JP5273467B2 - 絶縁部品およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、絶縁樹脂と導電体とのインサート成形により製造される絶縁部品およびその製造方法に関するものである。
絶縁樹脂と導電体とのインサート成形により製造される絶縁部品では、製造時においてインサート品の導電体と絶縁樹脂との収縮率の差により硬化応力が発生し、導電体と絶縁樹脂との界面において剥離が発生する問題があった。一般には絶縁樹脂より導電体の方が収縮率が小さい。このため、リング状のインサート品では特に内面側(内周側の面)に引張方向の硬化応力が発生し、剥離が起きやすい。また製造時に剥離が生じていなくても、大きな硬化応力が残留した場合、使用時の温度変化でも同様に剥離の問題が生じる。
上記の剥離を防止する技術が、たとえば特開平11−7854号公報(特許文献1)に記載されている。この公報には、インサート品としての金属性シールドリングを支持する支持棒が軟質金属製とされることで、インサート品が樹脂の収縮に追従して変形して剥離などが防止できると記載されている。
特開平11−7854号公報(図1)
上記公報に記載の絶縁成形体にあっては、インサート品やその支持部の剛性を落とすためにそれらの形状を最適化する必要がある。しかし、コスト、製造方法などの制約により、大幅には剛性を落とせないのが通常であり、十分に硬化応力を低減できない問題があった。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、硬化応力を低減可能な絶縁部品およびその製造方法を提供することである。
本発明の絶縁部品は、円筒形状の第1のインサート部品と、絶縁樹脂と、リング形状の第2のインサート部品と、円柱体とを備えている。絶縁樹脂は第1のインサート部品の外周側に位置している。第2のインサート部品は、絶縁樹脂を間に挟んで第1のインサート部品の外周側を取り囲むように配置されている。円柱体は、第1のインサート部品の円筒形状の内周面を、絶縁樹脂を介在して第2のインサート部品側に向けて押し拡げるように第1のインサート部品内に配置されている。
本発明の絶縁部品の製造方法は以下の工程を備えている。
円筒形状の第1のインサート部品の外周側を取り囲むようにリング形状の第2のインサート部品が配置される。第1および第2のインサート部品の間に絶縁樹脂が注入されてインサート成形が行われる。第1のインサート部品の円筒形状の内周面を、絶縁樹脂を介在して第2のインサート部品側に向けて押し拡げるように第1のインサート部品内に円柱体が挿入される。
本発明によれば、第1のインサート部品の円筒形状の内周面を、絶縁樹脂を介在して第2のインサート部品側に向けて押し拡げるように第1のインサート部品内に円柱体が挿入される。これにより、収縮率の差により絶縁樹脂と第2のインサート部品との界面に発生する引張方向の硬化応力を圧縮方向に低減することができる。このため、その界面における剥離を抑制することができる。
本発明の実施の形態1における絶縁部品の構成を概略的に示す断面図である。 本発明の実施の形態1における絶縁部品の製造方法の第1工程を概略的に示す断面図である。 本発明の実施の形態1における絶縁部品の製造方法の第2工程を概略的に示す断面図である。 本発明の実施の形態1における絶縁部品の製造過程における熱硬化性樹脂の特性(温度、硬化応力)の時間変化を示す模式図である。 本発明の実施の形態1における絶縁部品から円筒体を省略した比較例の模擬品の構成を概略的に示す断面図である。 本発明の実施の形態1における絶縁部品の模擬品の構成を概略的に示す断面図である。 本発明の実施の形態2における絶縁部品の製造方法を概略的に示す断面図である。
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1を参照して、本実施の形態の絶縁部品10は、絶縁樹脂1と、円筒体(第1のインサート部品)2と、円柱導体(円柱体)3と、シールド(第2のインサート部品)4と、金具5とを主に有している。絶縁樹脂1は、たとえばエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂よりなっており、この絶縁樹脂1内には円筒体2、シールド4および金具5がインサート成形されている。
