JP5266449B2 - 玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法 - Google Patents
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このように前駆体レンズから必要な玉型レンズのみを残して周囲をカットする技術は周知であるがその一例として特許文献1を示す。
ここに、「玉型レンズ」とは眼鏡フレームの内周形状に対応させたフレーム装着が可能な形状にまで前駆体レンズを加工したレンズをいう。また、「丸レンズ」とは取り扱いの点から円形あるいは楕円形の外形形状に成形されたことから呼称されるに至った前駆体レンズの通称である。
従来では前駆体レンズ(丸レンズ)のレンズ面全体がユーザーの処方データに基づいて加工されていた。つまり不要部分としていずれカットされる玉型レンズの周囲の部分も処方データに対応した加工データに基づいて加工されていた。
また、マイナスレンズ以外においても乱視度数が大きくて直交する方向での厚みの差が大きい場合、特に2つの主経線方向の一方がマイナス度数(いわゆるミックス度数の場合)には同様の問題がある。
更に、累進屈折力レンズにおいても、遠用部から近用部にかけて度数が変化する加入度が設定されているため、この加入度の大きな処方の前駆体レンズでは乱視度数と同様に縁周辺での周方向の厚みの変化が大きくなり同様の問題がある。
また、前駆体レンズの取扱いにおいてはロボットに縁部分を把持させて搬送するといった搬送工程の自動化・効率化を図ることが望ましいが、上記のように周方向の厚みの変化が大きいとロボットが把持しにくく、そのため搬送工程の自動化、効率化を阻む原因ともなっていた。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、縁周辺での周方向の厚みの変化が大きな前駆体レンズであっても縁の厚さが大きく変わることのない玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法を提供することである。
また請求項2の発明では、請求項1の発明の構成に加え、前記ユーザーの処方に対応したレンズ特性として乱視度数が処方されたレンズであって、2つの主経線方向の少なくとも一方がマイナス度数であることをその要旨とする。
また請求項4の発明では、請求項3の発明の構成に加え、前記所定の領域は下記a)又はb)によって定義される閉曲線形状であることをその要旨とする。
a)横長の楕円、長円又は卵型
b)1又は複数の楕円、円及び双曲線から選択される複数の曲線の一部を接続が滑らかになるように組み合わせた外側に凸の自己交叉しない横長の閉曲線形状
また請求項5の発明では、請求項4の発明の構成に加え、前記修正は幾何中心から全方向に向かって均等に減少させるようにしたことをその要旨とする。
また請求項6の発明では、請求項5の発明の構成に加え、前記修正は前記前駆体レンズにおいて幾何中心を通り耳側あるいは鼻側に向かって水平な方向を基準方向として幾何中心を支点とする直線の基準方向に対する角度が45度〜135度及び225度〜315度の範囲を上下領域とし、その余の範囲を左右領域とした際に、乱視軸が水平領域に存在する場合に行うことをその要旨とする。
また請求項8の発明では、請求項7の発明の構成に加え、前記所定の領域は下記a)又はb)によって定義される閉曲線形状であることをその要旨とする。
a)横長の楕円、長円又は卵型
b)1又は複数の楕円、円及び双曲線から選択される複数の曲線の一部を接続が滑らかになるように組み合わせた外側に凸の自己交叉しない横長の閉曲線形状
また請求項9の発明では、請求項8の発明の構成に加え、前記修正は幾何中心から全方向に向かって均等に減少させるようにしたことをその要旨とする。
また請求項10の発明では、請求項9の発明の構成に加え、前記修正は前記前駆体レンズにおいて幾何中心を通り耳側あるいは鼻側に向かって水平な方向を基準方向として幾何中心を支点とする直線の基準方向に対する角度が45度〜135度及び225度〜315度の範囲を上下領域とし、その余の範囲を左右領域とした際に、乱視軸が上下領域に存在する場合に行うことをその要旨とする。
a)横長の楕円、長円又は卵型
b)1又は複数の楕円、円及び双曲線から選択される複数の曲線の一部を接続が滑らかになるように組み合わせた外側に凸の自己交叉しない横長の閉曲線形状
