以下、本発明の一実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができることは勿論である。
図1〜図10は、本発明の一実施形態に係るものであり、図1は車両用シートの斜視図、図2は車両用シートの各フレームの斜視図、図3−1,図3−2は阻止手段としての荷重保持部材の説明図、図4は下側リンクの作動の説明図、図5は下側リンクの作動の断面説明図、図6は後突によるリンク機構の作動の説明図、図7は荷重保持部材の他の例の説明図、図8〜図10は、変形防止手段及び下側リンクの作動の説明図である。
本実施形態の車両用シートSは、図1に示すように、着座部1と、シートバック2と、シートバック2の上部に取付けられたヘッドレスト3とを備えている。本実施形態の着座部1、シートバック2は、それぞれ着座フレーム10、シートバックフレーム20(図2参照)にクッション材4を取付け、クッション材4の外周を表皮材5により被覆して構成されている。また、ヘッドレスト3の構成は任意であり、少なくとも乗員の頭部を支持する頭部支持部7と、頭部支持部7をシートバック2に装着するためのピラー8とを備えて構成されている。
図2に示すように、本実施形態の車両用シートSのフレームは、着座部1を構成する着座フレーム10、シートバック2を構成するシートバックフレーム20、車両用シートSを車体のフロア(不図示)と連結するベースフレーム11等から構成されている。シートバックフレーム20は、左右に離間して配設された上下方向に所定の長さを有する一対のサイドフレーム21,21と、サイドフレーム21,21の上端部を連結する上部フレーム22と、サイドフレーム21,21の下端部を連結する下部フレーム23を有している。
シートバックフレーム20内側の上部フレーム22近傍には、ヘッドレスト3を保持するための左右に延在するヘッドレスト取付杆30が配設されている。ヘッドレスト3のピラー8は、このヘッドレスト取付杆30に設けられた2つのピラー支持部材31に挿通され、高さ調節可能に取付けられている。ピラー8とピラー支持部材31の構成は公知であり、ピラー8に形成した不図示の係合凹部にピラー支持部材31に設けた係合部材を係合させて保持させている。
また、ヘッドレスト取付杆30の両端には板状のリンクブラケット36の一端が溶接等により固定されており、各リンクブラケット36はシートバックフレーム20側に軸37を介して回転支持部材39の一端と回動可能に連結されている。本実施形態の回転支持部材39は、上部フレーム22のサイドフレーム21との連結部近傍に溶着されている。なお、このリンクブラケット36及び回転支持部材39が、本実施形態における上側リンク35を構成している。
このようにして、ヘッドレスト取付杆30はリンクブラケット36及び回転支持部材39を介して、シートバックフレーム20に軸37で回動可能に取付けられる。すなわち、ヘッドレスト取付杆30にヘッドレスト3を取着した状態では、ヘッドレスト3がシートバックフレーム20に対して軸37で回動する。
ヘッドレスト3は、車両が後方から衝撃を受けて乗員が後方へ移動したとき、シートバック2に対して前方へ移動し、乗員の頭部を積極的に支持するアクティブヘッドレスト機構を構成している。ヘッドレスト3の前方移動は、伝達手段としてのリンク機構によりなされる。このリンク機構は上側リンク35と、下側リンク45と、上側リンク35と下側リンク45を連結するコネクティングリンク40とから構成されている。なお、リンク機構の作動については後述する。
図2に示すように、リンクブラケット36はヘッドレスト取付杆30との連結部分から下方に延出しており、ヘッドレスト取付杆30と反対側の端部には、軸38を介してコネクティングリンク40の上端部が回動可能に固定されている。
コネクティングリンク40は上下方向に延在する板状の部材であり、リンクブラケット36の下端部から垂下して設けられている。コネクティングリンク40の下端部は、図2及び図4に示すように、下側リンク45の下側前方の角部と軸43で回動可能に連結されている。このようにして、コネクティングリンク40は下側リンク45と上側リンク35を連結している。
