本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機の組立治具および組立方法に関する。
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図9及び図10に示すように構成されている。図9に示すように、ケーシング50の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板(ローディングカム)7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁(中間壁)13に対しアンギュラ軸受107を介して支持されるとともに、この仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面;トラクション面とも言う)2a,2aと出力ディスク3,3の内側面(凹面;トラクション面とも言う)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図10参照)が回転自在に挟持されている。
図9中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図9の右面)は、入力軸1の外周面に形成されたネジ部1eに螺合されたローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
図9のA−A線に沿う断面図である図10に示すように、ケーシング50の内側であって、出力側ディスク3,3の側方位置には、両ディスク3,3を両側から挟む状態で一対のヨーク23A,23Bが支持されている。これら一対のヨーク23A,23Bは、鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。そして、後述するトラニオン15の両端部に設けられた枢軸14を揺動自在に支持するため、ヨーク23A,23Bの四隅には、円形の支持孔18が設けられるとともに、ヨーク23A,23Bの幅方向の中央部には、円形の係止孔19が設けられている。
一対のヨーク23A,23Bは、ケーシング50の内面の互いに対向する部分に形成された支持ポスト64,68により、僅かに変位できるように支持されている。これらの支持ポスト64,68はそれぞれ、入力側ディスク2の内側面2aと出力側ディスク3の内側面3aとの間にある第1キャビティ221および第2キャビティ222にそれぞれ対向する状態で設けられている。
したがって、ヨーク23A,23Bは、各支持ポスト64,68に支持された状態で、その一端部が第1キャビティ221の外周部分に対向するとともに、その他端部が第2キャビティ222の外周部分に対向している。
第1および第2のキャビティ221,222は同一構造であるため、以下、第1キャビティ221のみについて説明する。
図10に示すように、ケーシング50の内側において、第1キャビティ221には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸(傾転軸)14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図10においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、その本体部である支持板部16の長手方向(図10の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部(第1の軸部)23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部(第2の軸部)23bの周囲には、各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
また、前述したように、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図10の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。前述したように、各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受(傾転軸受)30を介して揺動自在(傾転自在)に支持されている。また、前述したように、ヨーク23A,23Bの幅方向(図10の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は球状凹面として、支持ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68及びこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図10で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉26,26と、これら各玉26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図10の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(枢軸14から延びる軸部)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、駆動軸22の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2および入力軸1に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位(オフセット)する。例えば、図10の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11及びこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
