JP5276196B2 - 眼鏡レンズおよびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、眼鏡レンズ等のレンズおよびその製造方法、ならびにレンズ表面欠陥補修用塗布液に関する。
眼鏡レンズの製造方法としては、注型重合中にモールド表面を転写することによって光学機能面を形成する方法と、研削および/または切削等の機械加工により光学機能面を形成する方法がある。近年、後者の方法では、研削および切削加工技術の進歩により所望の自由曲面を形成することが可能になってきた。しかし、上記機械加工面は粗いため、そのままの状態では眼鏡レンズとして使用することができない。そのため、通常、研削および/または切削加工面の表面平滑性を高めるために、加工後に研磨工程が行われる。しかし、研削および/または切削によって所望形状に加工された面の面形状を損なうことなく研磨を行うためには、きわめて高度な研磨技術が要求される。
そこで、例えば特許文献1には、切削加工および平滑化処理を行ったレンズ表面にワニスを塗布することにより、高精度な加工機を使用することなく、高い表面平滑性を有するレンズを得ることが提案されている。
また、特許文献2には、切削加工面に、有機ケイ素化合物と金属酸化物微粒子とからなるハードコート膜を形成することにより、切削加工面の粗さを改善することが提案されている。
特表2003−525760号公報 特開2002−182011号公報
しかし、特許文献1に記載の方法は、精度が低い機械を用いて眼鏡レンズ(基材)の表面を迅速に形成(切削加工)しても、その後に平滑化工具を用いて、起伏のある粗い機械加工面を平滑化する工程がある。この平滑化工具はコアと呼ばれる部材に弾性変形可能なエラストマー製などが使用され、作業表面には研磨剤フィルムが形成され、平滑化機械に取り付けられて数値制御ユニットによって制御されながら、研磨工程と同じような処理を行う。しかも、その平滑化工具の軌跡は機械加工済み表面を平滑化して達成されるべき表面エンベローブに対応する低周波とバックグランド粗さに対応する高周波との間における表面の起伏のバンドパスフィルタリングを生じさせるものであることから、例えば、自由曲面形状などでは、高精度にシステム化された機械でなければ到底実施できるものではない。しかし、こうした機械はたいてい高価であるため、製造コストの増大につながる。また、平滑化表面上に被着されるワニスは、樹脂を溶剤に溶解させたものであるため、高度に三次元架橋させた樹脂はワニス化することができず、使用する樹脂は溶剤溶解性を有するものに限られる。こうして形成された被膜は、溶剤への耐性および密着性に乏しいため、耐久性が低く、被膜上に更にハードコート膜等の機能性膜を形成する場合に被膜が溶解するおそれもある。
また、特許文献2に記載の方法によれば、切削加工面の表面粗さの問題は改善できるものの、以下の問題がある。
眼鏡レンズ等の光学レンズには、製品として出荷する前に各種検査が行われ、屈折率、アッベ数、分光透過率等の各種特性が所定レベル以上であるレンズが製品として出荷される。このような製品レンズの検査項目の1つに外観検査がある。これは、例えばJIS-T7313の付属書Aに示されている視覚的な検査や、レンズに所定の光を入射させて出射側に配置したスクリーンに加工痕や傷等の表面欠陥の投影像が現れるか否かで良品・不良品を判定する投影検査である。例えば旋盤で切削加工を行ったレンズ基材に対して投影検査を行うと、渦状の加工痕跡が現れるのに対し、研削加工後に研磨を施したレンズ基材では、このような加工痕跡は観察されない。つまり、切削加工後の研磨工程には、表面粗さを改善するだけではなく、加工痕等の表面欠陥を除去する作用もある。しかし、本発明者らの検討の結果、特許文献2に記載の方法によって表面粗さが改善されたレンズ基材に前記外観検査を行うと、切削加工痕が現れることが判明した。つまり、特許文献2に記載の方法では、表面粗さの問題は改善できるものの、前述の表面欠陥の問題は改善できない。
かかる状況下、本発明は、研削および/または切削工程後の研磨工程を省略しても、高品質なレンズを製造することができる手段を提供することを目的としてなされたものである。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。
通常、レンズ基材と被膜との屈折率を同じにするか、または屈折率差を小さくすれば、レンズ基材と被膜との界面での反射が抑制され、界面は観察されなくなると考えられる。しかし、特許文献2に記載の方法では、レンズ基材とハードコート膜との屈折率差を小さくしても、外観検査で界面に存在する機械加工痕が観察されてしまう。この点について、本発明者らは検討を重ね、以下の知見を得た。
ハードコート膜は、屈折率の低い有機ケイ素化合物と屈折率の高い微粒子状金属酸化物を分散させて形成される。そのため、ハードコート膜全体としてはレンズ基材と同等の屈折率を有する場合でも、ハードコート膜内部には屈折率の分布があるため、微小領域で見れば、ハードコート膜とレンズ基材との屈折率は異なる。本発明者らは、このハードコート膜内部の屈折率分布が、ハードコート膜を形成しても外観検査によって表面欠陥が観察される原因ではないかと推定した。
そこで、本発明者らは、上記知見に基づき更に検討を重ねた結果、研削および/または切削加工後のレンズ表面に所定の塗布液を塗布することにより、表面粗さと表面欠陥の問題を同時に解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、上記目的を達成する手段は、以下の通りである。
