JP5209636B2 - 糖尿病治療剤 - Google Patents

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Description

本発明は,ヒトの糖尿病の治療に関し,特にインスリンの作用を増強させることに基づく,糖尿病の治療方法,糖尿病治療用のタンパク質,及びこれを含有してなる糖尿病治療剤に関する。
肥満及び肥満関連疾患は,多くの国において主要な健康問題となりつつある。特に西欧を中心とする先進諸国では,肥満により有病率及び死亡率が増加している(非特許文献1)。近年これらの事象は,内臓脂肪の蓄積を起因の一つとする症候群,いわゆるメタボリックシンドロームと呼ばれるものと関連付けてもしばしば議論されている。
この様な中,肥満関連疾患の発症メカニズムについての研究が盛んに行われており,脂肪細胞から分泌される内分泌物質(アディポカイン)がそれらの発症に密接に関与していることが解明されつつある。例えば,アディポカインの中でも,レプチン,アディポネクチン及びレジスチンは,細胞のエネルギー恒常性及びインスリン感受性を制御することが解明されている(非特許文献2,3)。この他,脂肪細胞は,従来からマクロファージが分泌することが知られていた炎症性サイトカイン,例えばTNF−αやインスリン抵抗性(インスリンに対する細胞の感受性の低下)にも関与するMCP−1等のタンパク質も分泌している(非特許文献4,5)。これらもまたアディポカインの一種ということができる。この他,多くのアディポカインが前脂肪細胞から脂肪細胞への分化過程で発現することが観察されている。
上記のように,脂肪細胞から分泌されるアディポカインの機能を解明することは,糖尿病を含む肥満関連疾患やいわゆるメタボリックシンドロームの病因の解明,ひいてはこれらに対して有効な新規治療法を開発する上で,極めて重要である。
肥満関連疾患の中でも,糖尿病は日本国内に限っても患者数700万人を超え,しかもその数は急増している。他の先進諸国においても日本と同様の状況である。糖尿病は,血糖値の調節能力(耐糖能)が弱まり血糖値が異常に上昇することにより引き起こされる全身性代謝障害であって,高浸透圧性昏睡やケトアシドーシス等の重篤な代謝異常を引き起こすだけでなく,細血管病性の合併症によって予後を悪化させ,生活の質(QOL)を極端に低下させるのを特徴とする。糖尿病は,膵β細胞が破壊される(自己免疫異常が主要な要因とされる)ことによる1型糖尿病と,インスリンに対する抵抗性の増大とインスリン分泌低下とが組み合わさったものである2型糖尿病とに大別される。
2型糖尿病(糖尿病患者の約90%を占める)では,膵β細胞におけるインスリン分泌の低下と,インスリンの標的細胞である骨格筋等におけるインスリン抵抗性とが様々な程度に合わさってインスリン作用の低下が起こり,高血糖状態がもたらされる。また,インスリン抵抗性が持続することにより,膵β細胞が疲弊してインスリン分泌能が更に低下するという悪循環が形成され,症状が進行する。2型糖尿病に対しては,このような悪循環を断ち切るため,インスリン抵抗性を改善する薬剤が極めて有効的であると考えられる。
2型糖尿病に対する治療剤としては,ミチグリニドカルシウム水和物錠(商品名:グルファスト錠),塩酸ピオグリタゾン錠(商品名:アクトス錠)が既に市販されている。しかしながら,病因が必ずしも解明されておらず多様な背景を有する2型糖尿病患者の全てに対応できるまでには至っていない。このため,作用機序の異なる新規な薬剤の開発が望まれている。
ケマリン(chemerin)(TIG2,メタボカインとも呼ばれる。)は,マクロファージ及び未分化樹上細胞に対する走化性因子であり,Gタンパク質共役型受容体(ChemR23)のリガンドである(非特許文献6,7)。ケマリンは,免疫調節性抗原提示細胞の特異的集団に対する走化性因子として,炎症又は傷害部位における免疫反応を制御する機能を有することが報告されている(非特許文献8,9)。
ヒトケマリンは,163個のアミノ酸から構成されるタンパク質として翻訳され,N末端の20個のアミノ酸よりなるシグナルペプチドがプロセスされた前駆体(ヒトプロケマリン)(塩基配列を配列番号1に,アミノ酸配列を配列番号2に,それぞれ示す)として分泌された後,C末端の6個のアミノ酸(アミノ酸配列:Lys-Ala-Leu-Pro-Arg-Ser:配列番号3)が除去されて,ChemR23への高い親和性を有する137個のアミノ酸から構成されるヒト成熟型ケマリン(塩基配列を配列番号4に,アミノ酸配列を配列番号5に,それぞれ示す。)となる(非特許文献7及び10)。
最近,ケマリンは,脂肪細胞の分化に関与するアディポカインの一種であること(非特許文献11),ケマリンの血中濃度が,ボディマス指数(BMI),トリグリセリドの血中濃度,及び血圧と関連していること(非特許文献12)が報告されている。しかしながら,ケマリンの代謝制御における役割は解明されていない。
