JP5215221B2 - 繊維用難燃加工剤並びにそれを用いた難燃加工方法及び難燃加工繊維製品 - Google Patents

繊維用難燃加工剤並びにそれを用いた難燃加工方法及び難燃加工繊維製品 Download PDF

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Description

本発明は繊維用難燃加工剤並びにそれを用いた難燃加工方法及び難燃加工繊維製品に関する。
従来、繊維製品への難燃性付与は、ヘキサブロモシクロドデカンに代表される脂環式ハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤を高温吸尽法又はパディング−サーモゾル法などにて繊維内部に浸透固着させることにより行われてきた。このうち、パディング−サーモゾル法は、処理浴再利用のための浴管理が高温吸尽法に比べ簡易なため、環境への排出量を最小限に抑えられる点で有効である。このようなパディング−サーモゾル法による繊維製品へのリン系難燃剤付与の方法として、例えば、特開2002−220782号公報(特許文献1)には、難燃成分である水に不溶ないし難溶性の縮合リン酸化合物と合成樹脂バインダーとを併用する内装用繊維製品の防炎加工方法が開示されている。特開2006−28488号公報(特許文献2)には、塩化ビニル樹脂、アクリルエステル樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂エマルジョンに、特定のノンハロゲン系難燃剤粒子表面を特定の有機ケイ素樹脂で被覆した難燃成分を添加してなる難燃加工剤を用いる方法が開示されている。しかしながら、このような従来の難燃加工剤においては、難燃成分を繊維に固定するために配合される塩化ビニル樹脂やウレタン樹脂等の合成樹脂系バインダー成分が、得られる難燃加工繊維製品の難燃性を阻害し、さらに繊維製品の風合いを硬くするといった問題があった。
特開2002−220782号公報 特開2006−28488号公報
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、繊維製品の風合いを損なうことなく、優れた難燃性を長期間に亘って安定して付与することが可能な繊維用難燃加工剤、並びにそれを用いた難燃加工方法及び難燃加工繊維製品を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、融点が熱処理温度以下である低融点難燃成分と、熱処理温度では融解しない不溶融難燃成分とを特定の比率で含有する難燃加工剤を用いることにより、繊維製品の風合いを損なうことなく、優れた難燃性を長期間に亘って安定して付与することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の繊維用難燃加工剤は、120〜180℃の範囲内の処理温度で熱処理することにより難燃成分を繊維製品に固着せしめる手段に用いる繊維用難燃加工剤であって、芳香族リン系化合物であり、融点が50℃以上で且つ前記処理温度以下である低融点難燃成分(A)と、樹脂被覆ポリリン酸アンモニウム及びホスフィン酸金属塩からなる群から選択される少なくとも一つであり、200℃以下の温度では融解しない不溶融難燃成分(B)とを含有しており、難燃成分(A)と難燃成分(B)との比率(質量比:(A)/(B))が55/45〜75/25であり、且つ難燃成分に該当しない合成樹脂系バインダー成分を実質的に含有しないことを特徴とするものである。
このように本発明の繊維用難燃加工剤は、難燃成分に該当しない合成樹脂系バインダー成分を実質的に含有しない難燃加工剤である。本発明の難燃加工剤によれば、合成樹脂系バインダー成分を含有しなくても難燃成分が繊維製品に十分な付着力で固着されるため、優れた難燃性を長期間に亘って安定して維持することができ、さらに合成樹脂系バインダー成分を含有しないことにより、難燃性が阻害されることなく且つ風合いを損なうことのない難燃加工繊維製品を得ることができる。
また、本発明の繊維製品の難燃加工方法は、前記本発明の繊維用難燃加工剤を繊維製品に付与した後、120〜180℃の範囲内の処理温度で熱処理することにより難燃成分を繊維製品に固着せしめることを特徴とする方法である。
