ところで、上述した不揮発性記憶装置の情報の書き換え動作の際、即ち、第1電極と第2電極の間に電気的パルスを印加して可変抵抗体の抵抗を所定の抵抗値に到達させるまでの間に、可変抵抗素子には過渡電流が流れる。この電流は、抵抗の変化方向によって、書き込み電流或いは消去電流と称される(以下では適宜「書き込み電流」と総称する)。例えば、可変抵抗体の材料として遷移金属元素の酸化物を用いた場合、NiOを用いた非特許文献3では、0.3×0.7μm2の電極面積で、書き込み電流は1mA程度であると報告されている。この電流の多寡は可変抵抗体の電気的に寄与する領域の面積に応じているので、当該面積を縮小すれば書き込み電流を抑制することができ、不揮発性記憶装置としての消費電流を抑制することができる。
又、一般に可変抵抗体の結晶性が良いと安定したスイッチング動作のメモリ素子を再現性良く達成できるが、この結晶性の向上は可変抵抗体の抵抗値を相対的に下げてしまう。可変抵抗体の抵抗値は可変抵抗体の電気的に寄与する領域の面積に反比例するので、当該面積が大きいと可変抵抗素子の抵抗は小さくなる。この場合、1T1R型のメモリセルでは、制御トランジスタのオン抵抗よりも可変抵抗素子の抵抗が著しく小さくなると、可変抵抗体に十分な電圧が印加されず、書き込みがなされない等の問題が発生する。
従って、可変抵抗体の電気的に寄与する領域の面積を小さくできれば、消費電流を抑制でき、かつ書き込み不能とならない安定したスイッチング動作のメモリ素子を再現性良く作成することが可能となる。
しかしながら、従来の抵抗変化素子においては、可変抵抗体の電気的に寄与する領域の面積は、可変抵抗体を挟んで向かい合う2つの電極が重なり合う領域の面積で規定される。即ち、図8の構成の場合、可変抵抗体102を挟む、第1電極101と第2電極103の交差領域の面積で規定されることとなる。このため、可変抵抗体の電気的に寄与する領域の面積はこれら電極等の製造プロセスで規定される最小加工寸法(フォトリソグラフィの解像能力やエッチングの加工能力等の製造プロセスで決定される最小の形成可能加工線幅寸法或いは最小の形成可能加工間隔寸法)に制約されることとなり、縮小化の上でその達成できうる面積には制限がある。
本発明は、上記の問題点に鑑み、従来構成よりも書き込み時(消去時)の消費電流を更に低減することができる可変抵抗素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するための本発明に係る可変抵抗素子は、第1電極と第2電極の間に可変抵抗体が狭持され、前記第1電極と前記第2電極の間に電圧パルスが印加されることで両電極間の電気抵抗が変化する可変抵抗素子であって、前記可変抵抗体が、遷移金属又はその窒化物からなる第1材料の酸化物で構成される第1領域と、前記第1材料の酸化物よりもエネルギーバンドギャップが大きい材料で構成される第2領域と、を有し、
複数の前記第2領域が周囲を前記第1領域に囲まれた形で前記可変抵抗体内に分散して形成されていることを第1の特徴とする。
本発明に係る可変抵抗素子の上記第1の特徴構成によれば、可変抵抗体が、遷移金属又はその窒化物からなる第1材料の酸化物で構成される第1領域と、前記第1領域よりもエネルギーバンドギャップの大きい第2領域とを有する構成である。これは、言い換えれば、可変抵抗体内においては、電流の流れやすい第1領域と電流の流れにくい第2領域が構成されていることを意味するものである。従って、第1電極と第2電極の間にパルス電圧を印加した場合、電流は、電流の流れやすい第1領域内を通過する(狭窄される)。そして、この第1領域は、遷移金属又はその窒化物からなる第1材料の酸化物、即ち、パルス電圧印加によって抵抗値を変化させる性質を有する材料で構成されており、まさに可変抵抗体として作用する部分である。
