JP5201638B2 - 多孔質体 - Google Patents

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Description

本発明は、水処理膜、フィルター、吸着材、不織布研磨材、各種機能性材料の基材、鋳型等に利用可能な多孔質体に関する。
多孔質体は、多孔質膜、ろ過フィルター、吸着材、不織布研磨材等、種々の用途に利用されている材料である。中でも多孔質膜は、分離の完全性、コンパクト性等に優れており、水処理膜として、産業排水処理、下廃水処理、浄水化等の水処理に広く用いられている。また、近年、記録密度の向上によるハードディスク(HD)の大容量化が進んでいる。HDの記録密度を向上するためには、HD表面のさらなる平滑化が必要であるが、そのためにはナノオーダー(1nm以上100nm未満)の孔を有する不織布研磨材が望まれている。
従来の多孔質体としては、例えば、溶融賦形されたポリエチレンを延伸多孔化した多孔質膜が知られている(特許文献1〜3参照)。該多孔質膜は、被処理水中の細菌、異物等の不要成分を高度に除去でき、また、透水性能に優れるため、水処理、薬液ろ過等、多くの分野で利用されている。しかしながら、従来のポリエチレンからなる多孔質膜は、その耐久性、特に水処理後の多孔質膜の洗浄時に用いられる次亜塩素酸ナトリウムに対する耐薬品性に問題がある。耐薬品性に優れるポリエチレンとしては、超高分子量ポリエチレンが知られているが、超高分子量ポリエチレンは、加熱延伸による多孔化が極めて困難である。
また、特許文献1〜3に記載の溶融賦形されたポリエチレン多孔質膜は、結晶ラメラと非晶とが交互に積層した積層ラメラ構造を有するポリエチレンを延伸することにより結晶ラメラ間が剥離し、剥離したラメラ間にフィブリルが形成されることによって、多孔質構造を形成している(例えば、非特許文献1、2参照)。しかし、この方法で得られた多孔質構造は、開孔率は高いものの、サブミクロンオーダー(0.1μm以上1μm未満)からミクロンオーダー(1μm以上1mm未満)の孔径を有する多孔質構造である。
超高分子量ポリエチレンからなる多孔質体としては、超高分子量ポリエチレンの粒子を融着させた多孔質体(特許文献4参照)、超高分子量ポリエチレンの粒子を焼結成形した多孔質体(特許文献5参照)が提案されている。しかしながら、これら多孔質体は、粒状の超高分子量ポリエチレンの集合体であるため、例えば、特許文献5に記載の多孔質体の引張り強度は3MPa程度であり、機械的強度が低いものである。特許文献6には、強度が5g/d以上(すなわち0.045N/dtex以上)の多孔質繊維が開示されている。しかしながら、材料のポリエチレンのメルトインデックス(MI)値は0.05〜1.2であり、溶融延伸可能な低分子量のポリエチレンが使われているため、耐薬品性が低いものである。
特許文献3には、メルトインデックスが1〜15の高密度ポリエチレンを延伸多孔化する方法が記載されている。しかしながら、超高分子量ポリエチレンは、加熱による延伸多孔化が極めて困難である。また、特許文献7には、重量平均分子量50万以上のポリエチレンを60〜95重量%含み、かつ重量平均分子量1万〜100万のポリプロピレンを5〜40重量%含むポリオレフィン混合物からなるポリオレフィン中空糸状多孔膜が記載されている。この多孔膜は、いわゆる熱誘起相分離法で製造されているが、破断強度が6.54〜9.147MPaと低いものである。
なお、超高分子量ポリエチレンを紡糸口金から吐出した後引き取り、ついで超臨界流体またはそれに類する流体で処理する際にもしくはその後に延伸するポリエチレン繊維の製造方法が提案されている(特許文献8)。この方法は、繊維の強度、弾性率の改善を目的とし、超臨界流体またはそれに類する流体で処理する際にもしくはその後に延伸することにより、繊維外層の配向のみを緩和し、外層と内層の緻密度または構造差を低減することにより延伸倍率を向上させ、高強度、高弾性化を達成したものである。特許文献8に記載の製造方法は、いわゆるゲル紡糸により吐出された超高分子量ポリエチレンを、超臨界流体またはそれに類する流体で処理する際にもしくはその後に延伸するポリエチレン繊維の製造方法であるが、この場合、超高分子量ポリエチレンを適当な溶剤で溶解し、高分子鎖が互いに重なり始める準希薄溶液から、延伸に必要な最小限の絡み合い構造を有するゲル状の未延伸糸を作製し、次いでゲル状の糸を高倍率に延伸することによって折り畳み鎖から伸びきり鎖へと構造を変化させる(例えば、非特許文献3参照)。したがって、延伸によって分子鎖が高度に分子配向するため、多孔体構造とはならない。
