本発明の不織布の製造方法について、本発明の不織布の製造方法を実施できる製造装置の概念的模式断面図である図1をもとに説明する。
図1の製造装置は、紡糸原液をノズル2へ供給できる紡糸原液供給装置1、紡糸原液供給装置1から供給された紡糸原液を吐出できるノズル2、ノズル2から吐出され、電界によって延伸された繊維を捕集できるアースされた捕集体3、ノズル2とアースされた捕集体3との間に電界を形成するために、ノズル2に電圧を印加できる電圧印加装置4、ノズル2と捕集体3とを収納した紡糸容器6、紡糸容器6へ所定相対湿度の気体を供給できる調湿機7、及び紡糸容器6内の気体を排気できる排気装置8を備えている。
このような製造装置を用いて不織布を製造する場合、まず、紡糸原液を用意する。この紡糸原液は静電紡糸可能な樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。樹脂は特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレン、或いはポリプロピレンなどを使用できる。これら例示以外の樹脂も使用可能であり、例示以外の樹脂も含め、2種以上の樹脂を溶媒に溶解させた溶液(つまり、紡糸原液)を用いることもできる。
この紡糸原液を構成する溶媒は樹脂を溶解させることができるものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等を挙げることができる。なお、これら溶媒は単独で、又は混合して使用することができる。
本発明の紡糸原液は上述のような樹脂を上述のような溶媒に溶解させたものであるが、その際の濃度は樹脂の組成、樹脂の分子量、溶媒等によって変化するため、特に限定するものではないが、静電紡糸への適用性の点から、粘度が10〜5000mPa・sの範囲となるような濃度であるのが好ましく、20〜4000mPa・sの範囲となるような濃度であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、溶媒が蒸発せず繊維状になりにくい傾向があり、粘度が5000mPa・sを超えると、紡糸原液が延伸されにくくなり、繊維状となりにくい傾向があるためである。なお、この「粘度」は、粘度測定装置を用い、温度25℃で測定した、シェアレート100s−1の時の値をいう。
このような紡糸原液は紡糸原液供給装置1によって、ノズル2へ供給される。この供給された紡糸原液はノズル2から押し出されるとともに、アースされた捕集体3と電圧印加装置4によって印加されたノズル2との間の電界による延伸作用を受け、繊維化しながら捕集体3へ向かって飛翔する(いわゆる静電紡糸法)。そして、この飛翔した繊維は、捕集体3上に集積し、繊維ウエブを形成する。なお、紡糸原液供給装置1は特に限定されるものではないが、例えば、シリンジポンプ、チューブポンプ、ディスペンサ等を使用することができる。
この紡糸原液を押し出すノズル2の直径は、得ようとする繊維の繊維径によって変化するため、特に限定するものではないが、例えば、繊維の繊維径を0.7μm以下とする場合には、ノズル2の直径(内径)は0.1〜2.0mm程度であるのが好ましい。
また、ノズル2は金属製であっても、非金属製であっても良い。ノズル2が金属製であれば、電圧印加装置4から電圧を印加することにより、ノズル2を一方の電極として使用することができ、ノズル2が非金属製である場合には、ノズル2の内部又は紡糸原液供給装置1からノズル2までの供給管内に電極を設置し、この電極に電圧印加装置4から電圧を印加することにより、押し出した紡糸原液に電界を作用させることができる。
図1においては、電圧印加装置4によりノズル2に電圧を印加するとともに、捕集体3をアースすることにより電界を形成しているが、図1とは逆に、ノズル2をアースするとともに、捕集体3に電圧を印加して電界を形成しても良いし、ノズル2と捕集体3の両方に電圧を印加するものの、電位差を設けるように印加して電界を形成しても良い。なお、この電界は、繊維の繊維径、ノズル2と捕集体3との距離、紡糸原液の溶媒、紡糸原液の粘度などによって変化するため、特に限定するものではないが、0.2〜5kV/cmであるのが好ましい。電界強度が5kV/cmを超えると、空気の絶縁破壊が生じやすい傾向があり、0.2kV/cm未満であると、紡糸原液の延伸が不十分で繊維形状となりにくい傾向があるためである。
