しかしながら、上記特許文献1に記載の土壌汚染浄化方法は、揚水用井戸104から汲み上げた洗浄用溶液を水処理して溶出した汚染物質を回収する必要がある。重金属汚染の場合、汚染物質の濃度は極めて低いのが一般的である。このように極めて低濃度の汚染物質を洗浄用溶液から除去するのは容易ではなく、水処理コスト(金銭的コストやエネルギーコスト)が嵩むという問題が生じる。上述したように、現在、汚染土壌の浄化を低コストで行うことが求められており、上記特許文献1の方法では、低コスト化の問題を解決するものとはならない。
また、洗浄剤水溶液供給用井戸103に洗浄用溶液を注入したり、揚水用井戸104から洗浄用溶液を汲み上げたりするのにポンプが必要であり、このポンプの運転にエネルギーコストが必要であるため、省エネルギー化に限界があるという問題もある。
一方、上記特許文献2に記載の土壌改良方法は、以下の理由によって、実際の土壌改良に使用されていない。特許文献2の方法の場合、図31に示したように、汚染土壌101から浸透する水は土壌改良資材110に浸入し、その水分だけが土壌改良資材110の上部から蒸発するが、このような水の移動が生じるのは、図31の斜線で示したような、地表面近傍の極一部分である。地中に埋設された部分については、土壌改良資材110に浸入した地下水は他に行き場がないため土壌改良資材110に留まる。従って、汚染物質が土壌改良資材110に殆ど蓄積されることはなく、汚染土壌101の浄化効率は極めて低くなる。故に、実際の土壌改良用に実用化はされていないのが現状である。
そこで、本発明の目的は、汚染土壌を他所に搬出する事なくオンサイトで処理することができ、低コストで且つ効率よく汚染土壌中から汚染物質を除去することが可能な汚染土壌浄化技術を提供することにある。
本発明の汚染土壌浄化装置の第1の構成は、汚染された土壌を浄化するための汚染土壌浄化装置であって、汚染土壌を包囲して土中に埋置された止水層と、前記止水層で包囲される汚染土壌の全体に洗浄液を分散注入する注水手段と、前記止水層で包囲される汚染土壌に、前記止水層のある底部又はその近傍まで掘削された、前記汚染土壌内を通過した前記洗浄液を集水する集水装置と、前記集水装置内の空気中に曝気した状態で前記集水装置内に配設され、前記集水装置内に貯留する前記洗浄液を吸水する繊維質体からなる吸水蒸散体と、を備え、前記集水装置が外気と換気可能とされていることを特徴とする。
この構成によれば、まず注水手段によって汚染土壌の全体に洗浄液が分散注入される。分散注入された洗浄液は、汚染土壌内を通過するが、この際に、汚染土壌中の汚染物質が洗浄液に溶出する。汚染物質を溶解した洗浄液は、重力によって汚染土壌の底部の止水層上に集まり、最終的には集水装置に集水され、集水装置の底部には汚染物質が溶解濃縮された洗浄液(浸出液)が貯留される。この浸出液は、集水装置内に配設された吸水蒸散体に吸収され、毛管現象によって吸水蒸散体内に広がる。吸水蒸散体は集水装置内の空気中に暴露されているため、浸出液が空気と接触する表面積が拡大し、水分の蒸散が促進される。そして、集水装置は外気と換気されているので、集水装置内の湿度上昇が抑えられて効率よく水分蒸散が行われ、その結果浸出液内の汚染物質のみが吸水蒸散体内に残留する。従って、この吸水蒸散体内に汚染物質が濃縮蓄積されるので、ある程度汚染物質が蓄積した時点で吸水蒸散体を交換すれば、汚染物質を除去することができる。
このように、本発明では、まず第1段階として洗浄液により汚染物質を濃縮して集水装置に集め、第2段階として集水装置内で水分を蒸散させて吸水蒸散体中に汚染物質を濃縮するようにしたことで、効率よく汚染物質を回収・除去することが可能となる。
また、水処理や浸出液の汲み上げなども必要としないため、低コストで汚染土壌の浄化を行うことが可能である。また、汚染土壌を他所に運び出すことなく、原位置に止水層を設けて浄化処理することが可能である。
ここで、「止水層」としては、コンクリート、遮水シート等の水のしみ出さない層を使用することができる。「注水手段」は、止水層で包囲される汚染土壌の全体に洗浄液を分散注入するものであればよく、例えば、汚染土壌の表面や土中に不織布、散水管、水平ドレーン等の透水性部材を設置してこの透水性部材に洗浄液を供給するような構造が使用できる。「洗浄液」については、ここでは特に特定はしないが、重金属汚染土壌を浄化処理する場合には、酸性又はアルカリ性の溶液を用いる。酸性溶液としては、例えば、硝酸、クエン酸、ギ酸、リンゴ酸、マレイン酸、酢酸などを用いることができる。また、アルカリ性溶液としては、苛性ソーダ溶液等を用いることができる。「注水手段」についても、ここでは特に特定しないが、例えば、汚染土壌の地表に一様に散水するシートや透水性部材、散水管を設けたり、汚染土壌の土中に散水用の透水性部材を設けたりすることによって構成することができる。「集水装置」の深さは「止水層のある底部又はその近傍」とされるが、これは、重力によって汚染土壌の底部の止水層上に集まった洗浄液を集水するためである。「毛管現象により水の吸い上げが可能な繊維質体」とは、繊維内に保持された水分が毛管現象によって原水面よりも高所に吸い上げられる特性を有する繊維質体をいう。吸水蒸散体としては、様々なものを使用することが可能であり、例えば、ガラス繊維、不織布、スポンジ等を使用することができる。この吸水蒸散体は、特に強度は必要としないため、円筒状又は円柱状の集合体としてもよいし、シート状の形状としてもよい。特に、蒸散効率を向上させるため、波板状又はそれを丸めた形状として表面積を増加させるようにすることが好ましい。集水装置は外気と換気可能であればよく、例えば、単に集水装置の上部を外気に解放したり、ファン等により外気を積極的に送風するようにすることができる。
本発明の汚染土壌浄化装置の第2の構成は、前記第1の構成において、前記吸水蒸散体は、前記集水装置の底部に立設された、毛管現象により前記集水装置内に貯留する前記洗浄液を吸い上げることが可能な繊維質体からなることを特徴とする。
これにより、吸水蒸散体を収納する集水装置の構造をコンパクトに構成することができる。
本発明の汚染土壌浄化装置の第3の構成は、前記第1又は2の構成において、前記吸水蒸散体は、無機繊維に重金属吸着剤を分散保持させたものからなることを特徴とする。
この構成によれば、吸水蒸散体に吸収された重金属汚染物質は、重金属吸着剤に吸着されるため、効率よく汚染物質を浄化することができる。
ここで、「無機繊維」は、毛管現象により水の吸い上げが可能な太さの繊維であれば良く、吸い上げ性能の観点からは、好ましくは平均繊維径が2μm以下のものであることが好ましい。また、材料としては、一般にはガラスが使用されるが、それ以外の材料を用いることも可能である。
本発明の汚染土壌浄化装置の第4の構成は、前記第1乃至3の何れか一の構成において、前記集水装置に外気を送気する送風機を備えていることを特徴とする。
このように、集水装置に送風機で外気を強制的に送風することにより、集水装置内の湿度を低い状態に保ち、吸水蒸散体の水分が蒸散する速度を速めることで、汚染物質の除去速度を向上させることができる。
本発明の汚染土壌浄化装置の第5の構成は、前記第4の構成において、前記送風機から送気する外気を加熱する加熱装置を備えていることを特徴とする。
このように、加熱装置によって集水装置内の空気の温度を上昇させ、集水装置内の吸水蒸散体からの水分蒸発を早めることで、汚染物質の除去速度を更に向上させることができる。
本発明の汚染土壌浄化装置の第6の構成は、前記第5の構成において、前記加熱装置は、太陽熱集熱板と、前記太陽熱集熱板内に外気を通して該太陽熱集熱板で集熱される熱を内部を通る外気に給熱する給熱管とを備え、前記給熱管を通した外気を前記集熱井戸に送気することを特徴とする
この構成によれば、太陽熱により集水装置に送風する外気を加熱するため、外気を加熱するためのエネルギーコストが削減され、汚染物質の除去速度を早めるとともにより低コストで運用することが可能となる。
本発明の汚染土壌浄化装置の第7の構成は、前記第1乃至6のいずれかの構成において、前記集水装置の上部を覆って設けられた透光板を備えていることを特徴とする。
このように、集水装置の上部を透光板で覆うことで、太陽光が透光板を通って集水装置内に差し込んで温室効果により集水装置内の温度を上昇させることができる。その結果、集水装置内の吸水蒸散体からの水分蒸発を早め、汚染物質の除去速度を更に向上させることができる。尚、この場合、集水装置内の空気を換気するための換気路をいずれかの場所に設ける。
本発明の汚染土壌浄化装置の第8の構成は、前記第1乃至7の何れか一の構成において、前記注水手段は、前記止水層で包囲される汚染土壌の表面全体に敷設された透水性部材から構成される表面透水層を備えていることを特徴とする。
