JP5443415B2 - フツリン酸ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、光学素子およびそれらの製造方法 - Google Patents

フツリン酸ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、光学素子およびそれらの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、フツリン酸ガラスと、該ガラスからなるプレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、光学素子およびそれらの製造方法に関する。
フツリン酸ガラスは、分散が低く、異常分散性を備え、可視域の広い範囲にわたり高い光線透過率が得られるなどの性質から需要の高いガラスである。低分散性、異常分散性は色収差の補正に有効であり、優れた光線透過性は撮像光学系光学素子の材料のみならず、近紫外光など短波長の光を導光するための光学素子材料としても有効である。また、銅イオンを含有させることにより近赤外光をカットするフィルター機能を付与することができ、半導体撮像素子の色補正フィルター材料としても有効である。このようにフツリン酸ガラスが特許文献1に記載されている。
特開平10−139454号公報
このようにフツリン酸ガラスは有用な光学材料であるが、高温状態で著しい揮発性と侵蝕性を示すため、熔融ガラスからガラス成形体を製造する際に脈理が生じやすく、高品質のガラスを安定して生産することが難しい。また、熔融状態のガラスから揮発成分が時間とともに失われるので、屈折率などの光学特性やガラス転移温度などの熱的特性が僅かながら変化しやすい。そして、ガラス熔融ルツボを侵蝕して侵蝕物を異物としてガラス中に取り込むという問題がある。
フツリン酸ガラスを量産する場合、ガラス原料を熔融、清澄、均質化して熔融ガラスを得、この熔融ガラスをパイプなどのフィーダーから流出して成形する。
ところが、フツリン酸ガラスの融液はフィーダーの外周に濡れ上がりやすく、濡れ上がったガラス融液が揮発によって変質し、変質した融液が流出する熔融ガラスに混入してガラスの品質をさらに低下させるという問題があった。
本発明をこうした問題を解消するためになされたものであり、フツリン酸ガラス固有の揮発性と侵蝕性を抑制するとともに、フィーダー外周へのガラス融液の濡れ上がりも抑制することにより、高品質のフツリン酸ガラスを提供すること、および、前記ガラスからなるプレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、光学素子とそれらの製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための手段として、本発明は、
(1)可視域に吸収を有するイオンを含有しない光学ガラスであって、ガラス成分として、リン、酸素およびフッ素を含むフツリン酸ガラスにおいて、
塩素、臭素およびヨウ素の中から選ばれる1種以上のハロゲン元素を含み、
カチオン%表示にて、
5+ 3〜50%、
Al 3+ 5〜40%、
Mg 2+ 0〜10%、
Ca 2+ 0〜30%、
Sr 2+ 0〜30%、
Ba 2+ 0〜40%、
(ただし、Mg 2+ 、Ca 2+ 、Sr 2+ 、Ba 2+ の合計含有量が10%以上)
Li 0〜30%、
Na 0〜20%、
0〜20%、
3+ 0〜10%、
La 3+ 0〜10%、
Gd 3+ 0〜10%、
Yb 3+ 0〜10%、
3+ 0〜1%、
Zn 2+ 0〜20%、
In 3+ 0〜20%
を含有し、
アニオン成分として含まれるF とO 2‐ の合計含有量に対するF−の含有量のモル比F /(F +O 2‐ )が0.2〜0.95であり、
5+の含有量に対するO2‐の含有量のモル比O2‐/P5+が3.5以上であり、内部に含まれる粒径が10μm以上の異物の数密度が2.5個/cm 以下であることを特徴とするフツリン酸ガラス、
(2)内部に含まれる粒径が10μm以上の白金異物の数密度が2.5個/cm 以下である請求項1に記載のフツリン酸ガラス、
(3)リン成分をP5+に換算して3カチオン%超30カチオン%以下含み、核磁気共鳴スペクトルにおける31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴ピークの強度I(0)に対する前記共鳴ピークの一次のサイドバンドピークの強度I(1)の比I(1)/I(0)が0.08以下である上記(1)または(2)項に記載のフツリン酸ガラス、
(4)リン成分をP5+に換算して30〜50カチオン%含み、核磁気共鳴スペクトルにおける31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴スペクトルの形状がガウス関数形状である上記(1)または(2)項に記載のフツリン酸ガラス、
(5)Cl、BrおよびIの合計含有量が0.01〜5アニオン%である上記(1)〜()項のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラス、
(6)上記(1)〜()項のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラスであって、該ガラスの屈折率ndの値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率ndの値をnd(2)としたときに、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300以内であるフツリン酸ガラス、
(7)アッベ数νdが70を超える上記(1)〜()項のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラス、
(8)カチオン成分として含まれる希土類元素の合計含有量が5カチオン%未満であり、アニオン成分として含まれるFとO2‐の合計含有量に対するFの含有量のモル比F/(F+O2‐)が0.2以上、屈折率ndが1.53を超える上記(1)〜()項のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラス、
(9)前記ガラスのFの含有量が65アニオン%以上であることを特徴とする上記(1)〜()項のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラス、
(10)ガラス原料を白金または白金合金製の熔融容器内に導入して熔融し、清澄、均質化して、熔融ガラスを得、前記熔融ガラスを白金または白金合金製のパイプから流出、成形して、フツリン酸ガラスからなるガラス成形体を作製するガラス成形体の製造方法において、
ガラス原料中のリン原子の含有量Pに対する酸素原子の含有量Oのモル比O/Pが3.5以上となるように前記ガラス原料を調合し、熔融容器内に導入して熔融することによりガラス中のP 5+ 含有量に対するO 2- 含有量のモル比O 2- /P 5+ を3.5以上に制御して、前記熔融ガラスの侵蝕性を抑制し、上記(1)〜(9)項のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラスからなるガラス成形体を作製することを特徴とするガラス成形体の製造方法、
11)流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記熔融ガラス塊を該ガラス塊が冷却、固化する過程で、プレス成形用ガラス素材に成形する上記(10)項に記載のガラス成形体の製造方法、
12)流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、該熔融ガラス塊をプレス成形して光学素子ブランクを作製する上記(10)項に記載のガラス成形体の製造方法、
13)熔融ガラスを連続的に流出して鋳型に鋳込みガラス成形体を成形しながら、前記鋳型からガラス成形体を取り出す上記(10)に記載のガラス成形体の製造方法、
14)上記(1)〜()項のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラスからなるプレス成形用ガラス素材、
15)上記(1)〜()項のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラスからなる光学素子ブランク、
16)上記(1)〜()のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラスからなる光学素子、
17)上記(10)、(13)項のいずれか1項に記載の方法によりガラス成形体を作製し、該ガラス成形体を加工および/または成形するプレス成形用ガラス素材の製造方法、
18)上記(11)または(17)項に記載の方法でプレス成形用ガラス素材を作製し、前記ガラス素材を加熱、プレス成形する光学素子ブランクの製造方法、
19)上記(10)項に記載の方法によりガラス成形体を作製し、該ガラス成形体を加工および/または成形する光学素子ブランクの製造方法、
20)上記(14)または(17)項に記載の方法でプレス成形用ガラス素材を作製し、前記ガラス素材を加熱、精密プレス成形する光学素子の製造方法、
21)上記(18)または(19)項に記載の方法で光学素子ブランクを作製し、該ブランクを研削、研磨する光学素子の製造方法、
22)上記(10)項に記載の方法によりガラス成形体を作製し、該ガラス成形体を加工する光学素子の製造方法、
を提供するものである。
本発明によれば、フツリン酸ガラス固有の揮発性と侵蝕性を抑制するとともに、フィーダー外周へのガラス融液の濡れ上がりも抑制することが可能となり、高品質のフツリン酸ガラスを提供すること、および、前記ガラスからなるプレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、光学素子とそれらの製造方法を提供することができる。
フツリン酸ガラスのモル比O2−/P5+、nd(2)−nd(1)の絶対値Δnd、ガラス中に含まれる粒径10μm以上の白金異物の数密度の関係を示すグラフである。 本発明の実施例で用いた精密プレス成形装置の概略図である。 フツリン酸ガラスにおける強度比I(1)/I(0)の変化に対するガラスの屈折率変化量Δndの変化およびガラス中の粒径10μm以上の金属粒子の数密度の変化を示すグラフである。 本発明の実施例2のフツリン酸ガラスNo.2−1の31P核磁気共鳴スペクトルである。 比較フツリン酸ガラスNo.2−1の31P磁気共鳴スペクトルである。 フツリン酸ガラスのモル比O2−/P5+の変化に対する屈折率変化量Δndの変化および金属粒子(白金異物)の数密度の変化を示すグラフである。 本発明の実施例3のフツリン酸ガラスNo.3−3(モル比O2−/P5+=3.5)の31P核磁気共鳴スペクトルである。 図7の31P核磁気共鳴スペクトルをガウス関数でフィッティングしたものである。 比較フツリン酸ガラスNo.3−1(モル比O2−/P5+=3.0)の31P核磁気共鳴スペクトルである。 図9の31P核磁気共鳴スペクトルをガウス関数でフィッティングしたものである。
次に、発明を実施するための最良の形態について説明する。
[揮発性、侵蝕性とモル比O/Pの関係]
フツリン酸ガラスの原料としては、一般にリン酸塩が用いられている。またアニオン成分としてフッ素(F)の導入量をなるべく多くするために、リン(P5+)1原子に対する酸素(O2−)原子数の比(酸素原子/リン原子)が小さい、メタリン酸塩(酸素原子/リン原子=3)が用いられている。
メタリン酸塩を用いてガラスを熔融すると、原料に由来するメタリン酸とフッ素が反応して揮発性の高いフッ化ホスホリル(POF)が発生すると考えられる。これに対して、熔融ガラス中のリン1原子当たりの酸素原子の原子比を3.5以上(酸素原子/リン原子≧3.5)に調整、コントロールすると、揮発成分の発生量を大幅に低減できることが判明した。これは、熔融ガラス中に存在するリン酸として、リン(P5+)1原子に対する酸素(O2−)原子数の比(酸素原子/リン原子)が3であるメタリン酸よりも、リン(P5+)1原子に対する酸素(O2−)原子数の比(酸素原子/リン原子)が3.5である2リン酸の方が安定であるためと考えられる。
フツリン酸ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+を3.5以上とすることによって、揮発成分の発生そのものを抑制することができる。その結果、熔融ガラスの反応性も抑制され、侵蝕性も大幅に低減することができる。
したがって、ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+を調整することによりフツリン酸ガラスの揮発性、侵蝕性を制御することができ、モル比O2−/P5+を3.5以上にすることにより上記揮発性、侵蝕性を抑制することができる。
フツリン酸ガラスの揮発性を抑制することにより、脈理発生を抑制できるとともに、屈折率などの光学特性の変動を抑制し、光学特性のばらつきを低減することができる。
また、フツリン酸ガラスの侵蝕性を抑制することにより、熔融容器、熔融ガラスを流すパイプ、熔融ガラスを攪拌、均質化するための攪拌棒など、熔融ガラスと接する耐熱性材料の侵蝕を抑制することができる。前記耐熱性材料としては、耐蝕性、加工性に優れた白金、白金合金、金、金合金などが好ましいが、耐蝕性に優れた耐熱性材料を使用しても侵蝕性に富む従来のフツリン酸ガラスは、これら材料を侵蝕する。また、フツリン酸ガラスは、これら耐熱性材料を比較的溶かし込みにくいガラスであることから、侵蝕されて上記容器、パイプ、攪拌棒から離脱した侵蝕物はガラス中に固形物のまま残留して異物となる。異物は光散乱源となってガラスの品質を低下させ、ガラス製光学素子の性能を低下させる。また、侵蝕物が金属イオンになってガラスに溶け込むことにより、ガラスが着色してしまう。したがって、異物混入を抑制する上からも、着色を抑制する上からも、ガラスの侵蝕性を抑制することは有効である。
なお、こうした手法によりフツリン酸ガラスとしては反応性、侵蝕性が極めて低いレベルに抑制されたガラスは、従来のガラスと構造が異なると考えられる。
ガラスはアモルファス構造を有し、一般にその構造は等方的と考えられるが、揮発性および侵蝕性をもたらす生成物が存在すると、ガラス構造に僅かな異方性が生じると考えられる。こうした考えを裏付けるため、ガラスの異方性を分析する手法として一般的な核磁気共鳴法を用い、31Pの核磁気共鳴スペクトルを測定した。その結果、揮発性と侵蝕性がともに極めて低レベルにまで抑制されたガラスと従来のガラスとの間で、スペクトルに明瞭な違いが見られた。
核磁気共鳴法ではガラス試料を回転して測定を行う。異方性の大小により、リンの含有量が少ないフツリン酸ガラスでは、得られたスペクトルのメインピークと試料の回転により生じるスピニングサイドバンドの強度比が変化し、リンの含有量が多いフツリン酸ガラスでは、共鳴スペクトルの形状が変化する。
揮発性および侵蝕性が抑制されたフツリン酸ガラスを得るには、揮発性と侵蝕性が一層抑制されたフツリン酸ガラス特有の核磁気共鳴特性を有するガラスとすればよい。
[ハロゲン元素添加による濡れ上がり抑制効果]
ところで、フツリン酸塩ガラスは、熔融ガラスを流出する際、ガラス流出パイプの流出口からパイプ外周面に濡れ上がりやすいという性質を有し、濡れ上がった熔融ガラスが変質し、変質したガラスが新たに流出する熔融ガラスに混入して成形するガラスの品質を低下させるという問題があった。本発明で塩素、臭素およびヨウ素の中から選ばれる1種以上のハロゲン元素をガラスに導入することにより濡れ上がりを低減、抑制する。
こうした濡れ上がり低減、抑制効果は、流出パイプ全般において得られるが、白金製の流出パイプ、白金合金製の流出パイプ、金製の流出パイプ、金合金製の流出パイプにおいて顕著であり、白金製の流出パイプ、白金合金製の流出パイプにおいて特に顕著である。