可変抵抗体内に第1領域と第2領域が形成されることより、可変抵抗体を挟んで第1電極と第2電極とが交差する領域の面積と比較して、電流を流す領域である第1領域が第1電極並びに第2電極と接触する面積は減少する。即ち、このことは、可変抵抗体を挟んで第1電極と第2電極が交差する面積よりも、本発明に係る可変抵抗素子が備える可変抵抗体が電気的に寄与する面積が減少していることを表している。電気的に寄与する面積が減少すればするほど、書き込み時の消費電流が減少することから、本発明に係る可変抵抗素子のような構成とすることで、従来構成よりも書き込み時の消費電流を減少させることができる。
更に、上記第1の特徴構成とすることで、予め第1材料と第2材料を含む材料膜を成膜し、これを酸化処理することで、第1領域と第2領域とを有する可変抵抗体を形成することができる。これにより、予め第1材料と第2材料を含む材料膜を準備しさえすれば、簡易な工程で書き込み時の消費電流を低減した可変抵抗素子を製造することができる。
又、本発明に係る可変抵抗素子は、上記第1の特徴構成に加えて、前記第2領域が、遷移金属以外の金属若しくはその窒化物、又は半導体元素若しくはその窒化物からなる第2材料の酸化物で構成されることを第2の特徴とする。
又、本発明に係る可変抵抗素子は、上記第2の特徴構成に加えて、前記第1材料がTiであり、前記第2材料がSiであることを第3の特徴とする。
又、本発明に係る可変抵抗素子は、上記第2の特徴構成に加えて、前記第1材料が、前記第2材料よりも所定温度下における酸化物生成自由エネルギーが小さいことを第4の特徴とする。
本発明に係る可変抵抗素子の上記第4の特徴構成によれば、製造時に、第2材料をドープした第1材料を成膜後、第1材料が第2材料よりも酸化物生成自由エネルギーが小さくなる温度条件下で酸化処理を施すことで、確実に第2材料の酸化物からなる第2領域を第1領域に形成させることが可能となる。これにより、簡易な工程で書き込み時の消費電流を低減した可変抵抗素子を製造することができる。
又、本発明に係る可変抵抗素子は、上記第4の特徴構成に加えて、前記第1材料がTiであり、前記第2材料がAlであることを第5の特徴とする。
又、本発明に係る可変抵抗素子の製造方法は、第1電極と第2電極の間に可変抵抗体が狭持され、前記第1電極と前記第2電極の間に電圧パルスが印加されることで両電極間の電気抵抗が変化する可変抵抗素子の製造方法であって、遷移金属又はその窒化物からなる第1材料と、遷移金属以外の金属若しくはその窒化物、又は半導体元素若しくはその窒化物からなる材料であって、その酸化物が前記第1材料の酸化物よりもエネルギーバンドギャップが大きい第2材料とを含む第1電極材料膜を成膜して所定のパターンに成形する第1工程と、前記第1工程終了後、前記第1電極材料膜の上面に層間絶縁膜を形成した後、前記層間絶縁膜の一部を開口して前記第1電極材料膜の一部上面を露出させる第2工程と、前記第2工程終了後、露出された前記第1電極材料膜に対して酸化処理を施して、酸化されていない前記第1電極材料膜に接触するように、前記第1材料の酸化物と前記第2材料の酸化物とが混在してなる前記可変抵抗体を形成する第3工程と、前記第3工程終了後、少なくとも前記可変抵抗体に接触するよう上面に遷移金属又はその窒化物からなる第2電極材料膜を成膜して所定のパターンに成形する第4工程と、を有し、酸化されていない前記第1電極材料膜からなる前記第1電極、酸化された前記第1電極材料膜からなる前記可変抵抗体、並びに前記第2電極材料膜からなる前記第2電極を形成することを第1の特徴とする。
本発明に係る可変抵抗素子の製造方法の上記第1の特徴によれば、遷移金属又はその窒化物からなる第1材料の酸化物で構成される第1領域と、前記第1領域よりもエネルギーバンドギャップの大きい第2領域とを有する可変抵抗体を備える可変抵抗素子が製造される。これにより、従来構成よりも電気的に寄与する面積が減少した可変抵抗素子を製造することができる。しかも、予め第1材料と第2材料を含む材料膜を準備しておくことで、従来と同様の簡易な工程で書き込み時の消費電流を低減した可変抵抗素子を製造することができる。
