フツリン酸ガラスの原料としては、一般にリン酸塩が用いられている。またアニオン成分としてフッ素(F−)の導入量をなるべく多くするために、リン(P5+)1原子に対する酸素(O2−)原子数の比(酸素原子/リン原子)が小さい、メタリン酸塩(酸素原子/リン原子=3)が用いられている。
メタリン酸塩を用いてガラスを熔融すると、原料に由来するメタリン酸とフッ素が反応して揮発性の高いフッ化ホスホリル(POF3)が発生すると考えられる。これに対して、熔融ガラス中のリン1原子当たりの酸素原子の原子比を3.5以上(酸素原子/リン原子≧3.5)に調整、コントロールすると、揮発成分の発生量を大幅に低減できることが判明した。つまり、ガラス原料中のリン原子の含有量と酸素原子の含有量のモル比O/Pを調整することにより、すなわち、ガラス中に含まれるP5+含有量に対するO2−含有量のモル比O2−/P5+を調整することにより、ガラスの揮発性、侵蝕性を制御することができる。
これは、熔融ガラス中に存在するリン酸として、リン(P5+)1原子に対する酸素(O2−)原子数の比(酸素原子/リン原子)が3であるメタリン酸よりも、リン(P5+)1原子に対する酸素(O2−)原子数の比(酸素原子/リン原子)が3.5である2リン酸の方が安定であるためと考えられる。
フツリン酸ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+を3.5以上とすることによって、揮発成分の発生そのものを抑制することができる。その結果、熔融ガラスの反応性も抑制され、侵蝕性も大幅に低減することができる。
したがって、ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+を制御するとともに、固化したガラスを再熔融したときの再熔融の前後における屈折率変化量をゼロに近づけることにより揮発性および侵蝕性を大幅に抑制し、異物を含まず、諸特性がそろったプリフォームの集合であるプリフォームロットを提供することができる。
なお、こうした手法によりフツリン酸ガラスとしては反応性、侵蝕性が極めて低いレベルに抑制されたガラスは、従来のガラスと構造が異なると考えられる。
ガラスはアモルファス構造を有し、一般にその構造は等方的と考えられるが、揮発性および侵蝕性をもたらす生成物が存在すると、ガラス構造に僅かな異方性が生じると考えられる。こうした考えを裏付けるため、ガラスの異方性を分析する手法として一般的な核磁気共鳴法を用い、31Pの核磁気共鳴スペクトルを測定した。その結果、揮発性と侵蝕性がともに極めて低レベルにまで抑制されたガラスと従来のガラスとの間で、スペクトルに明瞭な違いが見られた。
核磁気共鳴法ではガラス試料を回転して測定を行う。異方性の大小により、リンの含有量が少ないフツリン酸ガラスでは、得られたスペクトルのメインピークと試料の回転により生じるスピニングサイドバンドの強度比が変化し、リンの含有量が多いフツリン酸ガラスでは、共鳴スペクトルの形状が変化する。
揮発性および侵蝕性が抑制されたフツリン酸ガラスを得るには、揮発性と侵蝕性が一層抑制されたフツリン酸ガラス特有の核磁気共鳴特性を有するガラスとすればよい。
本発明のプリフォームロットは、プリフォームを構成するフツリン酸ガラスを上記モル比O2−/P5+によって特徴付ける第1の態様と、核磁気共鳴スペクトルによって特徴付ける第2の態様および第3の態様の3つに大別することができる。
すなわち、本発明のプリフォームロットの第1の態様(プリフォームロット1という。)は、ガラス成分として、リン、酸素およびフッ素を含むフツリン酸ガラスからなる複数の精密プレス成形用プリフォームによって構成されるプリフォームロットにおいて、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上であるフツリン酸ガラスからなる複数のプリフォームによって構成されるプリフォームロットである。
本発明のプリフォームロットの第2の態様(プリフォームロット2という。)は、リン成分をP5+に換算して3カチオン%超30カチオン%以下含み、核磁気共鳴スペクトルにおける31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴ピークの強度I(0)に対する前記共鳴ピークの一次のサイドバンドピークの強度I(1)の比I(1)/I(0)が0.08以下であるフツリン酸ガラスからなる複数のプリフォームによって構成されるプリフォームロットである。
本発明のプリフォームロットの第3の態様(プリフォームロット3という。)は、リン成分をP5+に換算して30〜50カチオン%含み、核磁気共鳴スペクトルにおける31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴スペクトルの形状がガウス関数形状であるフツリン酸ガラスからなる複数のプリフォームによって構成されるプリフォームロットである。
プリフォームロット2とプリフォームロット3は、ガラス中のリン成分の含有量が異なるため、プリフォームロット2であり、かつプリフォームロット3であるプリフォームロットはないが、プリフォームロット1であり、かつプリフォームロット2である本発明のプリフォームロットは存在する。また、プリフォームロット1であり、かつプリフォームロット3である本発明のプリフォームロットも存在する。
ここでプリフォームロットとは、同一の仕様を有する複数のプリフォームの集合物である。また、同一の仕様とは、同種のガラスからなり、同一の形状および同一の質量を有することを意味する。
実用上、プリフォームロットを構成するプリフォームの個数は100個以上を目安とすることができる。特に、光学素子の生産規模が大きい場合、前記プリフォームの個数は5000個以上であり、より生産規模が大きい場合は前記プリフォームの個数は10000個以上となる。プリフォームロットを構成するプリフォームの個数に特に上限はないが、実用的には100000000個以下を目安とすることができる。
以下、プリフォームロット1から順にプリフォームロット2、プリフォームロット3について詳細に説明するが、フツリン酸ガラスのリン成分の含有量およびアッベ数νdに関する説明を除き、プリフォームロット1に関する説明とプリフォームロット2に関する説明は共通し、プリフォームロット1に関する説明とプリフォームロット3に関する説明は共通する。
[プリフォームロット1]
プリフォームを構成するフツリン酸ガラスにおいて、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5未満だと前述のように揮発成分の発生を抑制できず、揮発成分の発生に伴い生じるガラスの反応性、侵蝕性も抑制することができない。したがって、本発明では、フツリン酸ガラスのP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上とする。
モル比O2−/P5+の上限については、目的とするガラスが得られれば特に制限されないが、ガラスの熱的安定性を維持する観点からモル比O2−/P5+の上限を4とすることが好ましい。
ガラス中のF−の含有量が65アニオン%未満の場合、アニオン成分中、酸素成分の割合を高めることができるので、揮発性、侵蝕性を一層抑制する上からモル比O2−/P5+を高めることが好ましく、モル比O2−/P5+を3.53以上とすることが好ましく、3.55以上とすることがより好ましく、3.6以上とすることがさらに好ましい。
熔融ガラスの揮発性、侵蝕性を抑制し、品質、光学特性および熱的特性を安定化し、精密プレス成形による光学素子の量産性をより一層向上させる上から、前記プリフォームを構成するガラスの屈折率ndの値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率ndの値をnd(2)としたときに、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値Δndが0.00300以内であることが好ましい。
nd(2)−nd(1)の絶対値の好ましい範囲は0.00250以内、より好ましい範囲は0.00200以内、さらに好ましい範囲は0.00150以内、一層好ましい範囲は0.00120以内、より一層好ましい範囲は0.00100以内である。
フツリン酸ガラスにおいてフッ素はガラスの屈折率を相対的に低下させる成分なので、nd(2)−nd(1)の値は一般に正となる。
nd(2)を測定するために行われる再熔融時の雰囲気は、ガラスと雰囲気の反応により揮発以外の要因によりガラスの屈折率が影響を受けないようにするため、窒素とする。再熔融は900℃で1時間の所定条件下で行われ、その後、ガラス転移温度まで冷却する。nd(2)の値は冷却時の降温速度にも影響を受けるので、冷却は毎時30℃の所定の降温速度で行われ、25℃まで冷却される。
屈折率の測定は公知の方法を用いることができ、有効桁数6桁(小数点以下5桁)の精度で測定することが望ましい。屈折率の測定例としては、日本光学硝子工業会規格JOGIOS 01−1994「光学ガラスの屈折率の測定方法」を適用することができる。
ガラスの形状、体積などによっては、例えばガラスが小さな球状であったり、肉薄のレンズに成形されている場合には、上記規格に定められた形状、寸法の試料にガラスを加工することができない場合もある。その場合には、ガラスを加熱、軟化してプレス成形し、アニールして2つの平面が所定の角度で交わるプリズム形状にする。そして、上記規格と同じ測定原理に基づき、屈折率を測定する。(屈折率測定法Aということにする。)プレス成形によるプリフォーム製造時の加熱温度は高々ガラスを軟化できればよい温度域であって、ガラスを熔融する温度よりも極めて低いから、揮発性物質の濃度への影響は無視できる程度であり、上記加熱前後の屈折率変化量は無視して差支えない。
図1は、モル比O2−/P5+を3.0から4.0の間で変化させたときの屈折率変化量(nd(2)−nd(1))の絶対値Δnd、フツリン酸ガラス中に含まれる粒径10μm以上の白金異物の数密度の変化を示したものである。なお、ガラスの熔融は白金坩堝にて行った。
なお、本発明によれば、熔融ガラスの揮発性が抑制されるので、モル比O2−/P5+はガラス原料中のリン原子の量Pと酸素原子の量Oのモル比O/Pと等しくなる。
図1より、モル比O2−/P5+を3.5以下とすることにより、フツリン酸ガラスの揮発性が抑制されてΔndが0.00300以下になるとともに、フツリン酸ガラスの侵蝕性が抑制されて白金異物の数密度を抑制できることがわかる。
ところで、プリフォームはその形状や内部の歪などにより屈折率を直接測定することが困難な場合が多い。こうした場合、屈折率は屈折率測定法Aにより測定すればよいが、屈折率測定法Aでは、プリフォームを再成形して屈折率測定に適した形状にするため、屈折率を測定したプリフォームは、そのまま精密プレス成形に使用することができない。そのため、光学素子材料であるフツリン酸ガラスの屈折率が所定の値になっているかどうかを確認するには、屈折率測定用の試料を作製し、この試料の屈折率を測定し、その結果が所定の値になっているかどうかにより確認することになる。
この確認法を有効にするには、屈折率測定用試料の屈折率と実際に光学素子の製造に使用するガラスの屈折率とが厳密に等しくすることが要求される。しかし、フツリン酸ガラスの場合は、著しい揮発によって時間経過とともに屈折率が大きく変動するため、こうした確認が難しい。
本発明によれば、プリフォームの材料であるフツリン酸ガラスの熔融状態、融液状態における揮発性が抑制されているので、プリフォームロットを構成するプリフォーム相互の屈折率を実質的に等しくすることができ、プリフォームロットからプリフォームをサンプリングして再成形し、屈折率の確認を行うことができる。また、所要の屈折率が得られるようにガラス原料を調合し、ガラスを熔融すれば、揮発による屈折率変動が極めて少ないので、所要の屈折率を有するガラスを得ることができ、光学特性のそろったプリフォームからなるプリフォームロットを提供することができる。
本発明のプリフォームロットを構成する各プリフォームについて屈折率測定法Aにより屈折率ndを測定し、屈折率公差を算出すると±0.00050以内、好ましくは±0.00020以内となる。これに対し、本発明の要件を満たさないプリフォームロットでは、屈折率ndの公差は±0.00500程度となる。
さらに本発明によれば、プリフォーム間の屈折率のばらつきを抑制できるので、精密プレス成形により得られる光学素子の屈折率のばらつきも抑制することができる。
光学素子間で屈折率のばらつきがある場合、各光学素子の屈折率をそろえるため、屈折率調整用の精密アニールを行なう。この方法では、精密アニール後に各光学素子の屈折率がそろうように、屈折率が異なる光学素子毎に精密アニール条件を設定する必要がある。
しかし、本発明によれば、光学素子間の屈折率を一定にすることができるので、光学素子を精密アニールしなくてもよく、精密アニールを行う場合でも一定条件で精密アニールを行えば、屈折率のばらつきのない光学素子ロットを生産することができる。
また光学素子の光学機能面に反射防止膜などの光学薄膜をコートする場合、同一の膜構成、すなわち、光学多層膜の各層を構成する物質、各層の厚さを同じとして量産した光学素子にコートしても、設計通りの性能を量産品のすべてで得ることができる。反射防止膜を構成する各層の物質は公知の物質、例えばフッ化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどとすればよく、各層をどのように積層するか、各層の厚みなどは、周知の反射防止膜設計法に基づき定め、蒸着などの成膜法でコーティングすればよい。
