以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1および図2は、本発明に係る電動倍力装置の第1の実施形態を示したものである。本電動倍力装置1は、タンデムマスタシリンダ2のプライマリピストンとして共用される後述のピストン組立体20と該ピストン組立体20を構成するブースタピストン(筒状部材または第2の部材)21に推力(ブースタ推力)を付与する後述の電動アクチュエータ40とを備えており、それぞれが車室壁3に固定したハウジング(支持部材)4の内部および外部に配設されている。ハウジング4は、図1によく示されるように、車室内に後部側の一部が挿入されたハウジング本体5とハウジング本体5の前部側開口を覆う蓋板6とからなっており、その蓋板6の前面に、前記タンデムマスタシリンダ2と前記電動アクチュエータ40を構成する電動モータ41とが取付けられている。なお、ハウジング本体5の車室側開口部には、電動倍力装置1側から車室内への騒音の侵入を抑え、かつ車室内から電動倍力装置1側へのゴミの侵入を抑える目的で、フェルト材と弾性材とを重ね合せたサイレンサ7が配設されている。
タンデムマスタシリンダ2は、図2に概略的に示されるように、有底のシリンダ本体10とリザーバ11とを備えており、そのシリンダ本体10内の奥側には、前記プライマリピストンとしてのピストン組立体20と対をなすセカンダリピストン12が摺動可能に配設されている。シリンダ本体10内にはまた、前記ピストン組立体20とセカンダリピストン12とにより2つの圧力室13、14が画成されており、前記両ピストン20、12の前進に応じて各圧力室13、14内に封じ込められているブレーキ液が、対応する系統のホイールシリンダへ圧送されるようになる。
また、シリンダ本体10の壁には、各圧力室13、14内とリザーバ11とを連通するリリーフポート15が形成され、さらに、シリンダ本体10の内面には、前記リリーフポート15を挟んで一対のシール部材16が配設されている。各圧力室13、14は、前記両ピストン20、12の前進に応じて、前記一対のシール部材16が対応するピストン20、12の外周面に摺接することで、リリーフポート15に対して閉じられるようになる。なお、各圧力室13、14内には、前記プライマリピストンとしてのピストン組立体20とセカンダリピストン12とを後方へ付勢する戻しばね17が配設されている。
本電動倍力装置1を構成するピストン組立体20は、前記ブースタピストン21にこれと相対移動可能に入力ピストン(軸部材または第1の部材)22を内装してなっている。入力ピストン22は、その後端に設けた大径部22aにブレーキペダル8(図2)から延ばした入力ロッド9を連結させることで、ブレーキペダル8の操作(ペダル操作)により進退移動するようになっている。この場合、入力ロッド9は、前記大径部22aに設けられた球面状凹部22bに先端部を嵌合させた状態で連結されており、これにより入力ロッド9の揺動が許容されている。
ピストン組立体20を構成するブースタピストン21は、ここでは、前端側をカップ形状部23aとなし、該カップ形状部23aを前記マスタシリンダ2内の圧力室(プライマリ室)13に挿入させたピストン本体23と、このピストン本体23の後端部に後述の操作レバー42を介して圧入固定されたストッパ部材24とからなっている。ピストン本体23およびストッパ部材24はそれぞれの外周面が面一となるように外径が設定されており、両者は、ハウジング4に形成したシリンダ部25内を一体となって摺動案内されるようになっている。なお、前記ピストン本体23のカップ形状部23aの前端側には、前記マスタシリンダ2内のリリーフポート15に連通可能な貫通孔26が設けられている。
一方、入力ピストン22は、上記ブースタピストン21を構成するピストン本体23のカップ形状部23aの底部に設けた挿通孔23bと前記ストッパ部材24の円筒内面とにより摺動案内されるようになっており、常時その前端部を前記カップ形状部23aの内側の圧力室13に臨ませている。この入力ピストン22とブースタピストン21との間は、前記カップ形状部23aの底部に配置したゴム製のシール部材27によりシールされ、また、マスタシリンダ2とブースタピストン21との間は前記リリーフポート15よりも外側(図中右側)に位置する一方のシール部材16によりシールされており、これにより圧力室13からマスタシリンダ2外へのブレーキ液の漏出が防止されている。なお、入力ピストン22とブースタピストン21との間をシールするシール部材27としては、ゴム製のものに代えて、摺動特性に優れた材料、例えばポリテトラフルオロエチレン製のものを選択することもできる。
上記入力ピストン22の後端部には、これと直交する配置でピン28が圧入固定されており、ピン28の両端部は前記ブースタピストン21を構成するストッパ部材24に貫設した軸方向の長孔29を挿通して延ばされている。ピン28はまた、その一端部がハウジング4のシリンダ部25に形成された軸方向のスリット30内まで延ばされると共に、その他端部がハウジング4内の段差面31に干渉する位置まで延ばされている。ピン28は、入力ピストン22とブースタピストン21との相対回転を規制しかつハウジング4内でのピストン組立体20の回転を規制する回り止めとして機能している。また、ブースタピストン21と入力ピストン22とは、ピン28が前記長孔29内で移動できる範囲内で相対移動できるようになっており、したがって、ピン28は入力ピストン22とブースタピストン21との相対移動範囲を規定するストッパとしても機能している。さらに、入力ピストン22は、ピン28がハウジング4の段差面31に当接する位置が後退端となっており、したがって、ピン28は入力ピストン22の後退端を規定するストッパとしても機能している。
しかして、入力ピストン22とブースタピストン21との相互間には環状空間32が画成されており、この環状空間32には、入力ピストン22に設けたばね受33に一端が係止され、かつブースタピストン21を構成するピストン本体23とストッパ部材24とに他端が係止された一対のばね(付勢手段)34(34A、34B)が配設されている。この一対のばね34は、圧縮コイルばねでそれぞれセット荷重を持って配設され、ブレーキ非作動時に入力ピストン22とブースタピストン21とを相対移動の中立位置に保持する役割をなす。図1に示されるように、この中立位置では、入力ピストン22に固定したピン28がブースタピストン21側の長孔29内の中間位置に位置決めされる。また、ブレーキ非作動時には、入力ピストン22が前記ピン28をハウジング4の段差面31に当接させる後退端に位置決めされており、この状態で、ブースタピストン21は、そのカップ形状部23aに設けた貫通孔26をマスタシリンダ2のリリーフポート15に連通させる状態に位置決めされるようになっている。
