JP5278940B2 - 安定な抗体結合性タンパク質 - Google Patents

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Description

本発明は、抗体結合性蛋白質であるプロテインG細胞外ドメインの新規改良型タンパク質及び該蛋白質をコードする核酸に関する。
連鎖球菌由来のタンパク質であるプロテインGは、抗体(免疫グロブリンG)のFc領域に対する特異的結合活性を有することが知られている(非特許文献1、特許文献1)。プロテインGは、複数のドメインからなるマルチドメイン型膜タンパク質で、免疫グロブリンGのFc領域に対する結合活性(以下抗体結合活性と呼ぶ)を示すのは、このうちの一部の細胞膜外ドメインである(非特許文献2.)。たとえば、図1に示すG148株由来のプロテインGの場合、抗体結合活性を示すのは、B1、B2、B3の3つのドメインである(文献によってC1、C2、C3ドメインとも表記される)。また、GX7805株のプロテインGでは3つの、GX7809のプロテインGでは2つの抗体結合ドメインが存在する。これらは、いずれも60アミノ酸弱の小型タンパク質で、そのアミノ酸配列の間には高い相同性が見られる(図2)。また、プロテインGを切断して各々のドメイン単独を単離しても、抗体結合活性は保たれることが知られている(非特許文献3)。
プロテインGの細胞膜外ドメインは、現在、その抗体結合活性を利用した多くのプロテインG細胞膜外ドメイン含有製品が上市されている(例えば、抗体精製のためのアフィニティークロマトグラフィー用担体(特許文献3、4:特開平03-128400、特開2003-088381)や抗体を検出するための検査試薬など)。これらの製品は、タンパク質であるプロテインG細胞膜外ドメインを利用していることから、基本的に不安定あり、長期保存や長期使用に伴う劣化が不可避である。
Bjorck L, Kronvall G. (1984) Purification andsome properties of streptococcal protein G, a novel IgG-binding reagent. J Immunol. 133, 969-974. Boyle M. D.P., Ed. (1990) BacterialImmunoglobulin Binding Proteins. Academic Press, Inc., San Diego, CA. Gallagher T, Alexander P, Bryan P, GillilandGL. (1994) Two crystalstructures of the B1 immunoglobulin-binding domain of streptococcal protein Gand comparison with NMR. Biochemistry19, 4721-4729. 特表平03−501801公報 特許第2764021号公報 特開平03-128400号公報 特開2003-088381号公報
本発明の課題は、上記従来技術における問題点を解消することにあり、より具体的には上記プロテインG細胞外ドメインの抗体結合活性を損なうことなしに、野生型のプロテインGの細胞外ドメインに比べて、熱安定性、変性剤に対する化学的安定性、および蛋白分解酵素に対する耐性が共に向上した改良型タンパク質を提供することを目的とするものである。
本発明者は、プロテインG細胞膜外ドメイン含有製品の長期保存や長期使用に伴う劣化の主要な原因は、タンパク質であるプロテインG細胞膜外ドメイン自身の物理化学的性質に依存していることから、プロテインG細胞膜外ドメイン自身を改変し、その生来の安定性を向上させることができれば、上記製品の長期保存や長期使用に伴う劣化を防止できるのではないかと考え、鋭意研究の結果、任意のタンパク質の立体構造座標データを用いて安定な変異型タンパク質を製造する方法を開発し、これを野生型のプロテインG・B1ドメインに適用し、上記の目的を満たす新規な変異体を合成し、この改良型タンパク質が意図どおりの物性を有することを確認し、本発明を完成するに至ったものである。
即ち、本発明は、以下のとおりである。
(1)以下の(a)、(b)又は(c)で示されるアミノ酸配列からなるか、あるいは(a)、(b)又は(c)で示されるアミノ酸配列中、X35〜X37、X47およびX48のアミノ酸残基以外の部分において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなり、抗体あるいは免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有するタンパク質。
(a)AspThrTyrLysLeuIleLeuAsnGlyLysThrLeuLysGlyGluThrThrThrGluAlaValAspAlaAlaThrAlaGluLysValPheLysGlnTyrAlaX35X36X37GlyValAspGlyGluTrpThrTyrAspX47X48ThrLysThrPheThrValThrGlu
(上記アミノ酸配列中、X35はAsn又はLysを、X36はAsp又はGluを、X37はAsn、His、又はLeuを、X47はAsp又はProを、X48はAla、Lys又はGluをそれぞれ表す。ただし、同時にX35がAsn、X36がAsp、X37がAsn、X47がAspであって、かつX48がAlaになる場合を除く。)
(b)ThrThrTyrLysLeuValIleAsnGlyLysThrLeuLysGlyGluThrThrThrGluAlaValAspAlaAlaThrAlaGluLysValPheLysGlnTyrAlaX35X36X37GlyValAspGlyGluTrpThrTyrAspX47X48ThrLysThrPheThrValThrGlu
(上記アミノ酸配列中、X35はAsn又はLysを、X36はAsp又はGluを、X37はAsn、His、又はLeuを、X47はAsp又はProを、X48はAla、Lys又はGluをそれぞれ表す。ただし、同時にX35がAsn、X36がAsp、X37がAsn、X47がAspであって、かつX48がAlaになる場合を除く。)
(c)ThrThrTyrLysLeuValIleAsnGlyLysThrLeuLysGlyGluThrThrThrLysAlaValAspAlaGluThrAlaGluLysAlaPheLysGlnTyrAlaX35X36X37GlyValAspGlyValTrpThrTyrAspX47X48ThrLysThrPheThrValThrGlu
(上記アミノ酸配列中、X35はAsn又はLysを、X36はAsp又はGluを、X37はAsn、His、又はLeuを、X47はAsp又はProを、X48はAla、Lys又はGluをそれぞれ表す。ただし、同時にX35がAsn、X36がAsp、X37がAsn、X47がAspであって、かつX48がAlaになる場合を除く。)
(2)配列番号4〜11のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるか、あるいは該アミノ酸配列において、N末端側に1又は数個のアミノ酸残基が付加された配列からなる上記(1)に記載のタンパク質。
(3)上記(1)又は(2)に記載のタンパク質のアミノ酸配列とリンカーペプチドあるいはリンカータンパク質のアミノ酸配列が交互に複数回繰り返したアミノ酸配列からなり、抗体あるいは免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有するタンパク質。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のタンパク質のアミノ酸配列と他のタンパク質のアミノ酸配列を連結したアミノ酸配列からなる融合タンパク質であって、抗体あるいは免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有するタンパク質。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸。
(6)配列番号13〜20のいずれかで示される塩基配列からなる核酸。
(7)上記(5)又は(6)に記載の核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ抗体あるいは免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有するタンパク質をコードする核酸。
(8)上記(5)〜(7)のいずれかに記載の核酸を含有する組換えベクター。
(9)上記(8)に記載の組換えベクターが導入された形質転換体。
本発明の変異型タンパク質は、本来の抗体結合活性を維持しつつ、[配列番号12]で表されるアミノ酸配列からなる野生型のプロテインG・B1ドメインに比べ、熱安定性、変性剤に対する化学的安定性、および蛋白分解酵素に対する耐性が向上している。
一方、現在、野生型のプロテインG細胞膜外ドメインは、抗体の精製用のアフィニティークロマトグラフィー担体や抗体検出のための検査試薬として市販され、ライフサイエンスの各分野で広範に利用されている。また、近年の抗体医薬をはじめとする抗体関連産業の発展をうけて、これらの製品の需要が飛躍的に拡大している。
したがって、多くのプロテインG細胞膜外ドメイン含有製品において、本発明の改良型タンパク質を野生型と代替することにより、製品の長期保存や長期使用に伴う機能劣化の低減、安定性向上に伴う製品の利用条件や対象範囲の拡大、製品の保存、操作および管理が容易になり、抗体を扱う広範な技術分野において、その技術発展に大いに資するものである。
連鎖球菌由来のタンパク質であるプロテインGは、抗体(免疫グロブリンG)のFc領域に対する特異的結合活性を有することが知られており(参照文献1)、この抗体結合性を利用して抗体の精製や除去に使用され、抗体を利用した診断、治療、検査等に有用な蛋白質である。プロテインGは、複数のドメインからなるマルチドメイン型膜タンパク質で、免疫グロブリンG のFc領域に対する結合活性(以下抗体結合活性と呼ぶ)を示すのは、このうちの一部の細胞膜外ドメインである(参照文献2.)。たとえば、図1、図16、および(配列番号21)に示すG148株由来のプロテインGの場合、抗体結合活性を示すのは、B1、B2、B3の3つのドメインである(文献によってC1、C2、C3ドメインとも表記される)。また、GX7805株のプロテインGでは3つの抗体結合ドメインが、GX7809のプロテインGでは2つの抗体結合ドメインが存在する。これらは、いずれも60アミノ酸弱の小型タンパク質で、そのアミノ酸配列の間には高い相同性が見られる(図2)。また、プロテインGを切断して各々のドメイン単独を単離しても、抗体結合活性は保たれることが知られている(参照文献3.)。
本発明の改良型タンパク質は、上記プロテインGのアミノ酸配列をもとに人為的に設計したアミノ酸配列からなるものであって、抗体結合活性を高いレベルで維持しながら、野生型プロテインGに比べて極めて高い、熱安定性、変性剤に対する化学的安定性及びタンパク分解酵素に対する耐性を有する。
本発明の改良型タンパク質は、具体的にはプロテインGの上記BI、B2およびB3ドメインの変異体であって、以下のアミノ酸配列(a)〜(c)で表されるものである。
(a)プロテインG・B1ドメイン変異体である改良型タンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)
上記アミノ酸配列中、X35はAsn又はLysを、X36はAsp又はGluを、X37はAsn、His、又はLeuを、X47はAsp又はProを、X48はAla、Lys又はGluをそれぞれ表す。
ただし、同時にX35がAsn、X36がAsp、X37がAsn、X47がAspであって、かつX48がAlaになる場合(野生型アミノ酸配列)を除く。
(b)プロテインG・B2ドメイン変異体である改良型タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)
上記アミノ酸配列中、X35はAsn又はLysを、X36はAsp又はGluを、X37はAsn、His、又はLeuを、X47はAsp又はProを、X48はAla、Lys又はGluをそれぞれ表す。
ただし、同時にX35がAsn、X36がAsp、X37がAsn、X47がAspであって、かつX48がAlaになる場合(野生型アミノ酸配列)を除く。