Nature, 414:782-7 (2001) J Allergy Clin Immunol, 115: 911-9 (2005); quiz 920 Endocrinol Metab, 89: 2548-56 (2004) Circ Res, 95: 858-66 (2004) Annu Rev Immunol, 18: 217-42 (2000) J Invest Dermatol, 109: 91-5 (1997) J Exp Med, 198: 977-85 (2003) J Biol Chem, 280: 34661-6 (2005) J Immunol, 174: 244-51 (2005) J Biol Chem, 279: 9956-62 (2004) J Biol Chem, 282: 28175-88 (2007) Endocrinology, 148: 4687-94 (2007)
上記の背景の下,本発明は,糖尿病,特に2型糖尿病の治療方法,糖尿病治療用のタンパク質,及び当該タンパク質を含んでなる治療剤を提供することを目的とする。
本発明者らは,インビトロでの脂肪細胞モデルとして,前脂肪細胞であるマウスの3T3−L1細胞を用いて,それが脂肪細胞へと分化する過程において発現が誘導される遺伝子を,ディフェレンシャルディスプレイ法を用いてクローニングし,脂肪細胞への分化に伴い発現が誘導される遺伝子を検出し,それがケマリンであることを見出した。更に本発明者らは,3T3−L1細胞に対するインスリンによるグルコース取り込み促進作用を,ヒト成熟型ケマリンが増強することを見出した。加えて本発明者らは,ヒト成熟型ケマリンが,正常マウス及び2型糖尿病モデルマウスにおいて,インスリンの血糖降下作用を増強する効果を有することも見出した。本発明はこれらの発見に基づいて完成されたものである。
すなわち,本発明は以下を提供するものである。
1.ヒト成熟型ケマリンを有効成分として含有してなる,糖尿病治療剤。
2.該糖尿病が1型糖尿病又は2型糖尿病である,上記1の糖尿病治療剤。
3.該糖尿病が2型糖尿病である,上記1の糖尿病治療剤。
4.血糖降下剤である,上記1ないし3の何れかの糖尿病治療剤。
5.インスリン作用増強剤である,上記1ないし4の何れかの糖尿病治療剤。
6.ヒトインスリンの投与を併せて受ける患者用の糖尿病治療剤である,上記1ないし5の何れかの糖尿病治療剤。
7.注射剤の形態である,上記1ないし5の何れかの糖尿病治療剤。
8.該注射剤が,ヒト成熟型ケマリンを含有してなる水性液剤である,上記7の糖尿病治療剤。
9.該注射剤が,ヒト成熟型ケマリンを含有してなる凍結乾燥物である,上記7の糖尿病治療剤。
10.該ヒト成熟型ケマリンが,配列番号5のアミノ酸配列を含んでなるものである,上記1ないし9の何れかの糖尿病治療剤。
11.患者の糖尿病の治療方法であって,該患者にヒト成熟型ケマリンの有効量を投与することを含むものである,方法。
12.該糖尿病が1型糖尿病又は2型糖尿病である,上記11の方法。
13.糖尿病治療用であるヒト成熟型ケマリン。
14.該糖尿病が1型糖尿病又は2型糖尿病である,上記13のヒト成熟型ケマリン。
ヒト成熟型ケマリンは,細胞のグルコース取り込みに対するインスリンの促進作用を増強して,インスリンの血糖降下作用を増強する。このため,ヒト成熟型ケマリンは糖尿病の治療用に用いることができ,これを含有する本発明の糖尿病治療剤は,患者の内因性インスリンの,又は患者に投与されたインスリンの作用を増強して細胞による血中グルコースの取り込みを高め,インスリンのみによる場合に比して効果的な血糖値の低下をもたらすことができる。従って,本発明の糖尿病治療剤は,1型糖尿病及び2型糖尿病の何れに対しても使用できるが,特に,インスリンによる細胞のグルコース取り込み促進作用を増強することから,インスリン抵抗性を伴うものである2型糖尿病の治療剤として用いるのにとりわけ適している。また本発明の糖尿病治療剤は,インスリンの作用を増強するものであるため,内因性インスリンが十分量分泌されている患者に対しては,インスリンの投与を伴うことなく本発明の糖尿病治療剤を単独で投与して血糖値を低下させることが可能であり,また患者の内因性インスリン分泌量が低下しているか又は実質的に分泌を欠いている場合には,補充のためのインスリン投与と併用することができる。
また,本発明の糖尿病治療剤は,Gタンパク質共役型受容体(ChemR23)のリガンドでありChemR23を介して作用すると考えられ,その作用機序は既存の薬剤と全く異なることから,既存の薬剤に抵抗性の糖尿病患者の治療剤として使用できる。
各種ヒト臓器から抽出したmRNAの,ヒトケマリンcDNAをプローブとしたノーザンブロッティングを示す。レーン1は心臓,レーン2は脳,レーン3は胎盤,レーン4は肺,レーン5は肝臓,レーン6は骨格筋,レーン7は腎臓,レーン8はすい臓のmRNAである。 ヒトプロケマリン及びヒト成熟型ケマリン発現用ベクターの構築方法の概要を示す工程図 ヒトプロケマリン及びヒト成熟型ケマリン発現用ベクターの構築方法の概要を示す工程図 精製したヒト成熟型ケマリンのSDS−PAGEゲル電気泳動パターンを示す。(A)クマシー染色。Mは分子量マーカーを示す。レーン1には3μg,レーン2には5μgのタンパク質をそれぞれアプライした。(B)ウェスタンブロッティング。Mは分子量マーカーを示す。 ヒトインスリンに誘導される前脂肪細胞へのグルコース取り込み量に対する,ヒト成熟型ケマリンの影響を示す。縦棒は標準偏差を,*印はt検定でP<0.05を示す。 正常マウスにおけるヒトインスリンの血糖降下作用に対するヒト成熟型ケマリンの影響を示す。縦棒は標準偏差を,*印はt検定でP<0.05を示す。 2型糖尿病モデルマウスにおけるヒトインスリンの血糖降下作用に対するヒト成熟型ケマリンの影響を示す。