さらに、本発明の難燃加工繊維製品は、前記本発明の繊維用難燃加工剤を繊維製品に付与した後、120〜180℃の範囲内の処理温度で熱処理することにより難燃成分を繊維製品に固着せしめてなるものである。
本発明の繊維用難燃加工剤及びそれを用いた本発明の難燃加工方法によれば、繊維製品の風合いを損なうことなく、優れた難燃性を長期間に亘って安定して付与することが可能となる。
以下、本発明の繊維用難燃加工剤について先ず詳細に説明する。
本発明の繊維用難燃加工剤は、120〜180℃の範囲内の処理温度で熱処理することにより難燃成分を繊維製品に固着せしめる手段に用いる繊維用難燃加工剤であって、融点が50℃以上で且つ前記処理温度以下である低融点難燃成分(A)と、200℃以下の温度では融解しない不溶融難燃成分(B)とを含有しており、難燃成分(A)と難燃成分(B)との比率(質量比:(A)/(B))が55/45〜75/25であり、且つ難燃成分に該当しない合成樹脂系バインダー成分を実質的に含有しないことを特徴とするものである。
このように、本発明の繊維用難燃加工剤は、120〜180℃の範囲内の処理温度で熱処理することにより難燃成分を繊維製品に固着せしめる難燃加工処理に用いることを想定したものである。難燃加工のための熱処理温度は、上記温度範囲内において、難燃加工の対象となる繊維製品や用いる難燃成分(特に低融点難燃成分(A))に応じて適宜選択される。例えば、繊維製品がポリエステル繊維の場合は120〜180℃、綿等の天然繊維の場合は120〜170℃、ナイロン繊維の場合は120〜170℃の範囲が一般的である。また、用いる低融点難燃成分(A)の融点以上の温度に処理温度を設定する必要があるが、低融点難燃成分(A)の融点より少なくとも5℃以上高い温度に処理温度を設定することがより好ましい。
本発明の繊維用難燃加工剤においては、融点が50℃以上で且つ前記処理温度以下である低融点難燃成分(A)と、200℃以下の温度では融解しない不溶融難燃成分(B)とを併用する必要がある。
本発明において、前記熱処理の温度下で溶融した低融点難燃成分(A)が冷却したときに、後述する不溶融難燃成分(B)を抱え込んだまま強固に繊維に固着するため、優れた難燃性を長期間に亘って安定して付与できるものと本発明者らは推察する。このことから、低融点難燃成分(A)は、水に対して不溶性又は難溶性のものであることが好ましく、また、加水分解性がないか又は殆ど加水分解されない化合物であることがより好ましい。さらに、低融点難燃成分(A)は、得られる難燃加工繊維製品が通常使用される温度で流動化しないことが必要であるため、その融点は、夏場の直射日光に晒されるバイクの座部等を想定して50℃以上であることが必要であり、密閉された自動車の車内温度を想定すると70℃以上であることがより好ましい。水に不溶または難燃性の低融点難燃成分により不溶融難燃成分を強固に繊維に固着させることで、難燃成分が水に濡れても脱落せず、難燃性を持続させることができる。
本発明において用いる低融点難燃成分(A)としては、その融点が前記条件を満たすものであれば良く、特に限定されないが、繊維に対する親和性という観点から芳香族リン系化合物が好ましい。このような芳香族リン系化合物としては、例えば、トリフェニルホスフェート(融点:約50℃)、ナフチルジフェニルホスフェート(融点:約61℃)、フェノキシホスファゼン(融点:約60〜120℃)、アニリドジフェニルホスフェート(融点:約130℃)、トリフェニルホスフィンオキサイド(融点:約157℃)、10−ベンジル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(融点:約115℃)、トリスパラクレジルホスフェート(融点:約75℃)、トリ2,6−キシレニルホスフェート(融点:約136℃)、レゾルシノールジ2,6−キシレニルホスフェート(融点:約95℃)、5,5−ジメチル−2−(2’−フェニルフェノキシ)−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキサイド(融点:約129℃)、フェノキシエチレンジフェニルホスフェート(融点:約80℃)が挙げられる。中でも、溶融後の繊維への密着性の観点から、レゾルシノールジ2,6−キシレニルホスフェート、10−ベンジル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイド、フェノキシエチレンジフェニルホスフェート、5,5−ジメチル−2−(2’−フェニルフェノキシ)−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキサイドがより好ましい。