この構成によれば、汚染土壌の表面敷設された透水層に洗浄液を送水すると、汚染土壌の表面全体に洗浄液が分散注水される。この洗浄液は重力により汚染土壌内を下方に浸透し、結果的に汚染土壌全体にわたって洗浄液を分散させることができる。また、散水用の設備が簡単で、ポンプなどの動力装置も必要としないので、低コストで洗浄液の分散注水を行うことができる。
本発明の汚染土壌浄化装置の第9の構成は、前記第8の構成において、前記注水手段は、前記表面透水層に加えて、前記止水層で包囲される汚染土壌内の各所に垂直に埋設された透水性部材からなる垂直透水層を備えていることを特徴とする。
この構成によれば、汚染土壌の表面のみならず、垂直透水層を通して汚染土壌の内部にも洗浄液を直接注水することができる。従って、効率よく汚染土壌内に洗浄液を分散させ効率よく汚染物質の溶出を行うことができる。
本発明の汚染土壌浄化装置の第10の構成は、前記第1乃至9の何れか一の構成において、前記止水層で包囲される汚染土壌の底部に敷設され、前記汚染土壌の底部に浸出する洗浄液を前記集水装置に導く回収透水層を備えていることを特徴とする。
この構成によれば、汚染物質が溶出された洗浄液は、底部の回収透水層を通して集水装置に回収されるため、汚染土壌中の洗浄液の流れが垂直方向の一方向となり、土壌からの汚染物質の分離を効率よく行うことができる。
本発明の汚染土壌浄化装置の第11の構成は、前記第1乃至10の何れか一の構成において、前記汚染土壌と前記止水層の間に形成された貯水空間と、
前記貯水空間内に投入された、微生物を培養するための粉粒状の培床と、
前記貯水空間内に空気を散気する散気手段と、
を備えたことを特徴とする。
この構成により、汚染土壌を通過して汚染物質が溶出された洗浄液(浸出液)は、汚染土壌の下部の貯水空間に貯溜する。そして、散気手段により、浸出液と粉粒状の培床とが攪拌されるとともに、曝気されて微生物の繁殖に適した好気状態となる。繁殖した微生物は、浸出液に含まれる有機酸成分を分解し、蓄積する酸量が低減される。また、微生物の活動により、浸出水の温度が上昇するため、水分が蒸発しやすい状態となり、吸水蒸散体における蒸散が促進される。
ここで、「粉粒状の培床」としては、大鋸屑、木片、糠、籾殻等の菌床を使用することができる。
本発明の汚染土壌浄化装置の第12の構成は、前記第1乃至11の何れか一の構成において、前記止水層で包囲される汚染土壌が入れられた容体内と前記集水装置とは、その最下部において前記洗浄液が通過する通液路により連通しており、前記通液路には、前記洗浄液の通液を通断する開閉栓が設けられていることを特徴とする。
この構成により、まず、汚染土壌に洗浄液を分散注水する際に開閉栓を閉栓しておくことにより、汚染土壌全体に洗浄液を確実に浸漬させ、その後開閉栓を開栓して洗浄液を集水装置に排出させることにより、汚染土壌内に洗浄液が行き渡らない部分が生じることが防止される。また、使用する酸の量を減らすことができる。
本発明の汚染土壌浄化装置の第13の構成は、前記第1乃至12の何れか一の構成において、前記集水装置の底部に吸着材が配設されていることを特徴とする。
この構成により、集水装置の底部に溜まった洗浄液は、吸着材に吸収され、集水装置内の空気と接触する比表面積が増大する。これにより、集水装置底部に溜まった洗浄液の蒸発が促進され、洗浄液の不揮発成分が濃縮される。その結果、吸水蒸散体内に汚染物質を濃縮蓄積し回収する時間を短縮することができる。また、吸着材は洗浄液に含まれる汚染物質を吸着する能力が極めて大きい素材である。従って、集水装置の底部に溜まった洗浄液中の汚染物質は、吸着材に吸着され除去される。そのため、吸水蒸散体に集積される汚染物質量が幾分低減されることになり、吸水蒸散体を取り替えなしに使用できる期間が長くなる。
ここで、汚染物質が重金属で酸性の洗浄液を使用する場合、汚染物質の吸着性能がよく、吸着処理後の処理溶液のpHが中性に近くなる点を考慮すると、「吸着材」としては、グラスウール(ガラス繊維)、ロックウール、セラミックファイバー(セラミック繊維)、シリカ繊維、アルミナ繊維、ムライト繊維、ゼオライト繊維等の無機繊維や活性炭繊維、有機樹脂繊維等の有機繊維、若しくはこれらの繊維の組合せ、若しくはこれらの繊維にさらにシリカ、セピオライト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム及び炭酸カルシウム等の吸着材の粉末を担持させたものを使用することができる。中でも特に、「吸着材」として、マグネシア・アルミナ系又はマグネシア系のロックウールを使用するのが適している。
本発明の汚染土壌浄化方法の第1の構成は、汚染された土壌を浄化するための汚染土壌浄化方法であって、汚染土壌を包囲した状態で止水層を土中に埋置し、前記止水層で包囲された汚染土壌に、前記止水層のある底部又はその近傍まで集水装置を掘削形成し、前記集水装置の底部に、毛管現象により水の吸い上げが可能な繊維質体から成る吸水蒸散体を立設し、前記汚染土壌に洗浄液を分散注水して、前記汚染土壌全体に洗浄液を通過させ、前記汚染土壌を通過した洗浄液を前記集水装置により集水し、前記集水装置に集水された洗浄液を前記吸水蒸散体に吸水させるとともに、前記集水装置内の空気を換気して、前記吸水蒸散体の水分を前記集水装置内の空気中に蒸散させることにより、前記吸水蒸散体に汚染物質を凝集させることを特徴とする。
本発明の汚染土壌浄化方法の第2の構成は、前記第1の構成において、前記集水装置内の空気を太陽熱により加熱することを特徴とする。
本発明の汚染土壌浄化方法の第3の構成は、前記第1又は2の構成において、前記止水層で包囲される汚染土壌が入れられた容体内と前記集水装置とは、その最下部において前記洗浄液が通過する通液路により連通するように形成するとともに、前記通液路に、前記洗浄液の通液を通断する開閉栓が設け、前記汚染土壌に洗浄液を分散注水する際に前記開閉栓を閉栓しておき、前記汚染土壌全体が前記洗浄液により浸漬された後に、前記開閉栓を開栓して、前記汚染土壌を通過させた洗浄液を前記集水装置により集水することを特徴とする。
本発明の汚染土壌浄化方法の第4の構成は、前記第1乃至3の何れかの構成において、前記汚染土壌全体に洗浄液を通過させることにより前記汚染土壌の洗浄を行い前記吸水蒸散体に汚染物質を凝集させた後に、前記汚染土壌に水又は中和液を分散注水して、前記汚染土壌全体に水又は中和液を通過させ、前記汚染土壌を通過した水又は中和液を前記集水装置により集水し、前記集水装置に集水された水又は中和液を前記吸水蒸散体に吸水させるとともに、前記集水装置内の空気を換気して、前記吸水蒸散体の水分を前記集水装置内の空気中に蒸散させることにより、前記汚染土壌内の汚染物質の除去を行うことを特徴とする。
ここで、「中和液」とは、洗浄液により酸性化又はアルカリ性化した汚染土壌を中性化する液体をいい、洗浄液のpHによって最適な組成のものが適宜選択される。例えば、洗浄液が酸性の場合、中和液としては、水酸化カルシウム溶液、苛性ソーダ溶液等を使用することができる。
以上のように、本発明によれば、汚染土壌を他所に搬出する事なくオンサイトで処理することが可能であり、低コストで且つ効率よく汚染土壌中から汚染物質を除去することが可能となる。従って、土地価格の低い地方などでも容易に導入して汚染土壌の浄化を実施することが可能であり、土壌汚染処理対策の促進を図ることができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施例1に係る汚染土壌浄化装置1の構成を表す図である。本実施例の汚染土壌浄化装置1は、まず、土壌汚染がされた現地の地面Gの汚染土壌を掘削して、掘削してできた凹地全体を覆うように止水層2を設置し、この止水層2の内部に汚染土壌である被処理土壌Pを埋め戻すことによって設置される。この汚染土壌浄化装置1は、止水層2、表面透水層3a、回収透水層4、集水装置5、透光板6、吸水蒸散体7、吊棒8、送風機9、送気管10、表面遮水層11、注水タンク12を備えている。
止水層2は、コンクリートや遮水シートなどの遮水性材料によって構成された層である。止水層2で包囲された領域を、以下「ピット」と呼ぶ。
注水タンク12には、汚染土壌を洗浄するための洗浄液が貯水されている。洗浄液は、汚染物質の種類に応じて選択される。重金属汚染物質の場合、例えば、浄化処理の初期段階では硝酸、塩酸などの強酸、中期・後期段階ではクエン酸、ギ酸、リンゴ酸、マレイン酸、酢酸などの弱酸が選択される。前期に強酸を使用する理由は、汚染土壌中に多く存在する汚染物質以外の金属成分(カルシウム、鉄、アルミニウム等)は、酸を中和し汚染物質の溶出の妨げとなることから、これら多量含有成分を初期段階で溶出させることで、早期に汚染物質の溶出しやすい環境を作り出す為である。尚、コスト面から考えて、初期に使用する強酸としては、硝酸を使用するのが好ましいと考えられる。
尚、環境への影響等を考慮する場合には、溶出処理速度は多少遅くなるが、全過程を通して天然系有機酸である酢酸を使用するようにしてもよい。
