以下、本発明の緩衝器のバルブ構造を図に基づいて説明する。図1は、一実施の形態における緩衝器のバルブ構造が具現化された緩衝器のピストン部における縦断面図である。図2は、板バネの変形状態を示すモデル図である。図3は、板バネの全周をバルブ抑え部材に当接させて附勢した際の撓み量と附勢力の特性を示した図である。図4は、一実施の形態の緩衝器のバルブ構造におけるバルブ抑え部材の断面図である。図5は、一実施の形態の緩衝器のバルブ構造におけるバルブ抑え部材の平面図である。図6は、一実施の形態における緩衝器のバルブ構造が具現化された板バネが撓んでバルブ抑え部材を附勢している状態を示した図である。図7は、一実施の形態における緩衝器のバルブ構造が具現化された板バネの撓み量と附勢力の特性を示した図である。図8は、一実施の形態の緩衝器のバルブ構造が具現化した緩衝器における減衰特性を示す図である。図9は、円周方向幅が異なる凸部を備えたバルブ抑え部材を板バネで附勢した際の撓み量に対する附勢力を解析した結果を示した図である。図10は、円周方向幅が異なる凸部を備えたバルブ抑え部材を板バネで附勢した際の撓み量に対する板バネにおける内部応力の最大値を解析した結果を示した図である。図11は、一実施の形態の一変形例における緩衝器のバルブ構造が具現化された緩衝器のピストン部における縦断面図である。図12は、一実施の形態の一変形例における緩衝器のバルブ構造が具現化された板バネとバルブ抑え部材の平面図である。
一実施の形態における緩衝器のバルブ構造は、図1に示すように、緩衝器のピストン部の伸側減衰バルブとして具現化されており、ポート2が形成されるバルブディスクたるピストン1と、ピストン1の軸心部から立ち上がる軸部材たるピストンロッド5の先端5aと、内周側に上記ピストンロッド5が挿通されるととともにピストン1に積層されポート2を閉塞する環状のリーフバルブ10と、リーフバルブ10に積層される環状のバルブ抑え部材11と、環状であって内周側をピストンロッド5に固定され外周側を自由端としてポート2を閉塞する方向にバルブ抑え部材11を介してリーフバルブ10を附勢する板バネ15とを備えて構成されている。
他方、バルブ構造が具現化される緩衝器は、周知であるので詳細には図示して説明しないが、具体的にたとえば、シリンダ40と、シリンダ40の上端を封止するヘッド部材(図示せず)と、ヘッド部材(図示せず)を摺動自在に貫通するピストンロッド5と、軸部材を形成するピストンロッド5の先端5aが挿通されて上記先端5aに固定されるピストン1と、シリンダ40内にピストン1で隔成される図1中上方側の一方室41と下方側の他方室42と、シリンダ40の下端を封止する封止部材(図示せず)と、シリンダ40から出没するピストンロッド5の体積分のシリンダ内容積変化を補償する図示しないリザーバあるいはエア室とを備えて構成され、シリンダ40内には流体、具体的には作動油が充填されている。
そして、上記バルブ構造にあっては、シリンダ40に対してピストン1が図1中上方に移動するときに、上室41内の圧力が上昇して上室41から下室42へポート2を介して作動油が移動するときに、その作動油の移動にリーフバルブ10で抵抗を与えて所定の圧力損失を生じせしめて、緩衝器に所定の減衰力を発生させる減衰力発生要素として機能する。
以下、このバルブ構造について詳しく説明すると、バルブディスクたるピストン1は、有底筒状に形成され、底部1aの軸心部に緩衝器のピストンロッド5の先端5aが挿通される挿通孔1bと、ポート2と、ポート2に連通する窓3と、ポート2の出口端となる窓3の外周側に形成されピストン1の底部1aよりリーフバルブ10側に突出する環状の弁座1cと、外周側に延設される筒部1eを備えて構成されている。
なお、このピストン1には、緩衝器が収縮するときに下室42から上室41へと向かう作動油の流れを許容する圧側のポート1dが底部1aの伸側のポート2より外周側に設けられている。
このピストン1の挿通孔1b内には上述のようにピストンロッド5が挿通され、ピストンロッド5の先端部はピストン1の図1中下方側に突出させてある。なお、ピストンロッド5の先端5aの外径は、先端5aより図1中上方側の外径より小径に設定され、上方側と先端部との外径が異なる部分に段部5bが形成されている。
