以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、流体軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に支持する流体軸受装置1と、軸部材2に装着されたディスクハブ3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4aおよびロータマグネット4bと、ブラケット5とを備えている。ステータコイル4aはブラケット5の外周に取付けられ、ロータマグネット4bはディスクハブ3の内周に取付けられる。流体軸受装置1のハウジング7は、ブラケット5の内周に装着される。ディスクハブ3には、磁気ディスク等のディスク6が一又は複数枚(図示例は2枚)保持される。ステータコイル4aに通電すると、ステータコイル4aとロータマグネット4bとの間の電磁力でロータマグネット4bが回転し、それによって、ディスクハブ3およびディスク6が軸部材2と一体に回転する。
図2は、本発明の第1実施形態に係る流体軸受装置1を示している。同図に示す流体軸受装置1は、ハウジング7と、ハウジング7の内周に固定された軸受スリーブ8と、軸受スリーブ8の内周に挿入された軸部材2と、ハウジング7の一端開口を封止する蓋部材9と、ハウジング7の他端開口をシールするシール部材10とを備える。なお、説明の便宜上、シール部材10の側を上側、これとは軸方向反対側を下側として、以下説明を進める。
ハウジング7は、黄銅等の金属材料あるいは樹脂材料で円筒状に形成される。ハウジング7の内周面7aには軸受スリーブ8が、例えば、接着、圧入、溶着等の適宜の手段で固定される。内周面7aの下端側には、内周面7aよりも大径の蓋部材固定面7bが形成されている。
軸受スリーブ8は、例えば銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成される。軸受スリーブ8は、焼結金属以外にも、例えば黄銅等の軟質金属材料や焼結金属ではない他の多孔質体(例えば、多孔質樹脂)で形成することも可能である。
軸受スリーブ8の内周面8aには、図3(A)に示すように、ラジアル動圧発生部として、複数の動圧溝8a1、8a2をヘリングボーン形状に配列してなる円筒状領域が上下二箇所に離隔して形成される。本実施形態において、上側の動圧溝8a1は、軸方向中心m(上下の傾斜溝間領域の軸方向中央)に対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心mより上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている。一方、下側の動圧溝8a2は軸方向対称に形成され、その上下領域の軸方向寸法はそれぞれ上記軸方向寸法X2と等しくなっている。なお、動圧溝は、後述する軸部21のラジアル軸受面Aに形成することもでき、またその形状は、スパイラル形状等公知のその他の形状とすることもできる。
軸受スリーブ8の下側端面8bには、図3(B)に示すように、スラスト動圧発生部として、複数の動圧溝8b1をスパイラル形状に配列した環状領域が形成される。なお、動圧溝(スラスト動圧発生部)は、後述するフランジ部22のスラスト軸受面Bに形成することもでき、またその形状は、ヘリングボーン形状等公知のその他の形状とすることもできる。
軸受スリーブ8の外周面8cには、両端面に開口した軸方向溝8c1が1又は複数本形成される。また、軸受スリーブ8の上側端面8dには、円環溝8d1と、円環溝8d1の内径側に接続された1又は複数本の径方向溝8d2が形成される。
蓋部材9は、例えば金属材料や樹脂材料で円盤状に形成され、ハウジング7の蓋部材固定面7bに、接着、圧入等適宜の手段で固定される。この蓋部材9の上側端面9aには、図示は省略するが、スラスト動圧発生部として、複数の動圧溝をスパイラル形状あるいはヘリングボーン形状に配列した環状領域が形成される。動圧溝は、後述するフランジ部22のスラスト軸受面Cに形成してもよい。
シール部材10は、例えば、黄銅等の軟質金属材料やその他の金属材料、あるいは樹脂材料で円環状に形成され、ハウジング7の内周面7aの上端部に接着、圧入等の適宜の手段で固定される。このシール部材10の内周面10aと、軸部21の外周面21aとの間には所定のシール空間Sが形成される。シール空間Sは、流体軸受装置1に充満される潤滑油の温度変化に伴う容積変化量を吸収するバッファ機能を有し、想定される温度変化の範囲内で、潤滑油の油面は常時シール空間Sの範囲内にある。シール部材10の下側端面10bの外径側には、径方向溝10b1が一又は複数本形成される。
