JP5217736B2 - D−乳酸の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、発酵法によるD−乳酸の製造方法に関する。さらに詳しくは、スポロラクトバチルス属に属する細菌を用いた発酵法によるD−乳酸の製造方法に関するものである。
生分解性ポリマーであるポリ乳酸は、CO問題やエネルギー問題の顕在化と共にサスティナビリティー(持続可能性)およびライフサイクルアセスメント(LCA)対応型製品として強い注目を浴びており、その原料である乳酸には効率的で安価な製造法が求められている。
現在主に生産されているポリ乳酸はL−乳酸ポリマーであるが、乳酸にはL−乳酸とD−乳酸の2種類の光学異性体があり、D−乳酸についてもポリマー原料、農薬および医薬の中間体として近年注目が集まりつつある。
自然界には乳酸菌などの乳酸を効率良く生産する微生物が存在し、それらを用いた乳酸製造法が既に確立している。例えば、L−乳酸を効率良く生産させる細菌として、ラクトバシラス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)などがあり(特許文献1と2参照。)、またD−乳酸を効率良く生産させる細菌として、バシラス・ラエボラクティカス(Bacillus laevolacticus)などが高い光学純度でD−乳酸を生産することが知られている(特許文献3参照。)。
また、自然界に存在する乳酸菌の他、乳酸合成酵素を組み込んだ微生物による乳酸の製造方法も知られており、ゲノム情報が豊富で、遺伝子組換え宿主としての実績が十分にある酵母や大腸菌でD−乳酸を生産させる試みがなされている。例えば、大腸菌を組換え宿主として、D−乳酸を生産させた試みが提案されている(特許文献4参照。)。また、既知のラクトバシラス・プランタラム(Lactobacillus plantarmu)由来のD−乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入することにより酵母によってD−乳酸を生産させようとする試みも存在している(特許文献5参照。)。
しかしながら、これまでのD−乳酸の発酵生産では、発酵培地に窒素源が多く含まれることによる高濃度の副生産物の産生が問題となっている。このような高濃度の副生産物は、続く精製プロセスでの費用を高める原因になり、全乳酸生産工程でのコストを上げる可能性があって懸念される。そのため、回分式発酵法または流加式発酵(Fed−Batch)法、連続発酵などのいずれの発酵法でも、より安価でのかつ高収率でのD−乳酸の生産や高い光学純度のD−乳酸の生産と共に副生産物の生産抑制することで更なる効率的な生産方法が望まれ、また飛躍的な生産速度の向上が求められていた。
特開2007−215427号公報 特開2007−215428号公報 特開2003−088392号公報 特開2005−102625号公報 特開2002−136293号公報
そこで本発明の目的は、微生物を用いた発酵法によってD−乳酸を製造するにあたり、安定した高収率および高い光学純度のD−乳酸の生産と共に副生産物の生産を抑制できるD−乳酸の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、鋭意研究の結果、発酵原料に含まれるシステインおよびシステイン以外の窒素源を調節することで減らし、本発明を完成するに至った。すなわち、本願発明は以下の通りである。
(1)スポロラクトバチルス属(Genus Sporolactobacillus)に属する細菌を用いた発酵法によるD−乳酸の製造方法であって、0.6mg/L以上のシステインおよび0.1g/L以上0.5g/L以下のシステイン以外の窒素源を含む発酵原料を用いたD−乳酸の製造方法。
(2)前記細菌がスポロラクトバチルス・ラエボラクティカス(Sporolactobacillus laevolacticus)である(1)に記載のD−乳酸の製造方法。
本発明によれば、発酵生産物であるD−乳酸をより低コストで安定に生産することと共に副生産物の少ない高光学純度のD−乳酸の生産が可能となる。本発明によるD−乳酸の製造方法により得られたD−乳酸は、例えば、酸味料、洗浄剤および医薬品、更にはポリ乳酸樹脂等の原料として有用である。
本発明は、スポロラクトバチルス属(Genus Sporolactobacillus)に属し、D−乳酸を生産する能力を有する細菌(以下、D−乳酸生産菌ともいう)を用いた発酵法によるD−乳酸を製造する方法であって、0.6mg/L以上のシステインおよび0.1g/L以上0.5g/L以下のシステイン以外の窒素源を含む発酵原料を用いたD−乳酸の製造方法である。
発酵原料中のシステインは、D−乳酸生産菌の増殖または生育にとって重要であるが、本発明者らは、発酵原料中に0.6mg/L以上のシステインを加えることで、副生産物の生成が抑制される効果があり、発酵原料中のシステイン濃度が0.6mg/L未満である場合、副生産物が多く生成されてしまうことを見出した。ここでいう副生産物としては、有機酸類とアルコール類などが挙げられ、例えば、有機酸としては、ギ酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸およびクエン酸等が挙げられ、また、アルコールとしては、エタノール、ブタンジオール等が挙げられ、これら副生産物についてはHPLCまたはGCで測定可能である。本発明における発酵原料中のシステイン濃度の上限としては特に限定はないが、微生物の良好な生育と高濃度の乳酸生産、トータルコストの観点から、2000mg/Lであることが好ましい。また、発酵原料中の好ましいシステイン濃度としては0.6〜1500mg/Lであり、より好ましくは0.62〜1000mg/Lである。
