図1は、本発明の第1の関連技術に係る画像記録装置1の構成を示す図である。画像記録装置1は図1中のZ方向(光学ヘッド2の光軸J1に平行な方向)に沿って描画用の光を出射する光学ヘッド2、画像が記録される記録材料9を外側面に保持する保持部である保持ドラム70、並びに、画像記録装置1の全体制御を担う制御部4を備える。記録材料9には光学ヘッド2からの描画用の光が走査されつつ照射されることにより、画像が記録される(すなわち、光の照射により画像が描画される)。記録材料9としては、例えば、刷版、刷版形成用のフィルム等の感光材料が用いられる。保持ドラム70として無版印刷用の感光ドラムが用いられてもよく、この場合、記録材料9は感光ドラムの表面に相当し、保持ドラム70が記録材料9を一体的に保持していると捉えることができる。
保持ドラム70は円筒面の中心軸を中心にモータ81により回転し、これにより、光学ヘッド2が記録材料9に対して主走査方向(すなわち、保持ドラム70の回転軸に垂直な方向)に相対的に一定の速度で移動する。また、光学ヘッド2はモータ82およびボールねじ83により保持ドラム70の回転軸に平行な副走査方向(すなわち、主走査方向に垂直な図1中のX方向)に移動可能とされ、光学ヘッド2の位置はエンコーダ84により検出される。このように、モータ81,82、ボールねじ83を含む走査機構により、光学ヘッド2からの光の記録材料9上における照射位置が、記録材料9に対して一定の速度で主走査方向に相対的に移動するとともに主走査方向に交差する副走査方向にも相対的に移動する。
図2および図3は光学ヘッド2の内部構成を簡略化して示す図である。図2は、図1中の光学ヘッド2の光軸J1および副走査方向に垂直な方向(図1中のZ方向およびX方向に垂直なY方向)に沿って光学ヘッド2を上方(すなわち、図1中の(+Y)側)から見た場合の光学ヘッド2の内部構成を示し、図3は副走査方向に沿って図1のモータ82とは反対側から光学ヘッド2側を見た場合(すなわち、光学ヘッド2の(−X)側から(+X)方向を向いて見た場合)の光学ヘッド2の内部構成を示している。
図2および図3に示す光学ヘッド2は、所定の波長(例えば、830、635、405、あるいは、355ナノメートル(nm))の光ビームを出射する半導体レーザ(複数の半導体レーザが配列された半導体レーザアレイ、あるいは、ランプ等の他の種類の発光素子であってもよい。)を有する光源部21、および、光源部21からの光ビームが入射する光変調器3を備える。光変調器3は、電界により屈折率が変化する材料にて形成された薄板状の(スラブ状の)部材であるベース部31、および、ベース部31の主面311上において光軸J1に垂直な配列方向(図2および図3中のX方向)に後述の電極要素331,332(線分にて簡潔に示す。)が一定のピッチにて並ぶ電極33を備える。本関連技術では、ベース部31はリチウムナイオベート(LiNbO3)(すなわち、ニオブ酸リチウムであり、LNと略称される。)の単結晶にて形成される。なお、ベース部31はリチウムタンタレート(LiTaO3)(すなわち、タンタル酸リチウムであり、LTと略称される。)の単結晶等、電界により結晶内に分極が発生して屈折率が変化する他の材料にて形成されてもよい。
図2に示すように、電極33は、制御部4が有する電位付与部41に接続される複数の電極要素331、および、接地電位を付与する接地部34に接続される複数の電極要素332の集合とされ、電極要素331と電極要素332とはX方向に交互に配置される。各電極要素331,332は光軸J1方向(光の進行方向)に長い形状とされ(例えば、長さ10ミリメートル(mm)とされる。)、X方向に関して互いに隣接する電極要素331,332間の距離(中心間距離)は5〜20マイクロメートル(μm)とされ、電極要素331,332間の隙間の幅と電極要素331,332の幅とはほぼ同じとされる(後述の図4参照)。
図4は、図2中の矢印A−Aの位置における光変調器3の断面図であり、図4では、ベース部31の断面の平行斜線の図示を省略している。なお、一般的には、後述の電気光学係数r33に対応する方向である図4中の縦方向をZ軸として表し、紙面に垂直な方向をY軸として表すが、ここでは、光学ヘッド2の光軸J1の方向(紙面に垂直な方向)をZ方向とし、図4中の縦方向をY方向としている。電位付与部41から電極要素331に所定の電位が付与される際には、ベース部31内を介して各電極要素331から隣接する電極要素332へと向かう電界が形成される。リチウムナイオベートにて形成されるベース部31は、電極要素331,332の配列方向(X方向)に垂直な図4中のY方向(すなわち、電気光学係数r33に対応する方向)の電界により屈折率が大きく変化するものとなっており、電極要素331,332間に電圧(電位差)を付与して、ベース部31の内部の電極要素331,332の近傍に図4中に符号E1を付す矢印にて示すようにY方向の向きの電界を生じさせることにより、電極33近傍におけるベース部31内の部位に配列方向において周期的な屈折率の変化が生じる(後述の図16において同様)。本関連技術では、ベース部31の厚さ(図4中に符号D1を付して示すY方向の厚さ)は50μmとされ、ベース部31の内部にて屈折率の変化が生じるY方向の範囲が主面311から(−Y)側に30〜50μmとされ、電極要素331,332間の電界による屈折率の変化が主面311とは反対側の主面312の近傍まで生じるようになっている。
