本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明の半導体光素子に係わる実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分に同一の符号を付する。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態の半導体光素子を示す斜視図である。図1には、XYZ座標系Sが描かれている。図2(a)は、図1に示されたI−I線に沿った断面図である。図2(b)及び図2(c)は、図2(a)に示されたII−II線に沿ったバンドギャップエネルギーを示すダイアグラムである。
図1及び図2(a)を参照すると、半導体レーザ素子といった半導体光素子1が示されている。この半導体光素子1は、電位制御層2と、第1導電型半導体領域3と、活性層5と、第2導電型半導体領域7とを備える。第1導電型半導体領域3は、GaAs半導体、InP半導体、GaN半導体、またはSiC半導体等の表面上に設けられており、第1及び第2の半導体部3a、3bを有する。第1の半導体部3aは、第1の領域3cと、第1の領域3cの周囲に位置する第2の領域3dと有する。第1の領域3cは、Z軸方向といった所定の軸の方向に伸びている。第2の半導体部3bは、第1の半導体部3aの第1の領域3c上に設けられている。第2の半導体部3bは、一対の側面3eを有する。活性層5は、第1導電型半導体領域3の第2の半導体部3b上に設けられている。活性層5は、一対の側面5aを有している。第2導電型半導体領域7は、第1導電型半導体領域3の第1の半導体部3aの第2の領域3d上、第2の半導体部3bの側面3e上、活性層5上、及び活性層5の側面5a上に設けられている。電位制御層2は、活性層5と第2導電型半導体領域7との間に設けられている。電位制御層2は、一対の側面2eを有している。第2導電型半導体領域7は、活性層5の周囲において、第1導電型半導体領域3の第1の半導体部3aの第2の領域3dとpn接合を構成している。活性層5は、III−V族化合物半導体から構成されている。
第1導電型半導体領域3はIII−V族化合物半導体から構成されており、このIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーは、活性層5を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーよりも大きい。換言すれば、第1導電型半導体領域3のIII−V族化合物半導体が示すフォトルミネッセンス波長値は、活性層5を構成するIII−V族化合物半導体が示すフォトルミネッセンス波長値より短い。同様に、第2導電型半導体領域7はIII−V族化合物半導体から構成されており、このIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーは、活性層5を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーよりも大きい。換言すれば、第2導電型半導体領域7のIII−V族化合物半導体が示すフォトルミネッセンス波長値は、活性層5を構成するIII−V族化合物半導体が示すフォトルミネッセンス波長値より短い。ここで、フォトルミネッセンス波長値は、材料のバンドギャップエネルギに対応する波長値に等しい。
また、電位制御層2はIII−V族化合物半導体から構成されており、このIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーには、次の2つの形態がある。すなわち一方の形態では、図2(b)に示すように、電位制御層2を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーは、活性層5を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーよりも大きく且つ第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーよりも小さい。換言すれば、電位制御層2のIII−V族化合物半導体が示すフォトルミネッセンス波長値は、活性層5を構成するIII−V族化合物半導体が示すフォトルミネッセンス波長値より短く、第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7を構成するIII−V族化合物半導体が示すフォトルミネッセンス波長値より長い。また、他方の形態では、図2(c)に示すように、電位制御層2を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーは、第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーよりも大きい。換言すれば、電位制御層2を構成するIII−V族化合物半導体が示すフォトルミネッセンス波長値は、第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7を構成するIII−V族化合物半導体が示すフォトルミネッセンス波長値より短い。
なお、電位制御層2の導電型は、第2導電型半導体領域7と同じ導電型でもよく、活性層5と同じくアンドープでもよい。また、活性層5が導電型を有する場合には、活性層5と同じ導電型でもよい。
図2(b)及び図2(c)のバンドギャップダイアグラムに示されるように、第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7は、キャリアを活性層5に閉じ込めるように働く。結果として、第1導電型半導体領域3は第1導電型クラッド層として働くことができ、第2導電型半導体領域7は第2導電型クラッド層として働くことができる。活性層5は、第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7から注入され閉じ込められたキャリアから光を発生する。
また、第1導電型半導体領域3が示す屈折率は、活性層5が示す屈折率より小さい。第2導電型半導体領域7が示す屈折率は、活性層5が示す屈折率より小さい。故に、第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7は、活性層5において発生された光をX方向及びY方向において活性層5に閉じ込めるように働く。結果として、第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7は光学的なクラッド層として作用する。
なお、活性層5の構造は、単一の層からなるバルク構造、一つの井戸層からなる単一量子井戸構造、或いは複数の井戸層とバリア層とを交互に積層した多重量子井戸構造のいずれを用いてもよい。
半導体光素子1は、半導体基板11を更に備える。半導体基板11としてはGaAs半導体基板、InP半導体基板、GaN半導体基板、またはSiC半導体基板等が例示される。第1導電型半導体領域3が設けられるGaAs半導体、InP半導体、GaN半導体、またはSiC半導体等の表面は、これらの半導体基板によって提供される。すなわち、第1導電型半導体領域3は、半導体基板11の主面11a上に設けられる。第1導電型半導体領域3は、半導体基板11の主面11a上に設けられた第1の半導体部3aと、第1の半導体部3a上に設けられた第2の半導体部3bとを有する。第1導電型半導体領域3の第2の半導体部3bは、リッジ形状を成している。活性層5は、第1導電型半導体領域3の第2の半導体部3bと電位制御層2との間に位置している。電位制御層2は、活性層5と第2導電型半導体領域7との間に位置している。第1導電型半導体領域3の第2の半導体部3b、活性層5、及び電位制御層2は、半導体リッジ部13を形成する。半導体リッジ部13は、Z軸方向といった所定の軸方向に伸びている。半導体リッジ部13において、活性層5には、第1導電型半導体領域3の第2の半導体部3b及び第2導電型半導体領域7からキャリアが注入される。
半導体光素子1は、第2導電型のコンタクト層17と、電極21と、電極23とを更に備える。コンタクト層17は、第2導電型半導体領域7上に設けられている。電極21は、コンタクト層17上に設けられている。電極21は、半導体リッジ部13が伸びる方向に伸びている。電極23は、半導体基板11の裏面11bに設けられている。コンタクト層17のバンドギャップエネルギーは、第2導電型半導体領域7のバンドギャップエネルギーより小さい。故に、電極21とコンタクト層17との間にオーミックコンタクトを形成することが容易になる。
半導体光素子1の組成の一例を示せば、
第1導電型半導体領域3:
n型のAlGaAs、AlGaInP、GaInP、GaInAsP
活性層5:
アンドープ(un)GaInNAs
電位制御層2:
AlGaInP、GaInP、AlGaAs、GaAs、GaInAsP、GaInAs
第2導電型半導体領域7:
p型のAlGaAs、AlGaInP、GaInP、GaInAsP
半導体基板11:n型高濃度GaAs基板
コンタクト層17:p型GaAs
である。なお、各層の材料としては、上記組成の材料を一種類のみ用いてもよいし、複数の組成を組み合わせてもよい。
ここで、図3、図4(a)、及び図4(b)を参照しながら、半導体光素子1の動作について説明する。図3は、半導体光素子1の電気的性質を等価回路に置き換えた模式図である。図4(a)は、半導体光素子1における、印加電圧と素子電流との相関を示すグラフである。図4(b)は、半導体光素子1における、素子電流と光出力(発光強度)との相関を示すグラフである。半導体光素子1においては、第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7の材料のバンドギャップエネルギーが活性層5の材料のバンドギャップエネルギーよりも大きいため、第1導電型半導体領域3と第2導電型半導体領域7とのpn接合部分(図3のB部分)における接合電位(ビルトインポテンシャル)が、第1導電型半導体領域3、活性層5、電位制御層2、及び第2導電型半導体領域7のpin接合部分(図3のA部分)によって生じる接合電位よりも大きくなる。したがって、A部分の方がB部分より低い電圧値にてターンオンし、この部分に順方向に大きな電流が流れ出す。
このような半導体光素子1の構成は、A部分及びB部分のそれぞれに並列配置されたダイオードD1及びD2を想定することによって説明できる。すなわち、ダイオードD1のターンオン電圧VA(図4(a)参照)は、A部分の接合電位によって定まり、主として活性層5及び電位制御層2のバンドギャップエネルギーに依存する。また、ダイオードD2のターンオン電圧VBは、B部分の接合電位によって定まり、主として第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7のバンドギャップエネルギーに依存する。B部分の接合電位がA部分の接合電位よりも高いということは、ダイオードD2のターンオン電圧VBが、ダイオードD1のターンオン電圧VAよりも高いことを意味する。また、A部分の接合電位とB部分の接合電位との差が大きいほど、ターンオン電圧VAとターンオン電圧VBとの差が大きくなる。なお、図3に示す抵抗R1は、第1導電型半導体領域3側の素子抵抗を表す。抵抗R2は、第2導電型半導体領域7側の素子抵抗を表す。