電動アクチュエータ40を構成する電動モータ41は、マスタシリンダ2の下側に設けられ、その出力軸41aをピストン組立体20と平行に延ばす配置でハウジング4の蓋板6に取付けられている。この電動モータ41の出力軸41aにはねじ部43が形成されており、このねじ部43には、前記ブースタピストン21に一端部が連結されたレバー42の他端部に設けたねじ孔44が螺合されている。前記ねじ部43とねじ孔44との螺合により、電動モータ41の回転は直線運動に変換されてレバー42に伝達され、レバー42はハウジング4内を平行移動(直線移動)する。そして、このレバー42が直線移動すると、その動きにブースタピストン21が追従し、ブースタピストン21が入力ピストン22と相対移動し、したがって、ブースタピストン21には前記電動モータ41の出力に応じた推力(ブースタ推力)が付与される。なお、ブースタピストン21とレバー42との連結部には、ブースタ推力によるモーメントを回避するための若干の隙間が形成されている。
一方、上記レバー42の途中には、ポテンショメータ(変位検出手段)45が設けられている。このポテンショメータ45は、抵抗体を内蔵した本体部46と、本体部46からピストン組立体20と平行に車室側へ延ばされ、先端を前記入力ピストン22に固定されたピン28に当接させた軸47とを備えている。このポテンショメータ45は、入力ピストン22とブースタピストン21との相対変位量を検出する役割をなすもので、その検出信号は、前記電動モータ41を制御するコントローラ(制御装置)48(図2)に送出されるようになっている。
以下、上記のように構成された電動倍力装置1の作用を説明する。
本電動倍力装置1においては、ブースタピストン21が前進し、その前端部に形成した貫通孔26がマスタシリンダ2の内側のシール部材16を乗越えるまでは、すなわちリリーフポート15が閉じられるまでは、マスタシリンダ2内にブレーキ液圧が発生せず、したがって、この間は無効ストロークとなる。本実施形態においては、何らかの外部信号(例えば、ブレーキペダル8のタッチ信号や車間距離センサの車間接近信号など)により電動モータ41を回転させて、事前にブースタピストン21を前記シール部材16を乗越える位置まで前進させることで、前記無効ストロークを解消することができる。なお、この時、ばね34の力で入力ピストン22も前進し、ブースタピストン21と入力ピストン22とは相対移動の中立位置(基準位置)を維持する。
そして、リリーフポート15が閉じられた以降は、ブレーキペダル8の踏込みに応じて入力ピストン22が前進し、マスタシリンダ2内に入力ロッド9から入力ピストン22に付与される推力(入力推力)に応じたブレーキ液圧が発生する。これにより、入力ピストン22とブースタピストン21との間に相対変位が生じ、この相対変位を検出するポテンショメータ45の検出信号に基づき電動アクチュエータ40を作動させると、ブースタピストン21が前進し、マスタシリンダ2内に電動アクチュエータ40からブースタピストン21に付与されるブースタ推力に応じたブレーキ液圧が発生する。すなわち、ピストン組立体20には、ペダル踏力を倍力した推力が付与され、これによりマスタシリンダ2内には大きなブレーキ液圧が発生する。
しかして、本第1の実施形態においては、下記の圧力平衡式(1)を変形して得られる下記(2)式に基づいて上記入力推力を算出し、この算出した入力推力に基づいて電動アクチュエータ40の電動モータ41の回転を制御するようにしている。ここで、圧力平衡式(1)における各要素は、図3にも示されるように、Pbはマスタシリンダ2内の圧力室(プライマリ室)13内のブレーキ液圧、Fiは入力推力、Fb はブースタ推力、Ai は入力ピストン22の受圧面積、Ab はブースタピストン21の受圧面積、Kはばね34(34A、34B)のばね定数、ΔXは入力ピストン22とブースタピストン21との相対変位量となっている。また、相対変位量ΔXは、入力ピストン22の変位をXi、ブースタピストン21の変位をXbとして、ΔX=Xi−Xbと定義している。したがって、ΔXは、相対移動の中立位置では0、ブースタピストン21に対して入力ピストン22が前進する方向では正符号、その逆方向では負符号となる。なお、圧力平衡式(1)ではシールの摺動抵抗を無視している。この圧力平衡式(1)において、ブースタ推力Fbは、電動モータ41の電流値から推定できる。したがって、下記(2)式において相対変位量ΔXを適当に設定すれば、入力推力Fiを算出できることになる。
Pb=(Fi−K×△X)/Ai=(Fb+K×△X)/Ab …(1)
Fi=(Fb+K×△X)×Ai/Ab+K×△X …(2)
一方、倍力比αは、下記(3)式のように表わされ、したがって、この(3)式に上記圧力平衡式(1)のPbを代入すると、倍力比αは下記(4)式のようになる。この場合、ポテンショメータ45の検出結果に基づいて相対変位量ΔXが0となるように電動モータ41の回転を制御(フィードバック制御)すると、倍力比αは、α=Ab/Ai+1となり、真空倍力装置と同様にブースタピストン21の受圧面積Abと入力ピストン22の受圧面積Aiとの面積比で一義的に定まる。しかし、ばね34のばね定数Kを大きめに設定すると共に、相対変位量ΔXを負の所定値に設定し、相対変位量ΔXが前記所定値となるように電動モータ41の回転を制御すれば、倍力比αは、(1−K×ΔX/Fi)倍の大きさとなり、電動アクチュエータ40が倍力源として働いて、ペダル踏力の大きな低減を図ることができるようになる。また、この場合は、ΔX=Xi−Xbの定義より、入力ピストン22の変位Xiをほぼ|ΔX|分だけ削減できることになり、その分、ペダルストロークも削減される。ところで、入力ピストン22に対してブースタピストン21を相対変位させて倍力源として働かせようとすると、マスタシリンダ2内の圧力室13から入力ピストン22に伝わるブレーキ液圧の反力も大きくなり、この反力がペダル踏力の低減を阻害するように作用する。しかし、本第1の実施形態においては、ブースタピストン21の相対変位に応じてばね34の付勢力が増大するので、この付勢力によって前記反力が付勢力の分だけ相殺され、これによりペダル踏力(入力)に対して倍力比を十分に大きくすることができる。
α=Pb×(Ab+Ai)/Fi …(3)
α=(1−K×ΔX/Fi)×(Ab/Ai+1) …(4)
このように、本電動倍力装置1においては、圧力平衡式から演算により求めた入力推力に基づいてブースタピストン21と入力ピストン22との相対変位量が任意の所定値となるように電動アクチュエータ40を制御し、所望の倍力比を得るので、従来技術において必要としていた高価な踏力センサが不要になり、その分、コスト低減を図ることができる。また、前記相対変位量を負の適当な値に設定することで、ブースタピストン21と入力ピストン22との受圧面積比で定まる倍力比よりも大きな倍力比を得ることができ、ペダル踏力の大きな低減を図ることができる。逆に、前記相対変位量を正の適当な値に設定することで、ブースタピストン21と入力ピストン22との受圧面積比で定まる倍力比よりも小さな倍力比を得ることができる。したがって、前記相対変位量を正負の適当な値に設定することで、大小所望の倍力比に基づく制動力を得ることができる。