図2および図3に示す光源部21はコリメータレンズ(図示省略)を有しており、半導体レーザから出射される光ビームはコリメータレンズを介して平行光とされてシリンドリカルレンズ221に入射する。シリンドリカルレンズ221を通過した光は光軸J1に垂直な光束断面が円形から次第にX方向に長い楕円形へと変化する。すなわち、シリンドリカルレンズ221はX方向にのみ負のパワーを有し、光軸J1およびX方向に垂直なY方向に関して、シリンドリカルレンズ221を通過した光の光束断面の幅は(ほぼ)一定とされる。
シリンドリカルレンズ221からの光はX方向にのみ正のパワーを有するシリンドリカルレンズ222へと入射し、シリンドリカルレンズ222を通過した光は光束断面がX方向に長い一定の大きさの楕円形とされてシリンドリカルレンズ223へと入射する。シリンドリカルレンズ223は、Y方向にのみ正のパワーを有し、Y方向のみに着目した場合には、図3に示すシリンドリカルレンズ223を通過した光は集光しつつ光変調器3のベース部31の(−Z)側の端面(以下、「入射面」という。)313へと入射する。また、X方向に関しては、図2に示すシリンドリカルレンズ223からの光は平行光として光変調器3に入射する。このように、光学ヘッド2では、シリンドリカルレンズ221〜223により照明光学系22が構築される。
ベース部31の内部へと入射した光はベース部31の互いに平行な両主面311,312(法線がY方向に平行な主面311,312)にて多重反射しつつ光軸J1に沿って進行(伝播)する。このとき、光変調器3において電極33(正確には、複数の電極要素331)に電位付与部41からの電位が付与されていない状態(すなわち、電極要素331の電位が接地電位とされる状態)では、X方向に関して光が平行な状態のままでベース部31の内部を進行し、電極33に電位付与部41からの電位が付与されている状態では、電気光学効果により配列方向に周期的な屈折率の変化がベース部31内に生じており、この場合、ベース部31を通過する光に周期的な位相差が生じて回折が生じる(すなわち、光変調器3が位相回折格子として機能する。)。このように、光変調器3では、X方向に関して平行な状態の光がベース部31の(+Z)側の端面(以下、「出射面」という。)314から0次光として出射される状態と、光軸J1に沿って進むに従ってX方向に関して光軸J1から離れる(±1)次回折光(もちろん、高次の回折光も出射される。)が出射面314から出射される状態との間で光強度の遷移が可能とされる。
光変調器3からの0次光または(±1)次回折光は、図3中にて細い実線にて外形を示すように、Y方向にのみ正のパワーを有するシリンドリカルレンズ231にてY方向に関してほぼ平行な光とされ、正のパワーを有するレンズ232に入射する。ここで、レンズ232の前側焦点は電極33の(+Z)側の端部近傍におけるベース部31内の位置とされ、レンズ232の後側焦点には微小な遮蔽板233が配置される。したがって、X方向およびY方向の双方にほぼ平行とされる0次光は、図2および図3中に細い実線にて外形を示すように、レンズ232を介して遮蔽板233上にて集光して遮蔽される。また、(±1)次回折光は、図2中に破線にて示す経路K1に沿ってレンズ232の光軸J1から離れた位置へと入射し、レンズ232から光軸J1とほぼ平行に進行してレンズ234に入射する。レンズ234は、前側焦点が遮蔽板233の近傍に位置し、後側焦点が保持ドラム70の記録材料9上となるように配置されており、(±1)次回折光はレンズ234を介して光軸J1と露光面である記録材料9とが交差する位置に集光しつつ、記録材料9上に照射される。このように、光学ヘッド2では、シリンドリカルレンズ231、遮蔽板233、並びに、レンズ232,234により投影光学系23(両側テレセントリックとなるシュリーレン光学系と捉えることもできる。)が構築される。