また請求項12の発明では、請求項11の発明の構成に加え、前記修正は前記前駆体レンズにおいて幾何中心を通り耳側あるいは鼻側に向かって水平な方向を基準方向として幾何中心を支点とする直線の基準方向に対する角度が45度〜135度及び225度〜315度の範囲を上下領域とし、その余の範囲を左右領域とした際に、乱視軸が前記上下領域において前記基準方向に対して直交する方向以外の方向に存在する場合、あるいは前記左右領域において前記基準方向以外の方向に存在する場合に行うことをその要旨とする。
また請求項14の発明では、請求項1〜13のいずれかの発明の構成に加え、前記材料ブロックには所定の凸面あるいは凹面加工面が前もって形成され、前記前駆体レンズ作製工程においては凸面あるいは凹面加工面のいずれかの面に対して前記加工手段によって加工を施すようにしたことをその要旨とする。
また請求項15の発明では、請求項1〜14のいずれかの発明の構成に加え、前記前駆体レンズ作製工程において加工する面はレンズの内面側であることをその要旨とする。
メーカー側ではこれら加工データに基づいて前駆体レンズ作製工程において加工手段によって材料ブロックを加工して前駆体レンズを作製していく。加工手段とは切削工具や研磨工具等の加工工具を備えた例えばNC旋盤装置のように加工データに基づいて加工工具を制御することの可能な手段である。
ここに、前駆体レンズの最大縁厚と最小縁厚の差が所定以上である場合には幾何中心を含む所定の領域よりも外側領域に対して縁厚が均等になる方向に修正して加工するようにする。
このような加工の対象となるのは回転非対称のレンズであって、回転非対称となる理由としては例えば乱視度数が処方されている場合と累進屈折力レンズの加入度数が処方されている場合が挙げられる。
また、乱視度数が処方されているレンズのうちでは、2つの主経線方向の少なくとも一方がマイナス度数であるレンズにおいてこのような加工をすることの効果が大きい。
1)縁厚が最小ではない部分のすべて又はその一部の厚みを最小縁厚の厚みに近づけるような修正
2)縁厚が最大ではない部分のすべて又はその一部の厚みを最大縁厚の厚みに近づけるような修正
3)最大縁厚と最小縁厚の間にある所定の厚みを想定し、その所定の厚みに近づけるような修正
が考えられる。
「所定の領域」とは下記a)又はb)によって定義される閉曲線形状が望ましい。
下記a)又はb)の閉曲線形状は上下が狭く鼻側と耳側に長い眼の動作領域に応じた最も一般的な玉型形状をスムーズにカバーできる形状である。
a)横長の楕円、長円又は卵型
b)1又は複数の楕円、円及び双曲線から選択される複数の曲線の一部を接続が滑らかになるように組み合わせた外側に凸の自己交叉しない横長の閉曲線形状
この場合に1)では修正は幾何中心から全方向に均等に減少させるようにすることが好ましく、2)では修正は幾何中心から全方向に均等に増加させるようにすることが好ましい。特に所定の領域が上記a)又はb)によって定義される閉曲線形状であれば外側領域について幾何中心から全方向に均等に増加あるいは減少させる場合にはそれら修正は閉曲線外縁からの距離に応じ、閉曲線外縁からのレンズ縁までの距離の長い上下方向の修正量が自動的に多く行われることとなって好ましい。
また、2)の修正では乱視軸が上下領域に存在することが好ましい。
また、3)の修正では乱視軸が上下領域において基準方向に対して直交する方向以外の方向に存在する場合、あるいは左右領域において基準方向以外の方向に存在する場合に行うことが好ましい。
加工する面はレンズの内面側であることが特に好ましい。
一般に乱視面を内面側に形成するほうが外面側に形成するよりも収差が小さく、物を見るのに有利と考えられている。しかし、磨き残しという課題は乱視面を内面側に形成するほうが生じやすい。そのため、強い乱視度数を持つ乱視度数を内面側に設定した場合に本発明を適用することによる効果が特に大きくなるわけである。
最大縁厚と最小縁厚の差によって外面側よりも内面側に磨き残しができる理由は次の通りである。
一般にレンズ曲面に従って内面を研磨する場合の研磨パッドは基本的に凸形状となり、内面を研磨する場合は凹形状となる。強い乱視度数を持つ内面側を磨き残しが起きないように研磨するにはパッドの凸カーブ曲率を大きくすれば良い。しかしそうするとレンズ内面では接触面の中心は研磨の圧力が大きく周辺は小さいというムラができる。このため、凹面全体の研磨され具合には場所による多少が生じてしまうこととなり、研磨ムラとなって磨き残しが生ずることとなる。
一方、外面では凸形状であるため適切な角度を与えればすべての面にパッドを当てることができるため磨き残しは生じにくい。むしろ、外面研磨は特定の箇所が強く研磨されるという傾向になる。
