JP5275505B1 - 柱の補強構造 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 建造物の柱1の周囲をその柱の表面との間に間隔を保って複数の鋼板2で囲み、これら隣り合う各鋼板2の連結部2a,2bを重ねあわせて結合手段5により結合するとともに、これら鋼板2の外周面に接着剤を塗布し、この接着剤の塗布面に帯状繊維シート3を巻き付けてなり、柱1と鋼板2のとの間にグラウト材4を充填する一方、上記結合手段5のせん断強度を、上記鋼板2の降伏点強度よりも小さくした。
【選択図】 図1
Description
この従来の補強構造は、添付の図6に示すように、断面四角形の柱1の周囲を4枚の鋼板2で囲うが、これら鋼板2はその柱1の軸方向に直交する面での断面をL字状にしたもので、各鋼板2の直角部をそれぞれ柱1の4つの角に対応させて設置する。そして、図6に示すように、互いに隣接する一方の鋼板2に、他方の鋼板が重ね合わされるようにする。このとき、上記鋼板2は、それら重ね合わせ部分が互いに移動可能にしている。
上記のように帯状繊維シート3で4枚の鋼板2を結束したら、今度は、4枚の鋼板2と柱1との間に形成した空間にグラウト材4を充填する。このグラウト材4が固化すると、柱1の側面に密着したグラウト材4と鋼板2とが一体化して柱1が補強される。
また、上記鋼板2はそれらの重ね合わせ部分で互いに移動可能にしているため、地震などによって柱が変形したときには隣り合う鋼板2が相対移動する。このように鋼板2が相対移動するので、そのときには、帯状繊維シート3が荷重を支えることになる。
図示の通り、鋼板は、降伏点P1を超えるまでは荷重に対する伸びが小さく、この間は弾性変形するが、降伏点P1を超えると荷重が増加しなくても伸び続け、荷重を除いても元に戻らなくなってしまう。
これに対し、帯状繊維シートは、低荷重領域においては鋼板に比べて伸びが大きいが、荷重がかなり大きくなるまで一定の伸び率を保つことができる。
このように、上記従来の補強構造では、鋼板2が荷重を受けるのは地震などによる荷重発生の初期段階のみで、その後はほとんどの荷重を帯状繊維シート3のみで受けることになる。
しかしながら、この帯状繊維シート3の変形特性は、図7のグラフyに示すように低荷重領域においても変形量が大きいので、柱の変形を十分に支えきれない。そのために地震発生時に柱が大きく変形しやすくなり、柱の破壊の原因になるという問題があった。
しかし、鋼板2が互いに強固に固定されてしまうと、瞬間的にでも上記降伏点P1を超える荷重が作用したときに鋼板2は損傷し、元に戻らなくなってしまう。このように損傷された鋼板2が帯状繊維シート3で囲われたままになっていると、それを修復することが難しくなるという問題があった。
この発明の目的は、鋼板と帯状繊維シートの両者の特性を十分に活かして、補強効果をより高めることができる柱の補強構造を提供することである。
また、結合手段のせん断強度を鋼板の降伏点強度よりも小さく設定しているので、結合手段がせん断されたとしても鋼板そのものが損傷されるわけではない。したがって、結合手段がせん断されても鋼板まで損傷することはなく、それらの補修も簡単になる。
また、グラウト材内にネジ部材の先端を突出させることによって、ネジ部材のアンカー効果を期待できる。このようなアンカー効果が発揮されれば、グラウト材と鋼板との結合力がさらに高まり、結果として柱とグラウト材及び鋼板が一体化して補強効果が向上する。
特に、グラウト材中に突出する部分にネジ山が形成されているので、グラウト材がネジ山間に入り込んでネジ部材とグラウト材との接着面積が大きくなる。そのため、ネジ部材に対するグラウト材の接着力が大きくなる。したがって、柱とグラウト材及び鋼板の一体化がさらに進む。