ところで、従来、フツリン酸ガラスの著しい揮発により、プリフォーム間の熱的特性のばらつき、例えば、ガラス転移温度のばらつきが大きく、量産開始時に精密プレス成形の条件を最適化してもプリフォームの熱的特性のばらつきにより最適条件が変動してしまい、その結果、光学素子の生産歩留まりが低下してしまうという問題があった。しかし、本発明によれば、プリフォーム間のガラス転移温度Tgなど熱的特性のばらつきが抑制されるので、量産開始時に精密プレス成形の条件、例えば、プリフォームの加熱温度、プレス成形型の加熱温度、プレス圧力、加圧時間、成形後の成形品の冷却スピードなどの条件を最適化し、最適化した条件を一定に保ちつつ光学素子を量産すれば、形状精度や光学機能面の面精度が高く、高品質の光学素子を安定して生産することができる。
本発明において、プリフォームロットを構成する各プリフォームのガラス転移温度Tgの公差は好ましくは±3℃以内、より好ましくは±1℃以内となる。
これに対し、従来のガラスからなるプリフォームによって構成されるプリフォームロットでは、ガラス転移温度Tgの公差は±15℃程度であり、本発明におけるガラス転移温度の公差を大幅に上回っている。
また、本発明よれば、プリフォームを構成するフツリン酸ガラスの反応性、侵蝕性も十分抑制することができるので、ガラス製造時に使用する熔融容器、パイプ、撹拌棒などの器具の侵蝕を防止し、ガラス中に侵蝕物が異物として混入するのを防ぐこともできる。
光学ガラスをはじめ高品質のガラスを熔融法によって製造する場合、坩堝などの熔融容器、熔融ガラスを導くパイプ、熔融ガラスを均質化する撹拌棒などの各種器具の熔融ガラスが触れる部分をを白金や白金合金で作ることが多い。ガラス中に混入した白金粒子や白金合金粒子がすべてガラス中に溶け込めば、光の散乱源にはならないが、フツリン酸ガラスは、白金や白金合金を比較的溶し込みにくいガラスであり、侵蝕された白金や白金合金などが光を散乱する異物としてガラス中に残存しやすい。本発明によれば、ガラスの侵蝕性そのものを抑制することができるので、光散乱源となる異物を含まない光学的に均質なガラスからなるプリフォームロットを得ることができる。
また、少量であっても白金、白金合金がガラス中に溶け込むとガラスの着色の原因となる。本発明によれば、ガラスの侵蝕性を抑制することができるので、着色の少ないプリフォームからなるプリフォームロットを提供することもできる。
次に本発明のプリフォームロットを構成するプリフォームの材料として好ましいガラスについて説明する。
第1の例は、アッベ数νdが70を超えるフツリン酸ガラス(フツリン酸ガラスIという。)である。アッベ数νdはガラス中のフッ素成分量に大きく依存する。すなわち、アニオン成分中、フッ素成分が占める割合が大きいとアッベ数νdが増加し、フッ素成分が占める割合が小さいとアッベ数が減少する。したがって、アッベ数νdが大きいガラスは、酸素成分量が少なく、モル比O2−/P5+が小さくなり、熔融状態におけるガラスの揮発性、侵蝕性が著しくなる。本発明は、モル比O2−/P5+が3.5以上になるようにリン成分量も調整することにより、アッベ数νdが70を超える超低分散性のフツリン酸ガラスでありながら、揮発性および侵蝕性が抑制されたガラスを実現し、上記プリフォームロットの提供を可能にする。
フツリン酸ガラスIを含む本発明の方法で製造されるフツリン酸ガラスとして、アッベ数νdが75を超えるフツリン酸ガラスが好ましく、アッベ数νdが78を超えるフツリン酸ガラスがより好ましく、アッベ数νdが80を超えるフツリン酸ガラスがさらに好ましい。
フツリン酸ガラスIの中で好ましいガラスは、カチオン成分として含まれる希土類元素の合計含有量が5カチオン%未満であり、アニオン成分として含まれるF−とO2−の合計含有量に対するF−の含有量のモル比F−/(F−+O2−)が0.2以上、屈折率ndが1.53を超えるガラス(フツリン酸ガラスI−aという。)である。
カチオン成分として含まれる希土類元素の含有量が過剰になるとガラスの熔解温度、液相温度、熔融ガラスの流出温度や成形温度が上昇する。特に、屈折率ndが1.53を超えるガラスで希土類元素の合計含有量が5カチオン%以上になると、ガラスの熔解温度、液相温度、熔融ガラスの流出温度や成形温度が上昇する。本発明はモル比O2−/P5+を3.5以上にすることで、ガラスの揮発性、侵蝕性を抑制しているが、熔解温度、液相温度、成形温度の上昇を抑制することはガラスの揮発性、侵蝕性をより一層抑制する上で有効である。また、液相温度が高いガラスで、流出温度や成形温度を低下しようとすると、流出時や成形時のガラスの粘性が高くなり、熔融ガラスから熔融ガラス塊や熔融ガラス滴を分離することが難しくなったり、成形が難しくなる。こうした理由から、上記希土類元素の合計含有量を5カチオン%未満とすることが好ましく、4カチオン%以下とすることがより好ましく、3カチオン%以下とすることがさらに好ましい。
なお、ガラスを着色させず、熱的安定性を大幅に低下させないで屈折率を高めることができるという点から、フツリン酸ガラスI−aにおいて、希土類元素を導入する場合は、Y、La、Gd、Ybのいずれか1種以上を導入することが好ましい。すなわち、Y3+、La3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量を5カチオン%未満にすることが好ましく、4カチオン%以下にすることがより好ましく、3カチオン%以下にすることがさらに好ましい。中でもYは熱的安定性を維持しつつ、屈折率を高める効果に優れることから、Y3+の含有量を5カチオン%未満にすることが好ましく、4カチオン%以下にすることがより好ましく、3カチオン%以下にすることがさらに好ましい。
カチオン成分として含まれる希土類元素の合計含有量が5カチオン%未満であり、アニオン成分として含まれるF−とO2−の合計含有量に対するF−の含有量のモル比F−/(F−+O2−)が0.2以上、屈折率ndが1.53を超えるガラスは、フツリン酸ガラスIとして特に好ましいが、フツリン酸ガラスIとしてだけでなく、アッベ数νdが70以下のフツリン酸ガラスにおいても好ましい。
また、フツリン酸ガラスIにおいて、アニオン成分として含まれるF−とO2−の合計含有量に対するF−の含有量のモル比F−/(F−+O2−)が0.2以上になると、酸素含有量が相対的に低下し、P 5+ の含有量に対するO 2− の含有量のモル比O 2− /P 5+ が減少してガラスの揮発性、侵蝕性が高まりやすくなる。本発明によれば、こうしたガラスでもモル比O 2− /P 5+ を3.5以上にすることにより、ガラスの揮発性、侵蝕性が抑制され、希土類元素の含有量を上記のように制限したこととあいまって、諸特性のばらつきが抑制された高品質のプリフォームからなるプリフォームロットを提供することができる。
なお、フツリン酸ガラスI−aは屈折率ndが1.53を超え、フツリン酸ガラスとしては高屈折率のガラスであるため、フツリン酸ガラスI−aからなるプリフォームを使用することにより、同じ焦点距離を有するレンズでも光学機能面の曲率半径の絶対値を大きくすることができ、精密プレス成形性を向上させることができるほか、高屈折率ガラスを使用することで、光学素子の高機能化や光学素子を組み込んだ光学系のコンパクト化に有利となる。こうした観点から、フツリン酸ガラスI−aとして、屈折率ndが1.54以上のガラスが好ましく、屈折率ndが1.55以上のガラスがより好ましい。
第2の例は、カチオン%表示にて、
P5+ 3〜50%、
Al3+ 5〜40%、
Mg2+ 0〜10%、
Ca2+ 0〜30%、
Sr2+ 0〜30%、
Ba2+ 0〜40%、
(ただし、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の合計含有量が10%以上)
Li+ 0〜30%、
Na+ 0〜20%、
K+ 0〜20%、
Y3+ 0〜10%、
La3+ 0〜10%、
Gd3+ 0〜10%、
Yb3+ 0〜10%、
B3+ 0〜10%、
Zn2+ 0〜20%、
In3+ 0〜20%
を含有し、アニオン%表示にて、
F− 20〜95%、
O2− 5〜80%
を含有するフツリン酸ガラス(フツリン酸ガラスIIという。)である。
以下、フツリン酸ガラスIIについて詳説するが、フツリン酸ガラスIIの説明において、カチオン成分の含有量、合計含有量はカチオン%表示とし、アニオン成分の含有量、合計含有量はアニオン%表示とする。
P5+ はガラス中でネットワークフォーマーとして働く重要な成分であり3%未満ではガラスが極端に不安定になる。また、50%を超えるとモル比O2−/P5+を3.5以上するために、フッ素の導入量を抑制する必要が生じ、必要な低分散性が得られなくなる。したがって、P5+の含有量は3〜50%の範囲にすることが好ましく、3〜45%の範囲とすることがより好ましく、5〜40%の範囲とすることがさらに好ましい。
Al3+はフツリン酸ガラスにおいて安定性を高めるための重要成分であり、5%未満ではガラスが不安定になる。一方、40%を超えると他成分の合計量が少なくなりすぎるために逆に不安定になる。したがって、Al3+の含有量は5〜40%の範囲にすることが好ましく、5〜38%の範囲とすることがより好ましく、10〜35%の範囲とすることがさらに好ましい。
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+のようなアルカリ土類金属はガラスの安定性を高め、屈折率を上昇させる成分であり、その合計量を10%以上にすることで安定性に対する効果が高くなる。しかし、特定のアルカリ土類金属成分があまりに多くなると他の成分とのバランスが崩れるため、満遍なく導入することが好ましく、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の少なくとも2種以上を導入することが好ましい。具体的にはMg2+は0〜10%とすることが好ましく、1〜10%とすることがより好ましい。Ca2+は0〜30%とすることが好ましく、1〜30%とすることがより好ましい。Sr2+は0〜30%とすることが好ましく、1〜20%とすることがより好ましい。Ba2+は0〜40%とすることが好ましく、2〜40%とすることがより好ましい。
Li+、Na+、K+のようなアルカリ金属はガラスの粘性、ガラス転移温度を低下させ、ガラスの製造を容易にすることができる成分であるが、過剰の導入は安定性を低下させる。そこでLi+の含有量を0〜30%、Na+の含有量を0〜20%、K+の含有量を0〜20%とすることが好ましい。アルカリ金属の中でもLi+は安定性を高める効果も大きいため、Li+を0.5%以上導入することがより好ましく、1%以上導入することがさらに好ましく、2%以上導入することが特に好ましい。したがって、Li+の量の好ましい範囲は0〜30%、より好ましい範囲は0.5〜30%、さらに好ましい範囲は1〜30%、一層好ましい範囲は2〜30%である。
Na+の含有量の好ましい範囲は0〜20%、、より好ましい範囲は0〜10%、さらに好ましい範囲は1〜5%、K+の含有量の好ましい範囲は0〜20%、より好ましい範囲は0〜10%、さらに好ましい範囲は0〜5%である。
Y3+、La3+、Gd3+、Yb3+などの希土類元素はガラスの低分散性を保ちつつ屈折率を高める成分であるが、過剰な導入は熔解温度を上昇させガラスの安定性も低下させてしまう。そのため、上記各成分の含有量をそれぞれ0〜10%とすることが好ましく、0〜5%とすることがより好ましく、1〜5%とすることがさらに好ましい。
B3+はガラスの耐久性を向上させる成分であるが、熔解中にフッ化物として揮発する傾向があるため、生産性を低下させる成分でもある。そのため導入量は0〜10%にすることが好ましく、0〜5%にすることがより好ましく、0〜1%にすることがさらに好ましく、導入しないことがさらに好ましい。
Zn2+、In3+はアルカリ土類金属と同様に容易にガラス中に導入できる特性を持ち、Zn2+やIn3+を導入して多成分にすることによる安定性の向上効果が期待できるが、過剰の導入は好ましくない。このため、Zn2+およびIn3+の導入量は、それぞれ0〜20%とすることが好ましく、それぞれ0〜10%とすることがより好ましく、0〜5%とすることがさらに好ましく、0〜1%とすることが一層好ましく、導入しないことが特に好ましい。
次にフツリン酸ガラスIIのアニオン成分、アニオン添加物について説明する。フツリン酸ガラスは一般にF−とO2−が主要アニオン成分である。所要の光学特性と優れたガラス安定性を実現する上から、F−を20〜95%、O2−を5〜80%導入することが好ましい。
Cl−、Br−、I−は、少量導入することで、ガラスの製造時または流出時に使用する白金容器や白金製ノズル等の白金物品にガラス融液が濡れにくくなるため、ガラスの製造を容易に行うことが可能になる。Cl−、Br−、I−の過剰の導入は、成分揮発による屈折率変動と白金異物の発生を招くため、Cl−の含有量を0〜3アニオン%、Br−の含有量を0〜1アニオン%、I−の含有量を0〜1アニオン%とすることが好ましく、Cl−の含有量を0〜1アニオン%、Br−の含有量を0〜0.5アニオン%、I−の含有量を0〜0.5アニオン%とすることがより好ましい。また、Cl−、Br−およびI−の合計含有量を0〜3アニオン%とすることが好ましい。
なお、上記効果を一層顕著にする上から、F−、O2−、Cl−、Br−およびI−の合計量を98アニオン%以上とすることが望ましく、99アニオン%以上とすることがより望ましく、100アニオン%とすることがさらに望ましい。
フツリン酸ガラスIIの光学特性に特に限定はないが、アッベ数νdが70を超え98以下であることが好ましく、70〜95であることがより好ましい。また、屈折率ndについては1.43〜1.6であることが好ましく、1.45〜1.6であることがより好ましい。
