この発明は、コイル外径が100μm以下で、コイル部分の長さがコイル外径の20倍以上の金属製で真直なマイクロコイルの製作方法に関するものである。
金属製のマイクロコイルは、弾性にすぐれる、所望のばね定数を得易い、繰り返し変形に対して耐久性が高い、などの理由から、コイルスプリングとして様々なマイクロ機構構成要素として使用されている。
また、金属が電気の良導体なので、超小型のインダクタンス要素部品やマイクロ電磁コイルの構成要素としても使用できる。
これまで、コイル外径の小さい実用的な金属製のマイクロコイルを作るには、細くて軟らかいエナメル線などのコイルの素線を心棒に巻きつけて製作していた。
このように素線を巻きつけてマイクロコイルを作ると、コイルの素線に曲げ応力やねじり応力がかかるため、マイクロコイルの外径を小さくするにはコイルの素線径を小さくすることが必要であった。
すなわち、コイルの素線径がマイクロコイルの外径に対して太すぎると、曲げ応力やねじり応力によってコイル素線が切れてしまった。
しかし、コイルの素線径が小さいと、コイルスプリングとして利用する場合には、ばね定数が小さいコイルスプリングしか得られない。
また、コイルの素線を心棒に均一な力で均一な間隔で巻きつけることは難しいため、長いコイルを作ると不規則に曲がってしまい、真直に連なる長いコイルを作ることができなかった。
さらに、コイルの素線の断面形状を矩形や台形などの平らな辺を持つ形状とすると、該平らな辺を丸みのある心棒にぴったりくっつけてねじれないように均一に巻きつけることは困難であった。
一方、コイルの素線を心棒に巻きつけて製作する方法では、座巻きを設けてもコイル端面を精確にコイルの軸に垂直にすることは難しかった。
また、コイルの素線を心棒に巻きつけて製作する方法では、コイル端部やコイルの途中に円筒部を設けて保持し易くしたり、真直性を高めたりすることができなかった。
さらに、また、コイルの素線を心棒に巻きつけて製作する方法では、コイル端部に円筒部を設けることができないので、該円筒部に段差やテーパを付け、コイル端に別の部品を精確にはめ込んだり、精確に位置決めしたりすることもできなかった。
また、また、コイルの素線を心棒に巻きつけて製作する方法では、コイルに圧縮変形を加えた時の軸直角方向への曲がりや迫り出しを防ぐため、巻き方向を途中で適宜反対にしたコイルを作ることもできなかった。
これに対し、非特許文献1には、銅パイプ上にレジストを塗布し、レーザ走査リソグラフィによって螺線スペースパターンを形成し、残ったレジスト膜をマスキング材として、前記の銅パイプをウェットエッチングし、マイクロコイルを製作する方法が開示されている。
図14は、非特許文献1に開示されたマイクロコイルの製作方法を模式化して示した図である。
この従来のマイクロコイルの製作方法では、(a)に示すように金属性のマイクロパイプ1上にレジスト2を塗布し、次に、(b)に示すようにレーザ5からの露光ビーム6のスポットを前記マイクロパイプ1上の露光開始点4におき、Xステージ10による矢印27に示す直進運動とX軸まわりのX回転ステージ20による矢印28に示す回転運動により該マイクロパイプ1に螺線運動を与え、レジスト2を螺線状に感光させる。
露光ビーム6を整形するためピンホール19を置いており、レンズ14により露光ビーム6を絞っている。
11はY軸方向の位置を調整するYステージ、12はZ軸方向の位置を調整するZステージ、22はZ軸まわりの方位回転ステージであり、これらにより、該マイクロパイプ1に螺線運動を与える時、露光ビーム6のスポットが該マイクロパイプ1の頂上の稜線に沿って走査されるように予め機械的に調整しておく。
以上の説明において、X、Y、Zは図14中に示した方向である。
(c)以降は以下の工程における配置姿勢に合わせて、前記マイクロパイプ1を、軸を鉛直にして描いてあり、31が図(b)に示した走査露光による感光部である。
走査露光後、(d)に示すように現像液32に浸漬すると、たとえば、ポジ型のレジスト2を使用すると、感光部が螺線状に溶けて螺線スペースパターン34が得られる。33は現像液32の容器である。
(e)は現像後のリンス工程を示しており、現像リンス液35に浸漬して現像液32を除去し、現像を停止させる。36は現像リンス液35の容器である。
次に、(f)に示すようにリンス液35から出した螺線スペースパターン34を形成したマイクロパイプ1を、(g)に示すように、エッチング液37に浸漬し、レジスト2をマスキング材として、前記のマイクロパイプ1をウェットエッチングする。38はエッチング液37の容器である。
(h)はエッチング後のリンス工程を示しており、エッチングリンス液39に浸漬してエッチング液37を除去し、エッチングを停止させる。40はエッチングリンス液39の容器である。
マイクロパイプ1は螺線状にエッチングされ、(g)、(h)に示すようにマイクロコイル42が製作できる。
(a)のレジスト塗布、(b)の露光、(d)、(e)の現像、リンスの工程を経て所望のレジストパターンを形成する技術がリソグラフィ技術である。
(i)はエッチングが完了してリンスした後、マイクロコイル42をレジスト2がついたままエッチングリンス液39から取り出した状態を示している。
次に、レジスト2を除去するため、(j)に示すように、レジスト2の付いたマイクロコイル42を、レジスト2を溶かす溶剤または剥離液中に漬け、レジスト2を除去する。
酸素プラズマなど、レジスト2をドライエッチングできる装置に入れ、レジスト2を除去してもよい。
レジスト2を除去すると、(k)に示すように、マイクロコイル42が得られる。
この非特許文献1に開示されたマイクロコイルの製作方法によれば、コイル素線が曲げやねじりの外力を受けることなくパイプから作り出されるため、曲がったりすることがなく真直ぐなコイルとなる。
そして、エッチング後に残る部分の幅を調節すれば、コイル外径によらずにコイル素線の幅を太くも細くもできる。
したがって、コイル外径および内径によらずに、容易に異なるばね定数のマイクロコイルを製作することができる。
Yoshihisa Kaneko,Kohei Hashimoto,Toshiyuki Horiuchi:Fabrication of micro−coils using laser scan lithographyon copper pipes,MICROELECTRONIC ENGINEERING,Vol.83(2006)pp.1249−1252.