(c)プロテインG・B3ドメイン変異体である改良型タンパク質のアミノ酸配列(配列番号3)
上記アミノ酸配列中、X35はAsn又はLysを、X36はAsp又はGluを、X37はAsn、His、又はLeuを、X47はAsp又はProを、X48はAla、Lys又はGluをそれぞれ表す。
ただし、同時にX35がAsn、X36がAsp、X37がAsn、X47がAspであって、かつX48がAlaになる場合(野生型アミノ酸配列)を除く。
本発明の改良型タンパク質は、野生型プロテインGの細胞外ドメインに、新たに開発されたコンピュータアルゴリズムを用いて選定された変異を導入したものである。
以下に例示する本発明の改良型タンパク質のアミノ酸配列は、プロテインGのB1、B2、B3の3つの細胞外ドメイン中で、最も熱安定性が高く、抗体結合性も強いB1ドメイン(参照文献3、4)のアミノ酸配列をベースにして、これに選定された変異を導入することで野生型のB1ドメインよりさらに安定性の高い改良型タンパク質を得ることを目的に設計されたものである。ただし、上記B1ドメインのアミノ酸配列はB2及びB3ドメインと高い相同性を有していることから(図2)、該選定された変異をB2またはB3ドメインのアミノ酸配列に導入することも可能であり、これにより野生型のB2またはB3ドメインより安定性の高い改良型タンパク質を得ることもできる。
本発明の改良型タンパク質は、以下のように選定された変異対象部位及び該部位を置換するアミノ酸残基に基づき設計され、遺伝子工学的手法により得られたものである。以下、本発明の改良型タンパク質の製造プロセスについて説明する。
1.変異対象部位の選定
本発明の改良型タンパク質のアミノ酸配列を設計するための変異を導入する対象部位は、プロテインGの抗体結合ドメインの立体構造座標データを用いて決定することができる。たとえば、プロテインG・B1ドメインの立体構造座標データを用いて、局所コンタクト指数Ilocを算出し、配列上近傍のアミノ酸残基間の相互作用によって立体構造が安定化されている部分セグメントを選定する。次いで、プロテインG・B1ドメインの立体構造座標データを用いて、非局所コンタクト指数Inl を算出し、配列上遠方のアミノ酸残基との相互作用が弱いアミノ酸残基を選定する。その後、算出したIlocとInlの値から変異適性指数IMを算出し、変異対象部位とするアミノ酸残基を決定する。
配列上近傍のアミノ酸残基間の相互作用によって立体構造が安定化されている部分セグメントは、そのセグメント内に変異箇所を設定することで、タンパク質分子全体に及ぼす不測の不利益を抑えつつタンパク質の構造安定性を向上させることが期待できる。また、配列上遠方のアミノ酸残基との相互作用が強いアミノ酸残基を変異箇所から除外することで、タンパク質分子全体に及ぼす不測の不利益を抑えることが期待できる。したがって、局所コンタクト指数Ilocを用いて上記のように選定された部分セグメント内に存在するアミノ酸残基であって、かつ非局所コンタクト指数Inl を用いて上記のように選定されたアミノ酸残基は、変異対象部位の候補として好ましい。
具体的には、後記実施例に示されるように、これらのプロセスによって、[配列番号12]で示されるプロテインG・B1ドメインの野生型アミノ酸配列のうちの、Ala24、Thr25、Lys28、Gln32、Asn35、Asp36、Asn37、Asp47、Ala48、Thr49が変異対象部位として決定された。
2.置換するアミノ酸残基の選定
本発明の改良型タンパク質のアミノ酸配列を設計するための置換するアミノ酸残基は、プロテインGの抗体結合ドメインの立体構造座標データを用いて特定することができる。
まず、プロテインG・B1ドメインの立体構造座標データを用いて、変異対象部位を含む部分セグメントの主鎖のコンフォメーションを特定する。次いで、特定した部分セグメント主鎖のコンフォメーションと同様あるいは類似するコンフォメーションを構造データベースから抽出し、該コンフォメーションにおける該変異対象部位と対応する位置のアミノ酸残基の種類ごとの出現頻度を求める。出現頻度の高いアミノ酸残基は、同様あるいは類似するコンフォメーションを形成するための重要なアミノ酸残基と考えられ、タンパク質の構造安定に寄与する度合が大きいアミノ酸残基である可能性が高い。したがって、該変異対象部位の野生型のアミノ酸残基よりもより出現頻度が高いアミノ酸残基がある場合には、この出現頻度が高いアミノ酸残基を変異対象部位を置換するアミノ酸残基として選定する。
加えて、上記選定されたアミノ酸残基の側鎖のサイズが置換前のアミノ酸残基の側鎖のサイズに比べ大きくなる場合には、プロテインG・B1ドメインの立体構造座標データを用いて、置換前のアミノ酸残基の埋もれ度を評価する。埋もれ度が小さい場合には、天然状態の立体構造において、アミノ酸残基側鎖は大部分溶媒に露出しており、側鎖サイズが大きいアミノ酸残基と置換しても蛋白質分子全体に与えるストレスは少ないと予想できる。反対に、置換前のアミノ酸残基の埋もれ度が大きい場合には、選定された側鎖サイズが大きくなるアミノ酸残基による置換は好ましくないと判定できる。
具体的には、後記実施例に示されるように、これらのプロセスにより、[配列番号12]で示されるプロテインG・B1ドメインの野生型アミノ酸配列の置換対象部位及びこれを置換するアミノ酸として、例えばAsn35Lys、Asp36Glu、Asn37His、Asn37Leu、Asp47Pro、Ala48Lys、Ala48Gluが選定された。
3.改良型タンパク質のアミノ酸配列の設計
上記から明らかなように、本発明の手法によれば、選定される変異対象部位及び該部位を置換するアミノ酸残基は、各一つに限られるものではないので、変異対象部位及び該部位を置換するアミノ酸残基の中から適宜選択して、改良型タンパク質のアミノ酸配列を設計することができる。
上記においてプロテインG・B1ドメインの立体構造座標データを用いて選定された変異はAsn35Lys、Asp36Glu、Asn37His、Asn37Leu、Asp47Pro、Ala48Lys、Ala48Gluである。この5変異箇所/7置換を組み合わせた点変異あるいは多重変異を[配列番号12]で示されるプロテインG・B1ドメインの野生型アミノ酸配列に対して行うことで、複数の改良型タンパク質のアミノ酸配列を設計することができる。
上記した、(a)のアミノ酸配列は、このような点変異及び多重変異を含むが、これらのうち、好ましいものを具体的に示すと、例えば、[配列番号4]に示されるアミノ酸配列の1〜56番目、または[配列番号5]に示されるアミノ酸配列の1〜56番目、または[配列番号6]に示されるアミノ酸配列の1〜56番目、または[配列番号7]に示されるアミノ酸配列の1〜56番目、または[配列番号8]に示されるアミノ酸配列の1〜56番目、または[配列番号9]に示されるアミノ酸配列の1〜56番目、または[配列番号10]に示されるアミノ酸配列の1〜56番目、または[配列番号11]に示されるアミノ酸配列の1〜56番目で表されるアミノ酸配列が挙げられる。
一方、上記選定された5変異箇所/7置換を組み合わせた点変異および多重変異は、上記野生型B1ドメインと相同性の高い野生型のB2およびB3ドメインのアミノ酸配列に対して導入して、B2あるいはB3ドメインの改良型タンパク質のアミノ酸配列とすることができる。すなわち、上記した(b)および(c)のアミノ酸配列は、このように野生型B1ドメインに対して導入された変異と同様な変異を含むものであり、上記B1ドメインに対して導入された変異のB2およびB3ドメインに対する適用については、上記の5変異箇所の元のアミノ酸残基、即ち、Asn35、Asp36、Asn37、Asp47、Ala48が、B2およびB3ドメインの野生型アミノ酸配列においても保存されていること(図2)、各々のドメインの立体構造の間に差異はほとんどないこと(参照文献3.)から、有効である。
本発明の改良型タンパク質は、抗体あるいは免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有する限り、上記(a)、(b)又は(c)で示されるアミノ酸配列中の変異部位以外の部位において、一個もしくは数個のアミノ酸残基に欠失、置換、挿入、付加などの変異が生じても良い。例えば、本発明の改良型タンパク質をヒスタグ付きあるいは他の蛋白質との融合タンパク質の形態で合成する場合、タンパク分解酵素で分解しても、上記改良型タンパク質のN末端側もしくはC末端側に1乃至数個のアミノ酸残基が残る場合もあり、また、大腸菌等を用いて本発明の改良型タンパク質を生産する際には、N末端側に開始コドン由来のメチオニン等が付加されることがあるが、これらのアミノ酸残基の付加により、抗体結合性は変わらない。また、これらのアミノ酸残基の付加により、設計された変異が及ぼす安定性向上効果を失うこともない。したがって、本発明の改良型タンパク質は当然これらの変異も含む。なお、このようなアミノ酸残基の付加のない改良型タンパク質を作成するためには、たとえば、大腸菌等を用いて生産した改良型タンパク質を、さらにメチオニルアミノペプチダーゼ等の酵素を用いて、N末のアミノ酸残基を選択的に切断し(参照文献9)、反応混合物よりクロマトグラフィー等で分離精製することで、得ることができる。
また、本発明の改良型タンパク質のアミノ酸配列は、該タンパク質が抗体結合活性を有する限り、上記のアミノ酸配列と任意のリンカー配列とを交互に複数回繰り返したタンデム型アミノ酸配列としても良い。たとえば、[アミノ酸配列(a)]−リンカー配列A−[アミノ酸配列(a)]−リンカー配列B−[アミノ酸配列(a)]としても良く、あるいは、[アミノ酸配列(a)]−リンカー配列C−[アミノ酸配列(b)]−リンカー配列D−[アミノ酸配列(c)]としても良い。このタンデム型アミノ酸配列の設定は、野生型のプロテインGがリンカー配列を介した複数の抗体結合ドメインの繰り返し構造となっていること(図1)、野生型のプロテインGを切断して各々のドメイン単独を単離しても抗体結合活性は保たれること(参照文献3.)から明らかなように、野生型のプロテインGは単独でも機能する抗体結合ドメインを複数繰り返し、局所的な濃度を上げることで抗体結合性の効果を高めている点からみて、その設定は有効である。
本発明の改良型タンパク質は、上記の(a)〜(c)のアミノ酸配列と任意の他タンパク質のアミノ酸配列を連結した融合型アミノ酸配列からなる融合タンパク質としても良い。たとえば、[アミノ酸配列(a)]−リンカー配列E−タンパク質A、あるいは、タンパク質B−リンカー配列F−[アミノ酸配列(a)]−リンカー配列G−タンパク質C−リンカー配列H−[アミノ酸配列(c)]としても良い。この融合型アミノ酸配列の設定は、野生型のプロテインGが抗体結合ドメインと他のドメインが連結したマルチドメイン構造となっていること(図1)、野生型のプロテインGを切断して各々のドメイン単独を単離しても抗体結合活性は保たれること(参照文献3)、即ち、抗体結合ドメインと他の機能を担うタンパク質を連結することで抗体結合活性を含む複数の機能を担うことを可能にしているとから、その設定は有効である。
このような融合タンパク質に使用する他のアミノ酸配列としては、例えば、[配列番号23]で示すglutathione S-transferase(GST)のアミノ酸配列が挙げられる。この場合のGST融合タンパク質は、GST領域に由来するグルタチオン結合活性とプロテインG変異体領域に由来する抗体結合活性の複数の機能を単一分子で担うことが可能である。
4.改良型タンパク質の製造
(1)遺伝子工学的手法による改良型タンパク質の製造
a.改良型タンパク質をコードする遺伝子
本発明においては、上記設計された改良型タンパク質を製造するため、遺伝子工学的方法を使用することできる。
このような方法に使用する遺伝子は、上記(a)、(b)又は(c)で示されるアミノ酸配列をコードするか、あるいは(a)、(b)又は(c)で示されるアミノ酸配列中の変異部位以外の部位において1又は数個のアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であって、かつ抗体あるいは免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有するタンパク質をコードする核酸からなるものであって、より具体的には、配列番号13〜20で示されるいずれかの塩基配列からなる核酸であるからなる。