第3の例は、F−の含有量が65アニオン%以上であるフツリン酸ガラス(フツリン酸ガラスIIIという。)である。フツリン酸ガラスIIIにおいて、超低分散性、異常分散性を実現するため、F−の含有量を65アニオン%以上とする。フツリン酸ガラスIIIにおいて、F−の含有量の好ましい範囲は65〜95アニオン%、より好ましい範囲は70〜92アニオン%である。
フツリン酸ガラスの中でもフツリン酸ガラスIIIのようにF−の含有量が多いガラスは、ガラス融液状態における粘性が非常に小さく、揮発による脈理の発生、屈折率変動が特に著しい。モル比O2−/P5+を3.5以上に制御することで揮発性物質の生成そのものを抑制し、揮発性を著しく低下させるとともに、ガラスの反応性、侵蝕性も抑制するので、高品質のフツリン酸ガラスからなるプリフォームロットを安定して生産することができる。
モル比O2−/P5+の上限は安定してガラスを製造できる限り、特に制限はないが、4.0を目安と考えればよい。
フツリン酸ガラスIIIの中で好ましいガラスは、カチオン%表示にて、
P5+ 3〜15%、
Al3+ 25〜40%、
Ca2+ 5〜35%、
Sr2+ 5〜25%
を含有するものである。
上記ガラスは、さらにカチオン%表示にて、
Mg2+ 0〜10%、
Ba2+ 0〜20%、
Li+ 0〜20%、
Na+ 0〜10%、
K+ 0〜10%、
Y3+ 0〜5%
を含有することができる。
フツリン酸ガラスIIIの説明において、カチオン成分の含有量、合計含有量はカチオン%表示とし、アニオン成分の含有量、合計含有量はアニオン%表示とする。
フツリン酸ガラスIIIにおいて、P5+はネットワークフォーマーとして働く。P5+の含有量が3%未満だと安定性が低下し、15%を超えるとモル比O2−/P5+を3.5以上に保つためにO2−の含有量を増加させなくてはならず、その結果、F−の含有量が低下し、十分な低分散性、異常分散性を得ることが困難になる。したがって、P5+の含有量を3〜15%とすることが好ましい。P5+の含有量のより好ましい範囲は3.5〜13%、さらに好ましい範囲は4〜11%である。
Al3+はガラスの安定性を高める働きをする成分である。Al3+の含有量が25%未満だと安定性が低下し、40%を超えても安定性が低下するため、Al3+の含有量を25〜40%とすることが好ましい。Al3+の含有量のより好ましい範囲は28〜36%、さらに好ましい範囲は30〜36%である。
Ca2+はガラスの安定性を高める効果があり、F−含有量が多くなるほど増量することが望まれる成分である。Ca2+の含有量が5%未満だと上記効果を十分得にくく、35%を超えるとと安定性が低下するため、Ca2+の含有量を5〜35%とすることが好ましい。Ca2+の含有量のより好ましい範囲は10〜35%、さらに好ましい範囲は20〜30%である。
Sr2+はガラスの安定性を高める効果があり、その含有量が5%未満だと前記効果が十分でなく、25%を超えると安定性が低下する。したがって、Sr2+の含有量を5〜25%とすることが好ましい。Sr2+の含有量のより好ましい範囲は10〜25%、さらに好ましい範囲は15〜20%である。
このように、Ca2+とSr2+を共存させることにより、ガラスの安定性をより向上させることができる。
Mg2+は10%までの導入により、ガラスの安定性を向上させる働きをする。したがって、Mg2+の含有量を0〜10%とすることが好ましく、1〜10%とすることがより好ましく、3〜8%とすることがさらに好ましい。
Ba2+は、20%までの導入により、ガラスの安定性を向上させる働きをする。したがって、Ba2+の含有量を0〜20%とすることが好ましい。Ba2+はF−の含有量が少ないガラスでは、安定性を向上させる働きが強いが、F−の量が多いガラスでは必須成分ではない。Ba2+の含有量のより好ましい範囲は1〜15%、さらに好ましい範囲は2〜10%である。
ガラスの安定性を一層向上させる上から、Ca2+、Sr2+およびMg2+を共存させること、Ca2+、Sr2+およびBa2+を共存させること、Ca2+、Sr2+、Mg2+およびBa2+を共存させることが好ましい。
Li+は、ガラス融液の粘性を低下させるが、液相温度を低下させる働きが非常に強く、総合的には熔融ガラスを流出、成形する際の脈理を防止する効果がある成分である。こうした効果は、モル比O2−/P5+を所要範囲にすることにより得られる揮発成分発生の抑制効果との相乗効果によりフツリン酸ガラスの品質を高めるのに大きく寄与する。しかし、Li+を20%を超えて導入すると、ガラス融液の粘性の過剰な低下を起こし、結晶化の促進によるガラスの失透、脈理の発生といった問題を引き起こす。したがって、Li+の含有量は0〜20%とすることが好ましい。Li+の含有量のより好ましい範囲は0〜15%、さらに好ましい範囲は1〜10%、一層好ましい範囲は1〜7%である。
Na+は、ガラス転移温度を低下させる働きをするが、過剰に導入するとガラスの安定性が低下する。また、耐水性も低下する。したがって、Na+の含有量を0〜10%とすることが好ましい。Na+の含有量のより好ましい範囲は0〜7%、さらに好ましい範囲は1〜5%である。
K+も、ガラス転移温度を低下させる働きをするが、過剰に導入するとガラスの安定性が低下する。また、耐水性も低下する。したがって、K+の含有量を0〜10%とすることが好ましい。K+の含有量のより好ましい範囲は0〜5%、さらに好ましい範囲は0〜3%である。
アルカリ金属成分Li+、Na+、K+のうち、複数種を共存させることにより、ガラスの安定性を向上させることができる。
Y3+は、少量の導入によりガラスの安定性向上が期待されるが、その含有量が5%を超えるとガラスの熔融温度が上昇し、熔融ガラスからの揮発が助長されるとともに、ガラスの安定性も低下する。したがって、Y3+の含有量を0〜5%とすることが好ましい。Y3+の含有量のより好ましい範囲は1〜5%、さらに好ましい範囲は1〜3%である。
この他、屈折率の調整などを目的として少量のLa3+、Gd3+、Zr4+、Zn2+を導入することができる。
なお、熔融ガラスの成形性に優れ、品質の高いフツリン酸ガラスを得る上から、P5+、Al3+、Li+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Na+、K+およびY 3+ の合計含有量を95%以上にすることが好ましく、97%以上にすることがより好ましく、98%以上にすることがさらに好ましく、99%以上にすることが一層好ましい。
フツリン酸ガラスIIIのガラス転移温度は、好ましくは500℃未満、より好ましくは480℃以下、さらに好ましくは460℃以下、一層好ましくは440℃以下である。このようにガラス転移温度が低いので、精密プレス成形に好適であるほか、ガラスの再加熱、軟化して成形する際の成形性にも優れている。ガラス転移温度が上記のように低いので成形時の加熱温度も比較的低く抑えることができる。そのため、ガラスとプレス成形型などの成形型との化学反応も起こりにくいため、清浄かつ平滑な表面を有するガラス成形体を成形することができる。また、成形型の劣化も抑制することができる。
フツリン酸ガラスIIIにおいて、アッべ数(νd)の好ましい範囲は88以上、より好ましい範囲は88〜98、さらに好ましい範囲は90〜97である。
屈折率ndの好ましい範囲は1.42〜1.47、より好ましい範囲は1.43〜1.46である。
フツリン酸ガラスIIIは、超低分散性を有しつつ、液相温度が700℃以下と優れたガラス安定性も備えているので、色収差補正に好適な光学素子材料として高品質のフツリン酸ガラスを提供することができる。
なお、フツリン酸ガラスI、II、IIIを含む本発明において使用するフツリン酸ガラスは、いずれも、環境への負荷を軽減する上から、Pb、As、Cd、Th、Tl、Te、Cr、Se、Uを導入しないものであることが好ましい。
本発明で使用するフツリン酸ガラスは、Lu、Sc、Hf、Geといった成分を含有させてもよいし、含有させなくてもよい。Lu、Sc、Hf、Geは高価な成分なので、これら成分を導入しないことが好ましい。
また、フツリン酸ガラスI、II、IIIを含む本発明において使用するフツリン酸ガラスは、低分散性、異常部分分散性などに加え、可視域において短波長から長波長にかけての広い範囲で光線透過率が高いという性質を有している。こうした性質を利用してレンズ、プリズムなどの各種光学素子を得るための材料として適しているが、このような用途においては可視域に吸収し、着色の原因となるイオン、例えば、Fe、Cu、Ni、Co、Cr、Mn、V、Nd、Ho、Erといった金属元素のイオンを含有しないことが望ましい。
第4の例は、Cu含有フツリン酸ガラス(フツリン酸ガラスIVという。)である。フツリン酸ガラスにCu2+を添加することにより近赤外線吸収特性を示する近赤外線吸収ガラスとすることができる。Cu2+の添加量は外割りで0.5〜13カチオン%とすることが望ましい。Cu2+の添加量が過少だと十分な色感度補正機能が得られず、Cu2+の添加量が過剰だとガラスの熱的安定性が低下してガラスの生産性が低下する。Cu2+含有ガラスはCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色感度補正フィルター材料として好適である。Cu2+の添加量は、前記フィルターの厚さを考慮し、前記範囲内で適宜定めればよい。Cu2+含有ガラスの場合も、吸収特性を調整する場合を除き、Cu2+以外の可視域に吸収を有するイオンを添加しないことが望ましい。上記第4の例であって、特に好ましいガラスは、Cu2+を外割りで0.5〜13カチオン%含むCu2+含有ガラス(フツリン酸ガラスIV−1という。)である。フツリン酸ガラスIV−1としてより好ましいものは、カチオン%表示で、
P5+ 5〜40%、
Al3+ 0〜20%、
Li+、Na+およびK+を合計で0〜30%、
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+を合計で5〜40%、
Cu2+ 0.5〜13%、
を含み、さらにアニオニック%表示で、
F− 20〜70%、
O2− 30〜80%、
を含むフツリン酸ガラスである。
上記組成において、P5+はフツリン酸ガラスの基本成分であり、Cu2+の赤外域の吸収をもたらす重要な成分である。P5+の含有量が5%未満ではガラスの色が悪化して緑色を帯び、逆に40%を超えると耐候性、耐失透性が悪化する。したがって、P5+の含有量は5〜40%とすることが好ましく、10〜40%とすることがより好ましく、15〜35%とすることがさらに好ましい。
Al3+はフツリン酸ガラスの耐失透性と耐熱性、耐熱衝撃性、機械的強度、化学的耐久性を向上させる成分である。ただし、20%を越えると近赤外吸収特性が悪化する。したがって、Al3+の含有量を0〜20%とすることが好ましく、1〜20%とすることがより好ましく5〜20%とすることがさらに好ましく、5〜15%とすることがより一層好ましい。
Li+、Na+およびK+はガラスの熔融性、耐失透性を改善させ、可視光域の透過率を向上する成分であるが、合計量で30%を超えると、ガラスの耐久性、加工性が悪化する。したがって、Li+、Na+およびK+の合計含有量を0〜30%とすることが好ましく、0〜28%とすることがより好ましく、0〜25%とすることがさらに好ましい。
アルカリ成分の中でもLi+は上記作用に優れており、Li+の量を1〜30%とすることがより好ましく、10〜30%とすることがさらに好ましい。
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+はガラスの耐失透性、耐久性、加工性を向上させる有用な成分であるが、過剰導入により耐失透性が低下するので、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+の合計量を5〜40%にすることが好ましく、10〜40%にすることがより好ましい。
Mg2+含有量の好ましい範囲は0〜20%、より好ましい範囲は1〜15%である。
Ca2+含有量の好ましい範囲は0〜20%、より好ましい範囲は1〜20%である。
Sr2+含有量の好ましい範囲は0〜25%、より好ましい範囲は5〜25%である。
Ba2+含有量の好ましい範囲は0〜20%、より好ましい範囲は1〜20%、さらに好ましい範囲は5〜20%である。
Cu2+は近赤外光吸収特性の担い手である。その量が0.5%未満では近赤外線吸収が小さく、逆に13%を越えるとガラスの熱的安定性が低下し、耐失透性が悪化する。したがって、Cu2+の含有量は0.5〜13%が好ましく、0.5〜10%がより好ましく、1〜5%がさらに好ましく、1〜3%がより一層好ましい。
F−はガラスの融点を下げ、耐候性を向上させる重要なアニオン成分である。F−を含有することによって、ガラスの熔融温度を下げ、Cu2+の還元を抑え、所要の光学特性を得ることができる。F−の量が10%未満では耐候性が悪化し、逆に70%を越えるとO2−の含有量が減少するため1価のCu+による400nm付近の着色を生じる。従ってF−の含有量を10〜70%とすることが好ましい。上記特性を一層向上させる上から、F−の量を10〜60%にすることがより好ましく、15〜50%にすることがさらに好ましい。
O2−は重要なアニオン成分であり、全アニオン成分のF−を除く残部全量をO2−成分で構成することが好ましい。したがって、O2−の好ましい量は上記F−の好ましい量を100%から差し引いた範囲となる。O2−が少な過ぎると2価のCu2+が還元され1価のCu+となるため短波長域、特に400nm付近の吸収が大きくなってしまい、緑色を呈するようになる。逆に過剰になるとガラスの粘度が高く、熔融温度が高くなるため透過率が悪化する。なお、Pb、Asは有害性が強いから、使用しないことが望ましい。
Cu含有の近赤外線吸収ガラスの好ましい透過率特性は以下のとおりである。
