JP5225367B2 - 転がり抵抗試験機に備えられた多分力検出器の校正方法 - Google Patents
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Description
多分力検出器を校正する方法としてはさまざまなものが開発されているが、特許文献1に示すように質量が既知の錘を用いて各方向に試験荷重を加えた上で校正を行うものがある。また、特許文献2や特許文献3に示すように、高精度な荷重検定器を介して外力を与えることにより校正を行う方法も開示されている。
特に、転がり抵抗試験機に備えられた多分力検出器においては、押し付け荷重が転がり荷重へ影響してしまう等のクロストークが問題となる。
前述した特許文献2,3では、クロストークの影響を加味した多分力検出器の校正方法が一部開示されてはいるものの、具体的な手法が開示されるに至っておらず、実際の現場で採用できる技術とは言い難い。
即ち、本発明の転がり抵抗試験機に備えられた多分力計の校正方法は、タイヤが装着されるスピンドル軸と、前記タイヤが押し付けられる模擬走行路面を有する走行ドラムと、走行ドラムの回転軸に設けられた回転トルク計を有する転がり抵抗試験機に備えられた多分力検出器の校正方法であって、前記スピンドル軸には多分力検出器が取り付けられていて、前記多分力検出器により、走行ドラムの接線方向をx軸、スピンドル軸芯方向をy軸、タイヤに加えられる荷重方向をz軸とした際に、各軸方向に作用する力fx,fy,fz、及び各軸回りのモーメントmx,my,mzのうち、少なくともfxおよびfzを含む2以上が計測可能とされ、前記多分力検出器で発生するクロストークの影響を補正するクロストーク補正係数を用いて、多分力検出器の計測値からタイヤに作用する力を算出する処理を行っているに際しては、前記クロストーク補正係数を、前記回転トルク計で計測された回転トルクと多分力検出器で計測された力とからなる「転がり試験データ」を用いて校正することを特徴とする。
この校正方法を採用するにあたり、回転トルク計自体の校正は高精度に行えることから、この回転トルク計により算出される転がり抵抗は精度が高いものとなる。また、多分力検出器に関しては、押し付け荷重と同じ方向に計測される荷重(例えば、fxやfz)については、押し付け方向と計測方向とは基本的には同方向であり、押し付け荷重を付与する角度誤差の影響は少ないが故に、比較的容易に且つ精確に計測値を求めることができる。そこで、クロストークの影響度合い(クロストーク補正係数)のみを、上記した技術的手段を用いて、多分力検出器の出力と回転トルク計の出力との比較により算出するようにする。このようにすれば、少なくとも未知係数の数の分だけデータを採取することで、高精度な校正が可能である。
fz及びmxは、多分力検出器で計測される荷重及びモーメントの中でもfxにクロストークの影響を及ぼしやすいものである。それゆえ、少なくともfx、fz、mxを検出可能な多分力検出器に対して、fxに対するfz及びmxのクロストーク補正係数の校正を行うのが良い。
多分力検出器で計測されるmxは、タイヤ半径rとfyとの積を含み、タイヤの横力fyとの相関が高い。それゆえ、fx、fy、fzの並進荷重を計測する多分力検出器に対しては、mxに替えてfyを利用し、fxに対するfz及びfyのクロストーク補正係数の校正を行っても良い。
上述したfx,fz,fy,mxのすべての計測が可能な多分力検出器に対しては、fxに対するfz、fy及びmxのクロストーク補正係数をすべて校正することで、さらに精度の高い多分力検出器の校正が可能となる。
タイヤを取り付けるスピンドル軸や回転ドラムの回転軸に設けられた軸受けには、少なからず回転摩擦の影響が存在する。この回転摩擦が転がり抵抗力の計測値に上乗せされると、精度の良いfxの計測やクロストーク補正係数の校正が困難となる。そこで、試験荷重が加えられた状態から試験荷重と異なる荷重(例えばスキム荷重)が加えられた状態を差し引いた差分荷重を用いてクロストーク補正係数を校正すれば、回転摩擦の影響を排除しつつ校正を行うことができ、クロストーク補正係数を精度良く校正することが可能となるのである。