下側リンク45は、略L字形の板状の部材であり、サイドフレーム21の内側の面に軸47で回動可能に固定されている。また、下側リンク45の軸43の下方にはワイヤ係止孔48が形成されており、このワイヤ係止孔48には後述するワイヤスプリング51の一端が挿通されている。ワイヤスプリング51はその挿通された端部が折曲され、ワイヤ係止孔48に係止されている。
図2に示すように、シートバックフレーム20の中央部には、受圧部としての板状支持体50が配設されている。この板状支持体50は、乗員の背部を支持するための板状の部材であり、通常の着座時は乗員の背部を面で支持して着座姿勢を安定させるとともに、車両が後方から衝突を受けたときは乗員の後方移動により押圧されて後方に移動し、リンク機構を作動させる機能を備える。
板状支持体50は、上下に並設された2本のワイヤスプリング51,52を介して左右のシートバックフレーム20に前後移動可能に取付けられている。上方に配設されたワイヤスプリング52はシートバックフレーム20に取付けられ、下方に配設されているワイヤスプリング51は、前述したように下側リンク45のワイヤ係止孔48に係止され、下側リンク45を介してシートバックフレーム20に取付けられる。
本実施形態の板状支持体50は、乗員を支持し得る程度の強度を有するようポリプロピレン等の合成樹脂によって形成されており、乗員からの後方荷重を受けたときにある程度弾性変形しながら乗員を支持するようになっている。また、本実施形態のワイヤスプリング51,52は、所定の弾性を有しており、板状支持体50に荷重が加わったときにある程度伸張して板状支持体50を後方に移動させるようになっている。このようなワイヤスプリング51,52としては、ジグザグスプリングやフォームドワイヤスプリング等を用いることができる。
板状支持体50の上方には、左右方向に延在するばね支持ワイヤ58がサイドフレーム21に両端を固定して配設されており、ヘッドレスト取付杆30とばね支持ワイヤ58との間に2つの戻しばね57が離間して平行に配設されている。この戻しばね57は、車両の後突時以外には、ヘッドレスト3を起立させるようにヘッドレスト取付杆30を後方に付勢している。
さらに、本実施形態の車両用シートSでは、コネクティングリンク40と下側リンク45の間に、板状支持体50が後突時にかかる荷重より小さな荷重を受けたときにはコネクティングリンク40及び下側リンク45の回動を阻止する阻止手段としての荷重保持部材60が配設されている。
図3−1,図3−2は本実施形態の荷重保持部材60を示す説明図であり、図3−1(a)は荷重保持部材60の斜視図,図3−1(b)は側面図,図3−2(c)は正面図,図3−2(d)は背面図である。本実施形態の荷重保持部材60は、曲げ加工により、図3−1(a)に示すように1枚の板ばねを片60a,片60b,片60c,片60d,片60e,片60f,片60g,片60hに折曲して形成されている。また荷重保持部材60は、係止部61と、阻止部62と、係止部61と阻止部62とを連結する連結部63と、連結部63と対向した位置に形成された撓み許容部64とから構成されている。
係止部61は、荷重保持部材60を下側リンク45に固定させるもので、図3−1(b)に示すように、片60aと片60bと片60cで一辺が開いた矩形状に形成され、下側リンク45を挟持する。なお、この片60cが、下側リンク45と対向する第1の片である。
また、片60a中ほどから上側には、U字状に切欠いた係合溝61aが設けられており、片60cの中央部には、U字状の切込みを形成することで半長円状の係合押部61bが設けられている。この係合溝61a及び係合押部61bは、後述する下側リンク45に固定するときに、それぞれ下側リンク45の係合凸部45a及び係合凹部45bと係合させて、固定を確実にするためのものである。
阻止部62は、コネクティングリンク40が後方に移動するのを阻止するもので、片60e,片60f,片60gからなる。片60fはコネクティングリンク40の後方移動方向、すなわち図3−1(b)の矢印C方向に対して一定の角度を有するように折曲された第1傾斜面62aを形成しており、片60eは第1傾斜面62aから連続して延出し、コネクティングリンク40の後方移動方向に対して第1傾斜面62aと反対方向に傾斜する第2傾斜面62bを形成している。なお、本実施形態の荷重保持部材60では、コネクティングリンク40の後方移動方向(図3−1(b)における矢印C方向)に対する第1傾斜面62aのなす角度αは45度となるように形成されている。また、コネクティングリンク40の後方移動方向に対する第2傾斜面62bのなす角度βは、第1傾斜面62aのなす角度αより小さい角度で形成されている。