波長500〜700nmの分光透過率において透過率50%を示す波長が615nmで
ある厚さに換算し、波長400〜1200nmの分光透過率が下記のような特性を示すも
のである。
波長400nmにおける透過率が78%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは83%以上、さらに好ましくは85%以上であり、波長500nmにおける透過率が85%以上、好ましくは88%以上、より好ましくは89%以上であり、波長600nmにおける透過率が51%以上、好ましくは55%以上、より好ましくは56%以上であり、波長700nmにおける透過率が12%以下、好ましくは11%以下、より好ましくは10%以下であり、波長800nmにおける透過率が5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.2%以下、より一層好ましくは2%以下であり、波長900nmにおける透過率が5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.2%以下、より一層好ましくは2%以下であり、波長1000nmにおける透過率が7%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは5.5%以下、さらに好ましくは5%以下、より一層好ましくは4.8%以下であり、波長1100nmにおける透過率が12%以下、好ましくは11%以下、より好ましくは10.5%以下、さらに好ましくは10%以下であり、波長1200nmにおける透過率が23%以下、好ましくは22%以下、より好ましくは21%以下、さらに好ましくは20%以下である。
即ち、波長700〜1200nmの近赤外線の吸収は大きく、波長400〜600nm
の可視光線の吸収は小さくする。ここで、透過率とは互いに平行かつ光学研磨した2つの平面を有するガラス試料を想定し、前記平面の一方に垂直に光を入射したとき、前記平面の他方から出射した光の強度を、前記入射光の試料入射前における強度で割った値であり、外部透過率とも呼ばれる。
このような特性によりCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色補正を良好に行うことができる。
[プリフォームロット2]
プリフォームロット2は、リン成分をP5+に換算して3カチオン%超30カチオン%以下含み、核磁気共鳴スペクトルにおける31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴ピークの強度I(0)に対する前記共鳴ピークの一次のサイドバンドピークの強度I(1)の比I(1)/I(0)が0.08以下であるフツリン酸ガラスからなる複数のプリフォームによって構成されるプリフォームロットである。
核磁気共鳴スペクトルの測定は、外部磁場の方向と直交する軸のまわりにガラス試料を一定スピードで回転させながら行う。リン含有量が上記範囲にあって、揮発性も侵蝕性もともに抑制されていないフツリン酸ガラス、および、揮発性のみ抑制され、侵蝕性が抑制されていないフツリン酸ガラスでは、前述の異方性により、上記サイドバンドピークの強度が大きくなり、強度比I(1)/I(0)が大きくなる。
図3は強度比I(1)/I(0)の増減により、揮発性、侵蝕性が変化する様子を表している。図3の横軸は強度比I(1)/I(0)であり、左側の縦軸は屈折率変化量Δnd、右側の縦軸はガラス中に含まれる粒径10μm以上の金属粒子の数密度である。屈折率変化量Δndは、原料を1時間熔解して得られた200gのサンプルの屈折率nd(nd(1h)という)と原料を3時間熔解して得られた200gのサンプルの屈折率nd(nd(3h)という)の差の絶対値であり、Δndが大きいほど揮発性が高い。また金属粒子の数密度が大きいほど侵蝕性が高い。図3から、強度比I(1)/I(0)が0.08以下になるとΔndが急激に減少して揮発性が抑制されるとともに、金属粒子の数密度も急激に減少して侵蝕性も抑制されることがわかる。したがって、揮発性、侵蝕性を抑制する上から強度比I(1)/I(0)を0.08以下とする。揮発性、侵蝕性を一層抑制する上から強度比I(1)/I(0)を0.06以下にすることが好ましい。強度比I(1)/I(0)を0.08以下にするには、前述の理由からP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+を3.5以上に制御すればよい。
なお、図4は後述する実施例2のフツリン酸ガラスNo.2−1(表2−1参照)の31Pの核磁気共鳴スペクトル、図5は比較フツリン酸ガラスNo.2−1(表2−2参照)の31Pの核磁気共鳴スペクトルである。
図4、図5において、横軸は化学シフト(ppm単位)、縦軸が信号強度(任意単位)である。中央の最も高いピークが31Pの共鳴ピーク(メインピーク)であり、*で示すピークがスピニングサイドバンドである。メインピークに近いスピニングサイドバンドが一次のピークである。一次のスピニングサイドバンドは2つあるが、それらのピークの高さは等しいので、強度I(1)を求める際、どちらのピークを用いてもよい。
このように、揮発性、侵蝕性の有無により、強度比I(1)/I(0)が異なる。
フツリン酸ガラスにおいて、P5+はガラス中でネットワークフォーマーとして働く重要な必須成分である。ガラスの安定性を確保しつつ、上記核磁気共鳴特性により揮発性抑制、侵蝕性抑制効果を得る上からP5+の含有量を3%超とする。一方、30%を超えるとモル比O2−/P5+を3.5以上するために、フッ素の導入量を抑制する必要が生じ、必要な低分散性が得られなくなる。したがって、P5+の含有量は3%を超え30%の範囲とする。
フツリン酸ガラスとして好ましいものは、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上であるフツリン酸ガラスであり、モル比O2−/P5+を3.5以上になるようにガラス組成を制御して上記強度比I(1)/I(0)を実現する。
モル比O2−/P5+を3.5以上の範囲で大きくすることは揮発性、侵蝕性を抑制する上から好ましいが、F−の含有量が多くなると、同じアニオン成分であるO2−の含有量が制限されることになる。その結果、F−の含有量が大きいガラスにおいてモル比O2−/P5+を大きくし過ぎると、P5+の含有量が必要量に達しなくなるおそれが生じる。したがって、F−の含有量が65アニオン%以上のガラスでは、モル比O2−/P5+が3.5以上であれば、前記モル比を過剰に大きくしないほうがよい。
上記ガラスによれば、揮発性だけでなく侵蝕性も十分抑制されるので、ガラス製造時に使用する坩堝、パイプ、撹拌棒などを構成する白金などの侵蝕が防止され、ガラス中に白金異物などが混入するのを防ぐことができる。
プリフォームロット2を構成するガラスとして好ましいものは、カチオン成分として、
P5+ 3%を超え30%以下、
Al3+ 5〜40%、
Mg2+ 0〜10%、
Ca2+ 0〜40%、
Sr2+ 0〜30%、
Ba2+ 0〜30%、
(ただし、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の合計含有量が10%以上)
Li+ 0〜20%、
Na+ 0〜10%、
K+ 0〜10%、
Y3+ 0〜10%、
La3+ 0〜10%、
Gd3+ 0〜20%、
Yb3+ 0〜10%、
B3+ 0〜5%、
Zn2+ 0〜20%、
In3+ 0〜5%
を含有し、アニオン成分として、
F− 50〜98%、
O2− 2〜50%
を含有するものである。
以下、特記しない限り、各カチオン成分の含有量、合計含有量はカチオン%表示とし、各アニオン成分の含有量、合計含有量はアニオン%表示とする。
P5+はガラス中でネットワークフォーマーとして働く重要な必須成分である。ガラスの安定性を確保しつつ、前記核磁気共鳴特性により揮発性抑制、侵蝕性抑制効果を得る上からP5+の含有量を3%超とする。一方、30%を超えるとモル比O2−/P5+を3.5以上するために、フッ素の導入量を抑制する必要が生じ、必要な低分散性が得られなくなる。したがって、P5+の含有量は3%を超え30%の範囲にする。P5+の含有量の好ましい範囲は5〜25%である。
Al3+はフツリン酸ガラスにおいて安定性を高めるための重要成分であり、5%未満ではガラスが不安定になりやすい。一方、40%を超えると他成分の合計量が少なくなりすぎるために逆に不安定になる。したがって、Al3+の含有量は5〜40%の範囲にすることが好ましい。
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+のようなアルカリ土類金属はガラスの安定性を高め、屈折率を上昇させる成分であり、その合計量を10%以上にすることで安定性に対する効果が高くなる。しかし、特定のアルカリ土類金属成分があまりに多くなると他の成分とのバランスが崩れるため、満遍なく導入することが好ましく、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の少なくとも2種以上を導入することが好ましい。具体的にはMg2+は0〜10%、Ca2+は0〜40%、Sr2+は0〜30%、Ba2+は0〜30%とすることが好ましい。
Li+、Na+、K+のようなアルカリ金属はガラスの粘性、ガラス転移温度を低下させ、ガラスの製造を容易にすることができる成分であるが、過剰の導入は安定性を低下させる。そこでLi+の量を0〜20%、Na+の量を0〜10%、K+の量を0〜10%とすることが好ましい。アルカリ金属の中でもLi+は安定性を高める効果も大きいため、Li+を0.5%以上導入することがより好ましく、1%以上導入することがさらに好ましく、5%以上導入することが特に好ましい。
Y3+、La3+、Gd3+、Yb3+などの希土類元素はガラスの低分散性を保ちつつ屈折率を高める成分であるが、過剰な導入は熔解温度を上昇させガラスの安定性も低下させてしまう。そのため、上記各成分の量をそれぞれ0〜10%とすることが好ましい。
B3+はガラスの耐久性を向上させる成分であるが、熔解中にフッ化物として揮発する傾向があるため、生産性を低下させる成分でもある。そのため導入量は0〜5%にすることが好ましく、0〜3%にすることがより好ましく、導入しないことがさらに好ましい。
Zn2+、In3+はアルカリ土類金属と同様に容易にガラス中に導入できる特性を持ち、Zn2+やIn3+を導入して多成分にすることによる安定性の向上効果が期待できるが、過剰の導入は好ましくない。このため、Zn2+およびIn3+の導入量は、それぞれ0〜20%、0〜5%とすることが好ましく、それぞれ0〜15%、0〜3%とすることがより好ましく、Zn2+は0〜10%とすることがさらに好ましく、In3+は導入しないことが特に好ましい。
なお、上記フツリン酸ガラスは、低分散性、異常部分分散性などに加え、可視域において短波長から長波長にかけての広い範囲で光線透過率が高いという性質を有している。このような性質を利用してレンズ、プリズムなどの各種光学素子を得るための材料として適しているが、このような用途においては可視域に吸収を有するイオン、例えば、Fe、Cu、Ni、Co、Cr、Mn、V、Nd、Ho、Erといった金属元素のイオンを添加しないことが望ましい。
一方、Cu2+を添加することにより近赤外線吸収特性を付与することができるため、近赤外線吸収ガラスを作る場合は、外割りでCu2+を0.5〜13%添加することが望ましい。Cu2+含有ガラスはCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色補正フィルター材料として好適である。Cu2+の添加量は、前記フィルターの厚さを考慮し、前記範囲内で適宜定めればよい。Cu2+含有ガラスの場合も、吸収特性を調整する場合を除き、Cu2+以外の可視域に吸収を有するイオンを添加しないことが望ましい。
次にアニオン成分、アニオン添加物について説明する。上記フツリン酸ガラスの主要アニオン成分はF−とO2−である。所要の低分散特性と優れたガラス安定性を実現する上から、F−を50〜98%、O2−を2〜50%導入することが好ましく、F−を55〜95%、O2−を5〜45%導入することがより好ましい。
また、Cl−、Br−、I−は、少量導入することで、ガラスの製造時または流出時に使用する白金容器や白金製ノズル等の白金製品に、フツリン酸ガラスが濡れにくくなるために、ガラスの製造を容易に行うことが可能になる。Cl−、Br−、I−の過剰の導入は、成分揮発による屈折率変動と白金異物の発生を招くため、導入量は合計で0〜5%とすることが好ましい。Cl−、Br−およびI−の合計量の上限としては、4%がより好ましく、3%がさらに好ましい。一方、Cl−、Br−およびI−の合計量の下限としては、0.01%がより好ましく、0.05%がさらに好ましく、0.1%が一層好ましい。
なお、発明の目的を達成する上から、F−、O2−、Cl−、Br−およびI−の合計量を98アニオン%以上とすることが望ましく、99アニオン%以上とすることがより望ましく、100アニオン%とすることがさらに望ましい。
プリフォームロット2を構成するフツリン酸ガラスにおけるアッベ数νdの好ましい範囲は75〜97、より好ましい範囲は80〜93である。
また、上記フツリン酸ガラスにおける屈折率ndの好ましい範囲は1.43〜1.52、より好ましい範囲は1.45〜1.51である。
光学的に均質なガラスを熔融するには、熔融ガラスを均質化して流出する過程でガラスを蓄積する容器やガラスを導くパイプをガラス中に溶け出しにくい耐熱性材料、例えば白金や白金合金などの金属または合金で構成する。
これら金属系の材料は上記性質を有するものの、前述のように熔融ガラスの温度低下に伴い、ガラス中に金属粒子として析出しやすい。特にフツリン酸ガラスは、金属イオンを溶解しにくく、こうした問題が顕著である。
