JP5186990B2 - 復旧過程評価用コンピュータ、及び復旧過程評価プログラム - Google Patents

復旧過程評価用コンピュータ、及び復旧過程評価プログラム Download PDF

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Description

本発明は、復旧過程評価方法、及び復旧評価プログラムに関し、特に、地震が発生してから生産施設の生産が復旧するまでの過程(以下、「生産復旧過程」という)を評価する復旧過程評価方法、及び復旧評価プログラムに関する。
企業などでは、地震や台風などの自然災害や、テロ行為などの緊急事態が発生する前に、事業継続計画(BCP:business continuity plan)を策定している。事業継続計画とは、企業などの中核事業を担う生産施設の生産を継続させたり、早期に再開させたりするための計画をいう。
ここで、事業継続計画を策定するためには、地震が発生してから生産施設の生産が復旧するまでに要する生産復旧期間などを見積もっておく必要がある。その生産復旧期間を見積もるためには、特許文献1に記載されているような地震リスク評価システムを用いることが考えられる。特許文献1に記載の地震リスク評価システムでは、生産復旧期間を、電気、水道などのライフラインの復旧期間と、生産施設の復旧期間との和で算出している。
特開2007−148547号公報(図10)
しかしながら、ライフラインの復旧と、生産施設の復旧とは並行して行われることが多い。したがって、特許文献1に記載されているような地震リスク評価システムを用いて生産復旧期間を算出すると、生産復旧期間を過大に評価してしまうことがある。
また、生産復旧期間を見積もることができても、生産復旧期間だけでは、生産施設の生産が復旧するまでの生産復旧過程を推測(評価)することができない。これに対して、生産復旧過程を推測することができれば、企業などにおける事業継続計画の策定がより効率的となることが期待される。例えば、生産施設を構成するもの(以下、「要素」ともいう)のうち、中核事業に直接的に関わる要素を、事前に又は事後にどのように改善すればよいのかなどについて、効率的に検討することが可能となる。
本発明の目的は、生産施設の生産復旧期間における生産復旧過程を評価することができる復旧過程評価用コンピュータ、及び復旧過程評価プログラムを提供することにある。
上記の目的を達成するための主たる発明は、地震が発生してから生産施設の生産が復旧するまでの過程を評価する復旧過程評価用コンピュータであって、
前記コンピュータは、前記生産施設を構成するもののうち、評価の対象とする評価対象を決定し、
前記コンピュータは、前記評価対象毎に、損傷状態を場合分けし、
前記コンピュータは、場合分けされた前記損傷状態毎に、当該損傷状態が発生する確率と、前記地震が発生してからある時間だけ経過した時点での当該損傷状態における生産低下率と、当該損傷状態の復旧期間とを決定し、
前記コンピュータは、前記評価対象毎の前記損傷状態の場合分けの組み合わせ数をN個(Nは自然数)としたときに、個々の組み合わせ毎に、前記確率の積を、当該組み合わせの発生確率Pi(iは自然数)として算出し、
前記コンピュータは、前記組み合わせ毎に前記生産低下率の最大値を特定し、当該最大値を1から減算することにより、前記組み合わせ毎の前記生産稼働率PRi(t)(tは、地震が発生してからの経過時間)を決定し、
前記コンピュータは、前記発生確率Piと、前記生産稼働率PRi(t)を乗じて得られるPi×PRi(t)を、iが1の場合からNの場合まで加算し、
前記コンピュータは、前記加算により得られる生産稼働率PR(t)を表示することを特徴とする
また、他の主たる発明は、地震が発生してから生産施設の生産が復旧するまでの過程を評価する復旧過程評価プログラムであって、
コンピュータに、前記生産施設を構成するもののうち、評価の対象とする評価対象を決定させ、
前記コンピュータに、前記評価対象毎に場合分けされた前記損傷状態毎に、当該損傷状態が発生する確率と、前記地震が発生してからある時間だけ経過した時点での当該損傷状態における生産低下率と、当該損傷状態の復旧期間とを決定させ、
前記コンピュータに、前記評価対象毎の前記損傷状態の場合分けの組み合わせ数をN個(Nは自然数)としたときに、個々の組み合わせ毎に、前記確率の積を、当該組み合わせの発生確率Pi(iは自然数)として算出させ、
前記コンピュータに、前記組み合わせ毎に前記生産低下率の最大値を特定させ、当該最大値を1から減算することにより、前記組み合わせ毎の前記生産稼働率PRi(t)(tは、地震が発生してからの経過時間)を決定させ、
前記コンピュータに、前記発生確率Piと、前記生産稼働率PRi(t)を乗じて得られるPi×PRi(t)を、iが1の場合からNの場合まで加算させ、
前記コンピュータに、前記加算により得られる生産稼働率PR(t)を表示させることを特徴とする。
本発明によれば、復旧期間における復旧過程を評価することができる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る復旧過程評価方法を実現するためのコンピュータの構成を示すブロック図である。
図1に示すコンピュータ100は、コントローラ110と、インターフェース140を介してコントローラ110に接続されたキーボード150及びディスプレイ160とを備える。キーボード150は、操作者が情報を入力するための入力デバイスの一例であり、ディスプレイ160は、出力された情報を視覚化するための出力デバイスの一例である。
コントローラ110は、CPU120と、メモリ130とを備える。メモリ130には、図3を用いて後述する生産施設の復旧評価処理に対応するプログラムが記録されていると共に、図2に示す複数のデータベース(DB)が格納されている。CPU120は、メモリ130に記録されているプログラムを読み出して実行し、また、この際、必要に応じて、メモリ130に格納されているデータベースを参照する。
メモリ130に格納されたデータベースとしては、図2に示すように、地震被害データベース131と、被害想定結果データベース132と、復旧期間データベース133と、復旧費用データベース134とがある。
地震被害データベース131には、過去に発生した地震(例えば、平成7年(1995年)に発生した兵庫県南部地震)の被害データに基づいて作成された被害率曲線(後述)が格納されている。
被害想定結果データベース132には、電気、水道、ガス、及び通信などのライフラインが地震によって受けるであろう被害に関する情報が被害想定結果として地震の震度毎に格納されている。
復旧期間データベース133には、建物及びその構成要素、並びにライフラインなどが被害を受けたときに復旧するまでの復旧期間に関する情報が格納されている。また、復旧費用データベース134には、建物やその構成要素を復旧させるのに必要な復旧費用に関する情報が格納されている。復旧費用は、上記地震における復旧費用データなどに基づいて、被害を受けたときの損傷状態毎に定められている。
ここで、図1のコンピュータが実行する復旧評価処理の対象となる生産施設の例を、図3の一部に示す。
図3に示すサプライチェーン200は、確保された原材料が、最終的に、製品として消費者に至るまでに関わる企業活動を示したものである。サプライチェーン200において、原材料と消費者との間には、生産施設210が設けられている。
生産施設210は、原材料から製品を生産(製造)するための施設であり、企業における生産活動の中核事業を担っている。
生産施設210は、建物211を有する。また、生産施設210内には、製品の生産に用いる生産機器220が設置されている。建物211には、生産機器220を保護するための天井211aや、生産機器220を利用するために必要な配管212や、建築設備機器213が設けられている。建築設備機器213には、空調設備、衛生設備、電気設備、及び、スプリンクラー(防災設備の一部)などがある。さらに、生産施設210は、その付帯施設として、倉庫230を備えている。倉庫230内には、原材料が保管されたり、製品が保管されたりする。
また、図3に示すように、生産施設210を用いた製品の生産には、様々なライフライン240が関わっている。ここで、ライフライン240とは、電気、ガス、上下水道などの供給処理施設や、通信などの通信施設や、道路、鉄道などの交通施設などをいう。交通施設は、原材料の運搬時及び製品の運搬時に利用されるだけでなく、生産施設210での製品製造に従事する従業員なども利用する。
図4は、図1のコンピュータ100によって実行される生産施設の復旧評価処理を示すフローチャートである。本処理は、図3に示したような生産施設210に関して、地震発生時用の事業継続計画(BCP)を策定するために必要な生産復旧期間や生産復旧過程を見積もる際などに実行される。
図4において、まず、CPU120は、生産施設210を新築したときの情報(新築時情報)を取得するとともに(ステップS1)、震度を設定する(ステップS2)。ここで、地震発生時用の事業継続計画を策定する場合、震度5強から震度7までの間で震度を設定することが好ましい。
本実施の形態では、CPU120は、ステップS1,S2の処理を実行するために、まず、図5に示すような条件設定シートをディスプレイ160に表示する。条件設定シートには、複数の質問と、各質問に対応する回答欄(数値入力欄又は選択肢)とが設けられている。その後、コンピュータ100の操作者が、各質問に対する回答として、生産施設210(生産機器220及びライフライン240などを含む)に関する情報などを、キーボード150等の入力デバイスを用いて入力する。これにより、CPU120は、生産施設210の新築時情報と、設定すべき震度に関する情報(以下、「設定震度」という)とを取得する。