表面透水層3aは、透水性の部材によって構成され、止水層2内に充填された被処理土壌Pの表面全体に亘り敷設されている。表面透水層3aには、注水タンク12から注水管13を介して洗浄液が供給される。本実施例では、この表面透水層3a、注水タンク12、及び注水管13が注水手段として機能する。透水性の部材としては、例えば、透水砂礫、透水性コンクリートや水平ドレーン材を使用することができる。「水平ドレーン材」とは、プラスチック製の表面に高強度の凹凸と透水口が一様に形成されたシートであり、ジオドレーン工法などで一般的に用いられている素材である。例えば、商品名「SBドレーン」として市販されているものが使用可能である。
表面透水層3aの表面は、遮水性の表面遮水層11によって舗装されており、被処理土壌P上の土地は駐車場等に利用可能となっている。
回収透水層4は、被処理土壌Pの底部(止水層2の底面上)全体に敷設された透水層である。この回収透水層4も、水平ドレーン材等の透水性部材を用いて構成される。
集水装置5は、止水層で包囲される容体内の汚染土壌に、止水層2のある底部まで掘削された井戸である。集水装置5の位置は、ピットの中央でも端でもよいが、図1の例では、ピットの端に設けられている。
集水装置5の上部の開口部には、強化ガラス又は透明強化プラスチックで作られた透光板6が設けられている。透光板6は、人や動物が誤って集水装置5に転落することを防止するとともに、温室効果によって集水装置5内の温度を上昇させるための役割を有する。尚、透光板6は、強化ガラス又は透明強化プラスチック以外でも、太陽光が透過可能な透明部材であればよい。集水装置5の上部の開口部の端には、透光板6により完全には遮蔽されておらず、換気のための換気路16が隙間として設けられている。
更に、集水装置5の底部には、吸水蒸散体7が立設されている。吸水蒸散体7は、毛管現象により水の吸い上げが可能な繊維質体からなる。具体的には、本実施例では、重金属吸着剤を分散保持させたガラス繊維の不織布が用いられており、その繊維中には重金属吸着剤を分散保持されている。吸水蒸散体7の形状は、表面積を大きくするために断面波状に褶曲された板状に形成されており、転倒を防ぐために、透光板6から吊棒8により吊り下げられている。また、吸上吸収体7の下端には受皿7aが設置されている。
送風機9は、集水装置5内に外気を送り込むためのファンである。送風機9の吐出口には送気管10の一端が接続され、送気管10の他端は集水装置5の底部付近の空気中に開口している。
以上のように構成された本実施例の汚染土壌浄化装置1について、以下その浄化処理方法(以下「逐次土壌浄化法」と呼ぶ。)について説明する。図2は、本実施例における汚染土壌浄化装置1における洗浄液の移動を模式的に表した図である。
まず、注水タンク12に洗浄液を入れる。洗浄液としては、硝酸、クエン酸等の汚染物質を溶出する酸性液体(汚染物質の種類によってはアルカリ性溶液も用いられるが、本実施例では一例として、酸性溶液を用いて説明する。)が選択される。注水タンク12に洗浄液が充填された状態で、注水管13に設けられた開閉弁14を開弁する。これにより、表面透水層3aに洗浄液が供給される。洗浄液の供給速度は、開閉弁14の開度を調節することによって、調節することができ、被処理土壌Pの透水係数と集水装置5における蒸発速度とをバランスさせるように設定する。
表面透水層3aでは、洗浄液が被処理土壌Pの表面全体にわたって広がり、表面全体から被処理土壌P内に洗浄液が分散注水されていく。被処理土壌P内に浸透した洗浄液は、被処理土壌P内の汚染物質を溶出しながら、重力により徐々に底部に向かって移動する。最終的には、洗浄液は回収透水層4に達する。洗浄液が被処理土壌Pを通過する過程で、酸によりpHが低下して洗浄液には汚染物質が溶出されていくので、回収透水層4に回収される洗浄液(浸出液)には汚染物質が濃縮されている。回収透水層4に回収された浸出液は、回収透水層4内を水平に移動して集水装置5に集水される。このように、洗浄液の移動方向は被処理土壌P内では垂直方向であり、滞留したり循環したりすることがないため、効率よく汚染物質の溶出回収がされる。
集水装置5に集水された浸出液は、吸水蒸散体7に吸収される。吸水蒸散体7では、毛管現象によって浸出液が上向きに徐々に上昇する。この毛管上昇距離は、吸水蒸散体7の素材によって異なるが、ガラス繊維を使用して実験した場合、水面上50cm〜1m程度であった。
吸水蒸散体7内を水面上まで上昇した浸出液は、水分が蒸散する。蒸散した水分は、送風機9の強制換気によって外気中に放出される。このとき、晴れた昼間は、透光板6から差し込む日光によって集水装置5内の温度が上昇するため、吸水蒸散体7内の水分の蒸散速度は速くなる。吸水蒸散体7内の浸出液が脱水されることによって、不揮発性の汚染物質が吸水蒸散体7内に残留し濃縮される。このとき、吸水蒸散体7内には繊維中には重金属吸着剤が含まれているため、重金属汚染物質は吸水蒸散体7内に吸着され、吸水蒸散体7内の重金属汚染物質濃度が高くなっても、重金属汚染物質が再び集水装置5内の水中に溶出することが防止される。
以上のように、汚染物質は最終的には吸水蒸散体7内に濃縮される。ある程度吸水蒸散体7内の汚染物質の濃度が高くなると、吸水蒸散体7を新しい物と交換する。これによって、継続して土壌汚染の浄化を行うことができる。
このように、本実施例では、吸水蒸散体7を集水装置5内に設けることで、水分の蒸散を促進すると同時に汚染物質の濃縮回収をし、水処理を不要としたので、極めて低コストで汚染物質の浄化処理を行うことができる。
尚、上述した本実施例の汚染土壌浄化装置1を用いた被処理土壌Pの浄化方法においては、酸性(又はアルカリ性)の洗浄液を被処理土壌Pに通過させて汚染物質を溶出させ、被処理土壌P内の汚染物質の含有量を低減させることについて説明した。
ところで、観点を変えると、被処理土壌P内の汚染物質の含有量の多少によらず、被処理土壌Pから汚染物質が一定の基準量以上溶出しないように洗浄すれば環境汚染の問題は生じないとも考えることができる。ここで、「含有量」とは、土壌に含まれる汚染物質の絶対量であり、環境基準として重金属等の含有量が種類ごとに定められている(例えば、Pbの場合、150mg/kg)。また、「溶出量」とは、土壌に水を加えて攪拌した場合に水中に溶出してくる汚染物質の絶対量である。溶出量の環境基準としては、土壌に10倍の水を加えて十分に攪拌した場合に溶出する汚染物質の絶対量として、特定有害物質ごとに定められている(例えば、Pbの場合、0.01mg/L)。現実的には、汚染物質の含有量の環境基準を満たすように土壌を洗浄するという観点よりも、溶出量の環境基準を満たすように土壌を洗浄するという観点のほうがより重要である。
次に、各洗浄液で溶出する重金属汚染物質を分画すると、水溶性画分、中和画分、酸可溶性画分、酸化画分、残渣画分に分画することができる。ここで、水溶性画分とは、精製水で溶出する重金属の画分である。中和画分とは、精製水と酢酸程度で溶出する重金属の画分である。酸可溶性画分とは、酢酸程度で溶出する重金属の画分である。酸化画分とは、酢酸より強い酸性物質により溶出する重金属の画分である。残渣画分とは、上記画分以外の重金属の画分である。通常の自然環境下において最大可能溶出量となる成分は、上記画分のうち、水溶性画分、中和画分、及び酸可溶性画分の一部までである。
そこで、溶出量の環境基準を満たすという観点から、本実施例の汚染土壌浄化装置1を用いた被処理土壌Pの浄化方法としては次のような方法(以下「改良逐次土壌浄化法」と呼ぶ。)を用いることも可能である。
まず、上記説明した逐次土壌浄化法により酸の洗浄液によって被処理土壌Pから汚染物質を溶出させて吸水蒸散体7による回収を行う。この場合、酸としては天然の有機酸である酢酸を用いるのがもっとも適している。そして、ある程度、汚染物質の溶出が終わった時点で、最後に、洗浄液を水又は中和液に切り替えて、上記説明した逐次土壌浄化法により水又は中和液による被処理土壌Pの洗浄(中和処理)を行う。この中和処理によって、被処理土壌P内の酸が洗い流され土壌Pが酸性から中性に戻るとともに、重金属等の汚染物質が安定化し溶出しないようになる。
このように、最後に水による被処理土壌Pの洗浄を行うことで、洗浄液により溶出されきれずに被処理土壌P内に残留した汚染物質が化学的に安定化し、土壌内に固定化されて溶出しないようになるため、汚染物質の溶出量を低減させることができる。
尚、上記中和液は、使用する洗浄液のpHにより異なってくるが、例えば、洗浄液に酸を使用した場合には、アルカリ性の中和液、例えば、水酸化カルシウム溶液等を使用することができる。