上記フツリン酸ガラスによれば、耐熱性金属系材料を侵蝕しにくいので、ガラス中に混入するこれら金属の量も大幅に抑制することができ、異物が極めて少ないフツリン酸ガラスからなるプリフォームによって構成されるプリフォームロットを得ることができる。
こうして得られるフツリン酸ガラスでは、内部に含まれる粒径が10μm以上の異物、例えば白金粒子または白金を含む粒子の数密度が5個/cm3未満となる。前述の粒子は光線、例えば可視光を散乱する異物となり、光学素子の性能を低下させる。このように、光散乱源となる異物が大幅に低減もしくは存在しないので、高品質な光学ガラスを提供することができる。ガラス内部に含まれる粒径が10μm以上の異物の好ましい数密度は5個/cm3未満、より好ましくは2個/cm3未満である。
上記フツリン酸ガラスも異常分散性を有する光学ガラスであり、高次の色補正用光学素子の材料としても好適である。
プリフォームロット2を構成するガラスとしては、ガラス原料中のP5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量のモル比O2−/P5+が3.51以上であることが好ましく、3.55以上であることがさらに好ましく、3.6以上であることが一層好ましい。
[プリフォームロット3]
プリフォームロット3は、リン成分をP5+に換算して30〜50カチオン%含み、核磁気共鳴スペクトルにおける31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴スペクトルの形状がガウス関数形状であるフツリン酸ガラスからなる複数のプリフォームによって構成されるプリフォームロットである。
前述のように、核磁気共鳴法ではガラス試料を外部磁場の方向と直交する軸のまわりに回転して測定を行う。核磁気共鳴スペクトルは化学シフトを横軸、核磁気共鳴信号の強度を縦軸としたグラフとして描かれる。異方性の大小により、得られたスペクトル形状の対称性が変化する。揮発性、侵蝕性がともに抑制されたガラスでは、上記スペクトルの形状がガウス関数形状になるのに対し、揮発性、侵蝕性がともに抑制されていないガラス、あるいは揮発性は抑制されているが侵蝕性が抑制されていないガラスでは、上記スペクトルの形状はガウス関数形状とはならず、スペクトルのピークに対して非対称形状となる。したがって、揮発性および侵蝕性がより一層抑制されたフツリン酸ガラスを得るには、31Pの核磁気共鳴スペクトルの形状がガウス関数形状になるようにすればよい。
ここで、31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴スペクトルとは、31Pの核スピンに由来する共鳴スペクトルのことであり、以下、単に共鳴スペクトルという。
つまり、前記共鳴スペクトルは複数のガウス関数の合成形となる。例えば共鳴スペクトルの形状をピークの位置が異なる2以上のガウス関数に分解できる場合、共鳴スペクトルに肩(ショルダー)が現れたり、ピークが複数に分裂する。一方、ガラス構造の異方性が低減されて、ガラスの揮発性、侵蝕性がともに抑制されたガラスでは共鳴スペクトルの形状は、単一のガウス関数形状となる。
図6は、モル比O2−/P5+の変化に対する屈折率変化量Δndの変化、および金属粒子の数密度の変化を示したものである。図6の横軸がモル比O2−/P5+、左側の縦軸が屈折率変化量Δnd、右側の縦軸がガラス中に含まれる粒径10μm以上の金属粒子の数密度である。屈折率変化量Δndは、原料を1時間熔解して得られた200gのサンプルの屈折率nd(nd(1h)という)と原料を3時間熔解して得られた200gのサンプルの屈折率nd(nd(3h)という)の差の絶対値であり、Δndが大きいほど揮発性が高い。また金属粒子の数密度が大きいほど侵蝕性が高い。
モル比O2−/P5+が3.5以上になると揮発性が抑制されて屈折率変化量Δndが減少するとともに、侵蝕性も抑制されて金属粒子の数密度も減少する。
そして、モル比O2−/P5+が3.5以上の範囲で、共鳴スペクトルの形状が単一のガウス関数形になるのに対し、モル比O2−/P5+が3.5未満の範囲では、共鳴スペクトルの形状が非ガウス関数形となる。したがって、共鳴スペクトルの形状がガウス関数形のフツリン酸ガラスによって、揮発性および侵蝕性の抑制を達成することができる。
図7は、揮発性および侵蝕性が抑制された後述する実施例3のフツリン酸ガラスNo.3−3(モル比O2−/P5+が3.5 表3参照)の共鳴スペクトルを示したもの、図8は、図7の共鳴スペクトルをガウス関数でフィッティングしたものである。
また、図9は、揮発性および侵蝕性を示す後述する比較フツリン酸ガラス3−1(モル比O2−/P5+が3.0 表3参照)の共鳴スペクトルを示したもの、図10は、図9の共鳴スペクトルをガウス関数でフィッティングしたものである。
図8より明らかなように、揮発性および侵蝕性がともに抑制されたフツリン酸ガラスの共鳴スペクトルの形状は単一のガウス関数で表される。一方、図10より明らかなように、揮発性および侵蝕性を示すフツリン酸ガラスの共鳴スペクトルの形状はピークの位置が異なる2つのガウス関数の合成によって表され、単一のガウス関数により表すことができない。
なお、図7〜図10において、共鳴ピークの両側にそれぞれ2つのピークが認められるが、これらのピークはスピニングサイドバンドと呼ばれるもので、共鳴スペクトルの形状に直接影響しない。
こうした揮発性、侵蝕性と核磁気共鳴スペクトルの対応関係は、P5+の含有量が30〜50カチオン%のフツリン酸ガラスに当てはまる。
なお、共鳴スペクトル形状をガウス関数形状にするには、前述の理由から、ガラス製造にあたり、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+を3.5以上に制御すればよい。
揮発性、侵蝕性をともに一層抑制する上からモル比O2−/P5+を3.51以上にすることがより好ましく、3.54以上にすることがさらに好ましく、3.55以上にすることが一層好ましい。
プリフォームロット3を構成するフツリン酸ガラスにおいて、ガラス組成上、好ましいものは、カチオン%表示で
P5+ 30〜50%、
Al3+ 1〜30%、
Mg2+ 0〜15%、
Ca2+ 0〜15%、
Sr2+ 0〜15%、
Ba2+ 0〜40%、
(ただし、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の合計含有量が20%以上)
Li+ 0〜30%、
Na+ 0〜10%、
K+ 0〜10%、
Y3+ 0〜5%、
La3+ 0〜5%、
Gd3+ 0〜5%、
Yb3+ 0〜5%、
B3+ 0〜5%、
Zn2+ 0〜15%、
In3+ 0〜5%、
を含有し、アニオン成分として、
F− 20〜50%、
O2− 50〜80%
を含有するフツリン酸ガラスである。
次に、各成分の働きと上記組成範囲の好ましい理由を説明するが、以下、カチオン成分の含有量、合計含有量は特記しない限り、カチオン%表示とし、アニオン成分の含有量、合計含有量は特記しない限り、アニオン成分表示とする。
P5+はガラス中でネットワークフォーマーとして働く重要な必須成分である。ガラスの安定性を確保する上からP5+の含有量を30%以上とする。一方、上記核磁気共鳴特性により揮発性抑制、侵蝕性抑制効果を得る上からP5+の含有量を50%以下とする。P5+の含有量を50%以下とすることは、モル比O2−/P5+を3.5以上にする上からも好都合である。P5+の量を50%以下とすると、モル比O2−/P5+を3.5以上に維持しつつ、O2−の量を少なくすることもできる。このことは、F−の増量が可能になることを意味し、F−の増量に伴い、分散を一層低くすることができることを意味する。このような観点から、P5+の含有量は30〜50%とする。P5+の含有量の好ましい範囲は30〜45%、より好ましい範囲は30〜40%である。
Al3+はフツリン酸ガラスにおいて安定性を高めるための重要成分であり、1%未満ではガラスが不安定になりやすい。一方、30%を超えると他成分の合計量が少なくなりすぎるために逆に不安定になる。したがって、Al3+の含有量は1〜30%の範囲にすることが好ましい。
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+のようなアルカリ土類金属はガラスの安定性を高め、屈折率を上昇させる成分であり、その合計量を20%以上にすることで安定性に対する効果が高くなる。しかし、特定のアルカリ土類金属成分があまりに多くなると他の成分とのバランスが崩れるため、満遍なく導入することが好ましく、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の少なくとも2種以上を導入することが好ましい。具体的にはMg2+を0〜15%、Ca2+を0〜15%、Sr2+を0〜15%、Ba2+を0〜40%含有させることが好ましく、Mg2+を1〜10%、Ca2+を1〜10%、Sr2+を1〜10%、Ba2+を10〜40%含有させることがより好ましい。
Li+、Na+、K+のようなアルカリ金属はガラスの粘性、ガラス転移温度を低下させ、ガラスの製造を容易にすることができる成分であるが、過剰の導入は安定性を低下させる。そこでLi+の量を0〜30%、Na+の量を0〜10%、K+の量を0〜10%とすることが好ましい。アルカリ金属の中でもLi+は安定性を高める効果も大きいため、Li+を5%以上導入することがより好ましく、10%以上導入することがさらに好ましく、15%以上導入することが特に好ましい。
Y3+、La3+、Gd3+、Yb3+などの希土類元素はガラスの低分散性を保ちつつ屈折率を高める成分であるが、過剰な導入は熔解温度を上昇させガラスの安定性も低下させてしまう。そのため、上記各成分の量をそれぞれ0〜5%とすることが好ましい。La3+、Gd3+、Yb3+はそれぞれ0〜1%とすることがさらに好ましく、含有しないことが特に好ましい。
B3+はガラスの耐久性を向上させる成分であるが、熔解中にフッ化物として揮発する傾向があるため、生産性を低下させる成分でもある。そのため導入量は0〜5%にすることが好ましく、0〜2%にすることがより好ましく、導入しないことがさらに好ましい。
Zn2+、In3+はアルカリ土類金属と同様に容易にガラス中に導入できる特性を持ち、Zn2+やIn3+を導入して多成分にすることによる安定性の向上効果が期待できるが、過剰の導入は好ましくない。このため、Zn2+およびIn3+の導入量は、それぞれ0〜15%、0〜5%とすることが好ましく、それぞれ0〜10%、0〜3%とすることがより好ましく、Zn2+は0〜8%とすることがさらに好ましく、In3+は導入しないことが特に好ましい。
なお、フツリン酸ガラスIは、低分散性、異常部分分散性などに加え、可視域において短波長から長波長にかけての広い範囲で光線透過率が高いという性質を有している。このような性質を利用してレンズ、プリズムなどの各種光学素子を得るための材料として適しているが、このような用途においては可視域に吸収を有するイオン、例えば、Fe、Cu、Ni、Co、Cr、Mn、V、Nd、Ho、Erといった金属元素のイオンを添加しないことが望ましい。
一方、Cu2+を添加することにより近赤外線吸収特性を付与することができるため、近赤外線吸収ガラスを作る場合は、外割りでCu2+を0.5〜13%添加することが望ましい。Cu2+含有ガラスはCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色補正フィルター材料として好適である。Cu2+の添加量は、前記フィルターの厚さを考慮し、前記範囲内で適宜定めればよい。Cu2+含有ガラスの場合も、吸収特性を調整する場合を除き、Cu2+以外の可視域に吸収を有するイオンを添加しないことが望ましい。
次にアニオン成分、アニオン添加物について説明する。本発明のフツリン酸ガラスの主要アニオン成分はF−とO2−である。所要の低分散特性と優れたガラス安定性を実現する上から、F−を20〜50%、O2−を50〜80%導入することが好ましく、F−を20〜40%、O2−を60〜80%導入することがより好ましい。
また、Cl−、Br−、I−は、少量導入することで、ガラスの製造時または流出時に使用する白金容器や白金製ノズル等の白金製品に、フツリン酸ガラスが濡れにくくなるために、ガラスの製造を容易に行うことが可能になる。Cl−、Br−、I−の過剰の導入は、成分揮発による屈折率変動と白金異物の発生を招くため、導入量は合計で0〜5%とすることが好ましい。Cl−、Br−およびI−の合計量の好ましい上限および下限は、プリフォームロット2において説明した上限および下限と同様である。
なお、発明の目的を達成する上から、F−、O2−、Cl−、Br−およびI−の合計量を98アニオン%以上とすることが望ましく、99アニオン%以上とすることがより望ましく、100アニオン%とすることがさらに望ましい。
プリフォームロット3を構成するフツリン酸ガラスにおけるアッベ数νdの好ましい範囲は68〜75、より好ましい範囲は68〜73である。
また、上記フツリン酸ガラスにおける屈折率ndの好ましい範囲は1.52〜1.61、より好ましい範囲は1.54〜1.61である。
[ガラスの侵蝕性]
次にプリフォーム材料となるフツリン酸ガラスの侵蝕性について説明する。光学的に均質なガラスを熔融するには、熔融ガラスを均質化して流出する過程でガラスを蓄積する容器やガラスを導くパイプをガラス中に溶け出しにくい耐熱性材料、例えば白金、白金合金、金、金合金などの金属または合金で構成する。
これら金属系の材料は上記性質を有するものの、前述のように熔融ガラスの温度低下に伴い、ガラス中に金属粒子として析出しやすい。特にフツリン酸ガラスは、金属イオンを溶解しにくく、こうした問題が顕著である。
