JP5191508B2 - アーク溶接方法 - Google Patents

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本発明は、アーク溶接方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、開先アーク溶接施工において、ワイヤ送給速度を周期的に変動することによって溶接ワイヤのアーク発生点(溶接ワイヤ先端)を上下方向へ揺動させ、この上下揺動と溶接電流特性との間の位相差を制御することによって母材開先面でのアーク熱密度分布を自在に制御することを特徴とした高能率で高品質な溶接方法に関するものである。
従来、アーク溶接においては、V,K,レ型等および狭開先溶接継手の狭隘間隙部(開先底部)での融合不良などの溶接欠陥を防ぐためにその開先底部に十分なアーク入熱を投与することが必要であることが知られている。だが、開先の底部を十分に溶融するために大入熱アーク溶接法を用いると溶接時の熱により溶接継手部での金属学的な特性劣化や溶接変形が問題となる。これらの問題を解決するため、開先内でアーク熱の分散化と集中化を適切に制御することが不可欠である。
しかしながら、従来においては、各種の工夫が試みられているものの、アーク熱分布を自在に制御することは容易ではなく、この制御を可能として高能率で高品質な溶接を行うことは依然としてアーク溶接法の大きな課題になっていた。
そこで、本発明のアーク溶接方法は、上記のとおりの課題を解決するために、消耗電極式のアーク溶接方法であって、溶接ワイヤの送給に対して溶接ワイヤの送給波形を正弦波または矩形波に変化させ、この溶接ワイヤの送給波形に対して位相をずらすか、または位相をずらさずにアーク電流波形またはアーク電圧波形を使用するアーク溶接方法であって、
(ア)前記溶接ワイヤの送給波形の周期が0.4秒であり、アーク電流特性としてのパルス電圧の周期が0.4秒であるときに、溶接ワイヤの送給波形とパルス電圧の波形の間の位相差を−π/4とすること、
(イ)前記溶接ワイヤの送給波形の周期が0.4秒であり、アーク電流特性としてのパルス電圧の周期が0.2秒であるときに、溶接ワイヤの送給波形とパルス電圧の波形の間の位相差をπ/2とすること、および、
(ウ)前記溶接ワイヤの送給波形の周期が0.4秒であり、アーク電流特性としての交流の周期が0.2秒であるときに、溶接ワイヤの送給波形と交流の波形の間の位相差を0とすること、
のうちのいずれかとすることを特徴としている。
本発明では、消耗電極ワイヤの送給速度を周期的に変動させ、溶接ワイヤのアーク発生点(ワイヤ先端)をアーク軸方向に揺動させる。この揺動に溶接パルス電流を協調させることにより、アーク入熱点(溶液ワイヤ先端)挙動範囲と移動速度を制御し、適切に開先底部へ熱エネルギーを投入しながら開先面のアーク熱密度分布を任意に形成することのできる消耗電極式アーク溶接方法としている。
この溶接方法では開先内の熱密度分布を適切に制御できるので、過大入熱を回避した母材の特性を損なわない組織保存型の溶接施工が可能となる。また、従来では施工が困難な開先幅10mm以下の超狹開先の消耗式電極溶接(MIG,MAG,CO2 ,SAW)に有効である。また、溶接時の溶融領域や熱影響部を最小化できるので変形、残留応力の低減にも効果が大きい。
本発明によって、母材の開先面にアーク熱の分散化と集中化を自在に制御できる溶接システムが提供される。アークの入熱密度分布の制御を行うことによって、過大な溶接入熱となるのを抑制しながら母材溶融の確保を可能とする。また同時に、溶接時の熱密度を低減できるので、母材の特性を損なわない組織保存型の溶接施工が期待される。