特開昭57−66114号公報 特開昭58−81611号公報 特開平5−49878号公報 特許第3483331号公報 特開平9−3236号公報 特開平6−123005号公報 特開2001−300275号公報 特開2003−3323号公報
高分子学会編、「高分子サイエンス One Point−4 高分子の結晶」、共立出版、1993年発行 黒田敏彦、滝澤章、永澤満編、「高分子の基礎物性と応用」、株式会社シーエムシー、1984年発行 繊維学会編、「第2版 繊維便覧」、丸善株式会社、平成6年発行
よって、本発明の目的は、機械的強度が高く、かつ耐薬品性に優れる多孔質体を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、ナノオーダー孔径を有する多孔質体を提供することにある。
本発明の多孔質体は、超臨界流体または亜臨界状態の流体で処理し、延伸した、粘度平均分子量が100×10 以上の結晶性ポリオレフィンで構成された厚さ5〜50nmの薄板が積層した構造を有することを特徴とする。
超臨界流体または亜臨界状態の流体で処理し、延伸した結晶性ポリオレフィンで構成された厚さ5〜50nmの薄板が積層した構造を有する多孔質体の開孔率は、10〜80%であることが望ましい。
本発明の多孔質体は、機械的強度が高く、かつ耐薬品性に優れる。
また、本発明の多孔質体は、ナノオーダーの孔径を有するものである。
参考例1で得られた多孔質体の表面SEM観察写真である。 実施例1で得られた多孔質体の表面SEM観察写真である。 実施例1で得られた多孔質体の小角X線散乱像である。 実施例2で得られた多孔質体の表面SEM観察写真である。 実施例2で得られた多孔質体の小角X線散乱像である。 実施例3〜5で用いた、超臨界二酸化炭素処理および超臨界二酸化炭素中での延伸が可能な装置の概略図である。 実施例3で得られた多孔質体の表面SEM観察写真である。 実施例4で得られた多孔質体の表面SEM観察写真である。 実施例5で得られた多孔質体の表面SEM観察写真である。
以下、本発明について説明する。
<多孔質体>
本発明の多孔質体は、結晶性高分子を含む高分子材料からなるものである。
本発明における「結晶性高分子」とは、分子配列がかなりの秩序を持ち、明瞭な結晶性X線回折が認められる高分子物質のことである。
結晶性高分子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−3−メチルブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1等のポリオレフィン;syn−ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル系高分子等のポリビニル化合物;ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリシアノビニリデン等の結晶性ポリビニリデン;ポリテトラフルオロエチレン等の結晶性フッ素系高分子;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリアリレート等のポリエステル類;ポリアミド−6、ポリアミド−6,6、芳香族ポリアミド等のポリアミド類;結晶性ポリウレタン類;結晶性ポリイミド類;結晶性ポリケトン類;結晶性ポリエーテルエーテルケトン類;結晶性ポリカーボネート類;結晶性ポリスルフォン類;結晶性ポリエーテルスルフォン類;結晶性ポリサルファイド類;セルロースおよび結晶性セルロース誘導体;タンパク質、核酸等が挙げられる。これらのうち、ポリオレフィン、特にポリエチレン、ポリプロピレンは、延伸により多孔化しやすく好適である。
(第1の多孔質体(参考))
参考形態例としての第1の多孔質体は、平均分子量が100×10以上の結晶性高分子を含む高分子材料からなり、引張り強度が10MPa以上である多孔質体(以下、多孔質体(I)と記す。)である。
結晶性高分子の平均分子量は、100×10以上であり、上限は実用性によってのみ制限される。ここでいう実用性とは、入手可能であることを意味する。結晶性高分子の平均分子量が、100×10未満では、多孔質体の機械的強度および耐薬品性が不充分になり、結晶性高分子の平均分子量を700×10以下とすることにより、賦形が容易になる。本発明における「平均分子量」は、溶液粘度法(ASTM D4020)にて求められた平均分子量である(以下、粘度平均分子量とも記す)。