本発明によれば、プリフォーム材料であるフツリン酸ガラスが熔融状態で耐熱性金属系材料を侵蝕しにくいので、ガラス中に溶け出すこれら金属の量も大幅に抑制することができ、異物が極めて少ないプリフォームロットを得ることができる。
こうして得られるフツリン酸ガラスでは、内部に含まれる粒径が10μm以上の異物、例えば白金粒子または白金を含む粒子の数密度が5個/cm3未満となる。前述の粒子は光線、例えば可視光を散乱する異物となり、光学素子の性能を低下させる。本発明によれば、光散乱源となる異物が大幅に低減もしくは存在しないので、高品質な光学ガラスを提供することができる。ガラス内部に含まれる粒径が10μm以上の異物の好ましい数密度は5個/cm3未満、より好ましくは3個/cm3未満、さらに好ましくは2.5個/cm3以下、一層好ましくは2個/cm3以下である。
本発明のプリフォームロットを構成するフツリン酸ガラスは異常分散性を有する光学ガラスであって、高次の色補正用光学素子の材料としても好適である。
[フツリン酸ガラスの製造]
本発明におけるフツリン酸ガラスの製造方法について説明する。
本発明におけるフツリン酸ガラスの製造方法は、ガラス原料を熔融容器内に導入して熔融し、清澄、均質化した後、得られた熔融ガラスを流出、成形する工程を経て精密プレス成形用プリフォームを量産し、前記プリフォームの集合物であるプリフォームロットを製造するプリフォームロットの製造方法において、
上記本発明のプリフォームロットを作製することを特徴とするプリフォームロットの製造方法である。
ガラスの熔融では、少なくともフッ素、酸素、リンを含むガラス原料を用い、ガラス原料中のリンの含有量に対する酸素の含有量のモル比O/Pが3.5以上となるように前記ガラス原料を調合し、熔融する。
なお、上記酸素の含有量は、ガラスに導入される酸素の量であり、ガラス熔融中にCOxガス、NOxガス、酸素ガス、水蒸気等として熔融物外へ出て行く酸素の量を含まない。
例えば、ガラス原料として、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物などを使用する場合、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物はガラス原料の加熱によって分解し、上記ガスを生成し、これらガスがガラス熔融物外へ出て行くため、前記ガス中に含まれる酸素はガラス化反応に寄与しない。また、ガラス原料中に結合水が存在する場合、ガラス原料の加熱によって結合水が脱離し、水蒸気となってガラス熔融物外へ出て行くため、水蒸気中の酸素もガラス化反応に寄与しない。したがって、上記ガスとなってガラス熔融物外へ出て行く酸素は、上記酸素の含有量から除外する。
炭酸塩、硝酸塩、水酸化物を使用する場合、これら化合物に含まれるガラス成分となるカチオンと酸素からなる酸化物を考え、前記酸化物として上記化合物に含まれる酸素の量をガラスに導入される酸素の量と考えればよい。
ここでガラス原料とは複数種の化合物を調合、混合した原料、所謂、バッチ原料や、カレットなどを含む。
光学特性などが所望の値になるように、かつ、ガラス原料に含まれる酸素、リンの全量をP5+量およびO2−量に換算し、P5+の量に対するO2−の量のモル比O2−/P5+が3.5以上になるようにガラス原料の調合を行い、調合ガラス原料を熔融する。このようにすれば、ガラス中のP5+含有量に対するO2−含有量のモル比O2−/P5+を3.5以上に制御することができる。
こうした制御をより確実に行う上から、ガラス原料に含まれる酸素、リンの全量をP5+量およびO2−量に換算し、P5+の量に対するO2−の量のモル比O2−/P5+が3.5以上になるよう原料調合を行うことが好ましい。
メタリン酸原料とフッ化物原料のみを用いて原料調合すると、ガラス原料に含まれる酸素、リンの全量をP5+量およびO2−量に換算し、P5+の量に対するO2−の量のモル比O2−/P5+は3となり、酸素量の不足により3.5に達しない。したがって、リンとは独立して酸素をガラスに導入できるよう、酸化物や硝酸塩などを併用することが望まれる。また、リン酸原料として一般的に使用するメタリン酸塩の一部または全部をピロリン酸塩に替えてもよい。ピロリン酸塩を使用する場合も酸化物や硝酸塩などを併用することが望まれる。
[精密プレス成形用プリフォームロットの製造]
次に精密プレス成形用プリフォームについて説明する。
本発明における精密プレス成形用プリフォームは、上記のフツリン酸ガラスからなるものである。
精密プレス成形用プリフォームは、単にプリフォームとも呼ばれ、精密プレス成形に供される精密プレス成形品の質量に相当するガラス予備成形体を意味するが、ここで精密プレス成形とは、周知のようにモールドオプティクス成形とも呼ばれ、光学素子の光学機能面をプレス成形型の成形面を転写することにより形成する方法である。なお、光学機能面とは光学素子において、制御対象の光を屈折したり、反射したり、回折したり、入出射させる面を意味し、レンズにおけるレンズ面などがこの光学機能面に相当する。
精密プレス成形時にガラスとプレス成形型成形面との反応、融着を防止しつつ、成形面に沿ってガラスの延びが良好になるようにするため、プリフォームの表面に炭素含有膜を被覆することが好ましい。炭素含有膜としては、炭素を主成分とするもの(膜中の元素含有量を原子%で表したとき、炭素の含有量が他の元素の含有量よりも多い)が望ましい。具体的には、炭素膜や炭化水素膜などを例示することができる。炭素含有膜の成膜法としては、炭素原料を使用した真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の公知の方法や、炭化水素などの材料ガスを使用した熱分解などの公知の方法を用いればよい。
次に本発明のプリフォームロットの製造方法について説明する。
本発明のプリフォームロットの製造方法は、ガラス原料を熔融容器内に導入して熔融し、清澄、均質化した後、得られた熔融ガラスを流出、成形する工程を経て精密プレス成形用プリフォームを量産し、前記プリフォームの集合物であるプリフォームロットを製造するプリフォームロットの製造方法において、上記本発明のプリフォームロットを作製することを特徴とするプリフォームロットの製造方法である。
具体的には、ガラス原料中のPの含有量に対するOの含有量のモル比O/Pが3.5以上となるように前記ガラス原料を調合し、熔融容器内に導入して熔融する。
プリフォームロットの製造方法の第1の例は、熔融ガラスを連続的に流出して鋳型に鋳込んで成形するとともに、成形したガラス成形体を前記鋳型から取り出し、該ガラス成形体を分割、加工してプリフォームを量産する方法である。
第1の例は、均質な熔融ガラスを鋳型に鋳込んで成形した後、成形体の歪をアニールによって除去し、切断または割断して、所定の寸法、形状に分割し、複数個のガラス片を作製し、ガラス片を研磨して表面を滑らかにするとともに、所定の質量のガラスからなるプリフォームとする。このようにして作製したプリフォームの表面にも炭素含有膜を被覆して使用することが好ましい。
第2の例は、熔融ガラスを連続的に流出するとともに前記熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記熔融ガラス塊を成形してプリフォームを作製する工程を繰り返し、プリフォームを量産する方法である。
第2の例では、ガラス原料を熔融、清澄、均質化して均質な熔融ガラスを用意し、温度調整された白金、白金合金、金、金合金のいずれかで作られた流出ノズルあるいは流出パイプから上記熔融ガラスを流出する。小型のプリフォームや球状のプリフォームを成形する場合は、熔融ガラスを流出ノズルから所望質量の熔融ガラス滴として滴下し、それをプリフォーム成形型によって受けてプリフォームに成形する。あるいは、同じく所望質量の熔融ガラス滴を流出ノズルより液体窒素などに滴下してプリフォームを成形する。中大型のプリフォームを作製する場合は、流出パイプより熔融ガラス流を流下させ、熔融ガラス流の先端部をプリフォーム成形型などの支持体で受け、熔融ガラス流のノズルと支持体の間にくびれ部を形成した後、支持体を急降下して(好ましくは真下に急降下。)、熔融ガラスの表面張力によってくびれ部にて熔融ガラス流を分離し、所望質量の熔融ガラス塊をプリフォーム成形型に受けてプリフォームに成形する。
熔融ガラスを流出する流出ノズルや流出パイプの温度を一定に制御し、単位時間あたりの熔融ガラス流出量を一定にする。そして、熔融ガラスの滴下時間間隔を一定にすれば、一定質量の熔融ガラス滴が得られ、これらガラス滴を成形することにより一定質量のプリフォームからなるプリフォームロットを得ることができる。
また、上記のように単位時間あたりの熔融ガラス流出量を一定とし、熔融ガラス流の先端部を受ける際のノズルまたはパイプのガラス流出口と支持体の距離を一定とし、熔融ガラス流の先端部を支持体で受けてから支持体を急降下するタイミングを一定にして一定質量の熔融ガラス塊を得、これら熔融ガラス塊を成形して一定質量のプリフォームからなるプリフォームロットを得ることもできる。
キズ、汚れ、シワ、表面の変質などがない滑らかな表面、例えば自由表面を有するプリフォームを製造するためには、プリフォーム成形型などの上で熔融ガラス塊に風圧を加えて浮上させながらプリフォームに成形したり、液体窒素などの常温、常圧下では気体の物質を冷却して液体にした媒体中に熔融ガラス滴を入れてプリフォームに成形する方法などが用いられる。
熔融ガラス塊を浮上させながらプリフォームに成形する場合、熔融ガラス塊にはガス(浮上ガスという)が吹きつけられ上向きの風圧が加えられることになる。この際、熔融ガラス塊の粘度が低すぎると浮上ガスがガラス中に入り込み、プリフォーム中に泡となって残ってしまう。しかし、熔融ガラス塊の粘度を3〜60dPa・sにすることにより、浮上ガスがガラス中に入り込むことなく、ガラス塊を浮上させることができる。
プリフォームに浮上ガスが吹き付けられる際に用いられるガスとしては、空気、N2ガス、O2ガス、Arガス、Heガス、水蒸気等が挙げられる。また、風圧は、プリフォームが成形型表面等の固体と接することなく浮上できれば特に制限はない。
プリフォームより製造される精密プレス成形品(例えば、光学素子)は、レンズのように回転対称軸を有するものが多いため、プリフォームの形状も回転対称軸を有する形状が望ましい。具体例としては、球あるいは回転対称軸を一つ備えるものを示すことができる。回転対称軸を一つ備える形状としては、前記回転対称軸を含む断面において角や窪みがない滑らかな輪郭線をもつもの、例えば上記断面において短軸が回転対称軸に一致する楕円を輪郭線とするものなどがあり、球を扁平にした形状(球の中心を通る軸を一つ定め、前記軸方向に寸法を縮めた形状)を挙げることもできる。
このようにして作製したプリフォームの表面にも炭素含有膜を被覆して使用することが好ましい。
[光学素子の製造方法]
次に本発明の光学素子の製造方法について説明する。
本発明の光学素子の製造方法の第1の態様は、上記本発明のプリフォームロットを構成するプリフォームを加熱し、プレス成形型により精密プレス成形して光学素子を作製する工程を繰り返して光学素子を量産する光学素子の製造方法である。
本発明の光学素子の製造方法の第2の態様は、上記本発明の方法でプリフォームロットを作製し、前記プリフォームロットを構成するプリフォームを加熱し、プレス成形型により精密プレス成形して光学素子を作製する工程を繰り返して光学素子を量産する光学素子の製造方法である。
上記2つの態様とも、プリフォームロットを構成するプリフォーム間の光学特性、熱的特性のばらつきが抑制され、かつ、品質の優れた光学素子を安定して量産することができる。
上記2つの態様とも、精密プレス成形の条件を一定に維持しつつ、光学素子を量産することが好ましい。本発明で使用するプリフォームロットはガラス転移温度などの熱的特性がそろったプリフォームで構成されるため、量産開始時に精密プレス成形の条件を最適化し、当該条件を一定に維持すれば、性能、品質とも安定した光学素子を量産することができる。また、量産の途中で精密プレス成形の条件を頻繁に調整しなくて済むため、量産性を一層改善することもできる。
また、本発明によれば、前述のように精密プレス成形により光学素子を作製し、前記光学素子を一定条件で光学素子を構成するガラスの屈折率を調整するために精密アニールしてもよいし、前記精密アニールをしない、すなわち、精密アニールフリーとしてもよい。いずれの場合も精密アニール条件を光学素子毎に調整する必要がないので、光学素子の量産性を一層向上させることができる。
また、本発明において、光学素子の光学機能面に、一定の仕様を有する反射防止膜を形成する工程を繰り返し、反射防止膜付きの光学素子を量産することが好ましい。本発明によれば、量産によって得られた光学素子ロットの屈折率のばらつきが抑制されているので、一定仕様の反射防止膜を精密プレス成形で得た光学素子の光学機能面に形成すれば、各光学素子とも十分な反射防止性能を備えたコーティングが可能となる。特に、精密プレス成形条件を一定とし、かつ精密アニールする場合は精密アニール条件を一定とし、かつ一定仕様の反射防止膜を形成することにより、性能、品質ともに優れた光学素子を安定して量産することができる。上記量産過程で精密アニールをしない、すなわち、精密アニールフリーとする場合も、光学素子毎に精密アニール条件を調整する必要がないから、この場合も、性能、品質ともに優れた光学素子を安定して量産することができる。
本発明の方法で製造される光学素子としては、特に限定はないが、例えば、非球面レンズ、球面レンズ、マイクロレンズ、レンズアレイ、プリズム、回折格子、レンズ付きプリズム、回折格子付きレンズなどを挙げることができる。非球面レンズ、球面レンズの具体例としては、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどを挙げることができる。銅を添加し近赤外線吸収特性を付与したガラスを用いることにより、CCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色感度補正用フィルターを量産することもできる。
