JP5223574B2 - 車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法 - Google Patents

車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法 Download PDF

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Description

この発明は、自動車の懸架装置に対して車輪を回転自在に支持する為の、車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法の改良に関し、軽量でしかも十分な耐久性を有する車輪支持用転がり軸受ユニットを得られる製造方法の実現を図るものである。
自動車の懸架装置に対して車輪を回転自在に支持する為に、図5に示す様な車輪支持用転がり軸受ユニット1が使用されている。この車輪支持用転がり軸受ユニット1は、外輪2の内径側にハブ3を、複数個の転動体4、4を介して、回転自在に支持している。このうちの外輪2は、中炭素鋼製で、内周面に複列の外輪軌道5、5を、外周面に静止側フランジ6を、それぞれ有する。この様な外輪2は、使用時にはこの静止側フランジ6を上記懸架装置を構成するナックルに結合固定し、回転する事はない。又、上記ハブ3は、外周面に複列の内輪軌道7、7と回転側フランジ8とを有し、使用時に車輪と共に回転する。上記各転動体4、4は、軸受鋼或いはセラミック製で、上記両外輪軌道5、5と上記両内輪軌道7、7との間に、両列毎に複数個ずつ、転動自在に設けられている。又、上記回転側フランジ8には、使用状態で、車輪、及び、ディスクロータ等の制動用回転体を支持固定する。
又、上記ハブ3は、ハブ本体9と内輪10とを結合固定して成る。このうちのハブ本体9は、中炭素鋼製で、軸方向外端寄り部分(軸方向に関して外とは、懸架装置に組み付けた状態で車体の幅方向外側となる側を言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)の外周面に上記回転側フランジ8を、軸方向中間部外周面に上記複列の内輪軌道7、7のうち軸方向外側の内輪軌道7を、それぞれ直接形成している。又、上記ハブ本体9の軸方向外端部には、上記車輪及び上記制動用回転体を外嵌位置決めする為の、パイロット部と呼ばれる円筒部11を設けている。そして、この円筒部11の内径側を含め、上記ハブ本体9の軸方向外端部に、このハブ本体9の軸方向外端面の中央部に開口する凹部12を形成している。
一方、上記内輪10は、軸受鋼製で、外周面に、上記複列の内輪軌道7、7のうち軸方向内側(軸方向に関して内とは、懸架装置に組み付けた状態で車体の幅方向中央側となる側を言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)の内輪軌道7を形成している。この様な内輪10は、上記ハブ本体9の軸方向内端寄り部分に形成された小径段部13に外嵌固定した状態で、このハブ本体9の軸方向内端部に形成したかしめ部14により抑え付けて、このハブ本体9に対し結合固定している。尚、このハブ本体9に上記内輪10を結合固定する為に、このハブ本体9の軸方向内端部に設けた雄ねじ部にナットを螺合させる構造も、広く知られている。
何れの構造の場合も、上記ハブ3の一部を焼き入れ硬化している。先ず、上記内輪10に関しては、全体を加熱後に焼き入れ油中に浸漬する、所謂ズブ焼き入れにより、全体を硬化させている。一方、上記ハブ本体9に関しては、図6に斜格子で示した部分を、高周波熱処理により焼き入れ硬化させる事で、当該部分に硬化層15を形成している。この硬化層15は、上記ハブ本体9の中間部外径寄り部分(外周面を含む表面層部分)で、前記回転側フランジ8の軸方向内側面側の基端部から、上記小径段部13の軸方向外半部に掛けての部分に形成している。この様な部分に硬化層15を形成する事で、上記回転側フランジ8のモーメント剛性の確保と、前記軸方向外側の内輪軌道7の転がり疲れ寿命の確保と、上記小径段部13のフレッチング摩耗の防止と、上記ハブ本体9全体としての曲げ剛性の確保とを図る。このハブ本体9の軸方向外端面に開口した上記凹部12は、このハブ本体9の軽量化に寄与する。