片60gは、荷重保持部材60を下側リンク45とコネクティングリンク40の間に取付けたときにコネクティング40に対向する位置に配設される、第2の片である。
連結部63は、係止部61と阻止部62とを連結するもので、片60dで構成されている。撓み許容部64は、片60hと、片60hの中間部に設けられた溝64aと、片60cから片60h方向に延出し、溝64aよりも狭い幅を有して溝64aの間に位置するガイド部64bとで形成されている。荷重保持部材60の一部がコネクティングリンク40と下側リンク45の間に配設され、押圧されて弾性変形したときに、片60cと片60hが交差して撓みを許容するように構成されている。
図5(a)は、通常時(後突以外でヘッドレストが起立している状態の時)の荷重保持部材60の取付け状態を示すもので、図4(a)のY1−Y1断面図である。荷重保持部材60は、図5(a)に示すように、荷重保持部材60の係止部61の開口側から板状の下側リンク45を嵌入して挟持させ、阻止部62の片60gの面をコネクティングリンク40に当接させて、撓み許容部64がコネクティングリンク40と下側リンク45の間に位置するように配設する。また、コネクティングリンク40の後方(図5(a)において右側)端部40aが、荷重保持部材60の阻止部62の第1傾斜面62aよりも前方(図5(a)において左側)に位置するように取付ける。
なお、荷重保持部材60の下側リンク45への固定を確実にするために、荷重保持部材60の係合溝61aを、下側リンク45のサイドフレーム21に対向する面の上方に形成された係合凸部45aに係合させる。また、荷重保持部材60の係合押部61bを、下側リンク45のサイドフレーム21と反対側の面の上方に形成された係合凹部45bに係合させる。係合押部61bは下側リンク45側へ屈曲しており、係合凹部45bを押圧している。
この荷重保持部材60は板ばねの弾性により、コネクティングリンク40と下側リンク45を離間させる方向、すなわち図5(a)の矢印P方向に付勢している。なお、Pはばね力(弾性)を示す。したがって、荷重保持部材60は、ばね力P及びコネクティングリンク40の後方(図5(a)において右側)に位置する阻止部62の第1傾斜面62aによって、板状支持体50が乗員の後方荷重を受けてリンク機構を作動させる荷重、すなわち動き出し荷重を増加させ、所定の大きさ以上の荷重が加わるまではコネクティングリンク40のストッパの機能をなすものである。
次に、車両の後突発生時の車両用シートSの作動について説明する。
図6は、図2に示すシートバックフレーム20及びその内側に配設されている部材のX−X断面図である。図6に示すように、車両が後方から衝突を受け、板状支持体50に所定の大きさ以上の荷重がかかると、板状支持体50及びワイヤスプリング51が後方、すなわち図6の矢印A方向に移動する。ワイヤスプリング51が後方に移動すると、下側リンク45の下部がワイヤスプリング51に牽引され、軸47を中心として図6の矢印B方向に回動する。
下側リンク45が矢印B方向に回動すると下側リンク45とコネクティングリング40とを連結している軸43が後方に移動し、コネクティングリンク40が後方、すなわち図6の矢印C方向に移動する。すると、コネクティングリンク40の上側と連結されているリンクブラケット36の下側が後方、すなわち図6の矢印C方向に移動し、リンクブラケット36は軸37を中心に図6の矢印D方向に回動する。これにより、リンクブラケット36の上側に連結するヘッドレスト取付杆30が前方に移動し、ヘッドレスト3が図6の矢印E方向、すなわち前方へ移動する。