また、本発明において使用する遺伝子としては、以上の核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であって、かつ抗体あるいは免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有するタンパク質をコードする核酸もあげられる。ここで、ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。たとえば、例えば、高い相同性(相同性が60%以上、好ましくは80%以上)を有する核酸がハイブリダイズする条件をいう。より具体的には、ナトリウム濃度が150〜900mM、好ましくは600〜900mMであり、温度が60〜68℃、好ましくは65℃での条件をいう。例えばハイブリダイゼーション条件が65℃であり、洗浄の条件が0.1%SDSを含む0.1×SSC中で65℃、10分の場合に、慣例的な手法、例えばサザンブロット、ドットブロットハイブリダイゼーションなどによってハイブリダイズすることが確認された場合には、ストリンジェントな条件でハイブリダイズするといえる。
さらに、本発明において使用する遺伝子としては、以上の核酸と上記任意のリンカー配列をコードする核酸をそれぞれ交互に複数連結したものでもよく、または該核酸と任意のタンパク質のアミノ酸配列をコードする核酸とを連結し、融合型アミノ酸配列をコードするように設計してもよい。
b.遺伝子、組み替えベクターおよび形質転換体
前記した本発明の遺伝子は、化学合成、PCR、カセット変異法、部位特異的変異導入法などにより合成することができる。たとえば、末端に20塩基対程度の相補領域を有する100塩基程度までのオリゴヌクレオチドを複数化学合成し、これらを組み合わせてオーバーラップ伸長法(参照文献5)を行うことにより目的の遺伝子を全合成することができる。
本発明の組換えベクターは、適当なベクターに上記の塩基配列を含む遺伝子を連結(挿入)することにより得ることができる。本発明で使用するベクターとしては、宿主中で複製可能なもの又は目的の遺伝子を宿主ゲノムに組み込み可能なものであれば特に限定されない。例えば、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどが挙げられる。
プラスミドDNAとしては、放線菌由来のプラスミド(例えばpK4,pRK401,pRF31等)、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322,pBR325,pUC118,pUC119,pUC18等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110,pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13,YEp24,YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
ベクターに遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。遺伝子は、本発明の改良型タンパク質が発現されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、本発明のベクターには、プロモーター、遺伝子の塩基配列のほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)、開始コドン、終止コドンなどを連結することができる。また、製造するタンパク質の精製を容易にするためのタグ配列を連結することもできる。タグ配列としては、Hisタグ、GSTタグ、MBPタグなどの公知のタグをコードする塩基配列を利用することができる。
遺伝子がベクターに挿入されたか否かの確認は、公知の遺伝子工学技術を利用して行うことができる。たとえば、プラスミドベクターなどの場合、コンピテントセルを用いてベクターをサブクローニングし、DNAを抽出後、DNAシーケンサーを用いてその塩基配列を特定することで確認できる。他のベクターについても細菌あるいは他の宿主を用いてサブクローニング可能なものは、同様の手法が利用できる。また、薬剤耐性遺伝子などの選択マーカーを利用したベクター選別も有効である。
形質転換体は、本発明の組換えベクターを、本発明の改良型タンパク質が発現し得るように宿主細胞に導入することにより得ることができる。形質転換に使用する宿主としては、タンパク質又はポリペプチドを発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、植物細胞、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞が挙げられる。
細菌を宿主とする場合は、組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、開始コドン、本発明の改良型タンパク質をコードする核酸、転写終結配列により構成されていることが好ましい。大腸菌としては、例えばエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)DH5αなどが挙げられ、枯草菌としては、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などが挙げられる。細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などが用いられる。酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。
動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞等が用いられる。動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞などが用いられる。昆虫細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。
遺伝子が宿主に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、形質転換体からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。ついで、PCRの増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SyberGreen液等により染色し、増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。
c.形質転換体培養による改良型タンパク質の取得
組替えタンパク質として製造する場合、本発明の改良型タンパク質は、上述の形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清、培養細胞若しくは培養菌体又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。本発明の形質転換体を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地は、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が挙げられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等が挙げられる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、20〜37℃で12時間〜3日間行う。
培養後、本発明の改良型タンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合には、超音波処理、凍結融解の繰り返し、ホモジナイザー処理などを施して菌体又は細胞を破砕することにより該タンパク質を採取する。また、該タンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中から本発明の改良型タンパク質を単離精製することができる。
また、タンパク質の生合成反応にかかわる因子(酵素、核酸、ATP、アミノ酸など)のみを混合させた、いわゆる無細胞合成系を利用すると、生細胞を用いることなく、ベクターから本発明の改良型タンパク質を試験管内で合成することができる(参照文献8)。その後、前記と同様の精製法を用いて、反応後の混合溶液から本発明の改良型タンパク質を単離精製することができる。
単離精製した本発明の改良型タンパク質が、目的通りのアミノ酸配列からなるタンパク質であるかを確認するため、該タンパク質を含む試料を分析する。分析方法としては、SDS-PAGE、ウエスタンブロッティング、質量分析、アミノ酸分析、アミノ酸シーケンサーなどを利用することができる(参照文献6)。
(2)他の手法による改良型タンパク質の製造
本発明の改良型タンパク質は、有機化学的手法、例えば固相ペプチド合成法などによっても製造することができる。このような手法を利用したタンパク質の生産方法は当技術分野で周知であり、以下に簡潔に説明する。
固相ペプチド合成法により化学的にタンパク質を製造する場合、好ましくは自動合成機を利用して、活性化されたアミノ酸誘導体の重縮合反応を繰り返すことにより、本発明の改良型タンパク質のアミノ酸配列を有する保護ポリペプチドを樹脂上で合成する。ついで、この保護ポリペプチドを樹脂上から切断すると共に側鎖の保護基も同時に切断する。この切断反応には、樹脂や保護基の種類、アミノ酸の組成に応じて適切なカクテルがあることが知られている(参照文献7)。この後、有機溶媒層から粗精製タンパク質を水層に移し、目的の変異型タンパク質を精製する。精製法としては、逆相クロマトグラフィーなどを利用することができる(参照文献7)。
5.改良型タンパク質の性能確認試験
上記のようにして製造された改良型タンパク質は、以下の性能確認試験を行い良好なものを選択することができるが、本発明の改良型タンパク質はいずれも良好な性能を有していた。
(1)抗体結合性試験
本発明の改良型タンパク質の抗体結合性は、ウエスタンブロッティング、免疫沈降、プルダウンアッセイ、ELISA (Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)、表面プラズモン共鳴(SPR)法などを利用して確認・評価することができる。中でもSPR法は、生体間の相互作用をラベルなしでリアルタイムに経時的に観察することが可能であることから、改良型タンパク質の結合反応を速度論的観点から定量的に評価することができる。
(2)改良型タンパク質の熱安定性試験
本発明の改良型タンパク質の熱安定性は、円偏光二色性(CD)スペクトル、蛍光スペクトル、赤外分光法、示差走査熱量測定法、加熱後の残留活性などを利用して評価することができる。中でもCDスペクトルは、タンパク質の二次構造の変化を鋭敏に反映する分光学的分析方法であることから、改良型タンパク質の温度に対する立体構造の変化を観測し、構造安定性を熱力学的に定量的に評価することができる。
(3)改良型タンパク質の変性剤に対する安定性試験
本発明の改良型タンパク質の変性剤に対する安定性は、円偏光二色性(CD)スペクトル、蛍光スペクトル、残留活性などを利用して評価することができる。中でも蛍光スペクトルは、すべての改良型タンパク質がトリプトファン残基を分子内にひとつ保持しており、かつトリプトファンから発せられる蛍光が改良型タンパク質の変性により大きく強度が変化することから、改良型タンパク質の変性剤対する安定性を評価するうえで適切な方法である。
(4)改良型タンパク質のタンパク質分解酵素に対する安定性試験
本発明の改良型タンパク質のタンパク質分解酵素に対する安定性は、キモトリプシンなどの基質選択性が低いタンパク質分解酵素と改良型タンパク質を混合し、反応にて生じる分解物の量あるいは未反応の残留物の量をSDS-PAGE、液体クロマトグラフィーなどを用いて経時的に分析することなどにより評価することができる。中でも、SDS-PAGEによる分析は簡便かつ微量のタンパク質で行うことができることから改良型タンパク質のタンパク質分解酵素に対する安定性を評価するうえで適切な方法である。
〔参照文献〕
参照文献1;Bjorck L, Kronvall G. (1984) Purification and some properties of streptococcal protein G, a novel IgG-binding reagent. J Immunol. 133, 69-74.