本発明の転がり抵抗試験機1は、タイヤT(試験用のタイヤ)を走行させる模擬走行路面2が外周面に備えられた円筒状の走行ドラム3と、この走行ドラム3の模擬走行路面2にタイヤTを押し付けるキャリッジ4とを備えている。このキャリッジ4は、タイヤTを回転自在に保持するスピンドル軸5を搭載するスライド台であって、走行ドラム3から水平方向に距離をあけて配備されている。
走行ドラム3は、左右方向と垂直な水平方向に沿った軸回りに回転自在に取り付けられた円筒体であり、その外周面にはタイヤTが転動可能な無端の模擬走行路面2が形成されている。走行ドラム3の回転軸には走行ドラム3を回転させるモータ6及び回転トルク計7が取り付けられており、走行ドラム3は回転トルク計7を介してモータ6で駆動可能となっている。回転トルク計7は、走行ドラム3で発生するトルクを計測可能となっている。
例えば、回転トルク計7を常設したまま走行ドラム3を急加速したり急減速したりして転がり抵抗を計測しようとすると、回転トルク計7に大きなトルクが作用する。それゆえ、このような常設が可能な回転トルク計7には、負荷容量の大きいトルク計、言い換えれば計測精度の粗いトルク計を用いる必要がある。しかし、回転トルク計7を常設しないのであれば、校正試験の範囲においては急加速や急減速は必要が無いため、計測精度の細かい低負荷容量の回転トルク計7を利用できる。一般に、低負荷容量の回転トルク計は、高負荷容量のものに比べて安価である。
なお、上述したスピンドル軸5は、先端にタイヤTを保持可能な軸部材であり、円筒状のハウジング8に水平方向を向く軸回りに回転自在に挿入された状態で取り付けられている。このスピンドル軸5の回転軸心は走行ドラム3の回転軸心と上下方向で同じ高さに且つ平行となるように配備されており、キャリッジ4を水平移動させるとスピンドル軸5に取り付けられたタイヤTが走行ドラム3の模擬走行路面2に対してその法線方向から押し当てられるようになっている。このスピンドル軸5を回転自在に支持するハウジング8には多分力検出器が設けられている。
図1に示すような座標軸、すなわち、キャリッジ4の移動方向(軸荷重の付与方向)を向くz軸、スピンドル軸5の軸芯と同軸なy軸、z軸及びy軸と直交する方向であって走行ドラム3の外周接線方向を向くx軸を設定した場合に、多分力検出器は、これらの座標軸に沿った荷重(fx、fy、fz)、及びこれらの座標軸回りのモーメント(mx、my、mz)のうち、少なくともfxおよびfzを含む2以上を検出する。なお、タイヤTに作用する力を表現する際は大文字のFを用いることとする。(たとえば、Fx、Fy、Fz)
この多分力検出器で計測された荷重及びトルクの計測値は制御部11に送られる。
また、制御部11は、多分力検出器で計測された計測データに基づいて、真の転がり抵抗Fxなどを算出する計測部12を備えている。この計測部12においては、多分力検出器で計測されたfx’、fz’、mx’などの荷重計測値やトルク計測値が入力され、後述の式(1)を用いて、fxが算出される。なお、式(1)には、係数a,bなどが存在するが、これらa,bは、多分力検出器におけるクロストークの影響を補正する係数である。この係数a,bを正確に知ること、言い換えるならば、正確に校正しておくことは、計測部12においてfxを正確に算出するためには不可欠なことである。
次に、制御部11内に設けられたこの校正部13で行われる信号処理、言い換えれば本発明の多分力検出器の校正方法を説明する。
[第1実施形態]
まず、第1実施形態の多分力検出器の校正方法について説明する。
fxに対する軸荷重fzのクロストーク補正係数a、及びmxのクロストーク補正係数bの校正は、次の順序で行われる。
まず、図3に示すように、質量が既知の錘をスピンドル軸5に取り付けてx方向に荷重を加え、多分力検出器で同方向に加わる荷重を計測し、校正(キャリブレーション)を行う。このようにすると、fxに対する多分力検出器の計測値fx’の校正係数αを求めることができる。
その状態で、多分力検出器から出力される荷重fz’の計測値と荷重検定器14で示される荷重fzの信号から、転がり抵抗の場合と同様に校正係数を求めるなどして真の軸荷重fzの校正を行う。
まず、図3のやり方で求めた校正係数α、及びクロストーク補正係数a、bを用いることで、fxは式(1)のように示される。
fx=α・fx’+a・fz’+b・mx’ (1)