ここで、新築時情報としては、図5から分かるように、建物211の構造種別(例えば、耐震構造)、建物211全体の新築費用、及び生産機器220の調達費用などに関する情報がある。さらに、CPU120は、生産機器220を用いたときの1日当たりの生産額に関する情報も取得する。生産額に関する情報は、後述する間接損失を算出する際などに用いられる。設定震度は、CPU120により、予め定められた地表面最大速度(cm/sec)に換算される。
続くステップS3では、CPU120は、被災直前情報を取得する。この被災直前情報とは、本処理を行う時点における、生産施設210を構成する各要素の設置状況(現状)を示す情報である。したがって、生産施設210の新築後に、改築や補修があった場合には、それらに関する情報は、被災直前情報に反映されることになる。これにより、新築後に改築や補修があっても柔軟に対応することができる。
本実施の形態では、CPU120は、まず、図6に示すような現状設定シートをディスプレイ160に表示する。現状設定シートには、複数の質問と、各質問に対応する回答欄(数値入力欄又は選択肢)とが設けられている。その後、操作者が、各質問に対する回答として、生産施設210に関する情報を、キーボード150等の入力デバイスを用いて入力する。これにより、CPU120は、生産施設210の被災直前情報を取得することができるようになっている。被災直前情報としては、現状設定シートに示すように、建物211の延べ床面積や階数に関する情報や、建物211の平面形状や外形に関する情報や、建物211におけるピロティの有無を示す情報がある。
そして、CPU120は、生産施設210の生産復旧過程を評価するために、生産復旧過程評価処理を行う(ステップS4)。生産復旧過程評価処理では、ステップS1〜S3で取得した新築時情報及び被災直前情報、並びに設定震度が用いられる。また、この生産復旧過程の評価の際、CPU120は、生産施設210を構成するもの(以下、「要素」ともいう)の現状において、新築時からの経年劣化による耐震性の低減なども特定する。生産復旧過程は、生産施設210の生産稼働率と、地震が発生した時刻を基準とし、その基準時刻からの経過時間(復旧期間)との関係で示される(図18参照)。ステップS4の処理については、後で、図7などを用いて詳細に説明する。
さらに、CPU120は、ステップS5において、図23を用いて後述するボトルネック評価処理を行う。ボトルネック評価処理では、生産施設210を構成する要素のうち、評価の対象となる評価対象が、生産復旧過程にどの程度影響を与えているかが評価される。ここで、ボトルネックとは、生産復旧過程に最も影響を与えている要素をいう。
またさらに、CPU120は、生産施設210の地震ライフサイクルコストを評価する(ステップS6)。ここで、「地震ライフサイクルコスト」とは、生産施設210を新築してから、地震の被害を受けた生産施設210の生産が復旧するまでの総費用を云う。このステップS6の処理については、後で、図26を用いて詳細に説明する。
図4の処理によれば、コンピュータ100の操作者が生産施設210に関する情報と、地震の震度を入力するだけで、コンピュータ100は、地震が発生してから生産施設210の生産が復旧するまでの生産復旧過程を自動的に評価することができる。これにより、ユーザは、生産施設210の生産が地震発生後にどのように復旧するのかを推測することができる。このため、ユーザは、地震発生後における生産低下率(生産稼働率)の目標値や復旧期間の目標値を、地震発生前に検討することができる。また、図4の処理によれば、ボトルネックや地震ライフサイクルコストも評価することができる。
図7は、図4のステップS4において実行される生産復旧過程評価処理の詳細を示すフローチャートである。
図7において、まず、CPU120は、設定シートを表示する(ステップS41)。ここでいう設定シートは、条件設定シート及び現状設定シートとは別のものであり、図8に示すような劣化設定シート、図9に示すような影響度設定シート、及び図10に示すような復旧期間設定シートがある。
上記劣化設定シートは、後述する損傷確率を決定するために、後述する耐震性低減情報をCPU120が取得するためものである。影響度設定シートは、後述する生産低下率を決定するための生産低下率情報をCPU120が取得するためものである。復旧期間設定シートは、生産施設210の復旧期間を決定するための復旧期間情報をCPU120が取得するためのものである。このように、複数の評価シートを予め用意することで、同様の条件で評価結果を得ることが容易となる。
これらの評価シートは、ディスプレイ160に、画面切替え可能に表示される。なお、このとき、条件設定シート及び現状設定シートも画面切替え可能に表示されることが好ましい。各評価シートには、複数の質問と、各質問に対応する回答欄(選択肢又は数値入力欄)とが設けられている。そして、CPU120は、操作者による、各質問に対する回答(生産施設210に関する情報)の入力を待機する。
その後、操作者から入力がなされたときは、続くステップS42において、CPU120は、操作者から入力された、生産施設210に関する情報に基づいて、まず、生産施設210を構成する要素(建物211、天井211a、配管212、建築設備機器213、生産機器220、ライフライン240)のうち、評価の対象となる要素(評価対象)を決定する。
続いて、CPU120は、決定した評価対象の損傷確率と、生産低下率と、復旧期間とを決定する(ステップS43,S44,S45)。ここで、CPU120は、取得した新築時情報、被災直前情報、耐震性低減情報、生産低下率情報、及び復旧期間情報や、メモリ130に格納された各種のデータベースに基づいて、評価対象の損傷確率、生産低下率、及び復旧期間を特定することができるようになっている。例えば、CPU120は、耐震性低減情報とメモリ130に格納された地震被害データベース131とに基づいて、評価対象の損傷確率を決定する(詳細については後述する)。
さらに、CPU120は、評価対象の損失費用も決定する(ステップS46)。そして、CPU120は、上述したようにして決定した評価対象の損傷確率、生産低下率、復旧期間、及び損失費用をメモリ130に記憶させる(ステップS47)。
その後、CPU120は、他の評価対象があるか否かを判別する(ステップS48)。該判別の結果、他の評価対象がある場合には(ステップS48でYES)、CPU120は、その評価対象について、ステップS43〜S47の処理を実行する。
一方、他の評価対象がない場合には(ステップS48でNO)、CPU120は、後述するイベントツリー解析を行って(ステップS49)、イベントツリー解析の結果と、決定した損傷確率と生産低下率と復旧期間とを用いて作成した生産復旧曲線を、生産復旧過程の評価結果として表示する(ステップS50)。生産復旧曲線については、後で詳細に説明するが、図18に示すように、生産施設210の生産稼働率と地震が発生してからの経過時間との関係を示すものである。そして、本処理を終了して、図4に戻って、ステップS5に進む。
図7の処理によれば、生産施設210の生産稼働率と地震が発生してからの経過時間との関係を示す生産復旧曲線が生産復旧過程の評価結果として表示される。つまり、生産施設の生産復旧過程が、生産稼働率の変化で示される。これにより、ユーザは、地震発生前の検討を容易に行うことができる。
ところで、図8〜図10に示した評価シートに予め用意されている各質問や回答欄(評価項目)は、評価対象毎に、その損傷状態が特定可能な状態で設定されている。例えば、劣化設定シートでは、地震発生前における各評価対象の損傷状態(新築時からの経年劣化による耐震性の低減の度合い)を特定可能である。また、影響度設定シートや復旧期間設定シートでは、地震発生後に各評価対象がとり得る損傷状態毎に(例えば、一部損壊、半壊、及び全壊の各々について)回答欄が設けられている。言い換えると、地震発生後にとり得る評価対象の損傷状態は、場合分けされている。したがって、これらの評価シートを用いることにより、図7の処理で決定される損傷確率、生産低下率、及び復旧期間は、評価対象の損傷状態毎に決定される。
次に、図7のステップS42において決定された評価対象毎に行われる、ステップS43〜S47の処理について、詳細に説明する。
<評価対象が「建物211」である場合>
評価対象が「建物211」である場合について説明する。
≪建物211の損傷確率≫
図11は、評価対象が建物211である場合における損傷確率決定処理のフローチャートである。
評価対象が建物211である場合、CPU120は、まず、ステップS431aにおいて、地震被害データベース131に格納されている複数の建物被害率曲線の中から、建物211に対応する建物被害率曲線を決定する。ここで、建物被害率曲線とは、図12(a)〜図12(c)に示すように、地表面最大速度と建物被害率との関係を示すものである。ここで、建物被害率曲線は、実際に発生した地震の被害データに基づいて作成されたものであるため、建物被害率は、実際に建物が被害を受けた割合を示している。なお、図12(a)〜図12(c)に示す建物被害率曲線は、建物の構造形式が鉄筋コンクリート造(RC造)である場合のものである。
ここで、図12(a)は、建物の損傷状態が一部損壊以上であった場合を、図12(b)は、建物の損傷状態が半壊以上であった場合を、図12(c)は、建物の損傷状態が全壊であった場合を示している。図12(a)〜図12(c)から分かるように、建物の建築年が古いほど、建物被害率が高い傾向にある。
CPU120は、建物211に対応する建物被害率曲線を決定するために、現状設定シート(図6)から得られた被災直前情報から、建物211の構造形式と建築年を特定し、この特定した構造形式と建築年に対応する建物被害率曲線を選択する。具体的には、建物211の構造形式がRC造であり、建築年が1970年である場合には、図12(a)〜図12(c)の各々に示す3種類の建物被害率曲線の中から、太い実線に対応する建物被害率曲線が選択される。つまり、損傷状態毎に、1つの建物被害率曲線が選択される。