本発明において,ヒト成熟型ケマリンにより治療される「患者」は,ヒトを含む哺乳類動物であり,特に好ましくはヒトである。
本発明の糖尿病治療剤は,ヒト成熟型ケマリンを有効成分として含有する。本発明において,「ヒト成熟型ケマリン」というときは,野生型のヒト成熟型ケマリン(すなわち,ヒトにおいて翻訳された直後のヒトケマリンからシグナルペプチド部分とC末端の6個のアミノ酸が除去されてできたタンパク質:配列番号5〕のほか,(インスリンの作用を増強する効果を有する限り)当該タンパク質のN末端に1個又は2個のアミノ酸残基(例え,ばAsp-Pro-等)が付加したものも包含する。N末端へのこのような1個又は2個のアミノ酸の付加は,野生型のヒト成熟型ケマリンの上記作用に特段の影響を及ぼさない。特にN末端のこのような1〜2個の追加の残基は,遺伝子組換えに技術を用いて異種タンパク質を宿主細胞に産生させる際に技術的制約から残存する場合があるが,それら追加のアミノ酸残基を含んだヒト成熟型ケマリンも,通常,それらを含まない本来のヒト成熟型ケマリンと全く同様に使用することができる。
本発明において,ヒト成熟型ケマリンは遺伝子組換え技術を用いて遺伝子組換え体として製造することができる。その場合,発現系を構成する宿主としては大腸菌,CHO細胞等の哺乳動物細胞,又は昆虫細胞を用いることができる。
ヒト成熟型ケマリンを有効成分とする本発明の糖尿病治療剤は,注射剤として静脈内,筋肉内,腹腔内又は皮下に投与することができる。これらのうち,皮下投与がより好ましい。本発明における糖尿病治療剤は,凍結乾燥製剤又は水性液剤として供給することができる。水性液剤とする場合,バイアルに充填した形態としてもよく,注射器に予め充填したものであるプレフィルド型の製剤として供給することもできる。凍結乾燥製剤の場合,使用前に水性媒質に溶解して使用する。
ヒト成熟型ケマリンを有効成分とする本発明の糖尿病治療剤は,インスリン製剤と併用して使用することができる。その場合,ヒト成熟型ケマリンを含有する糖尿病治療剤は,インスリン製剤の投与前に投与してもよく,インスリン製剤の投与と同時に投与してもよく,また,インスリン製剤の投与後に投与してもよい。またこれらの場合,本発明の糖尿病治療剤は,インスリン製剤と組み合わせて糖尿病治療用キットとして供給することもできる。キットとしては,インスリン製剤(アンプル,バイアル又はプレフィルド型)と本発明のヒト成熟型ケマリン製剤(アンプル,バイアル又はプレフィルド型)とを組み合わせて単一のケースに収納したものとすることができる。この場合,インスリン製剤は従来一般に使用されているものと同様のものであってよい。また,インスリンとヒト成熟型ケマリンとを同時に投与しようとするときは,本発明の糖尿病治療剤は,ヒト成熟型ケマリンとインスリンの双方の有効量を含有した単一の製剤としてもよい。
本発明において,ヒト成熟型ケマリンの投与量は,患者のインスリン抵抗性の程度及びインスリン分泌低下の程度に応じて,担当医師が判断する事項であるが,患者の内因性インスリン量が少なく,患者にインスリンとヒト成熟型ケマリンの双方を投与する場合には,例えば,インスリン100単位に対してヒト成熟型ケマリン50〜1000mgの比率で併用することができる。患者の内因性インスリンの分泌量が相当程度あり,インスリンは投与せずヒト成熟型ケマリンのみを投与する場合には,ヒト成熟型ケマリンの投与量は,例えば,10〜200mg/成人/日とすることができる。
また,本発明の糖尿病治療剤は,重篤な副作用がなく許容できる範囲でミチグリニドカルシウム水和物,塩酸ピオグリタゾンその他の糖尿病治療剤と併用することもできる。
本発明の糖尿病治療剤は,ケマリンを無菌の水性媒質又は非水性媒質に混合して調製した注射剤の形態であってよい。無菌の水性媒質としては,注射用水を用いることができ,無菌の非水性媒質としては,プロピレングリコール,ポリエチレングリコール,ゴマ油,大豆油,トウモロコシ油,プロピレングリコール脂肪酸エステル等の,非水性の注射剤の媒質として当業者に知られているものから適宜選択して用いることができる。特に好ましい媒質は,水性媒質,特に水である。また,本発明の糖尿病治療剤は,注射剤に一般に使用されている各種の添加剤を所望により配合したものであってよい。そのような添加剤の主なものとしては,等張化剤,緩衝剤,保存剤,安定化剤,pH調整剤等が挙げられる。
上記において,等張化剤の例としては,塩化ナトリウム等の塩類が挙げられる。緩衝剤の例としては,リン酸緩衝液,クエン酸緩衝液,酢酸緩衝液,マロン酸緩衝液,コハク酸緩衝液等が挙げられる。保存剤の例としては,クロロブタノール,ベンジルアルコール,パラオキシ安息香酸エステル類(メチルパラベン,プロピルパラベン),ソルビン酸,フェネチルアルコール,フェノール,デヒドロ酢酸等が挙げられる。安定化剤としては,アルブミン,グロブリン,ソルビトール,エチレングリコール,プロピレングリコール,亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。pH調整剤としては,塩酸,硫酸,リン酸等の無機酸,酢酸,酒石酸,乳酸,クエン酸,コハク酸,リンゴ酸,シュウ酸,安息香酸,グルコン酸,フマル酸,ソルビン酸等の有機酸,水酸化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム等の無機塩基,クエン酸ナトリウム,酒石酸ナトリウム,コハク酸ナトリウム,リンゴ酸ナトリウム,グルコン酸ナトリウム等の有機塩基が挙げられる。pHは特に限定されないが,中性付近,例えばpH7.4程度に設定しておくことができる。
