JP5200264B2 - 鋼の連続鋳造方法 - Google Patents
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Description
まず、バルジング起因の内部割れについて説明する。
バルジングとは、連続鋳造機で鋳片を製造する際に、鋳片内部の液相の静圧により、鋳造方向に隣り合うロール間(鋳片が支持されていない領域)で鋳片が膨らむ現象である。このバルジング(膨れ)により、鋳片の凝固部表層に割れ(内部割れ)が生じる場合がある。
この割れを防止するため、冷却用ノズルからのスプレー水(冷却水ともいう)の水量を増加することで、鋳片の表面温度を低下させて凝固シェル厚を確保したり、またスプレー水の衝突圧力を用いるなどして、過大なバルジングを抑制することが一般に実施されている。
上記したバルジングにより割れが生じるという状況は、鋳片の表面温度が高い部位で、内部割れが発生するという現象で確認されている(高温部の割れ)。
バルジング抑制を目的として、スプレー水の水量を増加し過ぎると、鋳片の表面温度が極端に低下して鋳片の延性が低下する。このため、連鋳機において、鋳片に歪が生じる曲げ戻し部で、鋳片の幅方向両端部(幅方向両端からそれぞれ100mm内側までの領域)を除く鋳片の幅方向中央部に、表面割れが生じる場合がある。
この状況は、鋳片の表面温度が低い部位で、表面割れが発生するという現象で確認されている(低温部の割れ)。
なお、本発明では、上記した鋳片の幅方向両端部に発生する端部割れを防止することを課題としてはいない。これは、端部割れが、この部分に噴射されるスプレー水の水量を低減するなどの公知の方法により、防止することが可能であることによる。
一般に、バルジング抑制を目的としたスプレー水の水量増加は、鋳片の幅方向の温度分布が不均一となる状態、即ち鋳片の幅方向に高温部と低温部が混在する状態を招く場合がある。このため、内部割れと表面割れの回避を両立するには、鋳片の幅方向の水量分布の調節等で、鋳片の表面温度(幅方向の温度偏差)を最適温度範囲内、即ち高温部の内部割れが発生しない温度域でかつ低温部の表面割れが発生しない温度域、に納める必要があった。
なお、鋳片の表面温度が脆化温度を下回る状態で、鋳片が曲げ戻し部を通過すると、鋳片に表面割れが生じる。
本発明者らの調査によれば、曲げ戻し部での鋳片の表面割れと内部割れを回避するためには、曲げ戻し部を通過するときの鋳片の温度を、600〜900℃(鋳片の幅方向の温度偏差を300℃以下)の狭い温度領域に納める必要がある。
この課題に対して、例えば、特許文献1には、鋳片の幅方向の特定部位に補助冷却ノズルを設置し、高温部を冷却させることで、温度偏差を小さくする冷却方法が提案されている。
前記二次冷却帯のうち、前記鋳型の直下から、鋳造方向に0.6mまでの冷却範囲R1と、前記鋳型の直下から鋳造方向に、0.6mから1.2mまでの冷却範囲R2とで、前記冷却用ノズルから前記鋳片にそれぞれ吹き付けられる冷却水の水量密度P1、P2が、以下の条件を満足する。
150リットル/m2/分≦P1≦280リットル/m2/分
300リットル/m2/分≦P2≦700リットル/m2/分
本発明に係る鋼の連続鋳造方法において、前記二次冷却帯には、前記鋳型から引き抜かれた前記鋳片を、厚み方向から挟み込んで鋳造方向に搬送する多数のロールが配置され、該多数のロールの一部又は全部に、前記鋳片の幅方向両端部を除く位置で分割された分割ロールを用いることが好ましい。
従って、Si:1.0質量%以上(例えば、無方向性電磁鋼板等の電磁鋼)、又はCr:10質量%以上、又はC:0.5質量%以上を含む鋼種である割れ感受性の高い鋳片を鋳造するに際し、パウダーの付着の有無による鋳片の幅方向の温度偏差と、鋳片の表面の過冷却とを抑制できるので、鋳片の内部割れ防止と表面割れ防止の両立が図れ、良質の鋳片を製造できる。
まず、本発明に想到した経緯について説明する。