次に、CPU120は、選択した建物被害率曲線の建物被害率を補正するための補正値を決定する(ステップS432a)。補正値を用いる理由は、建物211がその形状に起因する理由で耐震性が乏しいほど、同様に、建物211の劣化(老朽化)が進んでいるほど、建物被害率が高まると考えられるためである。そこで、CPU120は、被災直前情報に基づいて建物211の形状を特定すると共に、耐震性低減情報に基づいて、建物211の劣化の度合いを特定することで、補正値を決定する。
続いて、CPU120は、選択した建物被害率曲線において、設定震度(地表面最大速度に換算)に対応する建物被害率の値を取得し、その値を上記補正値を用いて補正することで、建物211の損傷確率を決定する(ステップS433a)。この処理は、建物の損傷状態毎に行われる。ここで、設定震度が地表面最大速度80cm/secである場合、図12(a)〜図12(c)から分かるように、建物が一部損壊以上となった建物被害率は、0.35(35%)であり、半壊以上となった建物被害率は、0.15(15%)であり、全壊となった建物被害率は、0.075(7.5%)である。そして、本処理では、これらの建物被害率が、建物211に適用される。適用した建物被害率は、被害を受ける確率(以下、この確率を「損傷確率」という)に相当することになる。
ステップS432a〜S433aの処理をより詳細に説明する。
まず、CPU120は、ステップS432aで決定される補正値に該当する補正係数kを求める。このために、CPU120は、被災直前情報に基づいて、補正に用いる影響値qiを決定すると共に、劣化設定シートから得られる耐震性低減情報に基づいて、補正に用いる経年指標Tjを決定する。ここで、耐震性低減情報とは、各評価対象の耐震性への悪影響を示す情報である。影響値qiは、現状設定シート(図6)中、建物211の形状に関する質問(例えば質問番号5〜7)に対する各回答を0〜1の間で数値化したもの(被災直前情報)が相当し、インデックスiは、対応する質問番号である。経年指標Tjは、劣化設定シート(図8)中、建物211に関する質問(例えば質問番号1〜6)に対する各回答を0〜1の間で数値化したもの(耐震性低減情報)が相当し、インデックスjは、対応する質問番号である。続いて、CPU120は、決定した影響値qiの全てを掛け合わせたもの(Πqi)と、全ての経年指標Tjのうちの最小値(Tmin)とを掛け合わせることで、補正係数kを求める(つまり、k=Πqi×Tmin)。
そして、CPU120は、下記式(1)に従って計算を行うことで、補正後の建物被害率、すなわち建物211の損傷確率Pを算出する(ステップS433a)。
Figure 0005186990
上記式(1)において、記号Φは、平均0,標準偏差1の標準正規分布関数を示している。PGVは、地表面最大速度(cm/sec)であり、本実施の形態では、設定震度に対応する地表面最大速度が代入される。λは、定数であり、選択した建物被害率曲線において建物被害率が0.5となるときの地表面最大速度mの対数の値(以下、このmを、「中央値m」という)に相当する。ζは、定数であり、選択した建物被害率曲線における対数標準偏差である。なお、中央値mや上記対数標準偏差ζは、定数であるが、選択した建物被害率曲線によって異なる。
≪建物211に起因する生産施設210の生産低下率≫
建物211に起因する生産施設210の生産低下率は、影響度設定シート(図9)から得られた生産低下率情報を採用する。ここで、生産低下率とは、地震発生前において生産施設210の生産が正常に行われているとき(正常時)の生産量を「生産稼働率1」として、地震発生により評価対象が被害を受けたことに起因する生産量の低下の割合を示すものである。したがって、生産低下率を1から減算することによって、生産施設210の生産稼働率を算出することができる。
≪建物211の復旧期間≫
建物211の復旧期間は、復旧期間データベース133に格納された情報に基づいて建物211の損傷状態毎にCPU120によって決定される。このとき、建物211の延べ床面積などを参照して、建物211の復旧期間を決定することが好ましい。
≪建物211の損失費用≫
CPU120は、建物211の損失費用を決定するために、まず、復旧費用データベース134に格納された復旧費用の中から、建物211の損傷状態に対応する復旧費用を読み出す。これにより、建物211の復旧費用が損傷状態毎に決定される。続いて、CPU120は、損傷状態毎に決定した復旧費用と、上述したように決定した損傷確率とに基づいて、建物211の損失費用を算出する。具体的には、損傷状態毎に、復旧費用と損傷確率との積を算出し、それらを足し合わせることによって、建物211の損失費用は算出される。
上述したように決定した、建物211の損傷確率と、生産低下率と、復旧期間とは、建物211の損傷状態毎に、メモリ130に格納される。また、メモリ130には、決定した建物211の損失費用も格納される。
<評価対象が「天井211a」である場合>
次に、図7の処理において、評価対象が天井211aである場合について説明する。
≪天井211aの損傷確率≫
天井211aの損傷確率は、天井211aに崩落対策が施されているか否かに応じて決定される。具体的には、CPU120は、被災直前情報に基づいて、天井211aに崩落対策が施されていることを特定した場合、天井211aの損傷確率を小さく設定する。一方、天井211aに崩落対策が施されていない場合には、天井211aの損傷確率を大きく設定する。ここで設定される天井211aの損傷確率の値は、予め、上記地震の被害データなどに基づいて決定された値であり、メモリ130に記憶されている。
なお、崩落対策としては、天井211aを構成する天井材について、その重量が大きい場合、天井面と周囲の壁との間に十分なクリアランスを設けることなどが挙げられる。なお、天井211aの損傷確率の値を、崩落対策の程度などに応じて変更(補正)するように構成してもよい。
≪天井211aに起因する生産施設210の生産低下率≫
天井211aに起因する生産施設210の生産低下率は、天井211aに崩落対策が施されているか否かに応じて、CPU120によって決定される。例えば、天井211aが崩落する場合、生産低下率の値として1が設定され、崩落しない場合、0が設定される。なお、天井211aは建物211の一部をなすため、建物211が全壊する場合には、天井211aに崩落対策が施されているか否かに関わらず、生産低下率の値として1が設定される。これらの天井211aの生産低下率の値は、メモリ130に予め格納されている。
≪天井211aの復旧期間及び損失費用≫
天井211aの復旧期間は、復旧期間データベース133に格納された情報と、決定した損傷確率とに基づいて、天井211aの損傷状態毎にCPU120によって決定される。天井211aの損失費用は、建物211の損失費用の決定方法と同様に決定される。つまり、CPU120は、天井211aの損傷状態毎に決定した復旧費用と、決定した損傷確率とに基づいて、天井211aの損失費用を決定する。
上述したように決定した、天井211aの損傷確率と、生産低下率と、復旧期間とは、天井211aの損傷状態毎に、メモリ130に格納される。また、メモリ130には、決定した天井211aの損失費用も格納される。このように、天井211aを評価対象とすることで、地震によって天井211aが崩落した場合における生産機器220の生産稼働率の低下も考慮することができる。
<評価対象が「建築設備機器213」である場合>
次に、図7の処理において、評価対象が建築設備機器213である場合について説明する。
≪建築設備機器213の損傷確率≫
図13は、評価対象が建築設備機器213である場合における損傷確率決定処理の詳細を示すフローチャートである。
評価対象が建築設備機器213である場合、CPU120は、まず、ステップS431bにおいて、被災直前情報に基づいて、建築設備機器213を床などに固定する固定部材(例えば、アンカーボルト)があるか否かを判別する。固定部材があるときは(ステップS431bでYES)、CPU120は、その固定部材が劣化しているか否かを、耐震性低減情報に基づいて判別する(ステップS432b)。
ステップS432bの判別の結果、固定部材が劣化していないときは(ステップS432bでNO)、CPU120は、地震被害データベース131に格納されている複数の建築設備機器被害率曲線から、建物の構造形式及び建築年と、評価対象である建築設備機器213の種類とに対応する建築設備機器被害率曲線を決定する(ステップS433b)。ここでは、建築設備機器213の損傷状態に応じて、2つの建築設備機器被害率曲線が選択される。
このようにして選択された2つの建築設備機器被害率曲線の例を、図14(a),図14(b)に示す。ここで、図14(a),図14(b)に示す建築設備機器被害率曲線は、建物の構造形式がRC構造である場合のものを示しており、図14(a)は、建築設備機器の被害(損傷状態)が軽微以上であった場合を、図14(b)は、建築設備機器の被害(損傷状態)が重大であった場合を示している。ただし、建築設備機器213の耐震規定が1982年に初めて制定されたため、建物211の建築年が1982年以前であっても、本処理で決定(選択)される建築設備機器被害率曲線は、建築年が1983年以降のものである。
続いて、CPU120は、建築設備機器被害率を補正するための補正値を、被災直前情報に含まれる建物211の建築年及び階数に基づいて決定する(ステップS434b)。このとき、より好ましくは、構造形式にも基づいて補正値を決定する。続くステップS435bでは、CPU120は、建物211の損傷確率を求めたのと同様に、建築設備機器213の損傷確率を損傷状態毎に決定する。つまり、建築設備機器213に軽微以上の被害が発生する確率と、重大な被害が発生する確率とが決定される。