また、システイン以外の窒素源はD−乳酸生産菌の良好な生育にとって重要であるが、本発明者らは前記システインの濃度と併せて発酵原料中のシステイン以外の窒素源の濃度を0.1g/L以上0.5g/L以下とすることで、副生産物の生産が抑制されることを見出した。ここでいうシステイン以外の窒素源とは、具体的には、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類あるいは有機窒素源(例えば、油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、システイン以外のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、肉エキス、ペプトン、ポリペプトンS等のタンパク質)、発酵原料中の炭素源(例えば、澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、サトウキビ由来のケーンジュース、ケーンジュース抽出物もしくは濃縮液、ケーンジュースからの精製もしくは結晶化された原料糖または精製糖)に含まれるアミノ酸またはタンパク性の不純物、あるいは酵母エキスなどの各種発酵菌体またはその加水分解物などが挙げられ、これらは単独または組み合わせて使用しても良いが、有機窒素源であることが好ましい。発酵原料中のシステイン以外の窒素源の好ましい濃度としては0.1g/L以上0.45g/L以下である。なお、システイン以外の窒素源には不純物としてシステインが含まれる場合があり、その場合は該窒素源からシステインの含量を差し引いた値をもとに発酵原料中のシステイン以外の窒素源の濃度を計算するものとする。
その他、0.6mg/L以上のシステインおよび0.1g/L以上0.5g/L以下のシステイン以外の窒素源を含む発酵原料を使用することにより、乳酸発酵開始から発酵終了までのD−乳酸生産菌の生育速度を遅らせて長時間にわたり高密度化することができ、更に副生産物の生産を抑えて乳酸生産性を向上させることができる。また、どちらの発酵でも細菌の死滅周期を遅らせ、死滅時に発生する副産物の濃度を少なめにすることができ、特に連続発酵では発酵培養液の分離膜として使用する多孔質膜の閉塞を抑えることができ、乳酸発酵の更なる長期化が可能になって、乳酸発酵の生産効率を上げることができる。
本発明において、0.6mg/L以上のシステインおよび0.1g/L以上0.5g/L以下のシステイン以外の窒素源を含む発酵原料とは、乳酸発酵培地の中に0.6mg/L以上のシステインおよび0.1g/L以上0.5g/L以下のシステイン以外の窒素源が含まれることである。該乳酸発酵培地の好ましい具体的な例として、グルコースと0.1g/Lのシステインおよび0.4g/Lの酵母エキスを含む乳酸発酵培地(以下、GYC1と略すことがある。)、グルコース、0.2g/Lのシステインおよび0.1g/Lの酵母エキスを含む乳酸発酵培地(以下、GYC2と略すことがある。)、グルコース、0.4g/Lのシステインおよび0.1g/Lの酵母エキスを含む乳酸発酵培地(以下、GYC3と略すことがある。)、不純物として0.3重量%のタンパク質を含む原料糖100g/Lおよび0.15g/Lの酵母エキスを含む乳酸発酵培地(以下、RSEと略すことがある。)、該原料糖と0.4g/Lのシステインを含む乳酸発酵培地(以下、RSC1と略すことがある。)、該原料糖と1.0g/Lのシステインを含む乳酸発酵培地(以下、RSC2と略すことがある。)、およびグルコースと0.2g/Lのシステイン、0.4g/Lのポリペプトンを含む乳酸発酵培地(以下、GPCと略すことがある。)等が挙げられる。
上記の乳酸発酵培地は、次のようにして調製することができる。例えば、栄養素のうち、炭素源になる糖と窒素源になるものをグループに分け、グループごとにオートクレーブ処理により滅菌し、常温以下の温度まで冷却した後、窒素が各発酵培地に含んだ濃度になるように調製する。
本発明では、スポロラクトバチルス属(Genus Sporolactobacillus)に属するD−乳酸生産菌を用いることを特徴とする。該D−乳酸生産菌は、自然環境から単離されたものでもよく、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。また、菌株としてATCC等の生物寄託機関より購入することも可能である。
本発明において使用されるD−乳酸生産菌のD−乳酸生産能は特に限定されるものではないが、光学純度90%以上のD−乳酸を生産する能力を有するD−乳酸生産菌であることが好ましい。光学純度90%以上のD−乳酸を生産する能力を有するD−乳酸生産菌は、滅菌した原料糖100g/Lの培養液にスポロラクトバチルス属に属する細菌を接種し、37℃で、静置培養を行い、経時的に培養液中の糖濃度を測定し、糖が完全に消費された後の培養液中に生産された乳酸の光学純度を測定し、D−乳酸の光学純度が90%以上であれば、光学純度90%以上のD−乳酸生産菌であると判断することができる。
本発明において使用されるD−乳酸生産菌の中でも、スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス(Sporolactobacillus laevolacticus)、スポロラクトバチルス・イヌリナス(Sporolactobacillus inulinus)、スポロラクトバチルス・コフエンシス(Sporolactobacillus kofuensis)、スポロラクトバチルス・ナカヤマエ・サブシピ・ナカヤマエ(Sporolactobacillus nakayamae subsp. nakayamae)、スポロラクトバチルス・ナカヤマエ・サブシピ・ラセミカス(Sporolactobacillus nakayamae subsp.racemicus)、スポロラクトバチルス・テラエ(Sporolactobacillus terrae)などが挙げられるが、その中でも、スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス(Sporolactobacillus laevolacticus)が好ましく使用できる。また、スポロラクトバチルス・ラエボラクティカスの菌株としては、ATCC23492、ATCC23493、ATCC23494、ATCC23495、ATCC23496、ATCC223549、IAM12326、IAM12327、IAM12328、IAM12329、IAM12330、IAM12331、IAM12379、DSM2315、DSM6477、DSM6510、DSM6511、DSM6763、DSM6764、DSM6771株が具体例として挙げられるが、好ましくはATCC23492である。
本発明においてD−乳酸生産菌を発酵培養する際、D−乳酸生産菌を好気的条件下で培養してもよいが、嫌気的条件下で行うことが好ましい。スポロラクトバチルス属に属する細菌は好気性または通気性の微生物であるため、通常、通気などを行うことにより好気的条件下で培養するが、好気的条件下では、グルコース等の糖はピルビン酸からクレブス回路を経て代謝されてしまうため、D−乳酸の収率という観点においては嫌気的条件が好ましく採用される。嫌気的条件下で培養を行うためには、静置して行うこともできるが、不活性ガスを通気しながら振とう培養もしくは攪拌培養を行ってもよい。ここでいう不活性ガスとしては、二酸化炭素、窒素、アンモニア、アルゴン等を用いればよく、通気量、通気手段はD−乳酸生産性を考えて、適宜決めればよい。なお、ここでの窒素は嫌気培養を行うために使用するガスであり、本発明におけるシステイン以外の窒素源には該当しない。