これら結晶性高分子のうち、平均分子量が100×10以上のポリオレフィンが好ましく、平均分子量が100×10以上のポリエチレン(以下、超高分子量ポリエチレンとも記す)が特に好ましい。平均分子量が100×10以上のポリオレフィン、特に超高分子量ポリエチレンからなる多孔質体は、次亜塩素酸ナトリウム等を用いた薬品洗浄を行っても酸化劣化しにくく、長期間にわたって引張り強度が維持される。
高分子材料中の結晶性高分子の割合は、高分子材料(100質量%)中、10質量%以上が好ましい。結晶性高分子を含む高分子材料を延伸することによって製造される多孔質体の場合、延伸により結晶と結晶との間に空孔が形成される性質を利用する(例えば、上述の非特許文献1、2を参照)。したがって、結晶性高分子の割合が10質量%未満の場合、延伸による空孔形成が不充分となるおそれがある。高分子材料中の結晶性高分子の割合は、高分子材料(100質量%)中、50質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%が最も好ましい。
多孔質体(I)の引張り強度は、10MPa以上である。引張り強度が10MPa以上の多孔質体は、水処理等の用途で使用される際に必要とされる充分な機械的強度を有する多孔質体である。本発明における「引張り強度」は、試長をa(mm)とすると、引速をa(mm/min)にて多孔質体の引張り試験を行い、破断に至った時の応力である。試長aの範囲は多孔質体にもよるが、2mm以上200mm以下、好ましくは5mm以上100mm以下で測定するものとする。なお、ここで言う試長とは、引張り試験を行う際のチャック間距離のことである。多孔質体(I)の引張り強度の上限は、特に設けられないが、超高分子量ポリエチレンからなる繊維の引張り強度から類推すると約1000MPaである。
多孔質体(I)の形状は、特に限定されることはなく、フィルム状、シート状、中空状、等が挙げられる。
多孔質体(I)は、水処理膜、フィルター、吸着材、不織布研磨材等として用いることができる。水処理膜の形態としては、平膜、中空糸膜、等が挙げられる。
以上説明した多孔質体(I)は、機械的強度に優れるとともに、材料の結晶性高分子の分子構造上、良好な耐薬品性を示す。さらに、官能基、二重結合、および側鎖をほとんど有さない結晶性高分子または高分子量の結晶性高分子であるほど、極めて良好な耐薬品性を有する。したがって、このような多孔質体は、例えば、次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄が行われる水処理の用途に非常に好適であり、ばっ気環境下で使用されるような下廃水処理用途には特に好適である。
(第2の多孔質体)
本発明の第2の多孔質体は、結晶性高分子を含む厚さ5〜50nmの薄板が積層した構造を有する多孔質体(以下、多孔質体(II)と記す。)である。
薄板の厚さDが5nm未満の場合には、多孔質体の強度が弱くなるおそれがあり、Dが50nmを超えると、開孔率が低下するおそれがある。Dの範囲は、好ましくは10nm以上40nm以下であり、さらに好ましくは15nm以上30nm以下である。本発明における薄板の厚さDは、薄板の短軸の長さである。
多孔質体(II)の開孔率は、10〜80%であることが好ましい。開孔率が10%未満では、後述する多孔質体としての用途を充分に発揮することが困難になるおそれがあり、開孔率が80%を超えると、多孔質体を構成する薄板の占める割合が減少するため、多孔質体の強度が不充分となるおそれがある。
本発明における厚さDおよび開孔率は、以下のようにして求める。
得られた多孔質体の外表面を、電子顕微鏡を用いて観察する。用いる電子顕微鏡は走査型電子顕微鏡(SEM)が好ましい。観察倍率は、一概には言えないが、3万倍以上、好ましくは10万倍程度である。観察倍率が3万倍未満であると、薄板の厚さDおよび開孔率の決定が困難になる。したがって、厚さDおよび開孔率を決定するためには、電界放射型SEMを用いることが好ましい。ついで、得られたSEM写真より薄板の厚さDを求める。薄板の厚さDは、SEM写真中の任意の10箇所の薄板の厚さを求め、その平均値とする。また、開孔率は、得られたSEM写真より、多孔質体の面積に対する空孔域の面積の比を百分率で表したものであり、下式(1)で求められる。薄板の厚さDおよび開孔率を求める方法としては、特に限定されないが、画像解析ソフトを用いることが好ましい。画像解析によって得られる薄板の厚さDおよび開孔率は、画像解析のための画質調整や画像解析ソフトによっても若干変動があるが、その差は通常の実験誤差の範囲内である。
開孔率(%)=(空孔域の面積/多孔質体の面積)×100 ・・・(1)
多孔質体(II)の形状は、特に限定されることはなく、フィルム状、シート状、中空状、等が挙げられる。