しかし、図14により説明した非特許文献1に開示された従来の方法においては、該非特許文献1に示されているように、コイル外径100μmに対し、コイル長さはわずか数巻きしか取れなかった。すなわち、コイル長さ/コイル直径=アスペクト比の上限は高々5〜6程度であった。
コイル長さを長くできない一つの理由は、レーザ走査リソグラフィによって螺線スペースパターンを形成し、残ったレジスト膜をマスキング材として、前記のマイクロパイプ1をウェットエッチングする際に、エッチングの終点判定が難しいためと、エッチング液からマイクロコイル42を引き上げるタイミングの余裕度が少ないためであった。
エッチング対象が微細な品物であるため、エッチング中にマイクロコイル化状態を目視観察することは不可能である。
仮に顕微鏡などで拡大観察できるようにしたとしても、出来上がって行くコイルのすべての部分をエッチング中にチェックすることは不可能であるため、エッチングの終点判定が難しい。
コイル長さを長くできない二つ目の理由は、リソグラフィで形成したレジストスペースパターンの線幅にばらつきがあり、マイクロコイル化のためのエッチングを行なうと、でき上がるコイル素線の幅がばらついていたためである。
螺線パターンのピッチを一定とする時、レジストスペースパターンの線幅がほかの場所より広い場所があると、エッチングされる幅が広くなり、隣接する両側のコイル素線幅が狭くなる。
コイル線幅が狭くなる場所においてマイクロコイルが切れないようにするためには、短めのエッチング時間でエッチングを止めざるを得ない。
しかし、短めのエッチング時間でエッチングを止めると、レジストスペースパターンの線幅が狭くてエッチングの遅い部分で、コイル素線に、図14に示すようなエッチング残りに起因する「ばり」70、具体例で示せば、図15に示す「ばり」70a〜70fが残ってしまった。
このように、従来の技術によれば、部分的な短い範囲でマイクロコイルに近い形状はできるが、長い範囲にわたって均一な線幅を持ち、かつ「ばり」がない実用的なマイクロコイルを得ることはできなかった。
長いコイルを作るには、その長さの間で、リソグラフィで形成する螺線レジストスペースパターンの線幅を均一にすることが必要であり、螺線レジストスペースパターンの線幅を均一にしないと、でき上がるマイクロコイルの素線の幅を均一にできず、エッチング液からマイクロコイルを引き上げるタイミングの余裕度を十分に取ることができない。
また、エッチング液の状態のばらつき、たとえば、温度、湿度、気圧、現像液のロット、製造日からの放置年月、開封してからの放置年月、使用する現像液の量などによってエッチング速度がわずか異なるため、マイクロパイプ1がマイクロコイル42になるまで長時間連続してエッチング液に浸漬すると、見掛け上同じ条件で同じ時間エッチングしてもエッチング量がばらつき、同じ素線太さのマイクロコイルを得ることが困難であった。
螺線レジストスペースパターンの線幅を均一にし、かつ、エッチング量を適切に制御しないと、所望の均一な素線幅を有してコイル長さ/コイル直径=アスペクト比が大きい実用的なマイクロコイルを得ることができない。
非特許文献1に記載されたマイクロコイルの巻数は高々数巻きであり、アスペクト比は高々5〜6である上、コイル素線幅がばらつき、かつ、素線の一部に図15に示した「ばり」70a〜70fが残っていた。
「ばり」70は、図15で70a〜70fに示したように、非特許文献1に記載されたすべてのマイクロコイルの写真において顕著に生じており、非特許文献1に記載された従来技術では回避できなかったことが明白である。
請求項1に示す本発明のマイクロコイルの製作方法は、外径が100μm以下の金属性のマイクロパイプの外表面にレジストを付するレジスト塗布工程と、該レジスト膜上の露光予定位置またはその近傍の少なくとも2箇所以上の点に露光ビームスポットを該レジストが感光しない光強度で当て、いずれの箇所に露光ビームスポットが来た場合とも該露光ビームスポットの位置、形状、大きさが所期の位置、形状、大きさに対し許容できる誤差範囲内に収まるように前記マイクロパイプと露光ビームとの相対傾斜角および/または前記マイクロパイプの露光ビーム照射方向の位置を調整する露光ビーム調整工程と、該露光ビームスポットを該レジストが感光する光強度にして該レジストを単数箇所または複数個所において螺線状に前記マイクロパイプの外径の20倍以上の長さ区間に亘って露光する露光工程と、前記螺線状の露光により螺線状に感光した該レジストを有する前記マイクロパイプを現像液に浸漬および/または流浸させて該レジストの螺線スペースパターンを形成する現像工程と、前記工程を経て形成した該レジストの螺線スペースパターンを有する前記マイクロパイプをエッチング液に浸漬および/または流浸して前記レジストをエッチングマスクとして前記螺線スペースパターンの底部として露出した前記マイクロパイプを螺線状にエッチングし、該エッチングが完了する前に少なくとも1回、該マイクロパイプを該エッチング液から一旦取り出してリンス液に浸漬および/または流浸して前記エッチング液を洗浄除去するリンスを行い、該リンス液を除去したのち再び該マイクロパイプを該エッチング液に浸漬および/または流浸して前記レジストをエッチングマスクとして前記螺線スペースパターンの底部として露出した前記マイクロパイプを螺線状にさらにエッチングし、前記マイクロパイプがマイクロコイルとなるまで前記エッチングと前記リンスとを適宜繰り返すエッチング工程、とを含み、コイル化部分の長さを外径で除した値が20以上のマイクロコイルを製作することを特徴とする。
請求項2に示す本発明のマイクロコイルの製作方法は、請求項1に示したマイクロコイル製作方法のエッチング工程を、該エッチングが完了する前に少なくとも1回、該レジストの螺線スペースパターンを有するマイクロパイプを該エッチング液から一旦取り出し、リンス液に浸漬および/または流浸して前記エッチング液を洗浄除去するリンスを行い、該リンス液を除去する工程の後、取り出したマイクロパイプの螺線溝の幅および/または深さを測定して追加するエッチングの必要時間を予測する工程を設け、エッチングの必要時間を予測した上でさらにエッチングするエッチング工程とすることを特徴とする。