以上の知見に基づき完成した本発明のフツリン酸ガラスは、上記モル比O2−/P5+とハロゲン元素の含有によって特徴付ける第1の態様と、核磁気共鳴スペクトルとハロゲン元素の含有によって特徴付ける第2の態様および第3の態様の3つに大別することができる。
本発明のフツリン酸ガラスの第1の態様(フツリン酸ガラスAという。)は、ガラス成分として、リン、酸素およびフッ素を含むフツリン酸ガラスにおいて、塩素、臭素およびヨウ素の中から選ばれる1種以上のハロゲン元素を含み、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上であることを特徴とするフツリン酸ガラスである。
本発明のフツリン酸ガラスの第2の態様(フツリン酸ガラスBという。)は、ガラス成分として、リン、酸素およびフッ素を含むフツリン酸ガラスにおいて、塩素、臭素およびヨウ素の中から選ばれる1種以上のハロゲン元素を含み、リン成分をP5+に換算して3カチオン%超30カチオン%以下含み、核磁気共鳴スペクトルにおける31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴ピークの強度I(0)に対する前記共鳴ピークの一次のサイドバンドピークの強度I(1)の比I(1)/I(0)が0.08以下であることを特徴とするフツリン酸ガラスである。
本発明のフツリン酸ガラスの第3の態様(フツリン酸ガラスCという。)は、ガラス成分として、リン、酸素およびフッ素を含むフツリン酸ガラスにおいて、塩素、臭素およびヨウ素の中から選ばれる1種以上のハロゲン元素を含み、リン成分をP5+に換算して30〜50カチオン%含み、核磁気共鳴スペクトルにおける31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴スペクトルの形状がガウス関数形状であることを特徴とするフツリン酸ガラスである。
フツリン酸ガラスBとフツリン酸ガラスCは、ガラス中のリン成分の含有量が異なるため、フツリン酸ガラスBであり、かつフツリン酸ガラスCであるフツリン酸ガラスはないが、フツリン酸ガラスAであり、かつフツリン酸ガラスBである本発明のフツリン酸ガラスは存在する。また、フツリン酸ガラスAであり、かつフツリン酸ガラスCである本発明のフツリン酸ガラスも存在する。
以下、フツリン酸ガラスAから順にフツリン酸ガラスB、フツリン酸ガラスCについて詳細に説明するが、フツリン酸ガラスのリン成分の含有量およびアッベ数νdに関する説明を除き、フツリン酸ガラスAに関する説明とフツリン酸ガラスBに関する説明は共通し、フツリン酸ガラスAに関する説明とフツリン酸ガラスCに関する説明は共通する。
[フツリン酸ガラスA]
Cl、BrおよびIの合計量は、上記濡れ上がり効果が得られる範囲とすればよいが、上記合計量が過剰になると、熔融ガラスからハロゲン元素が揮発して脈理が生じる、屈折率などの光学特性が変動する、熔融ガラスの侵蝕性が強まり、ガラス熔融容器や熔融ガラスを流すパイプ、ガラスを均質化する際に使用する攪拌棒を構成する白金、白金合金、金、金合金などの耐熱性材料が侵蝕されて、異物としてガラス中に混入しやすくなるとともに、耐熱性材料がイオンとしてガラスに溶け込むことによりガラスが着色しやすくなるといった問題がおきやすくなる。
そのため、Cl、BrおよびIの合計含有量は、濡れ上がり効果を得つつ、脈理や屈折率変動、ガラス中の異物混入が認められない範囲内で調整すればよく、ガラスを着色させないで用いる場合は、さらにガラスが着色しないように調整すればよい。
なお、本発明では、ガラス中のP5+の含有量およびO2−の含有量を、モル比O2−/P5+が3.5以上になるように定められているので、フツリン酸ガラス固有の侵蝕性が抑制されているので、ハロゲン元素を添加しない状態のガラスでは、上記異物の混入がセロまたは極めて少ないレベルとなっている。したがって、この状態をベースとし、ハロゲン元素の含有量を増加し、熔融容器やパイプを構成する耐熱性材料からなる異物の混入が認められない範囲で、Cl、BrおよびIの合計含有量の上限を容易に設定することができる。
なお、Cl、BrおよびIの合計含有量は、目安として0.01〜5アニオン%とすることが好ましい。Cl、BrおよびIの合計含有量のより好ましい下限は0.05アニオン%、さらに好ましい下限は0.1アニオン%である。一方、Cl、BrおよびIの合計含有量のより好ましい上限は4アニオン%、さらに好ましい上限は3アニオン%である。また、濡れ上がり抑制効果および経済性の観点から、ガラス中に導入する上記ハロゲン元素の中で、Clが最も好ましく、Cl、BrおよびIの合計含有量(Cl+Br+I)に対するCl含有量の割合(Cl/(Cl+Br+I))を0.8〜1とすることが好ましく、0.9〜1とすることがより好ましく、1とすることがさらに好ましい。
[異物抑制効果について]
以上のようにして、揮発性、侵蝕性、濡れ上がりが抑制されたフツリン酸ガラスが得られるが、本発明のフツリン酸ガラスにおいて、内部に含まれる粒径が10μm以上の異物、例えば白金粒子、白金を含む粒子、金粒子、金を含む粒子の数密度が5個/cm未満であるガラスが好ましい。前述の粒子は光線、例えば可視光を散乱する異物となり、光学素子の性能を低下させる。本発明によれば、光散乱源となる異物が大幅に低減もしくは存在しないので、高品質な光学ガラスを提供することができる。ガラス内部に含まれる粒径が10μm以上の異物の好ましい数密度は5個/cm未満、より好ましくは3個/cm未満、さらに好ましくは2.5個/cm以下、一層好ましくは2個/cm以下、特に好ましくは0個/cmである。
[ガラス再熔融の前後における屈折率変化と揮発性、侵蝕性の関係]
本発明のフツリン酸ガラスにおいて、熔融ガラスの揮発性、侵蝕性をより一層抑制し、品質、光学特性および熱的特性をより一層安定化し、ガラスやガラス製の光学素子の量産性をより一層向上させる上から、ガラスの屈折率ndの値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率ndの値をnd(2)としたときに、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値Δndが0.00300以内であるフツリン酸ガラスが好ましく、0.00250以内であるフツリン酸ガラスがより好ましく、0.00200以内であるフツリン酸ガラスがさらに好ましく、0.00150以内であるフツリン酸ガラスが一層好ましく、0.00120以内であるフツリン酸ガラスがより一層好ましく、0.00100以内であるフツリン酸ガラスがなお一層好ましい。
フツリン酸ガラスにおいて再熔融時によって含有量が減少するフッ素は、屈折率を相対的に低下させる成分なので、nd(2)−nd(1)の値は一般に正となる。
nd(2)を測定するために行われる再熔融時の雰囲気は、ガラスと雰囲気の反応により揮発以外の要因によりガラスの屈折率が影響を受けないようにするため、窒素とする。再熔融は900℃で1時間の所定条件下で行われ、その後、ガラス転移温度まで冷却する。nd(2)の値は冷却時の降温速度にも影響を受けるので、冷却は毎時30℃の所定の降温速度で行われ、25℃まで冷却される。
屈折率の測定は公知の方法を用いることができ、有効桁数6桁(小数点以下5桁)の精度で測定することが望ましい。屈折率の測定例としては、日本光学硝子工業会規格JOGIOS01−1994「光学ガラスの屈折率の測定方法」を適用することができる。
ガラスの形状、体積などによっては、例えばガラスが小さな球であったり、肉薄のレンズに成形されている場合には、ガラスを上記規格に定められた形状、寸法の試料に加工できない場合もある。その場合には、ガラスを加熱、軟化してプレス成形し、アニールし、必要に応じて研削、研磨するなどして2つの平面が所定の角度で交わるプリズム形状にする。そして、上記規格と同じ測定原理に基づき、屈折率を測定する。プレス成形によるプレス作製時の加熱温度は高々ガラスを軟化できればよい温度域であって、ガラスを熔融する温度よりも極めて低いから、揮発性物質の濃度への影響は無視できる程度であり、上記加熱前後の屈折率変化量は無視して差支えない。
図1は、モル比O2−/P5+を3.0から4.0の間で変化させたときの屈折率変化量(nd(2)−nd(1))の絶対値Δnd、フツリン酸ガラス中に含まれる粒径10μm以上の白金異物の数密度の変化を示したものである。なお、ガラスの熔融は白金ルツボにて行った。
図1より、モル比O2−/P5+を3.5以下とすることにより、フツリン酸ガラスの揮発性が抑制されてΔndが0.00300以下になるとともに、フツリン酸ガラスの侵蝕性が抑制されて白金異物の数密度を抑制できることがわかる。
[モル比O/Pの好ましい範囲]
本発明のフツリン酸ガラスにおいて、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+の上限については、目的とするガラスが得られれば特に制限されないが、ガラスの熱的安定性を維持する観点からモル比O2−/P5+の上限を4とすることが好ましい。
ガラス中のFの含有量が65アニオン%未満の場合、アニオン成分中、酸素成分の割合を高めることができるので、揮発性、侵蝕性を一層抑制する上からモル比O2−/P5+を高めることが好ましく、モル比O2−/P5+を3.53以上とすることが好ましく、3.55以上とすることがより好ましく、3.6以上とすることがさらに好ましい。
[好ましいガラス]
次にフツリン酸ガラスAについて、好ましい例をあげて、より詳細に説明する。
[フツリン酸ガラスI]
第1の好ましい例は、アッベ数νdが70を超えるフツリン酸ガラス(フツリン酸ガラスIという。)である。アッベ数νdはガラス中のフッ素成分量に大きく依存する。すなわち、アニオン成分中、フッ素成分が占める割合が大きいとアッベ数νdが増加し、フッ素成分が占める割合が小さいとアッベ数が減少する。したがって、アッベ数νdが大きいガラスは、酸素成分量が少なく、モル比O2−/P5+が小さくなり、熔融状態におけるガラスの揮発性、侵蝕性が著しくなる。本発明は、モル比O2−/P5+が3.5以上になるようにリン成分量も調整することにより、アッベ数νdが70を超える超低分散性のフツリン酸ガラスでありながら、揮発性および侵蝕性が抑制されたガラスを提供することができる。
フツリン酸ガラスIの中でも好ましいガラスは、カチオン成分として含まれる希土類元素の合計含有量が5カチオン%未満であり、アニオン成分として含まれるFとO2−の合計含有量に対するFの含有量のモル比F/(F+O2−)が0.2以上、屈折率ndが1.53を超えるガラス(フツリン酸ガラスI−aという。)である。
カチオン成分として含まれる希土類元素の含有量が過剰になるとガラスの熔解温度、液相温度、熔融ガラスの流出温度や成形温度が上昇する。特に、屈折率ndが1.53を超えるガラスで希土類元素の合計含有量が5カチオン%以上になると、ガラスの熔解温度、液相温度、熔融ガラスの流出温度や成形温度が上昇する。本発明はモル比O2−/P5+を3.5以上にすることで、ガラスの揮発性、侵蝕性を抑制しているが、熔解温度、液相温度、成形温度の上昇を抑制することはガラスの揮発性、侵蝕性をより一層抑制する上で有効である。また、液相温度が高いガラスで、流出温度や成形温度を低下しようとすると、流出時や成形時のガラスの粘性が高くなり、熔融ガラスから熔融ガラス塊や熔融ガラス滴を分離することが難しくなったり、成形が難しくなる。こうした理由から、上記希土類元素の合計含有量を5カチオン%未満とすることが好ましく、4カチオン%以下とすることがより好ましく、3カチオン%以下とすることがさらに好ましい。
なお、ガラスを着色させず、熱的安定性を大幅に低下させないで屈折率を高めることができるという点から、フツリン酸ガラスI−aにおいて、希土類元素を導入する場合は、Y、La、Gd、Ybのいずれか1種以上を導入することが好ましい。すなわち、Y3+、La3+、Gd3+およびYb3+の合計含有量を5カチオン%未満にすることが好ましく、4カチオン%以下にすることがより好ましく、3カチオン%以下にすることがさらに好ましい。中でもYは熱的安定性を維持しつつ、屈折率を高める効果に優れることから、Y3+の含有量を5カチオン%未満にすることが好ましく、4カチオン%以下にすることがより好ましく、3カチオン%以下にすることがさらに好ましい。
また、フツリン酸ガラスIにおいて、アニオン成分として含まれるFとO2−の合計含有量に対するFの含有量のモル比F/(F+O2−)が0.2以上になると、酸素含有量が相対的に低下し、モル比O2−/F−が減少してガラスの揮発性、侵蝕性が高まりやすくなる。本発明によれば、こうしたガラスでもモル比O2−/Fを3.5以上にすることにより、ガラスの揮発性、侵蝕性が抑制され、希土類元素の含有量を上記のように制限したこととあいまって、諸特性のばらつきが抑制された高品質のプリフォームからなるプリフォームロットを提供することができる。
なお、フツリン酸ガラスI−aは屈折率ndが1.53を超え、フツリン酸ガラスとしては高屈折率のガラスであるため、フツリン酸ガラスI−aからなるプリフォームを使用することにより、同じ焦点距離を有するレンズでも光学機能面の曲率半径の絶対値を大きくすることができ、精密プレス成形性を向上させることができるほか、高屈折率ガラスを使用することで、光学素子の高機能化や光学素子を組み込んだ光学系のコンパクト化に有利となる。こうした観点から、フツリン酸ガラスI−aとして、屈折率ndが1.54以上のガラスが好ましく、屈折率ndが1.55以上のガラスがより好ましい。
[フツリン酸ガラスII]
第2の例は、カチオン%表示にて、
5+ 3〜50%、
Al3+ 5〜40%、
Mg2+ 0〜10%、
Ca2+ 0〜30%、
Sr2+ 0〜30%、
Ba2+ 0〜40%、
(ただし、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の合計含有量が10%以上)
Li 0〜30%、
Na 0〜20%、
0〜20%、
3+ 0〜10%、
La3+ 0〜10%、
Gd3+ 0〜10%、
Yb3+ 0〜10%、
3+ 0〜10%、
Zn2+ 0〜20%、
In3+ 0〜20%
を含有し、アニオン成分として含まれるFとO2−の合計含有量に対するFの含有量のモル比F/(F+O2−)が0.2〜0.95であるフツリン酸ガラス(フツリン酸ガラスIIという。)である。
以下、フツリン酸ガラスIIについて詳説するが、フツリン酸ガラスIIの説明において、カチオン成分の含有量、合計含有量はカチオン%表示とし、アニオン成分の含有量、合計含有量はアニオン%表示とする。
5+ はガラス中でネットワークフォーマーとして働く重要な成分であり3%未満ではガラスが極端に不安定になる。また、50%を超えるとモル比O2−/P5+を3.5以上するために、フッ素の導入量を抑制する必要が生じ、必要な低分散性が得られなくなる。したがって、P5+の含有量は3〜50%の範囲にすることが好ましく、3〜45%の範囲とすることがより好ましく、5〜40%の範囲とすることがさらに好ましい。
Al3+はフツリン酸ガラスにおいて安定性を高めるための重要成分であり、5%未満ではガラスが不安定になる。一方、40%を超えると他成分の合計量が少なくなりすぎるために逆に不安定になる。したがって、Al3+の含有量は5〜40%の範囲にすることが好ましく、5〜38%の範囲とすることがより好ましく、10〜35%の範囲とすることがさらに好ましい。
