以下に、本発明を実施するための形態(以下、実施形態と記す)について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態により、本発明が限定されるものではない。下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
〔実施形態1〕
まず、本実施形態に係るブレーキキャリパが適用されるディスクブレーキ機構と車両用懸架装置の構成について図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るディスクブレーキ機構と車両用懸架装置の概略構成を説明する分解斜視図である。なお、図1における一点鎖線Sは、ロータの回転中心軸である「ロータ回転軸」を示している。
なお、以下の説明において、ロータ回転軸Sの軸方向を単に「軸方向」と記し、図に矢印Bで示す。また、ロータ回転軸の径方向を単に「径方向」と記し、ロータ回転軸の径方向外側を図に矢印Rで示す。また、車両が前進するようディスクロータ40が回転することを「前転」と記し、ロータ回転軸の周方向のうちディスクロータ40が前転する向きを「前転側」と記して図に矢印Cで示す。これに対して、車両が後進するようディスクロータ40が回転することを「後転」と記し、ロータ回転軸の周方向のうちディスクロータ40が後転する向きを「後転側」と記す。
車両用懸架装置1は、本実施形態において前輪用の懸架装置であり、ホイールハブ12を回転可能に支持する支持部材としてステアリングナックル(以下、単に「ナックル」と記す)20が設けられている。また、車両用懸架装置1は、ダブルウィッシュボーン式の懸架装置であり、支持部材としてのナックル20は、車両上側の端部21が、アッパーアームブッシュ3aを介してアッパーアーム3と連結されている。一方、ナックル20の車両下側の端部(図示せず)が、ロアアームブッシュ4aを介してロアアーム4に連結されている。アッパーアームブッシュ3a及びロアアームブッシュ4aは、ゴム等のエラストマーにより構成された、いわゆるラバーブッシュである。また、ナックル20のうち車両前後方向(図に矢印Aで示す)の一方側には、ナックルアーム23が延設されており、当該ナックルアーム23には、車輪(図示せず)のかじ取りを行うためのタイロッド5が連結されている。
ナックル20には、図示しない車輪と共に回転するディスクロータ40の回転を制動するブレーキ機構(以下、単に「ディスクブレーキ機構」と記す)10が設けられている。ディスクブレーキ機構10は、車輪とホイールハブ12を介して係合して、当該車輪と一体に回転するディスクロータ40と、ディスクロータ40の摺接面と接して摩擦力を生じさせる摩擦材であるブレーキパッド80と、ディスクロータ40にブレーキパッド80を押し付けるブレーキキャリパ(キャリパ・アセンブリ)50とを有している。ナックル20は、図示しないベアリングを介して、ディスクロータ40と一体に回転するホイールハブ12を回転可能に支持する。
ディスクロータ40は、ホイールハブ12に係合して、図示しない車輪と一体に回転する。ホイールハブ12には、ロータ回転軸を中心とする周方向に複数のハブボルト(植込みボルト)14が配設されており、当該ハブボルト14を用いて、ディスクロータ40は、図示しない車輪と共に、ホイールハブ12にボルト結合される。これにより、ディスクロータ40は、車輪及びホイールハブ12と一体に回転する。
ブレーキパッド80は、ディスクロータ40の摺接面44と接して摩擦力を生じさせる摩擦材であり、ディスクロータ40の裏表両側に配設される。本実施形態に係るブレーキパッド(以下、単に「パッド」と記す)80の詳細な構成については、後述する。
ブレーキキャリパ50は、ディスクロータ40を挟み込むよう配置された2つのパッド80を保持している。詳細には、ブレーキキャリパ(以下、単に「キャリパ」と記す)50は、パッド80に作動力を伝達するホイールシリンダ(図示せず)を備えたシリンダボデー55と、当該シリンダボデー55及び2つのパッド80を支持すると共に、ナックル20に結合されるマウンティングブラケット60とを有している。
キャリパ50は、図示しないホイールシリンダのピストンからパッド80に作動力(actuation force)を伝達することで、パッド80を、ディスクロータ40の両側にある摺接面44に押し付けることにより、パッド80とディスクロータ40との間に摩擦力を生じさせる。当該摩擦力は、ロータ回転軸の周方向に作用して、ディスクロータ40に結合された車輪(図示せず)の接地面に制動力(braking force)を生じさせる。
マウンティングブラケット60の取付部61には、キャリパ取付ボルト28のねじ穴62が設けられており、一方ナックル20のキャリパ取付部25には、キャリパ取付ボルト28を通す通し穴26が設けられている。2つのキャリパ取付ボルト28を、通し穴26を通してねじ穴62に螺合することにより、キャリパ50のマウンティングブラケット60は、ナックル20に結合される。これにより、キャリパ50とナックル(支持部材)20は、一つの剛体として一体に振動することとなる。
以上のように構成されたディスクブレーキ機構10は、車輪と一体にディスクロータ40が回転しているときに、キャリパ50がパッド80に作動力を伝達して、当該パッド80をディスクロータ40に押し付けている間(以下、「ブレーキ作動時」と記す)、当該パッド80とディスクロータ40の摺接面44との間には、ロータ回転軸(図に一点鎖線Sで示す)の周方向に摩擦力が作用する。この摩擦力は、車輪の接地面に制動力を生じさせる一方、その反力としてロータ回転軸の周方向のモーメント力、すなわちロータ回転軸を中心とするトルクが、パッド80から、キャリパ50のマウンティングブラケット60を介してナックル20に伝達される。つまり、パッド80とディスクロータ40との間に摩擦力が生じると、キャリパ50からナックル20に、ロータ回転軸まわりのトルク(モーメント力)が伝達される。