参照文献2;Boyle M. D.P., Ed. (1990) Bacterial Immunoglobulin Binding Proteins. Academic Press, Inc., San Diego, CA.
参照文献3;Gallagher T, Alexander P, Bryan P, Gilliland GL. (1994) Two crystal structures of the B1 immunoglobulin-binding domain of streptococcal protein G and comparison with NMR. Biochemistry 19, 4721-4729.
参照文献4;Alexander P, Fahnestock S, Lee T, Orban J, Bryan P. (1992) Thermodynamic analysis of the folding of the streptococcal protein G IgG-binding domains B1 and B2: why small proteins tend to have high denaturation temperatures. Biochemistry 14, 3597-3603.
参照文献5;Horton R. M., Hunt H. D., Ho S. N., Pullen J. M. and Pease L. R. (1989). Engineering hybrid genes without the use of restriction enzymes: gene splicing by overlap extension. Gene 77, 61-68.
参照文献6;大野茂男、西村善文監修 (1997) タンパク質実験プロトコール1−機能解析編、秀潤社
参照文献7;大野茂男、西村善文監修 (1997) タンパク質実験プロトコール2−構造解析編、秀潤社
参照文献8;岡田雅人、宮崎香 (2004) タンパク質実験ノート(上)、羊土社
参照文献9;D'souza VM, Holz RC. (1999) The methionyl aminopeptidase from Escherichia coli can function as an iron(II) enzyme. Biochemistry 38, 11079-11085.
以下に、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
(1)プロテインG・B1ドメインの立体構造座標データを用いた、配列上近傍のアミノ酸残基間の相互作用によって立体構造が安定化されている部分セグメントの選定プロセス。
まず、プロテインG・B1ドメインの立体構造座標データを、国際的なタンパク質立体構造データベースであるProtein Data Bank(PDB; http://www.rcsb.org/pdb/home/home.do)よりダウンロードした(PDBコード:1PGA)。ついで、以下で定義されるコンタクト原子数(contact atom number)を立体構造座標データを用いて算出した。

ここでni,jは残基iと残基jの間のコンタクト原子数 (i≠j)、Nはタンパク質分子(またはサブユニット)の鎖長を表す。Cp,qはタンパク質分子内の水素原子を除く重原子pと重原子qの間のコンタクト数で、2つの重原子の中心間の距離が0.5nm以内なら1、そうでなければ0となる量である。算出した結果を図3に示す。
次に、以下で定義される局所コンタクト数密度(local contact number density)を算出した。
ここでDloc kはk番目のアミノ酸残基の局所コンタクト数密度を表す。図3において、太枠線で表される一辺wの正方形の内部のni,j を足し合わせた値の1/2がDloc kに相当することになる。なお、wはウィンドウ幅で、“配列上近傍のアミノ酸残基”を表現するパラメータである。即ち、k-(w-1)/2番目からk+(w-1)/2番目のアミノ酸残基をk番目のアミノ酸残基の配列上近傍に位置するアミノ酸残基と見なす。本プロセスではw=9と固定して計算した。
次に、以下で定義される局所コンタクト指数(local contact index)を算出した。

ここでIloc kはk番目のアミノ酸残基の局所コンタクト指数、μD locはDlocの平均値、σD locはDlocの標準偏差を表す。タンパク質が、wを単位とする部分セグメントにより構成されると考えると、アミノ酸残基が局所的に密に接触している部分セグメントのIlocは正の値として、局所的に疎に接触している部分セグメントのIlocは負の値として表される。算出した結果を図4に示す。本プロセスでは、Ilocの値がより大きい領域を、配列上近傍のアミノ酸残基間の相互作用によって立体構造が安定化されている部分セグメントとして選定した。
なお、本プロセスの計算は、intel fortran complier for linux ver9.0 (インテル)を用いて新たに開発したプログラム、Red Hat Enterprise Linux WS release 3 (Taroon Update 8)(レッドハット)(以上ソフトウエア)、Dell Precision Workstation370(デル)(以上ハードウエア)を用いて行った。
(2)プロテインG・B1ドメインの立体構造座標データを用いた、配列上遠方のアミノ酸残基との相互作用が弱いアミノ酸残基の選定プロセス。
上記(1)のプロセスでダウンロードしたプロテインG・B1ドメインの立体構造座標データを用い、以下で定義される非局所コンタクト原子数(non-local contact atom number)を計算した。
ここでNnl i はi番目のアミノ酸残基の非局所コンタクト原子数である。Nはタンパク質分子(またはサブユニット)の鎖長を表す。C’p’,qはアミノ酸残基iの側鎖の重原子p’とアミノ酸残基jの重原子qとの間のコンタクト数で、2つの重原子の中心間の距離が0.5nm以内なら1、そうでなければ0となる量である。なお、アミノ酸残基iがGlyの場合はC’p’,qは0とした。wはウィンドウ幅で、本プロセスでは上記(1)のプロセスと同様にw=9と固定して計算した。上式は、すべてのアミノ酸残基に対するコンタクト数の和から配列上近傍のアミノ酸残基に対するコンタクト数の和を除いたものなので、配列上遠方のアミノ酸残基と多数接触している側鎖をもつアミノ酸残基は大きなNnl値を示すことになる。
次に、以下で定義される非局所コンタクト指数(non-local contact index)を算出した。
ここでInl i はi番目のアミノ酸残基の非局所コンタクト指数である。aは非局所コンタクト数の縮減を意図する任意の定数で、本プロセスではa =3と固定して計算した。上式より、配列上遠方のアミノ酸残基との接触が無いアミノ酸残基のInlは1であり、接触が多いアミノ酸残基のInlは0に近づく。算出した結果を図5に示す。本プロセスでは、Inlの値がより大きいアミノ酸残基を、配列上遠方のアミノ酸残基との相互作用が弱いアミノ酸残基として選定した。
なお、本プロセスの計算は、intel fortran complier for linux ver9.0 (インテル)を用いて新たに開発したプログラム、Red Hat Enterprise Linux WS release 3 (Taroon Update 8)(レッドハット)(以上ソフトウエア)、Dell Precision Workstation370(デル)(以上ハードウエア)を用いて行った。
(3)プロテインG・B1ドメインを構成するアミノ酸配列の中から変異対象部位とするアミノ酸残基候補の決定プロセス。
上記(1)のプロセスにより計算されたIlocの値と(2)により計算されたInlの値が共に大きいアミノ酸残基に着目することで、配列上近傍のアミノ酸残基間の相互作用によって立体構造が安定化されている部分セグメント内にあって、かつ配列上遠方のアミノ酸残基との相互作用が弱いアミノ酸残基を選定し、このアミノ酸残基を変異対象部位と決定することができる。 本プロセスでは、以下で定義される変異適性指数(good mutation index)を算出し、その値が大きいほど、配列上近傍のアミノ酸残基間の相互作用によって立体構造が安定化されている部分セグメントであって、かつ配列上遠方のアミノ酸残基との相互作用が弱いアミノ酸残基であるとした。
ここでIM i はi番目のアミノ酸残基の変異適性指数を示す。算出した結果を図6に示す。ここでは、IM i>0.5のアミノ酸残基、即ち、Ala24、Thr25、Lys28、Gln32、Asn35、Asp36、Asn37、Asp47、Ala48、Thr49を変異対象部位の候補とした。
なお、本プロセスの計算は、intel fortran complier for linux ver9.0 (インテル)を用いて新たに開発したプログラム、Red Hat Enterprise Linux WS release 3 (Taroon Update 8)(レッドハット)(以上ソフトウエア)、Dell Precision Workstation370(デル)(以上ハードウエア)を用いて遂行した。
(4)プロテインG・B1ドメインの立体構造座標データを用いた、変異対象部位を含む部分セグメント主鎖のコンフォメーションの特定プロセス。
上記(1)のプロセスでダウンロードしたプロテインG・B1ドメインの立体構造座標データを用い、主鎖二面角(φ,ψ,ω)を計算した。主鎖二面角の定義は、“有坂文雄(2004)バイオサイエンスのための蛋白質科学入門、裳華房”を参照した。ついで、変異部位を含む前後(w-1)/2残基分の部分セグメントの主鎖二面角を抜き出すことにより、変異部位を含む部分セグメントの主鎖のコンフォメーションを特定した。wはウィンドウ幅で、本プロセスでは上記(1)と同様にw=9と固定して計算した。算出した結果の例として、プロテインG・B1ドメインの部分セグメント(43-51)の場合を図7に示す。