以上のように、上記構成のトロイダル型無段変速機では、入力側ディスク2と出力側ディスク3との間に一対のパワーローラ11が挟持され、また、これらのパワーローラ11がトラニオン15に支持されている。そして、変速は、トラニオン15が上下軸方向への移動に応じて傾転し、パワーローラ11と入力側ディスク2との接触半径およびパワーローラ11と出力側ディスク3との接触半径が変化することにより連続的に行なわれる。また、その場合のパワーローラ11の傾転方向の保持は、トラニオン15同士の動きを同期させる同期ワイヤ(図示せず)と、入力トルクがゼロまたは微少であってもディスク2,3とパワーローラ11との接触面に押し付け力を与える皿ばね8の推力とによって保たれる。
しかしながら、従来から、各トラニオン15の傾転方向は、組立時および組立途中に実施される調整作業後においても目視により定められており、また、組立時(特に、枢軸14のシャフトおよびローディングナット9を締め付ける際)に回転してしまう(傾転ずれを引き起こしてしまう)可能性が高い。
このように各トラニオン15の傾転方向がずれた状態では、皿ばね8の調整時に得られる隙間の数値が安定せず、適切な調整が行なえなくなる。また、トラニオン15の傾転ずれが生じた状態で運転を行なうと、運転初期時にバリエータのハンチングや滑りが発生してしまう確率が高い。ハンチングが発生してしまうと、運転ができないばかりでなく、ディスク2,3およびパワーローラ11のトラクション面並びに他部品にも負担がかかり、傷、形状不良、変荷重等を招く虞が生じるとともに、製品寿命への影響も懸念される。また、時には、ハンチングを解決できず、再度ケーシング50を分解しなければならなくなる場合もある。このような事態は、試験および車載への大きなロスタイムとなり、また、量産組立上においてもロスとなる。
また、組み立てられたバリエータを試験装置に固定する際に実施する芯出し作業時およびカップリング等への接続時においても、バリエータをやむをえず回転させてしまうことがある。そうした場合、油圧で固定されていないトラニオン15は、任意の位置で組み立てられているピストン33の位置に合わせて傾転しようとしてしまう。
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、組立時および組立後においてもトラニオンの傾転方向のずれを防止できるトロイダル型無段変速機の組立治具および組立方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、請求項1に記載の組立治具は、ケーシングと、このケーシングの内側にそれぞれの内周面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持された複数のパワーローラと、前記パワーローラを回転自在に支持する傾転可能な複数のトラニオンと、前記各トラニオンの一端に締結されるトラニオンシャフトとを備えたトロイダル型無段変速機の組み立てに使用される組立治具であって、対応する前記トラニオンの他端または当該他端に取り付けられた取付部材に対して回り止め嵌合状態で着脱可能に前記ケーシングに設けられた貫通穴を通じて前記ケーシングの外側から取り付けられるシャフト治具と、各トラニオンに取り付けられた複数のシャフト治具を一括して支持することにより複数のトラニオンをその所定の組立位置で一括して支持し、それにより、トラニオンの傾転を阻止する位置決めプレートとを備えていることを特徴とする。
この請求項1に記載された発明においては、組み立て時にトラニオンの傾転角の向きを治具で固定することにより、例えばトラニオンシャフトやローディングナットを締め付ける際にトラニオンの傾転角が変わらないようにすることができる。したがって、組立時にトラニオンの傾転角のずれを気にして注意深く作業を行なう必要がなくなり、組立作業性が向上するとともに、皿ばね調整時には安定した隙間寸法を得ることができ、調整間座の決定も容易となる。また、このように治具を用いてトラニオンを所定の傾転位置で確実に組み立てることができれば、運転開始時におけるハンチングの発生を防止できるとともに、ハンチングに伴ってトラクション面に発生する変荷重を抑えることもできるため、製品寿命を長くすることができる。
また、治具がケーシングに対してその外側から着脱自在に取り付けられているため、組立後においても治具を取り付けた状態に維持することができるとともに、組立後において治具をいつでも取り外すことができる。したがって、組み立て後に変速機を試験機に設置するまでの間或いは車載までの間にわたって治具を取り付けた状態に保持することにより、入力軸等を回転させたとしてもトラニオンの傾転角を変化させずに済む。