なお、キャリパ50がパッド80に作動力を伝達して、当該パッド80をディスクロータ40に押し付けている「ブレーキ作動時」に対して、キャリパ50がパッド80に作動力を伝達しておらず、当該パッド80がディスクロータ40に押し付けられていないときを、以下の説明において「ブレーキ非作動時」と記す。
ナックル20は、上側端部21がブッシュ3aを介してアッパーアーム3と連結されており、下側端部(図示せず)がブッシュ4aを介してロアアーム4に連結されている。このため、上述のモーメント力が作用すると、ナックル20と、これにボルト結合されたキャリパ50は、アッパーアーム3及びロアアーム4の撓みに加え、ブッシュ3a,4aの弾性変形により、ロータ回転軸を中心とする周方向に一体となって変位する。このモーメント力は、アッパーアーム3及びロアアーム4が連結された車体からの反力と、つり合うこととなる。
次に、本実施形態に係るブレーキキャリパ50におけるマウンティングブラケット60及びブレーキパッド80の構成と配置関係について、図2を用いて説明する。図2は、実施形態1に係るブレーキキャリパのマウンティングブラケット及びブレーキパッドの構成と配置関係を説明する図である。
マウンティングブラケット60は、上述した取付部61からロータ回転軸の径方向外側(図に矢印Rで示す)に延設されており、ロータ回転軸の径方向に直交する方向、すなわちロータ回転軸の周方向に、パッド80と、後述する低摩擦部材を介して当接することで、当該パッド80を支持する、2つのパッド支持部64,65を有している。2つのパッド支持部64,65は、パッド80を中心に、ロータ回転軸の周方向の両側に配設されている。なお、パッド支持部64,65のうち、パッド80に対してロータ回転軸の周方向の前転側に設けられているものを、特に「前転側のパッド支持部」64と記す。一方、パッド80に対してロータ回転軸の周方向の後転側に設けられているものを、特に「後転側のパッド支持部」65と記す。
一方、パッド80は、ディスクロータ40の摺接面44と接して当該摺接面44との間に摩擦力が生じる摩擦部82と、当該摩擦部82と一体に接合されており、図示しないホイールシリンダのピストンから作動力を受ける基部(裏板)83とを有している。パッド80の基部83には、ロータ回転軸の径方向に直交する方向、すなわちロータ回転軸の周方向外側に向けて突出する突出部86,87が延設されている。なお、パッド80の突出部86,87のうち、ロータ回転軸の周方向の前転側に設けられているものを、特に「前転側の突出部」86と記す。一方、パッド80に対してロータ回転軸の周方向の後転側に設けられているものを、特に「後転側の突出部」87と記す。
マウンティングブラケット60のパッド支持部64,65には、断面が略U字状をなしており、ロータ回転軸の軸方向(図に矢印Bで示す)に延びている溝68,69が設けられている。前転側のパッド支持部64には、溝68が設けられており、特に「前転側の溝」68と記す。同様に、後転側のパッド支持部65には、溝69が設けられており、特に「後転側の溝」69と記す。前転側の溝68は、パッド80の前転側の突出部86に対向して設けられており、後転側の溝69は、パッド80の後転側の突出部87に対向して設けられている。換言すれば、パッド80の前転側の突出部86は、マウンティングブラケット60の前転側の溝68に向けて基部83から突出しており、後転側の突出部87は、後転側の溝69に向けて基部83から突出している。
マウンティングブラケット60にパッド80を取付けると、前転側の溝68内には、パッド80の前転側の突出部86が所定の隙間を以って挿入され、一方、後転側の溝69には、後転側の突出部87が挿入される。このように構成されたキャリパ50は、マウンティングブラケット60に対してパッド80がロータ回転軸の径方向と周方向に移動することを規制している。
一方、キャリパ50は、マウンティングブラケット60のロータ回転軸の軸方向に延びる溝68,69に沿って、それぞれパッド80の突出部86,87が滑動することで、マウンティングブラケット60に対して、パッド80がロータ回転軸の軸方向に移動することを許容している。パッド80の突出部86,87と、マウンティングブラケット60の溝68,69との間には、それぞれ所定の隙間があるため、キャリパ50は、マウンティングブラケット60に対して、パッド80がロータ回転軸の軸方向に滑動可能なものとなっている。
以上のように構成されたキャリパ50においては、ディスクロータ40が前転側に回転している場合のブレーキ作動時において、パッド80の前転側の突出部86が、マウンティングブラケット60のうち前転側のパッド支持部64の溝68の溝底に、後述する低摩擦部材を介して当接する。この場合、マウンティングブラケット60は、パッド80の突出部86から、ロータ回転軸S(図1参照)の中心に作用するトルク(モーメント力)を、前転側の溝68の溝底で受ける。以下の説明において、前転側の溝68の溝底を「トルク受け面」と記して符号66で示す。これに対して、パッド80のうち、トルク受け面66にトルクを伝達する面、すなわち、前転側の突出部86のうちトルク受け面66に対向する面を、以下の説明において「トルク伝達面」と記して符号88で示す。
なお、ディスクロータ40が前転側に回転している場合のブレーキ作動時においては、パッド80の後転側の突出部87と、マウンティングブラケット60の後転側の溝69の溝底との間には、所定の間隙が生じている。以上、本実施形態に係るブレーキキャリパの基本構成について説明した。