なお、本プロセスの計算は、intel fortran complier for linux ver9.0 (インテル)を用いて新たに開発したプログラム、Red Hat Enterprise Linux WS release 3 (Taroon Update 8)(レッドハット)(以上ソフトウエア)、Dell Precision Workstation370(デル)(以上ハードウエア)を用いて遂行した。
(5)上記(4)のプロセスで特定した部分セグメント主鎖のコンフォメーションを形成する場合における、出現頻度の高いアミノ酸配列の特定プロセス。
まず、(独)産業技術総合研究所で開発され、公開されているタンパク質局所構造データベースProSeg (http://riodb.ibase.aist.go.jp/proseg/index.html)の検索ウィンドウに上記(4)のプロセスで計算した部分セグメントの主鎖二面角の値を入力することで、上記(4)のプロセスで特定した部分セグメントの主鎖のコンフォメーションと同様ないし類似した主鎖のコンフォメーションを有するタンパク質の局所構造クラスタを検索した。ついで、最も類似した局所構造クラスタのアミノ酸配列における各アミノ酸残基の出現頻度の統計値の詳細を表示させ、表示されたPSSM(position specific scoring matrix)のスコアを参照することにより上記(4)のプロセスで特定した部分セグメントの主鎖のコンフォメーションを形成する場合に出現頻度の高いアミノ酸配列を特定した。即ち、PSSMの各位置でスコアが高いアミノ酸の組み合わせからなる配列は、その主鎖のコンフォメーションを安定に形成することが期待される。なお、ProSegにおけるPSSMの定義は、“Sawada Y. and Honda S. (2006) Structural diversity of protein segments follows a power-law distribution. Biophysical J., 91(4), 1213-1223.”に明記されている。検索した結果の例として、プロテインG・B1ドメインの部分セグメント(43-51)の場合を図8に示す。
なお、本プロセスの計算は、firefox ver 2.0.0.4 for linux(mozilla.org)、Red Hat Enterprise Linux WS release 3 (Taroon Update 8)(レッドハット)(以上ソフトウエア)、Dell Precision Workstation370(デル)(以上ハードウエア)を用いて遂行した。
(6)変異対象部位のアミノ酸残基に代わって置き換えるアミノ酸残基の種類の選別プロセス。
まず、上記(5)で求めたPSSMのスコアを用いて、以下で定義される交換の好ましさ(preference of permutation)を算出した。
ここで、pkはk番目のアミノ酸残基の交換の好ましさ、sPSSM k(original)は変異部位kの置換前のアミノ酸残基のスコア、sPSSM k(candidate)は変異部位kの置換後のアミノ酸残基のスコアである。置換後のアミノ酸残基としては、原則、PSSMのスコアが最も大きいアミノ酸残基を候補とした。ただし、Cysは除外した。また、PSSMのスコアが大きいアミノ酸残基が複数存在した場合は、最大のものに加えてそれらについても候補とした。pkは変異部位kにおける置換後の効果の目安であり、pkが大きいほど大きな効果が期待できる。本プロセスでは、pk>=2.0となる交換についてのみ検討対象として残すこととした。即ち、上記(3)で特定した10箇所の変異対象部位の候補Ala24、The25、Lys28、Gln32、Asn35、Asp36、Asn37、Asp47、Ala48、Thr49のうち、Ala24Glu、The25Trp、Lys28Ala、Gln32Ala、Thr49Thrはpk<2.0のため除外し、Asn35Lys、Asp36Glu、Asn37His、Asn37Leu、Asp47Pro、Ala48Lys、Ala48Gluを置換対象部位及び置き換えるアミノ酸残基の候補として選定した。算出した結果の例を図9に示す。
なお、本プロセスの計算は、intel fortran complier for linux ver9.0 (インテル)を用いて新たに開発したプログラム、Red Hat Enterprise Linux WS release 3 (Taroon Update 8)(レッドハット)(以上ソフトウエア)、Dell Precision Workstation370(デル)(以上ハードウエア)を用いて遂行した。
(7)プロテインG・B1ドメインの立体構造座標データを用いたアミノ酸残基の埋もれ度の評価に基づくアミノ酸残基の置換許容度の判定プロセス。
アミノ酸残基の置換を行う際、置換後のアミノ酸残基の側鎖のサイズが置換前に比べて大きくなる場合については、置換前のアミノ酸残基の、以下で定義される露出表面積比(ratio of accessible surface area)を算出して検討した。

一方、上記(6)のプロセスで選別したもののうち、置換後のアミノ酸残基の側鎖のサイズが置換前に比べて大きくなるものはAsn35Lys、Asp36Glu、Asn37His、Asp47Pro、Ala48Lys、Ala48Gluである。算出した結果の例として、これらの置換候補のRiを図10に示す。本プロセスでは、Ri であれば、置換後のアミノ酸残基の側鎖のサイズが置換前に比べて大きくなる場合も許容することとした。
なお、本プロセスの計算は、intel fortran complier for linux ver9.0 (インテル)を用いて新たに開発したプログラム、Surface Racer 3.0 for Linux(Dr. Oleg Tsodikov, The University of Michigan)、MOE v2006.08(Chemical Computing Group Inc.)、Red Hat Enterprise Linux WS release 3 (Taroon Update 8)(レッドハット)(以上ソフトウエア)、Dell Precision Workstation370(デル)、Dell DimensionXPS/Gen3 (windows XP SP2) (デル)(以上ハードウエア)を用いて行った。
実施例2
改良型タンパク質を構成するアミノ酸配列、および該改良型タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列の設計。
上記実施例1(6)のプロセスで選別した変異対象部位のアミノ酸残基に代わって置き換えるアミノ酸残基の種類に加え、上記実施例1(7)のプロセスで判定したアミノ酸残基置換の許容度を勘案し、改良型タンパク質のアミノ酸配列を設計した。即ち、上記実施例1(6)のプロセスにおいて、Asn35Lys、Asp36Glu、Asn37His、Asn37Leu、Asp47Pro、Ala48Lys、Ala48Gluの7つの置換候補を選別した。このうち、置換後のアミノ酸残基の側鎖のサイズが置換前に比べて大きくなるものはAsn35Lys、Asp36Glu、Asn37His、Asp47Pro、Ala48Lys、Ala48Gluの6つであり、上記したように(7)のプロセスにおいて、これら6つの置換は許容されると判定されている。
そこで、この情報を加味して、これまでの工程の結果をさらに精査することにした。複合体の結晶構造によると、Asn35は免疫グロブリンGのFcドメインのAsn434、His433、Tyr436と水素結合を形成しており、プロテインG・B1ドメインが抗体と結合する上で非常に重要なアミノ酸残基であることが推察された。そこで、Asn35については変異箇所から除外した。最終的に、Asp36Glu、Asn37His、Asn37Leu、Asp47Pro、Ala48Lys、Ala48Gluの置換を行うことを決定し、これらの組み合わせによる複数の多重変異体のアミノ酸配列([配列番号4]〜[配列番号11])を設計した。なお、[配列番号12]で表されるアミノ酸配列はプロテインG・B1ドメインの野生型アミノ酸配列に相当するものである。
改良型タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列については、上記設計した改良型タンパク質のアミノ酸配列を基に以下のステップを経て設計した。
(i)変異箇所以外のアミノ酸残基に対応する部分は、基本的に[配列番号22] で表されるプロテインG・B1ドメインの野生型塩基配列を採用する。
(ii)置換したアミノ酸残基に対応する部分は、基本的に大腸菌のコドン使用頻度(codon
usage)を参照し決定する。
(iii)設計した塩基配列のGC含量が著しく高くなる場合、設計した塩基配列のmRNAの構造が著しく安定になる場合、および設計した塩基配列内に制限酵素認識部位が生じる場合、同義コドンへの置換によりそれぞれの状態を緩和、解消する。
なお、改良型タンパク質は、タンパク質合成の実際的観点から以下の3系統に分けて製造されるため、遺伝子の塩基配列はベクターの塩基配列を勘案しつつ系統ごとに微調整した。GR-PGタンパク質は、N末端タグ付タンパク質として無細胞タンパク質合成システムを用いて製造される。N末端のHisタグはタンパク質分解酵素により除去するが、タンパク質分解酵素認識配列との隙間が生じるため、結果、設計したアミノ酸配列のN末端に2アミノ酸残基が付加される。即ち、GR-PGタンパク質群では、[配列番号4]〜[配列番号8]、および[配列番号12]で示されるアミノ酸配列のN末端にGly-Argが付加される。GST-PGタンパク質群は、図17に示されるN末端Glutathione S-Transferase(GST)融合タンパク質として無細胞タンパク質合成システムを用いて製造される。即ち、[配列番号23]と[配列番号7]を連結したアミノ酸配列、および[配列番号23]と[配列番号12]を連結したアミノ酸配列となり合成される。M-PGタンパク質群は、タグなし、融合なしの単純タンパク質として大腸菌を用いて製造される。このため設計したアミノ酸配列に開始コドン配列が付加される。即ち、M-PGタンパク質群では、[配列番号7]〜[配列番号12] で示されるアミノ酸配列のN末端にMetが付加される。