ここでは比較のため、半導体光素子1が電位制御層2を備えない場合についての動作を先ず説明する。図4(a)のグラフG10に示すように、電極21及び23に印加する駆動電圧を順方向に0Vから徐々に増加させた場合、ターンオン電圧VA0においてまずダイオードD1がターンオンする。そのため、A部分が急激に低抵抗化し、順方向電流IA0が流れる。つまり、活性層5にキャリアが大量に供給され、活性層5において光が発生する。共振器ロスや内部ロスが通常範囲にあるレーザであれば、電流がIA0を超えた近傍で発振開始するので、IA0は発振閾値電流と同等の値であり、電流がIA0を超えて以降、急激に光出力が増加する。このとき、B部分に想定されるダイオードD2はターンオンしていないため、B部分は依然高抵抗であり、キャリアはB部分においてブロックされてA部分(活性層5)に効果的に閉じ込められる。また、活性層5の屈折率は第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7の屈折率よりも大きいので、活性層5において発生した光は活性層5付近に閉じ込められる。したがって、A部分がターンオンしてからB部分がターンオンするまでの動作領域では、光及び電流の双方を活性層5内に効果的に閉じ込めることができる。この動作領域は、活性層5において誘導放出が効率よく生じ、低閾値電流でもってレーザ発振させることができ、且つ電流の大きさに対して発光強度が線形に増加する線形動作領域となる。
続いて、駆動電圧がターンオン電圧VBに達すると、ダイオードD2がターンオンする。このとき、B部分も急激に低抵抗化するため、A部分と同等に電流が流れるようになり、活性層5の外を流れるリーク電流が顕著になる。その結果、ターンオン電圧VB0に対応する電流IB0よりも大きな電流を供給した場合には、誘導放出に寄与しない無効電流が大幅に増加するためスロープ効率が急激に低下する。したがって、供給電流が電流IB0よりも大きな(B部分ターンオン後の)動作領域は、電流供給を増やしても発光強度が増加しにくい出力飽和領域となる。この出力飽和領域は、発光強度と供給電流との相関の程度が低い非線形動作領域となる。
ここで、本実施形態の半導体光素子1は、活性層5と第2導電型半導体領域7との間に電位制御層2を備えている。第2導電型半導体領域7と活性層5とを接合する場合のように、バンドギャップエネルギーの異なる2つの半導体層を結晶学的に結合させるヘテロ接合においては、双方の半導体層における擬フェルミレベルが一致するようなバンド構造が形成される。このとき、ヘテロ接合界面においてはバンドギャップエネルギーの不連続性に起因してスパイクやノッチと呼ばれるエネルギーバンドの急峻な折れ曲がりが生じ、バンドギャップエネルギー差に応じたヘテロ障壁が形成される。このヘテロ障壁は、伝導帯においては電子に対して、また価電子帯においてはホールに対して、それぞれ障壁となるため電気抵抗として作用する。このへテロ接合界面に活性層5と第2導電型半導体領域7との間のバンドギャップエネルギー値を有する電位制御層2を設けると、活性層5と第2導電型半導体領域7との間のバンドギャップエネルギーの不連続性が緩和され、スパイクやノッチ等の発生が軽減されるため、ヘテロ障壁が低減する。その結果、活性層5と第2導電型半導体領域7との間の抵抗が下がるので、図4(a)のグラフG11に示すように、ターンオン電圧VA0がVA1まで下がり、且つA部分ターンオン後の電流−電圧特性の傾き、即ち直列抵抗が減少する。他方、電位制御層が設けられないB部分におけるターンオン電圧VB0は変わらない。これにより、電位制御層2を備えない場合(グラフG10参照)の電流IB0に比べてより高い電流IB1まで素子電圧はVB0に至らずB部分はターンオンしないため、図4(b)のグラフG21に示すように、線形動作領域がより高出力域まで延びた電流−光出力特性が得られる。また、A部分が低抵抗化するため素子内部の発熱が抑制され、半導体光素子1の高出力化や高信頼化にも寄与できる。
また、活性層5と第2導電型半導体領域7とのへテロ接合界面に第2導電型半導体領域7のバンドギャップエネルギー値よりも大きいバンドギャップエネルギー値を有する電位制御層2を設けると、活性層5と第2導電型半導体領域7との間のバンドギャップエネルギーの不連続性が増し、スパイクやノッチ等の発生が顕著となるため、ヘテロ障壁が増大し、抵抗が上がる。その結果、図4(a)のグラフG12に示すように、ターンオン電圧VA0がVA2まで上がり、且つA部分ターンオン後の電流−電圧特性の傾き、即ち直列抵抗が増す。他方、B部分におけるターンオン電圧VB0は変わらない。これにより、電位制御層2を備えない場合(グラフG10参照)の電流IB0に比べてより低い電流IB2で素子電圧はVB0に至り、B部分がターンオンする。従って、図4(b)のグラフG22に示すように、より低い出力域において光出力が飽和する電流−光出力特性が得られる。
次に、半導体光素子1の製造方法を、図5(a)〜図5(e)を参照しつつ説明する。まず、図5(a)に示すように、GaAsからなる半導体基板11上に、第1導電型半導体層12、活性層14、電位制御層10、第2導電型半導体層16、及び保護膜19を結晶成長させる(一回目の結晶成長工程)。次に、ストライプ状の半導体リッジ部13を形成するためのエッチングマスク20を保護膜19上の所定位置に形成する。このとき、各層の結晶成長には、例えばOMVPE(Organo-Metallic Vapor Phase Epitaxy)法やMBE(Molecular Beam Epitaxy)法を用いるとよい。また、エッチングマスク20の材料としては、SiNやSiO2といった誘電体を用いるとよい。
続いて、図5(b)に示すように、エッチングマスク20を介して保護膜19、第2導電型半導体層16、電位制御層10、活性層14、及び第1導電型半導体層12の所定深さまでドライエッチングまたはウェットエッチングによってエッチングを行い、第2導電型半導体領域7の一部となる第2導電型半導体層7aの側面7e、電位制御層2の側面2e、活性層5の側面5a、及び第1導電型半導体領域3の第2の半導体部3bの側面3eを形成する。これにより、電位制御層2、活性層5、及び第1導電型半導体領域3の第2の半導体部3bからなる半導体リッジ部13が形成される。なお、図5(b)において半導体リッジ部13は逆メサ状に形成されているが、半導体リッジ部13を形成する面方位やエッチング液を選択することによって、半導体リッジ部13を他のメサ形状に形成することも可能である。
続いて、図5(c)に示すように、エッチングマスク20及び保護膜19を除去する。そして、図5(d)に示すように、第2導電型半導体領域7の残りの部分とコンタクト層17とを結晶成長させる(二回目の結晶成長工程)。最後に、電極21及び23をそれぞれコンタクト層17上及び半導体基板11の裏面上に形成することにより、半導体光素子1が完成する。
本実施形態に係る半導体光素子1の効果について説明する。本実施形態の半導体光素子1においては、活性層5と第2導電型半導体領域7との間に、第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7のバンドギャップエネルギーとは異なるバンドギャップエネルギーを有する電位制御層2が設けられる。上述したように、この電位制御層2のバンドギャップエネルギー値を選択することにより、電位制御層2が設けられたA部分(図3参照)のターンオン電圧を制御することができる。また、A部分における直列抵抗の値も制御することができるので、線形動作領域における電流−電圧特性の傾きを制御することができる。従って、半導体光素子1によれば、電位制御層2のバンドギャップエネルギー値を選択することにより、電流−光出力特性を変更できる。なお、本実施形態では、電位制御層2は活性層5と第2導電型半導体領域7との間に設けられているが、電位制御層2が活性層5と第1導電型半導体領域3の第2の部分3bとの間に設けられても、本実施形態の半導体光素子1と同様の効果を得ることができる。
ここで、本実施形態に係る半導体光素子1の利用形態の一例を示す。図6(a)及び図6(b)に示すグラフG5、G6のそれぞれは、半導体光素子1における印加電圧と素子電流との相関、及び素子電流と光出力との相関をそれぞれ示すグラフである。図6(c)は、半導体光素子1に供給されるパルス電流を示すグラフである。図6(d)は、供給されたパルス電流に応じた半導体光素子1の光出力を示すグラフである。
半導体光素子1の出力飽和領域を積極的に利用すると、レーザ直接変調時の出力を一定に保つための自動出力制御(Auto Power Control、以下APCと略す)回路の低コスト化を図れる。すなわち、図3のA部分の幅(半導体リッジ部13の幅)に比べてB部分の幅(第1導電型半導体領域3と第2導電型半導体領域とのpn接合部分の幅)を充分に大きくすると、B部分がターンオンした後の出力飽和領域においては殆どの電流がB部分を流れるため、A部分を流れる電流量はほぼ一定値となる。従って、図6(b)に示すように電流がIBより大きな出力飽和領域においては光出力がほぼ一定値Pになる。そこで、図6(c)に示すようにピーク値I2がIBを超えるようにあらかじめ設定された変調電流を半導体光素子1に注入すれば、半導体光素子1から出力される変調光出力のピーク値はI2の値によらず一定値Pに維持される。この場合、変調光出力のピーク値を一定値Pに維持するには、変調電流のピーク値I2がIBより大きければよいので、APCにおける電流制御精度は従来のAPC回路に比べて低くてよく、高精度のAPC回路は不要となる。従って、電流制御精度の低い低コストのAPC回路を使用でき、光源システムとしての大幅なコストダウンを実現できる。変調光出力のピーク値Pは、本実施形態による電位制御層2や本明細書において説明する他の形態の電位制御層によって広範に変化させることが可能であり、目的に応じて最適な値に設定できる。
また、本実施形態の半導体光素子1によれば、製造工程を従来より簡易にできる。非特許文献1に示したような埋め込みヘテロストラクチャー構造の半導体レーザ素子では、n型半導体層上に活性層を成長させて該活性層をエッチングした後、活性層上のエッチングマスクを残したまま電流ブロック部を成長させる。そして、エッチングマスクを除去し、p型半導体層を成長させる。このように、埋め込みヘテロストラクチャー構造の半導体レーザ素子は、その製造工程において少なくとも3回のエピタキシャル成長工程を必要とする。これに対し、本実施形態の半導体光素子1は、電流ブロック部の成長工程を必要としないため、半導体のエピタキシャル成長工程を少なく(本実施形態では2回)できるので、歩留まり向上や製造コスト削減につながる。
また、半導体光素子1においては、コンタクト層17は第2導電型半導体領域7上且つ活性層5が存在する領域上のみに設けられていても良い。これによって、第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7のpn接合部分(図3のB部分)とコンタクト層17との距離が、活性層5とコンタクト層17との距離よりも長くなる。したがって、コンタクト層17とpn接合部分との間の抵抗値をより大きくできるので、このpn接合部分におけるターンオン電圧VBをより高くできる。その結果、ターンオン電圧VAとターンオン電圧VBとの差VB−VAが更に拡大し、活性層5にキャリアをより高出力域まで閉じ込めることができるので、線形動作領域を更に拡大することができる。
また、例えば非特許文献1に開示された従来の埋め込みヘテロストラクチャー構造の半導体光素子では、電流ブロック部に含まれるp型半導体層及びn型半導体層によるpn接合部分が逆バイアスとなることを利用してキャリアをブロックする。しかしながら、この構造の場合、電流ブロックのために複数のpn接合部分を形成する必要があることに起因して接合容量が大となり、その結果高速動作が妨げられる。これに対して、本実施形態の半導体光素子1は、第1導電型半導体領域3と第2導電型半導体領域7との間の唯一つの順方向のpn接合によってキャリアをブロックするので、このような容量成分を低減することができる。したがって、半導体光素子1によれば、より高速な動作が可能になる。
また、半導体光素子1においては、GaAs半導体の表面は、GaAs半導体基板により提供されてもよい。InP半導体の表面は、InP半導体基板により提供されてもよい。GaN半導体の表面は、GaN半導体基板により提供されてもよい。SiC半導体の表面は、SiC半導体基板により提供されてもよい。特に、GaAs半導体基板は、大口径で高品質、低価格のものが容易に入手できる。これをGaAs半導体表面に用いると、半導体光素子1の生産性向上やコストダウンが実現でき、大規模集積素子の実現が容易となる。
