の形態)
図11は、切断部の断線によってもアンテナコイルが共振回路と物理的に分離せず一体のままとなる非接触ICタグ装置を等価回路により示したものである。この図に示したように、非接触ICタグ装置71は、ICチップ81、ICチップ91、ICチップ101の3つのICチップを有し、これらのICチップはそれぞれキャパシタ、アンテナコイル及びアンテナコイルに対して並列に形成された複数個の共振周波数調整用コイルからなる共振回路と接続されている。
すなわち、ICチップ81は、アンテナコイル82とキャパシタ83と共振周波数調整用コイル84(84−1〜84−5)で形成される共振回路に接続されており、ICチップ91は、アンテナコイル92とキャパシタ93と共振周波数調整用コイル94(94−1〜94−5)で形成される共振回路に接続されており、ICチップ101は、アンテナコイル102とキャパシタ103と共振周波数調整用コイル104(104−1〜104−5)で形成される共振回路に接続されている。
そして、非接触ICタグ装置71には、切断部72〜76が形成されており、この切断部を切り離すことで、3つの共振回路の一部を断線させて共振周波数調整用コイルを回路から除くことができるようになっている。
この実施の形態においては、切断部で断線した際に、共振周波数調整用コイルが共振回路と物理的に一体となっており、第2の実施形態が、断線した際に共振周波数調整用コイルコイルが共振回路から物理的に分離されるのと対照的になっている。
この第3の実施の形態のようなICタグ装置とした場合には、切断部を近接して設けることも容易にでき、例えば、回数チケットのように、チケット本体に比べて切断する部分が小さく、チケットの端部を複数回切断するような場合に適用することができる。
なお、この端部を切断部により切断したときは、第2の実施の形態と同様に各ICチップの共振周波数が変化し、その組み合わせによりどの切断部が切断されたかが容易に確認できる。
(第4の実施の形態)
図12は、共振周波数の調整をコイルだけでなくキャパシタにおいても行うことができるように共振周波数調整用キャパシタを設けた非接触ICタグ装置を等価回路により示したものである。この図に示したように、非接触ICタグ装置111は、ICチップ121を有し、このICチップはアンテナコイル、キャパシタ、アンテナコイルと並列に形成された共振周波数調整用コイル及びキャパシタと並列に形成された共振周波数調整用キャパシタからなる共振回路と接続されている。
すなわち、ICチップ121は、アンテナコイル122とキャパシタ123と共振周波数調整用コイル124と共振周波数調整用キャパシタ125とで形成される共振回路に接続されている。そして、非接触ICタグ装置111には、切断部112〜113が形成されており、この切断部を切り離すことで、共振回路の一部を断線させて共振周波数調整用コイル124及び共振周波数調整用キャパシタ125をそれぞれ共振回路から除くことができるようになっている。
このようにキャパシタ側でも共振周波数の調整を可能とすることにより、共振周波数の変化を高周波数から低周波数への一方通行ではなく、低周波数から高周波数への逆方向へもシフトさせることができるため、さらに多くの状態数を作り出すことができる。
なお、このとき、共振周波数調整用コイルと共振周波数調整用キャパシタとで変化する共振周波数の幅を調整して通信可能最低電力や最大通信距離の変化態様を変えることで識別が容易になり、また通信可能最低電力及び最大通信距離の識別可能な設定数を増やすことで、非接触ICタグ装置111の識別可能な状態数をすることができる。
また、この実施の形態では共振周波数調整用コイルを1つ、共振周波数調整用キャパシタを1つ設けた場合を説明したが、それぞれ2個以上のものとして形成しても良いし、さらに第2〜3の実施の形態で説明したように複数個のICチップとして構成して非接触ICタグ装置を形成しても良い。例えば、第2の実施の形態において、ICチップを3つ使用した場合の識別可能な状態数は6であるが、本実施の形態によれば、状態6からICチップ61の共振周波数を高周波側にシフトさせ通信可能最低電力を再び、小電力とし、大電力−小電力−小電力とし、これをさらに、全てのICチップの共振周波数を高周波側にシフトさせ通信可能最低電力を、小電力−大電力−大電力の組み合わせとするように変化させて、識別可能な状態数を8とすることができ、複数のICチップを使用した場合の識別可能な状態数を最大の数とすることができる。
また、以上説明した非接触ICタグ装置の共振回路は切断部をミシン目により切断する例により説明したが、これを、例えば、基板上に配線がパターン印刷されたプリント配線板として回路が形成されており、切断部においては基板同士がコネクタで接続されるようにしてもよく、この場合まず、コネクタを外すことで断線を行うことができ、さらに、断線させた後で、コネクタを繋ぐことで再度結線させることができる。すなわち、断線させる際の使用状態の変化だけではなく、結線させる際の使用状態の変化をも確認することができるようにすることができる。
以上の各実施の形態に説明したように、本発明の非接触ICタグ装置によれば、各ICチップの通信状態を確認することで物品の使用状態を正確に把握することができる。
1…非接触ICタグ装置、2…切断部、11…ICチップ、12…アンテナコイル、13…キャパシタ、14…共振周波数調整用コイル、21…薬包シート、22…薬包、31…非接触ICタグ装置、32〜36…切断部、41,51,61…ICチップ、42,52,62…アンテナコイル、43,53,63…キャパシタ、44,54,64…共振周波数調整用コイル