また、D−乳酸生産菌を発酵培養する際は発酵原料中に資化可能な炭素源を含み、適温で、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウムまたはアンモニアなどにより中和しながら培養することが好ましい。また、培養時のpHは該D−乳酸生産菌がD−乳酸を生産できる条件であれば特に限定はないが、pH4〜8の範囲内であることが好ましい。また、培養温度は該D−乳酸生産菌がD−乳酸を生産できる条件であれば特に限定はないが、光学純度90%以上の高い光学純度のD−乳酸を生産するための培養温度であることが好ましく、具体的には30℃から45℃までが好ましく、31℃から39℃までがより好ましく、33℃から38℃までがさらに好ましい。
本発明で使用される発酵原料における炭素源としては、D−乳酸生産菌が資化可能な炭素源であれば特に限定はなく、グルコース、アラビノース、セルビオース、ラクトース、メリビオース、サリシン、イヌリン、マンノース、ラフィノース、トレハロース、マンニトール、ソルビトール、シュクロース、フラクトース、ガラクトース、ラクトース、マルトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、ケーンジュース、ケーンジュース抽出物または濃縮液、ケーンジュースからの精製もしくは結晶化された原料糖または精製糖、セルロース由来の糖化液、あるいは糖類以外では酢酸、フマル酸等の有機酸、エタノール等のアルコール類、あるいはグリセリン等が挙げられ、中でもケーンジュースからの精製または結晶化された原料糖は炭素源として好ましく使用される。
前記原料糖としては、ケーンジュースまたはケーン粕に石灰または石灰乳などを加え、加熱して不純物を取り除くまたは連続沈殿させ不純物を除くことで製造される。その後、濃縮させて真空結晶化し、糖蜜と結晶に分離する。その時に結晶として分けられたものを原料糖とする。石灰または石灰乳は不純物を取り除く時に加熱しながら添加しても良い。連続沈殿時および濃縮時には加熱しても良い。真空結晶化して分離された結晶を乾燥してもよい。なお、本発明で用いられる原料糖について特に限定はないが、ムソー株式会社製の“優糖精”が好ましい例として挙げられる。
本発明で使用される発酵原料における炭素源の使用濃度は特に制限されず、D−乳酸の生産を阻害しない範囲であれば可能な限り高い濃度であることが好ましい。通常、炭素源の濃度は、倍地中に1.6(w/v)%以上30(w/v)%以下が好ましく、より好ましくは5(w/v)%以上20(w/v)%以下である。
また、発酵原料中には無機塩類を含んでもよく、無機塩類としては、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩およびマンガン塩等を適宜添加することができる。
その他、本発明で使用されるD−乳酸生産菌が生育のために特定の栄養素を必要とする場合にはその栄養物を標品もしくはそれを含有する天然物として添加する。また、消泡剤も必要に応じて使用することができる。
本発明において前記D−乳酸生産菌を発酵培養する際は、静置もしくは振とう培養、撹拌培養などで行うことができる。さらに、発酵形態としては、従来から知られているいかなる発酵方法、例えば、回分式(Batch)発酵、または流加式(Fed−Batch)発酵、連続発酵、によってでも行うことができるが、発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続および回分または流加培養操作は、培養管理上、通常、単一の発酵反応槽で行うことが好ましい。しかしながら、菌体を増殖しつつ生産物を生成する連続培養法であれば、発酵反応槽の数は問わない。発酵反応槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵反応槽を用いることもあり得る。この場合、複数の発酵反応槽を配管で並列または直列に接続して連続または流加培養を行っても発酵生産物の高生産性は得られる。
本発明を回分式または流加式培養において実施する場合は、培養初期に回分培養または流加培養を行って細菌濃度を高くした後に本培養を開始しても良いし、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに本培養を行っても良い。
本発明を連続培養において実施する場合は、培養初期にBatch培養またはFed−Batch培養を行って細菌濃度を高くした後に連続培養(引き抜き)を開始しても良いし、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続培養を行っても良い。また、菌体を発酵反応槽に維持したままで、発酵反応槽からの発酵培養液の連続的かつ効率的な抜き出しが可能となることから、D−乳酸生産菌を連続的に発酵培養し、十分な増殖を確保した後に発酵原料液組成を変更し、目的とするD−乳酸を効率よく製造することも可能である。連続培養の際の発酵原料供給と発酵培養液の引き抜きの開始時期は、必ずしも同じである必要はなく、発酵原料の供給と発酵培養液の引き抜きは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。発酵原料には、上記に示したような菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。なお、本発明を連続培養において実施する場合の好ましい連続培養方法としては、WO2007/097260に開示される膜利用連続発酵法が好ましく採用される。
本発明の発酵培養液中のD−乳酸生産菌の濃度は、発酵培養液の環境が細菌または培養細胞の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが効率よい生産性を得るのに好ましく、一例として、乾燥重量として5g/L以上に維持することで良好な生産効率が得られる。また、連続発酵装置の運転上の不具合、生産効率の低下を招かなければ、微生物の濃度の上限値は限定されない。
本発明により製造されたD−乳酸の濾過・分離・精製は、従来知られている濃縮、蒸留および晶析などの方法を組み合わせて行うことができる。