なお、式(1)において、係数aは、z方向の計測値fz’に起因するクロストークの影響度合いを表す係数であり、fz’のクロストーク補正係数である。係数bは、x軸回りのモーメントの計測値mx’に起因するクロストークの影響度合いを表す係数であり、mx’のクロストーク補正係数である。
fx=τ/L (2)
上述した式(1)から得られるfxと、式(2)から得られるfxとを等しいとおくことで、クロストーク補正係数a,bの具体的な数値を算出することができる。
τ/L=α・fx’+a・fz’+b・mx’ (1)’
ただし、式(1)には、2つの未知な係数a、bがあるため、2つのクロストーク補正係数a、bを求めるためには、少なくとも2種類の一次独立となっている「転がり試験データ」を得る必要がある。2種類以上の一次独立となっている「転がり試験データ」が得られれば、式(1)’を基にした独立な2次連立方程式を得ることができ、変数a、bを算出可能となる。
なお、一次独立な「転がり試験データ」を得る方法はタイヤTの取り付け方向を変更するものに限定されない。例えば、転がり特性が互いに異なる2本のタイヤTを用意し、それぞれのタイヤTを用いて試験データを採集しても一次独立な「転がり試験データ」を得ることができる。また、1本のタイヤTをスピンドル軸5に取り付けたまま、正転させた場合の試験データと、逆転させた場合の試験データとを採集してもよい。なお、1本のタイヤTについてその回転速度条件を変えたり、押し付け荷重を変えたりして得たデータは1次独立とはならないので、本発明の「転がり試験データ」とは言えない。
以上述べた第1実施形態の校正方法によれば、転がり抵抗試験機1に設けられた多分力検出器のクロストーク補正係数a,bを手間や時間をかけることなく精度良く校正することができ、ひいては、fxを精確に求めることができるようになる。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態の多分力検出器の校正方法について、説明する。
第2実施形態のクロストーク補正係数a及びcの校正は、次の順序で行われる。
まず、図3に示す如く、第1実施形態と同様に、fxに対して転がり抵抗方向の計測値fx’が有する校正係数αを求める。
fx=α・fx’+a・fz’+c・fy’ (3)
一方、fxは、回転トルク計7の計測値を用いて、式(2)のように表せる。それゆえ、式(3)の右辺と式(2)の右辺とを等しいとおくことで、式(3)’を導出できる。
τ/L=α・fx’+a・fz’+c・fy’ (3)’
この式(3)’においても、2つの未知な係数a,cがあるため、2つのクロストーク補正係数a、cを求めるためには、少なくとも2種類の一次独立となっている「転がり試験データ」を得る必要がある。2種類の一次独立となっている「転がり試験データ」が得られれば、式(3)’を基にした独立な2次連立方程式を得ることができ、変数a、cを算出可能となる。
以上述べた第2実施形態の校正方法が奏する作用効果は、第1実施形態の校正方法と略同様である故、説明は省略する。
mx=−Lt・Fz−Rt・Fy (4)
この式(4)から分かるように、タイヤ径Rtが変わらない場合には、mxとFyは線形の関係にあり、タイヤTの横力fyとの相関が高いことを意味する。つまり、mxに替えてfyを利用してクロストーク補正係数の校正を行っても、第1実施形態と同様に精度の高いクロストーク補正係数を求めることができる。
[第3実施形態]
次に、第3実施形態の多分力検出器の校正方法について、説明する。
第3実施形態のクロストーク補正係数a,b,cの校正は、次の順序で行われる。
まず、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、図3に示す如く、fxに対する転がり抵抗方向の計測値fx’の校正係数αを求める。
fx=α・fx’+a・fz’+b・mx’+c・fy’ (5)
この式(5)と、回転トルク計7の計測値を用いた式(2)を基に、式(5)’を導出できる。
τ/L=α・fx’+a・fz’+b・mx’+c・fy’ (5)’
このようにして求めた式(5)’は、3つの未知な変数があるため、これらを解く(言い換えれば、校正係数から成る校正行列を求める)ためには、一次独立な3種類の「転がり試験データ」を得る必要がある。
[第4実施形態]
次に、第4実施形態の多分力検出器の校正方法について、説明する。