上述の様なハブ本体9を含む車輪支持用転がり軸受ユニット1の使用時に上記ハブ3には、大きな力(荷重)が加わる。特に、旋回走行時に上記回転側フランジ8には、この回転側フランジ8に支持固定した車輪と路面との接触部(接地面)を中心として大きなモーメントが加わる。この様なモーメントは、上記回転側フランジ8の基端部(内径側端部)と上記ハブ本体9の本体部分との連続部16で支承する。この連続部16の厚さは、上記凹部12の存在により元々小さいだけでなく、上記硬化層15の存在に基づき、靱性を確保し易い、未焼き入れの(所謂生のままの)部分の厚さが小さい。この為、何らの対策も施さないと、上記凹部12の容積を大きくする事による軽量化と、上記連続部16の強度及び剛性の確保とを両立させる事ができない。
この為従来から、例えば特許文献1〜4に記載された様な手段により、ハブ本体の強度、剛性、耐久性の向上を図る事が考えられている。このうちの特許文献1には、ハブ本体を調質処理する事により、このハブ本体の強度を確保する技術が記載されている。又、特許文献2には、凹部の内面の脱炭層を除去してこの内面を滑らかにし、更にこの内面にショット・ピーニング又はターニング加工により残留圧縮応力を発生させて、上記内面を起点とする亀裂等の損傷を発生しにくくする技術が記載されている。又、特許文献3には、凹部の内周面部分に、径方向内方に突出する突起を形成して、この凹部の周囲部分の強度及び剛性を向上させる技術が記載されている。更に、特許文献4には、ハブ本体を造る為の鍛造加工の最後に凹部の内面部分を冷却して、この部分に微細フェライト・パーライト組織等の非標準組織の層を形成し、上記ハブ本体の強度及び疲れ寿命を向上させる技術が記載されている。
上述の様な特許文献1〜4に記載された従来技術の場合、それなりの効果を得られるが、ハブ本体9の耐久性を確保しつつ、より軽量化を図る面からは、改良の余地がある事が、本発明者等の研究により分かった。即ち、上記特許文献1〜4に記載された従来技術では、前記硬化層15の加工に伴って、上記ハブ本体9のうちで前記連続部16に亀裂が発生し易くなるのを防止できない。即ち、本発明者等の研究により、この連続部16を含む、上記硬化層15の径方向内側に存在する内径側部分に、この硬化層15の加工に伴って大きな残留引っ張り応力が発生し、上記亀裂が発生し易くなる事が分かった。この点に就いて、図6を参照しつつ説明する。
上記硬化層15を形成すべく、上記ハブ本体9の外周面の軸方向中間部を高周波焼き入れした後に急冷すると、上記硬化層15となるべき部分が、熱膨張後に急激に熱収縮する。この結果、この硬化層15部分には、図6に示す様に、残留圧縮応力が加わる。一方、上記ハブ本体9のうちでこの硬化層15の径方向内側に存在する内径側部分には、残留引っ張り応力が加わる。即ち、この内径側部分は、上記高周波焼き入れの為の加熱時に、熱伝導に伴って温度上昇する一方で、上記急冷時の温度低下は、上記硬化層15となるべき部分に比べて遅れる。そして、上記内径側部分が温度低下に伴って収縮する際には、既に上記硬化層15が形成されており、この硬化層15が上記内径側部分が熱収縮する事に対する抵抗となる。この内径側部分はこの様な硬化層15による抵抗に抗して熱収縮する事になり、その結果、この内径側部分に残留引っ張り応力が加わる。これら各応力のうち、残留圧縮応力は、亀裂損傷を抑える力として作用するが、残留引っ張り応力は、この損傷を助長する力として作用する。
この様に、上記内径側部分に残留引っ張り応力が作用した状態で、前記モーメントに伴ってこの部分に引っ張り方向の応力が加わると、この内径側部分を起点として上記ハブ本体9に、亀裂損傷が発生し易くなる。図7は、この様に残留引っ張り応力が作用する事で、亀裂損傷が発生し易くなる状況を、修正グッドマン線図に表したものである。この図7中、実線αはグッドマン線を、破線βは降伏線を、それぞれ表している。応力振幅が所定値(一定)であると仮定し、平均応力が0であるイ点を起点として、平均応力が引っ張り応力になると、この平均応力と応力振幅との組み合わせが、グッドマン線αの上側に移動し、亀裂損傷防止の面から不利になる。特に、図7のロ点で示す様に著しい場合には、降伏点を越え、上記亀裂損傷が発生する可能性が高くなる。又、この様な原因での亀裂損傷は、前記ハブ本体9の軽量化をより進めるべく、前記凹部12の容積を増大させた(軸方向に関する深さを大きくした)場合に著しくなる。