上記第1の実施形態においては、ばね34(付勢手段)を入力ピストン22(軸部材)とブースタピストン21(筒状部材)との間に設けたので、全長の短縮を図ることができ、また、変位検出手段として安価なポテンショメータ45を用いたので、高価な踏力センサを用いる場合に比してより一層のコスト低減を図ることができる。さらに、マスタシリンダ2と電動アクチュエータ40とを同じハウジング4(支持部材)に取付けたので、マスタシリンダ2からの反力を電動アクチュエータ40を介して同じハウジング4に戻すことができるので、装置としての作動が安定する。なお、ばね34としての一対のばね34A、34Bは、必ずしも同じばね定数とする必要はなく、前側のばね34A(第2のばね)よりも後側のばね34B(第1のばね)が大きなばね定数を有する構成とすることができる。この場合、一対のばね34A、34Bの自由長が同じであれば、入力ピストン22がブースタピストン21に対して図1の状態よりも前側に位置したところで中立位置となり、入力ピストン22とブースタピストン21との相対移動可能なスペースが前側よりも後側が広くなるので、電動アクチュエータ40による倍力比を大きくするブレーキアシストの範囲を広くして働かせることができる。また、一対のばね34A、34Bのばね定数が同じであっても、一対のばね34A、34Bの自由長の長さを違えることにより入力ピストン22とブースタピストン21との相対移動スペースを前側よりも後側が広くなるようにすることができる。逆に、入力ピストン22とブースタピストン21との相対移動スペースを後側よりも前側が広くなるようにすることで、電動アクチュエータ40による倍
力比を小さくして、回生協調制御に適するようにすることもできる。これらばね34A、34Bは、圧縮ばねに代えて引張りばねとしてもよいことはもちろんである。また、ばね34A、34Bは、コイルばねに代えて皿ばねを複数並べたもの等であってもよい。
ここで、上記実施形態においては、外部信号により電動モータ41を回転させることにより、事前にブースタピストン21を無効ストロークを解消する位置まで前進させるようにしたが、必ずしもこの無効ストローク解消制御は行わなくてもよい。
そして、上記制御を行わない場合、ブレーキ作動初期に入力ピストン22を作動させず、所定量を超えた相対変位があった後、電動アクチュエータ40を作動させ、ブレーキ液圧が発生する位置までブースタピストン21を前進させることで、ジャンプイン特性を得ることができ、この場合、ブレーキペダルがわずかに踏まれたときでもディスクブレーキ等の引きずりが起こらず、良好なペダルフィーリング性を得ることができる。
また、自動ブレーキ機能についても、上記圧力平衡式(1)で、入力推力Fiを0とした、Pb=−K×ΔX/Aiから、ΔXの最小値をΔXmin(負の方向でのΔXの絶対値の最大値)とすれば、Pbmax=−K×ΔXmin/Aiになるまでの液圧範囲では制御可能である。さらに、ΔXminになった後も、ブースタピストン21を入力ピストン22と共に前進させることにより増圧が可能となっている。したがって、車両安定制御のプリチャージ、ヒルホールド、クルーズコントロール、油圧補助式電動パーキングブレーキなどの機能を果たすことができる。
図4は、上記第1の実施形態の第1変形例を示したものである。なお、本電動倍力装置1の全体構造は、第1の実施形態と同じであるので、ここでは、要部のみを示しかつ同一構成要素に同一符号を付す。本第1変形例の特徴とするところは、入力ピストン22とブースタピストン21との間に介装するばね34として、入力ピストン22をマスタシリンダ2側へ付勢するばね(圧縮ばね)34Cのみを設けた点にある。このばね34Cは図示の状態で自由長となっており、このような入力ピストン22とブースタピストン21との位置関係が中立位置(基準位置)となる。したがって、作動中、入力ピストン22とブースタピストン21とが中立位置から、入力ピストン22に対してブースタピストン21が左方向(前方)に相対変位した状態にあるとき、ばね34Cは入力ピストン22をブースタピストン21の変位方向に付勢する。この場合、前記相対変位量が大きくなる程、変位方向への付勢力が強くなり、増圧のための制御(倍力比を大きくするブレーキアシスト等)時に有効となる。また、ばね34Cは自由長なので、ブレーキペダル8を戻すために必要としていたばね(圧縮ばね)8aは既設の弱いばねをそのまま使用することができる。なお、前記圧縮ばね34Cを引張りばねに代えて、図中左側の空間に設けてもよいことはもちろんである。
図5は、上記第1の実施形態の第2変形例を示したものである。なお、本電動倍力装置1の全体構造は、第1の実施形態と同じであるので、ここでは、要部のみを示しかつ同一構成要素に同一符号を付す。本第2の変形例の特徴とするところは、入力ピストン22とブースタピストン21との間に介装するばね34として、入力ピストン22をマスタシリンダ2から後退する方向へ付勢するばね(圧縮ばね)34Dのみを設けた点にある。このばね34Dは図示の状態で所定のセット荷重をもっており、このような入力ピストン22とブースタピストン21との位置関係が中立位置(基準位置)となる。したがって、作動中、入力ピストン22とブースタピストン21とが中立位置から、入力ピストン22に対してブースタピストン21が右方向(後方)に相対変位した状態にあるとき、ばね34Dは入力ピストン22をブースタピストン21の変位方向により強く付勢する。逆に、中立状態から、ブースタピストン21が入力ピストン22に対して前方へ相対変位した状態にあるとき、前記入力ピストン22に対する前方への付勢力を両部材の相対変位前の状態よりも弱くする。したがって、このようなばね34Dを設けた場合は、減圧のための制御(倍力比を小さくする回生協調等)時に有効となる。なお、前記圧縮ばね34Dを引張りばねに変更して、図中右側の空間に設けてもよいことはもちろんである。
図6および図7は、本発明に係る電動倍力装置の第2の実施形態を示したものである。なお、タンデムマスタシリンダ2については、実質的な変更がないので、ここでは、同一構成要素に同一符号を付す。本第2の実施形態としての電動倍力装置50は、タンデムマスタシリンダ2のプライマリピストンとして共用される後述のピストン組立体51と該ピストン組立体51を構成するブースタピストン(筒状部材または第2の部材)52に推力(ブースタ推力)を付与する後述の電動アクチュエータ53とを備えており、前記車室壁3に固定したハウジング(組立ハウジング)54の内部および外部に配設されている。ハウジング54は、リング形状の取付部材55を介して車室壁3の前面に固定された第1筒体56と、この第1筒体56に同軸に連結された第2筒体57とからなっており、その第2筒体57の前端に前記タンデムマスタシリンダ2が連結されている。また、第1筒体56には支持板63が取付けられており、この支持板63に前記電動アクチュエータ53を構成する電動モータ64が固定されている。なお、取付部材55は、その内径ボス部55aが車室壁3の開口3aに位置するように車室壁3に固定されている。