以下,実施例を参照して本発明を更に詳細に説明するが,本発明が実施例に限定されることは意図しない。なお,全ての動物実験は,神戸大学医学部動物実験倫理委員会のガイドラインに従って実施した。
<3T3−L1細胞の脂肪細胞への分化>
マウス前脂肪細胞である3T3−L1細胞は,インビトロで前脂肪細胞から脂肪細胞への分化を研究する際に最も一般的に使用されている細胞である(Cell 5:19-27 (1975))。3T3−L1細胞〔American Type Culture Collection(ATCC)より入手〕は10%FCSを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM培地)で継代培養した。3T3−L1細胞の脂肪細胞への分化誘導は既報に従い下記の手順で行った(Life Sci, 68: 2917-23(2001))。すなわち,250nmol/Lのデキサメサゾン,0.5nmol/Lの1−メチル3−イソブチルキサンチン,及び10μg/mLのインスリンを添加した10%FCSを含むDMEM培地で48時間培養した後,10μg/mLのインスリンを添加した10%FCSを含むDMEM培地に交換して更に48時間培養した。
<ディフェレンシャルディスプレイ法>
分化前及び分化後の3T3−L1細胞(各々5×107個)から,QuickPrep mRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス社)を用いてmRNAを抽出した。0.5μgのmRNAからReverTra AceTM(東洋紡)を用いてcDNA溶液を作成した。すなわち,0.5μLのcDNA溶液に,2μM dNTPs,5μCiの[33P]dATP(3000 Ci/mmol, New England Nuclear),AmpliTaq(Perkin-Elmer社),1μM anchor primer(T12MN,Clontech社)及び0.5μM arbitrary primer(10mer,GC比率=40〜60%,Clontech社)を含む4.5μLのPCR溶液を加えた。PCR反応は,[94℃:3分,40℃:3分,72℃:5分]で1サイクル,[94℃:30秒,40℃:2分,72℃:30秒]で35サイクル行い,最後に72℃で5分間反応させることにより行った。PCR反応により33PでラベルされたDNA断片を6%のポリアクリルアミドゲル電気泳動により展開させた後,X線フィルムをゲルに重ね合わせてフィルムを感光させた。X線フィルムを現像し,分化前及び分化後各々の細胞のcDNAからPCR反応により得られたDNA断片の電気泳動パターンをX線フィルム上で比較した。分化前と比較して分化後にX線フィルム上で濃さが変化したバンドを,脂肪細胞の分化により発現が誘導された遺伝子の断片と見なして,当該バンドに相当する部分のゲルを切り出し,再度,これをテンプレートして上記と同様の条件にてPCR反応を行った。ここで得られたPCR産物をpGEM-T Easy Vector(プロメガ社)へサブクローニングした。
サブクローニングにより得られた318個のクローンにつき,常法に従ってDNAシークエンス解析を行ったところ,この中にマウスケマリンの遺伝子断片を含むクローンが1個含まれていることがわかった。
<ヒトプロケマリン遺伝子のクローニング>
ディフェレンシャルディスプレイ法で得られたマウスケマリン遺伝子の塩基配列について,GENEBANKを用いてホモロジーサーチを行い,ヒトプロケマリンをコードするDNAの塩基配列を得た(配列番号1)。ヒト脂肪組織cDNA(Clontech社)をテンプレートとし,プライマーf1(5’-GGATCCTGAGCTCACGGAAGCCCA-3’:配列番号6)とプライマーr1(5’-CTCGAGTTAGCTGCGGGGCAGGGCCTT-3’:配列番号7)をプライマーとして,ReverTra AceTM(東洋紡社)を用いてPCR反応を行い,ヒトプロケマリンをコードするcDNAを増幅させた。PCR反応は,[94℃:1分,55℃:1分,72℃:2分]で35サイクル行い,最後に72℃で5分間反応させた。増幅させたヒトプロケマリンcDNAをpCR2.1ベクター(Novagen社)に挿入した。このプラスミドをpCR2.1-chemerinとした。
<ノーザンブロッティング>
pCR2.1-chemerinをNdeIとXhoIで消化し,ヒトプロケマリンcDNAを切り出した。切り出したcDNAをRediprime II Random Prime Labelling System (Amersham Biosciences社)を用いて[32P]dCTP(10mCi/mL, Amersham Biosciences社)で放射ラベルしこれをプローブとした。ノーザブロッティング用に心臓,脳,胎盤,肺,肝臓,骨格筋,腎臓及び膵臓由来のRNAをナイロン膜に転写したHuman 8-lane Multiple Tissue Northern Blot (BD Bioscience社)に,上記の放射ラベルしたプローブを常法に従いハイブリダイゼーションさせノーザンブロッティングを行った。その結果,ヒトケマリン遺伝子の発現は,主に肝臓と膵臓で検出できた(図1)。