図5は画像記録装置1が記録材料9上に画像を記録する動作の流れを示す図である。画像記録の際には、まず、光源部21からの光の出射が開始され(ステップS11)、続いて、保持ドラム70が回転することにより光学ヘッド2が主走査方向に一定の速度で記録材料9に対して相対的に移動し、さらに、保持ドラム70の回転に同期して光学ヘッド2が副走査方向に移動する(ステップS12)。制御部4では、記録材料9上の光の照射位置(すなわち、光変調器3からの光が常に記録材料9へと導かれると仮定した場合の照射位置)の記録材料9に対する相対移動に同期して、記録材料9に光((±1)次回折光)が導かれるON状態と、光が導かれないOFF状態とを光変調器3において切り替えるON/OFF制御が行われ(ステップS13)、記録材料9上に画像が記録される。このようにして、光学ヘッド2からの光の照射位置をラスター走査しつつ記録材料9全体に画像が記録されると、保持ドラム70の回転、光学ヘッド2の副走査方向への移動、および、光源部21からの光の出射が停止され(ステップS14,S15)、画像記録装置1において画像を記録する動作が終了する。
ところで、特許文献1における光変調器と同様の構成である図6に示す比較例の光変調器91では、ベース部92(電気光学基板)の厚さが大きくされる(通常、数mmとされる)ため、一方の端面921から入射してベース部92の内部を進行する光は、複数の電極要素(ただし、図6では1つの電極要素にのみ符号93を付している。)が配列形成される主面922に対して小さい角度にて(大きな入射角にて)入射して主面922にて反射され、他方の端面923から出射される。ベース部92において、互いに隣接する電極要素93間の電圧により屈折率の変化が生じる深さ(主面922からの深さ)は電圧の二乗に比例し、互いに隣接する電極要素93の中心間距離に反比例する。電極要素93の中心間距離(電極要素93のピッチ)が20μm程度である場合には、電極要素93間での放電を防止するという観点より、電極要素93間に付与することが可能な電圧は最大で100ボルト(V)程度となり(通常、80〜100V)、この場合、電気光学効果により屈折率の変化が生じる深さは約30μmとなる。このように、ベース部92の内部において、主面922上の電極要素93が形成する電界により屈折率が変化する部分は主面922の極近傍のみであるため、ベース部92の内部を進行する光は主面922における反射位置の近傍においてのみ屈折率の変化の影響を受ける。
したがって、ベース部92の内部を進行する光を回折させるのに必要な位相差をベース部92の内部の屈折率の変化により生じさせるには、電極要素93が形成される主面922に対して小さい角度にて光を入射させつつ電極要素93を光の進行方向に長くして、光に位相の変化を生じさせる距離を長くする必要がある。なお、図6の光変調器91では、ベース部92において、各端面921,923と主面922とのなす角を鋭角に設定することにより、主面922に平行な方向に沿って端面921から内部へと入射する光を主面922にて一回のみ反射させつつ端面923から主面922に平行な方向に沿って出射させる(すなわち、入射光軸と出射光軸とを一致させる)ことが実現される。
これに対し、図2および図3に示す光変調器3では、ベース部31において入射面313から内部に入射する光が、両主面311,312にて繰り返し全反射しつつ両主面311,312に平行な進行方向へと導かれる。このように、入射する光が両主面311,312にて多重反射する程度に薄くしたベース部31を用いることにより、光の進行方向に関して電極33が形成された範囲のほぼ全体において、電界の作用により光に位相の変化を生じさせることができる。すなわち、ベース部31の厚さ方向に関して屈折率の変化が生じる範囲内に光を複数回進入させて、または、この範囲内に光を留まらせて、位相の変化が生じる距離(電界の作用による屈折率の変化が光に影響を与える距離)を確保することにより、光の位相変化を効率よく生じさせることができる。これにより、比較例の光変調器91に比べて、変調部である電極33において電極要素331,332の光軸J1方向の長さを短くする、または(および)、電極要素331,332間に付与する電圧を低くすることができ、その結果、光変調器の小型化や安全性の向上を図ることが実現される。
また、比較例の光変調器91では、入射する光の回折時に互いに隣接する電極要素93間に付与される電圧は80〜100Vとされるが、本関連技術では、電極33の電極要素331,332間に付与する電圧を60V以下(各種条件によっては40V以下)とすることも可能であり、これにより、比較例の光変調器91を用いる場合に比べて、電極要素間に付与する電圧を低くして光変調器3の取り扱いに係る安全性を確実に向上することができる。また、電極33を光軸J1方向に長くすることにより、電極要素331に付与する電位を15V以下(各種条件によっては10V以下)まで低減することも可能であり、この場合、光変調器3における変調を高速に行うことが実現される。上記の電極要素331,332間に付与する電圧の低減は、後述の第2の関連技術において同様に適用可能である。
図7は光学ヘッドの他の例の内部構成を簡略化して示す図であり、図2に対応する図である。また、図8は、図7中の矢印B−Bの位置における光変調器3aの断面図である。図7の光学ヘッド2aは、図2および図3の光学ヘッド2と比べて、光変調器3aの構成のみが相違する。他の構成は同様であり、同符号を付している。