軸部材2は、軸部21と、軸部21の下端から外径側に突出したフランジ部22とからなる。軸部21は高剛性の金属材料、本実施形態ではステンレス鋼で中実軸に形成され、フランジ部22は同じくステンレス鋼で円環状に形成される。詳細は後述するが、フランジ部22はその内周、より厳密にはその上端内周に形成された溶接部23によって軸部21に対して溶接固定されている。軸部21の外周面21aには、平滑な円筒面状をなし、軸受スリーブ8の内周面8aに設けた動圧溝8a1、8a2形成領域とラジアル方向に対向するラジアル軸受面A,Aが軸方向に離隔して二箇所形成されている。両ラジアル軸受面A,A間には、ラジアル軸受面Aよりも小径のヌスミ部21bが形成されている。
フランジ部22の上側端面22aには、軸受スリーブ8の下側端面8bに設けた動圧溝8b1形成領域とスラスト方向に対向するスラスト軸受面Bが設けられ、また、下側端面22bには、蓋部材9の上側端面9aに設けた動圧溝形成領域とスラスト方向に対向するスラスト軸受面Cが設けられる。両スラスト軸受面B,Cは、動圧溝等のない平滑な平坦面とされる。
流体軸受装置1は以上の構成部材からなり、シール部材10でシールされたハウジング7の内部空間には、軸受スリーブ8の内部気孔も含め潤滑油が充満される。また、この際、フランジ部22の内周面22cと軸部21の下端面21cで形成される空間も潤滑油で満たされる。
以上の構成からなる流体軸受装置1において、軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8の動圧溝8a1,8a2形成領域と、軸部21のラジアル軸受面A,Aとの間にはラジアル軸受隙間が形成される。そして、軸部材2の回転に伴って、ラジアル軸受隙間に形成される油膜は、動圧溝8a1,8a2の動圧作用によってその油膜剛性を高められ、この圧力によって軸部材2がラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持するラジアル軸受部R1,R2が軸方向の二箇所に離隔形成される。
また、これと同時に、フランジ部22のスラスト軸受面B,Cと、軸受スリーブ8の下側端面8bおよび蓋部材9の上側端面9aとの間にはスラスト軸受隙間がそれぞれ形成される。そして、軸部材2の回転に伴って、両スラスト軸受隙間に形成される油膜は、動圧溝の動圧作用によってその油膜剛性を高められ、この圧力によって軸部材2が両スラスト方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2を両スラスト方向に回転自在に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2とが形成される。
また、軸部材2の回転時には、上述のように、シール空間Sが、ハウジング7の内部側に向かって漸次縮小したテーパ形状を呈しているため、シール空間S内の潤滑油は毛細管力による引き込み作用により、シール空間が狭くなる方向、すなわちハウジング7の内部側に向けて引き込まれる。これにより、ハウジング7の内部からの潤滑油の漏れ出しが効果的に防止される。
また、上述したように、上側の動圧溝8a1は、軸方向中心mに対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心mより上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている。そのため、軸部材2の回転時、動圧溝8a1による潤滑油の引き込み力(ポンピング力)は上側領域が下側領域に比べて相対的に大きくなる。そして、この引き込み力の差圧によって、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部21の外周面21aとの間の隙間に満たされた潤滑油は下方に流動し、軸受スリーブ8の下側端面8bとフランジ部22の上側端面22aとの間の隙間→軸受スリーブ8の軸方向溝8c1によって形成される流体通路→シール部材10の径方向溝10b1によって形成される流体通路→軸受スリーブ8の円環溝8d1および径方向溝8d2によって形成される流体通路という経路を循環して、第1ラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間に再び引き込まれる。