まず、第1実施形態及び第2実施形態と同様にして、真の転がり抵抗fxに対して転がり抵抗の計測値fx’が有する校正係数αを求めておく。
そして、標準荷重(例えば、5000N)でタイヤTを走行ドラム3に押し付けた状態で時計回りCW(正転方向)にタイヤTを回転させ、多分力検出器でfx1、fz1、fy1及びmx1を計測する。
fx1’=fx1−fsx1
fz1’=fz1−fsz1 (7)
fy1’=fy1−fsy1
mx1’=mx1−msx1
上述したようにして求めたfx1’、fz1’、fy1’及びmx1’を、式(1)'、式(3)'、式(5)'のfx’、fz’、fy’及びmx’に適用することで、第1実施形態〜第3実施形態の手法により、校正係数を求めることが可能となる。
fx2’=fx2−fsx2
fz2’=fz2−fsz2 (8)
fy2’=fy2−fsy2
mx2’=mx2−msx2
上述したようにして求めたfx2’、fz2’、fy2’及びmx2’を、式(1)'、式(3)'、式(5)'のfx’、fz’、fy’及びmx’に適用することで、第1実施形態〜第3実施形態の手法により、校正係数を求めることが可能となる。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
2 模擬走行路面
3 走行ドラム
4 キャリッジ
4a 垂直壁部
5 スピンドル軸
6 モータ
7 回転トルク計
8 ハウジング
9 リニアガイド
10 油圧シリンダ
11 制御部
12 計測部
13 校正部
14 荷重検定器
15 ベアリング
T タイヤ
Claims (5)
- タイヤが装着されるスピンドル軸と、前記タイヤが押し付けられる模擬走行路面を有する走行ドラムと、走行ドラムの回転軸に設けられた回転トルク計を有する転がり抵抗試験機に備えられた多分力検出器の校正方法であって、
前記スピンドル軸には多分力検出器が取り付けられていて、
前記多分力検出器により、走行ドラムの接線方向をx軸、スピンドル軸芯方向をy軸、タイヤに加えられる荷重方向をz軸とした際に、各軸方向に作用する力fx,fy,fz、及び各軸回りのモーメントmx,my,mzのうち、少なくともfxおよびfzを含む2以上が計測可能とされ、
前記多分力検出器で発生するクロストークの影響を補正するクロストーク補正係数を用いて、多分力検出器の計測値からタイヤに作用する力を算出する処理を行っているに際しては、
前記クロストーク補正係数を、前記回転トルク計で計測された回転トルクと多分力検出器で計測された力とからなる「転がり試験データ」を用いて校正することを特徴とする転がり抵抗試験機に備えられた多分力検出器の校正方法。 - 前記多分力検出器がfx,fz,mxの計測が可能であるに際しては、
前記fx,fz,mxを含み且つ少なくとも2種類の一次独立となっている「転がり試験データ」を用いて、fxに対するfz及びmxのクロストーク補正係数を校正することを特徴とする請求項1に記載された転がり抵抗試験機に備えられた多分力検出器の校正方法。 - 前記多分力検出器がfx,fz,fyの計測が可能であるに際しては、
前記fx,fz,fyを含み且つ少なくとも2種類の一次独立となっている「転がり試験データ」を用いて、fxに対するfz及びfyのクロストーク補正係数を校正することを特徴とする請求項1に記載された転がり抵抗試験機に備えられた多分力検出器の校正方法。 - 前記多分力検出器がfx,fz,fy,mxの計測が可能であるに際しては、
前記fx,fz,fy,mxを含み且つ少なくとも3種類の一次独立となっている「転がり試験データ」を用いて、fxに対するfz、fy及びmxのクロストーク補正係数を校正することを特徴とする請求項1に記載された転がり抵抗試験機に備えられた多分力検出器の校正方法。 - 前記走行ドラムにタイヤを試験荷重で押し当てた際に得られる多分力検出器の計測値から、タイヤを試験荷重と異なる荷重で押し当てた際に得られる多分力検出器の計測値を差し引いた「差分荷重」を求め、
求められた「差分荷重」を「転がり試験データ」とし、クロストーク補正係数の校正を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の転がり抵抗試験機に備えられた多分力検出器の校正方法。
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