JP5261920B2 - 細胞を用いた試験法および試験用キット - Google Patents
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Description
(1)実質的にゲルに包埋された細胞パターンにおいて細胞の増殖、運動及び分化からなる群から選択される少なくとも1つに関連する生物学的指標を試験することを特徴とする生物学的試験法。
(2)前記細胞パターンの全体がゲルに包埋されているか、前記細胞パターンの一部が露出し残部がゲルに包埋されているか、または前記細胞パターンの一部が固体基材と接触し残部がゲルに包埋されていることを特徴とする、(1)記載の生物学的試験法。
(3)ゲルが細胞外マトリックスに含まれる少なくとも一種のタンパク質を含むゲル、擬似細胞外マトリックスを含むゲル、もしくは細胞シート、またはこれらの複合物であることを特徴とする、(1)または(2)記載の生物学的試験法。
(4)ゲル中に更なる細胞が存在していることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の生物学的試験法。
(6)実質的にゲルに包埋された細胞パターンが、細胞パターンを形成可能な培養表面を有する培養器具上で細胞培養を行い、培養後に培養表面にゲルを被覆し、ゲル中に細胞パターンを転移させた後、培養器具を剥離することを含む方法により形成されたものであることを特徴とする、(5)記載の生物学的試験法。
(7)実質的にゲルに包埋された細胞パターンが、細胞パターンを形成可能な培養表面を有する培養器具上で細胞培養を行い、培養後に培養表面にゲルを被覆し、ゲル中に細胞パターンを転移させた後、培養器具を剥離し、ゲル上の培養器具が剥離された面を更なるゲルで被覆することを含む方法により形成されたものであることを特徴とする、(6)記載の生物学的試験法。
(8)培養器具の培養表面が、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とを備え、細胞接着性領域が、炭素酸素結合を有する有機化合物を含む細胞接着阻害性の親水性膜に酸化処理および/または分解処理を施して細胞接着性とした膜で形成されており、細胞接着阻害性領域が、炭素酸素結合を有する有機化合物を含む親水性膜で形成されていることを特徴とする、(5)〜(7)のいずれかに記載の生物学的試験法。
(9)培養器具の培養表面が、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とを備え、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とが、炭素酸素結合を有する有機化合物を含む親水性膜で形成されており、細胞接着性領域における前記有機化合物の密度が、細胞接着阻害性領域における前記有機化合物の密度と比較して低いことを特徴とする、(5)〜(7)のいずれかに記載の生物学的試験法。
(10)培養器具の培養表面が、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とを備え、これらの領域間の段差が10nm以下であることを特徴とする、(5)〜(9)のいずれかに記載の生物学的試験法。
(12)培養器具の培養表面が、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とを備え、細胞接着性領域が、炭素酸素結合を有する有機化合物を含む細胞接着阻害性の親水性膜に酸化処理および/または分解処理を施して細胞接着性とした膜で形成されており、細胞接着阻害性領域が、炭素酸素結合を有する有機化合物を含む親水性膜で形成されていることを特徴とする、(11)に記載の生物学的試験用キット。
(13)培養器具の培養表面が、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とを備え、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とが、炭素酸素結合を有する有機化合物を含む親水性膜で形成されており、細胞接着性領域における前記有機化合物の密度が、細胞接着阻害性領域における前記有機化合物の密度と比較して低いことを特徴とする、(11)に記載の生物学的試験用キット。
(14)培養器具の培養表面が、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とを備え、これらの領域間の段差が10nm以下であることを特徴とする、(11)〜(13)のいずれかに記載の生物学的試験用キット。
本発明において細胞パターンとは、単細胞または細胞集合体が人為的に位置を決めて配置されたものを指す。細胞が人為的に位置決めされていることにより、生物学的試験の開始時点の細胞または細胞集合体の位置座標が特定でき、顕微鏡観察が容易となり、統計的にデータ解析を行うことができる。また、細胞パターンを任意のサイズにすることが可能なので、個々の細胞集合体を構成する細胞数の数を、そのばらつきを非常に小さくして揃えることができる。また配置される複数の細胞または細胞集合体の間の距離を任意に設定できるので、試験内容に応じた距離で配置された複数の細胞または細胞集合体の間の相互作用を観察することも容易となる。さらに、細胞パターンの位置座標が決められるので、市販のスポッターなどを利用して、図6のように細胞または細胞集合体である細胞パターン(14)と試験したい物質(15)との距離Lを任意に設定して、試験したい物質(15)をゲル(16)中に局所的に配置することも容易となる。細胞パターンとしては、例えば単細胞またはスフェロイド(細胞の球状集合体)が所定の座標上に配置されているものや、複数の単細胞またはスフェロイドが所定の間隔ごとに配置されているものや、細胞集合体がライン状、ツリー状(樹状)、網目状、格子状、円形、四角形などの所定の形状を描くように配置されているものなどが挙げられる。細胞集合体により形成される細胞パターンは一次元状であっても、二次元状であっても、三次元状であってもよい。一次元の細胞パターンとしては、例えば細胞が線状に連なった細胞集合体により形成される細胞パターンが挙げられる。二次元の細胞パターンとしては、例えば皮膚の表皮細胞により形成される平面状の細胞集合体により形成される細胞パターンが挙げられる。三次元の細胞パターンとしてはスフェロイドや、血管内皮細胞等により形成される管状細胞集合体により形成される細胞パターンが挙げられる。また、二次元細胞集合体を複数積層して三次元細胞パターンを構成することもできる。一次元状または二次元状の細胞パターンがゲル中で三次元方向に成長または変形して三次元状の細胞パターンとなることもある。