前述の特許文献1〜4のうちの特許文献1、3、4に記載された従来技術は、この様な原因による亀裂損傷を抑えられるものではない。一方、特許文献2に記載された従来技術は、この様な原因による亀裂損傷を抑える事はできるが、その為に、ショット・ピーニング又はターニング加工の工程を新たに追加する必要がある為、製造コストの上昇が問題となる。
特開2005−3061号公報 特開2005−145313号公報 特開2006−143069号公報 特開2007−38804号公報
本発明は、上述の様な事情に鑑み、ハブ本体の中間部外周面に高周波焼き入れにより硬化層を形成するのに伴って、この硬化層よりも径方向内側に存在する内径側部分に発生する残留引っ張り応力の値を小さく抑えたり、更にはこの内径側部分の残留応力を圧縮応力にできる車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法を実現すべく発明したものである。
本発明の製造方法の対象となる車輪支持用転がり軸受ユニットは、外輪と、ハブと、複数の転動体とを備える。
このうちの外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有し、使用時にも回転しない。
又、上記ハブは、外周面に複列の内輪軌道を有し、使用時に車輪と共に回転するもので、ハブ本体と内輪とを結合固定して成る。このうちのハブ本体は、冷間鍛造により造られたもので、軸方向外端寄り部分の外周面に上記車輪を支持固定する為の回転側フランジを、軸方向中間部外周面に軸方向外側の内輪軌道を、それぞれ直接形成すると共に、軸方向外端面の中央部に凹部を形成している。又、上記内輪は、外周面に軸方向内側の内輪軌道を形成したもので、上記ハブ本体の軸方向内端寄り部分に形成された小径段部に外嵌固定されている。そして、このハブ本体の中間部外周面で少なくとも上記軸方向外側の内輪軌道を含む部分に、高周波焼き入れにより硬化層を形成すると共に、上記ハブ本体のうちで、上記回転側フランジの径方向内方に存在する上記凹部の内面を含む、上記硬化層よりも径方向内側に存在する内径側部分を、未焼き入れの部分としている。
更に、上記各転動体は、上記両外輪軌道と上記両内輪軌道との間に、両列毎に複数個ずつ、転動自在に設けられている。
この様な車輪支持用転がり軸受ユニットを造る為に、本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法は、上記ハブ本体の加工工程を工夫する。そして、上記硬化層よりも径方向内側に存在する内径側部分に発生する残留引っ張り応力の値を小さく抑えたり、更には、この内径側部分の残留応力を圧縮応力にする(請求項2に記載した発明の場合)
この為に本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法の発明の場合には、上記硬化層を形成する為に上記ハブ本体の中間部外周面を高周波加熱する際に、上記凹部の内面に、水等の流体を吹き付けて、このハブ本体のうちで上記内径側部分の、上記高周波加熱に基づく温度上昇を抑える。
具体的には、例えば請求項3に記載した発明の様に、上記ハブ本体の軸方向外端部に設けられて凹部を囲む円筒部を支持台上に載置し、この凹部の開口部を塞いで、この凹部を冷却用空間とする。そして、この冷却用空間内に冷却用流体である水等の液体(冷却水)を流通させつつ、上記ハブ本体の中間部外周面を高周波加熱する。
上述の様な構成を有する本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法によれば、ハブ本体の中間部外周面に高周波焼き入れにより硬化層を形成するのに伴って、この硬化層の内径側に存在する内径側部分に発生する残留引っ張り応力の値を小さく抑えたり、更にはこの内径側部分の残留応力を圧縮応力にできる。この結果、この内径側部分を起点とする、上記ハブ本体の亀裂損傷を発生しにくくできる。
