JP5522340B2 - 胎生肝細胞のスフェロイドを含む培養細胞構築物 - Google Patents

胎生肝細胞のスフェロイドを含む培養細胞構築物 Download PDF

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Description

本発明は、胎生肝細胞のスフェロイド(または細胞凝集体)を含む細胞構築物、ならびにその作製方法および使用に関する。
肝臓は多種多様な物質の代謝機能を有するため、肝臓をin vitroの細胞レベルで取り扱う技術の確立は極めて重要であり、ハイスループットな創薬スクリーニングや人工臓器のための組織作製、肝臓再生のメカニズム解明など、その技術確立がもたらす各分野への波及効果は大きい。こうして、生体内の肝細胞の機能により近似する機能を有するものとして成体(または成熟した)動物由来の肝細胞(単に、「肝細胞」という場合あり)をフィーダー細胞上で培養することにより形成された肝細胞のスフェロイドの培養構築物が提供されている(例えば,特許文献1)。
一方、大量に肝細胞を培養する、例えば、人工肝臓モジュールを作製するために多孔質ポリマー樹脂を基材に用いて肝細胞を培養した系も提供されているものの、培地として血清の使用量の低減やより長期にわたる培養を可能にするものとして、該肝細胞に代え、胎生肝細胞(fetal liver cellls)を用いることも提案されている(非特許文献1)。非特許文献1には、記載されている多孔質ポリマー樹脂上で、培地として血清とホルモンが補足された最少必須培地アルファ(αMEM)とウイリアムズE培地(William’s E medium:WE培地とも称する)を用いてマウスの胎生肝細胞を静置培養した結果が報告されている。それによると、肝細胞の培養に広く使用されてきたWE培地を用いて胎生肝細胞を培養すると、細胞数が経時的に徐々に低下し、細胞当たりのアルブミン産生速度は一端急激に低下した後徐々に増加することが記載されている。これに対し、αMEMを用いるとWE培地を用いる場合に比べて、初期段階では細胞数の増加が向上するが、アルブミンの分泌レベルは同様であることが明らかにされている。かような結果を考慮し、非特許文献1の筆者らは、胎生肝細胞を、初期段階ではαMEMを用い一定期間培養した後、WE培地に培地交換して培養することにより、胎生肝細胞が高いアルブミン分泌レベルを維持したまま培養できることを示している。
非特許文献1のように、ポリマー樹脂上での胎生肝細胞の静置培養も報告されているものの、その後もなお、スフェロイドを形成することを目的としては、初代肝細胞,肝細胞株細胞、初代癌細胞、癌細胞株細胞の培養方法が検討され、提案されている(特許文献2)。上述のような特徴をもつ胎生肝細胞は、また、未分化期間が比較的長期であるため、細胞の分化機構を研究する上で非常に有用な細胞であり、現在までに数多くの研究がなされてきた。しかしながら、胎児マウス肝細胞は元来凝集し難く、in vitroにおける未分化状態の胎生肝細胞の活性や分化誘導等についての知見は、単層培養系で主として得られてきた。例えば、非特許文献1では、培養に先立ち基材と細胞を遠心処理して基材表面上での胎生肝細胞の高密度化を図っている。非特許文献1に加え、三次元の高分子ゲル中に封入されたマウス胎生肝細胞凝集体の評価を行った例が報告されているが、(非特許文献2)。この報告の方法では、細胞凝集体を2週間ほどの短期間で評価したものであり、また、記載された方法ではスフェロイドの大きさを均一に制御することは不可能である。すなわち、均一かつ、所期の大きさをもつ胎生肝細胞スフェロイドの作成自体が困難であったため、胎生肝細胞スフェロイドの研究はほとんど行われていないのが現状である。
WO 03/010302 A1 特開2008−22743 H.Miyoshi,et al.ASAIO Journal,2000,p.397−402 Biomaterials,28,(2007),256−270