連続鋳造機は、鋳型と、鋳型直下から鋳造方向に渡って配置された二次冷却帯とを有し、二次冷却帯には、鋳片を冷却するための複数の冷却用ノズルが配置されている。この各冷却用ノズルは、鋳造方向の各位置で鋳片の冷却速度をコントロールできるように、鋳造方向に渡って1〜4mの範囲ごとの冷却ゾーンで区切られ、この冷却ゾーンごとに、各冷却用ノズルから鋳片に吹き付けられる冷却水(スプレー水)の水量が調整されている。
また、鋳型湯面には、一般に、鋳型と鋳片の凝固シェルとの焼付き防止等を目的としたパウダーが投入される。このパウダーが、鋳片表面に付着した状態で二次冷却帯で冷却されると、鋳片の冷却能力が低下することが一般にいわれていた。これは、鋳片と比べて熱伝導が低いパウダーが熱抵抗になり、鋳片自体の抜熱を阻害することを根拠としている。
まず、ラボ試験では、熱電対を埋め込んだ鋼材を1200℃以上に加熱した後、これを冷却用ノズルで冷却し、パウダー付着の有無による鋼材の冷却速度の影響を調査した。続いて、このラボ試験の結果と伝熱解析モデルを用いて、パウダー付着の有無が鋳片の冷却能へ及ぼす影響を調査した。なお、本発明で使用した伝熱解析モデルは、例えば、鉄と鋼、第60巻(1974年)、1023頁に示される一般的な手法を用いた。
・連続鋳造機の鋳型直下から鋳造方向に1.2mまでのロールのピッチ:200mm
・鋳型直下から曲げ戻し部までの距離:16m
・鋳造条件:鋳造速度1.3m/分、鋳造幅(鋳片の幅)1300mm、鋳造厚み(鋳片の厚み)250mm
・冷却条件(その1):鋳型直下から、鋳造方向に2.0mまでの範囲で、冷却用ノズルから鋳片に吹き付けられる冷却水の水量密度を450リットル/m2/分(以下、L/m2/分ともいう)で一定とする。
・冷却条件(その2):鋳型直下から、鋳造方向に0.6mまでの範囲で、冷却用ノズルから鋳片に吹き付けられる冷却水の水量密度を280リットル/m2/分とし、鋳型直下から鋳造方向に、0.6mから2.0mまでの範囲で、冷却用ノズルから鋳片に吹き付けられる冷却水の水量密度を450リットル/m2/分とした。
図1、図2の横軸は、鋳型直下から鋳造方向の距離(m)を示している。なお、図1、図2においては、鋳型直下(横軸の値が0.0m:鋳片の表面温度が600℃付近)から、鋳造方向の距離が2.0m(鋳片表面温度900℃付近)までの範囲を図示している。
また、図1、図2の縦軸は、パウダーの付着ありを前提とした鋳片を冷却した際に、鋳造方向の距離が1.2m相当位置の鋳片の熱伝達係数を1として、パウダーの付着なし(図1及び図2中の実線)と付着あり(図1及び図2中の点線)の場合の鋳片の各熱伝達係数を、それぞれ指数化(冷却能指数)した値を図示している。
・パウダー付着の有無によらず、鋳造の進行(横軸の増加)と共に、冷却能が低下した。
・パウダー付着の有無による冷却能の大小関係は存在するが、横軸の位置(鋳片の表面温度が異なる位置)によって、大小関係が異なる場合があった。
・鋳型直下付近(例えば、0.2m位置)では、パウダー付着なしは、パウダー付着ありと比べて、冷却能指数が約30%大きくなった。
・鋳型直下から鋳造方向に1.2mの位置を超える(例えば、1.4m位置)と、パウダー付着なしは、パウダー付着ありと比べて、冷却能指数が20%を超えて小さくなった。
以上のことから、鋳片表面へのパウダー付着の有無が、鋳片の表面温度を局部的に変動させる原因となることが判った。
ここで、鋳片の表面からパウダーが剥離するに際しては、一挙に剥離することは考えにくく、徐々に剥離するものと考えられる。このため、上記した冷却能指数の違いが、鋳片の幅方向の温度偏差の大きな原因になると考えられる。
このため、パウダーの付着部分の鋳片の表面温度が局部的に低下して、鋳片の幅方向の温度偏差の原因となることが判る。なお、本発明者らの検討では、連続鋳造機の曲げ戻し部で鋳片の温度偏差が300℃超えとなる傾向が強いと考えられた。
このような温度偏差が発生することで、高温起因の内部割れや、鋳片の表面温度の低下起因による表面割れが発生すると推定される。