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+のようなアルカリ土類金属はガラスの安定性を高め、屈折率を上昇させる成分であり、その合計量を10%以上にすることで安定性に対する効果が高くなる。しかし、特定のアルカリ土類金属成分があまりに多くなると他の成分とのバランスが崩れるため、満遍なく導入することが好ましく、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の少なくとも2種以上を導入することが好ましい。具体的にはMg2+は0〜10%とすることが好ましく、1〜10%とすることがより好ましい。Ca2+は0〜30%とすることが好ましく、1〜30%とすることがより好ましい。Sr2+は0〜30%とすることが好ましく、1〜20%とすることがより好ましい。Ba2+は0〜40%とすることが好ましく、2〜40%とすることがより好ましい。
Li、Na、Kのようなアルカリ金属はガラスの粘性、ガラス転移温度を低下させ、ガラスの製造を容易にすることができる成分であるが、過剰の導入は安定性を低下させる。そこでLiの含有量を0〜30%、Naの含有量を0〜20%、Kの含有量を0〜20%とすることが好ましい。アルカリ金属の中でもLiは安定性を高める効果も大きいため、Liを0.5%以上導入することがより好ましく、1%以上導入することがさらに好ましく、2%以上導入することが特に好ましい。したがって、Liの量の好ましい範囲は0〜30%、より好ましい範囲は0.5〜30%、さらに好ましい範囲は1〜30%、一層好ましい範囲は2〜30%である。
Naの含有量の好ましい範囲は0〜20%、より好ましい範囲は0〜10%、さらに好ましい範囲は1〜5%、Kの含有量の好ましい範囲は0〜20%、より好ましい範囲は0〜10%、さらに好ましい範囲は0〜5%である。
3+、La3+、Gd3+、Yb3+などの希土類元素はガラスの低分散性を保ちつつ屈折率を高める成分であるが、過剰な導入は熔解温度を上昇させガラスの安定性も低下させてしまう。そのため、上記各成分の含有量をそれぞれ0〜10%とすることが好ましく、0〜5%とすることがより好ましく、1〜5%とすることがさらに好ましい。
3+はガラスの耐久性を向上させる成分であるが、熔解中にフッ化物として揮発する傾向があるため、生産性を低下させる成分でもある。そのため導入量は0〜10%にすることが好ましく、0〜5%にすることがより好ましく、0〜1%にすることがさらに好ましく、導入しないことがさらに好ましい。
Zn2+、In3+はアルカリ土類金属と同様に容易にガラス中に導入できる特性を持ち、Zn2+やIn3+を導入して多成分にすることによる安定性の向上効果が期待できるが、過剰の導入は好ましくない。このため、Zn2+およびIn3+の導入量は、それぞれ0〜20%とすることが好ましく、それぞれ0〜10%とすることがより好ましく、0〜5%とすることがさらに好ましく、0〜1%とすることが一層好ましく、導入しないことが特に好ましい。
次にフツリン酸ガラスIIのアニオン成分について説明する。フツリン酸ガラスは一般にFとO2−が主要アニオン成分である。所要の光学特性と優れたガラス安定性を実現する上から、FとO2−の合計含有量に対するFの含有量のモル比F/(F+O2−)を0.2〜0.95とすることか好ましい。
フツリン酸ガラスIIの光学特性に特に限定はないが、アッベ数νdが70を超え98以下であることが好ましく、70〜95であることがより好ましい。また、屈折率ndについては1.43〜1.6であることが好ましく、1.45〜1.6であることがより好ましい。
[フツリン酸ガラスIII]
第3の例は、Fの含有量が65アニオン%以上であるフツリン酸ガラス(フツリン酸ガラスIIIという。)である。フツリン酸ガラスIIIにおいて、超低分散性、異常分散性を実現するため、Fの含有量を65アニオン%以上とする。フツリン酸ガラスIIIにおいて、Fの含有量の好ましい範囲は65〜95アニオン%、より好ましい範囲は70〜92アニオン%である。
フツリン酸ガラスの中でもフツリン酸ガラスIIIのようにFの含有量が多いガラスは、ガラス融液状態における粘性が非常に小さく、揮発による脈理の発生、屈折率変動が特に著しい。モル比O2−/P5+を3.5以上に制御することで揮発性物質の生成そのものを抑制し、揮発性を著しく低下させるとともに、ガラスの反応性、侵蝕性も抑制するので、高品質のフツリン酸ガラスを安定して提供することができる。
フツリン酸ガラスIIIの中で好ましいガラスは、カチオン%表示にて、
5+ 3〜15%、
Al3+ 25〜40%、
Ca2+ 5〜35%、
Sr2+ 5〜25%
を含有するものである。
上記ガラスは、さらにカチオン%表示にて、
Mg2+ 0〜10%、
Ba2+ 0〜20%、
Li 0〜20%、
Na 0〜10%、
0〜10%、
3+ 0〜5%
を含有することができる。
フツリン酸ガラスIIIの説明においても、カチオン成分の含有量、合計含有量はカチオン%表示とし、アニオン成分の含有量、合計含有量はアニオン%表示とする。
フツリン酸ガラスIIIにおいて、P5+はネットワークフォーマーとして働く。P5+の含有量が3%未満だと安定性が低下し、15%を超えるとモル比O2−/P5+を3.5以上に保つためにO2−の含有量を増加させなくてはならず、その結果、Fの含有量が低下し、十分な低分散性、異常分散性を得ることが困難になる。したがって、P5+の含有量を3〜15%とすることが好ましい。P5+の含有量のより好ましい範囲は3.5〜13%、さらに好ましい範囲は4〜11%である。
Al3+はガラスの安定性を高める働きをする成分である。Al3+の含有量が25%未満だと安定性が低下し、40%を超えても安定性が低下するため、Al3+の含有量を25〜40%とすることが好ましい。Al3+の含有量のより好ましい範囲は28〜36%、さらに好ましい範囲は30〜36%である。
Ca2+はガラスの安定性を高める効果があり、F含有量が多くなるほど増量することが望まれる成分である。Ca2+の含有量が5%未満だと上記効果を十分得にくく、35%を超えると安定性が低下するため、Ca2+の含有量を5〜35%とすることが好ましい。Ca2+の含有量のより好ましい範囲は10〜35%、さらに好ましい範囲は20〜30%である。
Sr2+はガラスの安定性を高める効果があり、その含有量が5%未満だと前記効果が十分でなく、25%を超えると安定性が低下する。したがって、Sr2+の含有量を5〜25%とすることが好ましい。Sr2+の含有量のより好ましい範囲は10〜25%、さらに好ましい範囲は15〜20%である。
このように、Ca2+とSr2+を共存させることにより、ガラスの安定性をより向上させることができる。
Mg2+は10%までの導入により、ガラスの安定性を向上させる働きをする。したがって、Mg2+の含有量を0〜10%とすることが好ましく、1〜10%とすることがより好ましく、3〜8%とすることがさらに好ましい。
Ba2+は、20%までの導入により、ガラスの安定性を向上させる働きをする。したがって、Ba2+の含有量を0〜20%とすることが好ましい。Ba2+はFの含有量が少ないガラスでは、安定性を向上させる働きが強いが、Fの量が多いガラスでは必須成分ではない。Ba2+の含有量のより好ましい範囲は1〜15%、さらに好ましい範囲は2〜10%である。
ガラスの安定性を一層向上させる上から、Ca2+、Sr2+およびMg2+を共存させること、Ca2+、Sr2+およびBa2+を共存させること、Ca2+、Sr2+、Mg2+およびBa2+を共存させることが好ましい。
Liは、ガラス融液の粘性を低下させるが、液相温度を低下させる働きが非常に強く、総合的には熔融ガラスを流出、成形する際の脈理を防止する効果がある成分である。こうした効果は、モル比O2−/P5+を所要範囲にすることにより得られる揮発成分発生の抑制効果との相乗効果によりフツリン酸ガラスの品質を高めるのに大きく寄与する。しかし、Liを20%を超えて導入すると、ガラス融液の粘性の過剰な低下を起こし、結晶化の促進によるガラスの失透、脈理の発生といった問題を引き起こす。したがって、Liの含有量は0〜20%とすることが好ましい。Liの含有量のより好ましい範囲は0〜15%、さらに好ましい範囲は1〜10%、一層好ましい範囲は1〜7%である。
Naは、ガラス転移温度を低下させる働きをするが、過剰に導入するとガラスの安定性が低下する。また、耐水性も低下する。したがって、Naの含有量を0〜10%とすることが好ましい。Naの含有量のより好ましい範囲は0〜7%、さらに好ましい範囲は1〜5%である。
も、ガラス転移温度を低下させる働きをするが、過剰に導入するとガラスの安定性が低下する。また、耐水性も低下する。したがって、Kの含有量を0〜10%とすることが好ましい。Kの含有量のより好ましい範囲は0〜5%、さらに好ましい範囲は0〜3%である。
アルカリ金属成分Li、Na、Kのうち、複数種を共存させることにより、ガラスの安定性を向上させることができる。
3+は、少量の導入によりガラスの安定性向上が期待されるが、その含有量が5%を超えるとガラスの熔融温度が上昇し、熔融ガラスからの揮発が助長されるとともに、ガラスの安定性も低下する。したがって、Y3+の含有量を0〜5%とすることが好ましい。Y3+の含有量のより好ましい範囲は1〜5%、さらに好ましい範囲は1〜3%である。
この他、屈折率の調整などを目的として少量のLa3+、Gd3+、Zr4+、Zn2+を導入することができる。
なお、熔融ガラスの成形性に優れ、品質の高いフツリン酸ガラスを得る上から、P5+、Al3+、Li、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Na、KおよびYの合計含有量を95%以上にすることが好ましく、97%以上にすることがより好ましく、98%以上にすることがさらに好ましく、99%以上にすることが一層好ましい。
フツリン酸ガラスIIIのガラス転移温度は、好ましくは500℃未満、より好ましくは480℃以下、さらに好ましくは460℃以下、一層好ましくは440℃以下である。このようにガラス転移温度が低いので、精密プレス成形に好適であるほか、ガラスの再加熱、軟化して成形する際の成形性にも優れている。ガラス転移温度が上記のように低いので成形時の加熱温度も比較的低く抑えることができる。そのため、ガラスとプレス成形型などの成形型との化学反応も起こりにくいため、清浄かつ平滑な表面を有するガラス成形体を成形することができる。また、成形型の劣化も抑制することができる。
フツリン酸ガラスIIIにおいて、アッべ数νdの好ましい範囲は88以上、より好ましい範囲は88〜98、さらに好ましい範囲は90〜97である。
屈折率ndの好ましい範囲は1.42〜1.47、より好ましい範囲は1.43〜1.46である。
フツリン酸ガラスIIIは、超低分散性を有しつつ、液相温度が700℃以下と優れたガラス安定性も備えているので、色収差補正に好適な光学素子材料として高品質のフツリン酸ガラスを提供することができる。
なお、フツリン酸ガラスI、II、IIIを含む本発明のフツリン酸ガラスは、いずれも、環境への負荷を軽減する上から、Pb、As、Cd、Th、Tl、Te、Cr、Se、Uを含まないことが好ましい。
フツリン酸ガラスAは、Lu、Sc、Hf、Geといった成分を含有させてもよいし、含有させなくてもよい。Lu、Sc、Hf、Geは高価な成分なので、これら成分を導入しないことが好ましい。
また、フツリン酸ガラスI、II、IIIを含むフツリン酸ガラスAは、低分散性、異常部分分散性などに加え、可視域において短波長から長波長にかけての広い範囲で光線透過率が高いという性質を有している。こうした性質を利用してレンズ、プリズムなどの各種光学素子を得るための材料として適しているが、このような用途においては可視域に吸収し、着色の原因となるイオン、例えば、Fe、Cu、Ni、Co、Cr、Mn、V、Nd、Ho、Erといった金属元素のイオンを含有しないことが望ましい。
さらに、フツリン酸ガラスI、II、IIIを含むフツリン酸ガラスAにおいて、ガラス中に含まれるアニオンは、基本的にFおよびO2−と、Cl、BrおよびIの中から選ばれる1種以上のハロゲン元素によって構成されるから、F、O2−、Cl、BrおよびIの合計量を98アニオン%以上とすることが好ましく、99アニオン%以上にすることがより好ましく、100アニオン%以上にすることがさらに好ましい。
[フツリン酸ガラスIV]
第4の例は、Cu含有フツリン酸ガラス(フツリン酸ガラスIVという。)である。フツリン酸ガラスにCu2+を添加することにより近赤外線吸収特性を示す近赤外線吸収ガラスとすることができる。Cu2+の添加量は外割りで0.5〜13カチオン%とすることが望ましい。Cu2+の添加量が過少だと十分な色感度補正機能が得られず、Cu2+の添加量が過剰だとガラスの熱的安定性が低下してガラスの生産性が低下する。Cu2+含有ガラスはCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色感度補正フィルター材料として好適である。Cu2+の添加量は、前記フィルターの厚さを考慮し、前記範囲内で適宜定めればよい。Cu2+含有ガラスの場合も、吸収特性を調整する場合を除き、Cu2+以外の可視域に吸収を有するイオンを添加しないことが望ましい。フツリン酸ガラスIVにおいて、特に好ましいガラスは、Cu2+を外割りで0.5〜13カチオン%含むCu2+含有ガラス(フツリン酸ガラスIV−1という。)である。フツリン酸ガラスIV−1としてより好ましいものは、カチオン%表示で、
5+ 5〜40%、
Al3+ 0〜20%、
Li、NaおよびKを合計で0〜30%、
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+を合計で5〜40%、
Cu2+ 0.5〜13%、
を含み、アニオン成分として含まれるFとO2−の合計含有量に対するFの含有量のモル比F/(F+O2−)が0.2〜0.7であるフツリン酸ガラスである。
以下、フツリン酸ガラスIVについて詳説するが、フツリン酸ガラスIVの説明においても、カチオン成分の含有量、合計含有量はカチオン%表示とし、アニオン成分の含有量、合計含有量はアニオン%表示とする。
5+はフツリン酸ガラスの基本成分であり、Cu2+の赤外域の吸収をもたらす重要な成分である。P5+の含有量が5%未満ではガラスの色が悪化して緑色を帯び、逆に40%を超えると耐候性、耐失透性が悪化する。したがって、P5+の含有量は5〜40%とすることが好ましく、10〜40%とすることがより好ましく、15〜35%とすることがさらに好ましい。
Al3+はフツリン酸ガラスの耐失透性と耐熱性、耐熱衝撃性、機械的強度、化学的耐久性を向上させる成分である。ただし、20%を越えると近赤外吸収特性が悪化する。したがって、Al3+の含有量を0〜20%とすることが好ましく、1〜20%とすることがより好ましく5〜20%とすることがさらに好ましく、5〜15%とすることがより一層好ましい。
Li、NaおよびKはガラスの熔融性、耐失透性を改善させ、可視光域の透過率を向上する成分であるが、合計量で30%を超えると、ガラスの耐久性、加工性が悪化する。したがって、Li、NaおよびKの合計含有量を0〜30%とすることが好ましく、0〜28%とすることがより好ましく、0〜25%とすることがさらに好ましい。
アルカリ成分の中でもLiは上記作用に優れており、Liの量を1〜30%とすることがより好ましく、10〜30%とすることがさらに好ましい。
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+はガラスの耐失透性、耐久性、加工性を向上させる有用な成分であるが、過剰導入により耐失透性が低下するので、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+の合計量を5〜40%にすることが好ましく、10〜40%にすることがより好ましい。
Mg2+含有量の好ましい範囲は0〜20%、より好ましい範囲は1〜15%である。
Ca2+含有量の好ましい範囲は0〜20%、より好ましい範囲は1〜20%である。
Sr2+含有量の好ましい範囲は0〜25%、より好ましい範囲は5〜25%である。
Ba2+含有量の好ましい範囲は0〜20%、より好ましい範囲は1〜20%、さらに好ましい範囲は5〜20%である。