図7(a)及び図7(b)は、本実施形態に係る半導体光素子の第1変形例を示す断面図である。図7(a)に示すように、本変形例の半導体光素子1aは、電位制御層2aを、活性層5と第2導電型半導体領域7との間ではなく第1導電型半導体領域3の第2の領域3dと第2導電型半導体領域7との間に備えることができる。この場合、第1導電型半導体領域3の第2の領域3dと第2導電型半導体領域7とは、電位制御層2aを介して間接的にpn接合を構成することとなる。すなわち、電位制御層2aが第1導電型を有する場合には、電位制御層2aと第2導電型半導体領域7とがpn接合を構成し、電位制御層2aと第1導電型半導体領域3とは同じ導電型同士の接合となる。また、電位制御層2aが第2導電型を有する場合には、電位制御層2aと第1導電型半導体領域3とがpn接合を構成し、電位制御層2aと第2導電型半導体領域7とは同じ導電型同士の接合となる。また、電位制御層2aが導電型を有しない(アンドープ)場合は、第1導電型半導体領域3と第2導電型半導体領域7とが電位制御層2aを挟んでpin接合を構成する。
電位制御層2aのバンドギャップエネルギーが、第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7のバンドギャップエネルギーより小さい場合には、第1導電型半導体領域3の第2の領域3dと第2導電型半導体領域7との間の接合電位及び抵抗は、電位制御層2aを備えない場合と比較して小さくなる。また、電位制御層2aのバンドギャップエネルギーが、第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7のバンドギャップエネルギーより大きい場合には、第1導電型半導体領域3の第2の領域3dと第2導電型半導体領域7との間の接合電位及び抵抗は、電位制御層2aを備えない場合と比較して大きくなる。
図8(a)は、半導体光素子1aにおける、印加電圧と素子電流との相関を示すグラフである。図8(b)は、半導体光素子1aにおける、素子電流と光出力(発光強度)との相関を示すグラフである。第1導電型半導体領域3の第2の領域3dと第2導電型半導体領域7との間(すなわち活性層5を除く領域)に、これらの領域のバンドギャップエネルギー値よりも大きいバンドギャップエネルギー値を有する電位制御層2aを設けると、第2の領域3dと第2導電型半導体領域7との間の接合電位及び抵抗が上がる。その結果、図8(a)のグラフG13に示すように、第2の領域3dと第2導電型半導体領域7との間のターンオン電圧VB0がVB1まで上がる。他方、電位制御層が設けられない部分(活性層5)におけるターンオン電圧VA0は変わらない。これにより、活性層5を除く領域が、電位制御層2aを備えない場合(グラフG10)の電流IB0に比べてより高い電流IB1までターンオンしないため、図8(b)のグラフG23に示すように、線形動作領域がより高出力域まで延びた電流−光出力特性が得られる。
また、第1導電型半導体領域の第2の領域3dと第2導電型半導体領域7との間に、これらの領域のバンドギャップエネルギー値よりも小さいバンドギャップエネルギー値を有する電位制御層2aを設けると、第2の領域3dと第2導電型半導体領域7との間の接合電位及び抵抗が下がる。その結果、図8(a)のグラフG14に示すように、第2の領域3dと第2導電型半導体領域7との間のターンオン電圧VB0がVB2まで下がる。他方、電位制御層2aが設けられない部分(活性層5)におけるターンオン電圧VA0は変わらない。これにより、活性層5を除く領域が、電位制御層2aを備えない場合(グラフG10)の電流IB0に比べてより低い電流IB2でターンオンするため、図8(b)のグラフG24に示すように、より低い出力域において光出力が飽和する電流−光出力特性が得られる。
このように、本変形例による半導体光素子1aにおいては、電位制御層2aのバンドギャップエネルギーを選択することにより、上記実施形態の半導体光素子1と同様に電流−光出力特性を変更できる。
また、図7(b)に示すように、本変形例による半導体光素子1bにおいては、電位制御層2bが、第1導電型半導体領域3に接する第1導電型の第3の領域22a、及び第2導電型半導体領域7に接する第2導電型の第4の領域22bを含んでもよい。第3の領域22aと第4の領域22bとは、互いにpn接合を構成する。電位制御層2bのバンドギャップエネルギーが第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7のバンドギャップエネルギーより大きい場合には、電位制御層2bに含まれる第3の領域22aと第4の領域22bとのpn接合部分における接合電位は、第1導電型半導体領域3と第2導電型半導体領域7とが直接pn接合した場合の接合電位よりも大きくなるとともに、この領域のヘテロ障壁が増大するので抵抗も大となる。従って、pn接合部分におけるターンオン電圧VBが上がり、線形動作領域がより高出力域まで延びた電流−光出力特性が得られる。他方、電位制御層2bのバンドギャップエネルギーが第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7のバンドギャップエネルギーより小さい場合には、電位制御層2aに含まれる第3の領域22aと第4の領域22bとのpn接合部分における接合電位は、第1導電型半導体領域3と第2導電型半導体領域7とが直接pn接合した場合の接合電位よりも小さくなるとともにこの領域のヘテロ障壁が下がるので、抵抗も下がる。従って、pn接合部分におけるターンオン電圧VBが低下し、より低い出力域において光出力が飽和する電流−光出力特性が得られる。このように、電位制御層2bのバンドギャップエネルギーを選択することにより、第3の領域22aと第4の領域22bとのpn接合部部分における接合電位を制御してターンオン電圧を変化させ、電流−光出力特性を変更できる。
図9は、本実施形態に係る半導体光素子の第2変形例を示す断面図である。本変形例の半導体光素子1cは、電位制御層2cを、活性層5と第2導電型半導体領域7との間、及び第1導電型半導体領域3の第2の領域3dと第2導電型半導体領域7との間に備えることができる。この場合、第1導電型半導体領域3の第2の領域3dと第2導電型半導体領域7とは、電位制御層2cを介して間接的にpn接合を構成することとなる。また、この場合、電位制御層2cのバンドギャップエネルギーの大きさを選択することによって、上記実施形態及び変形例に示したように、活性層5と第2導電型半導体領域7との間の接合電位及び抵抗、及び第1導電型半導体領域3の第2の領域3dと第2導電型半導体領域7との間の接合電位及び抵抗を制御することができるので、半導体光素子1cの電流−光出力特性を変更できる。
図10〜図12は、本実施形態に係る半導体光素子の第3変形例を示す断面図である。本変形例の半導体光素子1d〜1fは、それぞれ上記実施形態に係る半導体光素子1、並びに上記変形例に係る半導体光素子1a及び1cに対応する変形例である。半導体光素子1d〜1fは、第1の光閉じ込め層25及び第2の光閉じ込め層27を更に備えることができる。第1の光閉じ込め層25は、第1導電型半導体領域3と活性層5との間に設けられている。第2の光閉じ込め層27は、活性層5と第2導電型半導体領域7との間に設けられている。第1導電型半導体領域3の第2の半導体部3b、第1の光閉じ込め層25、活性層5、及び第2の光閉じ込め層27は、半導体リッジ部13aを構成する。
第1の光閉じ込め層25は、活性層5のバンドギャップエネルギーと第1導電型半導体領域3のバンドギャップエネルギーとの間のバンドギャップエネルギーを有する材料からなる。第2の光閉じ込め層27は、活性層5のバンドギャップエネルギーと第2導電型半導体領域7のバンドギャップエネルギーとの間のバンドギャップエネルギーを有する。活性層5には、第1の光閉じ込め層25及び第2の光閉じ込め層27を介して第1導電型半導体領域3の第2の半導体部3b及び第2導電型半導体領域7からキャリアが注入される。半導体光素子1d〜1fにおいては、注入されたキャリアは、第1の光閉じ込め層25及び第2の光閉じ込め層27の働きによって活性層5に閉じ込められる。
第1の光閉じ込め層25は、活性層5が示す屈折率と第1導電型半導体領域3が示す屈折率との間の屈折率値を示している。第2の光閉じ込め層27は、活性層5が示す屈折率と第2導電型半導体領域7が示す屈折率との間の屈折率値を示している。第1導電型半導体領域3及び第2導電型半導体領域7は、活性層5において発生された光を活性層5、第1の光閉じ込め層25及び第2の光閉じ込め層27に閉じ込めるように働く。
第1及び第2の光閉じ込め層25、27は、電流の閉じ込めと、光の閉じ込めを別個に行うことを可能にする。これらの光閉じ込め層の挿入により、活性層5への光閉じ込めが強められ、閾値電流の低減、温度特性の向上等、発振特性の改善が得られる。特に、活性層5が薄膜の量子井戸構造からなる場合には、量子井戸構造のみでは小さな光閉じ込め係数しか得られないが、第1及び第2の光閉じ込め層25、27を導入することによって光閉じ込め係数を増大することができるので、発振特性を劇的に改善できる。
本変形例のように、第1及び第2の光閉じ込め層25、27を半導体光素子が備える場合には、半導体光素子1dにおける電位制御層2は、第2の光閉じ込め層27と第2導電型半導体領域7との間、及び第1の光閉じ込め層25と第1導電型半導体領域3との間のうち少なくともいずれか一方に設けられる。また、半導体光素子1eにおける電位制御層2aは、上記第1変形例と同様に第1導電型半導体領域3の第2の領域3dと第2導電型半導体領域7との間に設けられる。なお、本変形例において、第1の導電型の第3の領域22a及び第2導電型の第4の領域22bを含む電位制御層2bを、第1導電型半導体領域3の第2の領域3dと第2導電型半導体領域7との間に設けてもよい。また、半導体光素子1fにおける電位制御層2cは、第1導電型半導体領域3の第2の領域3dと第2導電型半導体領域7との間、及び第2の光閉じ込め層27と第2導電型半導体領域7との間(或いは第1の光閉じ込め層25と第1導電型半導体領域3との間)に設けられる。これらの電位制御層2、2a〜2cのバンドギャップエネルギーを選択することによって、半導体光素子1d〜1fの電流−光出力特性を変更できる。
(第2の実施の形態)
図13は、本発明の第2実施形態に係る半導体光素子を示す斜視図である。図13には、XYZ座標系Sが描かれている。図14は、図13に示されたIII−III線に沿った断面図である。図13及び図14を参照すると、半導体レーザ素子といった半導体光素子51が示されている。
図13及び図14を参照すると、半導体レーザ素子といった半導体光素子51が示されている。この半導体光素子51は、電位制御層52と、第1導電型半導体領域53と、活性層55と、第2導電型半導体領域57とを備える。第1導電型半導体領域53は、GaAs半導体、InP半導体、GaN半導体、またはSiC半導体等の表面上に設けられており、第1の領域53aと、第1の領域53aの周囲に位置する第2の領域53bと有する。第1の領域53aは、Z軸方向といった所定の軸の方向に伸びている。活性層55は、第1導電型半導体領域53の第1の領域53a上に設けられている。活性層55は、一対の側面55aを有している。第2導電型半導体領域57は、第1導電型半導体領域53の第2の領域53b上、活性層55上、及び活性層55の側面55a上に設けられている。電位制御層52は、活性層55と第2導電型半導体領域57との間に設けられている。電位制御層52は、一対の側面52eを有している。第2導電型半導体領域57は、活性層55の周囲において、第1導電型半導体領域53の第2の領域53bとpn接合を構成している。活性層55は、III−V族化合物半導体から構成されている。