そして、上記ピストンロッド5の先端5aを圧側のリーフバルブ100、間座101、バルブストッパ102とともにピストン1の挿通孔1bに挿入するとともに、ピストン1の図1中下方に筒状のスペーサ4、環状の板バネ15および板バネ15より小径な間座16を組み付けたのち、ピストンロッド5の先端5aに設けた螺子部5cにピストンナット6を螺着することによって、ピストン1と上記各部材はピストンロッド5の段部とピストンナット6とで挟持されてピストンロッド5に固定されている。
なお、この実施の形態の場合、ポート1dの下端となる吸込側端は、ポート2の開口端より外周側に配置されてピストン1に積層されるリーフバルブ10によって閉塞されないようになっており、ポート2の上端となる吸込側端はリーフバルブ100に設けた孔100aによって閉塞されないようになっている。ポート2がリーフバルブ100に閉塞されず、ポート1dがリーフバルブ10に閉塞されなければ、その配置や形状について図示したものに限定されることはなく、たとえば、各ポート2,1dを同一円周上に配置して弁座をいわゆる花弁型とする構成を採用してもよい。
そして、ピストン1の底部1aには、上記スペーサ4の外周に摺接してリーフバルブ10より小径な環状の間座7が複数積層され、この間座7の下方に同じくスペーサ4の外周に摺接するリーフバルブ10が積層され、さらに、このリーフバルブ10の下方にリーフバルブ10より小径であってスペーサ4の外周に摺接する環状の間座8が複数積層されるとともに、またさらに、この間座8の下方に同じくスペーサ4の外周に摺接するバルブ抑え部材11が積層されている。
なお、リーフバルブ10は、環状に形成された板を複数枚積層して積層リーフバルブとして構成されており、この図1中上面を弁座1cに当接させて、ピストン1のポート2を閉塞することができるようになっている。この実施の形態においては、リーフバルブ10は、積層リーフバルブとして構成されているが、上記環状の板の枚数は、本バルブ構造で実現する減衰特性(ピストン速度に対する減衰力の関係)によって任意とされてよく、緩衝器に発生させる減衰特性によって複数枚とされても一枚のみでも差し支えなく、また、緩衝器に発生させる減衰特性によって各リーフの外径を異なるように設定することができる。さらに、弁座1cに着座するリーフバルブ10の外周に切欠(符示せず)が設けられており、当該切欠によってオリフィスが形成されている。なお、リーフバルブ10に切欠を設けることに代えて、弁座1cに打刻されて形成されるオリフィスを設けてもよい。
また、上述のように、ピストン1を有底筒状の形状とすることによって、シリンダ40に対する軸ぶれを回避するために必要な軸方向の摺接長さを確保しつつ、リーフバルブ等のバルブ構造を構成する一部の部材をピストン1内に収納することが可能となって、ピストン1の図1中上端からピストンナット6の図1中下端までの長さを短くすることができ、ピストン部を小型化することができる。
つづいて、板バネ15は、スペーサ4の下端と間座16によって内側に挿入されるピストンロッド5の先端5aに内周が固定され内周側が固定端とされるとともに、外周側は自由な撓みが許容されて自由端とされ、外周が撓むとこの撓みを解消する方向へ働く復元力でバルブ抑え部材11を介してリーフバルブ10を附勢する附勢力を発揮するようになっている。また、板バネ15は、図示したところでは、弾性な二枚の環状板で構成されているが、その枚数は任意であり附勢力によって環状板の積層枚数を変更してもよい。
したがって、リーフバルブ10およびバルブ抑え部材11は、ピストン1が図1中上方に移動して、上室41内の圧力と下室42内の圧力との差が大きくなると、上記附勢力に抗して板バネ15を撓ませてリーフバルブ10の全体がピストン1から軸方向に後退、つまり、図1中下方にリフトするようになっている。