又、本発明に係る可変抵抗素子の製造方法は、上記第1の特徴に加えて、前記第1電極材料膜が、前記第1材料からなる材料膜に前記第2材料がドープされて形成されたことを第2の特徴とする。
本発明に係る可変抵抗素子の製造方法の上記第2の特徴によれば、簡易な方法で第1材料と第2材料を含む材料膜を形成することができる。又、かかる方法で材料膜を形成することで、前記第3工程に係る酸化処理終了時に、第1領域内に第2領域を分散して形成させることができ、消費電流の低減効果を高めることができる。
又、本発明に係る可変抵抗素子の製造方法は、上記第2の特徴に加えて、前記第1電極材料膜が、Ti膜にSi又はAlがドープされて形成されたことを第3の特徴とする。
本発明の構成によれば、可変抵抗体の電気的に寄与する領域である、第1及び第2電極間に電圧を印加した際に可変抵抗体を介して流れる電流路が、第1及び第2電極の何れの電極の接触面積で規定された面積よりも小さくなるように形成される。これにより、従来構成と比べて、書込時、消去時の消費電流を更に低減させることができ、低抵抗による書込み不良の起こらない安定したスイッチング動作のメモリ素子を再現性良く形成できる。
以下において、本発明に係る可変抵抗素子(以下、適宜「本発明素子」という)及びその製造方法(以下、適宜「本発明方法」という)の実施形態について図面を参照して説明する。
[基本概念の説明]
まず、本発明の実施形態を説明する前に、本発明を構成する基本概念について図1〜図4の各図を参照して説明を行う。
図1は、本発明の基本概念を構成する可変抵抗素子の概略断面図である。図1(a)〜(e)に示す可変抵抗素子20a〜20eは、何れも、第1電極21、可変抵抗体22、第2電極23、層間絶縁膜24・27、コンタクトプラグ31・32を備えて構成される。尚、各可変抵抗素子20a〜20eは、可変抵抗体22と第1電極21との接触領域数が夫々異なる。即ち、図1(a)に示す各可変抵抗素子20aは、可変抵抗体22と第1電極21との接触領域数が1であり、以下、20b〜20eに進むに連れ、接触領域数が2〜5に増加している。尚、図中では、可変抵抗体22を挟んで第1電極21と第2電極23とが交差する領域を「領域A」と付している。
次に、図1(a)に示す可変抵抗素子20aの製造方法を説明する。図2は、可変抵抗素子20aを製造する際の各工程における概略断面構造図を模式的に示したものであり、工程毎に図2(a)〜(h)に分けて図示している。又、図3は可変抵抗素子20aの製造工程をフローチャートにしたものであり、以下の文中の各ステップS1〜S9は、図3に示されるフローチャートの各ステップを表すものとする。尚、図1以下に示される各概略断面構造図は、あくまで模式的に図示されたものであるため、実際の構造の寸法比と図面の寸法比とは必ずしも一致するものではない。
まず、図2(a)に示すように、下地基板(不図示)上にTiNで構成される導電性材料膜21(以下、適宜「TiN膜21」という)をスパッタ法にて膜厚200nm程度の厚みで堆積し、公知のフォトリソグラフィ技術によって形成したレジストをマスクとして、公知のエッチング技術によって第1電極21を形成する(ステップS1)。
次に、図2(b)に示すように、TiN膜21上にSiO2で構成される層間絶縁膜24をCVD法にて300nm程度の厚みで全面に堆積する(ステップS2)。
次に、図2(c)に示すように、公知のフォトリソグラフィ技術によって形成したレジストをマスクに、公知のエッチング技術によって、層間絶縁膜24にホール直径200nm程度でTiN膜21が露出するまで開口部25をパターニングする(ステップS3)。