ところで、運転者が操作状態にあるブレーキペダルを徐々に緩めて、車両がクリープ走行を開始する場合など、ディスクロータ40とパッド80が接して摩擦力が生じており、且つディスクロータ40の回転速度が極めて低い(例えば、車速0.8km/h以下)場合、ディスクロータ40とパッド80との間において、動摩擦力と静摩擦力が交互に作用することがある。この場合、ディスクロータ40の回転中心軸である「ロータ回転軸」を中心に作用するトルクに、周期的な変動が生じることがある。
このとき、アッパーアーム3及びロアアーム4にブッシュ3a,4aを介して連結されたナックル(支持部材)20と、これにマウンティングブラケット60が結合されたキャリパ50は、一つの剛体として振動する。キャリパ50が結合されたナックル20の固有振動の中心軸(以下、振動中心軸と記す)が、ロータ回転軸と略一致していると、ナックル20が、ロータ回転軸の周方向に作用するモーメント力の周期的な変動を励振力として、ロータ回転軸(すなわち振動中心軸)を中心とする周方向に、固有振動することがある。このとき、当該固有振動に対応する周波数(例えば、100Hz程度)の異音(以下、「クリープグローン音」と記す)が生じることがある。
このようにディスクブレーキ機構10においてクリープグローン音が生じている場合、図3に示すように、パッド80とディスクロータ40が摺接している面においては、同じ部位において、面圧が高い状態Hと、面圧が低い状態Lが、交互に生じている。このとき、図4に示すように、ディスクロータ40の摺接面44、すなわちロータ回転軸と直交する平面に対して、パッド80が、図4に実線で示すようにロータ回転軸の軸方向に「振れ」を生じさせながら矢印Fで示すように振動している。キャリパ50において、パッド80の振動は、これを支持するマウンティングブラケット60から、上述したナックル20等の支持部材に伝達される。よって、このようなパッド80の振動は、支持部材としてのナックル20とキャリパ50が一つの剛体として振動するときの固有振動と強い相関がある。このため、クリープグローン音の発生を抑制するために、パッド80の振動を抑制すると共に、パッド80からマウンティングブラケット60への振動の伝達を抑制する技術が求められている。
そこで、本実施形態に係るキャリパ50においては、マウンティングブラケット60のトルク受け面66と、パッド80のトルク伝達面88との間の摩擦力を低減させることで、パッド80の振動を抑制すると共に、当該パッド80の振動が、トルク受け面66からトルク伝達面88に伝達されることを抑制している。以下に、本実施形態に係るブレーキキャリパの構成について図5を用いて詳細を説明する。図5は、実施形態1に係るキャリパにおけるマウンティングブラケットの前転側のパッド支持部と、ブレーキパッドの突出部との拡大断面図である。なお、図5は、ロータ回転軸の軸方向に直交する断面を示している。また、マウンティングブラケットの後転側のパッド支持部及び取付部については、図示を省略している。
本実施形態に係るキャリパ50においては、マウンティングブラケット60の前転側のパッド支持部64に形成された溝68は、パッド80の突出部86に比べてロータ回転軸の径方向(図に矢印Rで示す)の長さが長く設定されている。当該溝68の溝底であるトルク受け面66と、パッド80の突出部86のうち、トルク受け面66に対向する面であるトルク伝達面88との間には、当該トルク受け面66(又はトルク伝達面88)との間の動摩擦係数が、少なくとも0.01以下となる部材(以下、低摩擦部材と記す)70が配設されている。
低摩擦部材70は、板状の部材(以下、板状部材と記す)であり、金属製又はゴム製の基部72を有し、当該基部72のうち一方側には、ダイヤモンド・ライク・カーボン膜(以下、単に「DLC膜」と記す)74がコーティングされている。低摩擦部材70の両面70a,70cのうち一方の面70aは、DLC膜74で構成されており、他方の面70cは、基部72で構成されている。低摩擦部材70は、トルク受け面66、又はトルク伝達面88との間における摩擦係数が、0.01以下となるように構成されている。なお、当該摩擦係数は、0.001〜0.0001という低い値に設定されることが好適である。低摩擦部材70は、DLC膜74で構成された面70aが、トルク受け面66と対向するように前転側のパッド支持部64の溝68内に配設される。
このように前転側のパッド支持部64の溝68内に配設された場合に、低摩擦部材70は、ロータ回転軸の径方向の長さが、当該溝68のロータ回転軸の径方向の長さと略同一か僅かに短くなるよう構成されている。すなわち、低摩擦部材70は、所定の嵌め合い隙間を以って溝68内に挿入される。なお、低摩擦部材70が溝68内から脱落を防止するために、前転側のパッド支持部64のパッド80側の端面64a側には、パッド80の突出部86に向けて突出する突出部64cが設けられている。
以上のように構成されたキャリパ50は、ディスクロータ40が前転側に回転している場合のブレーキ作動時において、パッド80の前転側の突出部86のトルク伝達面88と、マウンティングブラケット60のうち前転側のパッド支持部64のトルク受け面66が、低摩擦部材70を挟み込む。マウンティングブラケット60は、パッド80のトルク伝達面88からの、ロータ回転軸を中心に作用するトルク(モーメント力)を、低摩擦部材70を介してトルク受け面66で受ける。このとき、パッド80のトルク伝達面88が、ロータ回転軸の軸方向に「振れ」を生じさせても、低摩擦部材70とトルク受け面66との間は、摩擦係数が低く、ロータ回転軸の軸方向に作用する摩擦力を極めて小さくすることができるため、パッド80のトルク伝達面88の軸方向の振動が、マウンティングブラケット60に伝達されることを抑制することができる。