以上説明した多孔質体(II)は、厚さ5〜50nmの薄板が積層した構造を有するため、その孔径はナノメーターオーダーとなる。該多孔質体(II)は、液体のろ過を行う水処理膜、フィルターの他、微細な凹凸を有する不織布研磨材、多孔質体の空隙に機能性材料を含浸させるための基材、鋳型等としての有用である。本発明においては、ナノメーターオーダーとは1nm以上100nm未満、サブミクロンオーダーとは0.1μm以上1μm未満、ミクロンオーダーとは1μm以上1mm未満とする。
また、多孔質体(II)は、機械的強度に優れるとともに、材料の結晶性高分子の分子構造上、良好な耐薬品性を示す。さらに、官能基、二重結合、および側鎖をほとんど有さないような結晶性高分子または高分子量の結晶性高分子であるほど、極めて良好な耐薬品性を有する。
<多孔質体の製造方法>
本発明の多孔質体の製造方法は、結晶性高分子を含む高分子材料を、超臨界流体または亜臨界状態の流体に曝すことによって処理し、延伸する方法である。すなわち、高分子材料の延伸は、(i)超臨界流体または亜臨界状態の流体に曝した後に行ってもよいし、(ii)超臨界流体または亜臨界状態の流体中で行ってもよい。また、超臨界流体または亜臨界状態の流体に曝す前に、予備的に延伸を行ってもよい。
本発明における「超臨界流体」とは、臨界点以上の温度および圧力にすると、それ以上温度および圧力をかけても凝縮しない高密度な流体のことをいう。この状態は、液体と同程度の密度ながら、気体と同程度の拡散性を併せ持つ。このため、超臨界流体は高分子材料の細部まで浸透し、大きな可塑化効果を有する流体である。
本発明における「亜臨界状態の流体」とは、臨界点以上の温度または圧力である流体のことであり、高圧状態の流体は、超臨界流体と同様に、高分子材料の内部まで浸透して可塑化する効果を有する。
超臨界流体または亜臨界状態の流体としては、臨界点以上の温度および/または圧力の状態にある二酸化炭素(臨界温度31.0℃、臨界圧力7.38MPa)、亜酸化窒素(臨界温度36.5℃、臨界圧力7.27MPa)、エタン(臨界温度32.2℃、臨界圧力4.88MPa)、エチレン(臨界温度9.34℃、臨界圧力5.04MPa)等、様々な物質を用いることができる。
超臨界流体または亜臨界状態の流体の主成分としては、二酸化炭素が好適である。二酸化炭素は、臨界温度が31.0℃、臨界圧力が7.38MPaであることから、比較的取り扱いやすく、不燃性、不活性、無毒、安価であり、超臨界条件が適当であるためである。本発明における「超臨界流体または亜臨界状態の流体の主成分が二酸化炭素である」とは、超臨界流体または亜臨界状態の流体(100体積%)中の二酸化炭素の割合80〜100体積%であることを意味する。
本発明の製造方法に用いられる結晶性高分子としては、本発明の多孔質体の材料として例示した結晶性高分子が挙げられる。これらのうち、ポリオレフィン、特にポリエチレン、ポリプロピレンは、延伸により多孔化しやすく好適である。
本発明の製造方法における、高分子材料中の結晶性高分子の割合は、高分子材料(100質量%)中、10質量%以上が好ましい。結晶性高分子の割合が10質量%未満の場合、延伸による空孔形成が不充分となるおそれがある。高分子材料中の結晶性高分子の割合は、高分子材料(100質量%)中、50質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%が最も好ましい。
延伸操作を行う前の高分子材料(前駆体)の形状は、特に限定されることはなく、例えば、フィルム状、シート状、中空状、等である。また、前駆体の賦形方法としては、焼結成形、溶融賦形、湿式賦形等、公知の方法を用いることができる。
また、本発明の製造方法においては、(i)の方法、(ii)の方法のいずれにおいてもエントレーナー(添加溶媒)を用いてもよい。
(多孔質体(I)の製造方法)
本発明の製造方法を用いることにより、平均分子量が100×10以上の結晶性高分子を含む高分子材料からなる多孔質体(I)を得ることができる。得られる多孔質体(I)の機械的強度および耐薬品性を高める観点からは、結晶性高分子の平均分子量は、100×10以上が好ましく、上限は実用性によってのみ制限される。ここで言う実用性とは、入手可能であることを意味する。結晶性高分子の平均分子量を700×10以下とすることにより、賦形が容易になる。
本発明の製造方法は、結晶性高分子のうち、超高分子量ポリエチレンに好適である。本発明の製造方法によれば、超高分子量ポリエチレンであっても延伸多孔化が可能であり、延伸多孔化することで、引張り強度が10MPa以上の多孔質体(I)を容易に得ることができ、引張り強度が20MPa以上の多孔質体、さらには引張り強度が50MPa以上の多孔質体を得ることもできる。