このように、車両の後突時には板状支持体50で受けた荷重によりリンク機構が作動して、ヘッドレスト3を前方へ移動して乗員の頭部を支持するようにしているが、このリンク機構を作動させる荷重、すなわち動き出し荷重が小さい場合には、車両の急加速等、後突以外の原因により生じる後突時より小さい荷重によって、リンク機構が作動してしまい、ヘッドレスト3が前方へ移動してしまうことがある。このように後突時に発生する荷重より小さい荷重でヘッドレストが前方へ移動することを防止するための手段として、本実施形態の車両用シートSでは、下側リンク45に阻止手段としての荷重保持部材60を設けている。
この荷重保持部材60の作用について、図4,図5を用いて説明する。図4(a)は通常の状態の下側リンク45周辺の拡大説明図、図5(a)はそのY1−Y1断面図、図4(b)は後突が発生してリンク機構が作動した状態の下側リンク45周辺の拡大説明図、図5(b)はそのY2−Y2断面図である。
通常の着座状態では、図5(a)に示すように、荷重保持部材60のばね力(弾性)Pが下側リンク45からコネクティングリンク40方向へ作用しており、コネクティングリンク40を付勢している。また、コネクティングリンク40の後方(図5(a)において右側)端部40aは、荷重保持部材60の阻止部62の第1傾斜面62aよりも前方(図5(a)において左側)に位置している。
この状態で、板状支持体50が着座している乗員から後方への荷重を受けた場合、ワイヤスプリング51が下側リンク45を牽引し、下側リンク45及びコネクティングリンク40を後方、すなわち図4(a),図5(a)の矢印C方向へ移動させる力が作用する。ここで、後方荷重が後突時の大きさより小さいある一定の大きさまでは、板ばねで形成された荷重保持部材60のばね力Pによる摩擦力、及び後方端部40aより後方に位置する第1傾斜面62aにより、コネクティングリンク40の後方への移動が阻止される。すなわち、荷重保持部材60がコネクティングリンク40のストッパとして機能し、リンク機構が作動しない。
このように、車両の急加速等によりある程度の大きさの後方荷重が生じた場合でも、荷重保持部材60を下側リンク45とコネクティングリンク40の間に設けることで、リンク機構の動き出し荷重を増加させてリンク機構を作動させないようにし、ヘッドレスト3が前方へ移動しないようにできる。このばね力Pは、例えば、第1傾斜面62aの傾斜角αが45度に設定された荷重保持部材60においては、リンク機構の動き出し荷重が500Nとなるように設定することにより、後突時のリンク機構の作動に影響を及ぼさず、且つ通常の着座時においてリンク機構が作動しないようにすることができる。
車両の後突によりさらに大きな荷重が加わった場合には、コネクティングリンク40が荷重保持部材60の第1傾斜面62aと第2傾斜面62bの境界部62cを乗り越えて図4(b),図5(b)に示すように後方へ移動し、リンク機構が作動してヘッドレスト3が前方へ移動する。このとき、コネクティングリンク40は荷重保持部材60の阻止部62の第1傾斜面62aよりも後方(図5(b)において右側)へ移動する。この状態から板状支持体50を押圧する荷重が解放されると、板状支持体50の上方に配設されている戻しばね57によりコネクティングリンク40が上方向、すなわち図4(b)の矢印U方向に牽引され、コネクティングリング40と下側リンク45とを連結している軸43が前上方向に移動し、下側リンク45が軸47を中心として図4(b)の矢印F方向に回動する。
このとき、図5(b)に示すように、コネクティングリンク40は荷重保持部材60のばね力Pに反して荷重保持部材60の第1傾斜面62aと第2傾斜面62bの境界部62cを押圧しながら図5(b)の矢印G方向、すなわち前方向に移動する。ばね力Pは、戻しばね57の付勢力により、荷重保持部材60とコネクティングリンク40の摩擦力に反してリンク機構が戻る程度の大きさに設定することで、リンク機構を通常状態に戻すことができ、リンク機構の戻り作動を妨げることがない。
また、コネクティングリンク40の後方移動方向(図5(a)における矢印C方向)に対する第2傾斜面62bの傾斜角βは、第1傾斜面62aの傾斜角αよりも小さく設定されているため、リンク機構の動き出し荷重を超える荷重が加わってコネクティングリンク40が後方移動し始めた後は低荷重で後方移動を継続することができるとともに、コネクティングリンク40が前方移動して戻るときには荷重保持部材60によりコネクティングリンク40の前方方向への移動が阻止されることがない。すなわち、荷重保持部材60によりリンク機構の作動性能に影響を与えることがない。