具体的には、CPU120は、上述した式(1)と同じ式(中央値m及び対数標準偏差ζ、並びに補正係数kが異なる)に従って計算を行うことで、補正後の建築設備機器被害率、すなわち建築設備機器213の損傷確率を算出する。
一方、建築設備機器213を床などに固定する固定部材がない場合(ステップS431bでNO)や、固定部材があったとしても劣化している場合(ステップS432bでYES)、CPU120は、建築設備機器213が転倒する確率(転倒確率P1)を下記式(2)に従って計算すると共に(ステップS437b)、建築設備機器213が移動する確率(移動確率P2)を下記式(3)に従って計算する(ステップS438b)。なお、建築設備機器213の移動には、ずれや傾きなどが含まれ、転倒には、大きなずれや落下などが含まれる。
ところで、ステップS437b,S438bに先だって、固定部材があったとしても劣化している場合(ステップS432bでYES)には、CPU120は、下記式(2),式(3)において用いる優遇係数dの値を1よりも大きな値(例えば1.1)に変更する(ステップS436b)。なお、固定部材が劣化していなくても、アスペクト比が大きい場合には、固定部材が劣化している場合と同様に、優遇係数の値が1よりも大きな値に変更される。一方、固定部材がない場合(ステップS431bでNO)には、ステップS436bの処理がスキップされ、優遇係数dの値は、1のまま維持される。
Figure 0005186990
上記式(2),式(3)において、各記号の意味は下記の通りである。なお、記号の意味が、前述した式(1)における記号と同等であるものについてはその説明を省略する。
iは、i層の床応答加速度であり、後述するi層の床応答加速度増幅率Biと、前述した地表面最大速度PGVとの積で表される。式(2)におけるλは、前述した式(1)におけるλとは異なるものであり、転倒限界の対数平均値である。転倒限界の対数平均値λは、建築設備機器213の高さh(cm)に対する建築設備機器213の幅b(cm)の比に、重力加速度g(=980cm/sec2)を掛けたものの対数の値を算出することで得られる定数である。上記式(2),式(3)におけるζは、定数であり、本実施の形態では「0.3」が設定されている。式(3)におけるαは、滑り始めの余裕率であり、本実施の形態では「2.0」が設定されている。μは、摩擦係数である。
ところで、i層の床応答加速度増幅率Biは、例えば、「建築設備耐震設計・施工指針2005年版(財団法人日本建築センター)」に記載されているように、下記式(4)に従って評価することが可能である。
Figure 0005186990
上記式(4)において、各記号の意味は下記の通りである。
式(4)におけるBT0は、増幅率の平均値であり、建物211の1次周期Tが0.6以下である場合に、3.2×γdが設定され、1次周期Tが0.6よりも大きいときに、1.9×γd/Tが設定される。このγdは、減衰による補正係数であり、1.5/(1+10h)で表される。ここで、γdを決めるhは、本実施の形態では、建物211の構造形式がRC造又はSRC造である場合に、「0.05」が設定され、S造である場合に、「0.02」が設定されるようになっている。また、式(4)におけるβiは、高さによる補正係数であり、建物211の高さHに対するi層の高さhiの比で表される。
続くステップS439bでは、計算によって得られた転倒確率P1と移動確率P2とを用いて、下記式(5)に従って計算することで、建築設備機器213の損傷確率Pを算出する。
P=1−(1−P1)×(1−P2) …(5)
≪建築設備機器213に起因する生産施設210の生産低下率≫
建築設備機器213に起因する生産施設210の生産低下率は、影響度設定シート(図9)から得られた生産低下率情報を採用する。
≪建築設備機器213の復旧期間及び損失費用≫
建築設備機器213の復旧期間は、復旧期間データベース133に格納された情報と、決定した損傷確率とに基づいて、建築設備機器213の損傷状態毎にCPU120によって決定される。建築設備機器213の損失費用は、建物211の損失費用の決定方法と同様に決定される。つまり、CPU120は、建築設備機器213の損傷状態毎に決定した復旧費用と、決定した損傷確率とに基づいて、建築設備機器213の損失費用を決定する。
上述したように決定した、建築設備機器213の損傷確率と、生産低下率と、復旧期間とは、建築設備機器213の損傷状態毎に、メモリ130に格納される。また、メモリ130には、決定した建築設備機器213の損失費用も格納される。
<評価対象が「生産機器220」である場合>
次に、図7の処理において、評価対象が生産機器220である場合について説明する。
≪生産機器220の損傷確率、生産低下率、及び損失費用≫
評価対象が生産機器220である場合も、評価対象が建築設備機器213である場合と同様に、生産機器220の損傷確率と、生産機器220に起因する生産施設210の生産低下率とが、生産機器220の損傷状態毎に決定される。生産機器220の損失費用も、評価対象が建築設備機器213である場合と同様に決定されるが、決定の際、新築時情報に含まれる生産機器220の調達費用に関する情報が用いられる。
≪生産機器220の復旧期間≫
生産機器220の復旧期間は、復旧期間設定シート(図10)から得られた復旧期間情報を採用する。
上述したように決定した、生産機器220の損傷確率と、生産低下率と、復旧期間とは、生産機器220の損傷状態毎に、メモリ130に格納される。また、メモリ130には、決定した生産機器220の損失費用も格納される。
<評価対象が「配管212」である場合>
次に、図7の処理において、評価対象が配管212である場合について説明する。
≪配管212の損傷確率≫
図15は、評価対象が配管212である場合における配管損傷確率決定処理の詳細を示すフローチャートである。
評価対象が配管212である場合、CPU120は、まず、ステップS431cにおいて、現状設定シート(図6)から得られる被災直前情報に基づいて、配管212が耐震設計されているか否かを判別する。耐震設計がなされているか否かは、配管212の振れを止める振止めなどの支持部材の有無や、生産機器220へ接続する部分にフレキシブル継手を用いているか否かなどによって評価することができる。
配管212が耐震設計されているときは(ステップS431cでYES)、CPU120は、配管212を支持する支持部材が劣化しているか否かを、劣化設定シート(図8)から得られる耐震性低減情報に基づいて判別する(ステップS432c)。
ステップS432cの判別の結果、支持部材が劣化していないときは(ステップS432cでNO)、CPU120は、地震被害データベース131に格納されている複数の屋内配管被害率曲線から、建物211の構造形式及び建築年に対応する屋内配管被害率曲線を決定する(ステップS433c)。ここでは、配管212の損傷状態に応じて、2つの屋内配管被害率曲線が選択される。
このようにして選択された2つの屋内配管被害率曲線の例を、図16(a),図16(b)に示す。ここで、図16(a),図16(b)に示す屋内配管被害率曲線は、建物の構造形式がRC構造である場合のものを示しており、図16(a)は、屋内配管の被害(損傷状態)が軽微以上であった場合を、図16(b)は、屋内配管の被害(損傷状態)が重大であった場合を示している。ただし、配管212が耐震設計されている場合、建物211の建築年が1982年以前であっても、本処理で決定(選択)される屋内配管の被害率曲線は、建築年が1983年以降のものである。つまり、選択される屋内配管被害率曲線は、耐震設計に応じたものである。
続くステップS434cでは、CPU120は、建物211の損傷確率を求めたのと同様に、配管212の損傷確率を損傷状態毎に決定する。つまり、配管212に軽微以上の被害が発生する確率と、重大な被害が発生する確率とが決定される。
具体的には、CPU120は、上述した式(1)と同じ式(中央値m及び対数標準偏差ζ、並びに補正係数kが異なる)に従って計算を行うことで、補正後の屋内配管被害率、すなわち配管212の損傷確率を算出する。ここで、補正係数kは、配管212が耐震設計されていることに応じて設定されている定数を用いる。
一方、配管212が耐震設計されていない場合(ステップS431cでNO)や、支持部材があったとしても劣化している場合(ステップS432cでYES)、CPU120は、地震被害データベース131に格納されている複数の屋内配管被害率曲線から、建物の構造形式及び建築年に対応する屋内配管被害率曲線を決定する(ステップS435c)。ここで、建物211の建築年が1982年以前であれば、本処理で決定(選択)される屋内配管の被害率曲線も、建築年が1982年以前のものである。つまり、選択される屋内配管被害率曲線は、耐震設計に応じていないものである。そして、選択した屋内配管被害率曲線に応じた補正係数kが設定された上述した式(1)と同じ式(中央値m及び対数標準偏差ζ、並びに補正係数kが異なる)に従って計算を行うことで、配管212の損傷確率を算出する(ステップS434c)。ところで、このときの補正係数kは、配管212が耐震設計されていない場合の補正係数kよりも小さな値となる。
≪配管212に起因する生産施設210の生産低下率≫
配管212に起因する生産施設210の生産低下率は、影響度設定シート(図9)から得られた生産低下率情報を採用する。
≪配管212の復旧期間及び損失費用≫
配管212の復旧期間は、復旧期間データベース133に格納された情報と、決定した損傷確率とに基づいて、配管212の損傷状態毎にCPU120によって決定される。配管212の損失費用は、建築設備機器213の損失費用の決定方法と同様に決定される。つまり、CPU120は、配管212の損傷状態毎に決定した復旧費用と、決定した損傷確率とに基づいて、配管212の損失費用を決定する。