また、請求項2に記載された組立治具は、請求項1に記載された組立治具において、前記位置決めプレートは、複数の前記トラニオンに取り付けられた各シャフト治具と個別に係合してこれらの各シャフト治具の傾転を阻止する複数の係合溝または係合穴を有していることを特徴とする。
この請求項2に記載された発明においては、位置決めプレートの複数の係合溝または係合穴のそれぞれに複数のトラニオンの各シャフト治具を個別に係合させることにより各トラニオンの傾転を阻止するようにしているため、組立時におけるトラニオンの傾転角の変化を確実に且つ容易に規制することができる。
また、請求項3に記載された組立治具は、請求項2に記載された組立治具において、前記係合溝または係合穴は、各シャフト治具に設けられた一対の平行な面と嵌合する一対の平行な対向面を有していることを特徴とする。
この請求項3に記載された発明においては、係合溝または係合穴にトラニオンのシャフト治具を嵌め込むだけでトラニオンの傾転を阻止することができるため、効率的である。
また、請求項4に記載された組立治具は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載された組立治具において、前記位置決めプレートが分割可能であることを特徴とする。
この請求項4に記載された発明においては、必要に応じて治具を部分的に分解することができるため、治具取付後における部分的な微調整など、組立状況に応じた対応を迅速にとることができ、利便性に優れる。
また、請求項5に記載された組立治具は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の組立治具において、前記シャフト治具または前記トラニオンの他端或いは当該他端に取り付けられた取付部材には、これらの嵌合を案内するための案内手段が設けられ、この案内手段に沿う嵌合によってトラニオンの傾転方向が所定の方向に矯正されることを特徴とする。
この請求項5に記載された発明においては、トラニオン側に対するシャフト治具の取り付けによって同時にトラニオンの傾転方向が所定の方向に矯正されるため、トラニオン側に対するシャフト治具の取り付け前にトラニオンの傾転位置を所定の位置に設定する作業を行なわずに済み、組み立て工程を減らして組み立て作業に要する労力およびコストを減らすことができる。
また、請求項6に記載されたトロイダル型無段変速機の組立方法は、ケーシングと、このケーシングの内側にそれぞれの内周面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持された複数のパワーローラと、前記パワーローラを回転自在に支持する傾転可能な複数のトラニオンと、前記各トラニオンの一端に締結されるトラニオンシャフトとを備えたトロイダル型無段変速機の組立方法であって、複数の前記トラニオンを所定の状態に組み立てて、これらのトラニオンの傾転位置を所定の位置に設定する工程と、所定の傾転位置に設定された複数の前記トラニオンの前記他端または当該他端に取り付けられた取付部材に対してシャフト治具を回り止め嵌合状態で着脱可能に前記ケーシングに設けられた貫通穴を通じて前記ケーシングの外側から取り付ける工程と、各トラニオンに取り付けられた複数の前記シャフト治具を位置決めプレートにより一括して支持することにより複数のトラニオンをその所定の組立位置で一括して支持し、それにより、トラニオンの傾転を阻止する工程と、前記位置決めプレートによってトラニオンの傾転を阻止した状態で、各トラニオンの前記一端にトラニオンシャフトを締結する工程とを含むことを特徴とする。
この請求項6に記載された発明においては、組み立て時にトラニオンの傾転角の向きを治具で固定することにより、例えばトラニオンシャフトやローディングナットを締め付ける際にトラニオンの傾転角が変わらないようにすることができる。したがって、組立時にトラニオンの傾転角のずれを気にして注意深く作業を行なう必要がなくなり、組立作業性が向上するとともに、皿ばね調整時には安定した隙間寸法を得ることができ、調整間座の決定も容易となる。また、このように治具を用いてトラニオンを所定の傾転位置で確実に組み立てることができれば、運転開始時におけるハンチングの発生を防止できるとともに、ハンチングに伴ってトラクション面に発生する変荷重を抑えることもできるため、製品寿命を長くすることができる。また、複数のトラニオンをその所定の組立位置で治具により一括して支持できるため、トラニオンに対する治具の組み付けが容易になる。