[1]レンズ基材の少なくとも一方の面を研削および/または切削加工する工程と、
研削および/または切削加工した面上に被膜を形成する工程と、
を含むレンズの製造方法であって、
前記被膜は、少なくとも一種のポリイソシアナート化合物と少なくとも一種のポリチオール化合物を含む塗布液を塗布し、次いで該塗布液に硬化処理を施すことによって形成される、前記レンズの製造方法。
[2]前記研削および/または切削加工後のレンズ基材は、JIS-T7313に示される視覚的な検査により表面欠陥が観察される[1]に記載のレンズの製造方法。
[3]前記被膜と前記レンズ基材との屈折率差は0.05以下である[1]または[2]に記載のレンズの製造方法。
[4]前記レンズ基材は、ポリチオウレタンを主成分とする[1]〜[3]のいずれかに記載のレンズの製造方法。
[5]前記塗布液はレベリング剤を更に含む[1]〜[4]のいずれかに記載のレンズの製造方法。
[6]前記レベリング剤は、ポリオキシアルキレン−ジメチルポリシロキサンコポリマーである[5]に記載のレンズの製造方法。
[7]JIS-T7313に示される視覚的な検査により表面欠陥が観察されるレンズ基材上にポリチオウレタンを主成分とする被膜を有するレンズ。
[8]前記レンズは、JIS-T7313に示される視覚的な検査により表面欠陥が観察されない請求項7に記載のレンズ。
[9]前記被膜と前記レンズ記載との屈折率差は0.05以下である[7]または[8]に記載のレンズ。
[10]前記レンズ基材は、ポリチオウレタンを主成分とする[7]〜[9]のいずれかに記載のレンズ。
[11]前記被膜はレベリング剤を更に含む[7]〜[10]のいずれかに記載のレンズ。
[12]前記レベリング剤は、ポリオキシアルキレン−ジメチルポリシロキサンコポリマーである[11]に記載のレンズ。
[13]少なくとも一種のポリイソシアナート化合物と少なくとも一種のポリチオール化合物を含むレンズ表面欠陥補修用塗布液。
[14]前記レンズはポリチオウレタンを主成分とするレンズである[13]に記載のレンズ表面欠陥補修用塗布液。
本発明によれば、研削および/または切削加工後の研磨を行うことなく、高品質なレンズを得ることができる。
[レンズの製造方法]
本発明のレンズの製造方法は、レンズ基材の少なくとも一方の面を研削および/または切削加工する工程と、研削および/または切削加工した面上に被膜を形成する工程とを含み、前記被膜を、前記研削および/または切削加工した面上に、少なくとも一種のポリイソシアナート化合物と少なくとも一種のポリチオール化合物を含む塗布液を塗布し、次いで該塗布液に硬化処理を施すことによって形成するものである。
前述のように、研削および/または切削加工面を有するレンズ基材に対し、JIS-T7313に示されている視覚的な検査を行うと切削加工痕が目視で観察される。また、前記レンズ基材に所定の光を入射させると、出射側に配置したスクリーンに切削加工痕の投影像が観察される。更に、研削および/または切削加工時等にレンズ基材表面に傷が生じた場合には、その傷も前述の視覚的な検査および投影検査で確認されることがある。このような表面欠陥が観察されるレンズは、製品レンズとして出荷することはできない。更に、研削および/または切削加工後のレンズ表面は、そのままでは平滑性に劣りレンズとして使用することは困難である。
それに対し、本発明では、研削および/または切削加工後のレンズ表面に前記塗布液を塗布して被膜を形成することにより、前記JIS-T7313に示される視覚的な検査で研削および/または研削の加工痕等の表面欠陥が観察されないレンズ、更には前記投影検査により表面欠陥の投影像が観察されないレンズを得ることができる。更に、前記被膜によるマスキング効果により、レンズ表面の平滑性を高めることができる。
前記被膜は、少なくとも一種のポリイソシアナート化合物と少なくとも一種のポリチオール化合物を含む塗布液に硬化処理を施すことによって形成される、ポリチオウレタンを主成分とする被膜である。ここで、「主成分とする」とは、被膜中の50質量%以上をポリチオウレタンが占めることをいう。
前記ポリイソシアナート化合物は、ポリチオール化合物と反応してポリチオウレタンを形成し得るものであればよく、特に限定されるものではないが、キシリレンジイソシアナート、テトラメチルキシリレンジイソシアナート、テトラメチルヘキサメチレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアナート、ビス(イソシアナートメチル)ビシクロ(2,2,1)ヘプタン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、ビス(イソシアナートメチル)−1,4−ジチアン等の難黄変ないしは無黄変ポリイソシアナート化合物であることが好ましい。前記塗布液は、一種または二種以上のポリイソシアナート化合物を含むことができる。
前記ポリチオール化合物は、ポリイソシアナート化合物と反応してポリチオウレタンを形成し得るものであればよく、特に限定されるものではないが、ポリチオール化合物としてはペンタエリスリトールメルカプトアセテート、ペンタエリスリトールメルカプトプロピオネート、トリメチロールプロパントリスメルカプトアセテート、トリメチロールプロパントリスメルカプトプロピオネート、トリメルカプトプロパン、ジメルカプトエチルスルフィド、ビス(メルカプトエチル)ジスルフィド、ビス(メルカプトエチル)チオメルカプトプロパン、ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン等のポリチオール化合物であることが好ましい。前記塗布液は、一種または二種以上のポリチオール化合物を含むことができる。