また、用途の面からは、撮像光学系を構成する光学素子、投射光学系を構成する光学素子、光通信用素子、光ピックアップレンズやコリメータレンズのようにDVDやCDなどの光記録式情報記録媒体からデータを読み取ったり、書き込むためのレンズなどを挙げることができる。
撮像光学系を構成する光学素子としては、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、旧来のフィルムを使用するカメラ、監視カメラ、車載カメラなどの各種カメラに搭載されるレンズやプリズム、カメラ付き携帯電話のカメラレンズ、望遠レンズの前玉レンズなどを例示することができる。
投射光学系を構成する光学素子としては、液晶プロジェクタやリアプロジェクタの光学系を構成するレンズやプリズムなどを例示することができる。
本発明の光学素子は異常分散性を有するガラスにより作られているので、高次の色補正用として好適である。
またCu含有フツリン酸ガラスからなる光学素子は近赤外光吸収機能を有し、CCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色補正用フィルターなどの光学素子として好適である。
光学素子の表面には、前述のように、必要に応じて反射防止膜などの光線反射率を制御するための光学薄膜を形成してもよい。
次に精密プレス成形について説明する。
精密プレス成形では、プレス成形型ならびにプリフォームの加熱およびプレス工程は、プレス成形型の成形面あるいは前記成形面に設けられた離型膜の酸化を防止するため、窒素ガス、あるいは窒素ガスと水素ガスの混合ガスなどのような非酸化性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。非酸化性ガス雰囲気中ではプリフォーム表面を被覆する炭素含有膜も酸化されずに、精密プレス成形された成形品の表面に前記膜が残存することになる。この膜は、最終的には除去するべきものであるが、炭素含有膜を比較的容易にしかも完全に除去するには、精密プレス成形品を酸化性雰囲気、例えば大気中において加熱すればよい。炭素含有膜の酸化、除去は、精密プレス成形品が加熱により変形しないような温度で行うべきである。具体的には、ガラスの転移温度未満の温度範囲において行うことが好ましい。
精密プレス成形では、予め成形面を所望の形状に高精度に加工されたプレス成形型を用いるが、成形面には、プレス時のガラスの融着を防止するため、離型膜を形成してもよい。離型膜としては、炭素含有膜や窒化物膜、貴金属膜が挙げられ、炭素含有膜としては水素化カーボン膜、炭素膜などが好ましい。精密プレス成形では、成形面が精密に形状加工された対向した一対の上型と下型との間にプリフォームを供給した後、ガラスの粘度が105〜109dPa・s相当の温度まで成形型とプリフォームの両者を加熱してプリフォームを軟化し、これを加圧成形することによって、成形型の成形面をガラスに精密に転写する。
また、成形面が精密に形状加工された対向した一対の上型と下型との間に、予めガラスの粘度で104〜108dPa・sに相当する温度に昇温したプリフォームを供給し、これを加圧成形することによって、成形型の成形面をガラスに精密に転写することができる。
加圧時の圧力及び時間は、ガラスの粘度などを考慮して適宜決定することができ、例えば、プレス圧力は約5〜15MPa、プレス時間は10〜300秒とすることができる。プレス時間、プレス圧力などのプレス条件は成形品の形状、寸法に合わせて周知の範囲で適宜設定すればよい。
この後、成形型と精密プレス成形品を冷却し、好ましくは歪点以下の温度となったところで、離型し、精密プレス成形品を取出す。なお、光学特性を精密に所望の値に合わせるため、冷却時における成形品のアニール処理条件、例えばアニール速度等を適宜調整してもよい。
精密プレス成形は、以下の観点から2つの方法に大別できる。第1の方法は、ガラス素材をプレス成形型内に導入し、ガラス素材とプレス成形型とを一緒に加熱し、精密プレス成形する光学素子の製造方法であり、面精度、偏心精度など成形精度の向上を重視した場合、推奨される方法であり、第2の方法は、ガラス素材を加熱し、予熱したプレス成形型内に導入して精密プレス成形する光学素子の製造方法であり、生産性向上を重視した場合に推奨される方法である。
したがって、目的に応じて第1の方法または第2の方法を選択すればよい。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例は、上記説明に基づき本発明の全範囲に拡張、一般化することができる。
(実施例1)
表1−1〜表1−6に示す各組成を有するガラスを作製するために、各ガラス成分に対応する、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった原料を秤量し、十分に混合した。得られるガラス中のP5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量の比(O2−/P5+)、F−とO2−の合計含有量に対するF−の含有量の比(F−/(F−+O2−))を表1−1〜表1−6に併記する。上記混合原料を白金坩堝に投入して、900℃の電気炉内で、攪拌しながら1〜3時間かけて原料を加熱熔解し、清澄、均質化して得た熔融ガラスを鋳型に鋳込んでフツリン酸ガラスNo.1−1〜1−59の各種フツリン酸ガラスからなるブロック状のガラスを得た。なお、ガラス原料の調合にあたり、光学特性をはじめとする所望に諸特性が得られるように、かつ、ガラス原料中に含まれるリン原子の量に対する酸素原子の量のモル比O/Pが3.5以上になるようにガラス原料の調合を行った。ガラスの熔解、清澄、均質化において、雰囲気の交換は行っていない。
ガラス原料中に含まれる酸素原子の量は、ガラスに導入される酸素の量である。炭酸塩、硝酸塩、水酸化物を使用する場合、これら化合物に含まれるガラス成分となるカチオンと酸素からなる酸化物を考え、前記酸化物として上記化合物に含まれる酸素の量をガラスに導入される酸素の量と考えればよい。
このようにして得た59種のフツリン酸ガラス、すなわち、フツリン酸ガラスNo.1−1〜1−59のいずれにも脈理は認められなかった。
フツリン酸ガラスNo.1−1〜1−59の各ガラスは、表1−1〜表1−6に示すようにP5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量のモル比(O2−/P5+)が3.5になっている。各ガラスともモル比O2−/P5+を3.5以上に調製することによって、揮発性および侵食性が大幅に低減された所望特性を有する光学ガラスとなっている。また、上記製造例では、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった未ガラス化原料を使用したが、カレットを用いてもよいし、未ガラス化原料とカレットを併用してもよい。
このようにして成形したフツリン酸ガラスNo.1−1〜1−59を徐冷降温速度−30℃/時で冷却し、各ガラスからなる試料を得、各試料の屈折率ndを測定した。測定した屈折率ndの値を表1−1〜表1−6中にnd(1)として示す。次に、各試料を窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、徐冷降温速度−30℃/時で25℃まで冷却した後の屈折率ndを測定した。得られた屈折率ndの値を表1−1〜表1−6にnd(2)として示す。表1−1〜表1−6には、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)とその絶対値を示す。
(1)アッべ数(νd)
徐冷降温速度を−30℃/時にして得られたガラスについて測定した。
(2)ガラス転移温度(Tg)
理学電機株式会社の熱機械分析装置(サーモ プラス TMA 8310)により昇温速度を4℃/分にして測定した。
(3)ガラス中の金属製異物の数
光学顕微鏡でガラス内部を100倍に拡大観察し、粒径10μm以上の異物をカウントし、異物の数と観察エリアの体積から単位体積中の異物の数を算出した。
なお、上記フツリン酸ガラスNo.1−1〜1−59に外割りで0.5〜13カチオン%のCu2+を添加し、近赤外線吸収ガラスとしてもよく、得られる近赤外線吸収ガラスには脈理、金属製異物は認められなかった。
また、図1に示すようにモル比O2−/P5+(本実施例では、ガラス原料中のリン原子の量Pと酸素原子の量Oのモル比O/Pと等しい。)が3.4、3.3、3.2、3.1、3.0の5種類のフツリン酸ガラスを作製し、nd(1)、nd(2)、ガラス中の粒径10μm以上の金属粒子の数密度を測定した。その結果、いずれのガラスもnd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300を超え、金属粒子の数密度も増大した。また、これらのガラスにはいずれも脈理が認められた。
次に、フツリン酸ガラスNo.1−1〜1−59の各ガラスが得られる熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定の流量で流出させ、ガラス塊を滴下する方法か、又は支持体を用いて熔融ガラス流先端を支持した後、支持体を急降下してガラス塊を分離する方法にて熔融ガラス塊を分離した。得られた各熔融ガラス塊は、目的とするプリフォーム1個分の質量と等しい質量を有するものである。
次いで、得られた各熔融ガラス塊をガス噴出口を底部に有する受け型に受け、ガス噴出口からガスを噴出してガラス塊を浮上しながら成形し、プレス成形用プリフォームを量産した。プリフォームの形状は一定形状を有しており、球状プリフォームからなるロット、扁平球状のプリフォームからなるロットなどを作製した。各ロットを構成する各プリフォームの質量は設定値に精密に一致しており、いずれも表面が滑らかであり、脈理や白金、白金合金などの金属異物は認められなかった。また、プリフォームロットを構成するプリフォームから、最初に成形したもの、最後に成形したもの、途中で成形したものを幾つかサンプリングして、屈折率ndを屈折率測定法Aにより測定し、屈折率ndの公差を算出したところ、±0.00020以内であった。
次に、フツリン酸ガラスNo.1−1〜1−59の各ガラスからなる熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定の流量で流出させ、鋳型に連続して流し込みつつ、鋳型側面の開口部から成形したガラス成形体を水平方向に一定スピードで引き出し、アニール炉の中を通過させて−30℃/時の条件でアニールした後、ガラス成形体の先端部分を所望の長さに切断し、次々とガラス板を得た。
最初に得たガラス板、最後に得たガラス板、途中で得たガラス板からそれぞれ屈折率測定用試料を作製し、屈折率ndを測定し、屈折率ndの公差を算出したところ、±0.00020以内であった。
そして、上記ガラス板を賽の目状に切断して複数個のガラス片を作製し、これらガラス片を研削、研磨して表面が滑らかで光学的に均質で、一定質量、一定形状のプリフォームからなるプリフォームロットを得た。
(実施例2)
表2−1〜表2−5に示す各組成を有するフツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17、比較フツリン酸ガラスNo.2−1、2−2を作製するために、各ガラス成分に対応する、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった原料を秤量し、十分に混合した。各混合原料中の、P5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量の比(O2−/P5+)、アルカリ土類金属成分の合計含有量および希土類成分の合計含有量を各ガラスの組成、特性とともに表2−1〜表2−5に併記する。上記混合原料を白金坩堝に投入して、900℃の電気炉内で、攪拌しながら1〜3時間かけて原料を加熱熔解し、清澄、均質化することにより、フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17を得た。
フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17の各フツリン酸ガラスの作製では、表2−1〜表2−5に示すようにP5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量の比(O2−/P5+)を3.5以上にして揮発性および侵食性を抑制し、その他成分の含有量をバランスさせて所望特性を有する光学ガラスを得ている。また、上記製造例では、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった未ガラス化原料を使用したが、カレットを用いてもよいし、未ガラス化原料とカレットを併用してもよい。
なお、ガラス原料中に含まれる酸素原子の量は、ガラスに導入される酸素の量である。炭酸塩、硝酸塩、水酸化物を使用する場合、これら化合物に含まれるガラス成分となるカチオンと酸素からなる酸化物を考え、前記酸化物として上記化合物に含まれる酸素の量をガラスに導入される酸素の量と考えればよい。
フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17および比較フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−2の各ガラスについて、核磁気共鳴スペクトルにおける31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴ピークの強度I(0)および一次のサイドバンドピークの強度I(1)、屈折率nd、アッべ数νdおよびガラス中に含まれる粒径10μm以上の金属粒子の数密度を測定した。また、上記19種のガラスのうち、一部のガラスについてガラス転移温度Tgを測定した。これら測定結果を表2−1〜表2−5に示す。
なお、上記強度I(0)、強度I(1)、屈折率nd、アッべ数νd、金属粒子の数密度およびガラス転移温度は、以下の手法によりそれぞれ測定したものである。
(1)強度I(0)および強度I(1)
Varian社製VXR-300Sを使用し、観測周波数121.4MHz、基準試料85%H3PO4、磁場強度 H0=7.0T、試料回転数9.0kHzの条件でスペクトルを測定し0ppm付近のメインピークI(0)と70ppm付近に現れるスピニングサイドバンドのピーク強度I(1)をベースラインを除いて算出し、強度の比(I(1)/I(0))を算出する。
なお、図4はフツリン酸ガラスNo.2−1の31Pの核磁気共鳴スペクトル、図5は比較フツリン酸ガラスNo.2−1の31Pの核磁気共鳴スペクトルである。
図4、図5において、横軸は化学シフト(ppm単位)、縦軸が信号強度(任意単位)である。中央の最も高いピークが31Pの共鳴ピーク(メインピーク)であり、*で示すピークがスピニングサイドバンドである。メインピークに近いスピニングサイドバンドが一次のピークである。一次のスピニングサイドバンドは2つあるが、それらのピークの高さは等しいので、強度I(1)を求める際、どちらのピークを用いてもよい。
(2)屈折率nd及びアッべ数νd
徐冷降温速度を−30℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
(3)金属粒子の数密度
光学顕微鏡を用いて100倍に拡大観察し、金属粒子の数をカウントし、観察エリア内の体積から金属粒子の数密度を算出した。
(4)ガラス転移温度Tg
理学電機株式会社の熱機械分析装置(サーモ プラス TMA 8310)により昇温速度を4℃/分にして測定した。
また、各フツリン酸ガラスについて、原料を1時間熔解して得られた200gのガラス試料の屈折率ndをnd(1h)、アッベ数νdをνd(1h)とし、原料を3時間熔解して得られた200gのガラス試料の屈折率ndをnd(3h)、アッベ数νdをνd(3h)とする。nd(1h)、nd(3h)を測定するとともに、一部のガラスについてはνd(1h)、νd(3h)、液相温度LTを測定した。結果を表2−1〜表2−5に示す。
フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17の各ガラスは揮発が極めて少なく、ガラス中に含まれる粒径10μm以上の金属粒子の数も極めて少なかった。一方、比較フツリン酸ガラスNo.2−1、2−2については、揮発のため脈理が認められ、粒径10μm以上の金属粒子の数も多かった。なお、ガラス中に含まれる金属粒子はいずれも白金粒子である。
表2−1〜表2−5に示すように、フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17は、nd(3h)−nd(1h)の絶対値が0.00200以下と、原料の熔解時間の差による屈折率変化が小さかったのに対し、比較フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−2は、nd(3h)−nd(1h)が0.00400以上と大きかった。
また、アッベ数についても、フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−5は、νd(3h)−νd(1h)の絶対値が0.4以内であったのに対し、比較フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−2では、0.5以上と、原料の熔解時間の差によるアッベ数変化も大きかった。
上記フツリン酸ガラスは、原料の熔解時間の違いによるアッベ数の差が小さいことから、νd(3h)とνd(1h)のいずれをアッベ数としてもよいが、アッベ数を厳密に求める必要がある場合は、νd(1h)をフツリン酸ガラスのアッベ数とする。
なお、上記フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17に外割りで0.5〜13カチオン%のCu2+を添加し、近赤外線吸収ガラスとしてもよい。
フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17とこれらフツリン酸ガラスに外割りで0.5〜13カチオン%のCu2+を添加した近赤外線吸収ガラスのいずれにも脈理は認められず、光学的に極めて均質であった。
(実施例3)
表3に示す組成を有するフツリン酸ガラスNo.3−1〜3−4、比較フツリン酸ガラスNo.3−1を作製するために、各ガラス成分に対応する、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった原料を秤量し、十分に混合した。各混合原料中の、P5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量の比(O2−/P5+)、希土類元素の含有割合(カチオン%)をに併記する。上記混合原料を白金坩堝に投入して、900℃の電気炉内で、攪拌しながら1〜3時間かけて原料を加熱熔解し、清澄、均質化することにより、フツリン酸ガラスNo. 3−1〜3−4を得た。
フツリン酸ガラスNo.3−1〜3−4の各フツリン酸ガラスの作製では、揮発性が抑制されるよう、表3に示すようにP5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量の比(O2−/P5+)を3.5以上に制御し、その他成分の含有量をバランスさせて揮発性が大幅に低減された所望特性を有する光学ガラスを得ている。また、上記製造例では、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった未ガラス化原料を使用したが、カレットを用いてもよいし、未ガラス化原料とカレットを併用してもよい。
各フツリン酸ガラスについて、核磁気共鳴スペクトル、屈折率nd、アッベ数νd、金属粒子の数密度、原料を1時間熔解して得られた200gのサンプルの屈折率nd(1h)およびアッベ数νd(1h)と、原料を3時間熔解して得られた200gのサンプルの屈折率nd(3h)およびアッベ数νd(3h)を測定するとともに、一部のガラスについてはガラス転移温度を測定した。結果を表3に示す。
なお、各フツリン酸ガラスの31Pに起因する共鳴スペクトルの形状、屈折率nd、アッべ数νd、ガラス中に含まれる金属粒子の数密度およびガラス転移温度Tgは、以下の手法によりそれぞれ測定したものである。
(1)共鳴スペクトルの形状
Varian社製VXR-300Sを使用し観測周波数121.4MHz、基準試料85%H3PO4、磁場強度 H0=7.0T、試料回転数9.0kHzの条件でスペクトルを測定し0ppm付近のメインピークのベースラインからの形状をガウス関数で近似し1つのガウス関数で近似できる場合はガウス関数形とし2つ以上のガウス関数において近似される場合は非ガウス関数形とした。
(2)屈折率nd及びアッべ数νd
徐冷降温速度を−30℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
(3)金属粒子の数密度
光学顕微鏡を用いて100倍に拡大観察し、粒径10μm以上の金属粒子の数をカウントし、観察エリア内の体積から金属粒子の数密度を算出した。
(4)ガラス転移温度Tg
理学電機株式会社の熱機械分析装置(サーモ プラス TMA 8310)により昇温速度を4℃/分にして測定した。
フツリン酸ガラスNo.3−1〜3−4の各ガラスは揮発が極めて少なく、ガラス中に含まれる粒径10μm以上の金属粒子の数も極めて少なかった。一方、比較フツリン酸ガラスNo.3−1については、揮発のため脈理が認められ、粒径10μm以上の金属粒子の数も多かった。なお、上記金属粒子は白金粒子である。
表3に示すように、フツリン酸ガラスNo.3−1〜3−4は、nd(3h)−nd(1h)が0.00300以下と、原料の熔解時間の差による屈折率変化が小さかったのに対し、比較フツリン酸ガラスは、nd(3h)−nd(1h)が0.00400以上と大きかった。
また、アッベ数についても、フツリン酸ガラスNo.3−2〜3−4は、νd(3h)−νd(1h)の絶対値が0.4以内であったのに対し、比較フツリン酸ガラスでは、0.5以上と、原料の熔解時間の差によるアッベ数変化も大きかった。
本実施例のフツリン酸ガラスは、原料の熔解時間の違いによるアッベ数の差が小さいことから、νd(3h)とνd(1h)のいずれをアッベ数としてもよいが、アッベ数を厳密に求める必要がある場合は、νd(1h)を本発明の光学ガラスのアッベ数とするものとする。
なお、上記各フツリン酸ガラスNo.3−1〜3−4に外割りで0.5〜13カチオン%のCu2+を添加し、近赤外線吸収ガラスとしてもよい。
フツリン酸ガラスNo.3−1〜3−4とこれらフツリン酸ガラスに外割りで0.5〜13カチオン%のCu2+を添加した近赤外線吸収ガラスのいずれにも脈理は認められず、光学的に極めて均質であった。
(実施例4)
実施例1〜3において得たフツリン酸ガラスNo.1−1〜1−59、フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17、フツリン酸ガラスNo.3−1〜3−4の各ガラスからなるプリフォームロットを、図2に示すプレス装置を用いて精密プレス成形して非球面レンズを量産した。プリフォームロットは、20000個のプリフォームから構成されている。
すなわち、プリフォームロットからプリフォーム4を取り出し、該プリフォーム4を、上型1、下型2および胴型3からなるプレス成形型の下型2と上型1の間に設置した後、石英管11内を窒素雰囲気としてヒーター12に通電して石英管11内を加熱した。プレス成形型内部の温度を、成形されるガラスが108〜1010dPa・sの粘度を示す温度に設定し、同温度を維持しつつ、押し棒13を降下させて上型1を押して成形型内にセットされたプリフォームをプレスした。プレスの圧力は8MPa、プレス時間は30秒とした。プレスの後、プレスの圧力を解除し、プレス成形されたガラス成形品を下型2及び上型1と接触させたままの状態で前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上になる温度まで徐冷し、次いで室温まで冷却してガラス成形品を成形型から取り出し非球面レンズを得た。
このような工程を繰り返し、プリフォームロットを構成する全てのプリフォームを同一仕様の非球面レンズに精密プレス成形した。なお、上記精密プレス成形に関する各条件は非球面レンズの量産開始時に最適化した後は、一定に維持した。
上記非球面レンズの量産で、精密アニールを行わずに得られた非球面レンズ(精密アニールフリー非球面レンズという。)も、−30℃/時という一定の条件で精密アニールした非球面レンズ(精密アニール済み非球面レンズという。)もともに、すべて極めて高い面精度を有するとともに、屈折率のばらつきがないものであった。
次に、量産した非球面レンズの光学機能面に蒸着法により反射防止膜をコートした。反射防止膜の構成、蒸着の条件を一定とし、すべての精密アニールフリー非球面レンズと精密アニール済み非球面レンズに反射防止膜をコートした。それから、コート済みの非球面レンズの光学機能面に白色光を入射し、光学機能面における反射率を測定したところ、すべてのコート済み非球面レンズにおいて反射率はほとんどゼロであった。
なお、上記精密プレス成形において、プレス成形型の成形面の形状を適宜、変更することにより、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種非球面レンズを量産することができる。
このようにして、異物を含まず、脈理のない光学的に均質なガラスからなる光学素子を生産性よく、しかも高精度に得ることができた。
図2において、参照数字9は支持棒、参照数字10は下型・胴型ホルダー、参照数字14は熱電対である。
(実施例5)
次に、プリフォームを浮上しながら、プリフォームを構成するガラスの粘度が108dPa・sになる温度にプリフォームを予熱し、一方で上型、下型、胴型を備えるプレス成形型を加熱して、前記プリフォームを構成するガラスが109〜1012dPa・sの粘度を示す温度にし、上記予熱したプリフォームをプレス成形型のキャビティ内に導入して、10MPaで精密プレス成形し、プレス開始とともにガラスとプレス成形型の冷却を開始し、成形されたガラスの粘度が1012dPa・s以上となるまで冷却した後、成形品を離型して非球面レンズを得るという点を除き、実施例2と同様にしてコート済み非球面レンズを量産した。得られた各非球面レンズは、屈折率のばらつきがなく、極めて高い面精度を有するものであった。
精密アニールフリー非球面レンズ、精密アニール済み非球面レンズの屈折率のばらつきがない点、同一条件で反射防止膜をコートしたコート済み非球面レンズの光線反射率がほとんどゼロである点など実施例2で得た結果と同じであった。
なお、プレス成形型の成形面の形状を適宜、変更することにより、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種非球面レンズを作ることができる点も実施例2と同様である。
このようにして、異物を含まず、脈理のない光学的に均質なガラスからなる光学素子を生産性よく、しかも高精度に得ることができた。