この場合、本発明者らの検討では、鋳片のバルジングを防止する目的で、最低限の水量で鋳片の冷却を行う前提でも、連続鋳造機の曲げ戻し部で鋳片の表面温度が600℃を下回ってしまい、その結果、曲げ戻し部で鋳片の表面割れが発生すると考えられた。
なお、本発明者らの検討では、図1の交点Aは、鋳造速度(例えば、0.6〜3.0m/分程度)や連続鋳造機の機長(鋳型直下から機端までの距離)によって多少変化するが、大きく変化することはなく、本発明の鋼の連続鋳造方法に従えば、鋳片の割れ抑制の効果を享受できる。
・パウダー付着の有無によらず、鋳造の進行(横軸の増加)と共に、冷却能が低下した。
・パウダー付着の有無による冷却能の大小関係は存在するが、横軸の位置(鋳片の表面温度が異なる位置)によって、大小関係が異なる場合があった。
・鋳型直下付近(例えば、0.2m位置)では、パウダー付着の有無にかかわらず、冷却能が大きく変わらない傾向を示した。なお、パウダー付着なしは、パウダー付着ありと比べて、冷却能指数が約10%程度大きい。
この場合、図1と比較すると、鋳型直下付近でのパウダー付着の有無による冷却能指数差は、小さいことが判る。
・鋳型直下から鋳造方向に、0.6〜1.2mの範囲では、パウダー付着の有無にかかわらず、パウダー付着ありに対するパウダー付着なしの冷却能指数が、大きく異ならない傾向を示した。
以上のことから、鋳型直下から鋳造方向に0.6m前後の位置で冷却条件を変更、即ち鋳型直下から、鋳造方向に0.6mまでは水量密度P1を低くし、パウダー付着の有無による冷却能指数差が小さくなるように冷却し、鋳型直下から鋳造方向に、0.6mから1.2mまでの範囲では、水量密度P2を上記した水量密度P1よりも上昇させる。これにより、鋳型直下から鋳造方向に1.2mまでに、パウダーの剥離完了を実質的に実現して、鋳片の幅方向の温度偏差を抑制し、鋳片の表面の過冷却を抑制して、鋳片の内部割れ防止と表面割れ防止の両立が図れることに想到した。
図3に示すように、連続鋳造を行うに際しては、鋳型10と、この鋳型10の下流側に配置された二次冷却帯11とを有する連続鋳造機(以下、連鋳機ともいう)12を用いる。
連続鋳造機の形式は、湾曲型連続鋳造機と垂直曲げ型連続鋳造機のいずれでもよいが、特に、本発明を垂直曲げ型連続鋳造機に適用すると、より大きな効果が期待できる。これは、湾曲型連鋳機が、連続鋳造機の曲げ戻し部でのみ鋳片表面割れが発生し易いのに対し、垂直曲げ型連鋳機が、連続鋳造機の曲げ部と曲げ戻し部の双方で鋳片の表面割れが発生し易いためであり、同じ冷却条件でも、垂直曲げ型連鋳機の方が鋳片の割れ発生率が高いことによる。
この鋳片13の鋼種は、割れ発生が顕著なものであり、Siを1.0質量%以上(上限は、例えば4質量%)、又はCrを10質量%以上(上限は、例えば20質量%)、又はCを0.5質量%以上(上限は、例えば1.2質量%)含むものである。ここで、Siが1.0質量%以上の鋼種(例えば、無方向性電磁鋼板等の電磁鋼)は、内部割れや表面割れが顕著な鋼種であるが、Siが2.8質量%以上の電磁鋼となると割れ発生が更に顕著となり、3.5質量%以上の高級電磁鋼となると更に顕著に発生する。また、Crが10質量%以上の鋼種においても、Crが13質量%以上のステンレス鋼になると割れ発生が更に顕著となる。そして、Cが0.5質量%以上の鋼種においても、Cが0.8質量%以上となると割れ発生が更に顕著となる。
例えば、電磁鋼(Siが2.8質量%以上、更には3.5質量%以上)において、鋳造幅が1000mmのスラブと、1200mmのスラブの割れ発生率を比較すると、1200mmのスラブの方が、割れ発生率が高い。このため、鋳造幅を1000mm以上、更には1200mm以上にすることで、本発明の効果がより顕著になる。なお、鋳造幅の上限値は、一般的には2000mm程度である。
以上のことから、本発明を、上記したような割れ発生率が高い鋼種やサイズに対して適用することで、顕著な効果を発揮できる。