なお、電圧印加装置4は特に限定されるものではないが、例えば、直流高電圧発生装置やヴァン・デ・グラフ起電機を用いることができる。また、印加電圧は前述のような電界強度とすることができれば良く、特に限定するものではないが、5〜50KV程度であるのが好ましい。
図1における捕集体3はドラムであるが、繊維を集積できるものであれば良く、特に限定されるものではない。例えば、金属製や炭素などからなる導電性材料又は有機高分子などからなる非導電性材料からなる、不織布、織物、編物、ネット、平板、或いはベルトを、捕集体3として使用することができる。また、場合によっては水や有機溶媒などの液体を捕集体3として使用できる。
図1のように、捕集体3を他方の電極として使用する場合には、捕集体3は体積抵抗が109Ω以下の導電性材料(例えば、金属製)からなるのが好ましい。一方、ノズル2側から見て、捕集体3よりも後方に対向電極として導電性材料を配置する場合には、捕集体3は必ずしも導電性材料からなる必要はない。後者のように、捕集体3よりも後方に対向電極を配置する場合、捕集体3と対向電極とは接触していても良いし、離間していても良い。
本発明の製造方法を実施できる図1の製造装置においては、上述のような静電紡糸法を、紡糸容器6内の密閉空間に設置したノズル2及び捕集体3を用いるとともに、調湿機7を用いて紡糸容器6へ所望の相対湿度の気体を供給することによって、紡糸容器6内における湿度を調整することができる。そのため、相対湿度の影響を最小限に抑えて繊維を紡糸し、繊維ウエブを形成できるため、繊維径の揃った、孔径分布の狭い不織布を製造することができる。また、湿度の変動幅が小さいことによって、液滴、毛羽立ち及び/又はノズル等の紡糸原液供給部の周囲への繊維の付着を抑えることができ、安定して紡糸できるため、歩留まりが向上する。
本発明における調湿機7は加湿機を備えたものであり、加湿機は水を貯留できる水槽、水槽中の水面を加熱できる加熱手段、及び消費した水を補充できる補充手段とを備えており、補充手段による水の補充間隔における水面の温度の変動幅を5℃以内とすることができるものである。このように、補充手段による補充手段による水の補充間隔における水面の温度の変動幅を5℃以内とすることができ、水面の温度をほぼ一定にすることができるため、加熱手段の加熱による蒸発量の応答精度に優れ、目的蒸発量を制御できる。その結果、紡糸容器6へ供給する気体の湿度バラツキを最低限に抑えることができ、湿度の影響を最小限に抑えた状態で静電紡糸を実施できるため、繊維径バラツキが小さく、孔径分布の均一な不織布を製造することができる。また、湿度の変動幅が小さいことによって、液滴、毛羽立ち及び/又はノズル等の紡糸原液供給部の周囲への繊維の付着を抑えることができ、安定して紡糸できる結果、歩留まりが向上するという効果も奏する。
この加湿機について、模式的断面図を示す図2をもとに説明する。図2に示す加湿機10は水を貯留できる水槽11、水槽中の水面15を加熱できる加熱手段12、加熱手段12の上方に位置する上蓋13、及び消費した水を補充できるパイプ14とを備えている。なお、水槽11と上蓋13とによって空気の加湿機10への導入口16、及び加湿された空気の加湿機10からの導出口17が形成されている。
水槽11は水を貯留できるものであれば良く、特に限定するものではない。しかしながら、従来よりも大きい水槽であると、水の補充間隔における水面の温度の変動幅を5℃以内としやすい。
水槽中の水面15を加熱できる加熱手段12は水面15を加熱できるものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、赤外線ヒータ、セラミックヒータ、電熱(コイル)ヒータ、誘電加熱ヒータ、マイクロ波ヒータなどを挙げることができる。これらの中でも、赤外線ヒータは加熱による蒸発量の応答精度に優れ、目的蒸発量を制御しやすく、また、故障しにくいため好適である。なお、図2の加湿機10においては、水槽11の上方に加熱手段12を配置しているが、場合によっては、水中に投げ込み式パイプヒータ等の加熱手段を設置することもできる。