本発明で用いられるゲルは、そのなかに包埋された細胞パターンが増殖、運動、分化等の機能を発揮することができるものである限り特に限定されない。ゲルの具体例としては、人工ハイドロゲル、例えば、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の親水性高分子やPuraMatrix(商標)等の人工ペプチド等の合成物を用いたハイドロゲルがある。また、多糖類からなるゲル、例えば、ヒアルロン酸やその誘導体を用いたゲル、デキストランやその誘導体を用いたゲル等がある。また、タンパク質からなるゲル、例えば、各種タイプのコラーゲンを用いたゲル、ゼラチン、フィブリンゲル等がある。また特殊な細胞外マトリクス、例えばMatrigel(商標)に代表される基底膜等の生体部位特異的なタンパク質からなるゲルがある。さらに、これらの複合体からなるゲルも用いることができる。これらのゲルの中でも、生物由来の原料を要素とするゲルが望ましい。多くの生物学的試験事例が蓄積されているので、それらを参考にして本発明を応用した個々の試験法を開発できるからである。ゲル化のための架橋反応は、物理的なものであってもよいし化学的なものであってもよいし、その両方であってもよい。また、人工ペプチドからなるゲルも好ましい。全合成で製造可能なので、生物学的活性やゲル化能力などの品質を管理しやすく試験の再現性が向上することが期待されるからである。さらに、本発明では、生きたゲルといえる細胞シートも適用可能である。また必要に応じて、ゲル中には更なる細胞が存在していてもよく、また試験のための薬剤が含まれていてもよい。
本発明において細胞パターンは実質的にゲルに包埋されていることを特徴とする。「実質的にゲルに包埋されている」とは、細胞パターンの増殖、運動、分化等の機能に影響がない程度に細胞パターンの一部が露出またはゲル以外の部分に接触していてもよいことを意味する。すなわち本発明の試験法は、細胞パターンの全体がゲルに包埋されている状態のほか、細胞パターンの機能に影響がない程度に細胞パターンの一部がゲル以外の液体培地中または空気中に露出しているか、あるいは固体基材と接触している状態においても行うことができる。図1〜5には本発明の試験系の典型例を図示する。図1には、ゲル層(1)中に大部分が包埋され、一部が周囲の培養液等に露出した状態の細胞パターン(2)からなる試験系の断面図を示す。図2には、2つのゲル層(1)(3)の間に配置され、全体がゲルに包埋された細胞パターン(2)からなる試験系の断面図を示す。図3には、固体基材(4)に一部が接触し、残部がゲル層(1)に包埋された細胞パターン(2)からなる試験系の断面図を示す。図4には、2つのゲル層(5)(7)の間に配置され、全体がゲルに包埋された細胞パターン(6)と、ゲル層(7)(9)の間に配置され、全体がゲルに包埋された細胞パターン(8)とが積層配置された試験系の断面図を示す。図5には、ゲル層(10)中に大部分が包埋された細胞パターン(11)と、ゲル層(13)中に大部分が包埋された細胞パターン(12)とが接触するように対向配置された試験系の断面図を示す。細胞パターンの全体がゲルにより包埋されている場合、細胞パターンを構成する細胞の三次元培養が可能である。また細胞パターンが、細胞の増殖、運動、分化等の機能に影響がない程度に細胞パターンの一部が露出またはゲル以外の部分に接触している場合であっても、実質的な三次元培養が可能である。ゲルの内部及び周囲には、細胞培養に適した培養液や、生物学的試験に適した緩衝液が存在してもよい。
人為的な細胞パターンを得るための培養器具は、細胞を所定のパターンに配置するための培養表面を有する。培養表面は典型的には細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域を備えており、細胞接着性領域の形状及び配置に沿って細胞または細胞集合体がパターニングされる。細胞接着性領域の材料としては、ポリスチレン、ポリエステル、シリコーン樹脂等の合成高分子、ガラス、金やチタン等の金属、変性ポリアクリルアミド、変性ポリアクリル酸、変性ポリエチレングリコール、変性ポリビニルアルコール等ある程度の細胞接着性が付与された親水性合成高分子等が挙げられる。細胞接着阻害性領域の材料としては、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、Pluronic(登録商標)類、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、寒天、アルブミン等が挙げられる。細胞接着性領域および細胞接着阻害性領域のより好ましい形態については以下に説明するとおりである。