さらに、コネクティングリンク40の前方端部40bが阻止部62の第1傾斜面62aと第2傾斜面62bの境界部62cより後方に位置しない範囲(図5(b)に示すコネクティングリンク40の位置までの範囲)で移動するように、荷重保持部材60の配設位置を適切に設定する。コネクティングリンク40の移動範囲をこのように限定することで、コネクティングリンク40が通常状態の位置に戻る際に、荷重保持部材60の阻止部62に移動を阻害されることなく作動できる。
なお、本実施形態の荷重保持部材60は、係止部61を下側リンク45に固定して、阻止部62をコネクティングリンク40側に向けてコネクティングリンク40の移動を阻止するように配設したが、反対の向きに配設してもよい。すなわち、係止部61でコネクティングリンク40を挟持して固定し、阻止部62を下側リンク45側に向けて配設しても同様の効果が得られる。
また、本実施形態では、リンクブラケット36と回転支持部材39でヘッドレスト取付杆30を回動可能とする上側リンク35を構成しているが、これに限らず、例えば特許文献1(特開2006−182094号公報)に開示されている複数のリンク杆を用いて回動可能とするものなど、下側リンク45からの回動力を伝達してヘッドレスト3を前方に移動させる構成であればよい。
上述した荷重保持部材60では、コネクティングリンク40の後方移動方向に対する第1傾斜面62aの傾斜角αを45度に形成したが、これに限らず、傾斜角αを任意の大きさにすることができる。第1傾斜面62aの傾斜角αを大きい値、すなわち第1傾斜面62aの傾斜を大きく形成した荷重保持部材60では、コネクティングリンク40の動き出し荷重を大きくすることができるため、後突以外でのリンク機構の作動防止性能、及び通常着座時のガタツキ防止性能を高めることができる。一方、第1傾斜面62aの傾斜角αを小さい値、すなわち第1傾斜面62aの傾斜をなだらかに形成した荷重保持部材60では、後突発生時のリンク機構の作動及び作動後のリンク機構の戻しを容易、確実にし、リンク機構の性能を優れたものにできる。
さらに、荷重保持部材60を図7に示すような形状に形成することもできる。図7は、荷重保持部材60の他の例を示すものであり、図7(a)は荷重保持部材60の正面図、図7(b)はその側面図である。本例の荷重保持部材60は、阻止部62の第1傾斜面62a及び第2傾斜面62bを、連続した曲面(アール)で形成している。このように、阻止部62をアール形状にすると、第1傾斜面62a及び第2傾斜面62bを平面で形成した場合に比べ、後突発生時のリンク機構の作動及び作動後のリンク機構の戻しがスムーズになり、リンク機構の作動を確実にすることができる。また、阻止部62のアールの曲率を変更することによりリンク機構の動き出し荷重を変更することができるため、所望の動き出し荷重が得られるように適宜曲率を決定すればよい。
上述したように荷重保持部材60の阻止部62の角度や曲率を変更することができるほか、荷重保持部材60の形状を変更してばね力(弾性)を変更することができる。また、荷重保持部材60を形成する板ばねの板厚、板幅、材質(硬度)等を変更することでばね定数を適切な値に設定し、リンク機構の動き出し荷重に対応させてばね力(弾性)を調整することもできる。これらの各要素は、リンク機構の動き出し荷重の閾値に合わせて所望の性能が得られるように適宜決定して用いることができる。
このようにばね力や形状を調整して荷重保持部材60を形成することで、車両用シートの種類に応じた動き出し荷重の調整が可能となる。
次に、図8〜図10を参照して、変形防止手段70、及び後突等で衝撃荷重を受けたときのリンク機構及び変形防止手段材70の作動を説明する。図8(a)は通常の状態の下側リンク45周辺の拡大説明図、図8(b)はそのZ1−Z1断面図、図9(a)は後突が発生したときの拡大説明図、図9(b)はそのZ2−Z2断面図、図10(a)は後突が発生してリンク機構が作動した状態の拡大説明図、図10(b)はそのZ3−Z3断面図である。