レンズにとっては実際の玉型として使用しない部分であっても磨き残しがあることは磨きすぎることよりも問題である。そのため、内面において最大縁厚と最小縁厚の差がある場合(乱視度数に限らず)本発明を適用することによる効果は大きい。
本実施の形態の前駆体レンズは図1に示す「セミフィニッシュ」と呼称される十分な厚みを有する材料ブロック11を図示しないCAM(computer aided manufacturing)装置にて切削加工して得られる。本実施の形態における材料ブロック11の平面形状は円形とされ、その表面は前もって所定の曲率で球面状に加工された凸状加工面12とされている。裏面は所定の曲率で球面状に加工された凹状加工面13とされている。尚、長径と短径の差の小さな楕円の平面形状の材料ブロック11を使用することも可能である。
本実施の形態では材料ブロック11の形状データをCAM装置に入力するとともに、その形状データに基づいて加工データを作成し、凸状加工面12側を固定装置に固定し加工データに基づいて凹状加工面13側を加工する。切削加工された材料ブロック11には更に切削面にスムージング加工及びポリッシング加工を施し滑らかな加工面を形成させ前駆体レンズ15を得る。つまり、材料ブロック11と前駆体レンズ15の平面形状と凸面側(外面側)の形状は加工前後において一致する。更に、この前駆体レンズ15に対して既知の表面コーティングを施す。本実施の形態ではハード膜を形成させた後その外側にマルチ膜を形成させて表面コーティングとする。
図2に示すように、レンズ外方からレンズの幾何中心(あるいはフィッティングポイント)に向かう直線を考える。その直線にて切断したレンズ断面の所望の形状をシミュレートする。本発明では実際の玉型よりも外側に左右方向が長径となる楕円形状の領域を設定し、その楕円領域までを玉型レンズの加工データに基づいた加工を行う。この楕円領域が所定の領域に相当する。以下の実施例では所定の領域を楕円としたが楕円に限定されるものではない。
図3に示すように、材料ブロック11の外縁A、楕円領域の縁位置B、玉型レンズの縁位置Cのような位置関係において材料ブロック11の外縁Aと楕円領域の縁位置Bの間にある任意の点Pから材料ブロック11(前駆体レンズ15)の幾何中心Oに向かって直線を引く。この時楕円領域内の形状は特定されているため任意の点Pは直線上の楕円領域の縁位置Bに基づいて特定することが可能である。この時楕円領域の縁位置Bからの任意の点Pの距離をxと置く。そして、所定の計算式にxを代入してサグ量を計算する。この計算式は全面を滑らかに接続させるため複次関数が好ましく、例えば2次関数であれば一般式をf1(x)=ax2+bx+cと置くことができ、3次関数であれば一般式をf2(x)=ax3+bx2+cx+dと置くことができる。
尚、所定の領域とその外側領域との接続面を連続的にするため、つまり玉型レンズ部分とその周囲の所定の領域の間に段差や角状を生じず滑らかに接続することが好ましく、そのためには2次関数f1(x)においてはb=c=0とし、3次関数f2(x)においてはc=d=0とすることが好ましい。
楕円領域の縁位置Bから材料ブロック11の外縁Aにかけてあらゆる部分でこの計算を実行し、楕円領域までの玉型レンズの加工データに基づいた形状データと併せて全体として立体的なレンズ裏面形状のデータを得る。この得られた形状データに基づいてCAM装置にて加工データを作成し、その加工データに基づいてフライス盤にて切削及び研削加工する。
図4(a)及び(b)に示すように、材料ブロック11は凸面側を下にしてホルダ21によって保持される。
ホルダ21は回動軸22にセットされ材料ブロック11とともに一方向に自転するようになっている。NCフライス盤側の切削工具(加工工具)としてのフライス23は原点位置として材料ブロック11の外側の所定位置に回転軸に所定の角度をもたせて配置される(ここでは回転軸は水平面に対して0°に設定されている)。フライス23は切削屑を材料ブロック11の外方に掻き出すように図上反時計回りに回転しながら材料ブロック11の幾何中心Oに向かって移動していく。但し、実質的には回転方向はどちらでも構わない。フライス23は材料ブロック11の加工面(凹面側)に対して上下に移動することで切削量を調整する。尚、ここではフライス23を移動させることで切削量を調整しているが、逆にフライス23側を固定して材料ブロック11を上下動させるようにすることも可能である。フライス加工後に加工面に対して公知の研磨加工を行う。