次に、図2(d)に示すように、TiNで構成される導電性材料膜23(以下、適宜「TiN膜23」という)を、スパッタ法にて40nm〜62.5nm程度の厚みで全面に堆積する(ステップS4)。本ステップS4により、開口部25の底面及び内側面にはTiN膜23が形成されると共に、開口部25内において上部位置から下部位置に進むに連れて膜厚が薄くなるようにTiN膜23が成膜される。TiN膜23内において他の領域よりも膜厚が薄い部分を、以下では「局部薄膜領域」という。
尚、本ステップS4において、TiN膜23を成膜する膜厚の範囲は、開口部25を完全には充填しないような膜厚の範囲内である。即ち、本ステップS4終了後において、ステップS4開始前に開口部25が形成されていた領域の内側部分に、底面及び内側壁がTiN膜23からなる開口部26が形成される。
次に、図2(e)に示すように、酸素を含む250℃の雰囲気下で熱酸化することにより、TiN膜23を酸化させて、可変抵抗体としてのTiO2膜22(以下、適宜「可変抵抗体膜22」という)を形成する(ステップS5)。このとき、熱酸化は、開口部25の内側側壁上に堆積されているTiN膜23の表面から、TiN膜23と層間絶縁膜24との界面位置まで到達するように(言い換えれば、少なくとも局部薄膜領域において、当該局部薄膜領域が有するTiN膜23の膜厚分を酸化するように)実施される。これにより、これによって開口部25の内側側壁上に堆積されているTiN膜23が可変抵抗体膜22に変化する。又、開口部25以外の平坦部(即ち、層間絶縁膜24上)のTiN膜23については、上部領域については一部酸化されるものの、層間絶縁膜24と接触する下部領域については酸化されず、そのままTiN膜23が残存することとなる。即ち、本ステップS5によって、酸化されずに残ったTiN膜23と、ステップS1で形成したTiN膜21とに接触するように、可変抵抗体膜22が形成される。
次に、図2(f)に示すように、TiN膜23上を含む全面にSiO2で構成される層間絶縁膜27をCVD法にて300nm程度の厚みで堆積する(ステップS6)。
次に、図2(g)に示すように、公知のフォトリソグラフィ技術によって形成したレジストをマスクに、公知のエッチング技術によって、層間絶縁膜24及び27をエッチングすることで夫々TiN膜23、TiN膜21の上面を露出させて、コンタクトホール28、29を形成する(ステップS7)。
次に、図2(h)に示すように、TiN膜21とTiN膜23との間に電圧パルスを印加するために厚さ50nm程度のTiN膜、厚さ400nm程度のAlCu膜、及び厚さ50nm程度のTiN膜からなる導電性材料膜30を、夫々スパッタ法にて順次堆積して形成する(ステップS8)。そして、公知のフォトリソグラフィ技術によって形成したレジストをマスクに、公知のエッチング技術によって、図1(a)に示すようなTiN膜21と接続されるコンタクトプラグ31、及びTiN膜23と接続されるコンタクトプラグ32を夫々形成する(ステップS9)。このようにして、TiN膜21で構成される第1電極21と、TiN膜23で構成される第2電極23の間に、TiO2膜22で構成される可変抵抗体膜が狭持されて、可変抵抗素子20aが実現される。
尚、可変抵抗素子20b〜20eについては、ステップS3における開口部25形成時のパターニング形状を変えることで、上述のステップS1〜S9の各工程を経て同様に形成することができる。
このように製造された図1(a)に示す可変抵抗素子20aのスイッチング特性を、以下に示す。可変抵抗素子20aは、ステップS4において成膜したTiN膜23の膜厚が40nmの素子である。第1電極21と第2電極23の間にパルス幅35nsecの電圧パルスを極性を変化させながら印加したときの、パルス電圧印加時の電流値、パルス電圧印加後の可変抵抗素子20aの抵抗値、及び印加したパルス電圧の極性が変化する直前における抵抗値の比率(スイッチング比)を測定した。尚、パルス電圧印加後の抵抗値の読み出しに際しては、読み出し電圧として第1電極21と第2電極23の間に0.5V印加したときの電流値より算出した。