実施例3
本実施例は、改良型タンパク質(プロテインG変異体)をコードする遺伝子を合成し、次いで無細胞タンパク質合成システムを用いて表1に示す組換えタンパク質(GR-PG01、GR-PG03、GR-PG05、GR-PG06、GR-PG07、GR-PG08、GST-PG01、GST-PG07)を製造する例を示す。
a: タグ付タンパク質として合成したのち、プロテアーゼ処理して単離・精製
b: タグなし単純タンパク質として合成したのち、単離・精製
c: glutathione S-transferase融合タンパク質として合成したのち、単離・精製
(1)GR-PG遺伝子の合成
5’-、3’-末端に相補領域を有する56〜59merの化学合成したオリゴDNA断片(表2、表3)を組み合わせて、アニールおよびポリメラーゼ伸長反応(55℃, 1分, 72℃, 1分 → 50℃, 1分, 72℃, 1分 → 44℃, 15秒, 72℃, 1分)により[配列番号13]、[配列番号14]、[配列番号15]、[配列番号16]、[配列番号17]、および[配列番号22]の塩基配列からなる各PG遺伝子を合成した。
これを鋳型に、制限酵素認識配列を含むプライマーを加えPCR法(アニール55℃,5秒)にて増幅を行い、GR-PG遺伝子を合成した。使用したプライマーは、センスプライマー(aaggaattaagcggccgc gacacttacaaattaatcc(配列番号34))とアンチセンスプライマー(attggatcc ttattcagtaactgtaaaggt(配列番号25))である。得られた増幅物をアガロース電気泳動法(3%, 100V)で確認後、QIAquick PCR Purification kit (Qiagen) を用いて精製した。
(2)クローニング
制限酵素Not IとBamH I (日本ジーン, 37℃, 一昼夜)で消化し脱リン酸化(宝酒造, CIAP, 50℃, 30分)させたプラスミドpIVEX2.4a (Roche)と、同じ制限酵素で消化したGR-PG遺伝子をライゲーション(東洋紡, Ligation High, 16℃, 1時間)し、得られたプラスミドベクターを用いて保存用大腸菌DH5α株(東洋紡, Competent high)を形質転換し、100μg/mLアンピシリンを含むLBプレート培地で選択した。正しい挿入配列をもつ形質転換体をcolony PCR、DNA sequencing (AB, BigDye Terminator v1.1) により選別し、Qiaprep Spin Miniprep kit (Qiagen) を用いてGR-PG発現用プラスミドを抽出した。
(3)タグ付きタンパク質発現と精製
得られたGR-PG発現用プラスミドとRTS500 E. coli HY (Roche) 試薬を混合し、無細胞タンパク質合成システムRTS500 ProteoMaster (Roche)用いて、タグ付きGR-PG組換えタンパク質を発現させた(120rpm, 30℃, 20時間)。得られた培養液をIgG Sepharose 6 Fast Flowカラム (GEヘルスケアバイオサイエンス)をセットした液体クロマトグラフィー装置AKTApurifier (GEヘルスケアバイオサイエンス)に注入し、アフィニティークロマトグラフィー法(running buffer: 50mM Tris-HCl (pH7.6), 150mM NaCl, 0.05% Tween20; elution buffer: 0.5M 酢酸)および/またはHisTrap HPカラム (GEヘルスケアバイオサイエンス)をセットした液体クロマトグラフィー装置AKTApurifier (GEヘルスケアバイオサイエンス)に注入し、アフィニティークロマトグラフィー法(running buffer: 20mM リン酸ナトリウム、500mM NaCl、20mM イミダゾール, pH7.4; elution buffer: 20mM リン酸ナトリウム、500mM NaCl、400mM イミダゾール, pH7.4)によりタグ付きGR-PG組換えタンパク質を精製した。分画したフラクションは、20mM Tris-HCl(pH6.8)で透析した。
(4)タグ付きタンパク質のタグ部位切断
得られたタグ付きタンパク質は、Factor Xa protease (Qiagen) を用いて消化(37℃, 一昼夜)し、Hisタグ部位を切断した。その後His Microspin purification module (GEヘルスケアバイオサイエンス)を用いてHisタグ部位および未消化サンプルを除去した。さらに、IgG Sepharose 6 Fast Flow microspinを用いてGR-PGタンパク質(GR-PG01、GR-PG03、GR-PG05、GR-PG06、GR-PG07、GR-PG08)を精製した。得られた試料溶液は20mM Tris-HCl(pH6.8)で透析し、4℃で保存した。
(5)GST融合タンパク質発現と精製
Not IとBamH I (日本ジーン, 37℃, 一昼夜)で消化し脱リン酸化(宝酒造, CIAP, 50℃, 30分)させたプラスミドpIVEX-GST (Roche)と、同じ制限酵素で消化したGR-PG遺伝子をライゲーション(東洋紡, Ligation High, 16℃, 1時間)し、上記(2)と同様の方法で形質転換後、GST融合タンパク質発現用プラスミドを抽出した。得られたGST融合タンパク質発現用プラスミドとRTS500 E. coli HY (Roche) 試薬を混合し、無細胞タンパク質合成システムRTS500 ProteoMaster (Roche)用いて、GST融合タンパク質を発現させた(120rpm, 30℃, 20時間)。得られた培養液を、をIgG Sepharose 6 Fast Flowカラム (GEヘルスケアバイオサイエンス)をセットした液体クロマトグラフィー装置AKTApurifier (GEヘルスケアバイオサイエンス)に注入し、アフィニティークロマトグラフィー法(running buffer: 50mM Tris-HCl(pH7.6), 150mM NaCl, 0.05% Tween20; elution buffer: 0.5M 酢酸)および/またはGSTTrap HPカラム (GEヘルスケアバイオサイエンス)をセットした液体クロマトグラフィー装置AKTApurifier (GEヘルスケアバイオサイエンス)に注入し、アフィニティークロマトグラフィー法(running buffer: 10mM リン酸ナトリウム, 1.8mM リン酸カリウム, 140mM NaCl, 2.7mM KCl, pH7.3; elution buffer: 50mM Tris-HCl, 10mM 還元型グルタチオン, pH8.0)により精製し、分画したフラクションを20mM Tris-HCl(pH6.8)で透析した。
(6)改良型タンパク質の同定
上記(5)により単離精製した改良型タンパク質をそれぞれ15〜25μMの濃度の水溶液に調製した。改良型タンパク質の濃度は表1-4のモル吸光係数を用いて決定した。次いで、質量分析用サンプルプレートにマトリックス溶液(50%(v/v)アセトニトリル‐0.1%TFA水溶液にα-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸を飽和させた溶液)1μlを滴下し、これに各試料溶液を1μl滴下してサンプルプレート上で混合、乾燥させた。その後、MALDI-TOF型質量分析装置Voyager(Applied Biosystems)にて、強度2500-3000のLaserを照射し質量スペクトルを得た。質量スペクトルにより検出されたピークの分子量と製造した改良型タンパク質のアミノ酸配列より算出された理論分子量を比較した結果、いずれの試料も両者は測定誤差内で一致し、目的のタンパク質(GR-PG01、GR-PG03、GR-PG05、GR-PG06、GR-PG07、GR-PG08)が製造されていることが確認された。また、質量スペクトルに目的のタンパク質以外の有意なピークは見出されなかった。
実施例4
本実施例は、改良型タンパク質(プロテインG変異体)をコードする遺伝子を合成し、次いで大腸菌を用いて表1-1に示す組換えタンパク質(M-PG01、M-PG07、M-PG08、M-PG09、M-PG10、M-PG11)を製造する例を示す。
(1)M-PG遺伝子の合成
PG01, PG07, PG08については、実施例3(2)で作成したGR-PG発現用プラスミドを鋳型に、制限酵素認識配列を含むプライマーを加えPCR法(アニール45℃, 15秒 → 55℃, 5秒)にて増幅を行い、M-PG遺伝子を作成した。使用したプライマーは、センスプライマー (ATAGCTCCATG GACACTTACAAATTAATCC(配列番号25))とアンチセンスプライマー(attggatcc ttattcagtaactgtaaaggt(配列番号24))である。得られた増幅物を実施例3(1)と同様の方法で確認、精製した。
PG09, PG10, PG11については、まず、5’-、3’-末端に相補領域を有する56〜59merの化学合成したオリゴDNA断片(表2、表3)を組み合わせて、実施例3(1)と同様の方法により[配列番号18]、[配列番号19]、および[配列番号20]の塩基配列からなる各PG遺伝子を合成した。ついで、これを鋳型に、制限酵素認識配列を含むプライマーを加えPCR法(アニール45℃, 15秒 → 55℃, 5秒)にて増幅を行い、M-PG遺伝子を合成した。使用したプライマーは、センスプライマー (ATAGCTCCATG GACACTTACAAATTAATCC(配列番号24))とアンチセンスプライマー(attggatcc ttattcagtaactgtaaaggt(配列番号25))である。得られた増幅物を実施例3(1)と同様の方法で確認、精製した。