Cu2+は近赤外光吸収特性の担い手である。その量が0.5%未満では近赤外線吸収が小さく、逆に13%を越えるとガラスの熱的安定性が低下し、耐失透性が悪化する。したがって、Cu2+の含有量は0.5〜13%が好ましく、0.5〜10%がより好ましく、1〜5%がさらに好ましく、1〜3%がより一層好ましい。
はガラスの熔融温度を下げ、Cu2+の還元を抑えるとともに、耐候性を向上させる重要なアニオン成分である。
2−は、2価のCu2+が1価のCuに還元されるのを抑制し、短波長域、特に400nm付近の光線透過率を高く保つ効果を有する。
とO2−の合計含有量(F+O2−)に対するFの含有量のモル比(F/(F+O2−))が0.2未満では、ガラスの耐候性が低下したり、熔融温度が上昇し、光線透過率が低下するといった傾向が現れる。モル比(F/(F+O2−))が0.7を超えると、Cu2+の還元がおきて波長400nm付近の光線透過率が低下し、ガラスが緑色を呈するといった傾向が現れる。
フツリン酸ガラスIVにおいても、ガラス中に含まれるアニオンは、基本的にFおよびO2−と、Cl、BrおよびIの中から選ばれる1種以上のハロゲン元素によって構成されるから、F、O2−、Cl、BrおよびIの合計量を98アニオン%以上とすることが好ましく、99アニオン%以上にすることがより好ましく、100アニオン%以上にすることがさらに好ましい。
フツリン酸ガラスIVにおいても、毒性のあるPb、Asを使用しないことが望ましい。
フツリン酸ガラスIVの好ましい透過率特性は以下のとおりである。
波長500〜700nmの分光透過率において透過率50%を示す波長が615nmである厚さに換算し、波長400〜1200nmの分光透過率が下記のような特性を示すものである。
波長400nmにおける透過率が78%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは83%以上、さらに好ましくは85%以上であり、波長500nmにおける透過率が85%以上、好ましくは88%以上、より好ましくは89%以上であり、波長600nmにおける透過率が51%以上、好ましくは55%以上、より好ましくは56%以上であり、波長700nmにおける透過率が12%以下、好ましくは11%以下、より好ましくは10%以下であり、波長800nmにおける透過率が5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.2%以下、より一層好ましくは2%以下であり、波長900nmにおける透過率が5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.2%以下、より一層好ましくは2%以下であり、波長1000nmにおける透過率が7%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは5.5%以下、さらに好ましくは5%以下、より一層好ましくは4.8%以下であり、波長1100nmにおける透過率が12%以下、好ましくは11%以下、より好ましくは10.5%以下、さらに好ましくは10%以下であり、波長1200nmにおける透過率が23%以下、好ましくは22%以下、より好ましくは21%以下、さらに好ましくは20%以下である。
即ち、波長700〜1200nmの近赤外線の吸収は大きく、波長400〜600nm
の可視光線の吸収は小さくする。ここで、透過率とは互いに平行かつ光学研磨した2つの平面を有するガラス試料を想定し、前記平面の一方に垂直に光を入射したとき、前記平面の他方から出射した光の強度を、前記入射光の試料入射前における強度で割った値であり、外部透過率とも呼ばれる。
このような特性によりCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色補正を良好に行うことができる。
[フツリン酸ガラスB]
次にフツリン酸ガラスBについて説明する。
核磁気共鳴スペクトルの測定は、外部磁場の方向と直交する軸のまわりにガラス試料を一定スピードで回転させながら行う。リン含有量が上記範囲にあって、揮発性も侵蝕性もともに抑制されていないフツリン酸ガラス、および、揮発性のみ抑制され、侵蝕性が抑制されていないフツリン酸ガラスでは、前述の異方性により、上記サイドバンドピークの強度が大きくなり、強度比I(1)/I(0)が大きくなる。
図3は強度比I(1)/I(0)の増減により、揮発性、侵蝕性が変化する様子を表している。図3の横軸は強度比I(1)/I(0)であり、左側の縦軸は屈折率変化量Δnd、右側の縦軸はガラス中に含まれる粒径10μm以上の金属粒子の数密度である。屈折率変化量Δndは、原料を1時間熔解して得られた200gのサンプルの屈折率nd(nd(1h)という)と原料を3時間熔解して得られた200gのサンプルの屈折率nd(nd(3h)という)の差の絶対値であり、Δndが大きいほど揮発性が高い。また金属粒子の数密度が大きいほど侵蝕性が高い。図3から、強度比I(1)/I(0)が0.08以下になるとΔndが急激に減少して揮発性が抑制されるとともに、金属粒子の数密度も急激に減少して侵蝕性も抑制されることがわかる。したがって、揮発性、侵蝕性を抑制する上から強度比I(1)/I(0)を0.08以下とする。揮発性、侵蝕性を一層抑制する上から強度比I(1)/I(0)を0.06以下にすることが好ましい。強度比I(1)/I(0)を0.08以下にするには、前述の理由からP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+を3.5以上に制御すればよい。
なお、図4は後述する実施例2のフツリン酸ガラスNo.2−1(表2−1参照)の31Pの核磁気共鳴スペクトル、図5は比較フツリン酸ガラスNo.2−1(表2−2参照)の31Pの核磁気共鳴スペクトルである。
図4、図5において、横軸は化学シフト(ppm単位)、縦軸が信号強度(任意単位)である。中央の最も高いピークが31Pの共鳴ピーク(メインピーク)であり、*で示すピークがスピニングサイドバンドである。メインピークに近いスピニングサイドバンドが一次のピークである。一次のスピニングサイドバンドは2つあるが、それらのピークの高さは等しいので、強度I(1)を求める際、どちらのピークを用いてもよい。
このように、揮発性、侵蝕性の有無により、強度比I(1)/I(0)が異なる。
フツリン酸ガラスにおいて、P5+はガラス中でネットワークフォーマーとして働く重要な必須成分である。ガラスの安定性を確保しつつ、上記核磁気共鳴特性により揮発性抑制、侵蝕性抑制効果を得る上からP5+の含有量を3%超とする。一方、30%を超えるとモル比O2−/P5+を3.5以上するために、フッ素の導入量を抑制する必要が生じ、必要な低分散性が得られなくなる。したがって、P5+の含有量は3%を超え30%の範囲とする。
フツリン酸ガラスとして好ましいものは、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上であるフツリン酸ガラスであり、モル比O2−/P5+を3.5以上になるようにガラス組成を制御して上記強度比I(1)/I(0)を実現する。
モル比O2−/P5+を3.5以上の範囲で大きくすることは揮発性、侵蝕性を抑制する上から好ましいが、Fの含有量が多くなると、同じアニオン成分であるO2−の含有量が制限されることになる。その結果、Fの含有量が大きいガラスにおいてモル比O2−/P5+を大きくし過ぎると、P5+の含有量が必要量に達しなくなるおそれが生じる。したがって、Fの含有量が65アニオン%以上のガラスでは、モル比O2−/P5+が3.5以上であれば、前記モル比を過剰に大きくしないほうがよい。
上記ガラスによれば、揮発性だけでなく侵蝕性も十分抑制されるので、ガラス製造時に使用する坩堝、パイプ、撹拌棒などを構成する白金などの侵蝕が防止され、ガラス中に白金異物などが混入するのを防ぐことができる。
フツリン酸ガラスBとして好ましいものは、カチオン成分として、
5+ 3%を超え30%以下、
Al3+ 5〜40%、
Mg2+ 0〜10%、
Ca2+ 0〜40%、
Sr2+ 0〜30%、
Ba2+ 0〜30%、
(ただし、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の合計含有量が10%以上)
Li 0〜20%、
Na 0〜10%、
0〜10%、
3+ 0〜10%、
La3+ 0〜10%、
Gd3+ 0〜20%、
Yb3+ 0〜10%、
3+ 0〜5%、
Zn2+ 0〜20%、
In3+ 0〜5%
を含有し、アニオン成分として、
50〜98%、
2− 2〜50%
を含有するものである。
以下、特記しない限り、各カチオン成分の含有量、合計含有量はカチオン%表示とし、各アニオン成分の含有量、合計含有量はアニオン%表示とする。
5+はガラス中でネットワークフォーマーとして働く重要な必須成分である。ガラスの安定性を確保しつつ、前記核磁気共鳴特性により揮発性抑制、侵蝕性抑制効果を得る上からP5+の含有量を3%超とする。一方、30%を超えるとモル比O2−/P5+を3.5以上するために、フッ素の導入量を抑制する必要が生じ、必要な低分散性が得られなくなる。したがって、P5+の含有量は3%を超え30%の範囲にする。P5+の含有量の好ましい範囲は5〜25%である。
Al3+はフツリン酸ガラスにおいて安定性を高めるための重要成分であり、5%未満ではガラスが不安定になりやすい。一方、40%を超えると他成分の合計量が少なくなりすぎるために逆に不安定になる。したがって、Al3+の含有量は5〜40%の範囲にすることが好ましい。
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+のようなアルカリ土類金属はガラスの安定性を高め、屈折率を上昇させる成分であり、その合計量を10%以上にすることで安定性に対する効果が高くなる。しかし、特定のアルカリ土類金属成分があまりに多くなると他の成分とのバランスが崩れるため、満遍なく導入することが好ましく、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の少なくとも2種以上を導入することが好ましい。具体的にはMg2+は0〜10%、Ca2+は0〜40%、Sr2+は0〜30%、Ba2+は0〜30%とすることが好ましい。
Li、Na、Kのようなアルカリ金属はガラスの粘性、ガラス転移温度を低下させ、ガラスの製造を容易にすることができる成分であるが、過剰の導入は安定性を低下させる。そこでLiの量を0〜20%、Naの量を0〜10%、Kの量を0〜10%とすることが好ましい。アルカリ金属の中でもLiは安定性を高める効果も大きいため、Liを0.5%以上導入することがより好ましく、1%以上導入することがさらに好ましく、5%以上導入することが特に好ましい。
3+、La3+、Gd3+、Yb3+などの希土類元素はガラスの低分散性を保ちつつ屈折率を高める成分であるが、過剰な導入は熔解温度を上昇させガラスの安定性も低下させてしまう。そのため、上記各成分の量をそれぞれ0〜10%とすることが好ましい。
3+はガラスの耐久性を向上させる成分であるが、熔解中にフッ化物として揮発する傾向があるため、生産性を低下させる成分でもある。そのため導入量は0〜5%にすることが好ましく、0〜3%にすることがより好ましく、導入しないことがさらに好ましい。
Zn2+、In3+はアルカリ土類金属と同様に容易にガラス中に導入できる特性を持ち、Zn2+やIn3+を導入して多成分にすることによる安定性の向上効果が期待できるが、過剰の導入は好ましくない。このため、Zn2+およびIn3+の導入量は、それぞれ0〜20%、0〜5%とすることが好ましく、それぞれ0〜15%、0〜3%とすることがより好ましく、Zn2+は0〜10%とすることがさらに好ましく、In3+は導入しないことが特に好ましい。
なお、上記フツリン酸ガラスは、低分散性、異常部分分散性などに加え、可視域において短波長から長波長にかけての広い範囲で光線透過率が高いという性質を有している。このような性質を利用してレンズ、プリズムなどの各種光学素子を得るための材料として適しているが、このような用途においては可視域に吸収を有するイオン、例えば、Fe、Cu、Ni、Co、Cr、Mn、V、Nd、Ho、Erといった金属元素のイオンを添加しないことが望ましい。
一方、Cu2+を添加することにより近赤外線吸収特性を付与することができるため、近赤外線吸収ガラスを作る場合は、外割りでCu2+を0.5〜13%添加することが望ましい。Cu2+含有ガラスはCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色補正フィルター材料として好適である。Cu2+の添加量は、前記フィルターの厚さを考慮し、前記範囲内で適宜定めればよい。Cu2+含有ガラスの場合も、吸収特性を調整する場合を除き、Cu2+以外の可視域に吸収を有するイオンを添加しないことが望ましい。
次にアニオン成分、アニオン添加物について説明する。上記フツリン酸ガラスの主要アニオン成分はFとO2−である。所要の低分散特性と優れたガラス安定性を実現する上から、Fを50〜98%、O2−を2〜50%導入することが好ましく、Fを55〜95%、O2−を5〜45%導入することがより好ましい。
また、Cl、Br、Iは、少量導入することで、ガラスの製造時または流出時に使用する白金容器や白金製ノズル等の白金製品に、フツリン酸ガラスが濡れにくくなるために、ガラスの製造を容易に行うことが可能になる。Cl、Br、Iの過剰の導入は、成分揮発による屈折率変動と白金異物の発生を招くため、導入量は合計で0〜5%とすることが好ましい。Cl、BrおよびIの合計量の上限としては、4%がより好ましく、3%がさらに好ましい。一方、Cl、BrおよびIの合計量の下限としては、0.01%がより好ましく、0.05%がさらに好ましく、0.1%が一層好ましい。
なお、発明の目的を達成する上から、F、O2−、Cl、BrおよびIの合計量を98アニオン%以上とすることが望ましく、99アニオン%以上とすることがより望ましく、100アニオン%とすることがさらに望ましい。
フツリン酸ガラスBにおけるアッベ数νdの好ましい範囲は75〜97、より好ましい範囲は80〜93である。
また、上記フツリン酸ガラスにおける屈折率ndの好ましい範囲は1.43〜1.52、より好ましい範囲は1.45〜1.51である。
光学的に均質なガラスを熔融するには、熔融ガラスを均質化して流出する過程でガラスを蓄積する容器やガラスを導くパイプをガラス中に溶け出しにくい耐熱性材料、例えば白金や白金合金などの金属または合金で構成する。
これら金属系の材料は上記性質を有するものの、前述のように熔融ガラスの温度低下に伴い、ガラス中に金属粒子として析出しやすい。特にフツリン酸ガラスは、金属イオンを溶解しにくく、こうした問題が顕著である。
上記フツリン酸ガラスによれば、耐熱性金属系材料を侵蝕しにくいので、ガラス中に混入するこれら金属の量も大幅に抑制することができ、異物が極めて少ないフツリン酸ガラスからなるプリフォームによって構成されるプリフォームロットを得ることができる。
こうして得られるフツリン酸ガラスでは、内部に含まれる粒径が10μm以上の異物、例えば白金粒子または白金を含む粒子の数密度が5個/cm未満となる。前述の粒子は光線、例えば可視光を散乱する異物となり、光学素子の性能を低下させる。このように、光散乱源となる異物が大幅に低減もしくは存在しないので、高品質な光学ガラスを提供することができる。ガラス内部に含まれる粒径が10μm以上の異物の好ましい数密度は5個/cm未満、より好ましくは2個/cm未満である。
上記フツリン酸ガラスも異常分散性を有する光学ガラスであり、高次の色補正用光学素子の材料としても好適である。
フツリン酸ガラスBとしては、ガラス原料中のP5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量のモル比O2−/P5+が3.51以上であることが好ましく、3.55以上であることがさらに好ましく、3.6以上であることが一層好ましい。