低融点難燃成分(A)は、このような難燃性化合物の中から、難燃加工の対象である繊維製品やその使用条件に応じて適宜選択され、繊維製品が高温下に晒されるものである場合には、比較的高融点の化合物が好適に採用される。また、低融点難燃成分(A)として、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを組み合わせて用いても良い。
本発明において、前記低融点難燃成分(A)と組み合わせて用いられる不溶融難燃成分(B)は、200℃以下の温度では融解しない難燃成分である。このような不溶融難燃成分(B)としては、融点が200℃以上(より好ましくは250℃以上)の難燃性化合物や、明確な融点は持たずに熱分解開始温度が200℃以上の難燃性化合物が用いられる。なお、ここでいう熱分解開始温度とは、化合物の温度を徐々に上昇させた際に、化合物の重量減少が始まる温度であり、示差走査熱量分析などにより得られるものである。
本発明において用いる不溶融難燃成分(B)としては、前記条件を満たすものであれば良く、特に限定されないが、水への溶解性が低いという観点から樹脂被覆ポリリン酸アンモニウム及びホスフィン酸金属塩からなる群から選択されるものが好ましく、難燃性効果が高いという観点から樹脂被覆ポリリン酸アンモニウムがより好ましい。また、不溶融難燃成分(B)として、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを組み合わせて用いても良い。
このような樹脂被覆ポリリン酸アンモニウムとしては、例えば、シラン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂等で被覆されたポリリン酸アンモニウムが挙げられ、中でもホルムアルデヒドが発生しないという観点からシラン樹脂、エポキシ樹脂で被覆されたポリリン酸アンモニウムが特に好ましい。樹脂被覆ポリリン酸アンモニウムにおける樹脂の被覆量は特に限定されないが、0.5〜5質量%であることが好ましい。この被覆量が前記下限未満では水への溶解性が十分に低下しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると得られる難燃加工繊維製品の難燃性が不足する傾向にある。
また、樹脂被覆ポリリン酸アンモニウムは粉末状であることが好ましい。その粒径は特に限定されないが、低融点難燃成分(A)により繊維に固着された状態が安定し、剥がれ難い傾向にあるため、その平均粒径は3〜50μmであることが好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。
本発明に用いることができる市販の樹脂被覆ポリリン酸アンモニウムのシラン樹脂被覆ポリリン酸アンモニウムではFRCROS486(平均粒径:約20μm、ブーデンハイム社製)、エポキシ樹脂被覆ポリリン酸アンモニウムではAPP−6(平均粒径:約15μm、世安化工社製)、メラミン樹脂被覆ポリリン酸アンモニウムではテラージュC−60(平均粒径:10μm、ブーデンハイム社製)が挙げられる。
また、ホスフィン酸金属塩としては、例えば、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、メタン−ジ(メチルホスフィン酸)、エタン−1,2−ジ(メチルホスフィン酸)、ヘキサン−1,6−ジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)、メチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸等の金属塩が挙げられる。中でも難燃性効果が高いという観点からジエチルホスフィン酸の金属塩が好ましい。また、金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等を用いることができ、中でも難燃性効果が高いという観点からアルミニウム塩が好ましい。