そこで、二次冷却帯11のうち、鋳型10の直下から、鋳造方向に0.6mまでの冷却範囲R1と、鋳型10の直下から鋳造方向に、0.6mから1.2mまでの冷却範囲R2とで、冷却用ノズルから鋳片13にそれぞれ吹き付けられる(鋳片13に直接あたる)冷却水の水量密度(以下、スプレー水量密度ともいう)P1、P2を、以下の条件を満足するように調整する。
150L/m2/分≦P1≦280L/m2/分
300L/m2/分≦P2≦700L/m2/分
{冷却水の水量密度(L/m2/分)}={Q(L/分)}/{A(m2)}
ここで、Q(L/分)は、鋳型直下から、鋳造方向に0.6mまでの範囲、又は、鋳型直下から鋳造方向に、0.6mから1.2mまでの範囲で、鋳片の上面側又は下面側に吹き付けられる(直接あたる)単位時間(分)あたりの冷却水量である。
また、A(m2)は、鋳型直下から、鋳造方向に0.6mまでの範囲、又は鋳型直下から鋳造方向に、0.6mから1.2mまでの範囲で、実際に冷却水が吹き付けられる(直接あたる)鋳片の表面積、即ち、0.6m×鋳造幅(m)である。
一方、冷却範囲R1でのスプレー水量密度P1が150L/m2/分未満の場合、スプレー自体の冷却能は小さく、高温起因のバルジングによる内部割れが発生すると予想されるため、スプレー水量密度P1の下限を150L/m2/分とした。
以上のことから、冷却範囲R1でのスプレー水量密度P1を150L/m2/分以上(好ましくは、180L/m2/分以上、更には210L/m2/分以上)、280L/m2/分以下にした。
一方、冷却範囲R2でのスプレー水量密度P2が300L/m2/分未満の場合、鋳型直下から鋳造方向に1.2mより下流側位置でも、鋳片にパウダーが付着していることが予想され、パウダー起因の温度偏差が生じることが予想される。
以上のことから、冷却範囲R2でのスプレー水量密度P2を300L/m2/分以上(好ましくは、400L/m2/分以上、更には450L/m2/分以上)、700L/m2/分以下(好ましくは、650L/m2/分以下、更には600L/m2/分以下)にした。なお、この水量密度P2は、従来の水量密度よりも多め(約2倍程度)である。
ここで、水量密度の切り替えを、鋳型直下から鋳造方向に0.4mより上流側の位置で行い、スプレー水量密度を上昇させた場合は、パウダー付着の有無による冷却能指数差が大きいため、温度偏差が生じることが予想される。
一方、水量密度の切り替えを、鋳型直下から鋳造方向に0.8mより下流側の位置にした場合は、パウダー付着なしと付着ありの冷却能指数の差が小さくなる。しかし、水量密度を上昇させてパウダーを剥離するための時間が短くなるため、鋳型直下から鋳造方向に1.2mまでにパウダーを剥離させることが難しくなり、パウダー起因の温度偏差が生じる可能性がある。
従って、水量密度P1と水量密度P2の切替位置は、鋳型直下から鋳造方向に、0.4mから0.8mまでの範囲内に設定することが好ましい。
ここで、気水ノズルの特徴について、図4を参照しながら説明する。なお、図4の横軸はスプレー水の幅方向(鋳造方向)の圧力測定位置(気水ノズルを使用した場合と水ノズルを使用した場合との相対位置)であり、縦軸は冷却水の衝突圧力であって、気水ノズルでの最大圧力を1として指数化したものである。
なお、このパウダーの剥離時間の確保と平均衝突エネルギーの増大は、いずれも安定的なパウダーの剥離に寄与するため、鋳片の割れ発生率を減少できる。
ここで、気水比が低過ぎると、パウダーの剥離に要する時間を長く確保できなくなるため、4.4以上(10以上でもよい)がよい。
一方、気水比が高過ぎると、スプレー水の衝突圧力が低くなり過ぎて、パウダーの剥離に必要な衝突圧力が得にくくなる。このため、20.5以下がよく、安定した剥離を確実に行うには、18.5以下が更によい。
分割ロールとは、鋳片の幅方向両端部を除く位置で分割されたロールであり、スプレー水を用いることなくバルジングを抑制できるものである。具体的には、直径が250〜400mmの複数のロール(例えば2本)を、軸受け部(ロールの直径より小さな直径部分)により隙間を設けて直列につないだロールである。