[フツリン酸ガラスC]
前述のように、核磁気共鳴法ではガラス試料を外部磁場の方向と直交する軸のまわりに回転して測定を行う。核磁気共鳴スペクトルは化学シフトを横軸、核磁気共鳴信号の強度を縦軸としたグラフとして描かれる。異方性の大小により、得られたスペクトル形状の対称性が変化する。揮発性、侵蝕性がともに抑制されたガラスでは、上記スペクトルの形状がガウス関数形状になるのに対し、揮発性、侵蝕性がともに抑制されていないガラス、あるいは揮発性は抑制されているが侵蝕性が抑制されていないガラスでは、上記スペクトルの形状はガウス関数形状とはならず、スペクトルのピークに対して非対称形状となる。したがって、揮発性および侵蝕性がより一層抑制されたフツリン酸ガラスを得るには、31Pの核磁気共鳴スペクトルの形状がガウス関数形状になるようにすればよい。
ここで、31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴スペクトルとは、31Pの核スピンに由来する共鳴スペクトルのことであり、以下、単に共鳴スペクトルという。
つまり、前記共鳴スペクトルは複数のガウス関数の合成形となる。例えば共鳴スペクトルの形状をピークの位置が異なる2以上のガウス関数に分解できる場合、共鳴スペクトルに肩(ショルダー)が現れたり、ピークが複数に分裂する。一方、ガラス構造の異方性が低減されて、ガラスの揮発性、侵蝕性がともに抑制されたガラスでは共鳴スペクトルの形状は、単一のガウス関数形状となる。
図6は、モル比O2−/P5+の変化に対する屈折率変化量Δndの変化、および金属粒子の数密度の変化を示したものである。図6の横軸がモル比O2−/P5+、左側の縦軸が屈折率変化量Δnd、右側の縦軸がガラス中に含まれる粒径10μm以上の金属粒子の数密度である。屈折率変化量Δndは、原料を1時間熔解して得られた200gのサンプルの屈折率nd(nd(1h)という)と原料を3時間熔解して得られた200gのサンプルの屈折率nd(nd(3h)という)の差の絶対値であり、Δndが大きいほど揮発性が高い。また金属粒子の数密度が大きいほど侵蝕性が高い。
モル比O2−/P5+が3.5以上になると揮発性が抑制されて屈折率変化量Δndが減少するとともに、侵蝕性も抑制されて金属粒子の数密度も減少する。
そして、モル比O2−/P5+が3.5以上の範囲で、共鳴スペクトルの形状が単一のガウス関数形になるのに対し、モル比O2−/P5+が3.5未満の範囲では、共鳴スペクトルの形状が非ガウス関数形となる。したがって、共鳴スペクトルの形状がガウス関数形のフツリン酸ガラスによって、揮発性および侵蝕性の抑制を達成することができる。
図7は、揮発性および侵蝕性が抑制された後述する実施例3のフツリン酸ガラスNo.3−3(モル比O2−/P5+が3.5表3参照)の共鳴スペクトルを示したもの、図8は、図7の共鳴スペクトルをガウス関数でフィッティングしたものである。
また、図9は、揮発性および侵蝕性を示す後述する比較フツリン酸ガラスNo.3−1(モル比O2−/P5+が3.0表3参照)の共鳴スペクトルを示したもの、図10は、図9の共鳴スペクトルをガウス関数でフィッティングしたものである。
図8より明らかなように、揮発性および侵蝕性がともに抑制されたフツリン酸ガラスの共鳴スペクトルの形状は単一のガウス関数で表される。一方、図10より明らかなように、揮発性および侵蝕性を示すフツリン酸ガラスの共鳴スペクトルの形状はピークの位置が異なる2つのガウス関数の合成によって表され、単一のガウス関数により表すことができない。
なお、図7〜図10において、共鳴ピークの両側にそれぞれ2つのピークが認められるが、これらのピークはスピニングサイドバンドと呼ばれるもので、共鳴スペクトルの形状に直接影響しない。
こうした揮発性、侵蝕性と核磁気共鳴スペクトルの対応関係は、P5+の含有量が30〜50カチオン%のフツリン酸ガラスに当てはまる。
なお、共鳴スペクトル形状をガウス関数形状にするには、前述の理由から、ガラス製造にあたり、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+を3.5以上に制御すればよい。
揮発性、侵蝕性をともに一層抑制する上からモル比O2−/P5+を3.51以上にすることがより好ましく、3.54以上にすることがさらに好ましく、3.55以上にすることが一層好ましい。
フツリン酸ガラスCにおいて、ガラス組成上、好ましいものは、カチオン%表示で
5+ 30〜50%、
Al3+ 1〜30%、
Mg2+ 0〜15%、
Ca2+ 0〜15%、
Sr2+ 0〜15%、
Ba2+ 0〜40%、
(ただし、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の合計含有量が20%以上)
Li 0〜30%、
Na 0〜10%、
0〜10%、
3+ 0〜5%、
La3+ 0〜5%、
Gd3+ 0〜5%、
Yb3+ 0〜5%、
3+ 0〜5%、
Zn2+ 0〜15%、
In3+ 0〜5%、
を含有し、アニオン成分として、
20〜50%、
2− 50〜80%
を含有するフツリン酸ガラスである。
次に、各成分の働きと上記組成範囲の好ましい理由を説明するが、以下、カチオン成分の含有量、合計含有量は特記しない限り、カチオン%表示とし、アニオン成分の含有量、合計含有量は特記しない限り、アニオン成分表示とする。
5+はガラス中でネットワークフォーマーとして働く重要な必須成分である。ガラスの安定性を確保する上からP5+の含有量を30%以上とする。一方、上記核磁気共鳴特性により揮発性抑制、侵蝕性抑制効果を得る上からP5+の含有量を50%以下とする。P5+の含有量を50%以下とすることは、モル比O2−/P5+を3.5以上にする上からも好都合である。P5+の量を50%以下とすると、モル比O2−/P5+を3.5以上に維持しつつ、O2−の量を少なくすることもできる。このことは、Fの増量が可能になることを意味し、Fの増量に伴い、分散を一層低くすることができることを意味する。このような観点から、P5+の含有量は30〜50%とする。P5+の含有量の好ましい範囲は30〜45%、より好ましい範囲は30〜40%である。
Al3+はフツリン酸ガラスにおいて安定性を高めるための重要成分であり、1%未満ではガラスが不安定になりやすい。一方、30%を超えると他成分の合計量が少なくなりすぎるために逆に不安定になる。したがって、Al3+の含有量は1〜30%の範囲にすることが好ましい。
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+のようなアルカリ土類金属はガラスの安定性を高め、屈折率を上昇させる成分であり、その合計量を20%以上にすることで安定性に対する効果が高くなる。しかし、特定のアルカリ土類金属成分があまりに多くなると他の成分とのバランスが崩れるため、満遍なく導入することが好ましく、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の少なくとも2種以上を導入することが好ましい。具体的にはMg2+を0〜15%、Ca2+を0〜15%、Sr2+を0〜15%、Ba2+を0〜40%含有させることが好ましく、Mg2+を1〜10%、Ca2+を1〜10%、Sr2+を1〜10%、Ba2+を10〜40%含有させることがより好ましい。
Li、Na、Kのようなアルカリ金属はガラスの粘性、ガラス転移温度を低下させ、ガラスの製造を容易にすることができる成分であるが、過剰の導入は安定性を低下させる。そこでLiの量を0〜30%、Naの量を0〜10%、Kの量を0〜10%とすることが好ましい。アルカリ金属の中でもLiは安定性を高める効果も大きいため、Liを5%以上導入することがより好ましく、10%以上導入することがさらに好ましく、15%以上導入することが特に好ましい。
3+、La3+、Gd3+、Yb3+などの希土類元素はガラスの低分散性を保ちつつ屈折率を高める成分であるが、過剰な導入は熔解温度を上昇させガラスの安定性も低下させてしまう。そのため、上記各成分の量をそれぞれ0〜5%とすることが好ましい。La3+、Gd3+、Yb3+はそれぞれ0〜1%とすることがさらに好ましく、含有しないことが特に好ましい。
3+はガラスの耐久性を向上させる成分であるが、熔解中にフッ化物として揮発する傾向があるため、生産性を低下させる成分でもある。そのため導入量は0〜5%にすることが好ましく、0〜2%にすることがより好ましく、導入しないことがさらに好ましい。
Zn2+、In3+はアルカリ土類金属と同様に容易にガラス中に導入できる特性を持ち、Zn2+やIn3+を導入して多成分にすることによる安定性の向上効果が期待できるが、過剰の導入は好ましくない。このため、Zn2+およびIn3+の導入量は、それぞれ0〜15%、0〜5%とすることが好ましく、それぞれ0〜10%、0〜3%とすることがより好ましく、Zn2+は0〜8%とすることがさらに好ましく、In3+は導入しないことが特に好ましい。
なお、フツリン酸ガラスIは、低分散性、異常部分分散性などに加え、可視域において短波長から長波長にかけての広い範囲で光線透過率が高いという性質を有している。このような性質を利用してレンズ、プリズムなどの各種光学素子を得るための材料として適しているが、このような用途においては可視域に吸収を有するイオン、例えば、Fe、Cu、Ni、Co、Cr、Mn、V、Nd、Ho、Erといった金属元素のイオンを添加しないことが望ましい。
一方、Cu2+を添加することにより近赤外線吸収特性を付与することができるため、近赤外線吸収ガラスを作る場合は、外割りでCu2+を0.5〜13%添加することが望ましい。Cu2+含有ガラスはCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色補正フィルター材料として好適である。Cu2+の添加量は、前記フィルターの厚さを考慮し、前記範囲内で適宜定めればよい。Cu2+含有ガラスの場合も、吸収特性を調整する場合を除き、Cu2+以外の可視域に吸収を有するイオンを添加しないことが望ましい。
次にアニオン成分、アニオン添加物について説明する。本発明のフツリン酸ガラスの主要アニオン成分はFとO2−である。所要の低分散特性と優れたガラス安定性を実現する上から、Fを20〜50%、O2−を50〜80%導入することが好ましく、Fを20〜40%、O2−を60〜80%導入することがより好ましい。
また、Cl、Br、Iは、少量導入することで、ガラスの製造時または流出時に使用する白金容器や白金製ノズル等の白金製品に、フツリン酸ガラスが濡れにくくなるために、ガラスの製造を容易に行うことが可能になる。Cl、Br、Iの過剰の導入は、成分揮発による屈折率変動と白金異物の発生を招くため、導入量は合計で0〜5%とすることが好ましい。Cl、BrおよびIの合計量の好ましい上限および下限は、プリフォームロット2において説明した上限および下限と同様である。
なお、発明の目的を達成する上から、F、O2−、Cl、BrおよびIの合計量を98アニオン%以上とすることが望ましく、99アニオン%以上とすることがより望ましく、100アニオン%とすることがさらに望ましい。
フツリン酸ガラスCにおけるアッベ数νdの好ましい範囲は68〜75、より好ましい範囲は68〜73である。
また、上記フツリン酸ガラスにおける屈折率ndの好ましい範囲は1.52〜1.61、より好ましい範囲は1.54〜1.61である。
[ガラス成形体の製造方法]
本発明のガラス成形体の製造方法について説明する。
本発明のガラス成形体の製造方法は、ガラス原料を熔融容器内に導入して熔融し、清澄、均質化して、熔融ガラスを得、前記熔融ガラスを流出、成形して上記本発明のフツリン酸ガラスからなるガラス成形体を作製するガラス成形体の製造方法である。
本発明によれば、ガラス中のP5+の含有量とO2−の含有量をモル比(O2−/P5+)が3.5以上になるように制御しているので、ガラスの揮発性、侵蝕性を抑制することができ、ガラス成形体の屈折率変動とガラスへの異物混入を抑制することができる。
また、前述のようにハロゲン元素を導入することにより、流出時のガラスの濡れ上がりを抑制することができ、ガラスの揮発性が抑制されていることとあいまって、脈理の発生を抑制することができ、高品質のガラス成形体を安定性して生産することができる。
[ガラス原料の調合および熔融]
ガラス原料の調合にあたり、ガラス原料中のリン原子の量Pに対する酸素原子の量Oのモル比O/Pが3.5以上となるようにガラス原料を調合し、熔融容器内に導入して熔融して熔融ガラスを調製する。
なお、上記酸素の含有量は、ガラスに導入される酸素の量であり、ガラス熔融中にCOxガス、NOxガス、酸素ガス、水蒸気等として熔融物外へ出て行く酸素の量を含まない。
例えば、ガラス原料として、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物などを使用する場合、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物はガラス原料の加熱によって分解し、上記ガスを生成し、これらガスがガラス熔融物外へ出て行くため、前記ガス中に含まれる酸素はガラス化反応に寄与しない。また、ガラス原料中に結合水が存在する場合、ガラス原料の加熱によって結合水が脱離し、水蒸気となってガラス熔融物外へ出て行くため、水蒸気中の酸素もガラス化反応に寄与しない。したがって、上記ガスとなってガラス熔融物外へ出て行く酸素は、上記酸素の含有量から除外する。
炭酸塩、硝酸塩、水酸化物を使用する場合、これら化合物に含まれるガラス成分となるカチオンと酸素からなる酸化物を考え、前記酸化物として上記化合物に含まれる酸素の量をガラスに導入される酸素の量と考えればよい。
ここでガラス原料とは複数種の化合物を調合、混合した原料、所謂、未ガラス化原料あるいはバッチ原料と呼ばれる原料や、ガラス化原料あるいはカレット原料と呼ばれる原料などを含む。調合では、光学特性などが所望の値になるように、かつ、ガラス原料に含まれる酸素原子およびリン原子の全量をOおよびPとし、モル比O/Pが3.5以上になるようにガラス原料の調合を行い、調合ガラス原料を熔融する。このようにすれば、ガラス中のP5+含有量に対するO2−含有量のモル比O2−/P5+を3.5以上に制御することができる。
なお、本発明によれば、熔融ガラスの揮発性が抑制されるので、上記モル比O2−/P5+とモル比O/Pとが等しくなる。
メタリン酸原料とフッ化物原料のみを用いて原料調合すると、ガラス原料に含まれる酸素、リンの全量をP5+量およびO2−量に換算し、P5+の量に対するO2−の量のモル比O2−/P5+は3となり、酸素量の不足により3.5に達しない。したがって、リンとは独立して酸素をガラスに導入できるよう、酸化物や硝酸塩などを併用することが望まれる。また、リン酸原料として一般的に使用するメタリン酸塩の一部または全部をピロリン酸塩に替えてもよい。ピロリン酸塩を使用する場合も酸化物や硝酸塩などを併用することが望まれる。
調合後、ガラス原料を熔融する容器には、耐熱性、耐蝕性の優れた白金もしくは白金合金製のルツボや金もしくは金合金製のルツボを使用することが望ましい。ルツボ内に導入したガラス原料を加熱、熔融し、さらに温度を上げて清澄を行った後、ガラスの温度を降下して攪拌、均質化した後、熔融ガラスを流出パイプから流出して成形する。
流出パイプも耐熱性、耐蝕性の優れた白金もしくは白金合金製、あるいは金もしくは金合金製とすることが好ましい。
[浮上成形]
本発明のガラス成形体の製造方法の好ましい第1の態様(ガラス成形体の製法Iという。)は、流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記熔融ガラス塊を該ガラス塊が冷却、固化する過程で、プレス成形用ガラス素材に成形する方法である。