本電動倍力装置50を構成するピストン組立体51は、前記ブースタピストン52にこれと相対移動可能に入力ピストン(軸部材または第1の部材)58を内装してなっている。入力ピストン58は、その後端に設けた大径部58aに前記ブレーキペダル8から延ばした入力ロッド9を連結させることで、ブレーキペダル8の操作(ペダル操作)により進退移動するようになっている。この場合、入力ロッド9は、前記大径部58aに設けられた球面状凹部58bに先端部を嵌合させた状態で連結されており、これにより入力ロッド9の揺動が許容されている。
ピストン組立体51を構成するブースタピストン52は、図7によく示されるように、その内部の長手方向中間部位に隔壁59を有しており、前記入力ピストン58がこの隔壁59を挿通して延ばされている。ブースタピストン52の前端側は、前記マスタシリンダ2内の圧力室(プライマリ室)13に挿入され、一方、入力ピストン58の前端側は、同じ圧力室13内のブースタピストン52の内側に配置されている。ブースタピストン52と入力ピストン58との間はブースタピストン52の前側に配置したシール部材60により、ブースタピストン52とマスタシリンダ2のシリンダ本体10のガイド10aとの間はシール部材61によりそれぞれシールされており、これにより前記圧力室13からマスタシリンダ2外へのブレーキ液の漏出が防止されている。なお、ブースタピストン52の前端部には、前記マスタシリンダ2内のリリーフポート15に連通可能な貫通孔62が穿設されている。
電動アクチュエータ53は、ハウジング54の第1筒体56と一体の支持板63に固定された前記電動モータ64と、前記第1筒体56の内部に入力ピストン58を囲んで配設されたボールねじ機構(回転−直動変換機構)65と、電動モータ64の回転を減速してボールねじ機構65に伝達する回転伝達機構66とから概略構成されている。ボールねじ機構65は、軸受(アンギュラコンタクト軸受)67を介して第1筒体56に回動自在に支持されたナット部材(回転部材)68とこのナット部材68にボール69を介して噛合わされた中空のねじ軸(直動部材)70とからなっている。ねじ軸70の後端部は、ハウジング54の取付部材55に固定したリングガイド71に回動不能にかつ摺動可能に支持されており、これによりナット部材68の回転に応じてねじ軸70が直動するようになる。一方、回転伝達機構66は、電動モータ64の出力軸64aに取付けられた第1プーリ72と、前記ナット部材68にキー73を介して回動不能に嵌合された第2プーリ74と前記2つのプーリ72、74間に掛け回されたベルト(タイミングベルト)75とからなっている。第2プーリ74は第1プーリ72に比べて大径となっており、これにより電動モータ64の回転は減速してボールねじ機構65のナット部材68に伝達される。また、アンギュラコンタクト軸受67には、ナット部材68にねじ込んだナット76により第2プーリ73およびカラー77を介して与圧がかけられている。なお、回転伝達機構66は上記したプーリ、ベルトに限らず、減速歯車機構等であってもよい。
上記ボールねじ機構65を構成する中空のねじ軸70の前端部にはフランジ部材78が、その後端部には筒状ガイド79がそれぞれ嵌合固定されている。フランジ部材78および筒状ガイド79は前記入力ピストン58を摺動案内するガイドとして機能するようにそれぞれの内径が設定されている。前記フランジ部材78は、ねじ軸70の、図中、左方向への前進に応じて前記ブースタピストン52の後端に当接するようになっており、これに応じてブースタピストン52も前進する。また、ハウジング54を構成する第2筒体57の内部には、該第2筒体57の内面に形成した環状突起80に一端が係止され、他端が前記フランジ部材78に衝合する戻しばね81が配設されており、ねじ軸70は、ブレーキ非作動時にこの戻しばね81により図示の原位置に位置決めされる。
しかして、入力ピストン58とブースタピストン52との相互間には、環状空間82が画成されており、この環状空間82には、入力ピストン58に設けたフランジ部83に一端が係止され、かつブースタピストン52の隔壁59とブースタピストン52の後端部に嵌着した止め輪84とにそれぞれ他端が係止された一対のばね(付勢手段)85(85A、85B)が配設されている。この一対のばね85は、ブレーキ非作動時に入力ピストン58とブースタピストン52とを相対移動の中立位置に保持する役割をなすものである。
本第2の実施形態において、車室内には車体に対する入力ピストン58の絶対変位を検出するポテンショメータ(第1の絶対変位検出手段)86が配設されている。このポテンショメータ86は、抵抗体を内蔵した本体部87と、本体部87から入力ピストン58と平行に車室内に延ばされたセンサロッド88とからなっており、ハウジング54の取付部材55のボス部55aに固定したブラケット89に入力ピストン58と平行をなすように取付けられている。センサロッド88は本体部87に内蔵したばねにより、常に伸長方向へ付勢され、前記入力ピストン58の後端部に固定されたブラケット90に先端を当接させている。一方、前記電動モータ64は、ここではDCブラシレスモータからなっており、これには、回転制御のために磁極位置を検出するレゾルバ91が内蔵されている。このレゾルバ91は、モータの回転変位を検出してこれに基づき車体に対するブースタピストン52の絶対変位を検出する回転検出手段(第2の絶対変位検出手段)としての機能も兼ね備えている。これらポテンショメータ86とレゾルバ91とは、入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位量を検出する変位検出手段を構成しており、これらの検出信号は、コントローラ(制御装置)92に送出されるようになっている。なお、回転検出手段としては、レゾルバに限らず、絶対変位(角度)を検出できる回転型のポテンショメータ等であってもよい。
以下、上記のように構成された電動倍力装置50の作用を説明する。
ブレーキペダル8が操作されると、入力ピストン58が前進し、その動きがポテンショメータ86により検出される。すると、ポテンショメータ86からの信号を受けてコントローラ92が電動モータ64に起動指令を出力し、これにより電動モータ64が回転して、その回転が回転伝達機構66を介してボールねじ機構65に伝達され、ねじ軸70が前進してその動きにブースタピストン52が追従する。すなわち、入力ピストン58とブースタピストン52とが一体的に前進し、ブレーキペダルから入力ピストン58に付与される入力推力と電動アクチュエータ53からブースタピストン52に付与されるブースタ推力とに応じたブレーキ液圧がタンデムマスタシリンダ2内の圧力室13、14に発生する。
このとき、ポテンショメータ86とレゾルバ91との検出信号に基づき、入力ピストン58の絶対変位とブースタピストン52との絶対変位との差により両ピストンの相対変位量が分かる。そこで、入力ピストン58とブースタピストン52との間に相対変位が生じないように電動モータ64の回転を制御すると、両ピストン58と52との間に介装した一対のばね85(85A、85B)が中立位置を維持する。このときの倍力比は、前記(4)式に示したように、相対変位量ΔXが0であることから、ブースタピストン52の受圧面積と入力ピストン58の受圧面積との面積比で一義的に定まり、汎用の真空倍力装置と同様となる。