このように、潤滑油がハウジング7の内部空間を流動循環するように構成することで、潤滑油の圧力バランスが保たれると同時に、局部的な負圧の発生に伴う気泡の生成、気泡の生成に起因する潤滑油の漏れや振動の発生等の問題を解消することができる。上記の循環経路には、シール空間Sが連通しているので、何らかの理由で潤滑油中に気泡が混入した場合でも、気泡が潤滑油に伴って循環する際にシール空間S内の潤滑油の油面(気液界面)から外気に排出される。従って、気泡による悪影響はより一層効果的に防止される。
以下、上記軸部材2の製造方法について詳述する。
図4〜図6は、上記軸部材2の製造工程、より詳細には、軸部21とフランジ部22をレーザ溶接する工程を示す要部拡大断面図である。図4および図5に示す製造装置は、例えばボルト等で基台上に固定された下型31と、下型31の上方に配置され、適当な駆動手段によって下型31に対して相対移動可能に設けられた中間型32および上型33と、レーザ35を照射する図示しないレーザ照射装置とで主要部が構成される。下型31の内周には、軸部21の上端面21dを支持する軸支持部材34と、バネ等の弾性体からなる弾性部材36とが配設され、軸支持部材34は、その下端を弾性部材36によって弾性支持されることにより、下型31に対して相対スライド可能とされている。軸支持部材34は、外径側に張り出した鍔部34aを下端に有し、図4に示す各型31〜33が原点位置にある状態では、鍔部34aが下型31の下方に設けられた段差面31cと軸方向に係合することにより、上方への変位が規制されている。
下型31は、軸部21を保持する保持孔31aを有する。保持孔31aは、軸部21ががたつかず、かつラジアル軸受面Aが損傷しない程度、換言すると軸部21を軽圧入し得る程度の内径寸法に設定される。図4に示す状態において、保持孔31aの軸方向寸法(下型31の上端面31bと軸支持部材34の上端面との離間距離)は、軸部21の全長寸法よりも所定量短い寸法に設定される。従って、図4にも示すように、軸部21を保持孔31aに挿入すると、軸部21は半径方向に拘束されると共にその下端面21cが下型31の上端面31bよりも所定量上方に突出する。
中間型32は円環状に形成され、その内周面32aでフランジ部22の外周面を拘束することにより、フランジ部22の半径方向移動を規制する。
上型33は、下型31の上端面31bと協働してフランジ部22の両端面を拘束する拘束面33aと、レーザ35の入射口となる貫通孔33bとを有する。ここで、図5からも明らかなように、拘束面33aの幅は、フランジ部22の下側端面22bの幅よりも所定量小さく設定されている。これは、上型33の拘束面33aでフランジ部22の下側端面22bの全面を押さえてしまうと、フランジ部22の下側端面22bが上型33の拘束面33aに倣い、軸部21とフランジ部22の固定精度が悪化するおそれがあるためである。
ところで、この種のフランジ付軸部材では、軸部21の外周面21a(ラジアル軸受面A)に対するフランジ部22の上側端面22a(スラスト軸受面B)の直角度が軸受性能を大きく左右する。そのため、これら軸受面間における所定の直角度を確保すべく、下型31の保持孔31a(の内壁面)に対する上端面31bの直角度は十分に高められている。
レーザ照射装置には、YAGレーザ、炭酸ガスレーザ、半導体レーザ、ファイバレーザ等、公知の各種レーザを使用可能である。これらのうち、照射されるレーザ35のビーム品質や経済性、さらには溶接強度や溶接容易性等を考慮するとYAGレーザや炭酸ガスレーザが好適である。レーザ35の照射方式としては、連続式またはパルス式の何れであっても良い。
なお、図示は省略しているが、例えば、レーザ照射装置と上型33との間にレーザ35のビーム径を調整するための凹レンズや凸レンズを有するビーム径調整手段を配設することも可能である。また同様に図示は省略しているが、溶接作業中に溶接部23近傍が酸化するのを防止するため、周囲の空気を遮断するためのアルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスを吹き付けるシールドガス噴射装置を配設するのが望ましい。