プレス成形用ガラス素材として、小型の精密プレス成形用プリフォームや球状の精密プレス成形用プリフォームを成形する場合は、流出パイプとして流出ノズルを用い、このノズルから所望質量の熔融ガラス滴を次々に滴下し、これらの熔融ガラス滴を複数のプリフォーム成形型を用いて次々に受け、プリフォームに成形する。
あるいは、同じく所望質量の熔融ガラス滴を流出ノズルより液体窒素、エタノール、水などに滴下してプリフォームに成形する。
中大型の精密プレス成形用プリフォームを作製する場合は、流出パイプより熔融ガラス流を流下させ、熔融ガラス流の先端部をプリフォーム成形型などの支持体で受け、熔融ガラス流のノズルと支持体の間にくびれ部を形成した後、支持体を急降下して(好ましくは真下に急降下して)、熔融ガラスの表面張力によってくびれ部にて熔融ガラス流を分離し、所望質量の熔融ガラス塊をプリフォーム成形型に受けてプリフォームに成形する。
流出パイプの温度を一定に制御し、単位時間あたりの熔融ガラス流出量を一定にする。そして、熔融ガラスの滴下時間間隔を一定にすれば、一定質量の熔融ガラス滴が得られ、これらガラス滴を成形することにより一定質量のプリフォームからなるプリフォームロットを得ることができる。
また、上記のように単位時間あたりの熔融ガラス流出量を一定とし、熔融ガラス流の先端部を受ける際のノズルまたはパイプのガラス流出口と支持体の距離を一定とし、熔融ガラス流の先端部を支持体で受けてから支持体を急降下するタイミングを一定にして一定質量の熔融ガラス塊を得、これら熔融ガラス塊を成形して一定質量のプリフォームを得ることができる。
キズ、汚れ、シワ、表面の変質などがない滑らかな表面、例えば自由表面を有するプリフォームを製造するためには、プリフォーム成形型などの上で熔融ガラス塊に風圧を加えて浮上させながらプリフォームに成形したり、液体窒素などの常温、常圧下では気体の物質を冷却して液体にした媒体中に熔融ガラス滴を入れてプリフォームに成形する方法などが用いられる。
熔融ガラス塊を浮上させながらプリフォームに成形する場合、熔融ガラス塊にはガス(浮上ガスという)が吹きつけられ上向きの風圧が加えられることになる。この際、熔融ガラス塊の粘度が低すぎると浮上ガスがガラス中に入り込み、プリフォーム中に泡となって残ってしまう。しかし、熔融ガラス塊の粘度を3〜60dPa・sにすることにより、浮上ガスがガラス中に入り込むことなく、ガラス塊を浮上させることができる。
プリフォームに浮上ガスが吹き付けられる際に用いられるガスとしては、空気、Nガス、Oガス、Arガス、Heガス、水蒸気等が挙げられる。また、風圧は、プリフォームが成形型表面等の固体と接することなく浮上できれば特に制限はない。
また、プリフォーム成形型上にあるガラス塊をプレスして所望の形状の精密プレス成形用プリフォームに成形してもよい。
以上、ガラス素材が精密プレス成形用プリフォームの場合について説明したが、同様に中実状のガラス塊を成形し、プレス成形後に研削、研磨加工して光学素子を作製する際に使用するプレス成形用ガラス素材を作製してもよい。
[ダイレクトプレス]
第2の態様(ガラス成形体の製法IIという。)は、流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、該熔融ガラス塊をプレス成形して光学素子ブランクを作製する方法である。
この方法はダイレクトプレス法と呼ばれ、流出パイプから流出する熔融ガラスをプレス成形型を構成する下型の成形面の中央で受け、前記成形面上に所定量の熔融ガラス塊が得られるように熔融ガラス流をシアと呼ぶ切断刃で切断する。
こうして得た熔融ガラス塊を下型ごと流出パイプの下方位置からプレス成形型を構成する上型が上方で待機するプレス位置に移動し、上型を下降してガラス塊をプレス成形し、目的とする光学素子ブランクを得る。
成形した光学素子ブランクを上型成形面から離型し、前記ブランクを変形しない温度にまで冷却してから下型成形面上から取り出し、アニールする。
このようにして最終製品である光学素子の形状に近似し、光学素子の形状に研削、研磨しろを加えた形状を有する光学素子ブランクを作製する。
[キャスト]
第3の態様(ガラス成形体の製法IIIという。)は、熔融ガラスを連続的に流出して鋳型に鋳込みガラス成形体を成形しながら、前記鋳型からガラス成形体を取り出す方法である。
この方法は、流出パイプの下方に鋳型を配置し、流出パイプから流出した熔融ガラスを連続的に鋳型に流し込む。鋳型は、目的とするガラス成形体の形状、寸法に応じて適宜、選択すればよい。
例えば、板状のガラス成形体を成形する場合、平面からなる底面と底面上の空間を側方から囲む側壁を備え、前記側方の一方向が開口している鋳型を用いる。そして、熔融ガラスを鋳型底面上に流し込んで鋳型内に広げ、ガラスを鋳型側方の開口部に向けて水平方向に移動させながら冷却、板状に成形する。成形したガラスを連続的に鋳型開口部から水平方向に引き出し、トンネル型の連続式アニール炉内を通過させてアニールする。アニール炉内を通過した長尺のガラス板を移動方向に対して垂直に切断し、ガラス板を切り取る。
丸棒、各棒などの棒状のガラス成形体を成形する場合は、長手方向に垂直な棒の断面形状に等しい形状の孔を貫通させた鋳型を、貫通孔が鉛直かつ流出パイプの真下に配置し、貫通孔に熔融ガラスを流し込み、貫通孔に沿って移動させながら成形、冷却し、貫通孔の下側開口部から固化したガラス棒を連続的に取り出し、鋳型の下に設けた均熱炉内を通過させてガラス棒の内部と表面の温度分布を小さくし、切断して所要長さのガラス棒を切り離して、棒状のガラス成形体を得る。
[プレス成形用ガラス素材]
本発明のプレス成形用ガラス素材は、上記本発明のフツリン酸ガラスからなるプレス成形用ガラス素材である。
本発明によれば、高品質のプレス成形品を得ることができる。
プレス成形用ガラス素材の一例としては、精密プレス成形用プリフォームがある。精密プレス成形用プリフォームは、単にプリフォームとも呼ばれ、精密プレス成形に供される精密プレス成形品の質量に相当するガラス予備成形体を意味するが、ここで精密プレス成形とは、周知のようにモールドオプティクス成形とも呼ばれ、光学素子の光学機能面をプレス成形型の成形面を転写することにより形成する方法である。なお、光学機能面とは光学素子において、制御対象の光を屈折したり、反射したり、回折したり、入出射させる面を意味し、レンズにおけるレンズ面などがこの光学機能面に相当する。
精密プレス成形時にガラスとプレス成形型成形面との反応、融着を防止しつつ、成形面に沿ってガラスの延びが良好になるようにするため、プリフォームの表面に炭素含有膜を被覆することが好ましい。炭素含有膜としては、炭素を主成分とするもの(膜中の元素含有量を原子%で表したとき、炭素の含有量が他の元素の含有量よりも多い)が望ましい。具体的には、炭素膜や炭化水素膜などを例示することができる。炭素含有膜の成膜法としては、炭素原料を使用した真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の公知の方法や、炭化水素などの材料ガスを使用した熱分解などの公知の方法を用いればよい。
プリフォームは、ガラス成形体の製法Iによって作製してもよし、ガラス成形体の製法IIIに板状のガラス成形体や棒状のガラス成形体を作製し、さらにガラス成形体を切断してガラス片を作り、ガラス片を研削、研磨してプリフォームに仕上げてもよい。
プレス成形用ガラス素材の他の例としては、ガラス片をバレル研磨して得られるガラスゴブがある。ガラスゴブは、プレス成形後に研削、研磨を行って最終製品を作るためのガラス素材である。ガラスゴブは、ガラス成形体の製法IIIに板状のガラス成形体や棒状のガラス成形体を作製し、さらにガラス成形体を切断して得たガラス片をバレル研磨して得ることができる。
[光学素子ブランクとその製造方法]
本発明の光学素子ブランクは、上記本発明のフツリン酸ガラスからなる光学素子ブランクである。光学素子ブランクは、目的とする光学素子の形状に研削、研磨しろを加えた、光学素子の形状に近似する形状を有するガラス成形体である。
本発明の光学素子ブランクによれば、脈理、異物を含まない高品質の光学素子を生産することができる。
光学素子ブランクは、ガラス成形体の製法IIにより作製することもできるし、上記ガラスゴブを加熱、軟化してプレス成形型内に導入し、プレス成形して得ることもできる。ガラス成形体の製法IIでは、下型成形面に窒化ホウ素などの粉末状離型剤を塗布してから熔融ガラスを供給すると、熔融ガラスが下型成形面に焼きつきにくくなるとともに、プレス成形時にプレス成形型内でガラスが広がりやすくなる。また、ガラスゴブを加熱、軟化する前に窒化ホウ素などの粉末状離型剤を均一に塗布することにより、プレス成形後に光学素子ブランクの離型をスムースに行うことができる。
いずれの場合もプレス成形型の成形面の形状は、光学素子ブランクの形状を反転した形状にしておく。
[光学素子とその製造方法]
本発明の光学素子は、上記本発明のフツリン酸ガラスからなる光学素子である。
本発明の光学素子の種類は、特に限定されない。光学素子の例としては、非球面レンズ、球面レンズ、マイクロレンズ、レンズアレイ、プリズム、回折格子、レンズ付きプリズム、回折格子付きレンズなどを挙げることができる。非球面レンズ、球面レンズの具体例としては、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどを挙げることができる。銅を添加し近赤外線吸収特性を付与したガラス、例えばフツリン酸ガラスIVを用いたCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色感度補正用フィルターを例示することもできる。
また、用途の面からは、撮像光学系を構成する光学素子、投射光学系を構成する光学素子、光通信用素子、光ピックアップレンズやコリメータレンズのようにDVDやCDなどの光記録式情報記録媒体からデータを読み取ったり、書き込むためのレンズなどを挙げることができる。
撮像光学系を構成する光学素子としては、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、旧来のフィルムを使用するカメラ、監視カメラ、車載カメラなどの各種カメラに搭載されるレンズやプリズム、カメラ付き携帯電話のカメラレンズ、望遠レンズの前玉レンズなどを例示することができる。
投射光学系を構成する光学素子としては、液晶プロジェクタやリアプロジェクタの光学系を構成するレンズやプリズムなどを例示することができる。
本発明の光学素子は異常分散性を有するガラスにより作られているので、高次の色補正用として好適である。
光学素子の光学機能面には、必要に応じて反射防止膜などの光線反射率を制御するための光学薄膜を形成してもよい。
次に本発明の光学素子の製造方法について説明する。
本発明の光学素子の製造方法の第1の態様(光学素子の製法Iという。)は、上記本発明の方法でプレス成形用ガラス素材を作製し、前記ガラス素材を加熱、精密プレス成形する光学素子の製造方法である。
精密プレス成形では、プレス成形型ならびにプリフォームの加熱およびプレス工程は、プレス成形型の成形面あるいは前記成形面に設けられた離型膜の酸化を防止するため、窒素ガス、あるいは窒素ガスと水素ガスの混合ガスなどのような非酸化性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。非酸化性ガス雰囲気中ではプリフォーム表面を被覆する炭素含有膜も酸化されずに、精密プレス成形された成形品の表面に前記膜が残存することになる。この膜は、最終的には除去するべきものであるが、炭素含有膜を比較的容易にしかも完全に除去するには、精密プレス成形品を酸化性雰囲気、例えば大気中において加熱すればよい。炭素含有膜の酸化、除去は、精密プレス成形品が加熱により変形しないような温度で行うべきである。具体的には、ガラスの転移温度未満の温度範囲において行うことが好ましい。
精密プレス成形では、予め成形面を所望の形状に高精度に加工されたプレス成形型を用いるが、成形面には、プレス時のガラスの融着を防止するため、離型膜を形成してもよい。離型膜としては、炭素含有膜や窒化物膜、貴金属膜が挙げられ、炭素含有膜としては水素化カーボン膜、炭素膜などが好ましい。精密プレス成形では、成形面が精密に形状加工された対向した一対の上型と下型との間にプリフォームを供給した後、ガラスの粘度が10〜10dPa・s相当の温度まで成形型とプリフォームの両者を加熱してプリフォームを軟化し、これを加圧成形することによって、成形型の成形面をガラスに精密に転写する。
また、成形面が精密に形状加工された対向した一対の上型と下型との間に、予めガラスの粘度で10〜10dPa・sに相当する温度に昇温したプリフォームを供給し、これを加圧成形することによって、成形型の成形面をガラスに精密に転写することができる。
加圧時の圧力及び時間は、ガラスの粘度などを考慮して適宜決定することができ、例えば、プレス圧力は約5〜15MPa、プレス時間は10〜300秒とすることができる。プレス時間、プレス圧力などのプレス条件は成形品の形状、寸法に合わせて周知の範囲で適宜設定すればよい。
この後、成形型と精密プレス成形品を冷却し、好ましくは歪点以下の温度となったところで、離型し、精密プレス成形品を取出す。なお、光学特性を精密に所望の値に合わせるため、冷却時における成形品のアニール処理条件、例えばアニール速度等を適宜調整してもよい。
精密プレス成形は、以下の観点から2つの方法に大別できる。第1の方法は、ガラス素材をプレス成形型内に導入し、ガラス素材とプレス成形型とを一緒に加熱し、精密プレス成形する光学素子の製造方法であり、面精度、偏心精度など成形精度の向上を重視した場合、推奨される方法であり、第2の方法は、ガラス素材を加熱し、予熱したプレス成形型内に導入して精密プレス成形する光学素子の製造方法であり、生産性向上を重視した場合に推奨される方法である。
したがって、目的に応じて第1の方法または第2の方法を選択すればよい。
光学素子の製法Iは、研削、研磨による製法では生産性を高めることが困難な、上記各種非球面レンズ、マイクロレンズ、レンズアレイ、回折格子、回折格子付きレンズ、光ピックアップレンズなどの生産に好適である。
本発明の光学素子の製造方法の第2の態様(光学素子の製法IIという。)は、上記本発明の方法で光学素子ブランクを作製し、該ブランクを研削、研磨する光学素子の製造方法である。
光学素子ブランクの研削、研磨は公知の技術を適用すればよい。光学素子の製法IIは、研削、研磨に向いている球面レンズ、プリズム、フィルターなどの光学素子の生産に好適である。
本発明の光学素子の製造方法の第3の態様(光学素子の製法IIIという。)は、上記本発明の方法によりガラス成形体を作製し、該ガラス成形体を加工する光学素子の製造方法である。この方法では、熔融ガラスから成形したガラスを切断もしくは割断し、研削、研磨して光学素子に仕上げる。
ガラスの切断、割断、研削、研磨は公知の技術を適用すればよい。光学素子の製法IIIも研削、研磨に向いている球面レンズ、プリズム、フィルターなどの光学素子の生産に好適である。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例は、上記説明に基づき本発明の全範囲に拡張、一般化することができる。
(実施例1)
表1−1〜表1−6に示す各組成を有するガラスを作製するために、各ガラス成分に対応する、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった原料を秤量し、十分に混合した。各混合原料中の、P5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量の比(O2−/P5+)、FとO2−の合計含有量に対するFの含有量の比(F/(F+O2−))を表1に併記する。上記混合原料を白金ルツボ、白金合金製ルツボ、金製ルツボ、金合金製ルツボにそれぞれ投入して、900℃の電気炉内で、攪拌しながら1〜3時間かけて原料を加熱熔解し、清澄、均質化して得た熔融ガラスを流出パイプからそれぞれ流出し、鋳型に鋳込んでフツリン酸ガラスNo.1−1〜1−59の各種フツリン酸ガラスからなるブロック状のガラスを得た。なおガラスの熔解、清澄、均質化において、雰囲気の交換は行っていない。