一方、中立位置からブースタ推力によりブレーキ液圧を増加させる方向(前方)へブースタピストン52を相対変位させると(ΔXが負の所定値)、前記第1の実施形態と同様に、前記(4)式に従って倍力比が大きくなり、電動アクチュエータ53が倍力源として働いて、ペダル踏力(ペダル入力)の大きな低減を図ることができるようになる。また、この場合、ブースタピストン52の相対変位に応じて、後側のばね85Bの付勢力が増大し、この付勢力によって入力ピストン58に伝わるブレーキ液圧の反力が付勢力の分だけ相殺されることも、第1の実施形態と同様であり、これによりペダル踏力(入力)に対して倍力比を十分に大きくすることができる。逆に、中立位置からブースタ推力によりブレーキ液圧を減少させる方向(後方)へブースタピストン52を相対変位させると(ΔXが正の所定値)、前記第1の実施形態と同様に、このブースタピストン52の相対変位に応じて前側のばね85A(第2のばね)の付勢力が増大する。この付勢力によって入力ピストン58に伝わる反力が強まり、前記(4)式に従って、ペダル踏力(入力)に対して倍力比を小さくすることができる。
本第2の実施形態においては、特に、ブースタピストン52を駆動する電動モータ64の回転が、ボールねじ機構65により運動変換してブースタピストン52に伝達されるので、電動アクチュエータ53からブースタピストン52への駆動伝達は円滑となり、ブースタ推力の付与は安定する。また、ボールねじ機構65の採用により、ブースタピストン52から電動モータ64にモーメントが作用することがなくなるので、その分、電動モータ64にかかる負荷も低減する。また、本第2の実施形態では、ポテンショメータ86、レゾルバ91を絶対変位検出手段として用いているので、ポテンショメータ86の本体部87、レゾルバ91をそれぞれハウジング54や取付部材55等の移動しない部材に取付けることができる。これにより、信号を送信するための電気ケーブルの取り回しが楽になると共に、ポテンショメータ86の本体部87、レゾルバ91およびこれらの電気ケーブルを固定しておけるので、振動等に対する耐久性を向上させることができる。
さらに、本第2の実施形態では、車両に対する入力ピストン58、ブースタピストン52の絶対変位を検出するポテンショメータ86、レゾルバ91を設けているので、入力ピストンのストロークや踏み込み速度に応じたブレーキアシスト制御、回生協調制御、車両追従(ACC)制御等にこれらの検出結果を有効に活用できる。
すなわち、図8の模式図に示すように、マスタシリンダ2の圧力室13、14とこれに連通する配管やディスクブレーキなど全ての負荷側要素の剛性(液量対発生液圧)との関係を、マスタシリンダ圧力室2Aの断面積(Ai+Ab)に等しい断面積を有するピストン2Bの変位Xmとそれに取付けられたばね要素2Cのばね定数kmとに置換えて考察する。この場合、前記入力ピストン58およびブースタピストン52の変位(ストローク)をそれぞれXi,Xb、最終的にマスタシリンダ圧力室2Aに面している部分での入力ピストン58の発生力(入力推力)およびブースタピストン52の発生力(ブースタ推力)をそれぞれFi,Fbとすると、力の釣合いから下記(5)式の関係が得られる。
Fi+Fb=(Ab×Xb+Ai×Xi)/(Ab+Ai)×km …(5)
ここで、Fb=Ab/Ai×Fiだから、この(5)式は、下記(6)式のようになる。
Fi=(Ab×Xb+Ai×Xi)/(Ab+Ai)2×Ai×km …(6)
一方、ブレーキペダル8からの入力(ペダル入力)をFiBとし、入力ピストン58とブースタピストン52との間に介装したばね85のばね定数をksとすると、FiBは以下の(7)式で与えられるので、上記(6)式とこの(7)式との関係から、下記(8)式が得られる。
FiB=Fi−ks×(Xb−Xi) …(7)
FiB=(Ab×Xb+Ai×Xi)/(Ab+Ai)2×Ai×km−ks×(Xb−Xi) …(8)
ここで、Xb=Xi(相対変位なし)とすると、(8)式は次の(9)式となり、倍力比をαとしたペダルフィーリング(ペダル入力とストロークの関係)が得られる。
FiB=Ai/(Ab+Ai)×Xi×km …(9)
一方、倍力比を変えるために、入力ピストン58とブースタピストン52との相対変位(Xb−Xi)を与えるようにブースタピストン52を制御すると、(9)式より負荷側のばね定数kmとばね85のばね定数ksとによりペダルフィーリングが変化することがわかる。
図9は、ペダル入力FiBを一定速度で増加させ、その途中で電動モータ64によるブレーキアシストを作動させたときの推力Fの変化を、図10は、そのときの入力ピストン58のストローク(ペダルストローク)Xiの変化をそれぞれみたものである。これより、入力ピストン58とブースタピストン52との間に介装したばね85のばね定数ksが大きいとブレーキペダル8は前に進み(図10(a))、従来のブレーキアシストが作動したときのペダルフィーリングを実現できる。これに対し、ばね定数ksが小さいとブレーキペダル8は逆に戻され(図10(b))、緊急時にブレーキアシストを作動させつつブレーキペダル8のショートストローク化が可能になる。一方、ばね定数ksを適当な大きさに設定すると、入力ピストン58は連続的に変化し(図10(c))、ブレーキアシストを作動させてもブレーキペダル8への影響はほとんどなくなる。すなわち、ブレーキアシストの作動(ブースタピストン52の前方への移動)によりマスタシリンダ圧力室95から入力ピストン58にかかる液圧反力が増加しても、その増加分の液圧反力と相対変位により入力ピストン58を前方に付勢するばね85のばね力とがほぼ等しくなり、増加分の液圧反力がばね力によってほぼ完全に相殺され、ブレーキペダル8への影響を解消することが可能になる。
ここで、ブレーキペダル8への影響をなくするために要求されるばね85のばね定数ksは、上記(8)式を下記(10)式とするために必要な大きさであり、(11)式のように決めることができる。
FiB=Ai/(Ab+Ai)×Xi×km …(10)
ks=(Ab×Ai)/(Ab+Ai)2×km …(11)
一方、ブレーキ液圧Pm、マスタシリンダ圧力室71の液量Vmは、下記(12)式、(13)式のように表わされる。
Pm=(Ab×Xb+Ai×Xi)/(Ab+Ai)2×km …(12)
Vm=Ab×Xb+Ai×Xi …(13)
よって、PmとVmとは、下記(14)式の関係となり、これを変換すると下記(15)式が得られる。
Pm=Vm/(Ab+Ai)2×km …(14)
km=Pm/Vm×(Ab+Ai)2 …(15)
したがって、このkmを上記(11)式に代入すれば、下記(16)式が得られる。
ks=Ai×Ab×Pm/Vm …(16)