本発明において用いられる低融点難燃成分(A)と不溶融難燃成分(B)との比率は、質量比((A)/(B))が55/45〜75/25である。低融点難燃成分(A)の比率が前記範囲を超えると、得られる難燃加工繊維製品の難燃性が不足する。他方、低融点難燃成分(A)の比率が前記範囲未満では、不溶融難燃成分(B)の低融点難燃成分(A)による繊維への付着力が弱まるため繊維製品から難燃剤が脱落し易くなり、難燃性が低下する。また、本発明の繊維用難燃加工剤における難燃成分の含有量は特に限定されないが、低融点難燃成分(A)と不溶融難燃成分(B)との合計量が繊維用難燃加工剤中に15〜70質量%程度であることが好ましい。
本発明の繊維用難燃加工剤において、低融点難燃成分(A)と不溶融難燃成分(B)とを乳化、分散させるために界面活性剤を使用することができる。本発明の繊維用難燃加工剤における界面活性剤の含有量は特に限定されないが、0.5〜20質量%程度であることが好ましい。
低融点難燃成分(A)及び不溶融難燃成分(B)の乳化・分散に用いる界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤が挙げられる。非イオン界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアリルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキル多価アルコールエーテルを挙げることができる。
さらに、アニオン界面活性剤としても、特に限定されず、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル多価アルコールエーテル硫酸エステル塩、アルコール硫酸塩等の硫酸塩類、ポリオキシアルキレンエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアリルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキル多価アルコールエーテルリン酸エステル、アルコールリン酸エステル等のリン酸エステル及びそれらの塩を挙げることができる。塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アミン塩が挙げられ、アルカリ金属塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムの塩が挙げられる。また、アミン塩としては、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アリルアミン等の1級アミンの塩;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジアリルアミン等の2級アミンの塩;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の3級アミンの塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンの塩が挙げられる。これらの非イオン界面活性剤及びアニオン界面活性剤は、1種のものを単独で用いてもよく、2種以上のものを混合して用いてもよいが、疎水基として芳香族系の置換基を有するポリオキシアルキレン系界面活性剤を用いると安定性に優れた乳化物、分散物が得られる傾向にあるため、非イオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアリルエーテル、アニオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアリルエーテル硫酸エステル塩を用いるのが好ましく、ポリオキシアルキレンアリルエーテル硫酸エステル塩、もしくはポリオキシアルキレンアリルエーテル硫酸エステル塩とポリオキシアルキレンアリルエーテルの混合物を低融点難燃成分(A)と不溶融難燃成分(B)との乳化・分散に際して、特に好ましく用いることができる。ポリオキシアルキレンアリルエーテルとしては、ポリオキシアルキレントリスチリルフェニルエーテルが、ポリオキシアルキレンアリルエーテル硫酸エステル塩としては、ポリオキシアルキレントリスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩が好ましい。さらに、性能を損なわない範囲において保護コロイド剤を併用することができる。このような保護コロイド剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、デンプンが挙げられる。