D−乳酸の分離・精製方法としては、例えば、濾過・分離発酵液のpHを1以下にしてからジエチルエーテルや酢酸エチル等で抽出する方法、イオン交換樹脂に吸着洗浄した後に溶出する方法、酸触媒の存在下でアルコールと反応させてエステルとし蒸留する方法、およびカルシウム塩やリチウム塩として晶析する方法などが挙げられる。好ましくは、濾過・分離発酵液の水分を蒸発させた濃縮D−乳酸溶液を蒸留操作にかけることができる。ここで、蒸留する際には、蒸留原液の水分濃度が一定になるように水分を供給しながら蒸留することが好ましい。D−乳酸水溶液の留出後は、水分を加熱蒸発することにより濃縮し、目的とする濃度の精製D−乳酸を得ることができる。留出液として低沸点成分(エタノール、酢酸等)を含むD−乳酸水溶液を得た場合は、低沸点成分をD−乳酸濃縮過程で除去することが好ましい態様である。蒸留操作後、留出液について必要に応じて、イオン交換樹脂、活性炭およびクロマト分離等による不純物除去を行い、さらに高純度のD−乳酸を得ることもできる。
本発明によるD−乳酸の製造方法によって得られたD−乳酸は、ポリエステル樹脂の原料に用いられ、それらポリエステル樹脂は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、溶融紡糸およびフィルム成形などの任意の成形方法により、所望の形状に成形することができ、機械部品などの樹脂成形品、衣料・産業資材などの繊維、および包装・磁気記録などのフィルムとして使用することができる。本発明によるD−乳酸の製造方法を用いることにより、これら幅広い用途のあるD−乳酸を効率的に製造することができることから、より安価に乳酸を提供することが可能となる。
以下、本発明のD−乳酸の製造方法をさらに具体的に説明するために回分発酵によるD−乳酸の発酵生産について実施例に基づいて具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されない。
本発明の実施例では、D−乳酸を生産させる細菌として、スポロラクトバチルス属(Genus Sporolactobacillus)に属するD−乳酸生産菌のうち、乳酸菌であるスポロラクトバチルス・ラエボラクティカス(Sporolactobacillus laevolacticus)ATCC23492株を選定した。発酵原料としては上記の乳酸発酵培地(GYC1、GYC2、GYC3、RSE、RSC1、RSC2またはGPC培地)を用いた。D−乳酸濃度のHPLCによる分析方法は次のとおりである。
[D−乳酸濃度のHPLCによる分析方法]
培養液を遠心分離し、得られた上清を膜濾過した後、下記に示す条件でHPLC法により乳酸量を測定した。
[分析条件]
・カラム:Shim−Pack SPR−H(株式会社島津製作所製)
・移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)
・反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)
・検出方法:電気伝導度
・温度:45℃。
また、D−乳酸の光学純度測定は、下記の条件でHPLC法により測定した。
・カラム:TSK−gel Enantio L1(東ソー株式会社製)
・移動相 :1mM 硫酸銅水溶液
・流速:1.0ml/min
・検出方法 :UV254nm
・温度 :30℃。
また、D−乳酸の光学純度は、次式で計算される。
・光学純度(%)=100×(D−L)/(L+D)
ここで、LはL−乳酸の濃度であり、DはD−乳酸の濃度を表す。
D−乳酸生産と同時に生産される副生産物は、有機酸とアルコール類が挙げられる。有機酸としてギ酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸の濃度は上記のD−乳酸濃度の分析時に用いたHPLCにより同様に分析し、F−キット(ロシュ社製)により更に濃度を測定して検定を行った。アルコール類としてエタノールは以下のGCによる方法で測定した。
[GCによる分析方法]
培養液を遠心分離し、得られた上清を膜濾過した後、下記に示す条件により測定した。
・装置:GC−2010(株式会社島津製作所製)
・カラム:TC−1;15m*0.53mm*1.5μm(ジーエルサイエンス社製)
・注入方法:スプリット(30:1)
・キャリアガス:ヘリウム
・メイクアップガス:ヘリウム
・気化室温度:200℃
・カラム温度:100℃
・検出器:FID
・検出器温度:200℃
・線速度:59.2cm/sec。
(参考例1)システイン以外の窒素源に含まれる不純物としてのシステイン含量
以下、本発明の実施例にシステイン以外の窒素源として使用した酵母エキス(BactoTM Yeast Extract(BD社))、ポリペプトンS(日本製薬社)、そして主にスクロースを含み、不純物として0.3重量%のタンパク質を含む原料糖(ムソー株式会社“優糖精”)におけるシステイン含量は、次に示す条件で次のアミノ酸分析計を用いて測定した。
[酵母エキスとポリペプトンSのアミノ酸分析計によるシステインの分析方法]
上記の酵母エキスとポリペプトンSの前処理のため、各0.2201gと0.1229gを採取し、精製水に溶解して酵母エキスは12.01mlに、ポリペプトンSは12.29mlにした。その後、試料溶液450μlを別のチューブに採取し、その溶液に20%スルホサリチル酸50μlを添加して攪拌を行った。続いて、0.22μmのフィルターによりろ過して50μlを採取した。各サンプル濃度を更に10倍したものも用意し、それらを分析試料とし、L−8500形のアミノ酸分析計を用い、次の条件によりシステインの含量を測定した。
[分析条件]
・アミノ酸分析計:L−8500形(株式会社日立製作所製)
・カラム:強酸性イオン交換樹脂 #2620M SC(株式会社日立製作所)4.6mm I.D.×8cm
・移動相:緩衝液PS−1、PS−3、PS−4及びPS−RG(L−8500形日立高速アミノ酸分析計用、和光純薬工業株式会社製)
・移動相流速:0.19mL/min
・反応溶液:ニンヒドリン試液−L8500セット(ニンヒドリン溶液、緩衝液)(L−8500形日立高速アミノ酸分析計用、和光純薬工業株式会社製)
・反応溶液流速:0.2mL/min
・化学反応槽温度:130℃
・反応時間:50秒
・検出波長:570nm、440nm
・試料注入量:50μl。
[原料糖のアミノ酸分析計によるシステインの分析方法]
原料糖の前処理のため、水1Lに100gの原料糖を溶かし、180μlを採取して20%スルホサリチル酸20μlを添加して攪拌を行った。続いて、0.22μmのフィルターによりろ過して25μlを採取し、それを分析試料とし、L−8800A形のアミノ酸分析計を用い、次の条件によりシステインの含量を測定した。