請求項3に示す本発明のマイクロコイルの製作方法は、請求項1および請求項2に示したマイクロコイル製作方法において、レジストを螺線状露光する露光工程と引き続く現像工程で、複数の螺線スペースパターンを形成するのに加えて、該マイクロパイプを周回するスペースパターンを形成し、該レジストをマスキング材として該マイクロパイプをエッチングする工程で、該マイクロパイプを周回するスペースパターン部のエッチングにより該マイクロパイプを切断し、複数のマイクロコイルを得ることを特徴とする。
なお、一態様のマイクロコイルは、外径が100μm以下の金属マイクロパイプを、一箇所のみ連続的に螺線状にエッチングしてコイル化したマイクロコイルにおいて、該コイル化部分の長さを外径で除した値が20以上であってもよい。
また、他態様のマイクロコイルは、外径が100μm以下の金属マイクロパイプを、複数の箇所において螺線状にエッチングしてコイル化したマイクロコイルにおいて、該コイル化した部分の合計長さを外径で除した値が20以上であってもよい。
また、一態様および他態様のマイクロコイルは、コイル化部分を2条以上の多条螺線としてもよい。
また、他態様のマイクロコイルは、複数の箇所の螺線状にエッチングしてコイル化した部分の螺線の巻き方向が約半々に逆方向であってもよい。
また、これらのマイクロコイルは、金属パイプの両端ともコイル化部分となしてもよい。
また、これらのマイクロコイルは、金属マイクロパイプの片端または両端をコイル化せずに残してもよい。
この場合、片端または両端のコイル化せずに残した金属マイクロパイプ部の片端または両端の外径側および/または内径側に、段差加工またはテーパ加工を施してもよい。
また、片端または両端のコイル化せずに残した金属マイクロパイプ部に貫通穴を設けてもよい。
本発明のマイクロコイルの製作方法によれば、従来よりも露光ビームのスポットの大きさや形状を精度良く一定に保て、かつ、従来よりも露光ビームのスポットの位置を精度良く原材料とする金属マイクロパイプ上の所定の位置に置いて、該金属パイプの外表面に付したレジストを露光できるので、リソグラフィで形成する螺線レジストスペースパターンの線幅を均一にできる。
また、本発明のマイクロコイルの製作方法によれば、金属パイプを螺線状にエッチングしてコイルを製作する際に、適切なエッチングの終点を従来よりも遥かに精度良く推測できるため、コイル素線幅の精度が良く、「ばり」がなく、素線の断面形状が略長方形で均一なマイクロコイルを再現性良く製作することができる。
さらに、本発明のマイクロコイルの製作方法によれば、リソグラフィで形成する螺線レジストスペースパターンの線幅を均一にでき、エッチングの精度も上がることから、コイル素線の幅が従来のマイクロコイルよりも均一であり、原材料とする金属マイクロパイプの真直度に対応する真直度を有し、コイル長さ/コイル直径=アスペクト比が従来よりも格段に大きいマイクロコイルを製作することができる。
一方、本発明のマイクロコイルの製作方法によれば、パイプの任意の部分に任意の長さ範囲だけマイクロコイルを作ることができ、全長すべてがコイルであるマイクロコイルのほか、両端にパイプ部を残したマイクロコイルや、片端にパイプ部を残したマイクロコイルも容易に製作することができる。
なお、一態様および他態様のマイクロコイルは、コイル素線の幅が均一であり、真直で、「ばり」もないため、従来のマイクロコイルよりも、同じマイクロコイルを多数製作した時のばね定数のばらつきが小さく、局所的に弱い場所がないので、応力集中が起こりにくく、繰り返し変形に対する耐久性が高い。
また、コイル素線の幅が均一であることから、同じ内外径の金属パイプからコイル素線の幅を従来よりも広い範囲に変えてマイクロコイルを製作でき、かつ、アスペクト比が従来よりも格段に大きいマイクロコイルを製作することができることから、同じ内外径に対して得られるマイクロコイルのばね定数や変形範囲を従来よりも格段に広い範囲に取ることができるようになる。
マイクロコイルをスプリングとして用いる場合には、ばね定数を精確に予測して製作できることが必要であるが、本発明のマイクロコイル製作方法によれば、素線の幅が高精度に制御され、均一であるため、ねらい通りのばね性を有するマイクロスプリングを得ることができる。
また、マイクロコイルが均質であるため、マイクロコイルを圧縮荷重に対するスプリングとして用いる場合に、弱い所で局所的に大きく変形することがなく、マイクロコイルは歪んでも曲がることなく真直を保ったまま縮む。
さらに、超小型のインダクタンス要素部品やマイクロ電磁コイルの構成要素として使用する場合にも、同じマイクロコイルを多数製作した時のインダクタンスや抵抗値などの電気特性のばらつきが小さくなり、必要な電気特性を持ったマイクロコイルが得られる。
また、コイル素線の幅が均一であるためピッチを従来よりも小さくでき、アスペクト比が従来よりも格段に大きく取れるため、マイクロコイルの巻数を従来よりも増すことができ、小外径でインダクタンスの大きいマイクロコイルを得ることができる。
そして、「ばり」がないため、マイクロコイルに通電した時に、「ばり」の箇所で放電や短絡が起こることがなくなり、溶断したりすることがなくなる。
一方、一態様および他態様のマイクロコイルは、金属マイクロパイプ1から製作するため、コイル化以前に金属マイクロパイプ1の両端を切削、研削などにより平行に切り揃えておき、それらの金属マイクロパイプ1の両端がマイクロコイルの両端となるようにすれば、マイクロコイルの両端を平行にでき、圧縮コイルばねとして使用する場合に軸直角方向の迫り出しや曲がりを生じにくくできる利点がある。
また、自由長さが最初に用意する金属マイクロパイプ1の長さとなるので、任意のマイクロコイルの長さを容易に精度良く設定できる利点がある。
マイクロパイプ1を周回するスペースパターンを形成し、レジスト2をマスキング材として該マイクロパイプ1をエッチングする工程で、該マイクロパイプ1を周回するスペースパターン部のエッチングにより該マイクロパイプ1を切断することによっても、任意のマイクロコイルの長さを容易に精度良く設定できる。
さらに、マイクロコイルの両端または片端にパイプ部を残すと、該パイプ部を把持部として利用したり、該マイクロコイルを圧縮コイルばねとして円筒状のガイド内に挿入して用いる場合に案内や先導部として利用したりすることができる。