すなわち、入力ピストン58とブースタピストン52との間に介装されるばね(付勢手段)85のばね定数ksを、マスタシリンダの圧力室2Aに臨む入力ピストン58およびブースタピストン52の受圧面積Ai、Abと、マスタシリンダのブレーキ液圧Pmおよび液量Vmとに基づいて決定することが可能になる。すなわち、入力ピストン58およびブースタピストン52の受圧面積Ai、Abは既知であり、また、マスタシリンダの液量Vmの増減に伴うブレーキ液圧Pmの増減の比率は適用車両によって決まっているので、これらから求まる設定値とばね定数ksとが一致するようにすれば、図10の(c)の関係とすることができる。つまり、ブレーキアシストの作動(ブースタピストン52の前方への移動)によりマスタシリンダ圧力室95から入力ピストン58にかかる液圧反力の増加分と、ブースタピストン52と入力ピストン58との相対変位により入力ピストン58を前方に付勢するばね85のばね力とをほぼ等しくすることが可能になる。なお、ばね定数ksが上記設定値よりも大きい場合には図10の(a)の関係となり、逆に、ばね定数ksが上記設定値よりも小さい場合には図10の(b)の関係となる。
ところで、本電動倍力装置50を回生協調ブレーキシステムに組込む場合、ペダル入力FiBとブレーキ液圧Pmとの関係は図11に示すようになる。図11において、Preは回生制動により発生するブレーキ液圧であり、ペダル入力FiBがFaのときに回生制動を作動させたとすると、本電動倍力装置50は、ブースタピストン52を後方にPre相当分だけ変位させればよいことになる。この場合、ばね定数ksが上記(16)式の関係にあれば、ブレーキ液圧Pmは、Pre相当分だけ低下するが、この低下したPre相当分とほぼ等しいばね85のばね力が入力ピストン58を後方に付勢するように作用するので、全体では、ペダルストロークXi相当の制動力に見合う反力がブレーキペダル8(入力ピストン58)に維持される。このとき、ペダル入力FiBは、(10)式に従いXiとkmとで決定される値に維持される。この結果、マスタシリンダ2からブレーキペダル8(入力ピストン58)にかかる、液圧とばね85のばね力との総和による反力を変えることなく、マスタシリンダ2で発生する制動力(液圧)を増減できる。なお、ブースタピストン52の後退は、電動モータ64を逆方向に回転させてボールねじ機構65のねじ軸70を後退させることにより行われるが、前記ブースタピストン52にはマスタシリンダ2内の液圧による反力が、また、ねじ軸70には戻しばね81のばね力がかかっているので、前記ねじ軸70の動きに追従してブースタピストン52が後退する。
また、本電動倍力装置50を先行車両追従システム(ACC)に組込む場合、ブースタピストン52の変位Xbとマスタシリンダ液圧Pmとの関係は図12に示すようになる。この場合、ある時間taから先行車両に追従して減速を開始するとすれば、図示しないECUから必要な減速度の指令を受けて、ブースタピストン52を前方に変位させ、ブレーキ液圧Pmを発生させる。すると、車両は、ブレーキ液圧Pmの発生に従い減速を始めるが、この場合も、ブースタピストン52と入力ピストン58との相対変位により入力ピストン58を前方に付勢するばね85のばね力と、マスタシリンダ圧力室95から入力ピストン58にかかる液圧反力の増加分とが等しくバランスすることによりブレーキペダル8が動くことはない(Xiは図12の変位0の位置にある)。ここで、入力ピストン58の後退側に機械的なストッパを設けているので、ばね85のばね定数ksを上記設定値より少し小さめに設定することにより、入力ピストン58にかかる液圧反力の増加分を入力ピストン58を前方に付勢するばね85のばね力よりも少し大きくするようにしてもよい。このようにすることで、ブレーキパッドの厚さ変動(例えば、ブレーキパッドの偏摩耗)などで、マスタシリンダ2のばね定数kmが小さくなっても(この場合、(11)式の関係よりばね85のばね定数ksを小さくしなければならないが)、この分を予め見込んで、ばね定数ksを上記設定値より少し小さめに設定しているので、ブレーキペダル8が進まないシステムを実現できる。
以上の説明においては、便宜上、マスタシリンダ2のばね定数kmは、線形(リニア)特性を有するものとして説明したが、実際には、ばね定数kmは、例えば、図13に示すようにピストン2Bの変位とこれにより生じる液圧が非線形特性となるのが一般的である。このため、ペダルフィーリングに関して特に影響を感じる回生制動の領域(例えば、減速度が0.3G以下の液圧領域)に合わせてばね85のばね定数ksを設定することにより、好ましいペダルフィーリングを得ることができる。この場合、上記(16)式のPm/Vmに代えて、上記回生制動の領域における微小液量ΔVmの増減に伴う微小ブレーキ液圧ΔPmの増減の変化率を用いた下記(17)式に基づきばね85のばね定数ksを求めればよい。
ks=Ai×Ab×ΔPm/ΔVm …(17)
なお、上記図13では図8の模式図に基づくためマスタシリンダ2の無効ストローク分は考慮していない。
なお、ブースタピストン52とボールねじ機構65のねじ軸(直動部材)70とは、フランジ部材78を介して当接しているだけであるので、万一、電動モータ64が故障(失陥)した場合には、ブレーキペダル8の踏込みに応じて前進する入力ピストン58の動きにばね85を介してブースタピストン52が追従し、これによって入力ピストン58とブースタピストン52とが一体的に前進して所定の制動力が得られるようになる。
ここで、特許文献1、2に記載された従来の電動倍力装置によれば、入力ピストンよりもブースタピストンを大きく移動させると、ブースタピストンにより上昇したマスタシリンダ内の液圧の反力が入力ピストンにかかり、その反力がブレーキペダルから運転者に伝わって運転者に違和感を与えたり、あるいはブレーキペダルの重さからブレーキペダルの踏込みを困難にするなど、ペダルフィーリングに影響を及ぼすという問題があった。また、この電動倍力装置を回生協調ブレーキシステムや先行車両追従システム(ACC)などに利用しようとすると、前記液圧反力の変動に伴ってペダルストロークが変化するため、同様に運転者に違和感を与えるようになる。
これに対し、本第2の実施形態においては、電動アクチュエータを作動させても、ペダルフィーリングに影響を及ぼすことがないようにし、もって信頼性の向上に大きく寄与する電動倍力装置とすることができる。具体的には、入力ピストン(軸部材)58とブースタピストン(筒状部材)52との相対変位に応じて入力ピストン58へ伝達される液圧反力の増減分がばね(付勢手段)85によって相殺されるので、電動アクチュエータ53によるブレーキ操作が行われても、ブレーキペダル8が影響を受けることがなくなる。そして、上記ばね85のばね定数は、マスタシリンダ2の圧力室に臨む入力ピストン58およびブースタピストン52の受圧面積と、前記マスタシリンダ2の液圧および液量とに基いて決定することで、簡単かつ適正にばね定数を決定することができる。
すなわち、本第2の実施形態の電動倍力装置によれば、電動アクチュエータによるブレーキ操作が行われても、ブレーキペダルが影響を受けることがないので、良好なペダルフィーリングが維持され、ブレーキアシストシステムはもちろん、回生協調ブレーキシステムや先行車両追従システムなどへの適用において装置に対する信頼性が向上する。また、入力ピストン58およびブースタピストン52との間に所定のばね定数を有するばね85を介装するだけなので、構造が複雑大型になることはなく、コスト面並びに車両搭載性の面での利点も大きい。