前記塗布液中のポリイソシアナート化合物とポリチオール化合物の混合比率は、被膜の透明性および耐候性の観点から、ポリイソシアナート化合物中のNCO基とポリチオール化合物中のSH基とのモル比(NCO/SH)で、0.9〜1.1の範囲とすることが好ましい。また、必要に応じて溶剤で希釈することも可能であるが、後述するように溶剤は用いない方が好ましい。
投影検査により切削加工痕等の表面欠陥の投影像が観察されることをより効果的に防止するためには、前記塗布液を硬化することにより形成される被膜とレンズ基材との屈折率(ne)差を0.05以下とすることが好ましい。なお、レンズ基材の屈折率と被膜の屈折率は、どちらが大きくても構わない。また、本発明によれば、レンズ基材と被膜との屈折率を完全に一致させなくても、外観検査により表面欠陥が観察されない高品質なレンズを得ることができる。
前記被膜の屈折率は、塗布液に添加するポリイソシアナート化合物とポリチオール化合物の種類および組み合わせによって調整することができる。
例えば、屈折率(ne)1.55以下の被膜を形成するために好ましい組み合わせの一例としては、ポリイソシアナート化合物としてヘキサメチレンジイソシアナート、テトラメチルキシリレンジイソシアナート、テトラメチルヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナートからなる群から選ばれる少なくとも一種と、ポリチオール化合物としてペンタエリスリトールメルカプトプロピオネート、トリメチロールプロパントリスメルカプトプロピオネート、ジメルカプトエチルスルフィドからなる少なくとも一種との組み合わせを挙げることができる。
また、屈折率(ne)1.55〜1.65の被膜を形成するための組み合わせの例としては、イソシアナート化合物としてヘキサメチレンジイソシアナート、テトラメチルキシリレンジイソシアナート、テトラメチルヘキサメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナートジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアナートメチル)ビシクロ(2,2,1)ヘプタンからなる群から選ばれる少なくとも一種と、ポリチオール化合物としてペンタエリスリトールメルカプトアセテート、トリメチロールプロパントリスメルカプトアセテート、ジメルカプトエチルスルフィド、ビス(メルカプトエチル)チオメルカプトプロパン、ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアンからなる群から選ばれる少なくとも一種との組み合わせを挙げることができる。
さらに屈折率(ne)1.65超の被膜を形成するために好ましい組み合わせの一例としては、イソシアナート化合物として、キシリレンジイソシアナート、ビス(イソシアナートメチル)−1,4−ジチアンからなる群から選ばれる少なくとも一種と、ポリチオール化合物としてビス(メルカプトエチル)チオメルカプトプロパン、トリメルカプトプロパン、ビス(メルカプトエチル)ジスルフィド、ビス(イソシアナートメチル)−1,4−ジチアン化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種との組み合わせを挙げることができる。
前記塗布液は、ポリイソシアナート化合物とポリチオール化合物との反応を促進させるために触媒を含むことが好ましい。前記触媒としては、ポリイソシアナート化合物とポリチオール化合物との反応を促進し得るものであれば特に限定されるものではないが、中でも、モノメチル錫トリクロリド、ジメチル錫ジクロリド、トリメチル錫クロリド、ジブチル錫ジクロリド、トリブチル錫クロリド等のアルキル錫ハライド化合物を用いることが好ましい。アルキル錫ハライド化合物の使用量は、ポリイソシアナート化合物およびポリチオール化合物の量、反応温度等の反応条件を考慮して設定することができるが、一般的には10〜10000ppmの範囲とすることが好ましい。
前記塗布液には、塗布時の濡れ性を向上させて均一な膜を形成するために、レベリング剤を添加することが好ましい。本発明では、各種レベリング剤を使用することができるが、中でもポリオキシアルキレン−ジメチルポリシロキサンコポリマー(例えば日本ユニカー(株)製Y−7006)を用いることが好ましい。塗布液中のレベリング剤の使用量は、塗布液の粘度、濡れ性等に応じて調整することができるが、例えば10〜10000ppmとすることができる。
前記塗布液は、前記成分に加えて、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、染料、顔料、フォトクロミック剤、帯電防止剤等の公知の添加剤を加えて付加価値を付けることもできる。ただし、前述のように、被膜内部に屈折率分布があることは好ましくないため、前記塗布液は、ハードコート膜形成用塗布液に含まれる金属酸化物微粒子のような粒径1nm以上の粒状物を実質的に含まないことが好ましい。ここで、「実質的に含まない」とは、意図的に添加しないという意味であって、不純物として前記粒状物が微量含まれることは許容されるものとする。但し、被膜内部での屈折率分布低減の観点からは、不純物としても前記粒状物を含まないことが好ましい。また、前記塗布液では、屈折率の低下、溶剤の残留を防ぐために、溶剤量を低減することが好ましく、溶剤を使用しないことが更に好ましい。