具体的には、初期状態から、第2電極23に対して第1電極21が正極性となるように+2.05Vの電圧をパルス幅35nsにかけて印加することで、抵抗値が低下した(低抵抗化、セット動作)。次に、逆極性、即ち、第2電極23に対して第1電極21が負極性となるように−2.25Vの電圧をパルス幅35nsにかけて印加することで、抵抗値が上昇した(高抵抗化、リセット動作)。以下、パルス電圧の極性を正負交互に切り換えることで、セット動作及びリセット動作が交互に実現した(スイッチング動作)。これにより、可変抵抗素子20aの抵抗値が可逆的に変化していることが示された。尚、セット動作及びリセット動作時における印加電圧の絶対値は、スイッチング比が何れも約10程度となるように調整したものであり、このときに流れる電流が約2.2mAであった。尚、以下では、セット動作及びリセット動作を合わせて適宜「書き込み動作」と総称し、この書き込み動作時に流れる電流を「書き込み電流」と称する。
図4は、ステップS1〜S9に準じて同様に製造した図1(a)〜(e)に示す可変抵抗素子20aに対して、同様にスイッチング動作を行ったときの、書き込み電流の比較をしたグラフであり、横軸がステップS3で形成するコンタクトホール数、縦軸が書き込み電流値(消費電流)を夫々示している。コンタクトホール数が1個の場合が、図1(a)に示す可変抵抗素子20aに相当し、以下、コンタクトホール数を2〜5にした場合が、夫々可変抵抗素子20b〜20eに相当する。
尚、図4では、各可変抵抗素子において、ステップS4におけるTiN膜23の成膜膜厚を変化させた場合についても併せてグラフ上に表示している。ステップS4において成膜するTiN膜23の膜厚は、その後の酸化処理ステップS5によって開口部25内の内側壁に形成される可変抵抗体膜22の膜厚に影響を及ぼす。従って、ステップS4におけるTiN膜23の成膜膜厚を変化させた場合における書き込み電流の相違を見ることで、可変抵抗体膜22の膜厚による書き込み電流への影響を見ることができる。具体的には、各可変抵抗素子20a〜20eを製造するに際し、夫々ステップS4において成膜するTiN膜23の膜厚を、40nm、50nm、62.5nmとしたときの書き込み電流をグラフ上にプロットしている。
図4によれば、コンタクトホール数が少なくなるほど可変抵抗素子の書き込み電流が低下することが分かる。つまり、可変抵抗素子の書き込み電流は、図1(a)〜(e)に示す、可変抵抗体22を挟んで向かい合う第1電極21及び第2電極23が交差する領域(領域A)の面積には依存せず、可変抵抗体22として作用する部分と、2つの電極との接触面積に依存することが分かる。即ち、図1(a)と(b)を比較すると、図1(b)の方が可変抵抗体22と第1電極21とが接触する面積が大きい。尚、図1(b)は、図1(a)に比べて可変抵抗体22と第2電極23とが接触する接触面積が小さいが、第2電極23との接触面積の低下分に比べて、第1電極21との接触面積の上昇分の方が大きいことは明らかである。従って、可変抵抗素子20b〜20eのように、コンタクトホール数が増加するに連れて、可変抵抗体22と両電極21・23との接触面積の合計は増加する。そして、接触面積が増加するに従って、書き込み電流も増加していることが図4のグラフから見て取れる。そして、図4のグラフより、ステップS4において成膜するTiN膜23の膜厚、即ち可変抵抗体22の膜厚を変化させても、同様の傾向を示すことが分かる。