培養器具を構成する基材としては、その表面に炭素酸素結合を有する有機化合物の皮膜を形成することが可能な材料で形成されたものであれば特に限定されるものではない。具体的には、金属、ガラス、セラミック、シリコン等の無機材料、エラストマー、プラスチック(例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂)で代表される有機材料を挙げることができる。その形状も限定されず、例えば、平板、平膜、フィルム、多孔質膜等の平坦な形状や、シャーレ、シリンダ、スタンプ、マルチウェルプレート、マイクロ流路等の立体的な形状が挙げられる。培養器具がシャーレ等の容器形状である場合、それ単独で培養を行うことができる。平板のように容器でない形状の場合は、通常の培養容器と組み合わせて用いればよい。細胞培養時の酸素濃度を高める必要がある場合や、図3の構成において個体基材と適当な培養容器との間に、ゲルに包埋された細胞が配置された時に生じる酸素濃度の分布(濃度勾配)を均一化する必要がある場合は、酸素透過性が高い基材を用いるとよい。そのような基材をつくる材料としては、例えばシリコーン樹脂や酸素高透過性ソフトコンタクトレンズに用いられるシリコーンハイドロゲルが挙げられる。
細胞接着阻害性領域は、炭素酸素結合を有する有機化合物により形成される親水性膜により形成されることが好ましい。当該親水性膜は、水溶性や水膨潤性を有する、炭素酸素結合を有する有機化合物を主原料とする薄膜であり、酸化される前は細胞接着阻害性を有し、酸化および/または分解された後は細胞接着性を有しているものであれば特に限定されない。
第一の形態では、細胞接着性領域は、炭素酸素結合を有する有機化合物を含む細胞接着阻害性の親水性膜に酸化処理および/または分解処理を施して細胞接着性とした膜により形成される。こうして形成された細胞接着性領域は細胞を接着する能力が比較的弱いために、当該領域上に接着した細胞または細胞集合体のパターンはゲルのように細胞と相互作用が比較的強い材料に対して高速に転写することが可能である。このような細胞接着性領域は細胞の接着が極めて弱いため、図3の構成にした時に速やかに細胞の極性が変化して、細胞がゲル層と主に接着するようになり、三次元培養と同様の環境を容易に作ることができる。さらに、図3の構成にしてから比較的短時間で固体基材(培養器具)のみを剥離することによって図1の構成の三次元培養系や図2の構成の三次元培養系を構築できる。
第二の形態では細胞接着性領域は、炭素酸素結合を有する有機化合物を低密度で含む親水性膜により形成される。こうして形成された細胞接着性領域もまた細胞を接着する能力が比較的弱いために、当該領域上に接着した細胞または細胞集合体のパターンはゲルのように細胞と相互作用が比較的強い材料に対して高速に転写することが可能である。このような細胞接着性領域は細胞の接着が極めて弱いため、図3の構成にした時に速やかに細胞の極性が変化して、細胞がゲル層と主に接着するようになり、三次元培養と同様の環境を容易に作ることができる。さらに、図3の構成にしてから比較的短時間で固体基材(培養器具)のみを剥離することによって図1の構成の三次元培養系や図2の構成の三次元培養系を構築できる。
以下の説明は上記の2つの形態のどちらにも適用される。
細胞接着性領域(結合層が存在する場合には結合層も含む)と細胞接着阻害性領域(結合層が存在する場合には結合層も含む)との間の段差は10nm以下であることが好ましい。図3の構成の場合の三次元培養において、面方向の細胞の運動が阻害されないからである。細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域のいずれが凸部であってもよい。
本発明の親水性薄膜(結合層が存在する場合には結合層も含む)の評価手法としては、接触角測定、エリプソメトリー、原子間力顕微鏡観察、電子顕微鏡観察、オージェ電子分光測定、X線光電子分光測定、各種質量分析法、白色光干渉計、共焦点レーザ顕微鏡、プローブ式レーザ顕微鏡などを用いることができる。これらの手法の中で、最も定量性に優れているのはX線光電子分光測定(XPS/ESCA)である。この測定方法で求められるのは相対的定量値であり、一般的に元素濃度(atomic concentration、%)で算出される。以下、本発明におけるX線光電子分光分析方法を詳細に説明する。
本発明において親水性薄膜の「炭素量」は、「X線光電子分光装置を用いて得られるC1sピークの解析値から求められる炭素量」と定義される。また、本発明において親水性薄膜の「酸素と結合している炭素の割合」は、「X線光電子分光装置を用いて得られるC1sピークの解析値から求められる酸素と結合している炭素の割合」と定義される。以下に具体的な測定方法を2つ記載する。なお、本発明は、これらの測定方法に限定されるものではない。
X線光電子分光装置:サーモエレクトロン社製のVG_Theta Probe。
X線源:単色化アルミニウムKα線(15kV-6.67mA=100W)。
測定面積:400μmφ
試料と検出器の位置関係:試料法線から53°の位置に光電子取り込みレンズが存在。
炭素量:基材や親水性薄膜を構成する元素を想定し、測定する光電子のセットを決める。測定したトータルの光電子を100%とした時の各光電子由来の元素濃度(atomic concentration)を算出する。C1sピークの元素濃度(atomic concentration %)を炭素量とする。
C1sピークのフィッティング方法:C−O結合、C(=O)−O結合、C=O結合、C−C結合でフィッティングする。
酸素と結合している炭素の割合の算出式:{〔C−O結合の炭素の割合〕+〔C(=O)−O結合の炭素の割合〕+〔C=O結合の炭素の割合〕}÷{〔C−O結合の炭素の割合〕+〔C(=O)−O結合の炭素の割合〕+〔C=O結合の炭素の割合〕+〔C−C結合の炭素の割合〕+〔(必要の場合)その他の結合の炭素の割合〕}×100(%)。
なお、必要の場合は、その他の結合も加えてフィッティングする。このデータを基にC1sピークの各結合状態の炭素の濃度(atomic concentration %)を算出する。
X線光電子分光装置:KRATOS Analytical社製のESCA-3400 (Amicus)。