ガラス原料中に含まれる酸素原子の量は、ガラスに導入される酸素の量である。炭酸塩、硝酸塩、水酸化物を使用する場合、これら化合物に含まれるガラス成分となるカチオンと酸素からなる酸化物を考え、前記酸化物として上記化合物に含まれる酸素の量をガラスに導入される酸素の量と考えればよい。
なお、白金ルツボには白金製の流出パイプを接続し、白金合金製ルツボには白金合金製の流出パイプを接続し、金製ルツボには金製の流出パイプを接続し、金合金製ルツボには金合金製の流出パイプを接続した。
熔融ガラス流出時、各種流出パイプの外周へのガラスの濡れ上がりは見られなかった。
また、成形したガラスブロックの内部や表面付近を観察したところ、いずれのガラスブロックにおいても脈理、白金粒子や金粒子などの異物は認められなかった。
フツリン酸ガラスNo.1−1〜1−59のガラスの作製では、揮発性が抑制されるよう、表1−1〜表1−6に示すようにP5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量の比(O2−/P5+)を3.5以上に制御し、その他成分の含有量をバランスさせて揮発性が大幅に低減された所望特性を有する光学ガラスを得ている。また、これらのガラス製造例では、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった未ガラス化原料を使用したが、カレット原料を用いてもよいし、未ガラス化原料とカレット原料を併用してもよい。
次に上記各ガラスからなるガラスブロックを徐冷降温速度−30℃/時で冷却した後、屈折率ndを測定した。こうして得られた屈折率ndを表1−1〜表1−6中にnd(1)として示す。
次に、各ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、徐冷降温速度−30℃/時で25℃まで冷却した後の屈折率ndを測定した。得られた屈折率ndの値を表1にnd(2)として示す。表1−1〜表1−6には、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)とその絶対値Δndを示す。その他の特性については、次のようにして測定した。
(1)アッべ数(νd)
徐冷降温速度を−30℃/時にして得られたガラスについて測定した。
(2)ガラス転移温度(Tg)
理学電機株式会社の熱機械分析装置(サーモ プラス TMA 8310)により昇温速度を4℃/分にして測定した。
(3)ガラス中の金属製異物の数
光学顕微鏡でガラス内部を100倍に拡大観察し、粒径10μm以上の異物をカウントし、異物の数と観察エリアの体積から単位体積中の異物の数を算出した。
次に、上記の白金製のルツボおよび流出パイプを備えたガラス熔融装置、白金合金製のルツボおよび流出パイプを備えたガラス熔融装置、金製のルツボおよび流出パイプを備えたガラス熔融装置、金合金製のルツボおよび流出パイプを備えたガラス熔融装置を用い、各装置で、上記各フツリン酸ガラスの組成に外割りで0.5〜13カチオン%のCu2+を添加した組成を有するガラスを熔融、清澄、均質化して得た熔融ガラスを流出パイプから流出し、鋳型に鋳込んで近赤外線吸収ガラスからなるガラスブロックを成形した。
熔融ガラス流出時、各種流出パイプの外周へのガラスの濡れ上がりは見られなかった。
また、成形したガラスブロックの内部や表面付近を観察したところ、いずれのガラスブロックにおいても脈理、白金粒子や金粒子などの異物は認められなかった。
一方、図1に示すようにモル比O2−/P5+が3.4、3.3、3.2、3.1、3.0の5種類のフツリン酸ガラスを作製し、nd(1)、nd(2)、ガラス中の粒径10μm以上の金属粒子の数密度を測定した。その結果、いずれのガラスもnd(2)−nd(1)の絶対値Δndが0.00300を超え、金属粒子の数密度も増大した。また、これらのガラスにはいずれも脈理が認められた。
(実施例2)
表2−1〜表2−5に示す各組成を有するフツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17、比較フツリン酸ガラスNo.2−1、2−2を作製するために、各ガラス成分に対応する、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった原料を秤量し、十分に混合した。各混合原料中の、P5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量の比(O2−/P5+)、アルカリ土類金属成分の合計含有量および希土類成分の合計含有量を各ガラスの組成、特性とともに表2−1〜表2−5に併記する。上記混合原料を白金坩堝に投入して、900℃の電気炉内で、攪拌しながら1〜3時間かけて原料を加熱熔解し、清澄、均質化することにより、フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17を得た。
フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17の各フツリン酸ガラスの作製では、表2−1〜表2−5に示すようにP5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量の比(O2−/P5+)を3.5以上にして揮発性および侵食性を抑制し、その他成分の含有量をバランスさせて所望特性を有する光学ガラスを得ている。また、上記製造例では、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった未ガラス化原料を使用したが、カレットを用いてもよいし、未ガラス化原料とカレットを併用してもよい。
ガラス原料中に含まれる酸素原子の量は、ガラスに導入される酸素の量である。炭酸塩、硝酸塩、水酸化物を使用する場合、これら化合物に含まれるガラス成分となるカチオンと酸素からなる酸化物を考え、前記酸化物として上記化合物に含まれる酸素の量をガラスに導入される酸素の量と考えればよい。
フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17および比較フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−2の各ガラスについて、核磁気共鳴スペクトルにおける31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴ピークの強度I(0)および一次のサイドバンドピークの強度I(1)、屈折率nd、アッべ数νdおよびガラス中に含まれる粒径10μm以上の金属粒子の数密度を測定した。また、上記19種のガラスのうち、一部のガラスについてガラス転移温度Tgを測定した。これら測定結果を表2−1〜表2−5に示す。
なお、上記強度I(0)、強度I(1)、屈折率nd、アッべ数νd、金属粒子の数密度およびガラス転移温度は、以下の手法によりそれぞれ測定したものである。
(1)強度I(0)および強度I(1)
Varian社製VXR-300Sを使用し、観測周波数121.4MHz、基準試料85%HPO、磁場強度 H0=7.0T、試料回転数9.0kHzの条件でスペクトルを測定し0ppm付近のメインピークI(0)と70ppm付近に現れるスピニングサイドバンドのピーク強度I(1)をベースラインを除いて算出し、強度の比(I(1)/I(0))を算出する。
なお、図5はフツリン酸ガラスNo.2−1(表2−1参照)の31Pの核磁気共鳴スペクトル、図6は比較フツリン酸ガラスNo.2−1(表2−2参照)の31Pの核磁気共鳴スペクトルである。
図5、図6において、横軸は化学シフト(ppm単位)、縦軸が信号強度(任意単位)である。中央の最も高いピークが31Pの共鳴ピーク(メインピーク)であり、*で示すピークがスピニングサイドバンドである。メインピークに近いスピニングサイドバンドが一次のピークである。一次のスピニングサイドバンドは2つあるが、それらのピークの高さは等しいので、強度I(1)を求める際、どちらのピークを用いてもよい。
(2)屈折率nd及びアッべ数νd
徐冷降温速度を−30℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
(3)金属粒子の数密度
光学顕微鏡を用いて100倍に拡大観察し、金属粒子の数をカウントし、観察エリア内の体積から金属粒子の数密度を算出した。
(4)ガラス転移温度Tg
理学電機株式会社の熱機械分析装置(サーモ プラス TMA 8310)により昇温速度を4℃/分にして測定した。
また、各フツリン酸ガラスについて、原料を1時間熔解して得られた200gのガラス試料の屈折率ndをnd(1h)、アッベ数νdをνd(1h)とし、原料を3時間熔解して得られた200gのガラス試料の屈折率ndをnd(3h)、アッベ数νdをνd(3h)とする。nd(1h)、nd(3h)を測定するとともに、一部のガラスについてはνd(1h)、νd(3h)、液相温度LTを測定した。結果を表2−1〜表2−5に示す。
フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17の各ガラスは揮発が極めて少なく、ガラス中に含まれる粒径10μm以上の金属粒子の数も極めて少なかった。一方、比較フツリン酸ガラスNo.2−1、2−2については、揮発のため脈理が認められ、粒径10μm以上の金属粒子の数も多かった。なお、ガラス中に含まれる金属粒子はいずれも白金粒子である。
表2−1〜表2−5に示すように、フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17は、nd(3h)−nd(1h)の絶対値が0.00200以下と、原料の熔解時間の差による屈折率変化が小さかったのに対し、比較フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−2は、nd(3h)−nd(1h)が0.00400以上と大きかった。
また、アッベ数についても、フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−5は、νd(3h)−νd(1h)の絶対値が0.4以内であったのに対し、比較フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−2では、0.5以上と、原料の熔解時間の差によるアッベ数変化も大きかった。
上記フツリン酸ガラスは、原料の熔解時間の違いによるアッベ数の差が小さいことから、νd(3h)とνd(1h)のいずれをアッベ数としてもよいが、アッベ数を厳密に求める必要がある場合は、νd(1h)をフツリン酸ガラスのアッベ数とする。
なお、上記フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17に外割りで0.5〜13カチオン%のCu2+を添加し、近赤外線吸収ガラスとしてもよい。
フツリン酸ガラスNo.2−1〜2−17とこれらフツリン酸ガラスに外割りで0.5〜13カチオン%のCu2+を添加した近赤外線吸収ガラスのいずれにも脈理は認められず、光学的に極めて均質であった。
(実施例3)
表3に示す組成を有するフツリン酸ガラスNo.3−1〜3−4、比較フツリン酸ガラスNo.3−1を作製するために、各ガラス成分に対応する、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった原料を秤量し、十分に混合した。各混合原料中の、P5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量の比(O2−/P5+)、希土類元素の含有割合(カチオン%)をに併記する。上記混合原料を白金坩堝に投入して、900℃の電気炉内で、攪拌しながら1〜3時間かけて原料を加熱熔解し、清澄、均質化することにより、フツリン酸ガラスNo.3−1〜3−4を得た。
フツリン酸ガラスNo.3−1〜3−4の各フツリン酸ガラスの作製では、揮発性が抑制されるよう、表3に示すようにP5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量の比(O2−/P5+)を3.5以上に制御し、その他成分の含有量をバランスさせて揮発性が大幅に低減された所望特性を有する光学ガラスを得ている。また、上記製造例では、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった未ガラス化原料を使用したが、カレットを用いてもよいし、未ガラス化原料とカレットを併用してもよい。
ガラス原料中に含まれる酸素原子の量は、ガラスに導入される酸素の量である。炭酸塩、硝酸塩、水酸化物を使用する場合、これら化合物に含まれるガラス成分となるカチオンと酸素からなる酸化物を考え、前記酸化物として上記化合物に含まれる酸素の量をガラスに導入される酸素の量と考えればよい。
各フツリン酸ガラスについて、核磁気共鳴スペクトル、屈折率nd、アッベ数νd、金属粒子の数密度、原料を1時間熔解して得られた200gのサンプルの屈折率nd(1h)およびアッベ数νd(1h)と、原料を3時間熔解して得られた200gのサンプルの屈折率nd(3h)およびアッベ数νd(3h)を測定するとともに、一部のガラスについてはガラス転移温度を測定した。結果を表3に示す。
なお、各フツリン酸ガラスの31Pに起因する共鳴スペクトルの形状、屈折率nd、アッべ数νd、ガラス中に含まれる金属粒子の数密度およびガラス転移温度Tgは、以下の手法によりそれぞれ測定したものである。
(1)共鳴スペクトルの形状
Varian社製VXR-300Sを使用し観測周波数121.4MHz、基準試料85%H3PO4、磁場強度 H0=7.0T、試料回転数9.0kHzの条件でスペクトルを測定し0ppm付近のメインピークのベースラインからの形状をガウス関数で近似し1つのガウス関数で近似できる場合はガウス関数形とし2つ以上のガウス関数において近似される場合は非ガウス関数形とした。
(2)屈折率nd及びアッべ数νd
徐冷降温速度を−30℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
(3)金属粒子の数密度
光学顕微鏡を用いて100倍に拡大観察し、粒径10μm以上の金属粒子の数をカウントし、観察エリア内の体積から金属粒子の数密度を算出した。
(4)ガラス転移温度Tg
理学電機株式会社の熱機械分析装置(サーモ プラス TMA 8310)により昇温速度を4℃/分にして測定した。
フツリン酸ガラスNo.3−1〜3−4の各ガラスは揮発が極めて少なく、ガラス中に含まれる粒径10μm以上の金属粒子の数も極めて少なかった。一方、比較フツリン酸ガラスNo.3−1については、揮発のため脈理が認められ、粒径10μm以上の金属粒子の数も多かった。なお、上記金属粒子は白金粒子である。
表3に示すように、フツリン酸ガラスNo.3−1〜3−4は、nd(3h)−nd(1h)が0.00300以下と、原料の熔解時間の差による屈折率変化が小さかったのに対し、比較フツリン酸ガラスは、nd(3h)−nd(1h)が0.00400以上と大きかった。
また、アッベ数についても、フツリン酸ガラスNo.3−2〜3−4は、νd(3h)−νd(1h)の絶対値が0.4以内であったのに対し、比較フツリン酸ガラスでは、0.5以上と、原料の熔解時間の差によるアッベ数変化も大きかった。
本実施例のフツリン酸ガラスは、原料の熔解時間の違いによるアッベ数の差が小さいことから、νd(3h)とνd(1h)のいずれをアッベ数としてもよいが、アッベ数を厳密に求める必要がある場合は、νd(1h)を本発明の光学ガラスのアッベ数とするものとする。