前記塗布液の粘度は、均一な膜厚の被膜を形成するためには、20℃で測定した値として、5〜200mPa/sとすることが好ましく、10〜100mPa/sとすることが更に好ましい。
前記塗布液は、ポリイソシアナート化合物とポリチオール化合物、および必要に応じて使用される各種添加剤を混合することによって調製することができる。各化合物の添加順序は特に限定されない。レベリング剤以外の成分を均一に混合し、得られた混合物にレベリング剤を添加することが好ましい。また、ポリイソシアナート化合物が原料中の水分と反応して炭酸ガスを生じることを防ぐために、調製した塗布液を、例えば26.6〜2666Pa程度の真空度で攪拌脱気することが好ましい。また、異物の混入を防ぐため、塗布前の塗布液を、例えば平均孔径10μm以下のフィルターで濾過することが好ましい。
塗布液を研削加工面に塗布する方法は、特に限定されず、既存の製造工程に適した公知の塗布方法(例えばスピンコート法やディッピング法等)を選択することができる。塗布量は、所望の被膜厚に応じて設定することが好ましい。形成する被膜の厚さは、例えば2〜100μm、好ましくは4〜50μmであり、レンズ基材表面の加工痕跡の程度や表面粗さを考慮して設定することが好ましい。また、前記塗布前に、塗布液を塗布する面を洗浄することもできる。洗浄液としては、水(純水)または溶剤系液体、洗剤水溶液等を用いることができる。
切削加工面に塗布した塗布液は、例えば加熱重合によって硬化させることができる。具体的には、好ましくは湿度を40%以下に調整した電気炉内に前記塗布液を塗布したレンズ基材を導入し、該電気炉内の温度を、例えば0〜120℃の範囲で徐々に昇温し、所定温度で一定時間保持することによって、前記塗布液を硬化して被膜を形成することができる。前記電気炉内での反応時間は、例えば3〜24時間程度とすることができる。こうして塗布液に硬化処理を施すことにより、三次元架橋した被膜を形成することができる。三次元架橋した被膜は基材表面との密着性に優れるという利点もある。
前記塗布液を塗布するレンズ基材は、好ましくはプラスチックレンズ基材である。具体的には、メチルメタクリレートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチルグリコールビスアリルカーボネートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリカーボネート、ウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、エン−チオール反応を利用したスルフィド、硫黄を含むビニル重合体等を主成分とするレンズ基材であることが好ましく、前記被膜との密着性の観点から、ポリチオウレタンを主成分とするレンズ基材であることが更に好ましい。ここで、「主成分とする」とは、レンズ基材の50質量%以上を前記樹脂成分が占めることをいう。また、前記レンズ基材は、前記樹脂成分以外に、通常プラスチックレンズに使用される、抗酸化剤、紫外線安定化剤、着色防止剤等の各種添加剤を含むこともできる。
レンズ基材表面には、前記塗布液を塗布する前に研削および/または切削加工が施される。前記加工は、レンズ基材の片面のみに行うこともでき、両面に行うこともできる。例えば、メニスカス形状を有するセミフィニッシュレンズの凸面に研削加工を施し、次いで前述のように被膜を形成し、光学面を形成することができる。
前記加工は、研削加工および切削加工に通常使用される工作機械を用いて行うことができる。工作機械としては、数値制御装置を備えている工作機械を使用することが好ましい。また、工作機械の刃具は、切削加工であればダイヤモンドバイトや超硬カッターなど、研削加工であればメタルボンドや電着のダイヤモンドホイールなどを備えていることが好ましい。例えば、眼鏡レンズを製造する場合、レンズ基材のいずれか一方の面または両面に、眼鏡レンズの処方に基づくレンズ面形状を、数値制御用加工データに基づく数値制御による切削および/または研削加工によって形成することができる。具体的には、シュナイダー(SCHNEIDER)社製のカーブジェネレータ(HSC101GTh)を用いて加工することができる。
前記加工を施したレンズ基材に対して、JIS-T7313に示される視覚的な検査を行うと、加工痕等の表面欠陥が目視で観察される。ここで、JIS-T7313に示される視覚的な検査とは、JIS-T7313附属書Aに示されている材料および表面の品質評価方法(光源と観察者の間に検査対象のレンズを配置してレンズ上の表面欠陥の有無を観察する検査方法)をいうものとする。例えば、旋盤による切削加工を施したレンズ基材に対して前記検査を行うと、刃物により残される一定周期の渦状の起伏(切削加工痕)が目視で観察される。また、前記機械加工時等にレンズ基材表面が傷付いた場合には、その傷も目視で観察される。
それに対し、本発明では、前記加工後のレンズ基材表面に、前述の被膜を形成することにより、前記視覚的な検査によって前記表面欠陥が観察されないレンズを得ることができる。なお、本発明における「表面欠陥」は、前記切削加工痕のように機械加工の刃物により残される加工痕跡や、レンズ基材製造時、機械加工時等に生じた傷等のレンズ基材表面に生じた欠陥を含むものとする。