X線源:非単色化マグネシウムKα線(10kV-20mA=200W)。
測定面積:6mmφ
試料と検出器の位置関係:試料法線上に光電子取り込みレンズが存在。
炭素量:基材や親水性薄膜を構成する元素を想定し、測定する光電子のセットを決める。測定したトータルの光電子を100%とした時の各光電子由来の元素濃度(atomic concentration)を算出する。C1sピークの元素濃度(atomic concentration %)を炭素量とする。
C1sピークのフィッティング方法:C−O結合、C(=O)−O結合、C=O結合、C−C結合でフィッティングする。
酸素と結合している炭素の割合の算出式:{〔C−O結合の炭素の割合〕+〔C(=O)−O結合の炭素の割合〕+〔C=O結合の炭素の割合〕}÷{〔C−O結合の炭素の割合〕+〔C(=O)−O結合の炭素の割合〕+〔C=O結合の炭素の割合〕+〔C−C結合の炭素の割合〕+〔(必要の場合)その他の結合の炭素の割合〕}×100(%)。
なお、必要の場合は、その他の結合も加えてフィッティングする。このデータを基にC1sピークの各結合状態の炭素の濃度(atomic concentration %)を算出する。
本発明の生物学的試験法では、上記の手順で調製された、実質的にゲルに包埋された細胞パターンにおける細胞の増殖、運動及び分化からなる群から選択される少なくとも1つに関連する生物学的指標を試験する。
具体的には、細胞パターンの周囲に存在するゲルや培地中に試験の目的に応じて薬剤や細胞を含ませた状態で細胞の増殖、運動及び分化からなる群から選択される少なくとも1つに関連する生物学的指標を試験する。図4のように複数の細胞パターンを組み合わせて、複数の細胞についての生物学的指標を一度に試験することもできる。また、図5のように複数の細胞パターンを接触させることにより、細胞の複合体についての生物学的指標を試験することもできる。試験中、細胞パターンおよびゲルは細胞が増殖、運動または分化可能な温度条件に保持されることが好ましい。ゲルや培地中には必要に応じて細胞の増殖、運動または分化に適した溶媒、緩衝液等を含ませる。
細胞の運動の観察のためには、例えば運動を動画撮影し、動画の画像解析を行うことが好ましい。
動画撮影方法の典型的な例について記載する。顕微鏡下において温度37℃、CO2濃度5%で観察・記録が可能な撮影装置を用いる。動画撮影の際の適切な撮影時間間隔は細胞によって異なるが、細胞の運動方向が大きく変化してしまわない程度の間隔であれば問題ない。例えば、牛の血管内皮膚細胞のガラス上における運動の場合、適当な時間間隔は1〜5分程度である。
撮影した動画に対して細胞の重心あるいは細胞核を細胞の位置としその位置座標の時間変化を各細胞について記録する。数値化できるパラメータとして速度ベクトルあるいはその集団平均、速度の時空間相関関数、平均自乗変移あるいはその時間依存性を表すパラメータ、細胞集団を囲む面積などがある。また細胞が楕円状になっているなど向きが特定できる場合には配向の時空間相関関数もパラメータとして数値化可能である。速度ベクトルは各時間間隔において細胞が移動した変移ベクトルをその時間で割れば得られ、また集団平均することにより細胞集団全体としての運動の様子を知ることができる。速度の時空間相関関数は速度ベクトル間の角度の余弦の平均として得られ、特定の細胞に対してある時間により平均したものが時間相関関数、時間を固定してある細胞間距離について平均したものが空間相関関数となる。時空間相関関数は0から1の間の値を取り、値が大きいほど速度ベクトル間の相関が強く運動方向が揃っている。平均自乗変移はある時間を初期値としそこからある時間後の細胞の移動距離の自乗を細胞集団について平均したものであり、細胞集団の拡散の様子についての情報が得られる。平均自乗変移の時間依存性が時間のα乗であるとするとフィッティングによりパラメータαを求めることができる。各細胞がランダムな運動である場合はαが1であり2に近づくほど弾道的な運動である。細胞集団を囲む面積Sは、細胞集団の重心から個々の細胞までの距離の自乗の平均値に対応する。細胞の配向の時空間相関関数は速度の時空間相関関数と同じ計算法で得られ、細胞の向きの方向ベクトルを速度ベクトルに置き変えれば良く、相関関数の値が大きいほど配向性が高い。解析には適当な画像解析ソフトウェアを用いれば便利であり、フリーの画像解析ソフトウェアとしてはimageJ (http://rsb.info.nih.gov/ij)やscion image(http://www.scioncorp.com)などがある。
本発明はまた、上述の培養器具とゲルとを含むことを特徴とする、生物学的試験用キットを提供する。本発明のキットには必要に応じて細胞培養のための緩衝液や、細胞培養のための容器(例えばマルチウェルプレート)や、試験のための薬剤や、取扱説明書などが含まれていてもよい。キット中のゲルは、使用時に水などの溶媒や緩衝液を加えることでゲル化できる固体(粉末も含む)の形態であってもよい。
(細胞培養用基板の作製)
(一段階目の反応)
トルエン39.0g、TSL8350(GE東芝シリコーン製)2.25gを混合し、攪拌しながらトリエチルアミンを450μl添加した。そのまま室温で数分間攪拌した後、全量をガラス皿へ移した。ここにUV洗浄済みの10cm角のガラス基板を浸漬し、室温で16時間放置した。その後、ガラス基板をエタノールと水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。基板表面の水接触角はおよそ53°であった。
50gのテトラエチレングリコール(TEG)を攪拌しながら25μlの濃硫酸を一滴ずつ添加した。そのまま数分間攪拌してから、全量をガラス皿に移した。ここに上記の基板を浸漬し、80℃で20分間反応させた。反応後、基板をよく水洗し、窒素ブローで乾燥させた。これにより、ガラス基板表面にTEGを含む有機薄膜が形成された。表面の水接触角はおよそ28°であった。