円筒体2は円筒形状を有している。この円筒体2の外周側に位置するように絶縁樹脂1が形成されている。この絶縁樹脂1は、たとえば円筒体2の外周面に接して、その外周面を取り囲むように形成されている。この絶縁樹脂1を間に挟んで円筒体2の外周側を取り囲むようにシールド4が配置されている。このシールド4は、たとえば円筒体2の外周側を取り囲むリング状の部分と、そのリング状の部分から外周側に延在する部分とを有している。シールド4の外周側に延びる部分には金具5が接続されている。
円筒体2の円筒形状の内周面を、絶縁樹脂1を介在してシールド4側に向けて押し拡げるように円筒体2内に円柱導体3が配置されている。この円柱導体3は、円筒体2内にたとえば圧入されることにより、円筒体2の内周面をシールド4側に向けて押し拡げるように配置されている。これにより、シールド4と絶縁樹脂1との界面に発生する絶縁樹脂1内の引張方向の硬化応力を圧縮方向に低減することができる。
この円柱導体3には電流が流れ、シールド4は金具5を通して外部とアース接続可能なように構成されている。円柱導体3およびシールド4には導電性が必要であり、一般的にはアルミニウム(Al)や銅(Cu)などの金属が使用されている。
なお絶縁樹脂1は、円筒体2の円筒部の少なくとも一部と、シールド4の全体とを内部に埋め込むように、かつ少なくとも金具5の一部が絶縁樹脂1から露出するように形成されている。
次に、本実施の形態の製造方法について説明する。
図2を参照して、円筒体2、シールド4および金具5が金型11に固定され、十分に予熱される。この際、シールド4が円筒体2の外周側を取り囲むように円筒体2およびシールド4が金型11に固定される。
この後、金型11の樹脂注入口12から金型11内に絶縁樹脂1が注入される。この際、絶縁樹脂1は、円筒体2の外周面とシールド4の内周面との間、およびシールド4の外周側とに注入されて、インサート成形が行われる。
この後、絶縁樹脂1が所定の硬化温度に保持されて硬化する。この後、インサート成形された絶縁部品が金型11から取り外される。その後、絶縁樹脂1がさらに硬化された後に絶縁部品が室温まで徐冷される。
図3を参照して、円筒体2の開口した端部から円柱導体3が円筒体2内に挿入される。この挿入の際には、円筒体2の円筒形状の内周面を、絶縁樹脂1を介在してシールド4側に向けて押し拡げるように円筒体2内に円柱導体3が挿入される。
この円柱導体3の挿入は、円柱導体3を円筒体2内にたとえば圧入することにより行われる。つまり上記挿入は、円柱導体3が上記挿入前において円筒体2の内径よりも大きい外径を有するように準備され、プレスなどで圧力をかけて円筒体2内に押し込まれることにより行われる。
円柱導体3を円筒体2に挿入するタイミングとしては、絶縁樹脂1の硬化過程、冷却過程および室温(使用環境)の3つが考えられる。図4を参照して、絶縁樹脂1の硬化過程では、絶縁樹脂1の硬化応力は発熱の影響があるものの硬化時の温度でほぼ一定であるが、ゲル化時間を過ぎた付近から増加し始める。硬化過程でシールド4の内周面と絶縁樹脂1との剥離が発生する場合には、シミュレーションや試作によって剥離発生時間を調べておき、その直前に円柱導体3を円筒体2内に挿入すれば剥離を防止することができる。
ただし絶縁樹脂1の硬化過程では応力緩和が起きやすい。このため、硬化過程で円柱導体3を円筒体2内に挿入しても、絶縁樹脂1内の引張方向の硬化応力を圧縮方向に十分に低減することが難しい。これにより、製造後の使用における剥離防止の効果が少ないため、硬化過程後に円柱導体3を円筒体2内に挿入することが好ましい。
図4に示す冷却過程では、温度の低下とともに絶縁樹脂1の硬化応力が増加し、ガラス転移温度以下になるとほぼ線形に増加する。冷却過程で剥離が発生する場合は、シミュレーションや試作によって剥離発生温度を調べておき、その直前の温度で円柱導体3を円筒体2内に挿入すれば剥離を防止することができる。