なお、ピストン1の底部1aから弁座1cの先端までの軸方向長さよりも、間座7全体の軸方向の厚みを短く設定する場合には、内周側に附勢力が作用しているリーフバルブ10に初期撓みを与えることができる。この初期撓みの撓み量の設定によって、リーフバルブ10が弁座1cから離れてポート2を開放する時の開弁圧を調節することができ、この初期撓みの撓み量は、間座7の全体の厚みで変更可能であるとともに、緩衝器が適用される車両に最適となるように設定されている。なお、ピストン1の底部1aから弁座1cの下端までの軸方向長さによっては、間座7を省略することも可能である。
ここで、図2に示したモデル図を参照して板バネの変形について説明する。バルブ抑え部材Yに環状のシート部Zを設け、内周を固定端とし外周を自由端とした板バネXを環状のバルブ抑え部材Yに対向させ、無負荷状態において板バネXの全周をバルブ抑え部材Yのシート部Zに当接させ、板バネXとバルブ抑え部材Yを軸方向に接近させ板バネXの外周を撓ませてバルブ抑え部材Yを附勢した場合、撓み量に応じて板バネXの外縁直径が小さくなり、板バネXの周方向にも撓みを生じて変形しようとするが、全周がバルブ抑え部材Yに接触して周方向の変形が拘束され、当該板バネXの周方向の変形を許容する逃げ場が無く、これが大きな反力を生むことになり、板バネXの附勢力は、図3に示すように外周の撓み量に対して非線形な特性を示すことになる。
なお、撓み量は、バルブ抑え部材Yが板バネXへ接近したストローク量を示し、附勢力は上記接近に対して板バネXがバルブ抑え部材Yに作用させる力を示している。
また、板バネXは、僅かな撓み量でも内部に作用する応力が大きく、許容応力との兼ね合いからバルブ抑え部材Yのストローク量を大きくすることが難しいことが解かった。
このような上記不具合を解消するために、本発明の発明者は、さらに、鋭意努力と研究を重ねた結果、板バネXの外周が撓んだ際に生じる周方向の波打変形を拘束しないようにすれば、板バネXの附勢力が外周撓み量に対して線形に近い特性となり、撓み量に対する内部応力を小さくすることが可能であるとの知見を得た。
そして、板バネを周方向に間隔を空けて部分的にバルブ抑え部材に当接させることで、板バネの撓み変形によって外周径が小さくなることに伴う周方向の波打変形部分が逃げこむ空間を設けて拘束しないようにすることができ、板バネの附勢力を外周撓み量に対して線形に近い特性とし、撓み量に対する内部応力を小さくすることができることが判明したのである。
上記の知見を元に、板バネを周方向に間隔を空けて部分的にバルブ抑え部材に当接させるために、一実施の形態のバルブ構造にあっては、図4および図5に示すように、バルブ抑え部材11は、内周側が上記したスペーサ4の外周に摺接する環状本体11aに板バネ15に対向する図1中下端であってから板バネ15の外径より小径となる周上の三箇所に等間隔をもって下方に突出するように設けられた凸部11bを設けている。
そして、板バネ15は、リーフバルブ10が弁座1cに着座した状態でバルブ抑え部材11の凸部11bに当接し、凸部11bによって初期撓みを与えられており、バルブ抑え部材11を介してリーフバルブ10の内周に附勢力を作用させている。
したがって、板バネ15は、無負荷状態において、全周に亘ってバルブ抑え部材11に当接するのではなく、凸部11bが当接している部位のみがバルブ抑え部材11に当接するようになっており、板バネ15は周方向に間隔を空けて部分的にバルブ抑え部材11に当接している。
そして、このように構成されたバルブ構造では、板バネ15とバルブ抑え部材11を軸方向に接近させていくと、板バネ15が凸部11bに押圧されて外周を撓ませバルブ抑え部材11により大きな附勢力を与えるようになる。
板バネ15の外周が撓むと、上述したように、外周直径が小さくなるため、この場合にも、図6に示すように、板バネ15は周方向に波打変形を生じるが、板バネ15は全周に亘って押圧されず凸部11bによって部分的に押圧されているため、凸部11bと凸部11bとの間に対面する部位bは下方へ凸となる波を生じるが、当該部位bはバルブ抑え部材11に当接せず当該部位bの変形は制限を受けにくくなる。
また、凸部11bに対面している板バネ15の部位cは、凸部11bによって上方へ押圧され凸部11b間に対面する部位bが下方へ波打つ関係上、上方へ凸となる波を生じるが、凸部11bがバルブ抑え部材11に設けられているので板バネ15の外周は凸部11bの周方向へ滑り凸部11bの周方向の縁11c,11cによって下方から支持される格好となり、当該部位cの上方へ波打変形が制限を受けにくくなる。