上述したように決定した、配管212の損傷確率と、生産低下率と、復旧期間とは、配管212の損傷状態毎に、メモリ130に格納される。また、メモリ130には、決定した配管212の損失費用も格納される。
<評価対象が「ライフライン240」である場合>
次に、図7の処理において、評価対象がライフライン240である場合について説明する。
≪ライフライン240の損傷確率≫
ライフライン240の損傷確率は、電気、水道、ガス、及び通信のそれぞれについて決定される。CPU120は、被害想定結果データベース132から、対応するライフライン240の損傷確率を読み出すことによって決定する。このため、被害想定結果データベース132には、設定震度毎に作成された地震被害想定結果が格納されている。なお、国や自治体などが作成した地震被害想定結果を用いてもよい。
≪ライフライン240に起因する生産施設210の生産低下率≫
ライフライン240に起因する生産施設210の生産低下率は、影響度設定シート(図9)から得られた生産低下率情報を採用する。したがって、生産低下率は、電気、水道、ガス、及び通信のそれぞれについて損傷状態毎に決定される。
≪ライフライン240の復旧期間≫
ライフライン240の復旧期間は、復旧期間データベース133に格納された情報と、決定した損傷確率とに基づいて、ライフライン240の損傷状態毎にCPU120によって決定される。
≪ライフライン240の損失費用≫
ライフライン240の損失費用は、本実施の形態では、計上しないように設定されている。つまり、ライフライン240の損失費用は、0に決定される。
上述したように決定した、ライフライン240の損傷確率と、生産低下率と、復旧期間とは、ライフライン240の損傷状態毎に、メモリ130に格納される。
次に、図7のステップS49〜S50において実行される処理(イベントツリー解析及び生産復旧曲線表示)について詳細に説明する。
図17(a),図17(b)は、図7のステップS49において実行されるイベントツリー解析を説明するための図である。図17(a)は、生産施設210を構成する建物211、天井211a、建築設備機器213、配管212、及び生産機器220、並びにライフライン240を構成する電気、ガス、水道、及び通信に対してイベントツリー解析を行ったときの解析結果を示している。図17(b)は、イベントツリー解析の結果、決定される各モードと、モード毎に決定される発生確率及び生産施設210の生産稼働率などとの関係を示している。
ここで、イベントツリー解析(event tree analysis)とは、或る要素において、或るイベントが発生するか(Yes)否か(No)を判断し、次に、他の要素において、別のイベントが発生するか否かを判断することを繰り返すことで、全ての要素において発生し得るイベントの組み合わせ(以下、「モード」ともいう)を解析することをいう(図17(a)参照)。なお、イベントツリー解析の対象となる要素は、図7のステップS42で決定された全ての種類の評価対象である。ここで、図17(a)に示すように、評価対象の種類が異なる度に2つのモードが生じるため、解析の対象となる要素の種類の数が多いほど、モードの数が増えることになる。
また、図17(a)に示す例では、各要素について1つのイベントが発生するか否かを判断している。実際には、各要素について1つのイベントのみが発生するとは限られないので、イベントの数がさらに多くなる場合もある。したがって、イベントの数が多いほど、モードの数が増えることになる。
ところで、本実施の形態では、イベントとして、生産施設210を構成する各要素(建物211、天井211a、建築設備機器213、配管212、及び生産機器220、並びに生産施設210の生産に関わる要素であるライフライン240(電気、ガス、水道、及び通信))の損傷の有無と、損傷がある場合の損傷状態の場合分けとを考えている。したがって、モード毎に、生産施設210の生産稼働率及びその変化が決まることになる。
そこで、本実施の形態では、イベントツリー解析によって得られたモード毎に、生産施設210の生産稼働率と、そのモードの発生確率とを対応付けることにしている(図17(b)参照)。ここで、各モードの発生確率は、図7のステップS43で損傷状態毎に決定された、各要素の損傷確率を用いて算出することが可能である(後述)。
図17(b)に示す各モードiの生産稼働率PRi(t)は、地震が発生してからの経過時間(復旧期間)をtとして、生産施設210の正常時(地震発生前)における生産稼働率を1としたときの割合を示すものである。言い換えると、各モードにおいて、生産稼働率の値は、経過時間tに応じて変わることになる。
ここで、生産稼働率の値が経過時間tに応じて変わる理由は、評価対象が複数種類である場合において、複数種類の評価対象の復旧が並行して行われることにより、復旧期間の短い評価対象から順次、復旧が完了するためである。このため、或る経過時間tにおける生産稼働率は、まだ完全に復旧していない複数種類の評価対象の生産低下率のうち、最も高い生産低下率の影響を受けながら回復していくことになる。
そこで、CPU120は、各モードiの生産稼働率PRi(t)を求めるために、まず、各評価対象の復旧期間を考慮して、生産低下率の最大値を決定する。各評価対象の復旧期間の考慮については、後述する。続いて、CPU120は、決定した生産低下率の最大値を1から減算することで、対応する期間の生産稼働率を求める。そして、CPU120は、一連の期間において得られた生産稼働率の組を、各モードiの生産稼働率PRi(t)としている。
このようにして、生産稼働率と復旧期間との関係が、モード毎に決定される。これにより、ユーザは、各モードにおいて、地震発生後の生産施設210においてその生産がどのように復旧するのかを推測することができる。
しかし、全てのモードについて検討するのは、ユーザにとって不便である。そこで、本実施の形態では、CPU120は、全てのモードから期待される、生産稼働率と復旧期間との関係を決定しており、この関係に対応する曲線を生産復旧曲線として作成している。作成された生産復旧曲線の一例は、図18に示す通りである。
生産復旧曲線を作成するために、CPU120は、まず、イベントツリー解析によって得られたモードi毎に、図17(b)に示す発生確率Piを算出している。ここで、発生確率とは、各モード(イベントの組み合わせ)が起こり得る確率をいう。各モードの発生確率Piは、各評価対象kの損傷確率Pkを掛け合わせることでCPU120によって算出される(つまり、Pi=ΠPk)。続いて、CPU120は、各モードの生産稼働率を対応するモードの発生確率Piで重み付けした生産稼働率を足し合わせることで、全てのモードから期待される、経過時間tにおける生産稼働率と復旧期間との関係(生産稼働率PR(t))を決定する。これを式に表すと、下記式(6)の通りとなる。式(6)における整数Nは、モードの総数である。
Figure 0005186990
なお、生産稼働率PR(t)を算出するにあたり、或る復旧期間t(経過時間t)において、モードiにおいて発生したイベントが既に復旧している場合は、その復旧期間tにおける生産稼働率PRi(t)は1であり、対応する発生確率は、モードiの発生確率に等しい。
ここで、生産稼働率PR(t)では、1つの評価対象が完全に復旧する度に生産稼働率の値が大きく変化する。このため、CPU120は、変化の前後で生産稼働率の値を結ぶことで、生産復旧曲線を作成している。また、生産復旧曲線では、全てのモードの発生確率が0の場合、つまり、地震発生前と、全ての評価対象が完全に復旧したときの生産稼働率が1となるようになっている(図18参照)。
このようにして、全てのモードを考慮した生産稼働率PR(t)が決定されて、生産復旧曲線が作成される。これにより、ユーザは、生産施設210の生産がどのように復旧するのかを容易に推測することができる。このため、ユーザは、地震発生後における生産低下率の目標値(生産稼働率の下限値)や復旧期間の目標値(生産再開の目処)を、地震発生前に検討することができる。つまり、地震発生前の検討を、モード毎に行う必要がなくなる。
ここで、上述した実施の形態では、イベントツリー解析の対象となる要素の数やイベントの数が多いため、要素の数やイベントの数を少なくした具体例を用いて、図7のステップS49〜S50において実行される処理について説明する。
まず、評価対象の数が1つであり、イベントの数が4つである場合の具体例について説明する。この場合、イベントの数と、モードの数は一致する。
この例では、評価対象として、建物211を考える。そして、地震が発生したとき、建物211が被害を受けない(無被害)というイベントが発生する場合と、建物211が一部損壊以上半壊未満の被害を受けるというイベントが発生する場合と、建物211が半壊以上全壊未満の被害を受けるというイベントが発生する場合と、建物211が全壊の被害を受けるというイベントが発生する場合とのいずれかが考えられる。このように考えた場合、建物211の損傷状態は、4つに場合分けされていると云える。これら4つの場合の各々が上述したモードの1つに相当する。
ここで、各モードの発生確率は、場合分けされた建物211の損傷状態が発生する確率(損傷確率)に相当する。対応する建物211の損傷確率は、上述したように、被災直前情報及び耐震性低減情報に基づいて決定される(図7のステップS43)。また、各損傷状態における生産低下率は、生産低下率情報に基づいて決定される(ステップS44)。さらに、各損傷状態の復旧期間は、復旧期間データベース134から得られる復旧期間などから決定される(ステップS45)。
下記表1に、CPU120によって決定された、損傷確率Pと、生産低下率Dと、復旧期間Tとの組み合わせの一例を、損傷状態毎に示す。さらに、表1には、建物211を含む生産施設210の生産稼働率PRと、損傷確率Pと生産稼働率PRの積(P×PR)も示されている。
Figure 0005186990