<ポリクローナル抗体の作製>
pCR2.1-chemerinを鋳型とし,プライマーf2(5’-CATATGGAGCTCACGGAAGCCCA-3’:配列番号8)とプライマーr2(5’-GGATCCTTAGCTGCGGGGCAGGGCCTT-3’:配列番号9)をプライマーとしてヒトプロケマリンcDNAを増幅させた。PCR反応は,[94℃:1分,55℃:1分,72℃:2分]で35サイクル行い,最後に72℃で5分間反応させることにより行なった。増幅させたヒトプロケマリンcDNAをpT7BlueTベクター(Novagen社)に挿入した。このプラスミドをpT7Blue-chemerinとした。pT7Blue-chemerinをNdeIとBamHIで消化してヒトプロケマリンcDNAを切り出し,これをNdeIとBamHIで消化したpET14-bベクター(Novagen社)に挿入した。このプラスミドをpET-chemerinとした。pET-chemerinの作成方法の概略を図2及び図3に示す。pET-chemerinを用いて得られるヒトプロケマリンはN末端にヒスチジンタグが付加されるが,これをヒスタグ−ヒトプロケマリンとした。
pET-chemerinを用いて大腸菌ADA494(DE3)を形質転換させた。形質転換させた大腸菌を2LのLB培地に懸濁させ37℃で培養し,OD600が約0.4になった時点でIPTGを0.4mMの濃度となるように培地に添加し,更に3時間培養をした。培養後,大腸菌を遠心分離して回収し,500mMの塩化ナトリウム,0.1%のTritonX-100を含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)で1回洗浄した後,細胞破壊液[500mMの塩化ナトリウム,0.1%のTritonX-100及び8Mの尿素を含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)]に懸濁させ,細胞を超音波破壊した。遠心分離して細胞残渣を除去して得た上清を0.22μmフィルターでろ過した後,細胞破壊液で予め平衡化させたHiTrap chelating HPカラム(Amersham Biosciences社)に通した。カラムを5倍容の細胞破壊液で洗浄した後,200mMのイミダゾールを添加した細胞破壊液でヒスタグ−ヒトプロケマリンを溶出した。回収した溶出液を4Mの尿素,1mMの2−メルカプトエタノール ,1mMのDTT,500mMの塩化ナトリウム,0.1%のTritonX-100を含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)で平衡化したSuperdex 200カラム(Amersham Biosciences社)に通し,ヒスタグ−ヒトプロケマリンを回収した。回収したヒスタグ−ヒトケマリンを用いて常法に従ってウサギを免疫し,抗ヒスタグ−ヒトプロケマリン抗体を含む抗血清を得た。
<ヒト成熟型ケマリン発現用バキュロウイルスベクターの作製>
pFastBac-1(GIBCO BRL)をBamHIにて消化後,BamHIの突出末端をクレノウフラグメント(東洋紡社)を用いて平滑末端化し,これをライゲーションキットVer.2(TAKARA)を用いてセルフライゲーションさせ,pFastBac-1のBamHIサイトを潰した。このプラスミドをpFastBac1[-BamHI]とした。
ヒト脾臓cDNAライブラリー(タカラバイオ)を鋳型として,ヒトIgGのFc遺伝子を,プライマーf3(5’-CGCGGATCCCGAGCCCAAATCTTGTGACAAAACTCAC-3’:配列番号10)及びプライマーr3(5’-AAGGAAAAAAGCGGCCGCTCATTTACCCGGAGACAGGGAGAGGCTC-3’:配列番号11)を用いてPCR反応を行うことにより増幅した。PCR反応は,[94℃:3分,55℃:1分,72℃:2分]で35サイクル行い,最後に72℃で5分間反応させることにより行った。PCR産物をBamHIとNotIで消化し,これをBamHIとNotIで消化したpBluescriptSK(-)(pBSK(-), STRATAGENE社)に組み込んだ。このプラスミドをpBlu-Fcとした。
pBlu-FcをEcoRIとNotIで消化してFc遺伝子断片を切り出し,これをEcoRIとNotIで消化したpFastBac1[-BamHI] に組み込んだ。このプラスミドをpFastBac-Fcとした。