なお、本実施形態においては、低摩擦部材70は、そのDLC膜74が、トルク受け面66に向くようにマウンティングブラケット60の溝68内に配設されており、トルク受け面66と低摩擦部材70との間において作用する摩擦力を抑制するものとしたが、低摩擦部材70の配設の態様は、これに限定されるものではない。低摩擦部材のDLC膜が、パッドのトルク伝達面に向くように配設されて、当該トルク伝達面と低摩擦部材との間に作用する摩擦力を抑制するものとしても良い。また、低摩擦部材の表面のうち、トルク受け面に対向する面と、トルク伝達面に対向する面の双方が、DLC膜で構成されているものとしても良い。
また、本実施形態においては、低摩擦部材70は、基部72にDLC膜74がコーティングされたものとしたが、低摩擦部材の態様は、これに限定されるものではない。マウンティングブラケット60のトルク受け面66、又はパッド80のトルク伝達面88との間の摩擦係数が、低い部材であれば良く、例えば、低摩擦部材は、固体潤滑材で表面がコーティングされた部材であるものとしても良いし、微小転動体を把持した部材としても良い。なお、固体潤滑材には、CNx膜などを用いることもできる。
以上に説明したように本実施形態に係るキャリパ50は、ディスクロータ40と一体に回転するホイールハブ12を回転可能に支持する支持部材(ナックル)20にマウンティングブラケット60が結合されて設けられ、当該マウンティングブラケット60に支持されたパッド80に作動力を伝達することにより、当該パッド80をディスクロータ40に押し付けることが可能なものであり、マウンティングブラケット60に対してパッド80がロータ回転軸の軸方向に滑動可能に構成されている。
マウンティングブラケット60のうち、ブレーキ作動時においてパッド80からのロータ回転軸を中心とするトルクを受けるトルク受け面66と、パッド80のうち、トルク受け面66にトルクを伝達するトルク伝達面88との間には、トルク受け面66又はトルク伝達面88との間の摩擦係数が、少なくとも0.01以下となる部材である低摩擦部材70が配設されているものとしたので、ブレーキ作動時において、パッド80のトルク伝達面88と、マウンティングブラケット60のトルク受け面66が、低摩擦部材70を挟み込む。パッド80のトルク伝達面88が、ロータ回転軸の軸方向に「振れ」を生じさせても、低摩擦部材70とトルク受け面66との間において軸方向に生じる摩擦力を抑制することができるため、パッド80のトルク伝達面88の軸方向の振動が、マウンティングブラケット60に伝達されることを抑制することができる。
〔実施形態2〕
本実施形態に係るブレーキキャリパの構成について図1、及び図6及び図7を用いて説明する。図6は、実施形態2に係るブレーキキャリパにおけるマウンティングブラケットの前転側のパッド支持部とブレーキパッドの突出部を示す拡大断面図である。図7は、実施形態2に係るブレーキキャリパにおけるブレーキパッドの前転側の突出部を示す斜視図である。なお、図6は、ロータ回転軸の軸方向に直交する断面を示している。また、マウンティングブラケットの後転側のパッド支持部及び取付部については、図示を省略している。本実施形態に係るブレーキキャリパは、マウンティングブラケットのトルク受け面と、ブレーキパッドのトルク伝達面が、同じ符号の磁極を有する磁石により構成されている点で実施形態1と異なり、以下に詳細を説明する。なお、実施形態1と略共通の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態に係るキャリパ50Bは、図6に示すように、マウンティングブラケット60Bの前転側のパッド支持部64Bに形成された溝68Bの溝底66Bが、永久磁石90で構成されている。当該永久磁石90は、パッド支持部64Bに接合されて設けられている。永久磁石90のうち、パッド80B側の突出部86Bに対向する面66Bが、ブレーキ作動時においてパッド80Bからのロータ回転軸を中心とするトルクを受ける「トルク受け面」66Bとなる。
一方、パッド80Bの前転側の突出部86Bは、永久磁石92で構成されている。当該永久磁石92は、パッド80Bの基部83(図2参照)と接合されて設けられている。永久磁石92のうち、上述したトルク受け面66と対向しており、当該トルク受け面66Bに当接して、ロータ回転軸を中心とするトルクを伝達する面88Bが「トルク伝達面」88Bとなる。
マウンティングブラケット60のトルク受け面66Bを構成する永久磁石90と、パッド80Bのトルク伝達面88Bを構成する永久磁石92は、同符号の磁極を有している。例えば、トルク受け面66Bを構成する永久磁石90の磁極が、N極である場合には、トルク伝達面88Bを構成する永久磁石92の磁極も、同じN極のものが用いられる。トルク受け面66Bと、これに対向するトルク伝達面88Bが、同符号の磁極を有しているため、トルク受け面66Bと、トルク伝達面88Bとの間には、互いにロータ回転軸の周方向であってロータ回転軸の径方向に直交する方向に反発しあう向きの磁力が生じる。当該磁力により、トルク受け面66Bとトルク伝達面88Bとの間に生じる摩擦力(動摩擦力/静摩擦力)が抑制される。
マウンティングブラケット60Bのトルク受け面66Bと、パッド80Bのトルク伝達面88Bは、ロータ回転軸の軸方向に直交する断面(以下、軸方向直交断面と記す)において、それぞれ、波形をなしている。互いに対向するトルク受け面66Bとトルク伝達面88の波形は、軸方向直交断面において、一方の山が、他方の谷と係合するように構成されている。詳細には、マウンティングブラケット60B及びパッド80Bは、軸方向直交断面において、トルク受け面66Bの波形の山の頂部96と、トルク伝達面88Bの波形の谷の底部98とが、ロータ回転軸の周方向であってロータ回転軸の径方向と直交する方向に、互いに対向するよう構成されている。同様に、トルク受け面66Bの波形の底部97と、トルク伝達面88Bの波形の頂部99が、互いに対向するように構成されている。つまり、マウンティングブラケット60Bの前転側のパッド支持部64Bにパッド80Bの突出部86Bが接すると、トルク受け面66Bの波形の底部97と、トルク伝達面88Bの波形の頂部99が接することとなる。