また、請求項7に記載されたトロイダル型無段変速機の組立方法は、ケーシングと、このケーシングの内側にそれぞれの内周面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的に且つ回転自在に支持された入力側ディスクおよび出力側ディスクと、前記入力側ディスクと前記出力側ディスクとの間に挟持された複数のパワーローラと、前記パワーローラを回転自在に支持する傾転可能な複数のトラニオンと、前記各トラニオンの一端に着脱自在に締結されるトラニオンシャフトとを備えたトロイダル型無段変速機の組立方法であって、複数の前記トラニオンを所定の状態に組み立てる工程と、所定の状態に組み立てられた複数の前記トラニオンの前記他端または当該他端に取り付けられた取付部材に対して所定の案内手段に沿ってシャフト治具を前記ケーシングに設けられた貫通穴を通じて前記ケーシングの外側から挿入することにより、トラニオンの傾転位置を所定の位置に設定するとともに、シャフト治具を前記トラニオンに対して回り止め嵌合状態で着脱可能に取り付ける工程と、各トラニオンに取り付けられた複数の前記シャフト治具を位置決めプレートにより一括して支持することにより複数のトラニオンをその所定の組立位置で一括して支持し、それにより、トラニオンの傾転を阻止する工程と、前記位置決めプレートによってトラニオンの傾転を阻止した状態で、各トラニオンの前記一端にトラニオンシャフトを着脱自在に締結する工程とを含むことを特徴とする。
この請求項7に記載された発明においては、トラニオン側に対するシャフト治具の取り付けによって同時にトラニオンの傾転方向が所定の方向に矯正されるため、トラニオン側に対するシャフト治具の取り付け前にトラニオンの傾転位置を所定の位置に設定する作業を行なわずに済み、組み立て工程を減らして組み立て作業に要する労力およびコストを減らすことができる。
本発明によれば、組立時および組立後においても治具によりトラニオンの傾転方向のずれを防止できる。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の特徴は、組立時におけるトラニオンの傾転角の変化を規制するための手段にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図9および図10と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
図1は本発明の実施形態を示している。図示のように、複数のトラニオン15が所定の状態に組み立てられており、また、各トラニオン15の傾転位置(傾転角)が所定の位置(角度)に設定されている。この状態から、各トラニオン15の一端にトラニオンシャフト500(図2参照)を締結する締結時、トラニオンシャフトやローディングナットを締め付ける調整時、および、更なる組立時に、トラニオン15の傾転角が設定角から変化しないように、組立治具300が使用される。
図1および図2に示すように、組立治具300は、対応する複数(この図では、4個)のトラニオン15の他端または当該他端に取り付けられた取付部材(これについては、後述する)に対して回り止め嵌合状態で着脱可能に取り付けられるシャフト治具(この図では、4個)300Aと、各トラニオン15に取り付けられた複数のシャフト治具300Aを一括して支持することにより複数のトラニオン15をその所定の組立位置で一括して支持し、それにより、トラニオン15の傾転を阻止する位置決めプレート300Bとを備えている。特に、本実施形態において、位置決めプレート300Bは、複数のトラニオン15に取り付けられた各シャフト治具300Aを一括して支持するように、すなわち、複数のトラニオン15をその所定の組立位置で一括して支持するように2つのキャビティ221,222にわたって延在する板状体としての本体部300bと、各トラニオン15の設定された傾転角位置を固定するための位置決め部材300aとから成っている。本体部300bには、各シャフト治具300Aの端部が挿通される貫通穴320が形成されている。また、位置決め部材300aには、貫通穴320を貫通するシャフト治具300Aの端部と係合してトラニオン15の傾転を阻止する係合部が設けられている。具体的に、この係合部は、複数の各シャフト治具300Aの一端部と個別に係合してこれらの各シャフト治具300Aの傾転、したがって、トラニオン15(枢軸14)の傾転を阻止する複数(本実施形態では4つ)の係合溝310から成っている。なお、係合部は、このような溝状ではなく、貫通穴の形態を成していても良い。
また、本実施形態において、位置決め部材300aに設けられた複数の係合溝310はそれぞれ、各シャフト治具300Aの端部に設けられた一対の平行な面330,332と嵌合する一対の平行な対向面310a,310bを有している(図2参照)。
図3および図4は、対応する複数のトラニオン15の他端または当該他端に取り付けられた取付部材に対してシャフト治具300Aを回り止め嵌合状態で着脱可能に取り付けるための手段の幾つかの例を示している。
図3の(a)は第1の例を示しており、トラニオン15の他端を形成する枢軸14にスプライン状の嵌合穴340が形成されている。一方、シャフト治具300Aは、図4の(d)に示されるように、嵌合穴340と一致するスプライン状の外形状を成す端部400を有している。この第1の例では、シャフト治具300Aのスプライン状の端部400がトラニオン15の枢軸14のスプライン状の嵌合穴340に挿入されることにより、シャフト治具300Aがトラニオン15の他端に対して回り止め嵌合状態で着脱可能に取り付けられる。