即ち、本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法の場合には、硬化層を形成する為の高周波加熱の際に上記内径側部分の温度上昇、延いては、この内径側部分の熱膨張を抑えられる。従って、上記硬化層が形成された後に、この内径側部分が大きく熱収縮する事はない。この為、熱収縮に伴ってこの内径側部分に大きな引っ張り応力が発生する事はない。むしろ、上記硬化層となるべき部分が急冷されて熱収縮する際に、上記内径側部分が圧縮される傾向になる。この結果、この内径側部分に残留圧縮応力を発生させるか、仮にこの内径側部分に残留引っ張り応力が発生した場合でも、その値を小さく抑えられる。更に、本発明の場合には、上記ハブ本体の亀裂損傷の発生を抑える為に、前述した特許文献2に記載された従来技術の様に、新たに工程を追加する必要がない為、この特許文献2に記載された従来技術の場合に比べて、製造コストの上昇を抑えられる。
図1〜2は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本例を含めて本発明の特徴は、ハブ本体9の外周面の軸方向中間部分を高周波焼き入れした後に急冷する事により、当該部分に硬化層15を形成する事に伴って、この硬化層15よりも径方向内側に存在する内径側部分(未焼き入れの部分)に発生する残留引っ張り応力の値を小さく抑えたり、更にはこの内径側部分の残留応力を圧縮応力にすべく、上記高周波焼き入れの際に上記ハブ本体9の一部を冷却する点にある。中炭素鋼等の鉄系合金により造られた素材に、鍛造等の塑性加工、旋削等の削り加工、研磨等の仕上加工を施して、必要な形状及び寸法精度を有するハブ本体9とする手順等に就いては、従来から広く知られている製造方法と同様であるから、説明を省略する。そして、以下の説明は、この高周波焼き入れの際に上記内径側部分に大きな残留引っ張り応力が発生しない様にする方法を中心に行う。
本例の場合、上記硬化層15を形成すべく、上記ハブ本体9の中間部外径寄り部分(外周面及びこの外周面に近い部分)を高周波加熱する際に、このハブ本体9の軸方向外端部に形成した円筒部11の内径側に存在する凹部12の内面に、図1の矢印で示す様に、冷却水を吹き付ける。言い換えれば、この凹部12の内面に向けて冷却水を吐出して、この凹部12の周囲に存在する連続部16のうちでこの凹部12の内面寄り部分の温度上昇を抑えつつ、上記硬化層15を形成すべき部分を高周波加熱する。
この為に、図2に示す様に、上記ハブ本体9を、軸方向外端を下方に向けた状態で、支持台17上に載置する。この際、上記円筒部11の先端部を、この支持台17の上面外周縁部に設けた環状立壁18に内嵌する。この支持台17の中央部には吐出孔19を、この支持台17を上下に貫通する状態で設けており、支持部材を兼ねた送排水管20により、上記吐出孔19に冷却水を供給自在としている。又、上記支持台17上に載置した上記ハブ本体9の中間部周囲に、高周波誘導コイル21を配置自在としている。上記冷却水は、常温の水道水若しくは地下水等で十分であるが、必要であれば、冷凍機により(例えば5〜10℃程度に)冷却したものを使用する事もできる。
上記ハブ本体9の中間部外径寄り部分に上記硬化層15を形成すべく、この中間部外径寄り部分を加熱する際には、上記図2に示す様に、上記ハブ本体9を上記支持台17上に載置する。この状態で、上記凹部12の開口部が塞がれて、この凹部12が冷却用空間とされる。又、上記ハブ本体9の中間部外径寄り部分で上記硬化層15を形成すべき部分の周囲に、上記高周波誘導コイル21を配置する。この状態から、上記送排水管20に設けた給水路22を通じて上記吐出孔19内に冷却水を送り込み、この冷却水をこの吐出孔19から、上記凹部12の内面に向けて(上記冷却用空間内に)吐出する。又、この凹部12内に充満した冷却水を、上記支持台17に設けた図示しない排水孔と、上記送排水管20に設けた図示しない排水路とを通じて排出する。この様に、上記凹部12内に冷却水を流通させる事により、上記ハブ本体9のうちで、連続部16を含む、上記硬化層15となるべき部分の径方向内側に存在する内径側部分を冷却しつつ、上記高周波誘導コイル21に通電し、上記ハブ本体9の中間部外径寄り部分を加熱する。この結果、このハブ本体9のうちで、この中間部外径寄り部分は焼き入れ処理に必要な程度にまで温度上昇するが、上記内径側部分の温度上昇は抑えられる。従って、上記高周波加熱に伴う、この内径側部分の熱膨張も抑えられる。