なお、本発明の製造方法によれば、平均分子量が100×10以上の結晶性高分子を含む高分子材料だけでなく、平均分子量の低い結晶性高分子を含む高分子材料であっても多孔質体を得ることができる。平均分子量が100×10未満の結晶性高分子を用いた場合には、例えば、上述の特許文献1、2、3、6のように、加熱延伸でも多孔質体を得ることが可能であるが、本発明の製造方法を適用することによる新たな効果、例えば、延伸倍率を大きくすることができるようになり、本発明の製造方法を用いることにより、加熱延伸だけでは達成できないような大きな孔径を有する多孔質体、空孔率の大きな多孔質体等を得ることができる。
平均分子量が100×10以上の結晶性高分子を含む高分子材料を超臨界流体または亜臨界状態の流体に曝すことによって処理する際の温度(以下、処理温度と記す)は、結晶性高分子の融点をTmとすると、(Tm−120)℃以上(Tm+80)℃以下が好ましく、(Tm−60)℃以上(Tm+50)℃以下がより好ましい。処理温度が(Tm−120)℃未満の場合、超臨界流体または亜臨界状態の流体による結晶性高分子の分子鎖の運動性向上が不充分となるため、延伸による多孔化が不充分になるおそれがある。処理温度が(Tm+80)℃より高いと、高分子材料が融解してしまい、延伸操作を行うことが困難になるおそれがある。結晶性高分子が平均分子量100×10以上の超高分子量ポリエチレンの場合、処理温度は、20℃以上200℃以下が好ましく、80℃以上180℃以下がより好ましい。
平均分子量が100×10未満の結晶性高分子を含む高分子材料を超臨界流体または亜臨界状態の流体に高分子材料を曝す際の処理温度は、結晶性高分子の融点をTmとすると、(Tm−120)℃以上(Tm+5)℃以下が好ましく、(Tm−60)℃以上(Tm+5)℃以下がより好ましい。処理温度が(Tm−120)℃未満の場合、平均分子量が100×10未満のポリエチレンに本発明の製造方法を適用した場合に得られる効果、すなわち延伸による大孔径化、空孔率の向上効果等が不充分になるおそれがある。処理温度が(Tm+5)℃より高いと、高分子材料が融解してしまい、延伸操作を行うことが困難になるおそれがある。結晶性高分子が平均分子量100×10未満のポリエチレンの場合、処理温度は、20℃以上140℃以下が好ましく、80℃以上140℃以下がより好ましい。
結晶性高分子を含む高分子材料を超臨界流体または亜臨界状態の流体に曝すことによって処理する際の圧力(以下、処理圧力と記す)は、2MPa以上が好ましく、3MPa以上がより好ましい。処理圧力が2MPa未満では、超臨界流体または亜臨界状態の流体が高分子材料へ充分に浸透しないおそれがある。圧力の上限は、装置の耐圧条件によってのみ規定される。結晶性高分子が平均分子量100×10以上の超高分子量ポリエチレンの場合、処理圧力は、5MPa以上が好ましく、8MPa以上がより好ましい。結晶性高分子が平均分子量100×10未満のポリエチレンの場合は、2MPa以上が好ましく、3MPa以上がより好ましい。
結晶性高分子を含む高分子材料を超臨界流体または亜臨界状態の流体に曝して処理する時間(以下、処理時間と記す)は、10秒以上5時間以下が好ましく、1分以上1時間以下がより好ましい。処理時間が10秒未満では、超臨界流体または亜臨界状態の流体が、高分子材料へ充分に浸透しないおそれがある。また、5時間以上処理しても超臨界流体または亜臨界状態の流体の浸透状態にほとんど変化が見られず、多孔質体の生産性およびコスト面で不利となる傾向にある。結晶性高分子が平均分子量100×10以上の超高分子量ポリエチレンの場合、処理時間は、1分以上5時間以下が好ましく、5分以上1時間以下がより好ましい。平均分子量100×10未満のポリエチレンの場合、10秒以上5時間以下が好ましく、1分以上1時間以下がより好ましい。
結晶性高分子が平均分子量100×10以上の超高分子量ポリエチレンの場合、延伸操作は、上述の(ii)の方法、すなわち超臨界流体または亜臨界状態の流体中で行うほうが好ましい。
本発明の多孔質体の製造方法にあっては、結晶性高分子を含む高分子材料を、超臨界流体または亜臨界状態の流体で処理した状態、または処理した後に延伸するため、従来の加熱による延伸では多孔化できなかった分子量の高い高分子材料であっても、多孔化することができる。また、従来の加熱による延伸では多孔化可能な分子量の高分子材料の場合には、加熱延伸だけでは達成できないような大きな孔径を有する多孔質体、空孔率の大きな多孔質体等を得ることができる。