本発明において、低融点難燃成分(A)と不溶融難燃成分(B)を乳化又は分散させる方法としては、特に限定されず、例えば、乳化させる方法としては、ディスパー、ホモミキサーを用いて転相乳化させる方法が挙げられる。また、分散させる方法としては、例えば、ガラスビーズを用いたビーズミルにより湿式分散させる方法が挙げられる。このとき、前述の樹脂被覆ポリリン酸アンモニウムを除く難燃成分の平均粒径は、1μm以下に設定することが好ましい。また、分散媒としては、水が好適に使用される。
さらに、本発明の繊維用難燃加工剤においては、コート機による加工に適した処理浴粘度に調節するために、本発明の効果を損なわない範囲で水溶性の粘度調整剤を使用することができ、粘度調整剤の使用により、難燃成分の沈降やケーキングを抑制することができる。難燃成分の沈降やケーキングを抑制するという観点から繊維用難燃加工剤の粘度は100mPa・s〜5000mPa・sの範囲であることが望ましい。このような粘度調整剤としては、特に制限されず、例えば、天然多糖類系であるメチルセルロース、プロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ザンタンガム、デンプン糊などの粘度調整剤やウレタンポリエーテル系界面活性剤からなる粘度調整剤を挙げることができる。中でも、ザンタンガムは少量で難燃剤分散液の経時安定性が良好であるという点で、特に好適に用いることができる。本発明の繊維用難燃加工剤における粘度調整剤の含有量は特に限定されないが、0.01〜5質量%程度であることが好ましい。
なお、本発明の繊維用難燃加工剤は、難燃成分に該当しない合成樹脂系バインダー成分を実質的に含有しない難燃加工剤である。本発明の難燃加工剤は合成樹脂系バインダー成分を含有しないが、低融点難燃成分(A)が不溶融難燃成分(B)を繊維上に十分な付着力で固着させるため、優れた難燃性を長期間に亘って安定して維持することが可能となる。また、合成樹脂系バインダー成分はそれ自身が燃焼性を有し、加工繊維製品の風合いを硬くすることから、このような難燃成分に該当しない合成樹脂系バインダー成分を実質的に含有しないことにより、難燃性が阻害されることなく且つ良好な風合いを有する難燃加工繊維製品を得ることができる。本発明の繊維用難燃加工剤が実質的に含有しない、このような難燃成分に該当しない合成樹脂系バインダー成分として、塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリアクリル酸系、ポリアクリルエステル系、ポリエステル系の樹脂成分を挙げることができる。ここで、難燃成分に該当しない合成樹脂系バインダー成分を実質的に含有しないとは、本発明の効果を損なわない範囲であれば微量の合成樹脂系バインダー成分を含有してもよいという趣旨であるが、かかる合成樹脂系バインダー成分の含有量は1質量%以下であることが好ましく、かかる合成樹脂系バインダー成分は全く含有されていないことが特に好ましい。
次に、本発明の繊維製品の難燃加工方法及び本発明の難燃加工繊維製品について説明する。本発明の繊維製品の難燃加工方法は、前記本発明の繊維用難燃加工剤を繊維製品に付与した後、120〜180℃の範囲内の処理温度で熱処理することにより難燃成分を繊維製品に固着せしめることを特徴とする方法である。また、本発明の難燃加工繊維製品は、前記本発明の繊維用難燃加工剤を繊維製品に付与した後、120〜180℃の範囲内の処理温度で熱処理することにより難燃成分を繊維製品に固着せしめてなるものである。
本発明で用いられる繊維としては、特に限定されず、例えば、ポリエステル繊維としては、レギュラーポリエステル繊維、カチオン可染ポリエステル繊維、再生ポリエステル繊維、又はこれら2種以上からなるポリエステル繊維との糸、トウ、トップ、カセ、織物、編み物、不織布若しくはロープが挙げられる。さらに、木綿、亜麻、羊毛、カシミヤ等の天然繊維;レーヨン、アセテート等の半合成繊維;ナイロン、アクリル、ポリアミド等の合成繊維;炭素、ガラス、セラミックス、アスベスト、金属等の無機繊維、又はこれらの混紡により得られる糸、トウ、トップ、カセ、織物、編み物、不織布若しくはロープが挙げられる。