第1導電型半導体領域53はIII−V族化合物半導体から構成されており、このIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーは、活性層55を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーよりも大きい。同様に、第2導電型半導体領域57はIII−V族化合物半導体から構成されており、このIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーは、活性層55を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーよりも大きい。
また、電位制御層52はIII−V族化合物半導体から構成されており、このIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーには、次の2つの形態がある。すなわち一方の形態では、電位制御層52を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーは、活性層55を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーよりも大きく且つ第1導電型半導体領域53及び第2導電型半導体領域57を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーよりも小さい。また、他方の形態では、電位制御層52を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーは、第1導電型半導体領域53及び第2導電型半導体領域57を構成するIII−V族化合物半導体のバンドギャップエネルギーよりも大きい。
なお、電位制御層52の導電型は、第2導電型半導体領域57と同じ導電型でもよく、活性層55と同じくアンドープでもよい。また、活性層55が導電型を有する場合には、活性層55と同じ導電型でもよい。
第1導電型半導体領域53及び第2導電型半導体領域57は、キャリアを活性層55に閉じ込めるように働く。結果として、第1導電型半導体領域53は第1導電型クラッド層として働くことができ、第2導電型半導体領域57は第2導電型クラッド層として働くことができる。活性層55は、第1導電型半導体領域53及び第2導電型半導体領域57から注入され閉じ込められたキャリアから光を発生する。
また、第1導電型半導体領域53が示す屈折率は、活性層55が示す屈折率より小さい。第2導電型半導体領域57が示す屈折率は、活性層55が示す屈折率より小さい。故に、第1導電型半導体領域53及び第2導電型半導体領域57は、活性層55において発生された光をX方向及びY方向において活性層55に閉じ込めるように働く。結果として、第1導電型半導体領域53及び第2導電型半導体領域57は光学的なクラッド層として作用する。
なお、活性層55の構造は、単一の層からなるバルク構造、一つの井戸層からなる単一量子井戸構造、或いは複数の井戸層とバリア層とを交互に積層した多重量子井戸構造のいずれを用いてもよい。
半導体光素子51は、半導体基板61を更に備える。半導体基板61としてはGaAs半導体基板、InP半導体基板、GaN半導体基板、またはSiC半導体基板等が例示される。第1導電型半導体領域53が設けられるGaAs半導体、InP半導体、GaN半導体、またはSiC半導体等の表面は、これらの半導体基板によって提供される。半導体基板61の主面61a上には、第1導電型半導体領域53が設けられている。
半導体光素子51は、第2導電型のコンタクト層67と、電極71と、電極73とを更に備える。コンタクト層67は、第2導電型半導体領域57上に設けられている。電極71は、コンタクト層67上に設けられている。電極71は、活性層55が伸びる方向に伸びている。電極73は、半導体基板61の裏面61bに設けられている。コンタクト層67のバンドギャップエネルギーは、第2導電型半導体領域57のバンドギャップエネルギーより小さい。故に、電極71とコンタクト層67との間にオーミックコンタクトを形成することが容易になる。
本実施形態の半導体光素子51においては、活性層55のバンドギャップエネルギーよりも第1導電型半導体領域53及び第2導電型半導体領域57のバンドギャップエネルギーのほうが大きいので、第1導電型半導体領域53と第2導電型半導体領域57とのpn接合部分における接合電位が、第1導電型半導体領域53、活性層55、及び第2導電型半導体領域57の間に生じる接合電位よりも大きくなる。これにより、半導体光素子51は、図3に示した第1実施形態の半導体光素子1と同様に動作する。すなわち、第1導電型半導体領域53及び第2導電型半導体領域57に生じたキャリアは、所定の印加電圧範囲において第1導電型半導体領域53と第2導電型半導体領域57とのpn接合部分でブロックされ、活性層55へ効果的に閉じ込められることとなる。従って、本実施形態の半導体光素子51によれば、活性層にキャリアを効果的に閉じ込めることができる。
また、電位制御層52のバンドギャップエネルギーが、第1導電型半導体領域53及び第2導電型半導体領域57のバンドギャップエネルギーよりも小さく、且つ活性層55のバンドギャップエネルギーよりも大きい場合には、第2導電型半導体領域57と活性層55との間のヘテロ障壁が緩和され、これらの層間の抵抗が下がり、且つA部分(図3参照)ターンオン後の電流−電圧特性の傾き、即ち直列抵抗が下がる。従って、第1導電型半導体領域53、活性層55、及び第2導電型半導体領域57におけるターンオン電圧VAが下がり、また電位制御層52を備えない場合の電流に比べてより高い電流まで、素子電圧は第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57とのpn接合部分におけるターンオン電圧VBに至らずB部分(図3参照)はターンオンしない。その結果ターンオン電圧VAとターンオン電圧VBとの差VB−VAが拡大するので、線形動作領域がより高出力域まで延びた電流−光出力特性が得られる。また、電位制御層52のバンドギャップエネルギーが、第1導電型半導体領域53及び第2導電型半導体領域57のバンドギャップエネルギーよりも大きい場合には、第2導電型半導体領域57と活性層55との間のヘテロ障壁が増し、これらの層間の抵抗が上がり、且つA部分ターンオン後の電流―電圧特性の傾き、即ち直列抵抗が上がる。従って、第1導電型半導体領域53、活性層55、及び第2導電型半導体領域57におけるターンオン電圧VAが上がり、また電位制御層52を備えない場合の電流に比べてより低い電流にて、素子電圧は第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57とのpn接合部分におけるターンオン電圧VBに至り、B部分はターンオンする。その結果ターンオン電圧VAとターンオン電圧VBとの差VB−VAが縮小するので、より低い出力域において光出力が飽和する電流−光出力特性が得られる。このように、本実施形態の半導体光素子51によれば、電位制御層52のバンドギャップエネルギーを選択することにより、半導体光素子51の電流−光出力特性を変更できる。なお、本実施形態では、電位制御層52は活性層55と第2導電型半導体領域57との間に設けられているが、電位制御層52が活性層55と第1導電型半導体領域53との間に設けられても、本実施形態の半導体光素子51と同様の効果を得ることができる。
また、半導体光素子51の製造方法が第1実施形態の半導体光素子1の製造方法(図5(a)〜(e)参照)と相違する点は、図5(b)に示したエッチング工程において、第1導電型半導体領域53をエッチングしない点のみである。したがって、半導体光素子51を製造する際においても、電流ブロック層をエピタキシャル成長させる工程が必要ないので、半導体のエピタキシャル成長工程を少なくできる。
半導体光素子51においては、コンタクト層67が第2導電型半導体領域57上且つ活性層55が存在する領域上のみに設けられていても良い。これによって、第1導電型半導体領域53及び第2導電型半導体領域57のpn接合部分とコンタクト層67との距離が、活性層55とコンタクト層67との距離よりも長くなる。したがって、コンタクト層67とpn接合部分との間の抵抗値をより大きくできるので、このpn接合部分におけるターンオン電圧VBをより高くできる。その結果、ターンオン電圧VAとターンオン電圧VBとの差VB−VAが拡大し、活性層55にキャリアをより高出力域まで閉じ込めることができるので、線形動作領域を拡大することができる。
半導体光素子51においては、半導体光素子1と同じく第1導電型半導体領域53と第2導電型半導体領域57との間の唯一つの順方向のpn接合によってキャリアをブロックするので、従来構造に比べて容量成分を低減することができる。したがって、半導体光素子51によれば、より高速な動作が可能になる。
半導体光素子51においては、GaAs半導体の表面は、GaAs半導体基板により提供されてもよい。InP半導体の表面は、InP半導体基板により提供されてもよい。GaN半導体の表面は、GaN半導体基板により提供されてもよい。SiC半導体の表面は、SiC半導体基板により提供されてもよい。特に、GaAs半導体基板は、大口径で高品質、低価格のものが容易に入手できる。これをGaAs半導体表面に用いると、半導体光素子51の生産性向上やコストダウンが実現でき、大規模集積素子の実現が容易となる。
半導体光素子51においては、第1導電型半導体領域53は、活性層55及び電位制御層52のエッチングのためのエッチング停止層として機能する材料から構成されてもよい。従来の埋め込みヘテロストラクチャー構造において、メサ形成のための活性層に対するエッチングは、半導体層に対して損傷を与えにくいウエットエッチングによって行われることが多い。しかし、ウエットエッチングは等方性エッチングであるため、活性層は深さ方向と同時に水平方向にもエッチングされる。その結果、活性層幅はメサ部のエッチング深さ(エッチング量)に応じて変動する。例えば、非特許文献1に示されたような半導体レーザ素子では、InGaAsP半導体からなる活性層をエッチングするためのエッチング液としてBrメタノールが一般的に用いられる。しかし、Brメタノールによってn型InP半導体クラッド層もエッチングされるので、活性層と同時に活性層直下のn型InP半導体クラッド層も必ず深く削られたメサ構造となる。ウェットエッチングでは、エッチング溶液の温度、濃度、薬品の混合比等の微妙な変動により、エッチングレートが製造毎に変動しやすい。特にBrメタノールは揮発性であるため、エッチングレートが変動しやすい。さらに、ウエハの中央部と周辺部とにおけるエッチング溶液の攪拌速度の差に起因して、ウエハ面内においてエッチングレートが一定になりにくい。このようなエッチングレートの変動は製造毎の、またウェハ面内でのエッチング深さのばらつきを生じるので、それに連動して活性層幅もばらつくことになる。したがって、活性層幅を一定に形成することが困難となり、レーザ特性の再現性や均一性を損なうおそれがある。
これに対し、本実施形態の半導体光素子51では、例えば半導体基板61としてGaAs半導体基板を用い、第1導電型半導体領域53の材料としてAlGaInPまたはGaInPを用い、電位制御層52にAlGaAs、GaAs、GaInAsP、またはGaInAsを用い、且つ活性層55としてNとGaとAsとを含むIII−V族化合物半導体、またはAlGaAs、GaAs、GaInAsP、GaInAsのいずれかを用いれば、エッチング液を選択する(例えば燐酸系エッチャント)ことにより、第1導電型半導体領域53がエッチング停止層として機能し、電位制御層52や活性層55のみをエッチングすることが可能となる。これにより、電位制御層52及び活性層55のメサエッチング深さに関して良好な再現性及び面内均一性が得られるので、電位制御層52及び活性層55の幅の再現性およびウェハ面内での均一性が格段に向上し、レーザ特性の再現性や均一性が改善される。