このような波形の軸方向直交断面が構成されたパッド80Bの突出部86Bのトルク伝達面88Bは、図7に示すように、ロータ回転軸の軸方向(図に矢印Bで示す)に延びている。同様に、マウンティングブラケット60の正転側のパッド支持部64Bのトルク受け面66Bも、ロータ回転軸の軸方向に延びている(図6参照)。キャリパ50Bは、図6に示すように、トルク受け面66Bとトルク伝達面88Bが係合することで、マウンティングブラケット60Bに対してパッド80Bが、ロータ回転軸の径方向に相対移動することを制限しており、且つ、ロータ回転軸の軸方向には、マウンティングブラケット60Bに対してパッド80Bが相対移動することを許している。
以上のように構成されたキャリパ50Bは、ディスクロータ40が前転側に回転している場合のブレーキ作動時において、パッド80Bのうち前転側の突出部86Bのトルク伝達面88Bと、マウンティングブラケット60Bのうち前転側のパッド支持部64Bのトルク受け面66Bが、当接する。この状態において、トルク受け面66Bとトルク伝達面88Bとの間には、互いに反発しあう向きの磁力が生じているため、トルク受け面66Bとトルク伝達面88Bとの間に生じるロータ回転軸の軸方向に作用する摩擦力を小さくすることができ、パッド80Bのトルク伝達面88Bの軸方向の振動が、マウンティングブラケット60Bに伝達されることを抑制することができる。
なお、本実施形態においては、トルク受け面66Bを構成する磁石90と、トルク伝達面88Bを構成する磁石92は、共に「永久磁石」であるものとしたが、本発明のトルク受け面66Bとトルク伝達面88Bを構成する「同符号の磁極を有する磁石」の構成は、この態様に限定されるものではない。トルク受け面66Bとトルク伝達面88Bが、同符号の磁極を有していれば良く、例えば、マウンティングブラケット及びパッドに電磁石を設けて、当該電磁石に励磁電流を流すことにより、トルク受け面とトルク伝達面が、同符号の磁極を有するように構成しても良い。
〔実施形態3〕
本実施形態に係るブレーキキャリパの構成について図1及び図8を用いて説明する。図8は、実施形態3に係るブレーキキャリパにおけるマウンティングブラケットの前転側のパッド支持部とブレーキパッドの突出部を示す拡大断面図である。なお、図8は、ロータ回転軸の軸方向に直交する断面を示している。また、マウンティングブラケットの後転側のパッド支持部及び取付部については、図示を省略している。本実施形態に係るブレーキキャリパは、マウンティングブラケットのトルク受け面と、ブレーキパッドのトルク伝達面との間に、キャリパが結合されたナックル(支持部材)の固有振動周波数に比べて高い周波数で振動可能な振動部材が配設されている点で、実施形態1と異なり、以下に詳細を説明する。なお、実施形態1と略共通の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態に係るキャリパ50Cにおいては、マウンティングブラケット60の前転側のパッド支持部64に形成された溝68の溝底であるトルク受け面66と、パッド80の突出部86のうちトルク受け面66に対向するトルク伝達面88との間には、後述する電子制御装置により制御されて電気的に振動可能な「振動部材」である振動板100と、これを保護するための保護板110,112が配設されている。キャリパ50Cにおいて、振動板100と、これを保護する保護板110,112は、マウンティングブラケット60のパッド支持部64に形成された溝86内に収容されて配置される。
保護板110,112は、ロータ回転軸の軸方向に延びている板状の部材(板状部材)であり、振動部材と略同一の形状をなしている。保護板110は、振動板100とマウンティングブラケット60のトルク受け面66との間に配設されており、一方、保護板112は、振動板100と、パッド80のトルク伝達面88との間に配設されている。保護板110及び保護板112は、マウンティングブラケット60のトルク受け面66に対して、パッド80の突出部86のトルク伝達面88が、ロータ回転軸の径方向に相対移動したときに、トルク受け面66及びトルク伝達面88に対して摺動することにより、振動板100が損耗することを防止可能となっている。
振動板100は、印加された電圧に応じて変形、振動が可能な圧電素子等を有し、ロータ回転軸の軸方向に延びている板状の部材(板状部材)である。振動板100に印加される電圧(以下印加電圧と記す)は、電力供給装置202から供給される。振動板100が、少なくともロータ回転軸の周方向であって、ロータ回転軸の径方向と直交する方向に振動することで、ブレーキ作動時において、保護板110、及び保護板112との間に作用する摩擦力を、振動板100が振動していない場合に比べて低減させることが可能に構成されている。振動板100の印加電圧は、ブレーキ装置用の電子制御装置(以下、単に「ECU」と記す)200により制御される。
ECU200は、ディスクブレーキ機構を制御する制御手段として車両に設けられており、電力供給装置202を介して、振動板100に印加される電圧、すなわち振動板100の電気的な振動を制御可能に構成されている。ECU200は、各種の制御定数を記憶する記憶手段としてのROM(図示せず)を有している。ECU200により振動が制御されて、振動板100は、キャリパ50Cが結合されたナックル(支持部材)20のロータ回転軸まわりの固有振動周波数(例えば、100Hz)に比べて、高い周波数、例えば、1kHzで振動することが可能に構成されている。
