〔第1実施形態〕
本発明に係るサンプル分離吸着器具の一実施形態について、図1〜7に基づいて説明すれば以下の通りである。
なお、本明細書において「吸着」なる用語は、「転写」を意味することを意図している。
図1は、本発明の第1実施形態に係るサンプル分離吸着器具100の概略構成を示す断面図であり、図2はサンプル分離吸着器具100の概略構成を示す斜視図であり、図3はサンプル分離吸着器具100のサンプル吸着に関与する構造を拡大して示す断面図である。
なお、以下の説明では、サンプル分離吸着器具100において、図1に示す上下方向をZ軸方向とし、サンプルの分離方向をX軸方向とし、X軸およびZ軸のいずれにも垂直な方向をY軸方向としている。
図1〜図3に示すように、サンプル分離吸着器具100は、陰電極1、陽電極2、第1緩衝液を入れるための第1緩衝液槽3、第2緩衝液を入れるための第2緩衝液槽4、分離媒体6を格納するサンプル分離部5、吸着用部材(サンプル吸着用部材)7を保持するための保持部8、およびこれらを収容する収容容器9を備えている。また、サンプル分離部5の先端部(一端)13には転写補助体10が取り付けられる。
本実施形態では、第1緩衝液槽3に第1緩衝液を、第2緩衝液槽4に第2緩衝液を入れたとき、陰電極1と陽電極2とが、第1および第2緩衝液、分離媒体6、転写補助体10、吸着用部材7、ならびに保持部8を介して、電気的に接続される。陰電極1と陽電極2とが電気的に接続されることによって、分離媒体6内のサンプルが電気泳動して分離し、分離したサンプルがさらに、転写補助体10を介して吸着用部材7へ吸着することができる。
また、本実施形態では、分離後のサンプルが吸着用部材7に吸着する際、吸着用部材7が図1および図2中の矢印方向(Z方向)に移動する。これによって、サンプルを吸着用部材7に連続的に吸着させることが可能となる。なお、吸着用部材7の移動については、適当な移動手段(図示しない)を用いて行えばよい。
以下に、各部材について詳細に説明する。
第1緩衝液槽3および第2緩衝液槽4は、第1緩衝液および第2緩衝液がそれぞれ充填される槽であり、その内側には陰電極1および陽電極2がそれぞれ配置される。第1緩衝液および第2緩衝液としては、特に限定されず、一般に電気泳動に用いられる組成の緩衝液から、用途、目的に応じて、適宜選択することができる。なお、第1緩衝液と第2緩衝液は同じ緩衝液を使用しても構わない。
陰電極1および陽電極2は、導電性のある素材から形成すればよいが、電極のイオン化を防ぐため、素材には白金を用いることが好ましい。
サンプル分離部5は、その内部に分離媒体6を格納するように構成されており、収容容器9に固定されている。また、サンプル分離部5は、サンプルを分離する分離方向の両端となる部位に、それぞれ開口を有している。具体的には、第1緩衝液槽3側に第1開口11を有し、第2緩衝液槽4側に第2開口12を有している。よって、分離媒体6は、サンプル分離部5の内部をX軸方向に貫通するように格納される。分離媒体6は、格納時、第1開口11を介して第1緩衝液槽3内に面し、第2開口12を介して第2緩衝液槽4内に面する。なお、サンプル分離部5は、例えば、アクリルまたはガラス等の絶縁体を用いて作製することができる。
分離媒体6は、電気泳動によってサンプルを分離するための媒体であり、一般に電気泳動法に用いられる媒体、例えば、ポリアクリルアミドゲルまたはアガロースゲル等を用いることができる。あるいは、いわゆるナノピラーと呼ばれる超微細柱をサンプル分離部5の内部に等間隔で林立させた構成であってもよい。
分離媒体6は、分離すべきサンプルを含んだ状態で、サンプル分離部5に格納されてもよいし、あるいは、サンプル分離部5に格納された後に、サンプルを添加されてもよい。サンプルとしては、特に限られないが、生物材料(例えば、生物個体、体液、細胞株、組織培養物、または組織断片)からの調製物を用いることができ、好ましくはポリペプチドまたポリヌクレオチドを用いることができる。また、市販されている試薬等を用いてもよい。
吸着用部材7は、サンプルを吸着するための部材である。図2に示すように、吸着用部材7は、吸着用部材7は第2緩衝液槽4内に配置され、第2緩衝液を第2緩衝液槽4に入れることによって第2緩衝液槽4内の第2緩衝液に浸った状態になる。この状態によれば、吸着用部材7の乾燥が防止されるため、陰電極1と陽電極2との電気的な接続が好適になる。
吸着用部材7は、強度を確保できる材料からなることが好ましく、例えば、サンプルがタンパク質の場合にはPVDF(Polyvinylidene difluoride)膜等を用いることができる。なお、PVDF膜は予めメタノールなどを用いて親水化処理を行っておくことが好ましい。また、他にもナイロン、ニトロセルロースなどの、従来用いられている核酸またはタンパク質が結合しやすい膜を用いることができる。
本実施形態に係るサンプル分離吸着器具100は、吸着用部材7を取り付けた状態で提供されてもよく、あるいは、使用者が吸着用部材7を後からセットする構成で提供されてもよい。
保持部8は、第2緩衝液槽4内に配置され、吸着用部材7が転写補助体10に接触した状態になるよう、吸着用部材7を保持する構成を有する。このとき、保持部8は、陰電極1と陽電極2との間に起こる電気的接続を阻害しないように構成されることが好ましい。本実施形態における保持部8は、図1に示すように、陰電極1と陽電極2の間に配置されるため、導電性を有する物質から構成されることが好ましい。
例えば、保持部8は、PVA(Polyvinyl alcohol)スポンジ、シリコンスポンジ、または生化学用濾紙等といった多孔性物質を緩衝液に浸して空気を抜き、緩衝液で満たした物質から構成されても構わない。この場合、サンプル分離吸着器具100は、使用者が、予め緩衝液が満たされた状態の多孔性物質を取り付ける構成で提供されてもよいし、使用者が自ら多孔性物質に緩衝液を満たし、それを取り付ける構成で提供されてもよいし、あるいは、使用者がサンプル分離吸着器具100に多孔性物質を取り付けた後に、多孔性物質に緩衝液を満たす構成で提供されてもよい。