図3は、本発明の実施例2に係る汚染土壌浄化装置1の構成を表す図である。本実施例では、基本的には実施例1の場合と同様であるが、注水手段として、表面透水層3aに加えて垂直透水層3bを備えた点で異なっている。垂直透水層3bは、被処理土壌P内の各所に垂直に埋設された透水性部材からなる。具体的には、透水性コンクリートや垂直ドレーン材を使用することができる。垂直ドレーン材を使用する場合、例えば、商品名「SBドレーン」として市販されているものが使用可能である。
このように、垂直方向の注水手段として垂直透水層3bを設けることで、被処理土壌Pの内部にも洗浄液を直接注水し、汚染物質の溶出効果をより高めることができる。
更に、浄化速度を早める必要がある場合には、図4に示したように、被処理土壌Pの地中に水平透水層3cを一乃至複数埋設してもよい。この水平透水層3cも、表面透水層3aと同様の透水性部材からなる。表面透水層3aに供給された洗浄液は、垂直透水層3bにも流れ込み、更に垂直透水層3bから水平透水層3cへも流れ込む。これによって、被処理土壌Pの各所により直接的に洗浄液が直接分散注入されるため、より効果的な汚染物質の溶出を行うことができる。
図5は、本発明の実施例3に係る汚染土壌浄化装置1の構成を表す図である。本実施例の汚染土壌浄化装置1は、基本的には、実施例2の図3で説明したものと同様であるが、送風機9に供給する外気を加熱する加熱装置として、太陽熱集熱板15a及び給熱管15bからなる太陽熱集熱器15を備えたことを特徴とする。太陽熱集熱器15は、建物の屋上や壁面に設置されるものなど、従来から広く使用されているものを用いればよい。
太陽熱集熱板15aは、太陽光により加熱され蓄熱される板状体である。給熱管15bは、太陽熱集熱板15a上にジグザグに配設されており、太陽熱集熱板15a内に外気を通して該太陽熱集熱板15aで集熱される熱を、内部を通る外気に給熱する。この加熱された外気が、送風機9及び送気管10を通って、集水装置5内に供給される。これにより、集水装置5内の空気が加熱されて吸水蒸散体7からの水分の蒸発速度が速まり、より高速に浄化処理を行うことが可能となる。
(実験例1)
次に、本発明で使用する洗浄液の検討・評価をするために試験を行ったので、その結果について説明する。
(1)汚染土壌試料の性状
(1−1)基本量
汚染土壌は、国内2カ所より入手し、土壌中からゴミ等を除いた後、プラスチック製2mmメッシュ篩を通過させて、十分に混合して試験用の汚染土壌を作成した。混合重金属汚染土壌の基本量は、湿潤密度ρw=1.59Mgm-3、間隙率n=45%、体積含水率θ=12%、透水係数k=2.07×10−3cm/sであった。但し、一方の土壌はスラッジ混じりであり、汚染原因物質そのものが含有されていると考えられる。
(1−2)汚染土壌の含有用試験
調製汚染土壌資料を、環境庁告示第19号「土壌含有量調査に係わる測定方法を定める件」に従って試験を行い、Cd,Se,Pd,Asの含有量測定はICP−MSを用いた。また、併せて主成分の含有量はICP−AESにより求めた。
対象4物質と主要3物質の測定結果を表1に示す。
表1より、Pbの含有量が指定基準を超えており、Asの含有量は指定基準に近い値となっていることが分かる。また、土壌中に含有されているCa,Al,Feは、重金属の含有量に比べてかなり多いことが分かる。
主要物質は、酸と反応して溶出してくるため、その単位重量あたりの当量を求めた。その結果を表2に示す。
上記表2の結果から、試験土壌1kg中の主要物質溶出に要する酸の当量を推測すると、2.21molとなる。
(1−3)溶出試験
上記の調製汚染土壌試料の溶出試験を行い、その結果を表3に示した。溶出量は、Asのみが指定基準を超えていることが分かる。
(2)実験方法と結果
実験は、1)バッチ試験による有機酸の選定、2)カラム試験による溶出条件の検討、の順に行い、有機酸による土壌浄化の可能性を評価検討した。
(4−1)バッチ試験による有機酸の選定
まず、汚染土壌から重金属汚染物質を分離するために有用な酸の選定を行うため、8種類の有機酸による溶出試験を行った。試験は、環境庁告示第19号「土壌含有調査に係わる測定方法を定める件」に従って行った。また、比較のため、1%硝酸で同様の試験を行った。検討した酸の種類を表4に示す。また、試験結果を図6に示す。
1%硝酸に近い溶出力を示したのは、Cdでは酢酸、マロン酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸及びリンゴ酸であり、Pbでは、マロン酸、クエン酸、酒石酸及びマレイン酸となっている。また、Asでは、マロン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びシュウ酸が良好な溶出値となっている。特に、シュウ酸は1%硝酸の約3倍の溶出値となっている。
以上の結果から、シュウ酸とクエン酸の混合液、及び特にPbで有効であったマレイン酸とシュウ酸を組み合わせた2種の混合液で溶出試験を行ったが、単独での溶出値と比べ特に強い溶出値は確認されなかった。従って、最終的にコストを加味して、クエン酸が最良の有機酸洗浄剤であるという結論を得た。
(4−2)有機酸濃度の検討
以上の実験で選定されたクエン酸を用いて、酸濃度と溶出量との関係を検討した。クエン酸の濃度としては、1%,0.4%,0.1%,0.04%,0,01%の5種類の濃度で実験を行った。図7に溶出試験の結果、図8に溶出試験前後のpH値を示す。この結果からすると、0.4%以上のクエン酸が有効となるが、試験土壌1kg中の主要物質(Ca,Al,Fe)の溶出に2.21mol当量の酸が必要であることを考慮すれば、0.4%のクエン酸の2.21mol当量の多くはイオン化傾向の小さい主要物質に優先的に消費される可能性があることが示唆される。
(4−3)有機酸の必要量の検討
有機酸濃度による重金属汚染物質の溶出試験において、酸での溶出では、最初に主要物質が溶出し、その後、浄化対象となる重金属汚染物質が溶出する可能性がある。これを確認するために、クエン酸の量を変えた溶出試験を行った。実験は、次のような手順で実施した。
まず、汚染土壌試料30gにクエン酸0g,1g,2g,4g,6g,10gと精製水30mLを加え、2時間振盪した後、0.45μmメンブランフィルタで吸引濾過した。得られた濾液2mLをビーカーにとり、精製水と硝酸5mLを230℃で5mLになるまでホットプレートで加熱した。この操作を3回繰り返して、計15mLの硝酸で有機酸を分解した。放冷後、精製水を加えてポリ試験管に入れ、正確に50mLとし、測定前に内標準溶液50μLを加えICP−MSで測定した。
図9に、実験の結果から得られたクエン酸量と土壌からの重金属溶出量及び溶出試験液のpHを示す。この結果から、クエン酸量が4g以上になると急にpHが減少し、対象重金属の溶出量が増加していることが分かる。この量は、上述の表2の結果から推定すると、試験土壌30gに含まれる主要物質の酸消費量は0.0663mol当量、即ち、クエン酸4.45gに相当する。つまり、主要物質がクエン酸を消費する間は対象重金属の溶出はあまり進まないことになる。
(4−4)溶出促進剤(クエン酸)を用いたカラム試験
上述の実験はバッチ試験であるが、実際の現場での浄化はバッチ法を採用できないため、カラム試験により対象金属の溶出挙動を調査する実験を行った。
図10は、カラム試験の実験装置の構成を示す模式図である。図10に示したような、内径10cm、長さ50cmのカラム試験装置に、下から順にガラスビーズ3cm、標準砂3cm、土壌5cm(40mL,500g)、標準砂3cmを積層し、水面と砂の面が同じになるまで精製水を下から入れ、空気を抜いて準備をする。この状態から、10%クエン酸を約1.0mL/minで上部から流し、溶出液をポリ瓶に100mLずつ回収した。クエン酸を2.1L浸透させた後、再び精製水(ミリQ水)を注水する。対象重金属濃度は、回収溶液から1mLをポリ試験管に分取して、5%硝酸で50mLとして内標準液50μLを加えIPC−MSで測定した。また、実験後の土壌を回収し、環境庁告示第19号「土壌含有量調査に係わる測定法を定める件」に従って試験を行い、Cd,Se,Pb,Asの含有量を求めた。
この実験結果の一部(PbとCdの結果)を図11〜図14に示す。図11,図13は、クエン酸投入量と土壌からの溶出量及び溶出液のpHとの関係を示す。図12,図14は、クエン酸投入量と土壌からの溶出量積算との関係を示す。
これらの実験結果を見ると、pHはカラムを通過するのに要するデッドボリューム600mLまでは中性を示し、溶出量の多いPbの場合は殆ど溶出してこない。その後pHは低下して、Pbの溶出量は急増し、クエン酸浸透期間中は安定的に溶出が継続している。その後、クエン酸からミリQ水に変えると、一時的に溶出量が急増しているが、pHは徐々に上昇し、溶出量は急減している。試験汚染土壌500g中の主要物質の酸消費量は1.11mol当量であり、それに相当する10%クエン酸は700mLである。溶出液のpH低下及び対象金属の溶出の開始が600〜900mLから始まっていることから、カラム試験の結果も上記(4−3)の結果と同様、主要物質が最初に酸と反応したと考えられる。一方、Cdの場合は、溶出量が小さいこともあって、初期段階から溶出している。