本発明者は、上記の鋭意研究の結果、可変抵抗体の電気的に寄与する領域の面積を、第1電極又は第2電極の何れか一つの電極で規定された面積よりも小さくするような構造とすることで、図8に示した従来の可変抵抗素子よりも、電圧パルスの印加による抵抗のスイッチング動作における書き込み時の消費電流を低下させられることに想到した。本発明素子及び本発明方法は、かかる考察に基づいて行われたものであり、図8に示した従来の可変抵抗素子において、可変抵抗体を第1電極又は第2電極の何れか一つの電極で規定された面積よりも電気的に寄与する領域の面積のみが小さくなる、いわゆる電流狭窄構造により構成することで、電圧パルスの印加による抵抗のスイッチング動作時の消費電流(書き込み電流)の低減化を可能にするものである。
[本発明素子及び本発明方法の説明]
以下、図5〜図7の各図を参照して、本発明素子及び本発明方法の説明を行う。尚、本発明素子は、構成要素である可変抵抗体に利用される材料に特徴があり、全体的な構成としては、上述した図8に示される従来構成の可変抵抗素子と同一であっても良い。
図5は、本発明素子の概略断面構造図である。図5に示す本発明素子1は、第1電極11、可変抵抗体12、第2電極13、層間絶縁膜14・17、コンタクトプラグ41・42を備えて構成される。そして、本発明素子1においては、可変抵抗体12が、異なる材料で構成される第1領域36及び第2領域37を有する。
次に、図5に示す本発明素子1の製造方法を説明する。図6は、可変抵抗素子1を製造する際の各工程における概略断面構造図を模式的に示したものであり、工程毎に図6(a)〜(h)に分けて図示している。又、図7は可変抵抗素子1の製造工程をフローチャートにしたものであり、以下の文中の各ステップS11〜S19は、図7に示されるフローチャートの各ステップを表すものとする。
まず、図6(a)に示すように、下地基板(不図示)上にTi膜にSiをドープした導電性材料膜11(以下、「TiSi膜11」という)をスパッタ法にて膜厚200nm程度の厚みで堆積し、公知のフォトリソグラフィ技術によって形成したレジストをマスクとして、公知のエッチング技術によって第1電極11を形成する(ステップS11)。尚、TiSiという表記は、略記であって各元素の組成比を限定するものではない。
次に、図6(b)に示すように、TiSi膜11上にSiO2で構成される層間絶縁膜14をCVD法にて300nm程度の厚みで全面に堆積する(ステップS12)。
次に、図6(c)に示すように、公知のフォトリソグラフィ技術によって形成したレジストをマスクに、公知のエッチング技術によって、層間絶縁膜14にホール直径200nm程度でTiSi膜11が露出するまで開口部15をパターニングする(ステップS13)。
次に、図6(d)に示すように、酸素を含む200〜400℃の雰囲気下で熱酸化することにより、TiSi膜11を酸化させて、Tiの酸化物からなる第1領域36とSiの酸化物からなる第2領域37とを備える可変抵抗体12を形成する(ステップS14)。本ステップS14によって、第1領域36内に、第2領域37が分散して形成されることとなる。
次に、図6(e)に示すように、TiNで構成される導電性材料膜13(以下、適宜「TiN膜13」という)を、スパッタ法にて100nm程度の厚みで堆積し、公知のフォトリソグラフィ技術によって形成したレジストをマスクに、公知のエッチング技術によって、第2電極13を形成する(ステップS15)。
次に、図6(f)に示すように、TiN膜13上を含む全面にSiO2で構成される層間絶縁膜17をCVD法にて300nm程度の厚みで堆積する(ステップS16)。
次に、図6(g)に示すように、公知のフォトリソグラフィ技術によって形成したレジストをマスクに、公知のエッチング技術によって、層間絶縁膜14及び17をエッチングすることで夫々TiSi膜11、TiN膜13の上面を露出させて、コンタクトホール18、19を形成する(ステップS17)。