従って、鋳片のバルジング量を抑制することが可能となり、バルジング抑制を目的としたスプレー水による水量密度の制約(下限値設定)を緩和できるため、鋳片の幅方向の平均温度や温度偏差の調整を目的とした水量密度の調整が容易となる。つまり、鋳片の復熱の活用の自由度を向上させ、大幅な冷却水量の減少が可能となる。
鋳片の表面温度は、表面側の凝固シェル(低温)と内部の溶鋼(高温)とが存在する鋳片において、スプレー水による鋳片表面の抜熱と内部の溶鋼による鋳片表面の加熱により決定される。ここで、スプレー水の量の減少等によって鋳片表面の抜熱量が減少し、相対的に鋳片表面の加熱量が顕著になると、鋳片の表面温度が上昇する。これを復熱という。
つまり、鋳片の温度偏差を低減したい場合には、スプレー水量密度を減少させ、鋳片の表面温度を復熱により上昇させて、鋳片の温度偏差を解消した上で、温度依存性の弱い温度域で鋳片の冷却再開を行うのがよい。
このように、復熱現象は、鋳片の温度偏差の低減に有効であるため、以下のように構成するのがよい。
鋳片13の割れ回避の条件、即ち、鋳片の幅方向両端から中央部へ向けて100mmまでの範囲を除いた領域の鋳片の幅方向の表面温度差(=最大温度−最小温度)300℃以内を確保するため、曲げ戻し部14付近で温度偏差(表面温度分布)を測定し、曲げ戻し部14の温度偏差が目標値(300℃)を上回ることが予兆される場合に、冷却条件を変更すると良い。
ここで、鋳片表面が復熱するための時間を確保する必要があるため、曲げ戻し部14より上流側、即ち0.65D以下となる位置に温度計を設置する。
これら鋼種は、バルジング発生が顕著になり易い湾曲部(特に、鋳型直下から概ね0.4Dの位置にある湾曲部の前半、即ち溶鋼静圧が大きく凝固シェルが比較的薄い領域)で、鋳片の幅方向に温度偏差が発生する傾向にある。このため、温度偏差の発生場所以降、即ち0.4D以上となる位置に温度計を設置する。
以上から、温度計設置の位置を、0.4D以上0.65D以下(好ましくは、下限を0.45D、上限を0.6D)の範囲内にする。
前記したように、鋳型直下から鋳造方向に1.2mまでの範囲(冷却範囲R1と冷却範囲R2)では、パウダーの剥離除去を目的として、スプレー水の水量密度を決定した。従って、上記した温度計により修正すべき温度偏差が検知された場合には、冷却範囲R2よりも下流側のスプレー水による冷却を調整する必要がある。
このため、鋳型直下から鋳造方向に1.2mより下流、かつ0.4Dの位置より上流の範囲の全部もしくは一部のスプレー水量密度を減少させると良い。
ここでは、水量密度の減少によって鋳片の表面温度を復熱させ、鋳片の幅方向の温度偏差を抑制しているが、水量密度の減少によるバルジング発生を考慮する必要がある。
しかし、本発明者らの知見では、温度計の設置位置での温度偏差が顕著(300℃超え)となるように冷却された場合、鋳片の幅方向の少なくとも一部は、凝固シェル厚さが厚くなるためバルジングは発生しにくく、水量密度の減少代の調整で、バルジング発生の顕著な発生を抑制して、復熱(水量密度の減少)させることが可能である。
これにより、鋳片13の幅方向の温度偏差と表面の過冷却とを抑制して、鋳片の内部割れ防止と表面割れ防止の両立を図り、良質の鋳片を製造できる。
ここでは、図3に示す連続鋳造機を使用し、鋳型の直下から、鋳造方向に0.6mまでの冷却範囲R1と、鋳型の直下から鋳造方向に、0.6mから1.2mまでの冷却範囲R2におけるスプレー水量密度P1、P2をそれぞれ変更させた場合について、鋳片の表面温度偏差と鋳片の割れ発生率への影響を調査した。
また、鋳片の表面を観察可能なカメラを、鋳型直下から鋳造方向に1.2m位置に設置し、スプレー水量密度P1、P2を変更した場合のパウダーの付着状態(目視観察)と鋳片の温度偏差の関係についても調査した。なお、連続鋳造機には、温度計を、鋳型直下から鋳造方向に8m(0.5D)位置に設置して、鋳片の表面温度を測定した。