本発明の難燃加工剤を繊維製品に付与する方法も特に限定されず、例えば、キスロールコート、エアードクターコーター、ブレードコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、トランスファーコーター、キャストコーター、カーテンコーター、カレンダーコーター、グラビアコーター、リバースロールコーター、ロールナイフコーター、ファウンティンコーター、ロッドコーター、スプレー等の各種コーターを用いることができる。これらのコート機により難燃加工剤を付与する場合、繊維製品の表、裏のどちらか一方のみへの付与が可能である。接触状態、回転数、付与量等を調整して裏面にのみ難燃成分を付与し難燃成分が表面に出てこない条件で処理することにより、繊維製品の表面外観を損なわない難燃加工処理をすることができる。中でもキスロールコートは、難燃加工剤処理浴濃度が低粘度であっても繊維への難燃成分の付与が可能であるため好適に用いることができる。
本発明において、繊維製品への難燃成分の付与量は特に限定されないが、低融点難燃成分(A)と不溶融難燃成分(B)との合計付与量が3g/m〜50g/mであることが好ましく、5g/m〜30g/mであることがより好ましい。この付与量が3g/m未満の場合は得られる難燃加工繊維製品の難燃性が不足する傾向にあり、他方、この付与量が50g/mを超えると難燃剤を安定化させる為に添加していた界面活性剤の影響により、繊維に付着していた染料がブリードするなどの悪影響があり、得られる難燃加工繊維製品の品位が低下する傾向にある。本発明の繊維用難燃加工剤は、水で加工に適した濃度に希釈して、付与することができ、最適濃度は、コーター機の種類や処理浴粘度、ピックアップ率などに応じて適宜調整することができる。
本発明において各種コート機等を用いて繊維製品に本発明の難燃加工剤を付与した後に、乾熱処理か、或いは飽和常圧スチーム処理、加熱スチーム処理、高圧スチーム処理等の蒸熱処理により、繊維に前記難燃成分を固定することができる。乾熱処理、蒸熱処理のいずれにおいても、熱処理温度は120〜180℃の範囲内において、用いる低融点難燃成分(A)の融点より高い温度に設定する。かかる熱処理温度は、120℃〜180℃の範囲内において、用いる低融点難燃成分(A)の融点より少なくとも5℃以上高い温度に設定することが好ましい。かかる熱処理温度が120℃未満では、繊維製品が十分乾燥せず、難燃剤が均一に付着しないため、難燃性が不安定になる傾向にある。他方、かかる熱処理温度が180℃を超えると、得られる繊維製品の変色や脆化が起こる傾向にある。
本発明によって得られる難燃加工繊維製品の使用用途は特に限定されず、例えば、壁布、天井材、建材等の住宅用資材、自動車、バイク、航空機、鉄道、船舶等の内装材の各種シート類、カーペット、ベッドマット、座布団、椅子の座部、カーテン等の家具、寝具等が挙げられる。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<難燃加工剤の処方>
(難燃加工剤1)
ディスパーを備えた混合容器に、水450g、ザンタンガム0.1g、ポリオキシエチレン(10モル付加)トリスチリルフェニルエーテル硫酸エステルのナトリウム塩25g、ポリオキシエチレン(5モル付加)トリスチリルフェニルエーテル25gを仕込み、均一となるよう混合した。そこへレゾルシノールジ2,6−キシレニルホスフェート(大八化学社製、PX−200、融点:95℃)275g、ポリリン酸アンモニウムのシランコート物(ブーデンハイム社製、FRCROS486、熱分解開始温度:280℃以上)225gを仕込み、ディスパーにて30分混合して粘度1000mPa・s(BM型粘度計 3号ローター 12rpm)の白色の難燃加工剤1を得た。
(難燃加工剤2)
レゾルシノールジ2,6−キシレニルホスフェートの量を325g、ポリリン酸アンモニウムのシランコート物の量を175gとした以外は難燃加工剤1と同様にして粘度1100mPa・s(BM型粘度計 3号ローター 12rpm)の白色の難燃加工剤2を得た。