本発明の製造方法における、延伸多孔化のメカニズムは定かではないが、超臨界流体または亜臨界状態の流体が結晶性高分子に溶解することで、結晶性高分子の分子鎖の運動性が活発になったり、または超臨界流体または亜臨界状態の流体の含浸により非晶領域の分子鎖の密度が低下し、わずかな応力でラメラ晶間が剥離し、ラメラ晶を連結するタイ分子の集合体により微細なフィブリルが形成され、結果として多孔質構造が形成されるものと推定される。
(多孔質体(II)の製造方法)
多孔質体(II)の製造方法は、結晶性高分子を含む高分子材料を、超臨界流体または亜臨界状態の流体中で処理し、(Tm−30)℃以上、(Tm+5)℃以下の温度で延伸する方法である。(Tmは、結晶性高分子の融点である。)
多孔質体(II)を製造するためには、超臨界状態あるいは亜臨界状態の流体中にて、(Tm−30)℃以上(Tm+5)℃以下で延伸することが好ましい。超臨界状態あるいは亜臨界状態でなく、延伸温度が(Tm−30)℃以下の場合は、用いる結晶性高分子の分子鎖の可塑化効果が不充分になるおそれがある。好ましくは(Tm−25)℃以上である。また、延伸温度が(Tm+5)℃以上の場合は、延伸した結晶性高分子鎖の融解が優先的になるおそれがある。好ましくはTm以下である。
結晶性高分子を超臨界流体または亜臨界状態の流体に高分子材料を曝すことによって処理する際の圧力(以下、処理圧力と記す)は、2MPa以上が好ましく、3MPa以上がより好ましい。処理圧力が2MPa未満では、超臨界流体または亜臨界状態の流体が高分子材料へ充分に浸透しないおそれがある。圧力の上限は、装置の耐圧条件によってのみ規定される。
超臨界流体または亜臨界状態の流体に高分子材料を曝して処理する時間(以下、処理時間と記す)は、10秒以上5時間以下が好ましく、1分以上1時間以下がより好ましい。処理時間が10秒未満では、超臨界流体または亜臨界状態の流体が、高分子材料へ充分に浸透しないおそれがある。また、5時間以上処理しても超臨界流体または亜臨界状態の流体の浸透状態にほとんど変化が見られず、多孔質体の生産性やコスト面で不利となる傾向にある。
本発明の製造方法によれば、平均分子量の低い結晶性高分子を含む高分子材料、あるいは平均分子量が100×10以上のような分子量の大きな結晶性高分子を含む高分子材料のいずれであっても、多孔質体(II)を得ることができる。結晶性高分子の平均分子量は、700×10以下が好ましく、溶融賦形が可能な100×10以下がより好ましい。下限は、特に制限されないが、通常1×10以上である。結晶性高分子の平均分子量が700×10を超える場合は、薄板の形成が困難になるおそれがあり、結晶性高分子の平均分子量が1×10未満の場合は、強度が不充分になるおそれがある。
溶融賦形が可能な結晶性高分子の場合、分子量に変わる尺度としてメルトフローレート(MFR)(JIS K7120)がある。ポリエチレンを用いて多孔質体(II)を得るためには、MFRは0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。上限は、特に制限されないが、通常10以下である。
延伸操作を行う前の高分子材料(前駆体)の形状は、特に限定されることはなく、例えば、フィルム状、シート状、中空状、等である。また、前駆体の賦形方法としては、焼結成形、溶融賦形、湿式賦形等、公知の方法を用いることができる。
また、本発明の製造方法においては、(i)の方法、(ii)の方法のいずれにおいてもエントレーナー(添加溶媒)を用いてもよい。
多孔質体(II)の多孔化のメカニズムは定かではないが、多孔質体を製造するためには、上記のように結晶性高分子を超臨界流体あるいは亜臨界流体中で延伸することが好ましい。特許文献1〜3に記載の方法では、延伸することにより結晶ラメラ間が剥離し、剥離したラメラ間に引き伸ばされた非晶鎖がフィブリルを形成されるため、薄板が積層した構造を有する多孔質体にはならない。薄板が積層した構造を有する多孔質体(II)の構造形成メカニズムは定かではないが、超臨界流体中あるいは亜臨界流体中で延伸する際に、超臨界流体あるいは亜臨界流体によって可塑化された分子鎖が延伸方向に配向し、さらにこの配向した分子鎖の周りに折りたたみ結晶が成長するためと推定される。したがって、薄板は、結晶性高分子のラメラ晶と推定される。このような構造はシシカバブ構造に類似の構造であるが、従来のシシカバブ構造が本発明の多孔質体(II)と異なる点は、ラメラ晶の間隔が非常に狭いのに対して、隣のシシカバブ同士が連結されておらず大きく離れているために、実質的に多孔質体とはなりえない点である。