転写補助体10は、サンプルが透過可能なものであればよく、サンプル分離部5の先端部13において第2開口12を介して分離媒体6と接するように取り付けられる。ここで、吸着用部材7は、取り付けられた転写補助体10と接触するように、保持部8によって保持される。このため、分離媒体6から吸着用部材7へのサンプルの転写は、従来技術とは異なり、転写補助体10を介して行なわれる。このため、サンプルの緩衝液中への自己拡散(流出)を防ぐができる。したがって、サンプルの緩衝液への流出によるサンプル吸着量の減少が抑制され、効率のよいサンプルの転写が可能となる。また、吸着用部材7の移動による摩擦が分離媒体6に直接生じることがないため、安定したサンプル分離結果を得ることができる。
なお、転写補助体10は、吸着用部材7と接触する際、接触面が一定になる(窪みや歪みがない)ことが望ましい。具体的には、後述にて図5を参照して説明しているが、転写補助体10がZ軸方向に曲線を描いている場合であっても、吸着用部材7と転写補助体10とはY軸方向に一定に接していることが望ましい。
転写補助体10としては、例えばゲルが挙げられる。転写補助体10がゲルから構成されると、吸着用部材7の潤滑性が高まり、吸着用部材7の移動の際に生じる摩擦力を減らすことができ、摩擦力によるサンプルの転写パターンのムラが抑制される。
転写補助体10のゲルとしては、サンプルの透過に影響しないものであれば限定はされないが、例えばポリアクリルアミドゲル、アガロースゲル、ハイドロゲル、およびトポロジカルゲルなどが挙げられる。
本実施形態では、サンプル分離部5に分離媒体6を格納する前に、サンプル分離部5の先端部13に転写補助体10を取り付けてもよいし、サンプル分離部5に分離媒体6を格納してから転写補助体10を取り付けてもよい。
転写補助体10のZ軸方向の幅は、サンプル分離部5の先端部13における(第2開口12を介して露出する)分離媒体6のZ方向の幅以上であることが好ましく、サンプル分離部5の先端部13における(第2開口12を介して露出する)分離媒体6のZ方向の幅と同じ大きさであることがさらに好ましい。これによって、分離媒体6から転写補助体10へのサンプル流入量を減少させることなく、吸着用部材7への効率的なサンプル吸着が可能となる。さらに、転写補助体10のZ方向の幅を必要十分な大きさに抑えることによって、分離媒体6の先端部に移動したサンプルが転写補助体10内にて拡散させるのを防ぎ、サンプルの転写パターンをより鮮明なものにすることが可能となる。
また、転写補助体10のX軸方向の長さは、5.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることがさらに好ましい。転写補助体10の厚さがこの範囲にあれば、サンプルが転写補助体10内を移動する際に、サンプル分離部5で分離されたサンプルパターンが変形してしまうことを防ぐことができる。また、転写補助体10の厚さが5.0mm以下であれば、転写補助体10の破損や剥離等が生じ難くなる。さらに転写補助体10の厚さが1.0mm以下であれば、転写補助体10の強度が保たれ、吸着用部材7と転写補助体10との間に生じる摩擦力により耐えることができるため、転写補助体10の破損や剥離等を防ぐことができる。
転写補助体10を目的の厚さ(目的のX軸方向の長さ)に形成する方法としては、例えば、ガラス板やアクリル板等の板状部材上に目標の厚さのスペーサーを挟み、サンプル分離部5を均等に浮かせた状態で、サンプル分離部5の内部にゲルを注入し、重合させてもよい。あるいは、適当な厚さの転写補助体10を取り付けた後、均一に目的の厚さになるように、カッター、レーザーカッター、または水圧等で切断することによって、目的の厚さの転写補助体10を形成してもよい。
(多孔質膜)
次に、本実施形態のさらに好ましい例について図4を参照して説明する。図4は、本実施形態に係るサンプル分離吸着器具100を概略的にしめす断面図である。
本実施形態では、図4に示すように、多孔質膜14が、サンプル分離部5の先端部13に取り付けられ、サンプル分離部5と転写補助体10との間に配置されることが好ましい。また、多孔質膜14が、少なくとも転写補助体10を構成するゲルを含んでいることがさらに好ましい。
仮に、分離媒体6と転写補助体10との間に隙間があると、緩衝液にサンプルが流出することがあり、また電流の流れが不安定になりサンプルの転写が乱れるおそれがある。そこで、サンプル分離部5の先端部13に多孔質膜14を取り付ければ、サンプル分離部5内に分離媒体6を充填する際、容易に分離媒体6をサンプル分離部5の先端部13にまで充填せしめることができる。これによって、転写補助体10と分離媒体6とを隙間なく密着させることができるので、隙間からのサンプルの流出を防ぐことができるとともに、安定した通電状態を確保することができる。
また、多孔質膜14に転写補助体10を構成するゲルと同じ部材を含ませる場合、多孔質膜14内のゲル部材と転写補助体10とを重合させることができる。これによって、摩擦に対する転写補助体10の耐久度が上昇し、転写補助体10は吸着用部材7との接触による摩擦力に対してより耐えることが可能になる。
多孔質膜14は、サンプルを吸着することなく、透過することが可能で、強度があるものであれば、特に限定されない。多孔質膜14としては、例えば、親水性PVDF(Polyvinylidene difluoride)膜、PES(Polyether sulphone)膜、ニトロセルロース膜、および正電荷付加のナイロン膜等を用いることができる。