したがって、板バネ15の周方向の波打変形は、バルブ抑え部材11によって制限を受けにくくなるので、板バネ15の当該周方向の波打変形による附勢力がバルブ抑え部材11に作用することが抑制され、バルブ抑え部材11に作用する附勢力は、板バネ15の外周撓みによるものが支配的となり、板バネ15の附勢力は、図7中の実線に示すように、外周の撓み量に略比例するような特性を示すことになる。
つづいて、一実施の形態におけるバルブ構造の作用について説明すると、上述したように、ピストン1がシリンダ40に対して図1中上方側に移動すると、上室41内の圧力が高まり、上室41内の作動油はポート2を通過して下室42内に移動しようとする。
そして、緩衝器の伸縮速度となるピストン速度が低速領域にある場合、リーフバルブ10を板バネ15の附勢力に抗してピストン1から後退させてリフトさせることができず、リーフバルブ10は板バネ15によって附勢されてポート2を閉塞するように押し付けられているので、リーフバルブ10の外周縁が間座8の外周縁を支点として撓んで、作動油は、ポート2を介してリーフバルブ10が弁座1cから離座してできるリーフバルブ10と弁座1cとの間の隙間を通過する。
また、緩衝器の伸縮速度となるピストン速度が低速領域にある場合、作動油は、ピストン速度が極低速のうちは、上述の弁座1cに着座するリーフバルブ10の外周に設けた切欠あるいは弁座1cに打刻によって形成されるオリフィスを通過し、その後の速度の上昇に伴って、リーフバルブ10の外周を撓ませて、リーフバルブ10と弁座1cと間の隙間を通過するが、リーフバルブ10を板バネ15の附勢力に抗してピストン1から後退させてリフトさせることができず、リーフバルブ10は板バネ15によって附勢されてポート2を閉塞するように押し付けられて間座8の外周縁を支点として撓むのみとなる。
したがって、このときの減衰特性(ピストン速度に対する減衰力の関係)は、図8中実線で示すが如くとなり、この低速領域では、減衰係数は比較的大きいものとなる。
他方、ピストン1の速度が中高速領域に達して、上室41内の圧力と下室42内の圧力との差が大きくなり、作動油のリーフバルブ10を図1中下方へ押し下げる力が大きくなるとともに、該力が板バネ15の附勢力に打ち勝って、リーフバルブ10の全体をピストン1から軸方向に後退(リフト)させる、すなわち、図1中下方へ移動させることになる。
そして、一実施の形態におけるバルブ構造にあっては、上述したように、板バネ15は周方向に間隔を空けて部分的にバルブ抑え部材11に当接しているので、板バネ15の附勢力を外周の撓み量に対して線形に近い特性にすることが可能となり、僅かな撓み量でリーフバルブ10を過剰に附勢してしまう不具合を解消することができ、加えて、板バネ15の周方向への波打変形が制限をうけにくくなるので、僅かな撓み量で板バネ15内部に生じる応力が過大となってしまうことを防止でき、リーフバルブ10がピストン1から後退するリフト量を大きく確保することができる。
このように、リーフバルブ10の全体がピストン1の底部1aからリフトして離れると、弁座1cとリーフバルブ10との間の隙間がピストン速度が低速領域にあるときよりも大きくなり、ピストン速度に比例して隙間が大きくなる。すなわち、ピストン速度が中高速領域にあるときの減衰特性は、図8中実線で示すが如くとなり、ピストン速度の増加に対して比例はするものの減衰係数は小さくなり、減衰特性の傾きが小さくなる。
よって、一実施の形態における緩衝器のバルブ構造では、リーフバルブ10を附勢するのにコイルスプリングに代えて板バネ15を用いても、リーフバルブ10を附勢する附勢力が過大となることがなく、かつ、リーフバルブ10のリフト量を確保できるので、ピストン速度が中高速領域にあるときの減衰係数を小さくすることができ、車両における乗り心地を損なってしまう虞がない。
また、コイルスプリングに比較して軸方向長さが非常に短い板バネ15を用いることができるので、緩衝器のピストン部の全長を短くすることができ、緩衝器のストローク長が短くなる不具合も解消することができる。