図7に示す光変調器3aのベース部31上には、それぞれが図2の電極33と同様である複数の電極33が変調部として配列方向である図7中のX方向に配列形成される(すなわち、光変調器3aは、入射する光を空間変調するマルチチャンネルの変調器とされる。)。詳細には、図8に示すように、複数の電極33に含まれる複数の電極要素331,332はX方向に一定のピッチにて配列されており、図7の電位付与部41に接続される電極要素331と、接地部34に接続される電極要素332とはX方向に交互に配置される。また、光変調器3aでは、配列方向において連続する6個の電極要素331,332(すなわち、3個の電極要素331および3個の電極要素332)が1つの電極33とされ、電位付与部41では各電極33に対して個別に電位を付与することが可能とされる。図8では、1つの電極33に含まれる電極要素331,332を二点鎖線の矩形にて囲んでいる。
図7の光学ヘッド2aでは、光源部21からの光が照明光学系22によりベース部31のX方向の幅とほぼ同じ幅に広げられ、入射面313からベース部31の内部へと入射する。光変調器3aでは、ベース部31の厚さは50μmとされており、ベース部31の内部へと入射した光はベース部31の両主面311,312にて多重反射しつつ光軸J1に沿って進行する。また、ベース部31の内部においてOFF状態とされる電極33の近傍の部位を通過する光は0次光として出射面314から出射され、ON状態とされる電極33の近傍の部位を通過する光は回折して、主として(±1)次回折光が出射面314から出射される。
図9は、光変調器3aと記録材料9との間における光の経路を説明するための図であり、図9では、シリンドリカルレンズ231の図示を省略している。図9に示すように、実際にはレンズ232は光変調器3aに比べて十分に大きくされ、光変調器3aのいずれの電極33(図9では、各電極33を1本の線分にて示す。)からの光(0次光または(±1)次回折光)もレンズ232に入射する。例えば、最も(−X)側または最も(+X)側の電極33からの0次光は、図9中に細い実線にて示す経路K2に沿ってレンズ232により遮蔽板233へと導かれて遮蔽される。また、(±1)次回折光は図9中に細い破線にて示す経路K3に沿ってレンズ232の光軸J1から離れた位置に入射し、遮蔽板233に遮られることなくレンズ234へと到達する。レンズ232,234にて構築される光学系は両側テレセントリックとされ、(±1)次回折光は、仮に遮蔽板233が省略される場合に0次光が記録材料9上に導かれる位置へと導かれる。なお、図9では、遮蔽板233が省略される場合における0次光の主光線を符号M1を付す二点鎖線にて示しており、当該主光線M1は記録材料9に対して垂直となる。本関連技術では、レンズ232,234により縮小光学系が構築されており、記録材料9上には、光変調器3aにおける電極33の配列ピッチよりも小さいピッチにて、複数の電極33近傍からの光の複数の照射位置が主走査方向に垂直なX方向に配列される。
図7の光学ヘッド2aを用いて画像を記録する際には、保持ドラム70の回転および光学ヘッド2の移動を開始することにより、X方向に微小なピッチにて配列された記録材料9上の複数の照射位置が主走査方向および副走査方向に連続的に移動し、変調信号に基づいて光変調器3aの複数の電極33のON/OFF制御が個別に行われる。このように、光変調器3aでは複数チャンネルでの光変調を実現することができ、光変調器3aを有する画像記録装置1では、図1の画像記録装置1に比べて高速に画像を記録することが可能となる。また、レンズ232,234により構築される投影光学系23が両側テレセントリックとされることにより、レンズ234と記録材料9との間の光軸J1方向の距離が僅かに変動した場合でも記録材料9上における像の倍率は変化せず、高精度な画像記録が実現される。
図2および図7に示す光変調器3,3aではベース部31の(+Y)側の主面311上に電極要素331,332が形成されるが(もちろん、主面312上に形成されてもよい。)、光変調器では、ベース部31の両主面311,312に電極要素331,332が形成されてもよい。図10は電極の他の例を説明するための図である。図10の上段はベース部31上の電極33bを示し、図4および図8に対応する断面図である。また、図10の下段は電極33bにより生じるベース部31の内部の屈折率の変化を示す図であり、縦軸に屈折率の変化量を示し、横軸にX方向の位置を示す。図10の上段では、ベース部31の断面を示す平行斜線の図示を省略している(後述の図11の上段および図16において同様。)。図10の上段に示す光変調器3bの1つの電極33bは、ベース部31の一方の主面311上に形成されて電位付与部41に接続される複数の電極要素331と、他方の主面312上に形成されて接地部34に接続される複数の電極要素332とを有する。複数の電極要素332はそれぞれベース部31を挟んで複数の電極要素331に対向する位置に配置されており、電極33bを有する光変調器3bでは、Y方向に互いに対向する電極要素331,332を1つの電極要素対として、複数の電極要素対がX方向に配列される。各電極要素対では、図10の上段に符号E2を付す矢印にて示すように、両主面311,312および光の進行方向(Z方向)に対して垂直な向きの電界が形成される。