図2においては、消費した水を補充できる補充手段として、図示しない水源と接続されたパイプ14から構成されている。このパイプ14は水中に埋没しており、このパイプ14は水中に水を吐出できる吐出部を有し、この吐出部からの水の吐出方向が水面15と平行方向であるか、水面15から遠ざかる方向であるため、このパイプ14からの水の補充間隔における水面の温度の変動幅を5℃以内としやすい。
この点に関して、水槽11、パイプ14及び水の吐出方向を示す断面概略図である図3〜図18をもとに説明する。
図3はパイプ14が水面15よりも水槽11の底面側に位置し、パイプ14が水面15と平行に伸びており、パイプ14の一部が水中に埋没した領域を有する。このパイプ14は先端に吐出部を有している。そのため、図3の態様においては、矢印で示すように、吐出部から水面15と平行方向に水を吐出し、補充することができる。この態様の場合、パイプ14の吐出部から吐出された水は水槽11の内壁面方向に進行し、水面方向に進行しないため、水面15の温度の変動幅を最小限に抑えることができる。なお、図3においては、パイプ14の先端に吐出部を有する態様であるが、パイプ14の先端に吐出部を有することに替えて、又は加えて、パイプ14の周壁から水面15と平行方向及び/又は水面15から遠ざかる方向(例えば、水面15と反対方向)に向いた吐出部を有することもできる。
図4はパイプ14が水面15よりも水槽11の底面側に位置し、パイプ14が水面15と平行に伸びており、パイプ14の一部が水中に埋没した領域を有する。このパイプ14は周壁に水面15と反対方向かつ直角に向いた吐出部を有している。そのため、図4の態様においては、矢印で示すように、吐出部から水面15と反対方向かつ直角に水を吐出し、水面15から遠ざかる方向に水を補充することができる。この態様の場合、パイプ14の吐出部から吐出された水は水槽11の底面方向に進行し、水面方向に進行しないため、水面15の温度の変動幅を最小限に抑えることができる。なお、図4においては、水面15と反対方向かつ直角に向いた吐出部のみを有しているが、全て水面15と反対方向かつ直角に向いた吐出部である必要はない。また、水の吐出部の数も特に限定するものではない。更に、パイプ14の先端に吐出部を有していても良い。
図5又は図6はパイプ14が水面15よりも水槽11の底面側に位置し、パイプ14が水面15と平行に伸びており、パイプ14の一部が水中に埋没した領域を有する。このパイプ14は周壁に水面15と反対方向かつ直角ではない角度をもった吐出部を有している。そのため、図5又は図6の態様においては、矢印で示すように、吐出部から水面15と反対方向かつ直角ではない角度で水を吐出し、水面15から遠ざかる方向に水を補充することができる。この態様の場合、パイプ14の吐出部から吐出された水は水槽11の底面方向に進行し、水面方向に進行しないため、水面15の温度の変動幅を最小限に抑えることができる。なお、図5及び図6においては、全て同じ角度で水を吐出できる吐出部を有しているが、全て同じ角度で水を吐出できる吐出部である必要はない。また、吐出部の数も特に限定するものではない。更に、パイプ14の先端に吐出部を有していても良い。
図7はパイプ14が水面15よりも水槽11の底面側に位置し、パイプ14が水面方向に伸びており、パイプ14の一部が水中に埋没した領域を有する。このパイプ14は先端に、水面15と平行方向に水を吐出できる吐出部を有している。そのため、図7の態様においては、矢印で示すように、吐出部から水面15と平行方向に水を吐出し、補充することができる。この態様の場合、パイプ14の吐出部から吐出された水は水槽11の内壁面方向に進行し、水面方向に進行しないため、水面15の温度の変動幅を最小限に抑えることができる。なお、図7においては、パイプ14の先端に吐出部を有する態様であるが、パイプ14の先端に吐出部を有することに替えて、又は加えて、パイプ14の周壁から水面15と平行方向及び/又は水面15と遠ざかる方向(例えば、水面15と反対方向)に向いた吐出部を有することもできる。