したがって、一実施の形態における緩衝器のバルブ構造によれば、車両における乗り心地と緩衝器におけるストローク長の両方を満足させることが可能となるのである。
さらに、撓み量に対して線形な附勢力を発揮できるので、固体毎に附勢力にバラつきが生じてしまう不具合をも解消することができ、リーフバルブ10を附勢する附勢力の調節も非常に容易となる。
また、この実施の形態の場合、凸部11bは、バルブ抑え部材11の周上に等間隔をもって設けられているので、板バネ15の周方向の波打変形を歪めてしまうことがなく、板バネ15の附勢力に波打変形による附勢力が重畳してしまうことが確実に回避されるとともに、板バネ15の附勢力が偏ってバルブ抑え部材11に作用してしまうことも回避される。
さらに、この実施の形態の場合、凸部11bは、板バネ15を支持する支持点が同一周上となるように、その内周縁が同一周上に配置されており、板バネ15の凸部11bを押圧する附勢力にバラつきを生じないように配慮されているが、凸部11bは周方向に間隔を空けて配置されればよいので、その内周縁が必ずしも同一周上に配置されなくともよい。
つづいて、バルブ抑え部材11へ形成する凸部11bの内縁における周方向幅のどの程度に設定すればよいかについて説明する。
図9は、円周方向幅が異なる凸部11bを備えたバルブ抑え部材11を板バネ15で附勢した際の撓み量に対する附勢力を示した図である。具体的には、板バネ15の内径を12.5mm、外径を25mm、厚みを0.114mmとし、各凸部11bをバルブ抑え部材11に周方向に等間隔を持って三つ設置し、その凸部11bの内縁を直径24mmの円周上に配置し、板バネ15に凸部11bを同心にて押し当てする条件にて、バルブ抑え部材11を板バネ15で附勢した際の撓み量に対する附勢力を解析したものである。
図10は、円周方向幅が異なる凸部11bを備えたバルブ抑え部材11を板バネ15で附勢した際の撓み量に対する板バネ15における内部応力の最大値を示した図である。具体的には、板バネ15の内径を12.5mm、外径を25mm、厚みを0.114mmとし、各凸部11bをバルブ抑え部材11に周方向に等間隔を持って三つ設置し、その凸部11bの内縁を直径24mmの円周上に配置し、板バネ15に凸部11bを同心にて押し当てする条件にて、バルブ抑え部材11を板バネ15で附勢した際の撓み量に対する附勢力を解析したものである。
凸部11bの円周方向幅は、図9、10中、サンプル1では、4.02mm(各凸部11b間の周方向幅は、21.11mm)、サンプル2では、6.06mm(各凸部11b間の周方向幅は、19.07mm)、サンプル3では、8.16mm(各凸部11b間の周方向幅は、16.98mm)、サンプル4では、10.31mm(各凸部11b間の周方向幅は、14.82mm)、サンプル5では、13.22mm(各凸部11b間の周方向幅は、11.91mm)、サンプル6では、17.51mm(各凸部11b間の周方向幅は、7.62mm)、サンプル7では、20.35mm(各凸部11b間の周方向幅は、4.78mm)、サンプル8では、23.64mm(各凸部11b間の周方向幅は、1.49mm)としてあり、各サンプル毎の解析結果を図8、9に示している。なお、サンプル9では、凸部11bをなくして板バネ15の全周をバルブ抑え部材へ押し当てた際の解析結果を示している。
図9から理解できるように、凸部11bの円周方向幅が20.35mm(各凸部11b間の周方向幅は、4.78mm)であるサンプル7までは、板バネ15の全周をバルブ抑え部材へ押し当てるサンプル9に対して、撓み量に対する附勢力の関係を示すラインの傾きが小さくなるとともに撓み量に対して附勢力が比例関係に近づき、さらに、凸部11bの円周方向幅が小さくなればなるほど撓み量に対する附勢力が低下することが解かる。
図10から理解できるように、凸部11bの円周方向幅が20.35mm(各凸部11b間の周方向幅は、4.78mm)であるサンプル4までは、板バネ15の全周をバルブ抑え部材へ押し当てるサンプル9に対して、撓み量に対する内部応力の最大値の関係を示すラインの傾きが小さくなり、凸部11bの円周方向幅が小さくなればなるほど撓み量に対する内部応力の最大値が低下することが解かる。