(2)クローニング
制限酵素Nco IとBamH I (日本ジーン, 37℃, 一昼夜)で消化し脱リン酸化(宝酒造, CIAP, 50℃, 30分)させたプラスミドpET16b (Novagen) と、同じ制限酵素で消化したM-PG遺伝子をライゲーション(東洋紡, Ligation High, 16℃, 1時間)し、得られたプラスミドベクターを用いて保存用大腸菌DH5α株(東洋紡, Competent high)を形質転換し、100μg/mLアンピシリンを含むLBプレート培地で選択した。この形質転換体について実施例3(2)と同様の方法で選別後、プラスミドを抽出した。これを用い、さらに発現用大腸菌BL21(DE3) 株(Novagen)を形質転換した。
(3)組換えタンパク質の発現と精製
LB培地で前培養した大腸菌BL21(DE3) 形質転換体を、2.5ml / 500mlでLB培地に継代し、O.D.600 = 0.8〜1.0になるまで振とう培養した。最終濃度0.5mMでIPTGを加え、さらに37℃で2時間振とう培養した。回収した菌体を10mlのPBSに懸濁し、超音波破砕を行った。破砕液は濾過滅菌後、濾液をIgG Sepharose 6 Fast Flowカラム (GEヘルスケアバイオサイエンス)をセットした液体クロマトグラフィー装置AKTApurifier (GEヘルスケアバイオサイエンス)に注入し、アフィニティークロマトグラフィー法(running buffer: 50mM
Tris-HCl(pH7.6), 150mM NaCl, 0.05% Tween20; elution buffer: 0.5M 酢酸)および/またはRESOURCE Sカラム (GEヘルスケアバイオサイエンス)をセットした液体クロマトグラフィー装置AKTApurifier (GEヘルスケアバイオサイエンス)に注入し、イオン交換クロマトグラフィー法(running buffer: 20mM クエン酸, pH3.5; elution buffer: 20mM クエン酸, 1M NaCl, pH3.5)によりM-PG組換えタンパク質を精製した。分画したフラクションはNaOHで中和後、遠心濃縮機(RABCONCO, CentriVap concentrator)で濃縮し、50mM リン酸緩衝液(pH6.8)で透析した。各溶液を凍結乾燥し、粉末状の組換えタンパク質(M-PG01、M-PG07、M-PG08、M-PG09、M-PG10、M-PG11)を-20℃で保存した。
(4)改良型タンパク質の同定
上記精製単離された改良型タンパク質について、実施例3(6)と同様の方法で質量スペクトルを計測した後、検出されたピークの分子量と製造した改良型タンパク質のアミノ酸配列より算出された理論分子量を比較した結果、いずれの試料も両者は測定誤差内で一致し、目的のタンパク質(M-PG01、M-PG07、M-PG08、M-PG09、M-PG10、M-PG11)が製造されていることが確認された。また、質量スペクトルに目的のタンパク質以外の有意なピークは見出されなかった。
(5)改良型タンパク質(プロテインG変異体)の純度。
上記(4)で単離精製した改良型タンパク質をそれぞれ75μMの濃度の水溶液に調製したのち、Tricine-SDS-PAGEもしくはTricine-native-PAGE(16%T, 2.6%C, 100V, 100min)を行いCBB (G-250) 染色によりバンドを検出し純度を確認した。改良型タンパク質の濃度は表5のモル吸光係数を用いて決定した。その結果、測定したすべての試料は単一のバンドとして検出され、改良型タンパク質(M-PG01、M-PG07、M-PG08、M-PG09、M-PG10、M-PG11)が、単一成分として製造・精製されたことが確認された。
実施例5
本実施例においては、改良型タンパク質(プロテインG変異体)の抗体に対する結合性を表面プラズモン共鳴(SPR)法により評価した結果を示す。
なお、SPR法は、生体高分子間の特異的相互作用を経時的に測定し、反応を速度論的観点から定量的に解釈できる優れた方法であることが知られている。
まず、センサーチップCM5 (Biacore) の測定セルにヒト免疫グロブリンのFc領域 (Jackson ImmunoResearch)をアミンカップリング法により固定化した。測定のコントロールとして、カルボキシメチル基をエタノールアミンでブロッキングした対照セルを用いた。次いで、上記実施例3、4で単離精製した改良型タンパク質を、ランニング緩衝液であるHBS-P (10mM HEPES pH7.4, 150mM NaCl, 0.05% v/v Surfactant P20)に溶解し、600, 500, 400, 300, 200, 100nMの6種の濃度の試料溶液を調製した。改良型タンパク質の濃度は表4、表5のモル吸光係数を用いて決定した。SPRの測定は、Biacore T100 (Biacore)を用い、反応温度25℃で行った。収集したデータは、Biacore T100 Evaluation Softwareを用いて解析し、1:1のラングミュアモデルにフィッティングさせ、結合速度定数kon、解離速度定数koff、および解離平衡定数KDを算出した。
その結果、測定したすべての改良型タンパク質(GR-PG03、GR-PG05、GR-PG06、GR-PG07、GR-PG08、M-PG07、M-PG08、M-PG09、M-PG10、M-PG11)において、ヒト免疫グロブリンのFc領域に対する結合性は、野生型のアミノ酸配列を有するコントロールタンパク質(GR-PG01、M-PG01)に比べて同程度で、野生型と同等以上の速度論的特性を保持していることが明らかになった(図11、表4、表5)。たとえば、このうち最も優れた改良型タンパク質は野生型に比べて1.5倍以上の結合性を有している。
n.d.: not determined
実施例6
本実施例は、改良型タンパク質の熱安定性を評価した結果を示す。なお、円偏光二色性(CD)スペクトルは、タンパク質の二次構造の変化を鋭敏に反映する分光学的分析方法であることが知られている。CDスペクトルの強度に相当するモル楕円率を試料の温度を変化させながら観測することで、どの程度の温度で各々の改良型タンパク質(プロテインG変異体)が変性するのかを明らかにすることができる。
上記実施例3、4で単離精製した改良型タンパク質をそれぞれ15〜25μMの濃度で含む水溶液(50mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.8)に調製した。改良型タンパク質の濃度は表4、表5のモル吸光係数を用いて決定した。この試料溶液を円筒型セル(セル長0.1cm)に注入し、J805型円偏光二色性分光光度計(日本分光)を用いて、20℃の温度で測定波長を260nmから195nmに移動させCDスペクトルを得た。同じ試料を98℃に加熱、さらに98℃から20℃に冷却し260nmから195nmの円二色性スペクトルを得た。加熱後再冷却したスペクトルのモル楕円率は80%以上回復し、改良型タンパク質の立体構造の可逆性が確認された。
次いで、測定波長を222nmに固定し20℃から100℃に1℃/minの速度で昇温させてモル楕円率の経時変化を測定した。得られた熱融解曲線について二状態相転移モデルの理論式(有坂文雄 (2004) バイオサイエンスのための蛋白質科学入門、裳華房)を用いて解析し、変性温度Tm、およびTmにおける変性のエンタルピー変化ΔHmを決定した。その結果、測定したすべての改良型タンパク質(GR-PG03、GR-PG05、GR-PG06、GR-PG07、GR-PG08、M-PG07、M-PG08、M-PG09、M-PG10、M-PG11)の熱安定性が、野生型のアミノ酸配列を有するコントロールタンパク質(GR-PG01、M-PG01)に比べて、向上していることが明らかになった(図12、表4、表5)。たとえば、このうち最も優れた改良型タンパク質は野生型に比べて12℃以上の変性温度を示している。
実施例7
本実施例は、改良型タンパク質(プロテインG変異体)の変性剤に対する化学的安定性を評価した結果を示す。すべての改良型タンパク質はトリプトファン残基を分子内にひとつ有し、トリプトファンから発せられる蛍光は改良型タンパク質の変性により大きく強度が変化する。したがって、改良型タンパク質の水溶液に変性剤である塩酸グアニジンを少しずつ添加しながらトリプトファンからの蛍光強度を観測することで、どの程度の濃度で各々の改良型タンパク質が変性するのかを明らかにすることができる。実際の測定は、塩酸グアニジンを含まないタンパク質溶液(A液)と高濃度の塩酸グアニジンを含むタンパク質溶液(B液)の二液を種々の割合で混合することで行われる。
まず、実施例4で単離精製した改良型タンパク質を50mMのリン酸緩衝液(pH6.86)に溶解し、それぞれの最終濃度0.30〜0.33μMに調製し、A液を用意した。改良型タンパク質の濃度は表5のモル吸光係数を用いて決定した。一方、B液は、8.15M 塩酸グアニジン水溶液に500mMのリン酸緩衝液を9:1の比率で混ぜ、7.34 M 塩酸グアニジン/50mMリン酸緩衝液とした後、微量の1.0M NaOHでpHを6.86に合わせ、さらに最終濃度0.30〜0.33μMとなるように各改良型タンパク質を添加し、用意した。蛍光強度の測定は、自動滴定装置付FP-6500型分光蛍光光度計(日本分光)を用いて、測定温度を20℃、励起波長を295nmに蛍光波長を350 nmに固定して行った。変性過程の観測では、A液2.5mLを分光蛍光光度計の攪拌装置付恒温セルに入れたのち、120秒のインターバルで0.1mLのB液の注入/排出を25回繰り返し、その際の蛍光強度を経過時的に観測した。また、再生過程の観測では、B液2.5mLを分光蛍光光度計の攪拌装置付恒温セルに入れたのち、120秒のインターバルで0.1mLのA液の注入/排出を25回繰り返し、その際の蛍光強度を経過時的に観測した。