このように、光変調器3bでは、ベース部31の内部に入射する光を回折させる際に、両主面311,312(および光の進行方向)に対して垂直な向きの電界を形成する必要がある場合に、各電極33bをベース部31を挟んで両主面311,312上にそれぞれ形成される電極要素対の集合とすることにより、図10の下段に示すように、ベース部31の内部にて、電極要素対の配列方向(X方向)における周期的な屈折率の変化を効率よく生じさせることができる。その結果、光の進行方向における電極33bの長さをさらに短くする、または、電極33bに付与する電圧をさらに低くすることができる。
図11は電極の他の例を説明するための図である。図11の上段はベース部31上の電極33cを示し、図4または図8に対応する断面図である。また、図11の下段は電極33cにより生じるベース部31の内部の屈折率の変化を示す図であり、縦軸に屈折率の変化量を示し、横軸にX方向の位置を示している。
図11の上段に示す光変調器3cの電極33cでは、各主面311,312上において、電位付与部41に接続される電極要素331と、接地部34に接続される電極要素332とがX方向に交互に一定のピッチにて配置される。また、主面311上の各電極要素331に対向する主面312上の位置には電極要素332が配置され、主面311上の各電極要素332に対向する主面312上の位置には電極要素331が配置され、互いに対向する2つの電極要素331,332を電極要素対として、電極33cでは複数の電極要素対がX方向に配列される。複数の電極要素対では、図11の上段に符号E3を付す矢印にて示すように、ベース部31の内部にて両主面311,312(および光の進行方向(Z方向))に対して垂直な(+Y)方向および(−Y)方向に向かう電界が交互に形成される。これにより、電極33cを有する光変調器3cでは、ベース部31の内部に入射する光を回折させる際に、光の進行方向および両主面311,312に対して垂直な向きの電界を形成する必要がある場合に、図11の下段に示すように、ベース部31の内部にて電極要素331,332の配列方向における周期的な屈折率の変化の度合い(振幅)を大きくすることができ、光の進行方向における電極33cの長さをさらに短くする、または、電極33cに付与する電圧をさらに低くすることができる。
以上のように、光変調器3,3a〜3cでは、ベース部31の両主面311,312の少なくとも一方において、ベース部31の内部における光の進行方向に垂直な配列方向に複数の電極要素331,332が並ぶ電極33,33b,33cが変調部として設けられ、電極33,33b,33cの互いに隣接する電極要素331,332(ベース部31を挟んで隣接する場合を含む。)間に電圧を付与することにより、配列方向における周期的な屈折率の変化をベース部31の内部に生じさせて、ベース部31内へと入射する光を回折させることが実現される。
図12は光変調器の他の例の構成を示す図であり、図13は図12の光変調器の分解図である。図12の光変調器3dは、一の主面上に複数の電極要素331がX方向に配列形成された補助基板351、および、一の主面上に複数の電極要素332がX方向に配列形成された補助基板352を有し、図12および図13に示すように、補助基板351の複数の電極要素331がベース部31の主面311に当接し、補助基板352の複数の電極要素332がベース部31の主面312に当接するように、ベース部31を2つの補助基板351,352にて挟むことにより、光変調器3dが構成される。このような光変調器3dでは、薄板状のベース部31に電極要素を直接形成する必要がないため、光変調器を容易に製造することが実現される。なお、補助基板351,352上に形成された電極要素331,332を用いてベース部31の内部に電界を形成する場合には、電極要素331,332とベース部31の主面311,312との間に微小な隙間が存在していてもよい。また、各補助基板351,352上に電極要素331,332を交互に形成することにより、図11の光変調器3cと同様のものが製造されてもよい。
図14は、他の関連技術に係る光変調器を示す図である。図14に示す光変調器3では、ベース部31aの厚さが図3のベース部31よりも薄く(例えば5μm)とされ、入射面313からベース部31aの内部に入射する光はシングルモードにて図14中のZ方向へと導かれる。そして、主面311上の電極33がOFF状態とされる場合には当該光は0次光として出射面314から出射され、ON状態とされる場合には(主に)(±1)次回折光として出射面314から出射される。このように、図14の光変調器3では、ベース部31aの内部において光がシングルモードにて伝播するように、ベース部31aの厚さ(通常、50μm以下)が光源部21からの光ビームの波長等に合わせて決定されている。