酸化チタン系光触媒を塗布したフォトマスクを作製した。フォトマスクは、幅60μmの開口部が300μmピッチで形成されたラインパターンに、2.5cm間隔で左記ラインパターンと直交する幅60μmのライン状の開口部からなっているものを用いた。フォトマスクの光触媒層と上記の成膜面を接触させ、フォトマスク側から紫外線が照射されるよう露光機内に設置した。波長365nmの照度が20mW/cm2の水銀ランプで35秒間露光し、基板表面の親水性薄膜を部分的に酸化分解した。この基板を25mm×15mmの大きさに切断し、細胞接着基板として使用した。
オートクレーブ滅菌した基板を培養容器内に配置し、5%ウシ胎児血清入りMEM培地を適量添加した。ここに、基板一枚あたり2.0×105個のウシ大動脈血管内皮細胞を播種した。インキュベーター内(37℃、5%CO2)で48時間培養したところ、細胞は酸化分解領域にのみ接着し、幅60μmのライン上でコンフルエントになっていた。
コラーゲンゲル培養キット(Cellmatrix I−A、新田ゼラチン)を用いて氷上でコラーゲン溶液を調製した。このうち500μlを28mm×33mmのウェルに平坦に広げ、37℃で10分間ゲル化させた。ここに、5%ウシ胎児血清入りMEM培地を2ml添加した。基板に接着した細胞とコラーゲンゲルが底の方で接触するように基板を逆さまにして培地に沈めた。インキュベータ内で4時間培養した後、ピンセットで注意深く基板を除去したところ、ほぼすべての細胞がコラーゲンゲル上でチューブ様構造をとっていた。培地を吸引除去し、上記のコラーゲン溶液250μlを細胞の上に重層し、37℃で10分間ゲル化させた。その後、増殖因子(10ng/ml血管内皮細胞増殖因子、10ng/ml塩基性繊維芽細胞増殖因子、50μg/mlヘパリン)を添加した5%ウシ胎児血清入りMEM培地を2ml加え、図2の構成の三次元培養を行った。培養24時間後、既存のチューブ様構造から新たな血管が伸びる現象が観察された。これは、細胞間接着を維持しながら増殖・遊走することを特徴とする血管新生と呼ばれる現象であり、集団的細胞遊走の代表例である。その後も血管新生は継続的に起こり、培養一週間後には極めて分岐の多い毛細血管様のネットワークが高密度に形成された。一方、本三次元培養系にあらかじめ血管新生阻害剤の一種であるスラミン(50μM)を添加しておくと、この血管新生は完全に阻害された。
(一段階目の反応)
トルエン39.0g、TSL8350(GE東芝シリコーン製)1.20gを混合し、攪拌しながらトリエチルアミンを450μl添加した。そのまま室温で数分間攪拌した後、全量をガラス皿へ移した。ここにUV洗浄済みの10cm角のガラス基板を浸漬し、室温で16時間放置した。その後、ガラス基板をエタノールと水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。基板表面の水接触角はおよそ51°であった。
50gのTEGを攪拌しながら25μlの濃硫酸を一滴ずつ添加した。そのまま数分間攪拌してから、全量をガラス皿に移した。ここに上記の基板を浸漬し、80℃で20分間反応させた。反応後、基板をよく水洗し、窒素ブローで乾燥させた。これにより、ガラス基板表面にTEGを含む有機薄膜が形成された。表面の水接触角はおよそ28°であった。
酸化チタン系光触媒を塗布したフォトマスクを作製した。フォトマスクは、幅60μmの開口部が300μmピッチで形成されたラインパターンに、2.5cm間隔で左記ラインパターンと直交する幅60μmのライン状の開口部からなっているものを用いた。フォトマスクの光触媒層と上記の成膜面を接触させ、フォトマスク側から紫外線が照射されるよう露光機内に設置した。波長365nmの照度が20mW/cm2の水銀ランプで35秒間露光し、基板表面の親水性薄膜を部分的に酸化分解した。この基板を25mm×15mmの大きさに切断し、細胞接着基板として使用した。
オートクレーブ滅菌した基板を培養容器内に配置し、5%ウシ胎児血清入りMEM培地を適量添加した。ここに、基板一枚あたり2.0×105個のウシ大動脈血管内皮細胞を播種した。72時間後、細胞は酸化分解領域にのみ接着し、幅60μmのライン上でコンフルエントになっていた。
氷冷した成長因子低減マトリゲル(ベクトン・ディッキンソン)200μlを培養容器上に広げ、室温で約1分間放置した後、上記の基板を細胞接着面を下にしてマトリゲルの上に静かに置いた。この状態で約5分間放置し、完全にゲル化させた後、5%ウシ胎児血清入りMEM培地を加えて基板を浸漬させた。培養容器をインキュベーター(37℃、5%CO2)の中に移し、基板とマトリゲルに挟まれた状態で細胞培養を行った。3時間後、基板上に接着していた細胞集団が著しく収縮し、円柱状の塊になっていた。これは、細胞外マトリックスから分化シグナルを受けた血管内皮細胞が管腔を形成する際に特徴的に見られる現象である。本三次元培養系に血管新生阻害剤をあらかじめ添加しておくと、その薬理作用に応じて多細胞収縮が阻害されたりされなかったりした(表1)。このことは、分化の初期段階に見られる細胞収縮を観察することによって管腔形成に対する薬剤の効果を効率的に試験できることを意味している。本試験法は正常ヒト臍帯静脈内皮細胞においてもまったく同様に実施可能であった。
(一段階目の反応)
トルエン39.0g、TSL8350(GE東芝シリコーン製)0.56gを混合し、攪拌しながらトリエチルアミンを450μl添加した。そのまま室温で数分間攪拌した後、全量をガラス皿へ移した。ここにUV洗浄済みの10cm角のガラス基板を浸漬し、室温で16時間放置した。その後、ガラス基板をエタノールと水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。基板表面の水接触角はおよそ50°であった。