上記結果から、バルブ抑え部材11へ形成する凸部11bの内縁における周方向幅は、凸部11b間に板バネ15の波打変形を許容できる隙間を形成できる程度に設定されればよいが、板バネ15の撓み量に対する附勢力を比例関係に近似させる効果を狙う上では、概ね、全ての凸部11bの円周方向幅の総延長の凸部11bの内縁を通る円の円周長に締める割合が約81%以下となるように設定すればよいことが解かる。また、板バネ15の撓み量に対する内部応力を低減させる効果を狙う上では、概ね、全ての凸部11bの円周方向幅の総延長の凸部11bの内縁を通る円の円周長に締める割合が約41%以下となるように設定すればよいことが解かる。
なお、上述したところでは、凸部11bの数を三つとしているが、凸部11bは二つ以上であれば、凸部11b間に板バネ15の波打変形を許容する隙間を形成することができ、効果があるということが発明者の研究によって判明している。
また、凸部11bの縁11c,11cが互いに平行となる向きとなっているが、縁11c,11cがバルブ抑え部材11の中心に向かう向きに設定されてもよい。
さらに、凸部11bの高さの設定について説明する。上記したように、板バネ15の外周が撓むと、外周直径が小さくなって周方向へ波打つ変形を呈するが、この波の高さは、撓み量が大きくなればなるほど高くなる。
そして、この波の高さが高くなって、下に凸となる部位bが凸部11bの高さを凌いで凸部11b間のバルブ抑え部材11の図6中上端面に当接するようになると、板バネ15の波打変形がバルブ抑え部材11によって制限を受けにくくなり、この当接時点を境に板バネ15の撓み量を増加させていくと、図7中破線で示すように、板バネ15の附勢力は撓み量に対して非線形な特性となる。
すなわち、無負荷状態で板バネ15を撓ませずにバルブ抑え部材11の凸部11bのみが当接している状態から、リーフバルブ10を最大ストロークさせて板バネ15を最大限撓ませる場合に、下に凸となる波を生じる部位bが凸部11b間のバルブ抑え部材11の図6中上端面に当接しないように、凸部11bの高さを設定すれば、板バネ15の撓み量に対する附勢力の特性は図7中実線に示すように線形に近い特性となり、逆に、最大ストロークまでの途中で、つまり、リーフバルブ10が板バネ15へ向けて最大ストローク未満の任意の所定ストロークするときに、板バネ15の下に凸となる波を生じる部位bが凸部11b間のバルブ抑え部材11の図6中上端面に当接するように、凸部11bの高さを設定すれば、板バネ15の撓み量に対する附勢力の特性は所定ストロークまでは線形に近い特性となり、所定ストローク以上のストロークに対しては図7中破線に示すように非線形な特性に切換わるようになる。
このように、リーフバルブ10が板バネ15へ向けて最大ストローク未満の任意の所定ストロークするときに、板バネ15の下に凸となる波を生じる部位bが凸部11b間のバルブ抑え部材11の図4中上端面に当接するように、凸部11bの高さを設定する場合、リーフバルブ10が所定ストローク以上ストロークすると、バネ定数が非線形な特性となって減衰係数を図8中の破線で示すように大きくすることができる。そして、ピストン速度が中速を超えて高速域に達するとリーフバルブ10が所定ストロークするように設定しておけば、ピストン速度が中速領域にある場合には、減衰力を低く抑えつつ、ピストン速度が高速領域に達すると、ピストン速度が中速領域にある場合よりも減衰力を大きくすることができ、ピストン速度が高速領域に達する場合にあっても減衰力が不足することがなく、振動抑制が充分に行われ、車両における乗り心地をより一層向上することができる。また、緩衝器が最伸長するような振幅が大きく、かつ、ピストン速度が高速領域に達するような状況下にあっては、緩衝器の発生減衰力を大きくすることができるので、ピストン速度を速やかに低減することができ、最伸長時の衝撃を緩和することができる。
そしてまた、凸部11bの高さ設定によって、板バネ15の撓み量に対する附勢力の特性を線形に近い特性のままとしたり、線形に近い特性から非線形な特性に変化させたりすることができるので、減衰特性の設計自由度が高まることになる。