上記ハブ本体9の中間部外径寄り部分の温度が十分に上昇したならば、このハブ本体9の周囲より上記高周波誘導コイル21を退避させてから、このハブ本体9を上記支持台17から取り外し、上記中間部外径寄り部分を急冷する。この急冷処理は、広く知られている高周波焼き入れ処理の場合と同様である。この急冷処理の結果、上記中間部外径寄り部分に上記硬化層15が形成される。この急冷処理に伴って、この中間部外径寄り部分が急激に熱収縮するが、上記内径側部分の温度は元々低い為、上記硬化層15を形成する為の急冷処理に伴う、この内径側部分の温度低下は、極く限られたものに止まる。この為、熱収縮に伴ってこの内径側部分に大きな引っ張り応力が発生する事はない。むしろ、上記硬化層15となるべき中間部外径寄り部分が急冷されて熱収縮する際に、上記内径側部分が圧縮される傾向になる。この結果、この内径側部分に残留圧縮応力を発生させるか、仮にこの内径側部分に残留引っ張り応力が発生した場合でも、その値を小さく抑えられる。
この様に本例の車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法によれば、上記ハブ本体9の中間部外径寄り部分に硬化層15を形成するのに伴って、この硬化層15の径方向内側に存在する内径側部分に未焼き入れの部分を設け、この部分に大きな引っ張り応力が発生する事を防止できる。この結果、この内径側部分(未焼き入れの部分)を起点とする、上記ハブ本体9の亀裂損傷を発生しにくくできる。更に、本例の場合には、このハブ本体9の亀裂損傷の発生を抑える為に、このハブ本体9の中間部外径寄り部分を高周波加熱すると同時に上記凹部12の内面を冷却し、新たに工程を追加する必要がない為、前述した特許文献2に記載された従来技術の場合に比べて、製造コストの上昇を抑えられる。
本発明の効果を確認する為に行った実験に就いて説明する。実験は、図3の(A)〜(D)に示した4種類の、それぞれが中炭素鋼製であるハブ本体9に関して、中間部外周面部分に硬化層を形成する為の高周波加熱時に、凹部12の内面を冷却(水冷)するか否かが、この凹部12の内面に発生する残留応力の大きさに及ぼす影響を知る為に行った。本実験では、残留応力の測定位置を、凹部12の内面のうちで図3中の矢印が指す部分とした。上記4種類のハブ本体9は、何れも、一般乗用車用のもので、上記凹部12を囲む円筒部11の開口部の内径が48mmである。又、軸方向外端寄り部分の外周面に形成した回転側フランジ8は、図4に示す様な十字形とした。尚、上記図3の(A)〜(D)では、縦横比及び曲面部の曲率半径を、実際に即して(実際のプロポーション通りに)描いてある。
この様な条件下で行った実験の結果を、下記の表1に示す。尚、この表1中で残留応力の値が「+」であるのは引っ張り応力を、「−」であるのは圧縮応力を、それぞれ表している。
Figure 0005223574
この表1に示した実験結果から明らかな通り、本発明の車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法によれば、ハブ本体9の中間部外周面に硬化層15を形成するのに伴って、この硬化層15の径方向内側に存在する内径側部分に、大きな引っ張り応力が発生する事を防止できる{凹部12の形状が(A)である場合}。更には、この内径側部分に圧縮応力を発生させる事もできる{凹部12の形状が(B)(C)(D)である場合}。尚、残留引っ張り応力が亀裂損傷を助長する為、上記ハブ本体9の耐久性確保の面から有害であるのに対して、残留圧縮応力は、亀裂損傷を抑える力として機能する為、上記ハブ本体9の耐久性確保の面から有利である。
又、本発明を実施する場合に、上記高周波加熱時に於ける上記凹部12の内面の冷却が十分であるか否かは、上記硬化層15を形成した後に、この凹部12の内面の色により確認できる。上記冷却が十分である場合には、この内面の色は、円筒部11の先端部や回転側フランジ8の表面等、高周波加熱による温度上昇の影響を受けない部分と同じ色のままとなる。これに対して、上記冷却が不十分である場合には、上記凹部12の内面は、所謂テンパーカラーと呼ばれる、黒ずんだ色彩となる。従って、本発明を実施する場合に、実際に上記凹部12の内面部分の残留応力を測定しなくても、上記硬化層15の形成後にこの凹部12の内面の色彩に基づいて、この残留応力の値の適否(耐久性に悪影響を及ぼす程の残留引っ張り応力が発生しているか否か)を判定できる。