50gのTEGを攪拌しながら25μlの濃硫酸を一滴ずつ添加した。そのまま数分間攪拌してから、全量をガラス皿に移した。ここに上記の基板を浸漬し、80℃で2時間反応させた。反応後、基板をよく水洗し、窒素ブローで乾燥させた。これにより、ガラス基板表面にTEGを含む有機薄膜が形成された。基板表面の水接触角はおよそ27°であった。
酸化チタン系光触媒を塗布したフォトマスクを作製した。フォトマスクは、幅60μmの開口部が300μmピッチで形成されたラインパターンに、2.5cm間隔で左記ラインパターンと直交する幅60μmのライン状の開口部からなっているものを用いた。フォトマスクの光触媒層と上記の成膜面を接触させ、フォトマスク側から紫外線が照射されるよう露光機内に設置した。波長365nmの照度が20mW/cm2の水銀ランプで35秒間露光し、基板表面の親水性薄膜を部分的に酸化分解した。この基板を25mm×15mmの大きさに切断し、細胞接着基板として使用した。
オートクレーブ滅菌した基板を培養容器内に配置し、5%ウシ胎児血清入りMEM培地を適量添加した。ここに、基板一枚あたり2.0×105個のウシ大動脈血管内皮細胞を播種した。72時間後、細胞は酸化分解領域にのみ接着し、幅60μmのライン上でコンフルエントになっていた。
氷冷した成長因子低減マトリゲル(ベクトン・ディッキンソン)200μlを培養容器上に広げ、室温で約1分間放置した後、上記の基板を細胞接着面を下にしてマトリゲルの上に静かに置いた。この状態で約5分間ゲル化させた後、5%ウシ胎児血清入りMEM培地を加えて基板を浸漬させた。培養容器をインキュベーター(37℃、5%CO2)の中に移し、基板とマトリゲルに挟まれた状態で細胞培養を行った。3時間後に位相差顕微鏡で細胞を観察したところ、基板上に接着していた細胞集団が著しく収縮し、円柱状の塊になっていた。このとき細胞間の境界が極めて不明瞭であったことから判断すると、マトリゲルの重層によって細胞間接着が高度に発達していたと思われる。ところが、そのまま培養を続けると、分化の初期段階にあった細胞集団は24時間以内に脱分化を起こし、細胞間接着の崩壊および単細胞遊走が観察された。この三次元培養系は、血管内皮細胞の分化・脱分化のスイッチングおよび細胞間接着の発達と崩壊を試験するのに有用な培養系であると考えられる。
(細胞培養用基板の作製)
(一段目の反応)
トルエン39g、エポキシシラン(TSL8350、GE東芝シリコーン)13.5g、トリエチルアミン450μlを混合し溶液を調整した。この溶液を所定量ガラスシャーレ内に移し、10cm角で厚さ0.7mmの紫外線洗浄済みのガラスを浸漬し、室温で16時間反応させた後に、ガラス板をエタノールで洗浄し、次いで水で超音波洗浄し、乾燥した。ガラス板表面の水接触角は、平均50.1°であった。
テトラエチレングリコール50gに濃硫酸25μlを攪拌しながら加えた。この溶液を所定量ガラスシャーレに移し、上記のエポキシ化ガラス板を浸漬し、80℃で20分間反応させた。反応後の基板を水洗、乾燥し、表面水接触角を測定したところ、平均29.4°であった。
酸化チタン系光触媒を塗布したフォトマスクを作製した。フォトマスクは、幅60μmの開口部が300μmピッチで形成されたラインパターンに2.5cm間隔で左記ラインパターンに直交する幅60μmのライン状の開口部が形成され、且つ、周囲に幅約1.5cmの開口部を有するものを用いた。あらかじめ露光機の照度を350nmの波長で計測し、露光時間の設定の目安とした。照度は18.6mW/cm2であった。親水性薄膜が形成されたガラス基板と上記フォトマスクを、親水性薄膜とフォトマスクの触媒層が対向するように配置し、フォトマスク側から光が照射されるよう露光機内に設置した。57秒間露光し、酸化処理を行った。その後、培養に使いやすいように、24mm×15mmの大きさに切断した。
上記のように切断した基板をオートクレーブで高圧水蒸気滅菌した。この基板を培養容器に配置し、基板一枚あたり1.5×105個のウシ由来頚動脈血管内皮細胞(BAEC)を播種した。5%血清を含むMEM培地を用いて、37℃、5%CO2濃度のインキュベータ内で48時間培養した。蛍光位相差顕微鏡で観察したところ、BAECは酸化処理された部分にのみ接着していた。
マトリゲル(商標)を培養容器の上に200μl展開し、室温で数分間保持してある程度ゲル化させた。このマトリゲル(商標)内に、あらかじめPKH26で蛍光標識させたマウス由来線維芽細胞を5×105cells/mL注入し、上記の細胞培養基板をマトリゲル(商標)と対向するようにして載せた。次いで10%血清を含むD−MEM培地を加えインキュベータ内で、37℃、5%CO2で3時間培養した。この時点で、BAECはチューブ状に形態変化を起こしていることを蛍光位相差顕微鏡で確認した。また、線維芽細胞はマトリゲル内でほとんど遊走していないことを蛍光位相差顕微鏡で確認した。ピンセットを用いて注意深く基板を剥離し、BAECをマトリゲル(商標)上に転写し、さらにインキュベーターで37℃、5%CO2で2時間培養した。この時点で、BAEC、線維芽細胞ともにほとんど遊走していないことを蛍光位相差顕微鏡で確認した。
(細胞培養用基板の作製)
(一段目の反応)
トルエン39g、エポキシシラン(TSL8350、GE東芝シリコーン)0.7g、トリエチルアミン400μlを混ぜて溶液を調製した。この溶液を所定量容器に移し、10cm角で厚さ0.7mmの紫外線洗浄済みガラス板を浸漬した。室温で18時間反応させた後に、ガラス板をトルエンで洗浄し、次いでエタノールで洗浄し、最後に水で超音波洗浄した。ガラス板表面の水接触角は、平均51.3°であった。
テトラエチレングリコール50gに濃硫酸25μlを攪拌しながら加えた。この溶液を所定量容器に移し、上記のエポキシ化ガラス板を浸漬し、80℃で20分間反応させた。反応後、よく水洗した。ガラス板表面の水接触角は、平均32.0°であった。これにより、親水性薄膜が形成されたガラス板を作製できた。