図15(a)及び図15(b)は、本実施形態に係る半導体光素子の第4変形例を示す断面図である。図15(a)に示すように、本変形例の半導体光素子51aは、電位制御層52aを、活性層55と第2導電型半導体領域57との間ではなく第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間に備えることができる。この場合、第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57とは、電位制御層52aを介して間接的にpn接合を構成することとなる。すなわち、電位制御層52aが第1導電型を有する場合には、電位制御層52aと第2導電型半導体領域57とがpn接合を構成し、電位制御層52aと第1導電型半導体領域53とは同じ導電型同士の接合となる。また、電位制御層52aが第2導電型を有する場合には、電位制御層52aと第1導電型半導体領域53とがpn接合を構成し、電位制御層52aと第2導電型半導体領域57とは同じ導電型同士の接合となる。また、電位制御層52aが導電型を有しない(アンドープ)場合は、第1導電型半導体領域53と第2導電型半導体領域57とが電位制御層52aを挟んでpin接合を構成する。
電位制御層52aのバンドギャップエネルギーが、第1導電型半導体領域53及び第2導電型半導体領域57のバンドギャップエネルギーより小さい場合には、第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間の接合電位及び抵抗は、電位制御層52aを備えない場合と比較して小さくなる。また、電位制御層52aのバンドギャップエネルギーが、第1導電型半導体領域53及び第2導電型半導体領域57のバンドギャップエネルギーより大きい場合には、第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間の接合電位及び抵抗は、電位制御層52aを備えない場合と比較して大きくなる。
第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間(すなわち活性層55を除く領域)に、これらの領域のバンドギャップエネルギー値よりも大きいバンドギャップエネルギー値を有する電位制御層52aを設けると、第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間の接合電位及び抵抗が上がる。その結果、第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間のターンオン電圧VBが上がる。他方、電位制御層52aが設けられない部分(活性層55)におけるターンオン電圧VAは変わらない。これにより、活性層55を除く領域が、電位制御層52aを備えない場合に比べてより高い電流が流れるまでターンオンしないため、線形動作領域がより高出力域まで延びた電流−光出力特性が得られる。
また、第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間に、これらの領域のバンドギャップエネルギー値よりも小さいバンドギャップエネルギー値を有する電位制御層52aを設けると、第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間の接合電位及び抵抗が下がる。その結果、第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間のターンオン電圧VBが下がる。他方、電位制御層52aが設けられない部分(活性層55)におけるターンオン電圧VAは変わらない。これにより、活性層55を除く領域が、電位制御層52aを備えない場合に比べてより低い電流でターンオンするため、より低い出力域において光出力が飽和する電流−光出力特性が得られる。
このように、本変形例による半導体光素子51aにおいては、電位制御層52aのバンドギャップエネルギーを選択することにより、上記実施形態の半導体光素子51と同様に電流−光出力特性を変更できる。
また、図15(b)に示すように、本変形例による半導体光素子51bにおいては、電位制御層52bが、第1導電型半導体領域53と接する第1導電型の第3の領域72a、及び第2導電型半導体領域57と接する第2導電型の第4の領域72bを含んでもよい。第3の領域72aと第4の領域72bとは、互いにpn接合を構成する。電位制御層52bのバンドギャップエネルギーが第1導電型半導体領域53及び第2導電型半導体領域57のバンドギャップエネルギーより大きい場合には、電位制御層52bに含まれる第3の領域72aと第4の領域72bとのpn接合部分における接合電位は、第1導電型半導体領域53と第2導電型半導体領域57とが直接pn接合した場合の接合電位よりも大きくなる。従って、pn接合部分におけるターンオン電圧VBが上がり、線形動作領域がより高出力域まで延びた電流−光出力特性が得られる。他方、電位制御層52bのバンドギャップエネルギーが第1導電型半導体領域53及び第2導電型半導体領域57のバンドギャップエネルギーより小さい場合には、電位制御層52bに含まれる第3の領域72aと第4の領域72bとのpn接合部分における接合電位は、第1導電型半導体領域53と第2導電型半導体領域57とが直接pn接合した場合の接合電位よりも小さくなる。従って、pn接合部分におけるターンオン電圧VBが低下し、より低い出力域において光出力が飽和する電流−光出力特性が得られる。このように、電位制御層52bのバンドギャップエネルギーを選択することにより、第3の領域72aと第4の領域72bとのpn接合部分における接合電位を制御してターンオン電圧を変化させ、電流−光出力特性を変更できる。
図16は、本実施形態に係る半導体光素子の第5変形例を示す断面図である。本変形例の半導体光素子51cは、電位制御層52cを、活性層55と第2導電型半導体領域57との間、及び第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間に備えることができる。この場合、第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57とは、電位制御層52cを介して間接的にpn接合を構成することとなる。また、この場合、電位制御層52cのバンドギャップエネルギーの大きさを選択することによって、活性層55と第2導電型半導体領域57との間の接合電位及び抵抗、及び第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間の接合電位及び抵抗を制御することができるので、半導体光素子51cの電流−光出力特性を変更できる。
また、半導体光素子51a、51b、51cにおいては、第1導電型半導体領域53が、活性層55のエッチングのためのエッチング停止層として機能する材料からなってもよい。この場合、これらの層のエッチング深さに関して良好な再現性および面内均一性が達成される。その結果、活性層55の幅の再現性および面内均一性も格段に向上し、レーザ特性の再現性や面内均一性も改善される。半導体基板61がGaAs半導体基板からなる場合に、このような構成を実現するための半導体材料としては、例えば第1導電型半導体領域53の材料としてAlGaInPまたはGaInPを用い、活性層55がNとGaとAsとを含むIII−V族化合物半導体、もしくはAlGaAs、GaAs、GaInAsP、GaInAsのいずれかによって構成されるとよい。これにより、これらの層をエッチングする際に例えば燐酸系エッチャントを用いると、第1導電型半導体領域53がエッチング停止層として機能することができる。
図17は、本実施形態に係る半導体光素子の第6変形例を示す断面図である。本変形例の半導体光素子51dは、電位制御層52dを、第1導電型半導体領域53の第1の領域53aと活性層55との間、及び第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間に備えることができる。本変形例では、電位制御層52dの表面は平坦に形成されている。この場合、電位制御層52dのバンドギャップエネルギーの大きさを選択することによって、第1導電型半導体領域53の第1の領域53aと活性層55との間の接合電位及び抵抗、及び第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間の接合電位及び抵抗を制御することができるので、半導体光素子51dの電流−光出力特性を変更できる。
また、半導体光素子51dにおいては、電位制御層52dが、活性層55のエッチングのためのエッチング停止層として機能する材料からなってもよい。この場合、活性層55のエッチング深さに関して良好な再現性および面内均一性が達成される。その結果、活性層55の幅の再現性および面内均一性も格段に向上し、レーザ特性の再現性や面内均一性も改善される。半導体基板61がGaAs半導体基板からなる場合に、このような構成を実現するための半導体材料としては、例えば電位制御層52dがAlGaInP、GaInPのいずれかによって構成され、活性層55がNとGaとAsとを含むIII−V族化合物半導体、もしくはAlGaAs、GaAs、GaInAsP、GaInAsのいずれかによって構成されるとよい。これにより、活性層55をエッチングする際に例えば燐酸系エッチャントを用いると、電位制御層52dがエッチング停止層として機能することができる。
図18は、本実施形態に係る半導体光素子の第7変形例を示す断面図である。本変形例の半導体光素子51eは、電位制御層52eを、第1導電型半導体領域53の第1の領域53aと活性層55との間、及び第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間に備えることができる。本変形例では、電位制御層52eは、第1導電型半導体領域53の第1の領域53a上にリッジ部分52fを有する。リッジ部分52fは、一対の側面52gを有しており、Z軸方向といった所定の軸方向に伸びている。本変形例においても、電位制御層52eのバンドギャップエネルギーの大きさを選択することによって、第1導電型半導体領域53の第1の領域53aと活性層55との間の接合電位及び抵抗、及び第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間の接合電位及び抵抗を制御することができるので、半導体光素子51eの電流−光出力特性を変更できる。
図19〜図23は、本実施形態に係る半導体光素子の第8変形例を示す断面図である。本変形例の半導体光素子51f〜51jは、それぞれ上記実施形態に係る半導体光素子51、並びに上記変形例に係る半導体光素子51a、51c〜51eに対応する変形例である。半導体光素子51f〜51jは、第1の光閉じ込め層75及び第2の光閉じ込め層77を更に備えることができる。第1の光閉じ込め層75は、第1導電型半導体領域53と活性層55との間に設けられている。第2の光閉じ込め層77は、活性層55と第2導電型半導体領域57との間に設けられている。なお、第1の光閉じ込め層75及び第2の光閉じ込め層77は、先に述べた第1の光閉じ込め層25及び第2の光閉じ込め層27と同様の構成および作用を有している。すなわち、第1の光閉じ込め層75は、活性層55のバンドギャップエネルギーと第1導電型半導体領域53のバンドギャップエネルギーとの間のバンドギャップエネルギーを有する材料からなる。第2の光閉じ込め層77は、活性層55のバンドギャップエネルギーと第2導電型半導体領域57のバンドギャップエネルギーとの間のバンドギャップエネルギーを有する材料からなる。また、第1の光閉じ込め層75は、活性層55が示す屈折率と第1導電型半導体領域53が示す屈折率との間の屈折率値を示している。第2の光閉じ込め層77は、活性層55が示す屈折率と第2導電型半導体領域57が示す屈折率との間の屈折率値を示している。したがって、第1の光閉じ込め層75及び第2の光閉じ込め層77は、活性層55への電流の閉じ込めと、光の閉じ込めとを別個に行うことを可能にする。これらの光閉じ込め層の挿入により、活性層55への光閉じ込めが強められ、閾値電流の低減や温度特性の向上といった発振特性の改善効果が得られる。