本実施形態の変形防止手段70は、図8(a)に示すように、維持部材としての重り71と、重り71を保持する連結部材72と、連結部材72を軸支する軸支部73と、重り71及び連結部材72の衝突荷重による回動を阻止する阻止付勢部材74と、阻止付勢部材74を下側リンク45に取着するための治具75と、重り71と連結部材72の阻止付勢部材74による回動を規制するための規制部材としてのストッパ76を有している。
本実施形態の重り71は直方体状で所定の重量を有する鋼材等で形成されている。重り71は、図8(a),(b)に示すように、荷重保持部材60の内部に位置するように配設されている。さらに、通常時には、コネクティングリンク40と下側リンク45の間、かつ荷重保持部材60の下側リンク45と対向する第1の片60cとコネクティングリンク40と対向する第2の片60gの間に位置するように配設されている。また、重り71と、第1の片60c及び第2の片60gそれぞれの間には、重り71が下側リンク45の面方向に沿って移動できる程度のクリアランスが設けられている。
本実施形態の連結部材72は長尺状で、一端が軸支部73によって軸支部73を中心として回動可能に下側リンク45に取付けられている。すなわち、軸支部73は連結部材72を介して下側リンク45と軸支されている。連結部材72を取付けるための軸支部73としては例えばリベットを用いることができ、連結部材72及び下側リンク45のそれぞれの取付孔(不図示)にリベットを挿通し、リベットの先端をかしめて連結部材72を下側リンク45に取付けることができる。連結部材72の他端は、重り71と溶接等で連結されており、連結部材72が軸支部73を中心に回動するとき、維持部材としての重り71も軸支部73を中心に、下側リンク45の面方向に沿って回動する。この連結部材72は湾曲しない程度の硬質の部材で構成してもよく、また、板ばねを用いてもよい。なお、軸支部73は、荷重保持部材60の取付け位置より上方に設けられている。
連結部材72には、車両の進行方向(前方向)、すなわち図8において左方向に連結部材72を付勢する、阻止付勢部材74の一端が連結されている。本実施形態の阻止付勢部材74は渦巻きばねで形成されており、渦巻きばねの渦巻きの中心側に軸支部73が位置するように配設され、渦巻きの中心側の端部が連結部材72に固着されている。阻止付勢部材74の他端、すなわち渦巻きの外側の端部は、治具75により軸支部73より上方で下側リンク45に固着されている。
さらに、重り71と連結部材72の阻止付勢部材74による回動を規制するための規制部材として、ストッパ76が設けられている。阻止付勢部材74は車両の進行方向(前方向)に連結部材72を付勢しているため、その付勢力により、連結部材72と連結部材72に保持されている重り71が軸支部73を中心に車両の前方向に回動する。ストッパ76はこの回動量を一定に規制するためのものであり、下側リンク45にピンを溶着してもよいし、又は下側リンク45に一体に突起を形成してもよい。なお、本実施形態のストッパ76は連結部材72と当接する位置に形成されているが、重り71と当接する位置に形成してもよい。
この変形防止手段70を設けた場合、リンク機構及び荷重保持部材60は次のように作動する。通常の状態では、図8(b)に示すように、重り71がコネクティングリンク40と下側リンク45の間に位置する荷重保持部材60の内側に配設されている。よって、この状態で板状支持体50が後方への荷重を受け、コネクティングリンク40が後方、すなわち図8(a),(b)の矢印C方向へ移動しようとしたとき、荷重保持部材60が撓み、第2の片60gの内側の面が重り71に当接すると、重り71に阻止されてそれ以上撓むことができない。したがって、コネクティングリンク40は荷重保持部材60の阻止部62を乗り越えることができないため、リンク機構は作動しない。