[分析条件]
・アミノ酸分析計:L−8800A形(株式会社日立製作所製)
・カラム:日立カスタムイオン交換樹脂 #2622(株式会社日立製作所製)6mm×25mm×2本
・アンモニアフィルタカラム:日立カスタムイオン交換樹脂#2650(株式会社日立製作所製)4.6mm×60mm
・移動相:L−8500緩衝液PF−1、PF−2、PF−3、PF−4、L−8500カラム再生液PF(L−8500形日立高速アミノ酸分析計用、和光純薬工業株式会社製)
・反応溶液:ニンヒドリン試液ワコーニンヒドリン試液−L8500セット(ニンヒドリン溶液、緩衝液)(L−8500形日立高速アミノ酸分析計用、和光純薬工業株式会社製)
・化学反応槽温度:135℃
・検出波長:570nm,440nm
・試料注入量:25μl。
上記分析により、上記の酵母エキスが含むシステインは酵母エキス1gあたり1.11mgであり、ポリペプトンSが含むシステインはポリペプトンS1gあたり0.48mg、原料糖100gが含むシステインは0.48mgであった。
(実施例1)バッチ発酵によるD−乳酸の製造(その1)
スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス ATCC23492株を、試験管で5mlの窒素ガスでパージしたGYC1倍地で24時間、30℃の温度で静置培養した(前培養)。前培養液を同培地で植菌し、37℃、120rpmで培養終了まで振とう培養した。
150時間の発酵試験を行った結果、光学純度の向上が見られて99%以上、かつ生産収率が90%であった。また副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成されたが、副生産物の濃度は0.4g/Lと非常に低濃度であり、比較例と比べて1/3以上に副生産物の生産を削減できた(表1)。
上記のGYC1倍地は、水1Lに100gのグルコースと0.1gのシステイン、システイン以外の窒素源として0.4gの酵母エキス、さらにリン源として0.2gのリン酸二水素カリウムを溶かして調製し、GYC1とした。
(実施例2)バッチ発酵によるD−乳酸の製造(その2)
スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス ATCC23492株を、試験管で5mlの窒素ガスでパージしたGYC2倍地で24時間、30℃の温度で静置培養した(前培養)。前培養液を同培地で植菌し、37℃、120rpmで培養終了まで振とう培養した。
160時間の発酵試験を行った結果、光学純度の向上が見られて99%以上、かつ生産収率が93%であった。また副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成されたが、副生産物の濃度は0.1g/Lと非常に低濃度であり、比較例と比べて1/15以上に副生産物の生産を削減できた(表1)。
上記のGYC2倍地は、水1Lに100gのグルコースと0.2gのシステイン、システイン以外の窒素源として0.1gの酵母エキス、0.2gのリン酸二水素カリウムを溶かして調製し、GYC2とした。
(実施例3)バッチ発酵によるD−乳酸の製造(その3)
スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス ATCC23492株を、試験管で5mlの窒素ガスでパージしたGYC3倍地で24時間、30℃の温度で静置培養した(前培養)。前培養液を同培地で植菌し、37℃、120rpmで培養終了まで振とう培養した。
150時間の発酵試験を行った結果、光学純度の向上が見られて99%以上、かつ生産収率が95%であった。また副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成されたが、副生産物の濃度は0.1g/Lと非常に低濃度であり、比較例と比べて1/15以上に副生産物の生産を削減できた(表1)。
上記のGYC3倍地は、水1Lに100gのグルコースと0.4gのシステイン、システイン以外の窒素源として0.1gの酵母エキス、0.2gのリン酸二水素カリウムを溶かして調製し、GYC3とした。
(実施例4)バッチ発酵によるD−乳酸の製造(その4)
スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス ATCC23492株を、試験管で5mlの窒素ガスでパージしたRSE倍地で24時間、30℃の温度で静置培養した(前培養)。前培養液を同培地で植菌し、37℃、120rpmで培養終了まで振とう培養した。
180時間の発酵試験を行った結果、光学純度の向上が見られて99%以上、かつ生産収率が90%であった。また副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成されたが、副生産物の濃度は0.5g/Lと非常に低濃度であり、比較例と比べて1/3以上に副生産物の生産を削減できた(表1)。
上記のRSE培地は、水1Lに100gの原料糖(ムソー株式会社“優糖精”)と0.15gの酵母エキス、0.2gのリン酸二水素カリウムを溶かして調製し、RSEとした。なお、原料糖100gにはシステインが0.48mg含まれているため、RSE培地には0.65mg/Lのシステインが含まれる。また、システイン以外の窒素源は0.45g/L含まれる。
(実施例5)バッチ発酵によるD−乳酸の製造(その5)
スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス ATCC23492株を、試験管で5mlの窒素ガスでパージしたGPC倍地で24時間、30℃の温度で静置培養した(前培養)。前培養液を同培地で植菌し、37℃、120rpmで培養終了まで振とう培養した。
160時間の発酵試験を行った結果、光学純度の向上が見られて99%以上、かつ生産収率が90%であった。また副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成されたが、副生産物の濃度は0.5g/Lと非常に低濃度であり、比較例と比べて1/3以上に副生産物の生産を削減できた(表1)。
上記のGPC倍地は、水1Lに100gのグルコースと0.2gのシステイン、システイン以外の窒素源として0.4gのポリペプトンS、リン源として0.2gのリン酸二水素カリウムを溶かして調製し、GPCとした。
(実施例6)Fed−Batch発酵によるD−乳酸の製造(その6)
スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス ATCC23492株を、試験管で5mlの窒素ガスでパージしたRSE培地で24時間、30℃の温度で静置培養した(前々培養)。前培養液を同培地で植菌し、37℃、120rpmで培養終了まで振とう培養した。残存総糖濃度を測り、残存糖の濃度が0.5g/Lになっていることを確認し、培養液200mlを、別の発酵槽で用意したRSC1培地800mlに植菌し、37℃、120rpmで培養終了まで振とう培養した。
150時間の発酵試験を行った結果、光学純度の向上が見られて99%以上、かつ生産収率が95%であった。また副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成されたが、副生産物の濃度は0.3g/Lと非常に低濃度であり、比較例と比べて1/5以上に副生産物の生産を削減できた(表1)。
上記のRSC1培地は、水1Lに、100gの原料糖(ムソー株式会社“優糖精”)、0.4gのシステイン、0.2gのリン酸二水素カリウムを溶かして調製し、RSC1とした。なお、原料糖には0.3重量%のタンパク質が不純物として含まれるため、RSC1培地にはシステイン以外の窒素源が0.3g/L含まれている。
(実施例7)Fed−Batch発酵によるD−乳酸の製造(その7)
スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス ATCC 23492株を、試験管で5mlの窒素ガスでパージしたRSE培地で24時間、30℃の温度で静置培養した(前々培養)。前培養液を同培地で植菌し、37℃、120rpmで培養終了まで振とう培養した。残存総糖濃度を測り、残存糖の濃度が0.5g/Lになっていることを確認し、培養液200mlを、別の発酵槽で用意したRSC2培地800mlに植菌し、37℃、120rpmで培養終了まで振とう培養した。
150時間の発酵試験を行った結果、光学純度の向上が見られて99%以上、かつ生産収率が95%であった。また副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成されたが、副生産物の濃度は0.4g/Lと非常に低濃度であり、比較例と比べて1/3以上に副生産物の生産を削減できた(表1)。
上記のRSC2培地は、水1Lに、100gの原料糖(ムソー株式会社“優糖精”)、0.4gのシステイン、0.2gのリン酸二水素カリウムを溶かして調製し、RSC2とした。なお、原料糖には0.3重量%のタンパク質が不純物として含まれるため、RSC2培地にはシステイン以外の窒素源が0.3g/L含まれている。
(比較例1)バッチ発酵によるD−乳酸の製造(その8)
水1Lに100gのグルコースと0.5gの酵母エキスを溶かして作製したGY1培地を使用する他は、実施例1と同様にして、バッチ発酵試験を行った。添加した酵母エキス1gあたりに1.11mgのシステインが含まれることから、GY1培地には0.56mg/Lのシステインが含まれる。
220時間の発酵試験を行った結果、光学純度が97%以下であり、副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成され、発酵液中の副産物濃度は1.5g/L以上と多く生産された(表1)。
(比較例2)バッチ発酵によるD−乳酸の製造(その9)
水1Lに100gのグルコースと1gの酵母エキスを溶かして作製したGY2培地を使用する他は、実施例1と同様にして、バッチ発酵試験を行った。添加した酵母エキス1gあたりに1.11mgのシステインが含まれることから、GY2培地には1.11mg/Lのシステインが含まれる。
180時間の発酵試験を行った結果、光学純度が97.5%であったが、副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成され、発酵液中の副産物濃度は2g/L以上と多く生産された(表1)。
(比較例3)バッチ発酵によるD−乳酸の製造(その10)
水1Lに100gのグルコースと5gの酵母エキスを溶かして作製したGY3培地を使用する他は、実施例1と同様にして、バッチ発酵試験を行った。添加した酵母エキス1gあたりに1.11mgのシステインが含まれることから、GY3培地には5.55mg/Lのシステインが含まれる。
160時間の発酵試験を行った結果、光学純度が97.9%であったが、副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成され、発酵液中の副産物濃度は5g/L以上と多く生産された(表1)。
Figure 0005217736
以下、本発明のD−乳酸の製造方法をさらに具体的に説明するためにWO2007/097260に開示される連続発酵装置を用いることによる連続的なD−乳酸の発酵生産について実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
(実施例8)連続発酵によるD−乳酸の製造(その1)
図1に示す連続発酵装置を稼働させることにより、D−乳酸が連続発酵で得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。培地にはGYC1を用い、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌処理して用いた。分離膜エレメントとしては図3に示される形態を採用し、分離膜には、WO2007/097260の参考例2に従って作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする多孔性膜、分離膜エレメント部材には、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成形品を用いた。この多孔性膜の特性を調べたところ、平均細孔径が0.1μmであり、純水透過係数が50×10-9/m/s/paであった。この実施例8における運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
[運転条件]
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
・温度調整:35(℃)
・発酵反応槽通気量:100(mL/分)
・発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
・滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽、および使用培地は総て121℃、20分のオートクレーブにより高圧蒸気滅菌
・pH調整:8N 水酸化カルシウムによりpHを6.0に調整
・膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
発酵培養液に含まれるD−乳酸は、上記HPLC法により乳酸量を測定することで確認した。
まず、スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス ATCC23492株を、試験管で5mlの窒素ガスでパージした上記比較例2のGY2倍地で24時間、30℃の温度で静置培養した(前々々培養)。得られた培養液を窒素ガスでパージした新鮮な乳酸発酵培地GYC150mlに植菌し、48時間、30℃の温度で静置培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示す連続発酵装置の窒素ガスでパージした1Lの乳酸発酵培地GYC1に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって800rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と35℃の温度に温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、GYC1倍地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵培養液量を1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、37℃での連続発酵によるD−乳酸の製造を行った。このとき、気体供給装置から窒素ガスを発酵反応槽1内に供給し、排出されたガスを回収して再度発酵反応槽1に供給した。すなわち、窒素ガスを含む気体のリサイクル供給を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、発酵反応槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、膜透過発酵液中の生産されたD−乳酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。
500時間の発酵試験を行った結果、この連続発酵装置を用いることにより、安価で、且つ99%以上の高い光学純度の安定したD−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成されたが、副生産物の濃度は0.3g/Lと少なく、比較例と比べて1/5以上に削減することができた(表2)。
(実施例9)連続発酵によるD−乳酸の製造(その2)
図2に示す連続発酵装置を稼働させることにより、D−乳酸がで得られるかどうかを調べるため、同装置を用いた連続発酵試験を行った。培地にはGYC3を用い、121℃の温度で15分間高圧蒸気滅菌処理して用いた。分離膜と分離膜エレメントは実施例8のものを使用した。この実施例9における運転条件は、特に断らない限り下記のとおりである。
[運転条件]
・発酵反応槽容量:1.5(L)
・使用分離膜:PVDF濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
・温度調整:37(℃)
・発酵反応槽通気量:100(L/分)
・発酵反応槽攪拌速度:800(rpm)
・滅菌:分離膜エレメントを含む培養槽、および使用培地は総て121℃、20分のオートクレーブにより高圧蒸気滅菌
・pH調整:8N 水酸化カルシウムによりpHを6.0に調整
・膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
生産物であるD−乳酸およびグルコースは、実施例8に示す方法で測定した。
まず、スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス ATCC23492株を、試験管で5mlの窒素ガスでパージしたGY2倍地で24時間、30℃の温度で静置培養した(前々々培養)。得られた培養液を窒素ガスでパージした新鮮な乳酸発酵培地としてGYC3倍地50mlに植菌し、48時間、30℃の温度で静置培養した(前々培養)。前々培養液を、図2に示す膜分離型連続発酵装置の窒素ガスでパージした1Lの乳酸発酵培地GYC3に植菌し、発酵反応槽1を付属の攪拌機5によって800rpmで攪拌し、発酵反応槽1の通気量の調整と37℃の温度に温度調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、連続・バッチ発酵培地としてGYC3の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵培養液量を1.5Lとなるように膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるD−乳酸の製造を行った。このとき、気体供給装置から窒素ガスを発酵反応槽1内に供給し、排出されたガスを回収して再度発酵反応槽1に供給した。すなわち、窒素ガスを含む気体のリサイクル供給を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、水頭差制御装置3により、発酵反応槽水頭を最大2m以内、すなわち膜間差圧が20kPa以内となるように適宜水頭差を変化させることにより行った。適宜、膜透過発酵培養液中の生産されたD−乳酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。
500時間の発酵試験を行った結果、この連続発酵装置を用いることにより、安価で、且つ99%以上の高い光学純度の安定したD−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成されたが、副生産物の濃度は0.1g/Lと少なく、比較例と比べて1/15以上に削減することができた(表2)。
(実施例10)連続発酵によるD−乳酸の製造(その3)
実施例8で使用した多孔性膜の代わりに、分離膜としてWO2007/097260の参考例13に従って作製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする中空糸膜を用いた。分離膜エレメントとしては図4に示される形態を採用した。またGPC培地を用いた他は、実施例8と同様にして、連続発酵試験を行った。