図3の(b)は第2の例を示している。この第2の例では、トラニオン15の他端を形成する枢軸14には、一対の平行な対向面を有する(二面幅状の)嵌合穴342が形成されている。一方、シャフト治具300Aの端部には、図2に示すような一対の平行な面330,332が設けられている。したがって、一対の平行な面330,332を有するシャフト治具300Aの端部がトラニオン15の枢軸14の二面幅状の嵌合穴342に挿入されることにより、シャフト治具300Aがトラニオン15の他端に対して回り止め嵌合状態で着脱可能に取り付けられる。
図3の(c)は第3の例を示しており、トラニオン15の他端を形成する枢軸14の端面にスプライン状の嵌合突起344が形成されている。一方、図示しないが、シャフト治具300Aの端部には、嵌合突起344と一致するスプライン状を有する嵌合穴が形成されている。この第3の例では、シャフト治具300Aのスプライン状の嵌合穴にトラニオン15の枢軸14のスプライン状の嵌合突起344を挿入することにより、シャフト治具300Aがトラニオン15の他端に対して回り止め嵌合状態で着脱可能に取り付けられる。
図3の(d)は第4の例を示している。この第4の例では、トラニオン15の他端を形成する枢軸14には、半月状の嵌合穴346が形成されている。一方、図示しないが、シャフト治具300Aは、半月状の外形状を成す端部400を有している。したがって、シャフト治具300Aの半月状の端部がトラニオン15の枢軸14の半月状の嵌合穴346に挿入されることにより、シャフト治具300Aがトラニオン15の他端に対して回り止め嵌合状態で着脱可能に取り付けられる。
図4の(a)は第5の例を示しており、トラニオン15の他端を形成する枢軸14の端面に二面幅状(対向する一対の平行な面を両側に有する)の嵌合突起348が形成されている。一方、図示しないが、シャフト治具300Aの端部には、二面幅状の嵌合穴が形成されている。この第5の例では、シャフト治具300Aの二面幅状の嵌合穴にトラニオン15の枢軸14の二面幅状の嵌合突起348を挿入することにより、シャフト治具300Aがトラニオン15の他端に対して回り止め嵌合状態で着脱可能に取り付けられる。
図4の(b)は第6の例を示しており、トラニオン15の他端を形成する枢軸14の端面に半月状の嵌合突起350が形成されている。一方、図示しないが、シャフト治具300Aの端部には、半月状の嵌合穴が形成されている。この第6の例では、シャフト治具300Aの半月状の嵌合穴にトラニオン15の枢軸14の半月状の嵌合突起350を挿入することにより、シャフト治具300Aがトラニオン15の他端に対して回り止め嵌合状態で着脱可能に取り付けられる。
図4の(c)は第7の例を示している。この第7の例では、トラニオン15の他端を形成する枢軸14に取付部材としてのプーリ360(例えば、前述した同期ワイヤが掛け渡される)が取り付けられており、このプーリ360には、一対の平行な対向面を有する(二面幅状の)嵌合穴342が形成されている。一方、シャフト治具300Aの端部には、図2に示すような一対の平行な面330,332が設けられている。したがって、一対の平行な面330,332を有するシャフト治具300Aの端部がプーリ360の二面幅状の嵌合穴342に挿入されることにより、シャフト治具300Aがトラニオン15の他端(他端の取付部材)に対して回り止め嵌合状態で着脱可能に取り付けられる。
また、本実施形態では、シャフト治具300Aまたはトラニオン15の他端或いは当該他端に取り付けられた取付部材に、これらの嵌合を案内するための案内手段を設け、この案内手段に沿う嵌合によってトラニオン15の傾転方向が所定の方向に矯正されることが好ましい。そのような案内手段の一例が図5および図6に示されている。図示のように、この例では、案内手段がトラニオン15の枢軸14の嵌合穴550に設けられている。具体的には、嵌合穴550は、シャフト治具300Aと嵌合するように円形断面を有しており、嵌合穴550の内面には、当該嵌合穴550へのシャフト治具300Aの挿入嵌合によってトラニオン15の傾転方向を所定の方向に矯正するように形成された所定形状の案内カム面552が設けられている。一方、シャフト治具300Aの端部外面にも、案内カム面552と係合するための係合カム突起560が形成されている。この構成では、シャフト治具300Aを嵌合穴550に挿入することにより、パワーローラ11の傾転角が固定される。
このような構成の組立治具300を用いてトロイダル型無段変速機を組み立てる際には、まず、複数のトラニオン15を所定の状態に組み立てて、これらのトラニオン15の傾転位置(傾転角)を所定の位置(角度)に設定する。特に、本実施形態では、入力側ディスク2と出力側ディスク3の接触半径が同一で1:1の関係にある状態で組み立てが行なわれる。その後、所定の傾転位置(傾転角)に設定された複数のトラニオン15を1つのユニット(トラニオンユニット)として図7の(a)に示されるトランスミッションケーシング50内に挿入する。次に、各シャフト治具300Aを、ケーシング50に設けられた貫通穴700を通じてケーシング50の外側から対応するトラニオン15の他端または当該他端に取り付けられた取付部材に対して取り付ける。