また製造時の硬化応力低減を目的とする場合、ガラス転移温度より高温では応力緩和が起きやすい。このため、ガラス転移温度よりも低温で円柱導体3を円筒体2内に挿入することが好ましい。図4に示す室温、またはそれ以降の使用環境で剥離が発生する場合には、室温まで冷却後に円柱導体3が円筒体2内に挿入されればよい。
本実施の形態によれば、絶縁樹脂1の製造時に円柱導体3が円筒体2内に挿入される。これにより、円筒体2を介在して絶縁樹脂1に半径方向の圧力(内周側から外周側への圧力)が付与される。このため、収縮率の差によりシールド4と絶縁樹脂1との界面に発生する引張方向の硬化応力を圧縮方向に低減することができる。よって、その界面における剥離を抑制することができる。
なお円筒体2と円柱導体3との界面に部分放電が発生する可能性があるため、円柱導体3は金属や導電性樹脂などの導電体であることが望ましい。ただし円筒体2と円柱導体3とを接着処理するなど界面に剥離が発生しない場合には、円柱導体3に絶縁性の樹脂を採用することも可能である。
(実施の形態2)
上記の実施の形態1における製造過程において、円柱導体3を円筒体2内に挿入する前に、図7に示すようにたとえばヒータや冷却配管からなる温度調節装置8が円筒体2内に挿入され、絶縁樹脂1などの温度が温度調節装置8により調整されてもよい。この際、絶縁部品を金型から取り外すまで、または室温に冷却するまで、温度調節装置8により絶縁樹脂1などの温度が調整されてから、温度調節装置8が円筒体2内から取り外される。この後、上記の実施の形態1の製造方法と同様に、円柱導体3が円筒体2内に挿入されて、絶縁部品が製造される。
たとえば室温まで徐冷する時には絶縁部品はその表面から冷却されるため、絶縁部品内に温度分布が発生する。したがって、絶縁樹脂1とインサート品(円筒体2、円柱導体3、金具5)との間の通常の線膨張係数差による熱応力だけでなく、この温度分布による熱応力も加わる。
しかし本実施の形態では、温度調節装置8を用いて円筒体2の内部からも冷却することができる。このため、絶縁部品の内部と表面との温度差が少なくなって絶縁部材をより均一に冷却することができる。これにより、熱応力を防ぐことができる上に、徐冷時間を短縮できる効果も得られる。
以上より、本実施の形態の製造方法によれば、温度調節による徐冷過程の剥離を防ぎ、円柱導体3の挿入のタイミングを冷却過程や室温にすることで、応力緩和による応力低減効果の減少を防ぐことができる。
次に、本実施の形態の効果について本発明者らが調べた内容について説明する。
まず絶縁部品を模擬した図5および図6に示す円柱部品を想定した。図5は比較例としての円柱部品の断面形状を示し、図6は本発明の実施例としての代表的な円柱部品の断面形状を示している。
図5に示す比較例の円柱部品においては、中心に銅製の円柱導体3があり、その周囲をエポキシ樹脂1と、アルミニウム製のシールド4と、エポキシ樹脂1とがこの順で覆っている。外周側のエポキシ樹脂1の外径φ1は500mmであり、シールド4の外径φ2は400mmであり、内周側のエポキシ樹脂1の外径φ3は360mmであり、円柱導体3の外径φ4は100mmである。
比較例の円柱部品は、円柱導体3とシールド4とをエポキシ樹脂1でインサート成形することにより製造されたものとする。
一方、図6に示す実施例の円柱部品においては、中心に銅製の円柱導体3があり、その周囲を円筒体2と、エポキシ樹脂1と、アルミニウム製のシールド4と、エポキシ樹脂1とがこの順で覆っている。外周側のエポキシ樹脂1の外径φ1は500mmであり、シールド4の外径φ2は400mmであり、内周側のエポキシ樹脂1の外径φ3は360mmであり、円筒体2の外径は100mmであり、円柱導体3の外径φ5は98mmである。
実施例の円柱部品は、1mm厚の円筒体2を使用してエポキシ樹脂を注入した後に円柱導体3(外径が円柱導体の内径よりδmmだけ大きい)を円筒体2内に挿入することにより製造されたものとする。
また比較例および実施例のそれぞれのエポキシ樹脂1と、円柱導体3と、シールド4との各特性(ヤング率、ポアソン比、線膨張係数)を表1に示す。