また、本発明では、レンズの外観検査方法として、レンズに所定の光を入射させて出射側に配置したスクリーンに加工痕や傷等の表面欠陥の投影像が現れるか否かで良品・不良品を判定する投影検査を採用することもできる。前記投影検査はシュリーレン法を応用した検査方法であり、例えば超高圧水銀灯を使用した投影検査装置を用いて行うことができる。この投影検査では、投影検査装置の超高圧水銀灯(例えばウシオ電機製)を点灯して被検レンズに照射し、光学面の投影画像をスクリーンに投射する。そして、このスクリーン上に映し出された光学面の投影画像を作業者が肉眼で観察し、切削加工痕等の表面欠陥がスクリーン上に現れるか否かを目視で検査する。この方法によれば、表面欠陥をより鮮明に観察することができるため、比較的軽微な表面欠陥も投影像として観察される傾向がある。本発明では、前記被膜を形成することにより、この投影検査によっても表面欠陥の投影像が観察されないレンズを得ることが好ましい。
また、前記加工後のレンズ基材表面は粗く、そのままでは製品レンズとして使用することは困難である。表面粗さの指標としては、粗さパラメータRt値を用いることができる。前記加工後のレンズ基材表面の表面粗さは、Rt値で、例えば0.08〜0.6μm程度である。この加工後のレンズ基材表面に、前記被膜を形成することにより、レンズ基材表面(被膜表面)の表面粗さを、Rt値で、例えば、0.01〜0.02μmとすることができる。こうして、加工面の粗さをマスキングして高い表面平滑性を有する光学面を形成することができる。
前記Rt値を求めるための表面粗さ測定機としては、テーラーホブソン(Taylor Hobson)社製のフォームタリサーフ装置(例えばモデルFTS PGI 840)等を用いることが好ましい。Rt値の算出はJIS規格(B0601-2001、B0633-2001、B0651-2001等)に準じて行うことが望ましく、基準長さを標準個数倍した長さに等しい一つの評価長さのデータからRt値を求めることができる。粗さパラメータRt値は、評価長さにおける粗さ曲線の山高さ(profile peak height)の最大値と谷深さ(profile valley depth)の最大値との和となっている。表面粗さRt(μm)は、例えば前記測定機により求められる複数の粗さパラメータRt値=Xi(i=1,- - - - ,n)を相加平均することでデータの不確かさができるだけ小さくなるようにすることが望ましい。ここで適用しているフィルタはガウシアンである(下記式参照;式中、nは、例えば1、2、3等の整数である)。
1 n
Rt(μm)= ― Σ Xi Xi(i=1,- - - - ,n)
n i=1
前記被膜上には、ハードコート膜を形成することができる。更に、このハードコート膜上に、反射防止膜を有することもできる。
前記ハードコート膜の材料は、特に限定されず、公知の有機ケイ素化合物及び金属酸化物コロイド粒子よりなるコーティング組成物を使用することができる。
前記有機ケイ素化合物としては、例えば下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物またはその加水分解物が挙げられる。
(R91a’(R93b’Si(OR924−(a’+b’) ・・・(I)
(式中、R91は、グリシドキシ基、エポキシ基、ビニル基、メタアクリルオキシ基、アクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、フェニル基等を有する有機基、R92は炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアシル基または炭素数6〜10のアリール基、R93は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基、a’およびb’はそれぞれ0または1を示す。)
前記R92の炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、直鎖または分岐のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
前記R92の炭素数1〜4のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、オレイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
前記R92の炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
前記R93の炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、直鎖または分岐のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
前記R93の炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
前記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、メチルシリケート、エチルシリケート、n−プロピルシリケート、i−プロピルシリケート、n−ブチルシリケート、sec−ブチルシリケート、t−ブチルシリケーテトラアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアミロキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、メチルトリベンジルオキシシラン、メチルトリフェネチルオキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、α−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、(3、4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、(3、4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリフェノキシシラン、γ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリアセトキシシラン、3、3、3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、β−シアノエチルトリエトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン等が挙げられる。