ミツバチのメリチン(melittin)シグナル配列をコードする互いに相補的な2本のオリゴDNAである,オリゴDNAf1(5’−GAATTCTATAAATATGAAATTCTTAGTCAACGTTGCCCTTGTTTTTATGGTCGTGTACATTTCTTACATCTATGCG−3’:配列番号12)とオリゴDNAr1(5’-GGATCCGCATAGATGTAAGAAATGTACACGACCATAAAAACAAGGGCAACGTTGACTAAGAATTTCATATTTATAG-3’:配列番号13)の5‘末端をT4ポリヌクレオチドキナーゼ(TOYOBO社)を用いてリン酸化した後,互いにアニールさせて2本鎖DNAとし,これをEcoRIとBamHIで消化したpFastBac-Fcに組み込んだ。これをpFastBac―Signal―Fcとした。
pT7Blue-chemerinを鋳型としプライマーf4(5’-GGATCCTGAGCTCACGGAA-3’:配列番号14)とプライマーr4(5’-CTCGAGTTAGGAGAAGGCGAA-3’:配列番号15)をプライマーとしてヒト成熟型ケマリンcDNAを増幅させた。増幅させたヒト成熟型ケマリンcDNAをBamHIとXhoIで消化し,これをBamHIとXhoIで消化したpFastBac―Signal―Fcとライゲーション反応させた。5μLのライゲーション反応液を50μLのBacmid構築用大腸菌DH10Bacのコンピテント細胞(Invitrogen社)と混和させ,氷上に30分間静置した。ヒートショックを加えた後,37℃に温めた0.5mLのSOC培地を加えて混和し,37℃にて5時間培養した。培養液をLB培地で2000倍希釈し,希釈液の0.2mLをLBプレート(カナマイシン50μg/mL,ゲンタマイシン7μg/mL,テトラサイクリン10μg/mL,IPTG/Xgal塗布)に播いた。37℃にて2日間培養した。培養後,大きくて白い大腸菌のコロニーをプレート上から選択し,このクローンからBacmidDNAを精製した。これをヒト成熟型ケマリン発現用バキュロウイルスベクター(pFastBac-Signal-chemerin)とした。pFastBac-Signal-chemerinを用いることにより,ヒト成熟型ケマリンはN末端にメリチンシグナル配列が付加されて分泌タンパク質として昆虫細胞中で発現し,発現後にメリチンシグナル配列部分が除去されて培地中に放出される。pFastBac-Signal-chemerinの作成方法の概略を図3に示した。
<ヒト成熟型ケマリン発現用組み換えバキュロウイルスの作製>
10%のFCSを含むグレース昆虫細胞培養培地(Invitrogen社)で懸濁したSf9細胞を6ウェルプレートに1ウェルあたり1.5×106個/2mLで播いた後,27℃で1.5時間静置してプレートに固着させた。プレートから培地を除き,細胞を1ウェルあたり2mLのグレース昆虫細胞培養培地・サプリメント不含(Invitrogen社)で洗浄した後,グレース昆虫細胞培養培地・サプリメント不含を1ウェルあたり2mL加え27℃で10分間静置した。5μLのCellfection(Invitrogen社)を100μLのグレース昆虫細胞培養培地・サプリメント不含と混和させ,これに5μLのヒト成熟型ケマリン発現用バキュロウイルスベクター溶液と100μLのグレース昆虫細胞培養培地・サプリメント不含を混和させたものを加えて更に混和させ,27℃で30分間静置した。静置後これに800μLのグレース昆虫細胞培養培地・サプリメント不含を加え,Bacmid-Cellfection混合液とした。プレートから培地を除き,1ウェルあたり1mLのBacmid-Cellfection混合液を加え,27℃で5時間静置した。静置後1ウェルあたり2mLの10%のFCSを含むグレース昆虫細胞培養培地で洗浄し,同培地を1ウェルあたり2mL加えて27℃で3日間培養した。培養後,培養上清を回収し,遠心分離(3000rpm,5分)により細胞残渣を除去したものをヒト成熟型ケマリン発現用種ウイルス液(発現用種ウイルス液)とした。発現用種ウイルス液は使用するまで4℃で保存した。
<ヒト成熟型ケマリン発現用バキュロウイルスの大量調製>
10%のFCSを含むグレース昆虫細胞培養培地で0.8×106個/mLの濃度でSf9細胞を懸濁させ,この懸濁液10mLを75cm2培養フラスコに播いた。27℃で1時間静置して細胞をフラスコに固着させた。培養液を除去し,4mLの上記培地と1mLの発現用種ウイルス液とを混和させた液を加え,室温で1時間ゆっくりと振とうさせてウイルスを感染させた。上清を除き,1フラスコあたり10mLの上記培地を加えて27℃で3日間培養した。培養後,培養上清を回収し,遠心分離(3000rpm,5分)により細胞残渣を除去したものをヒト成熟型ケマリン発現用ウイルス液とした。ヒト成熟型ケマリン発現用ウイルス液は使用するまで4℃で保存した。
<組み換え体ヒト成熟型ケマリンの発現>
High−FiveTM細胞を2.5×106個/mLの濃度に10%のFCSを含むグレース昆虫細胞培養培地で懸濁させ,この懸濁液20mLを150cm2培養フラスコ(15枚)に播いた。27℃で1時間静置して細胞をフラスコに固着させた。培養上清を除いた後,フラスコに9.5mLの上記培地と0.5mLのケマリン発現用ウイルス液を混和したものを加え,室温で1時間ゆっくりと振とうさせてウイルスを感染させた。上清を除き,1フラスコあたり20mLのEx-CELL405培地(JRH Biosciences社)を加えて27℃で3日間培養した。培養上清を回収し,遠心分離(3000rpm,5分)により細胞残渣を除去し培養上清を回収し,これを0.22μmフィルターでろ過した。