次に、試験前後の土壌及び溶出液中の重金属含有量を測定した結果を表5に示す。
Cd,Se,Pbの溶出率は70%以上とかなり大きくなっているが、Asは26%と小さいことが分かる。Asが小さい理由としては、汚染土壌中にヒ素を含有すると考えられるスラッジが含まれており、ヒ素については異なる挙動となっている可能性がある。
一方、試験前後と溶出量の収支を見ると、バラツキがあるが概ね整合していることが確認できる。試験前後の測定は、1M塩酸を用い、溶出はクエン酸であるが、特に大きな差異は認められない。
(5)結論
以上の実験の結果、本発明の汚染土壌浄化装置1を用いて土壌浄化を行う場合、土壌中に一定濃度以上のクエン酸を浸透させることで、Cd,Se,Pdについては70%以上の溶出率が期待され、重金属の分離、溶出が十分に可能であることが、モデル実験によって確認された。Asについては溶出率が26%と小さくなったが、これは汚染土壌中にAsを含むスラッジが含有されており、除去が容易ではない可能性があると推察される。また、浸透させた酸は、最初に土壌中の主成分(Ca,Fe,Al等)の溶出に多く消費され、その後に重金属汚染物質の溶出に消費されることが示唆された。従って、浄化処理の初期段階で土壌中の主成分(Ca,Fe,Al等)を早期に溶出させ、重金属汚染物質の溶出を促進させるため、浄化処理の初期段階では硝酸等の強酸を洗浄液に用い、浄化処理の中期から後期段階にかけてはクエン酸等の弱酸を使用するのがよいといえる。
(実験例2)
次に、吸水蒸散体7に含有させるための吸着剤の検討、毛管吸引材の検討、毛管上昇・水分蒸発促進試験、及び重金属の吸引確認試験を行ったのでその結果を説明する。
(1)吸着剤の検討
吸水蒸散体7に分散保持させる重金属吸着剤(以下「吸着剤」という。)についての検討を行う。吸着剤は、回収した重金属を濃縮・回収する効率を向上させることが期待される。ここでは、数種類の吸着剤を選定し、重金属溶出溶液を用いて吸着実験を行った。
実験方法は、まず、吸着剤2gをとり、上述のカラム試験で得られた溶液を200mL加え1時間振盪し、その後1μmグラスフィルターで濾過した。次に、濾液から5mL取り、5%HNO3で500mLにした後、内標準液50μLを加えてよく攪拌し、試験液とした。また、この試験液は測定前にNaOH水溶液を用いてpH3及びpH7の2種類に調製した。
測定対象物質は、As,Cd,Pb,Seの4種類とし、ICP−MSにて測定した。吸着剤は、試料等調査を行い、表6に示した6種類を選定した。
図15は、As,Cd,PbについてpH3及びpH7における各種吸着剤とその吸着率[=1−(溶液に残存している重金属量/初期の溶液中の重金属量)]を示したものである。この結果から、pH3とpH7の差を見ると、当然ながらpH3での吸着率は小さくなっており、最大でも30%を若干越える程度となっている。吸着剤の種類についてみると、pH7で無機性重金属吸着剤Dのヒ素(As)とキレート樹脂のカドミウム(Cd)で60%を越える値となっている。一般的に水処理で使用される場合には、活性炭、無機性重金属吸着剤、キレート樹脂は、かなり高い吸着率となるが、土壌からの酸溶出液では、土壌中のCa,Al,Feが重金属に比べて桁違いに多く存在し、重金属の吸着を抑制していると考えられる。
一方、セレン(Se)においては、表7に示すようになった。表7は各種吸着剤によるセレン(Se)の吸着率である。
Seの場合、pHの依存性は認められないが、火山灰及び無機性重金属吸着剤C及びDにおいて吸着率がマイナス値となっている。これは、現象としては吸着剤から逆にセレンが溶出していることになり、特に無機性重金属吸着剤においてこの傾向は顕著となっている。
この原因を解明するために、無機性重金属吸着剤を2g取り、精製水200mLを加えて1時間振盪し、その後1μmグラスフィルターで濾過した。濾液から5mL取り、5%HNO3で50mLにした後、内標準液50μLを加えてよく攪拌し試験液とし、吸着実験と同様に測定した。表8はこの試験における無機性吸着剤からの溶出値を表す。
これを見ると、As及びSeが溶出しており、特にSeの溶出値が高く、上述のように溶液中の濃度が吸着剤の使用により逆に大きくなることも十分にあり得る。
以上より、相対的に高い吸着性能を示したのは、中性環境下での無機性重金属吸着剤Dおよびキレート樹脂であった。但し、無機性重金属吸着剤DはSeが材料そのものから溶出される可能性があり、一方、キレート樹脂はAsの吸着が期待できず且つコスト高である等の課題も残る。
(2)毛管吸引材の検討
吸水蒸散体7に使用する毛管吸引材は、汚染物質が溶出した溶出液を吸収して、水分のみを放出し、重金属及び使用した酸を回収・濃縮するために用いるものであり、基本的に高い毛管力を有しつつ、蒸発量も確保できることが要求される。
(2−1)毛管吸引材の基本性能実験
資料調査等の結果から、表9に示した6種類の毛管吸引材を選定し、毛管上昇実験を実施した。
実験方法は、材料を高さが50cm(屋上緑化用保水材のみ30cm)となるように切り、材料の下部が見ず500mLに浸るように設置して、5日間放置後、各材料の毛管上昇を測定(目視)した。その結果、無機微細繊維マットがもっとも上昇速度・上昇高さ共に大きく、その他の材料については、上昇高さは10〜15cmとなった。また、無機微細繊維マットを2mに設定し、14日間放置した実験を行った結果、毛管上昇高さは60cmと若干上昇した。以上の結果から、毛管吸引材として、無機微細繊維マット(以下「繊維マット」という。)を選択した。
(2−2)毛管上昇・水分蒸発促進実験
線マット材料を用いて、水分の蒸発に伴う水分移動速度を検討するため、図16に示したように電子天秤の上にビーカーを設置して、その中に1Lの水道水を入れ、半透明のアクリル性の円筒管内に繊維マット材料を吊してセットした。実験の条件は、
〔1〕無風(放置状態)
〔2〕強制送風(常温,1.4m3/min)
〔3〕温風(約60℃,1.4m3/min)
の3条件である。送風(あるいは温風)の位置は、水面より10cmの高さ部分とした。各条件における繊維マットの重量変化を1時間毎に10時間まで測定し、蒸発量を算出した。図17は、促進方法の違いによる蒸発量の変化を表す図である。蒸発量は、当然ではあるが温風、送風、無風の順になり、送風・熱の効果が大きいことが実証された。表10は、実験の結果を整理したものである。
最終的な蒸発速度をマットの単位面積あたりの蒸発量として算定した。強制送風の場合の蒸発量は、無風のそれの約7倍、温風の場合は約16倍となった。この蒸発量のオーダーを見積もるため、例えば、送風のケースでの705cm3/h/m2は、仮に1m2(表裏であるから2m2)の繊維マットであるとして計算すると、1年間で約12.4m3の水を蒸発させることができることになる。図1(又は図3,図4,図5)に示した汚染土壌浄化装置1のピットの上面からの浸透量を5mm/dとすると、この量は約6.8m2の面積に相当することになり、本発明の汚染土壌浄化装置1において、集水装置5を2〜5m程度とするスケールでも適用可能であると考えられる。
(2−3)重金属の吸着確認実験
最後に、上述のカラム試験で得られた重金属溶出液を用いて、重金属の繊維マットへの移行を確認する実験を行った。
実験方法は、重金属溶出液をビーカーに入れて、毛管上昇・促進を上記(2−2)と同様の方法で行い、約8時間後に溶出液中の重金属の濃度を分析した。表11は、毛管吸引前後での溶出液の重金属濃度の測定結果である。
実験の結果、As,Cd、Pb,Seのすべての重金属について、吸引前後での濃度差が認められなかったことから、すべての条件において重金属が繊維マットに吸収されたものと判断できる。
(3)結論
以上の実験の結果、以下のような結論が得られた。
〔1〕吸着剤を用いることで、酸溶出液中の重金属をある程度回収することができる可能性があることが示唆された。しかし、本実験でもっとも高い吸着率となった無機性重金属吸着剤では、素材からセレン(Se)の溶出が確認され、実際の適用には課題が残る。従って、さらなる素材の設定が必要である。
〔2〕吸着剤による重金属の吸着率は、pH3では大きく低下することが確認された。
〔3〕水処理等で実績のある吸着剤を使用したが、重金属の吸着率は全体的にかなり低い値となった。これは、処理土壌中の主成分であるCa,Al,Fe等の溶出値がかなり大きく、吸着性能も低下したものと考えられる。
〔4〕毛管吸引材に関しては、高い毛管力を有し、且つ蒸発量も確保できる材料として、無機微細繊維マットが適用できる可能性が高いことが確認された。
〔5〕毛管吸引材に送風や温風を付加することで、大幅な水分蒸発促進効果を得ることができた。