<連続鋳造機>
ロールのタイプ:全てのロールを1本のサポートロール(分割ロールなし)で構成
ロールのピッチ:鋳型直下から、鋳造方向に1.2mまでは、200mm
冷却用ノズルのタイプ:鋳型直下から、鋳造方向に1.2mまでは、気水ノズル
鋳型直下から曲げ戻し部までの距離D:16m
鋳造速度:1.3m/分、鋳造幅:1000〜1300mm、鋳造厚み:250mm、鋼種:1.0〜3.5質量%Si含有鋼
<冷却条件>
冷却範囲R1でのスプレー水量密度P1:100L/m2/分、150L/m2/分、280L/m2/分、300L/m2/分
冷却範囲R2でのスプレー水量密度P2:250L/m2/分、300L/m2/分、700L/m2/分、750L/m2/分
このパウダーの消費量Pw(kg/m2)は、以下のように定義している。
{パウダーの消費量Pw(kg/m2)}
={鋳造時間中にメニスカスへ投入したパウダーの量(kg)}
/{鋳造速度(m/分)×{鋳片の幅(m)+鋳片の厚み(m)}×2×鋳造時間(分)}
ここで、鋳造時間とは、例えば、150〜350トン程度の1チャージの溶鋼を鋳造する時間や、複数チャージの溶鋼を鋳造する時間を意味する。
(鋳片の割れ発生率)=(割れが発生した鋳片の本数)/(鋳片の全本数)×100(%)
(鋳片の全本数)={鋳造全長(m)}/{10(m/本)}
鋳片の全本数は、鋳造後に10m間隔で切断した鋳片単位で、本数をカウントしているため、上記した式で表している。
割れが発生した鋳片の本数は、表面割れと内部割れの一方又は双方が1箇所でも発生した場合を、割れが発生した鋳片としてカウントした。
この温度偏差は、鋳片の幅方向両端部(鋳片の幅方向両端から中央部へ100mmの領域)を除く鋳片の幅方向の「最大温度(℃)」−「最小温度(℃)」で定義した。
また、鋳片の割れ発生率は、2%未満を最も良好(◎)、2%以上5%未満を良好(○)、5%以上20%未満をやや不良品(△)、20%以上を不良品(×)とした(以下に示す表2も同様)。
スプレー水量密度P2が250L/m2/分の場合、カメラによる観察では、鋳片の表面にパウダーが付着しており、300℃を超える温度偏差が発生した(割れ発生率:20%以上)。
スプレー水量密度P2が300L/m2/分、700L/m2/分の場合、平均的には、温度偏差が200℃以下になるが、高温起因の内部割れが生じた(割れ発生率:20%以上)。
スプレー水量密度P2が750L/m2/分の場合、過冷却起因の割れや、高温起因の内部割れが生じた(割れ発生率:20%以上)。
スプレー水量密度P2が250L/m2/分の場合、カメラによる観察では、鋳片の表面にパウダーが付着しており、300℃を超える温度偏差が発生した(割れ発生率:20%以上)。
スプレー水量密度P2が300L/m2/分、700L/m2/分の場合、良好なパウダーの剥離状況がカメラにより観察され、温度偏差も小さく、過冷却起因の割れや高温起因の割れの発生もなく、割れ発生率の低減が可能であった(割れ発生率:2%以上5%未満)。
スプレー水量密度P2が750L/m2/分の場合、過冷却起因の割れが生じた(割れ発生率:20%以上)。
スプレー水量密度P2が250L/m2/分の場合、カメラによる観察では、鋳片の表面にパウダーが付着しており、300℃を超える温度偏差が発生した(割れ発生率:20%以上)。
スプレー水量密度P2が300L/m2/分、700L/m2/分の場合、良好なパウダーの剥離状況がカメラにより観察され、温度偏差も小さく、過冷却起因の割れや高温起因の割れの発生もなく、割れ発生率の低減が可能であった(割れ発生率:2%以上5%未満)。
スプレー水量密度P2が750L/m2/分の場合、過冷却起因の割れが生じた(割れ発生率:20%以上)。
スプレー水量密度P2が250L/m2/分の場合、カメラによる観察では、鋳片の表面にパウダーが付着しており、300℃を超える温度偏差が発生した(割れ発生率:20%以上)。