いずれの改良型タンパク質においても、変性過程と再生過程の蛍光強度データが一致したことから、用いた測定条件で十分に平衡状態に達していることが確かめられた。測定したデータは、二状態相転移モデルの理論式(有坂文雄(2004)バイオサイエンスのための蛋白質科学入門、裳華房)を用いて解析し、変性の自由エネルギー変化ΔGD H2Oと変性中点の塩酸グアニジン濃度c0.5を決定した。その結果、測定したすべての改良型タンパク質(M-PG07、M-PG08、M-PG10、M-PG11)の変性剤に対する化学的安定性が、野生型のアミノ酸配列を有するコントロールタンパク質(M-PG01)に比べて向上していることが明らかになった(図13、表5)。たとえば、このうち最も優れた改良型タンパク質は野生型に比べて1.6M以上の変性中点濃度を示している。
実施例8
本実施例においては、改良型タンパク質の構造安定性を調べるために、タンパク質分解酵素キモトリプシンの消化に対する抵抗性を評価した結果を示す。
実施例4で単離精製された改良型タンパク質は消化反応緩衝液(40mM Tris-HCl(pH8.0), 20mM CaCl2, 2mM NaOAc)に最終濃度75μMで調製し、次いで最終濃度7.5uMのキモトリプシンを添加した。25℃で0, 20, 40, 60, 120, 240分反応を行い、10μlずつサンプリングを行った。100mM PMSFを1μl加え反応を止め、Tricine-SDS-PAGEもしくはTricine-native-PAGE(16%T, 2.6%C, 100V, 100min)を行いCBB (G-250) 染色によりバンドを検出した。ゲル撮影装置(アトー, Printgraph)にて泳動像を撮影し、画像データについてソフトウエアImage J1.4.3.67を用いて解析を行った。まず画像のバックグラウンドを削除し(Rolling ball 50)、各レーンのバンドを認識させ、画像密度をプロットした。0分の結果を100%とし、反応時間におけるバンドの残存度を消化作用に対する抵抗性として数値化した。得られた残存度は時間に対して指数関数的に減少し、残存度の対数と時間が直線性を示すことから、キモトリプシンによる消化反応を擬一次反応と仮定することが妥当であることが示された。これより残存度の対数と時間の回帰分析を行い、各改良型タンパク質の分解半減期t0.5を求めた。
その結果、改良型タンパク質(M-PG07、M-PG08、M-PG10、M-PG11)は、野生型のアミノ酸配列を有するコントロールタンパク質(M-PG01)に比べ、タンパク質分解酵素に対する抵抗性が増加していることが明らかになった(図14、表5)。たとえば、このうち最も優れた改良型タンパク質は野生型に比べて14倍以上の分解半減期を示している。
実施例9
本実施例においては、改良型タンパク質と任意のタンパク質を連結した融合型タンパク質が、連結した状態でもそれぞれの機能が維持されているかを確認するために、GST-PGタンパク質のアフィニティカラムに対する結合性を評価した結果を示す。
実施例3(5)で得られたGST-PG01およびGST-PG07の培養液をGSTTrap HPカラム (GEヘルスケアバイオサイエンス)またはIgG Sepharose 6 Fast Flowカラム (GEヘルスケアバイオサイエンス)をセットした液体クロマトグラフィー装置AKTApurifier (GEヘルスケアバイオサイエンス)に注入し、これを用いて融合型タンパク質の性質を評価した。その結果、改良型タンパク質を連結したGST-PG07は、コントロールタンパク質を連結したGST-PG01と同様に、どちらのカラムに対しても十分な親和性を示した(図15)。これは、連結した状態においてもGSTに由来するグルタチオン結合活性とプロテインGに由来するIgG結合活性が共に維持されていることを意味する。これより、改良型タンパク質を含む融合型タンパク質は、抗体結合活性を含む複数の機能を付与するために有効な手段であることが明らかとなった。
Streptococcus sp. G148由来のプロテインGの遺伝子の構造を示す図である。 プロテインGの各抗体結合ドメイン(B1、B2及びB3ドメイン)のアミノ酸配列上の類似性を示す図である。 プロテインG・B1ドメインにおける各アミノ酸残基間のコンタクト原子数を示す図である。 プロテインG・B1ドメインの局所コンタクト指数を示すグラフである。 プロテインG・B1ドメインの非局所コンタクト指数を示すグラフである。 プロテインG・B1ドメインの変異適正指数を示すグラフである。 プロテインG・B1ドメインの部分セグメント(43−51)の主鎖2面角を示す図である。 プロテインG・B1ドメインの部分セグメント(43−51)のPSSMを示す図である。 プロテインG・B1ドメインの各アミノ酸残基に対する置換アミノ酸の交換の好ましさ;Pk値を示すグラフである。 プロテインG・B1ドメインの各アミノ酸残基の露出表面積比;Ri値を示すグラフである。 プロテインG改良型タンパク質の免疫グロブリンFc領域に対する結合性を試験した結果を示すグラフである。 プロテインG改良型タンパク質の熱安定性を試験した結果を示すグラフである。 プロテインG改良型タンパク質の変性剤に対する化学的安定性を試験した結果を示すグラフである。 プロテインG改良型タンパク質のタンパク質分解酵素に対する安定性を試験した結果を示すグラフである。 プロテインG改良型タンパク質を連結した融合タンパク質のグルタチオン結合性とIgG結合性を試験した結果を示す図である。 Streptococcus sp. G148由来のプロテインGの遺伝子の塩基配列を示す図である。(下線部が構造遺伝子、二重下線部が抗体結合ドメイン) GST融合タンパク質のN末配列を示す図である。下線部がglutathione S-transferaseのアミノ酸配列に対応する。

Claims (8)

  1. 以下の(a)、(b)又は(c)で示されるアミノ酸配列からなるか、あるいは(a)、(b)又は(c)で示されるアミノ酸配列中、X35〜X37、X47およびX48のアミノ酸残基以外の部分において、1個若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入又は付加されたアミノ酸配列からなり、抗体あるいは免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有するタンパク質。
    (a)AspThrTyrLysLeuIleLeuAsnGlyLysThrLeuLysGlyGluThrThrThrGluAlaValAspAlaAlaThrAlaGluLysValPheLysGlnTyrAlaX35X36X37GlyValAspGlyGluTrpThrTyrAspX47X48ThrLysThrPheThrValThrGlu
    (上記アミノ酸配列中、X35はAsnを、X36 X37 X47 X48はGlu His Pro Glu、Glu His Pro Lys、Glu Leu Pro Glu、Glu Leu Pro Lys、又は、Glu Leu Asp Alaを、それぞれ表す。)
    (b)ThrThrTyrLysLeuValIleAsnGlyLysThrLeuLysGlyGluThrThrThrGluAlaValAspAlaAlaThrAlaGluLysValPheLysGlnTyrAlaX35X36X37GlyValAspGlyGluTrpThrTyrAspX47X48ThrLysThrPheThrValThrGlu
    (上記アミノ酸配列中、X35はAsnを、X36 X37 X47 X48はGlu His Pro Glu、Glu His Pro Lys、Glu Leu Pro Glu、Glu Leu Pro Lys、又は、Glu Leu Asp Alaを、それぞれ表す。)
    (c)ThrThrTyrLysLeuValIleAsnGlyLysThrLeuLysGlyGluThrThrThrLysAlaValAspAlaGluThrAlaGluLysAlaPheLysGlnTyrAlaX35X36X37GlyValAspGlyValTrpThrTyrAspX47X48ThrLysThrPheThrValThrGlu
    (上記アミノ酸配列中、X35はAsnを、X36 X37 X47 X48はGlu His Pro Glu、Glu His Pro Lys、Glu Leu Pro Glu、Glu Leu Pro Lys、又は、Glu Leu Asp Alaを、それぞれ表す。)
  2. 配列番号〜11のいずれかで示されるアミノ酸配列からなるか、あるいは該アミノ酸配列において、N末端側に1又は数個のアミノ酸残基が付加された配列からなる請求項1に記載のタンパク質。
  3. 請求項1又は2に記載のタンパク質のアミノ酸配列とリンカーペプチドあるいはリンカータンパク質のアミノ酸配列が交互に複数回繰り返したアミノ酸配列からなり、抗体あるいは免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有するタンパク質。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質のアミノ酸配列と他のタンパク質のアミノ酸配列を連結したアミノ酸配列からなる融合タンパク質であって、抗体あるいは免疫グロブリンGあるいは免疫グロブリンGのFc領域に結合活性を有するタンパク質。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸。
  6. 配列番号16〜20のいずれかで示される塩基配列からなる核酸。
  7. 請求項5又は6のいずれかに記載の核酸を含有する組換えベクター。
  8. 請求項7に記載の組換えベクターが導入された形質転換体。
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