(実施例1)
実施例1では乱視度数のあるマイナスのSV(シングルヴィジョン)レンズを作製する場合において本発明を適用する場合を説明する。
実施例1では次のような玉型レンズを作製する前提として材料ブロック11を加工して次のような特性データを有する前駆体レンズ15を作製するものとする。
・玉型レンズ処方 S−0.00D C−4.00D AX180
・レンズ素材の屈折率:1.6
・表カーブの曲率半径129.0mm 裏カーブの曲率半径128.3mm、69.2mm
・作製されるべき前駆体レンズの径70mm 中心厚1.9mm
・前駆体レンズの中心厚5mm(幾何中心での中心厚。実施例1では幾何中心とフィッティングポイントとは一致する)
・鼻側と耳側のフチ厚2.0mm
・上下フチ厚6.6mm→2.6mm
・縦方向に距離10mmでフチ厚4mm低減するための、付加2次関数 f(x)=−0.04x2
実施例1では最小縁厚位置を基準に楕円領域Lの外側全域をこの縁厚に近づけるように修正しているため、図6(a)に示すように、耳側(及び鼻側)方向は実施例1と比較例1は同じ断面形状を呈し、図6(b)に示すように、上側(及び下側)方向について比較例1では耳側(及び鼻側)に比べて厚いままであるが実施例1では修正されているため耳側(及び鼻側)と同じ薄い断面を呈することとなる。
サグ量をどの程度とするかはサグを与えない(変位させない)場合をシミュレートしてその差分からサグ量を決定することができる。本実施例1では楕円領域Lの縁を基準として次のようにサグ量を計算するものとする。
楕円領域Lの内側では、サグ量は0である。幾何中心Oからのサグ量を計算する直線上のある点Pを考え、楕円領域Lの縁Bからその点Pまでの距離をxとする。
本実施例1では点Pについてマイナスのサグ量を与えるため2次関数を使用する。具体的には以下の関数を使用した。図2のように楕円領域Lの縁Bから前駆体レンズ15の外縁まではこの式に基づいて均等にサグ量が与えられる。本実施例1ではa=−0.04とした。
(1)従来となる比較例1では楕円領域Lの外側領域について上下方向が最大縁厚となり左右方向の最小縁厚との差が大きいため、研磨パッドでの磨き残しが生じる可能性があったが、本実施例1では左右方向の最小縁厚を基準に全体にマイナスのサグ量を与え、上下方向の最も外縁を左右方向の最も外縁の厚みに近づけるように薄くする修正を施したため凹凸量が減少して磨き残しが生じにくくなった。また、周縁の厚みの均一化が図られているため、周縁が把持しやすくなっている。
(2)修正を加えた横長の楕円領域Lの外側領域の範囲は補正量の必要な上下方向に向って徐々に幅が広くなっていき、上下方向で最も幅広とされている。そのため、上記のような単一の数式だけでも修正すべき幅(長さ)に対応した妥当なマイナスのサグ量を与えることが可能となっている。
(3)形状のわかっているシンプルな楕円領域Lを基準に計算をすることができる。つまり、楕円領域Lまでは玉型レンズのデータで加工し、その楕円領域Lの縁を基準には外側領域を計算できるため、サグ量を算出しやすく、計算上有利である。
(4)楕円領域Lはシンプルな形状で、さらに外側領域向かって与えるマイナスのサグ量も単一のシンプルな数式で与えるため、外側領域の面形状に不必要な凹凸が発生しない。つまり、面形状は可能な限り全体に滑らかな形状となる。このため、無理なく切削加工を施すことができる。旋盤加工する場合は、レンズを固定した座標で考えるとツールが円周状に動く(実際はレンズが回転する)が、その円周に沿ってツールが上下する起動が滑らかに維持される。
(5)負の実数を係数とした二次関数によって修正ラインを設定するようにしたため、比較例1のように外縁が細くとがるような断面形状とならなず、縁が欠けることがなく、レンズの厚みも薄くできる。
実施例2では乱視度数のあるマイナスの累進屈折力レンズおいて本発明を適用する場合を説明する。
実施例2では次のような玉型レンズを作製する前提として材料ブロック11を加工して次のような特性データを有する前駆体レンズ15を作製するものとする。
・玉型レンズ処方 S−2.00D C−4.00D AX90 加入度数2.00D
・累進帯長さ13mm
・レンズ素材の屈折率:1.6
・表カーブの曲率半径145.3mm 裏カーブの曲率半径144.6mm、73.6mmを基準トリックとした非球面
・作製されるべき前駆体レンズの直径 75mm
・前駆体レンズの中心厚1.9mm(幾何中心での中心厚。実施例1では幾何中心とフィッティングポイントとは一致する)