また、マイクロパイプの複数の箇所をマイクロコイル化してマイクロコイルとすることが容易にでき、コイル部がパイプ部で直線状に接続されたマイクロコイルを得ることができる。
このようにマイクロパイプの複数の箇所をマイクロコイル化したマイクロコイルは、同じばね定数のマイクロコイルを得るのにコイル部分を分割して各箇所のマイクロコイル部分を短くできるため、製作時に破断しにくくなり、かつ、圧縮コイルばねとして使用する場合に挫屈や曲がりや挫折が起こりにくくなる。
また、マイクロパイプの複数の箇所をマイクロコイル化する際に、巻きの方向をほぼ半々に反対方向に変えると、コイル部のねじり応力によるマイクロコイルの曲がりが逆向きに生じて打ち消し合うため、マイクロコイルは挫屈や曲がりがさらに起きにくくなる。
なお、マイクロパイプのマイクロコイル化しない部分の端の内径側および/または外径側に段差やテーパなど任意の加工を施したマイクロコイルを得ることもできる。
このように、マイクロコイル化しない部分の端の内径側および/または外径側に段差やテーパなどを付けると、マイクロコイルと軸心および軸方向の位置を合わせた状態でほかの部品、たとえば、探針の針先などを取り付けることができる。
さらに、マイクロパイプのマイクロコイル化しない部分に貫通穴を設けたマイクロコイルを得ることもでき、マイクロコイルを引張ばねとして使用する場合に、糸やワイヤなどの牽引索を付けやすくできる。
発明の実施するための最良の形態
図1は、本発明のマイクロコイルの製作方法を示す説明図である。
マイクロコイルの外径が実際には人間の髪の毛程度であるため大きく拡大して描いてあり、ほかの構成要素は逆に縮小して描いてある。
まず、(a)に示すように、金属製のマイクロパイプ1の表面の一部または全部にレジストなどのレジスト2を付着させる。
レジスト2を付着させるには、金属製のマイクロパイプ1を鉛直に懸架してレジスト2の液中に浸漬し、所定の速度で引き上げるなどすればよい。
マイクロパイプ1を鉛直に懸架してレジスト2の液中に浸漬し、所定の速度で引き上げる動作は相対的でよく、マイクロパイプ1を固定してレジスト2の液を上下動させてもよい。
また、レジスト2の塗布膜厚を均一化するため、相対的引き上げ動作中または動作後にマイクロパイプ1に適宜回転を加えたり、引き上げ中に相対的引き上げ速度を適宜変化させたりしてもよい。
噴霧や霧状雰囲気中への放置などの方法によってマイクロパイプ1にレジスト2を塗布してもよい。
次に、該マイクロパイプ1を(b)に示すように露光装置のチャック3に取り付け、露光開始点4またはその近傍に、露光光線としてたとえばレーザ5からの露光ビーム6のスポットを前記レジスト2が感光しない弱い強度で当て、該露光ビーム6のスポットの形状や大きさをカメラ7で観察して該露光ビーム6のスポットの像8をテレビモニタ9に写し、該露光ビームスポットの位置が前記マイクロパイプ1の頂上に当たるように、また、該露光ビームのスポットの像8が所期の形状、大きさとなるように、該露光装置のXステージ10、Yステージ11、Zステージ12を動かしてチャック3の位置を調整する。
X、Y、Zは図中に示した通りの方向であり、13はビームスプリッター、14は露光ビーム6を絞るためのレンズ、15は前記露光ビーム6のマイクロパイプ1の表面からの反射光、16はカメラ7とテレビモニタ9を接続するケーブルである。
レーザ5からの露光ビーム6のスポットを前記レジスト2が感光しない弱い強度で当てるにはレーザ5の出力を弱くしてもよいが、一般にレーザは出力を変えると該出力が安定するまでに時間を要するため、レーザの出力光強度を露光する光強度に安定に一定に保ったままマイクロパイプ1上に適切な強度で照射されるように弱めるための減光フィルター17を着脱できるようにしておくと都合がよく、露光ビーム6の通過、遮光を切り替えるシャッター18を設ければなお都合がよい。
減光フィルター17やシャッター18の設置位置は任意でよい。
また、露光ビーム6を小さな円形、矩形など露光に都合のよい形状・大きさのスポットにして該マイクロパイプ1上の露光開始点4に当てるため、ピンホール19でレーザ5からの露光ビーム6を整形し、該ピンホール19の射出口の像が、該マイクロパイプ1上の露光開始点4に形成されるようにすることが好ましい。
露光ビーム6を得るための光源としては、例示したレーザ5が手軽であるが、必ずしもレーザとする必要はなく、ピンホール19で露光ビーム6を整形し、レンズ14によって該ピンホール19の射出口の像が、該マイクロパイプ1上4に形成されるようにすれば、ランプ光源など、レジスト2を感光させることができる任意の光源でよい。
20はマイクロパイプ1を軸まわりすなわち大略X軸回りに回転させるX回転ステージ、21はマイクロパイプ1をX軸回り、Y軸回り、Z方向に微動させてX軸回り、Y軸回りの回転角とZ方向の位置を調整するための傾斜・高さ調整ステージ、22はマイクロパイプ1のZ軸回り角度を調整する方位回転ステージである。
テレビモニタ9上で露光ビームスポットの像8を観察する際、テレビモニタ9上に該露光ビームスポットが当たっている付近のマイクロパイプ1も鮮明に見えた方が好ましいため、前記レジスト2が感光しない波長の光または前記レジスト2が感光しない弱い光を出す照明光源23を別に設け、露光開始点4またはその近傍の適当な範囲にレジスト2が感光しない照明光を当てればさらによい。
24は、前記の照明光源23からの光線25を前記の露光ビーム6の光路に重ねるためのビームスプリッターである。
なお、露光ビーム6のスポットの位置とマイクロパイプ1との位置合わせは相対的なものであるので、マイクロパイプ1を静止させたまま露光ビーム6のスポットの位置を動かして調整する構成としてもよい。
次に、(c)に示すように、露光終了点26またはその近傍に露光ビーム6のスポットを当て、カメラ7で観察してのスポットの像8をテレビモニタ9に写し、該露光ビームスポットの位置が前記マイクロパイプ1の頂上に当たるように、また、該露光ビームスポットの像8が所期の形状、大きさとなるように、露光装置の傾斜・高さ調整ステージ21と方位回転ステージ22を動かしてマイクロパイプ1の位置を調整する。
Z軸方向の位置の調整はZステージ12を用いてもよく、傾斜・高さ調整ステージ21とZステージ12を併用してもよい。