〔6〕毛管吸引した溶出液は、送風、温風付加両条件においても毛管吸引材に移行していることが確認された。
以上より、本発明で提案する汚染土壌浄化装置1における浸透溶液の回収が、毛管吸引材とその促進により可能であることが確認された。
図18は、本発明の実施例4に係る汚染土壌浄化装置1の構成を表す図である。図18において、止水層2、集水装置5、透光板6、吸水蒸散体7、受皿7a、吊棒8、送風機9、送気管10、表面遮水層11、注水タンク12、注水管13、開閉弁14、換気路16、及び被処理土壌Pは、実施例1の図1と同様の構成であるため説明は省略する。
本実施例では、注水手段3として、止水層2で包囲された容体内の被処理土壌Pの直方体容器の一端面に垂直に設けられた主給水垂直透水層3dと、当該一端面からそれに対向する端面にかけて、所定の間隔で被処理土壌P内に垂直に複数設けられた補助給水垂直透水層3eとから構成されている。また、回収透水層4は、主給水垂直透水層3dが設置された直方体容器の端面に対向する端面に垂直に設置されている。主給水垂直透水層3d及び各補助給水垂直透水層3eの上端には、下流側が分岐した注水管13が接続されており、注水タンク12から主給水垂直透水層3d及び各補助給水垂直透水層3eへそれぞれ洗浄液が注入される。また、主給水垂直透水層3dは被処理土壌Pの上面から被処理土壌Pの底面までの全体に亘る長さに形成されており、各補助給水垂直透水層3eは主給水垂直透水層3dよりも短い長さに形成されている。尚、主給水垂直透水層3d、各補助給水垂直透水層3e、及び回収透水層4は、商品名「SBドレーン」等のドレーン材のような透水性部材が使用される。
本実施例4に係る汚染土壌浄化装置1では、図18に矢印で示したように、主給水垂直透水層3dから被処理土壌P内に注入される洗浄液は、被処理土壌P内を主給水垂直透水層3dから回収透水層4まで略水平に移動する。この過程で被処理土壌P内の汚染物質は洗浄液に溶出する。そして、回収透水層4に達した洗浄液は、下方に移動して集水装置5の底部に貯留し回収される。
尚、この場合、洗浄液は被処理土壌P内を水平方向に移動するに従って、重力のため、図18に示すように地下水位Sは徐々に下がってくる。そこで、主給水垂直透水層3dと回収透水層4との間に、新しい洗浄液を補填して地下水位Sの低下を抑えるために、補助給水垂直透水層3eを複数設けている。これにより、被処理土壌Pは全体に亘って洗浄液が飽和した状態に保たれ、満遍なく洗浄される。
このように、被処理土壌P全体を洗浄液に浸沈させることで、被処理土壌Pの洗浄処理をより速く行うことができる。
図19は、本発明の実施例5に係る汚染土壌浄化装置1の構成を表す図である。図19において、止水層2、表面透水層3a、集水装置5、送風機9、送気管10、表面遮水層11、注水タンク12、注水管13、開閉弁14、換気路16、及び被処理土壌Pは、実施例1の図1と同様であるため説明は省略する。
本実施例では、被処理土壌Pの底部に、透水性コンクリートのような透水性部材からなる透水性底板17を設けて、底部の止水層2と透水性底板17との間に空間を形成し、この空間を集水装置5としている。集水装置5の両端には、集水装置5の内部空間が外気と連通するように換気路16,16が形成されている。そして、送風機9及び送気管10により、集水装置5の内部空間に外気が送気される。
透水性底板17の底面には、吸水性の繊維質体からなる複数の吸水蒸散体7が垂下されている。この場合、集水装置5の内部空間の通気性を確保するため、吸水蒸散体7は所定の間隔をおいて設けられている。吸水蒸散体7の形状は、通気性を考慮してシート状とすることが好ましい。
本実施例において、被処理土壌Pの上面の表面透水層3aから注入された洗浄液は、被処理土壌P内を垂直下方に移動して透水性底板17に達する。そして、透水性底板17内を浸透し、その底面に垂下された各吸水蒸散体7に吸収される。各吸水蒸散体7に吸収された洗浄液(浸出液)は、集水装置5内の空気に曝気されるため、水分が蒸発し、汚染物質が各吸水蒸散体7内に残留する。尚、吸水蒸散体7に吸収されずに滴下した浸出液は集水装置5の底部に貯まるが、各吸水蒸散体7を集水装置5の底部付近まで垂下させておくことにより、貯まった浸出液は毛管現象により各吸水蒸散体7に吸い上げられることになる。
図20は、本発明の実施例6に係る汚染土壌浄化装置1の構成を表す図である。図20において、止水層2、表面透水層3a、回収透水層4、透光板6、送風機9、送気管10、表面遮水層11、注水タンク12、注水管13、開閉弁14、換気路16、及び被処理土壌Pは、実施例1の図1と同様であるため説明は省略する。
本実施例では、集水装置5の構造が実施例1の場合と異なっている。集水装置5の内部空間は、その底部が被処理土壌Pの底面より低位となるように深く形成されている。そして、集水装置5の内部空間に臨む回収透水層4が端部に位置して、集水装置5の内部に集水ピット18が設けられており、回収透水層4から浸出する洗浄液(浸出液)は集水ピット18内に貯留する。集水ピット18の底面と集水装置5の内部空間の底面との間には空間があり、この空間に集水ピット18の底面から複数の吸水蒸散体7が垂下されている。また、この空間には、送風機9及び送気管10によって外気が送気されている。
回収透水層4から集水ピット18に浸出した浸出液は、各吸水蒸散体7に吸収されて、集水装置5の内部空間の空気に曝気される。これにより、水分が蒸発して汚染物質のみが吸水蒸散体7内に残留蓄積される。
尚、吸水蒸散体7に吸収されずに滴下した浸出液は集水装置5の底部に貯まるが、各吸水蒸散体7を集水装置5の底部付近まで垂下させておくことにより、貯まった浸出液は毛管現象により各吸水蒸散体7に吸い上げられることになる。
図21は、本発明の実施例7に係る汚染土壌浄化装置1の構成を表す図である。図21において、止水層2、主給水垂直透水層3d、補助給水垂直透水層3e、回収透水層4、集水装置5、透光板6、吸水蒸散体7、受皿7a、吊棒8、注水タンク12、注水管13、開閉弁14、及び換気路16は、図18と同様のものであり、同符号を付して説明は省略する。また、透水性底板17は図19と同様のものである。
本実施例の汚染土壌浄化装置1は、被処理土壌Pの底部に透水性底板17を設けて、この透水性底板17上に被処理土壌Pを保持している。また、透水性底板17の下部には、止水層2の底板との間に、貯水空間19を形成している。この貯水空間19には、大鋸屑及び木片からなる微生物の培床20が投入されている。
さらに、貯水空間19の底部付近には、貯水空間19に空気を注入するための散気管21が配設されている。散気管21は、管壁に多数の散気孔21aが開口形成された多孔管である。散気管21の基端側には給気管22が接続されており、この給気管22の他端は、地上に設置されたエアポンプ23に接続されている。エアポンプ23から給気管22を通して散気管21に空気が供給される。また、回収透水層4の下部には、貯水空間19と集水装置5の井内とを連通する抜気孔24が設けられており、散気管21から貯水空間19内に供給される空気を集水装置5の井内へ抜気する。
注水タンク12から注水管13を通して主給水垂直透水層3d及び補助給水垂直透水層3eへ洗浄液が注入される。注入された洗浄液は、被処理土壌Pを通過する間に被処理土壌P内の汚染物質を溶出させ、透水性底板17を浸透通過して貯水空間19に入る。貯水空間19は汚染物質が溶け込んだ洗浄液(浸出液)により満盈される。培床20は浸出液よりも比重が小さいので、貯水空間19の上部に浮上する。この状態で、エアポンプ23により空気が送気され、散気管21から貯水空間19内の浸出液内に空気が散気される。これにより、培床20と浸出液とが攪拌されるとともに曝気され、好気状態となり、培床20内の微生物が活性化される。この微生物は、浸出液の酸性成分である有機酸を分解する。また、微生物の活動によって貯水空間19内の浸出液の温度が上昇する。
貯水空間19内の浸出液は、回収透水層4を浸透透過して、集水装置5の井内底部に溜まる。また、散気管21から貯水空間19内へ放出された空気は、抜気孔24を通して集水装置5の井内底部に放出される。そして、換気路16から大気中へ放出される。これにより、集水装置5の井内の空気の循環が行われる。
集水装置5の井内底部に貯溜した浸出液は、毛管現象によって吸水蒸散体7に吸い上げられ、水分が集水装置5の井内の空気へ蒸散され、汚染物質が吸水蒸散体7内へ残留する。
ここで、集水装置5の井内底部に貯溜した浸出液は、微生物の活動によって温められているため、水分の蒸散が促進される。また、浸出液中の水分以外の成分は、酸の量が多く、重金属等の汚染物質の量は微量である。従って、微生物によって酸を分解することで、集水装置5の井内に蓄積する酸量を低減することができる。
なお、本実施例では、貯水空間19内の培床20と浸出液との攪拌は、簡便で効率のよい散気管21によるエアレーションを使用したが、これだけでは攪拌能力が不足するような場合には、さらに機械的な攪拌装置を付加することもできる。