酸化チタン系光触媒を塗布したフォトマスクを作製した。フォトマスクには、100μm角でピッチ200μmの遮光部アレイの領域と、200μm角でピッチ400μmの遮光部アレイの領域と、300μm角でピッチ600μmの遮光部アレイの領域と、400μm角でピッチ800μmの遮光部アレイの領域が形成されており、フォトマスクの周囲に幅1.5cmの開口部が形成されている。あらかじめ露光機の照度を350nmの波長で計測し、露光時間の設定の目安とした。照度は18.6mW/cm2であった。親水性薄膜が形成されたガラス板と上記フォトマスクの光触媒層が対向するように配置し、石英板の裏側から紫外線が照射されるよう露光機内に設置した。161秒間露光し、酸化処理を行った。その後、培養に使うために24mm×15mmの大きさに切断した。また、フォトマスクの周囲の開口部と対向していた部分はX線光電子分光分析に用いた。
サーモエレクトロン社製のVG_Theta Probeを用いて酸化処理前の親水性薄膜、酸化処理後の親水性薄膜を測定した。C1sピークをC−C結合の炭素、C−O結合の炭素、C(=O)−O結合とC=O結合の炭素でフィッティングした酸化処理後の親水性薄膜の炭素量は、酸化処理前の親水性薄膜の炭素量の85.3%であった。また、酸化処理前の親水性薄膜における酸素と結合している炭素の割合は76.7%であり、酸化処理後の親水性薄膜における酸素と結合している炭素の割合は、64.6%であった。また、酸化処理後の親水性薄膜表面の水接触角は、28.8°であった。さらに、走査型白色干渉計(Zygo NewView 5000)を用いてパターニング表面を観察したところ、約1nmの段差がマスクパターンに応じて形成されていた。
上記の切断済みのパターン培養用基板(200μm角の細胞接着領域がピッチ400μmで形成されている)をオートクレーブで高圧水蒸気滅菌した。この基板を培養容器に配置し、培養液(基礎培地M−106−500S、添加剤KE−6350、Cascade Biologics/クラボウ)に分散した正常ヒト成人皮膚繊維芽細胞(KF−4109、Cascade Biologics)を基板一枚あたり2×105個の割合で播種した。インキュベータを用いて37℃、5%CO2の条件下で46時間培養した。単層の繊維芽細胞からなる細胞パッチアレイが形成された。パッチ中心部の細胞は、比較的小さくなっているのに対し、パッチ周縁部の細胞は比較的紡錘形であった。
コラーゲンゲルキット(Cellmatrix I−A、新田ゼラチン)を用いてメーカーのプロトコルに従い試薬を調製し、培養容器の上に上記の細胞培養基板1枚あたり250μlずつ試薬を展開し、室温で10分間保持してある程度ゲル化させた。このコラーゲンゲル上に、上記の細胞培養基板を細胞パッチアレイがコラーゲンゲルと対向するようにして、コラーゲンゲル上に載せた。この状態で37℃のインキュベータ内にて3分間静置し、次いで上記の培地を加えインキュベータ内で4時間培養した。この時点では、細胞パッチの細胞は、ほとんど遊走していなかった。その後、ピンセットを用いて注意深く基板を剥離し、細胞パッチアレイをコラーゲンゲル上に転写した。次いで培地を吸引除去し、上記のコラーゲン試薬を基板一枚あたり250μlずつ加え、インキュベータ内で30分間静置してコラーゲンをゲル化させた。その後、培地を加えて図2の構成の三次元培養を行った。位相差顕微鏡で観察したところ、培養4時間後には、細胞パッチの周囲の細胞が遊走を始めていた。14時間後には、さらに細胞の遊走が進んでいたがパッチ中心部の細胞は、ほとんど動いていなかった。40時間後には、細胞の遊走がさらに進み増殖もして細胞パッチ間が連結しているような状態になった。また、パッチ中央部の細胞が、三次元培養の当初よりも紡錘形に近い状態になった。また、培地に10μMのジメチルスルホキシド(DMSO)を加えて同様の三次元培養を行った場合とDMSOなしの実験と比較したところ、細胞の運動性の経時的変化に有意な差はなかった。これらの結果から、これらの実験をコントロール実験として、各種阻害剤の効果を試験することが可能であることが示された。
(細胞培養)
実施例5で作製した300μm角の細胞接着性領域が600μmピッチで形成されているパターン培養用基板を用いた。実施例5と同じ細胞と培地を用い、基板一枚あたり4×105個の正常ヒト成人皮膚繊維芽細胞(NHDF)を播種し、適量の培地を加えてインキュベータで培養した。23時間後に位相差顕微鏡で観察したところ、細胞スフェロイドアレイが形成されていた。また、基板一枚あたり1.8×105個のNHDFを播種して細胞パッチアレイを作製した。
上記の細胞スフェロイドアレイおよび細胞パッチアレイを実施例5で用いたコラーゲンゲルキットから作製したゲルに包埋し図1の三次元培養を行った。細胞の運動と増殖を経時観察した。本実験では、細胞スフェロイドアレイは、最初パターン培養基板に接着していた領域の細胞から遊走を始めた。その単位時間あたりの細胞遊走距離は、細胞パッチアレイのパッチ周囲の細胞の単位時間あたりの遊走距離と有意な差がなかった。一方、スフェロイド本体は少なくとも培養開始から15時間程度は遊走が認められなかった。培養開始から40時間後には、スフェロイド本体の密度が疎になるとともにスフェロイド本体からの細胞の浸潤が認められた。
(細胞培養用基板の作製)
(一段目の反応)
トルエン39g、エポキシシラン(TSL8350、GE東芝シリコーン)13.5g、トリエチルアミン450μlを混合し溶液を調整した。この溶液を所定量ガラスシャーレ内に移し、直径31mmで厚さ約0.1mmの紫外線洗浄済みのガラスを浸漬し、室温で18時間反応させた後に、ガラス板をエタノールで洗浄し、次いで水で超音波洗浄し、乾燥した。ガラス板表面の水接触角は、平均51.1°であった。