以上の構成からなる装置において、まず、図4に示すように、下型31の保持孔31aに軸部21を挿入する。次いで、図5に示すように、軸部21の下端面21c上にフランジ部22を載置した後、上型33を下方に移動させて上型33の拘束面33aをフランジ部22の下側端面22bに当接させる。さらに上型33を下方に移動させ、フランジ部22の上側端面22aを軸部21の下端面21cに当接させると、上型33の拘束面33aと下型31の上端面31bとでフランジ部22の両端面22a,22bが拘束される。このとき、弾性部材36が圧縮変形することにより、軸部21の下端面21cは適当な圧迫力でもってフランジ部22の上側端面22aに当接する。なお、上述のとおり、下型31の内周面(保持孔31aの内壁面)と上端面31bとの間では所定の直角度が確保されていることから、軸部21の下端面21cおよびフランジ部22の上側端面22aの精度を十分に高めておけば、フランジ部22の上側端面22aが軸部21の下端面21cに当接した時点で、軸部21のラジアル軸受面Aとフランジ部22のスラスト軸受面Bとの間では所定の直角度が確保される。
下型31の上端面31bと上型33の拘束面33aとでフランジ部22の両端面22a、22bを拘束するのと並行して(あるいは拘束した後)、中間型32の内周面32aでフランジ部22の外周面を拘束する。これにより、フランジ部22は、軸方向および径方向の双方に対してその動きを規制される。なお、フランジ部22の拘束後、各型31〜33は、例えば図示しない固定ボルト等で共締めされることにより、溶接中に移動しないようにされている。
そして、図5および図6(A)にも示すように、図示しないレーザ照射装置から上型33の貫通孔33bおよびフランジ部22の孔を通過させるようにしてフランジ部22の上端内周にレーザ35を照射する。かかる態様でレーザ35が照射されると、フランジ部22の上端内周とこれに隣接する軸部21の下端とが溶融、接合し、図6(B)に示すように、フランジ部22を軸部21の下端面21cに溶接固定してなる溶接部23が形成される。なお、本実施形態では、レーザ35を円周方向で連続的に照射することによって、フランジ部22の内周の全周に亘って溶接部23が形成される。
そして、所定の溶接部23を形成した後、上型33および中間型32を原点復帰させ、軸部21を下型31の保持孔31aから取り出すと、図2に示す完成品としての軸部材2が得られる。
以上に示すように、円環状をなすフランジ部22の上端内周に、軸部21とフランジ部22を固定する溶接部23を形成するようにすれば、溶接時に生成された金属粒等の溶解物が飛散し、これがラジアル軸受隙間を形成する一方の面となる軸部21の外周面21a(ラジアル軸受面A)や、第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間を形成する一方の面となるフランジ部22の上側端面22a(スラスト軸受面B)に付着する事態を確実に防止することができる。また、第2スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間を形成する一方の面となるフランジ部22の下側端面22b(スラスト軸受面C)に付着する事態を可及的に防止することができる。また、溶接部23は、フランジ部22の内周に形成されるので、その形成態様が軸受隙間(ラジアル軸受隙間およびスラスト軸受隙間)の精度に影響を及ぼすこともない。従って、溶接後に別途の仕上げ加工を施すことなく、高精度かつ高強度な軸部材2を低コストに製造することができる。
上記のように、フランジ部22を円環状に形成した場合、フランジ部22の内周に軸部21の一端を嵌合した後、両者の嵌合部を溶接することも可能である。しかしながら、かかる構成とすると、溶接後の軸部21とフランジ部22の直角度が嵌合面(軸部21の外周面21aおよびフランジ部22の内周面22c)の加工精度に依存することとなる。そのため、軸部21の外周面21aやフランジ部22の内周面22cを予め高精度に仕上げておく必要が生じ、加工コストの増大を招く。これに対し、本発明のように、軸部21の端面21cとフランジ部22の上側端面22aを接触させた端面接触の状態で両者を溶接すれば、軸部21とフランジ部22の間の直角度は、溶接時に用いた各型31〜33で管理することができるため、加工コストの増大を抑制することができる。
また、モータの組立時には軸部21の上端にディスクハブ3(図1を参照)が固定されるが、このときに軸部21とフランジ部22の間の締結強度が不十分だと、ディスクハブ3固定時の加圧力によって軸部21とフランジ部22が分離してしまうおそれがある。このような不具合を、フランジ部22の内周に軸部21の下端を嵌合すると共に、両者の嵌合部を溶接した構成で回避するには、フランジ部22の孔の両端部に溶接部を形成する必要が生じ、溶接作業の手間が増大する。これに対し、本発明のように軸部21とフランジ部22を端面接触の状態(軸方向に係合させた状態)で溶接すれば、ディスクハブ3固定時の加圧力に対しては、軸部21の下端面21cがフランジ部22の上側端面22aと軸方向に係合することによって抵抗する。従って、溶接部23は、軸方向の一箇所のみに形成すれば足りるため、この点からも加工コストの増大を抑制することができる。