本実施形態に係るサンプル分離吸着器具100は、予めサンプル分離部5に多孔質膜14が固定された状態で提供されてもよく、あるいは、使用者が後からサンプル分離部5に多孔質膜14を固定する構成で提供されてもよい。多孔質膜14をサンプル分離部5に固定するためには、粘着テープや接着剤等によって接着したり、クリップ等を用いて挟持したりすればよい。
また、転写補助体10を多孔質膜14に取り付けるタイミングとしては、多孔質膜14をサンプル分離部5に固定した後でもよいし、多孔質膜14をサンプル分離部5に固定する前でもよい。
次に、分離媒体6および転写補助体10の形成方法について、分離媒体6と転写補助体10と同じポリアクリルアミドゲルを用いる場合を用いて説明する。
まず、多孔質膜14をサンプル分離部5に固定した後に、分離媒体6および転写補助体10を形成する方法について説明する。この方法では、多孔質膜14を取り付けたサンプル分離部5に対し、先端部13側から第2開口12を介してゲル重合前のアクリルアミド溶液を注ぎ込む。
その後、転写補助体10を形成させるために、サンプル分離部5を、多孔質膜14を下側にして平らなガラス板やアクリル板の上に置き、さらにアクリルアミド溶液が漏れないような密閉容器に入れる。これによって、多孔質膜14を介して染み出てきたアクリルアミド溶液が平らに重合される。サンプル分離部5の先端部13からアクリルアミド溶液を注入することによって、多孔質膜14と分離媒体6の間に空気が入らず、より効果的に分離媒体6および転写補助体10を形成することが可能となる。ゲル重合後、転写補助体10を残すように、必要のないアクリルアミドゲルを除去すればよい。
なお、アクリルアミド溶液をサンプル分離部5に注入する際、サンプル分離部5の第1開口11から注入すると、多孔質膜14と分離媒体6との間に空気が入りやすく、その部分が空洞となってゲル重合されてしまう可能性が高くなる。このため、アクリルアミド溶液を注入した後、密閉容器を左右に揺らし、空気を抜く作業が必要となる。
一方、多孔質膜14をサンプル分離部5に固定する前に分離媒体6および転写補助体10を形成する方法について説明する。この方法では、多孔質膜14の上に取り付けたい転写補助体10の大きさの型を載せ、型に分離媒体6を構成するゲルを注入し、転写補助体10が形成されたら、型と余分なゲルを除去する。こうして作成した多孔質膜14をサンプル分離部5の先端部13に取り付け、分離媒体6用のゲルをサンプル分離部に注入する。
上述のいずれの方法を利用しても、多孔質膜14に分離媒体6または転写補助体10を構成するゲルを含ませることも可能となる。
次に、サンプル分離部5に取り付けられた多孔質膜14および転写補助体10の構成例について図5および図6を参照して説明する。
図5(a)〜(c)は、本実施形態に係るサンプル分離吸着器具100を概略的に示す断面図である。図5(a)〜(c)に示すように、サンプル分離部5への設置に際して、多孔質膜14および転写補助体10は様々な形態をとり得る。
例えば、多孔質膜14は、図5(a)に示すようにサンプル分離部5の外側からサンプル分離部5の先端部13を覆う形態でもよい。また、多孔質膜14は、図5(b)に示すようにサンプル分離部5の内側にてサンプル分離部5の先端部13を覆う形態でもよい。また、多孔質膜14の両端は、図5(c)に示すようにサンプル分離部5と分離媒体6との間に入り込んでいてもよい。
なお、サンプル分離部5の内側に多孔質膜14を取り付ける場合には、サンプル分離部5と多孔質膜14の間に、分離媒体6や緩衝液等が入らないよう、サンプル分離部5と多孔質膜14とを密着させる必要がある。そうすることで、サンプル分離部5にて分離されたサンプルは多孔質膜14を介して吸着用部材7に全て転写される。
また、転写補助体10は、図5(a)および(c)に示すように、Z軸方向に曲線を描いていても構わない。このとき、上述と同様に、転写補助体10のX軸方向の長さが5.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることがさらに好ましい。また、このとき、転写補助体10と吸着用部材7とのY軸方向の接触が一定になることが望ましい。転写補助体10がZ方向に曲線を描くことによって、転写補助体10と吸着用部材7のY軸方向の接触幅が小さくなり、より高精度にサンプル転写をすることが可能になる。
また、転写補助体10は、図5(b)に示すように、その一部がサンプル分離部5の内部にあっても構わない。こうすることで、サンプル分離部5の先端部13に転写補助体10を取り付けた時と同様の効果を得ることが可能となる。
図6(a)および(b)は、本実施形態に係るサンプル分離吸着器具100を概略的にしめす上面図である。
図6(a)および(b)に示すように、転写補助体10にはZ軸方向に切断されたスリットが入っていても構わない。このとき、転写補助体10は、サンプル吸着(転写)に関与する領域、すなわち、Y軸方向において各サンプルが存在する領域に取り付けられており、スリットは各領域の間に存在する。
図6(a)では、SDS−PAGEのレーンに対応する位置に転写補助体10aを取り付けており、レーンではない位置にはスリットが配置されている。また、図6(b)では、一次元電気泳動後のサンプルに対応する領域に転写補助体10cを取り付け、また、サンプルと同時に泳動する分子量マーカーに対応する領域に転写補助体10bを取り付けている。図6(b)では、転写補助体10bを二次元電気泳動後のサンプルが透過し、転写補助体10bを泳動後の分子量マーカーが透過する。
このように転写補助体10にスリットを設ければ、分離したサンプルが転写補助体10を通過する領域のみでサンプル吸着(転写)が行なわれるため、転写補助体10での拡散をより軽減することができる。
なお、Y軸方向においてサンプルが存在する領域に転写補助体10が取り付けられていれば、スリットの数および、スリットの大きさは限定されない。
(転写補助体の他の例)
次に、本実施形態のさらに他の例について図7を参照して説明する。図7は、本実施形態に係るサンプル分離吸着器具100を概略的に示す断面図である。