そして、CPU120は、場合分けされたモード毎(損傷状態毎)に、生産稼働率と復旧期間との関係を示すと、図19(a)に示す通りである。しかし、損傷状態毎に、事業継続計画を策定するのは得策ではない。そのため、上述したように、全ての損傷状態(モード)から期待される、生産稼働率と復旧期間との関係を決定する。このようにして決定された関係は、図19(b)に示す生産復旧曲線に表されている。
図19(b)に示す生産復旧曲線において、或る復旧期間(経過時間t)における生産稼働率は、正常時、一部損壊時(一部損壊以上半壊未満時)、半壊時(半壊以上全壊未満時)、及び全壊時の生産稼働率に、それぞれ対応する損傷確率(発生確率)を重み付けして、それらの和を、前述した式(6)に従って算出することにより、決定することができる。なお、評価対象が1種類である場合にも、複数の損傷状態を考えた場合、各評価対象の損傷状態(イベント)が経過時間tに伴って改善されるため、この場合にも、生産稼働率の値が経過時間tに応じて変わる。
具体的には、図19(b)において、復旧期間が100時間までの生産稼働率PR(0〜100)は、下記式(7)に示すように算出される。この式(7)における0.1×1の部分は、無被害というイベントが復旧して正常時に回復した状態にあるというモードの発生確率(0.1)と生産稼働率(1)の積を表している。
PR(0〜100)=0.1×1+0.5×0.8+0.3×0.6+0.1×0.3=0.71 …(7)
なお、下記式(8)のように算出してもよい。復旧しているイベントは、生産稼働率に影響を与えないためである。
PR(0〜100)=1−(0.5×0.8+0.3×0.6+0.1×0.3)=0.71 …(8)
同様に、復旧期間が100〜150時間である場合の生産稼働率PR(100〜150)は、下記式(9)に示すように算出される。ここで、復旧期間が100〜150時間である場合において、正常時に回復した状態にあるというモードの発生確率は、無被害というイベントの損傷確率(0.1)と、一部損壊というイベントの損傷確率(0.5)の和に等しい。
PR(100〜150)=(0.1+0.5)×1+0.3×0.6+0.1×0.3=0.81 …(9)
同様に、復旧期間が150〜200時間である場合の生産稼働率PR(150〜200)も決定される。さらには、地震発生前の時刻における生産稼働率や、生産施設210の生産が完全に復旧した後(例えば250時間後)の生産稼働率は、全てのモード(イベント)の発生確率が0であると考えることで、上記式(6)を用いて決定することができる。
続いて、評価対象が2つであり、各評価対象において、イベントが2種類発生し得る場合の具体例について説明する。
この例では、評価対象として、建物211と建築設備機器213とを考える。さらに、この例では、各評価対象に発生し得るイベントとして、「無被害」と「一部損壊以上半壊未満」の2種類を考える。下記表2及び表3には、CPU120がステップS43〜S45の処理を実行することによって決定した、損傷確率Pと、生産低下率Dと、復旧期間Tとの組み合わせの一例が、評価対象毎に及び損傷状態毎に示されている。
Figure 0005186990
Figure 0005186990
この場合、イベントツリー解析を行うと、2つの評価対象と、2つのイベントの組み合わせから、4(=22)種類のモードが得られる(図20参照)。
4種類のモードのうち、モード0は、建物211及び建築設備機器213の双方が無被害であるというモードである。この場合の生産復旧曲線は、完全復旧ラインに一致する(図示せず)。モード1は、建築設備機器213のみが一部損壊以上半壊未満の被害を受けるというモードである。この場合、建築設備機器213の復旧と、生産施設210の生産の復旧は一致する(図21(a)参照)。モード2は、建物211のみが一部損壊以上半壊未満の被害を受けるというモードである。この場合、建物211の復旧と、生産施設210の生産の復旧は一致する(図21(b)参照)。モード3は、建物211及び建築設備機器213の双方がそれぞれ一部損壊以上半壊未満の被害を受けるというモードである。この場合、復旧期間の短い建築設備機器213が先に復旧し、復旧期間の長い建物211が後から復旧することで、生産施設210の生産が完全に復旧する(図21(c)参照)。
ここで、モード3について詳細に説明する。
モード3では、評価対象である建物211と建築設備機器213とで復旧期間が互いに異なるため、それらが並行して復旧すると、生産稼働率は、上述したように、段階的に回復することになる。このため、モード3において、生産稼働率を求めるために必要な、生産低下率の最大値を決定するためには、各評価対象の復旧期間を考慮する必要がある。
モード3では、表2,表3から分かるように、建築設備機器213の復旧期間が建物211の復旧期間よりも短い。このため、地震発生直後から、建物211と建築設備機器213とが並行して復旧すると、建築設備機器213の復旧期間の全期間が、建物211の復旧期間に重複する。そこで、CPU120は、この重複期間(つまり建築設備機器213の復旧期間)における生産低下率の最大値Dmaxとして、建築設備機器213の生産低下率を採用する。これにより、この重複期間における生産稼働率が定まる。
続いて、建築設備機器213が完全に復旧した後においては、建物211のみが復旧することになる。この建物211のみが復旧している期間は、建物211の復旧期間と、建築設備機器213の復旧期間とが互いに重複していない期間として特定することができる。そこで、CPU120は、この重複していない期間(つまり建物211のみが復旧している期間)における生産低下率の最大値Dmaxとして、建物211の生産低下率を採用する。これにより、この重複していない期間における生産稼働率が定まる。
以上のようにすることで、各評価対象の復旧期間の重複期間を考慮しながら、生産低下率の最大値Dmaxとそれに対応する生産稼働率を定めることで、モード3の全期間における生産稼働率が求められる。このようにして定めたモード3の生産低下率の最大値Dmaxを、表4に示す。なお、表4には、モード0〜モード3の発生確率、生産低下率、復旧期間、生産稼働率の各値が示されている。
Figure 0005186990
そして、表4に示す発生確率Piと生産稼働率PRi(t)の積を上記式(6)に代入することにより、全てのモードを考慮した、生産復旧曲線を得ることができる(図22参照)。
次に、図4のステップS5において実行されるボトルネック評価について詳細に説明する。
図23は、図4のステップS5において実行されるボトルネック評価処理の詳細を示すフローチャートである。
図23において、まず、ステップS51では、CPU120は、地震発生直後(被災直後)において、評価対象の各復旧期間の全てが重複している期間を特定し、その重複期間における生産稼働率の値PR(t0)を特定する。ここで、t0は、地震発生時刻を示しており、このときの復旧期間は0である。続いて、CPU120は、その後(例えば復旧期間t1)に1つの評価対象の復旧が完了して、その評価対象以外の評価対象の各復旧期間の全てが重複している期間を特定し、その重複期間における生産稼働率の値PR(t1)を特定する(ステップS52)。
そして、CPU120は、生産稼働率の値が変化する復旧期間(時点)を挟んで互いに隣接する2つの期間に関して、生産稼働率の値の差ΔPR(tk)を、下記式(10)に従って計算することにより、算出する(ステップS53)。なお、復旧期間tのインデックスk(k=1,2,…,m−1,m)は、その復旧期間tにおいて完全に復旧した要素(評価対象)を特定するための符号であり、評価対象が何であるのかは、生産低下率の最大値Dmaxを求めるときに特定されている。そして、ここで得られる生産稼働率の値の差ΔPR(tk)は、要素kが完全に復旧したことによる、生産稼働率の回復値(生産稼働率が変化するときの変化量)として考えることができる。
ΔPR(tk)=PR(tk)−PR(tk-1) …(10)
上記式(10)におけるPR(tk-1)は、生産稼働率の値が変化する復旧期間を挟んで互いに隣接する2つの期間のうち、早い方の期間における生産稼働率の値である。つまり、生産稼働率PR(tk-1)は、要素kが完全に復旧する直前までの生産稼働率の値であり、要素kの生産低下率の値を1から引いた値に該当する。
さらに、CPU120は、算出した生産稼働率の値の差ΔPR(tk)と、対応する要素kの復旧期間との積を算出し、これを、生産への影響度B(tk)とする(ステップS54)。したがって、B(tk)=ΔPR(tk)×(tk−t0)と表すことができる。ここで、生産への影響度B(tk)とは、要素kが、生産施設210の生産(生産稼働率)に与える影響の度合いを示す数値であり、数値が高いほど、影響が大きいことを示している。生産への影響度B(tk)は、図24に示すように、生産復旧曲線がなす段差(ΔPR(tk))と、その要素kの復旧期間(tk−t0)とで形成される帯状領域の面積(広さ)に相当する。
次に、CPU120は、その後(例えば復旧期間t2)に別の評価対象の復旧が完了して、既に完全に復旧している評価対象以外の評価対象の各復旧期間の全てが重複している期間があるか否かを判別する(ステップS55)。そして、そのような期間がある場合には、ステップS52〜S54の処理を繰り返す。このようにして、CPU120は、生産稼働率の値が変化する度に、インデックスkの値を更新しながら、生産稼働率の値の差ΔPR(tk)と、生産への影響度B(tk)とを算出する。一方、生産稼働率が変化せず、1で一定となったら、後続のステップS56に進む。