・鼻側と耳側のフチ厚6.8mm
・上フチ厚1.4mm→3.9mm、下フチ厚0.8mm→3.3mm
・縦方向に距離10mmでフチ厚2.5mm増大するための、付加2次関数 f(x)=0.025x2
図7に示すように、本実施例2でも実施例1と同様に玉型レンズの周囲に楕円領域Lを設定した。本実施例2でも楕円領域Lの楕円形状は長径75mm、短径55mmとした。
一方、実施例2の比較対象として上記玉型レンズ処方、表面カーブの曲率半径及び前駆体レンズの直径に基づく従来の前駆体レンズをシミュレートした。これを比較例2とする。比較例2が上記実施例2と異なる点は、縁厚の修正加工をしていない点であって、比較例2では最大縁厚は耳側及び鼻側:6.8mm、最小縁厚は上側:1.4mm、下側:0.8mmである。
実施例2では最大縁厚位置を基準に楕円領域Lの外側全域をこの縁厚に近づけるように修正しているため、図8(a)に示すように、耳側(及び鼻側)は実施例1と比較例2は同じ断面形状を呈し、図8(b)に示すように、上側(及び下側)について比較例2では耳側(及び鼻側)に比べて薄いままであるが実施例2では修正されているため耳側(及び鼻側)のような厚い断面を呈することとなる。
本実施例2でもプラスのサグ量を与えるため2次関数を使用する。具体的には上記数1の数式を使用した。楕円領域Lの縁Bから前駆体レンズ15の外縁まではこの式に基づいて均等にサグ量が与えられる。本実施例2ではa=0.025とした。
(1)従来となる比較例2では楕円領域Lの外側領域について上下方向が最小縁厚となり左右方向の最大縁厚との差が大きいため、研磨パッドでの磨き残しが生じる可能性があったが、本実施例2では左右方向の最大縁厚を基準に全体にプラスのサグ量を与え、上下方向の最も外縁を左右方向の厚さ方向に近づくように増加させる修正を施したため凹凸量が減少して、磨き残しが生じにくくなった。
(2)修正を加えた横長の楕円領域Lの外側領域の範囲は補正量の必要な上下方向に向って徐々に幅が広くなっていき、上下方向で最も幅広とされている。そのため、上記のような単一の数式だけでも修正すべき幅(長さ)に対応した妥当なプラスのサグ量を与えることが可能となっている。
(3)形状のわかっているシンプルな楕円領域Lを基準に計算をすることができる。つまり、楕円領域Lまでは玉型レンズのデータで加工し、その楕円領域Lの縁を基準には外側領域を計算できるため、サグ量を算出しやすく、計算上有利である。
(4)楕円領域Lはシンプルな形状で、さらに外側領域向かって与えるプラスのサグ量も単一のシンプルな数式で与えるため、外側領域の面形状に不必要な凹凸が発生しない。つまり、面形状は可能な限り全体に滑らかな形状となる。このため、無理なく切削加工を施すことができる。旋盤加工する場合は、レンズを固定した座標で考えるとツールが円周状に動く(実際はレンズが回転する)が、その円周に沿ってツールが上下する起動が滑らかに維持される。
実施例3では乱視度数のあるマイナスのSV(シングルヴィジョン)レンズを作製する場合において本発明を適用する場合を説明する。
実施例3では次のような玉型レンズを作製する前提として材料ブロック11を加工して次のような特性データを有する前駆体レンズ15を作製するものとする。
・玉型レンズ処方 S−0.00D C−4.00D AX45
・レンズ素材の屈折率:1.6
・表カーブの曲率半径129.0mm 裏カーブの曲率半径128.3mm、69.2mm
・作製されるべき前駆体レンズの径70mm 中心厚1.9mm
・前駆体レンズの中心厚5mm(幾何中心での中心厚。実施例1では幾何中心とフィッティングポイントとは一致する)
・鼻側と耳側のフチ厚4.2mm
・上下フチ厚4.2mm
・最大縁厚:耳側及び鼻側から時計回りに45度の方向
・最小縁厚:上側及び下側から時計回りに45度の方向
・斜め方向に距離5mmでフチ厚を1mm変化させるための付加2次関数の正則表記
実施例3では上下及び左右方向の縁厚を基準に楕円領域Lの外側全域をこの縁厚に近づけるように修正しているため、図10(a)に示すように、耳側(及び鼻側)から時計回りに45度の方向は実施例3では修正されて薄くなっているが比較例3では厚い断面を呈することとなる。一方、図10(b)に示すように、上側(及び下側)から時計回りに45度の方向は実施例3では基準の縁厚と同じであるが比較例3では薄い断面を呈することとなる。