500時間の発酵試験を行った結果、この連続発酵装置を用いることにより、安価で、且つ99%以上の高い光学純度の安定したD−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成されたが、副生産物の濃度は0.45g/Lと少なく、比較例と比べて1/3以上に削減することができた(表2)。
(実施例11)連続発酵によるD−乳酸の製造(その4)
分離膜エレメントとして実施例10のものを使用し、RSC1培地を使用する他は、実施例9と同様にして、連続発酵試験を行った。
500時間の発酵試験を行った結果、この連続発酵装置を用いることにより、安価で、且つ99%以上の高い光学純度の安定したD−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成されたが、副生産物の濃度は0.3g/Lと少なく、比較例と比べて1/5以上に削減することができた(表2)。
(実施例12)連続発酵によるD−乳酸の製造(その5)
RSE培地を用いた他は、実施例11と同様にして、連続発酵試験を行った。500時間の発酵試験を行った結果、この連続発酵装置を用いることにより、安価で、且つ99%以上の高い光学純度の安定したD−乳酸の連続発酵による製造が可能であることを確認することができた。副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成されたが、副生産物の濃度は0.45g/Lと少なく、比較例と比べて1/3以上に削減することができた。
(比較例4)連続発酵によるD−乳酸の製造(その6)
比較例1のGY1培地を使用する他は、実施例8と同様にして、連続発酵試験を行った。200時間の発酵試験を行った結果、光学純度が88%以下であり、発酵液中の糖も消費されず多くの糖が残存してしまった。副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成され、副生産物の濃度は1.5g/Lと多く生産されていた(表2)。
(比較例5)連続発酵によるD−乳酸の製造(その7)
比較例2のGY2培地を使用する他は、実施例8と同様にして、連続発酵試験を行った。200時間の発酵試験を行った結果、光学純度が99%であり、発酵液中の糖も消費されず多くの糖が残存してしまった。副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成され、副生産物の濃度は1.7g/Lと多く生産されていた(表2)。
(比較例6)連続発酵によるD−乳酸の製造(その8)
水1Lに100gの原料糖と1gの酵母エキスを溶かして作製したRSE1培地(システインを1.59mg/L含有する)を使用する他は、実施例8と同様にして、連続発酵試験を行った。200時間の発酵試験を行った結果、光学純度が99.2%であり、発酵液中の糖も消費されず多くの糖が残存してしまった。副生産物としてはピルビン酸、酢酸、ギ酸およびエタノールが生成され、副生産物の濃度は1.7g/Lと多く生産されていた。
Figure 0005217736
実施例および比較例から、バッチ発酵で副生産物の生産を大幅に低減しながら乳酸の生産が可能であることが明らかになった。また、Fed−Batch発酵でも、副生産物生産の低減や高い乳酸生産収率かつ高い光学純度のD−乳酸生産が可能であることが明らかになった。更に、図1および図2の膜分離型の連続発酵装置を用いる連続発酵により、副生産物の生産を大幅に低減しながら乳酸の生産速度や光学純度が大幅に向上することが明らかになった。すなわち、本発明によって開示された多孔性膜を組み込んだ膜分離型の連続発酵装置を用い、膜間差圧を制御することにより、発酵培養液を分離膜によって濾液と未濾過液に分離し、濾液から所望の発酵生産物を回収するとともに、未濾過液を発酵培養液に戻す連続発酵方法を可能とし、微生物量を高く維持しながら、連続発酵によるD−乳酸の製造が可能であることが明らかとなった。更に、低濃度の窒素を含んだ乳酸発酵培地を用いることで今まで行ってきた従来のD−乳酸の製造より低コスト、且つ副生産物の生産を低減し、D−乳酸の光学純度を向上させることと共に高い光学純度のD−乳酸の生産を維持しながらの長期間のD−乳酸の製造が可能であることが明らかとなった。
本発明によるD−乳酸の製造方法によれば、システインと低濃度の窒素を含む発酵培地を用いることと簡便な操作条件で、D−乳酸の高生産性およびD−乳酸の光学純度を向上させることと共に高い光学純度のD−乳酸の生産が可能となり、副生産物の濃度も低減させることも可能となった。広く発酵工業において、発酵生産物であるD−乳酸を高い光学純度での生産および副生産物の濃度の低減、且つ天然バイオマスを用いることによる低コストで安定に生産することが可能となる。本発明によるD−乳酸の製造法により得られたD−乳酸は、例えば、ポリ乳酸樹脂の原料として有用である。
図1は、本発明で用いられる膜分離型の連続発酵装置の一つの実施の形態を説明するための概要側面図である。 図2は、本発明で用いられる他の膜分離型の連続発酵装置の一つの実施の形態を説明するための概要側面図である。 図3は、本発明で用いられる多孔性膜を利用した分離膜エレメントの一つの実施の形態を説明するための概要斜視図である。 図4は、本発明で用いられる中空糸膜を利用した分離膜エレメントの一つの実施の形態を説明するための概要斜視図である。
符号の説明
1 発酵反応槽
2 分離膜エレメント
3 水頭差制御装置
4 気体供給装置
5 攪拌機
6 レベルセンサ
7 培地供給ポンプ
8 pH調整溶液供給ポンプ
9 pHセンサ・制御装置
10 温度調節器
11 発酵液循環ポンプ
12 膜分離槽
13 支持板
14 流路材
15 分離膜
16 凹部
17 集水パイプ
18 分離膜束
19 上部樹脂封止層
20 下部樹脂封止層
21 支持フレーム
22 集水パイプ

Claims (2)

  1. スポロラクトバチルス属(Genus Sporolactobacillus)に属する細菌を用いた発酵法によるD−乳酸の製造方法であって、0.6mg/L以上のシステインおよび0.1g/L以上0.5g/L以下のシステイン以外の窒素源を含む発酵原料を用いたD−乳酸の製造方法。
  2. 前記細菌がスポロラクトバチルス・ラエボラクティカス(Sporolactobacillus laevolacticus)である請求項1に記載のD−乳酸の製造方法。
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