スプレー水量密度P2が300L/m2/分、700L/m2/分の場合、平均的には、温度偏差が200℃以下になって割れ発生率は改善するが、300℃超えの温度偏差が散発した(割れ発生率:パウダーの消費量によって、5%以上20%未満、又は20%以上)。
スプレー水量密度P2が750L/m2/分の場合、過冷却起因の割れが生じた(割れ発生率:20%以上)。
更に、連続鋳造機に使用するロールとして、鋳型直下から、鋳造方向に少なくとも0.4Dの位置まで、分割ロールを適用した場合には、バルジング起因の内部割れが減少し、スプレー水量密度の低減による復熱の活用ができることから、表1中の「○」評価の割れ発生率(割れ発生率が2%以上5%未満)を、1〜2%程度低減できることが推定できた。なお、この結果は、温度偏差の減少効果と復熱活用の効果から推定した。
また、表2中の実施例2、3、5、6は、温度計を、鋳型直下から鋳造方向に、それぞれ5.6m(0.35D)、6.4m(0.40D)、10.4m(0.65D)、11.2m(0.70D)の位置に設置した場合の推定結果を示している。なお、鋳片割れ発生率の推定は、鋳造方向における鋳片の温度履歴と鋳片の幅方向の温度分布(温度偏差)を推定するモデルを、実施例4の実測データを用いて作成することで行った。
なお、鋼種については、10質量%以上Cr含有鋼と、0.5質量%以上C含有鋼についても、Si含有鋼と略同等の結果が得られた。
以上のことから、本発明の鋼の連続鋳造方法を使用することで、鋳片の幅方向の温度偏差と、鋳片の表面の過冷却とを抑制して、鋳片の内部割れ防止と表面割れ防止の両立を図り、良質の鋳片を製造できることを確認できた。
Claims (4)
- 鋳型と、該鋳型の下流側に配置された二次冷却帯とを有する連続鋳造機を用い、前記鋳型から、Siを1.0質量%以上、又はCrを10質量%以上、又はCを0.5質量%以上含む鋳片を引き抜き、該鋳片を前記二次冷却帯に設けられた多数の冷却用ノズルで冷却する鋼の連続鋳造方法において、
前記二次冷却帯のうち、前記鋳型の直下から、鋳造方向に0.6mまでの冷却範囲R1と、前記鋳型の直下から鋳造方向に、0.6mから1.2mまでの冷却範囲R2とで、前記冷却用ノズルから前記鋳片にそれぞれ吹き付けられる冷却水の水量密度P1、P2が、以下の条件を満足することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
150リットル/m2/分≦P1≦280リットル/m2/分
300リットル/m2/分≦P2≦700リットル/m2/分 - 請求項1記載の鋼の連続鋳造方法において、少なくとも前記冷却範囲R2で冷却水を吹き付ける前記冷却用ノズルに、気水ノズルを用いることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
- 請求項1又は2記載の鋼の連続鋳造方法において、前記二次冷却帯には、前記鋳型から引き抜かれた前記鋳片を、厚み方向から挟み込んで鋳造方向に搬送する多数のロールが配置され、該多数のロールの一部又は全部に、前記鋳片の幅方向両端部を除く位置で分割された分割ロールを用いることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼の連続鋳造方法において、前記鋳型の直下から前記連続鋳造機の曲げ戻し部までの距離をDとして、前記鋳型の直下から0.4Dの位置から0.65Dの位置までの範囲内に温度計を設置して前記鋳片の表面温度を測定し、前記鋳片の幅方向両端から中央部へ向けて100mmまでの範囲を除いた領域の前記鋳片の幅方向の表面温度差が300℃を超えたことを条件として、前記冷却範囲R2より下流、かつ前記0.4Dの位置より上流の範囲の全部又は一部で前記冷却用ノズルから前記鋳片に吹き付けられる冷却水の水量密度を減少させることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
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