本実施例3でもプラスのサグ量を与えるため2次関数を使用する。加えて、周方向について所定の位相に応じた重みを与えるようにしている。つまり、比較例3では最大縁厚は耳側から時計回りに45度の方向、鼻側から時計回りに45度の方向であり、最小縁厚は上側から時計回りに45度の方向、下側から時計回りに45度の方向となる。これと実施例1及び2と比較すると実施例1及び2では楕円領域Lの外側領域はいずれも幅広となる方向に対応してサグ量がプラスあるいはマイナス方向に多くなっているため、単に上記数式で係数を調整するだけで位相に応じた妥当なサグ量を設定することが可能である。しかし、この実施例3のように外側領域の幅広となる方向と最大縁厚及び最小縁厚の方向がずれている場合にはそのような設定はできない。
そのため、実施例3では以下の数2の数式を使って位相(幾何中心Oを通る直線の基準とする方向に対する所定の進んだ角度位置)に応じた重みを与えるようにしている。
数2の数式では重みcos(2θ−π/2)で示される。重みは角度θによって値が−1〜1の間を変化することとなる。
下記式では、縁が厚くなる方向(プラス方向)の変形量を正側としてbを正の実数とした。本実施例3ではb=0.04とした。
例えば、図9及び図11は右眼用レンズを表側から見た図として、鼻側の水平位置を0度の基準方向とすると、π/4(45度)と5π/4(225度)で最大重み1となり、3π/4(45度)と7π/4(315度)で最小重み−1となる。つまり、最も薄い方向は最も大きくプラスのサグ量が与えられ、最も厚い方向は最も大きくマイナスのサグ量が与えられることとなる。サグ量の重みについてマイナスとプラスの変換点は0度、90度、180度。270度の90度ずつずれた4方向であり、これら以外の位相位置ではマイナスあるいはプラスのいずれかの重みがサグ量に与えられる。つまり、図11のように比較例3を45度ずつの位相でサグ量0を基準にプラス方向とマイナス方向にサグ量を調整することで実施例3を得ることができる。
尚、本実施例3では45度方向について説明したが他の方向についてももちろん応用可能である。また、乱視軸AXが180度あるいは90度に近い場合にはこの実施例3のような位相に応じた重みを与えず上記実施例1及び実施例2を適用することも構わない。
(1)従来となる比較例3では楕円領域Lの外側領域について上下方向が最大縁厚となり左右方向の最小縁厚との差が大きいため、研磨パッドでの磨き残しが生じる可能性があったが、本実施例3では位相に応じた重みをサグ量に与えながら外側領域の縁厚に修正を施して均一化を図ったため、凹凸量が減少して磨き残しが生じにくくなった。また、周縁の厚みの均一化が図られているため、周縁が把持しやすくなっている。
(2)修正を加えた横長の楕円領域Lの外側領域の範囲に対して最大縁厚方向あるいは最小縁厚方向が水平方向からずれているため、単純にサグ量を与えることが困難であるが、最大縁厚方向あるいは最小縁厚方向の位相に応じてサグ量の重みを変更することで周縁の厚みの均一化の計算を可能としている。
(3)形状のわかっているシンプルな楕円領域Lを基準に計算をすることができる。つまり、楕円領域Lまでは玉型レンズのデータで加工し、その楕円領域Lの縁を基準には外側領域を計算できるため、サグ量を算出しやすく、計算上有利である。
実施例4ではマイナスの累進屈折力レンズを作製する場合において本発明を適用する場合を説明する。
実施例4では次のような玉型レンズを作製する前提として材料ブロック11を加工して次のような特性データを有する前駆体レンズ15を作製するものとする。
・玉型レンズ処方 S−4.00D C0.00D 加入度数 3.00D
・累進帯長さ13mm
・表カーブ(ベースカーブ)の曲率半径186.8mm
・作製されるべき前駆体レンズの直径 75mm
・前駆体レンズの縁厚5.2mm
・前駆体レンズの中心厚1.9mm(幾何中心での中心厚。実施例1では幾何中心とフィッティングポイントとは一致する)
実施例4では比較例4における耳側の最大縁厚位置を基準に楕円領域Lの外側全域をこの縁厚となるように修正しているため、図13(a)に示すように、耳側(及び鼻側)は実施例4と比較例4は同じ断面形状を呈し、図13(b)に示すように、上側(及び下側)について比較例4では耳側(及び鼻側)に比べて厚いままであるが実施例4では修正されているため耳側(及び鼻側)と同じ薄い断面を呈することとなる。
実施例4では上記実施例1の乱視度数による縁厚のようにレンズは正確に左右及び上下の線対称となるものではない。そのため、実施例4では例えば図14に示すように散点的に任意の複数の点T(ここでは外縁位置の24点)を設定し、既知の点からの距離と方向に基づいてそれら各点Tの位置を決定し、更に個々にサグ量を与えた後、各点T間を補完して修正した面のデータを得るようにする。本実施例ではすべての点Tの位置で5.1mmとなるべくサグ量を与え、その間を補完して周縁Aで均一の厚みとなるようにした。