なお、上記各フツリン酸ガラスNo.3−1〜3−4に外割りで0.5〜13カチオン%のCu2+を添加し、近赤外線吸収ガラスとしてもよい。
フツリン酸ガラスNo.3−1〜3−4とこれらフツリン酸ガラスに外割りで0.5〜13カチオン%のCu2+を添加した近赤外線吸収ガラスのいずれにも脈理は認められず、光学的に極めて均質であった。
(実施例4)
次に、実施例1〜3で作製した各フツリン酸ガラスの熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金製流出パイプから一定の流量で流出し、ガラス塊を滴下する方法か、又は支持体を用いて熔融ガラス流先端を支持した後、支持体を急降下してガラス塊を分離する方法にて熔融ガラス塊を分離した。得られた各熔融ガラス塊は、目的とする精密プレス成形用プリフォーム1個分の質量と等しい質量を有するものである。
次いで、得られた熔融ガラス塊をガス噴出口を底部に有するプリフォーム成形型に受け、ガス噴出口からガスを噴出してガラス塊を浮上しながら成形し、精密プレス成形用プリフォームを作製した。このようにして連続して流出する熔融ガラスからプリフォームを次々に成形した。得られたプリフォームは一定形状を有しており、球状プリフォームからなるロット、扁平球状のプリフォームからなるロットなどを作製した。各ロットを構成する各プリフォームの質量は設定値に精密に一致しており、いずれも表面が滑らかであり、脈理や白金などの金属異物は認められなかった。
なお、ハロゲン元素添加による濡れ上がり抑制は、熔融ガラス滴の質量を安定化し、熔融ガラス滴から成形されるプリフォームのばらつきを小さくしている。
本実施例は白金製流出パイプを備えたガラス熔融装置によるプリフォームの製造例であるが、白金合金製流出パイプを備えたガラス熔融装置、金製流出パイプを備えたガラス熔融装置、金合金製流出パイプを備えたガラス熔融装置の各装置によるプリフォームの製造例においても同様の結果を得た。
(実施例5)
次に、実施例1〜3で作製した各フツリン酸ガラスの熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金製流出パイプから一定の流量で流出し、平らな底面と底面上の空間を側方から囲む側壁と前記側方の一部が開口した塵取りの形状に似た形状の鋳型を流出パイプの下方に底面が水平になるように配置し、底面上に熔融ガラスを連続して流し込み、底面上の空間に熔融ガラスを満たした。前記空間に満たされた熔融ガラスを鋳型側方の開口方向に移動させながら板状に成形する。そして、成形したガラス板を水平方向に一定スピードで引き出し、アニール炉の中を通過させてアニールし、歪を除去した後、所望の長さに切断し、次々とガラス板を得た。
流出パイプの外周を観察したところ、ガラスの濡れ上がりは見られず、ガラス板の内部には脈理や白金粒子などの異物は認められなかった。
次に、上記ガラス板を賽の目状に切断して複数個のガラス片を作製し、これらガラス片を研削、研磨して表面が滑らかで光学的に均質で、一定質量、一定形状の精密プレス成形用プリフォームを得た。
本実施例は白金製流出パイプを備えたガラス熔融装置によるガラス板およびプリフォームの製造例であるが、白金合金製流出パイプを備えたガラス熔融装置、金製流出パイプを備えたガラス熔融装置、金合金製流出パイプを備えたガラス熔融装置の各装置によるガラス板およびプリフォームの製造例においても同様の結果を得た。
(実施例6)
次に、実施例1〜3で作製した各フツリン酸ガラスの熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金製流出パイプから一定の流量で流出し、予め粉末状の窒化ホウ素を均一に塗布した下型成形面の中央に供給し、シアと呼ばれる切断刃で熔融ガラスを切断し、下型成形面上に熔融ガラス塊を得た。そして、下型ごと熔融ガラス塊をプレス位置へ移動し、上型を用いて下型上の熔融ガラス塊をプレス成形し、その後、上型を上昇させてガラス成形品を上型から離型し、ガラス成形品が変形しない温度にまで冷却した後、下型からガラス成形品を取り出し、アニールして、両凸レンズ形状を有する光学素子ブランクを得た。
同様にして凸メニスカスレンズ形状、凹メニスカスレンズ形状、両凹レンズ形状、平凸レンズ形状、平凹レンズ形状、プリズム形状の各形状を有する光学素子ブランクを得た。
このようにして得た各種光学素子ブランクを研削、研磨して両凸レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなど各種球面レンズと、プリズムを作製した。
得られた光学素子の内部は異物は認められず、光学的に均質性の優れたものであり、銅を含有させたガラス以外のガラスを用いた光学素子に、着色は認められなかった。
(実施例7)
実施例4と実施例5において得たプリフォームを、図2に示すプレス装置を用いて精密プレス成形して非球面レンズを量産した。
すなわち、図2に示すように、プリフォーム4上型1、下型2および胴型3からなるプレス成形型の下型2と上型1の間に設置した後、石英管11内を窒素雰囲気としてヒーター12に通電して石英管11内を加熱した。プレス成形型内部の温度を、成形されるガラスが10〜1010dPa・sの粘度を示す温度に設定し、同温度を維持しつつ、押し棒13を降下させて上型1を押して成形型内にセットされたプリフォームをプレスした。プレスの圧力は8MPa、プレス時間は30秒とした。プレスの後、プレスの圧力を解除し、プレス成形されたガラス成形品を下型2及び上型1と接触させたままの状態で前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上になる温度まで徐冷し、次いで室温まで急冷してガラス成形品を成形型から取り出し非球面レンズを得た。得られた非球面レンズは、極めて高い面精度を有するものであった。プレス成形型の成形面の形状を適宜、変更することにより、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種非球面レンズを量産することができる。
なお、図2において、参照数字9は支持棒、参照数字10は下型・胴型ホルダー、参照数字14は熱電対である。
精密プレス成形により得られた非球面レンズには、必要に応じて反射防止膜を設けた。
次に上記各プリフォームと同じプリフォームを上記の方法とは別の方法で精密プレス成形した。この方法では、先ず、プリフォームを浮上しながら、プリフォームを構成するガラスの粘度が10dPa・sになる温度にプリフォームを予熱した。一方で上型、下型、胴型を備えるプレス成形型を加熱して、前記プリフォームを構成するガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度にし、上記予熱したプリフォームをプレス成形型のキャビティ内に導入して、10MPaで精密プレス成形した。プレス開始とともにガラスとプレス成形型の冷却を開始し、成形されたガラスの粘度が1012dPa・s以上となるまで冷却した後、成形品を離型して非球面レンズを得た。得られた非球面レンズは、極めて高い面精度を有するものであった。プレス成形型の成形面の形状を適宜、変更することにより、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種非球面レンズを作ることができる。
精密プレス成形により得られた非球面レンズには必要に応じて反射防止膜を設けた。
このようにして、異物を含まず、脈理のない光学的に均質なガラスからなる光学素子を生産性よく、しかも高精度に得ることができた。
(実施例8)
次に実施例1〜3で作製したガラスブロックを研削、研磨して両凸レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなど各種球面レンズと、プリズムを作製した。得られた光学素子の内部には脈理や異物は認められなかった。
また、実施例3で作製したガラス板およびガラス棒を切断、研削、研磨して両凸レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなど各種球面レンズと、プリズムを作製した。得られた光学素子の内部には脈理や異物は認められなかった。
(実施例9)
実施例5で作製したガラス板およびガラス棒を切断してカットピースと呼ばれるガラス片を複数個作製し、これらカットピースをバレル研磨してガラスゴブを作製した。ガラスゴブの全表面に粉末状の窒化ホウ素を均一に塗布し、加熱、軟化してプレス成形、アニールし、光学素子ブランクを作製した。
そして光学素子ブランクを研削、研磨して、両凸レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなど各種球面レンズと、プリズムを作製した。得られた光学素子の内部には脈理や異物は認められなかった。
なお、上記各実施例で得られたフツリン酸ガラスの屈折率ndの公差はすべて±0.00020以内であった。
1・・・上型
2・・・下型
3・・・胴型
4・・・プリフォーム
9・・・支持棒
10・・・下型・胴型ホルダー
11・・・石英管
12・・・ヒーター
13・・・押し棒
14・・・熱電対

Claims (22)

  1. 可視域に吸収を有するイオンを含有しない光学ガラスであって、ガラス成分として、リン、酸素およびフッ素を含むフツリン酸ガラスにおいて、
    塩素、臭素およびヨウ素の中から選ばれる1種以上のハロゲン元素を含み、
    カチオン%表示にて、
    5+ 3〜50%、
    Al 3+ 5〜40%、
    Mg 2+ 0〜10%、
    Ca 2+ 0〜30%、
    Sr 2+ 0〜30%、
    Ba 2+ 0〜40%、
    (ただし、Mg 2+ 、Ca 2+ 、Sr 2+ 、Ba 2+ の合計含有量が10%以上)
    Li 0〜30%、
    Na 0〜20%、
    0〜20%、
    3+ 0〜10%、
    La 3+ 0〜10%、
    Gd 3+ 0〜10%、
    Yb 3+ 0〜10%、
    3+ 0〜1%、
    Zn 2+ 0〜20%、
    In 3+ 0〜20%
    を含有し、
    アニオン成分として含まれるF とO 2‐ の合計含有量に対するF−の含有量のモル比F /(F +O 2‐ )が0.2〜0.95であり、
    5+の含有量に対するO2‐の含有量のモル比O2‐/P5+が3.5以上であり、内部に含まれる粒径が10μm以上の異物の数密度が2.5個/cm 以下であることを特徴とするフツリン酸ガラス。
  2. 内部に含まれる粒径が10μm以上の白金異物の数密度が2.5個/cm 以下である請求項1に記載のフツリン酸ガラス。
  3. リン成分をP5+に換算して3カチオン%超30カチオン%以下含み、核磁気共鳴スペクトルにおける31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴ピークの強度I(0)に対する前記共鳴ピークの一次のサイドバンドピークの強度I(1)の比I(1)/I(0)が0.08以下である請求項1または2に記載のフツリン酸ガラス。
  4. リン成分をP5+に換算して30〜50カチオン%含み、核磁気共鳴スペクトルにおける31Pの基準周波数近傍に生じる共鳴スペクトルの形状がガウス関数形状である請求項1または2に記載のフツリン酸ガラス。
  5. Cl、BrおよびIの合計含有量が0.01〜5アニオン%である請求項1〜のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラス。
  6. 請求項1〜のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラスであって、該ガラスの屈折率ndの値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率ndの値をnd(2)としたときに、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300以内であるフツリン酸ガラス。
  7. アッベ数νdが70を超える請求項1〜のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラス。
  8. カチオン成分として含まれる希土類元素の合計含有量が5カチオン%未満であり、アニオン成分として含まれるFとO2‐の合計含有量に対するFの含有量のモル比F/(F+O2‐)が0.2以上、屈折率ndが1.53を超える請求項1〜のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラス。
  9. 前記ガラスのFの含有量が65アニオン%以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラス。
  10. ガラス原料を白金または白金合金製の熔融容器内に導入して熔融し、清澄、均質化して、熔融ガラスを得、前記熔融ガラスを白金または白金合金製のパイプから流出、成形して、フツリン酸ガラスからなるガラス成形体を作製するガラス成形体の製造方法において、
    ガラス原料中のリン原子の含有量Pに対する酸素原子の含有量Oのモル比O/Pが3.5以上となるように前記ガラス原料を調合し、熔融容器内に導入して熔融することによりガラス中のP 5+ 含有量に対するO 2- 含有量のモル比O 2- /P 5+ を3.5以上に制御して、前記熔融ガラスの侵蝕性を抑制し、請求項1〜のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラスからなるガラス成形体を作製することを特徴とするガラス成形体の製造方法。
  11. 流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記熔融ガラス塊を該ガラス塊が冷却、固化する過程で、プレス成形用ガラス素材に成形する請求項10に記載のガラス成形体の製造方法。
  12. 流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、該熔融ガラス塊をプレス成形して光学素子ブランクを作製する請求項10に記載のガラス成形体の製造方法。
  13. 熔融ガラスを連続的に流出して鋳型に鋳込みガラス成形体を成形しながら、前記鋳型からガラス成形体を取り出す請求項10に記載のガラス成形体の製造方法。
  14. 請求項1〜のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラスからなるプレス成形用ガラス素材。
  15. 請求項1〜のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラスからなる光学素子ブランク。
  16. 請求項1〜のいずれか1項に記載のフツリン酸ガラスからなる光学素子。
  17. 請求項10、13のいずれか1項に記載の方法によりガラス成形体を作製し、該ガラス成形体を加工および/または成形するプレス成形用ガラス素材の製造方法。
  18. 請求項11または17に記載の方法でプレス成形用ガラス素材を作製し、前記ガラス素材を加熱、プレス成形する光学素子ブランクの製造方法。
  19. 請求項10に記載の方法によりガラス成形体を作製し、該ガラス成形体を加工および/または成形する光学素子ブランクの製造方法。
  20. 請求項14または17に記載の方法でプレス成形用ガラス素材を作製し、前記ガラス素材を加熱、精密プレス成形する光学素子の製造方法。
  21. 請求項18または19に記載の方法で光学素子ブランクを作製し、該ブランクを研削、研磨する光学素子の製造方法。
  22. 請求項10に記載の方法によりガラス成形体を作製し、該ガラス成形体を加工する光学素子の製造方法。

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