また、ネジ部の突出長さが長い分、ネジ部材とグラウト材との接触面積が大きくなって、より大きなアンカー効果を得ることができる。
また、溶接のほうがネジ締めによる結合よりも結合強度を高くすることができる。ただし、第3の発明と第6の発明とでは、それらの用途や作業現場の状況などを考慮して、いずれかを選択すればよい。
そして、上記連結部2a,2bの結合部分の拡大断面図が図3である。この図3からも明らかなように、上記ネジ部材5は頭部5aとネジ部5bとからなり、ネジ部5bの先端を尖らせたドリリングタッピングネジからなっている。
また、上記ネジ部材5のネジ部5の長さL3を、図3に示すように鋼板2の連結部2aの厚さL1と連結部2bの厚さL2との合計厚さよりも長くし、連結部2a,2bを結合したとき、ネジ部5bの先端が連結部2bから突出するようにしている。この突出した部分は、鋼板2と柱1との間に充填したグラウト材4内に固定されることになる。
このような鋼板2で構成された筒で柱1の周囲を囲んだら、上記鋼板2の外周全面に接着剤を塗布し、この接着剤の上から帯状繊維シート3を巻き付けるようにしている。ここでは、上記鋼板2の長手方向の長さよりも短い幅の帯状繊維シート3を鋼板2の長手方向に少しずつずらして接着し、上記鋼板2の外周全面を覆うようにしている。
なお、帯状繊維シート3を巻き付ける際には、帯状繊維シート3を鋼板2に塗布した接着剤に強く押し付け、上記接着剤を繊維の間に十分浸透させるとともにこの接着剤が帯状繊維シート3の表面まで押し出されるようにする。このようにすれば、接着剤が硬化したとき、帯状繊維シート3が接着剤と一体化してその強度が向上する。
なお、この第1実施形態では、上記連結部2a,2bを、頭部5aを有するネジ部材5で結合したので、図1,3に示すように、鋼板2の外周面には頭部5aが突出して段差が形成されてしまう。この場合には、頭部5aの周囲にパテなどを塗布して上記段差を少なくしてから上記帯状繊維シート3を貼りつければ、帯状繊維シート3の鋼板2に対する密着性を高めることができる。
上記鋼板2の降伏点強度とは、図4、7に細線で示すグラフx上の降伏点P1に相当する耐力のことである。
また、上記ネジ部材5のせん断強度とは、ネジ部材5が、結合している一対の連結部2a,2b間に作用するせん断力によってせん断される限界耐力で、この実施形態では図4に示す降伏点P1に相当する荷重よりも小さい点P2に対応する力である。
なお、上記複数のネジ部材5が全てせん断された場合には、隣り合う鋼板2同士が全体的に相対移動可能になるが、一部のネジ部材5のみがせん断された場合にも、そのせん断された部分において隣り合う鋼板2が相対移動可能になる。
また、ネジ部材5がせん断されるまでには、ネジ部材5が変形するが、この変形によっても、隣り合う鋼板2が相対移動可能になる。
したがって、この第1実施形態の補強構造では、ネジ部材5が大きく変形したりあるいはせん断されたりするまでは、鋼板2の特性を利用できる。
そして、荷重が上記図4の点P2以上になって、ネジ部材5がせん断されてしまえば、グラフyに平行な帯状繊維シート3の変形特性に完全に移行する。
上記のように複合体としての特性を期待できるので、図4に示すグラフzよりもさらに変形量を小さくして柱1を破壊し難くすることが可能になる。
また、ネジ部材5がせん断された後は、上記複合体としての機能はなくなるが、帯状繊維シート3の拘束力によって柱1の耐力を維持することができ、柱1の崩壊を防止できる。
また、この第1実施形態では、ネジ部5bの先端を固化したグラウト材4中に突出させているため、ネジ部材5を支持する点が多くなるが、その支持する点が多くなればなるほど、ネジ部材5に作用するせん断荷重が分散される。このようにせん断荷重が分散されるので、実質的にネジ部材5のせん断強度が上がることになる。