図8はパイプ14が水面15よりも水槽11の底面側に位置し、パイプ14が水面方向に伸びており、パイプ14の一部が水中に埋没した領域を有する。このパイプ14は周壁に水面15と反対方向かつ直角に向いた吐出部を有している。そのため、図8の態様においては、矢印で示すように、吐出部から水面15と反対方向かつ直角に水を吐出し、水面15から遠ざかる方向に水を補充することができる。この態様の場合、パイプ14の吐出部から吐出された水は水槽11の底面方向に進行し、水面方向に進行しないため、水面15の温度の変動幅を最小限に抑えることができる。なお、図8においては、水面15と反対方向かつ直角に向いた吐出部のみを有しているが、全て水面15と反対方向かつ直角に向いた吐出部である必要はない。また、水の吐出部の数も特に限定するものではない。
図9又は図10はパイプ14が水面15よりも水槽11の底面側に位置し、パイプ14が水面方向に伸びており、パイプ14の一部が水中に埋没した領域を有する。このパイプ14は周壁に水面15と反対方向かつ直角ではない角度をもった吐出部を有している。そのため、図9又は図10の態様においては、矢印で示すように、吐出部から水面15と反対方向かつ直角ではない角度で水を吐出し、水面15から遠ざかる方向に水を補充することができる。この態様の場合、パイプ14の吐出部から吐出された水は水槽11の底面方向に進行し、水面方向に進行しないため、水面15の温度の変動幅を最小限に抑えることができる。なお、図9及び図10においては、全て同じ角度で水を吐出できる吐出部を有しているが、全て同じ角度で水を吐出できる吐出部である必要はない。また、吐出部の数も特に限定するものではない。
図11はパイプ14が水面15よりも水槽11の底面側に位置し、パイプ14が水槽11の底面方向に伸びており、パイプ14の一部が水中に埋没した領域を有する。このパイプ14は先端に、水面15と平行方向に水を吐出できる吐出部を有している。そのため、図11の態様においては、矢印で示すように、吐出部から水面15と平行方向に水を吐出し、補充することができる。この態様の場合、パイプ14の吐出部から吐出された水は水槽11の内壁面方向に進行し、水面方向に進行しないため、水面15の温度の変動幅を最小限に抑えることができる。なお、図11においては、パイプ14の先端に吐出部を有する態様であるが、パイプ14の先端に吐出部を有することに替えて、又は加えて、パイプ14の周壁から水面15と平行方向及び/又は水面15と遠ざかる方向(例えば、水面15と反対方向)に向いた吐出部を有することもできる。
図12はパイプ14が水面15よりも水槽11の底面側に位置し、パイプ14が水槽11の底面方向に伸びており、パイプ14の一部が水中に埋没した領域を有する。このパイプ14は周壁に水面15と反対方向かつ直角に向いた吐出部を有している。そのため、図12の態様においては、矢印で示すように、吐出部から水面15と反対方向かつ直角に水を吐出し、水面15から遠ざかる方向に水を補充することができる。この態様の場合、パイプ14の吐出部から吐出された水は水槽11の底面方向に進行し、水面方向に進行しないため、水面15の温度の変動幅を最小限に抑えることができる。なお、図12においては、水面15と反対方向かつ直角に向いた吐出部のみを有しているが、全て水面15と反対方向かつ直角に向いた吐出部である必要はない。また、水の吐出部の数も特に限定するものではない。更に、パイプ14の先端に吐出部を有していても良い。
図13又は図14はパイプ14が水面15よりも水槽11の底面側に位置し、パイプ14が水槽11の底面方向に伸びており、パイプ14の一部が水中に埋没した領域を有する。このパイプ14は周壁に水面15と反対方向かつ直角ではない角度をもった吐出部を有している。そのため、図13又は図14の態様においては、矢印で示すように、吐出部から水面15と反対方向かつ直角ではない角度で水を吐出し、水面15から遠ざかる方向に水を補充することができる。この態様の場合、パイプ14の吐出部から吐出された水は水槽11の底面方向に進行し、水面方向に進行しないため、水面15の温度の変動幅を最小限に抑えることができる。なお、図13及び図14においては、全て同じ角度で水を吐出できる吐出部を有しているが、全て同じ角度で水を吐出できる吐出部である必要はない。また、吐出部の数も特に限定するものではない。更に、パイプ14の先端に吐出部を有していても良い。