(b)に示した露光開始点4またはその近傍における露光ビーム6のスポットの位置、形状、大きさの調整と、(c)に示した露光終了点26またはその近傍における露光ビーム6のスポットの位置、形状、大きさの調整は、両方の位置で該露光ビーム6のスポットが前記マイクロパイプ1の頂上に当たり、該スポットが所期の形状、大きさとなるまで適宜繰り返す。
露光開始点4またはその近傍および露光終了点26またはその近傍のみならず、任意の単数または複数の中間点においても、該露光ビーム6のスポットが前記マイクロパイプ1の頂上に当たり、所期の形状、大きさとなるように確認すればなお良い。
また、少なくとも露光開始点4またはその近傍および露光終了点26またはその近傍において該露光ビーム6のスポットが前記マイクロパイプ1の頂上に当たり、所期の形状、大きさとなるようにした後、以下の工程で露光ビーム6のスポットを動かす経路でマイクロパイプ1を動かし、全露光経路上で該露光ビーム6のスポットが前記マイクロパイプ1の頂上に当たり、所期の形状、大きさとなることを確認すればさらに良い。
なお、図1においては、露光ビーム6を上から下に向けて前記マイクロパイプ1に当てるようにしたため、露光ビーム6のスポットが該マイクロパイプ1の頂上に当たるようにしたが、露光ビーム6は水平方向から当ててもよい。
該マイクロパイプ1を設置する向きは任意でよく、たとえば、軸を鉛直にして保持し、露光ビーム6を水平方向から当てるように構成してもよいことは明らかである。
次に、露光ビーム6のスポットを前記マイクロパイプ1の露光開始点4におき、前記の減光フィルター17をはずしたり、レーザ5の出力を高めたりすることにより、露光ビーム6のスポットがレジスト2を感光させるのに必要な光強度で当たるようにし、Xステージ10とX軸まわりの回転ステージ20により該マイクロパイプ1に矢印27で示すX軸方向の直線運動と矢印28で示すX軸まわりの回転運動の組み合わせによる螺線運動を与え、(d)に示すように、レジスト2を螺線状に感光させる。
レジスト2を螺線状に感光させる際、2条の螺線状に感光させたり、分離された複数の位置を螺線状に感光させたり、分離された複数の位置に感光させる時に一部の螺線の巻きの方向を逆にするなどしてもよい。
また、螺線状に感光させる片端または両端をでき上がるマイクロコイルの端となしたい場合や前記マイクロパイプ1を任意の位置でエッチング時に切断したい場合には、該マイクロパイプ1の表面を周回して連なるようにレジスト2を感光させスペースパターンを形成する。
前記マイクロパイプ1のマイクロコイル化しないパイプ部にエッチング時に貫通穴を設けたい場合には、レジスト2を螺線状に感光させるのに加えて、任意形状の穴状に感光させておく。
先に示したように、露光ビーム6の光路を開閉するシャッター18を設けておけば、露光の開始と終了および/または途中での露光の一時中止と再開を該シャッター18の開閉により制御することができる。
非特許文献1に記載された従来のマイクロコイル製作方法では、図1(b)、(c)に示した上記の露光ビーム調整工程を取らないで、図14(b)の露光工程に入るため、螺線状の走査露光中、レジスト2上の露光ビーム6のスポットの形状、大きさ、位置が変動し、螺線状に均一に感光させることができなかった。
それに対し、上記のように、本発明によれば、上記の露光ビーム調整工程を取るため、螺線状の走査露光中、露光ビーム6のスポットがレジスト2上に所期の形状、大きさで均一に前記マイクロパイプ1上に当たるため、レジスト2は目標とする線幅に螺線状に均一に感光される。
(e)以降は以下の工程における配置姿勢に合わせて、前記マイクロパイプ1を、軸を鉛直にして描いてあり、31が図1(d)に示した走査露光による感光部である。
次に、(f)に示すように、前記の螺線状に露光したレジスト2を付したマイクロパイプ1を現像液32に浸漬する。33は現像液32の容器である。
静止した現像液32に浸漬するのに代えて、現像液32を流した状態で前記の螺線状に露光したレジスト2を付したマイクロパイプ1を浸したり、前記の螺線状に露光したレジスト2を付したマイクロパイプ1に現像液32を流しかけたりしてもよい。
すなわち前記の螺線状に露光したレジスト2を付したマイクロパイプ1を現像液32に流浸してもよい。
たとえば、レジスト2としてポジ型のレジストを使用すると、現像により感光部が螺線状に溶けて螺線スペースパターン34が得られる。
現像を終えるには、感光部が螺線状に溶けて螺線スペースパターン34が形成された前記マイクロパイプ1を、(g)に示すように、現像リンス液35に浸漬する。
36は現像リンス液35の容器である。現像リンス液35に浸漬する代わりに流浸してもよいことは言うまでもない。
(h)は螺線スペースパターン34が形成された前記マイクロパイプ1を現像リンス液35から取り出した状態を示しており、次に、該螺線スペースパターン34を形成したマイクロパイプ1を、(i)に示すように、エッチング液37に浸漬する。
38はエッチング液37の容器である。浸漬する代わりに流浸してもよいことは言うまでもない。
従来、ここで、マイクロパイプ1がマイクロコイルになるまでエッチング液37に浸漬していた。
しかし、エッチング液37の状態のばらつき、たとえば、温度、気圧、現像液のロット、製造日からの放置年月、開封してからの放置年月、使用する液量などによってエッチング速度がわずか異なり、マイクロパイプ1がマイクロコイルになるまで連続してエッチングすると、見掛け上同じ条件で同じ時間エッチングしてもエッチング量がばらつき、マイクロコイルがエッチングされ過ぎて切れたり、エッチング不足で「ばり」がひどく残ったりしていた。
そのため、本発明においては、見掛け上同じ条件で同じ時間エッチングした時のエッチング量のばらつきの影響を低減するため、マイクロパイプ1がマイクロコイルになる前にエッチング途中のマイクロパイプ41をエッチング液37から出し、(j)に示すように、エッチングリンス液39に浸漬する。
40はエッチング液リンス液39の容器である。浸漬する代わりに流浸してもよいことは言うまでもない。
(k)はエッチング途中のマイクロパイプ41を現像リンス液39から取り出した状態を示している。
エッチング途中のマイクロパイプ41は、エッチング液37に入れる前の螺線スペースパターン34の隙間寸法、すなわち、螺線スペースパターン34の線幅bよりも広がって幅Bにエッチングされる。すなわちアンダーカットされる。