ステップS56では、算出した複数の生産稼働率の値の差ΔPR(tk)から、最大値を決定すると共に、複数の生産への影響度B(tk)のインデックスkから、要素kが評価対象のどれに対応するのかを特定する。さらに、ステップS57において、CPU120は、各要素の影響度B(tk)の総和(ΣB(tk))を算出することにより、要素全体の生産への影響度SBを評価する。要素全体の生産への影響度SBとは、複数の要素k(k=1,2,…,m−1,m)の全てが、生産施設210の生産に与える影響を示す数値であり、数値が高いほど、影響が大きいことを示している。
そして、CPU120は、要素kに対応する評価対象と、その生産への影響度B(tk)の関係を、例えば図25に示すように一覧表示する(ステップS58)。図25に示す例では、生産への影響度B(tk)の値が大きい順にソートされている。これにより、ユーザは、生産施設210において、地震が発生したときに最も復旧困難な要素、つまりボトルネックを容易に把握することができる。これにより、事業継続計画を適切に策定することができる。また、生産への影響度B(tk)が高いと評価された評価対象(ボトルネックなど)に対して地震対策を施すことで、生産施設210の耐震性を効率的に高めることが可能となる。
次に、図4のステップS6において実行される地震ライフサイクルコスト評価について説明する。
図26は、図4のステップS6において実行される地震ライフサイクルコスト評価処理の詳細を示すフローチャートである。
図26において、まず、ステップS61では、CPU120は、条件設定シートから得られた新築時情報に含まれる、建物211全体の新築費用と、生産機器220の調達費用と、生産機器220の1日あたりの生産額とをメモリ130から読み出す。ここで、建物211全体の新築費用と、生産機器220の調達費用とを足し合わせたものは、生産施設210の調達費用に相当する。続いて、CPU120は、各評価対象の損失費用を直接損失費用としてメモリ130読み出すと共に、メモリ130に予め格納されている、各評価対象の再調達価格に関する情報を読み出す(ステップS62)。このとき、CPU120は、評価対象毎に、直接損失費用の再調達価格に対する比を算出する。なお、再調達価格とは、生産施設210を新築した以降における物価上昇などを考慮した価格であり、評価対象が全壊したときの復旧費用とは異なることが多い。
続いて、ステップS63では、CPU120は、生産施設210が地震を受けることで生じる間接損失費用(間接費用)を算出する。間接損失費用は、ステップS5において算出された要素全体の生産への影響度SBと、ステップS61で読み出した、生産機器220の1日あたりの生産額との積で算出される。
次に、CPU120は、ステップS64,S65において、評価結果を表示する。
具体的には、ステップS64において、図27(a)に示すように、直接損失費用の再調達価格に対する比を、評価対象毎に一覧表示する。ステップS65では、CPU120は、建物211全体の新築費用と、生産機器220の調達費用と、各評価対象の直接損失費用と、間接損失費用とを、それらの総和である地震ライフサイクルコストが分かるように、表示する(図27(b)参照)。なお、図27(b)に示す例において、「建物全体」とは、建物211、天井211a、配管212、及び建築設備機器213の総称である。また、図27(b)に示す例では、建物211の構造種別「耐震建物」が表示されている。
図26の処理によれば、評価結果として、直接損失費用の再調達価格に対する比が表示される(ステップS64)ので、ユーザは、評価対象に対して地震対策を施す場合と施さない場合とで、かかる費用を比較することが容易になる。
また、図26の処理によれば、評価結果として、地震ライフサイクルコストが表示される(ステップS65)ので、ユーザは、生産施設210に対して地震対策を施す場合と施さない場合とで、かかる費用を比較することが容易になる。
以上詳細に説明したように、本実施の形態によれば、評価結果として、生産復旧評価曲線が表示される。これにより、ユーザは、生産施設210の生産が復旧するまでの生産復旧過程を推測することができる。また、本実施の形態によれば、評価結果として、さらに、各要素の生産への影響度や、直接損失費用の再調達価格に対する比や、地震ライフサイクルコストなども表示される。これらにより、事業継続計画の策定をより効率的に行うことができるとともに、生産施設210の耐震対策を効率的に行うことが可能となる。
なお、上述した実施の形態では、生産施設210の建物211の構造種別が耐震建物である場合について説明したが、制震建物である場合や、免震建物である場合についても同様の出力を得ることができる。図28(a),図28(b)には、上述した実施の形態で説明した建物211を、構造種別が制震建物となるように耐震対策を施したと仮定することで得られた出力結果を例示しており、図28(a)は、各要素の生産への影響度を、図28(b)は、直接損失費用の再調達価格に対する比が要素毎に示されている。さらに、図29(a),図29(b),図29(c)には、建物211の構造種別が耐震建物であるとしたときの出力結果と、制震建物であるとしたときの出力結果を並べて表示した例が示されている。このように、制震建物へと構造種別を変更したときに、かかる費用と、その後に地震が発生したときの各要素の被害状況や、生産復旧過程を、構造種別を変更する前の現状と比較・検討することができる。
以下、建物211の構造種別が耐震建物である場合と制震建物である場合の比較結果について説明する。
耐震建物では、地震が発生した場合、図25や図27(a)に示したように、主として、配管、建築設備機器、及び生産機器に大きな被害が生じる。このため、耐震建物では、それらの直接損失費用がかかる。一方、制震建物では、図28(a),図28(b)に示したように、配管、建築設備機器、及び生産機器の被害が耐震建物よりも小さくなっており、直接損失費用も少なくなっている。したがって、建物211の構造種別を耐震建物から制震建物にすることで、耐震対策の効果が現れ、地震発生後における直接損失費用を抑えることができる。
また、図29(c)から、耐震建物の生産復旧曲線と制震建物の生産復旧曲線とを比較すれば分かるように、制震建物では、生産稼働率の低下が小さく、かつ復旧期間も短い。このため、地震発生後も生産活動を早期に再開することができる。
また、図29(b)から、地震ライフサイクルコストを比較すれば分かるように、制震建物は、耐震建物よりも新築費用が高いものの、地震ライフサイクルコスト(総費用)は、耐震建物よりも安い。
以上のことから、建物211の構造種別を耐震建物から制震建物にすることが有利であることが分かる。
なお、上述した実施の形態では、生産施設210に、ライフライン240用のバックアップ対策が施されていない場合について説明した。バックアップ対策とは、非常用の電源や水源などを設けることをいう。ここで、例えば1日分のバックアップ対策が施されている場合、図18に示す生産復旧曲線は、図30に示すような生産復旧曲線となる。このように、バックアップ対策を施すことにより、地震発生直後における生産稼働率の低下を抑制することができる。
ところで、図31には、事業継続計画(BCP)において設定される、生産復旧期間やや生産稼働率の許容限界及び目標値が示されている。
企業などにおいて、事業継続計画(BCP)を策定する際、生産施設210の生産稼働率の許容限界(下限値)や生産復旧期間の許容限界(最長期間)は、消費者側で製品不足が生じないように、製品の需要や生産施設210の倉庫230における在庫状況などに応じて設定される。また、生産施設210の生産稼働率の目標値や生産復旧期間の目標値(生産再開目標期間)は、上記許容限界を下回らないように設定される。
ここで、上述した実施の形態のように、現状の生産復旧曲線(図31に示す実線)が得られている場合、現状の生産施設210に対して施すべき対策が分かりやすくなる。具体的には、地震発生直後における生産稼働率の低下を抑えるためには、矢印Aに示すような対策を施す必要があり、例えば、生産施設210を構成する要素が全損しないように耐震対策を施したり、ライフライン240用のバックアップ対策を施したりすることが考えられる。また、地震発生後の早期復旧を可能にするためには、矢印Bに示すような対策を施す必要がある。これには、ボトルネックを中心にして耐震対策を施すことが考えられる。そして、これらの対策を施すことを想定した場合の生産復旧曲線も、上述した実施の形態によって得られることになる。図31には、その場合の生産復旧曲線が目標生産復旧曲線として破線で示されている。
なお、上述した実施の形態では、被災直前情報とは、本処理を行う時点における、生産施設210や生産機器220の情報であるとしたが、例えば30年後に予想される生産施設210や生産機器220の情報であってもよい。
また、上述した実施の形態では、条件設定シート、現状設定シート、劣化設定シート、影響度設定シート、及び復旧期間設定シートなどの設定シートを個別に表示したが、一括して表示してもよい。また、コンピュータ100を、印刷された設定シートに回答が記入された状態のものを読み込み可能に構成し、CPU120は、読み込んだ設定シートから必要な情報を取得してもよい。
また、上述した実施の形態では、コンピュータ100は、評価結果をディスプレイ160に表示されるように構成されている。しかし、評価結果を表示せずに、他の情報処理装置(例えば携帯端末)などに送信(出力)するようにコンピュータ100を構成してもよい。
また、上述した実施の形態では、ライフライン240に関して、主に、電気、ガス、水道、及び通信を評価対象として説明したが、道路や鉄道なども評価対象になり得る。また、上述した実施の形態では、評価対象である要素(建物211、天井211a、配管212、及び建築設備機器213)がそれぞれ1つである場合について主に説明したが、複数であってもよい。この場合、1つ1つの要素が1つの評価対象となる。
さらに、復旧評価処理の対象は、図3に示すような生産施設210に限られることはないが、企業などにおいて、中核事業を担う施設であることが好ましい。