図15はパイプ14が水槽11の底面に位置し、パイプ14が水面方向に伸びており、パイプ14の一部が水中に埋没した領域を有する。このパイプ14は周壁に、水面15と平行方向に水を吐出できる吐出部を有している。そのため、図15の態様においては、矢印で示すように、吐出部から水面15と平行方向に水を吐出し、補充することができる。この態様の場合、パイプ14の吐出部から吐出された水は水槽11の内壁面方向に進行し、水面方向に進行しないため、水面15の温度の変動幅を最小限に抑えることができる。なお、図15においては、全て同じ角度で水を吐出できる吐出部を有しているが、全て同じ角度で水を吐出できる吐出部である必要はない。また、吐出部の数も特に限定するものではない。
図16はパイプ14が水槽11の底面に位置し、パイプ14が水面方向に伸びており、パイプ14の一部が水中に埋没した領域を有する。このパイプ14は周壁に、水面15と反対方向に水を吐出できる吐出部を有している。そのため、図16の態様においては、矢印で示すように、吐出部から水面15と反対方向に水を吐出し、水面15から遠ざかる方向に水を補充することができる。この態様の場合、パイプ14の吐出部から吐出された水は水槽11の底面方向に進行し、水面方向に進行しないため、水面15の温度の変動幅を最小限に抑えることができる。なお、図16においては、全て同じ角度で水を吐出できる吐出部を有しているが、全て同じ角度で水を吐出できる吐出部である必要はない。また、吐出部の数も特に限定するものではない。
図17はパイプ14が水槽11の水面15に位置し、パイプ14が水槽11の底面方向に伸びており、パイプ14の一部が水中に埋没した領域を有する。このパイプ14は先端に水を吐出できる吐出部を有している。そのため、図17の態様においては、矢印で示すように、吐出部から水槽11の底面方向に水を吐出し、補充することができる。この態様の場合、パイプ14の吐出部から吐出された水は水槽11の底面方向に進行し、水面方向に進行しないため、水面15の温度の変動幅を最小限に抑えることができる。なお、図17においては、パイプ14の先端に吐出部を有する態様であるが、パイプ14の先端に吐出部を有することに替えて、又は加えて、パイプ14の周壁から水面15と平行方向及び/又は水面15と遠ざかる方向(例えば、水面15と反対方向)に向いた吐出部を有することもできる。
図18はパイプ14が水槽11の水面15に位置し、パイプ14が水槽11の底面方向に伸びており、パイプ14の一部が水中に埋没した領域を有する。このパイプ14は周壁に、水槽11の底面方向に水を吐出できる吐出部を有している。そのため、図18の態様においては、矢印で示すように、吐出部から水槽11の底面方向に水を吐出し、補充することができる。この態様の場合、パイプ14の吐出部から吐出された水は水槽11の底面方向に進行し、水面方向に進行しないため、水面15の温度の変動幅を最小限に抑えることができる。なお、図18においては、全て同じ角度で水を吐出できる吐出部を有しているが、全て同じ角度で水を吐出できる吐出部である必要はない。また、吐出部の数も特に限定するものではない。パイプ14の先端に吐出部を有していても良い。更に、水面15と平行方向に水を吐出できる吐出部であっても良い。
これらの図からわかるように、パイプ14はどのような方向から水中に埋没した領域を有していても良い。つまり、水槽11の内壁面から伸びて水中に埋没した領域を有していても良いし、水槽11の底面から伸びて水中に埋没した領域を有していても良いし、水面方向から伸びて水中に埋没した領域を有していても良い。また、吐出部は水中に水を吐出できるものであれば良く、特に限定されるものではない。つまり、水面15に直接水を滴下するような吐出部は水面15の温度を著しく変動させるが、水中に水を吐出できる吐出部によれば、貯留されている水によって吐出した水の温度を緩やかに変動させることができるため、水面15の温度への影響を小さくすることができる。なお、「水面から遠ざかる方向」とは、吐出部を含み、水面15と平行な仮想平面に対して、水面15とは反対方向をいう。