(難燃加工剤3)
レゾルシノールジ2,6−キシレニルホスフェートの量を375g、ポリリン酸アンモニウムのシランコート物の量を125gとした以外は難燃加工剤1と同様にして粘度1000mPa・s(BM型粘度計 3号ローター 12rpm)の白色の難燃加工剤3を得た。
(難燃加工剤4)
レゾルシノールジ2,6−キシレニルホスフェートをトリフェニルホスフィンオキサイド(ケイアイ化成社製、TPPO、融点:157℃)とした以外は難燃加工剤1と同様にして粘度1250mPa・s(BM型粘度計 3号ローター 12rpm)の白色の難燃加工剤4を得た。
(難燃加工剤5)
レゾルシノールジ2,6−キシレニルホスフェートを10−ベンジル−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(日華化学社製、BDPO、融点:115℃)とした以外は難燃加工剤1と同様にして粘度980mPa・s(BM型粘度計 3号ローター 12rpm)の白色の難燃加工剤5を得た。
(難燃加工剤6)
レゾルシノールジ2,6−キシレニルホスフェートをリン酸ジフェニル2−フェノキシエチル(日華化学社製、融点:80℃)とした以外は難燃加工剤1と同様にして粘度1150mPa・s(BM型粘度計 3号ローター 12rpm)の白色の難燃加工剤6を得た。
(難燃加工剤7)
レゾルシノールジ2,6−キシレニルホスフェートを5,5−ジメチル−2−(2’−フェニルフェノキシ)−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキサイド(大八化学社製、SH−1000、融点:129℃)とした以外は難燃加工剤1と同様にして粘度1050mPa・s(BM型粘度計 3号ローター 12rpm)の白色の難燃加工剤7を得た。
(難燃加工剤8)
ポリリン酸アンモニウムのシランコート物をポリリン酸アンモニウムのエポキシコート物(世安化工社製、APP−6、熱分解開始温度:280℃以上)とした以外は難燃加工剤1と同様にして粘度1000mPa・s(BM型粘度計 3号ローター 12rpm)の白色の難燃加工剤8を得た。
(難燃加工剤9)
ポリリン酸アンモニウムのシランコート物をポリリン酸アンモニウムのメラミンホルムアルデヒドコート物(ブーデンハイム社製、テラージュC−60、熱分解開始温度:280℃以上)とした以外は難燃加工剤1と同様にして粘度950mPa・s(BM型粘度計 3号ローター 12rpm)の白色の難燃加工剤9を得た。
(難燃加工剤10)
ポリリン酸アンモニウムのシランコート物をジエチルリン酸アルミニウム(クラリアント社製、EXOLIT OP−1230、熱分解開始温度:300℃以上)とした以外は難燃加工剤1と同様にして粘度1100mPa・s(BM型粘度計 3号ローター 12rpm)の白色の難燃加工剤10を得た。
(比較難燃加工剤1)
レゾルシノールジ2,6−キシレニルホスフェートの量を250g、ポリリン酸アンモニウムのシランコート物の量を250gとした以外は難燃加工剤1と同様にして粘度1000mPa・s(BM型粘度計 3号ローター 12rpm)の白色の比較難燃加工剤1を得た。
(比較難燃加工剤2)
レゾルシノールジ2,6−キシレニルホスフェートの量を400g、ポリリン酸アンモニウムのシランコート物の量を100gとした以外は難燃加工剤1と同様にして粘度1100mPa・s(BM型粘度計 3号ローター 12rpm)の白色の比較難燃加工剤2を得た。
(比較難燃加工剤3)
レゾルシノールジ2,6−キシレニルホスフェートをレゾルシノールビスジフェニルホスフェート(大八化学社製、RDP、融点:−13℃)とした以外は難燃加工剤1と同様にして粘度990mPa・s(BM型粘度計 3号ローター 12rpm)の白色の比較難燃加工剤3を得た。
(比較難燃加工剤4)
ディスパーを備えた混合容器に、水200g、ザンタンガム0.1g、アクリル樹脂(日華化学社製、カセゾールARS−2、ガラス転移温度:−17℃)250g、ポリオキシエチレン(10モル付加)トリスチリルフェニルエーテル硫酸エステルのナトリウム塩25g、ポリオキシエチレン(5モル付加)トリスチリルフェニルエーテル25gを仕込み、均一となるよう混合した。そこへレゾルシノールジ2,6−キシレニルホスフェート(大八化学社製、PX−200、融点:95℃)275g、ポリリン酸アンモニウムのシランコート物(ブーデンハイム社製、FRCROS486、熱分解開始温度:280℃以上)225gを仕込み、ディスパーにて30分混合して粘度1000mPa・s(BM型粘度計 3号ローター 12rpm)の白色の比較難燃加工剤4を得た。