ところで、回生協調時には、前記したようにブースタピストン52が、回生制動により発生するブレーキ液圧Pre相当分だけ後退させられるが(図11)、上記実施形態の場合、このブースタピストン52を後退させる力は、マスタシリンダ2内の液圧による反力と戻しばね17および81のばね力のみである。この場合、戻しばね81として十分に大きなばね力(ばね定数)を有するものを選択することで、ブースタピストン52の戻りは円滑となり、応答性は良好となるが、ばね力の大きな戻しばね81を選択すると、無効踏力が増大し、アシスト力増大による電動モータ64の大型化、消費電力の増加につながり、コスト面での負担が増すことになる。
図14は、上記した応答性対策を施した、第2の実施形態の変形例を示したもので、ここでは、ボールねじ機構65のねじ軸(直動部材)70と一体のフランジ部材78の軸方向長さを延長し、これにねじ軸70とブースタピストン52とを連結および連結解除する断続手段95を設けている。この断続手段95は、コイルを内蔵するソレノイドケース96aおよび前記コイルへの正・逆通電により伸縮動作するプランジャ96bからなるソレノイド96と、前記プランジャ96bの途中に設けたストッパ97に係合して該プランジャ96bを常時短縮方向へ付勢するばね98とブースタピストン52の外周面に前記プランジャ96bを受入れ可能に形成された環状溝99とを備えており、ソレノイド96とばね98とは、前記フランジ部材78に形成した穴78a内に一括して収納されている。
このように構成した電動倍力装置においては、回生協調に際しは、予めソレノイド96のコイルに通電してプランジャ96bを伸長させ、その先端部をブースタピストン52の外周面の環状溝99に嵌入させる。これによりブースタピストン52とボールねじ機構65のねじ軸70とはフランジ部材78を介して連結された状態となり、電動モータ64によるねじ軸70の後退にブースタピストン52が追従し、したがって、回生協調時の応答性は良好となる。図15は、このときのペダル入力FiBとブレーキ液圧Pmとの関係を示したもので、ブレーキ液圧Pmは、回生制御の開始とほぼ同時T0にPre相当分だけ低下し、断続手段95を持たない場合の時間T0(図11)に比べて、[T1−T0]分だけ短縮する。
回生協調を解除する場合は、ソレノイド96のコイルに逆方向に通電してプランジャ96bを短縮させ、プランジャ96bの先端をブースタピストン52の環状溝99から離脱させる。これによりブースタピストン52とボールねじ機構65のねじ軸70との連結が解除され、この結果、万一、電動モータ64が故障(失陥)した場合には、ブレーキペダル8の踏込みに応じて前進する入力ピストン58の動きにばね85を介してブースタピストン52が追従し、所定の制動力が得られる。本実施形態においては特に、プランジャ96bがばね98により短縮方向へ付勢されているので、装置に衝撃や振動などの外乱が入ってもプランジャ96bは、その短縮位置を維持し、前記失陥時(フェイル時)の対応が確実に保証される。
なお、本電動倍力装置は、ジャンプイン機能を持たせることも可能であり、この場合は、回生協調時と同様にブースタピストン52が制御される。
本第2の実施形態の変形例によれば、電動アクチュエータ53とブースタピストン(筒状部材)52との間に、ボールねじ機構(回転-直動変換機構)65のねじ軸(直動部材)70とブースタピストン52とを連結および連結遮断する断続手段95を配設した構成としたので、回生制動時に断続手段95によりねじ軸70とブースタピストン52とを連結させることで、ねじ軸70と一体にブースタピストン52が変位し、応答性を良好とすることができる。
図16は、本発明に係る電動倍力装置の第3の実施形態を示したものである。なお、本第3の実施形態として電動倍力装置100の全体的構造は、上記第2の実施形態としての電動倍力装置50と実質同じであるので、ここでは、図6、7に示した部分と同じ部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。本第3の実施形態においては、第2の実施形態におけるばね85(85A、85B)を省略して、金属ベローズ101を付勢手段として用い、かつ第2の実施形態における絶対変位検出手段であるポテンショメータ86およびレゾルバ(回転検出手段)91を省略して、1つの差動変位測定器(ポテンショメータ)110を採用している。
より詳しくは、ピストン組立体51を構成するブースタピストン(軸部材または第2の部材)52には、シール部材102を介して中空プラグ103が嵌合固定されており、同じくピストン組立体51を構成する入力ピストン(軸部材または第1の部材)58の先端部が、前記中空プラグ103を摺動可能に挿通してタンデムマスタシリンダ2の圧力室13内へ延ばされている。上記金属ベローズ101は有底筒状をなし、その開口端が前記中空プラグ103の端面に固定される一方で、その内底面には、前記中空プラグ103を挿通して延ばした入力ピストン58の先端が接合されている。金属ベローズ101は、図示の状態で所定のセット荷重をもっており、このような入力ピストン58とブースタピストン52との位置関係が相対移動の中立位置(基準位置)となっている。したがって、作動中、入力ピストン58とブースタピストン52とが中立位置から、入力ピストン58に対してブースタピストン52が左方向(前方)に相対変位した状態にあるとき、金属ベローズ101は入力ピストン58をブースタピストン52の変位方向(前方)により強く付勢する。逆に、入力ピストン58に対してブースタピストン52が右方向(後方)に相対変位した状態にあるとき、金属ベローズ101は入力ピストン58をブースタピストン52の変位方向(後方)により強く付勢する。
一方、差動変位測定器110は、ハウジング54を構成する第2筒体57の内面に、ピストン組立体51と平行に延ばして固設されている。この差動変位測定器110は、図17に示されるように、高抵抗導体からなる抵抗体111と低抵抗導体からなる集電体112との対を低抵抗導体からなる給電体113の両側に配置した基板114を納めたケーシング115を備えている。抵抗体111、集電体112および給電体113は、それぞれ端子111a、112a、113aを有し、これら各端子111a、112a、113aを介して前記コントローラ92に接続される。ケーシング115内にはまた、前記抵抗体111と集電体112との対に対応して2つの可動接点116、117が配設されている。各可動接点116、117は、それぞれ対応する抵抗体111と集電体112との間を導通するブラシ116a、116b、117a、117bを有している。また、各可動接点116、117は、ケーシング115内に平行に橋架したスライドガイド118、119に摺動可能に装着されており、それぞれには連結バー120、121が一体に設けられている。図16に示されるように、一方の可動接点116の連結バー120は前記ブースタピストン52に、他方の可動接点117の連結バー121は、前記入力ピストン58からブースタピストン52の長孔52aを挿通して延ばした連結片122にそれぞれ連結されている。この差動変位測定器110は、可動接点116、117の位置に応じて車両に対するブースタピストン52、入力ピストン58の絶対変位をそれぞれ検出する機能を有しており、したがって両ピストンの絶対変位の差分をとることで、ブースタピストン52と入力ピストン58との相対変位量を検出することができる。