上記のような背景の下、完全に分化されていない未成熟、かつ、均一な胎生肝細胞スフェロイドの構築法を確立すれば、例えば、分化誘導が可能である胎生肝細胞スフェロイドアレイ(チップ上の肝臓組織集合体)の構築が可能となり、分化誘導因子(例えば、オンコスタチンM(OSM)など)を加えることで肝機能がスイッチングできることが期待できる。つまり、分化前後における肝臓の化学・物理的な応答ツールとして今までにない評価方法に使用できるツールを手にすることが可能となる。また胎生肝細胞スフェロイドが成熟肝細胞スフェロイドに誘導できれば、目的の時間に目的の場所で成熟肝細胞に誘導し、例えば、薬剤のスクリーニング試験が開始できるため、操作性の高い創薬ツールを構築することも可能となる。さらに、再生医療の分野では、ヒト胎児の肝細胞を材料にしたい研究は倫理上困難であるため、限りなく臓器に近い状態の胎児マウスを用いることで、再生医療の分野で有用な基礎的な知見を得ることが期待できる。
したがって、本発明の目的は、胎生肝細胞のスフェロイドを含む細胞構築物ならびにその作成方法および成熟肝細胞スフェロイドへの誘導方法を提供することにある。
非特許文献1に記載されているように、胎生肝細胞は肝細胞と同様に培養可能であるが、それらの機能を維持したまま比較的長期にわたって培養するには培養時期に応じて使用培地を適正に選択する必要がある。具体的には、上述したように、WE培地を用いる胎生肝細胞の培養では、細胞増殖について必ずしも満足できず、しかも、該細胞の機能の指標であるアルブミンの分泌速度の急激な低下が報告されている。しかしながら、本発明者等は、特定の培養フィーダー細胞上で胎生肝細胞を一定の条件下で培養すると、WE培地を用いる場合にでも、胎生肝細胞の機能を維持したまま長期に培養できる該細胞の細胞凝集体またはスフェロイドを形成し、さらに、該スフェロイドを形成した胎生肝細胞を成熟肝細胞に誘導できることを、今ここに、見出した。
こうして本発明によれば、第一の態様とて、基材表面上の小領域に接着したフィーダー細胞の培養物とその上に形成された胎生肝細胞のスフェロイドを含んでなる培養細胞構築物であって、該小領域が直径約20〜約300μmの円またはその円に相当する面積を有する他の形状をしており、該スフェロイドが該フィーダー細胞と胎生肝細胞の共培養によって形成されたものである、上記の培養細胞構築物、が提供される。
また、第二の態様として、基材表面上の連続する細胞非接着性材料の表面により少なくとも30μm、好ましくは少なくとも50μm、より好ましくは少なくとも100μmの間隔において分離されている複数の小領域上でフィーダー細胞を培養して該小領域に接着したフィーダー細胞層を形成するステップ、および
形成されたフィ−ダー細胞層上で胎生肝細胞を培養して胎生肝細胞のスフェロイドを形成するステップ
を含んでなる胎生肝細胞のスフェロイドを含有する培養構築物の作製方法が、提供される。
さらに、第三の態様として、上記培養細胞構築物の一用途である、該培養構築物を必須構成員として含んでなる成熟肝細胞またはシトクロム450(CYP)1A2を発現する肝細胞を誘導するための細胞調製用キットが、提供される。
<発明の詳細な記述>
本発明について、以下により具体的に説明する。
胎生肝細胞とは、哺乳動物の子宮内で形をなしている胎生動物の出生前の子である、胎児に由来する肝細胞をいう。動物種は、哺乳動物に属し、本発明の目的、例えば、後述する基材表面上の小領域で培養でき、スフェロイドを形成でき、かつ、成熟肝細胞の機能を有するものであれば如何なる種に属するものであってもよい。取り扱い容易性を考慮すると、哺乳動物には、マウス、ラット、イヌ、ウサギ、ブタ、サルであることができ、倫理上の問題が存在しないことを前提にヒトも包含される。しかし、説明を簡略化するため、以下、マウスを参照しながら本発明について説明する。マウス、より具体的には、C57BL/6マウスの場合、典型的には妊娠約14目(14 embryonic days)の胎児マウスを都合よく使用できる。