本発明は、ハブ本体を冷間鍛造により造る場合に適用して、特に顕著な効果を得られる。この理由は、冷間鍛造は加工抵抗が大きく、冷間鍛造により造られるハブ本体の内部には、元々大きな残留応力が発生し易い為である。即ち、元々大きな残留応力が存在するハブ本体に、硬化層形成に伴って発生する残留引っ張り応力が加わると、亀裂等の損傷が発生し易くなる。従って、この様な冷間鍛造により造られたハブ本体に本発明を適用すると、損傷の発生防止を有効に図れる。
本発明の実施状況を模式的に示す部分断面図。 同じく縦断面図。 本発明の効果を確認する為に行った実験に使用した4種類のハブ本体の断面図。 図3の(C)のハブ本体を同図の右方から見た図。 本発明の製造方法の対象となる車輪支持用転がり軸受ユニットの1例を示す断面図。 硬化層形成に伴ってハブ本体内部に発生する残留応力を説明する為の半部断面図。 残留引っ張り応力の発生に伴ってハブ本体の耐久性が低下する理由を説明する為の線図。
1 車輪支持用転がり軸受ユニット
2 外輪
3 ハブ
4 転動体
5 外輪軌道
6 静止側フランジ
7 内輪軌道
8 回転側フランジ
9 ハブ本体
10 内輪
11 円筒部
12 凹部
13 小径段部
14 かしめ部
15 硬化層
16 連続部
17 支持台
18 環状立壁
19 吐出孔
20 送排水管
21 高周波誘導コイル
22 給水路

Claims (3)

  1. 内周面に複列の外輪軌道を有し、使用時にも回転しない外輪と、
    外周面に複列の内輪軌道を有し、使用時に車輪と共に回転するハブと、
    これら両内輪軌道と上記両外輪軌道との間に、両列毎に複数個ずつ、転動自在に設けられた転動体とを備え、
    上記ハブは、ハブ本体と内輪とを結合固定して成るものであって、このうちのハブ本体は、冷間鍛造加工により造られたもので、軸方向外端寄り部分の外周面に上記車輪を支持固定する為の回転側フランジを、軸方向中間部外周面に軸方向外側の内輪軌道を、それぞれ直接形成すると共に、軸方向外端面の中央部に凹部を形成したものであり、
    上記内輪は、外周面に軸方向内側の内輪軌道を形成したもので、上記ハブ本体の軸方向内端寄り部分に形成された小径段部に外嵌固定されており、
    上記ハブ本体の中間部外周面で少なくとも上記軸方向外側の内輪軌道を含む部分に、高周波焼き入れにより硬化層を形成すると共に、上記ハブ本体のうちで、上記回転側フランジの径方向内方に存在する上記凹部の内面を含む、上記硬化層よりも径方向内側に存在する内径側部分を、未焼き入れの部分とした車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法であって、
    上記硬化層を形成する為に上記ハブ本体の中間部外周面を高周波加熱する際に、上記凹部の内面に冷却用流体を接触させる事により、このハブ本体のうちで上記硬化層よりも径方向内側に存在する内径側部分の、上記高周波加熱に基づく温度上昇を抑える事を特徴とする車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法。
  2. ハブ本体のうちで、回転側フランジの径方向内方に存在する凹部の内面を含む、硬化層よりも径方向内側に存在する内径側部分に、残留圧縮応力を発生させている、請求項1に記載した車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法。
  3. ハブ本体の軸方向外端部に設けられて凹部を囲む円筒部を支持台上に載置し、この凹部の開口部を塞いで、この凹部を冷却用空間とし、この冷却用空間内に冷却用流体である液体を流通させつつ、ハブ本体の中間部外周面を高周波加熱する、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した車輪支持用転がり軸受ユニットの製造方法。
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