次に、図6(h)に示すように、TiSi膜11とTiN膜13との間に電圧パルスを印加するために厚さ50nm程度のTiN膜、厚さ400nm程度のAlCu膜、及び厚さ50nm程度のTiN膜からなる導電性材料膜40を、夫々スパッタ法にて順次堆積して形成する(ステップS18)。そして、公知のフォトリソグラフィ技術によって形成したレジストをマスクに、公知のエッチング技術によって、図5に示すようなTiSi膜11と接続されるコンタクトプラグ41、及びTiN膜13と接続されるコンタクトプラグ42を夫々形成する(ステップS19)。このようにして、TiSi膜11で構成される第1電極11と、TiN膜13で構成される第2電極13の間に、Tiの酸化物を含む可変抵抗体膜12が狭持されて、可変抵抗素子1が実現される。
このように構成されるとき、可変抵抗体膜12は、少なくともTiの酸化物を有しており、且つ、2つの電極の間に狭持される。このため、図1に示す可変抵抗素子と同様、印加するパルス電圧の極性を変化させることでスイッチング動作が可能な素子である。
そして、可変抵抗体膜12は、Tiの酸化物からなる第1領域36とSiの酸化物からなる第2領域37とを備えて構成される。ここで、Siの酸化物のエネルギーバンドギャップは約9.0eVと大きいのに対して、Tiの酸化物のエネルギーバンドギャップは約3.0eVと小さい。言い換えれば、可変抵抗体膜12内においては、電流の流れやすい第1領域36と電流の流れにくい第2領域37が構成されていることになる。従って、第1電極11と第2電極13の間にパルス電圧を印加した場合、電流は、電流の流れやすい第1領域36内を通過する(狭窄される)。そして、Tiの酸化物からなる第1領域36が、まさに可変抵抗体として作用する部分である。
ここで、可変抵抗体膜12を挟んで、第1電極11並びに第2電極13とが交差する領域の面積と比較して、電流を流す領域である第1領域36が第1電極11並びに第2電極13と接触する面積は減少する。即ち、このことは、可変抵抗体膜12を挟んで第1電極11と第2電極13が交差する面積よりも、本発明素子1が備える可変抵抗体12が電気的に寄与する面積が減少していることを表している。図4を参照して説明したように、電気的に寄与する面積が減少すればするほど、書き込み時の消費電流が減少することから、本発明素子1のような構成とすることで、従来構成よりも書き込み時の消費電流を減少させることができる。
しかも、上述したように、本発明素子1を製造するに際しては、第1電極11として利用する導電性材料膜として、Ti膜にSiをドープしたものを準備することのみで、他は従来と変わらない工程のみで実現させることができるため、簡易な製造工程で書き込み時の消費電流を低減できる可変抵抗素子を実現することができる。
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
〈1〉 上述の実施形態では、第1電極11として利用する導電性材料膜としてTi膜にSiをドープしたものを利用したが、Ti膜にAlをドープしたTiAl膜を利用するものとしても良い。尚、このTiAlという表記は、略記であって各元素の組成比を限定するものではない。
この場合、ステップS14に係る酸化処理によって、Tiの酸化物からなる第1領域36とAlの酸化物からなる第2領域37とを有する可変抵抗体膜12が形成される。ここで、Alの酸化物のエネルギーバンドギャップは6.0〜8.0eVと大きいのに対して、Tiの酸化物のエネルギーバンドギャップは約3.0eVと小さいため、Siをドープした場合と同様、可変抵抗体12に電圧を印加した場合に流れる電流がTiの酸化物からなる第1領域13へと狭窄される。これによって、従来構成と比べて、可変抵抗体12が電気的に寄与する面積が減少し、従来構成よりも書き込み時の消費電流を減少させることができる。
更に、ステップS14に係る酸化処理における温度条件下においては、Alの酸化物生成自由エネルギーがTiの酸化物生成自由エネルギーよりも小さい。このため、ステップS14に係る酸化処理によって、生成自由エネルギーの小さいAlの酸化物が確実に生成される。Alは、Ti膜にドープされたものであるため、このAlの酸化物からなる第2領域37が、Tiの酸化物からなる第1領域36内に分散して形成される。これにより、可変抵抗体12が電気的に寄与する面積を確実に減少させることが可能となる。