以上は、パイプを使用して水を供給する補充手段であるが、本発明においては、加熱水を供給する補充手段であっても、同様の効果を奏する。つまり、加熱水をどのように供給し、補充しても、水面の温度の変動幅を5℃以内とすることが容易で、水面の温度をほぼ一定に保つことができるため、加熱手段による加熱による蒸発量の応答精度に優れ、目的蒸発量を制御できる。その結果、密閉空間へ供給する気体の湿度バラツキを最低限に抑えることができ、湿度の影響を最小限に抑えた状態で静電紡糸を実施できるため、繊維径バラツキが小さく、孔径分布の均一な不織布を製造することができる。なお、湿度の変動幅が小さいことによって、液滴、毛羽立ち及び/又はノズル等の紡糸原液供給部の周囲への繊維の付着を抑えることができ、安定して紡糸できる結果、歩留まりが向上するという効果も奏する。
この加熱水は文字通り、水を加熱した水であるが、水面の温度を下げにくいように、水面の温度±5℃の加熱水であるのが好ましい。例えば、水面の温度が75℃の場合には、加熱水は70〜80℃の温度を有するのが好ましく、水面の温度が50℃の場合には、加熱水は45〜55℃の温度を有するのが好ましい。
なお、加熱水であっても、水面における温度の変動幅を小さくできるように、水を供給する場合と同様に供給するのが好ましい。特に、加熱水の温度が低い程、水の場合と同様に供給するのが好ましい。
上述のような水又は加熱水の供給は、水が蒸発し、消費されて、所定量減った際に、減った量に相当する量だけ水又は加熱水を供給して補充するが、減った量の所定量を少なくすると、補充量を少なくでき、水面の温度の変動幅を小さくできる。この所定量減ったことは、例えば、水位センサー(例えば、金属棒式、超音波方式、フロート式など)により感知できる。
このように、補充手段による水の補充間隔における水面の温度の変動幅、つまり、ある水補充時点から次の水補充時点までにおける最高水面温度(Tmax)と最低水面温度(Tmin)の差を5℃以内とすることができるものであるが、この温度の変動幅が小さければ小さい程、加熱手段による加熱による蒸発量の応答精度に優れ、目的蒸発量に制御でき、紡糸容器6へ供給する気体の湿度バラツキをより小さくできるため、温度の変動幅は4℃以内であるのが好ましく、3℃以内であるのがより好ましく、2.5℃以内であるのが更に好ましく、2.2℃以内であるのが更にましく、2℃以内であるのが更に好ましく、1.5℃以内であるのが更に好ましい。なお、水面の温度は熱電対により測定できる。
本発明の調湿機7は上述のような加湿機を備えたものであるが、加湿機以外に、空気を除湿するための除湿手段及び/又は温度調節するための温調手段を備えていると、密閉空間へ供給する気体の湿度バラツキをより小さくすることができるため好適である。特に、除湿手段及び温調手段を備えているのが好ましく、除湿手段により除湿し、温調手段により温度を調節した後に加湿機に供給できる調湿機7であるのが更に好ましい。この除湿手段、温調手段は1つである必要はなく、2つ以上であっても良い。なお、除湿手段としては、例えば、冷却コイル、エバポレータ、シリカゲルやゼオライト等の吸湿剤を含む除湿ロータなどを挙げることができ、温調手段としては、例えば、ヒータ、スチームや温水を利用した熱交換器などを挙げることができる。
図1の製造装置においては、前述のような調湿機7に加えて、排気装置8を備えており、紡糸容器6内の気体を排出することができる。そのため、紡糸原液から揮発した溶媒を速やかに除去することができ、紡糸容器6内における溶媒の蒸気濃度を一定にすることができる結果として、溶媒の蒸発を一定にすることができる。この点からも、繊維径の揃った、孔径分布の狭い不織布を製造することができる。なお、排気装置8は特に限定するものではないが、例えば、排気口に設置されたファンであることができる。図1のように、調湿機7によって紡糸容器6へ所望相対湿度の気体を供給すると、単に排気口を設けるだけで供給量と同量の気体を排出することができるため、排気装置8は必ずしも設ける必要はない。
以上のように、本発明における「密閉空間」とは、調湿機7、好ましくは排気装置8との接続部を除いて、密閉された空間を意味する。