また、シシカバブ構造を形成させる従来の方法は、結晶性高分子の希薄溶液から作製される。例えばポリエチレンの場合には、0.1質量%程度でポリエチレンを熱キシレン溶液に溶解し、これを回転してかき混ぜながら冷却することによってシシカバブ構造が得られる(高分子学会編、「高分子化学の基礎 第2版」、東京化学同人、1994年発行)。しかし、この手法では、微量なシシカバブ構造を有するポリエチレンしか得ることができず、工業的に利用することはできない。一方、本発明の製造方法を用いれば、繊維状、中空状、あるいはフィルム状に賦形されたポリエチレンにシシカバブ構造を形成させることが可能であり、工業的に充分利用することができるものである。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
本実施例における評価方法は以下の通りである。
<多孔質体の観察>
多孔質体表面または多孔質体断面の観察は、日本電子(株)製、電界放射型走査型電子顕微鏡JSM−7400Fを用いて行った(SEM観察)。多孔質体断面は、多孔質体を液体窒素中で割断して形成した。
<多孔質体のX線測定>
多孔質体の小角X線散乱測定は、(株)リガク製、ultrax18およびイメージングプレートを用い、サンプルの延伸方向を垂直に固定して、カメラ長1180mm、出力40kV−200mA、露光時間2時間にて行った。ついで、角戸正夫、笠井暢民著、「高分子X線回折」、丸善株式会社、昭和43年発行に記載されているように、長周期の回折に基づき、Braggの式を適用して、多孔質構造の孔径を算出した。
<多孔質体の引張り強度測定>
多孔質体の引張り強度測定は、(株)オリエンテック製の引張り試験機UCT−500を用い、チャック間距離20mm、引速20mm/min、あるいはチャック間距離5mm、引速5mm/minで測定した。
<多孔質体の薄板の厚さD>
薄板の厚さDは、SEM写真を(株)プラネトロン製Image−Pro Plus ver4.5.0.24を用いて画像解析することにより求めた。SEM写真のスケールに対して画像解析装置のスケールが合うように調整した後、SEM写真中から多孔質体中の薄板を任意に10箇所選んでその厚さを求め、その平均値を多孔質体を構成する薄板の厚さDとした。
<多孔質体の開孔率>
多孔質体の開孔率は、SEM写真を(株)プラネトロン製Image−Pro Plus ver4.5.0.24を用いて画像解析することにより求めた。画像解析は、SEM写真からスケールバー等の表示がなく、かつ写真の画質が良好な場所を矩形に切り出した後、空間フィルターの中からメディアンを1回実行して写真をわずかにぼかし、ついで明るさ、コントラスト、ガンマ値を操作して、薄板域が白く、空孔域が黒くなるように調整し、写真の全面積(すなわち多孔質体の面積)に対する黒色域(すなわち空孔域の面積)の面積比を求め、これを百分率で表して開孔率を求めた。
[参考例1]
結晶性高分子として、三井化学(株)製、高密度ポリエチレン、ハイゼックス2200J(メルトフローレート=5.2、JIS K7120:カタログ値)(融点=134℃、ASTM D2117:カタログ値)を用いた。この高密度ポリエチレンを、180℃にて熱プレスし、厚さ180μmのフィルムを作製した。このフィルムから幅5mm、長さ40mmの短冊状試料を切り取った。
短冊状試料の一端に、1MPaの引張り応力になるように錘を固定し、これを耐圧容器に入れ、容器内部を二酸化炭素で置換した。容器内部の温度を130℃、圧力を10MPaにして1時間処理することにより、超臨界二酸化炭素中で短冊状試料の延伸を行った。処理終了後、容器内を大気圧まで減圧し、5倍に延伸されたフィルムを回収した。得られたフィルムの表面SEM観察写真を図1に示す。この写真から、孔径が少なくともサブミクロン以上である多孔質体が得られていることがわかる。
[実施例1]
結晶性高分子として、三井化学(株)製、超高分子量ポリエチレン、ハイゼックスミリオン630M(粘度平均分子量=590×10、ASTM D4020:カタログ値)(融点=136℃、ASTM D2117:カタログ値)を用いた。この超高分子量ポリエチレンを、220℃にて熱プレスし、厚さ180μmのフィルムを作製した。このフィルムから幅5mm、長さ40mmの短冊状試料を切り取った。