溶接装置の構成を例示した概要図である。 従来法(a)と、ワイヤ送給速度とパルス電流との位相制御(b)によるワイヤ端の挙動変化を示した図である。 ワイヤ送給速度周波数とワイヤ上下揺動幅との関係を例示した図である。 具体例として、ワイヤ送給速度が一定の従来法の場合の、ワイヤ端の挙動変化を示した図である。 実施例としてのワイヤ端の挙動変化を示した図である。 別の実施例としてのワイヤ端の挙動を示した図である。 実施例としての交流パルスアーク溶接時のワイヤ端の挙動を示した図である。
以下に、詳しく本発明の実施の形態について説明する。まず、図1は、本発明の方法に用いることのできる溶接装置を例示したものである。この図1の装置においては、溶接電源1に接続されている溶接トーチ2と、この溶接トーチ2を介して消耗電極としての溶接ワイヤ3を送給するワイヤ送給装置7とを備えており、しかも、溶接ワイヤ3は送給装置7によって、その送給速度が周期的に変動されて、たとえば狹開先継手を形成する被溶接材4の開先内において、アーク入熱点(ワイヤ先端)が、発生されるアーク5の軸方向、つまり図1の上下方向に揺動可能とされている。
従来の溶接方法においては、溶接ワイヤ3の送給速度は一定に保たれているが、本発明の溶接方法においては、溶接ワイヤ3の送給速度は一定でなしに周期的に変動することになる。なお、図1図中の符号6は溶融金属を、Zは、ワイヤ端の位置(開先底部からの距離)を示している。
さらに従来法との比較として説明すると、たとえば、図2(a)は、ワイヤ送供速度が一定な従来法における直流パルスアークを例示したものであるが、大電流時にワイヤ溶融量が大きくなりワイヤ端がA1からA2に上昇する。A2に達した後にアーク電流を下げるとワイヤの溶融量が少なくなりワイヤ端がA3まで下がる。しかしこの開先底部で、アーク電流が低下するため入熱量は相対的に小さくなり、底部の溶融確保には不適当な状態となる。
一方、本発明の方法を例示した図2(b)の溶接ワイヤの送給速度を増減する直流パルス溶接では、この溶接ワイヤの送給速度の周期的変化とパルス発生時の位相差を制御することにより、ワイヤ端が開先底部にある時に大電流となるようにすることができる。これによって、開先底部の溶融確保が容易となる。被溶接材の開先でのワイヤ端のアーク発生位置は、溶接電源特性、溶接アーク電流・電圧波形、ワイヤ極性等の変化によって、制御可能であるが、溶接ワイヤの送給速度に対して、これらの諸条件を協調させて設定するとき入熱分布を自在かつ効果的に制御することができる。
そして、溶接ワイヤの送給速度とアーク電流特性の変更時の位相差を最適なものに制御することで、開先底部での母材としての被溶接材の溶融を確保することができる。この最適化については、溶接ワイヤの送給速度の変動周期(周波数)とアーク電流特性、たとえば直流パルス電流の変動周期(周波数)の設定等によって最適位相差が異なることが考慮される。
そこで、これらの周期(周波数)をどのように考えるかの点は、たとえば次の例を参照することができる。すなわちまず、平均ワイヤ送給速度Vfav に対する周期的ワイヤ送給速度の変動V6 の割合Vfrが一定の場合、変動周波数が大きくなると、ワイヤ端の上下揺動幅ΔZが急激に減し、熱密度分布制御の効果が得られなくなる。たとえば図3は、直流パルス電流の場合について、位相差が−π/4におけるワイヤ送給速度変動周波数fとワイヤ端揺動振幅ΔZとの関係を例示したものであるが、前記Vfrが0.25〜0.75において、ワイヤ送給速度周波数fが10Hzまで大きくなるとワイヤ端の上下揺動幅ΔZが急減し、10Hz以上では最小のレベルで平均化されることがわかる。
そこで、たとえば溶接入熱量〜25kJ/cmを想定した溶接条件において開先内を1溶接で開先底部から高さ約10mmまで溶着金属で埋めるとすると、ワイヤ端の上下変動量は、少なくとも5mm以上、最大で10mm強を目標とし、この範囲で入熱密度分布を与えることが考慮される。してみると、図3からは、ワイヤ送給速度変動周波数fは10Hz以下を目安とすることが望ましいことになる。