この図1に示す製造装置を用いて不織布を製造するには、紡糸原液供給装置1により紡糸原液をノズル2へ供給し、ノズル2から紡糸原液を吐出する。同時に電圧印加装置4によりノズル2に電圧を印加する。捕集体3はアースされており、ノズル2と捕集体3との間に電界が形成されるため、吐出された紡糸原液は延伸されて繊維化し、捕集体3に到達して集積し、繊維ウエブを形成する。この時に、ノズル2及び捕集体3は紡糸容器6内に収納されているとともに、調湿機7により、紡糸容器6へ所望相対湿度の気体を供給し、排気装置8により紡糸容器6内の気体を排気できるため、紡糸容器6内の湿度の変動幅が小さい状態で繊維ウエブを形成できる。したがって、湿度の影響が小さいため、繊維径のバラツキが小さく、孔径分布の狭い繊維ウエブ、ひいては繊維径のバラツキが小さく、孔径分布の狭い不織布を製造することができる。また、湿度の変動幅が小さいことによって、液滴、毛羽立ち及び/又はノズル等の紡糸原液供給部の周囲への繊維の付着を抑えることができ、安定して紡糸できる結果、歩留まりが向上する。
なお、調湿機7から供給する空気の相対湿度をどの程度とするかは、所望繊維径に応じて適宜設定する。つまり、紡糸原液を構成する溶媒や樹脂によって、湿度の影響度が異なるため、紡糸しようとする紡糸原液を用いて各種相対湿度で紡糸を行って、実験的に確定する。
本発明の調湿機によれば、紡糸容器6内における相対湿度を設定相対湿度の±1%の範囲内に維持することができ、好ましくは設定相対湿度の±0.5%の範囲内に維持することができ、より好ましくは設定相対湿度の±0.3%の範囲内に維持することができる。
このような図1の製造装置により形成した繊維ウエブを不織布として取り扱うこともできるが、繊維ウエブを構成する繊維の残留溶媒を除去するため、又は形態安定性を付与するために、熱処理を行い、不織布とすることができる。また、形態安定性を付与するために、接着剤により接着し、不織布とすることもできる。なお、このような繊維ウエブに対する処理は繊維ウエブ構成繊維の繊維径や孔径分布に影響を与えるものではないため、前記紡糸容器のような密閉空間内で行う必要はなく、開放空間で実施することができる。
このように、本発明における「繊維ウエブ」は静電紡糸法により紡糸した繊維を集積したままの、何等後加工を施していない繊維の集積体を意味し、「不織布」は基本的に繊維ウエブに対して後加工を施したものを意味するものの、前記繊維ウエブ自体も含む包括的な概念である。
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
重量平均分子量42万のポリアクリロニトリルを、N,N−ジメチルホルムアミドに濃度10mass%となるように溶解させた紡糸原液(粘度:930mPa・s)を用意した。
また、図19に示すような製造装置を用意した。つまり、シリンジ(紡糸原液供給装置1)にポリテトラフルオロエチレン製チューブを接続し、このチューブを4つに分岐させ、更に各チューブの先端に内径が0.4mmのステンレス製ノズル21〜24を取り付けた。このノズル21〜24は50mmの間隔をおいて設置した。また、各ノズル21〜24をコンベア3(後述)の幅方向に揺動させて、繊維ウエブの均一性を高めることができるように、ラック・ピニオン機構を有し、連続直動運動させることのできる電動アクチェエータ(オリエンタルモーター(株)製、LU2B20SA−4)をそれぞれ接続した。
次いで、前記各ノズル21〜24に高電圧電源(電圧印加装置4)を接続した。更に、前記各ノズル21〜24と対向し、10cm離れた位置に、表面に導電フッ素加工を施したステンレスコンベア(捕集体3、アース済み)を設置した。上記各ノズル21〜24及びコンベア3を透明塩化ビニル製直方体紡糸容器6(幅:1000mm、高さ:1000mm、奥行き:1500mm)の中央部に配置した。
また、直方体紡糸容器6の壁面上方に調湿機7を接続した。この調湿機7は、冷却コイル、吸湿剤を担持した除湿ロータ、冷却コイル、電気ヒータ、加湿機を順に有し、直方体紡糸容器6へ調湿エアを供給できるものを使用した。なお、加湿機は開口部が0.15m2で、貯留容積が0.021m3の水槽、水槽の上方に位置し、水面を加熱できる赤外線ヒータ、及び水槽の底面側に位置し、水源と接続されたパイプを有するものを使用した。このパイプは水面と平行に伸び、パイプの一部が水中に埋没した領域を有し、水面と垂直方向に水を吐出し、補充することができる吐出部を周壁に1箇所有するもの(図4類似)であった。なお、加湿機は給水開始水位を判断する下限センサーと、給水停止水位(水槽の開口部から15mm下方)を判断する上限センサーが下限センサーよりも3mm上方に設置されており、パイプを通じて水を供給できるものであった。