エッチング途中のマイクロパイプ41に形成されるエッチング溝の表面における溝幅Bから、最初の螺線スペースパターン34の線幅bを減じたエッチング幅Wは、W=B−bとなる。
本発明においては、マイクロパイプ1がマイクロコイルになる前に、エッチング途中のマイクロパイプ41をエッチング液37から出してリンスした後、図1(k)に示すように、エッチング途中のマイクロパイプ41に形成されるエッチング溝の溝幅Bと螺線スペースパターン34の線幅bを測定し、前記の式W=B−bより、エッチング幅W求め、単位エッチング時間当たりのエッチング幅を計算する。
マイクロパイプ1がマイクロコイルになる前に、エッチング途中のマイクロパイプ41をエッチング液37から出してリンスし、エッチング幅Wを求める工程は一回に限らず、複数回繰り返せばなお良い。
図9は、エッチング幅Wを求める工程を複数回繰り返した時の、合計エッチング時間とエッチング幅Wとの関係の例である。
外径100μm、内径40μmの銅製マイクロパイプ1に膜厚約3μmのポジ型レジストPMER P−AR900でスペース線幅約20μm、ピッチ100μmの螺線スペースパターンを形成した後、45〜50℃の塩化第二鉄水溶液に浸漬して50sのエッチングを行ない40s純水でリンスする工程を3回繰り返した時のデータであり、エッチング溝の溝幅Bと螺線スペースパターン34の線幅bは走査型電子顕微鏡により拡大観察して測定した。
図9に示すように、合計エッチング時間に対してエッチング幅Wは線形に変化することから、所望のエッチング幅Wを得るにはあとどのくらいエッチングすればよいかが精確に予測できる。
なお、エッチングはほぼ等方的に進むので、W/2からエッチング深さも予測することができる。
触針式段差計やレーザ変位計などにより、エッチング深さを直接測定して以後必要なエッチング時間を判断してもよい。
また、このようにエッチングを時間分割して行なうと、最後のエッチングにおけるエッチング幅Wの誤差だけができ上がるマイクロコイルのスペースやマイクロコイルの素線幅の誤差に効くので、マイクロコイルのスペースや素線幅の精度を上げることができる。
さらに、エッチングを時間分割して行なうことにより、エッチングのばらつきが平均化されるので、場合によっては、溝幅Bを測定しなくても再現性よくマイクロコイルを所期のスペース幅、素線幅に仕上げることができる。
たとえば、エッチングを時間分割する回数を増やせば、溝幅Bを測定しなくても再現性よくマイクロコイルを所期のスペース幅、素線幅に仕上げることができる。
また、エッチングを時間分割して3回以上行なう場合には、マイクロコイルが完成する直前のみに図1(k)に示す溝幅Bの測定を行えば効率的である。
図1に戻り、前記のように、エッチング途中のマイクロパイプ41から以後必要なエッチング時間を予測したならば、該時間のエッチングを追加し、(l)に示すように、エッチング途中のマイクロパイプ41が完全にマイクロコイル化するまで、エッチング液37に浸漬する。浸漬する代わりに流浸してもよい。
(l)において、42はエッチングが完了して完全にマイクロコイル化したマイクロパイプ、すなわち本発明のマイクロコイルを示しており、エッチングを終了するには、(m)に示すように、エッチングリンス液39に浸漬する。この場合も、浸漬する代わりに流浸してもよい。
(l)、(m)において、43は本発明のマイクロコイルの断面を示しており、本発明によれば、内径側のエッチング残りに起因する「ばり」70が発生せず、おおむね矩形または台形形状となる。
(n)はエッチングが完了してリンスした後、本発明のマイクロコイル42をレジスト2がついたままエッチングリンス液39から取り出した状態を示している。
次に、レジスト2を除去するため、(o)に示すように、レジスト2の付いたマイクロコイル42を、レジスト2を溶かす溶剤または剥離液中に漬け、レジスト2を除去する。
酸素プラズマなど、レジスト2をドライエッチングできる装置に入れ、レジスト2を除去してもよい。
レジスト2を除去すると、(p)に示すように、最終的に本発明のマイクロコイル42が得られる。
本発明で製作できるマイクロコイル42は、リソグラフィにより螺線スペースパターン34を均一に形成し、エッチングを時間分割して適切な時間だけ行なうため、図14に示した従来の方法で製作した場合に生じていた「ばり」70が生じない。
図2は本発明のマイクロコイルの製作方法の別の代表的な実施形態であり、1本のマイクロパイプ1から複数のマイクロコイル42を製作する場合に便利なレジスト2のスペースパターンを示している。
図2(a)は、図1の(h)に相当する状態のレジスト2のスペースパターンを示しており、45、46がマイクロコイル化する部分の螺線スペースパターン、47、48はマイクロパイプ1を周回するスペースパターンである。
このようにパターンを形成すると、エッチングにより、前記マイクロパイプ1を周回するスペースパターン47、48の所でマイクロパイプ1がマイクロコイル50、51とマイクロパイプの残部分52とに分断され、2つのマイクロコイル50、51が同時に得られる。
マイクロパイプ1を分断する箇所および分断する数はもちろん任意でよい。
図3は本発明のマイクロコイルの代表的な実施形態の模式図であり、(a)は全長をマイクロコイル化した実施形態、(b)は一端をマイクロコイル化した実施形態、(c)は両端にパイプ部を残した実施形態であり、53がマイクロコイル化部分、54、55がパイプ部である。
(c)に示した両端にパイプ部を残したマイクロコイルは、図1に示した本発明のマイクロコイルの製作方法により製作できる。
また、レジスト2で螺線スペースパターン34を形成する際、螺線スペースパターンの片端または両端で、マイクロパイプ1の表面を周回して連なるようにスペースパターンを形成しておけば、図1(i)および(l)の工程でマイクロパイプ1が周回エッチングされ、(b)または(a)に示すようなマイクロコイルとすることができる。
このように、本発明によれば、マイクロパイプ1を任意の部分に任意の長さ範囲だけコイル化したマイクロコイルを作ることができる。
(b)において、両端に残したパイプ部54、55は左右対称であるかのように図を描いたが、マイクロコイル化する部分の長さは任意であり、左右対称でも左右対称でなくてもよい。