本実施形態において、転写補助体10は、分離媒体6と一体的に構成されていてもよい。具体的には、図7に示すように、転写補助体10を別途設けることなく、分離媒体6が、サンプル分離部5の先端部13から突出していてもよい。このとき、分離媒体6の突出部分が転写補助体10として機能し、吸着用部材7と接触している。これによって、サンプルの緩衝液中への自己拡散(流出)を防ぐができる。したがって、サンプルの緩衝液への流出によるサンプル吸着量の減少が抑制され、効率のよいサンプルの転写が可能となる。
また、上述した転写補助体10の厚さと同じく、サンプル分離部5の先端部13より突出している分離媒体6の突出部分の長さ(X軸方向の長さ)は5.0mm以下であることが好ましい。これによって、分離媒体6と吸着用部材7との間に生じる摩擦力による分離媒体6の突出部分の破損を防ぐことができ、長時間のサンプル吸着にも耐えることが可能となる。
分離媒体6と転写補助体10とを一体的にする場合、サンプル分離吸着器具100は、予めサンプル分離部5の内部に分離媒体6が格納されて突出部が形成された状態で提供されてもよい。あるいは、サンプル分離吸着器具100は、使用者が後からサンプル分離部5内に分離媒体6のゲルを充填し、ゲルを切断して必要な長さ分だけ突出部を形成する構成として提供されてもよい。
〔第2実施形態〕
本発明の第2の実施形態について図8から図11に基づいて説明すれば以下の通りである。
上述した実施形態1に対する本実施形態の主な相違点は、第3緩衝液槽16を設けている点、および、保持部8が導電媒体17および絶縁構造体18から構成される点にある。したがって、以下では、上記相違点を中心に説明する。また、吸着用部材7の移動手段および分離媒体6へのサンプル導入からサンプル吸着までの流れについても、本実施形態において説明する。
なお、本実施形態では、説明の便宜上、実施形態1における構成要素と対応する機能を有する構成要素には、同一符号を付し、その説明を省略する場合がある。
図8は、本実施形態に係るサンプル分離吸着器具110の構成を概略的に示す斜視図であり、図9はその断面図である。図10は、図9におけるサンプル分離部5の先端部13付近を概略的に示す拡大図である。
サンプル分離吸着器具110は、図8および図9に示すように、陰電極(第1電極)1、第1緩衝液を入れるための第1緩衝液槽3、陽電極(第2電極)2、第2緩衝液を入れるための第2緩衝液槽4、サンプル分離部5、第3緩衝液を入れるための第3緩衝液槽16、保持部8、付勢部15、移動アーム27、および、吸着用部材7を保持する移動アーム(移動手段)28を備えている。
まず、本実施形態における第3緩衝液槽16について以下に説明する。
本実施形態では、サンプル分離部5と第2緩衝液槽4との間に第3緩衝液槽16が配置されている。第2緩衝液槽4と第3緩衝液槽16とは、保持部8と隔壁19とによって隔てられている。このため、電気泳動用の緩衝液とサンプル吸着(転写)用の緩衝液とに異なる緩衝液を用いることが可能である。具体的には、第1緩衝液槽3と第2緩衝液槽4とを利用して電気泳動が行なわれ、第3緩衝液槽16においてサンプル吸着(転写)が行なわれる。
これによって、吸着用部材7を浸漬する緩衝液を第2緩衝液に限定する必要がなくなり、吸着用部材をより適した緩衝液に浸漬することが可能となり、より最適な条件でサンプル吸着(転写)を行うことが可能になる。
次に、本実施形態における保持部8について、図9および図10を参照して以下に説明する。
本実施形態では、保持部8は、導電性を有する導電媒体17と、絶縁性を有する絶縁構造体18とから構成されている。ここで、導電媒体17は、絶縁構造体18の内部をX軸方向に貫通するように収納されている。また、導電媒体17および転写補助体10は、それぞれが吸着用部材7に接するように、吸着用部材7を挟んで配置される。このとき、保持部8において吸着用部材7に接する部位の反対側は、第2緩衝液槽4内に面している。
これによって、保持部8が陰電極1から陽電極2までの電気的接続を遮断することがない。さらには、陰電極1と陽電極2の間に起こる電気的接続が保持部8内の導電媒体17に収束され、より効率的にサンプル吸着を行うことが可能となる。
絶縁構造体18としては、例えば、ガラスおよびアクリル等の絶縁体から作製することができる。また、導電媒体17としては、導電性が確保でき、ある程度の強度のあるものであれば、特に限定はされない。例えば、導電媒体17として、ポリアクリルアミドゲル、アガロースゲル、ナノピラー、またはハイドロゲルが絶縁構造体18内に充填されてもよい。また、保持部8の極簡単な構成としては、ガラスの間に導電ゴムを挟んだ形状のものでも構わない。
本実施形態に係るサンプル分離吸着器具110は、絶縁構造体18に予め導電媒体17が充填された状態で提供されてもよく、使用者が後から保持部8の内部に導電媒体17を充填する構成で提供されてもよい。
次に、本実施形態の他の例について、図11を参照して説明する。図11は本実施形態に係るサンプル分離吸着器具100を概略的に示す断面図である。
本実施形態では、保持部8の先端部21(吸着用部材7を保持する側)に、第2の多孔質膜22および密着補助体23が設けられており、吸着用部材7と保持部8の間に配置されていることが好ましい。このとき、第2の多孔質膜22および密着補助体23は多孔質膜14及び転写補助体10と同様の効果を保持部8に対して与えることができ、吸着用部材7と保持部8との間に生じる摩擦を減少させることができる。
第2の多孔質膜22は、導電性を確保でき、強度があるものであれば、特に限定されない。第2の多孔質膜22としては、例えば、PVDF(Polyvinylidene difluoride)膜、PES(Polyether sulphone)膜、ニトロセルロース膜、および正電荷付加のナイロン膜、PTFE(Polytetrafluoroethylene)膜等を挙げることができる。