テトラエチレングリコール50gに濃硫酸25μlを攪拌しながら加えた。この溶液を所定量ガラスシャーレに移し、上記のエポキシ化ガラス板を浸漬し、80℃で20分間反応させた。反応後の基板を水洗、乾燥し、表面水接触角を測定したところ、平均30.2°であった。
実施例4と同じ条件で180秒間露光し、酸化処理を行いパターニングガラスを得た。このガラスを直径27mmのホールがあいた35mmポリスチレンディッシュの裏面に貼り付けた。
上記ディッシュを70%エタノールで滅菌した。培養液(基礎培地M−106−500S、添加剤KE−6350、Cascade Biologics/クラボウ)に分散した正常ヒト成人皮膚繊維芽細胞(KF−4109、Cascade Biologics)をディッシュ一個あたり4×105個の割合で播種した。インキュベータを用いて37℃、5%CO2の条件下で18時間培養した。接着細胞からなるライン状パターンを得た。
実施例5で用いたコラーゲンゲルキットから作製したゲルに包埋し図3の三次元培養を行った。37℃で30分間ゲル化させた後に、(1)上記の培養液をいれた系、(2)上記の培養液に阻害剤PP2を10μM加えた培養液をいれた系、(3)上記で調製したPP2入り培養液に含まれるDMSO(PP2の1mMストック溶液を作るときの溶媒として使用)と同濃度のDMSOを含む培養液の系の3種の培養を行った。培養開始から3時間後、6時間後、9時間後、21時間後の細胞の遊走や増殖の状態を観察した。その結果、(1)と(3)の系と比べて(2)の阻害剤を含む系では有意に細胞の遊走ならびに増殖が抑えられた。
(細胞培養)
実施例5で用いた切断済みのパターン培養用基板(200μm角の細胞接着領域がピッチ400μmで形成されている)をオートクレーブで高圧水蒸気滅菌した。この基板を培養容器に配置し、5%ウシ胎児血清入りMEM培地を用いてBAECをパターン培養した。18時間パターン培養した基板と、細胞−細胞間接着をさらに発達させた42時間パターン培養した基板を用いて以下の三次元培養をおこなった。
成長因子低減マトリゲル(ベクトン・ディッキンソン)を用いて実施例2と同様の図3の三次元培養を行い、タイムラプス観察を行った。その結果、細胞運動のランダム性および細胞の運動速度の平均値は、18時間パターン培養の系と42時間パターン培養の系で有意差はなかった。一方、細胞集団を囲む面積Sの単位時間当たりの増加量には有意な差があった。すなわち42時間パターン培養の系の面積Sの単位時間当たりの増加量は、18時間パターン培養の系のそれの1/5であった。このことは、血管内皮細胞の細胞−細胞間接着の強さ、細胞集合体の収縮力、血管内皮細胞の分化/脱分化が複合的に影響していると考えられた。
2,6,8,11,12,14・・・細胞パターン
4・・・固体基材(培養器具)
15・・試験したい物質
L・・細胞パターン(14)と試験したい物質(15)との距離
Claims (7)
- 細胞パターンの一部が露出し残部がゲルに包埋されている生物学的試験用細胞パターンの製造方法であって、
細胞パターンを形成可能な培養表面を有する培養器具上で細胞培養を行い、培養後に培養表面にゲルを被覆し、ゲル中に細胞パターンを転移させた後、培養器具を剥離することを含むことを特徴とする、前記製造方法。 - 細胞パターンの全体がゲルに包埋されている生物学的試験用細胞パターンの製造方法であって、
細胞パターンを形成可能な培養表面を有する培養器具上で細胞培養を行い、培養後に培養表面にゲルを被覆し、ゲル中に細胞パターンを転移させた後、培養器具を剥離し、ゲル上の培養器具が剥離された面を更なるゲルで被覆することを含むことを特徴とする、前記製造方法。 - 培養器具の培養表面が、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とを備え、細胞接着性領域が、ポリアルキレングリコールまたはアルキレングリコールオリゴマーを含む細胞接着阻害性の親水性膜に酸化処理および/または分解処理を施して細胞接着性とした膜で形成されており、細胞接着阻害性領域が、ポリアルキレングリコールまたはアルキレングリコールオリゴマーを含む親水性膜で形成されていることを特徴とする、請求項1または2記載の生物学的試験用細胞パターンの製造方法。
- 培養器具の培養表面が、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とを備え、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とが、ポリアルキレングリコールまたはアルキレングリコールオリゴマーを含む親水性膜で形成されており、細胞接着性領域における前記ポリアルキレングリコールまたはアルキレングリコールオリゴマーの密度が、細胞接着阻害性領域における前記ポリアルキレングリコールまたはアルキレングリコールオリゴマーの密度と比較して低いことを特徴とする、請求項1または2記載の生物学的試験用細胞パターンの製造方法。
- 培養器具の培養表面が、細胞接着性領域と細胞接着阻害性領域とを備え、これらの領域間の段差が10nm以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載の生物学的試験用細胞パターンの製造方法。
- ゲルが細胞外マトリックスに含まれる少なくとも一種のタンパク質を含むゲル、擬似細胞外マトリックスを含むゲル、もしくは細胞シート、またはこれらの複合物であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項記載の生物学的試験用細胞パターンの製造方法。
- ゲル中に更なる細胞が存在していることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項記載の生物学的試験用細胞パターンの製造方法。
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