特に、グラウト材中に突出する部分にネジ山が形成されているので、グラウト材がネジ山間に入り込んで鋼板とグラウト材との接着面積が大きくなる。したがって、柱とグラウト材及び鋼板の一体化がさらに進む。
また、上記のように結合手段としてネジ部材5を用いた場合には、溶接と比べて、現場で火花を発生しないというメリットがある。さらに、ネジ締め作業は溶接に比べて個人差が出にくいので、作業性が安定する。
この第1実施形態は、上記のように結合手段としてネジ部材5を用いたが、このネジ部材5に替えてボルト及びナットを結合手段として用いてもよい。
この第2実施形態では、上記ネジ部材5に替えて溶接部によって結合手段を構成したことが特徴である。その他の構成は上記第1実施形態と同じである。第1実施形態と同じ構成要素には、同じ符号を用いるとともに、以下の説明にも図2、4を参照する。
この第2実施形態の貫通孔2cは、鋼板2の長手方向に所定の間隔を保って複数形成したものであり、この貫通孔2c介して栓溶接の溶接部分6は、図2に示す第1実施形態のネジ部材5に替わるものであり、柱1の軸方向に所定の間隔を保って複数設けられる。
したがって、鋼板2の耐力を有効に利用しながら、鋼板2の損傷を防止し、帯状繊維シート3の靱性や拘束効果も利用できる。
また、鋼板2の外周全面に帯状繊維シート3を接着することによって、帯状繊維シート3と鋼板2とが一体化することによる相乗効果を期待できることも第1実施形態と同様である。
また、栓溶接の場合には、結合後の鋼板2の外周面に、上記ネジ部材の頭部5aや溶接部が突出しないため、帯状繊維シート3の密着性を保つために段差の修正作業が必要ないというメリットもある。
なお、上記各実施形態においては、柱1の断面形状を四角形にしたが、柱の断面形状は特に限定されない。例えば、円形やどのような多角形でも構わない。ただし、この柱の断面形状にあわせた鋼板を用いることは当然である。
2 鋼板
2a,2b 連結部
3 帯状繊維シート
4 グラウト材
5 ネジ部材
5b ネジ部
6 (溶接)部分
L1 (連結部の)厚さ
L2 (連結部の)厚さ
L3 (ネジ部の)長さ
Claims (6)
- 建造物の柱の周囲をその柱の表面との間に間隔を保って複数の鋼板で囲み、この鋼板の囲み方向において隣り合う鋼板の重ね合わせ部分からなる連結部を結合手段により結合するとともに、上記鋼板の外周面に接着剤を塗布し、この接着剤の塗布面に帯状繊維シートを巻き付けてなり、柱と鋼板のとの間にグラウト材を充填する一方、上記結合手段のせん断強度を、上記鋼板の降伏点強度よりも小さくし、せん断力によって上記結合手段がせん断して、上記隣り合う鋼板の上記連結部が相対移動可能になった後、上記帯状繊維シートが耐力を発揮する構成にした柱の補強構造。
- 上記鋼板の外周全面に接着剤を塗布し、この接着剤の塗布面に帯状繊維シートを貼り付けた請求項1に記載の柱の補強構造。
- 上記結合手段は、上記一組の鋼板において互いに隣り合う鋼板の連結部を固定するネジ部材であり、このネジ部材は柱の軸方向に間隔を保って複数設け、これらネジ部材のせん断強度を、上記鋼板の降伏点強度よりも小さくした請求項1又は2に記載した柱の補強構造。
- 上記ネジ部材のネジ部の長さを、上記連結部の重ね合わせ部分の合計厚さよりも長くし、重ね合わせた連結部を上記ネジ部材で結合したとき、上記ネジ部材の先端が柱と鋼板との間に突出する構成にした請求項3に記載した柱の補強構造。
- 上記ネジ部材のネジ部の長さは、上記連結部の重ね合わせ部分の合計厚さの2倍以上である請求項4に記載の柱の補強構造。
- 上記結合手段は、互いに隣り合う鋼板の連結部を、柱の軸方向に所定の間隔を保って溶接する溶接部であり、これら溶接部のせん断強度を、上記鋼板の降伏点強度よりも小さくした請求項1に記載した柱の補強構造。
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