〈2〉 上述の実施形態では、ステップS11で成膜する導電性材料膜として、Ti膜にSi又はAlをドープしたものを利用したが、これは一例であって、材料はこれらに限られるものではない。即ち、本発明は、可変抵抗体を電流狭窄構造とすることで、電気的に寄与する領域の面積を従来構造よりも縮小することをその本旨とするものであるため、パルス電圧の印加によって抵抗値の変化が可能であって、電流狭窄構造を実現可能な材料であれば、可変抵抗体を構成する材料はいかなるものを用いても良い。又、可変抵抗体は、第1電極を構成する第1材料膜を酸化させることで製造されるものであるため、第1電極を構成する材料としては、導電性の材料であると共に、酸化されることで可変抵抗性を示し、且つ電流狭窄構造を実現する材料であれば、いかなるものを用いても良い。
従って、遷移金属又はその窒化物からなる第1材料膜に、遷移金属以外の金属若しくはその窒化物、又は半導体元素若しくはその窒化物からなる材料であって、前記第1材料の酸化物よりも酸化物のエネルギーバンドギャップが大きい第2材料がドープされた導電性材料膜であれば利用可能である。このような材料を利用することで、ステップS14に係る酸化処理によって、第1材料の酸化物からなる第1領域36と、第1領域36よりもエネルギーバンドギャップの大きい第2材料の酸化物からなる第2領域37とを有する可変抵抗体膜12が形成されるため、第1電極11と第2電極13の間にパルス電圧を印加した場合、流れる電流が第1領域36へと狭窄され、従来構成と比べて、可変抵抗体12が電気的に寄与する面積が減少し、従来構成よりも書き込み時の消費電流を減少させることができる。
具体的には、例えば、Tiの他にCu、Ni、V、Nb、W、Co等の遷移金属、若しくはこれらの窒化物からなる第1材料に、Mg、Ga、Sn等からなる第2材料をドープさせた材料膜を利用することができる。尚、ここに挙げた第1材料の酸化物のエネルギーバンドギャップは何れも3.5eV未満であるのに対し、第2材料の酸化物のエネルギーバンドギャップは3.5eVを超える大きさであるため、何れの材料の組み合わせも利用可能である。更に、この材料膜の成膜方法についても製造後の素子に影響するものではないため、上述したステップS11におけるスパッタ法に限られず、パルス化レーザ堆積、e−ビーム蒸発、熱蒸発、有機金属堆積、スピンオン堆積、及び有機金属化学気相成長を含む任意の適切な堆積技術を用いて堆積するものとしても構わない。更に、イオン注入法等によるドーピング法と組み合わせても構わない。
又、所定の温度条件下において第2材料の酸化物生成自由エネルギーが、第1材料の酸化物生成自由エネルギーよりも小さい場合には、ステップS14に係る酸化処理によって、確実に、第2材料の酸化物からなる第2領域37を第1領域36内に分散形成させることが可能となる。酸化物生成自由エネルギーは、酸化処理の温度によって変化するため、ステップS14に係る酸化処理においては、第2材料の酸化物生成自由エネルギーが、第1材料の酸化物生成自由エネルギーよりも小さくなるような温度条件下で酸化処理を行うことで、確実に、第2材料の酸化物からなる第2領域37を第1領域36内に分散形成させることができる。
又、可変抵抗体を形成した後に、第2電極の材料となる材料膜を成膜して第2電極を形成するため、第2電極の材料としては、導電性の材料であれば他の材料(Ti,Cu,Pt等)であっても良い。
〈3〉 ステップS14に係る酸化処理工程は、成膜された第1電極を構成する材料膜を酸化して可変抵抗体膜を形成することができれば良いため、上述した酸素を含むガス(O2、O3、H2O、N2O、NO等)雰囲気下での熱酸化の他、プラズマ酸化法或いはイオン注入法等を用いても構わない。