<ヒト成熟型ケマリンの精製>
回収した上記培養上清を100mM HEPES緩衝液(pH7.0)で透析をした。これを予め50mM HEPES緩衝液(pH7.0)で平衡化したSP Sepharose(HiTrap SP XL,GE Healthcare Bio-Sciences社,カラムサイズ5mL)に通しヒト成熟型ケマリンを樹脂に吸着させた。5倍容の50mM HEPES緩衝液(pH7.0)で樹脂を洗浄後,塩化ナトリウムの濃度勾配で樹脂に吸着したヒト成熟型ケマリンを溶出させた。約400mMの塩化ナトリウム濃度に現れた主ピークを回収した。回収した溶出液をPBSで平衡化したTricorn Superdex 75(100/300)に通し,主ピークをヒトケマリンとして回収した。
ヒト成熟型ケマリンを10−20%グラジエントゲル(PAGミニ「第一」10/20,第一化学薬品)を用いてアクリルアミドゲル電気泳動した後,ゲルをクマシー染色した。その結果,ヒト成熟型ケマリンのアミノ酸配列から予測された分子量の位置にバンドが現れた(図4A)。また,抗ヒスタグ−ヒトプロケマリン抗体を用いてウェスタンブロッティングしたところ,アクリルアミドゲル電気泳動で得られたバンドに相当する位置が染色され,このバンドがヒト成熟型ケマリンのものであることが確認された(図4B)。
<ヒト成熟型ケマリンのN末端アミノ酸配列の分析>
回収したヒト成熟型ケマリンを10−20%グラジエントゲル(PAGミニ「第一」10/20,第一化学薬品)を用いてアクリルアミドゲル電気泳動した後,セミドライブロッティング法によりゲルからPVDF膜にタンパク質を転写させた。PVDF膜をポンソー3Rで染色し,染色タンパク質のスポットを切り出し,20%メタノールで脱色後,プロテインシークエンサーProcise492HT(アプライドバイオシステムズ社)を用いてN末端アミノ酸配列の解析を行った。その結果,N末端から9個のアミノ酸の配列が解読された(Asp-Pro-Glu-Leu-Thr-Glu-Ala-Gln-Arg:配列番号16)。N末端から2個のアミノ酸残基(すなわち,Asp-Pro-)はメリチンのシグナル配列由来のものであり,それ以降の7個のアミノ酸配列は,予想されたヒト成熟型ケマリンのアミノ酸配列と完全に一致した。すなわち,ここで精製されたヒト成熟型ケマリンは,天然のヒト成熟型ケマリンのN末端側に,メリチンのシグナル配列由来の2個のアミノ酸(Asp-Pro-)が付加したものである。
<脂肪細胞へのグルコース取り込み量に対するヒト成熟型ケマリンの影響>
3T3−L1細胞へのグルコース取り込み量に対するヒト成熟型ケマリンの影響を既報に従って検討した(Biochem J. 1990; 271: 201-207)。すなわち,脂肪細胞に分化させた3T3−L1細胞である3T3−L1脂肪細胞を100ng/mLのヒト成熟型ケマリン存在下で12時間培養し(ケマリン添加群),更にヒトインスリンを10-8M及び10-7Mの濃度で添加し15分間培養した。ヒト成熟型ケマリンを添加しないものをケマリン不添加群とし,これについてもヒトインスリンを10-8M及び10-7Mの濃度で添加し15分間培養した。次に,何れの群の培養液にも0.5μCiの[1,2−3H]2−デオキシ−Dグルコース(NEN Life Science Products社)を添加し,更に15分間培養した。培養後,細胞をPBSで3回洗浄した。細胞を0.2MのNaOHを加えて溶解させ,液体シンチレーションカウンターを用いて放射活性を測定し,細胞に取り込まれたグルコース量を求めた。グルコース量は単位タンパク量(mg)当りの量として算出した。実験は3回繰り返し,t検定によりケマリン添加群とケマリン不添加群の群間比較を行い,p値<0.05の場合に統計学的有意差があるとした。
ケマリン不添加群と比較して,ケマリン添加群では,ヒトインスリンを10-8M及び10-7Mの濃度で添加後に著しくグルコースの取り込み量が増加し,両群間の差は統計学的に有意であった。一方,ヒトインスリンを添加しなかった場合には,ケマリン添加群と不添加群との間に差はなく,ヒト成熟型ケマリンの添加による脂肪細胞へのグルコース取り込み増加は見られなかった(図5)。これらの結果は,ヒト成熟型ケマリンは,単独では脂肪細胞へのグルコース取り込みに影響を与えないものの,脂肪細胞によるグルコース取り込みに対するヒトインスリンの促進作用を増強するという働きを有することを示している。
<正常マウスにおけるヒトインスリンの血糖降下作用に対するヒト成熟型ケマリンの影響>
雄性C57BL/6Jマウスを,12時間の照明切換え調節および一定室温の下,餌と水は自由摂取として飼育し,8週齢に達したマウスを実験に供した。実験の前日からマウスを絶食させ,絶食開始18時間後に,200μLのPBSに溶解した40μgのヒト成熟型ケマリンを腹腔内に投与した(ケマリン投与群)。ヒト成熟型ケマリン溶液の代わりに200μLのPBSを投与したマウスをコントロール群とした。各群のマウスの個体数は9匹とした。ヒト成熟型ケマリン投与45分後に,両群の動物に0.009単位のヒトインスリン(和光純薬工業)を投与した。経時的に眼窩静脈叢より約5μLの血液を採取し,血中のグルコース濃度を血糖値測定器(グルコカードアルファGT−1660,アークレイ社)を用いて測定した。t検定によりケマリン投与群とコントロール群の群間比較を行い,p値<0.05の場合に統計学的有意差があるとした。