ECU200は、ディスクロータ40の回転速度を検出する車輪速センサ(図示せず)からの車両の走行速度(以下、単に「車速」と記す)に係る信号を検出しており、当該車速を制御変数として推定している。また、ECU200は、キャリパ50Cにおいて図示しないホイールシリンダのピストンがパッド80に伝達する作動力を検出しており、当該作動力(又はホイールシリンダ圧)を制御変数として推定している。当該作動力に基づいて、ECU200は、ブレーキキャリパ50Cが、パッド80に作動力(actuation force)を伝達しているか否か、すなわちディスクブレーキ機構が作動して、パッド80とディスクロータ40との間に摩擦力が生じる「ブレーキ作動時」であるか否かを判定する機能(ブレーキ作動判定手段)を有している。
また、ECU200は、停止状態にある車両が発進するか否かを判定する機能(車両発進判定手段)を有している。この機能は、車両停止中において運転者によりブレーキペダルを緩める操作がなされて、キャリパ50Cに伝達されるホイールシリンダ圧、すなわち作動力が低下して、予め設定された判定値以下となった場合に、車両が発進するものと判定することが可能となっている。また、ECU200は、車両停止中においてホイールシリンダ圧すなわち作動力を一定の値に保持する制御(以下、ヒルホールド制御と記す)が行われているときに、運転者によりアクセル操作が行われ、当該制御を解除して車両の発進を指示する信号を受けたときに、車両が発進するものと判定することが可能となっている。加えて、ECU200は、車両の走行速度である車速が、所定の判定車速(例えば、0.8km/h)以下であるか否かを判定する機能(車速判定手段)を有している。
以上のように構成されたディスクブレーキ機構において、ECU200が実行する振動板の制御(以下、振動板制御と記す)について、図1、図8及び図9を用いて説明する。図9は、実施形態3に係るブレーキキャリパの制御装置(ECU)が実行する振動板制御を示すフローチャートである。当該振動板制御は、所定時間ごとに繰り返し実行される。
まず、図9に示すステップS100において、ECU200は、各種の制御変数を取得する。この制御変数には、ホイールシリンダ圧すなわちキャリパ50Cがパッド80に伝達する作動力や、車両が発進するか否かを示す制御フラグ、車速等が含まれている。
そして、ステップS102において、ECU200は、車両が発進するか否かを判定する。ECU200は、車両停止中においてホイールシリンダ圧、又は作動力が、予め設定された判定値以下に低下した場合や、ヒルホールド制御により車両の発進を指示する信号を受けた場合に、車両が発進するものと判定する。
車両が発進すると判定した場合(S102:Yes)、ECU200は、ステップS104において、キャリパ50Cが、パッド80に作動力を加えている、すなわちホイールシリンダ圧が、所定値以上であるか否かを判定する。つまり、パッド80とディスクロータ40との間に摩擦力が作用しているか否かを判定している。
キャリパ50Cが作動力を伝達していない、すなわちパッド80とディスクロータ40との間に摩擦力が作用していない「ブレーキ非作動時」であると判定した場合(S104:No)、ECU200は、ステップS110において、振動板100を振動させないよう、電力供給装置202を制御する。
一方、キャリパ50Cが作動力を伝達しており、パッド80とディスクロータ40との間に摩擦力が作用している「ブレーキ作動時」であると判定した場合(S104:Yes)、ECU200は、ステップS106において、車速が、所定の判定車速以下であるか否かを判定する。すなわちECU200は、車速が、クリープグローン音が生じるような車速域にあるか否かを判定する。この判定車速は、例えば、0.8km/hという極低速に設定されている。この判定車速は、予め適合実験等により求められており、制御定数としてECU200のROMに記憶されている。車速が、判定車速以下ではない(S106:No)と判定した場合、ECU200は、振動板100を振動させないよう電力供給装置202を制御する(S110)。
一方、車速が、判定車速以下であると判定した場合(S106:Yes)、ECU200は、上述したクリープグローン音が発生するものと判断して、ステップS120において、クリープグローン音の振動周波数(例えば、100Hz)に比べて高い周波数(例えば、1kHz)に予め設定された「設定振動周波数」で振動板100が振動するよう電力供給装置202を制御する。なお、振動板100を振動させる「設定振動周波数」は、予め適合実験等により最適値が求められており、制御定数としてECU200のROMに記憶されている。なお、設定振動周波数は、抑制したい音の周波数(一般的に300〜700Hz程度)より高い値に設定するものとしても良い。
以上のように構成されたキャリパ50Cは、ECU200が、ブレーキ作動時であり、且つ車速が、所定の判定車速以下である場合にのみ、キャリパ50Cが結合されたナックル(支持部材)20の固有振動周波数に比べて高い周波数で振動板100を振動させる。これにより、振動板100と保護板110との間に生じる摩擦力と、振動板100と保護板112との間に生じる摩擦力とを、当該振動板100が振動していない場合(S110参照)に比べて低減させることができる。これにより、クリープグローン音が生じるようなブレーキ作動時においては、マウンティングブラケット60のトルク受け面66と、パッド80のトルク伝達面88との間において、ロータ回転軸の軸方向に作用する力、すなわち「見かけ上の」摩擦力を小さくすることができ、パッド80のトルク伝達面88の軸方向の振動が、マウンティングブラケット60に伝達されることを抑制することができる。一方、ブレーキ非作動時においては、振動板100を振動させる必要がなく、この場合には、ECU200が振動板100を振動させないことで、電力消費を抑制することができる。