前記金属酸化物コロイド粒子としては、例えば、酸化タングステン(WO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタニウム(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化スズ(SnO)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化アンチモン(Sb)等が挙げられ、単独又は2種以上を併用することができる。
前記反射防止膜の材質および形成方法は特には限定されず、公知の無機酸化物よりなる単層、多層膜を使用することができる。前記無機酸化物としては、例えば、二酸化ケイ素(SiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ニオブ(Nb)酸化イットリウム(Y)等が挙げられる。
本発明のレンズの製造方法において使用されるレンズ基材、および必要に応じて設けられるハードコート膜、反射防止膜の厚さは特に限定されないが、レンズ基材の厚さは、例えば1〜30mm、ハードコートの厚さは、例えば0.5〜10μm、反射防止膜の厚さは、例えば0.1〜5μmとすることができる。また、前記被膜の厚さについては、前述の通りである。
[レンズ]
更に、本発明は、JIS-T7313に示される視覚的な検査により表面欠陥が観察されるレンズ基材上にポリチオウレタンを主成分とする被膜を有するレンズに関する。前記被膜は、好ましくは前述の塗布液を塗布および硬化することによって形成された被膜である。前記レンズの詳細は、先に本発明のレンズの製造方法について述べた通りである。
[レンズ表面欠陥補修用塗布液]
更に、本発明は、少なくとも一種のポリイソシアナート化合物と少なくとも一種のポリチオール化合物を含むレンズ表面欠陥補修用塗布液に関する。本発明のレンズ表面欠陥補修用塗布液の詳細は、本発明のレンズの製造方法において使用される塗布液について述べた通りである。前述のJIS規格の検査で表面欠陥が観察されるレンズ表面に、前記塗布液を塗布して硬化することにより、前記検査によって表面欠陥が観察されない高品質なレンズを得ることができる。更には、前記投影検査によって表面欠陥の投影像が観察されるレンズ表面に、前記塗布液を塗布して硬化することにより、前記投影検査によって表面欠陥の投影像が観察されない高品質なレンズを得ることができる。前記塗布液は、表面欠陥を有するレンズ表面全面に塗布することもでき、レンズ表面の表面欠陥を含む一部分のみに塗布することもできる。前記塗布液の塗布は、スプレー法、ディッピング法、スピンコート法等の公知の方法で行うことができる。補修の対象となる表面欠陥は、前述のように、切削加工痕のように機械加工の刃物により残される加工痕跡や、レンズ基材製造時、機械加工時等に生じた傷等のレンズ基材表面に生じた欠陥が含まれる。また、補修対象となるレンズとしては、先に記載の各種プラスチックレンズを挙げることができ、中でもポリチオウレタンを主成分とするレンズが好ましい。
以下に、実施例に基づき本発明を更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
[実施例1]
(1)レンズ基材の切削加工
シュナイダー社のHSC101GThカーブジェネレータを使用して、セミフィニッシュレンズ基材(屈折率(ne)1.596、HOYA(株)製EYAS材)の凸面側を切削加工することにより光学面を作製した。切削加工に際しては、荒加工を行ったあと、中仕上げ加工をして、その後、仕上げ加工を行なった。仕上げ加工の切削刃物として単結晶ダイヤモンドを使用した。
切削加工後のレンズ基材に対してJIS-T7313に示される視覚的な検査および前記シュリーレン法を応用した投影検査を行ったところ、いずれの検査でも渦状の切削加工痕が観察された。更に、切削加工されたレンズ基材の光学面に対して、フォームタリサーフ装置を用いて粗さ測定を行ったところ、表面粗さRt値は0.32μmであった。粗さパラメータRt値の算出において、カットオフ値(Lc)は0.8mmとし、バンド幅は300:1とした。評価長さは粗さ曲線の基準長さの5倍とした。
(2)塗布液の調製
ビーカーにポリイソシアナート化合物としてビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサンを47.53質量部、紫外線吸収剤としてシプロ化成(株)製SEESORB707を0.1質量部、触媒としてジメチルチンジクロリドを0.45質量部加えて溶解させた後、ポリチオール化合物としてペンタエリスリトールテトラキスメルカプトアセテートを26.47質量部、ビスメルカプトメチルジチアンを26.00質量部加え混合した。