本第3の実施形態としての電動倍力装置100の作用は、第2の実施形態としての電動倍力装置50の作用と実質同じであるが、電動アクチュエータ53を倍力源として働かせるべく、中立位置からブースタピストン52を入力ピストン58に対して前方に相対変位させると、入力ピストン58に対する金属ベローズ101の前方への付勢力が増大し、この付勢力によって入力ピストン58に伝わるブレーキ液圧の反力が付勢力の分だけ相殺される。したがって、第1、第2の実施形態と同様に、ペダル踏力(入力推力)に対して倍力比を十分に大きくすることができる。逆に、中立位置からブースタピストン52を入力ピストン58に対して後方に相対変位させると、入力ピストン58に対する金属ベローズ101の後方への付勢力が増大し、この付勢力によって入力ピストン58に伝わる反力が強まり、第1、第2の実施形態と同様に、ペダル踏力(入力推力)に対して倍力比を小さくすることができる。
本第3の実施形態においては特に、金属ベローズ101によってブースタピストン52と入力ピストン58との間のシールが確保されるので、第1の実施形態で必要としたシール部材27(図1)および第2の実施形態で必要としたシール部材60(図7)が不要になり、これによりブースタピストン52と入力ピストン58との相対移動(摺動)は円滑となり、ブレーキアシスト等の制御の精度が向上する。また、2つの絶対変位検出手段86、91(図6)の機能を1つの差動変位測定器110に集約させてハウジング54内に配置したので、構造は簡単となる。
図18は、本発明に係る電動倍力装置の第4の実施形態を示したものである。なお、本第4の実施形態として電動倍力装置150の全体的構造は、上記第1の実施形態としての電動倍力装置1と共通しているので、ここでは、図1、2に示した部分と同じ部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。本第4の実施形態では、第1の実施形態においてマスタシリンダ2内に発生するブレーキ液圧による反力の一部を入力ピストン22(第1の部材)に、他の一部をブースタピストン21(第2の部材)にそれぞれ伝達するため、ピストン組立体20(入力ピストン22、ブースタピストン21)を圧力室13に臨むようにしたのに対し、汎用のタンデムマスタシリンダのプライマリピストン151をそのまま残し、このプライマリピストン151と入力ピストン22、ブースタピストン21との間にリアクションディスク152(リアクション部材)を配置するようにしたものである。
図18において、電動倍力装置150は、ブレーキペダルの操作によりハウジング4に摺動案内されて進退移動する入力ロッド9と、入力ロッド9の前進動に伴って移動する入力ピストン22と、この入力ピストンと相対移動可能に配置されたブースタピストン21と、タンデムマスタシリンダ2のプライマリピストン151を押圧する出力ピストン153と、入力ピストン22およびブースタピストン21と出力ピストン153との間に設けられ弾性を有するリアクションディスク152と、を備えている。ブースタピストン21には電動モータ(図示せず)の回転を直線運動に変換して伝えるレバー42によりブースタ推力が付与される。このブースタピストン21は、出力ピストン153側の面部(図18左側の面部)に、内周形状がリアクションディスク152の外周形状に略沿う形状の穴154が形成されており、この穴154の底部側にはリアクションディスク152が収納されている。この穴154の開口側には、出力ピストン153の一端部に形成された大径部155がリアクションディスク152に並んで収納されている。入力ピストン22の先端部は、穴154の開口側とは反対側においてブースタピストン21に嵌合し、リアクションディスク152の端面の中央部分に当接するようになっている。入力ピストン22には、径方向外方に鍔状に突出するようにしてばね受け33が設けられており、このばね受け33は、ブースタピストン21に形成された中空部32内に配置されている。そして、ばね受け33の両側には一対のばね34(34A、34B)が設けられ、入力ピストン22とブースタピストン21とは、図示の中立位置(基準位置)に保持されている。
リアクションディスク152は、入力ピストン22、ブースタピストン21および出力ピストン153で密閉されている。リアクションディスク152の材質としては、低温硬化を低減したNBR(二トリルゴム)でも良いが、変形抵抗が小さく、また永久変形歪も小さいシリコンゴムあるいはフロロシリコンゴム等が適する。なお、本実施の形態においては、リアクション部材として、リアクションディスク152に代えて、粘性抵抗の小さい液体や粉体を用いることもできる。また、リアクションディスク152をブースタピストン21の穴154内に収納する構成としたが、これに限らず、出力ピストン153の大径部155をカップ状に形成し、この中にリアクションディスク152を収納するようにしてもよい。この場合には、上記穴154は不要であり、ブースタピストン21は、リアクションディスク152の端面に当接させるだけでよい。
ポテンショメータ45は、入力ピストン22とブースタピストン21との相対変位量を当該相対変位量に対応する大きさの電圧出力で検出し、検出信号としてコントローラ(図示せず)に出力するようにしている。コントローラは、ポテンショメータ45からの検出信号により前述した検出信号を変数とした圧力平衡式に基づいて推定される入力推力Fiを用いて、電動モータを駆動するための駆動信号を算出し、この駆動信号により電動モータを駆動するようになっている。
この電動倍力装置150では、ブレーキペダルが踏まれて入力ロッド9からの推力(前記入力推力Fi)がリアクションディスク152を介して出力ピストン153に伝えられる。一方、この際にポテンショメータ45からの検出信号により推定される入力推力Fiに基づいて得られる駆動信号に応じてコントローラが電動モータを回転させることにより、ブースタピストン21が前進してこのブースタピストン21によりリアクションディスク152を介して出力ピストン153へブースタ推力Fbが伝えられる。これに伴い、出力ピストン153が、入力推力Fiとブースタ推力Fbとの加算により得られる合計された推力(出力推力)をタンデムマスタシリンダ2のプライマリピストン151に加える。このときに発生するブレーキ液圧による反力は、プライマリピストン151、出力ピストン153、リアクションディスク152を介して入力ピストン22とブースタピストン21にそれぞれ伝達される。
そして、ポテンショメータ45の検出信号に基づき、入力ピストン22とブースタピストン21との相対変位量を中立位置から前後方向に適宜制御することにより、一対のばね34による付勢力が入力ピストン22に作用し、前述した第1の実施形態と同様に所望の倍力比を得ることができる。