なお、本実施形態においては、振動板100とトルク受け面66との間には、保護板110が配設され、振動板100とトルク伝達面88との間には、保護板112が配設されるものとしたが、振動板100が、摺動摩耗に強い部材で、その表面が構成されている場合には、保護板は、必ずしも必要ではない。また、振動板の両面に保護板を貼り合わせて一体に構成するものとしても良い。
〔実施形態4〕
本実施形態に係るブレーキキャリパの構成について図1、図5、図8、図10及び図11を用いて説明する。図10は、実施形態4に係るブレーキキャリパにおけるマウンティングブラケットの前転側のパッド支持部とブレーキパッドの突出部を示す拡大断面図であり、ブレーキ非作動時を示す図である。図11は、実施形態4に係るブレーキキャリパにおけるマウンティングブラケットの前転側のパッド支持部とブレーキパッドの突出部を示す拡大断面図であり、ブレーキ作動時を示す図である。なお、図10及び図11は、ロータ回転軸の軸方向に直交する断面を示している。また、マウンティングブラケットの後転側のパッド支持部及び取付部については、図示を省略している。
上述したように、マウンティングブラケットのトルク受け面と、パッドのトルク伝達面との間に、上述した振動板100及び保護板110,112(実施形態3、図8参照)や、低摩擦部材70(実施形態1、図5参照)が配設されている場合、これら板状部材に反りや撓み等の変形や、当該板状部材が、パッド支持部の溝内において傾きが生じることがある。このような変形や傾きが生じると、当該板状部材が、ねじりばねとしてパッドを押圧してしまい、ブレーキ非作動時において、当該パッドの一部とディスクロータの摺接面(図1参照)が接してしまい、パッドとディスクロータとの間にロータ回転軸の周方向に摩擦力、いわゆる「引き摺り抵抗」が生じることがある。また、板状部材(振動板100,保護板110,112;低摩擦部材70)自体の耐久性が低下する虞もある。
そこで、本実施形態に係るブレーキキャリパは、ブレーキ非作動時においては、ブレーキパッドのトルク伝達面からトルク受け面が離間するように、当該トルク受け面を移動させる機構(以下、トルク受け面移動機構と記す)120を有しており、以下に詳細を説明する。なお、実施形態1,3と略共通の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
図10に示すように、本実施形態に係るマウンティングブラケット60Dの前転側のパッド支持部64Dには、トルク受け面66Dを移動させるトルク受け面移動機構120が設けられている。トルク受け面移動機構120は、パッド80のトルク伝達面88によりロータ回転軸の周方向に押圧された板状部材(本実施形態において振動板100,保護板110,112)をトルク受け面66Dで受ける部材である「受け部材」122と、トルク受け面66Dがトルク伝達面88から離間する方向である「離間方向」(図に矢印Eで示す)に受け部材122を付勢する付勢部材である「受け部材用ばね」128と、離間方向に付勢された受け部材122のうち少なくとも一部を収容可能なスロット130と、スロット130内を移動可能に設けられ、受け部材122を離間方向とは逆向きに押圧可能な部材である「押圧部材」とを有しており、以下に詳細を説明する。
マウンティングブラケット60Dの前転側のパッド支持部64D内には、ロータ回転軸の軸方向と直交する断面(軸方向直交断面)において、上述の離間方向Eと略直交する方向に延びるスロット130が設けられている。また、前転側のパッド支持部64Dには、前転側のパッド支持部64Dの端面64aに隣接して、スロット130とパッド80側の空間とを連通させる開口133が設けられている。当該開口133は、上述の板状部材(具体的には、振動板100,及び保護板110,112)を収容可能に設けられている。また、スロット130と開口133との間には、受け部材122を収容可能な収容空間135が形成されており、当該収容空間135を介して、スロット130と開口133は連通している。スロット130は、収容空間135にある受け部材122の少なくとも一部を収容可能に構成されている。
受け部材122は、パッド80のトルク伝達面88に対向する面が、トルク受け面66Dとなっており、ブレーキ作動時において、パッド80のトルク伝達面88により押圧された板状部材である振動板100,保護板110,112(低摩擦部材70(図5参照))を受けることが可能となっている。
また、マウンティングブラケット60Dには、トルク受け面66Dがトルク伝達面88から離間方向に当該受け部材122を付勢する付勢部材である「受け部材用ばね」128が設けられている。受け部材用ばね128の一端は、トルク受け面66Dの裏側の面(以下、受け部材裏面と記す)124に結合されており、受け部材用ばね128の他端は、前転側のパッド支持部64Dに結合されている。
スロット130内には、受け部材122を離間方向とは逆向きに押圧可能な部材である押圧部材140,141が設けられている。押圧部材140,141は、スロット130内を移動可能に設けられている。押圧部材140,141のうち受け部材122側の先端部には、それぞれ、受け部材裏面124の端を押圧可能な押圧面142,143が設けられている。押圧面142,143は、それぞれ、受け部材122から、離間方向Eと直交する方向(スロット130が延びている方向)に離れるに従って、離間方向Eとは逆向きの方向に位置するよう構成されている。このように構成された押圧部材140,141を、受け部材122側に移動させて、受け部材裏面124と、スロット130の内壁面のうち受け部材裏面124と対向する面(以下、対向内壁面と記す)134との間に挿し込むことで、押圧面142,143が受け部材122を押圧し、パッド80のトルク伝達面88側に移動させることが可能となっている。