図22は、本発明の実施例8に係る汚染土壌浄化装置1の構成を表す図である。図22において、実施例1の図1と同様の構成部分については、同符号を付して説明は省略する。
本実施例においては、止水層2で包囲された被処理土壌Pが入れられた容体内と集水装置5とは、その最下部において洗浄液が通過する通液路25により連通している。回収透水層4は、被処理土壌Pの底部(止水層2の底面上)全体に敷設され、通液路25の容体内側の開口部に被処理土壌Pが侵入するのを防いでいる。また、通液路25の集水装置5側の開口部には開閉栓26が開閉自在に設けられている。本実施例では、開閉栓26は、コックやバルブのような栓を使用するが、開閉栓26はこれ以外にゴム栓のような開口に挿し込み式の栓を使用してもよい。また、本実施例では注水タンク12及び開閉弁14は不要のため省略してある。それ以外の構成は、実施例1と同様である。
次に、この本実施例における汚染土壌浄化装置1による被処理土壌Pの浄化処理方法(以下「バッチ土壌浄化法」と呼ぶ。)について説明する。尚、本実施例の汚染土壌浄化装置1による被処理土壌Pの浄化方法は、実施例1と大部分が共通するため、ここでは、実施例1の場合と相違する部分を中心に説明する。
まず、通液路25を開閉栓26により閉栓する。この状態で、注水管13から表面透水層3aに洗浄液を供給する。表面透水層3aでは、洗浄液が被処理土壌Pの表面全体にわたって広がり、表面全体から被処理土壌P内に洗浄液が分散注水される。そして、被処理土壌Pを浸透して回収透水層4まで達した洗浄液は、通液路25が閉塞されているために止水層2で包囲された用体内の底部から逐次貯溜される。これにより、洗浄液の土中水面下にある被処理土壌Pは洗浄液に完全に浸漬される。
そして、洗浄液の土中水面が被処理土壌Pの上面に達するまで洗浄液を注入し、被処理土壌Pを洗浄液に完全に浸漬させる。洗浄液の土中水面が被処理土壌Pの上面に達すると、開閉弁14を閉止して洗浄液の注入を一旦止める。この状態で、暫く放置して被処理土壌P内の重金属汚染物質を洗浄液に溶出させる。
その後、開閉栓26を開栓して、通液路25から被処理土壌P内に溜まった洗浄液を集水装置5にゆっくりと放出させる。集水装置5に集水された浸出液は、吸水蒸散体7に吸収される。そして、吸水蒸散体7内を水面上まで上昇した浸出液は、水分が蒸散し、不揮発性の汚染物質が吸水蒸散体7内に残留し濃縮される。
上述のような一連の処理を1回乃至数回繰り返すことにより被処理土壌P内の汚染物質が除去される。繰り返し回数は、被処理土壌Pの汚染物質の種類や汚染の度合いに応じて適宜決めればよい。
このように、本実施例では、通液路25に開閉栓26を設け、止水層2で包囲された用体内に洗浄液を溜めて被処理土壌Pを完全に浸漬することで、洗浄液が被処理土壌P内の隅々にまで満遍なく行き渡り、被処理土壌Pと洗浄液との接触効率を上げることができる。また、一旦洗浄液を貯溜させてから排出するため、実施例1のように洗浄液を流しながら被処理土壌Pの浄化を行う場合に比べて、使用する洗浄液(すなわち酸)の量を減らすことができる。
また、止水層2で包囲された容体が洗浄液を溜めるタンクの代わりとなるため、実施例1の注水タンク12を別途に必要とせず、装置全体をコンパクトにすることができる。
なお、ここでは、被処理土壌P内の汚染物質の含有量を低減させる方法についての説明を行ったが、実施例1と同様に、被処理土壌P内からの汚染物質の溶出量を低減させるという観点からこの方法を改良すると、次のような方法を採ることができる(以下「改良バッチ土壌浄化法」と呼ぶ)。
まず、上記本実施例で説明したバッチ土壌浄化法により酸の洗浄液によって被処理土壌Pから汚染物質を溶出させて吸水蒸散体7による回収を行う。この場合、酸としては天然の有機酸である酢酸を用いるのがもっとも適している。そして、ある程度、汚染物質の溶出が終わった時点で、最後に、洗浄液を水(又は中和液)に切り替えて、上記説明したバッチ土壌浄化法又は実施例1の逐次土壌浄化法により水(又は中和液)による被処理土壌Pの洗浄(中和処理)を行う。この中和処理によって、被処理土壌P内の酸が洗い流され土壌Pが酸性から中性に戻るとともに、重金属等の汚染物質が安定化し溶出しないようになる。
このように、最後に水(又は中和液)による被処理土壌Pの洗浄を行うことで、洗浄液により溶出されきれずに被処理土壌P内に残留した汚染物質が化学的に安定化し、土壌内に固定化されて溶出しないようになるため、汚染物質の溶出量を低減させることができる。
図23は、本発明の実施例9に係る汚染土壌浄化装置1の構成を表す図である。図23において、実施例1の図1と同様の構成部分については、同符号を付して説明は省略する。
本実施例においては、実施例1と同様に、止水層2で包囲された被処理土壌Pが入れられた容体の底部(止水層2の底面上)全体に、回収透水層4が敷設されている。集水装置5と被処理土壌Pとを仕切る止水層2の縦壁の最下部には隙間27が設けられており、その隙間27には回収透水層4が詰められ被処理土壌Pが入り込まないようにされている。そして、集水装置5の底部には、隙間27の出口を塞ぐようにして吸着材であるロックウール28が配設されている。それ以外の構成は、実施例1と同様である。
次に、この本実施例における汚染土壌浄化装置1による被処理土壌Pの浄化方法について説明する。尚、本実施例の汚染土壌浄化装置1による被処理土壌Pの浄化方法は、実施例1と大部分が共通するため、ここでは、実施例1の場合と相違する部分を中心に説明する。
注水タンク12から洗浄液を被処理土壌Pに分散注入し、集水装置5に集水させるまでは、実施例1と同様である。隙間27を通過して集水装置5に流入する洗浄液は、まずロックウール28を通過する。この際、ロックウール28は大きな吸着面積を有するため、洗浄液に含まれる重金属の多くはロックウール28に吸着される。従って、洗浄液を吸水蒸散体7により毛管吸引する前に、あらかじめロックウール28においてある程度重金属が回収される。これにより、実施例1の場合に比べ、重金属の回収率が向上し、回収された洗浄液中の有害重金属量を大きく低減させることができるというメリットがある。
尚、本実施例において、洗浄液の注入は、被処理土壌Pの上面に設置した表面透水層3aから分散注入する例を示したが、改良バッチ土壌浄化法を用いる場合には、洗浄液の注入は被処理土壌Pの上面からでなくてもよい。或いは、注水管13を回収透水層4に直接接続して、被処理土壌Pの下方から上方に向かって洗浄液を分散注入するように構成してもよい。結局、被処理土壌Pが完全に洗浄液に浸漬するまで洗浄液を注入するからである。尚、上部からの洗浄液の注入の場合、土壌中にガス(空気)が被処理土壌P内に残存する確率が高くなるのに対し、下部からの洗浄液の注入では被処理土壌P内のガスは上に向かって排除されるので、そのような心配はないというメリットがある。
(実験例3)
本実験例では、実施例8の後半で説明した改良バッチ土壌浄化法についての検証結果を示す。
(1)供試土壌試料の性状
本実施例では、供試土壌試料として2種類の汚染土壌(汚染土壌A,B)を使用した。これらの供試土壌試料を、公定法(環境省告示第46号)に従って溶出試験を行い、土壌1kg当たりに換算した重金属の溶出量を次表12に示す。
次に、上記各供試土壌試料に含まれる重金属の分画試験を次のようにして行った。
[1] 供試土壌10gに精製水400mLを加えて16時間振盪し、遠心分離及び濾過により得られた濾液を水溶性画分とした。
[2] [1]で得られた残渣に、精製水300mLを加えて1M酢酸でpH7に中和し、遠心分離及び濾過により得られた濾液を中和画分とした。
[3] [2]で得られた残渣に、0.11M酢酸400mLを加えて6時間振盪し、遠心分離及び濾過により得られた濾液を酸可溶性画分とした。
次表13に、分画試験の測定結果を示す。表13より、AsとSeは水溶性画分と中和画分とが多く、酸可溶性画分は少ない傾向にあることがわかる。一方、CdとPbは、水溶性画分と中和画分とが少なく、酸可溶性画分が圧倒的に多くなることがわかる。
(2)酸可溶性画分除去による対象重金属の除去率
まず、酸可溶性画分の除去までで、供試土壌試料内の重金属の抽出が可能であるか否かを確認するために、各供試土壌試料10gに対し上記分画試験[1]〜[3]の操作を行った後、得られた残渣試料に対してCa(OH)2による中和処理を行い、その後公定法(環境庁告示第46号)に従って対象重金属(As,Se,Cd,Pb)の溶出試験を行った。その結果を、次表14に示す。表14(浄化後)と表12(浄化前)とを比較すると、いずれも、汚染土壌の含有量相当値は、浄化前の含有量が少なかったCdを除き、大きく低減していることが確認できる。
(3)改良バッチ土壌浄化法による汚染土壌浄化試験1