更に、直方体紡糸容器6の調湿機7の接続壁面と対向する壁面の下方に排気ファン(排気装置8)を接続するとともに、直方体紡糸容器6の排気ファン8を接続した排気口の手前に湿度センサーを設置した。
次いで、前記紡糸原液を前記シリンジ1に入れ、マイクロフィーダーを用いて、重力の作用方向と同じ方向へ押し出す(ノズル1本あたりの押し出し量:2.5g/時間)とともに、各ノズル21〜24をコンベア3の幅方向に一定速度(移動速度:10cm/秒)で往復揺動させた。同時に、前記コンベア3を一定速度(表面速度:0.2m/分)で移動させながら、前記高電圧電源4から各ノズル21〜24に+16kVの電圧を印加して、押し出した紡糸原液に電界を作用させて繊維化し、前記コンベア3のステンレス薄板上に集積させて繊維ウエブを形成した。なお、繊維ウエブを形成する際に、調湿機7の水槽11における、パイプによる水の補充間隔における水面の温度の変動幅を1.5℃以内(熱電対により測定)とすることにより、相対湿度を22±0.2%に調湿したエアを5m3/分で供給するとともに、排気口から出てくる気体を排気ファン8で排気し、直方体紡糸容器6内、つまり紡糸空間5における相対湿度を22±0.2%に維持した。
このようにして繊維ウエブを製造したところ、毛羽立ちや液滴を発生させることなく、安定して繊維ウエブを製造することができた。また、この繊維ウエブを不織布とみなし、不織布の幅方向中間部における試験片を、不織布の長さ方向に1mごとに5点採取し、それぞれの試験片表面の電子顕微鏡写真を撮影した。この各試験片表面の電子顕微鏡写真から50本の繊維の繊維径を計測(合計250本の繊維の繊維径を計測)し、その算術平均繊維径を算出したところ0.30μmで、CV値(=(標準偏差/平均繊維径)×100)が1.9%の繊維径の揃ったものであった。また、各試験片の平均孔径をバブルポイント法(ASTM−F316−86)により測定し、その算術平均孔径を算出したところ1.89μmであり、CV値(=(標準偏差/平均孔径)×100)が1.41%のばらつきの小さいものであった。
(実施例2)
調湿機7の水槽11への補充手段としてのパイプ14が水槽11の底面に位置し、パイプ14が水面方向に伸びており、パイプ14の一部が水中に埋没した領域を有し、パイプ14の先端に吐出部を有しており、水面15の方向に水を吐出できるものを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、繊維ウエブ、つまり不織布を製造した。この不織布(繊維ウエブ)の製造に際しては、毛羽立ちや液滴を発生させることなく、安定して繊維ウエブを製造することができた。
この不織布の算術平均繊維径を実施例1と同様に計測したところ、0.30μmで、CV値が2.5%の繊維径の揃ったものであった。また、この不織布の算術平均孔径を実施例1と同様に計測したところ1.90μmで、CV値が1.80%のばらつきの小さいものであった。
なお、繊維ウエブを形成する際に、調湿機7の水槽11における、パイプによる水の補充間隔における水面の温度の変動幅を2.2℃以内(熱電対により測定)とすることにより、相対湿度を22±0.5%に調湿したエアを5m3/分で供給するとともに、排気口から出てくる気体を排気ファン8で排気し、直方体紡糸容器6内、つまり紡糸空間5における相対湿度を22±0.5%に維持した。
(比較例1)
調湿機7の水槽11として、開口部が0.15m2、貯留容積が0.01m3の水槽を使用したこと以外は、実施例1と全く同様にして不織布(繊維ウエブ)を製造した。この不織布の算術平均繊維径を実施例1と同様に計測したところ、0.30μmで、CV値が4.7%の繊維径のばらついたものであった。また、この不織布の算術平均孔径を実施例1と同様に計測したところ1.92μmで、CV値が3.06%のばらつきの大きいものであった。
なお、繊維ウエブを形成する際に、調湿機7の水槽11における、パイプによる水の補充間隔における水面の温度の変動幅が7℃以内(熱電対により測定)となった結果、相対湿度が22±3%に変動してしまった。つまり、パイプにより水を補充する度に水面の温度が大きく変動した。
また、水を補充し、水面温度が下がった時に湿度が下がり過ぎてしまい、紡糸が不安定となり、液滴が生じてしまい、安定して繊維ウエブを製造することができず、歩留まりが低下するという現象もみられた。