図11および図12は参考例に係わる緩衝器のバルブ構造を示す。
この参考例にあっては、板バネ17とバルブ抑え部材19の構成以外は上記した一実施の形態におけるバルブ構造と同様であるので、同じ部材については同じ符号を付するのみとしてその詳しい説明を省略することとする。
この板バネ17は、切欠18が外周に三箇所設けられることによって、バルブ抑え部材19に外周の切欠18以外の部位を当接させることができるようになっている。他方、バルブ抑え部材19は、環状であって板バネ15へ対向する端部は、上記した一実施の形態とは異なり環状凸部19aを備えて、当該環状凸部19aを板バネ17に当接させるようにしている。したがって、この板バネ17は、切欠18が形成される関係で、全周をバルブ抑え部材19の環状凸部19aに当接させるのではなく、部分的にバルブ抑え部材19に当接するようになっている。なお、板バネ17は、図示したところでは、一枚の環状板であるが、複数枚の環状板を積層して構成してもよい。
この参考例の附勢構造にあっても、板バネ17とバルブ抑え部材19を軸方向に接近させていくと、板バネ17がバルブ抑え部材19に押圧されて外周を撓ませて、バルブ抑え部材19に附勢力を与えるが、板バネ17の外周は、切欠18以外の部位で押圧されるのみであり、周方向に波打変形を生じても、当該波打変形はバルブ抑え部材19によって制限を受けにくくなる。
このように板バネ17の周方向の波打変形は、バルブ抑え部材19によってなんら制限を受けにくくなるので、板バネ17の当該周方向の波打変形による附勢力がバルブ抑え部材19に作用することが抑制され、バルブ抑え部材19に作用する附勢力は、板バネ17の外周撓みによるものが支配的となり、板バネ17の附勢力は、一実施の形態の附勢構造と同様に、図7中の実線に示すように、外周の撓み量に略比例するような特性を示し、内部応力も低減されるのでリーフバルブ10のリフト量も確保されることになる。
したがって、この参考例におけるバルブ構造にあっても、板バネ17の附勢力を外周の撓み量に対して線形に近い特性にすることが可能となり、僅かな撓み量でバルブ抑え部材19を過剰に附勢してしまう不具合を解消することができ、また、撓み量に対して線形な附勢力を発揮できるので、固体毎に附勢力にバラつきが生じてしまう不具合をも解消することができ、リーフバルブ10を附勢する附勢力の調節も非常に容易となる。加えて、板バネ17の周方向への波打変形が制限を受けにくくなるので、僅かな撓み量で板バネ内部に生じる応力が過大となってしまうことを防止できので、リーフバルブ10がピストン1から後退するリフト量を大きく確保することができる。
なお、板バネ17へ形成する切欠18同士の間隔は、上記したように板バネ17の周方向の波打変形が制限を受けにくいように設定されればよい。
そして、この参考例の場合、切欠18は、バルブ抑え部材19の周上に等間隔をもって設けられているので、板バネ17の周方向の波打変形を歪めてしまうことがなく、板バネ17の附勢力に波打変形による附勢力が重畳してしまうことが確実に回避されるとともに、板バネ5の附勢力が偏ってバルブ抑え部材19に作用してしまうことも回避される。
また、切欠17の数は、この場合、三つ設けられているが二つでもよいことが発明者の研究によって判明しており、切欠17を二箇所に設けるようにしてもよく、切欠17の形状は任意に設定することができる。
なお、本参考例においては、減衰特性の変化を説明するために、ピストン速度に低速、中速および高速でなる区分を設けているが、これらの区分の境の速度はそれぞれ任意に設定することができる。
以上でバルブ構造の一実施の形態及び参考例についての説明を終えるが、本発明のバルブ構造が緩衝器のピストン部の圧側減衰バルブに具現化することも、また、ベースバルブ部に具現化することも可能であり、ベースバルブ部に具現化される場合、ベースバルブ部の軸方向の全長を短くすることができるので本発明の効果を失うことも無い。
なお、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されない。