図4は本発明の別のマイクロコイルの実施形態の模式図であり、コイル部53を53aと53bの2条としたマイクロコイルである。
このようにコイル部を2条のコイルとすると、外径寸法が同じで、同じリードを持つ通常の1条のマイクロコイルの2倍のばね定数のコイルを得ることができる。
コイル部を3条以上の多条コイルとしてもよい。
なお、図4ではマイクロコイルの両側にパイプ部54、55を残した図3(c)に対応する実施形態の模式図のみを示したが、図3(a)または(b)に対応するように、マイクロコイルの片端または両端にパイプ部54、55がほとんど残らないようにしてもよいことは言うまでもない。
図5は本発明の別のマイクロコイルの実施形態の模式図であり、マイクロパイプ1の複数の箇所をマイクロコイル化したマイクロコイルを示している。
56、57がマイクロコイル化部分、58、59がパイプ部である。
このようにマイクロパイプ1の複数の箇所をマイクロコイル化したマイクロコイルとすると、同じばね定数のマイクロコイルを得るのに各箇所のマイクロコイル部分を短くできるため、製作時に破断しにくくなり、かつ、圧縮コイルばねとして使用する場合に挫屈や曲がりや挫折が起こりにくくなる。
なお、図5において、両端に残したパイプ部58、59は左右対称であるかのように図を描いたが、複数の箇所におけるマイクロコイル化する部分の長さおよび箇所は任意であり、マイクロコイル化する箇所の数も任意である。
必ずしも、両端にパイプ部58、59を残す必要はなく、マイクロコイル化する複数の箇所にマイクロパイプ1の片端または両端が含まれてもよく、マイクロパイプ1を周回するスペースパターンを形成してマイクロコイル化した部分が片端または両端に来るようにしてもよい。
図6は本発明のさらに別のマイクロコイルの実施形態の模式図であり、マイクロパイプ1の複数の箇所56、57をマイクロコイル化したマイクロコイルにおいて、巻きの方向を変えたマイクロコイルを示している。
このように、マイクロパイプ1の複数の箇所56、57をマイクロコイル化し、巻きの方向をほぼ半々に変えると、各箇所56、57のマイクロコイル部分を短くできるため、製作時に破断しにくくなり、かつ、圧縮コイルばねとして使用する場合に挫屈や曲がりや挫折が起こりにくくできるのに加えて、コイル部のねじり応力によるマイクロコイルの曲がりが逆向きに生じて打ち消し合うため、マイクロコイルは挫屈や曲がりがさらに起きにくくなる。
なお、図6では、マイクロコイル化した部分56、57を巻きの向きを反対にして2箇所設けたが、4箇所にして2箇所ずつ反対巻きにしたり、任意に巻きを反対にして巻きの向き毎の巻数の和が同じになるようにしたりしても良い。
図7は本発明のさらに別のマイクロコイルの実施形態の模式図であり、マイクロパイプ1のマイクロコイル化しない部分の端の内径側および/または外径側に段差やテーパなど任意の加工を施したマイクロコイルである。
図7において、60がマイクロコイル化部分、61、62がパイプ部分であり、(a)の63がマイクロコイル化しない部分の端の内径側に設けた段差、(b)の64がマイクロコイル化しない部分の端の外径側に設けた段差であり、(c)の65がマイクロコイル化しない部分の端の外径側に設けたテーパである。
マイクロコイル化しない部分の端の内径側および/または外径側に、予め切削加工、研削加工、研磨加工、塑性加工など任意の方法により段差やテーパなどを付けた上でマイクロパイプ1をコイル化すれば、本実施形態のマイクロコイルが得られる。
このように、マイクロコイル化しない部分の端の内径側および/または外径側に段差やテーパなどを付けると、マイクロコイルと軸心および軸方向の位置を合わせた状態でほかの部品、たとえば、探針の針先などを取り付けることができる。
なお、マイクロコイル化しない部分の端の内径側および/または外径側に段差やテーパを付けるに当たり、図では片側のみに付けたが、必要に応じて両端に付けてもよいことは言うまでもない。
また、図3(b)に示したような片端のみにパイプ部を残した本発明のマイクロコイルにおいて、該マイクロコイル化しないパイプ部分の端の内径側および/または外径側に段差やテーパを付けてもよいことは言うまでもない。
図8は本発明のさらに別のマイクロコイルの実施形態の模式図であり、マイクロパイプ1のマイクロコイル化しない部分66に貫通穴67を設けたマイクロコイルである。
このような形状にすると、本発明のマイクロコイルを引張ばねとして使用する場合に、糸やワイヤなどの牽引索を付けやすくできる。
マイクロコイルの外径や内径が小さいと、マイクロコイルに糸やワイヤなどの牽引索を付けるのに苦労するが、本発明のマイクロコイルの製作方法によれば、螺線スペースパターンを形成する工程で、該貫通穴67を開けたい位置に該貫通穴67の形状のレジスト2の穴パターンを形成しておけば、マイクロパイプ1をエッチングしてマイクロコイル化する工程で該レジスト2の穴パターン部を同時にエッチングして該貫通穴を作ることができる。68はマイクロコイル化部分である。
該貫通穴67の形状や大きさは任意であり、必ずしも円形でなくともよく、個数も任意である。該貫通穴67をパイプ部66と69の両方に設けてもよい。
なお、図1から図8において、マイクロコイル化した部分をわずか数巻きずつしか描いていないが、これは模式図として描いたためであり、マイクロコイルの外径、内径、長さも模式図として描いてある。
図10は、図1に示した本発明のマイクロコイル製作方法により、レーザ5として波長473nmの青色固体レーザを用い、(b)に示したように露光開始点4またはその近傍において露光ビーム6のスポットの調整を行い、(c)に示したように露光終了点26またはその近傍において露光ビーム6のスポットの調整を行って、両方の位置で該露光ビーム6のスポットが前記マイクロパイプ1の頂上に当たり、所期の形状、大きさとなるようにして形成した螺線スペースパターンの線幅の測定例である。
外径100μm、内径40μmの銅製マイクロパイプ1に膜厚約5μmのポジ型レジストPMER P−AR900で形成したピッチ100μmの螺線スペースパターン34は、スペース線幅約11.5μmで均一に形成できた。