密着補助体23は、ある程度の強度および潤滑性を有するものであれば限定されないが、導電性が確保できるゲルから構成されることが好ましい。例えば、密着補助体23は、ポリアクリルアミドゲル、アガロースゲル、ナノピラー、ハイドロゲル、またはトポロジカルゲル等から形成されてもよい。
保持部8に対して密着補助体23および第2の多孔質膜22の両方が取り付けられる場合、実施形態に係るサンプル分離吸着器具100は、予め保持部8に第2の多孔質膜22が固定された状態で提供されてもよく、あるいは、使用者が後から保持部8に第2の多孔質膜22を固定する構成で提供されてもよい。第2の多孔質膜22を保持部8に固定するためには、粘着テープや接着剤等によって接着したり、クリップ等を用いて挟持したりすればよい。
また、密着補助体23を第2の多孔質膜22に取り付けるタイミングとしては、第2の多孔質膜22を保持部8に固定した後でもよいし、第2の多孔質膜22を保持部8に固定する前でもよい。
次に、密着補助体23および導電媒体17を形成する方法について、密着補助体23と導電媒体17に同じポリアクリルアミドゲルを用いる場合を用いて説明する。まず、第2の多孔質膜22を保持部8(絶縁構造体18)に固定した後に、導電媒体17および密着補助体23の形成する方法について説明する。この方法では、第2の多孔質膜22を取り付けた絶縁構造体18に対し、先端部21側から、その内側にゲル重合前のアクリルアミド溶液を注ぎ込む。
その後、密着補助体23を生成させるために、第2の多孔質膜22を下側にして、保持部8を平らなガラス板やアクリル板の上に置き、さらに、アクリルアミド溶液が漏れないような密閉容器に入れる。重合後、絶縁構造体18の内側には導電媒体17が形成され、また、第2の多孔質膜22を介して染み出てきたアクリルアミド溶液が平らに重合されることによって密着補助体23が形成される。
上記方法では、保持部8の先端部21からアクリルアミド溶液を注入するため、第2の多孔質膜22と導電媒体17との間に空気が入らず、より効果的に導電媒体17および密着補助体23を生成することが可能となる。ゲル重合後には、密着補助体23を残すように、必要のないアクリルアミドゲルを除去すればよい。
なお、アクリルアミド溶液を保持部8に注入する際、保持部8の先端部21の反対側から注入すると、第2の多孔質膜22と導電媒体17との間に空気が入りやすく、その部分が空洞となってゲル重合されてしまう可能性が高くなる。そのため、アクリルアミド溶液を注入した後、密閉容器を左右に揺らし、空気を抜く作業が必要となる。
一方、第2の多孔質膜22を保持部8(絶縁構造体18)に固定する前に、密着補助体23と導電媒体17を形成する方法について説明する。この方法では、第2の多孔質膜22の上に取り付けたい密着補助体23の大きさの型を載せ、型に密着補助体23を構成するゲルを注入し、密着補助体23が形成されたら、型と余分なゲルを除去する。こうして密着補助体23が形成された第2の多孔質膜22を保持部8の先端部21に取り付ければよい。
なお、本発明はこれに限られず、保持部8の先端部21に、密着補助体23のみが取り付けられてもよい。
また、本実施形態において、保持部8は、付勢部(付勢手段)15によって、サンプル分離部5に向かって付勢されている。なお、本実施形態における保持部8は、収容容器9中で分離方向(X方向)にスライド可能な構成である。そこで、付勢部15が保持部8を付勢することによって、保持部8は、サンプル分離部5に向かってスライドし、吸着用部材7を付勢する。これによって、保持部8は、吸着用部材7をより確実に転写補助体10に密着させることができる。
付勢部15としては、スプリングプランジャー、スポンジ、およびシリコンゴムなど、伸縮性のある部材を利用することができる。
次に、分離媒体6へのサンプル導入からサンプル吸着までの流れについて、再び図9を参照して説明する。
例えば、2次元電気泳動を行う場合には、予め1次元目の等電点電気泳動を行ったゲルストリップ24を、サンプル分離部5の接続部25に載置して、分離媒体6に接続させる。ゲルストリップ24としては、市販されているものを用いればよい。
一般に、ゲルストリップ24は薄く柔軟性があるため、サンプル導入の際には、アクリル等で作製され支持体26にゲルストリップ24を固定することが好ましい。支持体26は移動アーム27によって移動され、支持体26に固定されたゲルストリップ24は、サンプル分離部5内の分離媒体6の接続部25に載置される。
なお、1次元目の等電点電気泳動を行う機構はサンプル分離吸着器具100に組み込まれていてもよく、この場合、サンプル分離吸着器具100は1次元目の等電点電気泳動から2次元目の電気泳動分離および転写までを自動化することができる。
また、SDS−PAGE等、1次元目の電気泳動を行わない場合には、サンプル分離部5に分離媒体6を充填する際にウェル(凹み)を作製する。ウェルにサンプルを導入した後には、第1緩衝液槽3内にサンプルが流出しないように、アガロースゲル等でサンプルを固定化する。あるいは、サンプルとアガロースゲルと混合してからウェルに導入し、ウェル内で固化させてもよい。
分離媒体6におけるウェル(凹み)については、通常のSDS−PAGEと同様に、ゲルモノマー溶液(重合してゲルとなる前の液体)をサンプル分離部5に流し込み、ゲルモノマーが重合する前にコーム(通常5mm程度の凹凸が複数あるくし状の板)を差込み、ゲル化させた後、コームを取り外すことによって作製することができる。
サンプル導入後、陰電極1と陽電極2との間に電流を流すことによって、電気泳動分離を行うことができる。上記電流としては、50mA以下の値を用いることが好ましく、20mA以上30mA以下の範囲であることがより好ましい。上記範囲であれば、十分な速さで電気泳動を行いつつ、発熱を抑制することができる。より大きい電流を用いれば、速い電気泳動が可能であるが、高電流は発熱を引き起こし、ゲルやサンプル、電気泳動分離の分解能に悪影響を及ぼすおそれがある。なお、電気泳動時の発熱を防止するために、サンプル分離器具100にペルチェ素子等を用いた冷却機構を設けてもよい。