次に、実際の現場を想定して、汚染土壌試料について、数回のバッチ土壌浄化法による浸漬浄化と中和処理とを連続して実施したときの対象重金属の溶出量の低減効果についての検証を行った。尚、本実験では、上記汚染土壌A,Bとは別の、As濃度の高い新たな汚染土壌Cを供試土壌試料として使用した。また、洗浄液には酢酸とクエン酸を使用した。
実験は、図22に示した汚染土壌浄化装置1の代わりに、実験室でも実施可能な図24の模型を用いて行った。実験手順は、ビフネルロート(φ90)にAs汚染土壌を2cm(150g)詰め、0.11M酢酸または0.11Mクエン酸を土壌が浸漬するまでロート下部から入れて24時間静置した後、溶出液をカラムの下から抜き溶出液を回収した。これを5回繰り返すことで浄化を行った。溶出液は硝酸5mLを加えてマイクウェーブで分解した後、ICP−MSで測定した。また、浸漬実験後の土壌は以下の2つの中和方法1,2で中和し、それぞれ溶出試験(公定法)を行った。中和方法1は、pHが中性になるまで精製水で洗浄(5回程度洗浄)する方法、中和方法2は、水酸化カルシウム溶液を通水して中和する方法を表す。
表15にその実験結果を示す。
図25は、表15の結果から汚染土壌の浄化前と最終的な浄化後の溶出値を示した図である。本実験では上記分画試験より土壌と酸の接触時間が短くなることから、全体的にみると溶出値は低減しているものの大きくはない。酸の比較では、クエン酸の溶出作用は酢酸よりも強く、公定法以上に溶出していると思われる。通常の自然環境下における溶出には酢酸が適していると考えられる。結果として、酢酸5回−中和処理2において環境基準値(0.01mg/L)を満たし、低減率は99.8%となった。ただし、中和方法の違いによる差は明確ではなかった。
(4)改良バッチ土壌浄化法による汚染土壌浄化試験2
次に、汚染土壌C(As汚染土壌)に加えて汚染土壌D(Pb汚染土壌)を供試汚染土壌試料として使用し、確認試験を行った。実験方法は(3)と同様に、ビフネルロート(φ90)に汚染土壌C及び汚染土壌Dを2cm(150g)詰め、0.11M酢酸を汚染土壌が浸漬するまでロート下部から入れて24時間静置した後、溶出液をカラムの下から抜いた。これを5回繰り返して浄化した。溶出液は硝酸を加えてマイクウェーブで分解した後、ICP−MSで測定した。浄化後の土壌から酢酸を除去するために最初に精製水を400mL流し、続いて精製水200mLを加えて24時間浸漬、さらに、精製水400mLを流した。
洗浄液が中性であることを確認後、土壌の溶出試験(公定法)を行った。図26は、試験の結果から浄化前後の溶出値を示した図である。汚染土壌C(As汚染土壌)は、浄化前の溶出値は基準値の50倍と高いが、浄化後は0.028mg/Lと基準値の3倍程度まで低減している。また、汚染土壌D(Pb汚染土壌)は、浄化前は基準値の5倍程度で浄化後は基準値以下となった。低減率はそれぞれ、95%、87%となっており、改良バッチ土壌浄化法の効果が確認された。汚染土壌C(As汚染土壌)は浄化後に基準値(0.01mg/L)を満たしていないものの、浸漬の回数を増やすことで対応は可能と思われる。
(実験例4)
本実験例では、実施例9で説明したロックウール28の設置効果についての検証結果を示す。ここでは、ロックウール28として、マグネシア系のロックウールを用いて必要吸着材量の検討を行った。
(1)ロックウールによる重金属吸着試験(バッチ試験)
事前の実験の結果、ロックウール(吸着材)10gに対して模擬汚染液(試験液)200mL(1:20)でAs,Se,Cd,Pbに対し、吸着率95%以上となった。そこで、ここでは吸着材と模擬汚染液(試験液)が1:100および1:1000(重量比)になるようにして24時間振盪させた。模擬汚染液は土壌を通水したもの(CaやNa等の金属も含む)にAs,Se,Cd,Pbの金属標準液を添加したものを用いた。結果を表16に示す。
表16より、1:100ではSeを除いて97%以上の高い吸着率となったが、1:1000では、それが3.0〜13.3%と大きく低下することとなった。吸着率にはpHが大きく関係していると思われ、前者ではpH=9.7、後者では4.7と酸性になっている。これについては、pH,ロックウール量を変えた試験が必要であるが、ここではロックウールと汚染液の比率をある程度確保し、pHを大きく低下させないことが必要であることが確認された。
(2)ロックウールによる重金属吸着試験(カラム試験)
実際のロックウール(吸着材)の適用を想定すると、汚染液を吸着材であるロックウールに通水して処理することになる。ここでは、汚染液の吸着材の通水速度(接触時間)の影響を検討するため、簡易カラムを用いて吸着試験を行った。
実験装置は、図27に示したようにビフネルロートに下から吸着材(ロックウールD)を1cm(25.5g)、ガラスビーズを1cm、濾紙の順で詰めた。実験手順は、模擬汚染液を、100mLずつ計1Lを上部から流し、浸出溶液を順に採取した。その後、流出液をマイクロウェーブで分解後、ICP−MSを用いて測定を行い、試験前の重金属濃度と比較した。模擬汚染液は土壌を通水したもの(CaやNa等の金属も含む)にAs,Se,Cd,Pbの金属標準液を添加したものを用いた。通水時間を変えるため、粒径の異なる2種類のガラスビーズを用いた。試験は、以下に示すように透水性の異なるケース1,2とバッチ試験のケース3の3ケース実施した。
ケース1:吸着材とガラスビーズ小φ0.105〜0.125mm
透水係数 k=1.1×10−2cm/s,
汚染液100mL×10回通水した。
ケース2:吸着材とガラスビーズ大φ0.710〜0.990mm
透水係数 k=2.0×10−2cm/s,
汚染液100mL×10回通水した。
ケース3:吸着材のみをロートに詰め、吸着材が浸る程度汚染液を入れて(200mL)24時間浸漬した。
図28は、ケース1における浸出液中の重金属濃度を通水回数毎に示し、吸着率に換算した。同図にはバッチ試験の結果を併せて示している。1回目の通水は、ガラスビーズ中の間隙水に留まり、浸出量が100mLを下回ったため、予備通水とした。図29は、ケース2におけるそれらを示している。両者の差異は、透水係数で2倍程度である。まず、図28に注目すると、浸出液の重金属濃度が初期汚染液のそれに比較して大きく低下していることが確認できる。Asはやや大きいが、Se,Cd,Pbはかなり小さい。吸着率でみるとAsが60〜80%程度、Se,Cd,Pbで90%以上となっている。つぎに、図29をみると、Se,Cd,Pbはやや低下しているが、Asについてはほとんど低減傾向が認められない。吸着率は、Asが0〜35%程度、Se,Cd,Pbでも60〜85%程度とケース1に比較すると大きく低下している。一方、両者において通水回数による有意な変化は認められなかった。以上のことから、通水時間(積極時間)によって、吸着材の効果が大きく変化することが確認された。特に、Asがそれの影響を大きく受けることがわかった。しかし、バッチ試験の結果から十分な接触時間を確保できれば、いずれの重金属も95%程度の吸着率が期待できることが確認された。
(実験例5)
本実験例では、実施例9で説明したロックウール28の設置効果について、種々のロックウール材を使用して行った検証結果を示す。表17に、本実験例で使用したロックウール(吸着材)を示す。
実験方法は、酢酸で調整した約pH4の液にAs、Se、Cd、Pb標準液をそれぞれ265、268、237、1503μg/Lになるように添加し、その試験液200mLを500mL用のポリ容器に満たし、吸着剤10g加え18時間振盪した。振盪後、遠心分離を行い、上澄み液1μmをグラスフィルターで吸引し濾過した。次に、濾液から30mL分取し、HNO3を5mL添加してマイクロウェーブ分解した後、超純水で50mLにした。その分解液を10mL分取し、50mLに定容した後、ICP−MSで測定した。
表18に各種ロックウールの吸着実験後の溶出液中の重金属(As、Se、Cd、Pb)濃度を示す。また、図30は、各種ロックウールの吸着実験後の溶出液中の重金属(As、Se、Cd、Pb)の吸着率を示した図である。
図30より、As、Pbの吸着率はロックウールA、B、C、D、Eの全てで100%近くに達したが、SeはロックウールEで33.7%、CdはロックウールBで77.3%であった。特にSeは他の重金属と比較してロックウールへの吸着率が低くなった。ロックウール別に見ると、ロックウールA、C、Dが全ての重金属(As、Se、Cd、Pb)に対して90%以上の吸着率を示した。特にロックウールDはAs、Se、Cd、Pb全てにおいて95%以上の吸着率を示しており、重金属に対して高い吸着性能を有していることがわかった。吸着処理後の溶液のpHは、ロックウールA、B、C、D、Eでそれぞれ9.9、5.1、11.8、9.6、11.0であり、吸着性能および吸着処理後のpHを考慮すると、本実験で用いた吸着剤の中ではロックウールA、Dが吸着剤として妥当であると考えられる。