ほぼ均一になったところで日本ユニカー(株)Y−7006(ポリオキシアルキレン−ジメチルポリシロキサンコポリマー)を0.06質量部加えて混合し、1333Paの真空下で攪拌しながら30分間脱気を行い、平均孔径5μmのPTFEメンブレンフィルターにより異物を除去して塗布液を得た。得られた塗布液の粘度は45mPa・s(20℃)であった。
(3)被膜の形成
上記(2)で得られた塗布液を、前記(1)で得られた切削加工後のレンズ基材凸面にスピンコーターを用いて、約70rpmの回転速度でレンズ基材表面中心から円周方向に向かいコーティング液5g程度を全面に広がるように塗り付け、最終的には1000rpmの速度で10秒間回転させて膜厚が約20μmになるようにした。
塗布液を塗布したレンズ基材を電気炉に導入した後、電気炉内で20℃から120℃まで24時間かけて緩やかに昇温加熱し、120℃で2時間保温して塗布液を硬化させて被膜を形成した。得られた被膜の屈折率を測定したところ、屈折率(ne)1.596であった。得られたレンズに対してJIS-T7313に示される視覚的な検査および前記シュリーレン法を応用した投影検査を行ったところ、いずれの検査でも切削加工痕等の表面欠陥は観察されず、光学的に均一なレンズが得られたことが確認された。更に、前記被膜の表面粗さRt値は0.017μmであり、前記被膜によって切削加工面の粗さをマスキングすることができた。なお、前記被膜の表面粗さはフォームタリサーフ装置を用いて測定した。粗さパラメータRt値の算出では、カットオフ値(Lc)は0.08mmとし、バンド幅は30:1とした。評価長さは粗さ曲線の基準長さの11倍とした。また、複数回の粗さ測定を行って、それぞれ粗さパラメータRt値の算出を行ってその相加平均を求めた。
[実施例2]
切削加工条件を変えて、表面粗さRt値が0.48μmの切削加工面を作製し、ポリイソシアナート化合物としてキシリレンジイソシアナート44.00質量量部、ポリチオール化合物としてペンタエリスリトールテトラキスメルカプトプロピオネート56.00質量部、触媒としてジメチルチンジクロリド0.05質量部を使用した以外は、実施例1と同様の方法で被膜付きレンズを得た。実施例2において使用した塗布液の粘度は50mPa・s(20℃)であった。形成した被膜の屈折率(ne)は1.596であった。
切削加工後のレンズ基材に対してJIS-T7313に示される視覚的な検査および前記シュリーレン法を応用した投影検査を行ったところ、いずれの検査でも渦状の切削加工痕が観察された。一方、被膜形成後のレンズに対して同様の外観検査を行ったところ、切削加工痕等の表面欠陥の投影像は観察されなかった。また、前記被膜の表面粗さRt値を測定したところ、0.011μmであった。実施例2における粗さパラメータRt値の算出は実施例1と同様の方法で行った。
[実施例3]
屈折率(ne)1.669のセミフィニッシュレンズ基材(HOYA(株)製EYNOA材)の凸面に対して実施例1における切削加工に準じて切削加工を施し、切削加工面を作製した。この切削加工面上に、ポリイソシアナート化合物としてキシリレンジイソシアナート47.00質量部、ポリチオール化合物としてビス(メルカプトエチル)チオメルカプトプロパン43.35質量部、触媒としてジメチルチンジクロリド0.05質量部を使用した以外は実施例1と同様の方法で被膜付きレンズを得た。実施例3において使用した塗布液の粘度は25mPa・s(20℃)であった。形成した被膜の屈折率(ne)は1.665であった。
切削加工後のレンズ基材に対してJIS-T7313に示される視覚的な検査および前記シュリーレン法を応用した投影検査を行ったところ、いずれの検査でも渦状の切削加工痕が観察された。一方、被膜形成後のレンズに対して同様の外観検査を行ったところ、切削加工痕等の表面欠陥は観察されなかった。
[実施例4]
ポリイソシアナート化合物としてビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン44.29質量部、ポリチオール化合物としてペンタエリスリトールテトラキスメルカプトプロピオネート55.71質量部、触媒としてジメチルチンジクロリド0.45質量部を使用した以外は実施例2と同様の方法で被膜付きレンズを得た。実施例4において使用した塗布液の粘度は50mPa・s(20℃)であった。形成した被膜の屈折率(ne)は1.546であった。なお、実施例4において被膜を形成したレンズ基材は、実施例2と同様に屈折率(ne)が1.596、切削加工面の表面粗さRt値は0.48μmであった。切削加工後のレンズ基材に対してJIS-T7313に示される視覚的な検査および前記シュリーレン法を応用した投影検査を行ったところ、いずれの検査でも渦状の切削加工痕が観察された。一方、被膜形成後のレンズに対して同様の外観検査を行ったところ、JIS-T7313に示される視覚的な検査では切削加工痕等の表面欠陥は観察されなかった。前記投影検査では、やや切削痕らしき表面欠陥が観察されたが、製品として許容されるレベルであった。また、前記被膜の表面粗さRt値を測定したところ、0.011μmであった。粗さパラメータRt値の算出は実施例1と同様の方法で行った。
[比較例]
(1)レンズ基材の切削加工
実施例1において使用したセミフィニッシュレンズ基材(屈折率(ne)1.596)と同様のセミフィニッシュレンズ基材を3つ用意し、各レンズ基材に対して実施例1における切削加工に準じて切削加工を施し、表1に示す表面粗さの切削加工面を有する3つのレンズ基材を得た。これらレンズ基材に対してJIS-T7313に示される視覚的な検査および前記シュリーレン法を応用した投影検査を行ったところ、いずれの検査でも渦状の切削加工痕が観察された。なお、表1中の3種類の表面粗さの違うレンズ基材を投影検査で比較すると、表面粗さが最も粗い試料1は粗い加工痕跡の投影像が目視で観察でき、表面粗さが小さい試料3は細かい加工痕跡の投影像が目視で観察でき、試料1と試料3の中間の表面粗さを有する試料2では試料1と試料3との間に位置するレベルの加工痕跡の投影像が目視で観察できた。つまり、表面粗さが粗いレンズ基材で観察される加工痕跡の投影像は粗く、より細かい表面粗さを有するレンズ基材で観察される加工痕跡の投影像はより細かく見えた。