電気泳動の開始後、サンプルが分離媒体6と吸着用部材7との境界(サンプル分離部5の先端部13付近)に到達した時点で、吸着用部材7の引き上げが開始される。吸着用部材7の引き上げには、移動アーム28を用いることができる。移動アーム28は、吸着用部材7を保持して、Z軸方向に移動させる。これによって、サンプルを吸着用部材7に対して連続的に転写させることができる。
サンプルが分離媒体6と吸着用部材7との境界までに達したか否かについては、予め着色されたサンプルの泳動度から判断してもよいし、電圧値をモニターすることによって判断してもよい。
予め着色されたサンプルを用いる場合には、例えば、市販の分子量マーカーを利用してもよいし、SDS−PAGEキットなどにおいて通常泳動の先頭を示すフロントラインとして用いられるBPB(Bromphenol Blue)をサンプルに導入してもよい。
一方、電圧値をモニターする場合には、例えば、陰電極1と陽電極2との間の電圧をモニターする電圧モニター(電圧検出手段、図示しない)を用いることができる。サンプルがサンプル分離部5の先端部13に到達し、転写補助体10と吸着用部材7との境界に達すると、当該境界において導電率が小さくなるため、電極間の抵抗値が高まり、電圧値は大きく上昇する。このため、電圧モニターが電圧値の上昇を測定することによって、サンプルの排出を検出することができる。
この場合、移動アーム28は、電圧モニターと接続されていることが好ましい。これによって、電圧モニターが測定した電圧に基づき、自動的に吸着用部材7の引き上げを開始することができる。また、電圧モニターは、電圧値をモニターするプログラムとしてサンプル分離吸着器具100に組み込まれていてもよい。これによって、自動的にサンプルの排出を検知し、吸着用部材7を引き上げることができる。
また、吸着用部材7の引き上げの際、移動アーム28は、電圧モニターのモニターする電流値または電圧値に従って、吸着用部材7の引き上げ速度を制御してもよい。これによって、サンプルが吸着されない部分を少なくし、無駄のない吸着用部材7の使用を可能にするだけでなく、装置を小型化することも可能にする。吸着用部材7の引き上げ速度は、十分な分解能をもってサンプルが吸着し得る速度であればよく、当業者であれば適宜設定することができる。
サンプル吸着の終了後、吸着用部材7は移動アーム28によって回収され、染色や免疫反応等が行なわれる。その後、蛍光検出器などによって、サンプルの分離転写パターンが検出される。サンプル分離吸着器具100に対してこれらの検出機構を組み込むことによって、電気泳動、転写、検出の全工程を自動化してもよい。
なお、移動アーム28は移動アーム27と兼用でもよい。この場合、移動アーム27は、ゲルストリップ24を分離媒体6に接続した後、サンプル分離部5の先端部13付近まで移動し、吸着用部材7の上部を掴むように動作する。
〔第3実施形態〕
本発明の第3の実施形態について図12に基づいて説明すれば以下の通りである。
上述した実施形態1および2に対する本実施形態の主な相違点は、保持部29の構成にある。したがって、以下では、上記相違点を中心に説明する。
なお、本実施形態では、説明の便宜上、実施形態1および2における構成要素と対応する機能を有する構成要素には、同一符号を付し、その説明を省略する場合がある。
図12は、本実施形態に係るサンプル分離吸着器具120の構成を概略的に示す断面図である。図13は、図12におけるサンプル分離部5の先端部13付近を概略的に示す拡大図である。
図12に示すように、本実施形態に係るサンプル分離吸着器具120では、第2緩衝液槽4の上方に第1緩衝液槽3が配置されている。ここで、本実施形態においても、サンプル分離部5は、第1緩衝液槽3側に第1開口11を有し、第2緩衝液槽4側に第2開口12を有している。分離媒体6は、サンプル分離部5への格納時、第1開口11において第1緩衝液槽3内に面し、第2開口12において第2緩衝液槽4内に面する。
また、図12に示すように、サンプル分離部5の先端部13には、多孔質膜14が分離媒体6の先端を覆うようにサンプル分離部5の内部に取り付けられ、さらに転写補助体10が多孔質膜14に接して取り付けられている。
本実施形態では、第1緩衝液槽3に第1緩衝液を、第2緩衝液槽4に第2緩衝液を入れたとき、陰電極1と陽電極2とが、第1および第2緩衝液、分離媒体6、多孔質膜14、転写補助体10、ならびに吸着用部材7を介して、電気的に接続される。このとき、上記の電気的接続には保持部29が含まれない。
すなわち、本実施形態において、保持部29は、実施形態1および2と同様に吸着用部材7を保持する構成であるが、陰電極1および陽電極2による電気的接続に影響を与えないよう、吸着用部材7における転写補助体10との接触領域と陽電極2との間に挟まれないように配置されている。このとき、保持部29は、保持部29は絶縁物質で構成されていることが好ましく、例えば、ガラス、アクリル、ゴムなどから構成することができる。
また、保持部29は、図13に示すように、回転可能な4つ円柱(回転体)から構成されている。保持部29を構成する4つの円柱は、それぞれ対向する一対の円柱の間に吸着用部材7を挟んで保持しており、これによって吸着用部材7と転写補助体10とを密着させている。
保持部29を構成する4つの円柱は、図13中の矢印に示すように、吸着用部材7の移動に合わせて回転する。これによって、吸着用部材7の移動に際して、保持部29と吸着用部材7との間の摩擦力を軽減し、吸着用部材7への安定した転写を可能にすることができる。また、保持部29を構成する4つの円柱のうち、サンプル分離部5側に配置される円柱は、サンプル分離部5と接触してその位置が固定されていてもよい。これによって、サンプル分離部5と吸着用部材7との接触位置が固定され、再現性よく転写を行うことができる。