すべての点Tの位置で52mmとなるべく
以上のように構成することで本実施例4でも外側領域の縁厚に修正を施して均一化を図ったため、凹凸量が減少して磨き残しが生じにくくなった。また、周縁の厚みの均一化が図られているため、周縁が把持しやすくなっている。
・上記各実施例では楕円領域Lが前駆体レンズ15からはみ出さないような設定であったが、はみ出すように設定しても構わない。
・上記各実施例では楕円領域Lの楕円中心は幾何中心0と一致していたが、左右いずれかにずらすようにしてもよい。
・上記実施例1〜3では上下方向と左右方向など方向別で変形量を変えたりせず、所定の領域から離れる距離の関数で表される同一の変形を行ったため、補間計算をしなかった。ここに、同一の変形を行うだけでよかったのは所定の領域の形状を単純な楕円としたためである。従って、このようなケース以外の場合では補間計算によって加工面を算出するようにすることも可能である。
・上記各実施例ではユーザー個別の玉型情報に基づいて加工を行う場合であって、固有の玉型に対してそれを取り囲むようにして所定の領域としての楕円形状を設定するようにしていた。しかし、玉型情報に基づいて加工を行わない場合であっても所定の領域を設定することは可能である。具体的には前駆体レンズ15の極めて縁寄り部分、たとえば上下各10mm程度の領域までは一般に玉型は及ばないのでこのように玉型の形状とは無関係に所定の領域をすることも可能である。
・楕円領域Lとしての楕円は玉型形状によってはその形状に対応させるために傾斜させて(つまり楕円の長径を前駆体レンズ15の垂直軸に直交させない)配置したり、中心を幾何中心Oと一致させないようにすることも可能である。
・前駆体レンズはメーカー側で製造し、これをクライアント側で加工して玉型レンズを得るようにしても、メーカー側で玉型レンズの加工まで行うようにしてもどちらでも構わない。
・上記実施例ではシミュレートするための直線はレンズ外方からレンズのフィッティングポイント(あるいは幾何中心O)を目指すような設定であったが、必ずしもそれらの点である必然性はない。つまり計算の基準とすべき任意の点であれば足りるものである。
・上記実施例では形状データはCAM装置によって作成され加工データに変換してNCフライス盤に出力するようになっていたが、加工装置側で形状データを加工データに変換できるのであればCAM装置を経由しないで形状データを加工装置に直接入力して加工させることも可能である。
・上記ではフライス23は前駆体レンズ15の凹面側を加工する工程を図示したが、凸面側を加工することも可能である。
・その他、本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
Claims (15)
- 所定の眼鏡フレームに対応するようにその周縁を削除することで玉型レンズに加工される円形あるいは楕円形の外形形状を有し、かつユーザーの処方に対応したレンズ特性が付与された前駆体レンズの製造方法であって、
少なくともユーザーの処方に対応したレンズ特性の加工データを入力する加工データ入力工程と、
同加工データに基づき加工手段によって材料ブロックを加工して前記前駆体レンズを作製する前駆体レンズ作製工程とを備え、
前記前駆体レンズの最大縁厚と最少縁厚の差が所定以上である場合に最大縁厚と最小縁厚の間にある所定の厚みを想定し、幾何中心を含む所定の領域よりも外側領域に対してその所定の厚みに近づけるよう修正して加工するようにしたことを特徴とする玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。 - 前記ユーザーの処方に対応したレンズ特性として乱視度数が処方されたレンズであって、2つの主経線方向の少なくとも一方がマイナス度数であることを特徴とする請求項1に記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
- 前記修正は縁厚が最小ではない部分のすべて又はその一部の厚みを最小縁厚の厚みに近づけるような修正であることを特徴とする請求項1又は2に記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