第1及び第2の光閉じ込め層75、77を半導体光素子が備える場合には、半導体光素子51fにおける電位制御層52は、第2の光閉じ込め層77と第2導電型半導体領域57との間、及び第1の光閉じ込め層75と第1導電型半導体領域53との間のうち少なくともいずれか一方に設けられる。また、半導体光素子51gにおける電位制御層52aは、第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間に設けられる。なお、本変形例において、第1の導電型の第3の領域72a及び第2導電型の第4の領域72bを含む電位制御層52bを、第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間に設けてもよい。また、半導体光素子51hにおける電位制御層52cは、第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間、及び第2の光閉じ込め層77と第2導電型半導体領域57との間に設けられる。また、半導体光素子51i及び51jにおける電位制御層52d及び52eは、第1導電型半導体領域53の第2の領域53bと第2導電型半導体領域57との間、及び第1の光閉じ込め層75と第1導電型半導体領域53の第1の領域53aとの間に設けられる。これらの電位制御層52、52a〜52eのバンドギャップエネルギーを選択することによって、半導体光素子51f〜51jの電流−光出力特性を変更できる。
また、半導体光素子51fにおいては、第1導電型半導体領域53が、活性層55、電位制御層52、光閉じ込め層75、77のエッチングのためのエッチング停止層として機能する材料からなってもよい。また、半導体光素子51g、51hにおいては、第1導電型半導体領域53が、活性層55、光閉じ込め層75、77のエッチングのためのエッチング停止層として機能する材料からなってもよい。この場合、これらの層のエッチング深さに関して良好な再現性および面内均一性が達成される。その結果、活性層55の幅の再現性および面内均一性も格段に向上し、レーザ特性の再現性や面内均一性も改善される。半導体基板61がGaAs半導体基板からなる場合に、このような構成を実現するための半導体材料としては、例えば第1導電型半導体領域53の材料としてAlGaInPまたはGaInPを用い、電位制御層52がAlGaAs、GaAs、GaInAsP、またはGaInAsのいずれかによって構成され、光閉じ込め層75、77がAlGaAs、GaAs、またはGaInAsPで構成され、活性層55がNとGaとAsとを含むIII−V族化合物半導体、もしくはAlGaAs、GaAs、GaInAsP、GaInAsのいずれかによって構成されるとよい。これにより、これらの層をエッチングする際に例えば燐酸系エッチャントを用いると、第1導電型半導体領域53がエッチング停止層として機能することができる。
また、半導体光素子51iにおいては、電位制御層52dが、活性層55、及び光閉じ込め層75、77のエッチングのためのエッチング停止層として機能する材料からなってもよい。この場合、活性層55のエッチング深さに関して良好な再現性および面内均一性が達成される。その結果、活性層55の幅の再現性および面内均一性も格段に向上し、レーザ特性の再現性や面内均一性も改善される。半導体基板61がGaAs半導体基板からなる場合に、このような構成を実現するための半導体材料としては、例えば電位制御層52dがAlGaInP、GaInPのいずれかによって構成され、光閉じ込め層75、77がAlGaAs、GaAs、またはGaInAsPで構成され、活性層55がNとGaとAsとを含むIII−V族化合物半導体、もしくはAlGaAs、GaAs、GaInAsP、GaInAsのいずれかによって構成されるとよい。これにより、活性層55及び光閉じ込め層75、77をエッチングする際に例えば燐酸系エッチャントを用いると、電位制御層52dがエッチング停止層として機能することができる。
図24は、本実施形態に係る半導体光素子の第9変形例を示す断面図である。本変形例の半導体光素子51kでは、第1導電型半導体領域54が、濃度変化領域54a及び他の領域54bを有する。また、第2導電型半導体領域58が、濃度変化領域58a及び他の領域58bを有する。第1導電型半導体領域54の濃度変化領域54aは、第1導電型半導体領域54における第2導電型半導体領域58側の表面54cを含む。第2導電型半導体領域58の濃度変化領域58aは、第2導電型半導体領域58における第1導電型半導体領域54側の表面58c及び58dを含む。第1導電型半導体領域54において、濃度変化領域54aのドーパント濃度は他の領域54bのドーパント濃度と異なっている。第2導電型半導体領域58において、濃度変化領域58aのドーパント濃度は他の領域58bのドーパント濃度と異なっている。
図25(a)に示すグラフG16は、本変形例の半導体光素子51kにおける電流−電圧特性を示すグラフである。図25(a)に示すグラフG15は、半導体光素子51kとは異なり、半導体光素子が濃度変化領域54a及び58aを備えない場合(例えば本実施形態の半導体光素子51)の電流−電圧特性を示すグラフである。また、図25(b)に示すグラフG25及びG26は、図25(a)に示すグラフG15及びG16にそれぞれ対応する電流−光出力特性を示すグラフである。半導体光素子51kでは、濃度変化領域54a及び58aがそれぞれ領域54b及び58bと異なる濃度でドープされることによって、濃度変化領域54a及び58aの擬フェルミレベル及び抵抗が変化し、第1導電型半導体領域54と第2導電型半導体領域58とのpn接合部分、並びに第1導電型半導体領域54、活性層55、及び第2導電型半導体領域58によるpin接合部分におけるターンオン電圧、及びpin接合部分がターンオンした後の線形動作領域における素子の直列抵抗が変化する。例えば、濃度変化領域54a及び58aを領域54b及び58bよりも充分高濃度にドープすると、これらのクラッド部分の抵抗が下がるため、pn接合部分及びpin接合部分におけるターンオン電圧が低下する。したがって、図25(a)及び図25(b)に示すように、pin接合部分のターンオン電圧VA3がより低いターンオン電圧VA4に変化し、pn接合部分のターンオン電圧VB3がより低いターンオン電圧VB4に変化する。さらに、濃度変化領域54a及び58aの抵抗値も低下するので、pin接合部分ターンオン後の線形動作領域における電流−電圧特性のグラフの傾き(直列抵抗)も低下する。この結果、活性層外領域のpn接合部分がターンオンに至る電流値がIB3からIB4へと増大するので、電流−光出力特性における線形動作領域の範囲が拡大され、より大きな光出力を得ることができる。以上説明したように、本構造においては濃度変化領域54a及び58aのドーパント濃度を領域54b及び58bに対して変化させることにより、電流−電圧特性のターンオン電圧やターンオン後の直列抵抗を変化させ、その結果線形動作領域を目的に応じて変化させることが可能となる。なお、以上では濃度変化領域54aと58aとが両方存在する場合について説明したが、どちらか一方の濃度変化領域を導入した場合でも同様の効果が得られる。
なお、上述したようなターンオン電圧の制御は、第1導電型半導体領域54(第2導電型半導体領域58)全体のドーパント濃度を変化させることによっても可能である。また、ターンオン電圧の制御は、第1導電型半導体領域54及び第2導電型半導体領域58のうち一方の半導体領域のみドーパント濃度を調整することによっても可能である。上述の例では、第1導電型半導体領域54及び第2導電型半導体領域58における一部の領域のみドーパント濃度を変化させることにより、ドープ量の変更による素子特性への影響を抑えることもできる。また、上述した第1導電型半導体領域、または第2導電型半導体領域における一部あるいは全体のドーパント濃度変更によるターンオン電圧の制御法は、本実施形態の半導体光素子51に限らず、第1実施形態の半導体光素子1や本発明に係る他の全ての半導体光素子にも適用することができる。
以上、本発明に係る半導体光素子の好適な実施の形態及びその変形例について説明したが、上記各半導体光素子においては、電位制御層の厚さが数十nm程度以下(例えば、5nm以下)であっても本発明の効果を得ることができる。電流−電圧特性以外の素子特性への電位制御層による影響を軽減するためには、電位制御層は薄いほうが好ましい。但し、半導体光素子の利用目的に応じて、電位制御層を厚くすることもできる。
また、上記各半導体光素子においては、下地となる半導体(半導体基板)に対して、電位制御層の格子不整が±3パーセント以内に在るようにしても良い。電位制御層は上述したように薄くてよいので、このような範囲で歪みがあっても臨界膜厚からは充分に薄い。従って、ミスフィット転位等の格子不整合に起因する結晶欠陥は殆ど生じず、実用上問題とはならない。この場合、格子整合条件に関する制約が緩和されるので、より広範な半導体材料の組成を選択でき、電位制御層のバンドギャップエネルギーの選択範囲が増して、電流−光出力特性の設計の自由度が増す。このような電位制御層の半導体材料としては、半導体基板にGaAs基板を用いる場合には、AlGaInP、GaInP、GaInAsP、またはGaInAs等を用いることができる。また、半導体基板にInP基板を用いる場合には、GaInAsP、GaInAs、AlGaInAs等を用いることができる。なお、このような歪入りの電位制御層の厚さは、5nm〜10nm程度が望ましく、特に5nm前後が好適である。
ここで、本発明の効果を好適に得ることができる半導体材料について説明する。図26は、半導体材料の一覧を示す図表である。なお、これらの材料群は、上記各実施形態及び変形例に係る全ての半導体光素子に適用することが可能である。
本発明に係る半導体光素子においては、半導体基板の材料としてGaAs基板を用いてもよい。或いは、他材料からなる基板上にGaAs半導体層が形成された基板を用いてもよい。そして、活性層には、少なくとも窒素を含むIII−V族化合物半導体を用いることが好ましい。
少なくとも窒素を含むIII−V族化合物半導体としては、例えば少なくともNとGaとAsとを含むIII−V族化合物半導体が挙げられる。この材料系の格子定数は、GaAsの格子定数と同じか、或いはGaAsの格子定数に近い値に設定できる。従って、GaAs基板またはGaAs半導体上での良好な結晶成長が可能である。また、この材料系のバンドギャップエネルギーは1μm以上のフォトルミネッセンス波長に相当しているので、この材料系を活性層の材料に用いることで、1μm以上の長波長域の発振波長を容易に実現でき、例えば1μm〜1.6μm帯の光通信用光源を作製できる。
NとGaとAsを含んでいる具体的なIII−V族化合物半導体材料としてはまず、GaNAsとGaInNAsがある。これらの半導体材料は、Ga、In、N、及びAsの組成比を調整することで、GaAsと同じか、もしくはそれに近い格子定数を実現できる。また、これらの半導体材料によれば、1μm〜1.6μm帯の通信用の波長域で発光可能な活性層が得られるので、GaAs基板またはGaAs半導体上における長波長レーザを実現できる。
上述したGaNAsやGaInNAsには、さらにSb及びPのうち一方または双方が添加されても良い。Sbはいわゆるサーファクタントとして機能し、GaNAsやGaInNAsの3次元成長を抑制し、それらの結晶性改善の効果がある。また、Pは、GaNAsやGaInNAsの局所的結晶歪の低減による結晶性及び信頼性の改善や、結晶成長中におけるNの結晶への取り込み量の増大等に寄与する。具体的には、GaNAsP、GaInNAsP、GaNAsSb、GaInNAsSb、GaNAsSbP、GaInNAsSbP等の半導体材料を用いることができる。これらの格子定数は、GaAsの格子定数と同じか、或いはGaAsの格子定数に近い値に設定できる。従って、これらの半導体材料は、GaAs基板上またはGaAs半導体上での良好な結晶成長が可能である。