また、軸部21をフランジ部22の内周に嵌合するとなると、その分軸部21の全長寸法を長大化する必要が生じ、軸部材2の材料費の増大や軸部材2の重量化を招く。これに対し、本発明のように軸部21とフランジ部22とを端面接触の状態で溶接すれば、軸部21の全長を短縮しても軸部材2として必要な全長寸法を確保することができる。従って、軸部材2の材料費の低減および軽量化を図ることができ、流体軸受装置1の高回転精度化や高速回転化に寄与することができる。
また、溶接部23は、レーザ35を照射することで形成されたものであるから、微小な溶接部23を精度良く形成することができる。特に本実施形態では、フランジ部22の両端面22a,22bを拘束した状態でレーザ35を照射することによって溶接部23を形成したので、レーザ35の照射に伴う熱影響により、フランジ部22に反り等の変形が生じるのを効果的に防止することができる。
本実施形態では、軸部21およびフランジ部22の双方をステンレス鋼で形成したが、レーザ溶接であれば、異種金属間においても高い締結強度を確保することができる。そのため、軸部材2に必要とされる強度を確保し得る限りにおいて、軸部21とフランジ部22の形成材料は相互に異ならせることも可能である。例えば、軸部21をステンレス鋼で形成する一方、フランジ部23を黄銅等で形成することができる。
なお、上記の実施形態では、フランジ部22内周の全周に亘って溶接部23を形成する構成としたが、軸部21とフランジ部22との間に所定の締結強度を確保することができるのであれば、溶接部23は全周に亘って形成する必要はなく、円周方向で断続的に形成することもできる。このようにすれば、レーザ35照射時の熱影響によるフランジ部22の変形可能性を減じることができる。
以上では、内径寸法が全長に亘って一定のフランジ部22を用いた構成について説明を行ったが、フランジ部22の形態は上記のものに限定されない。例えば、図7(A)に示すように、内周面22cの上端部(軸部21側の端部)に、内径側に突出する環状の突起22dが設けられたフランジ部22を用いることもできる。この突起22dは、フランジ部22の上側端面22aを軸部21の下端面21cに当接させた状態で、その上側端面(軸部21側の端面)が軸部21の下端面21cと当接するように、フランジ部22の上側端面22aと面一に設けられている。
かかる構成のフランジ部22を用いた場合、溶接部23は、図7(A)(B)に示すように、突起22dにレーザ35を照射することで形成することができる。このようにすれば、フランジ部22の内周面22cの溶融範囲が限定的になるため、フランジ部22への熱影響を最小限に抑えて、その変形を一層効果的に防止することができる。
なお、突起22dの大きさは、形成される溶接部23の大きさ、すなわち軸部21とフランジ部22の間の溶接強度を直接左右するものであるが、あまりに大きいとレーザ35照射時に生成された金属粒等の溶解物がフランジ部22の下側端面22bに付着するようにして飛散するおそれがあり、あまりに小さいと所望の締結強度(溶接強度)を確保できないおそれがある。そのため、突起22dの大きさは、上記の問題が生じない範囲内で、要求品質に応じて適宜設定すれば良い。この突起22dは、例えば、フランジ部22をプレス成形や鍛造成形するのと同時に一体的に形成される。
以上、本発明に係る流体軸受装置の一実施形態について説明を行ったが、本発明は、上記の流体軸受装置に限定適用されるものではない。以下、本発明を適用可能な流体軸受装置の他の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下では、以上で説明したものに準じる構成には共通の参照番号を付し、重複説明を省略する。
図8は、本発明に係る流体軸受装置1の第2実施形態を示すものである。同図に示す流体軸受装置1が、図2に示すものと異なる主な点は、フランジ部22の下側端面22bにスラスト軸受面Cは形成されず、第2スラスト軸受部T2が、軸部21の上端に固定されたディスクハブ3の円盤部3aの下側端面3a1とハウジング7の上側端面7cとの間に設けられた点、およびシール空間Sが、ハウジング7のテーパ状外周面7dとディスクハブ3の円筒部3bの内周面3b1との間に設けられる点にある。