- 前記所定の領域は下記a)又はb)によって定義される閉曲線形状であることを特徴とする請求項3に記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
a)横長の楕円、長円又は卵型
b)1又は複数の楕円、円及び双曲線から選択される複数の曲線の一部を接続が滑らかになるように組み合わせた外側に凸の自己交叉しない横長の閉曲線形状 - 前記修正は幾何中心から全方向に向かって均等に減少させるようにしたことを特徴とする請求項4に記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
- 前記修正は前記前駆体レンズにおいて幾何中心を通り耳側あるいは鼻側に向かって水平な方向を基準方向として幾何中心を支点とする直線の基準方向に対する角度が45度〜135度及び225度〜315度の範囲を上下領域とし、その余の範囲を左右領域とした際に、乱視軸が水平領域に存在する場合に行うことを特徴とする請求項5に記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
- 前記修正は縁厚が最大ではない部分のすべて又はその一部の厚みを最大縁厚の厚みに近づけるような修正であることを特徴とする請求項1又は2に記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
- 前記所定の領域は下記a)又はb)によって定義される閉曲線形状であることを特徴とする請求項7に記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
a)横長の楕円、長円又は卵型
b)1又は複数の楕円、円及び双曲線から選択される複数の曲線の一部を接続が滑らかになるように組み合わせた外側に凸の自己交叉しない横長の閉曲線形状 - 前記修正は幾何中心から全方向に向かって均等に減少させるようにしたことを特徴とする請求項8に記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
- 前記修正は前記前駆体レンズにおいて幾何中心を通り耳側あるいは鼻側に向かって水平な方向を基準方向として幾何中心を支点とする直線の基準方向に対する角度が45度〜135度及び225度〜315度の範囲を上下領域とし、その余の範囲を左右領域とした際に、乱視軸が上下領域に存在する場合に行うことを特徴とする請求項9に記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
- 前記所定の領域は下記a)又はb)によって定義される閉曲線形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
a)横長の楕円、長円又は卵型
b)1又は複数の楕円、円及び双曲線から選択される複数の曲線の一部を接続が滑らかになるように組み合わせた外側に凸の自己交叉しない横長の閉曲線形状 - 前記修正は前記前駆体レンズにおいて幾何中心を通り耳側あるいは鼻側に向かって水平な方向を基準方向として幾何中心を支点とする直線の基準方向に対する角度が45度〜135度及び225度〜315度の範囲を上下領域とし、その余の範囲を左右領域とした際に、乱視軸が前記上下領域において前記基準方向に対して直交する方向以外の方向に存在する場合、あるいは前記左右領域において前記基準方向以外の方向に存在する場合に行うことを特徴とする請求項11に記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
- 加工データ入力工程では少なくとも前記玉型レンズの形状を特定するためのデータを入力し、前記玉型レンズの形状は前記所定の領域内に存在することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
- 前記材料ブロックには所定の凸面あるいは凹面加工面が前もって形成され、前記前駆体レンズ作製工程においては凸面あるいは凹面加工面のいずれかの面に対して前記加工手段によって加工を施すようにしたことを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
- 前記前駆体レンズ作製工程において加工する面はレンズの内面側であることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の玉型レンズ用前駆体レンズの製造方法。
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