また、半導体基板または下地となる半導体の材料として、GaAs基板または他の基板上に成長したGaAs半導体層を用いた場合には、活性層の半導体材料として、AlGaInP、GaInP、AlGaAs、GaAs、GaInAsP、GaInAsも使用可能である。これらの半導体材料は、組成比を調整することにより、GaAsに近い格子定数を実現できる。また、これらの半導体材料によれば、0.6μm〜1μm帯の波長域で発光可能な活性層が得られる。
上述した各種の活性層材料はGaAs基板上またはGaAs半導体上に成長可能なため、GaAsに格子整合する高バンドギャップ材料であるAlGaInP、GaInP、AlGaAs、またはGaInAsPを、第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域の半導体材料として使用できる。GaAsに格子整合するAlGaInP、AlGaAs、GaInAsPは、何れもInPよりバンドギャップエネルギーが高く、組成を調整することにより各々約1.9〜約2.3eV、約1.42〜約2.16eV、及び約1.42eV〜約1.9eVの範囲でバンドギャップエネルギーを広範に変化させることができる。また、GaAsに格子整合するGaInPは約1.9eVといった高バンドギャップエネルギーを有する。
また、電位制御層の半導体材料としては、AlGaAs、GaAs、GaInAsP、GaInAs、AlGaInP、GaInP等が使用可能である。これらの半導体材料は、GaAsと同じか、またはGaAsに近い格子定数とすることが可能なため、GaAs基板上またはGaAs半導体上への成長が可能である。また、上述したように、電位制御層は基板に対して±3パーセント以内の格子不整があっても良いので、AlGaInP、GaInP、またはGaInAsPについては、これらの半導体材料を第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域に用いる場合と比べてバンドギャップエネルギーの可変範囲をより拡大できる。その結果、これらの半導体材料を用いることにより、電位制御層のバンドギャップエネルギーとして、約1eV付近の低いバンドギャップエネルギーから2.3eVを超える高いバンドギャップエネルギーまでの広範なバンドギャップエネルギーが実現可能となる。従って、半導体光素子の使用目的に応じて、電位制御層として妥当なバンドギャップエネルギーを選択し、また第9変形例に示したような第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域のドーパント濃度の制御も必要に応じて併用することで、ターンオン電圧VA、VBや線形動作領域の電流―電圧特性の傾き(直列抵抗)を制御でき、電流−光出力特性を適切な形状に変更することができる。
なお、半導体光素子には必要に応じて光閉じ込め層を付加しても良い。光閉じ込め層の半導体材料としては、AlGaAs、GaAs等を使用できる。または、GaAsに格子整合するGaInAsP、AlGaInP、GaInP等を使用できる。
GaAs系の活性層材料を用いる長波長帯の半導体光素子においては、第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域、光閉じ込め層、並びに電位制御層の半導体材料として、上述したような広範なバンドギャップエネルギーを実現可能な半導体材料を使用できる。従って、上述したいずれかの半導体材料を用い、また第9変形例に示したような第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域のドーパント濃度の制御も必要に応じて併用することで、ターンオン電圧VA、VBや線形動作領域の電流―電圧特性の傾き(直列抵抗)を制御でき、電流−光出力特性を適切な形状に変更することができる。例えば、活性層に上述した少なくともNとGaとAsとを含むIII−V族化合物半導体を用いる場合、第1導電型半導体領域の第2の領域と第2導電型半導体領域との間に設けられた電位制御層、並びに第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域の半導体材料として、上述した半導体材料のうちInPより高バンドギャップの材料を用いれば、従来のInP/GaInAsP系の半導体材料を用いた長波長帯半導体レーザに比べてターンオン電圧VBを大きくできる。その結果、線形動作領域がより高出力域まで延びた電流−光出力特性を有する長波長帯半導体レーザを実現できる。また、InP/GaInAsP系の半導体材料を用いた従来の長波長帯半導体レーザに比べて、第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域と活性層とのバンドギャップエネルギー差を大きく取れるため、注入キャリアの活性層への閉じ込めを強化でき、活性層に入ったキャリアは容易には出て来られなくなる。その結果、高温でのレーザ発振が容易になるなど、温度特性が改善された長波長帯の半導体レーザ素子を実現できる。
また活性層の半導体材料として、上述した窒素を含まない材料、即ちAlGaInP、GaInP、AlGaAs、GaAs、GaInAsP、またはGaInAsを用いた場合でも、第1導電型半導体領域の第2の領域と第2導電型半導体領域との間に設けられた電位制御層、並びに第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域の半導体材料として、上述した高バンドギャップの材料を用いれば、従来のInP/GaInAsP系の半導体レーザに比べてターンオン電圧VBを大きくできる。この場合、ターンオン電圧差(VB−VA)が従来のInP/GaInAsP系の長波長帯半導体レーザに比べて大となるように、活性層や光閉じ込め層として妥当なバンドギャップを有する材料を選択することも可能である。その結果、線形動作領域が従来のInP/GaInAsP系の半導体レーザに比べて、より高出力域まで延びた電流−光出力特性が得られる。また、InP/GaInAsP系の半導体レーザに比べて、第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域と活性層とのバンドギャップエネルギー差を大きくできるため、注入キャリアの活性層への閉じ込めを強化でき、活性層に入ったキャリアは容易には出て来られなくなる。その結果、高温でのレーザ発振が容易になるなど、温度特性が改善された半導体レーザ素子を実現できる。
更に、GaAs半導体基板は安価であり、且つ直径6インチといった大口径基板が実用化されているため、製造原価の削減や大規模光集積素子の実現が容易となる。
他方、より低い出力域において光出力を飽和させたい場合には、第1導電型半導体領域または第2導電型半導体領域と活性層との間に設けられる電位制御層の半導体材料として、第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域の材料のバンドギャップエネルギーよりも高いバンドギャップエネルギーを有する半導体材料を用いるか、或いは第1導電型半導体領域の第2の領域と第2導電型半導体領域との間に設けられる電位制御層の半導体材料として、第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域の材料のバンドギャップエネルギーよりも低いバンドギャップエネルギーを有する半導体材料を用いるか、或いはその双方を併用すればよい。
本発明に係る半導体光素子においては、半導体基板としてInP基板を用いてもよい。或いは、他材料からなる基板上にInP半導体層が形成された基板を用いてもよい。この場合、第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域の材料としては、InPか、InPに格子整合するAlGaInAsを用いることができる。また、電位制御層の材料としては、第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域の材料としてInPを用いる場合には、GaInAs、GaInAsP、AlGaInAsを用いることができる。また第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域の材料としてAlGaInAsを用いる場合には、GaInAs、GaInAsP、AlGaInAs、InPを用いることが出来る。これらの半導体材料は格子定数をInPと同じかそれに近い値に設定できるため、InP基板上または他の基板上に成長したInP半導体上への成長が可能である。例えば、InPと格子整合する材料に限ると、GaInAsP、AlGaInAsでは各々約0.74eV〜約1.35eV、及び約0.74eV〜約1.5eVといった広範なバンドギャップエネルギーを実現でき、InGaAsでは約0.74eV、InPでは約1.35eVとなる。電位制御層に歪みを許容する場合には、さらに広範なバンドギャップエネルギーを実現できる。
また、この場合、活性層の半導体材料としては、第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域の材料としてInPを用いる場合には、例えばInPと同じか或いはInPに近い格子定数を持つGaInAs、GaInAsP、AlGaInAsを使用できる。また、第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域の材料としてAlGaInAsを用いる場合には、GaInAs、GaInAsP、AlGaInAs、InPを用いることが出来る。半導体光素子は、必要に応じて光閉じ込め層を備えることができる。光閉じ込め層の半導体材料としては、第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域の材料としてInPを用いる場合には、例えばInPと格子整合するGaInAs、GaInAsP、AlGaInAsを使用できる。また、第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域の材料としてAlGaInAsを用いる場合には、GaInAs、GaInAsP、AlGaInAs、InPを用いることが出来る。以上の材料構成により、約1μm〜約1.6μmの発振波長を有する長波長帯半導体レーザを実現できる。この場合においても、半導体光素子の使用目的に応じて電位制御層として妥当なバンドギャップエネルギーの材料を選択し、また第9変形例に示したような第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域のドーパント濃度の制御も必要に応じて併用することで、ターンオン電圧VA、VBや線形動作領域の電流―電圧特性の傾き(直列抵抗)を制御でき、電流−光出力特性を適切な形状に変更することができる。
例えば第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域の材料としてInPを用いる場合において、第1導電型半導体領域の第2の領域と第2導電型半導体領域との間に電位制御層を設ける場合、電位制御層として第1導電型の第3の領域と第2導電型の第4の領域とを積層した多層膜を用い、第1導電型半導体領域側に第3の領域が、第2導電型半導体領域側に第4の領域がそれぞれ配置された構成において、これらの層の材料としてInPのバンドギャップエネルギーより大きなバンドギャップエネルギーを有するAlGaInAsを用いた場合には、この領域のpn接合界面の接合電位が上がるため、従来のInP/GaInAsP系の長波長帯に比べてターンオン電圧VBを大きくできる。また第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域の材料としてAlGaInAsを用いる場合において、第1導電型半導体領域の第2の領域と第2導電型半導体領域との間に電位制御層を設ける場合、これらの層をInPよりバンドギャップが大のAlGaInAsで構成すれば、従来のInP/GaInAsP系の長波長帯に比べてターンオン電圧VBを大きくできる。これらの場合、従来のInP/GaInAsP系の長波長帯半導体レーザと比較してターンオン電圧差VB−VAを大きくすることも可能である。従って、従来のInP/GaInAsP系の長波長帯半導体レーザと比較してより高い出力域まで線形出力領域が延びた電流−光出力特性を有する長波長帯半導体レーザを実現できる。