短冊状試料の一端に、1MPaの引張り応力になるように錘を固定し、これを耐圧容器に入れ、容器内部を二酸化炭素で置換した。容器内部の温度を140℃、圧力を15MPaにして1時間処理することにより、超臨界二酸化炭素中で短冊状試料の延伸を行った。処理終了後、容器内を大気圧まで減圧し、2倍に延伸されたフィルムを回収した。得られたフィルムの表面SEM観察写真を図2に示す。この写真から、孔径が少なくとも数10nm以上のナノ多孔質体が得られており、図3に示す小角X線散乱測定結果と対応していることがわかる。また、得られたフィルムを試長10mmにて引張り強度測定を行った結果、破断強度は122MPaであり、充分な強度を有する多孔体フィルムであった。
[実施例2]
実施例1と同じフィルムを用い、超臨界二酸化炭素による処理温度を155℃とした以外は、実施例1と同様にして延伸を行い、5倍に延伸されたフィルムを回収した。得られたフィルムの表面SEM観察写真を図4に示す。この写真から、孔径が少なくとも数10nm以上のナノ多孔質体が得られており、図5に示す小角X線散乱測定結果と対応していることがわかる。また、得られたフィルムを試長10mmにて引張り強度測定を行った結果、破断強度は130MPaであり、充分な強度を有する多孔体フィルムであった。
[比較例1]
実施例1と同じフィルムを用い、このフィルムから幅5mm、長さ40mmの短冊状試料を切り取った。この短冊状試料の一端に、1MPaの引張り応力になるように錘を固定し、大気圧下において、140℃および155℃の空気加熱で延伸を試みた。しかし、フィルムが破断するなどして、延伸することができなかった。
[実施例3]
図6に示す装置を用意した。この装置は、上面および下面にサファイアガラス1が取り付けられ、二酸化炭素導入管2および二酸化炭素排出管3が設けられた耐圧容器4と、耐圧容器4の側壁に埋め込まれたヒーター5と、試料6を耐圧容器4内に固定する一対のチャック7と、先端にチャック7の一方が固定され、耐圧容器4外に設けられたモーター(図示略)によって軸方向に摺動可能とされたシャフト8とを具備して概略構成されるものである。
実施例1と同じフィルムを用い、このフィルムから幅4mm、長さ20mmの短冊状試料を切り取った。この短冊状試料を、図6に示す装置を用い、超臨界二酸化炭素処理および超臨界二酸化炭素中での延伸を行った。本装置に切り取った短冊状試料を取り付け(試長5mm)、超臨界二酸化炭素処理を、温度:155℃、圧力:15MPaの条件で、15分行った後、そのまま、短冊状試料を延伸速度4.2mm/minで4倍に延伸した。得られたフィルムの表面SEM観察写真を図7に示す。この写真から、孔径が少なくともサブミクロン以上である多孔質体が得られていることがわかる。また、得られたフィルムを試長20mmにて引張り強度測定を行った結果、破断強度は34.3MPaであり、充分な強度を有する多孔体フィルムであった。
[実施例4]
実施例1と同じフィルムを用い、超臨界二酸化炭素中での延伸倍率を2倍とした以外は、実施例3と同様に超臨界二酸化炭素処理および超臨界二酸化炭素中での延伸を行った。得られたフィルムの表面SEM観察写真を図8に示す。この写真から、孔径が少なくともサブミクロン以上である多孔質体が得られていることがわかる。また、得られたフィルムを試長5mmにて引張り強度測定を行った結果、破断強度は28.9MPaであり、充分な強度を有する多孔体フィルムであった。
[実施例5]
参考例1と同じフィルムを用い、超臨界二酸化炭素処理の条件を温度:120℃、圧力:10MPa、処理時間:15分とし、超臨界二酸化炭素中での延伸の条件を、延伸速度30m/minとした以外は、実施例3と同様にした。得られたフィルムの表面SEM観察写真を図9に示す。この写真から、孔径がナノメーターオーダーである多孔質体が得られていることがわかる。また、この写真を画像解析した結果、薄板Dの厚さは21nm、開孔率は43%の多孔質体が得られていることがわかった。
本発明の多孔質体は、水処理膜、フィルター、吸着材、不織布研磨材、機能性等に有用である。さらには、本発明の多孔質体は、ナノメーターオーダーの液体のろ過用の水処理膜、フィルターの他、微細な凹凸を有する不織布研磨材、多孔体の空隙に機能性材料を含浸させるための基材等にも有用である。
1 サファイアガラス
2 二酸化炭素導入管
3 二酸化炭素排出管
4 耐圧容器
5 ヒーター
6 試料
7 チャック
8 シャフト

Claims (2)

  1. 超臨界流体または亜臨界状態の流体で処理し、延伸した、粘度平均分子量が100×10 以上の結晶性ポリオレフィンで構成された厚さ5〜50nmの薄板が積層した構造を有する多孔質体。
  2. 開孔率が10〜80%である、請求項1に記載の多孔質体。
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