胎生肝細胞の培養は、基材(または足場材料)表面で、好ましくは、静置培養により実施される。基材は該細胞を培養できる小領域とそれを取り囲む細胞非接着材料の表面を有するものであれば材質、形状を問うことなく使用できる。限定されるものでないが、具体的なものとして、住友ベークライトから市販されているスミロンセルライト(登録商標)、さらには特許文献1に記載されているようなポリエチレングリコールをベースとするポリマーまたはWO2007/029554 A1に記載されているようなポリエチレングリコールもしくはポバールをベースとする光硬化性ポリマーを細胞非接着材料として用いたマイクロパターンニングにより作製された細胞培養基材を挙げることができる(特許文献1およびWO2007/029554 A1は引用することにより、それらの内容が本明細書の内容となる)。
基材表面上の小領域は、形状として円を選ぶと、直径が約20μm〜約500μm、好ましくは、約60μm〜300μm、より好ましくは、約80μm〜200μmのサイズのものを称する。形状は円形が好ましいが、基材表面の形状に応じて、楕円形、例えば六ないし一六多角形、正方形、等であることができるが、いずれの形状を選ぶ時も、上記円形のサイズに相当するようにサイズを選ぶのが好ましい。
小領域は、基材の材質が後述するフィーダー細胞を培養できる、疎水性材料、例えば、ガラス、セラミックス、合成樹脂や汎用性プラスチック等であればそのまま小領域の表面とすることができるが、必要により、コラーゲン、細胞マトリックス構成タンパク質等を用いて該表面を修飾してもよい。
フィーダー細胞は、例えば、特許文献1に記載された肝細胞と共培養することにより肝細胞のスフェロイドを形成できる、例えば、内皮細胞、上皮細胞および線維芽細胞から選ぶことができる。しかし、肝細胞を培養するのと異なり、内皮細胞より、線維芽細胞、特に、胎生線維芽細胞、を選ぶことがスフェロイドの形成にとって好ましいとの特徴を有する。通常、フィーダー細胞は培養細胞の単層を形成し播種部位から外部に拡張していくが、小領域を取り囲む細胞非接着材料を適正に選ぶと、実質的に、当該小領域内にのみ該細胞が存在する状態で培養することができる。したがって、小領域は、同一平面状に複数、必要により、数十から数百、または数百を越えるように存在せしめることができる。このように複数個の小領域上で、フィーダー細胞またはフィーダー細胞と胎生肝細胞を培養する場合には、各小領域が連続する細胞非接着性材料の表面により、相互に少なくとも30μm、好ましくは少なくとも50μm、より好ましくは少なくとも100μmの間隔において分離されていることが好ましい。かような間隔が100μm未満であるときは、小領域が直径60μmを越えるような培養系を選ぶと、隣接する培養細胞間で培養細胞が連結され、シートを形成して剥離する傾向を示すようになる。したがって、培養スフェロドア
レイとして本発明の培養細胞構築物を使用するときは、注意する必要がある。勿論のこと、培養スフェロイドを基材表面から剥離させて使用する場合には、スフェロイドが形成された後であれば、個々のスフェロイド同士が接着して、剥離する傾向を帯びてもよいが、所期の機能を保持したまま長期にわたる培養することが困難になるかも知れない。