この場合、図3および図4を参照して説明した回り止め嵌合形態で着脱自在に取り付ける(なお、この際に、前述した案内手段によってトラニオン15の傾転方向が所定の方向に矯正されても良い)。その後、貫通穴700を通じてケーシング50の外部に突出する複数のシャフト治具300Aを位置決めプレート300Bの本体部300bにより一括して支持する(各シャフト治具300Aの端部を本体部300bの貫通穴320に挿通させる)ことにより複数のトラニオン15をその所定の組立位置で一括して支持する。そして、本体部300bの貫通穴320から突出する各シャフト治具300Aの端部を位置決め部材300aの対応する係合溝310に挿入し(このとき、各貫通穴320に対応して本体部300bに設けられた位置決めライン800と平行な面330,332とが一致するようにトラニオン15の向きを調整する)、各シャフト治具300Aに設けられた一対の平行な面330,332と各係合溝310の一対の平行な対向面310a,310bとが嵌合されることにより、各トラニオン15の傾転が阻止される。その状態が図1および図7の(b)(c)に示されている。そして、このように組立治具300によって複数のトラニオン15の傾転が規制された状態で、各トラニオン15の前記一端にトラニオンシャフト500を締結する。その後、図8(a)に示すように、ケーシング50にオイルパン900を装着した後、図8の(b)に示すように治具300を取り外し、最後に、図8の(c)に示すように治具用の貫通穴700にカバーもしくはセンサ910を取り付ける。
以上説明したように、本実施形態においては、組み立て時にトラニオン15の傾転角の向きを組立治具300で固定することにより、例えばトラニオンシャフトやローディングナット9を締め付ける際にトラニオン15の傾転角が変わらないようにすることができる。したがって、組立時にトラニオン15の傾転角のずれを気にして注意深く作業を行なう必要がなくなり、組立作業性が向上するとともに、皿ばね8の調整時には安定した隙間寸法を得ることができ、調整間座の決定も容易となる。このような作用効果は非常に有益である。なぜなら、変速比によって入力側ディスク2は前後に僅かに移動してしまうため、各トラニオン15の傾転角が違っていたり、また、ずれている状態で皿ばね8の調整を行なってしまうと、押圧力が一定しない等の不具合が起こることから、ある特定の位置(例えば、90°、変速比1:1)で固定した状態で皿ばね8の調整を行なう必要があるからである。
また、本実施形態のように組立治具300を用いてトラニオン15を所定の傾転位置で確実に組み立てることができれば、運転開始時におけるハンチングの発生を防止できるとともに、ハンチングに伴ってトラクション面に発生する変荷重を抑えることもできるため、製品寿命を長くすることができる。
また、本実施形態においては、複数のトラニオン15をその所定の組立位置で治具300により一括して支持できるため、トラニオン15に対する治具300の組み付けが容易になるとともに、位置決めプレート300Bの複数の係合溝310のそれぞれにトラニオン15に組み付いた各シャフト治具300Aを個別に係合させることにより各枢軸14の傾転を阻止するようにしているため、組立時におけるトラニオン15の傾転角の変化を確実に且つ容易に規制することができる。
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できることは言うまでもない。たとえば、前述した実施形態では、入力側ディスク2と出力側ディスク3の接触半径が同一で1:1の関係にある状態で組み立てが行なわれ、その状態で治具により傾転角固定が行なわれているが、90°、変速比1:1以外の角度で治具により固定されても良い。
本発明は、本発明は、シングルキャビティ型やダブルキャビティ型などの様々なハーフトロイダル型無段変速機に適用することができ。
本発明の実施形態に係るトロイダル型無段変速機に組み付けられた組立治具の斜視図である。
図1の組立治具の一部分解された状態を示す斜視図である。
(a)〜(d)は、対応する複数のトラニオンの他端または当該他端に取り付けられた取付部材に対してシャフト治具を回り止め嵌合状態で着脱可能に取り付けるための手段の第1ないし第4の例を示す斜視図である。
(a)〜(c)は、対応する複数のトラニオンの他端または当該他端に取り付けられた取付部材に対してシャフト治具を回り止め嵌合状態で着脱可能に取り付けるための手段の第5ないし第7の例を示す斜視図、(d)はシャフト治具の一例を示す側面図である。
(a)はトラニオンの傾転方向を所定の方向に矯正するための手段を示す斜視図、(b)はその概略説明図である。
トラニオンの傾転方向を所定の方向に矯正するための図5に対応する手段を示す斜視図である。
組立治具を使用する組み立て手順を示す斜視図である。
組立治具を使用する組み立て手順を示す斜視図である。
従来から知られているトロイダル型無段変速機の具体的構造の一例を示す断面図である。
図10のA−A線に沿う断面図である。
符号の説明
2 入力側ディスク
3 出力側ディスク
11 パワーローラ
14 枢軸
15 トラニオン
16 支持板部
50 ケーシング
300 組立治具
300A シャフト治具
300B 位置決めプレート
310 係合溝
310a,310b 対向面
330,332 平行な面