また、パルス電流についても、パルス周波数を大きくすると、ワイヤの溶融速度も平均化された電流で支配されることになり、ワイヤ端のパルス電流による揺動効果が期待できないことになる。そしてたとえば、前記の溶接条件と、ワイヤ端の上下変動量を考慮すると、10Hz以下の電流のパルス周波数を目安とすることが望ましい。
そこで、溶接ワイヤの送給速度とアーク電流特性の変更時との位相差を制御する本発明の方法をより具体的に例示説明する。まず図4は、ワイヤ送給速度を一定とした従来の溶接方法において、パルス電圧の周期を0.4秒とした場合の溶接電流とワイヤ端位置を例示したものであるが、パルス電流印加時にはアーク発生端(ワイヤ端)は開先底部から上方へ急速に移動し、開先底部には十分な熱を投与することができない。
一方、パルス電圧の周期を0.4秒として、ワイヤ送給速度の変動周期も0.4秒とした場合のアーク発生端(ワイヤ端)とパルス電流との相互関係を例示したものが図5である。位相差−π/4のときが適正条件であり、パルス電流印加時に、ワイヤ端は開先底部に存在し、かつその後最も緩やかに上方に移動し、図4の従来法に比べて、開先底部に熱を投与できることがわかる。
さらに、パルス電圧の周期を0.2秒とし、ワイヤ送給速度の変動周期を0.4秒とした場合、つまり送給速度変動1周期に2パルスが生成する場合について例示したのが図6である。位相差がπ/2の場合にワイヤ端が開先底部付近で停留し、かつ、このとき1パルスの入熱が効果的に投与されることがわかる。以上の直流パルスアーク溶接に代えて交流アーク溶接を行う場合を例示したものが図7である。交流の周期は、0.2秒であり、ワイヤ送給速度の変動周期は0.4秒とした場合である。交流アークの場合には、ワイヤ側が正の極性となるときに被溶接材が効果的に溶融できる。またワイヤ側が負の極性時には正の極性時に比較して溶融素度が大きくなることから、周期的なワイヤ送給速度変動とワイヤの溶融速度変動の相対関係によってワイヤ端位置が複雑に変化する。図7では、位相差を0とした時が適正な場合で、ワイヤ端が開先底部で停留する時にワイヤ側が正の極性となり(溶融電流が正の時)、開先底部の溶融を確保できるようになることがわかる。
そして、これらのことからは、溶接電流波形(入熱)を任意に設定することで母材開先面への熱密度分布をさらに自在に制御することが可能となる。以上のとおりの本発明によって、開先内の熱密度分布を自在に制御でき、通常V,レ,K型等開先内および開先幅10mm以下の超狹開先内での開先底部の溶融確保とビード表面形状平滑化が同時に制御可能な溶接施工が行え、また、このことから過大な溶接入熱とならず母材の特性を損なわない組織保存型の溶接施工が可能となる。
1 溶接電源
2 溶接トーチ
3 溶接ワイヤ
4 被溶接材
5 溶接アーク
6 溶融金属
7 ワイヤ送給装置

Claims (1)

  1. 消耗電極式のアーク溶接方法であって、溶接ワイヤの送給に対して溶接ワイヤの送給波形を正弦波または矩形波に変化させ、この溶接ワイヤの送給波形に対して位相をずらすか、または位相をずらさずにアーク電流波形またはアーク電圧波形を使用するアーク溶接方法であって、
    (ア)前記溶接ワイヤの送給波形の周期が0.4秒であり、アーク電流特性としてのパルス電圧の周期が0.4秒であるときに、溶接ワイヤの送給波形とパルス電圧の波形の間の位相差を−π/4とすること、
    (イ)前記溶接ワイヤの送給波形の周期が0.4秒であり、アーク電流特性としてのパルス電圧の周期が0.2秒であるときに、溶接ワイヤの送給波形とパルス電圧の波形の間の位相差をπ/2とすること、および、
    (ウ)前記溶接ワイヤの送給波形の周期が0.4秒であり、アーク電流特性としての交流の周期が0.2秒であるときに、溶接ワイヤの送給波形と交流の波形の間の位相差を0とすること、
    のうちのいずれかとすることを特徴とするアーク溶接方法。
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