本発明は、地震以外の災害(例えば、台風や火災)、緊急事態(例えば、テロ行為)などによって損傷(被害)を受ける物体(要素)について、その物体の復旧過程を評価する場合にも適用することができる。この場合、要素に対応する設定シートと、想定される損傷に対応する設定シートとが用意される。
本発明の実施の形態に係る復旧過程評価方法を実現するためのコンピュータの構成を示すブロック図である。 図1におけるメモリに格納されたデータベース(DB)を説明するための図である。 図1のコンピュータが実行する復旧評価処理の対象となる生産施設を含むサプライチェーンを模式的に示す図である。 図1のコンピュータによって実行される生産施設の復旧評価処理を示すフローチャートである。 図4のステップS1,S2において表示される条件設定シートの一例を説明するための図である。 図4のステップS3において表示される現状設定シートの一例を説明するための図である。 図4のステップS4において実行される生産復旧過程評価処理の詳細を示すフローチャートである。 図7のステップS41において表示される劣化設定シートの一例を説明するための図である。 図7のステップS41において表示される影響度設定シートの一例を説明するための図である。 図7のステップS41において表示される復旧期間設定シートの一例を説明するための図である。 図7のステップS42において決定される評価対象が建物である場合における損傷確率決定処理の詳細を示すフローチャートである。 図2における地震被害データベースに格納されている複数の建物被害率曲線を説明するための図であり、(a)は、建物の損傷状態が一部損壊以上であった場合を、(b)は、建物の損傷状態が半壊以上であった場合を、(c)は、建物の損傷状態が全壊であった場合を示している。 図7のステップS42において決定される評価対象が建築設備機器である場合における損傷確率決定処理の詳細を示すフローチャートである。 図2における地震被害データベースに格納されている複数の建築設備機器被害率曲線を説明するための図であり、(a)は、建築設備機器の被害が軽微以上であった場合を、(b)は、建築設備機器の被害が重大であった場合を示している。 図7のステップS42において決定される評価対象が配管である場合における配管損傷確率決定処理の詳細を示すフローチャートである。 図2における地震被害データベースに格納されている複数の屋内配管被害率曲線を説明するための図であり、(a)は、屋内配管の被害が軽微以上であった場合を、(b)は、屋内配管の被害が重大であった場合を示している。 図7のステップS49において実行されるイベントツリー解析を説明するための図であり、(a)は、生産施設及びライフラインを構成する要素に対してイベントツリー解析を行ったときの解析結果を示しており、(b)は、イベントツリー解析の結果、決定される各モードと、モード毎に決定される発生確率及び生産施設の生産稼働率などとの関係を示す図である。 図7のステップS50において決定される生産稼働率と復旧期間との関係の一例を説明するための図である。 図7の処理において評価対象が1つである場合に得られたイベントツリー解析結果に対応して得られる、生産稼働率と復旧期間との関係を説明するための図であり、(a)は、場合分けされた損傷状態毎に決定された生産稼働率と復旧期間との関係を示しており、(b)は、全ての損傷状態から決定された生産稼働率と復旧期間との関係を示している。 図7の処理において評価対象が2つである場合に得られるイベントツリー解析結果の一例を説明するための図である。 図20のイベントツリー解析結果に対応して得られる、生産稼働率と復旧期間との関係(生産復旧曲線)を説明するための図であり、(a)は、建物及び建築設備機器のうち建築設備機器のみが一部損壊以上半壊未満の被害を受けるというモードにおいて得られる生産復旧曲線を示しており、(b)は、建物のみが一部損壊以上半壊未満の被害を受けるというモードにおいて得られる生産復旧曲線を示しており、(c)は、建物及び建築設備機器の双方がそれぞれ一部損壊以上半壊未満の被害を受けるというモードにおいて得られる生産復旧曲線を示している。 図20のイベントツリー解析結果決定される全てのモードを考慮して得られる、生産稼働率と復旧期間との関係(生産復旧曲線)を説明するための図である。 図4のステップS5において実行されるボトルネック評価処理の詳細を示すフローチャートである。 図23のステップS54で算出される、生産への影響度を説明するための図である。 図23のステップS58で表示される、生産への影響度の一覧の一例を説明するための図である。 図4のステップS6において実行される地震ライフサイクルコスト評価処理の詳細を示すフローチャートである。 図26において表示される評価結果を例示するための図であり、(a)は、ステップS64において表示される、直接損失費用の再調達価格に対する比の一覧を示しており、(b)は、ステップS65において表示される、地震ライフサイクルコストを示している。 建物の構造種別が制震建物である場合に得られる評価結果を例示するための図であり、(a)は、生産への影響度の一覧を示しており、(b)は、直接損失費用の再調達価格に対する比の一覧を示している。 建物の構造種別が耐震建物である場合と制震建物である場合とが比較可能な評価結果を例示するための図であり、(a)は、生産への影響度を示しており、(b)は、地震ライフサイクルコストを示しており、(c)は、生産復旧曲線を示している。 ライフライン用のバックアップ対策が施されている場合における生産復旧曲線を例示するための図である。 事業継続計画(BCP)において設定される、生産復旧期間や生産稼働率の許容限界及び目標値を示すための図である。
符号の説明
100 コンピュータ
110 コントローラ
120 CPU
130 メモリ
131 地震被害データベース
132 被害想定結果データベース
133 復旧期間データベース
134 復旧費用データベース
150 キーボード
160 ディスプレイ
200 サプライチェーン
210 生産施設
211 建物
211a 天井
212 配管
213 建築設備機器
220 生産機器
240 ライフライン

Claims (5)

  1. 地震が発生してから生産施設の生産が復旧するまでの過程を評価する復旧過程評価用コンピュータであって、
    前記コンピュータは、前記生産施設を構成するもののうち、評価の対象とする評価対象を決定し、
    前記コンピュータは、前記評価対象毎に、損傷状態を場合分けし、
    前記コンピュータは、場合分けされた前記損傷状態毎に、当該損傷状態が発生する確率と、前記地震が発生してからある時間だけ経過した時点での当該損傷状態における生産低下率と、当該損傷状態の復旧期間とを決定し、
    前記コンピュータは、前記評価対象毎の前記損傷状態の場合分けの組み合わせ数をN個(Nは自然数)としたときに、個々の組み合わせ毎に、前記確率の積を、当該組み合わせの発生確率Pi(iは自然数)として算出し、
    前記コンピュータは、前記組み合わせ毎に前記生産低下率の最大値を特定し、当該最大値を1から減算することにより、前記組み合わせ毎の前記生産稼働率PRi(t)(tは、地震が発生してからの経過時間)を決定し、
    前記コンピュータは、前記発生確率Piと、前記生産稼働率PRi(t)を乗じて得られるPi×PRi(t)を、iが1の場合からNの場合まで加算し、
    前記コンピュータは、前記加算により得られる生産稼働率PR(t)を表示することを特徴とする、復旧過程評価用コンピュータ
  2. 前記生産稼働率が変化するときの変化量に基づいて、前記評価対象が前記生産稼働率の変化に与える影響の度合いを示す影響度を算出することを特徴とする請求項1に記載の復旧過程評価用コンピュータ
  3. 場合分けされた前記損傷状態毎に、当該損傷状態の復旧費用を決定し、
    前記損傷状態毎に決定された前記復旧費用と前記確率とに基づいて、前記評価対象毎に、当該評価対象の損失費用を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の復旧過程評価用コンピュータ
  4. 前記損失費用と、前記生産施設の調達費用と、前記生産施設が前記地震を受けて前記生産稼働率が変化するときの変化量に基づいて算出された間接費用とに基づいて、前記生産施設を新築してから前記生産施設の生産が復旧するまでの総費用を、地震ライフサイクルコストとして算出することを特徴とする請求項3に記載の復旧過程評価用コンピュータ
  5. 地震が発生してから生産施設の生産が復旧するまでの過程を評価する復旧過程評価プログラムであって、
    コンピュータに、前記生産施設を構成するもののうち、評価の対象とする評価対象を決定させ、
    前記コンピュータに、前記評価対象毎に場合分けされた前記損傷状態毎に、当該損傷状態が発生する確率と、前記地震が発生してからある時間だけ経過した時点での当該損傷状態における生産低下率と、当該損傷状態の復旧期間とを決定させ、
    前記コンピュータに、前記評価対象毎の前記損傷状態の場合分けの組み合わせ数をN個(Nは自然数)としたときに、個々の組み合わせ毎に、前記確率の積を、当該組み合わせの発生確率Pi(iは自然数)として算出させ、
    前記コンピュータに、前記組み合わせ毎に前記生産低下率の最大値を特定させ、当該最大値を1から減算することにより、前記組み合わせ毎の前記生産稼働率PRi(t)(tは、地震が発生してからの経過時間)を決定させ、
    前記コンピュータに、前記発生確率Piと、前記生産稼働率PRi(t)を乗じて得られるPi×PRi(t)を、iが1の場合からNの場合まで加算させ、
    前記コンピュータに、前記加算により得られる生産稼働率PR(t)を表示させることを特徴とする、復旧過程評価プログラム。
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