ここで、図3のベース部31のように光をマルチモードにて導く場合には、出射面314から出射される光の主光線に垂直な方向の強度分布が偏ったものとなる、あるいは、当該強度分布が時間的に変化することがある。これに対し、図14のベース部31aでは光をシングルモードにて導くことにより、出射面314から出射される光の主光線に垂直な方向の強度分布を安定して好ましい状態(ガウス分布)とすることが可能となる。ただし、多くの光(エネルギー)を伝播させるには、入射面313から内部に入射する光を多重反射しつつ主面311に平行な進行方向に導くベース部31が用いられることが好ましい。なお、図14のベース部31aが、図7、図10、図11および図12の光変調器3a〜3dに用いられてもよい。
図15および図16は、本発明の第2の関連技術に係る光変調器3を示す図であり、図15および図16はそれぞれ図3および図4に対応する。図15および図16に示す光変調器3は、図3の光変調器3と比較してベース部32がY方向(厚さ方向)に厚くされる点で相違している。図16に示す電極33の構成については図4の電極33と同様となっている。
図3のベース部31と同様の材料にて形成される図15のベース部32では、(+Y)側の主面321の全体に対して熱拡散法(例えば、チタン(Ti)拡散法)またはプロトン交換法による処理が施されている。これにより、光の進行方向であるZ方向に垂直なベース部32の断面においてY方向の各位置での屈折率を示す図17の左側のように、主面321の位置(図17の左側において、主面321のY方向の位置に同符号を付している。)から(−Y)方向に離れるに従って屈折率(電極33による電界が生じていない状態における屈折率)が小さくなる屈折率分布が、ベース部32の全体において同様に形成される。なお、図15に示すベース部32では、主面321から離れるに従って密度が低くなるように点を描くことにより、屈折率が(−Y)側に向かって漸次小さくなっていることを示している(後述の図18および図20において同様)。
また、ベース部32では、主面321よりも(+Y)側には空気の層が存在するため(ただし、電極33が形成される部位を除く。)、主面321よりも(+Y)側の位置の屈折率はベース部32よりも十分に低くなる。その結果、(−Z)側の端面である入射面323からベース部32の内部に入射する光は主面321近傍の屈折率が高い部分(薄い板状の部位)のみを通過してZ方向に導かれる。このように、図15の光変調器3では、ベース部32の主面321近傍の部位がスラブ導波路となっている。
図15および図16に示す光変調器3においても、変調部である電極33がOFF状態とされる場合には当該光は0次光として出射面324(すなわち、(+Z)側の端面)から出射され、ON状態とされる場合には(主に)(±1)次回折光として出射面324から出射される。このとき、ベース部32の内部を進行する光は、既述のように電極33が形成される主面321の近傍において主面321に平行な進行方向へと導かれることにより、ベース部32の厚さ方向に関して、電極33により屈折率に変化が生じる範囲内に光を複数回進入させて、または、この範囲内に光を留まらせて、光の位相変化を効率よく生じさせることができる。その結果、電極33において電極要素331,332の光軸J1方向の長さを短くする、または(および)、電極要素331,332間に付与する電圧を低くすることができる。
なお、図15の光変調器3を有する光学ヘッド2を用いて記録材料9上に画像を記録する動作は、第1の関連技術と同様である。また、配列方向に配列された複数の電極を有する図7の光変調器3aにおいて、図15のベース部32が用いられてもよい(後述の図18のベース部32aおよび図20のベース部32bにおいて同様)。
ところで、第1の関連技術における図3のベース部31(および図14のベース部31a)では、両主面311,312の外側(すなわち、ベース部31とは反対側)に空気の層が存在することにより、Y方向の屈折率の分布において両主面311,312の位置の外側にて屈折率がステップ状に(急峻に)低下する。これにより、入射面313から内部に入射する光を両主面311,312にて多重反射し、簡単な構成にて当該光を進行方向へと導くことが可能とされるが、一方で、両主面311,312での反射時に光の損失が生じる。
これに対し、図15のベース部32では、図17の左側に示すように、主面321から(−Y)方向に離れるに従って屈折率が緩やかに小さくなることにより、入射面323から内部に入射する光が主面321近傍から離れることを防止するとともに、両主面にて光を多重反射する場合に比べて、ベース部32内における光の損失を低減する(すなわち、光を効率よく伝播させる)ことが実現される。