両群とも投与前の血糖値は50〜55mg/dLであったが,ヒトインスリンの投与15分後には両群とも血糖値は急速に低下し,投与30分後に最低値(約20mg/dL)を示した。その時点では血糖値に群間差はなかった。この血糖値の低下はヒトインスリンの作用によるものである(図6)。その後,血糖値は徐々に回復し,コントロール群では投与120分後に血糖値が投与前の値に戻った。一方,ケマリン投与群では,コントロール群と比較して,血糖値の回復速度が遅く,投与75〜120分後では,ケマリン投与群の血糖値はコントロール群と比較して明らかな低値を示した。特に,投与105及び120分後ではその差は統計学的に有意であった。これらの結果は,ヒトケマリンがヒトインスリンの血糖降下作用を長期に渡って持続させる効果を有することを示す。
<2型糖尿病モデルマウスにおけるヒトインスリンの血糖降下作用に対するヒト成熟型ケマリンの影響>
次に,レプチン受容体を欠損させた2型糖尿病のモデルマウスであるC57BL+S/J-m+/+Leprdbマウス(db/dbマウス,クレア社)を用いて,ヒト成熟型ケマリンのヒトインスリン感受性増強効果を検討した。雄性db/dbマウスを,12時間の照明切換え調節及び一定室温の下,餌と水は自由摂取として飼育し,7週齢に達したマウスを実験に供した。実験の前日からマウスを絶食させ,絶食開始20時間後に,250μLのPBSに溶解した100μgのヒト成熟型ケマリンを腹腔内投与した(ケマリン投与群)。ヒト成熟型ケマリン溶液の代わりに250μLのPBSを腹腔内投与したマウスをコントロール群とした。各群のマウスの個体数は9匹とした。ヒト成熟型ケマリン投与1.5時間後に,0.06単位のヒトインスリン(和光純薬)を投与した。経時的に眼窩静脈叢より約5μLの血液を採取し,血中のグルコース濃度を血糖値測定器(グルコカードアルファGT−1660,アークレイ社)を用いて測定した。t検定によりケマリン投与群とコントロール群の群間比較を行い,p値<0.05の場合に統計学的有意差があるとした。
両群とも投与前の血糖値は約120mg/dLであった。ヒトインスリンの投与15分後には両群とも血糖値が低下したが,その値は,ケマリン投与群では約62mg/dL,コントロール群では約95mg/dLと,コントロール群と比較してケマリン投与群は著しい低値を示した(図7)。このような傾向は投与60分後まで持続し,血糖値の群間差は統計学的に有意であった。投与75分後以降は血糖値に群間差は認められなかった。これらの結果は,2型糖尿病モデルマウスにおいて,投与されたヒト成熟型ケマリンがインスリンの血糖降下作用を増強することを示している。
〔製剤実施例1〕 水性注射剤
ヒト成熟型ケマリン・・・・・50mg
塩化ナトリウム・・・・・・・・9mg
注射用水・・・・・・・・・全量1mL
上記成分比率でヒト成熟型ケマリンと塩化ナトリウムを注射用水に溶解させて水性注射剤とする。
〔製剤実施例2〕 水性注射剤
ヒト成熟型ケマリン・・・・200mg
塩化ナトリウム・・・・・・・18mg
注射用水・・・・・・・・・全量2mL
上記成分比率でヒト成熟型ケマリンと塩化ナトリウムを注射用水に溶解させて水性注射剤とする。
〔製剤実施例3〕 凍結乾燥型水性注射剤
ヒト成熟型ケマリン・・・・・100mg
アルブミン・・・・・・・・・100mg
塩化ナトリウム・・・・・・・・16mg
注射用水・・・・・・・・・・全量2mL
上記成分比率でヒト成熟型ケマリン,アルブミン,及び塩化ナトリウムを注射用水に溶解させ,凍結乾燥して凍結乾燥型水性注射剤とする。使用時に2mLの注射用水で溶解することにより,水性注射剤として復元する。
ヒト成熟型ケマリンを有効成分とする本発明の糖尿病治療剤は,インスリンの血糖降下作用及びグルコース取込促進作用を増強することができる。従って,本発明は,糖尿病の治療剤として,それ単独で又はインスリンと共に使用することができ,特に,インスリン抵抗性又は分泌低下を特徴とする2型糖尿病の治療剤として,とりわけ利用することができる。

Claims (10)

  1. ヒト成熟型ケマリンを有効成分として含有してなる,糖尿病治療剤。
  2. 該糖尿病が1型糖尿病又は2型糖尿病である、請求項1の糖尿病治療剤。
  3. 該糖尿病が2型糖尿病である,請求項1の糖尿病治療剤。
  4. 血糖降下剤である,請求項1ないし3の何れかの糖尿病治療剤。
  5. インスリン作用増強剤である,請求項1ないし4の何れかの糖尿病治療剤。
  6. ヒトインスリンの投与を併せて受ける患者用の糖尿病治療剤である,請求項1ないし5の何れかの糖尿病治療剤。
  7. 注射剤の形態である,請求項1ないし5の何れかの糖尿病治療剤。
  8. 該注射剤が、ヒト成熟型ケマリンを含有してなる水性液剤である、請求項7の糖尿病治療剤。
  9. 該注射剤が、ヒト成熟型ケマリンを含有してなる凍結乾燥物である、請求項7の糖尿病治療剤。
  10. 該ヒト成熟型ケマリンが,配列番号5のアミノ酸配列を含んでなるものである,請求項1ないし9の何れかの糖尿病治療剤。
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