図9は、本発明に係る流体軸受装置1の第3実施形態を示すものである。同図に示す流体軸受装置1では、軸部材2が、軸受スリーブ8の上方に位置する第2のフランジ部42をさらに備え、第2スラスト軸受部T2が、第2のフランジ部42と軸受スリーブ8の上側端面8dとの間に設けられる点、および両フランジ部22,42の外周面22e,42eが、ハウジング7の内周面7aとの間にシール空間Sを形成する点で、上述した実施形態と構成を異にする。このように2つのフランジ部22,42を軸部21に設けた軸部材2を用いる場合であっても、軸部21と、軸部21の下端に設けたフランジ部22との一体品に関しては、上記本発明の構成を適用することができる。
図10は、本発明に係る流体軸受装置1の第4実施形態を示すもので、図2に示す流体軸受装置1の変形例である。同図に示す流体軸受装置1では、軸部材2を構成する軸部21の下端面21cが調心面24として機能する凸曲面に形成され、この凸曲面をフランジ部22の上端内周縁部に係合させた状態でフランジ部22の上端内周に形成した溶接部23で軸部21とフランジ部22とが固定されている。このような構成とすれば、フランジ部22が軸部21に対して首振り揺動可能となる。そのため、図4および図5に示すような製造装置(治具)で軸部21に対するフランジ部22の姿勢を拘束する場合には、両者間の芯出しを容易にかつ精度良く行って、高精度かつ高強度な軸部材2を一層容易に製造することができる。
なお、必ずしも軸部21の下端面21c全体を凸曲面に形成する必要はなく、例えば図11に示すように、フランジ部22の孔の上端と係合する部分にのみ形成するようにしても良い。このとき、軸部21の下端に、下方に向かって延びる小径部21dを形成しておいても良い。かかる構成とすれば、フランジ部22の内周に形成される空間の容積を減じることができ、流体軸受装置1の内部空間に充満させる油量を減じることができる。
図12は、本発明に係る流体軸受装置1の第5実施形態を示すもので、図2に示す流体軸受装置1の変形例である。同図に示す流体軸受装置1では、フランジ部22の上端内周縁部22eが調心面24として機能する凸曲面に形成され、この上端内周縁部22e(調心面24)に軸部21の下端を当接させた状態でフランジ部22の内周上端に溶接部23が形成されている。このような構成とした場合であっても、図10および図11に示す実施形態と同様に、フランジ部22が軸部21に対して首振り揺動可能となるので、図4および図5に示すような製造装置(治具)で軸部21に対するフランジ部22の姿勢を拘束する場合には、両者間の芯出しを容易にかつ精度良く行って、高精度かつ高強度な軸部材2を一層容易に製造することができる。
軸部21あるいはフランジ部22に設けた調心面24は、凸曲面で構成する他、相手側の部材に向かって漸次縮径するテーパ面で構成することも可能である。また、このように、軸部21あるいはフランジ部22に調心面24を設けた構成を、図8および図9に示す流体軸受装置1(軸部材2)に適用することももちろん可能である。さらに、軸部21の調心面24に対して、図7(A)に示す上端内周に突起22dを有するフランジ部22を溶接固定することももちろん可能である(以上、何れも図示は省略)。
また、以上で説明を行った流体軸受装置1は、何れも、ハウジング7と軸受スリーブ8とを別体品としたものであるが、両者を一体化した流体軸受装置1にも本発明を好適に採用することができる。また、特に図2および図10に示す流体軸受装置1にあっては、さらに、蓋部材9又はシール部材10の何れか一方をハウジング7に一体化することも可能である。
また、以上では、ラジアル軸受部R1、R2およびスラスト軸受部T1、T2として、ヘリングボーン形状やスパイラル形状の動圧溝により潤滑油の動圧作用を発生させる構成を例示しているが、ラジアル軸受部R1、R2として、いわゆるステップ軸受、多円弧軸受、あるいは非真円軸受を、スラスト軸受部T1、T2として、いわゆるステップ軸受や波形軸受を採用しても良い。また、以上では、ラジアル軸受部を軸方向2箇所に設けた構成を例示しているが、ラジアル軸受部を軸方向の1箇所あるいは3箇所以上に設けることもできる。
また、以上では、ラジアル軸受部R1、R2の双方を動圧軸受で構成した場合について説明を行ったが、ラジアル軸受部R1、R2の一方又は双方をこれ以外の軸受で構成することもできる。例えば図示は省略するが、軸部材2のラジアル軸受面Aを真円状に形成すると共に、対向する軸受スリーブ8の内周面8aを真円状内周面とすることで、いわゆる真円軸受を構成することもできる。