スロット130内には、押圧部材140,141を受け部材122側に移動させるアクチュエータとして、押圧部材140,141に対応して、それぞれピストン・シリンダ機構150,151が設けられている。ピストン・シリンダ機構150,151のシリンダ内は、管路152,153を介して、キャリパ50Dの図示しないホイールシリンダと連通しており、ブレーキフルードが充填されている。つまり、ピストン・シリンダ機構150,151のシリンダ内は、図示しないホイールシリンダと略同一の圧力を受けることとなる。
また、マウンティングブラケット60Dには、押圧部材140,141を、それぞれ、受け部材122から離間させる方向に付勢する付勢部材として「押圧部材用ばね」146,147が設けられている。押圧部材用ばね146,147の一端は、それぞれ、押圧部材140,141に結合されており、他端は、前転側のパッド支持部64Dに結合されている。
以上のように構成されたキャリパ50Dにおいては、図11に示すように、ホイールシリンダ(図示せず)のピストンが、パッド80に作動力を伝達する「ブレーキ作動時」において、トルク受け面移動機構120が、ピストン・シリンダ機構150,151のシリンダ内にあるブレーキフルードの圧力の上昇を受けて、当該ピストン・シリンダ機構150,151により、押圧部材140,141を受け部材122側に移動させる。押圧部材140,141が受け部材122を押圧することで、トルク受け面66Dがトルク伝達面88に近接する方向に当該受け部材122が移動する。
これにより、キャリパ50Dは、マウンティングブラケット60Dのトルク受け面66Dと、パッド80のトルク伝達面88との間に、板状部材である振動板100及び保護板110,112を確実に挟み込む。パッド80のトルク伝達面88からのロータ回転軸を中心とするトルクは、振動板100及び保護板110,112、受け部材122、押圧部材140,141を介してマウンティングブラケット60Dに伝達される。クリープグローン音が生じるような車速域においては振動板100を振動させることで、トルク受け面66Dとトルク伝達面88との間においてロータ回転軸の軸方向に作用する力を小さくすることができ、パッド80のトルク伝達面88の軸方向の振動が、マウンティングブラケット60Dに伝達されることを抑制することができる。
一方、ホイールシリンダ(図示せず)のピストンが、パッド80に作動力を伝達しない「ブレーキ非作動時」において、図10に示すように、トルク受け面移動機構120が、ピストン・シリンダ機構150,151のシリンダ内にあるブレーキフルードの圧力の低下を受けて、押圧部材用ばね146,147の付勢力により、押圧部材140,141をそれぞれピストン・シリンダ機構150,151側に移動させる。受け部材122は、受け部材用ばね128の付勢力により、トルク受け面66Dがトルク伝達面88から離間する方向に移動する。
このように、ブレーキ非作動時においては、トルク受け面移動機構120が、パッド80のトルク伝達面88から、マウンティングブラケット60Dのトルク受け面66Dが離間するように当該トルク受け面66Dを移動させることで、トルク伝達面88とトルク受け面66Dとのロータ回転軸周方向の間隔が拡大する。これにより、トルク伝達面88とトルク受け面66Dとの間に配設された板状部材(振動板100,保護板110,112)と、トルク伝達面88及びトルク受け面66Dとの間において、ロータ回転軸の周方向の空隙(クリアランス)を、ブレーキ作動時に比べて十分に確保することができる。仮に、板状部材に変形や傾きが生じても、ブレーキ非作動時において、当該板状部材が、パッド80のトルク伝達面88を押圧してパッド80とディスクロータ40が接触することを防止することができ、引き摺り抵抗が生じることを抑制することができる。なお、上記においては、トルク受け面移動機構120を、ブレーキ作動時とブレーキ非作動時で使い分ける場合について説明したが、ブレーキ作動時に常にトルク受け面88を用いると振動板100や受け部材用ばね128の耐久性が問題になる場合には、図10に示すように、パッド80かマウンティングブラケット60Dの一方に、別のトルク受け部(突出部)160,161を形成して、クリープグローン音が問題となる条件のときのみ、トルク受け面移動機構120が作動するように、管路152,153に制御弁(図示せず)を設けて、当該制御弁を制御するものとしても良い。
なお、本実施形態においては、トルク受け面移動機構120は、押圧部材140,141を受け部材122側に移動させるピストン・シリンダ機構150,151は、ホイールシリンダと略同一のブレーキフルード圧力を受けて作動するものとしたが、押圧部材140,141を移動させるアクチュエータは、この態様に限定されるものではない。例えば、電磁式のアクチュエータ等を用い、当該アクチュエータを電子制御装置により制御する構成としても良い。
なお、上述した各実施形態1〜4において、マウンティングブラケットとパッドとの間においてロータ回転軸の軸方向に作用する力を低減させるための部材及び機構(低摩擦部材70(図5参照);永久磁石90,92(図6参照);振動板100,保護板110,112(図8参照);トルク受け面移動機構120(図10参照))は、マウンティングブラケットのうち前転側のパッド支持部のトルク受け面と、パッドのトルク伝達面との間に設けられるものとしたが、これら部材及び機構が設けられる態様は、これに限定されるものではない。例えば、後転側のパッド支持部にも、これら部材及び機構を設けるものとしても良い。このように構成することで、ディスクロータが「後転」している場合のブレーキ作動時においても、クリープグローン音を抑制することができる。