また、図11は、外径80μm、内径30μmの銅製マイクロパイプ1に膜厚約3μmのポジ型レジストPMER P−AR900で形成したピッチ100μmの螺線スペースパターン16を用い、45〜50℃の塩化第二鉄水溶液に浸漬して50sのエッチングを行ない40s純水でリンスする工程を3回繰り返して得た長さ5mmのマイクロコイルの顕微鏡写真である。
マイクロコイルは真直であり、外径80μmに対して長さ5mmなので、コイル長さ/コイル直径=アスペクト比は60以上である。
図12は、図10に示したマイクロコイルの素線線幅の測定結果であり、素線線幅のばらつきは、全長の間で±10%以下である。本発明によれば、マイクロコイルが均一な素線線幅で製作できることが分かる。
図13は、本発明のマイクロコイルを部分拡大した顕微鏡写真である。マイクロコイルの素線が精度よく加工されており、本発明の適切なエッチングを行なうと、従来問題であった図15に示したような「ばり」70が出ないようにでき、マイクロコイルの素線側面は滑らかになることが分かる。
また、別の実施例として、外径100μm、内径40μmの銅製マイクロパイプ1に膜厚約5μmのポジ型レジストPMER P−AR900を付して形成したピッチ85μmの螺線スペースパターン34を用い、45〜50℃の塩化第二鉄水溶液に浸漬して50sのエッチングを行ない40s純水でリンスする工程を3回繰り返して長さ5mmのマイクロコイルを得た。
図14に示した従来のマイクロコイル製作方法によると、同じ銅製マイクロパイプ1からマイクロコイルを製作する場合に、螺線スペースパターン34のピッチは100μmが限界であり、それより小さくすると、エッチング時にマイクロコイルができ上がる前にどこかで切れてしまった。
そして、従来のマイクロコイル製作方法によると、同じ銅製マイクロパイプ1からマイクロコイルを製作する場合に、ピッチを100μmとして、「ばり」70が残る状態でも、コイル化できる長さは高々数巻きであり、コイル長さ/コイル直径=アスペクト比は高々5〜6が限界であったのに対し、本発明により、前記のように、ピッチ85μmでも、長さ5mmのマイクロコイルを製作することができ、外径100μmに対して長さ5mmなので、コイル長さ/コイル直径=アスペクト比は50とできた。
以上に説明したように、本発明のマイクロコイルの製作方法によれば、コイルの素線幅が均一であり、コイル長さ/コイル直径=アスペクト比が従来よりもはるかに大きい20以上取れる。
また、従来よりも外内径比や肉厚値の厚いマイクロコイルを製作でき、コイル長さ/コイル直径=アスペクト比を20以上としても、実施例から明らかなように、(100−40)/2=30μmという厚い肉厚を取れる。
コイルばねは、長さを長くすると柔らかくなり、肉厚を厚くすると硬くなる。したがって、本発明のマイクロコイルは、アスペクト比を大きく取れることから同じ外径、内径に対して長さを長くでき、かつ、肉厚を厚くできるので、柔らかくも硬くもでき、ばねとして用いる場合に、従来よりも格段に広い範囲のばね定数やばねの変位ストロークを得ることができる。
また、ばね定数や変位ストロークの個間のばらつきが小さいため、多数の同じ特性のマイクロコイルを必要とする用途に対応できる。
たとえば、集積回路検査用のプローブ探針においては、円筒状のガイド内にマイクロコイルを配置し、該マイクロコイルによって探針を電極に押し当てるようにして、該マイクロコイルのばね定数と変位によって押し付け力を決めている。
プローブ探針はマトリックス状に多数並べて用いるので、ばねの特性が揃ってばらつき少ないことが必要であり、本発明のマイクロコイルを用いれば非常に有効である。
一方、エッチングにより形成されたマイクロコイルの素線側面は「ばり」がなくて滑らかであるため、インダクタンス要素部品やマイクロ電磁コイルの構成要素として使用する場合に、放電や短絡が起こりにくい。
また、従来よりも高精細で小ピッチとでき、素線幅を小さくでき、コイル長さ/コイル直径=アスペクト比を大きく取れるため、巻数が大きいコイルが製作でき、外径が小さい割にインダクタンスの大きいマイクロコイルを得ることができる。
本発明のマイクロコイルの製作方法
本発明の別のマイクロコイル製作方法の説明図
本発明のマイクロコイルの代表的な実施形態の模式図
本発明の別のマイクロコイルの実施形態の模式図
本発明のさらに別のマイクロコイルの実施形態の模式図
本発明のさらに別のマイクロコイルの実施形態の模式図
本発明のさらに別のマイクロコイルの実施形態の模式図
本発明のさらに別のマイクロコイルの実施形態の模式図
本発明による合計エッチング時間とエッチング幅Wとの関係の例
本発明により形成した螺線スペースパターンの線幅の測定例
本発明のマイクロコイルの顕微鏡写真
本発明のマイクロコイルの素線線幅の測定結果
本発明の「ばり」のないマイクロコイルを部分拡大した顕微鏡写真
非特許文献1に開示された従来のマイクロコイル製作方法の説明図
従来のマイクロコイル製作方法により生じた「ばり」
符号の説明
1:マイクロパイプ
2:レジスト
3:チャック
4:露光開始点
5:レーザ
6:露光ビーム
7:カメラ
8:露光ビームのスポットの像
9:テレビモニタ
10:Xステージ
11:Yステージ
12:Zステージ
13:ビームスプリッター
14:レンズ
17:減光フィルター
18:シャッター
19:ピンホール
20:X回転ステージ
21:傾斜・高さ調整ステージ
22:方位回転ステージ
23:照明光源
24:ビームスプリッター
26:露光終了点
31:露光による感光部
32:現像液
34:螺線スペースパターン
35:現像リンス液
37:エッチング液
39:エッチングリンス液
41:エッチング途中のマイクロパイプ
42:マイクロコイル
45:螺線スペースパターン
46:螺線スペースパターン
47:マイクロパイプを周回するスペースパターン
48:マイクロパイプを周回するスペースパターン
50:マイクロコイル
51:マイクロコイル
53:マイクロコイル化部分
54:パイプ部
55:パイプ部
56:マイクロコイル化部分
57:マイクロコイル化部分
58:パイプ部
59:パイプ部
60:マイクロコイル化部分
61:パイプ部分
62:パイプ部分
63:マイクロコイル化しない部分の端の内径側に設けた段差
64:マイクロコイル化しない部分の端の外径側に設けた段差
65:マイクロコイル化しない部分の端の外径側に設けたテーパ
67:貫通穴
70:ばり