ここで、第1の関連技術における図3のベース部31では、入射する光を両主面311,312にて多重反射しつつ進行方向へと導くため、入射面313から電極33までの部位(すなわち、入射面313から回折光が導出される位置の直前までの部位)において、光の進行方向に垂直な断面における当該光が通過する領域(以下、「光通過領域」という。)の大きさがほぼ一定となり、その形状は厚さ方向に対称となる(シングルモードにて光を導くベース部31aにおいても同様)。
図15のベース部32でも同様に、入射面323から電極33までの部位において光通過領域の大きさが一定となるが、既述のように、主面321の(−Y)側では主面321から離れるに従って屈折率が緩やかに小さくなるのに対して、主面321の(+Y)側では空気の層により屈折率が急激に小さくなり(すなわち、光通過領域の近傍における屈折率の分布が非対称となり)、実際には、図17の右側に示すように光通過領域A1(図17の右側にて細線にて示す。)の形状は厚さ方向に(すなわち、上部と下部とが)非対称となる(歪む)。なお、本関連技術では、図17の右側において主面321から光通過領域A1の(+Y)側のエッジまでの距離L1は1〜10μmとなり、光通過領域A1の厚さ方向の幅L2は30〜40μmとなる。
次に、光を効率よく伝播させることが可能なベース部において光通過領域の非対称性を低減する手法について説明する。図18は、本発明の一の実施の形態に係る光変調器3を示す図であり、図15に対応する図である。図18に示す光変調器3は、図15の光変調器3と比較して、ベース部32aが薄い層325を有している点で相違しており、他の構成は同様である。
図18に示すベース部32aでは、板状の本体320の(+Y)側の面320a上に、例えば酸化ケイ素(SiO2)や本体320と同様のリチウムナイオベート等にて形成された薄い層325(例えば、厚さ10μm以下0.1μm以上の層であり、以下、「補助層325」という。)が設けられる。また、本体320では、図15のベース部32と同様に面320aに対して熱拡散法またはプロトン交換法による処理が施されている。
図19はベース部32aのZ方向に垂直な断面における厚さ方向の屈折率の分布を示す図である。図19の縦軸はY方向の位置を示し、図19の横軸は屈折率を示す。また、図19では、補助層325の(+Y)側の面であるベース部32aの主面321、および、本体320の面320aのY方向の位置に同符号を付している。
ベース部32a内に電極33による電界が生じていない状態において、図19中の本体320に対応するY方向の範囲(面320aの位置から(−Y)側)では、面320aの位置近傍において(−Y)方向に向かうに従って屈折率が小さくなる屈折率分布が形成されている。すなわち、本体320では補助層325から離れるに従って屈折率が小さくなる屈折率分布が形成されている。また、図19中の補助層325に対応する厚さ方向の範囲(面320aの位置と主面321の位置との間)は、本体320内の屈折率分布における最大屈折率(すなわち、面320aの位置の極近傍の屈折率)よりも小さい屈折率にて一定となっている。このように、ベース部32aでは、補助層325の存在により屈折率の分布において屈折率が漸次変化する部位が内部に埋め込まれている、あるいは、当該部位が補助層325により覆われていると捉えることができる。
図18の光変調器3においても、ベース部32aの内部に入射する光は、主面321近傍の屈折率が高い部分(主として、面320a近傍の本体320の部分)のみを通過してZ方向に導かれる。このとき、既述のように、補助層325は極めて薄いため、補助層325上に形成される電極33からの電界の作用による光の位相変化をベース部32の内部において効率よく生じさせることができる。その結果、電極33の長さを短くする、または、電極33に付与する電圧を低くすることができる。
ここで、既述のように、図15のベース部32では、図17の左側に示す屈折率の分布に従って、図17の右側に示すように光通過領域A1の形状が厚さ方向に非対称となるのに対し、図18に示すベース部32aでは、面320a近傍における本体320の屈折率分布の最大屈折率よりも小さい屈折率の補助層325が面320a上に形成される(クラッド層が形成されていると捉えることができる。)ことにより、面320aの(+Y)側近傍における屈折率の変化量が小さくなり、光通過領域の近傍における屈折率の分布の非対称性が低減される。その結果、図17の右側に示すベース部32内の光通過領域A1に比べて、図18のベース部32aでは、光通過領域の形状の厚さ方向に関する非対称性を低減することができる(すなわち、光変調器3から出射される光の光束断面の形状の非対称性が低減される。)。また、図15のベース部32では光の主面321における反射にて損失が生じるが、ベース部32aでは、補助層325により本体320の面320aでの光の損失を抑制することができ、光をより効率よく伝播させることができる。