このように、車両の走行時又は静止時にシートバック2に荷重がかかった場合でも、変形防止手段70を設けることにより、阻止付勢部材74の前方向への付勢力によって重り71がコネクティングリンク40と下側リンク45の間に位置している間はリンク機構が作動することなく、ヘッドレスト3が前方へ移動することがない。例えば、シートバック2を倒してフルフラット状態にし、乗員がシートバック2に膝をついたりすることによりシートバック2が静的な荷重を受けた場合は、重り71は阻止付勢部材74に付勢されてコネクティングリンク40と下側リンク45の間に位置しているため、リンク機構が作動せず、ヘッドレスト3が前方へ移動することがない。したがって、ヘッドレスト3が後突以外で前方へ移動してしまうという煩わしさを解消できる。
また、乗員が着座した状態で急加速等により後突より小さい荷重がシートバック2にかかった場合も、その衝撃荷重が所定の大きさより小さい場合には重り71が後方へ移動しないように阻止付勢部材74のばね力と重り71の重さを設定しておくと、後突以外でシートバック3に所定の大きさより小さい荷重がかかった場合にもリンク機構の作動を阻止することができ、ヘッドレスト3が前方へ移動することがない。
図9(a),(b)は後突が発生した場合の変形防止手段70を示している。後突で生じる荷重では阻止付勢部材74の前方への付勢力に反して重り71が後方へ移動するように阻止付勢部材74のばね力と重り71の重さを設定しておくと、後突が発生した場合に重り71が車両進行方向の反対方向(後方)へ移動する。図9(a),(b)で示すように、後突時には重り71は軸支部73を中心に回動して後方、すなわち図9(a),(b)の矢印H方向に移動する。
重り71が後方に移動すると、重り71がコネクティングリンク40と下側リンク45の間に位置する荷重保持部材60の第1の片60cと第2の片60gの間から移動するため、図10(a),(b)に示すように、荷重保持部材60が撓むことができる。すなわち、板状支持体50にかかった衝撃荷重がコネクティングリンク40に伝わり、コネクティングリンク40が後方(図9(a),(b)の矢印C方向)へ移動しようとしたときに、荷重保持部材60は重り71に阻止されず撓むことができるため、コネクティングリンク40は荷重保持部材60の阻止部62を乗り越え、リンク機構が作動する。その結果、ヘッドレスト3は前方へ移動して、乗員の頭部を支持する。なお、このときのリンク機構の作動及びヘッドレスト3の前方移動は、前述した動きと同様であるので、説明を省略する。
このように、変形防止手段70の維持部材としての重り71を荷重保持部材60の内側に設けることにより、シートバック2に後突による衝撃荷重より小さい荷重や静的荷重がかかったときには、リンク機構が作動しないようにすることができ、ヘッドレスト3が後突以外で前方へ移動するのを防止することができる。
なお、上述した実施形態では、連結部材72を軸支部73によって下側リンク45に取付けたが、軸支部73の軸支位置はこれに限られず、軸支部73をコネクティングリンク40に軸支させて、連結部材72を回動可能にコネクティングリンク40に取付けてもよい。重り71の位置を、後突以外の状態では荷重保持部材60の下側リンク45と対向する第1の片60cとコネクティングリンク40と対向する第2の片60gの間に位置し、後突が発生した場合には後突荷重により後方へ移動できるような位置に配設されるように設定することで、連結部材72を軸支部73によりコネクティングリンク40に取付けた場合にも、変形防止手段70が上述した作動と同様に作動し、同様の効果が得られる。
以上説明したように、本発明の車両用シートによれば、荷重保持部材60を設け、リンク機構の動き出し荷重を増加させることで、車両の急加速等により後突時の荷重より小さいがある程度の大きさの荷重がシートバック2に加わったときに、リンク機構を作動させてヘッドレスト3を前方へ移動させることを防止でき、且つ、後突時のリンク機構の作動性能に影響を及ぼすことがない。
また、急加速や急停止等の場合でも、板状支持体50からの荷重を荷重保持部材60で緩和して板状支持体50のガタツキを抑制できるため、腰椎支持性能に優れ、着座性能と後突時の乗員の頭部保護の性能を両立することができる。
さらに、変形防止手段70を設けることで、後突による衝撃荷重より小さい荷重や静的荷重がかかったときには、リンク機構が作動しないようにすることができ、ヘッドレスト3が後突以外で前方へ移動するのを防止するとともに、後突発生時には確実にリンク機構を作動させ、乗員の頭部を保護することができる。