本発明の細胞構築物では、かようなフィーダー細胞と胎生肝細胞は共培養されている状態にあり、相互に増殖、生存に必要な何らかの相互作用を行うか、または何らかの情報を交換しているものと理解できる。本発明によれば、フィーダー細胞と共培養する胎生肝細胞の密度をフィーダー細胞層上で1.0×10cells/mm以上とすることにより効果的に胎生肝細胞のスフェロイドが形成できる。スフェロイドは、細胞の集合体、凝集体、小球体とも称されており、細胞の高密度凝集体として組織構造を有するため、細胞を単独で培養した場合とは異なる性質ないし機能を発揮するようになる。かようなフィーダー細胞と共培養されている胎生肝細胞のスフェロイドは、胎生肝細胞をもつ性質、例えば、アルブミンの分泌速度に顕著な低下を来たすことなく長期、例えば、3、4週間に渡り培養することができる。さらに特長のあることは、該共培養された胎生肝細胞は、それ自体では活性が弱いかまたは存在しないが、分化誘導因子、例えば、OSMにより刺激することにより成熟肝細胞(または生体動物に由来する肝細胞)に存在することが知られているシトクロム450(CYP)1A2を発現するようになる。したがって、該共培養物または本発明の従う細胞構築物は、分化誘導に影響を及ぼす作用物質の評価に使用できる。
上記の共培養は、目的の細胞構築物が作製できるものであれば如何なる条件下で行ってもよいが、好ましく以下のように実施できる。
胎生肝細胞は、各動物について公知の方法で入手できるが、例えば、マウスの場合には、上記非特許文献1を参照することができる。要約すると、C57BL/6胎生マウス(14胎生日)を、妊娠した動物の羊膜から胎児を取り出し、ハンクスの平衡塩類溶液(HBSS,GibcoBRL)に置き、胎盤を除去する。シリンジを用いて胎児から肝臓を分離し、それらをウシ胎児血清含有HBSS中に置き、シリンジを用いて分散させ、細胞凝魂や小さな組織集魂を濾去することにより胎生肝細胞を取得することができる。
一方、基材を準備し、基材表面上の連続する細胞非接着性材料の表面により少なくとも100μmの間隔において分離されている複数の小領域上でフィーダー細胞を、例えば、細胞数が、1000cells/mm、好ましくは、600cells/mmになるように基材表面の小領域上に播種した後、Williams’E培地を用い、37℃、5%COの条件下で線維芽細胞を培養して該小領域表面に接着した培養線維芽細胞からなるフィーダー細胞層を形成する。こうして形成されたフィ−ダー細胞層上に、上記のようにして得られる胎生肝細胞をWilliams’E培地に懸濁させ、例えば、細胞数が、1.0×10cells/mm、好ましくは、1.1×10cells/mmになるように基材表面の小領域上に播種した後、例えば、Williams’E培地を用い、37℃、5%COの条件下で培養すると、胎生肝細胞スフェロイドは、約20〜10000個、好ましくは約100〜1000個からなり、最も大きい部分の横断面の直系が、約20〜300μm、好ましくは約50μm〜200μmであるスフェロイドを形成する。こうして形成されたスフェロイドは、上記した特長ある性質を有する。
以下、具体例を参照しながら本発明をさらに詳細に説明する。
例1:マイクロパターン化PEGゲル修飾ガラスチップの作製
ガラス基板の前処理として、直径15mmの丸型ガラスチップを体積比1:1の過酸化
水素、濃硫酸によるピラニア洗浄した後、さらに10分間の超音波洗浄を3回行った。次に、同表面へのシランカップリング処理を行った後、160℃の乾燥を一晩行った。シランカップリング溶液は、4%の(3−(メタクリロイルオキシ)プロピル)トリメトキシシラン〔(3−(methacryloyloxy)propyl)trimethoxy silane〕を含んだ95%のエタノール溶液であり、これによりガラス表面に重合性のメタクリロイル基が修飾される。ガラス表面上に導入されたメタクリロイル基は、ポリエチレンクリコール(PEG)ゲルとガラスを固定化する役割を有する。シラン処理を施したガラスチップ上に、両末端にアクリロイル基を有するPEG−ジアクリロイル(PEG−DA、平均分子量575g/mol)溶液15μLをガラスチップ上に滴下し、上からポリスチレン板を被せることで溶液を均一にガラス表面上に伸展させた。このときの溶液組成は、純水:メタノール:PEG−DAを1:2:3で混合したものであり、さらに光重合開始剤としてIrgacure2959(1%(w/V))を添加している。このように調製したガラス基板に、フォトマスクを介してUVを照射(強度2.4mW/cm、時間1.5秒間)することで、ドメイン直径・縁間隔がそれぞれ100μmのパターンがガラス基板上に形成された。