Figure 0005273467
上記の比較例および実施例のそれぞれにおいて、エポキシ樹脂の硬化温度を125℃とし、その硬化温度から室温まで冷却した場合のエポキシ樹脂内の応力値を、表1の物性値を用いた有限要素法による解析で求めた。その結果を表2に示す。
なお剥離が主として発生するのはシールド4とエポキシ樹脂1との界面であるため、表2の応力値はその界面に垂直な半径方向の応力である。
Figure 0005273467
図5の比較例におけるエポキシ樹脂1の応力は8.2MPaであった。また図6の実施例における円柱導体3の挿入前のエポキシ樹脂1の応力は8.7MPaであった。また図6の実施例において、たとえばδ=0.05mmの円柱導体3を円筒体2内に挿入することにより、エポキシ樹脂1の応力を5.8MPaまで下げることができた。また図6の実施例において、たとえばδ=0.1mmの円柱導体3を円筒体2内に挿入することにより、エポキシ樹脂1の応力を5.1MPaまで下げることができた。
なおδが大きいほどエポキシ樹脂1内の応力を低減できるが、一方で円柱導体3の挿入時に生じる円筒体2周囲の周方向応力の増加が懸念される。このため、たとえば図6の比較例ではδは最大でも0.1mm程度であると考えられる。
円柱導体3の円筒体2内への挿入には基本的に圧入が採用される。しかし、円柱導体3の挿入時における円柱導体3と円筒体2との摩擦による焼付きが懸念される場合は、円柱導体3の円筒体2内への挿入時に円筒体2および円柱導体3のいずれかが冷却されていてもよい。
たとえば図6において100mmの内径φ5を有する円筒体2内に、たとえばδ=0.05mmの円柱導体3を挿入するためには、円筒体2の円柱導体3に対する温度差ΔTは以下の計算式より30℃以上必要である。
ΔT=δ/{φ5×α(銅)}=0.05mm/{98mm×17×10-6}≒30℃
このため、たとえば室温(25℃)で円筒体2内に円柱導体3を挿入する場合、円筒体2は−5℃以下に冷却された状態で円柱導体3を挿入されればよい。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明は、絶縁樹脂と導電体とのインサート成形により製造される絶縁部品およびその製造方法に特に有利に適用され得る。
1 絶縁樹脂、2 円筒体、3 円柱導体、4 シールド、5 金具、8 温度調節装置、10 絶縁部品、11 金型、12 樹脂注入口。

Claims (4)

  1. 円筒形状の第1のインサート部品と、
    前記第1のインサート部品の外周側に位置する絶縁樹脂と、
    前記絶縁樹脂を間に挟んで前記第1のインサート部品の外周側を取り囲むように配置されたリング形状の第2のインサート部品と、
    前記第1のインサート部品の円筒形状の内周面を、前記絶縁樹脂を介在して前記第2のインサート部品側に向けて押し拡げるように前記第1のインサート部品内に配置された円柱体とを備えた、絶縁部品。
  2. 円筒形状の第1のインサート部品の外周側を取り囲むようにリング形状の第2のインサート部品を配置する工程と、
    前記第1および第2のインサート部品の間に絶縁樹脂を注入してインサート成形する工程と、
    前記第1のインサート部品の円筒形状の内周面を、前記絶縁樹脂を介在して前記第2のインサート部品側に向けて押し拡げるように前記第1のインサート部品内に円柱体を挿入する工程とを備えた、絶縁部品の製造方法。
  3. 前記第1のインサート部品内に前記円柱体を挿入する前記工程の前に、前記円柱体は前記第1のインサート部品の円筒形状の内径よりも大きな外径を有するように準備される、請求項2に記載の絶縁部品の製造方法。
  4. 前記第1のインサート部品内に前記円柱体を挿入する前記工程の前に、前記第1のインサート部品内に設置した温度調節装置を用いて前記絶縁樹脂の温度を室温まで徐冷する工程をさらに備えた、請求項2または3に記載の絶縁部品の製造方法。
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