(2)ハードコート液の調製
5℃雰囲気下、変性酸化第二スズ−酸化ジルコニウム−酸化タングステン−酸化珪素複合体メタノールゾル45質量部とγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン15質量部およびテトラエトキシシラン3質量部とを混合し、1時間攪拌した。その後、0.001モル/L濃度の塩酸4.5質量部を添加し、50時間攪拌した。その後、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)25質量部、ダイアセトンアルコール(DAA)9質量部およびアルミニウムトリスアセチルアセトネート(AL−AA)1.8質量部、過塩素酸アルミニウム0.05質量部を順次添加し、150時間攪拌した。得られた溶液を平均孔計0.5μmのフィルターでろ過してハードコート液を得た。
(3)ハードコート層の形成
得られたハードコート液を、上記(1)で作製したレンズ基材の切削加工面上に塗布し、1500〜1800rpmの回転数で数秒間スピンを行い、次に80℃〜120℃の温度を1〜2時間かけて加熱硬化を行った。この工程を2回繰り返してハードコート層を形成した。
レンズ基材の切削加工面、1回目および2回目の膜付け後のハードコート層表面の表面粗さRt値を表1に示す。切削加工面および1回目の膜付け後のハードコート層表面の粗さパラメータRt値の算出では、カットオフ値(Lc)0.8mm、バンド幅100:1、評価長さは粗さ曲線の基準長さの11倍とし、2回目の膜付け後のハードコート層表面の粗さパラメータRt値の算出では、カットオフ値(Lc)0.08mm、バンド幅30:1、評価長さは粗さ曲線基準長さの62倍とした。1回目の膜付けで形成したハードコート層の厚さは2〜3μm程度であり、2回目の膜付け後のハードコート層の総厚は4〜6μm程度であった。形成されたハードコート層の屈折率(nd)は、1.589であった。
1回目の膜付け後および2回目の膜付け後のレンズに対してJIS-T7313に示される視覚的な検査および前記シュリーレン法を応用した投影検査を行ったところ、いずれの検査でも、加工痕跡が観察された。また、投影検査による投影像の見え方は切削加工面の投影像と大きな変化はなかった。また、表1に示すように、2回目の膜付け後のレンズ表面(ハードコート層表面)は、1回目の膜付け後と比べて平滑化されたにもかかわらず、投影検査の結果は、1回目の膜付け後と2回目の膜付け後で大きな変化はなかった。以上の結果から、切削加工面上にハードコート層を形成した場合、表面粗さを改善することはできるが、レンズ基材とハードコート層の屈折率を合わせたとしても外観検査によって切削加工痕が観察されることが確認された。
本発明の製造方法によって得られるレンズおよび本発明のレンズは、眼鏡レンズとして好適である。

Claims (8)

  1. ポリチオウレタンを主成分とするレンズ基材の少なくとも一方の面を研削および/または切削加工する工程と、
    研削および/または切削加工した面上に被膜を形成する工程と、
    を含む眼鏡レンズの製造方法であって、
    前記被膜は、少なくとも一種のポリイソシアナート化合物と少なくとも一種のポリチオール化合物を含む塗布液を塗布し、次いで該塗布液に硬化処理を施すことによって形成されるポリチオウレタンを主成分とし、かつ粒径1nm以上の粒状物を実質的に含まない被膜であり、
    その上に前記被膜が形成される前記面は、JIS-T7313に示される視覚的な検査により表面欠陥が観察される面であり、該面上に研磨加工を経ることなく前記被膜を形成することによりJIS-T7313に示される視覚的な検査により表面欠陥が観察されない眼鏡レンズを得る、前記眼鏡レンズの製造方法。
  2. 前記被膜と前記レンズ基材との屈折率差は0.05以下である請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
  3. 前記塗布液はレベリング剤を更に含む請求項1または2に記載の眼鏡レンズの製造方法。
  4. 前記レベリング剤は、ポリオキシアルキレン−ジメチルポリシロキサンコポリマーである請求項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
  5. JIS-T7313に示される視覚的な検査により表面欠陥が観察されるポリチオウレタンを主成分とするレンズ基材上にポリチオウレタンを主成分とし、かつ粒径1nm以上の粒状物を実質的に含まない被膜を有する、JIS-T7313に示される視覚的な検査により表面欠陥が観察されない眼鏡レンズ。
  6. 前記被膜と前記レンズ基材との屈折率差は0.05以下である請求項5に記載の眼鏡レンズ。
  7. 前記被膜はレベリング剤を更に含む請求項5または6に記載の眼鏡レンズ。
  8. 前記レベリング剤は、ポリオキシアルキレン−ジメチルポリシロキサンコポリマーである請求項に記載の眼鏡レンズ。
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