サンプル分離吸着器具120へのサンプルの導入は、実施形態1および2と同様に様々な手法をとり得るが、例えば図12に示すように、一次電気泳動が行われたゲルストリップ24を、移動アーム27および支持体26によって、分離媒体6に接続させるものであってもよい。
吸着用部材7は、ロール30に巻かれて第2緩衝液槽4内に配置され、転写時には第2緩衝液槽4の上部から引き出されてもよい。吸着用部材7の移動は、移動アーム(図示せず)に引き上げられる形でもよいし、別の槽にあるサンプル吸着用部材回収ロール(図示せず)によって巻き取られる形であっても構わない。これによって、吸着用部材7へのサンプルの転写終了後には、別の槽において、ウエスタンブロッティングを行うためのプローブとのハイブリッド形成などを行うことができる。
以上のように、本実施形態に係るサンプル分離吸着器具120においても、実施形態1および2と同様の効果を得ることができる。
なお、上述の説明では、サンプルを連続的に吸着させるために、吸着用部材7を移動させているが、本発明はこれに限られず、例えば、吸着用部材7を移動せず、サンプル分離部5自体を移動することによって、第2開口12と吸着用部材7との相対的な位置を変えてもよい。
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔第1実施例〕
実施例1として、図8および図9に示すようなサンプル分離吸着器具を作製した。
なお、以下の説明において、「幅」はY方向の寸法を、「長さ」はX方向の寸法を、「厚さ」はZ方向の寸法を意味している。
サンプル分離部5を、幅60mm×長さ30mm×厚さ5mmの寸法でガラスから形成した。サンプル分離部5の先端部13については、分解能を向上させるために、45°の傾斜角を有する先細り形状になるよう作製した。また、先端部13の端面の中央には、Z軸方向に300μmの長さを有する第2開口12を設けた。
サンプル分離部5に分離媒体6を充填する前に、先端部13に多孔質膜14を取り付けた。多孔質膜14が先端部13を覆うように配置し、それを粘着テープで固定した。多孔質膜14には、市販の0.65μmのDurapore(登録商標)メンブレンフィルター(Millipore社製)を使用した。
次に、pH6.4のBis−Trisバッファーを用いた10%ポリアクリルアミドゲルを用いて、転写補助体10(幅60mm×長さ0.5mm×厚さ0.3mm)と分離媒体6(幅60mm×長さ30mm×厚さ1mm)とを作成した。
分離媒体6および転写補助体10を作成するために、アクリル製の治具(図示せず)を利用した。治具は、ねじ穴の開いたL字の土台部と、サンプル分離部5を固定するための平面板から構成されている。平面板は、重合前のアクリルアミド溶液が漏れだすのを防ぐため役割も担っている。
L字の土台部の底面に対し、多孔質膜14を取り付けたサンプル分離部5を、多孔質膜14が下に、接続部25が上に位置するようにセットし、平面板と土台部とをネジで固定してサンプル分離部5が固定した。この固定時、転写補助体10における目的のX軸方向長さに合わせて、平面板からサンプル分離部5の下端までの高さを調整した。さらに、重合前のアクリルアミド溶液が漏れだすのを防ぐために、サンプル分離部5の側面、および、平面板と土台部の底面が接している面を1%アガロースゲルで固定した。
次に、サンプル分離部5の第2開口12から、ゲル重合前のアクリルアミド溶液を注いだ。この際、多孔質膜14にも、同じポリアクリルアミドゲルを含ませた。アクリルアミドゲルを重合させた後、アクリル製の治具からサンプル分離部5を取り出すことによって、サンプル分離部5内に分離媒体6を形成した。また、サンプル分離部5および多孔質膜14の周りについている余分なアクリルアミドゲルを除去することによって、転写補助体10を成形した。
なお、分離媒体6にサンプル分離部5に充填する際に、ウェル(55mm×5mm×1mmの凹み)を予め作製しておいた。
次に、多孔質膜14および転写補助体10を取り付けたサンプル分離部5を、サンプル分離吸着器具110にセットし、第1緩衝液槽3を緩衝液で満たした。緩衝液としては、pH7.3のMOPSバッファー(Invitrogen社製)を用いた。また、第1緩衝液槽3には白金線で作製した陰電極1を挿入した。
次に、吸着用部材7を第3緩衝液槽16に挿入し、吸着用部材7の上部を移動アーム28に固定した。吸着用部材7としては、市販のPVDF膜であるImmobiron FL(Millipore社製)を、予めメタノールを用いて親水化処理を施したものを用いた。第3緩衝液槽16には、市販のpH7.2のNuPAGE転写バッファー(Invitrogen)に20%メタノールを混合してなる緩衝液を満たした。これによって、吸着用部材7は、緩衝液に浸った状態になった。
次に、保持部8(幅60mm×長さ10mm×厚さ10mm)を、収容容器9中でサンプル分離部5に向かってスライド移動できるように設けた。
なお、保持部8については、絶縁構造体18をアクリルで作製し、その内部にpH6.4のBis−Trisバッファーを用いた10%ポリアクリルアミドゲル(幅60mm×長さ10mm×厚さ1mm)を充填して導電媒体17とした。導電媒体17の先端部21の形状は平面形状とした。
次に、第2緩衝液槽4を緩衝溶液で満たした。緩衝溶液としては、上述した第3緩衝液槽16と同様に、市販のpH7.2のNuPAGE転写バッファー(Invitrogen)に20%メタノールを混合してなる緩衝液を用いた。第2緩衝液槽4には白金線で作製した陽電極2を挿入した。
次に、保持部8を付勢部15によって移動させることによって、吸着用部材7を、転写補助体10と保持部8内の導電媒体17とに密着させた。