例2:マウス胎児線維芽細胞(フィーダー細胞)の細胞アレイの作製
例1のように作製したパターン化PEGゲルチップ上にマウス胎児線維芽細胞を細胞数600cells/mmで播種し、一日後に接着しなかった浮遊培養をリン酸緩衝液(PBS)によって除去した。このとき細胞接着性のドメイン内部(ガラス露出部位)にフィーダー細胞が接着し、PEGゲル領域には細胞が接着しない。以上の操作により、線維芽細胞のマイクロパターン化アレイを構築することができた。
<実施例1> マウス胎児肝細胞スフェロイドアレイの構築
上記例のようにして得られたドメイン直径・縁間隔がそれぞれ100μmのパターンが形成されたガラス基板上のパターン化表面を構築し、一日経過した後、同表面上にマウス胎児肝細胞を1.1×10cell/mmの細胞数で播種したのち培養を始める。使用培地はWilliams’E培地を基本とし、血清はウシ胎児血清を10%(V/V)、抗生物質としてPenicillin−Streptomycinを1%(V/V)、このほかにInsulin(0.1μM)、Dexamethasone(0.1μM)、Aprotinin(5000KIU/L)を添加した培地を使用した。7日目でスフェロイド形成しなかった浮遊細胞を除去し、7日目以降にスフェロイドの各種活性評価を行い、この日以降の培地交換・浮遊細胞除去の操作はPBSを用いて慎重な洗浄を行った。図1は9日間培養された後の胎生肝細胞スフェロイドを観察した結果で、約60〜70μmの大きさを有するスフェロイドが形成していることがわかる。また、21日培養したスフェロイドのLIVE/DEAD蛍光染色をした結果、スフェロイドを形成する細胞のほとんどが生存していることも確認できた(図2)。
<実施例2> マウス胎児肝細胞スフェロイドの分化誘導
CYP450活性を指標として、実施例1で構築したスフェロイドの分化誘導法の検討を行った。
単層培養系にて有効な分化誘導因子として知られているOSMはマウス胎児肝細胞を基材に播種した翌日に添加した。CYP450活性を測定した結果からCYP450 1A2が発現していることがわかれば、スフェロイドを形成しているマウス胎児肝細胞が分化誘導されていることを示す(CYP450は微量だが肝臓以外の各器官にも存在するが、1Aには完全に分化した成熟肝臓のみに発現するので、この活性を測定することで肝細胞の分化誘導状態を確認することができる)。また、CYP450 1A2はヒト主要CYPファミリーの一つであり、マウス成熟肝臓にも発現することが知られている。
CYP450 1A2はLuciferin−6’methyl etherをLuciferinに変換するため、この発光量を調べることで分化状態を知ることができる。実際の測定方法は以下に示すとおりである。
まず、各培養日数のスフェロイドを0.05%Trypsin−EDTA溶液に10min浸漬させて採取した後、強いピペッティング操作を繰り返すことでスフェロイドを分解させ細胞懸濁液を得た。この各サンプルの細胞懸濁液20μLを96well培養プレートに分注し、Luciferin−6‘methyl etherを各ウェルに0.6μLの容量で添加する。4時間インキュベートした後、発光用のプレートに移して各ウェルにLuciferaseを含むバッファーLuciferin Detection Reagent(P450−GloTMAssay、Promega)を50μL添加することでルシフェラーゼ発光を測定した。図3にその結果を示す。縦軸の測定値は細胞懸濁液を添加していないネガティブコントロール値で規格化した値を用いている。OSMを添加した場合のCYP450活性(fib(+))は、添加していない場合(fib(−))の3〜20倍程度大きな値が観測された。すなわち、以上の結果から、胎生肝細胞スフェロイド/胎児マウス由来の繊維芽細胞の共培養系を構築した後、OSMを添加することで分化した胎生肝細胞スフェロイドの分化を得ることが可能であることが明らかとなった。