<実施例1〜10及び比較例1〜4>
難燃加工剤1〜10及び比較難燃加工剤1〜4をそれぞれ水に希釈して8質量%に調整し(処理浴粘度:実施例1〜10及び比較例1〜3で10mPa・s以下、比較例4で約500mPa・s)、固形物換算の塗布量が10g/mとなるようポリエステルジャージカーシート(目付け350g/m)の裏面にキスロールにて難燃加工剤希釈液を塗布した後、150℃で5分間熱風乾燥機にて乾燥させて難燃加工繊維製品を得た。次いで、得られた難燃加工繊維製品について以下の評価方法によって難燃性、難燃剤の脱落性、繊維製品の風合いを評価した。用いた難燃加工剤の構成を表1に、得られた評価結果を表2に示す。
(評価方法)
(1)難燃性の評価方法
難燃性は自動車の難燃性基準として用いられているJIS D−1201 FMVSS燃焼性試験機(水平法)にしたがって行った。
<評価の基準>
A:A標線前自消
B:自己消火性,燃焼距離50mm以下、60秒未満で消火
C:燃焼速度80mm/min未満
D:燃焼速度80mm/min以上
なお、A,B,Cを合格とする。
(2)難燃剤の脱落の評価方法
JIS L 0849:2004(摩擦に対する染色堅ろう度試験方法)に準じて、摩擦試験機(大栄化学精機製作所製)を用いて、荷重2Nの条件で難燃剤を固着させたポリエステルジャージカーシートを摩擦布により10回摩擦した。摩擦布として黒綿布を使用した。摩擦後の黒綿布の状態を以下の評価基準に従って評価した。評価は乾式及び湿式それぞれの条件で行った。
黒綿布に難燃剤の付着が見られる:難燃剤の脱落あり
黒綿布に難燃剤の付着が見られない:難燃剤の脱落なし。
(3)風合いの評価方法
難燃剤を固着させたポリエステルジャージカーシートの柔らかさを触感にて次の5段階で評価した。
<評価の基準>
5:非常に柔らかい
4:柔らかい
3:やや柔らかい
2:硬い
1:非常に硬い。
Figure 0005215221
Figure 0005215221
表2に示した結果から明らかなように、本発明の繊維用難燃加工剤を用いて処理したポリエステル布は、優れた難燃性と良好な風合いを備えていることが確認された。また、本発明の繊維用難燃加工剤を用いて処理したポリエステル布においては、難燃剤が脱落しないため、優れた難燃性が長期間に亘って安定して維持されることが確認された。
以上説明したように、本発明の繊維用難燃加工剤を用いることにより、繊維製品の風合いを損なうことなく、優れた難燃性を長期間に亘って安定して付与することができるため、本発明は車内装等の各種の繊維製品に対して難燃性を付与する技術として非常に有用である。

Claims (3)

  1. 120〜180℃の範囲内の処理温度で熱処理することにより難燃成分を繊維製品に固着せしめる手段に用いる繊維用難燃加工剤であって、芳香族リン系化合物であり、融点が50℃以上で且つ前記処理温度以下である低融点難燃成分(A)と、樹脂被覆ポリリン酸アンモニウム及びホスフィン酸金属塩からなる群から選択される少なくとも一つであり、200℃以下の温度では融解しない不溶融難燃成分(B)とを含有しており、難燃成分(A)と難燃成分(B)との比率(質量比:(A)/(B))が55/45〜75/25であり、且つ難燃成分に該当しない合成樹脂系バインダー成分を実質的に含有しないことを特徴とする繊維用難燃加工剤。
  2. 請求項1に記載の繊維用難燃加工剤を繊維製品に付与した後、120〜180℃の範囲内の処理温度で熱処理することにより難燃成分を繊維製品に固着せしめることを特徴とする繊維製品の難燃加工方法。
  3. 請求項1に記載の繊維用難燃加工剤を繊維製品に付与した後、120〜180℃の範囲内の処理温度で熱処理することにより難燃成分を繊維製品に固着せしめてなるものであることを特徴とする難燃加工繊維製品。
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