また、第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域の材料として最大1.5eVといった高いバンドギャップを有するAlGaInAsを用いれば、従来のInP/InGaAsP系の長波長帯半導体レーザ素子に比べて第1、第2導電型半導体領域と活性層との間のバンドギャップエネルギー差を大きくできるため、注入キャリアの活性層への閉じ込めを強化でき、活性層に入ったキャリアは容易には出て来れなくなる。その結果、高温でのレーザ発振が容易になるなど、温度特性が大幅に改善された長波長帯の半導体レーザ素子を実現できる。
他方、より低い出力域において光出力を飽和させたい場合には、例えば第1導電型半導体領域または第2導電型半導体領域と活性層との間に設けられる電位制御層の半導体材料として、第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域を構成する材料のバンドギャップエネルギーよりも高いバンドギャップエネルギーを有する半導体材料を用いるか、或いは第1導電型半導体領域の第2の領域と第2導電型半導体領域との間に設けられる電位制御層の半導体材料として、第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域を構成する材料のバンドギャップエネルギーよりも低いバンドギャップエネルギーを有する半導体材料を用いるか、或いはその双方を併用すればよい。
本発明に係る半導体光素子においては、基板としてGaN基板、SiC基板、Al2O3基板、Si基板、AlN基板、ZnO基板、またはMgAl2O4基板を用いてもよい。或いは、他材料からなる基板上にこれらの層が形成された基板を用いてもよい。この場合、第1、第2導電型半導体領域の材料としては、AlGaNを用いることができる。また、活性層及び電位制御層の材料としては、AlGaN、GaN、またはInGaNを用いることができる。また、半導体光素子は、必要に応じて光閉じ込め層を備えることができる。光閉じ込め層の半導体材料としては、AlGaN、GaN、またはInGaNを用いることができる。AlGaN、GaN、及びInGaNはGaNやAlNと同じかそれに近い格子定数を有するため、GaN基板またはAlN基板、またはGaN半導体層またはAlN半導体層を用いる場合には、結晶成長中に基板との格子不整に起因する欠陥が成長層中に生じず、より良好なAlGaN、GaN及びInGaNの結晶成長が行える。ここで、AlGaNは、AlとGaの組成比を選択することにより、約3.4eV〜約6.2eVといった非常に広範な範囲のバンドギャップエネルギーを実現できる半導体材料である。また、InGaNは、約2eV〜約3.4eVのバンドギャップエネルギーを実現できる。従って、この場合においても、半導体光素子の使用目的に応じて電位制御層として妥当なバンドギャップエネルギーのN材料を選択し、また第9変形例に示したような第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域のドーパント濃度の制御も必要に応じて併用することで、ターンオン電圧VA、VBや線形動作領域の傾き(直列抵抗)を制御でき、電流−光出力特性を適切な形状に変更することができる。
また例えば、第1導電型半導体領域の第2の領域と第2導電型半導体領域との間に設けられた電位制御層、並びに第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域の半導体材料として、上述した高バンドギャップのN材料を用いれば、従来のInP/GaInAsP系の半導体レーザに比べてターンオン電圧VBを大きくできる。この場合、ターンオン電圧差(VB−VA)が従来のInP/GaInAsP系の長波長帯半導体レーザに比べて大となるように、活性層や光閉じ込め層として妥当なバンドギャップを有する材料を選択することも可能である。その結果、線形動作領域が従来のInP/GaInAsP系の半導体レーザに比べて、より高出力域まで延びた電流−光出力特性が得られる。また、InP/GaInAsP系の半導体レーザに比べて、第1導電型半導体領域及び第2導電型半導体領域と活性層とのバンドギャップエネルギー差を大きくできるため、注入キャリアの活性層への閉じ込めを強化でき、活性層に入ったキャリアは容易には出て来られなくなる。その結果、高温でのレーザ発振が容易になるなど、温度特性が改善された半導体レーザ素子を実現できる。更に、活性層材料としてAlGaN、GaNまたはInGaNを用いると、青色から紫外にかけての波長帯の半導体レーザ素子を実現できる。
以上、本発明の第1及び第2の実施の形態をいくつかの変形例を参照しながら説明したが、本実施の形態は、これらに限定されない。更なる変形例の半導体光素子では、第1及び第2導電型半導体領域と電位制御層とがAlを含まない材料で形成されていてもよい。一般にAlを含む材料は酸化しやすいため、これを第1及び第2導電型半導体領域並びに電位制御層の材料として用いると、第1及び第2導電型半導体領域または電位制御層と活性層や光閉じ込め層との接合界面、及び第1及び第2導電型半導体領域と電位制御層との接合界面において、経時変化に伴う酸化が進行し、非発光センター等が増殖するおそれがある。その結果、半導体光素子の発光特性や信頼性が損なわれる。また、第1導電型半導体領域や電位制御層にAlを含む材料を用いるとそれらの層の表面が酸化されやすいため、その上に第2導電型半導体領域を成長させることが困難となるおそれがある。これに対し、第1及び第2導電型半導体領域並びに電位制御層がAlを含まない材料で形成されていれば、接合界面における非発光センター等の増殖を抑えるとともに、第2導電型半導体領域を結晶性よく成長させることができる。さらに第2導電型半導体領域がAlを含まない場合には、二回目の結晶成長工程において第2導電型半導体領域の残りとコンタクト層とを成長させる際も良好な結晶成長を実現できる。なお、このような材料としては、例えばGaAs基板を用いる場合は第1及び第2導電型半導体領域用の材料としてはGaInPやGaInAsPが、また電位制御層用の材料としてはGaInPやGaInAsP、GaAs、GaInAsが好適である。
また、第1導電型半導体領域において第2導電型半導体領域側の表面を含む領域、第2導電型半導体領域において第1導電型半導体領域側の表面を含む領域、及び電位制御層がAlを含まない材料で形成されていてもよい。この構成によれば、第1及び第2導電型半導体領域並びに電位制御層がAlを含まない場合の効果と同様の効果を得ることができる。この構成では、第1及び第2導電型半導体領域うち他の半導体領域と接しない領域にはAlを含む材料を用いることが可能となるので、材料選択の幅がひろがり、設計の自由度がさらに増す。なお、このような構成に用いられる、Alを含まない材料としては、例えばGaAs基板を用いる場合はGaInP、GaAs、GaInAsPやGaInAsなどが好適である。
また、活性層や光閉じ込め層もAlを含まない材料で構成されていてもよい。この場合、全ての層はAlを含まない材料で構成される。従って、Al酸化に起因する諸問題が完全に排除され、より高性能、高信頼な半導体光素子が得られる。このような半導体材料の一例としては、例えばGaAs基板を用いる場合には、第1及び第2導電型半導体領域がGaInPまたはGaInAsPからなり、電位制御層がGaInAsP、GaAs、GaInAs、またはGaInPからなり、光閉じ込め層がGaInAsPまたはGaAsからなるとよい。また、活性層は、前述した少なくともNとGaとAsを含んでいるIII―V族化合物半導体材料、GaAs、GaInAs、またはGaInAsPから構成されることが可能である。
上記各電位制御層は目的に合わせて所望のターンオン電圧が得られるよう、p、n、またはアンドープのうち、何れか都合の良い導電型を適宜選択できる。さらにこれらの層は導電型やバンドギャップが異なる層を積層した多層膜構造になっていても良い。この場合多層構造とすることで単層の場合に比べて、ターンオン電圧VA、VB、及びターンオン後の電流―電圧特性の直列抵抗をより広範に変えることが出来るため、電流―光出力特性の形状変更の自由度がさらに増す。
また必要に応じて、以上の実施例において示された各種の電位制御層のうちの複数を組み合わせて使用してもよい。この場合は、1種類の電位制御層を用いる場合に比べて、ターンオン電圧VA、VB、及びターンオン後のI−Vカーブの直列抵抗をより広範に変えることが出来るため、I−L形状の設計の自由度がさらに増す。
また、活性層が量子井戸構造を有する場合には、下地となる半導体基板または半導体層の格子定数に対し、活性層の格子定数の格子不整が±3%以内になるように活性層の組成が選択されていてもよい。量子井戸構造における井戸層の厚さは非常に薄くてよいため、このような格子不整の範囲で歪みがあっても、臨界膜厚からは十分に薄いのでミスフィット転位等の格子不整合に起因する結晶欠陥は生じず、実用上問題とはならない。この場合、活性層と下地層間の格子整合条件に関する制約が緩和されるので、より広範な組成の材料を選択できる。したがって、活性層のバンドギャップエネルギーの選択の幅がひろがり、設計の自由度が増す。
また、上記各実施形態及び変形例においては、半導体基板としてGaAs半導体基板、InP半導体基板、GaN半導体基板、及びSiC半導体基板等が例示されているが、本発明はこれ以外にも様々な基板上において実現可能である。例えば、サファイア(Al2O3)基板、Si基板、AlN基板、ZnO基板、またはMgAl2O4基板といった基板上に第1導電型半導体領域、電位制御層、活性層、及び第2導電型半導体領域を積層することによっても、本発明の半導体光素子を構成することができる。この場合、例えばサファイア基板は他の半導体基板とは異なり絶縁性材料であるため、電極をサファイア基板の裏面ではなく第1導電型半導体領域上に設けるとよい。
以上では好適な実施の形態として、半導体レーザ素子に適用した場合について、本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明はこれに限られるものでは無く、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることができることは、当業者によって認識される。例えぱ、本発明は発光ダイオード、半導体光増幅素子、電界吸収型変調素子、半導体光導波路、及びそれらを集積した半導体光集積素子への適用も可能である。これら全ての素子形態において本発明を適用すれば、半導体光素子の電流−電圧特性、及び電流−光出力特性を変更することが可能となる。なお、これらの素子の構造の詳細は必要なように変更されることができる。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。
1…半導体光素子、2…電位制御層、3…第1導電型半導体領域、3a…第1の半導体部、3b…第2の半導体部、3c…第1の領域、3d…第2の領域、5…活性層、7…第2導電型半導体領域、11…半導体基板、13…半導体リッジ部、17…コンタクト層、21,23…電極、25…第1の光閉じ込め層、27…第2の光閉じ込め層。