またCYP450の活性評価を行った期間中の胎生肝細胞スフェロイドのアルブミン総産生量を測定したところ、胎児マウス由来の繊維芽細胞(fib.)との共培養系においてのみ高いアルブミン活性が観測され、OSMの添加の効果は観測されなかった(図4(a),(b))。以上の結果は、OSMを用いた分化制御過程においてスフェロイドを形成している肝細胞が生存状態にあり、且つ、正しく機能していることを裏付ける結果である。
<実施例3> 胎生肝細胞のスフェロイド形成
成熟肝細胞、肝癌細胞は凝集力が強く、少ない細胞数で短期間にスフェロイド形成することが知られている。血管内皮細胞をフィーダー細胞として用いてスフェロイドアレイを形成させる場合は、成熟肝細胞では細胞数を2.5×10cells/mmで(ChemBioChem 2004、5、850−855)、肝癌細胞では細胞数を1.8×10cells/mmでそれぞれ1日間培養することで直径100μmのパターンに十分に充填されたスフェロイド形成が観察できる(Journal of Photopolymer Science and Technology、Vol.19、NO.4、2006)。
上記の例1のようにして得られたドメイン直径・縁間隔がそれぞれ100μmのパターンが形成されたガラス基板上のパターン化表面にウシ血管内皮細胞(JCRB cell bank name:HH)を播種することでフィーダー細胞のパターン化培養表面を構築した。培地は10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変基本培地(DMEM)を使用した。内皮細胞の播種1日後に、マウスC57BL/6妊娠14日目(14
embryonic days(E.D.14))マウスからの肝臓を採取し、ピペッティングにより胎生肝細胞に分離し0.28、0.55、1.10×10cells/mmの細胞数でパターン化フィーダー細胞上に播種し、7日間経過を観察した(図1参照)。肝細胞の培養には10%ウシ胎児血清(FBS)を含むWilliams’E改変培地を用いた。
0.28、0.55×10cells/mmの細胞数で培養した場合、30μm程度の小さなスフェロイド形成が確認されたが、スフェロイド形成率も低く、スフェロイドを形成していないパターン領域も数多く見られた(図5のa、b参照)。一方、1.10
×10cells/mmでは、直径約70μmのスフェロイドがパターン領域上に非常に高い形成率で出現した(図5のc参照)。スフェロイドが形成される場合、播種された肝細胞はまず内皮細胞上に選択的に接着した後、小さな塊となり、徐々に細胞塊が大きくなっていく現象が観察された。1.10×10cells/mmのような高濃度の細胞濃度条件下においても、1−2日の培養では十分なスフェロイド形成は観察されず、7日間の培養によって大きなスフェロイドが多数形成することが明らかとなった。
本実験結果から、胎生肝細胞のスフェロイドの大きさと形成率は播種した細胞濃度と時間に大きく依存することがわかり、必要な細胞濃度はこれまで報告されていた肝細胞の播種濃度と比較して50倍程度もの高濃度の細胞濃度が必要であり、さらに7日間程度の長期の培養期間が必要であることが明らかとなった。
<実施例4> フィーダー環境の選択による胎生肝細胞スフェロイド機能の制御
この実施例では、胎生肝細胞スフェロイドの活性に対するフィーダ細胞種の与える影響について検討を行う。