なお、電圧印加時の発熱防止のために、ペルチェ素子を用いた冷却装置(図示せず)を、収容容器9下部のスペースに装着した。
以上によって、実施例1に係るサンプル分離吸着器具を作製した。
次に、上述にて作成したサンプル分離吸着器具において、サンプルの分離および転写を行った。
まず、サンプルとしては、蛍光色素Cy5(最大励起波長649nm、最大蛍光波長670nm)で染色したマウスの肝臓の可溶性タンパク質を用いた。サンプルは別途、IPGゲル(52mm×1mm×1mm)にて予め1次元目の等電点電気泳動を行い、1MのDTT(dithiothreitol)と、市販のLDSサンプルバッファー(Invitrogen社製)とを混合してなる平衡化バッファーによって平衡化させて、ゲルストリップ24を準備した。
準備したゲルストリップ24を分離媒体6のウェルに手動で導入した後、サンプルが第1緩衝液槽3の緩衝液中に流出しないように、0.5%のアガロースゲルで固定化した。
サンプル導入後、陰電極1と陽電極2との間に電圧を印加し、25mA定電流条件にて、25分の電気泳動分離を行った。上述したLDSサンプルバッファーには染色剤Coomassie G250で染色された追跡用色素が含まれているため、追跡用色素を基に電気泳動の経過を確認することができた。
電気泳動分離の設定時間経過後、40mA定電流条件に変更し、予めプログラミングされた速度で、移動アーム28によって吸着用部材7の引き上げを開始した。これによって、サンプル分離部5より排出されたサンプルは連続的に吸着用部材7に転写され、また、吸着用部材7は移動アーム28によってプログラムされた速度で回収された。吸着用部材7への転写は120分行った。
吸着用部材7への転写終了後は、吸着用部材7に付着した余分なバッファーや化合物を除去するため、吸着用部材7を移動アーム28から取り外し、純水にて2分間撹拌した。
その後、蛍光塗料Cy5(最大励起波長649nm、最大蛍光波長670nm)を用いてサンプルを染色した。次いで、GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製Typhoon Trioを用い、670nmバンドパスフィルタ、光原子倍増管電圧400Vにて、蛍光検出を行った。
一方、実施例1に対する比較例1として、サンプル分離部5に多孔質膜14および転写補助体10を取り付けない他は、実施例1と同様の装置を用いて、実施例1と同様の方法によってサンプルの分離および転写を行った。
比較例1では、分離媒体6をサンプル分離部5に注入する際、実施例1に用いたものと同様のアクリル製の治具を使用した。この際、サンプル分離部5には多孔質膜14を巻かず、サンプル分離部5をアクリル製の治具にセットし、サンプル分離部5の第2開口12からゲル重合前の10%アクリルアミド溶液を注ぎ、ゲル重合後、余分なアクリルアミドゲルを除去した。
図14(a)は、実施例1について、蛍光検出を行った吸着用部材7を示す図であり、図14(b)は、比較例1について、蛍光検出を行った吸着用部材7を示す図である。
図14(a)(b)をそれぞれ比較すると、実施例1において、比較例1よりも、サンプルスポット数が多く、サンプルの引きずりも少なくなっていることが分かる。したがって、本発明に係るサンプル分離吸着器具によれば、サンプル吸着(転写)を高精度および高効率的で行うことができることが明らかとなった。
〔第2実施例〕
実施例2として、保持部8に対して密着補助体23および第2の多孔質膜22を取り付けたサンプル分離吸着器具を作成した。実施例2では、第1実施例と同様であるところの説明を割愛し、以下には相違点のみを説明する。
保持部8を作製する際には、絶縁構造体18の内側に導電媒体17を充填する前に、その先端部21に第2の多孔質膜22を取り付けた。第2の多孔質膜22が、先端部21を覆うように配置し、それを粘着テープで固定した。このとき、第2の多孔質膜22は、保持部8のスライド移動による影響を受けないように固定することが好ましい。第2の多孔質膜22としては、市販の0.65μm径のDurapore(登録商標)メンブレンフィルター(Millipore社製)を使用した。
次に、密着補助体23(幅60mm×長さ10mm×厚さ0.3mm)を作製するために、導電媒体17(幅60mm×長さ10mm×厚さ1mm)に同じpH6.4のBis−Trisバッファーを用いた10%ポリアクリルアミドゲルを使用し、また、アクリル製の治具を利用した。
治具としては、分離媒体6および転写補助体10の作製に用いたものと同様に、L字の土台部と平面板とから構成されたものを用いた。L字の土台部の底面に、第2の多孔質膜22を取り付けた保持部8を、第2の多孔質膜22が下に位置するようにセットし、平面板と土台部をネジで固定して保持部8を固定した。この固定時、密着補助体23における目的のX軸方向の長さに合わせて、平面板から保持部8の下端までの高さを調整した。さらに、重合前のアクリルアミド溶液が漏れだすのを防ぐため、保持部8の側面、および、平面板と土台部の底面が接している面を1%アガロースゲルで固定した。
次に、先端部21側から、絶縁構造体18の内側にゲル重合前のアクリルアミド溶液を注いだ。この際、第2の多孔質膜22にも同じポリアクリルアミドゲルを含ませた。アクリルアミドゲルを重合させた後、アクリル製の治具から、保持部8を取り出すことによって、導電媒体17を形成した。また、保持部8および第2の多孔質膜22の周りについている余分なアクリルアミドゲルを除去することによって、密着補助体23を成形した。
次に、第2の多孔質膜22および密着補助体23を取り付けた保持部8を、吸着用部材7と密着補助体23とが密着するようにセットした。
上述のように保持部を作製した実施例2によれば、実施例1よりも、サンプル吸着(転写)を高精度および高効率的で行うことができた。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。