図20は、他の関連技術に係る光変調器を示す図である。図20に示す光変調器3のベース部32bでは、主面321に対して熱拡散法またはプロトン交換法による処理を施す時間が、図15のベース部32における処理時間よりも短くされ、屈折率が変化(上昇)した部位の厚さが薄くされる。これにより、入射面323からベース部32bの内部に入射する光はシングルモードにて主面321に平行な進行方向へと導かれる。すなわち、ベース部32bの主面321近傍の部位がシングルモード導波路となっていると捉えることができる。
このように、図20の光変調器3では、光がベース部32b内をシングルモードにて進行するように、ベース部32bにおいて屈折率が変化した部位の厚さが光源部21からの光ビームの波長等に合わせて決定されている。これにより、図15の光変調器3のようにベース部32内を光がマルチモードにて進行する場合に比べて、出射面324から出射される光の主光線に垂直な方向の強度分布を安定して好ましい状態(ガウス分布)とすることが可能となる。ただし、多くの光(エネルギー)を伝播させるには、入射面323から内部に入射する光をマルチモードにて導くベース部32,32aが用いられることが好ましい。
以上に説明したように、上記第1の関連技術における光変調器では薄いベース部31,31aが用いられることにより、また、上記第2の関連技術における光変調器では電極33が設けられる主面321の近傍にて主面321(ベース部32aでは面320a)から離れるに従って屈折率が小さくなる屈折率分布を有する厚いベース部32,32a,32bが用いられることにより、ベース部において入射面から内部に入射する光を変調部の電極が設けられる少なくとも一の主面の近傍において当該主面に平行な進行方向へと導くことが実現され、その結果、光変調器において、光の進行方向における電極の長さを短くする、または、電極に付与する電圧を低くすることが実現されている。
上記画像記録装置は様々な変形が可能である。
上記第1の関連技術では、ベース部31の厚さが50μmとされるが、入射面313から入射する光を両主面311,312にて多重反射しつつ両主面311,312に平行な方向へと導くものであるならば、ベース部31は様々な厚さに変更可能である。ただし、一般的な光変調器では、ベース部の内部にて屈折率の変化が生じる深さは30〜50μmとされるため、ベース部31の内部においてY方向のほぼ全体にて屈折率の変化を生じさせるには、ベース部31の厚さは50μm以下とされることが好ましい。また、光変調器3の製造時におけるベース部31の一定の強度を確保するという観点では、ベース部31の厚さは3μm以上とされることが好ましい。
図15、図18および図20の光変調器3では、ベース部32,32a,32b(の本体320)における厚さ方向の屈折率分布が熱拡散法またはプロトン交換法により容易に形成されるが、当該屈折率分布は他の手法により形成されてもよい。
また、上記第1および第2の関連技術では、光変調器3,3a〜3dにおいて記録材料9上の光の照射位置に対する光の照射のON/OFF制御が行われるが、光変調器3,3a〜3dでは、電極要素331,332間に付与する電圧を調整することにより、多階調の光の照射制御が行われてもよい。
画像記録装置1では、投影光学系23により光変調器3,3a〜3dからの(±1)次回折光のみが記録材料9上へと導かれるが、画像記録装置の設計によっては、光変調器3,3a〜3dからの(±1)次回折光が遮蔽され、0次光が記録材料上へと導かれてもよい。すなわち、光源部21からの光が入射する光変調器3,3a〜3dからの0次光および(±1)次回折光の一方が投影光学系23により記録材料9上へと導かれることにより、画像記録装置において光変調器3,3a〜3dの変調制御による画像の記録が可能となる。
光変調器3,3a〜3dが設けられる画像記録装置は、ステージ上に載置された板状の記録材料に対して光学ヘッドを記録材料に沿って相対的に移動する走査機構により、記録材料上における光変調器3,3a〜3dからの光の照射位置を記録材料に対して相対的に移動しつつ光変調器3,3a〜3dを制御して画像を記録するものであってもよい。また、図1の画像記録装置1において、光学ヘッドにポリゴンミラーが設けられることにより、記録材料9上における光の照射位置がX方向に移動してもよい。
画像の情報を保持する記録材料は、プリント配線基板や半導体基板等の感光性材料が塗布された、あるいは、感光性を有する他の材料であってもよく、光の照射による熱に反応する材料であってもよい。
また、光変調器3,3a〜3dは画像記録以外の用途に用いられてもよく、この場合、光の照射の対象物も記録材料以外であってもよい。