上記例1のようにして得られたドメイン直径・縁間隔がそれぞれ100μmの細胞接着性ドメインと細胞非接着性ゲル領域を併せ持つパターン化表面にウシ血管内皮細胞(JCRB CELL bank name:HH)および胎児マウス由来線維芽細胞を播種することで各フィーダー細胞のパターン化培養表面を構築した。フィーダー細胞の代わりのコラーゲンを用いる場合は、1mgのウシ由来コラーゲン1を0.02Nで10mLの酢酸で溶解し濾過滅菌せしめた後、このコラーゲン溶液にガラス基板を一晩浸漬し、上述のパターン化ゲル表面を構築することで実施した。フィーダー細胞の播種1日後およびコラーゲンドメインを持つ表面の作製1日後に、マウスC57BL/6妊娠14日目からのE.D.14マウスの肝臓を採取し、ピペッティングにより肝細胞に分離し1.10×10cells/mmの細胞数でパターン化フィーダー細胞上には主旨に50μLで培養した。肝細胞の培養には10%ウシ胎児血清(FBS)を含むWilliams’E培地を用いた。培地交換は沈殿した細胞を除去しないよう注意を払いながら上澄みのみを100μL除去し同体積分のフレッシュ培地を添加する方法を播種後、2、4、6日目に行った。播種後7日目にスフェロイド形成しない余分な浮遊細胞をマイクロピペットで培地ごと除去し、リン酸緩衝液(PBS)ですフェロイドアレイ表面を持つウェル内をやさしく洗浄した後、フレッシュ培地を250μL添加してスフェロイドの培養をした。9、12、16、21日目に培地を回収しアルブミンの産生量をELISA(Enzyme−Linked Immuno Sorbent Assay)によって定量した。培地の回収後はリン酸緩衝液(PBS)でウェル内をやさしく洗浄しトリプシン−EDTAで10分間培養することでスフェロイドを回収し、スフェロイド(凝集体)は強いピペッティングにより細胞に分散させ、フローサイトメーターによる細胞計数を行った。CYP450 1A2の活性測定は、20μLの細胞分散液とP450−Glo(登録商標)Assay(Promega)を用いて測定した。
本実験結果から、血管内皮細胞をフィーダー細胞として用いると特異的肝機能であるアルブミン産生能が著しく低い状態を持続し、単層培養系とほぼ同程度のアルブミン産生能を示すことが明らかとなった。これは従来の肝細胞スフェロイドの研究結果とは異なる結果である。一方、線維芽細胞をフィーダー細胞として用いた場合、アルブミン産生能が飛躍的に上昇することも見出した。線維芽細胞を用いた場合のアルブミン産生量は3週間の積算値で約2.0ng/cellになる。血管内皮細胞とラット成熟プライマリ肝細胞スフェロイドの組み合わせでは3週間の積算値で約1.1ng/cell程度であることから(ChemBioChem 2004、5、850−855)、従来法に比べ線維芽細胞と胎生肝細胞の組み合わせは多量のアルブミンを産生していることがわかる。またフィーダー細胞の代わりに接着因子としてコラーゲンを足場環境として用いた場合にも胎生肝
細胞スフェロイドが形成されたが、そのアルブミン産生量は3週間の積算値として約0.4ng/cellであった。
また、スフェロイドの分化誘導評価法としてCYP450 1A2の活性を測定することで行ったが、線維芽細胞をフィーダー細胞とした系のうち分化誘導因子OSMを添加した系のみ分化誘導を確認できた。以上により、フィーダー環境によってスフェロイドの機能が大きく変化することがわかった。
以上の結果は、共培養を行うフィーダー細胞を選択することで、基材表面上に構築したスフェロイドの活性や分化の制御が可能であることを示す、大変興味深い結果である。これは従来の肝細胞スフェロイドの研究結果とは大きく異なる点であり、予想外の結果であった。フィーダー環境や成長因子を添加することで、胎生肝細胞スフェロイドの機能を制御(ON/OFF)することが可能であること、さらに、ON時の胎生肝細胞スフェロイドは従来よりも多量のアルブミンを産生する能力があることが明らかとなった。
その結果、血管内皮細胞をフィーダー細胞として用いた場合、特異的肝機能であるアルブミン産生能が著しく低い状態を持続し、胎生肝細胞スフェロイドは単層培養系胎児肝細胞とほぼ同程度のアルブミン産生能しか示さないことが明らかとなった。一方、興味深いことに、線維芽細胞をフィーダー細胞として用いた場合、アルブミン産生能が飛躍的に上昇することが見出された。また、線維芽細胞は継代細胞だけではなく肝臓非実質細胞由来種の場合にも同じような結果を得ることができた。
培養9日目のスフェロイドの微分干渉顕微鏡写真である。 LIVE/DEAD染後の写真(左:OSM(−)、右:OSM(+))薄い色は生細胞を示し、濃い色は死細胞を示す。 CPY450 1A2発現の相対的な活性を示すグラフ表示である。横軸は培養時間(日)を表し、縦軸はネガティブ対照に対して正規化CYP450 1A2相対活性を表す。 OSMを添加しない場合(a)および添加した場合(b)のアルブミン産生量の変化を表すグラフ表示である。横軸は培養時間(日)を表し、縦軸は細胞当たりのアルブミン分泌量(pg/cell)を表す。 胎生肝細胞の播種細部密度の変動のスフェロイド形成に与える影響を示す位相差顕微鏡による7日目のスフェロイド(分化誘導因子なし)形成の写真である。黒い点線の円内にスフェロイド形成を確認した。(a)は胎生肝細胞を0.28×10cells/mmで播種した場合。(b)0.55×10cells/mmで播種した場合。(c)1.1×10cells/mmで播種した場合。

Claims (12)

  1. 基材表面上の小領域に接着したフィーダー細胞の培養物とその上に形成された胎生肝細胞のスフェロイドを含んでなる培養細胞構築物であって、該小領域が直径2〜300μmの円またはその円に相当する面積を有する他の形状をしており、該スフェロイドが該フィーダー細胞と胎生肝細胞の共培養によって形成されたものであり、かつ、該フィーダー細胞が線維芽細胞である、上記の培養細胞構築物。
  2. フィーダー細胞が胎児線維芽細胞である、請求項1記載の培養細胞構築物。
  3. スフェロイドが培養胎生肝細胞を少なくとも50個含む、請求項1記載の培養構築物。
  4. スフェロイドが少なくとも20μmの横断面の直系を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の培養細胞構築物。
  5. スフェロイドが60〜70μmの大きさを有する、請求項1〜4のいずれかに記載の培養細胞構築物。
  6. スフェロイドが培養中にオンコスタチンM(OSM)の刺激によりシトクロム450(CYP)1A2を発現するようになる、請求項1〜5のいずれかに記載の培養細胞構築物。
  7. 小領域が同一平面上に複数存在し、かつ,各小領域が、連続する細胞非接着性材料の表面により、相互に少なくとも30μmの間隔において分離されている請求項1〜6のいずれかに記載の培養細胞構築物。
  8. 基材表面上の連続する細胞非接着性材料の表面により少なくとも30μmの間隔において分離されている複数の小領域上でフィーダー細胞を培養して該小領域に接着したフィーダー細胞層を形成するステップであって該フィーダー細胞が線維芽細胞である、ステップ、および
    形成されたフィ−ダー細胞層上で胎生肝細胞を培養して胎生肝細胞のスフェロイドを形成するステップ
    を含んでなる胎生肝細胞のスフェロイドを含有する培養構築物の作製方法。
  9. 小領域が直径2〜300μmの円またはその円に相当する面積を有する請求項8記載の作製方法。
  10. フィ−ダー細胞層上で1.00×104cells/mm2以上の細胞密度において胎生肝細胞を培養する、請求項8または9記載の作製方法。
  11. 請求項1記載の培養細胞構築物を必須構成員として含んでなる成熟肝細胞またはシトクロム450(CYP)1A2を発現する肝細胞を誘導するための細胞調製用キット。
  12. 培養構築物の培地およびオンコスタチンMから選ばれるいずれか1種または両者をさらに含み、該フィーダー細胞が線維芽細胞である、請求項11記載のキット。
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